約3年前、ここのがっこうの卒業制作発表で出会ったファッションデザイナー・中里周子と伊勢丹新宿店TOKYO解放区担当バイヤー・寺澤真理。ファッションを愛する2人が語る「ファッションの未来」、そして「真面目と不真面目」とは?■宇宙には夢がある。だから、みんなの「見たい!」をカタチにしたー今回は宇宙に伊勢丹の支店を出すというコンセプトですが、宇宙ってそれだけで未知ですよね。中里周子(以下、中里):宇宙には単純に夢がありますよね。広がりもでますし。今回は本当に多くの人に企画に協力して頂いて、なんとエジプト考古学の吉村作治先生もアイシングクッキーに恵比寿様のような出で立ちで登場しています。周りにスフィンクスたちを引き連れているという(笑)JAXAさんから宇宙服もお借りしてきました。私の昔のバイト先「青山TWINS」とも、くすっと笑ってしまうような、人の心をくすぐるような物を作らせて頂きましたど。みんなが「見たい!」と思うものを一緒に作り上げていった感覚です。寺澤真理(以下、寺澤):みんながみんな、業務だからみたいなことだけじゃなくで「何か面白いものが待っているかもしれない!」っていう熱量で動いているなという感じでしたね。そういったプロセスにも可能性があると思います。中里さんには「何かその先にある」と思わせる才能があると思っています。■ファッションからは、人間に対する愛を感じるー中里さんは「ファッションデザイナー」という肩書きを使われていますね。何か拘りがるのでしょうか?中里:アーティストという括りで紹介されることも多いのですが、「ファッションデザイナー」であることには拘っています。私が言う「ファッションデザイナー」とは“人間に関わる全ての接触のカタチを提案する人”という意味。ファッションをやっているからこそ、人に対して提案する何かがあると思っています。16SSのロエベで、J.W.アンダーソンが脚にラップみたいなものを巻いてきたように、ファッションだからこその人に対する無理強いのようなものがあるように感じますね。この重くも軽くも人間に対して反応できることこそ、ファッションだからこそ持ち得る人間に対する視点だなと思います。人間に対する愛を感じる。ファッションだからこそ持ち得る、人への愛。これが大事。■「真面目」を知っているからこそ、「不真面目」になれるーこのファッションにおける攻め感を受けて立つ時の感覚を言葉で表現するならば?中里:絶対的な美であるモードに対して、「ヘタレ」で挑戦していくことですね。パッと手のひらを返すような美意識を打ち出すことで、モードを翻すこと、それが「ヘタレ」です。もう一つ「不真面目」には美があるんじゃないかとも考えています。「ヌケ感」の底面には「不真面目」があるんじゃないかという考え方です。「モード」と「アンチモード」という二項対立ではなくて、「不真面目」って、全然違うレイヤーにいてひょっとやって来るようなイメージなんです。だから「モード」に対する「アヴァンギャルド」、分かりやすく言えば、コムデギャルソンのような反骨精神を持つことは、「不真面目」とはまた違ったもののような気がします。「不真面目」をイメージするなら、90年代だったらブレスの「自分たちは友達が大事だし、ここで飲みながら展示会やるよ」っていう空気感。だから、「不真面目」とは「おしゃれ」とも近い感覚ですね。「不真面目」なだけだったら心は動かない。「おしゃれ」と「不真面目」と「エレガンス」、この要素がファッションには必要だと考えています。寺澤:それに近い感覚だと「ユーモア」と「知性」と「インテリジェンス」がありますね。ユーモアは誰かをけがしたり、傷つけたりする訳ではないし、そもそも知性がないとユーモアが生まれない。だから「不真面目」も「真面目」を知っていないと生まれないんですよね。その「真面目」から「不真面目」への外し方にその人の個性が出る。それが美意識だと思います。ーいずれにせよ、ファッションにおける立ち位置が、個人の美意識による訳ですから、非常に人間らしい振る舞いと言えそうですね。寺澤:それに、人に対する愛情が表現に繋がっている人のファッションには、こちらも熱量や愛をちゃんと感じますね。そこに愛情がない場合は工業製品かのように感じてしまう。TOKYO解放区の役割はお客さまに「ファッション」を提案することなんだと思っています。モノを買う時の、心が突き動かされる感じ。商品というモノにはなっているのだけど、気持ちがこもってるものが持つ力を私は信じていて、それを共有できる人と一緒に仕事をしたいと思っています。ストーリーがあるファッションの方が、きっとみんなを幸せにするし、寒さが凌げるとか機能をうたったファッションより、これからの未来はより役に立つんじゃないかなと感じています。これからは「思いを持った人」「感覚を大切にする人」が、人間同士いい仕事が出来るんだなと思います。■ISETAN宇宙支店も、だれかの「なんか楽しい」になりたい中里:今回の企画「ようこそ、ISETAN 宇宙支店へーわたしたちの未来の百貨店ー」も多くの人にとっては「はてはて」と思うんじゃないかと思います。寺澤:一つ思うのは、今回の企画にはこれからの未来にとって何かしらのヒントがあると思っています。私が約3年前、中里さんの卒業制作を見て「はてはて、まったく理解出来ないぞ。でも、なんか楽しい」と感じたみたいに、考え方だったり、発想だったり、気付きが噛み締めていくと見つかると信じています。そして、中里さんは、そういったヒントを与えてくれる人なんだと思います。■たとえ買ってくれなくても、作品が誰かの「ネタ元」になったら嬉しいー中里さんの考える未来の自分はどんなイメージですか?中里:大事にしているのは、「ネタ元」でありたいということです。私の作品を見て、買ってくれなかったとしても、その概念や心意気から何かを感じ取ってもらいたいと思っています。私はよくこういった(馬の時計)ものを買うんですけど、時計なのに時計はちっちゃいし、馬のしっぽと身体は質感が違うし「何でそこまでするの!」という意識が発動して、自分だったらこの馬の時計をどう別のものとして表現出来るかを考えてしまいます。そこから、次の提案のアイデアが生まれてくる。自分の作品はそういうネタ元であって欲しいと思っています。身近なところでは、水槽のカタログも作ってみたいし、ドバイにも今は興味があります(笑)。あと2年以内にドバイ進出したいです。アラブ圏ではジュエリー感覚で、鷹を手に乗せているみたいだし。自分達が理解出来ない美意識に、あえて挑戦したい気がします。あとは、ビジネス面を強化していきたい。本当は5000%の熱量で作品作りに向き合うことはいくらでも出来るけど、自分が夢中になってしまうと、周りの人のことが見えなくなってしまう。だから80%の力で全体を俯瞰する力も必要だなと思っています。そう考えると「NORIKONAKAZATO」も「自己表現の場」というだけでなく、ブランドとしての振る舞いを俯瞰することで、いろんな可能性が見えてくるのかなと最近考えています。【イベント情報】タイトル:ようこそ、ISETAN 宇宙支店へーわたしたちの未来の百貨店ー会場:伊勢丹新宿店本館2階=センターパーク/TOKYO解放区会期:15年12月26日から16年1月12日前半「中里周子×寺澤真理『ファッション×デジタルを考えたら、宇宙に行き着いた』」へ戻る。前半「中里周子×寺澤真理『ファッション×デジタルを考えたら、宇宙に行き着いた』」へ戻る。
2016年01月03日夜空を美しく彩る「天の川」。皆さんは実際に見たことがありますか?都会のような明るい場所では、なかなかその美しい姿を見ることができませんが、山間部のような暗い場所に行くと、肉眼でも夜空を流れる天の川を見ることができます。今回は、そんな天の川の正体に迫ってみたいと思います。■天の川とは…天の川のことを英語では「Milky Way (ミルキーウェイ)」と言います。「Milky Way」は直訳すると「ミルクの道」。ヨーロッパでは、天の川のことをギリシア神話の女神ヘラの母乳が流れ出たものに見立てているため、このように名付けられました。一方、中国では天の川のことを銀色の河になぞらえて「銀河」と呼んだほか、古代エジプトでは「天のナイル川」、インドでは「天のガンジス川」など、天上を流れる大きな川に見立てた呼び方も多いようです。ところで、天の川が光り輝く星たちの集まりからできていることをご存じの方は多いと思います。天の川がそのような無数の星の集合体だということは、古代ギリシアの数学者ピタゴラスなども考えていましたが、それを最初に確認したのは、あの「ガリレオ・ガリレイ」です。望遠鏡を使った天体観測を行い、「天文学の父」とも呼ばれたガリレオは、その観測の中で、天の川が無数の星の集まりだということを発見したのでした。■天の川=銀河系?銀河系のことを英語では、「the Galaxy」または「Milky Way」と言います。「Milky Way」と言えば、先ほども紹介した通り、「天の川」のことを意味しています。そのため、日本語でも銀河系のことを「天の川銀河」と呼ぶことがあります。でも、一体なぜ銀河系と天の川が同じ単語(=Milky Way)で表されるのでしょう。そして、なぜ天の川の部分には星が密集しているのでしょう。それは、天の川の正体が銀河系そのものだからです。地球から天の川を見ると、雲状の光の帯のように見えますが、それは私たちがいる銀河系を内側から眺めた姿なのです。銀河系には、太陽と同じような恒星がなんと2,000億個ほども集まっており、その直径はおよそ10万光年、中心部分の厚さはおよそ1.5万光年という、とてつもない大きさをしています。また、その形状は薄い円盤状をしているため、その内側に存在する地球からはその部分が光の帯のように見えるというわけです。(つまり、天の川の川幅は一番太いところで1.5万光年となりますね。)■天の川を見るには天の川は1年中見ることができますが、特にどの季節が一番きれいに見えるのでしょう。地球や太陽系は銀河系の中心からおよそ3万光年離れたところに位置しており、その場所は地球から見ると、いて座の方向にあたります。銀河系は中心部にもっとも星が集まっているため、天の川はいて座やその隣のさそり座の付近が最も明るく見え、中心方向とは反対側にあたるオリオン座の付近が最も暗く見えます。いて座やさそり座は夏の夜空に見られる星座であるため、冬よりも夏の方が天の川の姿をハッキリと見ることができるというわけですね。月明かり程度でも、天の川は見えにくくなってしまいますので、月が暗い夏の新月の日に、山などで観測すると、きれいな天の川を見られると思います。■まとめ今回は天の川の正体に迫ってみました。天の川が、実は銀河系を内側から見た姿だったということをお分かりいただけたでしょうか。地球からはぼんやりした光の帯のように見えるものが、実はその1つ1つが太陽と同じような無数の恒星の集まりだと考えると、あらためてその壮大な数と規模に驚かされますね。(文/寺澤光芳)■著書プロフィール寺澤光芳。小さいころから自然科学に関心があり、それが高じて科学館の展示の解説員を務めた経験も持つ。現在は、天文に関するアプリケーションの作成や、科学系を中心としたコラムを執筆している。
2012年08月26日食品を電子レンジで温める際に重宝する「食品包装用ラップフィルム」、そして花粉症や風邪の時に活躍する「ティッシュペーパー」。この2つは、どちらも薄い形状をした日用品ですが、その使い道や素材はまったく異なります。しかし、それらの誕生秘話には意外な共通点があるのです。そこで今回は、この2つの意外な共通点についてご紹介したいと思います。■ ラップフィルムの豆知識そもそも、「食品包装用ラップフィルム」は何から作られているのでしょうか。メーカーによって違いはありますが、現在主流となっているのは「ポリエチレン」や「ポリ塩化ビニリデン」という素材です。これらの素材は一般的に酸やアルカリに強く、また熱にも比較的強いため、食品を保存するのにも向いています。ただし、経験した方も多いと思いますが、油を多く含む食品を電子レンジ等で温める際には、油が高温になり、ラップが溶けてしまうことがありますので注意が必要ですね。ちなみに、食品包装用ラップフィルムを代表する「サランラップ」ですが、これはアメリカのダウケミカル社と旭化成ケミカルズ社が共有する登録商標です。■ ティッシュペーパーの豆知識ティッシュとは元々フランス語で「織物」を意味しています。これは、ティッシュが織物のように編みこまれているから…ではありません。もともと「ゴールドティッシュ」と呼ばれる金の糸を使った織物(布)を重ねる際、布と布の間に薄い紙をはさみ込んでおり、その紙のことを「ティッシュペーパー」と呼んだことから名付けられました。ところで、多くのティッシュペーパーが2枚1組になっているのはなぜでしょう。日本製紙クレシア社によると、1枚のティッシュペーパーは、習字の半紙のように滑らかで肌触りの良いオモテ面とざらざらしたウラ面からできているため、ウラ面同士を合わせることで、どちらの面も肌触り良く使えるように工夫しているとのことです。■ ラップとティッシュの誕生秘話ここまで、「食品包装用ラップフィルム」と「ティッシュペーパー」に関するちょっとした豆知識をご紹介してきましたが、この2つが誕生した背景には意外な共通点があることをご存知でしょうか。実は、ラップとティッシュは最初どちらも軍事目的で使われていました。まず、現在は食品包装に使われている「ラップフィルム」。こちらは、もともと第二次世界大戦中に弾薬や銃を湿気から守るために開発されたもので、兵士の靴の中敷きや、蚊帳の代わりとしても重宝されていました。先ほど、「サランラップ」は登録商標だとご説明しましたが、この「サラン」というのは、ダウケミカル社の開発者の妻2人の名前である「サラ」と「アン」が由来となっています。2人がピクニックに出かけたとき、たまたまレタスをラップで包んで持っていったところ、レタスの鮮度が保たれたというエピソードがきっかけとなり、食品を包む目的で使われるようになりました。次に、「ティッシュペーパー」ですが、こちらの誕生はさらに歴史が深く、第一次世界大戦中。戦争により不足していた脱脂綿の代わりとして開発されたもので、当時は「セルコットン」と呼ばれていました。その後、吸収力の良さが評価され、兵士のガスマスク用フィルターとしても利用されるようになります。戦後になると、それらが大量に在庫として残ってしまったため、アメリカのキンバリー・クラーク社がメイク落とし用に「クリネックスティッシュ」として発売したのが、現在のティッシュペーパーの始まりとなっています。■ まとめ今回は、「食品包装用ラップフィルム」と「ティッシュペーパー」についての豆知識と、それぞれの起源をご紹介してきました。私たちが日ごろ生活していくうえで無くてはならないこれらの日用品が、もともとは軍事利用を目的として開発されたものだったなんて実に意外ですね。(文/寺澤光芳)■著者プロフィール寺澤光芳。小さい頃から自然科学に関心があり、それが高じて科学館の展示の解説員を務めた経験も持つ。現在は、天文に関するアプリケーションの作成や、科学系を中心としたコラムを執筆している。
2012年08月18日2012年は天文現象の当たり年と言われており、5月に起きた「金環日食」や6月に起きた「金星の太陽面通過」を実際に見られた方も多いのではないでしょうか。次に見られる大きな天文現象としては8月14日の未明に、日本国内の広い範囲で見られる「金星食」があります。そこで、今回はその主役とも言える、金星についてあらためて紹介したいと思います。■ 「宵の明星」と「明けの明星」金星を表す言葉として、「宵の明星」や「明けの明星」というものがあります。金星は、地球の内側を回っている内惑星であるため、地球からは太陽とほぼ同じ方向に見えることになります。そのため、日の出前の数時間と、日没後の数時間しかその姿を見ることはできません。日の出前の東の空に輝く金星のことを「明けの明星」、日没後の西の空に輝く金星のことを「宵の明星」と言います。■ 女神「ヴィーナス」の正体マイナス4等級以上を誇る金星は、地球から見ると明るく輝く美しい天体で、この明るさは太陽・月に次いで全天で3番目となります。また、望遠鏡で地球から金星を観測すると、月と同じように満ち欠けをしていることが分かります。さらに、その大きさは、直径が地球の95%、質量が80%で地球とよく似ています。ところが、その大気は約96.5%が二酸化炭素で占められており、それによる温室効果のため、表面温度はなんと摂氏400~500度にも達します。これは、金星よりも太陽の近くを回っている水星の表面温度よりも高く、太陽系で一番暑い(…というより熱い)惑星なのです。そのうえ、そこに浮かぶ雲は、二酸化硫黄からできており、それが降らす雨は「硫酸の雨」となっています。ローマ神話の愛と美の女神「ヴィーナス」とも呼ばれている金星ですが、このようにその正体は、地球から見た美しさとはかけ離れた、灼熱(しゃくねつ)と強い酸性のまさに地獄の惑星です。■ 金星は仲間はずれの星?地球をはじめ、太陽系の惑星では太陽は東から昇り、西へ沈んでいきます。しかし、金星だけは太陽系の惑星の中で唯一、西から太陽が昇り、東へと沈んでいきます。(昔のアニメソングでそんな歌詞がありましたね)これは、金星の自転だけが逆回転をしているために起こる現象です。なぜこうなってしまったのかはよく分かっていませんが、一説によると、はるか昔、金星に別の大きな星が衝突したことで、その衝撃により自転軸がひっくり返ってしまったためではないかと考えられてします。■ 2012年8月14日の金星食日食といえば、先日の金環日食が記憶に新しいと思いますが、太陽の前に月がおいかぶさることで、太陽が隠れてしまう現象ですね。それと同じで、金星食というのは、金星の前に月がかぶさることで、金星が月の影に隠れてしまう現象を指します。今回の金星食は、8月14日の未明に東の空に見ることができ、細い月に金星が隠されるような形となります。地域によって見られる時間は多少異なりますが、東京の場合で2時44分に始まり、3時29分まで続きます。金星食自体は2003年以来9年ぶりですが、今回のように条件のよい(空が暗い時間帯の)金星食に限れば、1989年に見られて以来、約23年ぶりとなります。「金環日食」や「金星の太陽面通過」の時のように、日食グラスなど特別なアイテムを用意する必要もありませんから、お手軽な天文ショーとも言えます。そのうえ、ちょうどペルセウス座流星群の出現とも重なる時期ですので、運がよければその近くに流れ星を見ることができるかもしれません。■ まとめ地球から見ると明るく美しい金星ですが、その本当の姿について、お分かりいただけたでしょうか。2012年の3大天文ショーの最後を飾る金星食。今回の金星食は、夜中の3時前後ということで、起きているにはつらい時間帯となりますが、お盆休みとも重なる時期ですので、夜更かしや早起きができる人は、ぜひこの機会に観測してみてください。(文/寺澤光芳)■著書プロフィール寺澤光芳。小さい頃から自然科学に関心があり、それが高じて科学館の展示の解説員を務めた経験も持つ。現在は、天文に関するアプリケーションの作成や、科学系を中心としたコラムを執筆している。
2012年08月12日宇宙はとても広大です。そのため、その大きさを数値で表すと非常に膨大になりがちです。それを避けるため、宇宙の大きさを示す独自の基準(ものさし)があります。そこで今回はそんなものさしを使って、宇宙の大きさを体感してみましょう。■ 「メートル」で測ってみるまずは、日常生活でもよく使われている「メートル(m)」や「キロメートル(km)」から始めてみたいと思います。私たちが住んでいるこの地球。その直径は赤道方向で約12,750km、その一周の長さで計ると約40,000kmとなります。参考までに、東京~大阪間が最短距離で約400km、東京~ロンドン間が約9,580km、東京~ニューヨーク間が約10,860km。ここまではまだ想像がつきますね。次に、地球から最も近い天体である月。ここまでの距離はというと約384,400km。東京~ニューヨーク間の約35倍、地球9周半ほどの距離です。さらに太陽までの距離となると、地球~月までの距離のおよそ400倍で、1億5,000万kmとなります。イメージしやすくするために、すべて1億分の1スケールで考えてみると、地球と月の距離は3.8m、地球と太陽の距離は1.5kmとなります。ついでに天体そのものの大きさも1億分の1スケールで考えてみると、地球は直径12.8cm、月は3.5cm、太陽は13.9mとなります。つまり、地球・太陽・月の位置関係としては、12.8cmのグレープフルーツほどの球体(=地球)から、3.8m離れたところに3.5cmのピンポン玉ほどの球体(=月)があり、1.5kmも離れたところに14mの巨大な球体(=太陽)があるという感じです。月に比べて太陽がいかに遠いところにあるかということが分かりますね。■ 「天文単位」で測ってみるちょっとスケールの大きな話になってきましたので、ここで新たな単位を登場させましょう。それが「天文単位(AU)」です。1天文単位は地球と太陽の間の平均距離を表しており、1天文単位=約1億5,000万kmとなります。これを使うと、太陽系でもっとも遠い惑星である海王星までの距離はおよそ45億kmですから、30天文単位ほどです。では、地球からもっとも近い恒星までの距離はどれほどでしょう。もっとも近い恒星は、「プロキシマ・ケンタウリ」と呼ばれる天体ですが、そこまでの距離は270,000天文単位となります。つまり、一番近い恒星ですら、海王星までの距離の9,000倍も遠いところにあるわけです。ますます膨大なスケールの話になってきましたね。■ 「光年」で測ってみるそこで、さらに次の単位を登場させましょう。それが有名な「光年」という単位です。「光年」は光の速度で1年間に進む距離を表しており、1光年はおよそ63,000天文単位(約9兆4,600億km)です。地球から太陽までなら光の速度で8分ちょっと、海王星までなら4時間ほどで行けますが、もっとも近い恒星「プロキシマ・ケンタウリ」までとなると、4.2年かかる計算になります。ちなみに、全天でもっとも明るい恒星であるおおいぬ座の「シリウス」までが8.7光年、有名なオリオン座の三ツ星の右下にある「リゲル」になると約700光年の距離となります。それでは、さらに話を広げて、太陽系を含む銀河系となるとどうでしょうか。銀河系は平たい円盤のような形をしており、その円盤の直径は約10万光年。光の速度を持ってしても、端から端まで移動するのに10万年もかかるわけです。最後に、現在地球から観測可能な宇宙の半径は、およそ470億光年だと言われています。仮に銀河系の大きさが直径10cmのどら焼きだとした場合、光が1年間で進める距離はわずかに0.001mm。逆に観測可能な宇宙の半径は47kmにもなります。これは大阪~京都間の距離に匹敵します。もう想像もできないスケールになってしまいましたね。余談ですが、0.1mmの厚さを持つ紙を100回折ることができると仮定すると、計算上では0.1×2の100乗mmで、その厚みは何と134億光年となります。…あくまで計算上の話ですけどね。■ まとめ今回は数字を使って宇宙の大きさを見てみました。このように、あまりに広大な宇宙の大きさを扱う時には、日常生活ではお目にかかることの無い独自の単位を使っていることがお分かりになったでしょうか。あらためて見ても、やはり宇宙の大きさは想像を超えていますね。(文/寺澤光芳)■著者プロフィール小さい頃から自然科学に関心があり、それが高じて科学館の展示の解説員を務めた経験も持つ。現在は、天文に関するアプリケーションの作成や、科学系を中心としたコラムを執筆している。
2012年07月28日先日、『ヒッグス粒子と見られる新たな粒子が発見された』 というニュースが世界中を駆け巡りました。…と言われても、「ヒッグス粒子」をよく知らない方がほとんどだと思いますが、「電子」や「ニュートリノ」という単語は耳にしたことがあるでしょうか。これらはすべて素粒子の一種ですが、その正体を詳しく理解している方は少ないと思います。そこで、今回は素粒子の正体に少し迫ってみましょう。■ 水を極限まで分解してみると…この世にあるすべての物質は「分子」や、それらを構成する「原子」がもとになっています。例えば、水の化学式が「H2O」であることはよく知られていますね。このことから、水の分子は2つの水素原子と1つの酸素原子から構成されていることが分かります。そして、この原子は「原子核」とその周りを回る「電子」から構成されています。このとき、原子核はプラスの電気を持ち、電子はマイナスの電気を持っているため、お互いは電気的な力によって引き合っています。次に、原子核は「陽子」や「中性子」からできています。中性子は電気的な力(=電荷)を持っていませんが、陽子がプラスの電気を持っているため、全体として原子核はプラスの電気を持っていることになります。陽子や中性子をさらに詳しく見ていくと、それらは「アップクォーク」や「ダウンクォーク」と呼ばれる粒子から構成されていることが分かっています。このように最小限まで分割された粒子のことを「素粒子」といい、電子やアップクォーク、ダウンクォークらがそれにあたります。■ 素粒子の種類素粒子は、全部で17種類あり、それらは大きく「フェルミ粒子(フェルミオン)」と「ボース粒子(ボソン)」の2種類に分けられます。このうち、フェルミ粒子は物質を構成している素粒子で、ボース粒子はそれらの物質の間に力を伝えたり、質量を与えたりする素粒子です。先ほど登場した電子やアップクォーク、ダウンクォークらは、すべてフェルミ粒子にあたり、有名なニュートリノもこちらに属します。そして、これらフェルミ粒子の間で働いているのがボース粒子で、力を与える粒子としては、電磁気力を伝える「光子(フォトン)」や、重力を与える「重力子」などがあり、また質量を与える粒子として、最初に登場した「ヒッグス粒子」があります。■ ヒッグス粒子の発見ヒッグス粒子は、1964年にイギリスのピーター・ヒッグスによってその存在を提唱されていましたが、つい先日まで発見されていないことから未知の粒子だと言われてきました。しかし、先日ついにヒッグス粒子と見られる新たな粒子が発見された、とスイスにある世界的な素粒子研究所「欧州原子核研究機構(CERN)」から発表されました。そうは言っても、この発見がどれほどすごいことなのか、いまいちピンときませんね。実は、このヒッグス粒子は宇宙誕生の直後に、すべての物質に質量を与えたとされていることから、「神の粒子」とも呼ばれています。というのも、宇宙は「ビッグバン」と呼ばれる大爆発から始まったとされていますが、このビッグバンの瞬間、すべての粒子はまだ質量を持っておらず、宇宙空間を光速で自由に飛びまわっていました。しかし、そのわずか100億分の1秒後には、ヒッグス粒子が宇宙空間を埋め尽くし、自由に飛び回る粒子に水飴のようにまとわりつくことで、質量を与えて動きにくくさせたと考えられています。つまり、ヒッグス粒子が存在したことで、素粒子はお互いに引き合って結びつき、原子や分子、そしていろいろな物質・生命が誕生できたというわけです。そのため、この新たに発見された粒子が本当にヒッグス粒子だとしたら、宇宙がどのように生まれ、生命がどのように誕生したのかといった、すべての根源をたどるための大きなヒントになると期待されています。■ まとめ素粒子に関する発見の中でも、大きな出来事となった「ヒッグス粒子」発見のニュース。もし、今回発見された粒子が本当にヒッグス粒子だとしたら、宇宙誕生の秘密が一気に解明されるかもしれません。それにしても、巨大な宇宙の誕生を解明するためには、極限まで小さな素粒子の働きを解明しないといけないなんて、何だか不思議な関係ですね。(文/寺澤光芳)■著書プロフィール寺澤光芳。小さい頃から自然科学に関心があり、それが高じて科学館の展示の解説員を務めた経験も持つ。現在は、天文に関するアプリケーションの作成や、科学系を中心としたコラムを執筆している。
2012年07月21日救急車は近づいてくる時と、遠ざかって行く時とでサイレンの音が違って聞こえます。このように、音の発生源や観測者が移動している時に、音の高さが違って聞こえる現象を「ドップラー効果」といい、19世紀中ごろにオーストリアの物理学者クリスチャン・ドップラーが発見しました。実は、この「ドップラー効果」、結構身近なところに活用されているのです。そこで今回は、この「ドップラー効果」が使われている例を見ていきたいと思います。■音のドップラー効果冒頭で紹介したサイレンの例は、音のドップラー効果と言われている現象です。実際に救急車などのサイレンの音を思い出すと分かるかもしれませんが、音のドップラー効果によって、音源が観測者に近づいてくると高い音として聞こえ、逆に遠ざかって行くと低い音として聞くことができます。このような現象は、音が波としての性質を持っているために起こります。■ドップラー効果が起こる理由ここで、ドップラー効果がなぜ起こるのかを説明しておきたいと思います。はじめに、音の高さというのは、その音が発する波の周波数によって決まり、周波数が高いほど、聞こえる音も高くなります。次に、音波の発生源が観測者に近づいてくる時は、波が圧縮されるために波長は短くなり、逆に遠ざかっていく時は、波が広がるために波長は長くなります。そして、この波長は周波数に反比例するため、波長が短くなるほど周波数は高くなります。つまり、高い音として聞こえます。これらのことから、音の発生源が近づいてくる時には、波が圧縮されて波長が短くなるため、音も高く聞こえます。一方、音の発生源が遠ざかって行く時には、波長が長くなるため、音も低く聞こえるわけです。そしてこのような現象は、同じように波としての性質を持つ、電波や光に対しても成り立ちます。■電波での活用ドップラー効果を電波に応用したものは、身近なところでいろいろと使われています。その中で、もっとも分かりやすいものが、速度を測る仕組みです。具体的な例としては、野球でピッチャーの球速を計るための「スピードガン」や、自動車の速度違反取締装置「オービス」などがあります。これらの場合、ボールや自動車など、測定する対象物に対して電波を照射し、元の波の周波数と当たった後に反射してくる波の周波数との差を測定することで、その対象物の速度を求めることができるという仕組みです。■気象レーダーへの応用さらに身近な場面で役立っている例としては、ドップラーレーダーを使った気象レーダーがあります。こちらも、先ほどの速度を測る仕組みとほぼ同じですが、大気中の雲や雨といった小さな粒子に電波を当て、そこから反射してくる電波の波長や周波数を確認することで、風速や風向きを測定し、雲の動きや気流を観測できるというものです。返ってきた波長が元の波長よりも長くなっていれば、対象物は遠ざかっており、逆に元の波長よりも短くなっていれば近づいてきているということになります。ただし、雲や雨は、先に紹介したスピードガンやオービスのように常に一定方向に動いているわけではないため、1つのレーダーだけでは、近づいているか遠ざかっているかは分かっても、その正確な進行方向までは調べることができません。そのため、実際には複数のレーダーを用いることによって、二次元的な動きをとらえています。このようにして集められたデータをもとに、毎日の天気予報などが行われているわけです。■まとめ今回は、「ドップラー効果」について見てきました。救急車のサイレンの例は誰でも一度は経験したことがあるとは思いますが、それ以外に速度の計測や気象レーダーなど、結構身近なところで役に立っていることがお分かりいただけたでしょうか。なお、光のドップラー効果を使った例については、またの機会にご紹介したいと思います。(文/寺澤光芳)■著者プロフィール寺澤光芳小さいころから自然科学に関心があり、それが高じて科学館の展示の解説員を務めた経験も持つ。現在は、天文に関するアプリケーションの作成や、科学系を中心としたコラムを執筆している。
2012年07月06日今や、普段の生活の中に、無くてはならない存在となった「GPS」。カーナビや携帯電話など、身近なところでいろいろ活用されていますが、今回はそんなGPSとアインシュタインとの意外な関係性について、ご紹介したいと思います。■GPSとは「GPS」とは、Global Positioning Systemの略で、衛星からの電波をもとに、地球上での位置を調べるためのシステムです。最近では、自分の位置を調べる目的などで利用されることが多くなりましたが、もともとはアメリカ合衆国が軍事用システムの1つとして開発したのがその始まりでした。■GPSで位置を取得する仕組みところで、そもそもGPSはどのようにして位置情報を取得しているのでしょうか。カーナビなどに搭載されているGPSアンテナ(受信機)は、地球の周回軌道上に打ち上げられた全30機のGPS衛星から、いくつかの電波を受信して、その衛星までの距離を測ります。仮に、GPS衛星と受信機がどちらも正確な時計を持っていれば、衛星が電波を出した時間と、受信機がそれを受信するまでにかかった時間の差から、その距離を測ることができます。このとき、理論上では3つの衛星から受信機までの距離が分かれば、3次元空間上での位置を特定することができます。しかし、実際には受信機には、そこまで正確な時計を持たせていないことが多いため、誤差が生じてしまいます。(例えば、時計が1秒狂っただけで、30万kmもの誤差が発生しまい、まったく使い物になりません。)こうした理由から、4つ目の衛星からのデータを受信することによって、3次元空間上の位置と時刻の計4つを未知数とした方程式から、その位置を割り出すことで、時計の狂いをカバーし、その精度を維持しています。■アインシュタインの相対性理論とは有名なアインシュタインの相対性理論には、1905年に発表された「特殊相対性理論」と1916年に発表された「一般相対性理論」の2つの理論があります。相対性理論そのものの中身は難解なので、ここでの説明は省略しますが、この2つの理論をもとにして、特殊相対性理論からは「高速で運動する物体は時間の流れが遅くなっていく」ということが言え、一般相対性理論からは「重力の影響が小さくなると時間の流れが速くなっていく」ということが言えます。■GPSと相対性理論の深い関係勘のいい方は、ここまで読めばGPSと相対性理論の関係に気づいたかもしれませんね。GPS衛星には、非常に高精度な原子時計が搭載されているのですが、(1)非常に速い速度(時速 約14,000km)で、(2)重力の小さい宇宙空間(高度 約2万km)を移動しているため、上の2つの理論の影響を受け、どうしても内蔵された時計に狂いが生じてきます。そのため、GPS衛星の内蔵時計では、相対性理論を考慮して、自動的に時刻を補正する機能を保持しています。ちなみに、もし相対性理論を考慮しないとすると、GPS衛星に搭載された内蔵時計は、1日あたり30マイクロ秒(0.00003秒)ほど早く進んでしまう結果となり、それだけで求められる位置は10km近くも誤差が生じてしまいます。アインシュタインの相対性理論が、こんなところで応用されているとは驚きですね。■GPS衛星の時刻が狂う別の理由4年に一度、うるう年というのがあるのをご存じだと思います。さらに、これとは別に数年に一度、うるう秒というものを使って、秒単位での時刻の補正が行われています。しかし、GPS衛星ではうるう秒まで対応することができないため、この時間のずれについては、カーナビなどの受信機側で補正を行っています。■まとめこのように、日ごろは気軽に利用しているGPSですが、正確な位置を割り出すためには、これほど精密な時計が必要となります。しかも、その正しい時間を刻むための方法として、実はアインシュタインの相対性理論が使われているとは奥が深いですね。(文/寺澤光芳)■著者プロフィール寺澤光芳。小さいころから自然科学に関心があり、それが高じて科学館の展示の解説員を務めた経験も持つ。現在は、天文に関するアプリケーションの作成や、科学系を中心としたコラムを執筆している。
2012年06月24日「水・金・地・火・木・土・天・海・冥」太陽の周りを回る惑星の順番を覚える方法として、子供のころにこのフレーズを暗記した方も多いかと思います。2006年に冥王星が惑星から準惑星に分類変更されたことで、現在では水星から海王星までの8つが太陽系の惑星として定められています。この中でも、水・金・火・木・土、そして太陽(日)と月の7つを見ると、何となくカレンダーの曜日を連想することはないでしょうか。そこで、今回は惑星と曜日との関係性について解明していきたいと思います。■惑星と曜日の関係冒頭でも書きましたとおり、惑星の並びは太陽に近い方から順に、「水・金・地・火・木・土…」となります。でも、1週間の曜日は「月・火・水・木・金・土・日」の順番ですね。曜日はもともと惑星を基準に考えられたものだとされていますが、どうして順番が違うのでしょう。実は、曜日の決め方は、太陽を中心に惑星がその周りを回っているという現在の「地動説」ではなく、地球の周りを(太陽も含めて)天体が回っていると考える「天動説」に基づいているからなのです。■天動説で曜日を決める天動説が唱(とな)えられていた時代、肉眼では太陽と月のほかに、水星・金星・火星・木星・土星の5つの惑星を見ることができました。古代の人々はこれらの天体が動く早さから、その距離を推測しており、遠い天体ほどゆっくり動くと考えていました。その考えを元に、これら7つの天体を地球から遠い順に並べると、土星・木星・火星・太陽・金星・水星・月となります。そして、彼らはこの順番に1時間ずつ惑星が人々の時間を支配し、守っていると考えていました。つまり、最初の1時間は土星、次の1時間は木星、といった感じで順に支配しているわけです。この順番で進むと、1日後=25時間目は太陽となります。これをさらに繰り返していくと、次のようになります。1日目の1時間目…土星2日目の1時間目…太陽(日)3日目の1時間目…月4日目の1時間目…火星5日目の1時間目…水星6日目の1時間目…木星7日目の1時間目…金星8日目の1時間目…土星以降はこの繰り返しとなり、それぞれの日の1時間目が、そのまま曜日の並びとして設定されました。こうすると、現在の曜日の並びと同じで、土・日・月・火・水・木・金・土…となりますね。■1週間の始まりは何曜日?現在、日本やアメリカなど多くの国々では、日曜日から始まると考えるのが一般的とされています。しかし、1週間の始まりを何曜日とするかについては、誰もが認める決まりはありませんし、実際ヨーロッパの国々では、実用上便利だということで、カレンダーは月曜日から始まっているところも多々あります。また、先ほどの古代の考え方に基づけば、週の始まりは土曜日になるはずです。これらの違いはどこから来ているのでしょう。いくつかの説がありますので、ここでは新約聖書(キリスト教)に基づいた考え方を紹介したいと思います。というのも、現在、世界の多くの国で採用されている太陽暦の1つ「グレゴリオ暦」はキリスト教の暦をもとにして作られているからです。キリスト教では、イエス・キリストが復活した日を週の最初の日とすると「ルカ伝」の中に書かれており、それが日曜日だったと言われています。そのため、その日は人々もキリストと一緒に過ごすための休みと定められました。このような理由から、現在では1週間の始まりを日曜日とし、その日を休みとする国が多いわけです。■まとめ今回は太陽系の惑星と曜日との関係性について見てきました。昔の人々は、地球の周りを回っている惑星をもとに、暦を作っていたということがお分かりいただけたでしょうか。「天動説」から「地動説」に変わった現在でも、その時代の考え方が生きているなんて、曜日も奥が深いですね。(文/寺澤光芳)■著者プロフィール寺澤光芳。小さいころから自然科学に関心があり、それが高じて科学館の展示の解説員を務めた経験も持つ。現在は、天文に関するアプリケーションの作成や、科学系を中心としたコラムを執筆している。
2012年06月03日今年(2012年)の3月に初代のぞみである300系が引退した新幹線。現在は最新のN700系車両が多く見られるようになってきましたが、このN700系の特徴として、東京~新大阪間での公衆無線LANによるインターネット接続が利用できるようになっています。それにしても、300km近くの高速で移動する新幹線の車両の中で、なぜ無線LANによるインターネット接続が安定して利用できるのでしょうか。そこで、今回はその仕組みに迫っていきたいと思います。■N700系車内での通信の仕組みまず、N700系の各車両にはそれぞれ2カ所ずつの無線LANアクセスポイントが設置されており、車内の利用者はこれを経由してインターネット通信を行うことができるようになっています。そして、車内のアクセスポイントを経由したデータは、LAN経由で車内移動局に集約されたのち、地上の設備とやり取りをします。ここで、東海道新幹線の車内と外部との通信方法について紹介しましょう。もともと、1964年の開業当初は、山などに設置した基地局と車両内の移動局との間で通信を行う「空間波方式」を利用して、指令室と乗務員との交信など業務系通信を行っていました。その後、1989年からはLCX方式と呼ばれる列車無線設備を利用しており、さらに設備の老朽化に伴い、2009年にはそれまでのアナログ方式からデジタル方式への切り替えを行っています。これにより、データが効率よく流せるようになり、帯域に余裕ができた結果、業務系通信の他に旅客向けへも開放することで、車内でのインターネット接続が可能となったわけです。ちなみに、車内にある公衆電話での通話や、電光文字ニュースなどについても同じLCX方式を利用しています。■LCXの仕組みところで、LCX方式とは一体どのようなものでしょうか。一言で説明しますと、LCXとはLeaky CoaXial cableの略語で、「漏洩同軸ケーブル」のことを指しています。同軸ケーブルと言われてもあまりなじみがないかも知れませんが、テレビのアンテナケーブルなどにも使われている、ごく一般的な種類のものです。LCXは、さらにこの同軸ケーブルに特定の間隔で細長い穴を空けたものです。ケーブルに穴があることで、そこから漏れ出る電波により、LCXのごく近い範囲に限って、データの送受信が可能となる仕組みです。そして、このケーブルを線路に沿って敷いておくことによって、それまでの空間波方式では通信ができなかったトンネル内などでも、通信ができるようになりました。ちなみに最近は、東京など地下鉄のトンネル内でもケータイが圏外にならない路線がありますが、そういった場所でもこのLCXが使われています。■新幹線内での通信速度は?気になる無線LANでの車内インターネット接続サービスの通信速度についてですが、上り(列車→LCX)が1Mbps、下り(LCX→列車)が2Mbpsとなっており、この帯域を16両編成のすべての乗客で分け合うことになります。ただし、最近のスマートフォンなどの急速な普及により、遅い・つながりにくいといった状況が発生していることから、その対策として2012年5月31日以降は、動画サービスやファイルダウンロードなど一部の利用方法に限って、速度制限がかけられるようになります。もともとLCXは無線LAN専用で敷設されたものではなく、乗務員の通信用で空いた帯域を利用しているため、やむを得ないのかも知れないですね。■まとめ多くの人が利用されたことがある新幹線だと思いますが、そこで使われている通信の仕組みとなると、ご存知の方も少ないでしょう。今回は、新幹線内外での乗務員のやり取りや、無線LANでの車内インターネット接続サービスで使われている通信方式について見てきましたが、いかがでしたでしょうか。将来的には、より高速・大容量通信が可能な方式が採用されることによって、一層快適に利用できるようになるかも知れませんね。(文/寺澤光芳)■著者プロフィール寺澤光芳小さい頃から自然科学に関心があり、それが高じて科学館の展示の解説員を務めた経験も持つ。現在は、天文に関するアプリケーションの作成や、科学系を中心としたコラムを執筆している。
2012年05月22日私たちがいるこの太陽系。その中には、光り輝く太陽のほか、地球や火星のように岩石でできた小さな惑星や、木星や土星のようにガスが中心の巨大な惑星が存在します。いったいこの太陽系はいつどのようにして生まれたのでしょうか。そして、なぜこのようにいろいろな種類の天体がいるのでしょうか。そこで今回は、太陽系の起源と進化の過程について、現在の定説とされている「星雲説」に基づいて、見ていきたいと思います。■太陽が生まれたきっかけ太陽系の中心に存在し、太陽系で唯一自ら輝いている「太陽」。まずはこの太陽が誕生した経緯から探っていきましょう。さかのぼること今から48億年前…。太陽が誕生したきっかけは、銀河系の片隅にある巨大な恒星の爆発でした。現在の太陽よりもはるかに大きなその星は、寿命を迎えると大爆発を起こし、その残骸(ざんがい)を周囲にまき散らすとともに、その爆発の衝撃は、周りの宇宙空間に漂っていた物質(主に水素やヘリウムといったガスやちり)にも刺激を与えました。すると、このようなガスやちりから構成される巨大な雲のようなものは、その密度の濃い部分が集まり、自らの重力によって収縮を始めることで、中心部の温度と密度が高まっていきます。さらにその雲は、自らの回転により「原始惑星系円盤」と呼ばれる渦巻(うずまき)状で平たい円盤の形へと少しずつ変化し、やがて円盤の中心部分には太陽のもとになる「原始太陽」が生まれました。その後も、中心部分の温度と圧力はますます高まり、一定条件に達することで、水素をヘリウムに変換する核融合反応が始まり、自ら明るく光る星へと変化します。このようにして、今から約46億年前に現在の太陽は誕生しました。ちなみに、このころの太陽の明るさは、まだ現在の約7割程度であったと推定されています。■太陽系惑星たちの誕生太陽が成長しつつあるころ、その周囲にあるガスやちりの円盤も、太陽の周りを回り続けていました。これらは少しずつ集まることで、その重力により小さくまとまり、次第に数km程度の大きさを持った「微惑星」へとなっていきます。微惑星はその後、小さな衝突を繰り返して「原子惑星」へ、そしてより大きな衝突を繰り返すことで、現在の惑星の姿へと少しずつ成長していきました。このとき、太陽から一定の距離(太陽~地球の距離のおよそ4倍)以内は、太陽からの距離が近いため、その影響によりガス成分は少なく、岩石や金属などの物質が微惑星を形成する中心となりました。それが、現在の「地球型惑星」(=水星・金星・地球・火星)になるのですが、岩石や金属といった物質はその量が少なかったため、あまり大きく成長することができませんでした。一方、それよりも外側は、太陽からの距離が遠く、温度が低いことから、水や二酸化炭素・メタンなどが固体の状態で存在できたため、それらの成分が中心となった微惑星ができます。そのような微惑星は、さらに自らの重力によって周りに存在する水素やヘリウムなどのガスを引き寄せることで、いっそう大きくなりました。それが、現在の「木星型惑星」(=木星・土星・天王星・海王星)にあたりますが、これらを形成する物質は、宇宙空間に豊富にあったことから、太陽の近くを回る地球型惑星に比べて、大きく成長することができたというわけです。■さらなる真実に迫る昨年(2011年)8月、NASAのニュー・フロンティア計画の一環として、木星探査機「ジュノー」が打ち上げられました。この探査機「ジュノー」は、打ち上げから5年後の2016年には木星に接近し、そこから約1年かけて大気や磁場のデータなどを収集する予定となっています。木星探査は、惑星が生まれる過程を調べる大きな手がかりになると期待されており、ひょっとするとこれにより太陽系が形成された謎が一気に解明されるかも知れません。■まとめ今回は太陽系が誕生した仕組みについて見てきましたが、いかがでしたでしょうか。ほかの星の爆発によって生まれた太陽と、その周りを回る惑星。8つの惑星たちも、太陽からの距離によってそのでき方が異なったため、地球のように岩石や金属を中心とした小さな惑星もあれば、木星のようにガスを中心とした巨大な惑星もあるというわけです。こうして見てみると、宇宙の歴史やそのスケールの大きさをあらためて感じることができますね。(文/寺澤光芳)■著者プロフィール寺澤光芳小さいころから自然科学に関心があり、それが高じて科学館の展示の解説員を務めた経験も持つ。現在は、天文に関するアプリケーションの作成や、科学系を中心としたコラムを執筆している。
2012年05月16日日常生活とは切っても切り離せない「時間」という概念。今回は、そんな時間の定義について、あらためて考えてみたいと思います。■昔の1秒の定義そもそも1秒の長さというのは、どのように定められているのでしょうか。かつては、地球の自転や公転をもとにして、1秒の長さというものを定義していました。太陽が真南を通ってから、翌日また真南を通るまでの平均時間(=平均太陽日)を1日の長さとし、その1/24を1時間、さらにその1/60を1分、そのまた1/60を1秒。つまり、平均太陽日の1/86,400を1秒という形で、世界各国の時間の基準として使っていました。これを「世界時(UT1)」と言います。しかし、研究が進むにつれ、月の影響や海水の分布変動などにより、地球の自転速度が常に一定というわけではないことが分かってきました。すると、必然的に1秒の長さの定義があいまいなものになってしまいます。そのような背景から、より正確な基準となる1秒を定義しようとする動きが世界中で起こってきました。■セシウムが世界中の時間を支配する東日本大震災における原子力発電所の事故により、一躍有名になった「セシウム」。実は、このセシウムこそが、現在の世界の時間を定めているのです。と言っても、原発事故で有名になったのは、セシウム137原子という放射性セシウムを指していますが、世界の時間を決めているのは、その同位体であるセシウム133原子です。なお、同位体とは、同じ元素の原子で、原子核の中性子数(=原子の質量)が異なるもののことを言います。このセシウム133原子を使い、現在の1秒の定義は「セシウム133の原子の基底(きてい)状態の2つの超微細準位の間の遷移に対応する放射の周期の91億9263万1770倍の継続時間である」と定められています。何を言っているのかよく分からないので、もう少しかみ砕いて説明しましょう。原子には、特定の周波数のマイクロ波を当てたときだけ反応する性質があり、その周波数を「共鳴周波数」と呼びます。なお、セシウム133原子の場合は、この共鳴周波数が91億9263万1770Hzであることが分かっています。また、原子にはエネルギーが低い「基底(きてい)状態」と、エネルギーが高い「励起(れいき)状態」の2種類の状態があります。そして、基底状態の原子に、この共鳴周波数のマイクロ波を当てると、反応して励起状態に変化します。つまり、基底状態のセシウム133原子にマイクロ波を当てたとき励起状態になれば、そのマイクロ波の周波数は91億9263万1770Hzであるということが言えます。ご家庭の電気(交流)でおなじみの50Hzや60Hzというのは、それぞれ1秒間に50回、または60回振動する波を表していますので、同じように考えると、このマイクロ波が91億9263万1770回振動するまでの時間を計測すれば、それが「1秒」となるわけです。長くなりましたが、この仕組みを利用して作られたものが、現在の1秒を定義するために多く使われているセシウム原子時計です。これにより、数十万~数千万年に1秒程度しかズレないという高精度を実現することができるようになり、「国際原子時(TAI)」という時間の基準として利用されるようになりました。■うるう秒の登場セシウム原子時計の登場により、とても正確に時を刻むことができるようになりました。しかし、このセシウム原子時計によって決められた「1秒」は、それまで使われていた平均太陽日の1/86,400で定める不規則な「1秒」とはわずかに異なります。そのため、新たに出てきたのが「うるう秒」という考え方です。国際原子時(TAI)による正確性と、地球の自転という自然現象に基づく概念をもとにした世界時(UT1)の利便性の双方をうまく活用するため、1秒の長さは国際原子時(TAI)に統一しながらも、世界時(UT1)との差分を「うるう秒」という形で調整しているわけです。このうるう秒で補正した時刻を「協定世界時(UTC)」と言い、現在の世界共通の標準時として使われています。■まとめ目に見えないですが、日常生活を送るうえでなくてはならない「時間」。その時間の定義の仕方にもいろいろな方法があり、かつては自然の動きに基づいて定められていたものが、近年では原子時計という技術を利用して定義されるようになりました。さらに、それらの長所を融合して利用するために「うるう秒」という概念が出てきたと思うと、何気ない「1秒」も奥が深いですね。(文/寺澤光芳)■著者プロフィール寺澤光芳小さいころから自然科学に関心があり、それが高じて科学館の展示の解説員を務めた経験も持つ。現在は、天文に関するアプリケーションの作成や、科学系を中心としたコラムを執筆している。
2012年05月08日オリオン座と言えば、真冬の夜空を彩る代表的な星座です。そのオリオン座が消えてしまうとは、一体どういうことでしょう?実は、地球上の生物と同じように、夜空に瞬く星にも一生があり、オリオン座の中にある1つの星にもその寿命が近づいているというのです。■星の最期~超新星爆発とは~まずは、星の最期についてご説明しましょう。なお、ここでは太陽のように自ら光を放っている「恒星」のことを指すことにします。その恒星がどのような最期を迎えるかは、それぞれが持つ質量に依存します。太陽の質量を基準として考えたとき、太陽のおよそ8倍以上の質量を持つ恒星は、最期を迎えると核反応が暴走的に進み、大規模な爆発を起こします。これを「超新星爆発」と呼びます。ここで、星の寿命の最期なのに、なぜ「新」という字が使われているのだろうと疑問に思う方がいるかもしれません。昔の人は、爆発によって急に明るく輝きだした星を見て、新しい星が生まれたと思ったことから、それを「新星」と名づけました。さらに、19世紀後半には、それまでの新星よりもいっそう明るく光る星が出現したため、頭に「超」をつけて「超新星」と呼ぶようになりました。そして、「超新星」が生まれる時の爆発という意味で「超新星爆発」となったわけです。■冬を代表するオリオン座オリオン座と言えば、冬の夜空を見上げたときに目に付きやすい有名な星座ですので、実際に見たことがある人も多いのではないでしょうか。ギリシア神話に登場する狩人「オリオン」に由来するこの星座は、ちょうど腰にあたる部分に3つの星が並び、それを取り囲むように4つの明るい星でオリオンの体を形作っています。4つの星のうち、左上(右肩にあたる部分)に赤く光る1等星が「ベテルギウス」、また右下(左足にあたる部分)に白く光る1等星が「リゲル」です。■オリオン座が消える?オリオン座を形成する星たちの中でも、もっとも寿命が近づいていると言われるのが、「ベテルギウス」です。赤く輝くベテルギウスは、地球から640光年(つまり光の速度で640年かかる距離)ほど離れたところにある天体ですが、その質量は太陽の約20倍(地球の約660万倍)、直径は太陽の約1,000倍(地球の約10万倍)という巨大なもので、「赤色超巨星(せきしょくちょうきょせい)」と呼ばれる天体の1つにも数えられています。仮に、ベテルギウスを現在の太陽の位置(=太陽系の中心)に置くと、木星の軌道付近までがすっぽり入ってしまうほどの大きさとなります。そんなベテルギウスの大きさが、ここ15年で約15%も縮んだという観測結果が出ており、この結果はベテルギウスに超新星爆発の時期が近づいていることを意味しています。しかも驚くことに、早ければ近い将来、超新星爆発が見られるとも言われています。ちなみに、現在地球上から見えるベテルギウスは640年前の姿ですので、ひょっとすると実際のベテルギウスは超新星爆発を起こしてすでに消滅しており、この宇宙にはもう存在していない可能性もあります。■ベテルギウス超新星爆発のその後計算上、ベテルギウスが超新星爆発を起こすと、約3カ月間はマイナス11等級ほどの明るさを維持して輝くとされています。これは、マイナス10等級前後とされる半月を上回るほどの明るさです。その後は、約2年で爆発前と同程度の1等星の明るさまで戻り、4年後には肉眼では見えなくなるほど暗くなるだろうと推測されています。また、爆発時には電磁波の一種であるガンマ線がビーム状に、ほぼ光と同じ速度で放出されることになります。万一、それが地球に直撃すればオゾン層が破壊され、生態系へも影響が出るのではないかとの懸念もありましたが、最近の研究により、直撃の心配は無いことが分かっています。■まとめ今回は、オリオン座の1等星「ベテルギウス」の超新星爆発による消滅の可能性についてお話してきました。オリオン座にかかわらず、このように星の誕生や死を繰り返すことによって、普遍的だと思われている夜空の星々も、常に変化しているということがお分かりいただけたでしょうか。もし、ベテルギウスの超新星爆発が起これば、きっと世紀の天文ショーになるでしょうね。(文/寺澤光芳)■著者プロフィール寺澤光芳小さい頃から自然科学に関心があり、それが高じて科学館の展示の解説員を務めた経験も持つ。現在は、天文に関するアプリケーションの作成や、科学系を中心としたコラムを執筆している
2012年05月06日天文現象というと、どちらかと言えば夜に見られるものが多いですが、昼間に見られる天文現象の1つとして、「日食」があります。今年(2012年)の5月21日(月)の朝には日本国内の広い範囲でも日食が観測できますので、ちょうどよい機会として、今回は日食が起こる仕組みやその種類について見ていきたいと思います。■日食が起こる仕組みとその種類日食とは、地球と太陽との間に月が入ることにより、地球から見たときに太陽が手前の月に隠されて見えなくなる現象のことを言います。一言で日食と言っても、実際には太陽の全体が隠れる「皆既日食」、太陽が細いリング状に見える「金環日食」、太陽の一部だけが隠れる「部分日食」などいろいろな種類があります。でも、このように太陽の隠れ方にいろいろな種類があるのはなぜでしょう?その理由は、地球や月の公転軌道の傾きと形状に秘密があります。まず、1つ目の傾きについては、地球と月の公転軌道の傾きの違いがその原因です。簡単に言えば、地球の公転軌道と月の公転軌道は、同一平面上にあるわけではないのです。仮に、この2つの軌道が同一平面上にあれば、地球から見たときの太陽の通り道(黄道)と月の通り道(白道)とが一致するため、月が太陽と地球の間に入るタイミングとなる「新月」のときには必ず日食が起こるはずです。しかし、実際には地球の公転軌道と月の公転軌道は同一平面上には無く、約5度傾いています。そのため、太陽と月・地球が一直線上に並ぶチャンスが少なくなり、日食が起こる回数が減るわけです。次に2つ目の理由である形状ですが、こちらは地球や月の公転軌道は完全な円ではなく、やや楕円(だえん)形をしていることから、太陽~月~地球間の距離は常に変化しているという点にあります。このため、太陽と月・地球が一直線上に並んだ状態で、さらに地球から見たときに太陽より月が大きく見えるときには、太陽がすべて隠れて見えるため「皆既日食」となり、逆に太陽より月が小さく見えるときには、月が太陽のすべてを覆い隠せないため「金環日食」として見えるというわけです。なお、地球に当たる月の影は小さく、皆既日食や金環日食として見える地域は非常に限られています。そのため、それらの地域から少し離れた場所では、太陽の一部だけが隠れた状態になり、「部分日食」となります。■2012年5月21日の日食今年(2012年)の5月21日には、天気が良ければ世界各地で日食を見ることができます。日本国内では、関東地方から九州地方にかけての広い範囲で金環日食を、それ以外の地域でも部分日食を観測することができます。実際の見え方としては、地域によって多少のバラつきはあるものの、おおよそ朝6時過ぎには太陽が少しずつ欠け始め、7時半前後にはピークを迎えます。その後、9時前後にかけて、ゆっくりと元に戻っていき、日食は終了となります。この間、金環日食が見られる地域では、数分程度、リング状の太陽を見ることができます。ちなみに金環日食に限れば、次に日本国内で見られるのは2030年の北海道となります。それまではこの先18年間も見ることができません。このようにとても貴重な機会ですので、朝の早い時間ではありますが、もし天気が良ければ普段より少し早起きしてみてはいかがでしょう。■観測時の注意点日光は有害な紫外線や強い熱を出しているため、太陽を肉眼で直接見ると、目の網膜が損傷を受け、ひどい場合には失明する可能性もあります。日食を観測する際には、黒い下敷きやサングラスなどでは紫外線を防ぐことはできないため、専用の日食グラスなどを使うようにしてください。■まとめ今回は、2012年5月21日の金環日食に向けて、日食が起こる仕組みとその種類について、太陽・月・地球の位置関係から見てきました。月や地球の軌道(傾き・形状)の影響、それらお互いの位置関係によって、見え方が変わるという点について理解しておくと、実際の日食を見たときの感動も一味違うと思います。正しい観測方法で、ぜひこの2012年最大の天文ショーを楽しんでみてはいかがでしょうか。(文/寺澤光芳)■著者プロフィール寺澤光芳小さいころから自然科学に関心があり、それが高じて科学館の展示の解説員を務めた経験も持つ。現在は、天文に関するアプリケーションの作成や、科学系を中心としたコラムを執筆している。
2012年05月06日誤解を招くタイトル(標準的なもので半径数km大きいものは50km。流れ星を科学する)を、変更いたしました。大変申し訳ございません(2012/04/20マイナビニュース編集部)夜空を華やかに飾る流れ星。その中でも、ある決まった時期に多くの流れ星が出現するのが「流星群」と言われるものです。今回は、そんな流星群を科学的な視点からとらえてみたいと思います。■流星群と彗星(すいせい)の深い関係流星群の代表としては、毎年8月中旬のお盆時期に見られる「ペルセウス座流星群」や、2001年11月に大出現をして話題となった「しし座流星群」などが有名です。これらに代表される流星群には、実は彗星と深い関係があるのです。まずは彗星から説明していきましょう。彗星というと、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。過去に観測されたものとしては、1986年に出現した「ハレー彗星」や1996年に出現した「百武彗星」、1997年に出現した「ヘール・ボップ彗星」などがありますが、このうち、1つぐらいは耳にしたことがあるのではないでしょうか。中でも、76年周期で太陽の周りを回っているハレー彗星のように、一定周期で太陽の周りを周回している彗星のことを「周期彗星」と呼びます。そして、この周期彗星の存在こそが、流星群の出現と深い関係にあるのです。■ 彗星は何からできている?さて、これらの彗星は一体何からできているのでしょうか。彗星の本体のことを「核」と言いますが、この核というのは、細かな岩石や金属など、たくさんの塵を含んだ氷の塊でできていると考えられており、その形状から一般的には「汚れた雪だるま」(最近では「凍った泥だんご」とも呼ばれます)とたとえて表現されます。また、その大きさは、標準的なもので半径数km程度、大きなものになると半径50km程度に達するものもあります。■ 彗星の進化このような彗星は、太陽から遠く離れているときには、周囲の温度が低いため、核がほぼ裸の状態でいますが、それが太陽からある一定の距離(およそ2~3天文単位=約3億~4億5000万km)以下に近づいてくると、太陽の熱によって、氷が激しく気化を始め、それにより、核の氷の中に含まれていた塵が放出されます。このとき、同じく気化した水やそのほかの物質が気体となって核の周りを取り囲むため、放出されたそれらの塵は、核から吹き出すこれらの気体の流れに乗り、核の引力に逆らって、ゆっくりと核から離れていきます。その後、これらの塵は、その放出されたときの初速度の差や方向の違いにより、時間がたつにつれ、核からさらに離れていき、核の前後に長くのびるようになります。そして、それはやがて彗星の軌道上に広く散らばっていき、彗星が太陽に接近するたびに、この現象を繰り返すことによって、どんどんと進化していくわけです。■ そして流星群の出現へ勘のいい人はすでにお気づきだと思いますが、楕円(だえん)軌道をした周期彗星の中には、地球の軌道と1年に1回、同じ時期に交差するものがあります。すると、地球はその彗星の軌道上に散らばっている塵とぶつかり、それらが地球の大気の摩擦熱により燃えて発光することで、流れ星となって見えます。このような仕組みにより、毎年決まった時期になると流星群が現れるというわけです。なお、地球上から肉眼で観測できる流星は、直径数mm以上の塵だと推定されています。ちなみに、ペルセウス座流星群などは、長い時間をかけて彗星の軌道全体に塵が分散したため、毎年見ることができ、しし座流星群などは、まだその彗星軌道の一部にしか塵が散らばっていないため、大出現する年と少ない年があるわけです。■ 流星群を見るときのコツ流れ星が実際は同じ明るさで発光していたとしても、その発光地点と、それを観測している人との距離によってその明るさは当然異なって見えます。もっと詳しく言うと、距離が2倍遠くなれば、その明るさは1/4倍になるというように、観測地点から見える明るさは、その距離の2乗に反比例するという法則があります。このことから、暗くてもいいからたくさんの流星を見たい人は低い空を眺め、逆に、数は少なくても明るく光る流星を見たい人は高い空を見上げるのがポイントとなります。■まとめ今回は流星群がどのようにして作られるのかを、科学的な視点からとらえてみました。こうして見てみると、彗星が長い年月をかけて撒き散らした塵のおかげで、地球では美しい流星群として見られるという、宇宙の長い歴史によって築き上げられた神秘を感じ取ることができますね。(文/寺澤光芳)●著者プロフィール小さい頃から自然科学に関心があり、それが高じて科学館の展示の解説員を務めた経験も持つ。現在は、天文に関するアプリケーションの作成や、科学系を中心としたコラムを執筆している。
2012年04月20日願い事を3回言えれば願いがかなうとされ、子供のころから知っている身近な天文現象の1つとして「流れ星」があります。空の明るい都会では、あまり見ることはありませんが、空の暗い山や田舎へ行けば、普段でも数分~数10分に1個程度の流れ星を見ることができます。今回は、そんな夜空を美しく彩る立役者、流れ星について紹介したいと思います。■ 流れ星の正体そもそも、流れ星の正体は一体何なのでしょうか。流れ星は、その名の通り「宇宙に見える星が流れている現象」だと思っている方もいるかもしれません。しかし、実はもっと近く、地球の大気中で起こっている現象なのです。どういうことなのか、もう少し詳しく説明しましょう。宇宙には、さまざまな塵(ダスト)が多く存在します。これらが、引力に引っ張られて地球の大気圏に突入すると、大気との摩擦熱で燃えるときの光が、地上からは流れ星として見えるという仕組みです。その中でも、特にサイズが大きく、大気圏内で燃え尽きなかったものは、地表まで到達し隕石(いんせき)として発見されることになります。では、どうして宇宙空間にこのような塵があるのでしょうか。その要因としてはいろいろありますが、彗星(すいせい)が通った後に残していった塵だったり、隕石のカケラだったりといったものが宇宙空間には多く漂っています。これらがすべて、流れ星のもとになっている塵というわけです。■ 流星群とは?一般的に、流れ星は空のあちこちで現れ、さまざまな方向に流れていきます。しかし、年に数回、多くの流れ星が一度に出現する現象を見ることができます。さらに、その多くの流れ星たちが、ある一点から放射状に降り注いでいる場合、それらの流れ星をまとめて「流星群」と呼んでいます。流星群の代表としては、毎年8月のお盆ごろに見られる「ペルセウス座流星群」や2001年に大出現して話題となった「しし座流星群」などが有名ですので、どこかで耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。これら流星群の中でも、毎年決まった時期に出現するものを「定常群」、数年~数十年おきに活発に出現するものを「周期群」、突然活動するものを「突発群」と呼び、「ペルセウス座流星群」は定常群、「しし座流星群」は周期群にあたります。そのほか、突発群の代表としては、1956年12月に突如出現し、南極へ行く途中の第1次南極越冬隊によっても観測された「ほうおう座流星群」などが知られています。■ 流星群の名付け方ところで、なぜ流星群にはそれぞれ「ペルセウス座」や「しし座」のように、星座の名前が付けられているのでしょうか。それは、その流星群が出現する場所と大きな関係があります。先ほど、流れ星がある一点から放射状に降り注いでいる場合、それらの流星をまとめて「流星群」と呼びます、とお話しましたが、この中心となる一点のことを「放射点」または「輻射点」と言い、この点がどこの星座に属しているかによって、付けられる名前が決まります。つまり、この点がペルセウス座の付近にある場合には「ペルセウス座流星群」、しし座の付近にある場合には「しし座流星群」となるわけです。ちなみに、しし座流星群の放射点は、ちょうど獅子の顔の付近にあたります。■ 日本で見られる流星群たち現在、観測できる流星群には、主なものでおよそ20個程度あります。その中でも、1月上旬に見られる「しぶんぎ座流星群」、8月中旬に見られる「ペルセウス座流星群」、12月中旬に見られる「ふたご座流星群」は、毎年ほぼ安定して出現数も多いことから、三大流星群と呼ばれています。ちなみに、「しぶんぎ座」という星座は、今はもう残っていませんが、かつて、この放射点のあたりには「壁面四分儀座」という星座がありました。現在では、りゅう座とうしかい座の境界付近にあたりますが、放射点までの距離がどちらの星座の中心からもが遠いことから、「しぶんぎ座流星群」という名前が今も使われています。■まとめこのように「流れ星」や「流星群」は、宇宙に漂う塵がそのもとになっていたわけです。また、流星群にも、その出現するタイミングによって、いろいろな種類があることが、お分かりいただけたでしょうか。都会に住んでいると、なかなか出会う機会のない流れ星ですが、たまには暗いところに出掛けて行って、ゆっくり空を眺めながら流れ星を探してみるのもいいかもしれませんね。(文/寺澤光芳)●著者プロフィール小さい頃から自然科学に関心があり、それが高じて科学館の展示の解説員を務めた経験も持つ。現在は、天文に関するアプリケーションの作成や、科学系を中心としたコラムを執筆している。
2012年04月19日