長かった冬に別れを告げ、春休みに入ると練習試合などの機会も増えてくると思います。このタイミングで「あらためて基本的なサッカーのルールを確認したい!」という人にピッタリなのが今年2月に発行された『イラスト・図解でかんたんアップデート! サッカーの最新ルール(監修:公益財団法人日本サッカー協会)』です。2019年のルール改正でハンドの解釈やゴールキックの方法も変わっているので、"最新ルール"を確認したい人にもおすすめです。本書の中から今回は、サッカーのルールの中でも最初は特にわかりにくい「オフサイド」について抜粋して紹介します。■「オフサイド」は゛待ち伏せ禁止"のルールどこでボールを受けるとオフサイドになるか、わかりますか?オフサイドを簡潔に解説すると、「待ち伏せを禁止するルール」と言えます。ゴール前に残ってプレーできないように考えられており、このルールによって競技のスピーディーさやダイナミックさ、インテリチックでクレバーな要素がサッカーに生まれています。まずは、オフサイドポジションを理解しましょう。後方から2人目の相手競技者より前方に位置することです。多くの場合、最後方はGKなので、最後方の相手フィールドプレーヤーよりゴールラインに近い位置になります。図のように、GKを含めた相手競技者の最後方から2人目の位置を基準にオフサイドラインがあり、そのラインよりゴールラインに近い位置にいることが、オフサイドポジションにいる状態になります。また、最後方や最後方から2人目に複数の競技者が並んでいることがあります。その場合も、最後方から2人目が基準となります。最後方に2人の競技者が並んでいれば、そこがオフサイドラインになります。ただし、オフサイドポジションにいるだけでは反則になりません。そのポジションにいて、味方競技者がパスしたボールに対してプレーしようとすることで、初めて反則となるルールがオフサイドです。■「オフサイドポジション」の判定基準手や腕が前方に出ていてもOKオフサイドラインよりも前方に出ていればオフサイドポジションとなりますが、手や腕だけが出ていてもオフサイドポジションにはなりません。プレーできる体の部位が基準になります。イラストのような状況では、相手競技者の右足がオフサイドラインになります。右手がそれよりも前方ですが、この場合はオフサイドラインよりも後方にいるという判定になり、オフサイドポジションではありません。オフサイドラインの基準となる部位オフサイドラインについても、相手競技者の手や腕は関係ありません。イラストのように相手の右手が後方に位置していますが、この場合では相手の左足先がオフサイドラインの基準になります。相手の右手より後方にいるように見えますが、左足先よりも前方に出ているためオフサイドポジションになります。オフサイドラインの基準になる競技者がGKであっても同じで、手や腕でプレーできるGKでもそこは基準に含まれません。オフサイドはプロでも引っかかるプレーです。サッカーを始めたばかりの頃は特にわかりづらいルールの一つと感じるでしょう。プレーをする子どもはもちろん、サッカー経験のない保護者の方も試合を見に行って「今どうして笛が吹かれたの?」「何が反則だったの?」と疑問に思ったこともあるのでは。今のうちに概要だけでも知っておくことで、お子さんの試合観戦がもっと楽しくなりますよ。
2022年03月24日サッカーの試合を面白くする要素の1つとも言えるのがオフサイドですが、そのオフサイドを誘発するための戦術がオフサイドトラップです。この記事では、オフサイドトラップの概要から失敗例、さらにはオフサイドトラップの注意点などについて解説します。ぜひ参考にしてください。オフサイドトラップとはオフサイドトラップとは、守備側の選手が攻撃側の選手を意図的にオフサイドポジションへと誘導しオフサイドを誘発させる戦術のことです。うまくオフサイドが取れば有利に試合を進めることも可能ですが、失敗すると相手に大きなチャンスを与えてしまうためオフサイドのルールをしっかりと理解すること、そして選手同士で意思を統一することが欠かせません。日本代表がワールドカップでみせたオフサイドトラップオフサイドトラップはクラブや代表などさまざまなチームで行われていますが、日本代表もロシアワールドカップのグループリーグセネガル戦で行っています。この時は、自陣ゴール付近でのフリーキックで、相手がボールを蹴ろうとした瞬間、ディフェンスラインが一気にラインを上げて相手選手をオフサイドポジションへと追いやりオフサイドにしました。ラインの上げ方が非常に綺麗で海外の反応の中には「史上最高のオフサイドトラップ」としている人もいたほどです。オフサイドトラップの失敗例オフサイドトラップは、相手がボールを蹴ろうとしているときにディフェンスラインを一気に上げることで行えます。しかし、中には失敗してしまうケースも少なくありません。例えば、ラインを上げるタイミングを少しでも間違えるとオフサイドは取れません。具体的には相手が蹴るよりも早くラインを挙げてしまう、もしくは相手がボールを蹴ってからラインをあげてしまうといった形です。また、選手の動きが統一されていないことでも失敗することがあります。こちらは、一部の選手のラインを上げるタイミングが間違っている、そもそもラインを上げていないといった形です。そのほかにも、ラインを上げるタイミングはあっていても、ラインが一直線になっておらずデコボコな状態であるためオフサイドが取れないといったケースもあります。このように、オフサイドトラップはちょっとしたことでも失敗につながるため、行う際は細心の注意を払わなければなりません。オフサイドトラップを仕掛ける際の注意オフサイドトラップは、ハイリスクハイリターンであることを覚えておかなければなりません。例えば、オフサイドトラップを失敗してしまうと、相手はフリーの状態でボールを受けられるため、大きなピンチを招くことになります。そのため、オフサイドトラップを仕掛ける際は、絶対に成功させるつもりで行わなければなりません。一か八かで仕掛けることは避けてください。オフサイドトラップのポイントオフサイドトラップを仕掛ける場合、ディフェンスラインを一直線に揃えることが大切です。サッカーはボールや人が動くたびに細かいポジション修正を行うため、ラインを揃えることは簡単ではありません。ディフェンスラインの選手は常にお互いの状況を確認し、声を掛け合いつつラインを揃えるようにしましょう。また、試合でいきなりラインを揃えることは不可能に近いため、普段の練習から密にコミュニケーションを取り合い、お互いのポジショニングやタイミング等を確認することも大切です。オフサイドトラップは相手がボールを蹴る瞬間の動きが成否を左右するため、ボール保持者の状況を常に確認することも忘れないでください。まとめ今回は、オフサイドトラップの概要から失敗例、行う際のポイントなどについて解説しました。オフサイドトラップは成功すれば、相手の攻撃を未然に防げますが、失敗するとピンチを招きます。そのため、ディフェンスラインの選手が連携を深めたうえで行うことが必須です。オフサイドトラップを仕掛けたい場合は、このポイントを忘れないようにしましょう。
2021年08月24日サッカーを始めたばかりの人の中には、オフサイドがいまいちわからない人も多いのではないでしょうか。この記事では、オフサイドとはなんなのか、その概要について解説します。オフサイドを理解することでプレーの向上につなげられるほか、試合観戦もより楽しいものとなるはずです。ぜひ参考にしてください。オフサイドとはオフサイドは、簡単にいうと攻撃側のチームの待ち伏せ行為を禁止するためのルールです。詳しくは後述しますが、待ち伏せができないことによって、相手のディフェンスラインとの駆け引きが生まれ、サッカーをより面白いものにしていると考えられます。オフサイドの条件オフサイドは、味方選手がパスを出す際に、オフサイドポジションにいる選手がパスを受けるもしくはパスを受けようとした時にとられます。オフサイドポジションとは、相手陣内でなおかつボールより前の、相手チームの後方から2番目の位置にいる選手よりも相手ゴールに近いエリアのことです。簡単にいうと、相手陣内でパスを受けようとする際に自分の目の前に相手選手が一人しかいないとオフサイドポジションにいることになり、オフサイドを取られてしまいます。なお、選手の頭や胴体、足の一部でもオフサイドポジションにあればオフサイドを取られます。そのため、試合においては数センチ単位で攻撃側の選手とディフェンの選手との間で駆け引きが行われています。オフサイドポジションにいる=オフサイドではないオフサイドに関して注意しなければならないのが、オフサイドポジションにいるだけでオフサイドをとられるわけではないことです。味方選手がパスを出す瞬間にオフサイドポジションにいてもそのボールに関与しない・相手選手の邪魔をしなければオフサイドとはみなされません。また、ゴールキック・コーナーキック・スローインでボールを受ける場合、オフサイドは取られません。オフサイドの再開方法オフサイドを取られた時は、相手チームの間接フリーキックから再開されます。間接フリーキックとは、キックしたボールが直接ゴールに入っても得点とはならないフリーキックのことです。間接フリーキックの後キッカー以外の選手が一度ボール触れていれば得点が認められます。ちなみに、間接フリーキックの際は主審が片手を上げます。オフサイドのルールが改正される?サッカーでは毎年ルールの見直しや改正が行われていますが、オフサイドに関しては2022年の夏からルール改正が行われると言われています。現行のオフサイドは頭や胴体、足などが一部でもオフサイドポジションにあればオフサイドであると判定されます。しかし改正後は、体の一部が相手選手と同じラインにあればオフサイドと判定されません。例えば、体のほとんどの部分が現行のオフサイドポジションにあったとしても、足や頭が相手選手と同じ位置もしくは相手選手よりも後方にあればオフサイドにはなりません。ここまで読んで「あまり大きな差ではないのでは? 」と思う人もいるかもしれませんが、このルール改正が実現すると、これまでよりも半歩〜1歩ほどポジションを前に取ることができます。1歩の違いはサッカーにおいては大きな違いであり、ゴールにつながる可能性が高まると考えられます。またディフェンダーはオフサイドが取りにくくなるため、より守備的になるかもしれません。つまり、この改正はサッカーの試合全体にも大きく影響する可能性があるということです。まとめ今回は、オフサイドの概要から具体的な条件、さらにはルール改正などについて解説しました。攻撃側の待ち伏せ行為を禁止するオフサイドがあることによって、攻守の駆け引きが行われており、この駆け引きの存在がサッカーをより面白いものにしているといっても過言ではありません。ぜひ、今回の内容を参考にオフサイドのルールを覚えてください。
2021年08月23日4月は新学期のスタート。新たにコーチになったり、審判をやってみる方も多いのではないでしょうか?実は、お父さん世代が学生だった頃とは大きく変わっているルールもあります。3級審判資格を取得し、主に「サッカー審判批評」という分野でジャーナリストとして活躍する石井紘人さんに聞く「2021年4月版の最新ルール解釈」。後編では「ゴールキック」「オフサイド」「PK時の、GKの立ち位置」「夏場の対策」について、話をうかがっていきます。(取材・文:鈴木智之)昔はなかった「飲水タイム」「クーリングブレイク」など新ルールを今のうちに覚えよう<<前編:手に当たったらハンド、じゃない!お父さんコーチが知っておきたい、昔と今でこれだけ変わったサッカーのルール池上正さんの指導DVDプレゼント!詳しくはこちら【4月限定】>>■ゴールキックをペナルティエリア内で受けてもよくなった2019/20年の競技規則改正による、大きなルール改正が「ゴールキック」についてです。これまでゴールキックのボールは、「ペナルティエリアの外」でしか受けることができませんでした。しかし、2019/20年のルール改正により「ペナルティエリア内で受けても良い」ことになりました。これは育成年代において、歓迎すべき変更と言えるでしょう。GKを使ってビルドアップすることができますし、キックが飛ばない場合、自陣ゴール前でボールを奪われるケースも減りそうです。当然のことですが、ゴールキックのとき、相手チームの選手はペナルティエリアの中に入ってはいけません。これは覚えておきたいポイントです。「相手チームの選手がペナルティエリアに入った状態で、ゴールキックのボールが蹴られた場合はやり直しです。また、クイックリスタートは認められていますが、ボールがしっかりと止まった(静止した)状態で始めましょう。ボールが転がっていたらやり直しです」早くリスタートしたいあまり、ボールが転がった状態で蹴ってしまうことがありますが、それをするとやり直しになってしまうので、気をつけましょう。■PK時のキーパーの足の位置が変更になった続いては「PK時のGKの立ち位置」についてです。石井さんが説明します。「2019/20の競技規則改正で、PK時にGKがセーブをする際に、左右どちらかの足がゴールライン上にかかっていればOKになりました。厳密にラインを踏むのではなく、空中にあってもOKです。これもVARの運用によるルール改正と考えられます」レフェリーをするときは、PKの前にGKを呼び「両足がラインから離れていたら、シュートを止めたとしてもやり直しだからね」などとアドバイスをすると良いかもしれません。「ゴールが入ったあとでも、『いまの出方だと、キックを止めてもやり直しになるから気をつけてね』と声をかけるとか、コミュニケーションをとって未然に防ぐことが大事だと思います。育成年代のレフェリーには、ディイレクターな観点も必要です。レフェリーは取り締まる人ではなく、同じサッカーをする仲間という視点を持って、レフェリングをしてほしいと思います」かつては、キッカーよりも先にGK動いてラインから飛び出してしまうと、1度目のプレーから警告が出されていましたが、2020/21年の競技規則改正により、1度目は注意、2度目から警告となりました。「これはGKが試合中に1度警告を受けていた場合、PK戦の1プレーで2枚目の警告となり、退場になるのを防ぐ狙いがあると推測します」GKにとっては、思い切ってプレーしやすくなったと言えるでしょう。■新米コーチにはわかりづらいオフサイドのルールオフサイドについても、ここでおさらいしておきましょう。判断に困るケースが、守備側の選手の足に当たったり、キックミスによって、オフサイドポジションにいる攻撃側の選手にボールが渡ったときです。「相手のディフェンダーがクリアミスをして、オフサイドポジションにいる選手にボールが渡った場合はオフサイドではありません。もともと曖昧な部分だったのですが、数年前から明記されるようになりました。このケースは、ジュニアのサッカーでは意外とあると思います」石井さんは「オフサイドについては、競技規則にわかりやすく書いてあるので、一読をおすすめします」とアドバイスをしてくれました。とくにオフサイドはゴールに直結しやすい場面で起きる判定なので、これを機に最新情報を改めて確認してみましょう。■昔はなかった「飲水タイム」と「クーリングブレイク」夏に向けて気温が高くなると、「飲水タイム」や「クーリングブレイク」も必要になります。「小学生年代の試合では、WBGTが25℃以上の場合は『飲水タイム』、28℃以上では『クーリングブレイク』を行います。『飲水タイム』の場合は、監督は戦術的な指示をしてはいけないとされていますが、そこまで厳密に取り締まらなくてもいいのではと思います。選手と監督がコミュニケーションをとるぐらいはいいのかなと。作戦ボードを使って、『飲水タイム』の時間をオーバーしそうな仰々しいのは良くありませんが、とくに育成年代の試合は、杓子定規に注意をしなくてもいいと思います」飲水タイムはピッチの中で水などを飲み、時間は1分ほど。クーリングブレイクはテントの中に入って涼んで良く、時間も3分とそれなりにあります。WBGTの数値によって決められていますが、体感温度や湿度の高さなどを考慮して、柔軟に運用したいところです。2回に渡って石井さんに話をうかがってきましたが、大人がルールを正しく運用することが、結果として子どもたちの上達を導くことに加え、健康面をサポートすることにもつながります。これを機にルールを改めて学び直し、より良いレフェリング、指導に役立てましょう!石井紘人(いしい・はやと)過去、日本サッカー協会C級ライセンスと三級審判員取得。サッカーは審判批評、他に運動生理学の批評を専門とする。『TokyoNHK2020』サイトで一年間に渡り、パラリンピックスポーツの取材を行い、現在は『J-cast』にて東京五輪へ向けたオリンピアンへのインタビューを連載中。著作に『足指をまげるだけで腰痛は治る』(ぴあ)、プロデュース作品に久保竜彦が出演した『弾丸シュートを蹴る方法』(JVD)がある。株式会社ダブルインフィニティ代表取締役でもあり、JFA協力、Jリーグと制作したドキュメントDVD『審判~ピッチ上の、もう一つのチーム~』やJリーグベストゴールズ『メモリーズ&アーカイブス』の版元でもある。自身のサイトは『週刊審判批評』。池上正さんの指導DVDプレゼント!詳しくはこちら【4月限定】>>
2021年04月27日4月は新学期のスタート。新たにコーチになったり、審判をやってみる方も多いのではないでしょうか?そこで今回は3級審判資格を取得し、主に「サッカー審判批評」という分野でジャーナリストとして活躍する石井紘人さんに、「2021年4月版の最新ルール解釈」について、話をうかがいました。ハンドやゴールキック、PK時のGKの立ち位置など、昔に比べてルールの解釈が変わっている箇所もあるので、これを読んで情報をアップデートさせましょう!(取材・文:鈴木智之)この春お父さんコーチを始める人が知っておきたい、昔と今ではこんなに違うサッカーのルールとは■ハンドのルールが大きく変わったサッカーの試合で争点になる反則。それが「ハンドの反則」です。「試合中、手にボールが当たったらハンド」と思っている人もいるかもしれませんが、それは違います。2020/21の最新の競技規則によると手や腕にボールが当たっても必ずしもハンドの反則にはなりません。たとえば、ニュートラルな位置にある腕にボールが当たってもハンドの反則にはならないのです。分かりやすいのが、昔ロベルト・バッジョがDFのニュートラルな位置にある腕にあえてボールをあてて、PKをとったことがあるのですが、現在の競技規則ではハンドの反則にはなりません。一方で、手を伸ばしてボールに当たりに行く未必の故意、浮いたボールを手でコントロールしようとする動作は、明らかに不自然なのでハンドの反則になります。<ハンドの定義>ボールを手または腕で扱う(P108)ハンドの反則を判定するにあたり、腕の上限は脇の下の最も奥の位置までのところとする(P164)競技者が次のことを行った場合、反則となる(P108)・手や腕をボールの方向に動かす場合を含め、手や腕を用いて意図的にボールに触れる。・ゴールキーパーを含め、偶発的であっても、手や腕から相手チームのゴールに直接得点する。偶発的であっても、ボールが自分や味方競技者の手や腕に触れた直後に(P164)・ 相手競技者のゴールに得点する。・ 得点の機会を作り出す。次のように手や腕でボールに触れたとき(P108)・ 手や腕を用いて競技者の体を不自然に大きくした。・ 競技者の手や腕が肩の位置以上の高さにある(競技者が意図的にボールをプレーしたのち、ボールがその競技者の手や腕に触れた場合を除く)。引用:サッカー競技規則2020/21 (競技規則日本語訳:日本サッカー協会)石井さんは現在のハンドの反則を次のように説明します。「競技規則が改正になる前のハンドの反則は、レフェリーの主観が強い反則でした。腕にあたったとしても、主審にどう見えたかで判定が変わっていました。しかし、VARの導入により、腕に当たった事実が見えるようになりました。映像で腕に当たっている事実が見えるようになると、ハンドの反則をとらない決断は難しいですよね。ロシアワールドカップの決勝が最たる例です。そこで、そういったVARに合わせて『腕の上限は脇の下の最も奥の位置まで』『競技者の手や腕が肩の位置以上の高さにある』という言葉が入り、ハンドの反則のグレーさを減らしたのだと思います。」■「手に当たったらハンド」ではないジュニアの試合で多いのが、二つ。一つは、至近距離でシュートを打たれ、それが守備側のニュートラルな位置にある手に当たるケースです。これは手や腕を用いて体を不自然に大きくしていないため、ハンドの反則にはなりません。もう一つが、転んでしまった時の支え手にボールが当たることです。この場合も、腕が体から横または縦方向に伸ばされていない限り、ハンドの反則にはなりません。このケースを抑えておくだけでも、試合中に手に当たったからといって「ハンドだろ!」と騒ぐことも無くなりそうです。これは指導者やレフェリーを担当する人だけでなく、試合を観戦する保護者も知っておきたいポイントです。「ハンドという単語は手という意味ですよね。なので、指導者も保護者も、『ハンド!』とアピールするのではなく、競技規則を知って、『ハンドの反則だろ!』とアピールするようになったら、理解も進むのかもしれないと思っています」■「不自然」ではなくてもハンドになるケースとは「不自然」ではなくても、ハンドになるケースもあります。それが「手に当たったボールがゴールインしたとき」です。石井さんはその背景を、次のように説明します。「現代はVARがあるので、ボールが手に当たってゴールインした場合、誰の目にも明らかになります。FIFA(国際サッカー連盟)は、ビッグマッチで決まったゴールが、手によるものというケースは避けたいのでしょう。そう考えると、マラドーナの神の手ゴールは、いまの時代は100%生まれないことになります」さらに言うと、偶発的に手に当たったボールが味方の前にこぼれ、それをシュートしてゴールが決まったとしても、ハンドの反則でゴールにはなりません。が、これは今年の夏の競技規則改正で変わるようで「偶発的でも手や腕にボールが当たった選手自身が直後に得点することに限定されそうです」とのこと。「ジュニアの場合、ボールが自分の方へ飛んできたときに、咄嗟に手でお腹や顔を防ぐことがあります。そのプレーで、手に当たったからといって、わざわざハンドの反則を取る必要はないと思います。その場面は見逃してあげて、試合が終わった後に『手でボールに触ると、ハンドの反則をとられる可能性があるから、気をつけようね』とアドバイスをしてあげるといいと思います。また指導者や保護者側もVAR向けのハンドの反則の細かい条文を、VARがない試合、ましてやアマチュアの試合で審判員に要求するのは違うと思います。審判団が競技規則を理解し、ベストを尽くそうと走っていたのであれば、審判団に委ねる姿勢を持つことが子どもへの教育になると思います」■ルールは選手を罰するためのものではないジュニア年代のレフェリーは、子どもたちに正しいルールを教えてあげる「指導者」の側面もあります。杓子定規に競技規則を守り、反則を見落とさない、取り締まることがレフェリーの役割ではありません。子どもがサッカーを楽しみ、成長するためのサポート役。それがレフェリーの役割のひとつと言えるのではないでしょうか。「競技規則の理念を読むとわかりますが、ルールは選手を罰するために作られたものではないんですね。ルールとは、サッカーを公正に、公平にするためにあるものです。ハンドの反則を見落とさないように"減点法"で見ていくと、些細なこともファウルのように見えるかもしれません。でも、ルールというものが生まれた背景は、そうではないことを知ってほしいです」■オフサイドもゴールキックも解釈が変わっているルールは時代とともに変化しています。これを読んでいるあなたが子どもの頃に知り得たものとは、ハンドもオフサイドもゴールキックも、解釈が変わっています。サッカーの進化と同じように、ルールも合わせて変化しているのです。「いまはレフェリーの方がSNSなどを使って情報発信していますし、日本サッカー協会のWebサイトやYou Tubeを見ると、ルールに関する最新の情報が掲載されています。まずはそれを読んだり、見たりすることが、レフェリーを始めるための第一歩になると思います」■昔はOKだったものがいまはファウルになっていることも昔はOKだったものが、いまはファウルになったり、その逆もあるので、まずは「いまのルールをどうなっているのか」に目を向けてみてください。サッカーの指導同様、ルールについてもアップデートしていくことが、子どもたちの成長につながるはずです。次回の記事では「ゴールキック」「オフサイド」「PK時の、GKの立ち位置」について、石井さんに解説をしてもらいます。石井紘人(いしい・はやと)過去、日本サッカー協会C級ライセンスと三級審判員取得。サッカーは審判批評、他に運動生理学の批評を専門とする。『TokyoNHK2020』サイトで一年間に渡り、パラリンピックスポーツの取材を行い、現在は『J-cast』にて東京五輪へ向けたオリンピアンへのインタビューを連載中。著作に『足指をまげるだけで腰痛は治る』(ぴあ)、プロデュース作品に久保竜彦が出演した『弾丸シュートを蹴る方法』(JVD)がある。株式会社ダブルインフィニティ代表取締役でもあり、JFA協力、Jリーグと制作したドキュメントDVD『審判~ピッチ上の、もう一つのチーム~』やJリーグベストゴールズ『メモリーズ&アーカイブス』の版元でもある。自身のサイトは『週刊審判批評』。
2021年04月20日