2019年4月7日 20:10
実の父と瀬戸内寂聴、そして母の三角関係…井上荒野の最新作がスゴい
自身の両親と、父と長く男女の関係にあった作家の瀬戸内寂聴さんがモデル。井上荒野さんの『あちらにいる鬼』は、愛というものの底知れなさを感じずにはいられない長編だ。
一見スキャンダラスな三角関係。そこには不思議な絆が見え隠れ。
「この小説を書く私のモチベーションの一つは、寂聴さんの父への思いにグッときたこと。もう一つは母は本当に幸せだったのかなという謎ですよね。想像するしかないけれど、母はどこかの時点で『この男をずっと捨てずにいよう』と決めたんだと思います。我慢していたのではなく、自分が決めた意志に従う。
そういう強さがある人でした」
最初は娘である自分の視点で書こうとしたが、それでは以前書いたエッセイ『ひどい感じ父・井上光晴』の続編にしかならない気がした。
「ふと、妻と愛人、ふたりの視点でやってみたらどうかと思いついたんです。そんなことができるだろうかと自分でもひるんだほどですが、それくらいの挑戦がなければ書く意味がない。腹をくくりました」
母がモデルである白木笙子と、寂聴さんがモデルである長内みはる。ふたりが交互に語るスタイルは、一種の心理小説のようでスリリングだ。
「笙子のパートは、母からはもう話を聞けないので、自分の育った家の情景や母と一緒にいたときの記憶を思い出し、どういう気持ちだったかを想像しながら書きました。