黄金時代に訪れたスピリチュアルな体験(辻仁成「ムスコ飯」エッセイ)
先週、占いのことについて書いたエッセイが大反響だったので、もうひとつとっておきのお話をさせていただきます。
30代後半のある日のこと。芥川賞を受賞し、『冷静と情熱のあいだ』が累計300万部も売れ、私が歌った『ZOO』がゴールドディスクを獲得、武道館ライブもやって、破竹の勢いの頃のお話です。
私は弟が運転する車で仕事先のラジオ局を後にしました。当時は弟がマネージャーだったのです。ラジオ局から出た瞬間、不意に頭の中にある人物の顔が浮かびました。高名な占星術師が外苑並木通りのカフェのテラス席にいるから会いなさい、というお告げのようなものを受けたのです。弟に「悪いけど外苑に向かって。
セランというカフェがあるはずだから」と言いました。自分で発していながらとっても奇妙な感じがしたのを覚えています。
果たしてセランに到着するとその人がテラス席にいてタロットカードをやっていたのです。私は一度面識があったので彼の前に行き、ご挨拶をし、ごく自然に腰を落ち着けました。不思議でしょ?当然のように、タロットが始まりました。不思議なことに彼がめくるカードがすべて自分に対して反対側を向いていったのです。ところが中心に置かれた最後の1枚だけが私の方を向いていました。