くらし情報『ひとり芝居化で深度が増した、カタルシツの再演』

2015年3月2日 20:30

ひとり芝居化で深度が増した、カタルシツの再演

これから語られるのは“私”のことでもあるのだと。そうして、孤独な主人公が、警備員のアルバイトをしていた30歳の頃の話が始まるのだが、ニコ生の仕掛けがまた、思わぬ効果をもたらす。男が暮らす地下室のセットには、世間に毒づく彼に対して、つっこみを入れるニコ生のコメントが壁面に次々と現れ、その悲壮感を突き放していく。自意識過剰でプライドが高くて、それゆえ、現実の自分が受け入れられなくて苦しみ、卑屈になっていく舞台上の男を、そして、それをとても他人事とは思えぬ私たち自身を、同時に思い切り笑うことができるというわけだ。

前回、小野ゆり子が演じた「理沙」とのエピソードを今回は安井ひとりで見せることによって、彼女に向ける言葉のイタさも際立った。観客それぞれの「理沙」像を通じて、男の後悔の大きさもより胸に迫ってくる。人前で語ることが演劇の原点であるならば、安井のこのひとり語りは、まさしくその原点を堪能できるものであろう。しかも、彼が口にし、表現した途端、どんなクズ発言もチャーミングに聞こえてくるのだから不思議だ。
どうしようもない男の話ではある。だが、必ず胸のすく思いになるはずだ。

東京公演は3月9日(月)

新着くらしまとめ
もっと見る
記事配信社一覧
facebook
Facebook
Instagram
Instagram
X
X
YouTube
YouTube
上へ戻る
エキサイトのおすすめサービス

Copyright © 1997-2024 Excite Japan Co., LTD. All Rights Reserved.