2022年6月5日 12:00
豊かな感受性でヘレンを演じた平祐奈に感服。演劇ジャーナリスト・大島幸久が観た、『奇跡の人』
写真提供:ホリプロ
やっぱり、涙を堪え切れなかった。いつも同じ場面になると堪えられない。アニー・サリヴァンの高畑充希、ヘレン・ケラー役の平祐奈、さらに森新太郎の演出、その他。傑作『奇跡の人』は私を泣かせてくれる。(ちなみに涙腺が脆くなる舞台作品は他にミュージカル『オペラ座の怪人』『アニー』である)。
第1幕。ヘレンが出てくる。手探りでドア伝い、広く大きな壁伝いに歩みを進める。
前回のヘレン・鈴木梨央が演じた時より短い場面だったと思うが、既に私の目頭は熱くなっていた。初舞台の平には愛しくなるほどの可愛さ。笑顔、戸惑いの表情が豊かなのだ。また大きく広げてバランスを取る両手の演技。アニーが伝える指文字に反応する仕種、口に指を入れて、しゃべりたい衝動の場面はやり切れない思いになった。
第2幕は闘いの始まり。ナイフ、フォーク、お皿を拒否するヘレンと諦めないアニー。まるで喧嘩の食事の見せ場だが、ヘレンが一回転して床に転がる演出は少々、過剰。
三重苦の少女には過酷に思えた。
幼くして亡くなった弟ジミーとの回想場面で「痛いよ!」の声を聞く高畑の絶望的な表情、また、2週間という期限でガーデンハウスに籠もるふたりの沈黙と静寂には胸が締め付けられた。