近年、世界的な問題ともなっているフェイクニュースやステルスマーケティング。実は、パリでは200年ほど前から横行していたとも言われています。そこでご紹介するのは、まさにその原点とも言える姿を描き、注目を集めている映画『幻滅』です。今回は、主演を務めたこちらの方にお話をうかがってきました。バンジャマン・ヴォワザンさん【映画、ときどき私】 vol. 569フランスのアカデミー賞と言われるセザール賞において、作品賞をはじめ最多7冠を受賞した本作。そのなかで主人公のリュシアンを演じ、有望新人男優賞に輝いたバンジャマンさん。劇中では詩人を夢見ていた純朴な青年が、いつの間にか野心と欲望にまみれて身を滅ぼしていくさまを熱演しています。そこで、役作りへのこだわりや豪華共演者がそろった現場での様子、そして愛とは何かについて語っていただきました。―本作を手掛けたグザヴィエ・ジャノリ監督は、「バンジャマンこそ現代のリュシアンであり、すべてを具現化してくれた」と話されていますが、ご自身でもリュシアンと通じる部分はあると思いましたか?バンジャマンさんそうですね、僕もリュシアンと同じくらい少し弱いところがあると感じました。あとは、社交界での遊びを楽しんだり、メディアを利用したりするところも同じようなところがあるのかなと。でも、彼のような悲劇的な最期を遂げたいとは思っていませんよ。―19 世紀フランスを代表する文豪オノレ・ド・バルザックによる『幻滅——メディア戦記』が原作ということで、バンジャマンさんにとっては初のコスチューム劇となりました。これまでの作品と違いを感じるようなこともあったのでしょうか。バンジャマンさん今回心がけたのは、観客のみなさんがリュシアンの目を通してこの時代を理解できるようにすること。そのために特別な何かをしたというわけではありませんが、自分の存在がどうあるべきかを意識して演技しました。ここまで集中して撮影に挑んだことはなかったかもしれないと感じたほどです。大俳優との共演は、いつまでも心に残っている―表情や佇まいなどがどんどん変わっていくさまを見事に表現されていて素晴らしかったですが、実際に本作が完成したときは、どのようなお気持ちでしたか?バンジャマンさんこの映画に出られたことはもちろん、リュシアンという役を演じられたことがすごくうれしかったです。というのも、原作の小説はフランスでも非常に知られている作品ですし、僕の祖父が一番お気に入りの登場人物はリュシアンだったからです。それに、舞台が1820年代にもかかわらず、現代の世相や社会的な問題も反映されているところがあるので、そこもおもしろいなと。まさに“現代の鏡”とも言えますが、昔といまとで変わらないところが描かれているのがこの作品の魅力だと思いました。―今回は、豪華な先輩俳優たちも多数出演されていますが、印象に残っている共演者とのエピソードがあれば、教えてください。バンジャマンさんジェラール・ドパルデューという大俳優と共演できたこと、そして彼と向き合って目と目を見ながら撮影ができたことは、本当に素晴らしい経験になりました。僕にとっては手の届かない人であり、彼がやっていることを真似しようと思ってもとても真似できないような存在ですから。たとえほかのことを忘れてしまったとしても、ドパルデューさんと共演できた思い出は自分の心にいつまでも残っていると思います。―監督は、「バンジャマンはジェラール・ドパルデューと対峙しても揺るがない図太さがあって、2人は同じ金属でできている」とも表現されています。それを聞いていかがですか?バンジャマンさん僕はドパルデューさんだけでなく、ジャノリ監督のことをも尊敬しているので、そう言ってもらうことができてすごくうれしいですし、とても光栄です。これからもドパルデューさんと同じくらいの努力をしていきたいと考えています。愛とは、どんなリスクにも値するもの―また、日本でも人気のグザヴィエ・ドランさんとの共演はいかがでしたか?バンジャマンさんフランスでも非常にファンが多い方ですが、彼との共演もまた最高でした。とはいえ、実は初めて会う前は、監督として姿勢を残したまま現場に入ってくるのではないかと心配していたところもあったんです。でも、彼は100%俳優として参加してくれたのでとても助かりました。というのも、たまに俳優と監督を両方している方と共演すると、監督としての目線が垣間見えてやりにくいときがあるんです。今後監督する作品で僕を使おうかどうしようかと値踏みされているようなところがわかってしまうというか…。なので、最初は不安もありましたが、彼にはまったくそういうところがなかったので、とてもいいチームで素晴らしい映画が作れたと思います。―今回演じられたリュシアンは女性や文学への愛に生きた人物でもあると感じましたが、バンジャマンさんにとっての愛とはどのような存在なのかをお聞かせください。バンジャマンさん「怖い」とか「悲しい」みたいに簡単に説明できたらよかったのですが、愛について答えようと思うと、だいたいバカみたいな答えになってしまうものですよね(笑)。でも、それくらい難しい問いということではないでしょうか。ただ、僕にとって愛とはどんなリスクにも値するものだと考えています。女性読者のみなさんにとって、こういう話ってすごく大切なことですよね。―はい、その通りです。バンジャマンさんだから、僕がみなさんのためにいるんですよ(笑)。多くの人に、自分の愛を届けたいと思っている―素敵なお言葉、ありがとうございます。ちなみに、ご自身はどんなときに愛を感じますか?バンジャマンさん必ずしも同じ相手とは限りませんが、愛は毎日感じていますよ。というのも、恋愛関係からはもちろんですが、たとえばベンチに座っているおじいさんを見るだけでも愛情を抱くことはありますからね。そして、僕はなるべく多くの人に愛を届けたいとも思っています。自分のなかにある愛が少なくても多くても、そのすべてを相手にあげたいのです。120%の愛を持っていれば120%全部、それに満たなかったとしても持っているすべてを与えたいという気持ちでいます。―そういうところもリュシアンと似ているのかもしれませんね。それでは日本についてもおうかがいしたいのですが、どのような印象をお持ちでしょうか。バンジャマンさん日本に来たのは今回が初めてで、まだ前日に着いたばかりです。でも、すでに日本でできたクマが目の下にできてしまいました。というのも、到着した日の夜にバーを5、6軒はしごして、そのあとにナイトクラブを2軒回り、朝の8時に帰って来たからです(笑)。僕は完全に日本に恋してしまったところですが、本当に最高ですね!―初日からかなり満喫されていますね。バンジャマンさんこのあと10日ほどかけていろんなところを回るつもりですが、まだ行き先もホテルも決めていないような状態です(笑)。これからたくさん楽しみたいと考えているところなので、この質問は最後の日に聞いてもらったほうがもっと答えられたかもしれないですね。ただ、日本のゲームや食べ物は前から大好きですし、ファッションもすごくエレガントで素敵だなと感じています。ナイトクラブのなかでも、日本のみなさんの装いがスタイリッシュでかっこよかったです。ヨーロッパの服でも日本的な要素が入っているのが好きなので、ファッション面では影響を受けていると思います。自分のために時間を使うことを大事にしてほしい―最近はお忙しいと思いますが、オフのときはどのようにして過ごしていますか?バンジャマンさん絵を描いていることが多いですね。もともとは、役づくりで始めたものでしたが、いまは撮影以外の時間に自分の気持ちの奥底を探るためと自己表現の手段として絵を描くようになりました。俳優としての大きな撮影は1年に1~2回ほどですが、そのほかの時間を芸術に費やすことが俳優にとっては有効だと考えていますし、自分の内面を探ることでストレス軽減にもなっています。絵画といっても誰かに習っているわけではなく、自分で好きなように描くなかで自分なりのやり方を見つけているだけので、みなさんにもオススメです。あとは、スポーツもいいですよ。これは僕の場合ですが、スポーツをしているときのほうが恋愛もうまくいくことがありますから。―なるほど、おもしろいですね。それでは最後にananweb読者に向けて、メッセージをお願いします。バンジャマンさんまずは、自分のために時間を使うことを大事にしてほしいと思っています。そして、繰り返しにはなりますが、恋愛にはリスクと同じくらいの価値があるので、リスクを冒してでも恋愛に生きてほしいです。女性にとっても男性にとっても、愛というのはこの世にあるもののなかでもっとも美しいものですから。なので、仕事ばかりではなく、自分が愛を向ける対象を大事にする時間を持ってください。いまの時代は将来に対する不安も付きものなので、経済的な悩みに支配されてしまうかもしれませんが、自分のために時間を使い、しっかりと自分を見つめたほうがいいと思います。その過程でたとえ失敗しても、その経験が将来につながることもあるので、失敗を恐れずにチャレンジしてほしいです。僕はみなさんのことが大好きなので、ぜひパリにも遊びに来てくださいね。インタビューを終えてみて…。ほとんど寝ていない状態だったとは思えないほどパワフルで、チャーミングなバンジャマンさん。ときおり悩ましい表情や真面目な顔になるときもありましたが、その姿もまた美しかったです。26歳という若さながら、愛についての深い考察もさすがフランス人だと思いましたが、リュシアンを演じたからこそたどり着いた答えのようにも感じました。これからフランス映画界を盛り上げていく存在となることは間違いないので、今後にますます期待です。激動の世界へと飲み込まれていく!豪華絢爛な社交界を見事に再現するとともに、社会の闇や人々の間に渦巻く欲望をダイナミックかつスピーディに描いている本作。愛と情熱を持ちながらも誘惑に翻弄されてしまうリュシアンの生きざまは、現代を生きる私たちにも通じるものがあると感じるはずです。取材、文・志村昌美ストーリー恐怖政治の時代が終わった19世紀前半のフランスは、宮廷貴族が復活し、自由と享楽的な生活を謳歌していた。そんな社交界に現れたのは、詩人として成功を夢見る田舎の純朴な青年リュシアン。貴族の人妻ルイーズと愛し合うようになり、駆け落ち同然で憧れのパリに上京する。しかし、世間知らずで無作法な彼は、社交界で笑い者にされてしまう。そして、生活のために始めた新聞記者の仕事では、恥も外聞もなく金のために魂を売る同僚たちに感化され、文学を愛する気持ちを忘れて、欲と虚飾と快楽にまみれた世界に身を投じていくのだった…。引き込まれる予告編はこちら!作品情報『幻滅』4月14日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿ピカデリー、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開配給:ハーク(C) 2021 CURIOSA FILMS - GAUMONT - FRANCE 3 CINÉMA - GABRIEL INC. – UMEDIA
2023年04月12日フランソワ・オゾン監督『Summer of 85』で日本でも大きな注目を浴びたバンジャマン・ヴォワザンが主演を務め、共演にグザヴィエ・ドランやセシルド・フランスらを迎えた、セザール賞最多7冠の『幻滅』。その公開初日が2023年4月14日に決定し、予告編が解禁となった。本作は、フランスを代表する文豪オノレ・ド・バルザックが書き上げた「幻滅ーーメディア戦記」を映画化。フェイクニュースやステルスマーケティングなど、200年も前の物語とは思えないほど現代と酷似したメディアの状況を鋭利に描く、社会派人間ドラマで、先日フランス映画祭で上映された際には「セザール賞受賞納得の見ごたえ」「豪華なキャスト!」「2時間半あっという間で面白かった」と絶賛の声が溢れた。解禁となった予告編では、文学を愛し、詩人として成功を夢見る田舎の純朴な青年リュシアン(バンジャマン・ヴォワザン)が、あこがれのパリで暮らす中で当初の目的を忘れ、欲と虚飾と快楽にまみれた世界に身を投じていくさまが映し出される。時は1820年。フランスでは宮廷貴族が復活し、自由と享楽的な生活を謳歌していた。そんな社交界に現れたのが、「都会に慣れていない子」と紹介されたリュシアン。詩人として成功を夢見る純朴な青年は、貴族の人妻、ルイーズ(セシルド・フランス)と駆け落ち同然で憧れのパリに上京する。リュシアンの先輩格となる、世渡りの旨いジャーナリスト(ヴァンサン・ラコスト)に「金のためなら魂を売らないと」と言われ、私欲に世界へ足を踏み入れていくリュシアンだったが、「嘘の記事や批評に価値なんてない。真実で戦え」と忠告する作家のナタン(グザヴィエ・ドラン)の登場により、ドラマがさらに動き出す。主演のバンジャマンは、自身の有望新人男優賞を含むセザール賞7部門を獲得したときの気持ちについて、「すべてのカテゴリーで受賞するといいなと思っていました。結果的に最優秀作品賞を含む7冠を獲得することになったわけですが、このチームが評価されたということでうれしかった」とコメント。現代的ともいえる要素を強調しながら、風刺に富んだ極上のエンターテインメントに自信を見せている。メイジャー「幻滅」オリジナルポストカード2枚セットなお、上映劇場窓口、メイジャーオンライン、ムビチケ販売サイトにて前売り券が発売中。「ムビチケ前売券(オンライン)」特典として、オリジナルポストカード2枚セット(メイジャー)やオリジナルスマホ壁紙がつく。『幻滅』は2023年4月14日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて公開。(text:cinemacafe.net)■関連作品:幻滅 2023年4月14日より全国にて公開© 2021 CURIOSA FILMS - GAUMONT - FRANCE 3 CINÉMA - GABRIEL INC. ‒ UMEDIA
2022年12月24日