10月28日~11月1日頃は第五十三候「霎時施る(こさめときどきふる)」。秋も終わりですよ、と告げるかのような冷たい雨。ぽつぽつと雨が降りだしたかと思えば、すぐに止んでしまう。「女心と秋の空」とはよくいったものです。秋から冬へと移りゆくこの時季に降る雨は、なんともせつないですね。ひと雨ごとに寒さが増し、木々の葉が一層色づいていきます。せつなさや悲しみが人を成長させるように、冷たい空気が美しい紅葉を育むのですね。今日は生きているうちに一度は見たい、夢のような秋の絶景をご紹介。ため息が出るほど美しい錦の世界は、秋の女神からの贈り物です。秋の終わりのせつなさは、美しいものを見て癒されましょう。七十二候とは?時間に追われて生きることに疲れたら、ひと休みしませんか?流れゆく季節の「気配」や「きざし」を感じて、自然とつながりましょう。自然はすべての人に贈られた「宝物」。季節を感じる暮らしは、あなたの心を癒し、元気にしてくれるでしょう。季節は「春夏秋冬」の4つだけではありません。日本には旧暦で72もの豊かな季節があります。およそ15日ごとに「立夏(りっか)」「小満(しょうまん)」と、季節の名前がつけられた「二十四節気」。それをさらに5日ごとに区切ったのが「七十二候」です。「蛙始めて鳴く(かえるはじめてなく)」「蚯蚓出ずる(みみずいずる)」……七十二候の呼び名は、まるでひと言で書かれた日記のよう。そこに込められた思いに耳を澄ませてみると、聴こえてくるさまざまな声がありますよ。秋をつかさどる女神・龍田姫日本には、四季折々の女神がいることをご存知ですか?春は佐保姫(さほひめ)、夏は筒姫(つつひめ)、秋は龍田姫(たつたひめ)、冬は宇津田姫(うつたひめ)。自然界の色彩は、女神が織り上げるといわれているんですよ。春の女神「佐保姫」は霞の衣を織り、柳の糸を染めて、梅の花笠を編んで、桜の花を咲かせます。この時季、大忙しの龍田姫は、野山の木々を赤や黄色に染め上げ、錦の衣を織り上げるのです。それでは、そんな女神が生み出した美しい芸術(絶景)が楽しめる、とっておきのスポットをご紹介しましょう。春と秋だけ拝観できる京都の古刹私が執筆いたしました日本の四季の言の葉に癒しのメッセージが添えられた「福を呼ぶ四季みくじ」は、世界遺産に認定されている京都の東寺様とご縁をいただき、この世に生を授かりました。毎年この時季は、東寺のお堂に四季みくじの原画が展示されるため、私も京都へ。合わせて紅葉狩りを楽しんでいます。「生きているうちに一度は見たい」といわれる秋の絶景、京都の八瀬(やせ)に佇む由緒ある寺「瑠璃光院(るりこういん)」はご存知ですか?額田王を愛した大海人皇子(天武天皇)が、風呂で傷を癒したという伝説も残るやすらぎの地です。瑠璃光院はいつでも拝観できるわけではありません。特別拝観できるのは、紅葉と新緑の時季だけ。紅葉は大人の女性を思わせるあでやかさ。春から初夏にかけては心のよどみを祓いさるような、清々しい緑一色の世界に染まります。今年の特別拝観は12月4日まで。あたり一面が錦に染まる幻想的な景色を目の前にした瞬間、言葉を失いました。白に閉ざされる冬を前に、木々たちが全身全霊で色づく晩秋。それはまさに命の輝き。見事な世界です。あなたは春?それとも秋?「瑠璃光院」の春と秋の2つの姿、あなたは、どちらがお好きですか?昔から「春秋のさだめ」という言葉があるように、春と秋の美しい景色はよく競われてきました。「万葉集」には「春山の万花(ばんか)の艶(にほひ)」と、「秋山の千葉(せんよう)の彩」を競わせた天智天皇に対し、額田王が返答したこんな歌が残っています。「春は鳥もさえずり、花も咲くけれど、山が茂り、草深いのでとってみることができない。秋山の木の葉は、色づいたものをとって”きれいだわ”って賞賛できる。私は秋山が優れていると思うわ」額田王は秋派でした。私も額田王と同じ秋派です。桜の開花前線は南から北上していきますが、紅葉前線は北から南へ。東京もこれから紅葉が見頃を迎えますね。明治神宮外苑、新宿御苑、六義園、浜離宮恩賜庭園と、都内にも紅葉の名所が数多くあります。さまざまな色の糸をつかって龍田姫が織り上げる錦秋(きんしゅう)の世界。圧倒的な自然の美しさを目の前にしたら、せつなさも、悲しみも、しばし忘れてしまうでしょう。【参考】『日本の歳時記』小学館
2016年10月27日