声を絞り出して泣き崩れる和紗を抱きしめて、亮平もまた、泣いていた。
「一生分の、キスを」
ケータイの画面に、白く浮かび上がった文字が、視界の端で揺れた。
■本当に愛しているのは
「誓いの言葉を」
神父の声に、ハッと我に返る。和紗は、いま、最後に空港でマサシを見た時のことを思い出していた。あの時、どれほど苦しかったか。息ができなくて、胸をかきむしったか。放心状態で日本に帰国後は、何ものどを通らず、眠れない日々を過ごした。
目の前にいる亮平は、よどみなく誓いの言葉を口にしている。
和紗は重ねてつつましげに「誓います」と言った。亮平が、うれしそうなやさしい目で和紗を見る。
あの日、空港で踏みにじられたバラの花束にもめげず、亮平は帰国後も和紗のそばにい続けた。
その愛情を、疑ったことはない。だけど、・・・・・・和紗は思う。今でも、愛しているのは、あの男なのだ。
どうにもこうにも、あの恋は、自分の中から消せないのだ。たぶん、一生。
「誓いのキスを」
神父に促され、ベールを上げる。
亮平の顔が近づいてくる。和紗はそっと目を閉じた。目を閉じればそこには、いつも広がる風景がある。