2022年8月9日 19:00
元同級生からカルトビジネスに誘われ…人間の危うさを描く、村田沙耶香『信仰』
村田沙耶香さんが海外の文芸誌などからの依頼を受けて書いた短編やエッセイを中心に、まとめられた本書『信仰』。表題作の「信仰」は、自分にとって信じたいものを意識的/無意識的に肯定してしまう、人間の危うさやままならなさを描いた、意欲作だ。
「その人にとっては、価値があるものを大切に生きているだけなのに、これはよくてこれは怪しいと他人を勝手にジャッジしたりする。その人を勧誘していま幸せにしてあげている何かに対して、こちらが正しいんだからと強引に自分の側に引き込もうとするのって暴力的だなと。依頼された当時、私自身が考えていたことをテーマにしました」
元同級生の石毛から強引にお茶に誘われ、〈マルチか宗教か(略)これはきっと勧誘だ〉と直感した〈私〉こと永岡ミキ。ところが石毛の目的はさらに怪しく、かつてネットワークビジネスに関わっていた斉川さんを巻き込んで、カルトビジネスを始めようというものだった。鼻で笑っていたミキだが、友人のアサミたちや斉川とのやりとり、妹の言葉を受けて、〈原価〉にこだわりすぎる自分の価値観が揺らぎ始める。
「私自身、なんで小説なんか書くのと聞かれたら、時給にしたらひどいかもしれず、好きだから以外の理由がないんです(笑)。