音楽家の古澤巖と俳優の山本耕史がタッグを組み、音楽と言葉でステージを彩るコンサート「Dandyism Banquet」が9月から全国で開催される。本公演は音楽と言葉を融合させて、これまでにないエンターテインメントを描く試みで、8月には本コンサートのメンバーで収録されたミニアルバム「Dandyism Banquet」も発売される。当日は古澤、山本のほか、塩谷哲、小沼ようすけ、大儀見元、井上陽介が出演。Bunkamuraオーチャードホール公演はすでにチケットが発売中で、愛知と大阪公演は今月11日(土)からチケットが発売になる。古澤巖×山本耕史コンサート「Dandyism Banquet」9月4日(日)東京Bunkamuraオーチャードホール9月11日(日)愛知愛知県芸術劇場コンサートホール9月17日(土)大阪NHK大阪ホール10月3日(月)静岡アクトシティ浜松 大ホール11月5日(土)東京かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール12月20日(火)静岡静岡県コンベンションアーツセンター グランシップ中ホール大地12月21日(水)横浜関内ホール2023年1月28日(土)宮崎野口遵記念館(延岡市)【出演】古澤巖(ヴァイオリン)、山本耕史(語り・歌)、塩谷哲(ピアノ・音楽監督)、小沼ようすけ(ギター)、大儀見元(パーカッション)、井上陽介(ベース)■チケット情報
2022年06月10日ミドルエイジの先輩たちが「自分らしい生き方」に至るまでーー古澤瑛子さん特別支援学校卒業後、飲食店やレンタルビデオチェーンでの勤務を経て、現在はアパレル企業で勤務する古澤瑛子さん(以下、アコさん)。約1年前に実家を離れ、発達障害や知的障害のある人たちが共に暮らす「グループホーム」で生活しています。先天性の遺伝子疾患・ウィリアムズ症候群とADHDのあるアコさんの良き理解者であり、子どもの療育やグループホーム運営を長年続けている「一般社団法人発達障がいのためのハッピーライフ研究会」の高見澤千佐先生と共に、幼少期から現在に至るまでをお話しいただきました。Upload By 鈴木悠平生まれつき心臓が弱く両親は心配していた。先生と出会い、療育でたくさんの経験を――お二人とも、今日はよろしくお願いします。はじめに、アコさんの幼少期のころのお話や、先生との出会いについてお聞かせください。古澤瑛子さん(以下、アコ):活発で、外で遊ぶのが好きな子でした。親からは「すぐどこかへ行っちゃう」って心配されていたみたいです。高見澤先生のところには、4歳から療育に通っています。会ったときからすぐ仲良くなって(笑)、そこからずっと、お世話になっています。Upload By 鈴木悠平高見澤千佐先生(以下、高見澤):ウィリアムズ症候群の特徴で、アコさんは生まれつき心臓が弱いのもあって、お母さんはものすごく緊張感を持って彼女を育てておられたんです。転んで怪我して入院するんじゃないか、なにかあったら死んじゃうんじゃないかって、どこかに連れていくのもすごく慎重で。わたしはいろんな子を見てきたプロなんで、まぁお母さんそんなに緊張しないで、と(笑)。アコさん本人も、わたしと相性が合ったらしく最初っからすごくなついてくれたし、自分で学んで覚えていく力はすごくある子だなと思ったので、どこにでも連れて行って、とにかくいろんなことを体験してもらいました。アコ:はい、いっぱい体験しました!先生のところでは合宿もあって、しょっちゅうお泊まりにも行ってましたね。高見澤:うちの療育にはだいたいいつも50人ぐらいが来ていて、半分が知的障害、半分が発達障害のある子どもたちです。基本的には幼児のときから通ってもらって、二十歳以降の自立を見据えて、一人ひとり課題に取り組んでもらっています。勉強だけでなく、言語療法や運動療法まで、その子がそのとき必要なことを、という感じですね。彼女は、手先の不器用さがあったり、気がものすごく散りやすかったりして、小さいときは集中して取り組むのがなかなか大変だったんですけど、うまくいかなくて泣くことはあっても、次の日にはいつもニコニコで現れて「先生、会いたかったー!」って(笑)。いつも明るいよねー。アコ:今でも先生にベッタリですね(笑)。みんな一緒に過ごしていたはずなのに、「障害がある」というだけで扱いが変わるーー保育園や学校などでの、集団生活はいかがでしたか?アコ:保育園のときは、遊具にうまく登れなくて、運動会の競技に参加できないと言われて…高見澤:運動会で、はしごを登って鐘をカーンって叩く種目があるんですが、参加を遠慮してほしいって園から親御さんに言われたことがあったんですよ。Upload By 鈴木悠平ーーそんなことが…高見澤:でも、わたしが園に行ってコツを教えたら10分でできるようになったんだよね!アコ:はい!先生にコツを教わったらすぐできました。高見澤:運動会当日もバッチリできて、みんなに大拍手をもらったよね。やっぱり当時はまだまだ、「障害があるとみんなと同じことはできないんじゃないか」というような偏見が強くて、本人も「それはおかしいんじゃないか」っていうのはすごく感じ取っていました。アコ:小学校に入ってからも、途中までは楽しく過ごせていたんですが、6年生のときにクラスメイトに思いっきり蹴り飛ばされて、それがすごく辛くて、不登校になっちゃったんです。高見澤:心臓が悪いっていうことは、本人は普段からいろんな人に言ってたんです。それなのに胸を蹴られたっていうのがものすごいショックだったみたいで。アコ:はい、ほんと怖かったし、友達に蹴られたっていうのがショックでした。知らなかったんならともかく、知ってるのにどうしてこんなひどいことするのって。高見澤:障害のある子が疎外感を経験しやすいのがこの時期で、やっぱり難しいですね。だいたい4年生ぐらいまでは、みんなフランクに、障害がある子もない子も一緒に遊んでたりするんですけど、思春期に入りかけると違いを気にするようになって、仲良しグループがつくられるときに障害のある子が仲間はずれにされやすいんですよ。今までは「一緒においで」って言われたのが、急に「え、なんでお前来んの」って言われたりして、そこで本人も違いを自覚して、寂しい思いをすることになる。うちの療育でも、不登校を経験したことのある人は多いです。アコ:そのまま、中学校は3年間ずっと不登校で、先生のところに毎日通ってお世話になっていました。Upload By 鈴木悠平高見澤:フリースクールとして、うちへの出席を学校の出席扱いにしてもらって、そのまま卒業ですね。―中学卒業後は、特別支援学校の高等部に通われたとお聞きしました。通常の高校か特別支援学校か、進学先はどのようにして決めましたか?アコ:やっぱりいじめられたときの印象がずっと残っていて、学校行くこと自体がすごく怖くなってしまっていたんです。でも母親は、やっぱり高校は出てほしいと言うので、先生に相談に乗ってもらいました。高見澤:うちのフリースクールに通ったあと、高校進学せずにそのまま就職できている人もいっぱいいるんですけど、彼女の場合は、お母さんがものすごく思いつめられていてね。「中学校を不登校にさせてしまったから、せめて高校だけでも」って。ただ、アコさんは漢字や英語を書くのがどうしても難しくて、その状態で入れる高校の選択肢が当時はほとんどなかったんです。だったら、就職に向けた訓練もできるし、特別支援学校の高等部が良いだろうと。本人はそういった特別支援学級・特別支援学校的なところをそれまで経験していなかったので、入学当初はかなりびっくりしていましたね。――3年ぶりの学校で、はじめての特別支援学校というと、不安や緊張も大きかったと思います。アコ:もうほんと、毎日泣いてましたね。怖い!行きたくない!って。高見澤:うちの療育にも来ていた彼女の親友が1学年上にいたのが救いで、ほぼ彼女に会うために学校に行ってたようなもんだよね。その分、その子が卒業するときは大変で(笑)。アコ:あまりにショックで「わたしも姉さんと一緒に卒業する!置いてかないで!」って大泣きしてましたね(笑)。高見澤:卒業式、本人よりこの子の方が泣いてたっていうね。働いてお金を稼ぐ。親元を離れて暮らす。自分がどう生きるかを「選べる」ことがとても幸せ――それでは、特別支援学校卒業後の就労についてお聞かせください。アコ:卒業して最初に働いたのは喫茶店です。お客さんの注文を取ったり、飲み物や料理を運んだり、それから清掃とか。高見澤:最初は福祉的就労でしばらく働いたんです。わたしも見に行ったんですが、アコさんはお客さんに合わせて話すのが得意で、「雨ひどかったですねー」とか「今日何になさいますか?」とか、常連さんともすぐ仲良くなって、楽しくやっていましたね。参考: LITALICO仕事ナビ 福祉的就労とはどんな働き方なの?一般就労との違いなどについても説明しますアコ:そのあとに、障害者雇用での就職先をいくつか見に行って、次に就職したのがレンタルビデオチェーンの店舗の仕事です。何年か経ってから、そこが一度障害者雇用を終了するということで辞めなくちゃいけなくなったんですが、就労支援センターに通っている間に今の会社の人が見学に来て、それで就職が決まりました。そこから7年間、今の会社で働いてます。――今のお仕事が一番長いんですね。若い世代に人気のアパレルブランドの、渋谷の店舗で働かれているとお聞きしました。具体的にはどんな業務を担当されているんですか。アコ:わたしの担当は主に倉庫の業務ですね。スペインから送られてきた洋服を出して、輸送用のハンガーから店舗用のハンガーに入れ替えて…という感じで、お店に出る前の商品を整える仕事です。――へええ、なるほど。普段なかなか見られない、バックヤードでのお仕事、興味深いです。仕事の中で、やりがいや楽しさを感じる場面はありますか?アコ:仕事のやりがいは、ええと、そうですね…やっぱり働いてお給料をもらえるのが。Upload By 鈴木悠平高見澤:仕事の内容というか、お金だよねぇあなたは(笑)。アコ:はい、まさにお金ですね(笑)!――シンプルな答え(笑)。働いて稼いだお金は何に使うんですか?アコ:お金を貯めて自分のほしいものをひとつずつ買っています!こないだはiPhoneも買ったし、次はApple Watchとか、Bluetoothのイヤホンを買いたいなって。高見澤:あとは食だよね。グループホームではお昼ごはんの提供はないので、ご実家からお弁当を持って行くことが多かったんですけど、せっかく毎日渋谷に通勤してるんだしということで、「ランチを自分のお金で食べる」という念願を叶えて、いろいろ好きなもの食べて楽しそうですよ。毎日、わたしが仕事で忙しい中、お昼になると「先生、今日はポークチョップです!」「今日は中華♡」とかって写真が送られてきて(笑)。アコ:ふふふ(笑)。高見澤:なかなか攻撃力のある「飯テロ」をしてくるんですよ(笑)。アコ:でも今はApple Watchを買うために節約モードに入ってて…今日もカップ麺でした。高見澤:耐え忍んでますね(笑)。でもほんとに、お金は楽しいみたいだね。アコ:楽しいですね。なんか、初めてなんですよ。ケータイを自分で選んで変えられるとか。――自分でお金を稼いで、自分で使いみちを選べる。アコ:そうそう、それは本当に感動しましたね。高見澤:やっぱりお家にいる間は、全部親御さんがやってくださっていたんでね。このグループホームの個室の家具やカーテン、彼女は全部自分で決めたんですよ。いろんなお店を回って、毎回店員さんに詳しく説明してもらって、すっごく悩んで決めてって、もう大変で(笑)。「わたし、カーテン選んでいいんですか!?」ってすごく感動しててね。Upload By 鈴木悠平アコ:実家にいるときは、そんなことをやらせてもらえなかったんですよ。高見澤:毎月、給料が入ってきたら「これがあなたのお給料です。どう使おうか」って、テーブルの上に出すんですよ。グループホームに生活費として入れる額をよけて、残りの中で「この中からあなたは今月いくら貯金したい?」「お昼にいくら使いたい?」「何かほしいものありますか?」って、毎回やるんだよね。アコ:はい、そうです。先生と一緒にやってます。高見澤:彼女、すごい悩んで吟味するので、いつも2時間から3時間かかりますよ(笑)。でも、自分でお金の使い方を決めるっていうのはほんとに楽しいみたいですね。やっぱりどうしても親御さんがいると心配しちゃって「あなたのお小遣いはこれね」「だけどそれは買っちゃダメ」とか「ほしいんだったらお母さん買ってくるから」ってなっちゃってたので。アコ:そうですね。お金以外でも、「どこどこ行ってくるよー」って外出するときも「1人で行かないで」って親が心配してついてくるというパターンがほとんどで。――ご両親も心配ゆえなのでしょうけど、アコさんにとって「自分で決める」機会を持てたのは、大きな変化だったんですね。グループホームでの日々の暮らしについても教えていただけますか。高見澤:ここは男性2人女性2人の、彼女を含めて4人で暮らしています。朝晩は食事の提供があって、昼はそれぞれ。この人はごはんが何より楽しみで、「今日の夕飯なんですかー!」って仕事からもルンルンで帰ってくるよね(笑)。アコ:はい!もう、ごはん大好きで!高見澤:共有スペースの掃除や片付けは、4人で分担決めてやってます。で、各自の部屋は、自分で掃除なんだよね。アコ:はい、やってます。掃除も洗濯もやっぱり、実家で親がいると頼りっぱなしというか…自分も甘えが出ちゃうので、それもなくしたかったんですよ。自分の部屋を持って一人暮らししつつ、みんなと一緒に家事をして、気持ちや思い出を分かち合えるっていうのが、すごく嬉しいですね。――なるほど、食事付きのシェアハウスみたいな感じですね。楽しそうです。高見澤:区が募集をかけるようなグループホームだと、知らない人同士で入居して、あんまり交流がなくて、というかたちになることも少なくないんです。わたしが運営しているグループホームは、それまで療育に来ている人たちが入るので、だいたいが顔見知りですね。月に1回ぐらいは、みんなで焼肉屋に行ったりとかしてますよ。――いいですねえ。高見澤:もちろん中には、グループホームの共同生活で、まわりにどう接していいかわからなくて困っちゃう人もいるんですが、彼女はそういうときにすごく自然に声をかけてくれてね。最初は黙ってた子が、気づいたら「あ、おはようアキコ」「今日また夜、会おうね」って言って会社に行くようになってたりね。お互い影響し合っていい感じに変化していくんですよ。アッコムードの力だなって(笑)。アコ:ふふふ(笑)。高見澤:彼女のこのキャラクターが、家では「お節介」って言われがちだったんですよ。「あんたそんな他人のことはいいから、自分のことやんなさい」っていっつも言われてたんだけど。ここではそのお節介が、すごくうまく作用してるんだなって思います。わたしはずっと、自分が大好き高見澤:ご両親との関係や、お互いが願うことのギャップの話もいろいろしてきましたが、彼女のずっと変わらない、素敵だな、美しいなって思うところが、すごく自分のことを愛していることなんですね。ウィリアムズ症候群は先天性の疾患で、本人も割と早くからそのことを理解していたんです。どうしても、障害のある子を産んだ親御さんは思いつめやすくなる面はあって、彼女のお母さんも「ウィリアムズに産んじゃってごめんね」って思っていた時期があったんです。わたしも彼女本人がどう思っているか少し心配していたので、療育に通ってしばらくしてから「ウィリアムズ嫌だ?」って聞いたことがあったんですけど、「いや、わたしは自分のこと大好きだから、ウィリアムズに生まれてよかった」って、あっさりでした。それ、今でも言うよね?アコ:はい、言いますね、ずっと言ってます(笑)。自分のことは、好きですね、ふふ。お母さんに「産んでごめんね」って直接言われたときにも、「いや、わたしはウィリアムズに生まれて嬉しいなって思ってるよ」って。Upload By 鈴木悠平――自分を大好きでい続けられるって、素敵です。きっとお母さんもアコさんにそう言われて楽になったと思います。高見澤:ほんと、ずっと言ってるよね。ウィリアムズ症候群の親の会があるんですけど、「わたしもそこに入って、後輩と会いたい」って言うぐらいで。親の会は親じゃないと入れないって言ったら悔しがってましたね(笑)。アコ:なんで本人は入れないの、行きたいじゃん、みたいな(笑)。――最後に、進学や就職、将来の生活について、不安や悩みのある若い読者に向けてメッセージをお願いします。アコ:そうですね…やっぱり、楽しく暮らしてほしいなっていうのが一番ですね。落ち込んだり、学校行けなくなったりとか、そういうこともあるけど、将来もあるし、前向きに生きていってほしいなっていうか。発達障害でも知的障害でも、ウィリアムズでも、好きなことをやったり、恋人をつくったり、いろんな幸せを感じて生きていけばいいじゃないかって、わたしは思っているんです。――アコさんにとっての、高見澤先生や、特別支援学校が一緒だった先輩、ここで一緒に過ごす友達みたいな、一緒に幸せを分かち合える存在をつくっていけるといいですよね。アコ:そうですね。ほんとに大事な存在です。嬉しいです。高見澤:ずっと朝から晩まで、けらっけら笑って生きてるよね。アコ:もうけらっけらけらっけら、ずっと笑ってます(笑)。――アコさんのように、いじめや不登校を経験している子もいると思います。そうした時期を経験して大人になったアコさんから、なにか伝えたいことがあれば。アコ:いじめられたときはとにかく、1人で抱え込まないでほしいなって思いますね。わたしもつらかったですけど、相談できる人が1人でも2人でも増えるといいなって。高見澤:あんたそんなこと言うようになったの、すごいね。はっはっは(笑)。アコ:わたしも抱え込んでたときがあったんですよ(笑)!高見澤:抱え込んでたって、毎日のようにわたしとワーワーワーワー言ってたじゃん(笑)。アコ:だから!抱え込んじゃってたからそうやって先生に相談したんじゃないですか(笑)。Upload By 鈴木悠平先天性の遺伝子疾患を抱え、両親に心配されたり、学校でのいじめや不登校を経験しながらも、ずっと「自分が大好き」だと語り、周りとも明るく活発にかかわりながら生きているアコさん。インタビュアーの私も、アコさんのお話を聞いているだけで明るい気持ちにしてもらいました。アコさん自身の明るい性格もさることながら、高見澤先生やグループホームの同居人をはじめ、日常を分かち合える大切な人たちの存在が、きっとものすごく大きなエネルギーになっているのだろうな、とも感じました。実家暮らしでも一人暮らしでもない、「グループホーム」という選択肢も、ぜひ読者のみなさんに参考にしていただければ幸いです。取材・文:鈴木悠平編集:佐藤はるか撮影:鈴木江実子LITALICO発達ナビ無料会員は発達障害コラムが読み放題!
2021年02月28日2年前の2018年にスタートした、ギタリスト荘村清志のスペシャル・プロジェクト「デビュー50周年特別公演」がいよいよ大団円を迎える。Vol.4の今回は、大友直人指揮東京都交響楽団との共演によるロドリーゴの「アランフェス協奏曲」を中心に据えた豪華なプログラムが用意され、50周年記念の最後を飾る素敵なステージに華を添える。その中身はといえば、モーツァルトのオペラ「皇帝ティートの慈悲」序曲を皮切りに、ロドリーゴの代表作「あるき貴紳のための幻想曲」&「アランフェス協奏曲」のほか、cobaの「ギター協奏曲」世界初演まで行われるという、なんとも盛り沢山な内容だ。しかも会場は、日本最高峰のステイタスを誇るサントリーホールとなれば、ギターファンならずとも気になるところ。ピアノと並んで最も身近な楽器ギターの奥深さを、“ギター界のレジェンド”のステージで堪能したい。●公演概要3月29日(日)サントリーホール「荘村清志 スペシャル・プロジェクト vol.4デビュー50周年特別公演」●荘村清志(ギター)荘村清志は実力、人気ともに日本を代表するギター奏者として近年ますます充実した活動を展開している。2017年から20年にかけてギターの様々な可能性を追求する「荘村清志スペシャル・プロジェクト」(全4回)に取り組んでいる。第1回は17年にさだまさしと、第2回は18年6月(いずれも東京オペラシティコンサートホール)にcoba、古澤巌、錦織健と共演し、ジャンルの垣根を越えたコラボレーションが話題となった。本年はデビュー50周年に当たり全国各地でリサイタルを行っている。9歳からギターを始め、父・荘村正人と、後に小原安正に師事する。1963年、来日した巨匠ナルシソ・イエペスの歓迎演奏会で氏に認められ、翌年スペインに渡りイエペスに師事。同時期にスペインに滞在していた岩崎洋に音楽理論も学ぶ。1967年イタリア各地で18回、翌1968年にはミラノなど22都市でリサイタルを開き、各地で好評を博す。帰国後、1969年の日本デビュー・リサイタルで、「テクニック、音楽性ともに第一人者」との高い評価を得る。1971年にイタリアで開かれた世界青少年協会国際フェスティヴァルに日本代表ギタリストとして参加し、この成功により北米各都市で28回にのぼる公演を開き、国際的評価を確実なものにする。1974年にはNHK教育テレビ「ギターを弾こう」に講師として出演し、一躍、日本全国にその名と実力が知られることになった。1977年と1980年に再びスペインに渡り、イエペスのもとでさらに研鑚を積み、ヨーロッパ各地でコンサート活動を行なう。以後、リサイタルや、日本の主要オーケストラとの共演で活躍を続けている。99年マルク・グローウェルス(フルート)、2001年グローウェルスと、インマ・ゴンザレス(カスタネット)との共演、2004年女優の岸田今日子とのコラボレーションによる《ギターと朗読の庭》のツアーを行い、カステルヌオーヴォ=テデスコの「プラテーロとわたし」をメインにした内容が好評を博す。05年にはCD《郷愁のショーロ》をリリース、アコーディオンのシュテファン・フッソングをゲストに、猿谷紀郎の委嘱新曲と新アレンジを含む意欲的なアルバムで、東京や大阪で記念コンサートを開催するなどギターの魅力をさまざまな形で伝えている。07年にはNHK教育テレビ「趣味悠々」に講師として登場し、改めて日本ギター界の第一人者としての存在を強く印象づけた。08年ミラノ弦楽合奏団の日本ツアーにソリストとして参加。同年ビルバオ交響楽団の定期演奏会に出演。《アランフェス協奏曲》を録音09年にCDをリリース、また同団との日本ツアーを行い好評を博した。14年デビュー45周年を記念して東京にて大友直人指揮東京都交響楽団と協奏曲3曲を演奏。2015年10月にはイ・ムジチ合奏団と共演、レコーディングを行い、ジュリアーニ、ヴィヴァルディのギター協奏曲を含むアルバムが16年1月にリリースされた。現代のギター作品を意欲的に取り上げるだけでなく、日本人作曲家に多数の作品を委嘱、初演するなど、ギターのレパートリー拡大にも大きく貢献している。特に武満徹には74年に「フォリオス」、93年に「エキノクス」を委嘱、77年荘村のために編曲された「ギターのための12の歌」を初演・録音、96年には「森のなかで」を全曲初演している。16年は武満徹没後20年に際し、同氏のギター曲を各地で演奏し好評を得た。現在、東京音楽大学客員教授。
2020年03月18日舞台『巌窟王 Le theatre』の囲み取材が、こくみん共済coopホール(全労済ホール)/スペース・ゼロにて行われ、橋本祥平、谷口賢志、前嶋曜(JBアナザーズ)、遠山景織子、徳山秀典の5名が出席した。15年前に放送されたアニメ『巌窟王』をベースに舞台化された本作。フランスの小説家、アレクサンドル・デュマが描く古典名作『モンテ・クリスト伯』を原作とし、アニメ版では、復讐の生贄となる少年・アルベールの目線から物語を構築し、残酷でイノセントなドラマを描いたことで人気を博した。会見では、キャストたちが改めて公演に向けての意気込みを語った。アルベール・ド・モルセール子爵役の橋本は、「稽古初日から約1ヶ月間、本番に向けて挑んできたんですが、あまりにも稽古内容が濃すぎて、体感的には半年ぐらいやってきたような気がします」と濃密な稽古期間を振り返る。また、アニメ版でアルベールを演じた福山潤との対談も実現したことに触れ、「福山さんから、“役者たちの芝居の幅が狭まってしまうから、キャラクターの声に寄せなくていい”とのお言葉もいただきました。自由にのびのびと作ってきた作品です」とコメント。モンテ・クリスト伯爵役の谷口は、アニメ版をリアルタイムで観ていたことを明かし、「当時は役者としてくすぶっていた時期。何か新しいものを観ないと、と思って、一番最初に観たのがアニメ『巌窟王』でした。そのときに、このモンテ・クリスト伯爵を演じてみたいと思って、生きてきたんです。そして、巡り合うことができました」と、喜びをあらわにした。アルベールの親友、フランツ・デピネー男爵を演じる前嶋は「この1ヶ月、やれることはやってきました。その想いを全力でお客さんに届けたいです」と真摯に語り、アルベールの母親、メルセデス・ド・モルセール役の遠山景織子は、「アニメを観て、この作品が大好きになりました。ストーリーもそうですが、舞台上の映像も素晴らしいので、そこを観て欲しい。メルセデスを情熱的に演じたいと思います」と意気込んだ。フェルナン・ド・モルセール将軍役の徳山は「舞台は復讐劇ですが、それぞれのキャラクターに深い愛があります。それを舞台上でどこまで表現できるかが僕らの課題。素晴らしいラストになればいい」と期待を寄せる。共演者の印象を聞かれた橋本は、今回の座組を「大人チームと子供チームで分かれていて、バランスが良い」としつつ、「賢志さんはお芝居面で引っ張ってくれていて、遠山さんはド天然な方なので、場のムードを和ませてくれています。徳山さんは面倒見がよくて、僕らの芝居も見てくれていました。そして前島くんは、一番最後まで稽古場に残っているぐらい、一生懸命、ひたむきに頑張っている姿が印象的でした」とそれぞれの印象を明かした。今回、異形なビジュアルメイクの谷口は、「本来、吸血鬼などの人間ではない役を演じるときは、色や形ではなく芝居で表現したいし、芝居だけで伝わるようにしないといけない」としつつも、「2.5次元というジャンルになると、ビジュアル面から表現することができる。それがこのジャンルのいいところ。他の作品とは違う面白さがありますね」と笑顔を見せた。最後にファンへ向けてのメッセージを求められた橋本は「僕らにとっても、お客様にとっても、2019年最後の舞台になるかもしれません。今年最後の作品にふさわしいように、必死に頑張りますので、この世界観にどっぷりと浸かっていただけたら」とまとめつつも、「最後にこの言葉を贈ります。“待て、しかして希望せよ”」と、谷口演じるモンテ・クリスト伯爵の有名なセリフを声高らかに放つ。するとすかさず、「それ俺のだから!」と谷口から突っ込みが入り、報道陣を笑わせる一幕も。最後まで座組の仲の良さを見せつけ、この日の囲み取材は終了した。舞台『巌窟王 Le theatre』は12月20日(金)〜28日(土)まで、こくみん共済 coop ホール(全労済ホール)/スペース・ゼロで上演される。取材/榎本麻紀恵
2019年12月26日『DRESS』でも定期的に執筆していただいている海老原露巌(えびはらろげん)さんの「墨アート展」が、6月11日〜31日まで、銀座にあるギャラリー上田で開催されます。今回の展示には、通常の「書作品」は一切なく、墨アートのみの展覧会となります。力強い墨と金泥、銀泥の美しい彩りをお楽しみください。■展示会情報名前:海老原 露巌展会期: 2018年6月11日(月)~30日(土)時間:11:30~18:30 (日曜休廊)作家在廊 : 6月11 , 13 , 20 , 23 , 26 , 29 , 30日会場:ギャラリー上田住所:〒104-0061 東京都中央区銀座6-4-7 いらか銀座ビル8Fメール:info@gallery-ueda.com電話番号:03-3574-7553海老原露巖さんの略歴1961年、栃木県下野市に生まれる。1982年~ヨーヨー・マ(チェリスト 米国)の公演やその他映画・舞台等の題字執筆多数。2012年、文化庁文化交流使に任命。収蔵在日イタリア大使館ホテル雅叙園東京強羅花壇 NOBU TOKYO在フランス日本大使館(フランス)大明寺(中国)陝西省歴史博物館(中国)カナダ歴史博物館(カナダ)他展覧会・揮毫パフォーマンス天龍寺(世界遺産)明治神宮青龍寺(中国)大興善寺(中国)アートサイエンスミュージアム(シンガポール)他
2018年06月01日愛、将来、自由、仕事、自尊心、すべてを奪われた主人公が自らを陥れた男たちの人生を狂わせていく復讐劇「モンテ・クリスト伯」(邦題「巌窟王」)を原作とした連続ドラマ「モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―」に、ディーン・フジオカが主演。共演に「関ジャニ∞」大倉忠義、山本美月、新井浩文、高橋克典を迎える。名作復讐劇を完全ドラマ化!ディーン・フジオカ、華麗なる“復讐鬼”にディーンさんといえば、香港、台湾などアジア圏での活動を経て、日本に新星のごとく現れた“逆輸入”俳優で、2015年にNHK連続テレビ小説「あさが来た」で大ブレイク。日本でのドラマデビュー作となったフジテレビ「探偵の探偵」では主人公(北川景子)を支える知的でクールな探偵調査員役、「あさが来た」ではヒロイン(波瑠)を叱咤激励し、師となる実業家役を演じてきたが、今作では、冤罪で地獄に突き落とされた環境から這い上がり、自らを陥れた者たちへ“復讐”をしていく、まさに鬼と化した主人公・柴門暖(さいもん・だん)役に。「探偵の探偵」以来、約3年ぶりにフジテレビ系ドラマで連ドラ単独初主演として“凱旋”を果たす。愛する女性と未来の家族を奪われ、15年間も地獄のような投獄生活を送ってきた主人公・柴門暖。その孤独と怒りが復讐への気持ちを駆り立てていく。これまで、端整な顔立ちで精悍な魅力を放ってきた“ディーン様”が、今作では次々と華麗で緻密な罠を仕掛け、自らを陥れた者たちに制裁を下していく姿は必見。廃人と化した獄中時代には、長髪・ひげ面というワイルドな風貌、出獄した15年後は“復讐鬼”であることを隠しながら美しい別人となって舞い戻るという、表と裏の顔を持ち合わせた、いままで見たことのない彼の新境地を目にすることができそう。ディーン様の新境地!「壮絶な物語がそこに待っている」ディーンさんは映画化・ドラマ化・アニメ化もされている名作が原作となるだけに、「これまで数々のリメーク作品を見てきたこともあってその壮大なスケールにプレッシャーも感じました」と語りながらも、「プロデューサーや監督との打合せを重ね、第1話の台本を読み、やはり壮絶な物語がそこに待っていると改めて確信しました」とコメント。「共演者陣、スタッフ陣で結束し、これまでにない衝撃をオーディエンスの皆様にお届けするために、全身全霊で演じたいと思います」と意気込みを明かす。また、主人公・暖の復讐の矛先となる主要人物を演じるのは、大倉忠義(関ジャニ∞)、新井浩文、高橋克典の3人。さらに、ストーリー展開の重要な鍵を握るヒロイン役は山本美月が務め、複雑に絡み合う混沌とした人間模様をより盛り立てていく。大倉忠義、主人公の最大の復讐の矛先に!「全力で演じさせていただく」大倉さんが演じるのは、暖の最大の復讐の相手となる“恋敵”南条幸男(なんじょう・ゆきお)。今回フジテレビの連ドラ初出演となる。南条は、仲の良い先輩だった暖と暖の愛する女性・目黒すみれとの婚約を祝いながらも、実はすみれのことを密かに愛し、暖に対して嫉妬の念を抱いている人物。自らは売れない役者をやっており、“愛する女性も出世も手にした暖に憎悪にも近い感情”を抱き、暖を葬る最後のボタンを押す人物。だからこそ、最も応援してくれていると思っていた“親友”の裏切りを知ったとき、暖の壮大な復讐計画が幕を開ける。大倉さんは、「スケール感のあるストーリーであり、そして、自分自身がいままで演じたことのない役柄に挑戦させていただけることをうれしく思います。視聴者のみなさんを『モンテ・クリスト伯』の世界に引きずり込めるよう全力で演じさせていただきます」と語り、こちらも気合いが入っている様子。新井浩文、良き先輩のふりして最も恐ろしい策略家!また、暖が勤める漁業会社の先輩社員・神楽清(かぐら・きよし)役には、独自の空気感漂う演技に定評のある実力派俳優・新井さん。変幻自在の俳優として知られる新井さんが今回演じるのは、学歴はないが地頭が良く、あらゆることへの損得勘定が働く愛情の観念が欠落した男。表向きは、暖の良き先輩だが、自分の出世の邪魔となる暖を失墜させるために、暖への嫉妬を抱える“南条を利用する”という抜け目ない男。暖のことを誰よりも心配する風情で、実は暖を亡き者にするための青写真をひいた人物であり、劇中最も恐ろしい策略家という、明暗まとう複雑な役どころを新井さんがどう演じるのか期待大。新井さんは「『刑事ゆがみ』の浅野忠信さんみたいに、賞を取りたい」と、いまからも意気込み十分。高橋克典、主人公を無実の罪で牢獄へ送り込んだ警察官!さらに、暖が復讐をしかけていく第三の男、過去に暖を無実の罪で牢獄へと送り込んだことを隠しながら生きる警視庁公安部外事第三課の警察官役・入間公平(いるま・こうへい)役には高橋さん。軽妙なキャラクターから「医龍4~Team Medical Dragon~」の完全無欠の敏腕経営コンサルタント役など幅広い役柄を演じてきた高橋さんは、今作では、真骨頂であるワイルドで野性味あふれる演技力を生かした将来有望なキレ者の公安警察官役に扮する。「主役のディーン・フジオカさんをはじめ素晴らしい出演者の皆様との共演も楽しみです。日頃多い警察官の役ですが、ストーリーの中で今回はどの様なことを要求されるのか、どう描かれるのかも楽しみ」と、高橋さんも期待を込めてコメント。山本美月「愛をまっすぐに、人間らしさを丁寧に演じられたら」そんな本作のヒロイン役にして、重要な鍵を握る暖の最愛の婚約者・目黒すみれ役には、「刑事ゆがみ」で声を失った“敏腕ハッカー”という難しい役どころを演じ切ったことも記憶に新しい山本さん。演じるすみれは、婚約者である暖が無実の罪により投獄されたことをきっかけに、それまでの幸せな生活が一変、地獄の苦しみを味わう女性。暖を必死に救おう、暖の帰りを信じていつまでも待ち続けようとするも、次なる人生を歩み出す決断をしてしまうすみれ役は山本さんにとっても新境地となるはず。山本さんは、「1人の女性として、愛をまっすぐに、人間らしさを丁寧に演じられたらと思います」とコメントしている。単なる復讐劇とは一線を画すラブストーリーの側面も演出を手がけるのは、ドラマ「白い巨塔」「ガリレオ「昼顔~平日午後3時の恋人たち~」や映画『容疑者Xの献身』『真夏の方程式』『アマルフィ女神の報酬』など、数々の大ヒット作品を世に送り出してきた西谷弘監督。緻密に計算されたインパクトのある演出に定評のある西谷監督が、単なる復讐劇を超えた複雑な関係性を紡いでいく人間ドラマにどのように息を吹き込んでいくのか。再タッグとなる山本さんも「(前回)ご一緒させていただいた際に、台本だけでは想像のできない深みのある素晴らしい作品になっていたので、このドラマがこれからどんな風になるのかとても楽しみ」と語っている。本作のポイントは、単なる復讐劇ではなく、仇敵に制裁を下していくたびに良心と葛藤し、次第に人生とその人間性を取り戻していくヒューマンストーリーであり、一人の女性に対して一途に貫かれた純愛を描いたラブストーリーでもあること。網の目のように張り巡らされた数々の伏線に絡みつく、多彩な登場人物も大きな見どころの1つで、主人公を死の淵から助け出す“謎の老人”、誰にも言えないおぞましい過去を持つ“悪女”や、遺産を巡り恐ろしい謀略をめぐらす“悪女”など、毎回のストーリーを複雑かつ巧妙に展開させていく個性豊かなキャラクターたちも続々登場していくという。クランクインは3月上旬を予定している。木曜劇場「モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―」は4月期、毎週木曜22時~フジテレビ系にて放送。(text:cinemacafe.net)
2018年02月11日■「観」とイメージしてみよう今回のテーマを「観」にした理由には、私の深い思いがあります。皆さんは「観」と聞いて、何をイメージするでしょうか。インスピレーションは「能舞台の鏡松」から能舞台における「松」の意味を、皆さんはご存知ですか?演舞者は松に向かって踊るのが本来で、舞台上の松は鏡に映った松を意味しています。「鏡松」つまり演舞者は鏡に映った松を背に、観客に自分を観せることになるのです。ある日、20年ぶりに能を鑑賞していたときに、突然「観」と一瞬のインスピレーションを受けました。それをベースに王義之の「蘭亭序」の「観」「仰ぎ観る」という一節がミート。私は鏡に「映る姿」と実際に「観る姿」とを対比させて、自分のしてきた書の世界観を確認することができたのです。こうしてできた作品が「観」です。映すとは鏡に映ったもの。そのままの形を映す。つまり「書く」こと。日々の映し書く練習の蓄積。観るとは単に形を映すものではなく、そこにインスピレーションが加わること。つまり発想したものを「描く」こと。この相対するふたつがうまく重なり合うときに作品が生まれます。■「仰観宇宙之大府察品類之盛」(仰ぎて宇宙の極まりなきを観て、府しては満類の数多きを察する)上を向いては宇宙の広大さを観て、下を向いては万物の豊かさを察する。「観察」するということです。この文は王羲之の蘭亭序のあまりにも有名な一節です。■王羲之「蘭亭序」王羲之の書をことごとく収集していた唐の太宗皇帝は、「蘭亭序」だけは入手することができませんでした。そこで智永の弟子の弁才が所有していると聞いた太宗皇帝は、臣下に命じて弁才に近づき、蘭亭序を盗み出させました。こうして太宗皇帝は蘭亭序を手に入れましたが、あまりにも素晴らしい書に惚れ込み、遺言で自分の墓の昭陵に副葬させてしまい、王羲之の最高傑作の蘭亭序はこの世から姿を消すことになったのでした。このようなエピソードがまた蘭亭序の価値をさらに高め、後世に言い伝えられています。■「観」と書いてみよう前回の王羲之の「集字聖教序」と同じです。空間の造形美を考え、構成することが大事です。臨書とはお手本を見て書くこと。映すことを何回も重ね、練習を蓄積させていくことが大事。追い求めては答えが逃げていき、くじけそうでもまた追い求め、何回も練習すること。そしてあるときに、ふとインスピレーションが下りてきて、今までの蓄積とひらめきがミートする瞬間がやってきます。私が能舞台を観て感じた瞬間のようなひらめきです。臨書の意味は、そこにあると確信しています。練習の蓄積と自分の発想の重なり合った瞬間に、ただ単に「映る」ことから「観る」瞬間になるのです。臨書は蓄積と発想の宝庫です。心を入れ込み、「書く」ことから「描く」ことに、臨書の目的があると思います。太宗皇帝の墓で王義之を揮毫して唐の太宗が愛し、墓にまで一緒に埋葬した王羲之の蘭亭序を追い求め、私は中国に渡りました。そして、太宗皇帝の墓の上で「仰観宇宙之大府察品類之盛」と揮毫(きごう、筆で字や絵を書くこと)しました。自分の今までしてきたことは正しかったとはっきりと確信しました。皆さんも臨書することで心の鍛錬をしてみませんか。ひとつ磨きがかかり、ステップアップしますよ。
2017年12月18日■「有」とイメージしてみよう前回は「無」について触れたので、今回はそれに相対する「有」という文字を選びました。「有」と聞いてあなたは何をイメージしますか?漢字から私がまずイメージするのは、「presence」「肯定する」「存在する」という言葉です。「無」が純粋無垢で、あなたが何かを見てその物に色を付けない状態をいうのに対して、「有」はあなたの意志が加わり存在する物をイメージさせます。「有難う」という言葉にも「有」が使われていますね。漢字の意味のごとく、「滅多にないようなことが有る」という素敵な言葉です。「ありがとう」とひらがなで書くよりも漢字で書く方が気持ちが深くなり、感謝が伝わるように感じます。■「蓋聞二儀有像顕覆」前回の「無」のときに「雁塔聖教序(がんとうしょうぎょうじょ)」について触れましたが、同じ文章の中に「無」に対するものとして「有」という文字があります。「天地(二儀)は像を有しており、私たちの頭上を覆いつくす天と私たちを乗せている地は生きるもの全てを包んでいるものである。一方では四時(春夏秋冬)には像として顕れることが無く寒暑に潜んで万物を変貌させるので賢者でも理解することはできない」となります。■「集字聖教序」前回は「雁塔聖教序」(653年)について書きました。今回はその19年後に作られた「集字聖教序(しゅうじしょうぎょうじょ)」(672年)について。「雁塔聖教序」は褚遂良が書いたものです。その後、24年間に渡り、弘福寺の懐仁が王羲之の文字を集め「雁塔聖教序」と同じ文章を書いたものが「集字聖教序」です。24年間も王羲之の字を集めるとは気が遠くなる話ですが、それだけの魅力が王羲之の文字にあったという証ですね。残念ながら王羲之の真筆は残っておらず、コピーのコピーを重ねたものが現在に伝えられています。そのような状況で、この「集字聖教序」はかなりオリジナルに近いものと言われています。■なぜ王羲之の文字がないのか太宗皇帝が王羲之の「蘭亭序」を、遺言に従って共に墓へ埋葬したこと。また王羲之の文字は宮中にあり憧れの存在だったため、戦乱を重ねて失われてしまい、真筆がなくなってしまったという歴史があります。一字ずつ集めているから大きさに統一感はなく、一貫性はないけれども王羲之の一字一字の美しさに見どころがあります。■「有」と書いてみよう太宗皇帝が王羲之の字を「鳳が舞い上がり、龍がわだかまるようだ」と称賛したほど、王羲之の文字には律動感があり、三次元の奥行感があります。ワンポイントアドバイス「空間造形美を意識しよう」人間が凛と立っているような姿をイメージしてみましょう。「有」は均衡がとれた美しい立ち姿。また余白の美しさを取り、龍が天に舞い上がるような姿を線で表現してみましょう。平面に表現された拓本からはわかりにくいところですが、そこからあなたが空間をイメージし、文字を立体的に再構築しながら書くことが大事です。臨書を勉強する上で、三次元に空間を造形した美しさを常に意識すると上達しますよ。
2017年12月09日■「無」をイメージしてみよう「無」という意味を考えると、とても含みがある文字です。「"無"とはこうである」とは一言では言い尽くせません。非常に宗教的な悟りの世界であります。辞書では「無」とは、否定を一般化した表現。対義語は「有」とあるので”物事が存在しない”ことも表します。「無」を単に否定的な表現、ととらえるべきではないと感じています。純粋無垢の「無」、すなわち、あなたが何かと出会ったときに、自分の概念で色付けするのではなく、そこにある本来の物というイメージも持つべきだと。何もないのではなく、本来の色付けされていないあるべき姿。あなたは「無」とはなんだと考えますか?■「大唐三蔵」孫悟空の西遊記でおなじみ、三蔵法師はみなさんご存知の人物でしょう。インドに渡り、17年間学んで仏法を唐に持ち帰りました。その偉業を称えるために、唐の皇帝、太宗が褚遂良に命じて書かせた「雁塔聖教序」の冒頭の文字です。「偉大なる三蔵法師がインドより持ち帰った仏典の序文」という意味です。■「四時無形」「四時無形」とは、三蔵法師の持ち帰った仏典の一部で、ここでいう四時とは四季のこと。言葉の意味としては「春夏秋冬は形がなく、目に見えないものである」となります。前後に書かれた文の意味は「天地というものは像を有している。頭上を覆いつくす天、我々を乗せている地は生きとし生けるもの全てを包み込むものであると言えるが、四時(春夏秋冬)はどうだろうか。何ら形もなく寒暑の中に潜んで万物を変貌させる。どんな愚かな者でも天地の有様を見ることはできるのは像があるからで、四時のように像としてないものについてはどんな賢者でもその本質を知ることは不可能に近い」となります。■褚遂良(596~658)先に述べた「雁塔聖教序」は、楷書を高度に完成させ、楷書の範として尊重される最高傑作であると言われています。彼は、楷書の最終形といえる唐の文化を背負った成熟した作品を残しました。また、褚遂良(ちょすいりょう)は唐の政治家でもありました。皇帝太宗に仕えて信頼厚く、後の皇帝高宗の教育を担いましたが、則天武后を皇后に立てることに反対したことで今のベトナムに左遷されました。■「無」と書いてみようワンポイントアドバイスとしては「リズムよく」褚遂良の楷書は、呼吸の振幅の幅、リズムの表現を具現化して漢字を芸術に作り上げたように感じられます。私は音楽が好きですが、主観で言うと、まるでマーラーの交響曲第五番 第四楽章のアダージョの旋律の世界とリンクするようなイメージ。リズムよく、呼吸の幅を大きくとるところ、また引くところ。書くときは、一角一角をこれでいいのかとゆっくり自問自答しながら、姿勢は雑巾を絞り上げるように丹田に力を入れて書いてみましょう。
2017年12月04日■「天」をイメージしてみよう「天」と聞くと、どんなイメージがありますか?宇宙、空、また人を超えた人の上の存在。宗教的な世界観においては神の住む理想郷。などイメージは広がります。その色は何色なのでしょうか。朝焼けの赤、夕焼けの黄色、雲ひとつない青、紫がかった霞の色。また新月の夜の吸い込まれそうな黒。すべての色を統合したら黒(玄)になりますね。「天」の字形は人間の体の上部から由来しています。「天」とは人間に関わるすべてを統合した言葉と言えます。■智永の「千字文」とは今回は智永の「千字文」の冒頭の文字「天」をテーマにしました。「千字文」は初回に触れた王義之の筆跡を一千字集め、周興嗣(470年〜521年頃)が作りました。1000字を重複なしに四言古詩250句にしたもので、以後、さまざまな人が書いています。中国、朝鮮、日本で識字、習字用の教科書として広く近年まで用いられていました。智永(生没年不詳陳時代から隋時代580年代頃活躍した僧)は王義之の7代目の孫です。いろいろな人が「千字文」を書いていますが、私は智永の書いた「千字文」はテキスト的に優れていると考えます。なぜならその書体は冷たくもなく暖かくもなく辛くもなく甘くもなく鋭くもなく柔らかくもなく智永の「千字文」には人間としての中庸さがあります。次に進むためのこうあるべきという、指針のような法帖と言えるでしょう。■天地玄黄宇宙洪荒「天も地も世界はすべての色に満ち、もっと広い宇宙はあふれかえり、わきかえっている」「千字文」の冒頭の部分です。広大な宇宙観です。天地は地球上のすべてのもの、また宇宙はそれをはるかに超えた世界です。人間には越えられない壮大な世界です。■コンプレックスは誰にでもある人間にはそれぞれ個性があります。すべてが完璧な人間などいないのです。自分のいいところ、悪いところ、見つめていますか?ときどきでもいいので、自分のいろいろな面に心を向ける時間は必要です。■書道は道とつくものです道とつくものは書道、茶道、華道、武道などさまざまですが、道を学ぶとはどういうことなのでしょうか。自分に向き合い、自分に足りないところは何だろうと考える。そして気づく。マイナスな面を補おう、中庸になろうと努力する。それが道とつくものの学び方の一面です。■実際に「天」を書いてみようワンポイントアドバイスとしては「気づく」「中庸」。まず、広大な宇宙空間をイメージしてみよう。空間の構成をどうとらえるかが大事です。自分に向き合い、偏りをなくし中庸を目指して練習しましょう。人には皆コンプレックスがあります。そこにとらわれる必要はないですが、「気づき」は必要です。道とつくものを学ぶとは「気づく」ことなのです。心を落ち着かせ、自分の内面に目を向け「中庸を目指す」。そんな思いで「天」と書いてみましょう。
2017年11月23日■「風」とイメージすると風という言葉から何を連想しますか?風を自然現象としてとらえると、「空気の流れ」また「空気自体」ということになります。一方で、風という一文字には、単なる自然現象だけではなく「人の心」という意味もあります。■今の時代だからこそ手紙を書いてみよう今の世の中では、LINEやメールなど、誰がどのような状態で打ち込んでも同じように表示されるツールでのやり取りが当たり前になりました。そのような時代にあえて筆を取り、心を込めて相手に自分の心を手紙で伝えてみる。きっと相手にあなたの情熱が伝わります。このような時代だからこそ、あえて筆を取り手紙を書いてみることをおすすめします。■「風信雲書」こちらは歴史上名高い空海が最澄に送った三通の書状の中の一通目「風信帖」の中の冒頭の一文です。作品自体は平安時代前期、812~813年頃に書かれました。意味としては、「風のような、雲のようなあなたからの手紙、それが天から舞い降りるがごとくに私に届きました」となります。「風のようにあなたからの心が天から舞い降りた」という一文が、なんとも熱く心を打つ表現ですね。■空海、最澄とは弘法大師の名で知られている空海は、中国に渡り日本に真言密教をもたらしました。最澄は日本天台宗の開祖であり、中国に渡り仏教を学び、帰国後に比叡山延暦寺を建てた人物。中国と日本との懸け橋となり、命がけで海を渡って学んだこのふたりが帰国後に交わした手紙からは、ふたりの心の交流を伺い知ることができます。当時は海を渡り、人々の心を救うため、異国に学びに行くことは命がけのアクションでした。ふたりは危険を恐れることよりも、皆に何かを広めよう、伝えようという情熱を持っていたのです。■「風」という字を書いてみよう書き方のワンポイントアドバイスとしては、情熱を持って、相手に自分の心が伝わるように書くこと。形やテクニックではなく大事なのは情熱。LINEやメールでは伝わらない心そのものを筆では表現できるのです。筆で手紙を書けば、あなたの心がまるで天からの風のように相手の心に舞い降りますよ。
2017年11月19日■書道における「永」の役割書道において「永」は基本中の基本の文字。「永字八法*1」という言葉があるように、文字を書くことにおいて必要な8種類の技法がすべて、この1文字に含まれています。永遠、永久、永続、未来永劫など、現代では”時間がながい”という意味を表す「永」という文字ですが、歴史を振り返ると別の変わった意味が見えてきます。■「永」の歴史的背景王羲之(おうぎし)は、書道の"美の基準”をつくった人。文字を見た際に"美しい"と思う心、余白などの空間構成や点や角のベクトルの方向などは、王羲之が確立したといっても過言ではありません。書道のお手本などに王羲之の書が使用されるのは、これが所以です。永和九年(353年)に中国の書聖(しょせい)として知られる王羲之が書いた、蘭亭序(らんていじょ)という書があります。書道史上最も有名な書作品で、その冒頭の1文字はなんと「永」から始まります。書道において基本中の基本を表しながら、歴史的書の始まりの1文字として書かれている漢字。意外にも何かを始めたいときに書くと良いとされる文字なのです。■何かを新しく始めるとき、「永」を書いてみよう前述の通り、現代では"時間がながい”という印象が強いこの漢字ですが「何かを始める」「初心」の意味があります。書道は、筆と墨を使って自分に向き合いながら文字を書く芸道です。『DRESS』読者の方々も、定期的に筆をとり、文字を書いてみることをおすすめします。大人向けの書道セットも数千円程度で売られているので、チェックしてみてください。今回の「永」という漢字は、何かを新しく始めるときなどに書くのがいいでしょう。・初心を思う・何かを始める・新たな発想を生むこのような意味を持つ漢字なので、初心に返りたいとき、何かを新しく始めたいときに、新しいモチベーションを沸き立たせたいとき、そんなときに「永」を書いてみてください。きっと新たな視点を与えてくれるはずです。※1 側(てん)、勒(横)、努、趯(はね)、策右斜め上に向かうはね)、掠(左はらい)、啄(短い左はらい)、磔(右はらい)の八法。
2017年11月01日スターバックス コーヒー 鹿児島仙巌園店が、登録有形文化財の「旧芹ヶ野島津家金山鉱業事業所」を活用し、桜島、錦江湾の雄大な景色が目の前に広がる国の名勝に指定された仙巌園に隣接オープンする。開店日は2017年3月29日(水)。スターバックス コーヒー 鹿児島仙巌園店は、「歴史と現代の融合した特別な空間に招待する場所(Salon de Siren)」をコンセプトに、歴史ある建物をモダンにリノベーションした店舗。気になる内装は、薩摩切子とスターバックスのロゴに描いている人魚の鱗の表情からインスパイアされたデザインを全ての部屋に施し、薩摩の歴史にスターバックスの新たな息吹を吹き込む佇まいに。2階建ての洋風木造建築の店舗内は、1階にバーカウンターと3部屋の客席を備え、2階に1部屋の合計4部屋で構成。店内は65席、テラスには14席を配置し、ゆったりとした時間を過ごすことができる。なお、「旧芹ヶ野島津家金山鉱業事業所」は、1904年に鹿児島県北西部のいちき串木野市の芹ヶ野金山に、島津家の金鉱山事務所として建造し、1986年に現在の地に移設されている。【店舗情報】スターバックス コーヒー 鹿児島仙巌園店開店日:2017年3月29日(水)住所:鹿児島県鹿児島市吉野町9688-1営業時間:8:00~21:00店舗面積:241.05㎡席数:79席(店内65席 テラス14席)
2017年01月28日シンガーソングライターの古澤剛が、3月1日(日)横浜中華街Fusion Dining TRESより、初の全国カフェライブツアーを開催する事が決定した。カフェライブは、古澤が昨年9月より横浜中華街Fusion Dining TRESで毎月行なっている公演。同公演が、立ち見が出るほどの盛り上がりを見せていることもあり、「横浜だけでは無く全国へこのライブを伝えたい」という本人の強い願いからツアーの開催が決まった。ツアーは古澤の生まれ故郷である大分でのライブを含め、9公演が行なわれる。また、同ツアーは全公演完全弾き語りスタイルで行なわれるが、4月4日(土)東京・下北沢440-four forty-でのファイナル公演はスペシャルバージョンとして、サポートミュージシャンの参加を予定している。古澤剛は1983年、大分県出身。高校卒業後、福岡で5年間音楽活動したのち、2010年に拠点を東京に移す。現在は都内のライブハウスを中心に活動している。なお、チケットの一般発売に先がけて、チケットぴあでは先行先着プリセールを実施。受付は1月30日(金)午前10時から2月6日(金)午後6時まで。■『古澤剛 Cafe Live Tour 2015 "春の声"』3月1日(日)横浜中華街Fusion Dining TRES(神奈川県)3月7日(土)大分CANTALOOP2(大分県)3月8日(日)福岡DREAM BOAT(福岡県)3月19日(木)大阪digmeout ART&DINER(大阪府)3月21日(土)名古屋I・Cメイツ(愛知県)3月27日(金)秋田LOCALOOP(秋田県)3月28日(土)盛岡Breandi(岩手県)3月29日(日)仙台HEAVEN(宮城県)4月4日(土)下北沢440-four forty-(東京都)FINAL SPECIAL!
2015年01月28日