●SplatoonのBGMは"伝統的なつくり"?任天堂のWii Uソフト「Splatoon(スプラトゥーン)」 は、人気を集めている新規タイトル。身の回りにも同作をやっている人は多いように感じますし、個人的にも楽しくプレイしています。最近、ブキはバケットスロッシャーをよく使っています。新ステージ「マサバ海峡大橋」は複雑なつくりですが、景色の眺めがよくてプレイしていて気持ちがよいです。先月マイナビニュースに掲載されたSplatoonのデザイン面に関する開発者インタビューには、コメントを寄せさせていただきました。ですが、この記事が公開された後、サウンドトラックの発売をはじめ、サウンド面についての気になる情報公開があいついでいます。もともとSplatoonのBGMに対するプレイヤーの注目は強く、サントラの発売を希望する声は、発売当初から聞こえていました。どうして、Splatoonの「サウンド」はここまで人気を集めているのでしょうか。今回はバトル中のBGMとシオカラ節を中心に、私なりに人気の理由を分析していきます。■筆者プロフィール作・編曲家こおろぎ1982年8月3日生まれ。宮崎県出身。ギター、ベース、キーボード等の楽器を演奏し、編曲、TV、舞台、アプリ、ゲームのBGMなどを制作。近作ではMBS ・TBSドラマ「となりの関くん」、SUBARU WRX STI 「ドライビング イメージ篇」の音楽を担当。○徹底してメロディを聴かせる伝統的なゲームサウンド「Splatoon」は主に公式Twitterアカウントから情報公開が行われているのですが、サウンドトラックCDの発売をアナウンスするツイートは1万回以上RT(リツイート)されており、待望されていた事がわかります。オリジナルサウンドトラック「スプラチューン」の発売が10月21日に決定した。価格は3200円(税抜)。大型アップデートでの追加曲や効果音を含めた全61トラックを収録した2枚組の豪華版だ。 pic.twitter.com/Q1m36NLn6R— Splatoon(スプラトゥーン) (@SplatoonJP) 2015, 8月 27SplatoonのバトルBGMについて、「今までの任天堂っぽくないハードなロックサウンド」という感想をよく聞きます。後述しますが同作のBGMはバンド編成で収録されているため、任天堂のタイトルとしてとらえると、「曲調」は確かに新鮮に聞こえます。ですが、曲の「つくり」 は伝統的なゲームサウンドを踏襲していると感じました。マリオ、ドラクエ、ファイナルファンタジーなど、1980年代から今まで遊ばれている名作のゲームタイトルは、音楽も人気です。この時代は限られた容量の中でゲームを成立させなければならなかったため、サウンドにおいても使える音数は少なかったんです。こうした状況下では、柱となるひとつのメロディと、それを支えるわずかなバックサウンドというつくり の音楽が精一杯だったのですが、シンプルだからこそメロディが記憶に残りやすかった、という面もあるかと思います。この、「柱になる1本のメロディと、それを支えるわずかな音」というつくり は、Splatoonのサウンドにも適用されています。どの曲もメロディラインは常に1本。それに寄り添う「ハモり」もほとんど入っていませんし、伴奏も動きのある音があまり入ってないので、メロディが引き立っているように感じられます。歌以外のギター、シンセのソロフレーズ部分もほとんど1本のメロディで作られています。また、メロディのパターンのくり返しが多い事も、覚えやすさ、キャッチーさにつながっていますね。以下の動画の冒頭でBGMとして流れているのが、メインテーマ「Splattack!」です。加えて、BGMがボーカルを据えた「歌モノ」なのも、覚えやすさに影響しています。例えばシンセなどの楽器が中心となっている楽曲だと、メロディがあっても人が歌えない音域やリズムになっていたりすることもあります。口ずさめるということは、記憶に残るということです。その一方で、歌詞は人間には聴き取れない「イカ語」なので、真剣にバトルをしている最中に耳を奪われ、気が散るということはありません。「イカ語」というどの言語にも属さない言葉を採用したことで、「プレイの邪魔にならないけれど、”歌モノ”として耳に残る」、という面白い効果があると思います。さらに、バトル中のBGMは「4人編成のバンド」の曲が流れているという設定がされていて、バンドメンバーのビジュアルもゲーム中に登場します。「バンド」が同時に鳴らせる音、使える音色は限られています。その制約のおかげで、アレコレと色んな音が入らず、サウンドがシンプルでわかりやすくなっていると言えるでしょう。というのも、現代はハードが進化して音数や音色の制限はなくなったことで、重層的なメロディーを採用したり、多様な音色を混ぜたりした音楽も見られるようになりました。表現の幅が広がったのは喜ばしいことである一方、複雑にしすぎると先ほど述べたような理由で、かえって聴き手の印象に残らないんです。ちなみに、8月6日の大型アップデートで数曲が追加されたのですが、それらの曲はちょっとだけ複雑なものになっています。ステージやブキもシンプルなものから先に出して後からテクニカルなものを出してきたように、BGMもそういった流れがあるようです。彼らの名前は「ABXY」。イソギンチャク女子ボーカルの独特なキャラクターとピコピコサウンドでイカ界のヒットチャートを爆進中の4人組だ。大型アップデートでバトルのBGMとして追加される「Friend List」を紹介しよう。— Splatoon(スプラトゥーン) (@SplatoonJP) 2015, 8月 5●ユーザーが”二次創作”できる音楽○ユーザーが”二次創作”できる音楽次の要素として、聴くだけでなく、ユーザー側で遊ぶ余地があるということも、同作のサウンドが親しまれている大きな要素と言えると思います。先述の通りメロディが1本だけなので曲の芯を維持しやすく、他のサウンドを大きく変化させても、元の曲がわかります。例えば、原曲に色々とアレンジが加えられたものが、ニコニコ動画などに投稿されています。ダブステップにしたり。ボサノバっぽくしたりなど、他の音楽ジャンルへ変えてみたり、あるいは劇伴風にしてみたり。(「劇伴風」のアレンジは僕が作ったものなのですが、ちょっと紹介させてください。)バトルBGMはバンドの曲なので、「コピーバンド」の要領でバンドを組んで演奏したものもあります。加えて、歌の部分は「イカ語」と言われる、人間では理解できない歌詞なのですが、聴き取れないため空耳で無理やり歌詞をつける、といった"遊び"も発生しています。特に有名なのはメインテーマ「Splattack!」のサビが「二枚貝~♪」に聴こえるというものですね。○ゲームの世界と地続きになった音作りそのほか、最初に曲のつくりをお話した際に少し触れましたが、BGMの世界観が作りこまれていることも、人気を集める要素として挙げられます。例えば、メインテーマ「Splattack!」の演奏をしているのは、イカの若者に人気の4人編成の架空のバンド「Squid Squad」。ビジュアルも用意されています。バトルのBGMは、「Squid Squad」をはじめとした、色々なバンドの楽曲が使われているという設定です。バトルのBGMはバンドサウンドである一方、1人でプレイする「ヒーローモード」のほうはデジタルなサウンドで、「タコ陣営が放送している曲」という設定があったりと、一つひとつの曲を掘り下げて楽しむことができます。●「シオカラ節」のキャッチーさの秘密○楽曲を奏でたサウンドクリエイターを公開設定とは別に、音楽を実際に演奏している「中の人」も発表されました。「Squid Squad」、「シオカラーズ」、8月のアップデートで追加された「ABXY」と「Hightide Era」の楽曲を演奏した方々の名前が明かされています。普段同作をプレイしている方が音楽の作り手を知る機会となった一方で、普段ゲームをプレイしている人とは違った層の方にも、このゲームが知られるきっかけになったのではないでしょうか。「普段アクションやシューティングはやらないけれど、Splatoonは遊べる」という声が多く聞かれるこのタイトルならではの相互効果で、異なる文化が交わるきっかけにもなりそうです。○「シオカラ節」のキャッチーさの秘密「Splatoon」のBGMの中でも、曲名をよく知られていて、人気がある曲がこの「シオカラ節」でしょう。こちらはバトル中のBGMではなく、また他のBGMと比べて少し雰囲気が違います。なぜ、「シオカラ節」はこんなに人気なのでしょうか。この曲のメロディに使われている音階は、ほぼ「ミ♭ソ♭ラ♭シ♭レ♭」 の5音のみ。ピアノの黒鍵で演奏できます。 これは「ペンタトニック・スケール」と言い、民謡やロックにもよく使われている音階。和風、民族風に聴こえ、耳なじみがあるので覚えやすいんです。「シオカラ節」はこの曲を歌うアイドル「シオカラーズ」の出身地方の民謡をアレンジした、という設定なので、この音階を使うことに納得感もあります。こういった和風な趣のあるメロディは、「VOCALOID」や「東方Project」といった二次創作主体のジャンルでも人気がありますね。この曲はメロディの変化がなめらかで歌いやすいというのも特徴です。また、少々マニアックですが、サビのふた回し目、歌詞は空耳で「ラ ミレ ジュテ」と歌われているところ(上の映像の0:57~)は、メロディは同じものをくり返しながらも「Fm7| EM7 | E♭m| Cm7-5 」という、今までついていたものとは違うひねったハーモニーがアクセントになり 、グッとくるポイントになっています。○おわりに今回の執筆にあたって、改めてSplatoonの楽曲を分析してみましたが、音楽だけでもいろいろな楽しみ方ができ、同作の世界をうかがい知ることができるなと思いました。「名作ゲームに名曲あり」。Splatoonの音楽もまた、そう感じさせてくれます。
2015年09月30日●プレイヤーキャラ「イカ」にこめられたデザイン面の"ひみつ"任天堂のWii Uソフト「Splatoon(スプラトゥーン)」。発売から1カ月ほどで世界累計販売本数が100万本を突破するなど、非常に勢いのあるスタートを切った同社の新規タイトルは、「マリオ」「ゼルダ」などの歴史あるゲームタイトルと比べると「やんちゃ」に映るキャラクターデザインや、インクの鮮やかな色選びなど、ビジュアル面にも目を惹くものがある。また、筆者自身、このゲームを始めたある知人のデザイナーから、「Wii U本体と一緒に買ってでもやるべきだ」と猛烈なプッシュを受けた。買う前に評判を調べたところ、このゲームに熱中し、日々インクにまみれた生活をしているクリエイターは結構いる、ということが分かった(そしてミイラ取りがミイラになる格好で、筆者も現在進行形でプレイしている)。そこで今回、スプラトゥーンをプレイしているデザイナーやイラストレーター、サウンドクリエイターなどの協力を受け、彼らが同作に向ける「クリエイターの視点」をヒントに、同作の"イカ"したデザインを裏打ちする設定や開発エピソードについて、任天堂 情報開発本部 制作部の野上恒氏(プロデューサー)、井上精太氏(アートディレクター)の両名からお話を伺った。※本稿では、スプラトゥーンをプレイしているデザイナーやイラストレーター、サウンドクリエイターなどの協力を受け、彼らが同作に向ける「クリエイターの視点」をヒントに、同じくプレイ中の筆者が質問を構成。適宜クリエイターからのコメントを引用しながらお届けする。――プレイヤーの操るキャラクター「インクリング」について、ゲーム開始直後に「ボーイ」と「ガール」から選ぶことになります。アメコミ風でありながらかわいい要素も含まれたデザインになっていて、その容姿に愛着を持たれているクリエイターの声もありましたが、プレイヤーキャラがこの容姿に決定した理由を教えてください。■デザイナー・27歳・男性■お気に入りのブキ:カーボンローラーかわいさを全面に押し出したキャラクターはアピールが強すぎて引いてしまう方なのだが、スプラトゥーンのキャラクターには媚びないかわいさがあって、愛着が持てる。アメコミテイストは日本では受けない傾向が強いが、それをうまくアジャストできている。特に、インクリングの目の周りが黒いのはかなりデザイン的に挑戦していると思う。井上 :インクリングの「ヒト」の時の容姿は、スケートボーダーのファッションや思想、ポーズ、表情などを参考にしています。しかし、キャラクターの容姿を単体で設定したのではなく、まずこのゲームの主題である"インクを塗る遊び"の舞台として、一番生きるシーンが「街中」であることが根幹にあります。ファンタジーな世界、言うなればマリオシリーズのような世界も試作したのですが、「不思議なところに不思議な物体(インク)が撃たれる」よりも、アスファルトなど、私たちの身の回りにあるものに対してインクを撃つほうが、ゲームの手応えとして良かったんです。そうした場所で遊ぶヒトを考えた時に自然に思い浮かぶものとして、スケートボーダーが連想されたという流れですね。――「インクリング」の「ボーイ」と「ガール」は。どちらも「男性らしさ」「女性らしさ」が極端に強くはない、中性的な印象のあるデザインですが、あえて「らしさ」を抑えた容姿にされたのでしょうか?■クリエイター集団NC帝國・デザイナー・Nasos■お気に入りのブキ:ジェットスイーパーガールの絶妙に中性的なデザインが大好きです。井上 :スケートボードやパンクロックを愛好する女性って、勝ち気な感じというか、ボーイッシュな感じの方が多いので、そういった雰囲気を参考にしています。そもそも、最初はプレイヤーキャラはガールだけで行こうと考えていましたので、デザインはガールが先に完成していたんです。野上 :ですが、やはり感情移入しようと思うと、プレイヤー自身の性別と同じものを選びたいという方もいらっしゃるのではないかというところから、ボーイのデザインを制作しました。井上 :(ガールは)イカの触腕が髪型にしっくりきているので、そのあたりを見ていただけると嬉しいですね。※触腕…イカの触手のうち、他と比べて長く伸びている2本の腕のこと。――たくさんパターンを出して、このデザインに落ち着いたのでしょうか?井上 :いえ、あまり数は出していないですね。ひとつの案を詰めていったという印象です。――前髪が眉上で短めなのがとてもかわいいですよね。井上 :ああ、前髪はイカの切り身なんですよ。――そうなんですか!?野上 :すいていない厚めの前髪のようですが、真ん中のあたりにちょっと切れ込みが入っている、イカのお刺身のイメージなんです。何せ、彼らはイカなので。よく見ると厚みがちゃんとあります。――これ(前髪)、イカの切り身だったんですね…。野上 :はい、そうなんです。Twitterで公開されていたあるファンアートの漫画を拝見していた中で、ガールが「前髪伸びてきたな~」と言ってまな板に置いて、包丁でストンと切っているという作品を描いていた方がいらっしゃったのですが、まさにそんなイメージです。井上 :よく見ると、(インクリングの)手の指もイカソーメンのかたちになっているんです。amiiboを見ていただくと分かりやすいかと思うんですけれど、断面を四角いかたちにしていまして。野上 :触手の先に切れ目を入れていって、手になったというような感じです。イラストも、指先は意識して四角く描いていますね。――ポップな画風なので、デフォルメの一環だと思っていました。野上 :わざと四角くしているんです、イカソーメンなので。――では、耳のかたちは…。野上・井上 :エンペラですね。※エンペラ…イカの耳の部分――なるほど、そのほかにヒト形態のときのイカらしさはどこかに現れているのでしょうか。野上 :足が10本、ありますね井上 :インクリングは、ボーイもガールも髪の毛が2束(2本)、そして手足が4本、さらに襟足が4本に分かれていて、それらを合計すると、実際のイカの足の数と同じ10本になるんです。野上 :イカ形態のときの足と、ヒト形態のときの襟足のデザインはあわせてあって、そこが共通しているということになっています。このことはゲームの発売前、昨年末に『スプラトゥーン』公式Twitterでお伝えしました。イカの足は全部で10本。例のイカがヒト型になった時、手足で4本、髪の毛で2本、残り4本はどこに行ったのかと思っていたら……こんなところに。ということで、これが年内最後の報告となる。来年もイカ研究所の調査報告にご期待いただきたい。 pic.twitter.com/QBsAUYjz3h— Splatoon(スプラトゥーン) (@SplatoonJP) 2014, 12月 26井上 :そのほかのポイントですと、目にはほぼハイライトを入れていません。イカの目は、ほ乳類の目とはちょっと違う見た目をしているので。――また、同作でプレイヤーが選べるのは、イカの「性別」のほか、「瞳の色」、「肌の色」とかなり限定された要素です。Wii Uでは自分の似顔絵のような感覚でMiiを作ることも可能で、他のゲームでもキャラクターの容姿をカスタマイズ可能なものもある中、姿かたちを固定した理由は?野上 :その部分については議論があったんですけどね。ですが、新しいタイトルなので、アイコンとしての認知を広げるために、キャラクターの容姿は2パターンに限定しようと決めました。あまりたくさんかたちを作ると、イメージがぶれてアイコンとしての機能が下がってしまうので。そのかわり、自分の分身として思い入れを持っていただくために、性別や肌の色などを選べるようにしました。――肌や目の色がカスタム可能になっているのは、発売当初から世界展開することへ向けたものだったのでしょうか。野上 :そうですね。日本の方だけでなく、さまざまな国の方に遊んでいただけるように制作しました。――また、同作のイカは海洋生物のイカと異なり、ステージ中にある水に触れると溺れてしまう設定で、かなり生態が異なるようです。イカ(インクリング)の基本設定について、教えてください。野上 :正直なところ、「インクリングが水に入るとおぼれる」のは、ゲームルールから来ているんですね。「決められたコースから落下するとアウトになる」というルールを定めるために、何らかの理由づけが必要だったのですが、「おぼれる」ということが、表現としてよかったんです。井上 :本当はマグマなどのほうが(アウトになるエリアとして)分かりやすいんですけれど、街中にあると不自然なので…。街中にあるものとして水が扱いやすいということになって、そこから逆に設定が固まっていきました。野上 :機能的なところから決まった事ですね。イカなんですけれど、体は液体に近いもので出来ているので、水の中にはいると溶けてなくなっちゃう、という(笑)――なるほど、インクだけに水に溶けてしまうと。野上 :そうです、インクだけに。皮膚が弱いので水につかると浸透圧でじゅっと出て行ってしまうのでしょう。●"イカ界のアイドル"シオカラーズはかつて巫女だった?――ゲームルールのお話が少し出たところで、「スプラトゥーン」のゲームシステムについても少しお聞かせください。今回聞き取りをしたクリエイターの中には、「ルールが画期的」とコメントする方や、「こういったジャンルのゲームはやったことがなかった」というような声が複数ありました。現実に存在する銃を武器として「敵を倒した数」を競うのではなく「塗った面積」を競うというルールが生まれたきっかけを教えていただけますか?■イラストレーター・agoera (29)・男性■お気に入りのブキ:スプラシューターコラボTPS(Third-Person Shooter/Shooting)はには初心者が挫けてしまうのではという先入観がありましたが、殺伐としていないポップな雰囲気で入り込みやすく、ルールはシンプルなようでいざ突き詰めていくと色々な戦い方の発見があったりと、飽きさせない要素が各所に散りばめられているのがすごいです。■アートディレクター・岩屋民穂・男性■お気に入りのブキ:プロモデラーRGTPSなど銃器を用いるゲームが戦争を主とした“殺し合い”の戦場を楽しむものだったのに対し、ポップなキャラクターとグラフィック、“陣取り”というルールを組み合わせることによって誰でも楽しめる“スポーツ”として扱った点。それでいてマニア向けなゲームを大衆向けにアレンジする際に有りがちな「運」に左右される要素を一切入れずに、プレイヤー同士の実力勝負を貫いている点がいいですね。ゲームの優位性に関わるやり込み要素が薄いので、仕事のちょっとした合間に短時間で集中して遊べるという部分も大きいかなと思います。■イラストレーター・田中寛崇 (28)・男性■お気に入りのブキ:スプラシューターコラボこれまでは互いを撃ち合いスコアを競うのが主だったTPSゲームを、インクを塗った面積で競わせるという画期的なルール設定に脱帽。■作・編曲家 ・こおろぎ (32)・男性■お気に入りのブキ:プロモデラーMGスプラトゥーンのためにWii Uも一緒に購入。はじめてゲーム機を買いました。それほどまでに、見てるだけでも楽しさが伝わってきました。僕はオンラインゲームでは人間関係が発生するのがめんどくさいなと思っているタイプなのですが、スプラトゥーンは人間関係に煩わされず、スポーツのようにスッキリと楽しむことができます。マッチングで敵味方がランダムになったり、味方にも「ナイス」など、ポジティブなメッセージしか送れません。このあたりの設計はかなり配慮を感じます。野上 :そもそも、このタイトルが「TPSを作る」というところから始まっていないんです。一番最初にプログラマが試作したプログラムが「インクを発射して陣取り合戦をする」というものだったんですね。それがおもしろかったので、商品にしようと発展させていったのが今の「スプラトゥーン」なんです。「ナワバリバトル」という名前もあとからできたものです。インクを塗って遊ぶのが楽しいという前提があって、背景をつけるならどういうところがいいだろうと考えたら、先ほど井上がお話しした通り、ファンタジーよりは現実に近い世界のほうが、いたずらっぽさが強調されていいだろうと。それなら、そこにいるヒトは、いかにもそんな遊びをするようなティーンエイジャーだろう、と。こうして積み重ねていった結果、おっしゃったような「ホンモノの銃で打ち合う世界」ではなくて、イカの若者たちが遊びでやっている、半スポーツ・半遊びみたいな雰囲気へと必然的にまとまっていきました。井上 :「インクで塗る」という行為は、ゲームで表現していることとしては規模が小さいんですね。例えば、ゲームの中であれば魔法で何かを壊すだとか、そういう表現だってできるわけです。魔法であればジャンプでかなり高いところまで行けたりすると思うですが、このイカたちは(スーパージャンプというコマンドを除いて)あまり高いところまでジャンプができない。なので、現実的な動きを気持ちよく感じてもらうため、インクで撃つということ自体が大きなアクションに見えるように設計しています。――なるほど。確かに、さまざまな種類のブキがありますが、どれも使った時の手応えが違って、かつ「最強」のものが固定されていないように感じます。野上 :ブキに関しては、本当に時間をかけて磨き上げました。インクの出方や音もブキごとにひとつひとつ変えてあったりするので、手応えが違うように感じていただけるのだと思います。「このブキが最強」だとおっしゃっているかたがいるのは認識しておりますが、いろんなブキにおいて、このブキが最強だと言っている方がいらっしゃるので(笑)、それはそれでバランスがとれているのかなと思っています。――その方にとっての最強、ということですね。ちなみにおふたりの使いやすいブキは?野上 :僕は一番よく使うのが「スプラチャージャー」です。対戦ルールやステージによって3種類くらい使い分けていますね。井上 :「N-ZAP 85」を一番よく使います。私がこのブキを使うと、バトルの結果への貢献が大きいわけではないのですが、自分が(ステージ上の自陣における)ラインを守ったとか、センサーで味方を助けたとか、そういったところが実感できるのが面白いと思います。野上 :最終的なスコアとか、敵を何回倒したかという「数字になる」貢献ももちろん大切なんですが、自分自身が戦いの中で味方にこれだけ貢献できたという感覚を持てるのが一番大事なことだと思っています。強い弱い、だけではなくて、そういう感覚を持てるブキを使っていただくのもいいのかなと思っています。――話がキャラクターの方へと戻るのですが、先ほど「インクリングの見た目を限定した」とおっしゃった一方、同じ種族の中で容姿の違うキャラクターとして、アイドルのシオカラーズ(アオリ、ホタル)がいます。プレイヤーには熱烈なファンが多く、広場には彼女たちのイラストを描いたイラスト(Miiverse)も投稿されていますが、彼女たちを登場させた理由は何だったのでしょうか?■美容師(22)・女性■お気に入りのブキ:.52ガロンとにかくキャラもかわいくて、ゲームをしていなくてもキャラに見惚れてしまう時があります。シオカラーズはもう、可愛すぎます!!アオリちゃんに返すホタルちゃんの言葉が面白くていつも微笑んじゃいます!井上 :「ごはんとパン、どちらが好き?」など、特定のお題をもとにふたつの陣営に分かれて戦う「フェス」というイベントをやりたかったのが大本にあります。ゲームの外に広がって行くようなイベントをやりたかったんです。それを先導するというか、象徴するヒトとして、対になるふたりのキャラクターを考えました。野上 :シオカラーズは、今の形になる前は「チアリーダー」や「巫女」というイメージを持っていたんです。「カミさまからお告げを受けて代弁するヒト」という役割なので。でも、巫女ってカタいよねという話になって、この世界ならアイドルが合うだろう、と。――シオカラーズの容姿や性格はどういったイメージから構想を広げていかれたのですか?井上 :シオカラーズの雰囲気は、ローティーンという設定のインクリングが親近感や憧れを抱ける、デビューしたてのアイドルというようなものにしました。野上 :地方テレビに出始めたころのゆるい雰囲気をイメージしています。井上 :たとえるなら、埼玉や神奈川であれば全員知っているアイドル、みたいな。野上 :「ハイカラニュース」はハイカラシティのローカル放送というイメージなので。あの街ではすごい有名人だけれども、まだ全国区には行っていないかもしれないですね。井上 :深夜番組にもそういったところがあると思うんですが、勢いがあって、ちょっとだらけてやっていても、それがいいよねと言われているくらいの雰囲気にしました。そのくらいの方が見ていて面白いなというのがあったので。――たしかに、シオカラーズがステージ発表をする時のかけあいも、やりとりが何というか…野上 :適当ですよね。―― (笑) いわゆる「ゴールデンタイム」風ではない、インディーズのゆるい良さがありますね。野上 :また、シオカラーズが「イカ、よろしく~」のポーズをする時には手が強調されますが、あの場面を見ていただくと、先ほど申し上げた「イカソーメン」、指先が四角くなっているのが分かりやすいと思います。――巫女というコンセプトはアイドルに置き換わりましたが、不思議な「カミさま」はゲーム中に登場します。「カミさま」は何かわれわれの知っている家電に近いように見えるのですが…?野上 :どこかで見たことあるような形ですよね。井上 :イカたちが暮らしている1万2000年後の世界に、これまでのフェスのお題になった「午後の紅茶」や「赤いきつね」と「緑のたぬき」はないんですけれど、今の世界で発信した電波がゆっくりと跳ね返ってきて、6000光年くらい向こうに行ってから、跳ね返ってきて受信したみたいなイメージです。野上 :ボイジャーみたいな探査機のなかに発信器が積まれていて、地球からはどんどん遠ざかって行っているんですけど、そこからちょっとずつ電波が飛んできて、「ミルクティーとレモンティー、どっちが好き?」みたいな、しょうもない質問が送られてくる。イカたちはよくわかってないけれど、聞かれたからには何となく答えておこう…みたいな感じで、フェスに参加しているんだと思います。後編では、スプラトゥーンにおける「ファッション」、そして魅力的なサブキャラクターのひみつに迫っていく。(c)2015 Nintendo
2015年08月05日