人気の演劇ユニット“地球ゴージャス”を率い、自ら作・演出を手掛ける岸谷五朗が、14年ぶりに外部の舞台で主演する。作品は『焼肉ドラゴン』などで知られる鄭義信(チョン・ウィシン)の作・演出による音楽劇『歌うシャイロック』。シェイクスピアの傑作『ヴェニスの商人』の高利貸しシャイロックを物語の中心に据えて再構成、さらにそれを全編関西弁で贈るというノンストップエンターテインメントだ。鄭は、岸谷の出世作となった映画『月はどっちに出ている』(1993年)で、崔洋一監督と共に脚本を担当した時からの「主演俳優と作家という付き合い」(岸谷)。共に演劇畑にいながら「こんなタッグの形は初めて」と楽しみながら稽古開始を待つ岸谷が来阪、作品の魅力や意気込みを語った。「歌うシャイロック」 チケット情報演出では『キンキーブーツ』など“地球ゴージャス”以外の作品も手掛けている岸谷だが、俳優として舞台で主演するのは2008年の祝祭音楽劇『トゥーランドット』以来。この2年間で4作品に関わる多忙な中「ラッキーにもこの期間にお話をいただき『やっとできる!』という感じでした。役者だけで出られる幸せって、ほんとにたまんないですね。ドキドキです」と喜びながらも、「3人で苦楽を共にした」崔監督を11月に亡くし「なおさら、この作品を成功させなければという強い意志になりました」。通常は終始悪役のシャイロックだが、今作は目線が違う。「当時のイギリスのユダヤ人への差別と迫害の中を、シャイロックがどう乗り越えていったか。その開き直りと人生に対する憤りがエナジーにつながっている。脚本を読んで、なんてかわいそうな親子なんだろうと。その時代時代にある常識の怖さなど、ただの『ヴェニスの商人』にはない多面的なおもしろさがあって、ウィシンさんらしい、ウィシンさんじゃないと書けない作品だと思います」と魅力を語る。さらに「関西弁にすることで、シェイクスピアが近所のおっちゃんに見えてくるという親近感が作品全体の魅力になり、何倍もおもしろくなっています」。その関西弁は、2003年のNHK連続テレビ小説『てるてる家族』で関西弁のイントネーションを音符にして覚えた特訓が生きた。「シャイロックは悪徳高利貸しなので、言葉が非常に乱暴。ドラマのお父さん役にはなかった関西弁の悪い言葉がいっぱい出てくるのも楽しいですね」。この2年間、自作の大阪公演が中止を余儀なくされてきた岸谷。まだ続くコロナ禍での上演に「我々は作品を作ることが攻撃であり、乗り越えることだと思っています」と力強く語った。公演は2月9日(木)から21日(火)まで京都・南座、2月25日(土)から27日(月)まで福岡・博多座、3月16日(木)から26日(日)まで東京・サンシャイン劇場にて。チケット発売中。取材・文:高橋晴代
2023年02月06日綾野剛主演の日曜劇場「オールドルーキー」第4話が7月24日オンエア。新町の引退試合に「涙が止まらなかった」と感動の声が上がる一方、高柳社長の意外な一面と塔子がビクトリーに入社した理由にも多くの反応が送られている。日本代表にまで登り詰めたがその後低迷し所属チームが解散し引退することになったプロサッカー選手が、サッカー以外のスキルや経験が何もないなか第2の人生を歩むことになり、あるきっかけからスポーツマネージメントの道を進む…という本作。37歳で現役引退、スポーツマネージメント会社「ビクトリー」で働くことになったが、いまだサッカーへの未練が断ち切れない新町亮太郎を綾野さんが演じ、ビクトリーで亮太郎とコンビを組むことになる深沢塔子に芳根京子。サッカーが好きで新町に憧れているビクトリー社員の城拓也に中川大志。ビクトリーの社長秘書をしている真崎かほりに岡崎紗絵。仕事に対し冷めた視点を持っている梅屋敷聡太に増田貴久。最年長社員の葛飾吾郎に高橋克実。元アナウンサーでインスタグラマーとして話題になっている新町の妻・新町果奈子に榮倉奈々。果奈子の妹でグルメライターの糸山留美に生田絵梨花。新町のプロ復帰を願っている娘の泉実に稲垣来泉。その妹・明紗に泉谷星奈。ビクトリーを立ち上げた社長の高柳雅史に反町隆史といった面々も共演。※以下ネタバレを含む表現があります。ご注意ください。サッカーへの未練を断ち切れない新町は、今季限りで戦力外通告を受けるであろう横浜DeNAベイスターズ2軍選手の北芝謙二郎(板垣瑞生)と接するうちに現役復帰への意欲を強くする。そんな新町のもとに湘南ベルマーレの加入テストの話が。結局入団は叶わなかった新町だが、果奈子がビクトリーを訪れ、新町の引退試合をセッティングして欲しいと相談。ビクトリーの社員たちも参加して新町の引退試合を行うことになる…というのが4話のストーリー。「新町さんが引退試合でステキな結果を迎えられてよかた」「亮太郎さんの涙に涙腺崩壊 感動の引退試合だった」「最後にあんな素敵な笑顔になっているところを見たら涙が止まらなかった」など、サッカー選手として完全燃焼した新町に感動の声が上がるとともに、試合後に新町に駆け寄って抱きしめる泉実に「いずみちゃんの「パパかっこよかったよ」に涙 仲直り出来てよかった」「泉実ちゃんに変化があったのすごくよかった…」といった反応や「パパに駆け寄る泉実ちゃんをみて涙を流す果奈子さんに涙腺崩壊」と、果奈子の涙に触れた投稿も。一方、これまでクールな印象が強かった高柳が果奈子のファンだったことが判明。「果奈子ちゃん」とちゃん付けで呼び、果奈子が来社した際にはツーショット撮影を願い出るなど、“果奈子ヲタ”ぶり全開の姿に「社長おもろすぎるでしょ」「社長のかつてない程のハシャギよう」「こんな女性にデレデレの反町さん、GTO以来だろ」などの声が。さらに果奈子を前にした塔子も興奮のあまり、元々アナウンサー志望でスポーツ選手と結婚できるかもと考えビクトリーに入社したと“超ミーハー”な入社理由を告白。こちらにも「塔子さんワンチャン狙いでビクトリー入社してたのw」「塔子ちゃんそういう理由でビクトリーに?笑」「塔子ちゃんんんんん(笑)ビクトリー入社理由本音出過ぎてかわいい」といった反応も送られている。【第5話あらすじ】新町はサッカー日本代表候補で人気Jリーガーの伊垣尚人(神尾楓珠)から「助けて欲しい」と連絡を受ける。一方、城は無名のフェンシング選手・三咲麻有(當真あみ)にスター性を感じ「ビクトリー」にスカウト。さらに新町とも初タッグを組むことになり、気合いが入っていた。しかし三咲は極度の人見知りで新町たちは思うようにマネージメントができずにいた…。「オールドルーキー」は毎週日曜21:00~TBS系にて放送中。(笠緒)
2022年07月24日音楽劇の名作『三文オペラ』を、戦後の大阪へと舞台を置き換え、鄭義信が書き下ろした意欲作『てなもんや三文オペラ』。そこで演出も務める鄭と、ポール役のウエンツ瑛士に話を訊いた。逆境に生きる人々のたくましさを、時に切なく、時にユーモアたっぷりに描き出す鄭。その手腕は、古典的名作を題材にしたオールメール作品『泣くロミオと怒るジュリエット』(19年)でもいかんなく発揮された。本作はオールメールではないが、もともとポールはポリーという女性の役。その狙いを鄭はこう語る。「主人公のマックは、人たらしというか、男も女も魅了する人物。そういった意味で、ポリーが男性であってもいいんじゃないかなと。かといってLGBTQ問題をやろうというわけではなく、ただ原作よりも愛と希望のある作品にしたいとは思っています」生田斗真演じるマックは、大阪砲兵工廠跡地に残された屑鉄を売りさばく“アパッチ族”の親分。そのマックとウエンツ演じるポールが、結婚式を挙げるところから物語は幕を開ける。ポールについてウエンツは、「愛されるってことがそれまでほとんどなかったキャラクターだと思っていて」と切り出し、「そんな自分がマックに愛されて、しかも結婚出来る。それって時代背景も含めて、ポールにとっては一瞬も思い描くことが出来なかった、夢のようなことが起きているのかもしれないなと。その喜びの大きさを感じながら、今、役を作っている感じです」さらに自らの役どころから、こんなことも考えるそう。「ポールは親となかなか意見が相容れないわけですが、相容れない人と意見を交わすって、改めて大事なことだと思うんです。今って気が合わない人とは簡単に切れますが、その出会いに理由は絶対あるし、そういう人たちとのコミュニケーションこそ大事なんじゃないかと思わされていて。観た方がそんなことも感じてくれたら、とても嬉しいですね」生田、ウエンツのほか、笑いも熟知した手練れが多くキャスティングされており、コメディ要素もたっぷり。だが「戦争が深く影を落としている作品」と鄭が語るように、悲しくも“今”との共通点を痛感する舞台でもある。最後に鄭はこう語る。「僕たちのささやかな日常というのは、実はとてももろく、危ういものの上に成り立っています。だからこそ“愛”や“平和”というものが、生きていく上ではとても大切で。そういったことがビビットに感じられる作品になるといいなと思っています」公演日程は6月8日(水)~6月30日(木)に東京・PARCO劇場にて上演(※6月8日(水)18時~11日(土)13時公演は中止)。その後、福岡・大阪・新潟・長野と各地を巡る。チケットは発売中。取材・文:野上瑠美子
2022年06月03日鄭義信が結成し、大鶴佐助が座長を務める劇団ヒトハダの旗揚げ公演『僕は歌う、青空とコーラと君のために』が、4月21日に開幕。前日に行われたゲネプロの様子をレポートする。戦後の米軍御用達キャバレーに集う人々の切なくもおかしい人間模様が、1940年代のアメリカンポップスに乗せて綴られる本作。いつか日劇アーニーパイルの舞台に立つことを夢見るロッキー、ファッティー、ハッピーによる3人組のコーラスグループに、キャバレーのママが連れてきたゴールドが加わる。順調に活動するも、ハワイの日系二世であるハッピーの朝鮮戦争出兵によって、ルーツの異なる4人の絆は大きく揺らいでいく──。作・演出を鄭が手がけ、キャストは大鶴のほか、団員の浅野雅博、尾上寛之、櫻井章喜、梅沢昌代が名を連ねている。事前のインタビューで、鄭が「キャスト一人ずつソロ歌唱シーンを設けた」と話していた通り、群像劇の見せ場をヒット曲が彩る。中でもハッピー役の大鶴は、言葉と音の数が膨大な「Boogie Woogie Bugle Boy」(The Andrews Sisters:1941年)を英語詞で披露し、序盤から客席を湧かせた。朝鮮戦争から戻ったあと、心身ともに満身創痍の状態でこの陽気なナンバーをどうリプライズするか、鮮やかに揺れ動く感情の行方をぜひ見届けて欲しい。浅野は、太平洋戦争の特攻帰りである罪悪感を拭えずにいるロッキー役。これに加え、さらなる十字架を背負っている。その重さを仲間に打ち明け、懺悔する場面で見せる表情に注目だ。そんなロッキーを優しく見守るキャバレーのママ・ジーナには梅沢。コーラスグループの新人・ゴールドは朝鮮人。戦地へ向かうハッピーは敵国のアメリカ人にあたるが、これまでに育んだ友情が脳裏をよぎる。「それでも生きていて欲しい」というジレンマを、演じる尾上はハッピーに直情的にぶつけ、確かな存在感を残した。豊かな体躯で喧嘩シーンを圧倒するファッティーには櫻井。シリアスな展開の中に笑いをもたらすコメディリリーフ的な役割をまっとうしていた。上演時間は約120分(休憩なし)。公演は5月1日(日)まで、東京・浅草九劇にて。感染症対策を講じて上演される劇場公演のほか、PIA LIVE STREAMでは4月23日(土)17:00開演回の「オンライン生配信」を実施。48時間後の25日(月)16:59までアーカイブ視聴できる。チケット販売中。取材・文:岡山朋代
2022年04月22日鄭義信が結成し、大鶴佐助が座長を務める劇団ヒトハダの旗揚げ公演『僕は歌う、青空とコーラと君のために』の初日が迫る。戦後の米軍御用達キャバレーに集う人々の切なくもおかしい人間模様が、1930〜50年代のアメリカンポップスに乗せて綴られる群像劇だ。開幕を約20日後に控えた稽古場で、作・演出を務める鄭、そしてハワイの日系二世ハッピー役の大鶴がインタビューに応じた。劇団は「自分たち主体で何かを発信したい」という初期衝動の形(鄭)――鄭さんは劇団結成の経緯を「もう無縁だと思っていた劇団を、皆さんの熱意にほだされ結成することになりました」とコメントされました。作品をつくって上演するなら別の形もあるかと思いますが、あえて“劇団”にした意図を教えてください。鄭プロデュース公演が主流の中で「劇団をつくろう」という気は最初まったくなかったんですよね。飲み屋で話しているうちに、そういう流れになって。オファーを受け取って作品に参加するだけでなく、「自分たち主体で何かを発信したい」という強い初期衝動みたいなものが根底にありました。自分たちがやってみたいことに小回りの利く形でトライできる場、という文脈です。大鶴僕は櫻井(章喜)さんにお誘いいただき、結成のモチベーションをお聞きして共感しました。鄭さんと初めてご一緒した三人芝居の『エダニク』(2019年)に櫻井さんが観客としていらしていて。そのあと食事をご一緒した時にヒトハダの話をされていたので、「それ何のお話ですか?」と首を突っ込んだら……櫻井さんが「入る?」って。鄭もともと劇団は、僕が作・演出した『赤道の下のマクベス』(2018年)のキャストだった浅野(雅博)くんとヒロ(尾上寛之)が意気投合して生まれた話だったんです。「二人芝居を書いてもらえませんか?」と酒場に呼ばれて、ベロベロに酔っ払ううちに……いつの間にか劇団ができていた(笑)大鶴その御三方にどうして櫻井さんが加わることになったのか、いま劇団メンバー全員で話しても誰もわからないんです! でも櫻井さんがいなかったら僕は参加していないし、梅沢(昌代)さんだって……そうですよね?鄭みんなの間でよく話題に挙がるよね、「サク(櫻井)さんはいつからいるの?」って。僕とサクさんは『焼肉ドラゴン』(2016年)で一緒になったけど、ヒトハダ参加の経緯は誰も知らないんです。早くも劇団七不思議のひとつですね(笑)劇団の座長として、僕は何をすればいいですか?(大鶴)――劇団旗揚げのお知らせは最初、鄭さんお一人で行われました。そのまま主宰の座に就かず、大鶴さんを座長に据えたのはどういった経緯だったのでしょうか?鄭多数決です。普通は作・演出が座長になるのかもしれないけど……逃げました(苦笑)。言い出しっぺの浅野くんやヒロもやらないと言うし。「じゃあ誰がやる?」となった時に「いちばん若い佐助が適任では?」って。多数決したら全員一致で佐助に決定!大鶴僕、その場にいなかったんですよ? それで次の日に「佐助、座長になったからよろしく」って事後報告を受けました。最初はジョークだと思ったけど、どうやら本気らしく。――欠席裁判みたいですね(笑)。座長って何をされているんですか?大鶴僕もそれを知りたいくらいです。いろんな方に「座長って何をすればいいですか?」と聞いて回っているんですが……明確なことを誰も教えてくれません(笑)鄭あはは(爆笑)! まぁ、追い追いだよね。いろいろ責任をかぶることになるんじゃないかな。大鶴脅かすのやめてくださいよ!――たとえばオファーを受けて参加することになった現場と比べて、座長だと作品に取り組むスタンスが何か異なるのでしょうか?大鶴(しばらく思い浮かべて)……特に違わないですね。――じゃあ、なおさら「座長とは?」と迷宮入りしますね(笑)大鶴ホントですよ! 誰か教えてください(苦笑)――お父さまの唐十郎さんは状況劇場や唐組と大所帯を率いていましたが、大鶴さんにとって初めて携わる“劇団”はいまのところ、どんな場所でしょうか?大鶴父の劇団を指しているわけじゃなく、僕の勝手なイメージですが……劇団ってトラブルが多発するイメージがあるんですよね(苦笑)。いい意味でも悪い意味でも喧嘩があったり。でもヒトハダは劇団員がみんな優しく、人肌のように温かい。「こんなに平和で居心地のよい劇団あっていいんだ」と感じるほどです。芸達者な先輩たちから、いろんな刺激をたくさん頂戴したいと思っています。一人一曲、見せ場にソロ歌唱があります(鄭)――鄭さんは、大鶴さんの俳優としての魅力をどんなところに感じていらっしゃいますか?鄭まだ若いので飲み込みが早く、柔軟ですね。頭がやわらかすぎるのか、演出の要求に対して「それでいいんか?」って変化球を投げてきます。たとえば僕が「現状こうなのを、こういう風に変えてみて」と要求したことに対して、こちらの想像より一歩二歩違ったところに着地するというか。演劇DNAというか、思考回路が本当におもしろい。思わず「どんどんやれ」って助長してました(笑)――大鶴さんは『エダニク』でご一緒された時に感じた鄭演出の魅力をどのように感じましたか?大鶴静かな会話劇だと思って、本読みの時にストレートにやっていたら……鄭さんから「もっと声を出してみて」とか「今度は東北のおばあちゃんが孫に語りかけるように」といろんなパターンでセリフを言うことを求められました。実際にやってみたら、最初に一人で台本を黙読していただけでは想像もつかなかった人物像が立ち上がっていて。そこからすごく楽しくなりましたね!――鄭さんの戯曲に挑戦するのは本作が初めてですよね? 大鶴さんが『僕は歌う、青空とコーラと君のために』をお読みになって感じたことを教えてください。大鶴戦後の進駐軍クラブに出入りしている、ハワイの日系二世や在日朝鮮人が組んだコーラスグループの物語です。登場人物すべて、戦争に対して抱えているわだかまりや屈託のグラデーションが異なっていて。各自のルーツが異なることに起因するんですが、それでも同じ歌を口ずさみ、歌声で共鳴し合っている。それが素敵だなって思いました。シリアス一辺倒かと思えば、笑えるシーンもあって。緊張と緩和が効果的に活用されていて、ご覧になっている方は感情を揺さぶられるんじゃないかと思います。鄭前々から進駐軍のキャンプまわりにいたコーラスグループの存在に興味があったので、彼らを題材にした物語をつくりたいと構想していました。そこに普段からよくテーマにしている在日外国人やマイノリティを登場させることで、僕らしさを発揮できるのではないか、と思って。それと劇団の“旗揚げ公演”だから、キャストの歌声やピアノの生演奏で華々しく盛り上げたいという気持ちもあって、メンバーには台本よりも先に「あなたの役が歌うソロパートの楽曲はこれです」ってタイトルを渡しました。一人一曲、見せ場にソロ歌唱があるんです。大鶴鄭さん、執筆前に「みんな歌えるよね?」って確認してましたよね。僕、本格的なミュージカルではないけれど「音楽劇なら」とお答えしたら、おそらく登場するナンバーの中でダントツに難しい「Boogie Woogie Bugle Boy」(The Andrews Sisters:1941年)を充てがわれて(笑)。歌詞は英語で言葉数も多いわ、テンポも速いわで……大変です。はじめは「あれヤバい、歌いこなせるか?」って不安でしたけど、練習を重ねるうちに楽しめるようになりました。鄭そうだね、少しずつサマになってきたんじゃない?役人物として揺れ動くのが楽しみ(大鶴)――配役はどのように考えられたのでしょうか?鄭メンバーの顔を見渡して、少しだけハードルの高い役割をそれぞれに与えました。各自苦労するポイントもあると思いますが、これから稽古で詰めていきます。佐助が演じるハワイの日系二世ハッピーには、彼のちょっとトボけたところを乗せてみました(笑)――大鶴さんのハッピーにはどんなハードルを課したのでしょうか?鄭ハッピーは途中でコーラスグループを抜け、朝鮮戦争へ行くんですね。そこから帰って来て、どういう人間に変化しているか。これが佐助にとって、ハードルになるでしょうね。きちんとハッピーを掴んで演じ切ることができたら、いつもよりオトナな佐助を見ていただけるんじゃないでしょうか。大鶴そうですよね。彼を掴むために、ここ2週間くらい鄭さんからお借りした『ハワイ日系二世の太平洋戦争』という資料を読んでいました。敵として日本と向き合うことになった彼らは戦争をどのように受け止め、生きてきたのか書かれた本です。彼らはローマの百四十高地で同僚の兵士がバンバン死んでいく悲惨な状況を体験したうえで、また朝鮮戦争に駆り出される。そりゃハッピーの心はボロボロになりますよね。――しかもアメリカ人のハッピーに対して、コーラスグループのメンバーはアメリカの敵国である朝鮮人なわけで。大鶴そうなんです。この歴然とした事実を受け止めて、自分の中にものすごく大きな根を張らないと……虚構に見えてしまうんじゃないか、と思いました。でないと、単なるハッピー野郎になってしまう(笑)鄭ハッピー野郎!(爆笑)――深い根を張るために、鄭さんからお借りした資料をお読みになったのですね。大鶴はい。知識を得たので、これから稽古でどんどんアウトプットしていきたいです。資料を読んでおもしろいと思ったのが、ハワイの日系二世ってそんな凄惨な戦争体験をしたと感じさせないくらい、普段はあっけらかんとしていること。これ、わりと誰にも当てはまる普遍性なんじゃないかと思いました。人間ってずっと過去にとらわれて生きているわけじゃない。ツラいことを忘れるために、矛盾を抱えることだってありますよね。――ハッピーの人物造形にも当てはまりそうなお考えですね。大鶴そういう人間くさいところを、鄭さんは日常と地続きに描いていらっしゃいます。コーラスグループの愉快な掛け合いをしたかと思えば、急にシリアスになって場をまとう空気の色が変わる。すごくリアルな台本だと思いました。そんな劇世界の中で、いまからハッピーとして揺れ動くのが楽しみでなりません。取材・文:岡山朋代撮影:川野結李歌ヒトハダ旗揚げ公演『僕は歌う、青空とコーラと君のために』(劇場公演/配信公演)チケット情報はこちら
2022年04月15日亜細亜の骨/SORIFA企画主催による、みょんふぁ一人芝居『母My Mother』(作・演出:鄭義信)が2021年12月22日 (水) ~2021年12月28日 (火)に下北沢シアター711(東京都世田谷区)にて上演されます。チケットはカンフェティ(運営:ロングランプランニング株式会社、東京都新宿区、代表取締役:榑松 ⼤剛)にて10月20日(水)より発売開始いたしました。カンフェティでチケット発売中 『母My Mother』公式ホームページ 亜細亜の骨公式ホームページ 激動の時代、戦争や歴史に翻弄されながらも世界中を魅了した世紀の舞姫・崔承喜とその娘・・・彼女たちの最期を知るものは誰もいない。女優・みょんふぁと劇作家・鄭義信がタッグを組み、崔承喜と娘のものがたりが生まれる。舞踊に全てを捧げ、世界中を駆け巡った伝説のスターを「母」に持つ娘・安聖姫の視点から「崔承喜」の光と陰を描く。企画・出演みょんふぁ×作・演出鄭義信 世界中を虜にした世紀の舞姫の存在が、今、蘇る!<崔承喜・伝説の舞姫を語り継ぐ>日韓の演劇や映画界で目まぐるしい活躍を見せる鄭義信の新作は、「世紀の舞姫」として世界中で注目されながらも、時代と戦争に翻弄された伝説の舞姫・崔承喜と、その娘の物語。本公演企画者でもある在日三世の、女優・みょんふぁは、幼少期より韓国舞踊団に所属し、舞踊を通して「崔承喜」の存在を知り、その生き方に心を寄せ、いつか自分で演じることを願い続けていました。そしてついに機は熟し、鄭義信の書下ろし・演出で、今回、舞台化する運びとなりました。悲劇的な歴史に翻弄された、謎多き世紀の舞姫の記憶が、今、舞台に蘇ろうとしています。どうぞご期待ください!崔承喜(Sai Shoki・チェ スンヒ)1911年、日本の植民地下だった京城(ソウル)で生まれた崔承喜は、15歳の時、日本のモダンバレエの先駆者・石井獏の舞台に感銘を受け、東京に渡り門下生になりました。民族の心、東洋の美を取り入れた朝鮮舞踊を次々と発表。その情熱的な踊りは一瞬にして人々の心を捉えました。「半島の舞姫」と称され、川端康成をはじめ多くの文化人に愛され、その美貌と情熱的な創作朝鮮舞踊で、瞬く間にスターとなり、3年に及ぶアメリカやヨーロッパ、中南米での海外公演でも大成功をおさめ、ピカソやジャン・コクトーからも大絶賛。「世界の舞姫Sai Shoki」と、一躍大スターとなりました。しかし、日本が太平洋戦争に突入。戦火を避けるため韓国へ戻るも、日本の慰問活動を行っていたことなどから“非国民”と罵倒され、戦後は北朝鮮に移り住みます。平壌で舞踊研究所を設立し、北朝鮮を代表する舞踊家として活躍していた最中、1967年、夫の安漠、娘の安聖姫とともに、突然、消息不明となります。その最期を知る者は誰もおらず、2003年に名誉回復されるまで、韓国でも北朝鮮でも崔承喜について語ることは許されませんでした。闇に消された崔承喜とその一家。今なお、世界中の研究家たちが彼女に魅了され、その真実を追い求め続けています。みょんふぁ(洪明花)プロフィール女優 / 通訳・翻訳家(日英韓)/司会/ナレーター/プロデューサー幼少期より大阪の韓国舞踊団”グループ黎明”に所属。大阪芸大音楽学科卒業後"劇団そとばこまち"を経て、東京を拠点に女優としてソロ活動を開始。コメディからシリアスな作品まで数多くに参加し、年齢不詳な幅広い役柄をこなすと定評がある。2014年、文化庁の在外研究制度により韓国国立劇団に留学。帰国後は日韓合作の舞台や映画でも活躍し、韓国の作家の翻訳戯曲を次々と上演したことが評価され、2017年小田島雄志翻訳戯曲賞受賞。近年の作品に映画『血と骨』『中学生円山』『湖底の空』舞台『客たち』『コタン虐殺』など。鄭義信脚本家・演出家・映画監督1993年に『ザ・寺山』で第38回岸田國士戯曲賞を受賞。その一方、映画、テレビにも進出し『月はどっちに出ている』、『愛を乞うひと』の脚本によりキネマ旬報脚本賞、日本アカデミー賞最優秀脚本賞など数々の賞を受賞。演劇では『焼肉ドラゴン』において第8回朝日舞台芸術賞グランプリ、第12回鶴屋南北戯曲賞。第16回読売演劇大賞・最優秀作品賞。第59回芸術選奨文部科学大臣賞、韓国でも演劇評論家協会の演劇ベスト3に選ばれるなど、数々の演劇賞を総なめにした。また同作は、鄭義信自身の手によって映画化もされ、日本映画批評家大賞作品書を受賞した。近年では『パーマ屋スミレ』『たとえば野に咲く花のように』『泣くロミオと怒るジュリエット』など多数の話題作を生み出している。2014年春の紫綬褒章受受章。『母My Mother』ストーリー崔承喜がこの世を去った24年後の1993年。東西ドイツが統合された3年後。今は北朝鮮の寒村にひっそりと暮らす娘・安聖姫の元に、日本から取材者が訪れる。最初は口が重かった聖姫だが、しだいに母のことを語りはじめる。日本の植民地下に生まれ、太平洋戦争、朝鮮戦争と、時代の荒波の中でも踊り続けた母、ひたすら自分の踊りを求め続けた母、時代にのみ込まれまいと懸命に生きた母……その踊りは東洋を代表するものとして、世界中で脚光を浴びる。幼かった聖姫は母に憧れ、母と同じく踊る道を選ぶ。踊りのために日本、韓国、北朝鮮と転々と移り住みながら、華々しい脚光を浴びる母と娘……しかし、時代の波は激しく、二人に襲いかかってくる。踊ることが許されない時代がやってくる。その時、母と娘が選択したものは……母と娘だけが知る真実とは……。公演概要みょんふぁ一人芝居「母 My Mother」作・演出:鄭義信(新作書き下ろし)公演日:2021年12月22日(水)〜28日(火)会場:下北沢シアター711(東京都世田谷区北沢1-45-15)■出演みょんふぁ(洪明花) / チャング演奏: 李昌燮(イ チャンソプ)■スタッフ舞台美術:池田ともゆき、照明:増田隆芳、音響:百合山真人、衣裳:阿部美千代ヘアメイク:高村マドカ、振付:金 有悦、演出助手:根本大介、翻訳:洪明花舞台監督:吉木 均/森下紀彦、宣伝美術:奥秋 圭、映像:市野龍一、写真:横田敦史制作:秋元けい子/はざまみゆき後援:駐日本大韓民国大使館韓国文化院 /一般社団法人日本演出者協会/一般社団法人 日韓演劇交流センター特別協力:河 正雄(韓国光州市立美術館名誉館長)/外村 大(東京大学教授)協力:CESエンターテインメント/ハイリンド/Myrtle Arts(マートルアーツ)企画製作:SORIFA/洪 明花主催:亜細亜の骨■チケット料金前売3,500円当日3,800円U25(25歳以下)2,500円*U25券はMyrtle Artsでのみ受付。当日は証明書が必要(全席指定・税込) 詳細はこちら プレスリリース提供元:NEWSCAST
2021年11月02日アイドルグループ・SKE48の松井珠理奈と高柳明音の卒業コンサートの日程が決定した。高柳は4月10日、松井は4月11日にいずれも名古屋・日本ガイシホールで開催される。SKE48は23日、YouTube公式チャンネルとSHOWROOMで「SKE48 2021年 重大発表」と題して緊急生配信を行い、司会の斉藤真木子から日程を発表。高柳は2019年10月に卒業を発表し、2020年3月15日に神奈川・横浜アリーナで、松井は2020年2月に卒業を発表し、2020年9月26日、27日に日本ガイシホールでそれぞれ卒業コンサートを行う予定だったが、新型コロナウイルスの影響で延期となっていた。4月11日は、昼公演に「卒業だよ! 全員集合!~Let’s Sing!~」を、夜公演に「松井珠理奈卒業コンサート@日本ガイシホール ~珠理奈卒業で何かが起こる!?~」を開催。松井はコンサート決定について「約12年間アイドルとして活動してきて、ファンの皆様への感謝の気持ちが一番大きいので、有観客という形でコンサートができることがすごく嬉しいです。そしてずっと隣にいてくれた2期生の高柳明音ちゃんと一緒に卒業できるのが嬉しい」と2つの喜びを語る。また「いろんなメンバーが活躍するコンサートになっていると思いますので、私のファンの方以外のSKE48ファンの方にも絶対に足を運んでほしいですし、観ていただけたら嬉しい内容になっています」と呼びかけた。4月10日に「SKE48アリーナコンサートin日本ガイシホール 私の兆し、皆の兆し ~あかねまちゅりだ!~」の開催が決定した高柳は「ファンの皆さんに、無事にコンサートができることを1年越しにやっと発表できたので、良かったなと思います。無事に開催されることを祈ります」とコメント。タイトルについて「私にとって門出となるもので、一つの兆しになっていくだろうし、メンバーにとっても、こういう大きい会場でステージに立つのは久しぶりだったり、初めての子もいると思うので、その子たちに『アイドルって楽しいな』と改めて感じてもらえるようなきっかけになったら嬉しいです」と思いを明かし、「ずっと応援してくれて、ずっと待っていてくれているファンの皆さんにとっても、『このコンサート楽しかったな』という思い出がなにか一つの光になったらいいなと思うので楽しみにしていてほしいです」とファンへメッセージを送った。
2021年02月24日今春にSKE48を卒業する高柳明音の2nd写真集『いつか、 思い出したいこと。』(光文社/3月4日発売/2,000円税別)の限定版表紙が15日、公開された。今回公開されたのは、セブンネット、楽天ブックス、HMV限定の表紙カット。「脚フェチさんにオススメの表紙です!(笑) ニットをぶかぶかに着るの、女の子ならきっと好きですよね」とアピールするセブンネット限定表紙は、女子旅で人気の新興リゾート地・ダナンのホテルの部屋で撮影。下着にラフなニットを羽織り、4日間に及んだベトナムの旅を窓辺で振り返っている。ダナンのビーチで撮影した楽天ブックス限定表紙は、「雨季のため、天候も不順で涼しい」という天気予報も見事に外れたことから、「雨予報だったベトナムを、晴れ女の私が見事晴れさせて撮れたショット!(笑) 唯一の水着表紙は爽やかでお気に入りです。記念におひとつどうぞ!」と呼び掛ける。世界遺産の街・ホイアンの夕景をバックに撮影したHMV限定表紙。幻想的で歴史ある街並みを、「沈む夕日をバックにいい雰囲気のお店で大人な一枚。 ここで飲んだマンゴージュースが美味しかったなぁ」と振り返っている。1st写真集『ちゅり』(15年/光文社)から約4年半ぶりとなる本作。初のランジェリーショットにも挑戦し、ベトナムでの撮り下ろし以外にも、約11年間のアイドル活動や今後について語った1万3,000字に及ぶロングインタビューも収録されている。
2020年02月15日作・iaku横山拓也、演出・鄭義信の舞台『エダニク』が6月から7月に東京・浅草九劇で上演される。出演者の稲葉友、大鶴佐助、中山祐一朗(阿佐ヶ谷スパイダース)に話を聞いた。【チケット情報はこちら】『エダニク』は、横山が2009年に書き下ろした、食肉加工センターを舞台にした三人芝居。初演以降、さまざまな演出家により再演を重ねられている作品で、鄭が演出を手掛けるのは今回が初。本作について稲葉は「三人芝居、ワンシチュエーション、会話劇…きっと密度が濃いものになるはず。それをどれだけ楽しめるかですよね。この本が鄭さんの演出でどんなふうに変わっていくかも楽しみです」。大鶴は「屠殺場の話ということもあり、直接的ではないにしろ、死の臭いみたいなものがずっと空気中にあるようなイメージです。そんな中3人しか登場しない人物達も、それぞれ抱えてるモノが違う。ひとつの空間が物凄い密度になるんだろうなと思いました」。中山は「最初は真面目な話なのかと思ったのですが、徐々に滑稽になっていく感じがいいなと思いました。最初は真面目に観始めて、“あれ?これはおもしろい芝居に発展するんじゃない?”と思い、“やっぱりそうだった!いい芝居観たな”という感じで。お客さんも楽しめるんじゃないかなと思います」とそれぞれの印象を語る。自身の役柄について、食品加工センターの若手作業員を演じる稲葉は「嫁がいて子供がいるという役も初めてですし、屠殺場で働いている人は身体が大きいのでそういうビジュアルもつくっていかなきゃいけない。今までにないアプローチになりそうです」。取引先の若手社員を演じる大鶴は「純粋なのかひねくれてるのか分からない様な所があるので、そこも楽しみたいです」。センターのベテラン作業員を演じる中山は「おっさんの役は、実はあまりやったことがないので楽しみです。役が関西弁なのですが、今までは僕が稽古場で関西弁を話すと“その設定やめよう”と言われてきたのでビビッてます。なんとか関西弁の似合う強面なおっさんをやりたいです」とコメント。鄭の演出は舞台『すべての四月のために』(2017年)ぶりの稲葉は「鄭さんはご自身のことを“アジアで二番目にしつこい演出家”と言っているのですが、本当にしつこいんですよ(笑)。稽古がすごく濃密。そのなかでさまざまな変化があると思うので、そこも楽しみにしています」と意気込んだ。『エダニク』は6月22日(土)から7月15日(月・祝)まで東京・浅草九劇にて上演。取材・文:中川實穗
2019年04月05日『焼肉ドラゴン』『パーマ屋スミレ』など時代に翻弄される在日コリアンの姿を描いてきた鄭義信の新作である『赤道の下のマクベス』が3月6日(火)より東京・新国立劇場にて上演される。池内博之、平田満ら実力派俳優がそろった稽古場に足を運んだ。【チケット情報はこちら】『焼肉ドラゴン』などで“家族”を描いてきた鄭だが、本作では終戦から2年後のシンガポールのチャンギ刑務所を舞台に、死刑を宣告され、執行を待つ朝鮮人と日本人BC級戦犯たちの姿を描いている。なぜこの題材を?そんな問いに鄭は「僕の父は戦時中、憲兵をやっていて戦後、対日協力者として村八分にされました。上官の命令に従った朝鮮、台湾出身の軍属がBC戦犯として裁かれ、彼らの遺族も戦後、対日協力者として厳しい扱いを受けたという事実を知り、父と重なる部分を感じた」と明かす。この知られざる歴史が大きなテーマであることは事実だが、舞台上で展開するのはあくまでも、いつ訪れるとも知れぬ死刑を前にした者たちによる徹底した人間ドラマ。朝鮮人の軍属だった南星(ナムソン/池内)、文平(ムンピョン/尾上寛之)に年配の日本人兵士の黒田(平田)、戦時中は大尉として朝鮮出身の軍属たちをしごき、戦後は一転、彼らと同じ獄に繋がれることになった山形(浅野雅博)、その山形らの命令で捕虜を使役したことで戦犯となった春吉(チュンギル/丸山厚人)など、異なる出自や立場の者たちが死を前に同じ刑務所で生活している。静かに死を待つ者、諦めに似た境地でおどける者、絶望する者、自分は助かるはずだと信じる者、死を前になお復讐を企てる者など、彼らの心情は様々…いや、ひとりの人間の心情さえもコロコロと変わっていくし、それぞれの関係性も憎み合ったかと思えば、死という共通の未来を前に共感や同情、赦しを抱くようになるなど、目まぐるしく変化していく。そして、舞台上で登場人物たち以上に強い存在感を放っているのが、絞首刑の台である。「笑わせたい。こんな状況だからって暗く演じる必要はない」という鄭の言葉通り、池内演じる南星を中心に、日々の営みの中に笑いやユーモアが散りばめられながら物語は展開するが、一方で、どんな時も死刑台は常に“神”のごとく彼らを見下ろし、死がいつ訪れてもおかしくないのだと知らしめる。タイトルにある「マクベス」は役者を志していた南星が常に持ち歩いている古い文庫の戯曲。殺さずとも王になれたはずのマクベスがなぜ王殺しに手を染めたのか? 南星はそんな大命題とも言える疑問を抱く。登場人物は全員男。鄭は「更衣室が男臭いらしい」と笑い「男子校の部室みたい」と評するが、稽古場で男たちがぶつかり合う姿からも、南方の太陽や土ぼこり、血と汗のにおい、生への渇望、死の重みがひしひしと伝わってきた。『赤道の下のマクベス』は東京・新国立劇場にて3月6日(火)より開幕。取材・文・撮影:黒豆直樹
2018年02月26日新国立劇場で連続上演中のシリーズ“鄭義信三部作”、そのラストを飾る舞台『パーマ屋スミレ』が5月17日(火)に小劇場にて開幕する。劇作家・演出家の鄭義信が「激動の昭和の時代に翻弄された、庶民の姿を描きたい」として発表した三部作のうち、『パーマ屋~』は1960年代半ば、九州のとある炭鉱町を舞台に展開。そこで暮らす在日コリアンの炭鉱労働者の家族や彼らを取り巻く人々の、苦境に負けずに力強く生きる姿を、笑いと涙で鮮烈に綴った物語だ。理容室を営む須美役の南果歩、その姉・初美役の根岸季衣など、2012年の初演とほぼ同じキャストが揃うなか、須美の夫・成勲(ソンフン)役の千葉哲也、その弟・英勲(ヨンフン)役の村上淳が今回の再演に新加入。稽古場では、鄭の熱のこもった指揮のもと、激しくも温かい九州の方言が飛び交っていた。舞台『パーマ屋スミレ』チケット情報床屋椅子がひとつポツンと置かれた理容室、路地にある手押しポンプや共同便所など、稽古場に精密に建て込まれたセットから、1965年の炭鉱町の風情が存分に伝わってくる。理容室の座敷に祖父・洪吉(ホンギル)役の青山達三が横たわった状態で、鄭の合図で一幕の頭から立ち稽古が始まった。語り部となる中年の大吉(酒向芳)が登場し、空間を仰ぎ見ながら少年時代を懐かしむ。その穏やかな口調が引き出す郷愁に、早くもささやかな悲劇の匂いを感じて胸を突かれるが、少年大吉(森田甘路)のけたたましい登場とともに空気は一変。続々と生命力あふれるキャラクターが現れ、嵐のような勢いで観る者を巻き込んでいく。須美の妹夫婦(星野園美、森下能幸)がくりひろげる夫婦漫才調のやりとりに笑わされ、生活臭を漂わせた初美・根岸のたくましさ、不甲斐ない夫に怒声を飛ばす須美・南の気っ風の良さに圧倒される。負けじと声を張ってずる賢くかわす成勲の、千葉が見せる狡猾な表情も失笑せずにいられない。片足を引きずって歩く英勲だけは、村上が静かな笑みに諦観の色をにじませて独特の印象を残していた。ドラマの序盤、駆け抜けるような彼らのやりとりを鄭は楽しそうにみつめながら、「だんだんたっぷりと演じてしまっているから、もっと早く」とテンポの良さの重要性を強調。その一方で、根岸が三段落ちのようにして言葉をたたみ掛け、笑いを誘う場面では、「もっと三回目を長くねばって」と要求する。演出家が好む“くどい笑い”へのこだわりに応えるべく、根岸が何度もシーンを繰りかえし、周囲から爆笑を引き出していた。強烈な言葉の応酬、おおらかな仕種から感じとれるのは人間の底知れぬ強さ、突き抜けた朗らかさだ。だがその後に続く物語は、炭鉱事故で彼らの生活が打ち砕かれる様を厳しく映し出す。それでも鄭は、懸命に生きる人々の姿に必ず“笑い”をまとわせることを忘れない。『焼肉ドラゴン』、『たとえば野に咲く花のように』と続いて話題を集めた鄭義信の人間ドラマ、その最終章もやはり、胸をえぐる衝撃が待ち構えているに違いない。公演は5月17日(火)から6月5日(日)まで。前売りチケット発売中。取材・文:上野紀子
2016年05月06日新国立劇場にて過去に上演され、戦後まもない日本社会でたくましく生き抜く人々の姿を在日コリアンの視点を絡めて描き、大きな反響を呼んだ鄭義信作の『焼肉ドラゴン』『たとえば野に咲く花のように』『パーマ屋スミレ』。この3作が3月から6月にかけて新国立劇場で一挙再演されることになり、1月19日に制作発表会見が行われた。鄭義信三部作 チケット情報会見には鄭義信、新国立劇場芸術監督の宮田慶子、『焼肉ドラゴン』からナム・ミジョン、ハ・ソングァン、馬渕英里何 、中村ゆり、高橋努、『たとえば野に咲く花のように』から演出の鈴木裕美、ともさかりえ、山口馬木也、村川絵梨、石田卓也、『パーマ屋スミレ』から南果歩、根岸季衣、村上淳、千葉哲也の総勢16名が出席した。『焼肉ドラゴン』と『パーマ屋スミレ』は鄭が自ら演出も務め、今回の三部作連続上演を「光栄の至り」と喜びをかみしめる。3作ともキャストの一部を入れ替えての上演となるが「新たな、錚々たるキャストのみなさんと新しく作るということで、喜びと不安、期待でいっぱいです」と意気込みを口にした。『焼肉~』はすでに本読み稽古がスタートしており、初演時に客席で鑑賞し、感動に打ち震えたという馬渕は、エネルギーあふれる脚本との格闘に「読んでるだけでボロボロになります(苦笑)。嬉しくて仕方ないんですが、本を開くと疲れます…」と苦笑いしながらも、「この作品の一員になれる幸せを噛みしめつつ、初演、再演以上の新しい『焼肉ドラゴン』を作れるよう稽古を重ねたい」と力強く語る。『たとえば野に咲く~』主演のともさかは「新国立劇場も鄭さんの作品も(鈴木)裕美さんの演出も初めての“初めて尽くし”です」と緊張の色を浮かべ、「どんな新しい景色が見られるか、楽しみ半分、恐ろしさ半分です」と語る。初演に続いて演出を務める鈴木は「演劇、俳優の力を信じている本だと思います。どの人物も美しさと頭の悪いところが、両方とも描かれている」と改めて鄭の作品の魅力を語った。4年前の『パーマ屋~』初演以来「誰よりも再演を熱望してきた」と自負する南は感慨もひとしおのよう。「鄭さんは『アジアで二番目にしつこい演出家』とご自分で仰ってましたが、北半球で一番ではないかと思います(笑)」とキッパリ。これには鄭も「アジアで一番になるように頑張りたい(笑)」と応戦。南はさらに「人生を懸けてもいいと思えぶつかりがいのある山で、役者にとって最高の幸せであり、不幸であり(笑)、試練!今後、こういう役に出会う機会はないかもしれないという思いで一期一会を感じています」と本作への特別な思いを吐露し、並々ならぬ意気込みをうかがわせた。『焼肉ドラゴン』は3月7日(月)から27日(日)、『たとえば野に咲く花のように』は4月6日(水)から24日(日)、『パーマ屋スミレ』は5月17日(火)から6月5日(日)まで、新国立劇場小劇場にて上演。なお、チケットぴあでは三部作特別割引通し券を1月21日(木)まで発売中。
2016年01月20日アイドルグループ・SKE48の高柳明音が映画初主演を務める『浄霊探偵』(7月18日公開)の予告映像が17日、公開された。SKE48のチームKIIのメンバーとして活躍する高柳は、6月6日に開票された第7回AKB48選抜総選挙では、2013年の23位、2014年の31位から一気に順位を上げて14位にランクイン。デビュー以来初となるAKB48シングルの選抜入りを果たしたことで注目を集めている。そのことについて、同グループのメンバーで、先日卒業を発表した松井玲奈は、6月10日に放送されたニッポン放送『AKB48のオールナイトニッポン』内で、「ちゅり(高柳)が16人の中にいて選抜の衣装を着て歌っているのを見た時に、『ああ、あの子羽ばたいた』と思って、すごくうれしかった」とコメントを寄せていた。今回公開された予告動画は、人気番組「心霊ハンター」のヤラセ調査を、かつて霊能師としての修行経験を持つ探偵・小笠原篤(今野悠夫)が依頼されるところから始まる。番組では、高柳演じる鹿篭百合香の実家を除霊しようとするが、彼女の家は不可解なほどに数々の不幸が続いていた。撮影が進む内に、真相を探る小笠原と霊能師・黒川無山が対決していく様子が描かれ、高柳はその争いに巻き込まれていく百合香として、緊迫感のある演技を見せている。本作でメガホンとるのは、『ソードシーカーズ~刀狩るもの~』(2008年)で監督デビューした都築宏明監督。『窓辺のほんきーとんく』(2008年)の今野悠夫が高柳とW主演を務める。(C)2015「浄霊探偵」製作委員会
2015年06月17日30年以上の長きにわたりお昼の顔として放送されてきた『森田一義アワー 笑っていいとも!』がグランドフィナーレを迎えようとしています。今回はこの長寿番組のロゴについて、株式会社フジテレビジョンの番組広報担当者にお話を伺いました。――『森田一義アワー 笑っていいとも!』のロゴは誰が作ったのでしょうか?フジテレビが現在のお台場でなく、河田町にあったころのお話になります。32年前、弊社タイトルデザイン室に在籍した高柳義信さんが担当いたしました。――会社内で制作されたのですか。はい。番組プロデューサー、ディレクターからの依頼で、候補を5つほど制作し、その中から現在のものが選ばれたようです。――『森田一義アワー 笑っていいとも!』のロゴは32年前から現在まで変化していないのですか?ロゴは番組のスタート、82年10月4日に合わせて作られ、以降今まで同じロゴです。――どのようなデザイン意図でロゴは制作されたのでしょうか?イメージとしては、「○ですか?」という問い掛けに対して、「いいとも!」と答える、「同意」、「了解」する元気さを表現したとのことです。また、ポジティブさを、「跳ね上がる感じ」、「勢いのある感じ」にして、文字を右上がりにデザインしています。ビックリマークは真昼の太陽の輝きをイメージしました。――なるほど。お昼の顔にふさわしい元気な感じを出しているのですね。デザインは2次元のロゴですが、番組のオープニングでは、旗の部分にはためく動きを加えています。――ありがとうございました。32年もの間、同じロゴで続いた番組というのも、テレビ史上まれなことではないでしょうか。『森田一義アワー 笑っていいとも!』はまさに国民的な番組だったといえるでしょう。(高橋モータース@dcp)○そのほかの様々なデザインの秘密も紹介中(高橋モータース@dcp)
2014年03月19日2008年、日韓合同公演『焼肉ドラゴン』の作・演出を手がけ、その年の名だたる演劇賞を総なめにした鄭義信。新国立劇場の財産演目として昨年も再演された『焼肉ドラゴン』に続き、鄭義信が再び演出も兼ね、同劇場に新作を書き下ろす。新作のタイトルは『パーマ屋スミレ』。3月5日(月)の初日に向けて奮闘する稽古場を、2月某日、訪ねた。作品は1965年、九州の炭鉱町で暮らす在日コリアンの炭鉱労働者とその家族の物語。ある日、炭鉱事故に巻き込まれ、訴訟を抱え必死に戦いながらも、石油へのエネルギー転換でやがて彼らが置き去りにされる日本の陰の歴史を描く。有明海を望む“アリラン峠”の集落のはずれにある「高山厚生理容所」には、元美容師の高山須美(南果歩)と再婚した張本成勲(松重豊)とその家族が住んでいる。貧しいながらも、須美は明るく騒がしく姉・初美(根岸季衣)や妹・春美(星野園美)らと力を合わせて暮らしていたが、炭鉱の爆発事故で成勲や春美の夫・大杉昌平(森下能幸)が一酸化炭素中毒患者になってしまう。彼女たちは生活を守るため、そして生き抜くために壮絶な戦いを始めて……。この日の稽古は第6場、物語がシリアスな方向に大きく展開する場面だ。餅をつき、須美と初美がリズミカルに丸めて振る舞うというシーンから始まり、本物のつきたての餅もスタッフから用意された。南と根岸が丁々発止のセリフのやりとりをしながらも、口の中にちぎった餅をポンポンと入れていく胸がすくような食べっぷりにそこかしこで笑いが起きる。台本自体が面白いため、演出をつけずに通しただけでも楽しく観られるのだが、ここからが“世界では2番目、アジアでは1番しつこい演出家”を自称する鄭義信の本領発揮。前述のシーンだけでも、餅をつく速度、炭鉱労働者・木下役の朴勝哲が餅をつく長さ、南が話す説明ゼリフの視線の置きどころや、根岸らしいアドリブのセリフの効果的な入れどころ、人の突き飛ばし方や突き飛ばす長さ、足の悪い成勲役の松重への歩き方指導と、細かい指摘は枚挙にいとまがない。自然な芝居の流れと間、そしてリアルな描写に徹底的にこだわり、俳優の無意識の動作をすべて生活に結びついた動作に変え、セリフと動作をしっかりと意味づける。そうした小さな指摘をひとつひとつ直すごとに、“アリラン峠”に暮らす人々の生活がビックリするほどの鮮やかさでより具体的に立ち上ってくるから不思議だ。大変なのはキャスト陣。つきたての餅という消えモノや多くの小道具を操るだけでもてんてこまいなのに、そこに鄭義信の微に入り細を穿つ演出が加わり、さらに芝居が変わる。第6場ほぼ出ずっぱりの南と根岸は、多くなるきっかけに少々頭を混乱させながらも必死に演出に食らいつく。そんな南にスタッフが、もう一度本物の餅を用意したほうがいいかと尋ねると「食べられるものは全部食べます!」とニッコリ。キャストのガッツと、スタッフ、鄭義信への全幅の信頼感がうかがえる瞬間だった。同作品は新国立劇場 小劇場にて、3月5日(月)から25日(日)まで上演。チケットは発売中。
2012年02月23日