最初は下手で仲間にも雑魚と言われていたのに、それをばねに努力して成長。1番上手だった子とも今や立場が逆転。チームメイトに意見できるようになり、1番上手かった子にも指摘したら泣いてしまい、その子の親がうちの息子が悪いように言う。チームのためになることを子ども同士で話すのってダメなの?とのご相談です。子ども同士のいさかい、悩んでいる保護者も多いのでは?スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、悩めるお母さんに5つのアドバイスを授けます。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<強豪クラブに移籍してすぐにケガ。ひと月離脱の息子の力になりたい問題<サッカーママからのご相談>9歳の息子は地域の少年団のチームで1年生からサッカーをしています。最初は夫の希望で半ば無理矢理始めたサッカーですが本人もとてものめり込み、チーム外のスクールにもいくつか通い本人も自主練をこつこつと頑張りここ1年で目に見えて技術面が成長しました。最初はチームの戦力外で、元々上手な子にプレーのことで散々下手くそだの雑魚だの言われても、何も言い返せず悔しい思いを沢山してきました。それをバネに努力した息子を大変たのもしく誇らしく思っています。技術面や知識面が成長したことでチーム内に気になることも増えてきたようで、チームメイトのプレーに対してあれはこういう風にした方がよかった、と意見することも増えました。息子はとても真面目で気になることを流せないタイプなので時に言い方が強くなることもあります。入部直後1番上手で息子にあれこれと強く言ってきていたチームメイトは逆の立場となり、今は息子に何が言われると泣いてしまうようになりました。泣いた後すぐに親御さんは彼のそばに寄り彼の言い分だけを聞いています。彼の親御さんは「またそんなこと言われたの?ほんとに腹が立つね、言い返しなさい」と言ってまるで息子が間違っているような口ぶりで彼をフォローしていました。息子に話を聞いてみると あの時ああやったほうがチームのためになると思ったから言った。あいつが下手くそとか悪いとか言ってるんじゃないのに何で泣くのか分からない。 とのことでした。私はひとまず、言い方やタイミングを考えなさいとは伝えたものの、また同じようなことがあったときに息子だけが悪者にされる気がしてなりません。何も言うなと言うのは違う気もします。チームのためになると思うことを子ども同士で話すことは、ダメなことなのでしょうか。よく分からなくなってしまいました。<島沢さんからの回答>ご相談いただき、ありがとうございます。9歳ということは、3年生か4年生ですね。この年代になると、急に親や教師、コーチの言うことを聞かなくなります。児童心理学でいうところの「ギャングエイジ」です。自我が芽生えてきて、自己主張や衝動性が強く出るなどして、対応する大人からすれば大変ではありますが、子どもの成長発達の観点からみれば非常に重要な時期でもあります。■子ども同士のぶつかり合いは、こころの成長に必要なこと「いい子」でいさせようと押さえつけてはいけませんが、小学1~2年生の低学年時代では難しかった自制心や他者を思いやる気持ちを少しずつ育む必要があります。そのためには、時に仲間と言い合いをしたり、けんかすることも必要なことです。それなのに昨今は、大人たちが子ども同士がぶつかることを良しとしません。すぐに大人が仲介に入り、予定調和的に仲直りさせることが多いようです。子どものこころの成長に不可欠な「いさかい」を前もって大人が止めます。理由は「いじめに発展したら困る」とか「何かトラブルになったら困る」と一見すると子どものためのように映りますが、単に大人が子どもの成長を待てないだけ。結果的に、子どもが成長する機会を大人が奪っているのです。そこで、お母さんにアドバイスを五つ送らせてください。サカイク公式LINEアカウントで子どもを伸ばす親の心得をお届け!■親が解決する問題ではないと認識することひとつめ。まずは「これは親である私が解決する問題ではない」と認識しなくてはいけません。いさかいはサッカーコートの中で起きているのだから、これはコーチと子どもたちの問題です。「息子だけが悪者にされるのでは?」と心配したり、「チームのためになると思うことを子ども同士で話しちゃだめなの?」とお母さんがいきり立つ必要はありません。コーチと子どもたちが解決する問題なのですから、放っておけばいいのです。息子さんに意見され泣いた子どものそばに寄って行って「腹が立つね、言い返しなさい」と煽る親に対して、お母さんは不快に感じたはずです。子どものケンカに口を出しても、良いことは何一つありません。そこを理解できるのならば、万が一泣いた子の親に何か言われたとしても「子ども同士のことですし、サッカーの時間はコーチと子どものものなので私は口をはさむのは遠慮します」と言えばいいことです。とにかく泰然自若としていれば良いのです。何度も起きるようならコーチも手当するはずです。それをしないのなら、しない理由があるかもしれません。とにかく任せることです。■この問題に関与するのをやめること二つめ。息子さんにこのことを根掘り葉掘り聞くなどして、この問題に関与するのはやめましょう。ご相談文から、お母さんのほうからやや積極的にかかわっているように見受けられます。冒頭にある「最初は夫の希望で半ば無理矢理始めたサッカーだが、チーム外のスクールにも通い本人も自主練をこつこつと頑張りここ1年で目に見えて技術面が成長」と非常に熱っぽく書かれているのがとても気になります。まだ9歳です。子どものサッカーに入れ込み過ぎてはいませんか?まだ9歳ですから、仲間に誤解を与えたりやいさかいを招くこともあるでしょう。しかしながら、そこから得る学びや成長は大きいはずです。言い方とかタイミングなど細かいコミュニケーションスキルはこれから磨かれます。なにしろシュートを打たなければゴールが生まれないように、コミュニケート(意思を伝達)しなければスキルは向上しません。ただ、上述したように接近しすぎるきらいがあります。彼を伸ばしたいなら、両親ともにもう少し距離を置きましょう。■我が子の話に耳を傾けよう三つめ。親御さんがやったほうがいいことは、彼が仲間とのコミュニケーションで悩んで何か言ってきたら話を聴いてあげることです。ただただ、傾聴する。決して「ああすればいい」「こうすればいい」と指示命令しないほうがいい。お母さんに話すことで、問題が整理されたり、客観的に考えられたりすることもあります。その際、例えば「何で泣くのか分からない」と言った主旨のことを再び言ったり、その話が出てきたら、「分からない、で終わらずに、もう一度考えたらどうかな?」と問いかけましょう。そこで、「その子は自分が責められたような気がしたんじゃないかなあ?君はどう思う?」などとお母さんの意見を言ってもよいでしょう。ここで息子さんが学ぶべきは「他者の気持ちを汲む力」です。それを汲めたとしたら、「じゃあ、次は『君を責めているんじゃない。ミスは誰でもあるから』とか前置きしてから言ってみるね」などと解決策に気づくかもしれません。■子どもが成長するために自分はどうすればいいか、という思考にするこのように、起きたことすべてに対し「息子が成長するには、私はどうすればよいか?」というマインドセットにしておくこと。これが四つめです。子どものピンチは成長のチャンスであることが少なくありません。そのように考えると、息子さんを落ち着いて観察できるかと思います。■こころが乱れているときは動かないこと(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)最後の五つめは、焦って動かないこと。相談文の最後に「よく分からなくなってしまいました」と書かれているように、お母さんは現在大変不安になり、なおかつ混乱しているようです。こころが乱れているとき、要するに感情的になっているときは、絶対に動いてはいけません。まずは様子を見ること。私も、長男も、長女も、いろんなことがありました。しかし、「ま、ちょっと様子を見るか」と眺めていると、ほとんどの場合いつの間にか解決しました。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『高学歴親という病』(講談社α新書)。
2023年02月22日