ロシア映画『チェルノブイリ1986』を予定通り5月6日(金)より全国にて公開することを、日本配給の株式会社ツインが発表。戦争反対を表明している製作・監督・主演ダニーラ・コズロフスキーのInstagramのコメント日本語訳が到着した。ツインでは、「ロシアによるウクライナ侵攻状況を鑑みますと、ロシア映画である本作の公開は控えるべきというご意見もあるかと思います。しかし製作・監督・主演のダニーラ・コズロフスキーは、自身のインスタグラムで明確に戦争反対を表明しています。又プロデューサーのアレクサンドル・ロドニャンスキー(『裁かれるは善人のみ』『ラブレス』)はウクライナ人であり同国を代表するプロデューサーで、先般ロシア当局からウクナイナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領と共に“ペルソナ・ノン・グラータ”(好ましからざる人物)に認定され、過去の全プロデュース作品に対してロシアでの公開禁止処分を受けました」と、本作の製作陣はロシア政府とは真逆の立場であることを明言。「戦争反対を表明し一日も早く平和が訪れることを願う、ロシア、ウクライナを代表する映画人によって製作された本作の公開を通じ、世界を震撼させた大事故のなかで必死に生きようとした人々の姿を知り、平穏に暮らせる日々の尊さを再認識する一助となることを願っています。なお、本作は、1986年4月、当時ソビエト連邦だったウクライナのプリピャチで起きたチェルノブイリ原子力発電所の爆発事故で、未曾有の事態に命を懸けて挑んだ消防士の姿を描いた人間ドラマです。原発事故による悲劇が繰り返されないことに祈りを込めて製作された作品として、事故の記憶を風化させないためにも、予定通り公開することに致しました」と改めて示し、「本作の興行で得た収益の一部をユニセフなどウクライナの方々への人道支援活動を行う団体に寄付いたします」と明かした。主演/監督/製作ダニーラ・コズロフスキー2月27日Instagramより今起こっていることは、大惨事だ。全ての意味においての大惨事、すなわち人間的、人道的、政治的、経済的といった、あらゆる意味において、である。僕は心の底から自分の国を愛している。そして真の愛国主義とは、自分が本当に感じ経験している真実を語る断固たる姿勢だと常に考えている。僕自身が深く失望していることだが、自分はこの資質を常に発揮してきたとは言い難い。だが今この瞬間は語らなければならない。あの後戻りできない地点を、僕たちは文字通り戦車で通過しつつあるのだ。今このことを僕が書いているのは、煽り目的でも攻撃を更に炎上させるためなんかでもない。ただ本当に痛みを感じるからなんだ。今や常套句となった例の質問をする人たちもいるだろうー「じゃあお前はこの8年間、どこにいたんだ?」って。それに対してはすぐに質問を返したくなるー「そういう君たちはどこにいたんだ?」って。でも質問に対して質問で答えるのは失礼だから、違う回答をしよう。「分からない」と。何も見てこなかったし、理解していなかった。または見たり理解することを望んでいなかった…無関心だった、と。あらゆる手段を用いて理性と平和を訴えるべきだった時、僕が関心を持っていたのはただ自分の人生のみだった。無邪気に考えていたんだ。これらの全ては終わり、あちらでは上層部が必ずや話し合いで合意するだろうって。だってその座には賢い人たちが就いているのだから。戦争は起こさせないだろう、って。でもそれは起きてしまった。恐ろしい。苦しい。耐え難いほどに悲しい。そして恥ずかしい。自分自身をも含めて。この数年間における自分の沈黙と無関心が、恥ずかしい。でも暴力を用いて平和をもたらすなんてことは、果たして可能なのか?暴力は更なる暴力を生み出すだけだ。コロナウィルスや様々な紛争によって衰え神経質(ナーバス)になった21世紀において、このような問題を兄弟民族に対する「軍事作戦」なんかで果たして解決できるのだろうか?何故多くの人々の予測が外れたのだろうか?それは、こんなことは全く想像すらできなかったからだ。ハリコフやキエフ、その他の美しい街の名前が軍事記録の中で見られるようになるとは。そしてウクライナの友人たちが電話で呆然と問いかける「どうして?」に対し、僕たちは何か曖昧な内容を口ごもることになるとは、想像できなかった。いま僕たちは全員ひとり残らず傷を受けている。何故なら、僕たちの世界を覆う呪いや憎しみ、非難は自分たち自身から生じるもので、あらゆる戦争がもたらすものだからだ。兵士や民間人が亡くなり、ミサイルが住宅を攻撃している。たとえ政治に通じていなくても、これにはいかなる正当性もないことははっきり分かる。尊敬すべき大統領、直接呼びかける無礼をお許しください。ですが、この恐ろしい不幸を止められる力があるのは貴方だけなのです。僕たちは、ある高官が表現しているような「反対者の国民」なんかではなく、世界の中で何よりもただ平和と平穏のみを愛し願う自国民なのです。僕の名はダニーラ・コズロフスキーで、戦争に反対しています。このことを、ただ自分の名において心から述べています。『チェルノブイリ1986』は5月6日(金)より新宿ピカデリーほか全国にて公開。(text:cinemacafe.net)■関連作品:チェルノブイリ1986 2022年5月6日より新宿ピカデリーほか全国にて公開(C)«Non-stop Production» LLC, (C)«Central Partnership» LLC, (C)«GPM KIT» LLC, 2020. All Rights Reserved.
2022年04月07日1986年4月、チェルノブイリ原子力発電所の爆発事故で、未曾有の事態に命を懸けて挑んだ消防士の姿を描いた映画『チェルノブイリ1986』が予定通り5月6日(金)に全国公開されることが発表された。この作品はロシア人のダニーラ・コズロフスキーが製作・監督・主演を務め、ウクライナ人で、同国を代表するプロデューサーであるアレクサンドル・ロドニャンスキーがプロデュースしている。若き消防士アレクセイは、元恋人オリガと10年ぶりに再会を果たし、彼女とともに新たな人生を歩みたいと願っていた。ところが地元のチェルノブイリ原発で爆発事故が起こり、それまでの穏やかな日常が一変。事故対策本部の会議に出席したアレクセイは、深刻な水蒸気爆発の危機が迫っていることを知らされる。もしも溶け出した核燃料が真下の貯水タンクに達すれば、ヨーロッパ全土が汚染されるほどの大量の放射性物質がまきちらされてしまう。愛する人のためタンクの排水弁を手動でこじ開ける決死隊に志願したアレクセイだったが行く手には、想像を絶する苦難が待ち受けていた……。コズロフスキーは、自身のインスタグラムで明確に戦争反対を表明。また、同映画の配給を行っている株式会社ツインは公開にあたり、「戦争を行っている国家としてのロシアではなく、戦争反対を表明し一日も早く平和が訪れることを願う、ロシア、ウクライナを代表する映画人によって製作された本作の公開を通じ、世界を震撼させた大事故のなかで必死に生きようとした人々の姿を知り、平穏に暮らせる日々の尊さを再認識する一助となることを願っています。」とコメントを寄せた。本作の興行で得た収益の一部をユニセフなどウクライナの方々への人道支援活動を行う団体に寄付されるという。<主演 / 監督 / 製作 ダニーラ・コズロフスキー2/27 Instagram より>今起こっていることは、大惨事だ。全ての意味においての大惨事、すなわち人間的、人道的、政治的、経済的といった、あらゆる意味において、である。僕は心の底から自分の国を愛している。そして真の愛国主義とは、自分が本当に感じ経験している真実を語る断固たる姿勢だと常に考えている。僕自身が深く失望していることだが、自分はこの資質を常に発揮してきたとは言い難い。だが今この瞬間は語らなければならない。あの後戻りできない地点を、僕たちは文字通り戦車で通過しつつあるのだ。今このことを僕が書いているのは、煽り目的でも攻撃を更に炎上させるためなんかでもない。ただ本当に痛みを感じるからなんだ。今や常套句となった例の質問をする人たちもいるだろう―「じゃあお前はこの8年間、どこにいたんだ?」って。それに対してはすぐに質問を返したくなる―「そういう君たちはどこにいたんだ?」って。でも質問に対して質問で答えるのは失礼だから、違う回答をしよう。「分からない」と。何も見てこなかったし、理解していなかった。または見たり理解することを望んでいなかった…無関心だった、と。あらゆる手段を用いて理性と平和を訴えるべきだった時、僕が関心を持っていたのはただ自分の人生のみだった。無邪気に考えていたんだ。これらの全ては終わり、あちらでは上層部が必ずや話し合いで合意するだろうって。だってその座には賢い人たちが就いているのだから。戦争は起こさせないだろう、って。でもそれは起きてしまった。恐ろしい。苦しい。耐え難いほどに悲しい。そして恥ずかしい。自分自身をも含めて。この数年間における自分の沈黙と無関心が、恥ずかしい。でも暴力を用いて平和をもたらすなんてことは、果たして可能なのか?暴力は更なる暴力を生み出すだけだ。コロナウィルスや様々な紛争によって衰え神経質(ナーバス)になった21世紀において、このような問題を兄弟民族に対する「軍事作戦」なんかで果たして解決できるのだろうか?何故多くの人々の予測が外れたのだろうか?それは、こんなことは全く想像すらできなかったからだ。ハリコフやキエフ、その他の美しい街の名前が軍事記録の中で見られるようになるとは。そしてウクライナの友人たちが電話で呆然と問いかける「どうして?」に対し、僕たちは何か曖昧な内容を口ごもることになるとは、想像できなかった。いま僕たちは全員ひとり残らず傷を受けている。何故なら、僕たちの世界を覆う呪いや憎しみ、非難は自分たち自身から生じるもので、あらゆる戦争がもたらすものだからだ。兵士や民間人が亡くなり、ミサイルが住宅を攻撃している。たとえ政治に通じていなくても、これにはいかなる正当性もないことははっきり分かる。尊敬すべき大統領、直接呼びかける無礼をお許しください。ですが、この恐ろしい不幸を止められる力があるのは貴方だけなのです。僕たちは、ある高官が表現しているような「反対者の国民」なんかではなく、世界の中で何よりもただ平和と平穏のみを愛し願う自国民なのです。僕の名はダニーラ・コズロフスキーで、戦争に反対しています。このことを、ただ自分の名において心から述べています。<製作:アレクサンドル・ロドニャンスキー2/25Instagramより>2月24日の早朝、成人した息子がキエフから電話をかけてきて、衝撃と落胆のこもった声で話した。「始まったよ...」と言いながら、ミサイルの音を聞かせてくれた時は、信じられなかった。もちろん、こういう事態になるかもしれないということは事前に分かってはいたが、それでもキエフでミサイルが炸裂しているなんて…。私の生まれ故郷であり、親戚や友人、同僚が住み、両親や祖父母が眠るキエフが、私がこの20年間、家族や友人とともに暮らし、仕事をしてきた国のミサイルに襲われるとは想像もできなかった。私は生まれてからずっとロシア語を話している。そして、今でも信じられない。(ウクライナのパスポートを持っているため)私はロシアの大統領選に投票はできないが、耐え難い恥ずかしさを感じている。また信じられないほど深い悲しみに包まれている。昨日初めて衝撃を受けた後、私は自分のInstagramに、戦争の最中に目覚めたすべての人々のために、喪に服すと書いた。しかし今日、ウクライナ人はこの事態を乗り越えることができると私は知っている。優しく勇敢な人々は、この戦争を乗り越えていくだろう。なぜなら彼らは祖国のために戦っているからだ。多くのロシア人、賢くて繊細な人々が、心の底から震えていることを私は知っている。彼らは恥だとすら感じている。戦争に言い訳はない。戦争を起こした人々が何を主張しようとも。私は、ソ連政府がアフガン戦争の絶対的な必要性をどのように説明したかをよく覚えている。そして、それが悲劇的な間違いであったと認めるまでに、10年の歳月と1万5千人のソ連兵、100万人近いアフガニスタン人の犠牲を要したことも記憶している。今日、ベトナム、イラク、アフガニスタンでの自国の戦争に言い訳を見いだせるアメリカ人はほとんどいない。そして、この戦争も悲劇的な間違いである。国民経済が破綻し、わが国が世界で孤立し停滞し、技術格差が拡大し続けるからではない。この間違いに対する恥は決して消えないからだ。それは私たちの子供たち、そして孫たちにまで残り続ける。私たちは黙っているわけにはいかない。戦争にNOを。『チェルノブイリ1986』5月6日(金)全国公開
2022年04月07日チェルノブイリ原子力発電所で起きた人類史上最悪の原発事故を、当事国だったロシア映画界が映像化した映画『チェルノブイリ1986』。「その日、世界が変わった」驚愕の予告編が解禁された。1986年4月26日、ウクライナ・ソビエト連邦プリピャチのチェルノブイリ原子力発電所で起きた爆発事故。この未曾有の大惨事は、のちにソ連が崩壊した一因になったともいわれ、数多くのドキュメンタリーや劇映画、海外ドラマなどが作られた。本作は、ロシア映画界が政府や国営原子力企業の協力を得て、ほかとは全く違った視点で描いた作品。人々の日常生活や生命をどれほど脅かし、彼らの人生に壊滅的な影響を与えたのか。事故発生当時、現地で撮影した経験を持つプロデューサーが、爆発直後に現場に急行した消防士たちの苦闘や避難民たちの混乱ぶりなどを、一般市民の視点から映し出したヒューマン・スペクタクル巨編。解禁となった予告編は、1986年4月26日午前1時23分にチェルノブイリ原子力発電所が事故を起こした瞬間からはじまる。かつてこの町は原発の恩恵を受け人々は豊かに暮らしていた。若き消防士のアレクセイは、元恋人のオリガと10年繰りに再会し「家族になろう」と誓う。しかし、原子炉が爆発したという知らせを受け事故現場に駆けつけると、そこは地獄のような惨劇だった。地元の消防隊員だったアレクセイは、事故対策本部の会議に出席するが、「このままだと水蒸気爆発が起きて、放射能物質が噴き出す。そうなればこの国はおろか、ヨーロッパが終わる」という危機的状況を教えられる。その時オリガは、何が起きているか知らされぬまま、被爆してしまった息子を抱えバスに乗っていた。やっとアレクセイと会うことができたが、不安な気持ちが爆発し激しく責めてしまう。そんなオリガを優しく抱きしめるアレクセイ。再び「帰ってきたら海の見える家で暮らそう」と約束すると、2次爆発を阻止するため発電所に向かってしまう…。その後の彼らの行く末を予感させる驚愕の予告編となっている。『チェルノブイリ1986』は5月6日(金)より新宿ピカデリーほか全国にて公開。(text:cinemacafe.net)■関連作品:チェルノブイリ1986 2022年5月6日より新宿ピカデリーほか全国にて公開(C)«Non-stop Production» LLC, (C)«Central Partnership» LLC, (C)«GPM KIT» LLC, 2020. All Rights Reserved.
2022年02月02日第71回エミー賞でリミテッドシリーズ部門作品賞、監督賞、脚本賞ほか計10冠を獲得した、話題の海外ドラマ「チェルノブイリ」。9月にBS10スターチャンネルで放送がスタートするや、回を重ねるごとに、思わず目を背けたくなる、見るも“しんどい”展開の連続でありながら、日本人として無視することのできない大惨事の裏側にSNS上は騒然となっている。この「チェルノブイリ」のような、1話あたり長くても1時間前後、全3~10話ほどのリミテッド(ミニ)シリーズのドラマは、近年ハズレなしといっていい。約2時間の映画では描き足りない深掘りしたテーマとメッセージを盛り込みつつ、20話近い通常のTVシリーズとはまた異なる濃密さを味わえることから、「ファーゴ」や「アメリカン・ホラー・ストーリー」「TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ」などを例に出すまでもなく映画界のスターやクリエイターが続々と参入している。また、話数の少なさから、見たいものをなかなか絞り切れない配信ドラマの“入り口”にもなりやすく、1シーズンで完結するというゴールが示されている点でも気軽さがある。そこで、この秋絶対に見ておきたいリミテッドシリーズ3作品に注目した。ある意味、ホラーよりも恐ろしい…「チェルノブイリ」1986年4月26日午前1時23分、旧ソ連(現ウクライナ)のチェルノブイリ原子力発電所で起きた爆発事故を、入念なリサーチを基に再現した実録ドラマ。これまで地球が経験してこなかった未曾有の原発事故が発生した後、建前の数字で実態をごまかし、隠蔽しようとした旧ソ連政府と、被害・影響を把握し、その拡大を少しでも抑えようとした科学者や技術者、消防士などの姿を、まるでこちらが追体験しているかのようにリアルに描いていく。現在では鋼鉄のシェルターに覆われ、観光地と化しているチェルノブイリ。いままでもドキュメンタリー映画や劇映画は公開されてきたが、「ゲーム・オブ・スローンズ」の米HBOのもと製作された今作は、どんなパニックスリラーよりも緊迫感と絶望感に支配されている。事故発生直後、閃光に数秒遅れて民家に届く爆音。オレンジ色の炎からひと筋、天に向かって立ち上るのは異様なまでの青い炎。しかし、原発内では事態を掌握できず、判断力、統率系統は混乱し、あまりにも無防備な作業員たちが次々と被爆していく。一報を受け、深夜休んでいた消防士たちもかり出され、消火活動に当たる。もちろん防護服など身につけていない。落ちていた黒鉛に触れたある消防士は、すぐさま動けない状態になってしまう。そして、原発から上がる炎をまるで花火でも見るかのように見物する近隣住民たちの上に(子どもや赤ちゃんにも)、死の灰が降り注ぐ。なのに、「事態は制御下にあります」と言い放つ所長。測定できる線量計はMAXで振り切れてしまっている。だが、事実ではない報告が上へと伝わり、ついにはゴルバチョフ書記長の耳に。この日、原子炉の運転実験を指揮しながら、冷静さを失ったかのように「タンクが爆発しただけ」と言い張っていた副技師長は、自身が倒れ所内から一歩外に出てようやく、とんでもない事態が起きていることに気づくのだ。海外ドラマでよく見かける顔ぶれが揃う中、この原発事故の調査と事後処理に挑むのは、数々の舞台や映画で鳴らした名優たちだ。放送に先駆けて解禁された10分の冒頭映像でまさかの選択をする調査委員会の責任者、核物理学者ヴァレリー・レガソフを、『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』のモリアーティ役で知られるジャレッド・ハリス。ゴルバチョフ書記長に現場対応を任された旧ソ連閣僚会議副議長ボリス・シチェルビナに、『アベンジャーズ』シリーズにも出演する北欧俳優一家の父、ステラン・スカルスガルド。そして事故の真相解明に奔走する核物理学者ウラナ・ホミュックに、『奇跡の海』や『博士と彼女のセオリー』のエミリー・ワトソン。さらに、『ダンケルク』『聖なる鹿殺し』のバリー・コーガンをはじめ、市井の人々を演じたゲスト出演者たちもそれぞれが強い印象を放っている。製作総指揮・脚本は、『ハングオーバー』シリーズや『最凶絶叫計画』シリーズとコメディ作品を数多く手掛けてきたクレイグ・メイジン。そして、スウェーデン出身で「ブレイキング・バッド」の伝説的エピソードや、マドンナ、デヴィッド・ボウイなどのミュージックビデオを手掛けてきたヨハン・レンクが監督をつとめ、全く救いのない現場に立つ様々な人間の内面を見つめながら、多彩な視点で観る者をぐいぐいと引き込ませていく。廃炉となったリトアニアの原発でロケを敢行したリアリティもあってか、“目には見えない”はずの放射能が見えてくるような気さえしてくる。旧ソ連は社会主義国家とはいえ、地球規模の核災害など起きていないという“建前”をふりかざす上層部の対応の様子は、何やらどこかで見たような…。東日本大震災による福島第一原発事故の処理が現在進行形だからこそ、私たち日本人にとっても重要なドラマであることは確か。見るのがつらい、という人もいるかもしれない。それでも、事態の悪化を食い止めようと命をかけて行動し、風化させてはならないと覚悟を決めた人間がたどり着いた境地と、それに伴ったあまりにも大きな犠牲を、どうか受けとめてみてほしい。※1話63~76分×全5話スターチャンネルにて放送中/Amazon Prime Video スターチャンネルEXにて配信中人生を奪われた冤罪の少年たち…「ボクらを見る目」今作は、全米を震撼させた実際の悪名高き冤罪事件「セントラルパーク・ジョガー事件」を、黒人女性監督として初めてアカデミー賞作品賞にノミネートされた『グローリー/明日への行進』のエヴァ・デュヴァネイが手掛けたNetflixのリミテッドシリーズ。今年5月31日より190か国で配信されると、アメリカでは原題の「#WhenTheySeeUs」がTwitterのトレンド入り。また、Netflixの発表によれば、アメリカでの1日あたりの視聴回数の最高記録を達成したという。確かに、人生を奪われた少年たちが経験した理不尽さへの憤りや絶望、そして現在のアメリカへの痛烈な批判はNetflixのシリーズの中で過去最高級のクオリティと完成度かもしれない。1989年4月16日、ニューヨークのセントラルパークをジョギングしていた白人の女性がレイプされ、頭部を殴打され瀕死の重傷を負った事件が起きる。そのとき、たまたま友人に誘われて、あるいは単なる好奇心からセントラルパークに集まっていた黒人やラテン系の少年たち、ユセフ、ケヴィン、アントロン、レイモンド、コーリー。いずれもハーレム出身で、ユセフとコーリーは友人同士だったが、2人以外は顔見知りですらなかった。やがて事件が発覚すると、当時14歳から16歳だった少年たちは保護者や弁護士の付き添いもなく、水や食事も与えられないまま、警察の“シナリオ”ありきの圧迫的な誘導尋問により自白を強要されてしまう。裁判ではそれぞれ身の潔白を主張するも、現場から見つかったDNAが5人の誰とも一致しなかったにも関わらず、有罪判決が下され、彼らは収監。メディアは5人を「セントラルパーク・ファイブ」と名付けて晒し者にした。事件の発生と警察署での1話から、胸が締めつけられるような裁判所の2話、3話&4話では鑑別所での日々や、大人になり服役を終えた彼らの様子、さらに真犯人が罪を告白し、真相が明らかになるまでが丁寧に描かれていく。見事な起承転結。たった一夜で激変した少年たちと、その家族の境遇と心情に徹底して寄り添っていく。しかも、この冤罪事件が犯罪率の高かったニューヨークにさらなる影を落とす中、新聞4紙に“少年たちを裁くため”に「死刑制度を復活させろ」と大々的な広告を打ったのが、誰あろう、当時ニューヨークの不動産王だったアメリカ大統領ドナルド・トランプだ。当時からメディアを通じてヘイトをまき散らす姿が、ドラマの中ではっきりと映し出されている。そんな今作は、上記の「チェルノブイリ」と第71回エミー賞でリミテッドシリーズ部門の各賞を争ったことが記憶に新しい。結果的には「チェルノブイリ」圧勝だったものの、ジャレッド・ハリスやヒュー・グラント、さらにマハーシャラ・アリ、サム・ロックウェル、ベニチオ・デル・トロといったオスカー俳優たちを差し置いて主演男優賞に選ばれたのが、なんとコーリー役の少年時代から大人時代までを演じたジャレル・ジェローム。2016年の映画『ムーンライト』で、高校生の主人公が想いを寄せる相手役を演じて注目されたジャレル。彼が演じたコーリーだけは、当時16歳だったため少年法では裁かれず、たったひとり成人用の刑務所に送られ、最も長い刑期を過ごすことになった。受刑者からはリンチに遭い、刑務官からもいじめに遭い、独房に入れられた。「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」でも触れられていたように、こうした刑務所には潤沢な予算などなく、環境は劣悪だ。クーラーも壊れてしまった灼熱の独房で、次第に精神に異常を来していくコーリーが、“あの日セントラルパークへは行かなかった、もう一人の自分”に思いを馳せるシーンは涙なしでは見られない。このコーリーをはじめとする5人を、デュヴァネイ監督は新たに“無実の罪を晴らした(Exonerated)ファイブ”と呼んでいる。2002年に無実が証明された彼らは、2014年、実刑を下したニューヨーク市とも全面和解。実際の本人たちも映し出されるが、壮絶な体験をし、人生の一部を奪われたはずの彼らがみな、穏やかな表情をしているのが印象的だ。製作総指揮のひとり、オプラ・ウィンフリーによる「今、ボクらを見る目」では製作の裏側や本人たちの素顔も目にすることができる。ちなみに、無実の彼らを訴追した張本人の女性検事は、引退して小説家となっていたが、ドラマ配信後にSNSで大バッシングされ、出版社からは契約打ち切り、被害者支援のNPO団体を辞めている。演じているのが、子どもの裏口入学で逮捕された「デスパレートな妻たち」のフェリシティ・ハフマンというオチつき。※1話64~88分×全4話Netflixにて配信中性被害者が救われるたった1つの瞬間とは…「アンビリーバブル たった1つの真実」もう1本、今年の必見案件といえるのが「アンビリーバブル たった1つの真実」。現地時間10月16日に発表されたNetflix2019年度第3四半期決算で、配信開始から28日間で6,400万世帯に視聴される新記録をつくった「ストレンジャー・シングス 未知の世界3」と並ぶオリジナル作品のヒット作として挙げられ、いま注目を集めている。配信開始から28日間で3,200万世帯が視聴したという。これは今作が、連続レイプ犯を追う女性刑事コンビとその被害者であり、セカンドレイプにさらされた少女を主人公にした実録ドラマであることを考えると、かなり画期的なことだろう。ピューリッツァー賞を受賞したT・クリスチャン・ミラーとケン・アームストロングによる記事「An Unbelievable Story of Rape」(原題)と、ラジオ番組「This American Life」(原題)で取り上げられた実話から生まれたドラマは、性被害のトラウマと真の意味での救済と回復をつぶさに描き出している。「性的暴力の描写が含まれるため、ご自身の判断の上でご視聴ください」と、「13の理由」のように注意喚起から始まる今作。ワシントン州、里親を転々とし、いまは青少年保護施設に暮らす10代のマリー・アドラーは、2008年8月11日、窓から侵入してきた何者かにレイプされ、警察に届け出る。しかし、フラッシュバックに襲われ気が動転するマリーの話と、犯人の指紋跡が部屋に見当たらないことから、ベテラン担当刑事はマリーの“でっち上げ”ではないかと疑いはじめ、かつての養母や友人、カウンセラーも彼女に不信感を抱いていく。時は流れて2011年のコロラド州。何百キロも離れた場所で侵入者によるレイプ事件をそれぞれ追っていたカレン・デュヴァル刑事とグレース・ラスムッセン刑事は、あまりに手口が似通っていることから同一犯の犯行とみて合同捜査を開始するのだが…。「ビッグ・リトル・ライズ」などでも記憶に新しいが、なぜ、被害者である彼女たちが何重もの苦しみに直面しなければならないのか。マリーは最初に駆けつけた若い警察官と、後から到着した中年の担当刑事(どちらも男性)に同じ話を繰り返さなければならず、病院での検査も屈辱的といえるほど。“なぜ信じてくれないの。もうどうでもいい、どうにでもなれ”、そんな彼女の心の声が頑なな表情から聞こえてくる。そんな彼女にとっての救いは、犯人逮捕だけではなく、閉ざして冷めきった心に再び光がともることなのだ。このマリーという難役を熱演したケイトリン・デヴァーは、ブリー・ラーソン主演の映画『ショート・ターム』でも父親から性的虐待を受ける少女を演じており、キャスリン・ビグロー監督『デトロイト』では「ゲーム・オブ・スローンズ」のハンナ・マリーと暴動に巻き込まれる少女、『ビューティフル・ボーイ』ではティモシー・シャラメと薬物に溺れていく少女など、壮絶な役柄ばかり。「ヴァラエティ誌が選ぶ注目の10人の俳優」に選ばれるほどの演技力があるからこそだが、そろそろ幸せになって欲しい(?)と日頃から思っていただけに、2020年に待ち受けるだろうブレイクを喜んで見守りたいところ。次回作は、女優オリヴィア・ワイルドが初監督した映画『Booksmart』(原題)で、ジョナ・ヒルの実妹で『レディ・バード』のビーニー・フェルドスタインと共演している。一方、女性刑事グレース役を演じるのは『へレディタリー/継承』のトニ・コレット、そしてカレン役は『マーウェン』「ウォーキング・デッド」のメリット・ウェヴァー。トニは「ユナイテッド・ステイツ・オブ・タラ」、メリットは「ナース・ジャッキー」「ゴッドレス -神の消えた町-」でエミー賞を受賞している言わずと知れた実力派。2人はホラーやコメディのイメージを捨て去り、卑劣な連続レイプ犯を信念で追い続ける女性刑事をときに痛快に、ときに繊細に演じており、絶妙な距離感を保つバディぶりが深刻なストーリーにユーモアをもたらしてくれる。さらにショーランナーが、『エリン・ブロコビッチ』や『イン・ハー・シューズ』「アニタ~世紀のセクハラ事件~」などのスザンナ・グラントと、『キッズ・オールライト』やフランシス・マクドーマンド主演「オリーヴ・キタリッジ」(これも傑作)のリサ・チョロデンコとあって、グレース&カレンの女性刑事2人と、マリーをはじめとする被害女性たちとの力強いシスターフッドには勇気をもらえるはずだ。※1話45~58分×全8話Netflixにて配信中いずれも、人間の弱さと強さを真摯にすくい上げた見応えのある社会派ドラマで、つらいけれども続きが気になるものばかり。この3作は、映画賞とともに発表される来年1月のゴールデン・グローブ賞(テレビの部)でも大きな話題を呼ぶに違いない。(text:Reiko Uehara)■関連作品:【Netflix映画】ブライト 2017年12月22日よりNetflixにて全世界同時オンラインストリーミング【Netflix映画】マッドバウンド 哀しき友情 2017年11月17日よりNetflixにて全世界同時配信【Netflixオリジナルドラマ】オルタード・カーボン 2018年2月2日より全世界同時オンラインストリーミング2月2日(金)より全世界同時オンラインストリーミング
2019年10月31日アメリカの実録ドラマ『チェルノブイリ』が、第71回エミー賞でリミテッドシリーズ部門作品賞を獲得したことが分かった。本作は、1986年4月26日、旧ソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)のチェルノブイリ原子力発電所で起きた爆発事故の真実に迫るもの。未曾有の原発事故の発生に、冷戦下の旧ソビエト政府が事態を隠ぺいしようとする中、被害の拡大を少しでも抑えようと必死に戦った英雄たちの姿を描く。旧ソビエト政府に調査を委任された科学者をジャレッド・ハリス、ゴルバチョフ書記長から現場の対応を任された副議長にステラン・スカルスガルド、事故の真相解明に奔走する核物理学者をエミリー・ワトソンが演じる。ハリウッドで活躍する3人の実力派キャストが、物語の中心人物たちを重厚に熱演。製作は『ゲーム・オブ・スローンズ』のHBO、監督は『ウォーキング・デッド』や『ブレイキング・バッド』のエピソード監督を担当したヨハン・レンクという布陣で、廃炉となったリトアニアの原子力発電所でロケを敢行している。そんな本作が、アメリカのドラマなどTV番組に関連する業績に与えられる“エミー賞”で、リミテッド・シリーズとしては今年最多受賞となる10部門で受賞を果たした。受賞内容は、作品賞、監督賞(ヨハン・レンク)、脚本賞(クレイグ・メイジン)、撮影賞、 美術賞、 オリジナル楽曲賞ほか計10部門となっている。『チェルノブイリ』は、BS10 スターチャンネルにて、9月25日(水)よる11時より第1話が無料放送される。また、話題となっていた『ゲーム・オブ・スローンズ 最終章』 は、 4シーズン連続の作品賞受賞や、 ピーター・ディンクレイジの4度目の助演男優賞、 そして歴代最多ともなるドラマシリーズ計12部門受賞を獲得し、シリーズの有終の美を飾った。『チェルノブイリ』BS10 スターチャンネル 9月25日(水)よる11時より第1話無料放送
2019年09月24日世界中で今最も熱い話題となっている実録ドラマ『チェルノブイリ』。この度、本作の冒頭10分間のノーカット映像が公開された。今年5月より米国や英国で放送されるやいなや、その衝撃的なテーマと、作品としての完成度の高さに大絶賛が巻き起こった本作。本年度エミー賞でも作品賞、監督賞、主演・助演の主要各賞をはじめ19ノミネートを果たし、まさに“本年度最大の話題作”となっている作品だ。映画専門サービスの“BS10スターチャンネル”にて、9月25日(水)より“独占日本初放送”となる(Amazon Prime Video チャンネル“スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-”(以下“スターチャンネルEX”)でも、9月26日(木)よりオンデマンド配信スタート)。本作は、1986年4月26日、旧ソビエト社会主義共和国連邦のチェルノブイリ原子力発電所で起きた爆発事故の真実に迫る衝撃の実録ドラマ。未曾有の原発事故の発生に、冷戦下の旧ソビエト政府が事態を隠ぺいしようとする中、被害の拡大を少しでも抑えようと必死に戦った英雄たちの姿を描く。【関連リンク】 『チェルノブイリ』冒頭10分間ノーカット映像()この度の“冒頭10分間ノーカット映像”が公開されたのは、独占放送するスターチャンネルの公式サイト上でのこと。この超話題作の全貌の一端が、垣間見られるものとなっている。映像の冒頭では、事故に関わった関係者の衝撃的な独白から始まる。そして1986年4月26日午前1時23分に、人類の歴史上最悪とも呼ばれる事故が、一般市民は何も知ることが無く、日常の中で“普通”に、そして“静か”に起こったことが描かれる。しかしその後、場面が事故現場の描写に切り替わるとストーリーは一気に怒涛の展開をみせ、恐怖をも感じさせる緊迫感の中で物語が進行していく。この10分間の映像だけでも、本作がとんでもない作品であることが感じられるものとなっており、まさに海外ドラマ史上最高評価も頷ける、ドラマファン、映画ファンのみならず、全人類が必見の内容となっていることが分かる。キャストは、旧ソビエト政府に調査を委任された科学者をジャレッド・ハリス、ゴルバチョフ書記長に現場の対応を任された副議長にステラン・スカルスガルド、事故の真相解明に奔走する核物理学者をエミリー・ワトソンが演じている。ハリウッドで活躍する3人の実力派が、物語の中心人物たちを重厚に好演。製作は、あの『ゲーム・オブ・スローンズ』のHBOR、監督は『ウォーキング・デッド』や『ブレイキング・バッド』のエピソード監督を担当したヨハン・レンクという最高布陣で、廃炉となったリトアニアの原子力発電所でのロケを敢行している。綿密な取材に基づき、緊迫の一部始終を描き上げた本作は、米国のレビューIMDb過去最高9.7点と、あの『ゲーム・オブ・スローンズ』を超えて、海外ドラマ史上最高評価を獲得している。『チェルノブイリ』(全5話)BS10スターチャンネルにて9月25日(水)より、毎週水曜よる11:00ほか“独占日本初放送”(※吹替版は9月30日(月)より毎週月曜よる10:00ほか放送)■配信情報“スターチャンネルEX”にて、9月26日(木)よりオンデマンド配信スタート【関連リンク】 『チェルノブイリ』作品情報()
2019年08月14日今年5月より米国や英国で放送開始された『チェルノブイリ』。その衝撃的なテーマや、作品としての完成度の高さに大絶賛が巻き起こり、世界中でいま最も熱い注目を集めている実録ドラマだ。この度、本作が映画専門サービスの“BS10スターチャンネル”にて、9月25日(水)より独占日本初放送されることが決定した。
2019年07月12日1986年4月26日、世界でも最も悲惨な事件が起きた。チェルノブイリ原発事故、その現場近郊の立入制限区域で撮影された初の映画『故郷よ』が先日公開を迎えた。現在もその過去は消え去ることなく、人々の教訓として、そして傷として爪痕を残す。本作でその舞台となったその事故現場からわずか3キロの場所にあるウクライナ北部のプリピチャ。同じウクライナを“故郷”とし、そこに生きた女性を演じた女優、オルガ・キュリレンコにその胸の内を語ってもらった。オルガが本作で演じたのは、結婚式当日にチェルノブイリ原発事故で夫を失った女性・アーニャ。主人公とはいえ、本作は女性監督ミハル・ボガニムの長編デビュー作。これまで『007』シリーズでボンド・ガールを務めたこともあり、そして世界的なトップ・モデルとして活躍する彼女が、なぜ無名監督の処女作にオーディションを受けてまで出演したのだろうか?オルガ自身、女優としての自負はもちろんあっただろう。だからこそ「正直ビックリしたわ(笑)」とオーディション当時をふり返る。「最初、脚本を読んで非常に詩的な脚本で魅了されたし、役に惚れこんだの。ミハルは芸術家だと思うわ。それにウクライナで起こった大惨事を扱っていたから。その事件当時、私はすでに生まれていて、小さかったけどニュースになっていたことは覚えていたの。だから、とても親近感を抱いたのよ。でも、製作側からオファーが来ることに慣れてしまっていたから、オーディションをすると言われたときは戸惑ったの(笑)。でも、私が抱いている思いを、役を通して作品に投影できると思ったの」。そんなボガニム監督のこだわりもあってか、「この役を演じなければいけないと強く感じたの」とオルガは作品への、役への思いがさらに強くなったと語る。実際に、資金集めに苦労していることを知ると、自らが製作費を集めるために奔走したほどだ。「この作品は、私にとって特別なプロジェクトで、赤ん坊のようなものなの。悲劇ではあるけど、私の国で起きた出来事がテーマになってるからね。このストーリーは語り継がれるべきなの。『このテーマは話し合われるべき?』、『この作品は上映するべきか?』と地元の人々によく聞かれたけど、毎回『もちろん』と答えていたわ。何か悪いことがあって、怖かったり後悔するようなことが起こると、話し合わずに何も起こらなかったかのように振る舞う人もいるけど、私はそれには反対なの。話し合って、実際に起きたことを人々に伝えなきゃダメなの。同じ過ちや問題を将来繰り返さないためにもね」。女優として、ウクライナ人として、ひとりの女性として、使命を胸に本作を育てたというオルガ。しかし、彼女が「惚れ込んだ」と語るその役柄は、悲劇に飲み込まれ葛藤や恐怖に苛まれる続ける女性だ。そこには“事件の傷”そのものとしての意味も孕んだ難役だった。「こういった悲劇的な大きな出来事を経験したという人を、私たち経験しなかった者が“自分だったらどうだっただろう”と考えるのは非常に難しかったわ。何故かというと、彼らの悲しみや苦しみやそのほかにも沢山の伺い知れないことによって選択肢が決まってくるからなんだと思うの。でも、私が思うにアーニャは未知のことを恐れていたんじゃないかと思うの。彼女は何かいろいろ精神的な問題を抱えていたのは明らかで、例えば人生を恐れていたりそういったことがあったのではないかと思うの。また同じようなこと(大きな悲劇)が起こるんじゃないかと恐れてしまうんだと思うわ」。そして、“ゾーン”と呼ばれる立ち入り禁止地域での撮影を敢行するなど、オルガの言葉の通り「語り継がれるべき」物語であるべく、可能な限りリアルな状況で行われた。その一つに、被爆したために髪の毛が大量に抜け落ちるというシーンがあるが、“美”を追求するモデルでもある彼女にとってはかなりの恐怖体験だったのだとか。「とってもリアルに撮影しようと、髪の毛の中にニセの毛を入れておいて、自然に髪の毛が落ちるように撮ったの。だから、手の中に抜けた毛がいっぱい落ちたりして本当にかなり恐ろしいシーンだったわ…。でも、それはスーパーモデルでも銀行員でも教師でも誰でも、非常にこのシーンというのはかなり恐ろしい瞬間だと思う」。そして、この問題は2011年に起きた東日本大震災をきっかけに、教科書に載っている海の向こうの悲劇ではなく、ここ日本でも“起こり得る”事件なのだと思い知らされた。今回の日本での公開を受けて、オルガは最後にこんな言葉でインタビューを締めくくった。「人間というのは、最後には“生きる”ことしかできないんだと思います。人生というのは先に進んでいくものなので、希望を失わずに、どうにかなる、うまくいくと信じていくしかないと思います。ただ、私に言えることと言えば、このようなことが起こらないように祈りましょう」。(text:cinemacafe.net)■関連作品:故郷よ 2013年春よりシネスイッチ銀座ほか全国にて公開
2013年02月09日大切な人に贈りたいクリスマスカード、今年は子どもたちのために、こんな1枚を選んでみてはいかが?サンタクロース、富士山、雪だるまが描かれたかわいらしいクリスマスカード。このカードに使われている3つの絵は、福島県の子どもたちがアートワークショップで一生懸命描いたものだ。1枚200円(税込)で販売されており、収益金は東日本大震災の被災地の子どもたちの支援活動をはじめ、世界中の子どもたちのために使われる。福島の子どもたちが描いた「クリスマスカードA」このチャリティーカードは、社会貢献団体「MS&AD ゆにぞんスマイルクラブ」と特定非営利活動法人 「子供地球基金」が作成・販売しているもので、この活動は今年で20年目を数える。カードを作成するきっかけとなったのは1992年、チェルノブイリの近くの養護施設で暮らす少女が描いたクリスマスツリーの絵に出会ったこと。収益金で彼女の施設に画材や手編みセーターを届けることから支援を始め、その後、世界中の子どもたちの絵でチャリティーカードを作成。これまでに4,200万円を超える収益をあげ、世界中の紛争・被災地域の子どもたちを支援してきた。今年は東日本大震災の発生に伴い、子供地球基金が、東北で子どもたちと絵を描くワークショップを継続的に開催。そこで描かれた福島の子どもたちの絵で、クリスマスカードを作成するに至ったという訳だ。さらに今年は、20年前にチェルノブイリ近郊で出会った少女の絵も、再びカードとして販売されることになった。チェルノブイリと福島。この2つの地域の子どもたちの絵が同じクリスマスカードとして並んでいるのだ。1992年、チェルノブイリ近郊にクラス少女が描いた「クリスマスカードB」この2枚を含め、全5種類のカードが、現在、「子供地球基金」のホームページにて販売されている。5枚セット(800円・税込)やまとめ買い(50枚以上で1枚160円・税込)などのお得な購入方法もあるので、チェックをお忘れなく。クリスマスカードは全5種類で販売中この取り組みのキャッチフレーズは、“KIDS Helping KIDS”(子どもたちが子どもたちを救う)。パンフレットには、「どんな立場にあっても、与えられるだけではなく、人の役に立つことが自信に、夢につながっていきます」と書かれている。子どもたちの絵が放つパワーが、他の子どもたちの夢へとつながり、クリスマスには世界中の子どもたち笑顔が輝いていることを願いたい。取材/池田美砂子
2011年11月30日