日本が地震列島だということを改めて思い起こさせた今回の能登半島地震。犠牲となった人の多くが、建物などの下敷きになったことによる圧死だとみられている。何が生死を分けたのか。専門家に聞いた。■輪島市は死者の9割が圧死だという報道も「ほとんど立っている家がない。9割方全壊もしくはほぼ全壊。本当に厳しい状況、壊滅的な状況……」地震発生の翌日、被災地の惨状をこう表現したのは、石川県珠洲市の泉谷満寿裕市長だ。元日、能登半島を襲ったマグニチュード7.6、最大震度7を記録した巨大地震。石川県内で死者が222人、安否不明者は26人(1月16日時点)と、甚大な被害をもたらしている。読売新聞は、被災地に入っている警察関係者の話として、「輪島市内は9割以上が、“圧死”ではないか」と報じている。「これまで体験したことのない強い揺れでした。地震発生時は車を運転中で、車が上下、左右に大きく揺さぶられて、危ない状況でした。被災地は、まるで空襲後のような風景に一変していました」こう語るのは、今回被害が大きかった輪島市や珠洲市など“奥能登エリア”への移住支援をしている株式会社「ぶなの森」の高峰博保さん。高峰さんは幸い無事だったが、「知人や仕事仲間に犠牲者が出てしまった」と、肩を落とす。「大火災が起きた輪島市の朝市通りで仕事をしていた知り合いのご夫婦は、いまも行方不明です。また、能登に住むスタッフは、2階建ての住宅が倒壊。次男が建物の下敷きになり、翌日、自衛隊員により発見されましたが、亡くなってしまいました。言葉もかけられません……」今回の能登半島地震で、なぜこれほど大規模な家屋倒壊が相次いだのだろうか。「建物倒壊に至る、複合的な要素がいくつも重なったことが考えられます。まず、死者、安否不明者が多い輪島市や珠洲市の被害状況を見ると、古い木造住宅が多い地域だったことが考えられます」こう分析するのは、建築士で、建物の防災に詳しい「さくら事務所」ホームインスペクター(住宅診断士)の田村啓さん。日本の木造住宅の耐震基準には3世代の耐震基準がある。1981年5月までの“旧耐震基準”と呼ばれる古い耐震基準。1981年6月以降の“新耐震基準”。さらに2000年6月以降の現在の耐震基準である“2000年基準”だ。近年、国内で発生した巨大地震で記憶に新しいのは、2016年4月、震度7を2回観測し、熊本地方に甚大な被害を出した熊本地震。国土交通省の調査報告書によると、建物被害が集中した熊本県益城町の中心部で倒壊・崩壊した木造住宅は、“旧耐震基準”は759棟中214棟(28.2%)、“新耐震基準”は877棟中76棟(8.7%)、現行の“2000年基準”は319棟中7棟(2.2%)だった。つまり、新しい基準の住宅ほど倒壊・崩壊しにくいことがわかる。前出の高峰さんは、被災地で見た光景を振り返る。「家屋倒壊がひどかったのは、商店街のある地域で、なかでも住宅併用の商店が多かったです」とくに珠洲市は、海に向かって昭和40年代に建てられた商店兼住宅が軒を連ねている。そのほとんどが倒壊したという。■度重なる地震でダメージが蓄積か?一方で、珠洲市正院町では、全壊した木造家屋の半数が“新耐震基準”後に建てられた、もしくは改築されたものとみられることが金沢大学地震工学研究室の現地調査で報告されている。必ずしも築年数が古いものが倒壊し、新しいものが残るともいえないという。1階の開口部が広く家を支える柱や壁が少ない、1階に対して2階部分が広いなど、構造や間取りも倒壊しやすさを左右する。また、前出の田村さんによると、建物自体に適切なメンテナンスがされていないと、耐震性能が低下していくという。「構造軀体(骨格部分)が雨漏り等によって腐食してしまったり、シロアリの被害によって建物の構造軀体が食べられてしまっている可能性もあります。さらに、被災地は積雪エリアでもあるので、毎年の雪の重みで変形したり、過去に起きた地震のダメージが蓄積されていたことも、倒壊要因として考えられます」(田村さん、以下同)近年、能登半島では、2007年3月に最大震度6強(七尾市、輪島市、穴水町)、2022年6月に最大震度6弱(珠洲市)、2023年5月に最大震度6強(珠洲市)と、大きな地震が相次いでいる。建物の構造に頻発する地震によるダメージが蓄積されていた可能性があるのだ。さらに、被災地エリアが地盤の緩い地域であったことも、倒壊した家屋が増えた要因だという。「今回、各地で液状化が起きています。たとえば、輪島市中心部は川や海が運んできた土砂が堆積し、比較的軟弱な地盤の海岸平野・三角州からなっています。このように建物が揺れやすい地盤の上に古い木造住宅が多かったことも要因だと考えられます」今回の地震で、家屋は倒壊したものの助かった被災者の証言にみられるのが、地震発生直後に“こたつに潜り込んだ”“テーブルに隠れて助かった”といったものだ。「大地震が起きた場合は、すぐにできるだけ強固な机の下に隠れることが大事です。建物が倒壊しても空間が確保できる可能性があるからです。テーブルやちゃぶ台の下、こたつの中などでも構いません。とにかく頭を守り空間を作ることが、生死を分けるポイントになるかもしれません」ホームセンターや通販サイトで、数十トン以上の重さに耐えられる、より強度な太脚の“耐震テーブル”も購入できる。いざというときのために、リビングや寝室に置くことを検討してもいいかもしれない。■生活の拠点を2階にする選択も自宅のどの場所にいたかによって、生死を分けることもある。今回の地震で2階が崩落し、真下にいた人は亡くなったが、上に2階がない別の部屋にいた家族が無事だった事例が報じられている。阪神・淡路大震災や熊本地震でも、1階は崩れたが、2階にいて命が助かったという事例がいくつもあった。「“圧死”するリスクを減らすのであれば、2階建て住宅の場合は、寝室を2階にする、1階にする場合は上に2階がない部屋を選ぶ、などをしましょう。地震によって2階部分が崩れても、押し潰されることにはなりにくいです。震度7クラスの地震が起きたら、おそらくその場から動くことができません。家が倒壊するリスクを考えて、寝室やリビングなど長時間いる場所は、安全なところを選ぶべきです」また、自宅は無事でも、家具の下敷きになってしまう例も。家具の配置を見直したり、家具をしっかり固定するのも重要だ。とくに古い木造住宅の場合、作り付けの収納がない場合が多いので、寝室などに大きな家具を置いている家庭も多いはずだ。「寝室には家具類、本棚などは置かないのが理想です。とくに入口付近には家具を置かないこと。転倒して入口をふさがれたら脱出できなくなります。そして家具類が倒れてくる正面方向にはベッドを置いたり、ふとんを敷かないことが原則です」能登半島地震によって可視化されたさまざまなリスク。万全の準備で地震に備えよう。
2024年01月18日10月29日午後10時40分ごろ、ハロウィーンでにぎわっていた韓国・ソウルの中心部・梨泰院で人が折り重なるようにして倒れる圧死事故が発生。この事故で154人が死亡、132人が重軽傷を負った。現地の消防当局は30日午後10時30分までに確認された死亡者154人のうち、女性が98人、男性が56人と発表。年齢別に見ると10代11人、20代103人、30代30人、40代8人、50代1人、不明13人。10代と20代で全体の74%を締めるなど、多くの若者が命を落とした。さらに、各メディアによると10代、20代の日本人女性2人の死亡も確認されたという。今回の事故は海外でも大きく報じられ、インドの「Network 18」グループが運営する英語放送のニュースチャンネル「CNN News18」では、息子の死亡を告げられた遺族がショックで崩れ落ちる姿が映し出されていた。あまりにも痛ましい惨事にネットでは、被害者と遺族に同情する声が続出している。《梨泰院の事故。見る度に亡くなられた方が増えている。その1人1人の人生、まわりの方々の思いを考えると胸が張り裂けそうです。ご冥福をお祈りします》《梨泰院の事故を知り、呆然としている。なぜ規制が事前にかけられなかったのか。コロナ禍が完全に終息していないなか、あの人出はひどすぎます。亡くなられたご家族のことを思うと胸が張り裂けそう》《梨泰院のニュース辛い。。20代前半の私だったら張り切ってあの場にいたと思うし、遺族たちのやりどころのない怒りを考えると悲しくなってしまう》今回の事故を受け、岸田首相もTwitterで《ソウル・梨泰院で発生した大変痛ましい事故により、未来ある若者をはじめとする多くの尊い命が失われたことに、大きな衝撃を受け、深い悲しみを覚えております。犠牲になられた方々及び御遺族に対し心からの哀悼の意を表すとともに、負傷された方々の一日も早い快復をお祈りいたします》と追悼の意を表明。歌手のキム・ジェジュン(36)は犠牲者哀悼のため30日、名古屋で開く予定だった日本コンサートの延期を発表。当日公演の約2時間前の発表だったという。さらに女性人気韓国アイドルグループ「TWICE」も31日、11月5日に行われる予定だったハロウィンがコンセプトのファンミーティング「TWICE FANMEETING ONCE HALLOWEEN 3」の中止を発表。所属事務所であるJYPエンターテイメントは、「アーティストも幹部も、29日に起きた悲惨な事故を深く悲しんでいます」とした上で、「我々はコンセプトの変更を慎重に検討しましたが、時間の制約と様々な側面により、公式にイベントを中止することを決定しました。皆様のご理解をお願いします」と発表し、被害者と家族への追悼の意を表した。多くの人が命を落とした梨泰院の圧死事故。遺族の悲しみは察するにあまりある。
2022年10月31日