2023年10月11日 12:00
北野武、深見千三郎、そして当時の浅草へのリスペクトも 音楽劇『浅草キッド』上演中
もちろん芝居面でも、松下は少し尊大で武たちにとっては嫌な立ち回り方もすることになる高山を、それだけではない深みのある人物として表現。深見の妻・亜矢を演じる紺野も、艶やかで芯が強く、しかしもろさもある魅力的な女性がそこに生きていると感じさせた。
林遣都が演じる武と行動を共にする場面の多いマーキー役の稲葉友、井上役の森永悠希は、青春物語そのものの輝きを見せる。劇場であたふたと仕事をし、居酒屋で盛り上がり、同じ安アパートに暮らし、まだ何もなしとげられずにいる鬱屈を抱える彼ら。和気あいあいとした様子がほほ笑ましいだけに、彼らの道が分かれてからの表情が切ない。
武は、兼子とコンビを組んで漫才を始める。のちに「ビートきよし」となる兼子役の今野浩喜も、深見・高山と共に演じるコント、武と共に披露する漫才と、自身のお笑い芸人としての本領も発揮しつつ、よい塩梅の芝居を見せる。
徐々に武に光があたり始める一方、周囲の人々の影は濃くなっていく。それを担っていたのが、マーキー、兼子、そして深見だろう。中でも悲劇的な経緯をたどるマーキーは、稲葉の陰影のある表現、痛々しい叫びが印象に残った。兼子も、コンビの相方でありながら武だけにスポットがあたっていることに気づいた時の表情が絶妙で、見る側もつらい。