「かわいい子には旅をさせよ」という言葉があります。サッカーは世界とつながるスポーツで、ボールを通じて、様々な人とコミュニケーションをとることができます。2023年夏、「クルゼイロサッカースクール」の小学生たちがブラジル遠征を慣行した際、日本とは異なる環境の中で、言葉や文化の壁を感じながら、様々な体験をした子どもたち。2週間弱の遠征でしたが、現地の子と日本の子では「自立の程度」に差があると感じたそうです。はたしてどんな点が違ったのか。クルゼイロジャポン指導部門責任者の小林ヒロノリコーチに、話をうかがいました。(取材・文鈴木智之)(写真提供:クルゼイロジャポン)サカイク公式LINEアカウントで子どもを伸ばす親の心得をお届け!>>■ブラジル遠征ではストリートサッカーや本物のジンガを体験(写真提供:クルゼイロジャポン)ブラジル遠征に参加したのは、小学3年生から5年生まで、4名の子どもたち。期間は2週間弱で、成田空港からエチオピアで乗り継いでサンパウロに行き、そこからクルゼイロのあるミナスジェライス州に向かいました。乗り継ぎを含めると、片道36時間もかかるため「往復で3日間を移動に費やしました」と小林コーチは笑顔で振り返ります。「ブラジルでの2週間弱のスケジュールは、とても充実していました。私からは、滞在中に2~3回の対外試合を行うことと、体力を見ながら2部練習を実施することをお願いしました。午前と午後に1回ずつサッカーの活動を入れ、その中に試合も組み込んでもらいました。それ以外にクラブ側は、市内観光やお土産購入、現地の試合観戦なども企画してくれました」グラウンドでのトレーニング以外にも、ブラジルの音楽とダンス、格闘技が合わさった、「カポエラ」を体験したり、裸足でストリートサッカーをしたり、本物のジンガ(体をゆすりながらステップを踏む動き)を教えてもらったそうです。■遠征ではどれだけ現地の食事を食べられるかが適応のバロメーター(写真提供:クルゼイロジャポン)日本ではできない体験をした子どもたち。様子を尋ねると「若干、引っ込み思案なところも見られました」と回想します。「慣れない環境に飛び込むのは、勇気がいることだと思いますが、初めての異文化体験に対して、少し臆病になっている様子が見られました」なかでも、苦労したのが食事です。過去に何度もブラジル遠征に参加している小林コーチは「どれだけ現地の食事を食べることができるかを、適応のバロメーターにしています」と話します。「現地の食事を受け入れられるかどうかは、サッカーのパフォーマンスにも直結します。普段食べないものでも、食べられるものを探してしっかり食べることが大切です。ブラジルの選手はよく食べます。1日5回の食事(朝食、昼食、トレーニング後の補食、夕食、夜食)があり、量も質も非常に高いです。肉料理が3種類、豆料理、ご飯、野菜、色とりどりのフルーツが並んでいました」日本の子どもたちは、日本とは違う食文化、味付けに戸惑い、慣れるのに時間がかかったそうです。「お母さんのご飯が恋しい、日本食が食べたいと言う声も聞こえてきて、パンとバナナとオレンジぐらいしか口にできない子もいました。食事への適応は、サッカーへの適応と同じです。いつもと違うコーチ、練習内容、環境。それらを受け入れ、その中で自分を出していくことが求められます」今回の遠征では、4人全員が食事面で苦戦していましたが、なんとか最後までやり遂げたそうです。■日本人同士で固まらないよう、現地の子とペアを組ませた(写真提供:クルゼイロジャポン)遠征中は、午前か午後のどちらかはブラジル陣のコーチが個人・グループのテクニックや戦術を、つきっきりで教えてくれました。小林コーチは「とても贅沢な時間でした」と振り返ります。「午後は外部のスクール生を呼んで、ブラジル人の子どもたちと一緒に練習や試合を行う機会を設けてくれました。クルゼイロのトップチームの施設で練習できることは、現地の子どもたちにとっても、夢のようなことのようです」小林コーチは日本の子どもたちに「日本人同士で固まらず、練習のペアはブラジル人と組もう」と伝えたそうです。「そうした小さな努力の積み重ねが、異文化適応につながると信じています」現代の子どもたちは、コロナ禍の影響で他者との関わりや、集団で行動することに対する経験が、例年以上に乏しいです。小林コーチは「コロナ禍の子どもたちは、例年よりも2、3歳ほど、子どもっぽい印象があります」と述べます。「だからこそ、サッカーにしても食事にしても、それ以外の時間の過ごし方にしても、いろいろな刺激を与えてあげたい。今の子どもたちは、サッカー漬けの日々を送り、親の送り迎えで完結する、狭い世界に閉じこもりがちです。サッカーを辞めてしまったら何も残らないので、サッカー以外の面でも多様な経験をさせてあげたいと思っています」■海外を経験したことで、日本の価値や親への感謝に気づけることもその狙い通り、ブラジル遠征で様々な経験をし、刺激を受けた、クルゼイロサッカースクールの子どもたち。それにより、日々の生活や親のサポートに感謝する気持ちが芽生えてくるのではないかと、小林コーチは考えています。「2週間、ブラジルで過ごす中で、大変なこともたくさんありました。だからこそ、日本の良さに気づけた部分もあったと思います。当たり前に食べられる日本食のありがたみ、家族への感謝の気持ちなど、異文化を体験したからこそ、自国の文化の価値に気がつくことができました。日本という箱庭で育った子どもたちが、世界を見て『日本っていいな』『お母さんの料理はおいしいな』と改めて思うようになる。それだけでも意味があったと思います」日本を離れて過ごす中で、改めて日本の良さや家族への感謝の気持ちを感じることができた子どもたち。この遠征で得た経験は、心に残り続けることでしょう。次回の記事では、「ブラジルの保護者と日本の保護者の関わり方の違い」について、紹介します。サカイク公式LINEアカウントで子どもを伸ばす親の心得をお届け!>>
2024年05月16日近年、海外の指導者が来日し、日本の子どもを指導する場が増えてきました。そのときに、海外の指導者が口をそろえて言うのが「日本の子どもたちは、コーチの言うことをよく聞く」という言葉です。その反面「日本の子はシャイで、自分を表現しようとしない」という言葉も聞かれます。自己表現が苦手なのは子どもだけに限らず、大人にも通じることで、日本人の特性なのかもしれません。日本の中だけで生活するのであれば、とくに不自由はしませんが、ことサッカーというグローバルなスポーツにおいて、「自己表現が苦手」というのは、マイナスに働くこともあります。そこで今回は日本の育成年代で長く指導し、サッカー王国ブラジルの名門育成クラブ「クルゼイロ」のジャパンスクールで指導をする小林弘典コーチに、「子どもたちの感情を解き放つためにしている、ブラジル人コーチの仕掛け」について話を聞きました。ブラジル人コーチは「自ら考えて動く」「自己主張する」といった部分に、どのようなアプローチをしているのでしょうか?(取材・文鈴木智之)写真提供:クルゼイロキャンプ■日本の子どもは失敗するとベンチを見る"クルゼイロジャポン"は東京のスクールの他に、今春三重に開校予定。春休みや夏休み等に、ブラジルからコーチを呼び、短期キャンプを実施しています。小林コーチは、ブラジルから来たアドリアーノコーチに「日本の子どもたちの話を聞く姿勢は素晴らしい」と感心されたそうです。「日本の子たちは、なんて良い教育を受けているんだ! と驚いていました。ですが、いざサッカーの練習が始まると、ミスを恐れ、失敗するとベンチやコーチを見る子がたくさんいました。極めつけは、ゴールを決めたのに誰も喜ばないこと。これにはびっくりしていました」■集団の一員として振舞えるが、個になると弱い日本の子どもアドリアーノコーチは、「日本の子は点を取っても嬉しくないの? あの子たちはサッカーを本当に好きでやってるの?」と質問をしてきたそうです。そこで小林コーチが「彼らは、枠からはみ出すことがあまり得意ではないのではないか」と答えると「子どもはもっと自由でいいし、何よりサッカーというスポーツは自分の感情を出さなければ絶対に勝てないし、上達もできない」と言われました。両者は「子どもたちに感情を発露させることに対して、私達はもっと取り組まなければいけない」という結論に至ったそうです。また、日本の子どもたちは、集団の一員として振る舞うことはできますが、選手個々に目を向けたときに「きみは何ができるの?」「何がしたいの?」という状態になっていたのだと言います。■もじもじしていた子たちが積極的に!「楽しい」環境を作ることが大事そんな日本の子どもたちを見たアドリアーノコーチは、驚きの行動に出ます。トレーニング中、サッカーボールやテニスボールなど、ありったけのボールをコートに投げ入れたのです。「たぶん、50球ぐらいあったと思います(笑)。それを次々にコートに入れて、どんどんシュートを打っていいよ、ドリブルで仕掛けようと言いました」子どもたちはコーチの言葉通り、たくさんあるボールを手当たり次第、ゴールに向かって蹴っていきます。「そうしたら、もじもじしていた子たちが、シュートが打てる、うれしい! と積極的にプレーし始めたんです。ドリブルやパスが成功したときの喜びもあるかもしれませんが、何よりも、ゴールを決めることが最高に楽しいわけです。その環境を作ってあげることが大事なのだと、改めて学びました」ブラジル名門育成クラブの指導を体験できる「クルゼイロキャンプ」参加者募集中>>■「こんなに楽しそうにサッカーをする姿は久しぶり」と保護者も感激当時のクルゼイロキャンプでは、子どもたちが感情を表すための仕掛けとして「得点を決めた後に、ゴールパフォーマンスをしないとゴールは認められない」などのルールを設けていったそうです。「そうすると飛行機ポーズだったり、クリスティアーノ・ロナウドの真似だったり、いろいろやり始めるんですよね。そのルールがなくなって、普通に試合をした後にもやったりと、感情を表に出して、積極的にプレーし始めるようになりました」小林コーチは「子どもたちに口で言ってもすぐにはできないので、こちらが仕掛けをして、気持ちをくすぐってあげる。ブラジル人のコーチはそういうところが上手だと思います」と話します。その様子を見た保護者も「いつもは苦しそうにサッカーをしているけど、ここに来るとすごく楽しそうにプレーしている」「こんなに楽しそうにサッカーする姿は久しぶりに見た」と感激するそうです。「ただ、日本の子たちはそれを引きずってしまうというか、真剣にプレーする場面でも、雰囲気に流されて、遊び気分になってしまうことがあります。そこはコーチが気にかけながら、やるときはやるというオンとオフをはっきりするようにしています」■サッカーする上で感情を出すのが必要な理由でも日本の子たちはミスを怖がる傾向にあるので、ミドルサードでもアタッキングサードでもプレーが変わらないんです」さらに、こう続けます。「せっかくフェイントやドリブルのトレーニングをしているのに、試合になると出てこない。それもミスを恐れているからです。だから我々コーチは『サッカーにミスはつきものだ』『失敗を恐れずにチャレンジしよう』ということを、繰り返し、伝えています」「ミス=失敗、怒られる」という考えから「上手くなるためにはチャレンジが必要で、チャレンジにミスはつきもの」という考えにチェンジしていくことで、子どもたちは積極的に挑戦するマインドになります。その状況に導くためにも、トレーニングの設定やルールなどで、よりチャレンジしやすい環境を作ることが大切なのだと教えてくれました。「ブラジル人コーチは、練習のルールやメニューを工夫することで、子どもたちが積極的にチャレンジする環境を作るのが上手」と話す小林コーチ。ブラジルからはネイマールやヴィニシウス、リシャルリソンなど、あっと驚くプレーをする選手が次々に育ってきますが、その背景には彼らの思想や文化、それに基づいたトレーニングがあることは間違いないでしょう。サッカーは国民性を映すスポーツと言われますが、日本が外国から学ぶことは、まだまだたくさんありそうです。ブラジル名門育成クラブの指導を体験できる「クルゼイロキャンプ2023春」は、現在参加者募集中です。詳細はこちら>>「個の力」にフォーカス!試合で活躍するヒントを一人一人に伝えるクルゼイロサッカーキャンプ>>
2023年03月02日