主に木と金属を素材とし、実在するものから架空のものまで命あるものをテーマに、神秘的かつリアルな作品を制作する彫刻家・大森暁生(おおもりあきお/1971年〜)。関東の美術館では初となる大規模個展が、横浜のそごう美術館で、6月3日(土)から7月9日(日)まで開催される。1996年に愛知県立芸術大学を卒業後、籔内佐斗司(やぶうちさとし)工房で修業を積んだ大森は、独立後は国内外のギャラリー、百貨店、アートフェア、美術館などで作品を発表すると同時に、ファッションやテレビなど異分野とのコラボレーションにも積極的に取り組んできた。同展は、初期作から最新作まで約100点の作品で、多彩な活動を展開する大森の創造の軌跡を紹介するものだ。大学の卒業制作《カラスの舟は昇華する》といった初期作や、《ぬけない棘のエレファント》といった代表作に加え、ファッションブランドとのコラボレーション作品が並ぶのも興味深い。また、ドラマや映画への作品提供も多い大森は、今年の1月クールの日曜劇場「Get Ready!」(TBS)に代表作《死に生ける獣―Babirusa―》を提供したことでも話題を呼んだ。同展では、そのほか、「ルパンの娘」(ドラマ版・フジテレビ/劇場版・東映)への提供作も見ることができる。大きな見どころのひとつは、大森が10年をかけて取り組んだ「完全版大日如来坐像制作プロジェクト」の成果が公開されること。この大日如来坐像は、約1200年前に空海が東寺のために造像し、15世紀に焼失したもの。空海の定義をもとに自身の解釈を加えた大森は、10年をかけて、その幻の大日如来坐像を完全な姿で蘇らせ、この10月に香川県の讃岐國分寺に奉納を予定している。今回は、奉納前の大日如来坐像の本尊仏頭とともに、本尊を支える8体の獅子像のうちの4体が特別に公開される貴重な機会となる。また同展では、作品や彫刻家という仕事に対する大森の思いが、言葉として作品とともに紹介されるという。今にも動き出しそうなリアルな生き物たちが、神秘的な霊気を帯びて感じられるのが大森の作品の魅力のひとつだ。その作品の数々を間近で見ながら、作家の言葉にも耳を傾けたい。<開催情報>『霊気を彫り出す彫刻家大森暁生展』会期:2023年6月3日(土)〜7月9日(日) ※会期中無休会場:そごう美術館時間:10:00~20:00(入館19:30まで)料金:一般1,000円、大高800円公式サイト:
2023年05月25日文芸評論や編集者として知られる仲俣暁生さん。意外にも学生の頃は、マンガ評論家になりたかったのだとか。新刊『失われた娯楽を求めて』では、そんな著者が数々の名作マンガを論ずる。といっても堅苦しくなく、分かりやすく魅力を伝えてくれるガイド的な一冊だ。「10年ほど前に書いたマンガ論と、最近書いたものをまとめました。編集者に薦められて読んだ作品もあるので、僕の好みに偏っているわけではなく、結果的に間口の広い一冊になったと思います」岡崎京子、楳図かずお、安野モヨコ、島本和彦、藤田和日郎、衿沢世衣子、渡辺ペコ…。各論の中で別の作家にも言及され、結果的に登場する作家・作品数は多数。女性作家が多いのが印象的だが、「僕は学生の頃『別冊マーガレット』を買っていましたが、『少年ジャンプ』を買う女の子もいた。へだたりなく男子も女子も同じマンガを楽しめた時期って、戦後民主主義の中で小春日和のいい時期だった気がします。この本のタイトルには、そういう意味も込められていますね」まえがきでは1964年生まれの仲俣さんのマンガ遍歴が語られ、「ニューウェーブ」の登場など、日本のマンガ史の一端として読める。「本にまとめるにあたってひとつ背骨を作ろうと思って、ちょっと長いまえがきを書いたら、個人史になっちゃって(笑)。でもそこも面白がってくれる人が意外と多いんです」巻末には、カバー絵を描き下ろした今日マチ子さんとの対談も。『COCOON』など戦争三部作についての思いなどを丁寧に聞いている。「戦争マンガや戦争映画って、最初は娯楽として作られ、次第にテーマが深くなっていった気がします。いま戦争を描く今日さんは、娯楽の構造を踏まえつつリアルなストーリーを生み出している。今日さんのお話には発見がいっぱいありました」時を経て読み継がれる名作から、現代の注目作まで、きっとあなたの気になる作品に出合える本書。「最近はマンガに詳しい人でも、全体像を把握している人は少なくて、それぞれ好きなジャンルの中で楽しんでいる印象。だから垣根を越えて紹介したい気持ちもありました。マンガって正面から向き合って読むと、やはりどれも面白いですから」『失われた娯楽を求めて極西マンガ論』過去の雑誌連載や近年発表したマンガ論を収録、新たに今日マチ子さんとも対談した著者初のマンガ評論集。紹介作家は他に西原理恵子、松本大洋、西島大介ら。駒草出版1000円なかまた・あきお1964年、東京都生まれ。文筆家、編集者。オンラインメディア「マガジン航」編集発行人。著書に『ポスト・ムラカミの日本文学』『極西文学論』『再起動せよと雑誌はいう』など。※『anan』2019年2月20日号より。写真・土佐麻理子(仲俣さん)中島慶子(本)インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2019年02月14日