フランスの劇作家ジャン・ラシーヌによる名作古典劇『フェードル』が、大竹しのぶ主演、栗山民也演出で2017年春、新たに構築される。古代ギリシャ詩人エウリピデスの悲劇『ヒッポリュトス』ほかから題材を得て創作された物語では、主人公フェードルの罪深い恋心を発端に、人間たちの疑惑、嫉妬、策略といった激情のうごめく様が、強靭で美しい言葉の応酬によって描かれていく。演出の栗山は「古典に惹かれるのは、今の演劇の言葉の力が弱くなっていると感じるから」と語り出した。本作へのこだわりは、20数年前にアヴィニヨン演劇祭で出会った舞台から始まっていたという。舞台『フェードル』チケット情報「その『フェードル』を観て、まんまとやられた!と感じたんです。それは、“劇作家の書いた言葉を、俳優が声にして表す”という作業が実に素晴らしい形で成し遂げられていたから。ラシーヌ作品の特徴である、アレクサンドラン(一行を12音節で成す韻律)で書かれた力のある言葉たちを、中には気持ちよく歌ってしまう俳優もいる。でも、その音韻に従いながらも、より人間性を表明していける俳優は当然評価されるし、見ていてわかるものです。今回、その“力を持った言葉”のハードルを飛び越えることで、もう一度、演劇とは何だろうということを見つめてみたいと思ったんですね」音楽劇『ピアフ』ほかで何度もタッグを組んでいる大竹については、『ピアフ』を構築している最中にも「この顔はフェードルだな。フェードルのあの台詞を言ったらピッタリだろうな」と感じていたそうだ。フェードルが恋心を燃やす相手、継子のイッポリット役・平岳大を「古典的なたたずまいを持った俳優。この芝居には立ち姿の美しさ、風格が必要」と評し、イッポリットの愛を受ける敵国の王女アリシー役・門脇麦には「鋭さがあってアウトサイダーな匂いのするところが面白い」と期待をかける。層のある言葉に立ち向かう出演陣に望むのは、何よりも声の確かさだ。「これは告白の物語なんです。誰もが告白し始めたら、とにかく長い(笑)。現代劇ならこんなにくどくどとしゃべらないけれど、でもそれが美しい。ものすごく透明でピュアなところから始まり、どんどん狂気に変わっていく。あきらかにこの作品は等身大では演じられません。それでも同じ人間ならば、どこか自分たちの眠っている感性の中に、役と同じものをみつけられるかもしれない。芸術の世界はそういうものでしょう。到達なんてし得ないし、し得なくていいと思う。欲望を持って探っていく作業が重要なのですから」濃密な探求から立ち上がるドラマ、その熱風を早くも感じずにはいられない。「僕にだって作品の全部はわからない。だけどものすごい魅力のある、読んでいてドキドキする作品です。これが俳優の声になった時、もっとすごいものに生まれ変わるだろうな。早く稽古で本読みをやりたいですね」公演は4月8日(土)から30日(日)まで東京・シアターコクーンにて。その後、新潟、愛知、兵庫を巡演。チケットの一般発売は1月21日(土)午前10時より。取材・文上野紀子
2017年01月06日夜のアートイベント・シリーズ『上野夜公園』が、2016年12月24日~2017年3月の期間で随時開催されます。上野公園の新たな魅力を発見してみてはいかがでしょうか。『上野夜公園』が上野公園で開催決定!『上野夜公園』は公園内の博物館・美術館の夜間開館に合わせ、上野公園の新たな魅力を発見するべく開催されるイベントです。現在は昼のお出かけスポットとして賑わっている上野公園。日本初の公園として開園した明治時代には、夜の盛り場としても様々な人が集ったといいます。2016年12月24日~2017年3月の期間で、さまざまなアート・イベントが随時開催。いつもとは違う、上野公園の魅力を堪能しましょう。第一弾は「ミナモミラー」第1弾は不忍池一帯をライトアップして好評を博した「ミナモミラー」が再演されます。不忍池をキャンバスにたとえ、光を不忍池に投影。風の流れによって時間とともに変化する、水面にたゆたう反射光を楽しむ作品です。不忍池のボート池全周、池に浮遊するオブジェを淡く柔らかい光が囲みます。現実の世界と水面に映し出された世界の結界がなくなりひとつになる不思議な空間です。冬の澄んだ空気と夜空の下、幻想的な世界を楽しみましょう!この他にもミュージアムコンサート、公園散策ツアーなど、2017年3月まで多彩なプログラムが開催予定。最新情報は随時公式ウェブサイトに更新されるので、気になる方はぜひチェックしてください。【イベント概要】上野夜公園開催期間:2016年12月24日~2017年3月 随時開催会場:上野恩賜公園 各所公式ウェブサイトURL:
2016年12月18日2016年11月18日(金)・19日(土)・20日(日)の3日間、上野恩賜公園竹の台広場(噴水前広場)で「伊賀上野NINJAフェスタ in 上野恩賜公園」が開催されます。忍者体験やショーなど楽しいイベントがたくさん用意されているので、チェックしてみましょう!「忍者」をテーマにした大人気イベント!2013年から始まったこのイベントは、伊賀の知名度・観光地としての認知度アップを目的としています。2015年度は3日間の開催で18万人もの参加者を集める大きなイベントとなりました。今回も、忍者をテーマにしたステージイベントやアトラクションが用意されており、ご当地物産品の販売や飲食ブースも登場します!見逃せない多彩なコンテンツステージには、ご当地キャラのいが☆グリオくんが登場します。なんともいえない姿が魅力的…いっしょに写真を撮って、SNSにぜひアップしたいですね。また、本格的な手裏剣打ちも体験できます。普段なかなか触れられないものなので、この機会にぜひ!忍者衣装レンタルでは、キッズがかわいい忍者に変身!これはパパ&ママにはたまらないですね。お子さまも普段できない格好で大はしゃぎしてしまいそう!吹き矢体験では、実際に矢を吹いて的を狙います。意外と距離もあって難しいのですが、チャレンジしてみたいですね。そのほか伊賀酒カクテルの販売や、伊賀上野NINJAフェスタ〇×クイズなどたのしいコンテンツが盛りだくさん!秋の上野恩賜公園で、すてきな忍者タイムを過ごしましょう!■イベント詳細名称:伊賀上野NINJAフェスタ in 上野恩賜公園会期:2016年11月18日・19日・20日時間:10:00~18:00※最終日のみ16:00まで会場:上野恩賜公園竹の台広場(噴水前広場)主催:三重県伊賀市・伊賀上野NINJAフェスタ実行委員会公式ホームページ
2016年11月17日10月も下旬に入ってようやく秋の気配が感じられる東京だが、一足飛びに早くも春の話題を。東京・上野に、音楽で春の訪れを告げる風物詩「東京・春・音楽祭─東京のオペラの森─」。その来季、第13回の開催概要が決まり、発表会見が行なわれた(10月24日)。東京春祭ワーグナー・シリーズ チケット情報オペラ・ファンにとっての目玉は、なんと言っても、2010年から続く「ワーグナー・シリーズ」だ。名匠マレク・ヤノフスキが年1作ずつ進めてきた『ニーベルングの指環』4部作が《神々の黄昏》でいよいよ完結する(4/1、4)。会見には、ウィーン国立歌劇場とともに来日中のヤノフスキも出席、特に共演のNHK交響楽団の実力を賞賛しながら、過去3年を「芸術性の高い成功した公演」と振り返った。今夏のバイロイト音楽祭の『指環』で久しぶりにピットに復帰したヤノフスキだが、「春祭リング」の特色である映像による演出(田尾下哲)を高く評価。「演出が音楽を邪魔しない、とても良い解決策」と、音楽よりも演出重視の傾向が優勢なオペラ界の姿勢に、90年代から長く背を向けていた彼らしい視点で、演奏会形式上演の音楽的な利点に満足気な様子をうかがわせた。コンサートも、さまざまな角度から趣向を凝らした公演ばかり。4年目の「合唱の芸術シリーズ」は、シューベルトの《ミサ曲第6番》をウルフ・シルマー指揮東京都交響楽団と東京オペラシンガーズで(4/9)。大作合唱曲をプロ合唱団で聴ける機会は意外に少ない。音楽祭のレジデント・オーケストラである「東京春祭チェンバー・オーケストラ」は、6年目を迎えて若手精鋭中心の編成に衣替え。フレッシュなエネルギーが充溢しそうだ(3/20)。他にも、上述の『指環』の関連プログラムによる室内楽や、新たに始まる5年がかりのブリテン特集など、気になる公演が目白押しで困る。「春祭」らしいお楽しみが、上野の各博物館や美術館での「ミュージアム・コンサート」だ。コンサートホールとは異なる雰囲気の中で音楽を聴く体験は実に新鮮で、世界遺産に登録されたばかりの国立西洋美術館や、国の重要文化財の国立科学博物館日本館など、歴史的な建築物での公演も超貴重。さらには、上野駅や飲食店、オフィスビル、花見会場まで、人が集まるところならどこでも音楽の場にしてしまうのが「春祭」流。3月16日(木)から4月16日(日)まで1か月にわたって繰り広げられる有料・無料約150の公演を、桜とともに心待ちにしよう!取材・文:宮本明
2016年10月26日斬新な組み合わせ「うさ志る古フロマージュ」日系ブラジル人が編み出した “羊羹×チーズ”の食べ方をヒントに開発されたメニュー。「うさぎや」自慢の北海道十勝産の小豆を使った餡の甘さと、オホーツク海沿岸の牧場で有機農法によって育てられた牛の良質なチーズの旨味と塩味がマッチ。お汁粉とチーズのコラボは、斬新な組み合わせながらもどこか懐かしい美味しさに出会える逸品です。クセになりそうな新食感の「うさどらフレンチ焼き」オーナーがハワイに住む知人から「どら焼きをそのままフレンチトーストにしてみたら?」とアイデアをもらったことから商品化された「うさどらフレンチ焼き」。もちろんそのままで美味しいどら焼きを、牛乳と卵に浸してバターで焼いた新食感の和スイーツです。普通のパンで焼いたフレンチトーストにくらべるとよりしっとりとしていて、木のスプーンですくって口にいれると、どら焼きの甘さとフレンチトーストの風味が広がります。行列必至の看板メニュー「うさパンケーキ」オーナーの子供時代、「どら焼き」の甘い香りに誘われて、自宅から工場に行くと、職人さんが朝ご飯にとくれたどら焼きの皮に、バターをつけて食べたところその美味しさの虜に。その出来立ての熱くて柔らかな皮とバターの相性が忘れられず、満を持して思い出の味をメニューにしたそう。カフェからすぐの工場から出来立ての皮を木箱にいれて持ってきてくれるため、朝9時から10分限定でしか販売できないそう。発酵バターと少し柔らかい餡を自分で好きなだけはさんでいただきます。しっとりきめ細やかなとした皮とバターのハーモニーは「うさぎやCAFÉ」でしか味わえない美味しさです。取材・文/末吉陽子店舗情報店名:うさぎやCAFÉTEL・予約:03-6240-15619:00~18:00(水曜日定休)住所:東京都台東区上野1-17-5 1階営業時間:9:00~18:00(水曜日定休)※「うさ志る古フロマージュ」「うさどらフレンチ焼き」は、「うさパンケーキ」販売後より提供定休日:水曜日
2016年10月13日日本を代表する女性監督のひとり、タナダユキ監督のもと、上野樹里、リリー・フランキー、さらに藤竜也という注目のキャストで贈る『お父さんと伊藤さん』。本作で上野さん演じる彩をはじめ、『百万円と苦虫女』での蒼井優演じる“鈴子”、『ロマンス』での大島優子演じる“鉢子”など、タナダ監督が描くヒロイン像には実は共通点がある、という。本作は、息子夫婦の家を追い出された父親(藤竜也)が、娘の彩(上野さん)と20歳年上の彼氏・伊藤さん(リリー・フランキー)が同棲するアパートに突然やってきて、3人のまるで嵐のような奇妙な共同生活が始まる物語。居場所を見つけられない不器用で頑固な父親と、そんな父親との接し方が分からない娘、そんな2人の様子をマイペースながらも優しく見守る彼氏の交流を、ユーモアを交えながら温かな視点で描き出す。タナダ作品において、例えば、『百万円と苦虫女』で蒼井さんが演じた主人公の“鈴子”は、就職に失敗し、仕方なくウェイトレスでアルバイトをしていたが、とある事件に巻き込まれて警察の厄介に。家族の非難を受けた鈴子は「100万円貯まったら出ていきます!」と宣言し、さまざまな職を転々としながら100万円を貯め、次の場所に引っ越して物語は展開していく。一方、本作の主人公・彩は、34歳のイマドキな独身女子。20歳年上で給食センターに勤める彼氏・伊藤さんと同棲中。そんなイマドキのカップルに突然転がり込んできた父は戸惑いを隠せないが、当の本人たちはいまのままの関係を続けていくことに疑問はない。タナダ監督は、自身の作品のヒロイン像の共通点について「一生懸命、自分で自分の人生に折り合いをつけようとしている、というところでしょうか。他人に認められるとかではなく、結局自分の人生って自分でどうにかしなきゃいけないだよねっていうことを、大なり小なり気づけるひとたちを描いてきていると思います」と分析する。「笑っていればかわいいのに、愛想笑いができないタイプも多いですよね(笑)。楽な道を選びとれる容姿を持っているのに、それを活かそうとしない。周りに合わせて無理に笑って、疲れちゃうことってよくあると思うんですが、彩の場合は就職していたこともあるので、無理していた時期もあったんだと思います。きっとすごく頑張ってきたんだけれど、あるとき、もう無理するのをやめたわけですよね。それはきっと、何かを諦めたり、自分の限界を知ったり、なんらか傷ついてきた人だと思います」と、上野さんが演じた本作の彩というキャラクターの背景を明かした。そして、もう一つ大きな共通点は、タナダ監督の作品のヒロインはみな、“自分の足で一歩踏み出す”ということ。『百万円と苦虫女』でも鈴子は、ロードムービー的な物語の末に、新たな道を切り開いていった。本作『お父さんと伊藤さん』の彩についても、タナダ監督は、「これは彩が揺れ動きながらも最後にも一歩踏み出す物語。伊藤さんという他者がいたからこそ、お父さんがずっと苦手で反発してきた彩が一歩踏み出すことができたのだと思います。困難が待っているとわかっていても、駆け出すことができた彩のことを私はすごく尊敬しているんです」と語っている。それでも、ちゃんと“自分の足で一歩踏み出す”ことを決断する彼女たちの姿は、戸惑い、悩み生きる現代の女性の背中を優しく押してくれるに違いない。『お父さんと伊藤さん』は10月8日(土)より新宿バルト9ほか全国にて公開。(text:cinemacafe.net)
2016年10月07日映画『お父さんと伊藤さん』のトークショーが10月5日(水)、都内で行われ、主演を務める上野樹里とタナダユキ監督が出席。劇中の料理シーンについて、タナダ監督は「いつも料理している手際の良さ。安心して見ていられる」と上野さんの料理の腕前をほめていた。今年5月にロックバンド「TRICERATOPS」の和田唱と結婚した上野さん。先日行われた完成披露試写会の席では、「最近は料理するのも楽しいですよ。昨日もありあわせの食材でパスタを作りました」と和田さんの母で料理愛好家・平野レミの影響を明かしたほか、レミさんプロデュースの大ヒット商品“レミパン”愛用も告白していた。そんな上野さんにとって、『陽だまりの彼女』以来3年ぶりの主演映画。自分のペースで、日々の暮らしを大切に生きる主人公の彩が、20歳年上の恋人で給食センターに勤める伊藤さん(リリー・フランキー)、頑固ながらも愛くるしいお父さん(藤竜也)とともに奇妙でハートウォーミングな共同生活を繰り広げる。これまでキラキラしたヒロイン像を演じてきた上野さんが、本作では30代独身女性のリアルを表現し、本人も「とても楽しかった。ありのまま、シンプルを貫くところは私に似ている」と新境地に手応え。タナダ監督は、「撮影が始まる前から、役柄について生真面目に考えてくれていて、感動しました。それでいて、相手次第で違う芝居ができる。ときには自分を捨てる勇気をもっているのだから、女優として最強ですよね」と上野さんの女優魂を絶賛していた。『お父さんと伊藤さん』は10月8日(土)より新宿バルト9ほか全国にて公開。(text:cinemacafe.net)
2016年10月06日藤原竜也、山本裕典が栗山民也演出のもと、韓国現代戯曲に挑む舞台『鱈々』。韓国演劇界の重鎮、劇作家・李康白の代表作のひとつで、藤原と山本、そして中村ゆり、木場勝己の4人のみで展開する濃厚な会話劇だ。物語の舞台となるのは、時代も、国も定かではないある場所。ジャーン(藤原)とキーム(山本)はともに倉庫で暮らしながら、日々箱を積み下ろすだけの作業を長年続けている。几帳面に作業を全うすることを生き甲斐とするジャーンと、変わらない毎日にいらだち、脱出を願うキーム。彼らの前に妖艶な女ミス・ダーリン(中村)と女の父親(木場)が現れて、男ふたりの平坦な日常が揺らぎ始める。10月7日の開幕に向けて、連日高い集中度で稽古に臨む藤原、山本のふたりに、稽古の手応え、本作への思いを聞いた。舞台『鱈々』チケット情報「栗山さんは稽古のスピードが速いんですね。作品に対するイメージが出来上がっていて、演出家として初日に向けて計算をしながら、日々、僕らに的確な指示をくれる。僕らは必死についていきながら、栗山さんの一つ一つの言葉を大事にキャッチして、自分の内側に埋めていく作業を今、やっています。短いけれど、とても深い、いい時間を与えてもらっているなと。必死でやっているうちに、あっという間に初日になっちゃうのかなという緊張もありますね」(藤原)「僕はいまだに緊張していて、稽古場に来るのがつらいです(笑)!栗山さんに何か言われると、ああ~、そうだった!って毎日思って、オロオロしちゃってます。4人のキャラクターが確立しているので、自分の役割を果たす、そのプレッシャーは半端じゃないんですよね。でも、自分なりにこんな感じに積み上げていけばいいんだな、と思えた時は、今日は頑張ったな!って達成感があって、すごく気持ちいいです」(山本)ふたりの口調から漂う雰囲気が、すでにジャーンとキームのよう。自身との共通項を問うと、藤原が「ありますよ」と即答した。「キームみたいに外の世界に飛び出して、違う自分を見てみたい思いは、若い人なら誰でもあるはず。またジャーンみたいに『この仕事そのものが僕の存在証明なんだ』と思ってしまう人間性も理解できます。対照的なふたりが非常にうまく書かれた、優れた戯曲だと思いますね。裕典、キームに合ってるよね?楽しそうにやってる(笑)」(藤原)「はい。稽古で栗山さんに『ちょっと動物的にやって』と言われたんですが、僕自身、動物的な部分があるなと(笑)。竜也くんも本当にしっかりした方なので、普段のまんまのような気がします」(山本)対照的なふたりの男の人生の選択が、どんな衝撃を生むことになるのか。韓国演劇の妙を味わう体験が間近に迫っている。「栗山さんと4人の役者で立ち向かう、シンプルで深い作品。濃密ないい時間、いい芝居になればと思っています」(藤原)公演は10月7日(金)から30日(日)まで東京・天王洲 銀河劇場にて。その後、大阪ほか、全国を巡演。取材・文上野紀子
2016年10月06日女優の上野樹里が5日、主演映画『お父さんと伊藤さん』(10月8日公開)の都内で行われた公開直前試写イベントに出席した。中澤日菜子の同名小説を『百万円の苦虫女』(2008年公開)や『ふがいない僕は空を見た』(2012年公開)のタナダユキ監督が映画化した本作。2013年公開の映画『陽だまりの彼女』以来、3年ぶりの主演映画となる上野樹里を主演に迎え、30代独身女性の彩(上野樹里)と20歳年上の彼氏・伊藤さん(リリー・フランキー)、そして息子夫婦に追い出された彩の父(藤竜也)の奇妙な共同生活を描く。公開を間近に控えたこの日は、800人の応募者から選ばれた45人の一般客を招いての試写会を実施。上映後、上野とタナダユキ監督が登壇して舞台あいさつが行われた。完成した作品の感想を求められた上野は「試写っていうと緊張したりナーバスになったりしますが、今回は楽しかったですね。一歩引いて見ると、喜劇だったりして家族のイザコザを描いていて。渦の中に入っているときは大変な気持ちで演じてましたが、作品としては楽しんで気楽に見ることができました」と手ごたえを感じている様子。お気に入りのシーンについては「彩と伊藤さん、お父さんの3人でボウリングに行くシーンがあるんですけど、その1日の流れが好きで、最後にお父さんが植木鉢を買うシーンは泣きそうで(笑)。カットが終わったらボロボロと泣いていました。泣くっていうシーンでもないんですけど、何気ない日常のある場面でグッときましたね」と振り返った。さらに「お父さんの背中を見ていると反省させられました。父親の愛も深いもんだなと感じたし、結構ぐさっと来る場面がありましたね」と話していた。そんな上野についてタナダ監督は「全くキラキラしていない主人公をどう演じるか興味深かったんです。上野さんは役作りもきちんとするんですけど、現場では頭が固くならずに考えていたものを相手の芝居を見て簡単に捨ててましたね。役者としては最強だと思いますよ」と賞賛していた。映画『お父さんと伊藤さん』は、10月8日より全国公開。
2016年10月06日藤原竜也、山本裕典の競演舞台『鱈々』が10月7日(金)、天王洲銀河劇場にて開幕する。韓国を代表する劇作家のひとり、李康白による四人芝居で、藤原、山本のほかに中村ゆり、木場勝己が出演。時代も、国もわからないとある場所を舞台に物語は展開する。長い年月を倉庫で暮らし、箱を積み下ろすだけの作業を日々続けているジャーン(藤原)とキーム(山本)。彼らの前に妖艶な女ミス・ダーリン(中村)と女の父親(木場)が現れて、男ふたりの平坦な日常が揺らぎ始める。演出家・栗山民也が、際立つ個性と実力を併せ持つ俳優陣とともに、さまざまな示唆を感じさせる巧妙な韓国現代戯曲をどう立ち上げるのか。四人だけの濃密な対話劇、その稽古場を覗いた。舞台『鱈々』チケット情報張り出し舞台の形をとった舞台面には、二台のベッドが上手と下手に分かれて、簡素に置かれていた。一方はきれいに整頓され、もう一方は乱雑なまま。几帳面なジャーンと自由奔放なキーム、それぞれの性格が寝床にも表れていて面白い。舞台奥の壁面には、ふたつのベッドを見下ろすように箱が高々と積み上げられ、不気味な圧迫感を醸し出している。異様な雰囲気の中、これもまた簡素な卓を前に山本と木場が向き合って、ある場面の立ち稽古がスタートした。花札をめくりながら、ふたりは賭け事に集中している。感情が顔にすぐ出てしまう真っ直ぐな気性の山本キームを、木場は獲物をじっくりと仕留めるように翻弄。狡猾さがにじむ声のトーンに惹きつけられる。まんまと騙されて金を巻き上げられたキームは、落胆の大絶叫だ。倉庫中を駆け回り、悔しさを全身で表わす山本の演技に、栗山を始めとするスタッフ陣から笑いが沸き起こった。続いてジャーンとミス・ダーリンのシーンへ。意味ありげな視線でジャーンを誘惑するミス・ダーリン。中村の力みのない口調、浮遊感のあるたたずまいには、確かに魔性の匂いが漂って非常に魅力的だ。顔を真っ赤にして応対する藤原ジャーンは、セリフのひと言、ひと言に不器用な生真面目さが表れて、やはり周囲の失笑を誘っていた。箱を開ける、開けないで言い争うジャーンとミス・ダーリンのやりとりでは、爆笑が響き渡るほど。謎めいた印象の濃いこの戯曲が、これほど笑いの種を含んでいたことに驚いた。しかし、続いてのジャーンとキームの素朴な会話のシーンは、ふたりのあいだに流れる微妙な空気が緊張を呼び、思わず息を詰めて見つめることになる。変わりばえのしない毎日にいらだち、倉庫を飛び出そうとしているキームに対して、ジャーンが静かに訴える。「行かないでくれよ。俺と一緒にここにいようよ」。藤原の感情を抑えた表現が、寂しい余韻となって胸を刺す。最終場の稽古は、栗山の意向により見学は許されなかった。ジャーンとキーム、ふたりの示す生きざまは観る者に何を語るのか。それぞれが選択した未来とは…。謎の結末は劇場で確かめるしかない。公演は10月7日(金)から30日(日)まで東京・天王洲 銀河劇場にて。その後、大阪ほか、全国を巡演。取材・文:上野紀子
2016年09月29日黒柳徹子の海外コメディ・シリーズ第30弾『レティスとラベッジ』が10月1日(土)、東京・EX THEATER ROPPONGIにて開幕する。『アマデウス』の作者ピーター・シェファーによる本作は、シリーズの第一作目として1989年に日本初演を迎え、2000年に再演された傑作コメディ。今回は初演から実に27年ぶり、再演から16年ぶりの登場となる。注目の再々演で黒柳の相手役を務めるのは、「徹子さんとの稽古の日々に幸せを感じています」と語る麻実れいだ。切望していた黒柳との共演、ひさしぶりのコメディへの挑戦について話を聞いた。舞台『レティスとラベッジ』チケット情報ロンドンの観光ガイド・レティス(黒柳)は、お定まりのガイド内容を話すことに飽き飽きし、面白おかしく尾ひれを付けた説明を観光客相手に展開する。その噂を聞きつけて視察に現れた歴史保存委員会の堅物職員ロッテ(麻実)は、レティスにクビを宣告するが……。「ふたりは最初は反発し合うけれど、徐々に友情を感じ始めて、最後はとことん親友になる。そんな優しくて温かい、大人のコメディです。コメディの難しさはわかっていたけれど、ここ数年、重い作品への出演が続いていたので嬉しいなと思ったんですね。でも蓋を開けてみたらやっぱり大変でした(笑)。ほぼふたり芝居と言ってもいいくらいの台詞の応酬で…。その作品に再々度挑戦する徹子さんは強靭です。素晴らしいという意味で“怪物さん”ですね」稽古場では、ガイドをクビになったレティスの部屋をロッテが訪問するシーンの稽古が行われていた。仕事を奪った“敵”の思わぬ訪問に、レティスは無愛想に応対する。毅然と現れたかと思えば猫の存在に怯えてひと騒ぎする、快活な麻実ロッテ。それに対し、一本調子の返答で不満をあらわにする黒柳レティス。両者の明暗のギャップが可笑しく、稽古場から失笑がこぼれる。実はロッテはレティスに新たな職を紹介するためにやってきたことが判明すると、黒柳の表情と口調が鮮やかに変化していった。友情の杯を交わすまでの愉快なやりとりについて黒柳は次々にアイデアを出し、すぐさま動いてみせる。手にしているのは使い込まれてクタクタになった台本だ。演出の故・高橋昌也による指示がすべて書き込まれた、初演時から使用し続けているものだそうだ。「徹子さんはとにかく知的で、可愛くて繊細。このレティスという役にピッタリです。私は役を作るといっても、いつも結果的に自分に近づけてしまうんですが、今回はさらに自分の感覚のままに発散してみようかなと思っています」女優ふたりの熟成された表現力、その深い味わいに満ちた舞台が、心地良い笑いと前進する勇気を与えてくれそうな予感がする。「ピーター・シェファーという素晴らしい作家の力と徹子さんの魅力が合わさったオシャレなコメディ。何よりも私自身が出来上がりを楽しみにしています」東京公演は10月16日(日)まで。その後、10月20日(木)から23日(日)まで大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて上演。取材・文/上野紀子
2016年09月23日ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)が世田谷パブリックシアターとタッグを組み、新作舞台『キネマと恋人』でシアタートラムの濃密な小空間に初挑戦する。ウディ・アレンの名画『カイロの紫のバラ』を大胆に翻案するロマンチック・コメディだ。舞台『キネマと恋人』チケット情報「僕にとっての映画は、ノスタルジーを求めてしまう存在。映画を題材にした舞台を作るとなると、自ずとロマンチックに収めていきたくなるんですよね。映画でミア・ファローが演じていた“映画を観ることしか楽しみのない女性”(緒川たまき)と、“映画から出てきた男”と“その男を演じている俳優”(妻夫木聡の二役)。この三人が展開するラブストーリーはそのままに、今回は物語の背景を1930年代の日本に置き変えて、ヒロインとその妹(ともさかりえ)との関係を膨らませるなど、もう少し複雑な話になっていくと思います」映画の登場人物が突然スクリーンから飛び出してくる…という映画の一番の妙味を、演劇で効果的に見せるためにKERAが頼った強力な助っ人が、振付の小野寺修二と映像監修の上田大樹だ。「小野寺くんはすでにプレ稽古を始めてくれていて、アイデアを見せてくれたんですね。それが素晴らしくて非常に刺激になりました。そこに映像効果――何と言っても映画を重要なモチーフにした作品ですから――もあいまって、勝算はありますね。今回、ふたりの仕事のボリュームは普段よりもかなり大きいです」そのシーンを体現するのが、満を持してKERA舞台に迎える妻夫木聡である。「彼はニュートラルでありながら、レッドゾーンに振り切るような芝居をリアルにできる。演劇に求められるリアリティを瞬時に把握して、表わすことのできる俳優さんだと思いますね。緒川さんは劇場とのプロダクション会議から参加してくれてます。ミア・ファローとはまた別の味わいでヒロインを演じてくれるでしょう。このふたりにともさかさんを始めとした手練7人が加わって、面白くならないはずがないでしょ?」ロマンスに心ときめかされるが、映画の終わりはホロリと苦い。KERAも「まだ結末は決まっていないけど、ビターなものにはなるでしょうね」と見据える。「僕自身つねに現実から逃げたくて作品を作っているようなところがあるけど、でも結局、作品の中で生きることはできても、作品の中で死ぬことはできない。やっぱり現実に立ち戻らなければいけない…という人たちの話です」豪華キャストによるKERAの新作を小劇場で味わう贅沢な機会。虚構と現実を行き交う人々の愛しくも哀しいドラマに浸りたい。「自分のキャリアの最高傑作にする意気込みです。こんなに前もって『最高傑作にする!』なんて吹聴するのは初めてのことなんですよ(笑)。何年かして振り返った時に、『あれは文句なしに良かった』と思える公演になると確信しています」公演は11月15日(火)から12月4日(日)まで東京・シアタートラムにて。取材・文上野紀子
2016年09月21日国立西洋美術館の世界遺産登録を記念し、「上野ハロウィン2016」が2016年10月17日(月)から30日(日)まで、上野、御徒町の各箇所で開催される。「上野ハロウィン2016」は、“アートの街”上野を舞台にハロウィンにまつわる様々な企画を楽しめるイベント。10月29日(土)には、上野公園噴水広場に設置したハロウィン村をスタートし、上野中央通りをジャックしていく盛大なハロウィン仮装パレードと仮装コンテストを実施する。また、パレード参加者を対象に上野界隈の老舗菓子屋とコラボレーションしたお菓子をゲットする「Trick or Treat」が開催されるほか、界隈の飲食店ではハロウィンバルも登場。それぞれの加盟店舗にてスタンプラリー方式でスタンプを貯め、規定数に達すると抽選会に参加できる。【開催概要】上野ハロウィン2016開催日時:2016年10月17日(月)~10月30日(日)開催会場:上野・御徒町動員予想:仮装パレード1,000人、来場者300,000人■ハロウィン仮装パレード開催日時:10月29日(土) 14:00~17:00開催場所:上野恩賜公園噴水広場~御徒町南口駅前広場(通称・おかちまちパンダ広場)※ハロウィン仮装パレードに参加の場合はチケットが必要。・チケット概要発売開始日:9月1日(木)販売場所:各種コンビニ(セブン-イレブン、 ローソン、 ファミリーマート、 サークルK・サンクス)前売り券:一般(中学生以上)2,000円(税込)/子供(小学生)1,000円(税込)※未就学児は無料。■Trick or Treat開催日時:10月29日(土) 11:00~19:00■ハロウィンバル開催日時:10月17日(月)~10月30日(日)※コンテンツ内容の変更に伴い、 開催時間が多少変更となる場合有り。※強風・豪雨等の荒天中止の場合は前日18:00に公式HP等にて告知。 【問い合わせ先】TEL:03-5225-3535(平日11:00~19:00 ※9/1~)
2016年08月25日劇作家・別役実の新作舞台『月・こうこう, 風・そうそう』が7月13日、新国立劇場小劇場にて開幕する。別役が、最古の物語と伝えられている竹取物語をモチーフに書き下ろした、新たな“かぐや姫”の物語だ。満を持して別役戯曲に着手する宮田慶子の演出のもと、主人公の“姫”役の和音美桜、老夫婦役の花王おさむと松金よね子、姫の兄と名乗る謎の男役の山崎一、盲目の女役の竹下景子のほか、増子倭文江、橋本淳、瑳川哲朗といった実力伯仲の個性派俳優陣が集結。静謐な時空間の中に非日常のスリルが渦巻く、別役独自の劇世界を構築する。【チケット情報はこちら】稽古場には、奥側に弧を描いた半円形の舞台が設置されていた。別役戯曲となればどうしても電信柱を探してしまうが、木切れの組み合わせで全体を覆う美術が示すのは、うっそうとした竹林である。そこに風の音が鳴り、竹取物語の翁と媼よろしく花王と松金が静かに登場して、通し稽古が始まった。老夫婦の間延びしたのんきなやりとりに可笑しさがこみあげるが、ふたりがみつめる先にあるのは“死”だ。淡々と流れゆく空気のなか、ふたりの前に「追われている」と助けを求める姫が現れて、物語にさざ波が起こる。そこから展開するのは、想像していた童話の趣きとは違う、幻想とサスペンスの混合した世界だった。“月読みのゴゼ”と称する盲目の女(竹下)、弓を構えて荒々しく乗り込んでくる男(山崎)、徐々にその正体が明らかとなる謎めいた女(増子)、姫と心を交わす“風魔の三郎”と名乗る男(橋本)、蓮台に乗って仰々しく登場するミカド(瑳川)、そして忍者のような鋭い身のこなしで妖しく舞台を駆け巡るミカドの手下たち。色彩豊かなキャラクターが次々と行方知れずの物語の扉を開いていく。“近親相姦”や“人身御供”といった不穏なキーワードが飛び交い、時に冒険活劇のような勢いあふれるひと幕も現れる。日本画を眺めて心静まり、騙し絵にかく乱されて胸躍る、といった感覚か。緩急際立つ劇空間に心地良く揺さぶられていった。和音の透明感あふれる美しいたたずまいと、軽妙と深淵の両方を伝えてくる花王&松金の手だれコンビが、観る者を一気に寓話の世界へと誘う。そこに緊張をもたらし、後にコミカルな味わいを広めていくのは山崎だ。山崎扮する謎の男に老夫婦が調子を狂わされる場面には、稽古をずっと凝視していた演出席の宮田も思わず失笑。また月の形をした弦楽器、月琴をかき鳴らし、予言のようにつぶやく竹下が、すべてを知る神のような存在感を醸して深い印象を残す。世の不条理を見つめ続ける日本を代表する劇作家が、齢79にして仕掛ける実験劇。無限に広がる意味を思い思いに探っていく、そんな楽しさが詰まった演劇体験になりそうだ。公演は7月13日(水)から31日(日)まで、東京・新国立劇場 小劇場にて。チケット発売中。取材・文上野紀子
2016年07月08日蓬莱竜太作、栗山民也演出による舞台『母と惑星について、および自転する女たちの記録』が7日、PARCO劇場にて開幕した。今夏で一時休館となる劇場の最後の新作は、母親に対する三姉妹それぞれの記憶から、家族の在り方を問う愛憎劇だ。志田未来(三女・シオ役)、鈴木杏(次女・優役)、田畑智子(長女・美咲役)、斉藤由貴(母・峰子役)の実力派女優の競演で、“亡き母の遺骨とともに旅する三姉妹”の設定のもと、母と娘の葛藤の物語が展開する。初日前日に行われた最終舞台稽古での会見で、三姉妹を演じる女優陣は「母が観たらどう思うのか、気になる」と語り、斉藤からは「子どもが観たらショックを受けるかも(笑)」といった言葉が出たほどに、母娘の関係性に深く斬り込んだ衝撃の舞台が立ち上がった。【チケット情報はこちら】三女シオの独白から始まった序盤では、異国を旅する三姉妹の珍道中が愉快に描かれる。訪れた国は、どうやら旅のひと月前に亡くなった母親が行きたがっていた場所らしい。だが母の遺骨を持ってきた理由は、けして穏やかな追慕だけではない。いまだ解けない怒りや悔恨の入り交じった感情で母を振り返る時、場面は過去の出来事へと転換する。現実の旅と過去の回想を繰り返すなかで、三姉妹は母へのわだかまりや受けた傷をお互いにぶつけ合い、今直面している苦悩、秘密を明らかにしていく。父親不在の家で娘三人と実母を養ってきた母・峰子は、自らの欲望のままに奔放に生き、娘たちに厳しく当たる。斉藤は、娘を持つ母親とは思えない妖艶な美しさを振り撒きながら、その傍若無人なふるまいの中に、不器用な愛情を巧みに潜ませていく。“長女への期待”という呪縛に苦しみ、虚勢を張りながらも弱さ、粗忽さがこぼれ落ちる美咲。田畑は人間の脆さ、愛しさを表情豊かに、真摯に伝えてくる。優が抱える母との思い出は姉と妹ほどの深刻さはなく、どこか滑稽でもある。鈴木は軽妙な表現で緊迫した空気を救い、現実の悩みに前向きに立ち向かう姿で観客の共感を誘う。母との関係に一番こじれた根を生やしているのがシオだ。幼い頃は思いを口にできずに泣くばかりだったシオが、死の直前の母に対して、親子の立場が逆転したかのように激しい怒りをぶつける。ハッとさせられるほど険しい顔つきを見せた志田の、シオの成長を鮮やかに表出した力にうなる。母への嫌悪が自らの恋愛、結婚を迷わせたと思い込み、「自分は普通の女じゃない」と悩む三姉妹。「母に似ている」という言葉で攻撃し合った姉ふたりが、いつしかその思い出を嬉しそうに語る姿に嫉妬するシオ。オンナたちの面倒臭い、こんがらがった感情は、身に覚えがあり過ぎて胸のうずく人も多いはずだ。そんな繊細なドラマを生み出した蓬莱の視点にあらためて驚嘆するとともに、生にもがく三姉妹への栗山の温かな眼差しを、敬虔な空気の漂う美しいラストシーンに痛感。演劇ファンに愛された劇場のラストを飾るにふさわしい、余韻をいつまでも留めておきたい秀作だ。公演は7月31日(日)までPARCO劇場にて上演。その後、宮城、広島、福岡、大阪を周る。取材・文:上野紀子
2016年07月08日PARCO劇場一時休館を前に、最後の新作となる舞台『母と惑星について、および自転する女たちの記録』が7月7日(木)、開幕する。蓬莱竜太(作)と栗山民也(演出)のタッグで立ち上がる本作は、母と三姉妹、それぞれの記憶から家族の在り方をみつめる愛憎劇だ。志田未来(三女・シオ役)、鈴木杏(次女・優役)、田畑智子(長女・美咲役)、そして斉藤由貴(母・峰子役)の豪華な顔合わせによる女優競演が話題となっている。“亡き母の遺骨とともに旅に出た三姉妹”の設定のもと、母と娘の心の闘いがどのように描き出されていくのか。開幕間近となったある日の稽古場を覗いた。舞台『母と惑星について、および自転する女たちの記録』チケット情報稽古場いっぱいに設置されたセット、その舞台面は奥に向かって緩やかに上がる傾斜となっている。志田、鈴木、田畑の三姉妹が舞台袖の位置にスタンバイし、一幕から立ち稽古が始まった。姉妹それぞれの独白台詞に、演出の栗山は目を閉じて集中して聴き入っている。時に首を振りながらも芝居を止めることなく、演出助手に小声で指摘部分を告げていく。序盤で描かれる三姉妹の“異国の珍道中”では、テンポのよい台詞の掛け合いにそれぞれの性格が浮かび上がってきて面白い。しっかり者のようで思わぬ失敗にアタフタする美咲を、田畑が表情を豊かに変えてチャーミングに表現。次女の優は、姉と妹の動向を眺めて楽しんでいるような楽観的な素振りが笑いを誘うが、鈴木はその裏に隠し持つ苦悩を巧妙にちらつかせていく。姉ふたりに比べて三女のシオは、その表情から感情の揺れを読み取り難く、謎めいた存在だ。だが志田の朴訥な振る舞いからは、いかにも末っ子らしいマイペースさがにじみ出ていて微笑ましい。ちぐはぐなようで濃いつながりを確かに感じさせる三姉妹のやりとりは、小気味良く響く長崎の方言も相まって家族のあたたかみを伝えてくる。旅立つ前に亡くなった母親への追憶をきっかけに、場面は過去へと転換する。母親役の斉藤が舞台に現れるや、三姉妹の呼吸に緊張が走った。怒りや戸惑いや後悔の混ざった、母とのやるせない思い出が反すうされる。自分が母親であることに釈然としない、そんな表情をたたえた斉藤が醸し出す浮遊感は、この先のミステリアスな展開を期待させる吸引力がある。一幕半ばまで通したところで芝居は止められた。栗山は椅子を舞台面まで持ち出して、女優4人と至近距離で向き合って座り、ここまでの注意点をこと細かに語り出した。「生活感が絶対に出てしまう言葉ってあるじゃない?」「大きい声じゃなくて、魂を込めた声で」「笑えるところはおおいに笑わせないと。これは探っていく芝居だからね」。食い入るように栗山を見つめ、その言葉にうなづき、時にその場で瞬時に演じてみせる女優たち。見事に色合いの違う魅力と、確かな実力をたずさえたこの4人が探り出す家族の姿、その答えを、名残惜しい劇場空間とともにじっくりと味わいたい。公演は7月7日(木)から31日(日)まで。取材・文上野紀子
2016年07月04日女優・安蘭けいによるソロ・コンサート『安蘭けいドラマティック・コンサート 愛の讃歌』が7月14日、Bunkamuraオーチャードホールにて開催される。ミュージカルを中心に、ジャズ、シャンソンなどの名曲を揃えて、ショーアップしたステージをお届けする豪華一回公演だ。堂々のタイトルに、当の本人は「かなり重みを感じる、ハードルの高い題名ですよね」と朗らかに一笑。およそ二千席のホールでの特別な一夜を、気負うことなく心から楽しみにしている様子がうかがえる。「この題名に負けないようなコンサートにしないといけないなと思っています。だんだんと気持ちが盛り上がって、やり終えた時には『私の人生、変わりました!』ってくらいの手応えを得られたらいいですね」【チケット情報はこちら】予定されているセットリストは、『サンセット大通り』など過去に演じた作品からのナンバーだけでなく、『エニシング・ゴーズ』『RENT』『エビータ』などの未体験の作品から、初めて挑む楽曲も多数含まれている。「構成・演出の原田諒さんから『こんな曲はどう?』と提案していただきました。私が意見を言い過ぎると、自分のやりたい曲ばかりに偏ってしまうので。宝塚時代から私のことを理解してくださっている原田さんに勧めてもらったほうが、いろんな自分を発見できていいのでは、と思ったんですね」また女性曲だけでなく、男装して歌うナンバーがあることも話題の的だ。さらに「全員、初共演です」という魅力の男性キャスト4人、良知真次、中河内雅貴、青柳塁斗、原田優一とのセッションにも期待がかかる。そしてスペシャルゲストには、今年の10、11月の舞台『スカーレット・ピンパーネル』で共演する石丸幹二が登場。贅沢この上ない布陣が、安蘭を強力にバックアップする。「石丸さんは王子様のようなイメージがあると思いますが、実は関西弁のとても気さくな方です(笑)。トークもお上手なので空気を一気に和やかにしてくれると思うし、何よりあの甘い歌声で、より重厚なコンサートにしてもらえそうです」宝塚歌劇団退団から7年。「歌声も音域もかなり変わってきている」ことを自覚し、女優としての成長、変化を「女性を演じることが、より自然になってきた」と受けとめている。安蘭けいのこれまでの歩みと、今後の飛躍の予感、その両方を感じ取れる貴重な時間となるに違いない。「退団後に出演したミュージカルは、女性の半生を描いたものなどメッセージ性の強い作品が多かったんですね。でも『エニシング・ゴーズ』みたいな底抜けに明るいイメージも、私の中には確実にあるんです(笑)。こんなカラーもあるのよ~ってところをお見せできたらいいな。一回だけのコンサートなので失敗は許されません(笑)。完全燃焼したいと思います」取材・文:上野紀子
2016年06月29日実力派ミュージカルスターによるガラコンサート『ブロードウェイ・ミュージカルライブ 2nd』が6月14日(火)・15日(水)、東京・EXシアター六本木にて上演される。2010年から上演を重ねる本コンサートの、今回は新シリーズとしてコンセプトバージョンを開催。シリーズ第一回目は「トニー賞VSアカデミー賞」と題してミュージカルナンバーのみならず、多くの人の心に残る映画音楽の名曲も含めた、豪華ラインナップが実現した。今回のこのコンサートに、日野真一郎が意外な選曲で初参加する。メンバー5人全員が音大卒である男性ヴォーカル・グループ“LE VELVETS(ル ヴェルヴェッツ)”に所属する日野は、メンバーに先駆けてミュージカル『ファントム』(14年)に出演。歌手、俳優として活躍が期待される次世代スターのひとりだ。「トニー賞VSアカデミー賞」チケット情報「普段は5人で活動しているので、このようにひとりで参加するのはプレッシャーもあります。でも確実に経験値は上がるはず。僕が一番最初にミュージカルの舞台に出てから、今はほかのメンバーもそれぞれミュージカルを経験するようになりました。その後にグループに戻って一緒に歌った時に、やっぱり違いがわかるんですよね。僕らはお互い、どう学んだか、いろいろ経験してきたことをシェアするので、ほかのメンバーが経験したことも、あたかも自分が経験したかのように感じられる。グループとしても個人としても、レベルが上がっているんじゃないかなと思えるんです」日野が今回ソロで披露する楽曲は、『レ・ミゼラブル』からファンテーヌが歌う名曲『夢やぶれて』と、映画『ミスター・アーサー』の主題歌であり、クリストファー・クロスの世界的ヒット曲で知られる『ニューヨーク・シティ・セレナーデ』だ。「『夢やぶれて』は以前から大好きな曲だったんですが、女性が絶望の思いのなかで歌い上げる曲というのもあって、自分で歌うことは避けていたんですね。でも今回思いがけず勧められて、これは歌う運命にあるんだなと(笑)。女性曲だけど、もし男性がこのような思いで歌ったらどうなるのか、僕なりの歌い方を今、探っているところです。『ニューヨーク~』のほうもリクエストをいただいて、これはぜひ本物を聴きたい!と思って、4月のクリストファー・クロスの来日公演を観てきました。自分でも今歌ってみて、素敵なメロディにどんどん心惹かれています」本コンサートならではのお披露目となるソロ曲とともに、悠未ひろとのデュエット曲『Somewhere』(『ウエストサイドストーリー』より)も予定している。宝塚歌劇団出身の長身スターである悠未と声を合わせてみて、「とても面白かった。新しいものが生まれそうです!」と手応えも上々。美麗テノールが誘う曲の新たな世界観をぜひ味わいたい。「ミュージカルや映画の名曲とともに、その曲を聴いた当時の思い出を振り返る…そんな素敵なコンサートになると思います」取材・文/上野紀子
2016年06月10日女優・上野樹里(30)の姉でシンガーソングライターの上野まな(33)が、31日放送のフジテレビ系情報番組『ノンストップ!』(毎週月~金9:50~11:25)に出演し、妹・樹里とロックバンド・トライセラトップスのボーカル兼ギター・和田唱(40)の結婚秘話を語った。樹里は初めて買ったCDがトライセラトップスの9thシングル「if」であるというほど同バンドのファンだったというが、まなは「(樹里は)音楽が好きで、(和田は)昔から自分の好きなバンドの一人だったのかなって」と発言。「大人になった時にそのバンドの方と再び出会い、『やっぱり私、この人たちの音楽が好き』って」と惹かれていったという。そして、2人の相性について「音楽をやっていてすごく刺激的。(樹里は)一般の方だと刺激が少なすぎて物足りなそう」「上野家はみんな口げんかが強く、負けん気は樹里が一番強い。年上の人だと引いてくれるというか、けんかにならずにすむと思うので、年上の方が合うと思っていた」と分析。さらに、「優しい一面とかっこいい芸術的な一面と持っているというのは妹と合いそう。いろいろ刺激的で、なおかつ優しくてけんかにならないお相手だったんじゃないか」と和田の魅力を語った。また、樹里の姑となる料理研究家の平野レミとの相性を聞かれると、「(樹里は)料理は好きで昔からいろんなものを作ったりしていたので料理上手だと思います。けっこう大ざっぱなところもありました」と共通点があると言い、「お似合いだなと思います」と話した。
2016年05月31日女優の上野樹里と、料理研究家でシャンソン歌手の平野レミを母に持つ「TRICERATOPS」のボーカル・和田唱が結婚したことが両事務所を通して発表された。上野さんのSNS上では早速、和田さんとのツーショットが披露され、ファンから祝福の声が上がっている。上野さんは、1986年5月25日生まれの兵庫県出身。2002年、NHK月曜ドラマ「生存 愛する娘のために」で女優デビューを果たすと、2003年のNHK朝の連続テレビ小説「てるてる家族」で三女を熱演。2004年には、主演映画『スウィングガールズ』が大ヒットを記録し、第28回日本アカデミー賞で新人俳優賞を受賞。一躍知名度を上げると、2006年には、フジテレビ系月9ドラマ「のだめカンタービレ」の野田恵を好演し、一気に人気爆発。その後も「ラスト・フレンズ」「素直になれなくて」など話題作に立て続けて出演し、2011年には「江~姫たちの戦国~」の江役で大河ドラマ初主演を務め上げ、実力派女優としてのキャリアを着実に積んでいる。2人は2015年秋からの交際を経て、5月26日(木)に入籍。両事務所からの発表では、連名で今回の結婚について「2人にとって、とても自然なことでした。そしてそのことにとても喜びを感じています」と心境をコメント。続けて「お互い支え合いながら 一歩一歩、前に進んでいこうと思っておりますので、皆様に温かく見守って頂けたら幸いです。ありがとうございます」と挨拶。また上野さんは、自身のインスタグラムでも結婚を報告。「ファンの皆さんのたくさんのお手紙やメッセージの中に、私のプライベートが充実しているのか、幸せな恋をしているのか、結婚しないで仕事をやって行くのか、などなど、ご心配とお気遣いをしてくださっていました。早く、皆さんに言いたくて言いたくて、やっと言えるタイミングが来て嬉しい限りです!」と、ファンへ報告できる喜びを噛み締め、「皆様、私は幸せです、そして、これから何事も、もっといいエネルギーでパワフルにがんばれそうですよ!」と幸せ宣言!そして「こんなに素敵なパートナーとこれから生きていけることは何よりの喜びです。そして、何事も超えていきます。どうぞよろしくお願い申し上げます」と、結婚への決意と想いを語った。また、和田さんとのツーショット写真を公開すると、ファンからは「のだめのときからかれこれ10年ファンです!おめでとうございます」「ぎゃぁー!!可愛い!!ステキな御夫婦本当におめでとうございます♪」「ツーショットありがとうございます!和田さんデレデレ!和田樹里ちゃんになったのですね!」と祝福の声が上がった。同居はこれからの予定で、挙式、披露宴は現時点で未定だという。(text:cinemacafe.net)
2016年05月26日女優の上野樹里(30)が26日、自身のインスタグラムを更新し、ロックバンド・トライセラトップスのボーカル兼ギター・和田唱(40)と結婚したことを発表した。上野は「この度、私は、和田唱さんと結婚しました!」と報告。「ファンの皆さんのたくさんのお手紙やメッセージの中に、私のプライベートが充実しているのか、幸せな恋をしているのか、結婚しないで仕事をやって行くのか、などなど、ご心配とお気遣いをしてくださっていました」と明かし、「早く、皆さんに言いたくて言いたくて、やっと言えるタイミングが来て嬉しい限りです!」とつづった。そして、「皆様、私は幸せです、そして、これから何事も、もっといいエネルギーでパワフルにがんばれそうですよ!」と幸せいっぱいにコメント。「人生は自分で設定して生まれて来るのかと思うほど、不思議と点と点が繋がり線になっていく経験をたくさんしました」と振り返り、「こんなに素敵なパートナーとこれから生きていける事は何よりの喜びです。そして、何事も超えていきます。どうぞよろしくお願い申し上げます」とつづった。両所属事務所も「2人は2015年秋からの交際をへまして、5月26日に入籍をいたしました」と発表。「同居はこれからの予定で、挙式、披露宴は現時点で未定」としている。
2016年05月26日新国立劇場で連続上演中のシリーズ“鄭義信三部作”、そのラストを飾る舞台『パーマ屋スミレ』が5月17日(火)に小劇場にて開幕する。劇作家・演出家の鄭義信が「激動の昭和の時代に翻弄された、庶民の姿を描きたい」として発表した三部作のうち、『パーマ屋~』は1960年代半ば、九州のとある炭鉱町を舞台に展開。そこで暮らす在日コリアンの炭鉱労働者の家族や彼らを取り巻く人々の、苦境に負けずに力強く生きる姿を、笑いと涙で鮮烈に綴った物語だ。理容室を営む須美役の南果歩、その姉・初美役の根岸季衣など、2012年の初演とほぼ同じキャストが揃うなか、須美の夫・成勲(ソンフン)役の千葉哲也、その弟・英勲(ヨンフン)役の村上淳が今回の再演に新加入。稽古場では、鄭の熱のこもった指揮のもと、激しくも温かい九州の方言が飛び交っていた。舞台『パーマ屋スミレ』チケット情報床屋椅子がひとつポツンと置かれた理容室、路地にある手押しポンプや共同便所など、稽古場に精密に建て込まれたセットから、1965年の炭鉱町の風情が存分に伝わってくる。理容室の座敷に祖父・洪吉(ホンギル)役の青山達三が横たわった状態で、鄭の合図で一幕の頭から立ち稽古が始まった。語り部となる中年の大吉(酒向芳)が登場し、空間を仰ぎ見ながら少年時代を懐かしむ。その穏やかな口調が引き出す郷愁に、早くもささやかな悲劇の匂いを感じて胸を突かれるが、少年大吉(森田甘路)のけたたましい登場とともに空気は一変。続々と生命力あふれるキャラクターが現れ、嵐のような勢いで観る者を巻き込んでいく。須美の妹夫婦(星野園美、森下能幸)がくりひろげる夫婦漫才調のやりとりに笑わされ、生活臭を漂わせた初美・根岸のたくましさ、不甲斐ない夫に怒声を飛ばす須美・南の気っ風の良さに圧倒される。負けじと声を張ってずる賢くかわす成勲の、千葉が見せる狡猾な表情も失笑せずにいられない。片足を引きずって歩く英勲だけは、村上が静かな笑みに諦観の色をにじませて独特の印象を残していた。ドラマの序盤、駆け抜けるような彼らのやりとりを鄭は楽しそうにみつめながら、「だんだんたっぷりと演じてしまっているから、もっと早く」とテンポの良さの重要性を強調。その一方で、根岸が三段落ちのようにして言葉をたたみ掛け、笑いを誘う場面では、「もっと三回目を長くねばって」と要求する。演出家が好む“くどい笑い”へのこだわりに応えるべく、根岸が何度もシーンを繰りかえし、周囲から爆笑を引き出していた。強烈な言葉の応酬、おおらかな仕種から感じとれるのは人間の底知れぬ強さ、突き抜けた朗らかさだ。だがその後に続く物語は、炭鉱事故で彼らの生活が打ち砕かれる様を厳しく映し出す。それでも鄭は、懸命に生きる人々の姿に必ず“笑い”をまとわせることを忘れない。『焼肉ドラゴン』、『たとえば野に咲く花のように』と続いて話題を集めた鄭義信の人間ドラマ、その最終章もやはり、胸をえぐる衝撃が待ち構えているに違いない。公演は5月17日(火)から6月5日(日)まで。前売りチケット発売中。取材・文:上野紀子
2016年05月06日佐々木蔵之介の主演舞台『BENT』が7月、世田谷パブリックシアターにて開幕する。【チケット情報はこちら】イギリス演劇の傑作と呼ばれる本作、その舞台となるのは1930年代のベルリンだ。ナチス強制収容所の過酷で絶望的な状況下においても、真実の愛を求め、人間としての誇りを失わずに生きた男たちの物語が展開する。これまでに刑務所(『ショーシャンクの空に』)や精神病棟(『マクベス』)といったタフなシチュエーションの舞台に挑んできた佐々木は、「またこういう芝居か…と」と苦笑を見せるが、すぐさま背筋を正して静かに意気を込めた。「でもやっぱり、自らこういった芝居を選んでいるのかな、ってことに最近気づきました。新しい世界への、演劇を信じる挑戦ですね」ナチスの迫害を受けた同性愛者の悲劇として知られる本作だが、「性別は関係なく、究極の中だからこそ見えてくる愛の物語」ととらえている。厳しい監視のもと、彼らは命をかけて、イマジネーションで愛を通じ合う。「台本を読んで、コレ、本当にお客さんにわかってもらえるのか!?自分がやることで伝わるのか!?と正直、思いました。でも前作の一人芝居『マクベス』で、多役を担う中でマクベス夫人も演じたんですが“色っぽかった”と言ってもらえたんですよ。僕がやっているのにそんなわけがない(笑)。でもそれはお客さんの想像力で、そんなふうに見てもらえたんだなと。ならば、『BENT』の男二人の関係も、極限状態の中でこの二人がどうやってお互いを抱きしめ、愛を感じているのか、きっと理解してもらえるんじゃないかと思うんです」佐々木が扮するマックスと愛し合うホルスト役は、「大好きな舞台俳優のひとり。板(舞台)の上で自分自身を解放できて、その役を生きることができる役者」と信頼を寄せる北村有起哉だ。さらにもう一人、芝居作りの強力な相棒となるのが、演出家の森新太郎である。「森さんと同じ劇団(演劇集団円)の橋爪功さんとご一緒した時に、『今度、森さんと舞台をやるんです』と話したら、『アイツ、しつこいぞ!』って何度も言うんですよ(笑)。だから稽古場では相当しつこいんだろうなと思って。でも僕はしつこい稽古は嫌いじゃない。勉強家で、演劇が本当に好きな人だと思いますね。演劇は時間をかけて作っていくのが一番大切だと思うので、森さんと組めることは幸せです」自らを追い込んでこそ、舞台に立つことができる。その覚悟をつねに感じさせてくれる役者、佐々木蔵之介の“演劇を信じる力”に共鳴したい。「人を愛し、愛される感覚が、極限状態だからこそ強烈に、衝撃的に突き刺さってくる。それを劇場で感じてほしいですね。“目の前で今、何かすごいことが起こっている!”と体感できるのが演劇の醍醐味。その、愛の核となるものが見られたらなと。皆さんと一緒に、僕もそれが見たいです」取材・文上野紀子衣裳協力Vlas Blommeスタイリスト勝見宜人(Koa Hole inc.)
2016年04月25日“心理スリラー・ミュージカル”という異色の魅力を持った舞台『ブラック メリーポピンズ』、その再演が5月、東京・世田谷パブリックシアターにて開幕する。韓国創作ミュージカルをもとに2014年に上演された日本版初演は、原作により深みを加えてシャープに仕上げた田村孝裕の上演台本、ミステリーの興奮を引き出す小野寺修二の振付などを演出の鈴木裕美が巧みにまとめ上げ、高い評価を得た注目の舞台。14年前に起った火事の記憶を失った4人の養子たち、失踪した家庭教師メリーの衝撃の事実が明かされていく物語だ。今回、再び総指揮をとる鈴木、メリー役の一路真輝、養子の兄弟を演じる小西遼生、上山竜治、良知真次ら初演メンバーが再集結するなかで、新加入となる妹アンナ役の中川翔子に熱い視線が集まっている。ミュージカル『ブラック メリーポピンズ』チケット情報「チームワークでひとつの作品を作り上げる、その役として生きるということ自体が初めての世界で、とても新鮮です。ミュージカルは明るく楽しいというイメージがあったけど、これは孤独や哀しみ、心に負った傷とどう向き合うかといった作品。でもそれだけじゃなく、子供時代のシーンでは兄弟たちが笑顔で、幸せを噛み締める瞬間もあります。そのギャップがまた面白く、より哀しみが深まる繊細な舞台。すべてが学びの時間になりそうで、脳が『吸収したい!ゴクゴク飲みたい!』と言ってます(笑)!」(中川)長兄のハンス役を演じる小西遼生は「中川さんが入ることで、またゼロから作り上げようという新鮮な気持ちになれる。新たな原動力ですね」と妹に期待を寄せる。鈴木は「役は人と人との関係性からできてくるもの。“初演はこうだった”は禁止するところから始めます」と朗らかにひと言。それらの言葉を受けた中川からは「コミュニケーションが大事なんですね。脱・コミュニケーション下手!」と熱い誓いが飛び出した。「兄弟3人にとってはアンナを必死で助けようとする気持ちが大事なので、中川さんは“守ってあげたい妹”として気持ちが作りやすい。僕の想像ですが、中川さんはたぶん、とても自由に羽ばたく気がします。楽しみなのは、ほかのふたりの兄弟(上山、良知)がどういう変化を起こすのか。きっとすごく変わるんじゃないかな(笑)」(小西)「ソ・ユンミさんという才能ある作家が書いた、若いエネルギーにあふれたお話です。5人が演じるどの役も俳優の持つすべてを使わないとこなせない舞台。とにかく俳優を観ていただきたいですね」(鈴木)盤石のキャスト陣に迎えられる緊張はあれど、中川は「急にイケメン兄弟に囲まれて、まるで今の女子向けゲームでいきなりフィーバーモードみたいな感じですよね!?(笑)。素直に『お兄さん、教えて!』とぶつかっていきます!」と、持ち前の元気パワーで前進宣言。新たなアンサンブルで再生する心理スリラー・ミュージカル、期待の全容がまもなくお目見えする。東京公演は5月14日(土)から29日(日)まで。その後、兵庫、福岡、愛知でも公演。取材・文上野紀子
2016年04月20日演出家・蜷川幸雄がシェイクスピア戯曲37作品の上演を目指す“彩の国シェイクスピア・シリーズ”。その第32弾『尺には尺を』で、藤木直人が初のシェイクスピア舞台に挑むこととなった。昨年、蜷川の演出舞台『海辺のカフカ』に出演し、ロンドンやニューヨークほかを巡るワールドツアーを経験。長いツアーが終わる直前に、本作への出演が決まったという。「尺には尺を」チケット情報「ようやく『海辺~』が終わる……と思っていた時だったので、ツアー最終のソウル公演の千秋楽は「でも、まだ終わらないんだな…。半年後にはもうシェイクスピアの舞台に立っているの!?」という気持ちでした(笑)。お客様の前で演じるのは当然エネルギーがいるし、緊張感もありますけど、何よりも蜷川さんの前で演じるほうが緊張するんですよ(笑)。だから、またあの稽古場の緊張感を味わうのか…って思いましたね」喜劇であると同時に、衝撃的な展開から問題劇とも呼ばれる本作。藤木が演じるのは、侯爵(辻萬長)の代理でウィーンの統治を任された青年アンジェロだ。とくに性道徳について厳しく市井を取り締まるなか、アンジェロは不貞の罪を犯した貴族クローディオに死刑を宣告する。しかしクローディオの妹イザベラ(多部未華子)に恋をしてしまい……。「内容が気になってしまって」という藤木は、上演台本を渡される前に、戯曲を購入して読んでみたそうだ。「400年前の本であって、文化も大きく違い、独特な言い回し…。やっぱり難解というイメージがありました。しかも、その後に上がってきた上演台本が、内容は同じでも表現がことごとく違っていたんですよ(笑)。そこが翻訳劇の難しいところだなと。英語の台詞という正解があるのに、異文化である日本語に置き換えて上演するということ。でも、その挑戦を蜷川さんはずっと続けてきて、いろんな意見を言われながら闘ってきて、世界に認められた。『海辺~』のワールドツアーでは行く先々で熱狂的に迎え入れてもらったんですが、それは蜷川さんのやってきたことの証なんだなと感じましたね」前作と違い、今回は主演として稽古場の中心に立ち、蜷川の指揮を真っ向から受けとめる。「蜷川さんがどのような切り口で演出されるのか、その楽しみはあります。まあ、自分が出ない立場だったらその楽しみだけで済んだんですが(笑)。打たれ弱いんですよね」と苦笑いしつつ、覚悟は決めている。「蜷川さんが『この役を藤木がやってもいい』と言ってくださったのだから、応えるしかない。ハードルは限りなく高いし、逃げ出したくなるようなことが待っているでしょうけど、通過すべき時間なのかなと思います。あまり台詞を“独特で難解”と意識し過ぎず、自分の言葉として発せられるように頑張っていきたいと思います」公演は、5月25日(水)から6月11日(土)埼玉・彩の国さいたま芸術劇場 大ホール、6月17日(金)から19日(日)まで福岡・北九州芸術劇場 大ホール、6月24日(金)から27日(月)大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて上演。チケットは発売中。取材・文:上野紀子
2016年04月11日中谷美紀の主演舞台『猟銃』が4月2日(土)、東京・渋谷のPARCO劇場にて開幕する。2011年に中谷が初舞台を踏み、絶賛を受けた作品の再演である。井上靖の恋愛短編小説を原作とした本作は、ある男性・三杉穣介の13年にわたる不倫愛を巡り、彼の妻みどり、愛人の彩子、そして愛人の娘である薔子の、三人の女性の三杉へ宛てた手紙によって構成されている。【チケット情報はこちら】舞台上では、カナダ人俳優のロドリーグ・プロトーが一言も発することなく身体表現のみで穣介の役を演じ、中谷がひとりで、三人の女性それぞれの手紙に綴られた真意を、巧みな衣装替えを見せながら体現。三人三様の圧巻の人物描写を成し遂げた初演舞台について「美紀さんのキャリアの中でも、日本の演劇界にとっても大きな出来事だったと思います」と語るのは、意気を上げて再演に臨むカナダ人演出家のフランソワ・ジラールだ。「1時間30分のテキストを暗記すること、まずはそれが大きなチャレンジだったでしょう。彼女はそこから大きく成長していきました。本当に人を惹きつける力を持った女優さんだと思います。それは美とかを超越して……もちろん表面も美しいんですが、魂が深いんですね。美紀さんは英語もフランス語も堪能で、考え方もすごく現代的。それと同時に、日本の伝統に対しても深いつながりを持っていて、そのことは彼女の作品すべてから感じられます。探求し続ける真のアーティストである美紀さんと一緒に、初演以上に記憶に残るパフォーマンスを伝えることを目指しています」再演に向けて、初演とは異なるさまざまなアプローチを試したという。実際の舞台では、演じる中谷の背面後方にプロトーが位置しているが、稽古場では両者が対面しての稽古が進められた。「お互いにとってより深く人物を理解するためにやっています。もちろん劇場に入ったらプロトーは後方に戻りますが、美紀さんは彼のパフォーマンスを鮮明に覚えているので、三人の女性が誰に対して手紙を書いているのかが、よりはっきりわかると思います。また、実際の動きは一回忘れて、両者ともに言葉のままに動くという稽古もやってみました。二人のつながりを育てるために。それは見えないもの、説明のできないものですけれど、そういった感覚が舞台上では魔法を生み出すと私は思います。結果的にふたりとも、以前とは変わりましたから」美術、音楽など作品自体は初演と同じでも、その日の観客のエネルギーはけして同じではない、とも強調する。衝撃の舞台デビューから4年。進化を止めない中谷美紀の魅力を再確認するとともに、作品を再発見する喜びもぜひ、生の空間で受けとめたい。「台本を再読して、あらためてハッと気づいたのが言葉の少なさでした。つまり、観客に考えさせる力を持ったテキストだということです。初演を観た方も、小説を知らない方も、ぜひ井上靖の傑作を発見しに来てください」舞台『猟銃』は4月24日(日)まで東京・PARCO劇場で上演。その後各地巡演。取材・文:上野紀子
2016年04月01日3月25日の開幕を前に、舞台『イニシュマン島のビリー』のゲネプロ(最終リハーサル)が東京・世田谷パブリックシアターにて行われた。イギリス演劇界の鬼才マーティン・マクドナーが、自らのルーツであるアイルランドを舞台にして描いたブラック・コメディの傑作である。翻訳戯曲の演出で多くの秀作を生み出してきた森新太郎が、自身3度目となるマクドナー作品を手掛けることも注目された話題の舞台だ。舞台『イニシュマン島のビリー』チケット情報黒を基調としたステージ上に現れるのは、アイルランドの小島・イニシュマン島の田舎にある殺風景な店や、うら寂しい夜の海岸など。殺伐とした空気感が、波の音や照明効果から伝わってくる。そこで暮らす生まれつき左手・左足が不自由な少年ビリー(古川雄輝)、美少女だが言動があまりに暴力的なヘレン(鈴木杏)、キャンディに執着しているヘレンの弟バートリー(柄本時生)。彼ら若者たちは、島の外に飛び出すことを願っている。方や、店を営みながら孤児のビリーを育ててきた老姉妹(平田敦子、峯村リエ)、ゴシップ集めを生きる糧としている老人(山西惇)と彼の90歳の母親(江波杏子)、男やもめ(小林正寛)、医師(藤木孝)ら大人たちは、島という小さな世界で思うままに感情をまき散らし、時にアイルランドに対するささやかな誇りに満たされて生きている。停滞していた彼らの日常は、「ハリウッドから撮影隊がやってきた」というゴシップ屋老人のトップニュースにより揺らぎ始める。ひとりとしてアクの弱い人間はいないマクドナーの登場人物たち、それぞれにピタリとハマった理想のキャスティングにまずは興奮させられる。荒びれた店にたたずむ平田、峯岸の老姉妹は、まったく似ていない風貌での滑稽なやりとりで失笑を誘いながら、ビリーに注ぐ愛情で強固なつながりを見せる。傑出していたのが山西の怪演だ。諍いを掘り起こし、人々を困惑させるのが大好物の“困った老人”を喜々と表出する様が、憎らしくも愛おしく、笑いを抑えられない。鈴木の思い切りのいい表現もいい。哀しみと鬱憤を詰め込んだ暴力、暴言の数々がなぜか見るものの頬を緩ませ、彼女のいらだちに共鳴させる。柄本は独自の個性を存分に発揮した役どころだが、とぼけ顔のバートリーの胸の内に起こった静かな反乱を丁寧に見せていた。ビリー役の古川はハンディキャップを表現しながら、序盤は傍若無人な周囲の人々を穏やかにみつめ、つましくたたずむ。その謎めいた存在が周りの騒音にあおられて徐々に血や肉をつけ、感情を吐露していく様が面白い。ビリーの野心、歓喜、葛藤、失望を繊細につむぎ出す好演を見せた。人々の心に巣くう寂寥感、そこから沸き起こる暴力をユーモアで描き切るマクドナーの世界観。その衝撃に魅せられた森が、生にもがく人間たちを深く温かい眼差しでみつめ、鮮やかに息づかせている。ラストに渡された余韻の意味をじっくりと考えたい、そんな舞台がまたひとつ誕生した。公演は4月10日(日)まで世田谷パブリックシアター、4月23日(土)・24日(日)に梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて。取材・文:上野紀子
2016年03月28日一昨年の夏、PARCO劇場の伝説の舞台『ショーガール』が新キャスト、新演出でにぎやかに復活した。もとは福田陽一郎作・構成・演出、木の実ナナ&細川俊之出演で1974年から15年間にわたり上演された人気シリーズで、その元祖にインスパイアされた三谷幸喜が大いなるリスペクトを込めて再構築。三谷の絶対的な指名により誕生したのが川平慈英とシルビア・グラブの新コンビである。福田作品の持つ圧倒的な華はそのままに、小粋な笑いをふんだんに盛り込んだ三谷版『ショーガール』。大人の観客をおおいに満足させたステージが早くもこの3月、PARCO劇場に帰ってくる。舞台『ショーガール』チケット情報「前回、観に来てくださった中井貴一さんが「海外に行かなくても、こういうショーが渋谷で見られるんだ!」って言ってくださったんですよ。嬉しかった!やっぱり『ショーガール』=ロングランだから、一回こっきりじゃ許されない。そのブランドを継続していかなくてはいけないと思っています」(川平)「本編とショーで構成されたステージで、とくに歌と踊りの部分に関しては皆で一緒に作り上げた感がありましたね。作曲の荻野清子さんも含めて「もっとこうしたい」と4人で話し合ってね」(シルビア)本編と呼ばれる芝居部分は、川平扮する探偵のもとに謎の女が現れ、ある地味な女の身元調査を依頼することから始まるミステリー仕立てのラブコメディ。シルビアは謎の女と地味な女の二役を演じている。「地味な女!?うわ~三谷さん、やっぱり楽をさせてくれないな!と思いました(笑)」(シルビア)「派手だからね~…って人のこと言えない(笑)。僕の場合、ここ何年も要求されていなかった二の線を期待されましたね。ニヒルで、ハードボイルドで…という像を作り上げるのは相当大変でした」(川平)三谷がふたりを「ポジティブな見た目とは裏腹の、とてもネガティブな人たち。客観的に自分を見られる深さがある」と語っていたのは一昨年のこと。彼らの本質を突いたキャラクター設定に対して、シルビアは「人が思う以上に“気にしい”で、日本人の心を持っているんです」とうなづく。川平は「役者はだいたいネガティブでコンプレックスの塊ですよ。じゃないと向上心が生まれない」と笑いながら、さっそく「今回は楽器をやりたい!シルビアがベースで俺がギターね」と新たな野望を宣言した。シルビアも「前回、慈英がちょっとタップを踏んだから、今回は私も…。ショーをバージョンアップさせたいよね」と負けていない。ふたりの情熱がどのように進化した再演を生むのか、見届けたい。「三谷さんは単なる刷り直しが大嫌いな人。絶対に何か隠し球があると思いますよ!」(川平)公演は3月13日(日)から22日(火)まで。チケット発売中。取材・文上野紀子
2016年02月29日一昨年の夏、PARCO劇場の伝説の舞台『ショーガール』が新キャスト、新演出でにぎやかに復活した。もとは福田陽一郎作・構成・演出、木の実ナナ&細川俊之出演で1974年から15年間にわたり上演された人気シリーズで、その元祖にインスパイアされた三谷幸喜が大いなるリスペクトを込めて再構築。三谷の絶対的な指名により誕生したのが川平慈英とシルビア・グラブの新コンビである。福田作品の持つ圧倒的な華はそのままに、小粋な笑いをふんだんに盛り込んだ三谷版『ショーガール』。大人の観客をおおいに満足させたステージが早くもこの3月、PARCO劇場に帰ってくる。舞台『ショーガール』チケット情報「前回、観に来てくださった中井貴一さんが「海外に行かなくても、こういうショーが渋谷で見られるんだ!」って言ってくださったんですよ。嬉しかった!やっぱり『ショーガール』=ロングランだから、一回こっきりじゃ許されない。そのブランドを継続していかなくてはいけないと思っています」(川平)「本編とショーで構成されたステージで、とくに歌と踊りの部分に関しては皆で一緒に作り上げた感がありましたね。作曲の荻野清子さんも含めて「もっとこうしたい」と4人で話し合ってね」(シルビア)本編と呼ばれる芝居部分は、川平扮する探偵のもとに謎の女が現れ、ある地味な女の身元調査を依頼することから始まるミステリー仕立てのラブコメディ。シルビアは謎の女と地味な女の二役を演じている。「地味な女!?うわ~三谷さん、やっぱり楽をさせてくれないな!と思いました(笑)」(シルビア)「派手だからね~…って人のこと言えない(笑)。僕の場合、ここ何年も要求されていなかった二の線を期待されましたね。ニヒルで、ハードボイルドで…という像を作り上げるのは相当大変でした」(川平)三谷がふたりを「ポジティブな見た目とは裏腹の、とてもネガティブな人たち。客観的に自分を見られる深さがある」と語っていたのは一昨年のこと。彼らの本質を突いたキャラクター設定に対して、シルビアは「人が思う以上に“気にしい”で、日本人の心を持っているんです」とうなづく。川平は「役者はだいたいネガティブでコンプレックスの塊ですよ。じゃないと向上心が生まれない」と笑いながら、さっそく「今回は楽器をやりたい!シルビアがベースで俺がギターね」と新たな野望を宣言した。シルビアも「前回、慈英がちょっとタップを踏んだから、今回は私も…。ショーをバージョンアップさせたいよね」と負けていない。ふたりの情熱がどのように進化した再演を生むのか、見届けたい。「三谷さんは単なる刷り直しが大嫌いな人。絶対に何か隠し球があると思いますよ!」(川平)公演は3月13日(日)から22日(火)まで。チケット発売中。取材・文上野紀子
2016年02月29日西田シャトナー伯作・演出によるムッシュ・モウソワール第2回“来日”公演『レッド・ジャケット』が5月、草月ホールにて上演される。ムッシュ・モウソワールとは西田が生み出した「妄想をテーマにした新しいフェイクコメディ」シリーズで、「フランスからやってきた日本語の堪能な妄想の紳士たちが、妄想力の限りを尽くして表現する」という設定のもとに繰り広げられるステージだ。「ライバルはシルク・ド・ソレイユですね」と飄々とつぶやくオラキオ伯に、平野良伯と宮下雄也伯が爆笑で応える。昨年の第1回来日公演から連続出演となる3人に、謎めくムッシュ・モウソワールの魅力、今作への思いを聞いた。ムッシュ・モウソワール第二回来日公演『レッド・ジャケット』チケット情報「5人の出演者が出ずっぱりの舞台で、細かなきっかけがたくさんあるので、ずっと集中していないとダメなんです。中身はすごく繊細なんだけど、それをパワフルに、ダイナミックに見せないといけない。最後に“なんかスゲーものを観たな!”と思ってほしいんだよね」(オラキオ伯)「そう、上演する演目のストーリーの面白さもあるんだけど、やっぱり5人の熱量ですよね。人が本気出してフルパワーで演じているところが、観ていて気持ちいいんじゃないかな」(平野伯)「試合みたいな舞台だよね。前回の最初の通し稽古で、あまりにも大変すぎて全員瞳孔が開いて酸欠になっていました(笑)。今回もそうなるんじゃないですかね」(宮下伯)シンプルな舞台上、俳優陣が次々に繰り出す全身を駆使した表現によって、観客のイマジネーションが刺激される。その場にいる全員が“妄想の共犯者”となって劇が進行していくスタイルは、西田の舞台作りの真骨頂だ。演劇の原点ともいえる面白さが注目され、第1回来日公演は連日大盛況。あまりの反響に「DVDで残したかった。まさかこんなに話題になるとは思わなかったから」とうなずき合う3人だが、すぐさま、「だけどムッシュ・モウソワールほど、生で観たほうがいい舞台はないと思います!」と頼もしく宣言した。「妄想がただの妄想で終わらず、現実社会にも影響してくるんです。現実の自分がその妄想を経たことで、成長していく。ただ楽しいだけで終わるのではなく、今回もそんなことを感じとれる作品にしなきゃいけないなと思っています」(オラキオ伯)「シャトナー伯はものすごい少年なんです(笑)。何にでもムキになるシャトナー伯に、僕らもムキになって返していく。そのエネルギーをお客さんに向けて放ちます。遊園地に来た気分で観ていただければ、きっと心がスッキリすると思いますよ」(宮下伯)「そう、子供がそのまま大きくなったような方なので、男性のお客さんのほうが観ていて“あ~わかる、わかる!”となるんじゃないかな。ぜひカップルで来ていただいて、観終わった後は舞台の勢いのままに愛の告白をされることをお勧めします(笑)」(平野伯)妄想を現実に変える力が潜む、噂の舞台。その威力をぜひ劇場で確かめたい。公演は5月11日(水)より草月ホールにて。チケット一般発売は3月12日(土)より。取材・文上野紀子
2016年02月23日