本をどこまで読んだかという目印を付ける、しおり。文房具店や書店などで売っていたり、無料で配布されたりと手に入りやすいアイテムです。図書館でしおりをもらうと?中島めめ(nakajimameme)さんが読書をしていた時のこと。読書を終え、手元にしおりがなかったので、代わりにティッシュを本に挟むことにしたそうです。ある日、図書館に行った時に無料で配布している、しおりをもらいましが…。しおりが増えたことを喜ぶ、中島さん。その日の夜、就寝前の読書を終えて、本に挟んだのは、しおりではなく、ティッシュ…!結局は、いつも手元にあるティッシュがしおりの代わりになるのでした。家の中では、『挟めるもの』があれば意外と困らないですよね。ペンやハガキなどを挟む人もいるので、『本のお供』は人それぞれなのでしょう。投稿を見た人からは多くの共感の声が集まりました。・めっちゃ分かる!しおりは欲しい時に限って、手元にない…。・しおり長者、いいですね。私もその辺にあるものをなんでも挟んじゃう。・その考えはなかった。かわいいしおりは出番が少ないですよね~。しおりに代用できるものはいくつもあります。しかし、しおりは、開きたいページをすぐに開けるほか、読む時には別のページに挟んでおけば邪魔にもなりません。中島さんが収集した、しおりたちが活躍する日が来るといいですね![文・構成/grape編集部]
2024年04月13日読書するというと電子書籍で済ませてしまうひとが増えているなか、八木さんは紙の本による読書体験を自らも楽しんでいることはもとより、ブックカバーもたくさんもっておられるのだとか。ブックカバーって、ひとつかふたつぐらいもっていれば十分なのではないか……。そんな疑問を抱えつつ、八木さんならではの“本”との向き合い方を伺いました。■「ブックカバーを手作りする」という楽しみ八木さんにとって、ブックカバーを手作りすることは楽しい趣味のひとつ。市販のブックカバーで気に入ったものがあれば購入することもあるけれど、自分でイチから手作りしたものも全部で10個ぐらいあるそうです。ブックカバーを作るための材料は、近所の手芸屋さんでカタログを見せてもらってお目当ての生地を取り寄せたり、普段から気に入った生地をストックしておいたり。デザインは、他の作家さんの作品を参考にすることもありますが、生地そのものからインスピレーションを得て、生地の柄に合わせて刺繍をすることも。ブックカバーは一枚の布で簡単に作ることもできますが、八木さんは二枚の布を重ねてミシンで縫い合わせるちょっと手間のかかる仕様で仕立てています。外布に合わせて内布を選ぶ作業も楽しいんですよ。刺繍のあるものは、さらに工程が多くて大変。まず、外布に手刺繍をしてから、ミシンで二枚を合わせてブックカバーに仕立てていきます。生地を緻密にカットする作業も、ぜんぜん苦ではなく、むしろ楽しいのだそう。それもそのはず、八木さんは、たくさんの材料を正確に分量計測する必要がある「スイーツ作り」もお得意なので。細かい作業にイライラするとかがないのは、うらやましい限りです。八木さんの手作りブックカバーには、しおりの紐が必ずつけられていました。先端には、ブックカバーの共布で作ったチューリップモチーフだったり、コロンとしたボールだったりビーズだったり、ブックカバーの雰囲気に合わせてあしらってあるのだそう。例えば、生地が「猫柄」だったら、猫がボールで遊んでいるイメージでボールの形のモチーフをつけてみたり……。八木さんにとって、ブックカバー作りの工程は、どれもとても楽しい時間。生地やビーズなどの素材を選ぶことも、サイズを測ってカットする作業も、手間のかかる刺繍、ミシンステッチ、全部好きだけど、やっぱり“本のために”作っているっていうことですごくしあわせな気分になれるのだそうです。■ブックカバーは本を守るため、自己満足のためにつけていますブックカバー作りそのものを楽しんでいる八木さん。では、ブックカバーをつける一番の理由は「本を守りたいから」だそうです。これはちょっと意外ですが、八木さんはコーヒーをこぼしたりとかして、本をすぐに汚してしまうそうで、せめて外出するときには少しでも本を汚したくないという思いからブックカバーをつけるようになったとのこと。おうちのなかではカバーをつけていないのだそうです。同じ本を何回も読む、八木さん。極端に言うと、100冊の本を読むよりも、1冊を100回読むほうがいいとおっしゃいます。本には、作家さんの言葉、語彙、経験、感覚すべてが詰め込まれている。本を読むことは作家さんの頭のなかをのぞいているのと同じこと。だから、1回読んで終わりだなんてもったいなすぎる。くりかえし、くりかえし読んで、作家さんの人間性が透けて見えてくるまで読む……。そういう読書体験が好き。そんな八木さんの読書体験を支えているのが、本を守るブックカバーです。自分が読んでる本を人にわざわざ見せる機会はないですよね。八木さんが外出時に本を読むのは、移動中や電車内、ひとりカフェとかが関の山です。だから、ブックカバーを今回のようにお披露目するのは初めてのことだそうで、友達にも見せるようなこともありません。八木さんが、自分で自分のテンションを上げるために作っている、正真正銘、“自己満”の世界……。素敵です!■「TheBookNook」についてこの連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。一冊の本から始まる「新しい物語」。「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。
2024年04月12日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹古い時代に著された古代日本の様子が分かる“古典”や、誰もが知る“名作文学”や“世界文学”……みなさんは読んだことはありますか? 長い歴史をもち、今もなお全世界で愛読されているこれらの作品達には何か特別な魅力があるはずです。ただ、難しい言い回しが多く使われていたり、どこか堅苦しいイメージもありますよね。実際、昔に書かれた本は原文のままではなかなか読み進めることが難しいものです。写真はイメージです。でもその言葉の問題ひとつで、読まないまま人生を終えるのはあまりにもったいないほど、面白い物語がたくさんあるのです。そこで今回は、“現代訳”や“超訳”“新訳”といった、現代を生きる私達にもわかりやすい現代の言葉を用いて訳された古典・名文学の本をご紹介させていただきます。1.角田光代『源氏物語』(上・中・下)これまでにも名だたる文豪が現代語訳に挑んだといわれる「源氏物語」。その中でも恋愛小説の名手と謳われる人気小説家・角田光代さんが訳を手掛けた本作では、原文への忠実さよりも疾走感のあるストーリー展開が印象的です。一冊がかなり分厚く読み始めるのには少し勇気がいりますが、作者や第三者の声が魅力的に訳されていて、当時の人が興奮とともに読み進めたように現代の私達でも物語に没入できる工夫がたくさん凝らされていて、個人的には一番読みやすい現代語訳でした。登場人物は多く名前も立場も変わっていくので、文化の違いに戸惑ったり呆れたり感心したり……と感情は大忙し。今思い出しても幸せな読書体験でした。歴史の苦手な私が教養や常識としてでなく、純粋に物語として源氏物語を楽しむことができる日が来るなんて……。あとがきや解説でも40ページ超あり、さらに内容の理解を助けてくれます。こんなに複雑かつ洗練された物語が千年も前に書かれていた事に改めて驚かされました。下巻まで辿り着かせてくれた角田光代さんの訳文力に感謝。みなさんも瑞々しく表現された源氏物語の世界観に引き込まれてみませんか?2.林真理子『私はスカーレット』美しいスカーレットの波乱万丈の半生を描く、マーガレット・ミッチェルの名作“風と共に去りぬ”をスカーレットの一人称小説にアレンジした、この作品。風と共に去りぬはご存じの方も多いかと思いますが小説の他、映画や舞台などで多くの人に愛されてきた名作です。南北戦争時代がテーマの今作は胸が苦しくなる描写も多々ありますが、今作は原作よりもエンタメ感が強く今こそ読んでほしい大河ロマンのような一冊となっています。物語の冒頭ではまだ16歳の主人公。自分の欲に忠実に、感情が先走ったような行動をとってしまうのも、林真理子さんの訳では妙に納得してしまいます。絶対に嫌な女のはずなのにだんだん惹かれていくのは、欲しいものを全力で勝ち取りにいく正直さと、自分の価値に対して絶対的な自信をもっている部分に私自身が憧れを重ねているからかもしれません。読後は自分でも引くほどに彼女の虜になってしまいました。原作よりも遥かに自意識過剰な可愛いスカーレットを身近に感じられる今作は私の中でかなりお気に入りの一冊になりました。原作や映画版を御覧になった方もそうでない方も、間違いなく楽しめる最高のエンターテインメント小説です。いやあ……私もスカーレットのように生きてみたい。3.清川あさみ / 最果タヒ『千年後の百人一首』清川あさみさんが糸と布とビーズで紡ぎ出した百の情景に、最果タヒさんが添えた情感豊かな言葉の世界。詩集×刺繍。ため息が出るほど美しいという表現はこの作品のためにあるのかもしれません。言葉が絵となり、詩となり、そしてまた言葉で書き表された“うた”がこんなにも心にスッと入ってくるとは……。悠久の時を越えて、三一音の感情が私達読者のあらゆるところを刺激してきます。私の中にある百人一首の記憶は、子供の頃、意味を考えるよりも暗記することに必死になっていたことくらい。もし、あのとき、こんな素敵な百人一首の本と出会えていたら……なんて考えてしまう方も多いかもしれません。分かるようで分からないようで……でもきっとまた捲りたくなる日が訪れる気がする本作品。読後は百人一首の新訳というよりも、千年前の歌に閉じ込められた想いが、“新作詩”として眼の前に蘇る感覚に包まれました。百人一首に興味のある方はもちろん、そうでない方もぜひ一度だけ、一頁だけ……でいいので触れてみてください。固まった心を解してくれる心の柔軟剤のような一冊です。私のお守り。■「古事記」に隠されたエピソードと不朽の魅力辞書を引かずとも現代を生きる私達がすらすらと読める古典・名文学は他にもたくさんあります。実は、あの“古事記”ですら、くすっと笑えてしまうエピソードがたくさん詰まっているのです。読んだ人のみぞ知る不朽の名作の魅力に心ゆくまで親しんでみてください。ゆっくりと、古(いにしえ)の時代に想いを馳せながら……。■「TheBookNook」についてこの連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。一冊の本から始まる「新しい物語」。「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。
2024年03月22日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹脇役に魅了されて……。例えばシャーロック・ホームズでいうところのワトソン君のように、主人公ではないけれど物語になくてはならない登場人物っていますよね。脇役の主人公。その他にも物語には数回しか登場していないのに印象的な一言で物語を大きく動かしたり、ときに主人公よりも読後記憶に残っている登場人物はたくさんいます。写真はイメージです。主人公に心奪われつつも、「いい味出してるなあ……」と印象深く残る脇役たち。物語のキーパーソンだったり、謎を深めるストーリーの転換として登場したり、いろいろな形で物語に重要な影響を与えます。そう、きっとどの物語も、主人公の世界線を彩る個性豊かな“脇役”たちによって完成されているのです。脇役がイキイキしていてこそ輝く物語もたくさんあります。今回は、そんな物語を支える存在である欠かせない「脇役」に魅了される作品を紹介させていただきます。一度読んだ本も視点を変えて脇役に注目しながら読むと新たな発見があるはずです。1.東野圭吾 『 名探偵の掟 』探偵ものでは脇役とされがちな“警部目線”で描かれた本作品。全12章+2篇の短編で構成されています。王道ミステリー……かと思いきや登場人物自身がストーリーの設定やトリックに突っ込みを入れていくという斬新なスタイル。こんな本があると世の推理作家さんたちが苦労するのでは……と余計な心配をしてしまうほど推理小説の裏側がさなざまな目線で描かれており、さらには“読者”という存在が物語の中で認識されているため、私たち安直な読者と物書きを痛烈に皮肉ってきます。ミステリーにおける数々のお約束やあるあるネタが多く登場するので、ミステリー作品を読んだことがあればあるほど楽しめるかもしれません。クスッと笑える展開でありながら、ラストは喉元に刃を突き付けられたかの如くヒヤリとさせられました。勢いよく言い切るなら“面白い”の一言に尽きます。後に出版された「名探偵の呪縛」は本作の続編でありながら、作風はガラッと変わり、“本格”推理小説に対する作者・東野圭吾氏の強い想いを感じ取れます。ぜひ続けて触れてほしい2冊です。メタフィクションって面白い。2.伊坂幸太郎 『 ジャイロスコープ 』今作品は7つの物語で構成された短編集……いや、正確には6つとひとつ。最後の一篇はカーテンコールのようにこれまでの6篇から登場人物やそのモチーフが登場します。デビュー15周年を記念して執筆された小説ですが、短編でも伊坂ワールドは全開です。正直、7年前の初読時は“連作”ではない短編に戸惑いがありました。今思えば当時は、いわゆる“伊坂幸太郎らしさ”を求めていたからだと思います。しかし、大人になって読んでみると、その多彩さに恥ずかしいほど心惹かれているから不思議です。どの短編も面白かったのですが、読後、一番に頭に浮かんできた登場人物は“稲垣”でした。頭と体のバランスが悪く、いかにも胡散臭そうな印象に描かれる相談屋の稲垣。物語が進むにつれて稲垣の印象は随分と変わり、私の中で欠かせない脇役のひとりとなりました。不穏な空気の物語やファンタジー、心温まるストーリーなどバラエティに富んだ物語を独特な伊坂幸太郎氏の世界観で楽しめる本作の中に、あなたのお気に入りの登場人物を見つけてみてください。そして巻末の15年を振り返るインタビュー……これは、ファンであってもなくても必読です。セミンゴ。3.山崎ナオコーラ『 美しい距離 』余命宣告を受けた妻と過ごした日々を夫の独白で綴るこの作品。実はこの物語には登場人物に名前がありません。よく“僕”や“小生”など一人称が用いられることもありますが、それもありません。淡々と描かれる妻と夫のやりとり。作者である山崎さんは“死”を日常のことのように軽く描きたかったそうです。どこまでも繊細で静かな山崎さんの文章は、まるで私たち読者のすぐ目の前で喋っているかのように真っ直ぐに心に入ってきます。設定から泣かされると予想して読み始めましたが、読後に待っていたのは穏やかで新しい距離感の意識の刷新。人の数だけ丁度いい距離があり、近いことが素晴らしく、遠いことは悲しいなんて、思い込みなのかもしれない……。遠くても「美しい距離」はきっとある……ということをそっと教えてくれました。死を前にして妻が語る死生観や因果応報には胸をうたれます。歯がゆさとも諦めとも違う、本当に、ただただ美しい距離でこの夫婦を抱きしめたくなりました。たんなるお涙の物語ではありません。大切な人がいるあなたに、ぜひ。■誰目線で、本を読むかいかがだったでしょうか。物語が主人公だけで成り立つことはほとんどありません。特に日常を切り取ったような小説には“こんな人、いるいる”という脇役や“こんな言葉をかけてくれる人がいたら素敵だな”という脇役が登場します。だからこそ私たち読者が自身を投影して親しみを持っていろいろな作品の世界を楽しめているのかもしれません。いつもと少しだけ視点を変えて、脇役たちに注目しながら本を読めば、一度読んだ作品も大きく印象が変わるはずです。物語をどう捉えてどう楽しむかは、いつの時代も読み手の自由。あなたは誰目線で、楽しみますか?■「TheBookNook」についてこの連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。一冊の本から始まる「新しい物語」。「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。
2024年03月08日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹みなさんは、小説の映像化が発表されたとき、何を想いますか……? 本が苦手な人は映像でみたほうが楽しいと感じるかもしれませんし、原作のファンであれば映像化に期待するものも必然と大きくなります。でも大事なのは、どちらがより面白いかではなく、原作と映像のどちらで“一番目の”感動や驚きを味わうかということかなと思うのです。もちろん、どちらを先にみたからといって、もう片方が楽しめなくなるというわけではありません。例えば、私自身、「ハリー・ポッター」は圧倒的“原作派”です。これは映画も書籍も全てをみたうえで抱いた私個人の感想です。逆に、「ジュラシック・パーク」のように、原作を知っていても映像のほうが面白いと感じた経験もたくさんあります。そう、原作は原作の、映像は映像の良さがあり、どちらかだけになるのはもったいないとさえ思うのです。写真はイメージです。今回は、そんな数ある映像化作品のなかから、あえて触れやすい、直近“2024年3月”に映像化が決まっている作品を紹介させていただきます。もしもお気に入りの物語に出逢えたら、どうせ同じ作品だからと決めつけず、騙されたと思って原作と映像のどちらもを味わってみてください。より深い物語の世界が開けるはずです。1.町田その子『52ヘルツのクジラたち』(3月1日 公開予定)相対的に高い周波数で鳴くために、他の個体と対話できない孤独なクジラが存在するという……。同じように、孤独ゆえに助けを求めて仲間に声を上げている人がいる……。この作品はドラマチックな展開のなかで描かれる主人公ふたりの壮絶な過去と起承転結の転結部分で押し寄せる衝動、そのバランスが絶妙で、一行読むたびに涙がこみあげてきます。読みきるのにとてもエネルギーのいる物語でした。与えられる側で居続けたいこと、与える側にならなければいけないこと、どちらも本当によくわかると頷きながらページを捲ります。音にならないSOSが届くのは耳を傾けてくれる人がいるからこそ……。でもそれを信じ続けて声を出し続けるのも、その声に気づいて行動にうつすのも、本当はとても勇気のいることなのです。暗くて救いようのない物語のなかにも透明感があり、読後はその重たさを感じないほどの爽快感が残りました。“私を思い出してくれてありがとう”この言葉が今でも私の頭から離れません。現実世界に身をおいて読むと目を背けたくなるような前半ですが、主人公ふたりのためにもどうか最後まで読んでください。こんなにも苦しくて優しい物語は他にありません。本屋大賞受賞作、納得です。2.雨穴『変な家』(3月15日 公開予定)本作品は比較的新しく、SNSなどでも話題になったため、タイトルに聞き覚えのある方も多いのではないでしょうか。正直、私も行く書店行く書店で一等地に平積みされているのを見て、その熱に押されるように文庫本を購入しました。物語はオカルト専門のフリーライターをしている筆者が知人から購入を迷っている一軒家の不可解な間取りについて相談を受けることから始まります。インタビューをベースとした対話形式で話は進められていき、ある程度間取りの理解さえできてしまえばかなり読みやすい文体となっています。ゾッとする……とまではいかないけれど、本当のことがずっと分からない気持ち悪さが心のなかの白い部分に少しずつ“黒”を落としていきます。ミステリー/ホラー作品として読むには個人的には物足りなさを感じましたが、重たすぎず、怖すぎず、かといって軽快すぎず。間取りの図ひとつから読み取られるものを楽しむ謎解き/仕掛け小説と解釈すると一気に面白く感じました。騙されているのは登場人物なのか、私たち読者なのか、そのどちらもなのか。この作品こそ映像で、より輝く作品だとも思えます。映画のなかでこの“家”がどのように実体化されるのか楽しみで仕方ありません……。3.綾辻行人『十角館の殺人』(3月22日 Hulu独占配信)たった一行で、物語の全てがひっくり返される小説……でおなじみの本作品。なんとデビュー作というから驚きです。この小説を分かりやすく一言で説明すると、“映像化不可能”。でもそれこそが、この物語の持ち味であり最大の魅力でもあるのです。活字のみで語られる“小説”だからこそ長く愛されてきたベストセラー。絶対に、絶対に映像化は不可能だと思っていたのですが……、なんとドラマ化されるとのこと。正直意味が分からないです。著者の綾辻行人さんもドラマ化を受け、「どうやって映像化するの? できるの?」とコメントされています。この作品は発行された当時ですらシチュエーションも古臭いなどと言われていましたが、数多のミステリー小説を経た今でも“やっぱりこういうのが好きなんだよなあ”と何度も繰り返し此処に騙されにきたくなるのです。いわば呪い、いや、ミステリーの教科書のような一冊。もし未読の方は、ぜひドラマを観る前に原作を読んで映像化の“不可能さ”をその目でたしかめてみてください。■面白がって味わっていかがだったでしょうか? 映像化される際には描かれづらい場面や心情描写を自由に楽しめるのは原作小説ならではの魅力です。映像は映像、原作は原作、別々の作品として受け入れることができれば楽しみ方の幅も一気に広がります。原作も映像も面白がったもの勝ちです。なんたって映像化される作品たちにはそれゆえの素敵な理由が隠されているのですから……。■「TheBookNook」についてこの連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。一冊の本から始まる「新しい物語」。「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。
2024年02月23日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹一年に一度のバレンタイン。皆さんの記憶にはどんなバレンタインの思い出がありますか? 私が物心ついたときには意中の相手へ想いを伝えるためにチョコレートを贈るという日本らしいバレンタインデーのスタイルが定着していましたが、時代と共にバレンタインチョコの種類も多様化しています。皆さんは“自分チョコ ”をご存じですか ……? 別名“ご褒美チョコ”。いつから浸透したのかわかりませんが、耳にしたことがある方も多いはず。私、この言葉が大好きなんです。嫌なことがあっても必死に歯を食いしばり、毎日を懸命に生きる自分の姿を知っているのは、他でもない自分”です。そんな自分へ贈る「ご褒美」がチョコレートだなんて……可愛くないですか?写真はイメージです今回はいつも頑張る自分にご褒美チョコのような読書時間を……ということで、甘くて切なくてほろ苦い大人の恋愛小説を紹介させていただきます。味わい深いチョコレートのように、一度読んだら忘れられない恋の物語をお楽しみください。1.田辺聖子『言い寄る』31歳、仕事は順調、言い寄ってくる男性も沢山いる。でも本命のあの人には言い寄られないし、言い寄れない。そんな三十路女性が主人公の今作品。親友の妊娠騒動をきっかけに、事態は思わぬ方向に向かうのですが ……。主人公の焦りや悲しみをまるで同じ空間にいるような温度感で味わえます。あえてこの物語を言葉を選ばずに表すなら、 “愛すべきクソ〇ッチ作品 ”。理解できないはずなのに怖いほど共感できてしまい、不覚にも少女漫画を読んでいるかの如くキュンキュンしてしまいました。関西弁で描かれた文体と相反するフランス小説のような空気間。テンポのいい会話に惑わされ楽しく読み進めていると後半、心に物凄い傷を背負わされます。何より驚いたのは、この物語が描かれたのが昭和48年ということ。時代を感じさせぬほど感性が現代的で、それでいて日本的な湿気を少しも感じさせません。その証拠に、時空を超えて今現在 95歳となった“彼女”に何度もキュン死にさせられそうになりました。最初から最後まで主人公に振り回され、読後は息切れさえ覚えましたが、血液と共に全身に流れ込んでくるような田辺先生の文章が本当に魅力的で、タイトルにある「言い寄る」がより一層味わい深く感じました。 誰かに “言い寄る”っていいなあ……。2.サガン『ブラームスはお好き』(朝吹登水子 /訳)成熟した女性の孤独と老いへの不安……それらが “恋”と相まってサガン氏の美しい文章で綴られていく本作品。このなんでもない「ブラームスはお好きですか?」という一句が、とつぜん広大な荒野の世界を露わに見せてくれたように思えました。主人公の彼女が忘れていたあらゆること、避けてきたあらゆる疑問、移ろう彼女の心情の機微をベースに描かれていくパリの中産階級の恋愛模様に“全身全霊をかける恋”を真正面から突き付けられます。恋愛小説になじみがない私としては、ストーリー展開については毒にも薬にもならないと思っていましたが、ちょっとした仕草に愛情を感じたり、相手を想ってとった行動が裏目に出たり、ときどきで目まぐるしく揺れ動く登場人物の感情の振れ幅がやけに生々しく、正直、読みながら迎える結末は安易に想像できてしまうのですが……かなり楽しめました。迫りくる結末を横目に僅かな希望を捨てずにはいられず、“彼女”の手を取るように読みとどまる時間さえありました。たとえるなら、体全身のささくれを剝がれる直前までピリピリと引っ張られているような感覚とでもいうのでしょうか……。多少の読みづらさはあれどハマる人はどっぷりハマれるこの世界観。読後は、ちょうどこの物語の分岐点を指示しているタイトルとその装丁を眺めながら、悲しくも美しい結末を暫く嚙み締めていました。人間って面倒くさくて美しい……。3.有川浩『レインツリーの国』“忘れられない一冊の本 ”がきっかけでネットで知り合った男女。 “この人の紡ぐ言葉が好き ”という感情で繋がったふたりは次第に関係を深めていきます。会いたいと願う男性に対し、それを頑なに拒む女性……その理由が明らかになってから坂道を転がるようにグイグイと物語の世界に惹きこまれていきました。ふたりの間に立ちはだかる問題は決して小さくはなく、それどころかことは大きくなるばかり。お互いがお互いの苦しみを100%理解できないのはどんな境遇であっても同じですし、そんなの頭では理解しているはずなんです……でも。「ハンデなんか気にするなって言えるのはハンデがない人だけ」……良かれと思って言った言葉も受け取り手によっては鋭い刃物でしかないことがよくわかります。痛みや悩みに貴賎はないと気づいた後、ようやくお互いに言葉で向き合えたふたりに、読後、私は、“あなたも大丈夫だよ”と心ごと抱きしめてもらえたような感覚になりました。本作は、幸せになろうと真摯にもがく恋愛小説であり、ひとりの人間としての私たち読者に向けられた成長小説でもあります。わかり得ないことをわからないなりに知ろうと努力すること、あと一歩進めば叶うかもしれない夢があること、 “聞く”と “聴く”の違い、タイトルに隠された意味 ……。登場人物に自分の人生をなぞらえ、自分をえぐりながら、自分の核心を見つけ出せる……こんな本はなかなかありません。“私”という人間のなかに、この物語にある一つひとつ、一文字一文字を、余すことなく置いておきたいと強く願いたくなる一冊でした。■最高のバレンタインをお過ごしください決して人に自慢できるような恋ではなくても、お互いに心から想い合い、いろいろなかたちで“愛”が成立するからこそ、大人の恋愛は面白いのです。現実世界での恋なんてご無沙汰の人も、恋を諦めている人も、チョコレートが好きな人も嫌いな人も、物語を通して自分じゃない誰かになって新しい“恋”を始めてみてください。皆さんの読書時間がチョコレートよりも味わい深いものになりますように。最高に贅沢なバレンタインを。■「TheBookNook」についてこの連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。一冊の本から始まる「新しい物語」。「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。
2024年02月09日映画やテレビ、ラジオ、演劇を含めた業界の発展を促進し、新しい才能を発掘するために重要な役割を果たしている「シナリオ大賞」。数々の人気脚本家が、シナリオ大賞受賞後に飛躍している例は枚挙にいとまがありません。2023年11月、放送メディア文化の普及・発展及び国際的交流を通じて文化向上への貢献を目的として活動する日本放送作家協会 九州支部が主催する「第17回南のシナリオ大賞」の結果が発表され、永合弘乃(なごうひろの)氏が「Perfect Worldへようこそ」で見事、大賞を受賞しました。「毒島サチコ」の筆名で『DRESS』誌上での恋愛コラムが読者に支持されてきた、永合氏。鋭い洞察力と綿密なリサーチや取材に裏付けされたコンテンツにより読者の心を掴んでいますが、それだけでなく脚本家としてもその才能を発揮しており、その分野での今後の活躍も大いに期待されています。■永合弘乃(なごうひろの)の「Perfect Worldへようこそ」が大賞受賞永合さんの作品は、252編という多数の応募作品の中から厳選されたもので、その斬新な発想と緻密な物語構成が高い評価を受けました。「Perfect Worldへようこそ」は、現代社会の複雑さを巧みに描き出しながら、未来への希望と人間の可能性を問いかける内容で、読む者の心に深い印象を残す作品となっています。■作品情報オーディオドラマ永合弘乃:作タイトル:「Perfect Worldへようこそ」MP3 [15分47秒 / 14.4MB]〇出演久保大輔(劇団/池田商会)山本由貴富田文子木村亮子高本和子〇スタッフ録音:ワンナイン・サウンドプロデュース音響効果:柳 和人、坂本夏美音楽:井上サヤ演出:盛多直隆後援:日本脚本家連盟九州支部、日本脚本家連盟寺島アキ子記念委員会制作著作:一般社団法人 日本放送作家協会九州支部■永合さんの受賞コメント昨年、親友が福岡で結婚式を挙げました。披露宴に向かう電車の中、地元の女子高生が放った「なんしようと?」という言葉に強く惹かれ、この物語のヒロインは、博多に住む明るい少女にしようと決めました。そして、もうひとりの主人公として頭に浮かんだのは、少女と対極的な、生きることをあきらめた暗い男性でした。こうして出来上がったのが「Perfect Worldへようこそ」です。住んでいるところも、年齢も、全く違うふたりが、どうやって出会い、恋に落ちたのか。ラジオドラマで、物語に息が吹き込まれるのがとても楽しみです。この度は「Perfect Worldへようこそ」を大賞に選んでいただき、本当にありがとうございました。大賞に恥じぬよう、死ぬまで物語を書き続けます。■選考会の模様「Perfect World へようこそ」皆田氏(以下、敬称略):今時のテーマで面白くて好きです。ただ、なにかと説明コメントが多いのが欠点かな。サチコとヨージのことをもう少し描いて欲しかった。なぜ、この45のおじさんが引きこもりになったのかとか、そういうことを。面白い作品だから、人物のことが知りたくなるんですよね。松尾:話のモチーフは非常に好きです。タイムリーで時代が今の物語だと思いました。SFの要素もあるし・・・実際いるんですよね、こういう人が。この物語に共感する人もいると思います。ラジオドラマでどれくらいこの世界観を再現できるかなという面白さはあると思います。日高:バーチャルの世界を取り上げたというのが、今を感じさせていてそこは高評価です。ただ、好みの問題ですが、私はこの世界のような乾いた世界が好きではないというところはあります。私の評価としては、よくできているけど感動は出来なかったという感じです。町田:私の中では上位です。最終選考に残った作品の中でラジオでしか表現できない物語はこれだけです。「Perfect Worldへようこそ」から始まって「Perfect Worldを退会しました」で終わる流れのセンスの良さもいい。ここでしか生きられない人々を描いている点にも今を感じます。盛多:アバターの世界と現実の世界で25歳と45歳。23歳と15歳というふうに年齢が入れ替わっていくのも演出的には面白い。感動ポイントは、この女の子が亡くなっているという点です。物語としては高い評価です。ただ最初に出てくる『ライ麦畑でつかまえて』はもう使い古されている気がします。引用元URL:「第17回南のシナリオ大賞 選考会」■【書き下ろし】受賞記念作品「魅惑のタイム・トラベル」〇作品説明第17回「南のシナリオ大賞」を受賞した永合弘乃による、ちょっと奇妙な恋物語。 ゾクッとする結末をお届けします……。〈完璧な恋人に出会えました〉〈まるで、夢のデート。時間を忘れてしまう〉〈現実に戻れなくなりそう〉これが『魅惑のタイム・トラベル』に対するネットの評判だった。中には、ぞくっとするような官能的な口コミもある。【ご利用料金:1日1万円。完璧な恋人をご提供します『魅惑のタイム・トラベル』】いつもであれば、さらりとスルーするポップアップ広告。だけどこの日、サイトを訪れてしまったのは、私が恋人に不満を抱えていたからだ。〇公開日時▶︎前編:2月14日(水)20:00▶︎中編:2月21日(水)20:00▶︎後編:2月28日(水)20:002月14日以降、毎週水曜夜にお届け予定です!お楽しみに!!
2024年02月08日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹鳥肌がたつような恐ろしい物語や映像作品はこの世にたくさんありますが、怖くない物語のはずなのに読み手にだけ伝わる違和感に不安を感じたり、物語なのか現実なのか、はたまた妄想なのか、背後に視線を感じて思わず振り返って確認してしまうような、不気味な小説に出会ったことはありますか?写真はイメージです。全く他人事ではない人間の嫌な部分や、小さな世界の常識に染まって知らぬ間に歪んでいくさまを活字で見ると、自分のことのようにゾッとします。おそらくこういった作品は万人受けはしません。ただ、私は物語の登場人物達に自分の感情の奥底を搔き乱される感覚が大好きなのです。今回は、そんな私が出会った、決して怖くは描かれていないのに背筋が凍る、読後は脳裏にこびりついて離れない作品を紹介させていただきます。恐ろしい活字の世界に素敵にダマされる快感をぜひ。1.今村夏子『むらさきのスカートの女』この作品は、主人公の女性が近所に住む“むらさきのスカートの女”とお近づきになろうとする物語なのですが……、この女、いや主人公の女までもがどこかおかしいのです。過剰な執着心と異常な自己投影、奇妙な空気感と豹変していく主人公のさまは、まさに狂気と紙一重の滑稽さ。おかしいのは彼女か、語り手か、それとも私か。読み進めていくうちに“スカート”の文字が“ストーカー”という字に見えてくるのは私だけではないはずです。“特に何も起こらない”日常の中で、誰かが私達読み手の心を監視しているかのように物語のすぐ近くまで惹きこんでくれます……頼んでもいないのに。“むらさきのスカートの女”というタイトルでありながら、モノクロの水玉で描かれた表紙絵。いくつもの違和感。疑問の多い芥川賞ですが、本今作品が受賞したのを納得せざるを得えないラストを迎えます。本当におかしいのは、あなたか、わたしか。それとも……。2.黒澤いづみ『人間に向いてない』もし、自分の家族が突然、意思疎通もできないおぞましい異形の“なにか”に変わり果ててしまったら……。そして、それが“合法的”に人権をもたないものとされたなら……あなたはどうしますか?本作品は、引きこもりや社会との繋がりが薄い人々がかかる奇病“ミュータント・シンドローム(異形性変異症候群)”が蔓延する世界を舞台に描かれます。突然おぞましい姿に変異した引きこもりの息子を世話し続ける母と、棄てようとする父、そこにある愛とエゴと現実。“異形”の存在を否定して、当たり前を良しとする社会。不条理とグロ描写と胸にこたえる家族関係のどこか生々しい描写が同居するこの作品。読後は、自分の心にある冷酷さや未熟さと、嫌でも向き合うことになります。共感できてしまうところが多々あった私は、はたして、人間に向いているのでしょうか……。メフィスト賞満場一致の受賞作がここに。3.フランツ・カフカ『変身』“ある朝、目が覚めたら虫になっていた……”。ひとつ前に紹介した作品と設定は似ていますが、展開は真逆。個人的には“人間に向いてない”は「理想」、本作は「現実」という印象を持ちました。突然変わった自分の姿に困惑する主人公の心情、変わっていく周りの目、対応。人間としてのアイデンティティを失い、それに抵抗すればするほど空回りしていく日常。現実世界で虫になるなんてことはもちろんないが、でも、例えば、ひどい事故に遭い、顔の形が丸っきり変わってしまい、さらに失明・失聴することは私にも充分にあり得る。そうなると私は職を失い、本だって読めなくなる。この本の主人公のように精神的に“死んだ存在”として生き続けるのかもしれない。そんなとき私の隣には誰かがいてくれるのだろうか。というか、身近な人がそうなったときに私は隣にいてあげられるのだろうか。“絶対的”なものなんてあるのだろうか。読後は、そんな救いようのない不安に煽られると同時に今生きている自分を抱きしめてあげたくなりました。タイトルの“変身”が何を意味するのか、何も意味しないのか、その捉え方は三者三様ですが、それこそがこの作品の魅力であり、長く読まれている最大の理由だと感じています。因みに新訳版では70ページに及ぶ訳者解説もあり、別角度でも楽しめます。難しい内容のように感じますが、作品自体は短く文体も読みやすいので、ぜひ。■繰り返し読んで、本の世界のさらなる深淵へいかがだったでしょうか。決して万人受けするとはいえない奇妙な三作品ですが、始めは理解できなくても、ぜひ、繰り返し読んでいただきたいのです。一度目で感じた感情と全く異なる感情が生まれて戸惑うこともあるかもしれませんが、それこそ読書の醍醐味。読めば読むほど、寄り添えば寄り添うほどに、きっと人生の大切な一冊に巡り会えると思います。虚構と分かりながらもそこに順応していく、素敵に騙されていく、本の世界は騙されたもの勝ちです。■「TheBookNook」についてこの連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。一冊の本から始まる「新しい物語」。「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。
2024年01月26日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹読書の楽しみのひとつは現実世界を忘れて本の世界に没入できることです。普段は仕事や家事で夜更かしもままならない毎日を送っている現代人だからこそ、たまのお休みには、活字の世界に深く没入したいとは思いませんか?そう、つまり、“本を読んでいる私”として物語を楽しむのではなく、私という人間を忘れて登場人物に成り代わり、物語を登場人物の視点で楽しむということです。これが難しいように思えて、一度ハマると抜け出せなくなります。没入しながらの読書体験は、底なし沼なのです。写真はイメージです。今回は、そんな時間を忘れさせてくれる、どころか、寝食さえも忘れて夢中になれる没入感たっぷりの作品をご紹介させていただきます。次の休日、きっとあなたも本を片手にお家に引きこもりたくなるはずです。1.真梨幸子『みんな邪魔』(改題前:更年期少女)※1昔の少女漫画のファンクラブ幹部6人が集う“青い6人会”。お互いをハンドルネームで呼び合う奇妙な集まりの中で起こった連続殺人事件。疑いが疑いを呼び、6人それぞれの抱えている闇があふれ出します。先にお伝えしておきます。登場人物は皆“平凡な人間”ですが、“まともな人”はひとりもいません。ヒロインを夢見る女性たちとグロテスクな現実との落差がじわじわと心を苦しめてきます。文章の間から人間の嫌な部分がプンプンと匂う何とも言えない薄気味悪さが癖になり、怖いもの見たさにページを捲る手が止まらなくなります。最後、“これで終わり?”と何となく呆気なさと中途半端さを覚えた後に、疑問に残っていた部分を思い返すと点と点が繋がります。誰にも共感できないはずなのに、断片的にみると他人事のように思えず、私は大丈夫……? 本当に? と自分を顧み、ゾッとしました。どうか心が元気なときに、“自分を棚に上げて”読んでみてください。単なるイヤミス(※2)を越えた作品です。※1……文庫化の際に『みんな邪魔』に改題※2……イヤミス:読後に嫌な気分になるミステリーの略語2.安部公房『砂の女』砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められ、あらゆる方法で脱出を試みる男の物語。この作品は世界20数カ国後に翻訳紹介された言わずと知れた名作です。安部公房の圧倒的な描写力が相まって、読者自身も砂の中に閉じ込められているかのような没入感を味わえます。というか、描かれた砂の感触や匂いの描写が秀逸すぎて、読んでいるだけで体に砂が纏わりつくような、口の中がザラザラしているような不快感まであるのです。極限状態に置かれた男の心情の移り変わりが恐ろしくホラーで、文章から伝わる湿気と渇きで息が詰まりそうにもなりますが、読後には、これが真理なのかもしれない……と納得せざるを得ない状況に読者も立たされます。気がついたときにはもうどう足掻いても抜け出せなくなっているほど恐ろしい引力のある、まるで蟻地獄のような、この不条理で閉鎖的で変態的な世界観が私は堪らなく好きでした。「砂の家」でも「砂の男」でもなく、“砂の女”というタイトルに静かな怖さも感じます。後味は悪くも面白い不思議な作品です。3.三崎亜記『30センチの冒険』あらすじからは予測できない、しっかりと作り込まれたタイムリープ系ファンタジー。ヘンテコ鼓笛隊が街を蹂躙したり、本が意思を持って空を舞ったり、象の鼻が物差しになったり。そんな意表を突く奇妙な“異世界”に苦しむ人々を救うために立ち上がった主人公。三崎ワールド全開の“世にないもの”の設定力や、それらを縦横に活躍させるプロット、この滅茶苦茶な世界をひとつの矛盾もなく描く筆力に改めて感心しました。ジブリアニメのような個性豊かな登場人物達が、この先の見えない物語をぐんぐんと進めてくれる頼もしさも読み進める手を止めなかった理由かもしれません。冒険の発端の謎が明らかになるクライマックスの収束感がなんとも心地よく、本を読むというよりもRPGをプレイしているような感覚でした。読後は面白さと疲れが同じくらい圧し掛かってくるので、片足を物語につけながら、さらりと流し読みするくらいが丁度いいのかもしれません。余談ですが、他の三崎作品の登場人物たちが随所に散りばめられていてクロスオーバーしているので、三崎作品を読んだことある方はぜひその角度からも楽しんでみてください。■隙間時間で物語の世界へ没入体験しませんかいかがだったでしょうか。夢中になって本を読む時間は読書好きにとっては至福の時間です。でも、残念ながら私たちの時間には限りがあります。まとまった休日がない方も多いかもしれませんが、移動中や隙間時間にも本を読むことはできます。例え一気読みできなくても、一瞬でも物語に触れる時間があればその世界に充分に浸ることができます。今、携帯を触っている時間を少し減らして、1時間でも、30分でも、物語の世界に浸ってみませんか?底なし沼のような魅力的な世界に。■「TheBookNook」についてこの連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。一冊の本から始まる「新しい物語」。「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。↓ 没入感を高めてくれそうなライトはこちらから ↓
2024年01月12日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹今年の6月末から“人と本との出会いの場”をテーマに始まった本連載。新しい本との出会いはあったでしょうか?初回でもお話ししたとおり、私は物心ついたころから“本”が大好きで、今でも年間200冊以上の本を読んでおり、“新しいもの”にこだわらない読書スタイルで、「何度でも読み返したくなる作品」との出会いを追い求めて日々の読書を楽しんでいます。▷↓ 八木奈々さん連載の初回記事はこちら ↓「わたしの一部は本でできてる。『モモ』に教わる命のこと【TheBookNook #1】」今回は、そんな本の虫である私の「本との出会い方」を僭越ながら紹介させていただきたいと思います。大袈裟に聞こえるかもしれませんが、多くの本に触れることで得することが世の中には沢山あるように想うのです。でも、一生をかけても世の中にある全ての本に出会うことはできません。本との出会いはそれだけ貴重なのです。“本と出会いたい”皆さんのお役に立てますように。まずはじめに:自分に合う本を見つけるためには?いきなり現実的なお話になってしまいますが、自分に合う本は自分で読まないと分かりません。誰かが面白いと勧めてくれた一冊、映画化された名作、入賞経験のある作品、そのどれもが自分にとっても“面白い本”であるとは限りませんよね。私自身も期待して読んだ本に裏切られることがたくさんあります。ただ、不思議なもので、一度目は面白く感じなかった本が数年後に読み返すと面白く感じることもあります。なので、悩みに悩んで手にとった本が仮に全然面白く感じなくても、そこで終わりにしないでほしいのです。少しでもつまらないなと感じた本は無理して最後まで読まずに中断して、次の本へ、次の本へ……。そして、もしまたいつか思い出したら再び手に取ってみてください。読めば読むほど、知れば知るほど、面白い本に出会う確率はあがるのです。1.“好きなもの”で検索自分が興味を引かれることはきっかけとしてとても重要です。例えば好きな人、好きな有名人や偉人が読んでいる本。「あの人と同じものに触れてみたい」「あの人に少しでも近づきたい」という動機で、軽率に本選びをしてみてください。無条件で読む本がきまりますし、“好き”から手に取った本はその中身がどうであれ“読みたい本”に繋がります。また、自分の好きな映画の原作に触れてみるのもおすすめです。一度映像で観たぶん、物語も頭に入ってきやすいはずですし、さらにエッセイ本であれば面白い角度のものが多く、活字が苦手な方でも楽しむことができます。「世にも奇妙な物語」のようなお話が好きな方には星新一のショートショート集などもおすすめです。まずは、自身の“好きなもの”を思い浮かべて検索してみてください。検索を続けているといつしか“関連機能”等で思わぬ自分好みの一冊に出会えるかもしれません。2.図書館の返却棚▲画像はイメージです私が本との出会いを求めて一番に足を向けるのは図書館です。皆さんは図書館の返却棚に目を向けたことはありますか? そこには最近誰かが返却した本たちが無造作に置かれています。自分では選ばないさまざまなジャンルがあり、新しい本と出会うのにはうってつけです。実際、私も返却棚を通してたくさんの刺激的な出会いを経験してきました。普段なら手が伸びないようなタイトルやカバー、少しでも気になった本をゆっくり捲ってじっくりと触れることが許されるのも図書館の魅力です。“好きじゃないだろうな……”と思った本も目に留まったらぜひ手に取ってみてください。不思議なことに、そうして手に取る本はそのときの自分の心の状態で引き寄せられていることが多いですし、本の中身を実際にみると気が合いそうな本かどうかも何となくわかります。図書館ならではの出会いかた。返却棚のラインナップは頻繁に変わるので一度ハマると毎週足を運びたくなるはずです。3.書店巡り/本屋大賞ベストセラー等と謳われている、いわゆる“売れている本”は良くも悪くも話題性があります。その売れている本を手っ取り早くチェックするのには書店のランキングコーナーがおすすめです。また、書店の店員さんの好みによって並べられている本の色やポップも異なるため、私はよく何店舗か書店を巡ることもあります。ランキングコーナーの他にも“売れている本”を見つける方法があります。それは書店の“平積み”や“面陳”です。新刊か売れ筋のどちらかで、特に新刊以外の本を選べば、評価されている本、売れている本の可能性が高いので、失敗確率も低くなります。本の奧付を見れば発行年月も分かるので、「読みたい本が見つからない」と悩んでいる方は、ぜひ“既刊で売れている本”を見に書店に足を運んでみてください。4.サブスクリプション/雑誌冒頭に「面白い本かどうかは自分で読んでみないと分からない」と書きましたが、本を買うにもお金がかかります。面白くなかったから……と次の本に切り替えるのは簡単ですが、せっかく買った本をすぐに手放すのは少し抵抗がありますよね。ですから、“気軽に本を読み漁れる読書環境”があったほうが面白い本と出会える確率も高まります。本との出会いのきっかけとしておすすめなのは、サブスクリプション(月額)の読み放題サービス等です。・「読みたい本が見つからない」・「本を買う予算がない」・「本を置くスペースがない」……という人におすすめのサービスです。個人的には紙の本が好きなのですが、私自身もサブスクを利用しています。「お金かかってるじゃん……」という声が聞こえてきそうですが、私が利用している「Kindle Unlimited」は月額980円(税込)で200万冊以上が読めます(※)。読書系雑誌を読むこともできますし、携帯ひとつで開けるので仕事の合間に次に買う本を選ぶこともできますから、私と同様に紙の本にこだわりがある人にもおすすめです。さいごに今回が“TheBookNook”今年ラストの連載となります。多方面の方から多くの嬉しいお声をいただき、連載を続けることができました。来年もより多くの皆さんにこの連載を楽しんでいただけるように本の魅力を伝え続けていけたらと思っています。本を愛する人がもっともっと増えますように。今回も最後まで読んでくださり有難うございました。良いお年をお迎えください。※「Kindle Unlimited」で保存できる本の冊数は20冊です■「TheBookNook」についてこの連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。一冊の本から始まる「新しい物語」。「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。
2023年12月29日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹クリスマスが近づき、街がどこか華やいだように感じられる今日この頃。皆さんにはこの季節になると思い出す本はありますか……? 子供のころに読んだあの絵本? それとも映画にもなったあの名作?あたたかい作品から切ない作品、ユニークな作品まで、クリスマスをテーマにした作品は多くの作家さんによってさまざまな目線で描かれています。写真はイメージです。今回は、毎年この季節になると思い出したように読みたくなる私のお気に入りの物語を紹介させていただきます。もちろん舞台はクリスマス。どこか特別な匂いを感じながら触れる作品たちは、毎年読んでいても読後は新しい感情に出会えます。あなただけのクリスマスストーリーが見つかるかもしれません。1.東野 圭吾(ひがしの けいご)『サンタのおばさん』皆さんのイメージするサンタクロースはどんな容貌ですか? この作品は、東野圭吾さんによって描かれた、大人も子供も深く考えさせられる“大人の絵本”です。……とはいえ、風刺あり、ジェンダーあり、人種、ステップファミリーなど現代社会のあれこれに焦点をあてています。短い物語なのでさらっと読めますが、本作品の初版は2001年。当時の東野圭吾さんの慧眼にも心惹かれます。世界中のサンタさんが会議をして相談しあう描写はとても印象的で、毎年この季節になると今年もたくさんの“サンタさん”が活躍するんだろうなあ……とこの物語を思い出します。東野圭吾さんが綴る文章と素敵な挿絵から優しいメッセージを感じ、読後はほっこり幸せな気持ちになりました。“大人の絵本”と書きましたが子供にもぜひ読んでほしい……というか子供の頃に出会いたかった一冊です。サンタがおばさんでも……いいですよね。2.森見 登美彦(もりみ とみひこ)『太陽の塔』本作品は、いまや多くの人に知られる森見登美彦さんのデビュー作。「何かしらの点で、彼らは根本的に間違っている。なぜなら、私が間違っているはずがないからだ。」この書き出しで始まる小説が面白くないわけがないと即購入しました。舞台はクリスマスの嵐が吹き荒れる京都。自分はモテないと開き直った主人公とその友人たちが実にくだらない妄想を貪り続けながら進んでいく「非リア対クリスマス」。2〜3行に一度は笑っていたような気がします。そして、いつでも最後に辿り着く結果は関係ないのだと彼らの“今現在”の生き方が語りかけてきます。クリスマスならではの華やかさとは真逆のストーリーですが、これはこれで心地よく、読後はどこまでが現実でどこからが妄想だとかどうでもよくなり、現実と2センチほどズレた物語の世界にしばらく腰をかけていたくなるはずです。くだらないけど素晴らしい。3.奏 健日子(はた たけひこ)『サイレント・トーキョー And so this is Xmas』クリスマス目前に恵比寿、渋谷で起こる連続爆弾テロ。しかし犯人の声明は「これは戦争です」。犯人の予告、首相の全国生放送対談などを通して、国民の恐怖や緊迫感が現実味を帯びてくるあたりがとても生々しく描かれており、フィクションであって、フィクションではないのではないかと思わざるを得ません。まだまだこれからかと思えば残りのページはわずかで、最終章で一気に畳みかけるジェットコースターのような展開に、少し物足りなささえ感じてしまうほどあっという間に読めてしまいます。偶然そこにいた人、意図的にいた人、ひやかし、野次馬、逃げる人、守る人、企てる人、それぞれの人の行く末……。その誰目線で読むかによって物語の見え方も180度変わってくるのかもしれません。ひとまず私は別の世界線で出会い恋をしたふたりを想像するとします。これもまた楽しいのです。■クリスマスに寄り添う物語でほっこり今回はクリスマスをテーマにした“角度の異なる”三作品を紹介させていただきました。クリスマスに読書なんて寂しいという声が聞こえてきそうですが、小説を片手にクリスマスを祝う……というのも粋なものです。大切な人や、自分自身へのクリスマスプレゼントにもいかがでしょうか。一冊の物語をおともに素敵なクリスマスを……。↓ クリスマスを彩るアイテムをチェック ↓「パチパチ」と耳に優しい暖炉の音を聴きながらの読書は至福のときです。スタイリッシュなデザインでインテリアになじむ、「CARL MERTENS」の卓上暖炉。心地良さを重視するなら加湿機能付きのセラミックファンヒーターを。■「TheBookNook」についてこの連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。一冊の本から始まる「新しい物語」。「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。
2023年12月22日読書が好きな人にとっては、静かな場所で1人で本を読む時間は安らげるひと時でしょう。ニュージーランドに住むある女性も、リラックスしようとして本を読んでいました。ところが、そんな彼女の癒しの時間が突然、中断させられてしまいます。女性はその理由を録画していました。彼女に読書を止めさせたのは…こちらをご覧ください。「本なんか読んでいないで、ボールを投げるのだ!」女性の愛犬が本の上にボールを落として、読書を妨害してきたのです!何度も彼女にボールをどかされても、本の上にボールを落とすことを止めない犬。「投げてくれるまで止めないよ」という意思の強さが伝わってきますね。「リラックスして本を読もうとしたら、ラブラドールレトリーバーがそれを許さない!いつだってボール遊びのほうが大事なのよ!」とつづられた動画には、女性ではなく愛犬への同情の声が上がりました。・人生は短いんだ。あなたの犬と遊んであげて!・犬の目が「お願いだからボールで遊んで」っていってる。・かわいくて笑った!結局女性はこの動画を撮影した後、読書を諦めて愛犬と遊んであげたそうです。読書でリラックスはできなくても、きっと彼女は愛犬が嬉しそうにボールを追いかける姿を見て癒されたことでしょう![文・構成/grape編集部]
2023年12月19日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹動画やSNSの流行によって本離れが叫ばれている昨今ですが、やはり文字だけで綴られた小説でしか得られない楽しみがあることに、本好きの方なら強く同意してくれると思います。物語には描かれていない背景、つまりその小説の舞台がわかればより深く本の世界に浸ることができます。ときに、地名がはっきりと描かれてない作品でも“もしかしたらあそこかも……”なんて想像するのも楽しいと思いませんか?文字の裏側にある景色や音、湿度、その場所に行かずとも感じられるさまざまな描写に自ら触れにいくことで読後の余韻もより深く味わうことができます。写真はイメージです。今回は、読み終えたらきっとすぐにでも訪れたくなる、実在の街町を舞台にした小説を紹介させていただきます。1.有川浩『阪急電車』タイトルにもある通り、“阪急電車”に乗り合わせた人々が織りなす出会いの物語。テンポのいい会話劇にほっこりしたり、スカッとしたり、胸が締め付けられたり。人との出会いを大切にしたくなるこの作品は、宝塚駅と西宮北口駅をつなぐ約15分間のローカル線“今津線”が舞台となっています。私も実際に足を運んだことがあるのですが、電車に揺られる人達がみんな物語の主人公のように思えて、今日はこのたった15分の区間でいくつのドラマが繰り広げられたんだろう……と考えながら本を片手に物語の余韻に浸っていました。小説に出てきた場所を目指すつもりが、今津線沿いの街の雰囲気が想像以上によく、なんとなく降りた駅で気になったお店にふらっと入ってみたりなんかして。まるで物語の続きを描いていくように一人旅を堪能していました。何度でも読みたくなる味わい深い作品です。2.伊坂幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』“本屋を襲わないか?”と不気味な隣人から持ち掛けられた、僕。現在と二年前に起きた事件が奇妙に符合していき、読み進める途中でバラバラになったものが伊坂幸太郎氏の話術により徐々に繋がっていく快感。そして決してハッピーエンドではないのに読後は少しの救いと温かさを読者に感じさせてくれます。宮城県仙台市を舞台に描かれている本作品ですが、なかでも仙台駅のコインロッカーは、タイトルにもある通りこの物語の最後に登場する重要な場所です。残念ながら現在はこのコインロッカーは撤去されてしまっているみたいですが、私は駅のコインロッカーを見ると思わずボブ・ディランの“風に吹かれて”を口ずさみたくなります。この作品に関わらず、日常の中で物語を思い出す瞬間が私はすごく好きで、むしろその瞬間に出会いたくてたくさんの本に触れているのかもしれません。みなさまにもそんな経験はありますか?3.夏目漱石『坊ちゃん』言わずと知れた文豪、夏目漱石の名作。読んだことがなくとも“松山”が舞台ということをご存じの方も多いのではないでしょうか。……といっても“坊ちゃん”こと主人公は作品内であまり松山という土地のことを褒めません。むしろその松山でさまざまなトラブルに巻き込まれていきます。それでも読後はなぜか“坊ちゃんがそんな風に言うのはどんな場所なんだろう……?”と知りたくて堪らなくなります。唯一、坊ちゃんが気に入っている“道後温泉”は誰もが知る人気観光スポットですが、この小説を読む前と読んだ後では、訪問した際の気持ちがまるで変わってくるはずです。100年以上も前に描かれた本作品は、時代背景も描かれる景色も何もかもが今とは違いますが、不思議と共通する部分もあり、現代でも楽しく読むことができます。坊ちゃんが感じたことを追体験するつもりで松山へ温泉旅行に出かけてみませんか?■物語の世界を旅しない?今回は、特に読後感が良いものや、情景がありありと思い浮かび、ついつい物語の舞台に足を運んでみたくなる作品を厳選して紹介させていただきました。実際に行かなくてもいいんです。描かれた舞台を想像しながら読書したり、検索して浸ってみたり、いつか行きたい場所を物語を通して考える時間はとても有意義なものです。ぜひ、より深い物語の世界へ。■「TheBookNook」についてこの連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。一冊の本から始まる「新しい物語」。「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。↓ 前回ご紹介作品の購入はこちらから ↓↓ 旅行に便利なお役立ちグッズをチェック ↓
2023年12月08日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹みなさんは『時をかける少女』『パプリカ』などを代表作にもつ作家、筒井康隆をご存じでしょうか? 星新一、小松左京と並んで「SF御三家」と称されているように、日本にSFを根付かせたうちのひとりといわれています。本連載でも以前、筒井先生の『旅のラゴス』を紹介させていただきましたが、私と筒井先生の出会いは約9年前。なんとなく手に取った作品にがっちりと心を掴まれてしまい、読後の熱が冷め止らぬまま、書店のサイン会に足を運びました。筒井先生の作品は当時の私に、物語が面白い、だとか、装丁が美しい、などだけではない、読み手の向き合い方次第で同じ物語でも全く違うものになるという本の無限の楽しみ方を教えてくれたのです。こちらの写真は、許可を得て引用しています。そんな筒井先生の作品のなかでも個人的に思い入れの強い筒井康隆ワールド全開の3作品を、今回はご紹介させていただきます。少々難しくてもなんとか最後まで読んでいただきたい。描かれていないはずの展開や、その背景、行間に込められたの感情がみえてきたとき、最後まで読んだ自分を抱きしめたくなるでしょう。※ ↑単行本でのご紹介となります。1.『残像に口紅を』私が14歳の頃、初めて出会った筒井先生の作品がこちら。一章ごとに使える文字がひとつずつ消えていき、それと共に小説世界のその文字を含むものも消えていく感覚はありながらも、記憶は確実になくなってしまうといういかにも実験的な物語。難解に聞こえるかもしれませんが、そこはさすがの筒井先生。文字のみの小説なのに文字が消えていくのを感じさせないほど見事に物語が構成されています。正直、物語としてスラスラ読める作品ではないかもしれませんが、最後の“あとがき”ならぬ“調査報告”にある学術論文のような解説を読み終え本を閉じた後、この上ない高揚感に包まれました。言葉のプロである“作家”という仕事と、描かれていない物語の背景に深く興味をもち、これ以降、私は本を読むのが一段と好きになりました。2.『モナドの領域』河川敷で女性の「美しい」片腕が見つかるところから始まる本作品。前知識なしで読んだため、最初は著者久しぶりのミステリー小説かなと期待していたら、唐突に素領域理論の“神”が登場し……。なるほどそうきたかと期待を大きく上回る筒井康隆ワールド全開の展開へ。書かれている内容についてしっかりと味わうためには哲学に対する基礎知識が必要な表現も多く、私のなかでかみ砕けない部分もありましたが、不思議と読みづらさは感じず、頭をフル回転させながらページを捲る時間さえやけに心地よく感じました。物語に浸かりすぎてしまい、後半、登場人物が自分の方へ顔を向けた気がしてゾッとしましたが、自ら物語に巻き込まれていく感覚と読了後の穏やかな余韻が忘れられず、今日までに何度も何度も手に取っています。中毒性あり。3.『大いなる助走』直木賞に落選した作家が、逆恨みで選考委員を殺していくという衝撃的な大虐殺ストーリー。当時大いに話題を呼びベストセラーにもなった反面、文壇について茶化す表現や馬鹿にする描写がたくさんあるため、他の小説家を敵に回してしまったとも言われている問題作でもあります……が、筒井先生が描く人間の理性が壊れるさまは本当に魅力的で、強い引力で私たち読者を惹きこんでいきます。リアルだけれどファンタジー、ファンタジーだけれどリアル。その壊れ方には妙な説得感があり、描かれる文壇の内部事情からは目をそむけたくなるほどグロテスクですが、コミカルなタッチと終盤の怒涛の展開は読んでいて純粋に面白く、自分自身すらネタにしてしまう筒井さんのしたたかさと小説芸は見事だなと感じざるを得ません。……恐るべし。■噛むほどにハマる筒井ワールドをご賞味あれ……!いかがだったでしょうか……? まだまだ紹介したい作品や語りたい魅力はたくさんあるのですが、正直、予備知識なしで手に取るのが一番気持ちの良い筒井康隆ワールドへの浸り方だと私は感じています。ぜひみなさんも騙されたと思って一度手に取ってみてください。そして一文字一文字を味わってみてください。噛めば噛むほどおいしい筒井康隆の世界へ。■「TheBookNook」についてこの連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。一冊の本から始まる「新しい物語」。「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。↓ 八木奈々さんご紹介作品の購入はこちらから ↓
2023年11月17日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹“読書の秋”もいいけれど“食欲の秋”も捨てがたい……。そんな欲張りなあなたにぴったりな今回のテーマ「食」。人が何を食べているかより、誰と食べているかを見ることだ。というエピクロスの有名な言葉があるように、食と人はいつの時代も密に繋がっています。旬の肴とおいしいお酒、舌鼓を打つジビエ料理、ほっこり優しい懐かしの料理、思い出の味は人それぞれ。小説の中の“食”は、ときに忘れていた自身の大切な“食”の記憶を思い出させてくれて、ぽっかり空いたまま気づかずにいた心の穴を埋めてくれます。写真はイメージです。今回はそんな心もお腹も満たされる“食”にまつわる本をご紹介させていただきます。読み終えた後のご飯は、いつもよりも少しだけおいしく、隣にいる人はいつもより大切に感じられるかもしれません。1.群 ようこ『かもめ食堂』映画化もされた群ようこさんの本作品。映画を観た後でも構いません、ぜひ“小説”で触れていただきたいです。フィンランドを舞台にしている物語のためか、ベタっとなりがちな人間関係がほどよくドライにうつり、淡々とした日常描写に、読み終えるのが惜しくなるほどの居心地の良さを感じます。そう、物語に大きな山場などなくていいのです。“普通”であることがどれだけ尊いか、肩の力を抜いて生きるヒントを真っ直ぐな語り口調で群さんは私達読者に教えようとしてくれます。文字だけの小説だからこそ伝わることは本当に多くあります。きっと読後はあなたも、アラビアの綺麗な青いお皿におにぎりを置いて食べたくなるはずです。もちろん、塩おにぎり。2.髙田 郁『みをつくし料理帖・八朔の雪』全十巻の連続時代小説のシリーズ一作目となるこちらの作品。つい先日、家で心太(ところてん)を食べる機会があり、ふと本作を思い出しました。幸せを足踏みするほど苦労続きの主人公が、自ら唯一の奉仕の道とする“料理”で、ひたむきに、ひたむきに、恩返ししようとする姿、その周りにいる人々、その全てがあまりにも愛おしくて、抱きしめたくてたまらなくなります。また、登場する食べ物の表現が時代を感じさせないほど食欲をそそり、地域ごとの味の違いやレシピ、豆知識等もちりばめられており、まさに“食”の本。一話ごとに読み切りとなっているため、連続時代小説だからといって敬遠せず、ぜひお手に取ってみてください。無性に茶碗蒸しが食べたくなりますよ。3.小川 糸『あつあつを召し上がれ』小川糸さんらしい馴染みやすい文章で綴られた食卓をめぐる7つの短編集。いずれも憂いを含む内容でありながら、絶品料理のおいしい記述でほっこりしてしまいます。生きることは食べることであり、味覚と思い出は密に繋がっていると感じさせられると同時に、味や香りだけではない、景色や感情で覚えている思い出の一皿が誰にでも在り得るという“今日までの幸せ”を考えさせられました。忘れてしまった“忘れられない味”の記憶をたどって思い出せることは、始まりよりも終わりの方が圧倒的に多く、切ない気持ちにもなりますが、それでいいのです。もう食べられない味、触れられない人、知ることができないレシピ。全部全部、ちゃんと思い出して、思い出にできたら、いいと思うのです。今度こそ忘れないように……。■五感で味わう“食”小説いかがだったでしょうか? 世の中には味わい深い“食”小説が読み切れないほどに溢れています。ぜひ、綴られた文字をただ読むだけではなく、耳で、鼻で、心で、作家さんが紡ぐ一皿を思う存分味わってみてください。おいしい匂いがただよってくるようなあなただけの素敵な一冊が見つかりますように。■「TheBookNook」についてこの連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。一冊の本から始まる「新しい物語」。「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。↓八木奈々さんご紹介作品の購入はこちらから↓↓ 食欲の秋のお供に ↓
2023年11月03日大日本印刷株式会社(DNP)は、「良質な読書時間」を演出する独自ブランド「AIMA」(アイマ)から、日常の読書の空間をより良いものにする商品の新しいラインアップとして、伝統技法『丸編み』を駆使した「ブランケット」を2023年10月30日(月)に発売します。今回、山形県米沢市に拠点を置き、「made in YONEZAWA」でさまざまな布製品を生み出している株式会社nitoritoと連携し、ECサイトで新商品を発売します。ブランケットの商品バリエーション(カラー3種)(左上の写真の左から「夜空」「霞」「樹皮」)商品写真・使用シーン商品写真・使用シーン【商品のコンセプトと特長について】本をモチーフにしたブランケット。“本をまとう”というコンセプトで作りました。天然繊維由来の素材のみで制作したブランケットは、ハサミを使ってフリンジの長さを変えることで自分だけのオリジナルにすることができます。屋内に限らずアウトドアシーンでもご使用いただけますので、たまにはお外で読書を楽しんでみてはいかがでしょうか。「AIMA×nitorito 」のブランケットを通して、布を切るという“コト”に挑戦し、創造する“トキ”を楽しみ、日々の生活が豊かなものになりますように。【伝統技法【丸編み】について】本商品は丸編機という織り機で作成しています。ぐるぐる回転しながら作る布や編み地を丸編み(knit)と呼びます。工場にある6台の丸編機は1台1台機種やゲージが違うため大量生産が苦手ですが、その代わりにおのおの個性豊かな編み地を表現してくれます。季節による湿度の変化によって糸が含む水分量が変わるため、この微妙な変化を、熟練の職人さんが機械と向き合いながら傷が出ないように調整していきます。この調整は長年の経験によるもので、誰でもできるわけではありません。1台ごとの機械の特徴を捉えてデザインを考え、1点1点丹念にお届けしています。○商品名 : ブランケット003○色種 : 3種(「夜空」「霞」「樹皮」)○サイズ : 幅65cm×長さ180cm○素材 : 羊毛、綿○原産国 : 日本○希望小売価格(税込) : 18,810円○発売日 : 2023年10月30日(月)*ECサイトで発売*商品の購入の詳細はから → 読書時間演出ブランド「AIMA」 : 【DNP読書時間演出ブランド「AIMA」(アイマ)と今後の展開について】DNPは、「日本の技術、文化、人を繋ぐ」をコンセプトにした生活者向けの商品ブランドの第一弾として、「生活の合間(あいま)時間を良質な読書時間に」というコンセプトを掲げた「AIMA」を展開しています。このブランドで、印刷会社として本づくりや本に関連するモノづくりに長年携わってきた経験をもとに、生活者の読書時間を多彩に演出し、より豊かなものにする商品を開発・提供しています。今後DNPは「AIMA」ブランドの商品ラインアップを拡充するとともに、国内外の企業等と、このブランドを活かしたコンテンツ関連のコラボレーションを進めていきます。また、第一弾の「AIMA」に続き、「日本の技術、文化、人を繋ぐ」をコンセプトにしたブランドおよび商品の開発をさらに推進し、日本の伝統やモノ作りの文化に触れる体験を生活者に提供していきます。*「AIMA」のWebサイトはこちら → 「AIMA」Webサイトはこちら : 【nitorito(ニトリト)について】ニトリトという言葉から、ニットや織物のイメージを想像し、テキスタイルになじみのない方にも楽しんでいただけたらと思っています。nitoritoの製品がたくさんの方々に知ってもらい、ブランドの考え方が理解されることは、同時に山形県・米沢の素晴らしい自然や文化が伝わっていくことだと信じ活動しています。made in YONEZAWAに誇りをもって、山を越えて届けたいという決意のもと、この土地のモノづくりを大切に、これからも米沢から発信していきます。 詳細はこちら プレスリリース提供元:NEWSCAST
2023年10月30日10月27日は「読書の日」とされています。秋の夜長に好きな本を読むひとときは、人生を豊かにしてくれますよね。実は、そんな本から“あること”がわかるのです。そこで今回は、本を読むならどれを選ぶかによって、「あなたの隠れた才能」がわかる心理テストをご紹介します。Q.あなたは本を読むとしたら、次のうちどれを手に取りますか?A:赤い表紙の本B:茶色い表紙の本C:緑の表紙の本D:黄色い表紙の本あなたはどれを選びましたか?さっそく結果を見てみましょう。この心理テストでわかるのは?「あなたの隠れた才能」深層心理において“本”は、あなた自身の知性や能力を育ててくれる源であることから、才能を意味するアイテムです。そして、その表紙のカラーは、隠れた才能がどのような方向性のものかを暗示しています。そのため、あなたが読みたい本がどれであるかにより、「あなたの隠された才能」がわかるのです。A:「赤い表紙の本」を選んだあなた……人の心を掴んでファンを作る才能あなたはちょっぴり自信家で、自分の魅力をうまくアピールすることができるタイプのよう。はじめは挨拶をする程度の仲だったのに、いつのまにか相手の心をガッチリと掴んでいるようなところが。人の心を掴んでファンを作ることが、あなたの天性の才能だと言えます。人懐っこさや世話好きな一面もあるため、相手の懐に入り込むのが得意かもしれません。魅力的な一面をひそかにアピールすることにも長けており、相手の前でも自分の長所を存分に発揮できるため、いつの間にかファンがたくさん集まっているでしょう。B:「茶色い表紙の本」を選んだあなた……細やかな気配りで頼りにされる才能あなたは人から喜んでもらったり、必要とされたりすることに幸せを感じるタイプと言えます。面倒な人間関係の中にいても、一つひとつ丁寧に接して最終的には円満な関係を作れるでしょう。そんなあなたは、細やかな気配りで周囲から頼りにされる才能を持っているようです。落ち込んでいる人がいれば明るく励まし、クヨクヨしている人には自信をつけさせてあげることも。その結果、あなたは多くの人たちの信頼を勝ち取るはず。いつの日か、与えた親切がそのまま自分に返ってくるような出来事を経験するかもしれません。C:「緑の表紙の本」を選んだあなた……論理的に伝える能力が高い才能あなたはコミュニケーション能力が高く、自分の感じていることや考えていることを論理的に伝えられる才能を持っているようです。話し方も客観的で、わかりやすく理路整然と相手に伝えられるでしょう。説明が上手なので、人に何かを教えることも得意なはず。自分では気づいていないかもしれませんが、わからないことはあなたに聞けば安心と周囲に思われているかも。論理的な一面を活かしてブログや執筆などに取り組めば、より才能が目覚めるかもしれません。D:「黄色い表紙の本」を選んだあなた……共感力と聞き上手さで安心感を与える才能あなたは天性の共感力の持ち主で、聞き上手な性格だと言えます。人は基本的に自分の話を聞いてほしかったり、内心かまってほしいと思っていたりすることがほとんど。そのため、あなたの柔和さと包容力は多くの人を安心させるでしょう。察する能力も高いので、相手のことが手に取るようにわかる場面もあるはず。あなたからすれば、ただ話を聞いて相槌を打っているだけなのに、相手がのめり込んでくるのが不思議かもしれません。相談が絶えないのは、聞き上手というあなたの隠れた才能によるものと言えるので、自信を持つと良いでしょう。おわりに本を読むと、多くの先人たちが書き残した知恵や経験、そして感性を自分の中に取り入れることができます。つまり読書には、楽しみとして読むだけでなく、心を豊かにして人生を素晴らしいものに変える効果もあると言えるでしょう。この秋には、気になる本を一冊手に取ってみてはいかがでしょうか。脇田尚揮/占い・心理テストクリエーター株式会社ヒューマン・ライフ出版代表取締役社長、企業占術鑑定士、大学講師、秀心寺住職。©MicroOne/PIXTA(ピクスタ)文・脇田尚揮
2023年10月23日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹“SF”ときいて皆さんは何を思い浮かべますか?映画でいえば“スターウォーズ”や“バック・トゥ・ザ・フューチャー”などが有名ですが、そんな圧倒的自由な非現実世界で繰り広げられるのがSFの世界の特徴です。どのストーリーも読めば読むほどに嫌でも惹き込まれてしまいます。ただ、興味はあっても小説だと最後まで読み切れるか不安で手を出せずにいるという声もよく聞きます。もったいない……。難解に思われがちなSF小説ですが、SFと一括りにいっても扱うテーマは多岐にわたり、なかには驚くほどサクッと読めるものも存在するのです。写真はイメージです。今回はSF好きな人はもちろん、初めての方にもおすすめのSF小説をより手に取りやすい“短編集”に絞ってご紹介させていただきます。まとまった読書時間がとれない人や集中して読むのが苦手な人でも短編集であれば気兼ねなく物語に浸ることができるはずです。1.星新一『ボッコちゃん』日本のSF作家の第一人者でもある、星新一のショートショート集。なんと作者自らが選んだ50もの作品がこの一冊に集約されています。荒んだ人間社会への皮肉や教訓、起こり得そうな未来にゾクッとしたり……かと思えばクスッと笑えたり。50年以上も前に書かれた作品とは思えない世界観と、想像できそうでできない結末に何度でも搔き乱されたくなります。一作一作の物語はかなり短いにも関わらず、展開が二転三転するスピード感とそのオチを理解した後にもう一度読まずにはいられなくなる表現力の高さに気づけたのは大人になってからでした。星新一、恐るべし。2.キム・チョヨプ『わたしたちが光の速さで進めないなら』韓国人SF作家の初短編集。本作はコミュニケーションを主題に、コールドスリープやファーストコンタクト等SFの定番ネタを盛り込んで紡がれていきます。SF要素が強いのに不思議と物語に住む人たちは現在の私達とそれほど心持ちは違わず、親しみやすいのが印象的です。そう、なんといいますか、SF小説を読んでいたつもりが、いつのまにかどうしようもない現実に目を向けてしまっているような……一度読んだら癖になる面白い読書体験でした。もしこの物語の結末にあなたの心が動いたとしたら、現代で自分がすべきことは何か、“片手間に”考えてみてください。かなり引力のある作品なので読後の感情は自己責任でお願いします。3.倉田タカシ『あなたは月面に倒れている』短編でも強い刺激を感じたい人におすすめの作品。正直かなり変化球でぶっ飛んでいるお話も多いですが、SF特有の独特な世界観と特異な設定は健在です。読みながらも私は今何をしているのだろう……と我に返ったり、そうかと思えば背筋を伸ばして足早に読み進めてみたり、ときに独特な表現から脳内の配線に直接触れられたような感覚に陥ります。理解が追いつかないまま進む物語が苦手な人は少し読み疲れてしまうかもしれません。でも私はこの本を手に取った自分を誇りに思います。最後に、この短編集への敬意をこめて私が読後に抱いた感情を残します。「最高の時間の無駄遣いでした」。■SFの世界を味わうならまずは短編からいかがだったでしょうか? 今回の3作品からはあえて外しましたが私は12歳の頃、日本のSF作家、“筒井康隆”さんから小説の世界にグッと魅了されました。難解なイメージをもたれがちなSF小説ですが、一度その魅力にハマると心ごと掴まれ抜け出せなくなります。まずは忙しい合間にも手軽に読める短編から、SFの世界に飛び込んでみてください。■「TheBookNook」についてこの連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。一冊の本から始まる「新しい物語」。「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。↓八木奈々さんご紹介作品の購入はこちらから↓
2023年10月20日「猫」を取り巻く純文学。文:八木奈々写真:後藤祐樹「猫」。さっきまでのんびり寝ていたかと思えば、風で動いたカーテンや突然訪れた虫たちに大歓迎とばかりに飛びつき戯れる、そんな自由気ままに生きるその姿はどこまでも愛おしく、どこか羨ましく、その前では多くの人が無条件に笑顔になってしまいます。そう、もしかしたら疲れた私達人間に癒しを届けるためにやってきた魔法使いなのかもしれません。写真はイメージです。そんな猫たちに魅了されるのは、日々文章を紡ぐ作家さんたちも同じです。その証拠にあらゆるジャンルの本に“猫”はその姿や立場を変えて自由な形で登場しています。今回はそんな“猫”の魅力を再確認できる、猫好きさんの心を掴んで離さない癒しの“猫”作品をご紹介させていただきます。1.奥泉光『「吾輩は猫である」殺人事件』題名の通り、かの有名な「吾輩は猫である」の“あの猫”が生きていたという設定に始まる本作品。夏目漱石を彷彿とさせる文体で続編小説のように楽しめます。親しみのある登場人物達が思わぬ陰の一面を持っているなんて考えも及ばず、“腑に落ちないまま”惹きこまれていきます。冒頭のあの一文がこんな展開に繋がっているなんて、そして、ちゃんと収拾がつくなんて……。正直読むのにはかなり時間がかかってしまったのですが、不思議なもので、読み終え振り返ってみると、これは物凄く面白いかもしれない……と思わされました。ぜひ、『吾輩は猫である』を読んだあとに続けてこの作品に触れてみてください。きっとあなたも私と同様、どこまでが漱石で、どこからが奥泉光か分からなくなるでしょう。2.越谷オサム『陽だまりの彼女』10年ぶりに中学時代の幼馴染と偶然出会い……というどこにでもありそうな真っ直ぐな恋愛小説。切なくて残酷だけれど、明るくて甘く、胸焼けするほどベタ甘な恋愛描写が続くため、つい飛ばし読みしてしまいそうになりますが、どうか一文字も逃さずに読み進めてみてください。驚愕とも、呆気ないともとれる物語の結末と、後に気づく構成力に、見事なまでに振り回されます。正直、好き嫌いが大きく分かれる作品かもしれません。私も学生時代に初めて読んだときは感情移入できず本を閉じてしまいましたが、今、時を経て、ふと大切な人を思い出すようにこの本に会いたくなるときがあります。なんとなく、ただ会いたい人に会いに行くように。読後は、あなたの大切な人が、ひとり増えるかもしれません。3.小川洋子『猫を抱いて象と泳ぐ』少年がチェスと猫に出会い、たくさんの人と心を繋げていく、静謐で美しくどこまでも慈愛に満ちた本作品。登場人物の会話シーンは少なく、私達読み手の五感、はたまた六感にまでも訴えかけてきます。沢山の因果が折り重なって進んでいくストーリーは、チェスを知らない私でも、芸術的なチェスマッチのように感じられました。そして、チェスの盤、ビルの屋上、回送バスの中……物語の中の景色一つひとつは“自分が収まっている限られた場所”を儚く美しく意識させてきます。読後、この物語を素直に“うつくしい”と思えたとき、私は涙が出てきました。ぜひあなたも耳を澄ませ、息をひそめ、小川洋子の世界に深く沈んでみてください。■純文学であなたの世界を広げてみませんか娯楽性よりも芸術性に重きを置いているとされる“純文学”ですが、実は読み手に優しい物語も多く、その世界にどっぷりと浸からせてくれます。ぜひ、猫をはじめ、好きなものを通して普段は読まないジャンルにも手を伸ばしてみてください。あなたの見ている世界が広がりますように。■「TheBookNook」についてこの連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。一冊の本から始まる「新しい物語」。「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。↓ 八木奈々さんご紹介作品の購入はこちらから ↓↓ 猫のいる暮らし、おすすめグッズ ↓「ユカイ工学 Qoobo(クーボ)しっぽ ふりふり ロボットセラピークッション」しっぽのついたクッション型セラピーロボット。撫でると、まるで猫のようにしっぽを振って応えてくれます。「パーフェクトペット ぬいぐるみ 猫」お腹のあたりがまるで息をしているかのようにほのかに動くぬいぐるみ。みているだけで癒されそうです。「YETI Rambler マグ」大容量のマグカップ。好みの飲み物をたっぷり用意して、香りにも癒されつつリラックスしたひとときを。
2023年10月06日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹新しい本を手にするとき、皆さんは何を基準に選びますか?その本の装丁やタイトル、作家、評判、帯にある言葉、惹かれる理由はさまざまだと思います。ちなみに私は図書館にある“最近返却された本”というコーナーが好きで、そこから無造作に本を借りることも多いです。写真はイメージです。そんな数ある本との自由な出逢いのなかで、タイトルと物語の温度差が激しい作品に出会ったことはありませんか? 美しい装丁やタイトルからはとても想像もできないような物語に触れた後、改めて目にするその表紙がまるで初見のように感じられることもあります。今回は、物語の面白さだけではなく、視覚から掻き乱される感覚を皆様に味わっていただきたく、読む前と読み終えた後の感情の差が激しいと私が感じた作品を紹介させていただきます。1.中島京子『妻が椎茸だったころ』日常の片隅に起こる、ちょっと怖くて愛おしい、5つの偏愛短編集。夢と現実が交差するような奇妙さで、不思議な夢を見たけれど、どこからが夢だったか思い出せないときのような読後感を味わえます。吸引力のあるタイトルから抱いた印象とはまるで違う、静かに歪んだ登場人物と、心温まる話なのに、読後しばらく経ってから時間差でゾクッとくる気味の悪さ。背筋をなぞる不安感が病みつきになります。私は表題作と最後のお話が特に好きでした。タプタプの余韻に浸りながらも、“特に感想はない……”と言ってしまいたくなる。これがこの作品の感想です。2.村上龍『限りなく透明に近いブルー』著者の処女作にして芥川賞受賞作品。タイトルの美しさと表紙の青に惹かれ手に取ってしまったこの作品。ドラッグ、セックス、暴力、依存。文体から滲み出てくる匂いや感覚が妙に生々しく、中学生の私は途中で読み進めるのを断念してしまいました。そして大人になって再読。相変わらず作中で蠢(うごめ)く薬や性の描写はとても強烈で、その容赦ない不快感に耐えられず、日常のフィルターを通しながらでなければ向き合えませんでした。でも、本当に一瞬だけ、この物語に刹那的な希望を見ました。いや、見間違いかもしれません。この本を手に取るときはどうか自己責任でお願いします。3.高瀬準子『おいしいごはんが食べられますように』こちらも芥川賞受賞作品。仕事と食事、三角関係、それぞれの正義。他人に弱さを見せることを許される者とそうでない者。これは虚無とも絶望とも諦めとも違う。でもその全てが含まれていて、読了後には致命的な感情の静けさが襲います。暖かい表紙と祈りのようなタイトルでありながら呪詛のようにも思える本作品。うっかり落とした一滴の“黒”が何者かによってかき混ぜられてしまう恐怖、終始息苦しさに苛まれるのはきっと誰もが感じたことのある妙に生々しく身近な感情が重なるからかもしれません。一気読み必須な作品です。■読書の締めくくりにタイトルと装丁を眺めてみては?どんな本でもタイトルや装丁には何かしらのメッセージが込められていると私は考えています。ぜひ、皆さまも本を読み終えた後、改めてタイトルの字体や色、装丁に目を向け、思考を自由に巡らせてみてください。もう一歩深い、本の世界へ踏み込めるかもしれません。素敵な読書ライフが広がりますように。■「TheBookNook」についてこの連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。一冊の本から始まる「新しい物語」。「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。↓ 八木奈々さんご紹介作品の購入はこちらから ↓↓ 秋の読書体験を充実させるおすすめ商品 ↓「YETI Rambler マグ」大容量のマグカップ。好みの飲み物をたっぷり用意して、香りにも癒されつつリラックスしたひとときを。「藤栄 陶香 超音波アロマディフューザー」インテリアになじむシンプルなデザインがおしゃれな陶器製アロマディフューザー。超微粒子アロマミストでヒーリング効果も期待できそうです。↓ 前回ご紹介作品 ↓「秋の夜長を味方に。【TheBookNook #6】」1『旅のラゴス』筒井康隆2『夜のピクニック』恩田陸3『舟を編む』三浦しをん
2023年09月22日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹“読書の秋”とはよくいいますが、ひと口に“秋”といっても、初秋から晩秋まで、秋の見せてくれる表情はさまざまです。どこか甘く切ない爽やかさ、深まっていく紅葉に彩られた美しさ、そして侘しさ(わびしさ)や物悲しさ……小説のなかの秋はいつも饒舌過ぎるほどに印象的です。写真はイメージです。今回は時間を忘れて物語に浸れる、飽きがこない名作を紹介させていただきます。せっかくの秋。時間がたっぷりある秋の夜長にこそ読みたい、心惹きこまれる、あなただけの物語を見つけてみてください。1.筒井康隆『旅のラゴス』北から南へ、そして南から北へ。人や場所がどんどん変わり、まるで短編集のような装いがありつつも確かに繋がっていく筒井康隆ワールド全開の本作品。ひたすら旅が続くかと思いきや途中さらっと明かされる目的、最後に向かう旅の終着点、そして人生……。読み進めながら芽生えた感情が指の間をすり抜けていくような不思議な感覚の文体が癖になります。30年近く前に出版された作品ですが、全くそれを感じさせません。密度の高いこの物語。深い余韻と共に本を閉じたとき、その本の薄さにあなたもきっと驚くはずです。2.恩田陸『夜のピクニック』青春小説の代表作ともいわれる今作品。人間の複雑な感情と存在の意味に思いを馳せさせ、孤独と希望が交差するクライマックスまで読者を引きずっていく、“永遠の青春小説”です。恩田陸の緻密な描写と深みのある文体、哲学的なテーマが語彙力豊かな読者にさえも訴えかけてきます。登場人物達それぞれの抱える想いや悩みが交差し、その歩みが進むにつれて、物語も一歩ずつ進んでいきます。苦痛だが終わってほしくない青春と、覚えのあるはずのない日常に触れ、きっとあなたも本を閉じた後、表紙の“黒”が嘘みたいに眩しく見えることでしょう。“戻れない”って美しい。3.三浦しをん『舟を編む』“辞書”の完成に向け、奮闘する辞書編集部を舞台にした本作品。“言葉”という絆を得て、登場人物達の人生が優しく編み上げられていきます。難しい言葉もあり、久しぶりに辞書を引き、メモしながら読み進めました。登場する一つひとつの言葉が多様な意味を持ち、豊富な解釈に富み、時代によりその色さえも変えていきます。不器用な主人公を応援せずにはいられず胸が熱くなりました。さらにこの作品を通して日本語の奥深さと曖昧さ、美しさを再認識でき、人生の早い段階で出会えて本当によかったなと思える作品でした。もはや愛おしい。■本の世界に浸って気分をリセットしてみては?今回の記事も楽しんでいただけましたでしょうか? じっくりと本の世界に没頭することは、ストレス解消にもつながります。少しセンチメンタルな気持ちにもなる長い秋の夜には、日常を忘れて、どっぷりと浸れる物語を手に取ってみませんか?あなたにぴったりな一冊が見つかりますように。■「TheBookNook」についてこの連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。一冊の本から始まる「新しい物語」。「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。↓ 八木奈々さんご紹介作品の購入はこちらから ↓▼前回ご紹介作品▼「忙しない日々に、心を満たしてくれる日本の児童文学を。【TheBookNook #5】」1『銀河鉄道の夜』宮沢賢治2『ごんぎつね』新美南吉3『二分間の冒険』岡田淳↓ 秋の夜長を充実させるおすすめアイテムの購入はこちらから ↓
2023年09月08日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹皆さんは「児童文学」と聞いて、何を思い浮かべますか?大人気映画『ハリー・ポッター』や『ロード・オブ・ザ・リング』『ナルニア物語』など、大人になっても意外と触れる機会の多い“児童文学”。昔、読んだ名作も、大人になった今だからこそ違う捉え方ができ、子供のころには理解できなかった物語の“奥深さ”や“作者のメッセージ”にも気がつけるかもしれません。写真はイメージです。今回は、私たちの凝り固まった心をじんわりと解してくれる暖かみのある作風の「児童文学」を日本の作家さんに絞って紹介させていただきます。どの作品もスラスラ読めるものばかりなので、できるだけ中断せずに読み切るのがおすすめです。展開に甘えて漠然と読み進めるのではなくて、あの頃に戻って騙されたように真っ直ぐに児童文学の世界に入り込んでみてください。1.宮沢賢治『銀河鉄道の夜』宮沢賢治の死の直前まで変化し発展し続けたと謳われる未完の名作。彼の思想の集大成とされていますが、同時に多くの謎を含んでおりその評価はさまざまです。表題作のほかに「よだかの星」「ひかりの素足」「貝の火」なども収められています。描かれた世界がどれもあまりに透明で、正直、浸れないし追いつけず、手を伸ばしても届かない感覚と同時に、それと対照的な登場人物の孤独やラストの展開に何度読んでも良い意味で振り回されてしまいます。原作はやや難解ともいわれていますが、分かりやすく再構成された新編/漫画版なども出版されていますので、一度読むのを断念した方も、ぜひ宮沢賢治の世界に飛び込んでみてください。2.新美南吉『ごんぎつね』小学校の教科書にも載っている日本児童文学の名作。衝撃的な結末に子供の頃は好きになれなかった方も多いのではないでしょうか。でも実は、教科書に掲載されている“ごんぎつね”のラストと、原作のラストは少しだけ異なります。ごんが最後に本当はどんな気持ちを抱いたのか、主人公がこの先背負うもの、そして教科書に載るまでになった理由。大人になった今だからこそ、この救われない物語に込められた“もうひとつのメッセージ”を、美しい挿絵とともにぜひ味わってみてください。決して悲しいだけの物語ではありません。3.岡田淳『二分間の冒険』小学生の男の子が突然異世界冒険に巻き込まれ、仲間と共に竜に立ち向かう本作品。現実に帰るために“この世で一番大切なもの”を見つけないとなりません。これは別世界で無敵の救世主となりボスを倒す……というありがちな“冒険もの”ではありません。特別な力を持っていないのに試練を乗り越えていかなくてはならないという状況に、大人なら誰もが共感できると思います。分かりやすく教訓的な物語と童話特有の“黒さ”が垣間見え、大人になっても楽しめる作品となっています。これぞ児童文学。“あとがき”にある皮肉ともとれる作者の言葉まで逃さずに読んでほしい一冊です。■本を、安眠のお守りにいかがだったでしょうか? 今回は数ある日本の児童文学の中から「名作」と呼ばれているものを三作品紹介させていただきました。頭を使わずに心だけでも受け取れる児童文学は、物語でありながら、ときに、手紙のようにも感じられます。どんな自分も受け止めてくれるお守りのような本が一冊でも心にあると、とても心強い気持ちになるものです。いや、本でなくても構いません。歌でも、映画でも、なんでもいいんです。ここにいる皆様が、今夜、安心して眠れますように。■「TheBookNook」についてこの連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。一冊の本から始まる「新しい物語」。「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。↓ 八木奈々さんご紹介作品の購入はこちらから ↓▼前回ご紹介作品▼「疲れた心と共に、本の世界へ飛び込む。【TheBookNook #4】」1『天国はまだ遠く』瀬尾まいこ2『きりこについて』西加奈子3『本日は、お日柄もよく』原田マハ
2023年08月25日フォレスト出版株式会社(所在地:東京都新宿区、代表取締役:太田 宏)は、『失敗しない読書術』(名もなき読書家・著)を2023年8月23日に発売いたしました。『失敗しない読書術』(名もなき読書家・著)詳細URL: ■質の高い読書は、「キーワード設定」で決まるなぜ、同じ本を読んでも、欲しい情報を吸収できる人、できない人がいるのか?「本を読んでも、まったく内容を覚えていない」「家の本棚にある本を見ても、どんなことが書いてあったのか思い出せない」「読んでいる途中で、以前にも読んだことがある本だと気づいた」「『最近読んだ本』や『オススメの本』を聞かれても、何も思い浮かばない」なぜ、このようなことが起こってしまうのか?その原因は、あなたの「理解力が足りないから」「記憶力が悪いから」ではありません。読書で失敗するのは、ズバリ、「読む前にキーワードを設定していないから」。何か調べたいとき、ネットの検索エンジンの検索ボックスに「キーワード」を入力して欲しい情報を手に入れる。「情報をとること」と「キーワードを入力すること」は常にセットなのです。読書も同じです。本を読む前に「キーワード」を設定して、それを「検索するような感覚」で本文を読めば、欲しい情報がとれるのです。では、どのようにキーワードを設定し、どのように読めばいいのか?情報クリッピングの第一人者にして、Instagramで人気の著者がそのノウハウを体系化した究極メソッド「キーワード読書術」の重要エッセンスをまとめました。超一流の「情報クリッピングマスター」が、【必要な情報を吸収し、自分を成長させる】新しい読書術を大公開した1冊です。【主要目次】◆第1章:なぜ、今まで「欲しい情報」がとれなかったのか?◆第2章:読む前に知っておくべきこと――「キーワード」を設定する方法◆第3章:失敗しない本選びの方法◆第4章:どんな本を読んでも失敗にしない技術◆第5章:読書でさらに欲しい情報を吸収する秘策◆第6章:読書記録を残して、資産にする――Instagram読書記録のすすめ〈著者プロフィール〉名もなき読書家情報クリッピングマスター。京都市生まれ。立命館大学産業社会学部卒業。2005年から現在まで、クリッピング業務(=新聞・雑誌から必要な記事を見つけて切り抜くこと)に従事。「文章を読むプロ」として17年間、毎日朝から晩まで「アンテナを立てて、情報を漏らさず、大量の活字を読みまくる生活」を送り、クライアントに25万点以上の記事を提供してきた実績を持つ。プライベートでも“無類の本好き”で、これまでに4,800冊を読破。読んできた文字数の合計は、公私を合わせると「35億字」を超えている。これまでの経験・知識・知恵から導き出したノウハウを「キーワード読書術」として完全体系化。◎Instagram:「名もなき読書家」(@no_name_booklover)◎Voicy :「名もなき読書家のホントーク!」( )■書籍概要書名 : 失敗しない読書術著者 : 名もなき読書家ページ数: 270ページ価格 : 1,320円(税込)出版社 : フォレスト出版株式会社ISBN : 978-4-86680-815-4発売日 : 2023年8月23日URL : ■会社概要商号 : フォレスト出版株式会社所在地 : 〒162-0824 東京都新宿区揚場町2-18 白宝ビル7F設立年月日: 1996年4月1日代表取締役: 太田 宏業務内容 : 出版物の企画・制作及び販売URL : 詳細はこちら プレスリリース提供元:@Press
2023年08月23日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹「本を読むと疲れる」「疲れて最後まで読むことができない」そんな声を耳にすることも多いですが、実はその疲れた心こそが新たな気づきや癒しを求めている合図なのかもしれません。心を優しく包み込むような物語や、心に響く言葉の数々。その魅力は、とどまることをしりません。もし、もしも、一冊の本に触れるだけで、ほんのちょっとでも心が落ち着いたら。自分のペースを取り戻すことができたら。ゆったりとした眠りにつくことができたら。写真はイメージです。それだけで明日が、目の前の景色が、ほんの少しだけ変わるとは思いませんか?そんな、心を満たす本との出逢いが皆さんに訪れる未来を願って、今回は「疲れたときこそ読んで欲しい特別な本」を三冊ご紹介させてください。1.瀬尾まいこ『天国はまだ遠く』。仕事や人間関係に疲れ切った女性が、山奥へ向かい自ら命をたとうとしてしまうショッキングな物語。……でありながら、死ぬために訪れた土地で出逢った人々の影響で、彼女の慌ただしく不安な心はいつのまにか癒されていきます。前向きになっていく中で「ずっとこのままではいられない」という気持ちが生まれ、主人公が再び一歩を踏み出すまでの心情が描かれています。彼女の抱えていた漠然とした生きる不安、気持ちの変化、新たな出会い、旅立つ勇気、寂しさ、それらの全てが静かに自分と重なり、私の心に寄り添う大切な一冊となりました。読後は、視界がクリアになり、脱皮した様な感覚になれる一冊です。主人公が日常から離れて得た癒しや心の変化は、私が本を通して感じるそれと少し似ているかも知れません。2.西加奈子『きりこについて』「きりこは、ぶすである」という衝撃の一文から始まるこの物語。“ぶす”であることから普通の社会生活を送れずに引きこもっていた主人公が、成長していくにつれて見つけていった哲学が、一見ありきたりな意見のようで、巧みなエピソードによって描かれていて、私たち読者の前に圧倒的な説得力を持って提示されます。読後も日常のふとした瞬間で、その中にある鮮やかなシーンを思い出してしまうような物語であり、いつまでも読者、とりわけ女性を支えてくれる存在でもあります。自分を愛せなくなったとき、容姿に自信が持てないとき、他人の言葉に深く傷ついたとき。この小説は、あなただけを見つめ「あなたはあなただ」と真っ直ぐに偽りなく語ってくれます。読後は一見地味な日々の営みがほんのり甘く色付いて、自分の存在が限りなく尊いものに思えるから不思議です。3.原田マハ『本日は、お日柄もよく』原田マハさんといえば美術関係の作品を思い浮かべる人も多いと思いますが、本書はそんな原田さんの専門分野が解禁される前の作品です。物語は“スピーチライター”という職業にスポットライトが当てられており、作中には名言がいくつも登場します。そして本のタイトルにもなっている「本日は、お日柄もよく」。物語の序盤でも目にするこの言葉ですが、終盤になるにつれてその素晴らしさが身に染みて、自然と涙腺が緩んでしまっていました。それくらいこの作品は“言葉”の一つひとつが選び抜かれていて、問答無用で私たち読者を虜にしてくれます。読後には少し背筋を伸ばして、自分の発する“言葉”を大切にしたくなるはずです。本日はお日柄も良く。■お守りみたいな作品で心に安らぎを疲れた自分に寄り添ってくれるような、お守りのような一冊があると、とても心強い気持ちになるものです。いや、本でなくても構いません。歌でも、映画でも、なんでもいいんです。ここにいる皆様が、今夜、安心して眠れますように。■「TheBookNook」についてこの連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。一冊の本から始まる「新しい物語」。「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。↓ 八木奈々さんご紹介作品の購入はこちらから ↓
2023年08月11日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹皆さんは“海外小説”に触れたことはありますか?日本の作家さんが対象の国を舞台に書いた物語でも、旅行をした方の体験記でもない、現地の作家さんが書いた物語。その文章に現れるその国の“らしさ”。「こんなときにこんなこと考えるんだ」とか「こんな見方をするんだ」など、さまざまな文化の違いをより多く感じられるのは文章で構成される小説ならではです。登場人物の名前がカタカナで頭に入りづらいとか、たとえが分かりにくいなど、外国小説には独特のハードルもありますが、一度ハマってしまえば抜けられないほど面白いのも海外小説。写真はイメージです。次の休日は、“世界”を片手に、ゆっくり時間をかけながら、いろいろな国を巡ってみませんか?今回は日本にいながら小説を通して世界を旅する「海外小説」を紹介させてください。1.【フランス】サン=テグジュペリ『星の王子様』世界百数十の言語に訳され、聖書とも比較される、誰もが一度は耳にしたことのあるこの作品。“大切なものは目に見えない”“この世で唯一のバラ”……など、数々の有名なセリフがちりばめられていますが、原文を見直すと、より深く強い作者のメッセージが見えてきます。児童書に分類される作品ですが、大人になってからこそ、何度も、読み返してほしい一冊です。読んだ回数だけ新しい気づきがある『星の王子様』。忘れてしまっていたのか、忘れたフリをしていたのか、“本当に大切なこと”を、そっと、気づかせてくれる作品です。2.【カナダ】モンゴメリ『青い城』“赤毛のアン”でよく知られているモンゴメリの隠れた名作。正直、物語の前半は鬱々とした場面の連続で気が滅入ってしまいがちなのですが、どうか、どうか、中盤まで我慢していただきたいです。“余命宣告された主人公”という使い古された一見陳腐にすらみえるテーマですが、二転三転、本当に最後の最後まで先が見えないラブ・ロマンス。しっかり恋愛描写を描いている一方で、あくまでもメインは主人公の成長にあるので、甘すぎる恋愛小説が苦手な人にもおすすめです。カナダの美しい自然の描写もとても魅力的です。3.【オーストラリア】トレント・ダルトン『少年は世界をのみこむ』世界の住みやすい都市としても印象強いオーストラリア。良いイメージの裏側で、実は問題となっている麻薬密売や暴力に関する社会問題。この作品はそんなオーストラリアで2019年に一番売れた小説だといわれています。物語のおよそ半分は実話だという本作には衝撃的な描写もありますが、ちょっとした風景、僅かな心の動き、流れてくる音楽、テーブルの上に置かれた食べ物、そして主人公の空想の産物さえも細やかな表現で描かれており、まるで自分自身が“そこ”に生きているかのように感じられます。色や情景が浮かんでくる文章と、爽快な伏線回収もさることながら、特にラスラの畳みかけるところと標題の章はグッと胸に迫るものがありました。■行ってみたい国の物語で素敵な旅の思い出を他にも紹介したい海外小説は沢山ありますが、今回はそのなかでも、特に印象に残っている三作品をご紹介させていただきました。まずは“今”、皆さんが行ってみたい国が舞台の小説から、手に取ってみませんか? きっと素敵な旅の思い出ができることと思います。↓ 前回までの記事はこちらから ↓【TheBookNook #1】■【TheBookNook #2】■「TheBookNook」について今連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。一冊の本から始まる「新しい物語」。「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。↓ 八木奈々さんご紹介作品の購入はこちらから ↓
2023年07月28日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹皆さん、最近、胸が熱くなるような想いをしましたか?大人になると、子供の頃に比べ毎日の生活の中で心を動かされる機会が少なくなります。平凡な毎日の繰り返しでつまらないなと感じているなら、この夏だけは騙されたと思って、じっくりと本の世界と向き合ってみてください。読み終わる頃には、来年の夏が待ち遠しくなっているかもしれません。※ 画像はイメージです。来年の夏も待ち合わせしたくなるような“夏に読みたい/夏を感じる小説”を今回は紹介させていただききます。1.道尾秀介(みちおしゅうすけ)『向日葵の咲かない夏』生まれ変わりを信じる少年の“ある夏休み”を舞台にした物語です。登場人物それぞれがどこか怪しく、読み進めるにつれてだんだんとその違和感が私達読者を襲ってくる、いい意味で不快感MAXの物語です。疑問を抱かせられる場面も多いのですが、最終的に「そうだったのか」と、腑に落ちると同時に、ブルっと全身寒気に襲われます。何度読み返しても飽きがこない道尾さんの技法がとにかく素晴らしく、思い出しただけでもぞわぞわする、なんともいえない読後感は唯一無二で、きっと来年の夏も、私は、この本を手に取ると思います。私のもうひとつの夏休みを、皆さんも、ぜひ。2.ロバート・A・ハインライン『夏への扉』言わずと知れたSFの金字塔(きんじとう)ともいえるこの作品。1956年出版にも関わらず、古さを感じさせず、今もなおさまざまな媒体で紹介され続け、年代問わず多くの人を魅了しています。私がこの本と出会ったのは中学一年生のとき。人気のSF小説として書店で紹介されており手に取りました。はじめは冷凍睡眠、タイムトラベルといったSF要素に目がいき、当時は思い描いていた作品を読めたことに満足感を抱いていたのですが、大人になって読み直してみると、SFとして括ってしまうにはもったいない人間的な要素を多く感じ、表紙から受けるイメージさえも大きく超えた感動を与えてくれました。60年以上経っても色あせない輝きを、ぜひ堪能していただきたいです。3.鷺沢萠(さぎさわめぐむ)『少年たちの終わらない夜』青春真っ只中の10代の主人公を描く4つの物語。あと少ししたら、大人としてひとりで人生を歩まなくてはならない。もう戻ることはできない。分かってはいるけれどいまこの瞬間は何者にもならず仲間とただ笑っていたい。思春期を生きる主人公たちの心の葛藤と10代最後のきらめきを閉じ込めたような一冊。1990年代出版の作品のため時代や性差の違いが感じられる反面、時代が変わっても少年少女の抱く焦燥は変わらないという現実を突きつけられます。何より、いつかは忘れてしまうような一瞬の感情や光景を掬いあげている鷺沢さんの言葉は子供にも大人にも真っ直ぐに作用します。ぜひいろいろな年代の方に手に取って頂きたい一冊です。■暑い夏に、熱い物語を夏に読みたくなる作品、まだまだ沢山ありますが、今回は“今夏の私”が読みたくなった三作品をご紹介させていただきました。冷たい麦茶でも飲みながら「 夏」の暑さを全身に感じて読書するのはとても気持ちの良いものです。ぜひ、暑い夏だからこそ楽しめる熱い物語を皆さんに味わっていただきたいです。皆さんの夏がより濃く色づきますように。↓ 前回の記事はこちらから ↓■「TheBookNook」について今連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。一冊の本から始まる「新しい物語」。「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。↓ 八木奈々さんご紹介作品の購入はこちらから ↓
2023年07月14日夏休みの宿題といえば、読書感想文を思い浮かべる人もいるでしょう。本を読んで、その感想を原稿用紙に書くというシンプルなお題ですが、かかる時間と労力はなかなかのもの。計画的にこなさないと、夏休み終盤に猛烈な追い上げが必要になってしまいます…!『読書感想文でめっちゃズルする人』ある日、とあるん(@toarutoa)さんは、架空の読書感想文をTwitterに投稿。『読書感想文でめっちゃズルする人』と題された、こちらの画像をご覧ください。クリックすると画像を拡大します架空の読書感想文で題材に選ばれたのは、落語の演目として知られる『寿限無(じゅげむ)』。子供に縁起のいい名前をつけようとしたら、『寿限無、寿限無、五劫(ごこう)のすりきれ…』と、とてつもなく長い名前になってしまったという笑い話です。そんなストーリーを逆手にとって、『寿限無…』の名前をすべて書き出すことで、なんと原稿用紙の9割以上を埋めてしまいました。しかも、原稿用紙の最後のほうには、スペインの芸術家であるパブロ・ピカソのとても長い本名に触れるなど、字数稼ぎに余念がありません…!読書感想文の『マル秘テクニック』解禁!?とあるんさんの創作には、数々のコメントが寄せられました。・字数稼ぎをしながら書いていたら、逆に残り字数が足りなくなっていたことがある。・提出したら怒られそう。間違いなく職員室に呼び出されるやつだ…。・ピカソでも字数を稼ごうとしているのが強すぎる!笑った!中には、かつて読書感想文や作文で字数を稼ぐために使っていたテクニックに触れる人も…。・『寿限無』ほどではないけど、太宰治の『走れメロス』に出てくる、セリヌンティウスで字数を稼いだことならある。・漫画『ゲゲゲの鬼太郎』の妖怪図鑑に載っている妖怪を紹介して、原稿用紙を3枚消費したことがある。・小学生の時は『ラブラドール・レトリーバー』で字数を稼いでいたし、大学生の時の英語のレポートでは、ロックバンドの『ASIAN KUNG-FU GENERATION』を連呼していた。字数は、あくまでも分量の目安。とはいえ、課題である以上は気になってしまうものですよね。やりすぎない程度にテクニックを駆使しつつ、バランスの取れた読書感想文を書くよう、心がけましょう…![文・構成/grape編集部]
2023年07月11日おうち時間が長くなったことで、大人だけでなく子供たちもYouTubeを見たりゲームをする時間が増えていますよね。たまにはYouTubeやゲームはやめて読書もしてほしい…と思う親御さんも多いのではないでしょうか。そんな時に試してほしい方法を、子育てに役立つ情報や収納術などを取り上げているhana(hana.s_home)さんのInstagram投稿から紹介します。図書館とAmazonをフル活用して「Hitする1冊」を見つける!自身も2人のお子さんを持つ母親であるhanaさん。おうち時間が長くなるのに伴ってお子さんのYouTubeやゲームをする時間が増えてしまったそうです。YouTubeやゲームにあてていた時間の一部を読書時間に換えるには、1冊でいいので「Hitする本」を見つけることが大切とのこと。hanaさんは図書館とAmazonを活用して、お子さんが興味を持ちそうな本を効率的に探しているといいます。1. 子供の好きなジャンルの本を図書館で借りるまずは好きなYouTubeの動画やゲームから子供が興味を持っていそうなジャンルを割り出し、インターネットで検索して、そのジャンルで人気の本を何冊かピックアップします。ある程度候補を絞れたら、地元の図書館に収蔵されていないか検索機能でチェックしましょう。図書館にあれば借りてみて、実際に子供に読んでもらい、興味を持てるかどうか試す…この工程を繰り返します。お気に入りの1冊を見つけるのが目的なので、無理に最後まで読ませず、次々新しいものにチャレンジするのがポイントです。図書館では無料で本を借りられるので、こうしてたくさんの本を試してみてもお金はかからず、自宅に本があふれることもありません。2. Amazonで関連するおすすめの商品を探すこうして試したなかで気に入るタイトルが見つかったら、今度はAmazonでその本を検索し「関連商品」や「この商品を見た人が買っているほかの商品」を見て、さらにその本も図書館で借ります。気に入った本に関連するものなら、新たなお気に入りになる確率も高いはず。こうしてどんどん興味の幅を広げていきます。hanaさんのお子さんたちは、この方法でYouTubeやゲームに使っていた時間の一部を読書にあてるようになったそう。何事も無理強いするのではなく、そっと手助けしてあげることが興味のきっかけになるのかもしれません。※画像は複数あります。左右にスライドしてご確認ください。 この投稿をInstagramで見る 整理収納アドバイザーhana@川崎/横浜(@hana.s_home)がシェアした投稿 [文・構成/grape編集部]
2023年07月02日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹■昨日まで知らなかった世界を、今日の私は知っている。皆さんにとって素晴らしい本とは何ですか?私にとって素晴らしい本とは、私をここではないどこかに連れ出してくれたり、作者独自の物事のとらえ方を教えてくれたりする本。本を読んでいると、そこにある言葉や景色に触発され、私はいろいろなところへ旅をします。というのも、私にとって本とは殆どの場合、“知識を得るための手段”ではなく“思考をするための手段”だからです。世の中の書き手のある全ての作品は、その人の思考、人生そのものであると私は考えています。他者の思考、人生に、たった数百円、数時間で触れる事ができる。いわば最も簡単な人生のチート技が“本を読むこと”だと思っています。この連載では、本が好きな人は、どんな事を考え、何を楽しみ、感じているのか。そんな事を交えながら、私のおすすめの本をテーマに沿って紹介していきたいと思っています。「本を読むのが苦手。何をどう面白がっていいのか分からない。でも、気にはなる」そんなよく耳にする不都合を解決できるような連載を志しています。■時間と命を考える『モモ(Momo)』ミヒャエル・エンデ著『モモ(Momo)』(ミヒャエル・エンデ:著、大島 かおり:翻訳 / 岩波書店)初回となる今回ご紹介するのは、小学生の私を旅に連れて行ってくれた思い出の本です。きっと多くの人が目にしたことのある小学校の図書室にも置かれているあの厚い特徴的な絵が表紙の一冊、ミヒャエル・エンデの『モモ(Momo)』。この物語のテーマは「時間」。少女が“時間泥棒”によって奪われた時間を取り戻しに行く物語です。最後には無事に“ソレ”を取り戻すことができるのですが、そのために少女がしたことは、ただ、相手の話を聞く事だけでした。本作は現代人が見失いがちな“時間の大切さ”を訴えているだけではなく、時間とは何か、命とは何か、死とはなにか、という誰もが心に一度は抱く問題をファンタジーという手法を使って子供にも分かる言葉で考えさせてくれる作品です。灰色の男達が言葉巧みに奪っていく“時間”。でも当の本人たちは、失われているのは単なる“時間”ではなく、“自分らしく生きる命”だという事に気づいていない。作中にある「人間とは時間を感じ取るために心というものがある」という一節からも、作者エンデさんは本作を通じて“時間とは命そのものである”ということを伝えたいのだと私は感じています。はたして小学生の私はどんな感想を抱いたのでしょうか。思い出せそうにもありませんが、きっとまたすぐこの物語にある言葉達に会いたくなるような気がしています。児童文学ではありますが、時間に余裕がない、毎日があっという間に過ぎていく“大人”にこそ触れてほしいおすすめの一冊です。■「TheBookNook」について今連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。一冊の本から始まる「新しい物語」。「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。↓ 八木奈々さんご紹介作品の購入はこちらから ↓
2023年06月30日10年ほど前から図書館によく行くようになりました。そこで毎回見かけるのが、テーブルで新聞を広げるおじいさんたちの姿。眼鏡を掛けながら新聞を広げるその姿を見るたびに、子どものころによく見た祖父の姿がよみがえり、懐かしさをかみ締めていました。そして、懐かしさとともに、あのころ感じていた疑問も、ふと思い出したのです。「なぜ祖父はいつも新聞を読んでいたのか?」と。★関連記事:「次の誕生日に死ぬわ」認知症を患っている祖父が唐突に宣言…!? #40代親バカ母 13子どものころに祖父母に抱いた疑問子どものころ、祖父母の家に行くといつも同じ光景が広がっていました。テレビが流れたままの居間で、座って新聞を広げている祖父と、その横で針仕事などをしている祖母。年中出しっぱなしのこたつのテーブルの上にはいつも何かしらの食べ物(お菓子や漬物、果物など)とお茶が置いてあって、祖父母はそれを時折口に運びつつ、眼鏡を掛けたり外したりしながら、それぞれの作業に没頭していました。そんな祖父母の姿は、家で見る自分の両親の姿とはまったく違っているのに、父方の祖父母も母方の祖父母も、他の親戚の老夫婦や友人の祖父母も、なぜか似通っていて、子どもながらに「夫婦は、年を取ったらこうやって過ごすものなのか」という思いとともに、3つの疑問を抱きました。1つは、なぜ眼鏡を着けたり外したりするのか。もう1つは、なぜ一年中こたつがあるのか。そして、なぜ祖父はいつも新聞を読んでいるのか。「どうしても知りたい」というほどの疑問でもなかったので、特に誰かに聞いたりもしなかったのですが、毎回疑問に思っていました。2つの疑問は解けたけれど子どものころに抱いた3つの疑問のうち、2つは、年齢を重ねるにつれて自分なりの答えが出ました。1つ目の「なぜ眼鏡を着けたり外したりするのか」については、単純に老眼だったのだろうと思います。2つ目の「なぜ一年中こたつがあるのか」については、いくつか答えの候補があるのですが……。まずは、こたつ布団の上げ下ろしが大変だったのではないかということ。それから、年齢とともに暑さ寒さを感じる感覚も鈍くなるので、あまり気にならなかったのではないかということ。他にも、寒暖差の激しい地域であることや、古い家で床が冷たいからなどが思い当たりました。こうして残る疑問は1つになったわけですが……。最後の1つはなかなか理由が思い当たりませんでした。実は小さいころに一度だけ、「新聞っておもしろいの?」と祖父に尋ねたことがあります。そのときの答えは「たまにおもしろい記事があるよ」でした。子どもから見れば、小さい文字が恐ろしくたくさん並んでいて、大層難しい読み物のように感じていただけに、楽しいから読むわけではないのかとますます謎が深まった瞬間でもありました。そんな疑問でしたが、年を経て、おじいさんになった父から回答を得ることになったのです。年を経て現在の父が、同じ姿にあれから時がたち、リタイアした父もまた、祖父たちと同じように新聞を読むようになりました。今までも毎朝読んでいる姿は見ていたのですが、リタイア後は読み方が変わりました。以前は全体を流し読みし、特定の記事だけをじっくり読むような読み方でしたが、最近は端から端までじっくり読むように。そのせいか、以前は新聞を縦半分に折り畳んで読んでいたのが、今はテーブルに広げて読むように。父は老眼がひどいこともあり、新聞を読むときは必ず老眼鏡を掛け、傍らに虫眼鏡を用意しています。そして、眼鏡を着けたり外したりする代わりに、虫眼鏡を出したりしまったり、近付けたりしているのです。そんなある日の会話中、父は「昔は年寄りってなんであんなにじっくり新聞を読んでいるのだろうって思っていたけれど、今ならわかる」と言うのです。父いわく、「時間ができて、今まではじっくり読めなかった記事もじっくり読めるようになった」ということが時間をかけて新聞を読むようになった元々のきっかけだけど、「その結果、読みたい記事も増えた」とのこと。また、昔に比べて集中力などが落ちて、本を読むのがつらくなってしまったけれど、新聞の記事はちょうど読み切りやすい長さになっているから、ついそちらを読んでしまうということでした。まとめ子どものころは読書好きだった父ですが、社会人生活の中で本を読む習慣が薄れてしまい、リタイア後、久しぶりに本を読んで大層驚いたそうです。集中力が落ちてしまいずっとは読めない、記憶力と理解力が落ちて度々前のページに戻らなければ話わからないなど、1冊読むのが大変で、おっくうになってしまったとのこと。一方、新聞は毎日内容が変わる短編集のようなもので、読みやすいのだそうです。そんな理由があったのかと非常に驚きました。それと同時に、年齢による衰えで読書もつらくなるのだと衝撃を受けた私は、「時間ができてから読もう」ではなく、長く読書を楽しむためにも、今から日々の読書習慣を持ちたいと思いました。※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。記事の内容は個人の感想です。イラスト/やましたともこ著者/おおさわ (40歳)長野県在住。低体温&極度冷え症脱出めざして、温活に夢中。
2023年06月23日