世田谷パブリックシアターの2024年度ラインアップ発表会が2月19日(月)に開催され、芸術監督の白井晃をはじめ、各上演作品の演出を務める橋本ロマンス、野上絹代、ノゾエ征爾、國吉咲貴、桐山知也が出席した。世田谷パブリックシアター2024年度ラインアップポスター2022年から同劇場の芸術監督を務める白井は、2020年からのパンデミックがようやく収束しつつある状況やこの4年による舞台芸術を取り巻く環境の変化、そしていまなお戦争が続く世界情勢などをふまえつつ「『私はこの世界とどう向き合うのか?』ということを根底に流れるテーマとしてプログラムしました」と語る。『メディスン』メインビジュアル(撮影:阪野貴也)5月から6月にかけてシアタートラムにて、エンダ・ウォルシュ作の『Medicine メディスン』を白井の演出で上演。映画『ONCE ダブリンの街角で』の舞台版でトニー賞ミュージカル脚本賞に輝いたウォルシュの作劇で21年にイギリスで初演され絶賛された本作。病院らしき施設を思わせる空間を舞台にした作品で、これまで『バリーターク』、『アーリントン』と2作のウォルシュ作品を演出してきた白井はウォルシュ自身の「我々が弱者をほったらかしにしておいたらどうなってしまうのか? ということを描く」という言葉を紹介。田中圭、奈緒、富山えり子が出演する。7月には気鋭の振付家・橋本ロマンスが演出を務め、古代ギリシャの哲学者プラトンの対話篇「饗宴」をモチーフにしたパフォーマンス公演『饗宴/SYMPOSION』を上演する。プラトンの「饗宴」では、詩人や知識人が“愛(エロス)”について演説を行なうが、橋本は特権性を持った知識階級の男たちが語る愛を「批判的に見ている」と語り「2024年の東京で行われるなら、どんな人がいるべきで、どんな愛が語られるべきなのか?」と問いかける。さらに昨年10月7日以降、パレスチナを巡る情勢に接してアーティストとしての在り方を思案してきたと明かし「周縁化、透明化されている存在を示していくことにアーティストとしてのリソースを使っていきたい」と自らの思いを口にする。『空中ブランコのりのキキ』より、左から)構成・演出の野上絹代、出演が決定した咲妃みゆ、松岡広大子どもと大人の垣根なく芸術に触れる機会を提供する「せたがやアートファーム2024」では落語からノンバーバルのパフォーマンスまで様々な演目が上演されるが、そのひとつとして、劇団「快快」の野上絹代が、別役実作の3編の童話を元に作り上げた音楽劇『空中ブランコのりのキキ』が8月に上演される。10月から11月は、白井の演出でブレヒトの代表作『セツアンの善人』を上演。ほぼ同時期にシアタートラムではノゾエ征爾がチェコの作家カレル・チャペックの代表作を潤色・演出する『ロボット』を上演する。ノゾエは「ロボットが人間社会に侵食していくことがあたかもよくないことのように描かれがちですが、必ずしもそうと言い切れない部分があると思います」と語り「人間の愚かさを描きたいわけではなく、その先――大きな課題を突き付けられている」とアレンジへの意欲を口にした。この他、次代を担う若い才能の発掘と育成を目的としたシアタートラム・ネクストジェネレーション vol.16として、國吉咲貴が率いる「くによし組」による『ケレン・ヘラー』を12月に上演。また白井や野村萬斎、蜷川幸雄、サイモン・マクバーニーなど多くの著名な演出家の下で演出助手を務めてきた桐山知也の演出で、イギリスのサイモン・スティーヴンスの2本の衝撃作を同時上演する『ポルノグラフィ PORNOGRAPHY/レイジ RAGE』 を2025年2月から3月に上演する。ル・グロ・オルテイユ『図書館司書くん』(c)RobertGilbertこの他、カナダのケベック州発のサーカス・カンパニー「マシーン・ドゥ・シルク」や「ル・グロ・オルテイユ」、北欧の現代サーカス・カンパニー「サーカス・シルクール」、ドイツのマインツ州立劇場所属のコンテンポラリーダンスカンパニー「タンツマインツ」などパフォーマンスを中心とした海外のカンパニーの招聘も予定されており、幅広い演目が楽しめそうだ。取材・文:黒豆直樹世田谷パブリックシアター2024年度ラインアップ■『フリーステージ2024』[音楽部門]2024年4月28日(日)会場:シアタートラム[世田谷クラシックバレエ連盟]2024年4月29日(月・祝)会場:世田谷パブリックシアター[ダンス部門]2024年5月4日(土・祝)~5月6日(月・振休)会場:世田谷パブリックシアター■『Medicine メディスン』作:エンダ・ウォルシュ翻訳:小宮山智津子演出:白井晃出演:田中圭、奈緒、富山えり子 / 荒井康太2024年5月6日(月・休)~6月9日(日)会場:シアタートラム■『饗宴 / SYMPOSION』演出・振付:橋本ロマンス音楽:篠田ミル出演:池貝峻、唐沢絵美里、Chikako Takemoto、田中真夏、野坂弘、湯浅永麻、モーリー・ロバートソン ほか2024年7月初旬会場:世田谷パブリックシアター■せたがやアートファーム 2024・『せたがや 夏いちらくご』『せたがや 夏いちらくご』春風亭一之輔(撮影:山添雄彦)プロデュース:春風亭一之輔出演:春風亭一之輔 ほか2024年7月21日(日)会場:世田谷パブリックシアター・マシーン・ドゥ・シルク『ゴースト・ライト』作・演出:マキシム・ロレン、ユーゴ・ダリオ出演:ギヨーム・ラルーシュ、マキシム・ロレン2024年7月下旬会場:世田谷パブリックシアター・音楽劇『空中ブランコのりのキキ』原作:別役実(童話「空中ブランコのりのキキ」「山猫理髪店」「丘の上の人殺しの家」より)構成・演出:野上絹代音楽:オオルタイチ脚本:北川陽子出演:咲妃みゆ、松岡広大 ほか2024年8月会場:世田谷パブリックシアター・ル・グロ・オルテイユ『図書館司書くん』構成・演出:マリー=エレーヌ・ダムール出演:イポリット2024年8月8日(木)~10日(土)会場:シアタートラム◇泥棒対策ライト新作公演〔提携公演〕2024年7月中旬会場:シアタートラム(ワークショップ等)◇『ASA-CHANのタイコで遊ぼう(仮)」2024年8月会場:シアタートラム■世田谷アートタウン2024『三茶 de 大道芸』『三茶de大道芸』(c)加藤春日2024年10月会場:キャロットタワー周辺■『セツアンの善人』作:ベルトルト・ブレヒト音楽:パウル・デッサウ翻訳:酒寄進一(新訳)上演台本・演出:白井晃音楽監督:国広和毅2024年10・11月会場:世田谷パブリックシアター■『ロボット』原作:カレル・チャペック「ロボット」(海山社 / 栗栖茜訳)潤色・演出:ノゾエ征爾2024年11・12月会場:シアタートラム■サーカス・シルクール『ニッティング・ピース』演出・コンセプト:ティルダ・ビョルフォス作曲・サウンドデザイン:サミュエル・“ループトゥーク”・アンデション出演:サーカス・シルクール2024年11月20日(水)~11月22日(金)会場:世田谷パブリックシアター■シアタートラム・ネクストジェネレーション vol.16ー演劇ーくによし組『ケレン・ヘラー』作・演出:國吉咲貴2024年12月20日(金)~12月22日(日)会場:シアタートラム■サイモン・スティーヴンス ダブルビル『ポルノグラフィ PORNOGRAPHY / レイジ RAGE』作:サイモン・スティーヴンス翻訳:小田島創志(「ポルノグラフィ」)、髙田曜子(「レイジ」)演出:桐山知也2025年2・3月会場:シアタートラム■タンツマインツ『PROMISE』振付:シャロン・エイアル出演:タンツマインツ2025年3月会場:世田谷パブリックシアター■『地域の物語 2025』2025年3月シアタートラム◇フィーチャード・シアター時代の変化とともに表現のあり方も変化する中、劇場が新たな才能と出会うために、芸術監督の推薦するアーティストやカンパニーを招聘し、公演をサポートするもの。・スペースノットブランク『光の中のアリス』作:松原俊太郎演出:小野彩加 中澤陽出演:荒木知佳 伊東沙保 小野彩加 古賀友樹 中澤陽 東出昌大2024年11月1日(金)~11月10日(日)会場:シアタートラム・贅沢貧乏 新作公演作・演出:山田由梨2024年12月会場:シアタートラム◇ダンス提携公演・OrganWorks 新作公演 2024年6月・世田谷パブリックシアター・akakilike 新作公演 2024年7月・シアタートラム・ケダゴロ新作公演 2024年8月・シアタートラム・山崎広太新作公演 2024年10月・シアタートラム・大駱駝艦新作公演 2024年11・12月・世田谷パブリックシアター・イデビアン・クルー新作公演 2025年2月・世田谷パブリックシアター・SePT 独舞 vol.24 ながめくらしつ 目黒陽介ソロ公演 2025年3月・シアタートラム◇劇場ツアー一般の方に劇場をより身近な存在として感じていただけるよう、年に複数回、劇場ツアーを開催。白井晃芸術監督、劇場を知り尽くしたスタッフが、世田谷パブリックシアターやシアタートラムをご案内※その他学芸事業や各公演の最新情報は、 劇場公式サイト() にてご確認ください。
2024年02月21日歌手で俳優の野口五郎が10日に自身のアメブロを更新。6日に心不全のため亡くなった世界的指揮者の小澤征爾さんから贈られた長女の“宝物”を公開した。この日、野口は「小澤征爾先生のご逝去の報に接し,心から哀悼の意を捧げます」と小澤さんを追悼し「昨日のブログで,現在22年前OAされた連続ドラマ小説『さくら』が再放送されている事を書き込ませて頂きました」と説明。「撮影のある時,征悦君の芝居を観ていると僕の隣にサンダル履いた男性がドッカ!と座り『野口さん,如何ですか?征悦の芝居は?』」と小澤さんの息子で俳優の小澤征悦の芝居について聞かれた日のことを回想し「この時,初めて知ったんです」とつづった。続けて「Aちゃんが生まれた時にはボストンフィルの便箋にお祝いのメッセージと,CDを頂きました!」と野口の長女が誕生した際に小澤さんから贈られた品の写真を公開。「最後に拝見したのは,Aちゃんとマルタ・アルゲリッチのコンサートに行った時でした」と振り返り「征悦君ともお会いしました」と明かした。最後に、小澤さんからの贈り物について「生まれて直ぐに頂いた彼女の宝物!大切にしているから22年経ってもピカピカです」とつづり、ブログを締めくくった。この投稿に読者からは「素晴らしいプレゼント」「素敵な思い出ですね」「ご冥福をお祈りいたします」「本当に宝物ですよね」などのコメントが寄せられている。
2024年02月10日2024年2月9日、世界的な指揮者の小澤征爾(おざわ・せいじ)さんが亡くなっていたことが分かりました。同月6日、都内の自宅で、心不全により逝去したとのこと。88歳でした。産経ニュースによると、葬儀は近親者で執り行っており、後日お別れの会を開くことを検討しているといいます。小澤さんは、1935年に満州国奉天(現・中国瀋陽市)で誕生。幼い頃からピアノを学び、音楽家の斎藤秀雄さんから指揮を学びました。20代前半で渡欧し、1959年には『ブザンソン指揮者コンクール』で1位を獲得。その後、ボストン交響楽団の第13代音楽監督や、ウィーン国立歌劇場の音楽監督に就任し、新日本フィルハーモニー交響楽団の創立にも携わるなど、数々の活躍を通して名を広め、『世界のオザワ』と評されました。訃報を受けて、人々からは「こんなに愛された指揮者がいたか?」「魅力的な指揮が忘れられない」などの声が上がっています。小澤さんが音楽に注いだ情熱は、多くの人々に感動を与えたことでしょう。ご冥福をお祈りいたします。[文・構成/grape編集部]
2024年02月09日リーディング『鳥ト踊る』が2023年11月27日(月)~30日(木)、東京・I’M A SHOWで上演される。ノゾエ征爾が作・演出を務める、男女2人による少し不気味で滑稽なサスペンス風コメディに、村井良大×優河、東啓介×斎藤瑠希の2ペアが挑む。出演する村井良大は「男と女の微妙なニュアンスの違いやすれ違っている感覚が、自然な台詞まわしで表現されていて、読めば読むほど面白い脚本」と作品の魅力を語る。「今回はリーディングで、ト書き(※役者の動きを示した言葉)も演者が読むスタイルが採用されている。お客さんには情景が伝わりやすいと思うが、ト書きを読む分、テンポが平らになってしまうというか、ト書きでワンブレーキかかって笑いにつながらないことが起こりうるので、一つひとつのセリフやト書きをどうすればいいか。精査しながら作り上げている」と稽古の状況を明かしつつ、「たくさん笑ってもらいたいし、ちょっとゾッともしてもらいたい。見応えある朗読劇にできると思う」と語る。一方、今回がほぼ初めての朗読劇だという優河。作品については「言葉が言いやすいというか、書いてあるまま言うだけで、その情景が出てくる脚本。読んでいるときも、“怖い”と“面白い”のギリギリの狭間を感じたが、真面目でキレイな村井さんの声を通すと、より“怖い”と思った」。そして、「最初に読んだときは最後の展開に『えー!』と思ったが、読んでいるうちに“かわいい”に終着した。ジェットコースターのように感情が揺れ、恐怖と笑い、そして愛くるしさを感じてもらえるように頑張りたい」と語っていた。作・演出のノゾエは「この作品自体は何回かやってきていて、きっと何か面白いところがあるからこうやって生き残っている作品。『最悪な事態を抜けていった先には、純愛があるんだ』と思うぐらい、深い愛を感じながら書いた」と作品について話した上で、「朗読劇というとかしこまった雰囲気を想像されるかもしれないが、間違いなく臨場感あふれる舞台になると思いますので、ぜひ劇場に触れに来てほしい」と呼びかけた。村井と優河のペアの稽古場を見学した。脚本を譜面台に置きながら、セリフを読む2人。リーディングと言いながらもじっと椅子に座っているわけではなく、時に小道具を使ったり、時に身振り手振りを交えたりする演出で、“声の芝居”以上の面白みがあった。本番ではどんな仕上がりを見せてくれるのか楽しみだ。取材・文:五月女菜穂
2023年11月17日ノゾエ征爾が作・演出を務めるリーディング『鳥ト踊る』が、11月27日(月)から30日(木) にわたって東京・有楽町I’M A SHOWにて上演される。『鳥ト踊る』は、ノゾエ征爾が主宰する“劇団はえぎわ”の番外企画として始動した“真夜中”によって2009年に上演され、その後2011年にリメイクされた男女二人のみの朗読劇。謎の扇風機に髪を絡みとられて身動きできなくなった女と、たまたまそこに通りかかってしまった青年が織りなす会話劇で、ワンシチュエーションで起こる少し不気味で滑稽なサスペンス風コメディだ。11月27日(月) 18時と28日(火) 13時公演にはミュージカル『生きる』、こまつ座『きらめく星座』などに出演する俳優の村井良大と、2020年に藤田俊太郎演出のミュージカル『VIOLET』のオーディションで主役のヴァイオレットに選ばれたシンガーソングライターの優河が登場。29日(水) 18時と30日(木) 13時公演には、ミュージカル『ラグタイム』や現在放送中のテレビドラマ『女子高生、僧になる。』も話題の俳優の東啓介と、ディズニー長編アニメーション『ミラベルと魔法だらけの家』日本語吹替版のヒロイン・ミラベル役やミュージカル『BE MORE CHILL』などで活躍する斎藤瑠希が出演する。併せて、作・演出のノゾエ征爾と、出演者4名からコメントが到着した。■作・演出 ノゾエ征爾 コメント自分の戯曲の中でもかなり好きな本です。自己肯定感に関してはわりと低い方の私がはっきりと言うのだからそれなりの魅力のある本なのかもしれません。ニューヨークの俳優でニューヨークのお客さんにも喜んでもらえたことのあるこの本。きっとここでも力を発揮してくれるに違いありません。こんな素敵な俳優さんたちに読んでもらえるのだから。■村井良大 コメント朗読劇『鳥ト踊る』に出演させていただきます、村井良大です。台本を読み進めるなかで、作品内に静かに忍び寄ってくる影の怖さと、小さく散りばめられた笑いを感じ、あっという間に読み終えました。朗読劇だからこそ伝わる今回の作品の奇妙さを楽しんで演じたいと思います。優河さん、ノゾエさんのお力をお借りして唯一無二の世界観をお客様に提示できればと思います。よろしくお願い致します。■優河 コメント今回初めましてのノゾエ征爾さんと村井良大さんと、朗読劇に挑戦させて頂きます。この謎多き男女の物語。2人の人間の関係性が、氷が溶けていくように変化していく様をどのように表現出来るのか、今からとても楽しみです。全くの新境地ですが、ええい!とノゾエさん率いる大船に乗ったような気持ちで身を委ねて頑張ります。■東啓介 コメント今回『鳥ト踊る』という作品に携わることができ、とても嬉しく思っています。僕が以前、演出のノゾエさんとご一緒したのは、もう5年も前になります。こうしてまたお仕事ができることがとても幸せです。そして今回のこの作品。独特な雰囲気を持ちつつ、いつの間にかのめり込んでしまう魅力があると僕は感じました。シュールでありながら少しゾッとする?世界観を、是非楽しみにしていてください!■斎藤瑠希 コメント台本を初めて読ませていただいたとき、なんとも不思議な体験をしまして、読み終えた後、息をし忘れていたことを思い出し深呼吸……「板の上で、どうなるのだろうか」とドキドキハラハラソワソワ。皆さんにも、この作品の中で体感する色んな感情に身を任せていただきたいです!<公演情報>リーディング『鳥ト踊る』作・演出:ノゾエ征爾■出演Aバージョン:村井良大、優河Bバージョン:東啓介、斎藤瑠希11月27日(月)〜30日(木)会場:I’M A SHOW■チケット料金全席指定:7,500円(税込)一般発売:11月12日(日) 10:00公式サイト:
2023年10月14日岸田國士賞受賞作家で演出家のノゾエ征爾が自身の劇団「はえぎわ」で2010年に初演した代表作『ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~』。幾度かの再演を経ての2023年版が、9月10日(日)に東京・世田谷パブリックシアターで開幕した。竜星涼演じる社会に上手く馴染めない青年・太郎と、高橋惠子演じる老人ホームを抜け出した老女・まちこを中心に、総勢15名で繰り広げられる群像劇だ。黒い壁で全体が覆われたシンプルな空間。ガレージのようなもののシャッターが唐突に開き、太郎(竜星)が飛び出してくる。その後も数々の人物が舞台上に現れるが、冒頭7~8分は言葉を発することなく、壁や床に、チョークで絵や場所や役名を書き込んでいる。太郎が壁に電球とトイレを描くとそこが太郎のアパートの一室になる、という具合。初演から使われるこの手法は、本作の特色ともなっている。太郎はピエロの格好をしている。コミュニケーションが苦手なわりに、派遣ピエロなんていう社交的な仕事をしている矛盾を孕んだ人物。小顔・長身で通常はスタイルの良さが際立つ竜星だが、猫背気味でどこか怯えた様子の太郎は、一目で“陰キャ”であることが見て取れる。彼はあるとき、道端で見知らぬ老女・まちこ(高橋)に出会う。太郎のあとをついてきた彼女は部屋にまで上がり込み、ふたりの奇妙な共同生活が始まる。まちこは実は特別養護老人ホームから抜け出してきており、娘や孫、ホームの職員らが行方を捜していた。一方、太郎には兄・晴郎(藤井隆)がいて、その妻(山田真歩)共々、弟を気に掛けている。そんな晴郎の背後には、影のようについて回る謎の男(作・演出のノゾエ征爾が扮している)が……。ほか、太郎の会社の社員(青柳翔、芋生悠)、今では夫婦になっているかつての担任(菅原永二)と同級生(瀬戸さおり)らが、太郎を取り巻く。起承転結があってひと連なりになった、いわゆるストーリーはない。だからあらすじを書こうとしても、箇条書きのようにしか記せない。まさに群像劇であり、登場人物それぞれの日常・人生を描いた“人間図鑑”のような作品だ。ごく個人的な話で恐縮だが、日常生活で見知らぬ人にちょっとした不快な思いをさせられたようなとき、「この人にも家族がいて友人がいてこんな人生が……」とわずかな時間、想像をめぐらせることにしている。そうすれば深呼吸したように気持ちが鎮まり、俯瞰した優しい目線で物事を見つめられる気がするから。その感覚を追体験するような舞台だった。あらすじからこぼれ落ちるほどに太郎とは関わりの薄い、隣室の外国人やいつもバスに乗り損ねる女、運転手……などなど、無限の他人の人生との交差で私たちの人生は成り立っている。そんなことに改めて思い入りながら2時間を過ごした。なりゆき的に始まった太郎とまちこ(太郎の「まっちゃん」呼びが微笑ましい)の生活は、シュールな漫才のようでほっこりするひと幕もあるが、次第に現実が押し寄せる。介護だ。だが辛くなるような描き方というより、人間が通常たどる過程の1コマのように感じられた。排泄すらコントロールできなくなる老女の姿は、行動だけ見れば幼女に戻ったかのよう。だが、まちこにはそれまで重ねた長い人生があり、戻ったのではけしてない。まさにサブタイトル、「進化してんのかしてないのか」だ。有名クラシック曲に乗せて登場人物たちが円環を成していく、クライマックスが圧巻だ。ピエロとは対照的な姿に着替えた太郎がそこにいる。進化してんのかしてないのか、喜劇なのか悲劇なのか。観客の数だけ答えはありそうだが、どこか神話のごとく、強靭な作品であることは間違いない。取材・文:武田吏都撮影:細野晋司<公演情報>COCOON PRODUCTION 2023『ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~』作・演出:ノゾエ征爾出演:竜星涼 / 藤井隆 / 青柳翔 / 瀬戸さおり / 芋生悠駒木根隆介 / 山本圭祐 / 山口航太 / 中井千聖ノゾエ征爾 / 家納ジュンコ / 山田真歩 / 菅原永二 / 高橋惠子【東京公演】2023年9月10日(日)~9月24日(日)会場:世田谷パブリックシアター【京都公演】2023年9月30日(土)・10月1日(日)会場:京都劇場【岡山公演】2023年10月11日(水)・12 日(木)会場:岡山芸術創造劇場 ハレノワ 中劇場【新潟公演】2023年10月21日(土)・22日(日)会場:りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場チケット情報公式サイト
2023年09月12日9月10日(日) から24日(日) に世田谷パブリックシアターで上演されるCOCOON PRODUCTION 2023『ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~』の全キャストが発表された。2010年に初演された『ガラパコスパコス』は、「老い」と「進化」という一見正反対のふたつのベクトルを重ね、その先に描かれる滑稽で愛おしい人たちの物語。作・演出は、劇団はえぎわの主宰であり、俳優・脚本家・演出家として活躍するノゾエ征爾が務めている。主演の派遣会社でピエロとして働く青年・太郎役を竜星涼、太郎の兄・晴郎役を藤井隆、特別養護老人ホームから抜け出した老女・まっちゃんこと徳盛まちこ役を高橋惠子が演じるほか、青柳翔、瀬戸さおり、芋生悠、駒木根隆介、山本圭祐、山口航太、中井千聖、家納ジュンコ、山田真歩、菅原永二、そしてノゾエといった個性豊かなキャストが名を連ねている。本作は東京公演を上演後、京都・岡山・新潟公演が予定されている。■作・演出:ノゾエ征爾 コメント2010年。世田谷パブリックシアター@ホーム公演(あっとほーむ公演)という、高齢者施設、障害者施設での巡回公演がスタートしました。初めて高齢者施設の皆さんの前で上演した時、私は不覚にも涙を流しました。観劇する皆さんのご様子に、変化に、そしてそこに漂う匂い、空気全てに。この涙の中に感じた、計り知れないモノ。老いの中に感じた、果てしなきモノ。進化というもの。その衝撃は、一本の作品を作らせる程に強いものでした。そうしてその年に、この作品が生まれました。再演や上演の声に応えるうちに、内外で公演を重ね、今回で4回目となりました。劇場空間は随分と大きくなるし、初めてご一緒する様々な俳優さんたちの、身体と言葉と老いと進化と向き合うことへの畏怖も含めて、期待まみれのゾクゾクにまみれております。凱旋というのか、恩返しというのか、作品の発端と言える世田谷パブリックシアターでやらせていただけることに、望外の喜びを感じながら、この作品自体、進化してんのか、してないのか。いや、なんであれ、それは進化なのだ。老いゆく恐怖とせつなさと儚さと実感とあきらめと滑稽さと悲しさと憎しみとおかしさの果てに、どんな進化を目にしましょうや。14年目を迎えた@ホーム公演を経て、存分に存分に挑みたく思います。■竜星涼 コメントこの度、初の世田谷パブリックシアターで座長として立たせて頂くことになりとても嬉しく思います。それと同時に、この作品は役者とチョークで描いた世界で作り上げる、誤魔化しの効かない非常にシンプルなつくり。やったことがない。。非常に怖い。でもなんだろう、、とてもワクワクする!この作品が今の時代、今の自分にどう影響し、混じり合っていくのか。ユーモアもふまえたノゾエ作品の世界観にどっぷりと浸かりながら、想像力にとんだ素晴らしい共演者の強者たちのなかで自分の未熟な部分と向き合い変化し進化するのかしないのか、、(笑)この作品とともに千秋楽まで楽しみに見ていただけたらなと思います。■藤井隆 コメント今回、ノゾエ征爾さんに声をかけていただいてとても嬉しく思っています。少しでも良いと思っていただけるような稽古を重ねたいです。世田谷パブリックシアターで芝居を観終わった後、駅へ向かう時間や近くのお店で食事をするのがとても好きで、三軒茶屋に通えることも楽しみのひとつです。老後はまだ先ですが確実に向かっているという実感がある今、この舞台に参加させていただけることを有難いと感じています。稽古場で皆さんと一緒に色々考えて、物語の中へ飛び込んで自分を試してみたいです。旅公演もありますので、劇場へお越しいただけますよう、ご検討よろしくお願いします。■高橋惠子 コメント最近は老婆役をやらせていただく機会が増えました高橋惠子です。今回は 最初にノゾエ征爾さんの作・演出の作品というお話を頂き、内容を読む前からとてもワクワクしておりました。今まで味わった事の無い空気感という言葉をどこかでノゾエさんが仰っていたのを思い出しました。私も味わいたいですし、ご来場いただいた皆様にも是非味わっていただきたいです。まだお稽古前でどんな展開になるのか想像もついておりませんが、個性的な共演者の皆さんとお稽古場で0から創り上げて行きたいと思っております。東京から地方まで沢山の方にそして色々な世代の方に観ていただきたいです!<公演情報>COCOON PRODUCTION 2023『ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~』9月10日(日)〜24日(日) 世田谷パブリックシアター※全18回※京都・岡山・新潟公演あり。作・演出:ノゾエ征爾【出演】竜星涼藤井隆青柳翔瀬戸さおり芋生悠駒木根隆介山本圭祐山口航太中井千聖ノゾエ征爾家納ジュンコ山田真歩菅原永二高橋惠子【チケット料金】(全席指定・税込)S席10,500円 / A席9,000円※未就学児は入場不可一般発売日:8月6日(日) 10:00〜
2023年06月02日9月に東京・世田谷パブリックシアターにて、『ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~』が再演されることが決定した。2010年に初演された『ガラパコスパコス』は、「老い」と「進化」という一見正反対のふたつのベクトルを重ね、その先に描かれる滑稽で愛おしい人たちの物語。作・演出は、劇団はえぎわの主宰であり、俳優・脚本家・演出家として活躍するノゾエ征爾が手掛ける。<プロフィール>ノゾエ征爾(のぞえ・せいじ)1975年、岡山県生まれ。劇団はえぎわ主宰。脚本家、演出家、俳優として活動。1995年、青山学院大学在学中に演劇を始め、1999年に劇団はえぎわを始動。以降、全作品の作・演出を手がける。2010年より世田谷区内の高齢者施設での巡回公演(世田谷パブリックシアター@ホーム公演)、広島や北九州、静岡の劇場での長期滞在創作、2016年には、故・蜷川幸雄氏の遺志を継ぎ、高齢者1600人出演の大群衆劇1万人のゴールド・シアター『金色交響曲』(脚本・演出)をさいたまスーパーアリーナで上演するなど劇団以外でも活躍。2012年、『○○トアル風景』にて第56回岸田國士戯曲賞受賞。2017年、『鳩に水をやる』にて第21回鶴屋南北戯曲賞ノミネート。近年の主な作品に、オールナイトニッポン55周年記念公演『明るい夜に出かけて』(脚本・演出・23)、松尾スズキ氏原作の絵本を舞台化した『気づかいルーシー』(脚本・演出・出演・22)、『物理学者たち』(上演台本・演出・出演・21)、『ぼくの名前はズッキーニ』(脚本・演出・出演・21)など。<公演情報>COCOON PRODUCTION2023『ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~』9月 世田谷パブリックシアター ※地方公演あり作・演出:ノゾエ征爾
2023年05月12日女優・水野美紀が主宰を務める演劇ユニット・プロペラ犬が、2016年以来6年ぶりとなる第8回公演『僕だけが正常な世界』を、12月東京芸術劇場 シアターウエストにて上演することが決定した。第4回公演『ネガヒーロー』から脚本、第7回公演『珍渦虫』からは脚本に加え演出を担当するなど、作品ごとに新たなチャレンジを重ね、外部公演でも高い評価を得てきた水野美紀。虚構と現実が入り混じる多層的な世界を描いて来たプロペラ犬が今回新たに挑戦するのは、ダンス・歌を取り入れて描く、ダークファンタジーだ。脚本・演出はプロペラ犬主宰の水野が務め、自らも出演。母となってから初のプロペラ犬の公演であり、また東京芸術劇場には初登場となる。本作の主演は、ミュージカル『刀剣乱舞』や舞台『幽☆遊☆白書』、TVドラマでも活躍する崎山つばさ。共演には、ミュージカル『刀剣乱舞』に出演、音楽ユニットWINWINのメンバーとしても活動する鳥越裕貴、舞台『黒子のバスケ』に出演、TVアニメの声優としても活躍している安里勇哉、最近では舞台『呪術廻戦』への出演が話題となった定本楓馬と、2.5次元作品で人気を誇り活躍の場を広げているキャストが決定した。また、玉田企画に出演するなど演劇界に欠かせない存在の浅野千鶴、数多くの舞台や音楽PVに振付、出演するダンサー・振付家の入手杏奈がプロペラ犬に初参加。 入手は本作でも振付を担当する。さらに、水野が脚本・演出を担当した舞台『2つの「ヒ」キゲキ』でも見事な歌唱力を披露した竹内真里、舞台のみならずドラマ『しもべえ』などTVでも活躍する福澤重文、最近では映画『浜の朝日の嘘つきどもと』など多くの作品に出演する傍ら、『2つの「ヒ」キゲキ』など舞台もプロデュースする宮下貴浩と、個性豊かで高い表現力に定評のある俳優が水野作品に再び集結。そして、『○○トアル風景』で第56回岸田國士戯曲賞受賞するなど、自らも脚本家・演出家・俳優として活躍し、劇団「はえぎわ」の主宰を務めるノゾエ征爾が、俳優として再びプロペラ犬に参加する。■水野美紀 コメントこのたびプロペラ犬第8回公演を上演することにいたしました。前回の公演の直後に妊娠が分かり、そこから出産、子育てと母業に邁進している間にコロナ禍に突入。怒涛の月日が過ぎ、(その間、去年の新国立劇場での公演など外部での作演は続けておりますが)プロペラ犬としては6年ぶりの公演となってしまいました。ここ数年で演劇のあり方も大きく変わりました。2.5次元というジャンルの台頭。配信の定着。演劇の枠はどんどん広がっています。「今」を反映できるのが演劇の面白さで、今、同じ場所、同じ時代を生きる我々が肌で感じる今ある不穏な空気、怒り、不安、喜び、 希望、それらの言語化できない感覚を「今」作品化して「今」劇場でお客様と共有する。これが演劇の一つの醍醐味なのではないかと私は思います。最高のキャストと共に、楽しくも突き刺さる、プロペラ犬らしい盛り沢山の作品に仕上げたいと思っております。どうぞ、よろしくお願いいたします。■崎山つばさ コメント冷酷な無差別殺人を犯した男のストーリーで僕が演じるミチルという人物はまず死ぬことばかり考えているという激重なプロットを読みとても興味が湧きました。いや、そういった願望がある訳では決してありません。しかし演じてみたかった役であることは間違いありません。ミチルがミチルになった経緯や由縁を紐解いていき、作品が繊細な物語だからこそ、人物の与えられてきた環境、見てきたもの、聞いてきた音、感じてきた想いなどに細かく向き合っていけたらと思います。是非、楽しみにしていて下さい。■鳥越裕貴 コメント皆様、初めまして。"プロペラ犬"に初参加をさせて頂きます、鳥越裕貴です。舞台観劇が好きな自分でもよく間違える、東京芸術劇場シアターウエストとシアターイースト。皆様も1度はあるのではないでしょうか?今回の役どころ、シアターイーストと間違えてやってきた俳優。そして、そのまま物語に紛れ込んでいく。 。 。現実に置き換えるとゾッと致します。この物語にシアターイースト急遽代役俳優がどう絡んで行くのか、、、僕自身、楽しみです!■安里勇哉 コメント発表されましたー!!!めちゃくちゃ楽しみなキャストばかり。そして主宰の水野美紀さんとは日替わりゲストでお世話になったのですが、今回はガッツリです!本番はもちろんそうだけど稽古から既に楽しみ。皆さんも楽しみにしていてください!宮下さんは丸坊主の役なのかなー。■定本楓馬 コメント今回初めて参加させて頂きます。「僕だけが正常な世界」タイトルを見て感じる『正常』と書いてあるのになぜか感じる違和感。この言葉に込められた意味が何なのかこれから知っていけると思うと楽しみです。僕はミチルの幼馴染である「元気」を演じさせて頂きます。観に来てくださる皆さまにこの作品が届くよう精一杯演じさせて頂きます、よろしくお願いいたします。■ノゾエ征爾 コメントプロペラって、おそらく、水野さんのことだと思うんです。あの危険なまでにブンブン回り続ける感じ。そして回っているうちに逆回転してるんじゃないかって錯覚してくる感じ。それはまさに水野さんそのものであるし(どんなものだ)、そして犬も、おそらく水野さんだと思うんです。全てを見透かしているかのようにじっと見つめていたり、いきなり飛びかかってきたり、かと思えば妙な安心感があったり。あ、水野さんは決して飛びかかりはしませんが。つまり、掌握不能な領域、それが水野さんであり、プロペラ犬の作品なんだと思います。今回は踊ったり歌ったりですって?よくぞ呼んでくださいました。ってのは冗談半分。私に何ができるだろうか。いや、考えるだけ無駄だ。ブンブンなプロペラな犬に、思いきり身を投じてみようこの秋。いや、冬。<公演情報>プロペラ犬 第8回公演『僕だけが正常な世界』2022年12月16日(金)~12月25日(日) 東京芸術劇場 シアターウエスト受付開始:開演の1時間前開場:開演の45分前【作・演出】水野美紀(プロペラ犬)【キャスト】崎山つばさ / 鳥越裕貴 / 安里勇哉 / 定本楓馬浅野千鶴 / 入手杏奈 / 竹内真里福澤重文 / 宮下貴浩水野美紀 / ノゾエ征爾【チケット料金(全席指定・税込)】前売:8,500円夜割:8,000円高校生以下:3,000円(前売のみ、 要学生証提示、 取扱:カンフェティ)※当日券は各500円増し■一般発売(先着)2022年10月29日(土) 10:00~※各種先行販売あり。詳細は公式サイトにてご確認ください。チケットはこちら:公演に関する問い合わせ:mailto:bokudake2022@gmail.com舞台『僕だけが正常な世界』公式HP:プロペラ犬 公式Twitter:プロペラ犬 公式Facebook:
2022年08月16日現在上演中の『物理学者たち』において、開幕2日目の公演を鑑賞した。スイスの劇作家フリードリヒ・デュレンマットによる戯曲を、ノゾエ征爾の上演台本・演出で立ち上げる本作。とあるサナトリウムを舞台に、自らをニュートンやアインシュタインと名乗る精神病棟の患者と、院長をはじめとする施設スタッフらの会話で構成される。第二次世界大戦での原爆被害も記憶に新しく、ベルリンの壁建設や水爆ツァーリ・ボンバの爆発実験など世界情勢が緊迫した1961年に執筆され、時代背景にあった科学技術をはじめ、"核"をめぐる人間のモラルと欲望が描かれる。──と説明すると一見難しい作品のように感じるだろう。しかしシリアスな内容の中にはふんだんに“笑い”の要素が盛り込まれており、130分(休憩含む2幕)の上演時間があっという間に感じられた。精神病棟の患者による看護婦殺しの顛末が明かされるサスペンスでありながら、浮世離れした各キャラクターのシュールな掛け合いに客席から笑い声が漏れてくる瞬間も。草刈民代演じる院長はサナトリウムの責任者であるにもかかわらず、2度目の事件が起こっても悠然と警部(坪倉由幸)に渡り合う底知れない人物。ト書きに「背中の曲がった老嬢」とあることから、草刈はバレエダンサーとして培った姿勢のよさを封じ、背中を丸め杖をつき特徴的なしわがれ声を出すなど、ひと筋縄でいかない人物像をステージ上に立ち上げる。患者である“物理学者たち”の狂人ぶりは三者三様だ。自称ニュートン役の温水洋一は、ウェーブがかったカツラをかぶって登場。異様に口数が多く殺人現場でも旺盛な食欲を見せ、出オチに負けない存在感を発揮する。自称アインシュタイン役の中山祐一朗は、殺人を犯してもひたすら眠りこけ、好きでもないバイオリン演奏に執心する様子を独特の“間”で表した。「ソロモン王が見える」と言って施設に15年も入院しているメービウス役には、入江雅人。8月末にリモート見学した稽古より幼児性が増しており、彼の世話係である看護婦(瀬戸さおり)とのマウント合戦はより異彩を放つシーンに仕上がっていた。突然放り込まれる博多弁(福岡県は入江と瀬戸の出身地)やオーバーな英語に笑って油断しているうち、1幕ラストでメービウスが見せる激情に息を呑むだろう。公演は9月26日(日)まで、東京・本多劇場にて。チケット販売中。取材・文:岡山朋代
2021年09月21日看護婦殺しというサスペンスを基調としつつ、時に笑いを交え、さらには“核”をめぐる人間の欲とエゴまでをもあぶり出す、フリードリヒ・デュレンマットの代表作『物理学者たち』。本作が、ワタナベエンターテインメントによる新企画「Diverse Theater」の第1弾として上演される。そこで上演台本・演出・出演を担うノゾエ征爾と、キャストの草刈民代、温水洋一に話を訊いた。舞台は、とあるサナトリウムの精神病棟。その院長を草刈が、患者で、通称ニュートンを温水が演じる。ノゾエにふたりに期待することを聞くと、「なんか健康的じゃない…」と意外なひと言。「すごく語弊がありますけど」と笑いつつ、「健康的というのはわかりやすいという意味で。そう捉えるとおふたりは非常にわからない部分が多い。僕にとってそれは惹かれる要素であり、この人物としてもとても大事なことだと思います」と続けた。サナトリウムで起きた二度の殺人事件。物理学者である患者と施設を守ろうとする院長を演じる草刈はこう語る。「責任ある立場であり、それが当たり前だと思われていた人が、実は…って光景、私たちが生きている中でもよく見ると思うんです。そしてその瞬間、私たちはすごくゾッとして。自分にとってはやったことのない役ですし、大変な挑戦だと思いますが、なんとかかたちになればと思います」温水が演じるのは、自らをニュートンだと思い込んでいる男。「ことさら精神病患者であることを意識して演じようとはまったく思っていません」と切り出した温水は、「物理学者だと思い込んだ頭のおかしい男なのか、そうではないのか。また結末に関しても、確信めいたものはまだ何もなくて…。難しい役どころですが、ノゾエさんと相談しつつ、また同じ患者役の中山(祐一朗)くんや入江(雅人)さんと探り合いつつ、やっていけたらなと思います」と現段階での構想を述べた。草刈、温水以外にも、演劇界の技巧派たちが名を連ねる本作。俳優への演出に当たり、ノゾエは「差別します」とまたも意外なひと言。「言葉がちょっと強いんですが」と笑いつつ、「やっぱり一人一人違いますからね。個々で距離感やアプローチが変わるのはむしろ自然なこと。それぞれが何をし、何に悩むのか。それぞれに応じていきたい。結果、思いもよらない場所にたどり着いたとしても、そっちの方が俄然いいですし、今回もフレキシブルに作品と向き合っていきたいと思います」と抱負を語った。取材・文:野上瑠美子撮影:源賀津己『物理学者たち』2021年9月19日(日)~2021年9月26日(日)会場:本多劇場チケット情報
2021年08月30日2021年9月に上演されるワタナベエンターテインメントDiverse Theater『物理学者たち』のチケットぴあ独占抽選先行予約の受付が決定。先行受付に先駆けて、Diverse Theaterの発足にあたり、プロデューサーの渡辺ミキ、そして上演台本・演出のノゾエ征爾からのコメントが到着した。第二次世界大戦での甚大な原爆被害も記憶に新しく、朝鮮戦争、ベルリンの壁構築や水爆ツァーリ・ボンバの爆発実験など、世界情勢が緊迫した1961年に執筆されたフリードリヒ・デュレンマットの代表作を、ノゾエ征爾をはじめとする実力派スタッフ陣と、草刈民代、温水洋一、入江雅人、中山祐一朗、坪倉由幸(我が家)ら個性豊かな布陣で届ける本作。チケットぴあ独占抽選先行予約の受付は、7月20日(火)11:00より受付開始となる。「科学技術の進歩」と「核」をめぐって渦巻く人間の欲望をシニカルに、そしてユーモアたっぷりに描くサスペンスフルな群像劇。一般発売前にチケットをゲットできるこの機会をどうぞお見逃しなく。<プロデューサーご挨拶>■渡辺ミキこのコロナ禍の一年半、我々は、今まで常識としてきた概念がそうでなかった事や、当たり前に共有出来ていた筈の社会の基盤が、思いもよらずに脆かった事を知る、発見の毎日と対峙してきました。世界は、科学と哲学の進歩が相当にバランスを崩していた事を認めざるを得ない所まで来てしまったようだ。この時代の急激な変化の中で、劇場を、より生きる意味を考え、観客と作り手達が自分の中の哲学と対峙する豊かな時間を提供する場所と考え、今回「ワタナベエンターテインメントDiverse Theater」を立ち上げ、演劇の多様性を追求する為に、様々な文化的相違を持たれるクリエイターとのコラボレーションで存分に掘り下げます。このプロジェクトのスタートに、その揺るぎのない作品作りでかねてより尊敬する、オフィスコットーネ綿貫凜プロデューサーとの共同創作が叶いました。綿貫さんからデュレンマットの「物理学者たち」をご紹介頂き、社会の構図の普遍的課題を、ある一日の、精神病院での、一つの物語を2幕の喜劇として提示したその作品性に目を見張りました。そして、第一回目の東京オリンピックの2年前、1962年初演の作品がぐるっと一周し、再び東京オリンピックを迎える2021年の現代にも、今日的なテーマとなるのも必然と思い、「物理学者たち」の上演を切望しました。もしも今回のオリンピック、パラリンピックが予定された2020年の2年前の2018年から世界がやり直せていたなら、果たしてどんな世の中になっていたのだろう、と考えさせられる戯曲でもあります。この、ブロードウェイでもロングランした毒と笑いの名作に、オリパラ閉幕後の東京で挑みます。演出はノゾエ征爾さん。幻になった、彼のエポックになったであろう2020年5月公演、松尾スズキ作「母を逃す」以上の、作劇の冒険になりそうで、既にワクワクです。そして、ユニークな登場人物達に、主体と客体の表現を兼ね備える珠玉の俳優陣がお集まり頂けました。2021年9月、劇場という人生の縮図の場所で、思いっきりスリリングに、ドキュメントのような演劇体験に没入していただけそうです。<コメント>■上演台本・演出:ノゾエ征爾物理学者たち。初めて読みましたが、相当に面白かった。どっしりと骨太で、セリフも素晴らしく、それでいて軽やかに笑い飛ばすかのようなしなやかさ。そこに、この俳優たち。集合写真をおかずに白飯3杯、は無理だけど、そんな気持ちになるようなビュッフェのようなメンバー。いまビュッフェは規制があるけど、ここのビュッフェは楽しみ放題だ。でも簡単じゃない。デュレンマットがほくそ笑んでいる。いい夏になりそうです。是非目撃しにきてやってくださいませ。【公演概要】ワタナベエンターテインメントDiverse Theater『物理学者たち』日程・会場:2021年9月19日(日)~26日(日) 本多劇場作:フリードリヒ・デュレンマット翻訳:山本佳樹 / 上演台本・演出:ノゾエ征爾キャスト:草刈民代、温水洋一、入江雅人、中山祐一朗、坪倉由幸(我が家)、吉本菜穂子、瀬戸さおり、川上友里、竹口龍茶、花戸祐介、鈴木真之介、ノゾエ征爾プロデューサー:渡辺ミキ・綿貫 凜後援:在日スイス大使館、ドイツ連邦共和国大使館主催・企画・製作:ワタナベエンターテインメント公式サイト: <チケットぴあ独占抽選先行予約>受付期間:2021年7月20日(火)11:00~2021年7月26日(月)23:59受付URL: チケット料金(全席指定席・前売当日共)一般 7,800円 / プレビュー 6,000円<19(日)18:00公演> / U20(20歳以下・平日限定・枚数限定)4,000円※U20チケットは一般発売(8月14日)より販売開始。先行予約対象外。※チケットぴあ無料会員登録要※公演中止、開演時間の変更を除き、払い戻しはいたしません。
2021年07月19日ワタナベエンターテインメントDiverse Theater『物理学者たち』が9月19日(日)より本多劇場で上演される。本作はミュージカル『ブロードウェイと銃弾』、A New Musical『ゆびさきと恋々』に続き、ワタナベエンターテインメントが2021年に贈る演劇公演の3作目。「ワタナベエンターテインメントDiverse Theater」と銘打ち、クリエーターやプロデューサーとのコラボレーションにより、演劇の可能性を拡げる実験的な企画となるもようだ。この新プロジェクトの第1弾ともなる本作は、質の高い作品創りを目指し、骨太な作品を創り続けるオフィスコットーネの綿貫凜とコラボレーション。スイスの劇作家・小説家フリードリヒ・デュレンマットの代表作である『物理学者たち』を取り上げる。『物理学者たち』は、自らをアインシュタインだと信じ込む精神病棟の患者を中心に、核兵器や科学技術を巡って渦巻く人間の倫理、欲望を描いた作品。上演台本・演出には、卓越した発想力とユーモアを併せ持つノゾエ征爾を起用。世界情勢が緊迫した1961年に執筆された本作が現代に蘇った。出演には草刈民代、温水洋一、入江雅人、中山祐一朗、坪倉由幸(我が家)ら、唯一無二の存在感と実力を兼ね備えた俳優が名を連ねている。公演の詳細は6月発表予定。続報に期待したい。■公演情報ワタナベエンターテインメントDiverse Theater『物理学者たち』9月19日(日)~26日(日)会場:本多劇場
2021年05月13日ジャニーズの人気グループ「ふぉ〜ゆ〜」の辰巳雄大が主演を務める舞台『ぼくの名前はズッキーニ』が2021年2月28日(日)から、東京・よみうり大手町ホールで開幕した。2002年にフランスで発行され、世界中でベストセラーになった同名小説を世界で初めて舞台化。養護施設に連れてこられた孤独な少年・ズッキーニ(辰巳雄大)が、厳しい現実の中でも前を向いて生きようとする姿が描かれている。ズッキーニだけでなく、リーダー格のシモン(稲葉友)、父親が逮捕されたアメッド(上村海成)、両親が失踪したジュジュブ(本多力)、迎えにこない母を待つベアトリス(三村朱里)、叔母の家で虐待をうけているカミーユ(川島海荷)といった“複雑な”背景を持つ子どもたちの日常や葛藤、そして、子どもを見守る養護施設の職員や警察官ら大人たちなりの事情もあわせて語られる舞台だ。あらすじだけ聞くと重い作品に思えるかもしれないが、全体的にポップな仕上がり。田中馨が手掛けた音楽やカラフルな衣装もさることながら、一番の理由は美術とそれを生かした演出にあろう。壁と床が黒板のようになっており、俳優たちはチョークを使って、役名や話のキーとなるモノなどを描き加えていく。脚本と演出を手がけるノゾエ征爾が、自身が主宰する劇団「はえぎわ」の『ガラパコスパコス〜進化してんのかしてないのか〜』(2010)などで編み出してきた演出手法を取り入れた形だ。開場時は何もなかった舞台が、最後には1枚の楽しいスケッチブックのようになっていく。自由な「子ども心」が見て取れて、面白かった。初日を前にした取材会で、辰巳は6歳の子どもを大人たちが演じることについて、「自分が愛している演劇をやらせていただいているなと実感した。どんどんスタートから終わりにかけて完成していく、自分たちで作品を作っていくという感じが強い作品。僕にとってターニングポイントの作品になると思った」と語っていた。辰巳自身、6歳の姪っ子がいるといい、その動画を見ながら“子どもらしさ”を研究したことを明かす。「稽古の序盤は逆に子どもらしくしすぎる芝居をしてしまったが、稽古を重ねていく上で、どんどん要らないものを削ぎ落とした方が、一番子どもっぽくなる。僕らは今、飾ってしまっているんだなと感じた」などとも話していた。東京公演は3月14日(日)まで。大阪公演は3月19日(金)〜21日(日)まで、COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール。取材・文:五月女菜穂
2021年03月03日新国立劇場12月演劇公演『ピーター&ザ・スターキャッチャー』に出演する入野自由による絵本読み聞かせ動画が12月24日のクリスマスイブに公開された。『ピーター&ザ・スターキャッチャー』は、劇作家リック・エリスが小説『ピーターと星の守護団』を戯曲化した音楽劇。ある孤児の少年が海賊たちと冒険を繰り広げ、大人にならない“永遠の少年”ピーター・パンになるまでを描いた前日譚だ。ノゾエ征爾を演出に迎えた、日本初演が12月10日(木)~27日(日)に新国立劇場にて上演されている。そんな『ピーター&ザ・スターキャッチャー』から主人公の少年を演じる入野が、絵本『ピーターパンとウェンディ』を読み聞かせる動画が公開された。誰もが知る物語を、美しい絵本で贈る。この動画は1月31日(日)までの期間限定配信となっているので、ぜひ本日のクリスマスや年末年始に家族と一緒に視聴してほしい。◆入野自由の絵本読み聞かせ【ギャラリープロジェクト】絵本読み聞かせ配信:12月24日(木)~1月31日(日)新国立劇場 公式YouTubeチャンネルにて公開(無料)読む絵本:『ピーターパンとウェンディ』読み手:入野自由【公演概要】『ピーター&ザ・スターキャッチャー』上演期間:12月10日(木)~27日(日)会場:新国立劇場 小劇場<地方公演>●2021年1月9日(土)・10日(日)14:00 / 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール●2021年1月13日(水)18:00 / サンポートホール高松 大ホール●2021年1月17日(日)13:00 / 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール●2021年1月24日(日)13:00 / 北九州芸術劇場 中ホール●2021年1月30日(土)・31日(日)14:00 / 水戸芸術館 ACM劇場公演詳細:
2020年12月25日舞台『ピーター&ザ・スターキャッチャー』が12月10日、2回のプレビュー公演を経て新国立劇場にて開幕。併せて、舞台写真と演出を担当するノゾエ征爾と主演を務める入野自由からコメントが到着した。本作は2004年に米国で出版され、日本でも『ピーターと星の守護団』として知られている小説を基に劇作家リック・エリスが戯曲化したもの。ある孤児の“少年”が海賊たちと戦う冒険を繰り広げ、大人にならない永遠の少年“ピーター・パン”になるまでを描いた『ピーター・パン』の前日譚となっている。そんな『ピーター&ザ・スターキャッチャー』を、新国立劇場で2014年に上演された『ご臨終』を演出したノゾエを演出に迎え日本初上演。ブロードウェイで2012年に開幕し、トニー賞9部門にノミネート、5冠を勝ち取ったヒット作を入野、豊原江理佳、宮崎吐夢、櫻井章喜、竹若元博、玉置孝匡、新川將人、KENTARO、鈴木将一朗、内田健司、新名基浩、岡田正の総勢12名のキャストと共に作り上げる。上演は12月27日(木)まで。チケットなどの詳細は新国立劇場HPの公演情報でチェックしてほしい。<演出:ノゾエ征爾コメント>いやぁやばいです。間に合ってないです。ってそれはもちろん冗談ですが、まんざら冗談とも言い切れないくらい探索の尽きない作品です。そしてこの作品は特に、お客さんが最後のピースを担う要素が強いように感じます。次々と切り替わる風景を、生演奏と共に、気楽に楽しんでいただけたらと思います。皆さんと一緒に、ピーターの船の帆をあげていけましたら、それ以上の喜びはありません。<主演:入野自由コメント>僕が演じる「少年」は、永遠の少年「ピーター・パン」になる男の子。特別な男の子のようですが、素朴で人間味のある子です。僕自身も、役者をやっている上で、自分の取り柄ってなんだろうと周りを見渡したときに、僕は普通だな、特別な人間じゃない気がすると感じ、引け目に思うことがあります。今回はそこを逆手に、自分自身がもつ素朴さや普通だと感じる部分が、ピーターと巧くリンクしたらいいなと思っています。こどももおとなも楽しめる作品になるよう、必死にみんなで探りながら作ってきました。シンプルな舞台上でキャストが身体を使って表現する、演劇の魅力が詰まった舞台になっています。楽しみに観に来ていただければ嬉しいです。『ピーター&ザ・スターキャッチャー』コメント&稽古場映像【公演概要】「ピーター&ザ・スターキャッチャー」公演日程: 12月10日(木)~27日(日)会場:新国立劇場 小劇場【12月のギャラリープロジェクト( )】●絵本読み聞かせ(読み手:入野自由)入野自由による絵本読み聞かせをオンライン配信公開:12月24日(木)~1月31日(日)※収録配信のため、期間中いつでも視聴可能配信サイト:新国立劇場 公式YouTubeチャンネル(無料)読む絵本:『ピーターパンとウェンディ』●おうちでバックステージツアー『ピーター&ザ・スターキャッチャー』の舞台美術の説明や開幕に至るまでの足跡等を解説する動画を配信配信:12月中旬~1月31日(日)
2020年12月11日ノゾエ征爾が演出を務め、「ピーター・パン」の物語の前日譚を描く音楽劇「ピーター&ザ・スターキャッチャー」が新国立劇場で12月10日より幕を開ける。11月中旬、主演の入野自由、ヒロインの豊原江理佳、そして宮崎吐夢、櫻井章喜ら実力派キャストが揃った稽古場に足を運んだ。2012年にブロードウェイで上演され、トニー賞5部門を受賞するなど高い評価を得た本作。ピーター・パンはなぜ空飛ぶ永遠の少年になったのか? ネバーランドはどのようにして生まれたのか? 誰もが知る物語の誕生の秘話が描き出される。のちにピーターとなる“少年”を演じるのは入野自由。登場時は、苗字はおろか名前すらも与えられていない孤児の少年で、孤児院の院長により異国へ向かう船に売られてしまう。“ピーター・パン”の萌芽を垣間見せつつも、いまだ何者でもない彼が徐々に成長し、リーダーシップとカリスマ性を手にしていく様を入野が生き生きと表現する。そんな少年の運命を変える存在であり、本作において強烈な輝きを放っているのが、豊原江理佳が演じるヒロインのモリー。「なによ? 女の子だって夢を見るの!」というのは、彼女の冒頭のセリフ。女は男に従うのが当然だった時代に、好奇心旺盛な10代の少女は、持ち前の知性と行動力で少年と共に冒険を繰り広げ、新しい時代の女性像を体現。ピーター・パンの誕生に大きく関わっていくこととなる。ユーモラスな“敵”の存在も「ピーター・パン」に欠かせない要素だが、本作にもしっかりと魅力的な敵たちが登場する。海賊・黒ひげを演じるのは文学座の実力派・櫻井章喜。そして、大人計画の宮崎吐夢が、オリジナルの「ピーター・パン」でもおなじみの海賊・スミ―を演じている。他にも、モリーの父親で、ビクトリア女王の命によりある使命を遂行しようとするアスター卿を新川將人が、モリーの乳母ミセス・バンブレイクを岡田正が演じるなど、経験豊かなベテランが脇を固めている。50代以上の面々からは、ダンスの稽古の際には「腰問題」「肩問題」といった自虐的な言葉が苦笑まじりにたびたび漏れていたが、いざ始まると一同、キレのあるダンスと美しいハーモニーを披露し、この魅惑のファンタジーの世界を確かな実力でしっかりと支えていた。そしてもうひとつ、本作を語る上で欠かせないのが元SAKEROCKの田中馨&野村卓史の生演奏による音楽。舞台の後ろに控え、各楽曲の伴奏に加えて、この日の稽古中もノゾエのリクエストに応じて船の汽笛の音を再現するなど、多彩な音で楽しませてくれる。実力派の俳優陣の演技と歌声とダンス、そして魅力的な音楽が重なり合い、あの「ピーター・パン」の世界がどのようにして作り上げられていくのか? 完成を楽しみに待ちたい。「ピーター&ザ・スターキャッチャー」は新国立劇場 小劇場にて12月10日より上演。(プレビュー公演:12月5日、6日)取材・文/黒豆直樹
2020年12月02日「春に出演していた舞台が、当初の予定の4分の1しか公演できずに中止になってしまいました。悔しさと、有り余ったエネルギーとでモヤモヤしている最中に今回の舞台のお話をいただいて…。ここにすべてをぶつけようと気持ちを切り替えました」穏やかな口調の奥に、宮沢氷魚さんの強い覚悟すら感じる。コロナ禍にある今の時世に立ち上げられたのが、舞台『ボクの穴、彼の穴。』。演じるのは、戦場で塹壕にひとり取り残された兵士の役だ。「見えない敵と戦うというのが大きなテーマなんですが、いま上演する意味がすごくある気がするんです。僕らが生きている世界でも、コロナをはじめ災害や人種差別…もっといえばSNSなどでの誹謗中傷とか、正体のわからないものと戦うことが多くなっています。そういうものに対し、どう立ち向かってどう乗り越えたらいいかを考えさせられる作品じゃないかと思います」孤独のなか死の恐怖に怯え、戦争のマニュアルに書かれた敵の姿を想像し、猜疑心を募らせていく。「家にいるだけで必要なものは何でも手に入るぶん、孤立するのが簡単な時代です。でも自分の世界に閉じこもることで見えなくなってしまうものも多い。自分の穴から一歩踏み出して、他者を理解しようと歩み寄る姿勢というのが、これまで以上に大事なんじゃないかと思うんです」出演者はたったふたり。主人公と同じように塹壕にひとり残った敵方の兵士を、2度の共演経験のある大鶴佐助さんが演じる。「佐助くんは言葉をものすごく大事にする役者さん。セリフのひとつひとつに、書かれている理由があって、それをしっかりと意識して発しているのがわかります。毎日稽古場ですばらしい芝居を届けてくれるので、それにすごく刺激を受けています」ふたり芝居というハードル以外にも今回は、「これまでとはちょっと違う不安と戦っている」とも。「装置や小道具が最低限しかなくて、舞台上には僕らだけ。間違いなく、自分の身体なり、言葉や佇まいで劇場の空間を埋める表現が大事になってくる。物語はいきなり戦争の最中から始まるんですが、その緊迫した精神状態とか切迫感とか、家で脚本を読んでいると近づけているように思っていても、稽古場に来ると全然足りていないのがわかるんです。自分の頭の中だけでは、太刀打ちできない世界なんですよね。セリフ自体は簡単な言葉ですが、だからこそ、気持ちをきちんとのせないと薄っぺらく聞こえてしまうんです。言葉をちゃんと自分のものにして、稽古場で生まれる全部を体で感じながら、セリフを発していくことを大事にしたいと思っています」宮沢さんにとって、これが5作目の舞台出演となる。「初めて舞台に立つ時に、ある方から『一回舞台に立ったら、たぶん一生やるよ』って言われたんです。その時は、毎日重圧と戦わなきゃいけないのにと半信半疑でしたけど、いまは少しわかってきました。すごくしんどいんですけれど、それに勝る喜びとか感動とか達成感を肌で感じて、自分がすごく充実するんです」『ボクの穴、彼の穴。』戦場の塹壕に取り残された兵士(宮沢)。殺すか殺されるか、穴の中にじっと身を潜める彼は、「戦争のしおり」に書かれたモンスターのような敵の姿を想像し、自らの妄想に恐怖心を煽られていく。敵方の兵士(大鶴)もまた同じ状況とは知らず…。9月17日(木)~23日(水)池袋・東京芸術劇場 プレイハウス原作/デビッド・カリ訳/松尾スズキ(千倉書房より)翻案・脚本・演出/ノゾエ征爾出演/宮沢氷魚、大鶴佐助全席指定8000円(税込み)サンライズプロモーション東京 TEL:0570・00・3337みやざわ・ひお1994年4月24日生まれ。アメリカ出身。モデルの傍ら、今年公開の『his』で映画初主演するなど俳優として着実にキャリアを重ねている。公開待機作に映画『騙し絵の牙』。※『anan』2020年9月23日号より。写真・小笠原真紀ヘア&メイク・阿部孝介(トラフィック)インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2020年09月20日9月17日(木)から23日(水)まで東京芸術劇場 プレイハウスにて上演される舞台『ボクの穴、彼の穴。 The Enemy』のライブ配信が決定した。【チケット情報はこちら】ライブ配信されるのは9月21日(月祝)18 時公演。PARCO劇場がオンラインで演劇の魅力を伝えるプロジェクトPARCOSTAGE@ONLINE として東京芸術劇場で上演中の舞台のライブ配信が行われる。本作は、松尾スズキが初めて翻訳を手掛けて話題となった絵本をもとに、 ノゾエ征爾が翻案、脚本、演出を手掛け、2016年、旧PARCO劇場の「クライマックス・ステージ」を飾った傑作舞台の再演。前作に引き続き、演出はノゾエ征爾。新たな「ボク」と「僕」には、新生PARCO 劇場のオープニング・シリーズ第一弾『ピサロ』にて、太陽の息子・インカ王アタウワルパを堂々と、神々しく演じた宮沢氷魚。そして同作品で将軍ピサロの小姓マルティンを繊細に表現した大鶴佐助が演じる。舞台『ボクの穴、彼の穴。 The Enemy』ライブ配信<ライブ配信期間>9月21日(月・祝) 開場 17:30/開演 18:00※アーカイブ(見逃し)配信:9月24日(木)23:59 まで<視聴チケット料金> 3,000 円(税込)<販売期間> 2020 年 9 月 14 日(月)12:00~9 月 24 日(木)20:00 まで
2020年09月11日初演から4年。松尾スズキが翻訳した絵本をもとに、ノゾエ征爾が翻案、脚本、演出を手掛けた舞台『ボクの穴。彼の穴。The Enemy』が、キャストを新たに再演される。戦場の塹壕にひとり残され、互いに見えない敵と戦う孤独な兵士を演じるのは、宮沢氷魚と大鶴佐助。注目の若手俳優が、今この作品を演じる意味を真摯に受け止め、二人芝居に挑む。【チケット情報はこちら】過去に、『豊饒の海』(18年)と『ピサロ』(19年)で共演しながらも、これまでは芝居をやりとりするシーンがなかったという二人。それだけに、「ようやく二人で絡むことができる」(宮沢)、「それも二人芝居という贅沢な環境で」(大鶴)と、うれしさを隠せない様子である。互いを良きライバルと感じてもいる。「僕はいつも、稽古場で佐助の芝居を見ていて悔しくなるんです。スキルの高さもそうですし、自分では想像もつかなかったような角度から切り込んでいったりするので」(宮沢)「氷魚ちゃんは芝居に対する向き合い方が本当に誠実。発する言葉がすごく美しいんです。タイプもアプローチの仕方も違いますけど、いつも“いいねぇ!”と思っています」(大鶴)。そんな二人が丁々発止の芝居を見せるのは、戦場の塹壕に残された兵士の物語。“戦争のしおり”というマニュアルに操られ、見えない相手がどんどん大きなモンスターとなっていき、恐怖と疑心暗鬼にさいなまれる。「今回のコロナ禍でもそうですが、世界中で排他や差別の風潮があると思うんです。どんな時代もプロパガンダで人を操作することもなくならない。だから、そういう問題に面と向かっていくこの作品を、今このタイミングでやることは、すごく意味があると思うんです」(宮沢)。「目に見えないものに怯えて、どんどん疑心暗鬼になって、どんどん壁を作っていく。まさに今の僕たちのことだと思うので、その怖さを伝えられたらと思います」(大鶴)。ともに観客の前で演じるのは久しぶりのことになる。「無観客配信も経験しましたけど、やっぱりお客さんがいることで力をもらえていたんだと実感しました」と大鶴。宮沢も、「お客さんの熱は間違いなく役者に届いていて、劇場で生まれるものが間違いなくある」と語り、こう決意する。「まだまだ先行きが見えなくて手探り状態ですが、こうして佐助と二人芝居ができるというのはちょっと光が見えた感じがあるので。その光を消さないように進んでいきたい」。大鶴も「より覚悟を持って芝居したい」と声を合わせる。役者も劇場も観客も、切なる思いは同じである。取材・文:大内弓子宮沢氷魚 メイク:阿部孝介(トラフィック)
2020年08月31日笑福亭鶴瓶と藤ヶ谷太輔のダブルMCでこの春から新たなスタートを切った「A-Studio+」の4月10日(金)放送回に、女優の多部未華子がゲスト出演。放送予定のドラマ「私の家政夫ナギサさん」で主演を務める多部さんの素顔に迫る。スカウトされ現在の事務所に入ると、2009年、NHK連続テレビ小説「つばさ」のヒロインに抜擢。翌年エランドール賞新人賞を受賞すると、三浦春馬とW主演した『君に届け』や、日本テレビ系「デカワンコ」。綾野剛、松坂桃李、菅田将暉、中村倫也と共演した『ピース オブ ケイク』や人気韓国映画の日本版『あやしい彼女』といった主演作が次々と公開、放送。2016年夏クールの「仰げば尊し」では不良少年たちを厳しくも優しく見守る主人公の娘を、「先に生まれただけの僕」では櫻井翔演じる主人公の恋人を、昨年放送の「これは経費で落ちません!」では領収書から社内の問題を見つけ出していく主人公を演じるなど、役柄の幅広さや演技力にも定評がある多部さん。今夜もクールなイメージの多部さんを鶴瓶さんと藤ヶ谷さんが徹底取材。鶴瓶さんは現在仕事で海外に住んでいるという多部さんの18年来の親友をテレビ電話取材、毎日連絡を取り合っている2人のメールのやりとりとは!?藤ヶ谷さんは多部さんがプライベートで仲良くしている俳優の松尾諭を取材。さらに多部さん主演の新ドラマ撮影現場にこっそり潜入して、監督はじめスタッフの協力のもと多部さんに内緒でセットなどに様々な“仕掛け”を…それを初めて知った多部さんの反応は?ほかにも多部さんの30歳記念イベントの演出を務めたノゾエ征爾やドラマで共演している瀬戸康史も登場する。多部さんが主演する新ドラマ「私の家政夫ナギサさん」は電子書籍サイト「コミックシーモア」発のWEBコミックをドラマ化。バリバリ働く28歳のキャリアウーマン・相原メイを多部さんが演じ、彼女が雇うことになる全ての家事を完璧にこなす“おじさん”スーパー家政夫・鴫野ナギサを大森南朋。メイの前に出現するライバル製薬会社のMR・田所役で瀬戸さんが出演する。「私の家政夫ナギサさん」は毎週火曜22時~TBS系にて近日放送開始予定。「A-Studio+」は4月10日(金)今夜23時~TBS系で放送。(笠緒)
2020年04月10日ノゾエ征爾率いる劇団はえぎわ。その番外公演が2月28日(金)に開幕する。公演タイトルは、「はえぎわの番外公演をニッポン放送がプロデュースするよ『お化けの進(すすむ)くん』」。こんなに経緯がわかりやすいタイトルも珍しいのでは?出演はノゾエはじめ、井内ミワク、町田水城ら、はえぎわの一部メンバーとゲスト含め8人。そして今作の最大の特徴は、ノゾエいわく「ミュージカルみたいなの」であるということ。もともと、作品の中で音楽を効果的に使うことが多く、近年は音楽劇も多く手掛けているノゾエ。松尾スズキの絵本を舞台化した『気づかいルーシー』や、昨年の東京芸術祭で上演された野外劇『吾輩は猫である』なんかはまさにそうだ。しかしこれらはあくまでも「音楽劇」であり、そんなノゾエがあえて今作の企画で出した「ミュージカル」という言葉……はたしてどんなものになるのか、否が応でも期待は高まってしまう。また、音楽を手掛けるのが田中馨(Hei Tanaka)という点も要注目だ。近年ノゾエとのタッグが多い彼だが、上記の『気づかいルーシー』も『吾輩は猫である』でも音楽を担当。いわゆる「正統派ミュージカル的な音楽」とはまた違う、まるでおもちゃ箱をひっくり返したような奇妙さと楽しさが同居する田中の音楽は、ノゾエの作り出す世界観ととても良く合う。しかも今回は田中率いるバンドHei Tanakaのバンドメンバーも出演、生バンドの演奏に合わせての舞台とのこと。ミニマムな番外公演とはいえ、なんとも豪華ではないか!今年5月にはシアターコクーンでの『母を逃がす』演出も控え、今後も大きなプロデュース公演の仕事が立て続くこと必至のノゾエ征爾。そんな彼が「やりたいこと」が、この公演には詰まっているはずだ。その贅沢さをぜひ味わいたい。『お化けの進くん』は3月10日(火)まで東京・ニッポン放送のイマジン・スタジオで上演される。文:川口有紀
2020年02月26日数年後に振り返ったとき、2020年がオリンピック・パラリンピックと共に語られることは確かだろうが、同様に、演劇の話題作が目白押しだった年、としても記憶されるかもしれない。現在すでに発表されているラインナップを目にしただけでも、そう感じる人は少なくないはずだ。約4年のブランクを経て新たにオープンするのが、PARCO劇場。1月の『志の輔らくご 』、2月の『ラヴ・レターズ』に続いて、 3月よりオープニング・シリーズとして多彩な作品が上演を控えている。3~4月に渡辺謙主演『ピサロ』、5月に演出・森新太郎と佐々木蔵之介のタッグによる『佐渡島他吉の生涯』を上演。続いて、“三谷幸喜三作品三か月連続上演”と題し、6月から8月まで三谷による新生PARCO劇場への書き下ろし第1作『大地』を披露する一方、7月には『大地』終演後の舞台を使って22時に開演する『三谷幸喜のショーガール』、8月には三谷文楽『其礼成心中』を上演。9月には作・長田育恵&演出・栗山民也『ゲルニカ』、10月には生瀬勝久、池田成志、古田新太が組む「ねずみの三銃士」の最新作(作・宮藤官九郎、演出・河原雅彦)、11月には前川知大作・演出作品、12月には同名の米映画を音楽劇として宮本亞門が舞台化する『チョコレートドーナツ』を上演。オープニング・シリーズは2021年 5月上旬まで続き、全14作品がラインナップされている。渋谷でPARCO劇場と双璧をなすBunkamuraのシアターコクーンは、松尾スズキ新芸術監督のもと、劇場そのものがどのように表現されていくかに注目が集まっている。主催公演としてラインナップされているのは、鄭義信作・演出による『泣くロミオと怒るジュリエット』(2~3月)、1999年、2010年に上演された松尾スズキの戯曲をノゾエ征爾が演出する『母を逃がす』(5月)、赤堀雅秋の作・演出作品(6月)、DISCOVER WORLD THEATRE(8~9月)、松尾自らの作・演出作品(10月)、三浦大輔の作・演出作品(12月)。松尾芸術監督らしい、清濁併せのむような独自の色を期待したい。また4月のシアターコクーンでシス・カンパニー公演として上演される『桜の園』は、ケラリーノ・サンドロヴィッチがチェーホフ四大戯曲に取り組む企画の第4弾で、大竹しのぶ、宮沢りえ、井上芳雄、黒木華、杉咲花ら華々しいキャストがシリーズの掉尾を飾る。現代演劇としてはほかに、草なぎ剛が白井晃演出のもとブレヒトの世界に挑む『アルトゥロ・ウイの興隆』が1月に開幕。劇団☆新感線が2月から4月まで東京と福岡で『偽義経冥界歌』を上演。宮藤官九郎は、「ねずみの三銃士」への書き下ろしに加え、4~5月には5年ぶりとなるウーマンリブの公演『もうがまんできない』を行う。吉田鋼太郎が芸術監督を務める〈彩の国シェイクスピア・シリーズ〉では、2月に『ヘンリー八世』、6月に『ジョン王』の開幕が控える。また、2月開幕の『ねじまき鳥クロニクル』では、村上春樹の原作を藤田貴大がインバル・ピントらと組んでどう具現化するかに興味が寄せられている。そして、『エブリ・ブリリアント・シング~ありとあらゆるステキなこと~』(1~2月、佐藤隆太出演、谷賢一演出)、『ガールズ&ボーイズ -Girls & Boys-』(5月、長澤まさみ出演、蓬莱竜太演出)、『殺意(ストリップショウ)』(7月、鈴木杏出演、栗山民也演出)と一人芝居の注目作も今年は多い。2020年のミュージカルの上演予定作品を見てまず気がつくのは、イギリスの巨匠作曲家アンドリュー・ロイド=ウェバーの作品の多さだろう。3月に三浦春馬、生田絵梨花らの出演で日本初演を果たす『ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド~汚れなき瞳~』、同じく3月に5年ぶり3度目の上演となる『サンセット大通り』、4~5月にHey! Say! JUMPの薮宏太が主演する『ジョセフ・アンド・アメージング・テクニカラー・ドリームコート』、8~9月に鴻上尚史の演出で日本初演となる『スクール・オブ・ロック』が待機している。一方、ロイド=ウェバー屈指の名作『キャッツ』を大井町の専用劇場でロングラン上演しているのは、劇団四季。四季といえば、2020年にはJR東日本四季劇場[春]、JR東日本四季劇場[秋]の2劇場のオープンが控えており、[春]では9月から待望の『アナと雪の女王』を上演、7月にオリジナル作品『劇団四季 The Bridge ~歌の架け橋~』で開場する[秋]では、やはりロイド=ウェバーの『オペラ座の怪人』が10月にロングラン公演を開始する。また、台本・作詞を長田育恵、演出を小山ゆうなに託した四季の新作オリジナルミュージカル『ロボット・イン・ザ・ガーデン』(自由劇場で10月に開幕)にも演劇ファンの視線が集まるにちがいない。また、NYやロンドンで人気を博したミュージカルの翻訳上演も目立ち、3~4月にはアニメ映画を下敷きにした『アナスタシア』、大ヒット映画を舞台化した『ボディガード』、5月にはアラン・メンケン作曲、小池修一郎演出・訳詞による『ニュージーズ』、6月には渡辺直美主演『ヘアスプレー』が上演を控えている。ちなみに『アナスタシア』は、6~8月に宝塚歌劇宙組が上演を予定しており、ふたつのバージョンを見比べるのも面白い。鉄板の再演作品といえば、東宝版主演から20周年を迎えた『エリザベート』を筆頭に挙げたい。4月から8月まで5カ月にわたって、東京・帝国劇場のほか、大阪、名古屋、福岡をまわり、節目の公演を各地の観客と分かち合う。これに加えて、帝劇では、上演回数が1500回に迫る『ミス・サイゴン』を5~6月に、7~8月にシアタークリエ版のスケールアップが楽しみな『ジャージー・ボーイズ』を上演、11月にはWキャストの平原綾香と水樹奈々が圧巻のパフォーマンスを競った『ビューティフル』の3年ぶりの再演が実現する。一方、徹底したオーディションとレッスンでビリー役の少年たちが驚異的な成長を見せ、2017年の日本初演が大きな反響を呼んだ『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』が7月から11月にかけて東京・大阪で上演されるのもうれしい。古典芸能に目を移すと、ふたつの大きな襲名が一際大きな注目を集めている。歌舞伎では、十三代目市川團十郎白猿の襲名披露興行が、5~7月の歌舞伎座を皮切りに、11月に博多座、2021年2月に大阪松竹座、4月に御園座、11月に南座で開催される。襲名披露がこれほど長期にわたって行われるのは、團十郎がそれだけ大きな名跡である証にほかならない。また、講談師・神田松之丞は、2月の真打昇進に伴って、神田伯山を六代目として襲名。実に44年ぶりとなる大名跡の復活であり、歌舞伎界、講談界ともに、求心力のある存在の活躍があるからこそ、シーン全体の盛り上がりを期待したくなる。
2020年01月01日来年1月にシアターコクーンの新芸術監督に就任する松尾スズキが、1999年に自身の劇団「大人計画」で上演、2010年には再演もされた舞台「母を逃がす」の上演が決定。瀬戸康史、三吉彩花、稲葉友ら出演、新演出で上演される。自給自足の共同生活を営んでいる架空の農業コミューンを舞台に、そこに生きる人々の切実な日常生活を痛烈な笑いで描き、話題となった本作。1999年には第3回鶴屋南北戯曲賞にもノミネートされた。今回、集落の頭目代行で住民たちをまとめるリーダー的存在・雄介役を演じるのは、近年では「パーフェクトワールド」「ルパンの娘」が話題となった瀬戸康史。「お話をいただいた時、この世界には足を踏み入れてはいけないような気がして、何とも言えない感情になった」と語る瀬戸さんだが、「見たことのない世界って足を踏み入れたくなるものです」とコメント。また、雄介の妹リク役には『ダンスウィズミー』で注目を浴び、今回舞台初出演となる三吉彩花。「また新たなる『初めて』を経験させて頂くことになり、緊張と興奮で震えます」と心境を明かし、「年々流行や物事の流れが早くなっている今の時代に良い意味で刺さる、そしてブレない戯曲を上書きしていけるよう、先輩方に教わりながら精一杯演じさせていただきたいと思います」と意気込んでいる。さらに、流れ者の葉蔵役に稲葉友、雄介の婚約者蝶子役に山下リオ、集落の医者赤痢役にマキタスポーツ、集落の女警備長島森役に峯村リエ、雄介の母ハル子役に高田聖子、雄介の兄地介役に六角精児。そのほか、家納ジュンコ、もう中学生、湯川ひな、武居卓に加え、町田水城、山口航太も参加する。なお、今回演出を手掛けるのは、劇団はえぎわの主宰ノゾエ征爾。「このとんでもなくモンスターな本とどう取っ組み合おうかと、考えたところで分かりそうになかったので、ひとまず無邪気に取っ組みあってくれそうな方々を呼ばせていただきました。揃いました、素晴らしき珍獣たち」とキャストについてコメント。松尾さんは「芸術監督ともなれば、新しい演出家をコクーンに呼びこむというような仕事もあり、そうなると、真っ先に頭に浮かんだのが、ノゾエ征爾なのだった。彼が私の教え子であることを差し引いても、コクーンという劇場の空間を埋めるスペクタクル演出のできる数少ない若手演出家なのに、なぜ早くコクーンに出てこないのだと思ってすらいた」とノゾエさんについて語っている。<ストーリー>“自給自足自立自発の楽園”をスローガンに掲げた架空の農業集落「クマギリ第三農楽天」。病に倒れた父に代わり村をまとめる頭目代行の雄介(瀬戸康史)は、リーダーシップのなさに悩みながら頭目代行としての存在感を示すために、仮想敵国との対立を演じたり、死刑を復活させようとしたりしている。たった一つの存在価値のあかしは婚約者の蝶子(山下リオ)。いまは刑務所に入っている兄・地介(六角精児)の婚約者だったが妊娠せず、地介入所後、雄介の子どもを身ごもった。しかし、住人たちは頭目代行を全く頼りにせず、妹・リク(三吉彩花)は兄に反抗して彼が統治するこの土地を楽園だと認めようとしない。その上、女警備長の島森(峯村リエ)とよからぬ関係。ある夜、集落は謎の男の襲撃を受ける。翌朝の集会で人を集め、雄介は敵国からの攻撃対策の自警団設立を提案するが島森は難色を示す。そんなことをよそに、捨て子のトビラ(湯川ひな)は壊された合同テレビの修理をしてほしく、外部から来る保険手続き代行人の一本(町田水城)の来訪を待ちわびるばかり。事あるごとに自信を喪失する雄介。そんな息子を、母・ハル子(高田聖子)は心配する。ある日、集落に2人の流れ者がやって来て、仮想敵国・シカノバルからのスパイ容疑で雄介に捕まえられる。力持ちだが頭の弱い万蔵(もう中学生)と、切れ者の葉蔵(稲葉友)だ。2人はいとこ同士で、万蔵がシカノバルで起した事件のために逃げてきたという。そしてもう一人、監獄に入っていた地介が故郷に戻ってきて――。シアターコクーン・オンレパートリー2020「母を逃がす」は2020年5月7日(木)~25日(月)Bunkamura シアターコクーンにて上演。※2020年6月上旬、大阪にて上演予定。(cinemacafe.net)
2019年12月04日東京・豊島区池袋エリアを中心に展開する国際舞台芸術祭として、2016年に開始した東京芸術祭。4回目となる今年は9月21日よりスタートしており、国内外を問わずさまざまな団体のプログラムが今後も予定されている。中でも、この東京芸術祭ならではの演目と言えるのが東京芸術劇場の前に広がる池袋西口公園で行われる「野外劇」。今年の野外劇『吾輩は猫である』が、10月19日(土)から29日(火)まで上演される。タイトルから想像できるように、下敷きとなるのは夏目漱石のかの代表作。しかしただの“舞台化”にはならないようだ。まず出演者の数は、およそ500人の応募者から選ばれた約80人。そして脚本・演出を手がけるのは、近年活躍目覚ましいノゾエ征爾。今年活動20周年を迎えた劇団「はえぎわ」主宰として公演もコンスタントに行うだけでなく、近年はさまざまなプロデュース公演の演出家としてもまさに引っ張りだこの状態。それでいて、個性派俳優として舞台やドラマなどへの出演も多い。最近でもNHK大河ドラマ『いだてん』にアナウンサー役で出演しており、その神出鬼没ぶりには驚かされる。そんな彼が今回手がけるのは、大人数が出演する野外劇という、いわゆる一般の公演とは少し毛色が違うもの。しかし、心配は無用といえるだろう。なぜなら彼は2016年に故・蜷川幸雄の後を引き継ぐ形とはいえ、なんと出演者1600人あまりというかつてない大作『1万人のゴールド・シアター2016』の脚本・演出を手がけた経験がある。もともと、強烈な個性を持つ人物たちが群像劇的に交叉してゆく作風が印象的なノゾエ作品。シニカルさとユーモア、そして毒がほどよくまぶされた彼の作風が、池袋というどこか猥雑な雰囲気も持つ街中という特殊なシチュエーションで、どう花開くのか。オーディションで集められた俳優たちも年齢・出自ともにバラバラとのこと、通常の劇場では観られないまさに“一期一会”の公演となりそうだ。少雨決行・荒天中止。前売りチケットは完売しているが、各ステージで当日券が発売されるほか、無料で観劇できる立ち見スペースも用意される。文:川口有紀
2019年10月16日劇団☆新感線の高田聖子が、“劇団とは違う新しい試みに挑戦する”をテーマに、活動を続ける演劇ユニット「月影番外地」。その6度目の上演が決定、共演者の竹井亮介とともに話を聞いた。【チケット情報はこちら】竹井が月影に参加するのは、その4『つんざき行路、されるがまま』以来2度目。高田は、「俳優さんって、正直面倒くさい人が多いんです(笑)。でも竹井さんにはそれがない。これはとても重要なこと!」と、竹井に独自の観点から信頼を置く。一方の竹井は、それまで“新感線=怖い人”というイメージを抱いていたようで…。「でも実際はものすごく物腰が柔らかい方だったので、それにギャップ萌えというか(笑)。すごく驚いたのと同時に、すごく面白いと思いました」と明かす。小劇場を舞台に、バカバカしくも濃密な人間ドラマを生み出してきた月影。これまで脚本を手がけてきたのは、千葉雅子が3作(前ユニット「月影十番勝負」含む)、福原充則が3作。そして今回、「どんなに好きな作家さんでも、逢瀬は3度までかしら (笑)」という高田のこだわりから、新たに「はえぎわ」のノゾエ征爾に白羽の矢が立った。「ノゾエさんの作品って、肌ざわりが独特で、吸引力がすごいんです。脚本だけ読むのと、舞台を観た感じがまた違うというか。だから今回木野(花)さんが演出することで、今までのノゾエさん作品とはまた違うものになるんじゃないかという期待をしています」ノゾエの脚本を初めて木野が演出する。それこそ月影ならではの取り合わせ。竹井は「木野さんってすごくダイナミックな演出をされるイメージがあるんですけど、逆に緻密な匂いがするのがノゾエさん作品。それを木野さんがどう立体化されるのか、すごく楽しみです」と期待を寄せる。さらに高田は「福原さんには木野さんと近いものを感じていましたが、ノゾエさんはまた違うタイプ。きっと今回は木野さんにとっても新しい挑戦になると思います」と続ける。詳しい内容についてはまだノゾエのみぞ知るところだが、「とりあえず車が出てきます!」と高田。竹井の役どころに関しては、「いろいろ活躍する人ですけど、なぜそうなんだろうということがポイントで…」と言葉を濁す。すると「それは初めて聞いたので、また楽しみが増えました!」と竹井。共演者には入江雅人、大鶴佐助、川上友里、池谷のぶえが名を連ねる。この組み合わせも月影ならではなだけに、何とも幕開けが待ち遠しい。公演は12月3日(火)から12日(木)まで、東京 ザ・スズナリにて。チケット一般発売は10月5日(土)10時より。取材・文:野上瑠美子
2019年09月20日ステージいっぱいに敷かれた布を雪景色に見立て、子供達の雪合戦が始まった。そこで起きた事故をきっかけに、子供たちの関係が大きく動き出す――。【チケット情報はこちら】この物語は、フランスの作家ジャン・コクトー『恐るべき子供たち』の舞台化。白井晃演出、ノゾエ征爾脚本により6月2日(日)まで神奈川・KAAT神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉で上演中だ。外界を知らずに成長した不遜な姉弟を演じるのは、南沢奈央と柾木玲弥。姉エリザベートは、母を病気で亡くし、ケガをして引きこもる弟との“王国”を守ろうとし続ける美しくも残酷な少女。愛情か、依存か……南沢はポールへの執着を、生々しく感情を剥き出しにして振る舞い、登場人物も観客も巻き込んでいく。また弟・ポールは我がままで癇癪持ち。ポールの魅力がこの作品のキモでもあるが、まっすぐな感情を持て余す繊細さで周りの子供達を惹き付ける。演じる柾木は「稽古で皆と合わせていく中で役ができていきました」と振り返る。“物語の案内役”を担うのが、ポールの友人・ジェラール役の松岡広大。原作とは違う役どころとして、1歩離れた立ち位置で姉弟に関わっていく。松岡はストレートプレイ初出演だが、まっすぐで真面目な姿勢で丁寧に物語を語る。会見では「しっかりと言葉の意味を伝えることに、今まで以上にエネルギーを使いました」と真摯に述べた。絶妙なバランスの3人。その危うい均衡を脅かすふた役を、馬場ふみかが演じる。すべての始まりとなる雪合戦でポールにケガをさせる少年ダルジュロスと、彼に瓜ふたつの少女アガート。傲慢なダルジュロスと繊細なアガートを演じ分ける。「ふた役それぞれ違った目線で作品について考えることができるので面白い。同時に、(役の)スイッチングの難しさを感じています」。4人の子供たちの世界を白い布が表現する。1枚1枚剥いだり、布に溺れたり……自在に動く布が、彼らの関係性も表現する。強い風が吹いたら飛びそうな、もろい世界だ。「こんなにシンプルなセットは初めて。リングの上に立たされている気持ちで、逃げも隠れもできない状況での芝居です」(南沢)。4人以外の俳優たちが大人を演じ、子供だけの王国を際立たせる。大人になることを拒絶する子供たち――。演出の変更は日々重ねられており、より良い作品を模索する。白井晃の要求に柔軟に食らいつく俳優たち。2週間の上演期間のうちに、これからも大きく進化していくだろう。チケット発売中。取材・文・撮影:河野桃子
2019年05月20日白井晃(演出)とノゾエ征爾(上演台本)が初タッグを組む『恐るべき子供たち』が5月18日(土)に開幕する。ジャン・コクトーの小説を原作に思春期の姉弟の歪んだ関係を描く本作で、姉弟を演じる南沢奈央、柾木玲弥に話を聞いた。稽古が始まったばかりのこの日。南沢は「まだなんとなくですが、うすーく全体像が見えてきたかなという段階です。セットもすごくシンプルですし、小道具も極力使わない。子供たちの無垢さが際立つつくりになりそうです」、柾木は「原作を読んだときに、このよさが舞台でどう表現されるんだろうと思ったのですが、実際にやってみて“ああ、こうなるんだ。いいな”と思いました。おもしろいです」と話す。「子供たちの嫉妬や憎しみ、喧嘩の描き方がえげつない」(柾木)という本作で、20代ながら“子供”を演じることについて南沢は「白井さんには“子供っぽくやろうと思わなくていい”と言われました。普段より感情を出すようには意識していますが、シンプルに役を追求できれば子供になるんだと思います」、柾木は「最初は“子供を演じる”と思っていたのですが、稽古が始まって、“子供の思考や神経を演じる”のだなと思いました。声の高さを変えるということじゃなく」と話す。そのなかで、南沢の演じる、弟との“王国”を守ろうとし続ける美しい姉・エリザベートについては「最初は“こういう子、怖いな”と思ったのですが、稽古が始まって理解が深まっていくと、この子はただ純粋に感情を表現したり自分を守るために嘘をついているだけなんだと気付きました。そこが“子供”たる所以であって、怖い子というのとは違うんだと思うようになりました」。姉と共に幼稚で享楽的な価値観のまま成長していく弟のポールについて柾木は「ポールはときどき大人に憧れる瞬間があるのですが、姉によって大人になることを拒否“させられている”感じです」と語る。そんな姉弟役のお互いを「征木くんとはテレビドラマで姉弟役を演じたことがあって、数年ぶりにお会いしたら大人になっていました。芝居の瞬発力がすごい。ビビッてます(笑)。そして刺激も受けています」(南沢)、「南沢さんと一緒に芝居をしていて楽しいです。思ってもみない球がくるんですよ。そっちか!って」(柾木)と話す。とはいえ「でもお互い人見知りだよね」(南沢)、「今はまだ芝居のときしか目が合わない(笑)」(柾木)と暴露。姉弟の関係性をつくりあげていくのはこれから。開幕を楽しみに待ちたい。『恐るべき子供たち』は5月18日(土)から6月2日(日)まで神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオにて。チケットは残りわずか!取材・文:中川實穗
2019年04月26日今年1月25日に30歳を迎えた女優・多部未華子が、演じ、歌い、トークする2日間限定の特別公演「MIKAKO30~多部の素~」を5月に開催することが分かった。多部さんが“かねてからこれまで応援してくれた人たちと特別な時間を過ごしたい”という想いから企画したこの公演。「大人計画」の松尾スズキが書き下ろし、「デカワンコ」や舞台「農業少女」などで共演した俳優・吹越満を共演に迎えた、この日だけのオリジナルストーリーの“二人芝居”を上演するほか、総合演出にはノゾエ征爾を招き、トークあり、歌もありの、ここでしか見られない多部さんの魅力が凝縮された特別な時間をファンと過ごす。現在、母親役を演じた『トラさん~僕が猫になったワケ~』が公開中、これまで多数のドラマや映画、舞台、CMで活躍し、今後の公開待機作には『多十郎殉愛記』『アイネクライネナハトムジーク』がある多部さん。今回、30歳記念特別公演を開催するにあたり、「15歳からお仕事をはじめ、山あり谷ありでしたが、なんとかここまで運よくやってこれました。そこで、これまで応援してくださった皆々様に感謝の気持ちや素のわたしをお見せすべく(みんなが見たいかは別として)、わたしの生まれ故郷である西東京市のこもれびホールで特別公演することになりました」とこれまでの女優人生をふり返りつつ、この度の開催決定を報告。公演内容については「わたしのお父さん的存在、吹越満さんとの2人芝居や、皆様からいただいたリクエストをもとに、たくさんのステキなスタッフさん協力の元、中身が詰まった内容をお届けできるかと思います」と言い、「後にも先にも、わたし、これやりたいです!と自ら意見を言ったのは、“探偵ナイトスクープに出たい”と言ったことと、“30歳。応援してくださった方に直接お会いしたい”この2つだけです。自発的になにかやりたいと思うことも、それを実現させることも、なかなか今後生まれないでしょうから、ぜひ、この機会に皆様にお会いできたら嬉しいなと思います」とコメントしている。「MIKAKO30~多部の素~」は5月1日(水)・2日(木)、保谷こもれびホール 小ホールにて開催。(cinemacafe.net)
2019年02月25日KAAT芸術監督・白井晃が演出を手掛ける近現代戯曲シリーズ『春のめざめ』『恐るべき子供たち』が4、5月に連続上演される。その製作発表会が行われ『春のめざめ』に出演する伊藤健太郎、岡本夏美、栗原類、『恐るべき子供たち』に出演する南沢奈央、柾木玲弥、松岡広大、そして白井が登壇した。【チケット情報はこちら】白井は、今年この2作を続けて上演することについて「“生”と“性”シリーズといいますか、思春期の大人社会との対峙の中で子供たちがいかに戦っていくのか、どうやって自分の道を見つけていくのか。そういう若き日の葛藤を描く作品を、連続で上演する試みに挑戦します」とコメント。今回が2度目の上演となる『春のめざめ』は「昨今はミュージカルで有名になっていた作品ですが、もともとはストレートプレイだぞということをしっかり見せたいと思い、2年前に上演しました。そのときに好評をいただき、この作品をKAATで継続的に上演できたら、そして若き俳優の皆さんとこの作業を共有していくことができたらと、今回の再演に至りました」と話す。白井が初めて手掛ける『恐るべき子供たち』は「ジャン・コクトーの小説は若き頃から愛読しておりましたので、この作品を演劇にできないかと上演台本をノゾエ征爾さんに書いていただいています。これからいろんなアイデアを掘りながら、キャストの皆さんと一緒につくっていきたいです」と語った。『春のめざめ』の主演・伊藤は「僕は舞台が2度目なのでまだまだ素人のようなもの。白井さんやキャストの皆さんの胸を借りてしっかり演じていきたいです」と意気込み、岡本は「初演を客席で観劇したのですが、その日の日記には“ヴェントラ役をやりたかった”と書いていました」と明かす。初演に続き出演する栗原は「どんなに時代が進んでも、思春期に起こる身体の異変や、身体と脳の違いで、誰もが苦痛や葛藤を経験するのだと思いました。たとえ本が同じでもキャストが変われば完全に新作だと思うので、また一から皆さんとつくっていきたい」と話した。『恐るべき子供たち』の主演・南沢は「白井さんとはずっとご一緒したいと思っていたので、このお話をいただいたとき本当に嬉しかったです。白井さんから“大変だと思うけれど、覚悟して”と言われたので、心して挑みたいです」、映像を中心に活躍する柾木は「僕は最後の舞台出演が3年前。経験も浅いですが、一生懸命演じて素敵な作品にできたら」、松岡も「戯曲は初挑戦で緊張していますが、本番までしっかりがんばっていきたいです」とそれぞれ語った。『春のめざめ』は4月13日(土)、『恐るべき子供たち』は5月18日(土)に神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオで開幕。取材・文:中川實穗
2019年02月08日