ジュニアサッカーの主役は選手たち。本当の意味での選手ファーストを実現するためのリーグ戦として2021年7月にスタートした「アシタノタメニリーグ・U-10」。前編では、リーグを主催する一般社団法人あしたのためにプロジェクト代表の久保田大介さんに、リーグを立ち上げた理由などを伺いました。後編では久保田さんが「イチ押し」と語る、子どもの主体性を伸ばすハーフタイムのレギュレーションなどをご紹介します。(取材・文:松尾祐希)開幕戦に参加したチームの選手たち(提供:アシタノタメニリーグ・U‐10)<<前編:周りを見る余裕と試合運びが身につく!新設U-10リーグの「特別な」レギュレーションとは■大人の介入を最小限にすることで子どもたちが主体的に話し合うようになる――環境作りの面では、親に対するお願いもルールに含まれており、指導者のコーチングや親の指示も制限しています。その狙いを教えて下さい。あくまでジュニアサッカーの主役は選手たちです。そこを履き違えている指導者は少なくありません。大人が自分を表現する場、週末は主役になれる。そうした大人主体の話ではなく、本来は選手たちのサッカーであるはずなので、主役を選手たちに戻してあげたかったんです。保護者の人たちは反対サイドで見守るだけにしてもらったのはそのためです。大人が介入するのを最小限に留めるので、ハーフタイム、試合前、試合後を含めて選手たちから自然と「今日の試合どうしようか」という話し合いが生まれます、ピッチ内でも自分たちで話し、ハーフタイムに指導者から何か言うのではなくてあくまで選手同士で和気藹々としながらサッカーのことを考えていく。それを指導者が見守るような形にしたいんです。試合後も大人は説教をしない。ジュニア年代ではそのような形が望ましいと思っています。指導者からすれば口出しをしないことが怖いかもしれませんが、勇気を持って1試合やらせてみると発見があります。私は元広島観音高校の監督でボトムアップをベースに長年指導してきた畑喜美夫先生にお世話になっている関係で畑先生と一緒に合宿を企画・開催したのですが、その際に参加した指導者が選手の変化に驚いていたのを目の当たりにしました。1回勇気を持って選手に任せてみると、いろんな発見があります。そうしたことも含め、このリーグ戦を通じて指導者も子どもたちと一緒に成長してもらえるといいですね。「アシタノタメニリーグ・U-10」のレギュレーション基本は8人制だが、対戦チーム同士の合意があれば、人数変更もOKハーフタイム7分のうち、5分は選手だけの時間とし、指導者はベンチから離れる。指導者は何か伝えたいことがあるならば、2分以内にまとめる力が必要になる。試合時間を長くし(25分ハーフ)、試合運びに緩急をつけることを学ぶ。また、長い時間なので必然的に多くの選手を出さなければいけなくなる。リトリートラインの設置(ゴールキックは必ずGKが蹴る)ユニフォーム&用具の細かすぎる規定を廃止しきたりだけの挨拶、やめましょう(試合後は歩み寄ってグータッチ)得失点差、総得点の廃止。大差ゲームをなくすため勝ってるチームがゴール後にボールを持ち帰る行為はイエローカード。試合開催日の夜、オンラインで指導者同士の「感想戦」を実施■ハーフタイムも子どもたち主体で。指導者が話せるのは2分だけハーフタイムは子どもたちが主体的に話し合う場になっている(提供:アシタノタメニリーグ・U‐10)――そういう意味では7分間のハーフタイムにおいて、2分間しか指導者が話してはいけないルールは、子どもたちの自立を促すきっかけになりそうですよね。僕の中でハーフタイムの過ごし方はイチ押しです(笑)。選手に任せる取り組みは他でもやっているかもしれませんが、コーチと選手の時間をそれぞれ設けているレギュレーションはあまりありません。私が目指しているのはボトムアップとトップダウンの融合。指導者が先に話すか後に話すかは各チームに任せるつもりです。最初に大人が話してしまうとそれに子どもたちが合わせてしまう可能性がある一方で、最後にコーチが話をすると今まで子どもたちが話してきた内容を全否定する場合もあります。指導者が大事なことを伝えつつ、選手たちの意見を尊重する。大人たちが状況に応じて話をしつつ、うまく子どもたちの考えを引き出していきたいですね。■失敗の繰り返し、無駄なことも通じて経験を積んでいく――指導者の中には教えすぎている方もいるかもしれません。そういう意味ではハーフタイムのレギュレーションは子どもにとってプラスになりそうですよね。そうですね。私は年齢に合う指導をすべきだと考えています。サッカーは幼少期からしっかり教えないといけないという風潮もありますが、子どもの習性としてはボールがあるところに行くのが当たり前。だけど、団子サッカーをさせないようにする風潮もある。私は子どもらしくて団子サッカーでもいいと思うんです。なので、U-10のリーグではいろんな失敗を繰り返して、無駄なこともやりながら、経験を積んでいく。10歳なら10歳なりの失敗がありますし、無駄なことをしてしまうサッカーから得るものもあります。さらに年齢が下がれば、もっと自由にやればいいかもしれませんし。私は小学生だけではなく、中学生や高校生の指導に携わってきた経験があります。例えば、高校生なら18歳なりのサッカーをすべきですが、難しさがあります。何故ならば、大人でもないけど、子どもでもないからです。なので、大人のような全てしっかりした無駄なことのないサッカーだけをすべきではないけど、子どものような幼稚なミスを避けながらプレーをしないといけません。つまり、年代に合うようなサッカーを各カテゴリーで行うべきだと考えています。ジュニア年代から次のカテゴリーに繋げていくためにも、U-10世代から11人制に移行した時を見据えて指導をしていくべきではないでしょうか。■8人制から11人制への移行のギャップを無くしたい――"アシタノタメニリーグ・U-10"を通じ、子どもたちにどのような成長をしてほしいと考えていますか?私は本当のフットボール人生が始まるのは、ジュニアユース年代からだと思っています。なので、「進級したのでやっと大人のサッカーができる」というマインドで中学に行って欲しいですね。ジュニアユース年代では8人制から11人制に変わり、ボールもピッチサイズも変わっていきます。別のスポーツと言ってもいいぐらいの違いがある中で、ジュニア年代でそのギャップを少なくしたいと考えています。相手の状況を見て引くなど、試行錯誤しながらいろんな経験値を持つ。そんな選手に成長して、中学年代に進んでほしい。次に繋げるという意味ではリーグ戦において試合を行う人数は8人ではなく、できれば1人増やして実施することが望ましいかもしれません。9人制だと、8人制よりも11人制にリンクしやすいと思うからです。リーグ戦で負けたチームに対してどうするかを考えてもう1度戦うことも含め、U-10年代から本来のリーグ戦を味わって欲しいなと思っています。■サッカーは社会とリンクしている。サッカーを通じて人として成長してほしい――これから子どもたちにとって本当のサッカー人生が始まっていく中で、"アシタノタメニリーグ・U-10"をどのように発展させていきたいですか?将来的なビジョンは今回参加してくれるU-10のチームに来年も参加していただき、来年はU-11でも行いたいと考えています。そして、3年後にはU-10からU-12のカテゴリーが揃え、年代によって試合時間も変えながらそれぞれリーグ戦が行えるようになるといいですね。U-12なら30分ハーフの11人制でもいいかもしれませんし、日々発展させながら最終的には全国各地で実施できるようにしたいです。そして、子どもたちにはサッカーを通じて、人として成長もしてもらいたいです。「サッカーをしてきたからこそ、柔軟な人間になった」、「サッカーをしてきたから自分で工夫する癖がついた」、「サッカーを通じて遊び心が豊富になった」、「自由の意味を理解した」。何か一つでもいいので得てもらいたい。サッカーと社会はリンクしているので、サッカーのリーグ戦を通じてそういうところも僕は発信をしたいですね。久保田大介(くぼた・だいすけ)東京都出身。1999年~2020年5月まで、SUERTE juniors横浜(現・LOBØS.FC)代表・監督を務める傍ら、2004年~2016年3月まで都立国際高校女子サッカー部 や世田谷区の公立中学サッカー部などで指導に携わる。現在は"一般社団法人あしたのためにプロジェクト"の代表を務め、2021年6月に"アシタノタメニリーグ・U-10"を創設した。アシタノタメニリーグ・U‐10 ホームページはこちら>>
2021年08月02日本当の意味での選手ファーストを実現するためのリーグ戦として、一般社団法人あしたのためにプロジェクト「アシタノタメニリーグ・U‐10」を立ち上げました。子ども達のためでなく「ただ消化するため」につくられている試合形式が多かったり、「大人が満足するため」にやっているような目的が形骸化してしまっている現状が多い中、ジュニア年代の試合として本来あるべき姿に戻そう、という思いがキッカケで作られたこのリーグは、子どもを伸ばすために考えられた他ではないレギュレーションが特長です。一般社団法人あしたのためにプロジェクト代表理事の久保田大介さんに、リーグ立ち上げについての思いなどを伺いました。(取材・文:松尾祐希)本当の意味での選手ファーストを実現するU‐10リーグが開幕(提供:アシタノタメニリーグ・U‐10)■U‐10年代は本当のフットボールの入り口――"アシタノタメニリーグ・U‐10"を創設された理由を教えて下さい。理由はふたつあります。ひとつ目は10歳を一つの区切りとし、フットボーラーとしてのターニングポイントにしてほしかったからです。小学校4年生は10歳を迎え、そろそろフットボーラーとして一段ステージを上がってもおかしくない年齢。低学年の頃は遊びの中でサッカーに触れていく中で、4年生からはジュニアユース年代に進んでいく入口として競技に向き合ってほしかったんです。そして、ふたつ目の理由はU‐10のリーグ戦がU‐12年代、U‐11年代と比較すると、リーグ戦の機会が多くはありません。そうした疑問を持っていたので、新たにリーグ戦を創設する際にどの年代で行うべきかをTwitter上でアンケートを取りました。すると、U‐12が最もリーグ戦を開催している年代でニーズがなく、逆にU‐10の需要があったんです。そうしたふたつのことから、本当のフットボールの入り口として、U‐10年代でフットボールの本質に基づいたリーグ戦を創設しました。「アシタノタメニリーグ・U-10」のレギュレーション基本は8人制だが、対戦チーム同士の合意があれば、人数変更もOKハーフタイム7分のうち、5分は選手だけの時間とし、指導者はベンチから離れる。指導者は何か伝えたいことがあるならば、2分以内にまとめる力が必要になる。試合時間を長くし(25分ハーフ)、試合運びに緩急をつけることを学ぶ。また、長い時間なので必然的に多くの選手を出さなければいけなくなる。リトリートラインの設置(ゴールキックは必ずGKが蹴る)ユニフォーム&用具の細かすぎる規定を廃止しきたりだけの挨拶、やめましょう(試合後は歩み寄ってグータッチ)得失点差、総得点の廃止。大差ゲームをなくすため勝ってるチームがゴール後にボールを持ち帰る行為はイエローカード。試合開催日の夜、オンラインで指導者同士の「感想戦」を実施■出場機会を作るための25分ハーフ――確かに、ジュニア年代に限らず、各カテゴリー最上級位のリーグ戦は充実しています。その一方でその間に当たる年代のリーグ戦は数が限られていますよね。しかし、海外に目を向けると、特に欧州では年齢ごとにリーグ戦を行っているケースがほとんどです。そういう意味では定着すれば、選手のレベルアップに繋がりそうですよね。例えば、神奈川県の横浜市ではU‐10年代の大会として市大会を行っています。数チームでのリーグ戦で決勝トーナメントに進むチームを決めますが、リーグ戦では行っていません。そうした事情を踏まえ、私は年間を通じて週末に試合がある状況を作りたかったんです。同じチームと2度対戦することでチームとしても個人としても成長具合を測れます。1つの試合で上のステージへの進出が決まってしまうと、指導者の人は目先の勝敗に意識がいく場合も少なくありません。また、リーグ戦は選手たちの出場機会を増やすきっかけになります。一番望ましいのは指導者の方が良識を持つことです。大人はリーグ戦を行う意味を考えながら、子どもたちと接する環境を作っていかなければいけません。成長を促したり、進級してもサッカーを続けること。そういう目的を大人たちが持っていれば、自ずと全員を出場させますよね。25分ハーフにしたのも出場機会を作るためです。全日本少年サッカー大会は20分ハーフですが、試合時間を長くすれば自ずと選手交代が必要になります。ルールとして設けているわけではありませんが、全選手の出場を奨励しています。暑い時期でも25分ハーフでやるので、自ずとスタートの選手だけで試合は成り立ちません。ルール化はしていませんが、全選手が試合に出場するリーグ戦を行うことで、選手の成長を促せると考えています。■必ずしも8人でなくてOK、チームやピッチ状況に合わせて臨機応変に対応すればいい――試合を行う人数も基本は8人制ですが、ピッチ状況やチーム事情を考慮して7人から9人で行うことも認めています。そこの狙いを教えて下さい。僕は8人制が必ずしも正解だとは思っていません。10年前にジュニア年代のサッカーが8人制へ移行する際、JFAが移行の理由に挙げたのはボールタッチを増やすためでした。しかし、単純に8人制をやるだけでは意味がありません。ボールタッチを増やすことに意欲的ではなかった指導者が8人制のサッカーをやったとしても、効果が出るとは思えなかったんです。ピッチサイズが小さくなり、8人制の場合はミスが即失点につながります。11人制で信念のない指導をしている人であれば、間違いなくリスクを考えて省略したサッカーをする可能性があります。出場させられる人数も減ってしまうので、スタメンで出場する選手のタッチ数が多くなる一方で、その分補欠に回った選手は出場機会がなくなってボールタッチが減ってしまうのも懸念材料です。そうした指導者の問題を解決するために"アシタノタメニリーグ・U‐10"では臨機応変に出場する人数を変えていくつもりです。ピッチが広いのであれば人数を増やしてもいいですし、ピッチが狭いのであれば減らす。柔軟に考え、一番良い形で試合をさせてあげることが大事ではないかと。"アシタノタメニリーグ・U‐10"は一応8人制というレギュレーションにしていますが、環境に合わせて決めてもらって構いません。8人制ありきではなく、選手が成長するためには何が良いのか。大人たちが子どもたちのために考えることを望んでいます。■走り切れない試合時間にすることで、ペース配分や試合運び学ぶきっかけになるハーフタイム7分のうち、5分は選手だけの時間としているので、子どもたちが主体的に話し合う場になっている(提供:アシタノタメニリーグ・U‐10)――"アシタノタメニリーグ・U‐10"は25分ハーフで行われます。U‐10の試合では15分のレギュレーションがほとんどで、U‐11でも15分で行う場合が少なくありません。15分だと走り切れる選手もいますが、25分ハーフだといくらスタミナがあっても最初から最後まで走り続けることは不可能です。ペース配分も求められますが、考える力を身に付けることも意図しているのでしょうか。15分ハーフであれば、最初から最後まで走り切れるかもしれません。しかし、走り切れたとしてもプレーでゆとりを失い、周りを見る余裕がなくなってしまいます。あまりにも忙しい試合になってしまいますし、試合時間が短ければ相手も素早く寄せてくるので、セーフティーに試合を進めるチームも多くなってしまうのではないでしょうか。その結果、忙しない試合になってしまうので、あえて長い時間をプレーしてほしかったんです。考えながら試合を進めていくきっかけになりますし、「今は慌てなくて良いからゆっくりボールを回そう」など、試合運びを学ぶ場になるんです。あまりジュニア年代でやっていない取り組みなので、そういうところも"アシタノタメニリーグ・U‐10"で培っていければいいなと思います。■ボールを大事にすることはフットボールを知る第一歩――試合時間以外にも独自のルールが設けられています。リトリートラインを設けた理由を教えて下さい。リトリートラインは、まずGKから試合をスタートしてほしいという想いからルールに入れました。基本的にGKキックはGKが蹴ります。しかし、キック力がなければ、パワーがあるフィールドの選手が前に大きく蹴ります。なので、クリエイティブではないプレーを避け、リトリートラインを作るので下から始めたかったんです。ボールを大事にしていくことはフットボールを知る第一歩になりますし、逆に相手が後ろに引かずに始めるのであれば、選手たちは対応する知恵を出すことになります。選手全員でこの状況をどうすればうまく持っていけるかを考える機会を作り、それをピッチに立つ選手が主体となって取り組める環境を作ってあげる狙いがあります。久保田大介(くぼた・だいすけ)東京都出身。1999年~2020年5月まで、SUERTE juniors横浜(現・LOBØS.FC)代表・監督を務める傍ら、2004年~2016年3月まで都立国際高校女子サッカー部 や世田谷区の公立中学サッカー部などで指導に携わる。現在は"一般社団法人あしたのためにプロジェクト"の代表を務め、2021年6月に"アシタノタメニリーグ・U-10"を創設した。
2021年07月27日