2021年5月30日 16:00
「抗体が少ない?」検査で発覚した思いもよらぬ事実とは? #2
通院も嫌な顔一つせず付き添ってくれた。夜勤明けで一睡もしていないときもあった。だから自宅で自己注射するときは、できるだけ夫のいないときにこっそり打つようにした。
「痛い思いしておなかや太ももに注射を打ってる姿を、夫に見せつけるのも悪いなって思いました。夫が自分を責めてしまいそうだと思って」
あゆみさん夫婦は、不妊治療を通して絆が深まっていった。お互いへの感謝や思いやり。やさしさで支え合うようになっていた。
全身麻酔で採卵 顕微授精も1回目で成功
全身麻酔で卵巣から卵胞を取り出す、採卵の日を迎えた。
やはり夜勤明けの夫が一睡もせず付き添ってくれた。結果、質のいい卵胞がたくさん取り出せた。
いよいよ次のステップは、精子を卵子に振りかける「体外受精」と、顕微鏡で拡大しながら医療の手で受精させる「顕微授精」だ。もう医療に委ねるしかなかった。
翌月、クリニックを訪れると医師が晴れやかな表情で言った。
「顕微授精、うまくいきましたよ!受精卵として成長してます。3つあるうちの一番いい受精卵を、おなかに戻しますからね」
すぐには実感が湧かなかったが、クリニックは受精卵の映像を用意してくれていた。細胞分裂した受精卵が3つ、それぞれ動いていた。
夫婦2人で食い入るように見た。
受精卵を1人、2人と表現。命のもとを実感
映像を見せてくれた担当者は、受精卵を1つ、2つ、と数えるのではなく、1人、2人と表現した。
どきっとした。
「1人、2人という言葉を聞いて、あぁ、ここにあるのは”命のもと”なんだって実感しました。これを私の体に戻せば妊娠できるかもしれないって思うと、感動が込み上げてきました」
採卵から約2カ月、受精卵をおなかに戻す時期がやってきた。処置はあっという間に終わったが、「私のところに来てくれたんだ」という感動が体の底から湧いた。心なしか体がぽかぽかし、神秘的な気持ちになった。
次の受診日、診察室へ入るや否や医師がこう言った。
「おめでとうございます。陽性です」
クリニックを出てからようやく実感が湧き、涙が止まらなくなった。母にもすぐ電話した。受話器の向こうから、母のやさしいすすり泣きが聞こえた。
母子手帳をもらうころ、クリニックを卒業した。