連載記事:新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記
未熟な自分を信じられなくても【新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記 第10話】
わが家では、車の中のDJ権を誰が握るかの争奪戦が、かなり頻繁に勃発する。うちの車のスピーカーは決して特別良いものでもないが、何しろスマホと繋げるので、好きな音楽を流すことができる。狭い閉鎖空間、大都会東京を駆け抜ける車の中でお気に入りの曲をかけるのは、かなり気分が良いのだ。
DJ明子、DJモー(長男)、DJ夢見(長女)。それぞれにはそれぞれの得意とする分野があり、モーはEDM(エレクトリック・ダンス・ミュージックの略だそう。パリピの音楽である)、夢見はアニソンとボカロ、そして明子はチャゲアスと玉置浩二を専門としている。
あるとき、夜の首都高速に乗った私たちの車の音楽の権利を握っていたのはモーであった。後部座席から、例によってゴリゴリのダンスミュージックを流し、ドンドコドンドコ、曲がマックスに盛り上がるのと同時にモーが言う。
「さあ、母さん。カーチェイスを始めよう」
始めんわアホ、と。そんな感じの毎日を過ごしている。
……この連載、基本的には育児にまつわる話を書くということで始まったものの、気がつくと結構子どもたちが育っていた。まだまだ指導するべきことはあるものの、子どもたちとの現在の関係は、育てる者と育てられる者というよりは、どちらかといえばシェアハウスの住人同士のような、並列の関係になりつつある。(シェアハウスに住んだことはないけれど)。
だから、最近彼らとの日常を通して得る気付きもまた、子育ての気づきというよりは、人間関係の中で生じる気づきに近いことが多い。
だけど、この連載を始めるきっかけを作ってくれた、ウーマンエキサイトの編集者、石上さんは現在2歳の子を持つママで、せっかく声をかけてくれたのだから、できれば彼女が今知りたいことや、彼女が今直面している子育ての救いとなるようなことを、ほんのわずかでも書けたらいいなと思う。
そこで、最近はずっと子どもたちが小さかった頃のことをあれこれ思い出そうと、写真を見返したり、子どもたちに聞いてみたりなどしているのだが、これがどうして、自分でもびっくりするほど当時のことが思い出せない。トイストーリーのおもちゃは処分するとき心が痛んだなあとか、断片的な記憶はあるものの、当時私がどういうことに悩んでいて、そこからどういう気づきを得ていたかという肝心なことが、なぜだか全然思い出せないのだ。一体どうしてこんなにもすっかり忘れてしまったんだろうなあと考えていると、ふと思わぬ可能性が頭をよぎった。……もしかしたら、思い出したくないのかも、と。
不思議なことに、そういう風に思い至った瞬間、急に一つ、思い出したことがあった。