フリーダ・カーロという画家を知っていますか? 1907年メキシコ生まれ。6歳の時に小児マヒを患って右足は短いまま、18歳で電車とバスの衝突事故に遭い、バスの折れた鉄柱が下腹部を貫通。脊椎、鎖骨、右足、骨盤の骨折で一時は医者にも見放され、生還しても47歳で亡くなるまで後遺症に苦しみ、それでも情熱的に描き続けたフリーダのことを。死後50年を経て、フリーダ・カーロ博物館からの依頼で彼女の遺品を撮影することになったのが、原爆で亡くなった人々の衣服を撮影した写真集「ひろしま」などで著名な世界的写真家、石内都さんでした。石内さんをテーマに映画を撮りたいと念願していた小谷忠典監督が、メキシコで石内さんに同行してカメラを回し、さらにメキシコの歴史や文化にも分け入って撮影した映画が、この魅力的で貴重な「フリーダ・カーロの遺品」です。遺品なのに、まるでフリーダが生きているかのよう! 偉大な画家というより、一人の女性としてフリーダを甦らせた石内さんは、普遍的な“女の人生”を私たちに突きつけます。女性として芸術家として、共通点を持つこの二人を、生と死の境を越えて活写した小谷監督にお話を伺いました。自分の傷に気づかせてくれた石内さんをテーマに、映画を撮りたい学生の頃から石内さんのファンで、いつか彼女の映画を撮りたいと思っていた小谷監督がインスパイアされたのが、石内さんが身体の傷を撮った写真集「scars」でした。「10年位前、結婚したいと思ったバツイチの女性に子どもがいて、その子の父親になりたいと思った時、引っかかるものがあったんです。それが何かはわからなかったけれど、石内さんの写真を見た時、自分の傷に気づかされて。自分には、父親がアルコール依存症という問題がずっとあったのですが、そのことと向き合わないと進めないんだなと」父親の理想像を追い求め、実際の父親とぶつかっていた自分が、石内さんの写真を見たことによって理想が崩れ、父親を一人の人間として受け容れられるようになったとか。その変化は非常に大きく、後に小谷監督は、自身の家族を撮った映画「LINE」のパンフレットで石内さんにコメントを依頼します。今回、彼女をテーマに映画を撮りたいと連絡した時は、たまたま石内さんがメキシコに旅立つ2週間前だったとか。「まさか、メキシコへ行ってフリーダを撮ることになるとは、全然思ってなかったです。こんなすごいプロジェクトを見過ごすわけにはいかないでしょう! とプロデューサーを説得し、石内さんの到着した2、3日後、どうにかメキシコに降り立ちました」フリーダ個人の奥にあるメキシコの歴史や文化を投影青く塗られた壁が印象的な、通称“青い家”。フリーダ・カーロの生家であり、夫の画家ディエゴ・リベラと結婚生活を送り、最期の時を迎えた場所、フリーダ・カーロ博物館の陽光の当たる中庭や、風通しのよさそうな明るい室内で、石内さんが撮影しています。何万点もある遺品の中から、即決で選び、撮らないものは「アディオース!」と除けていく姿勢の軽々と楽しげなこと。そのキュレーションの見事なこと。「石内さんも、最初はフリーダ個人を捉えていたんですけれど、遺されたものの中にある色彩とか質感、ディテールから、フリーダ個人より、もっと奥にあるメキシコの歴史とか文化に、どんどん着眼されていったんです。ただの記録では映画にする意味がないので、そういった石内さんの目には見えない仕事も可視化するというか、映像で伝えたいなあという思いがあったので、翌年、もう一度メキシコを訪れたんです」フリーダの母親の出身地オアハカで死者の祭りを撮影し、フリーダが日常的に愛用した伝統衣装テワナドレスを作る刺繍家の女性たちを取材するなど、映像に民俗色豊かな色彩感と文化の奥行が加わりました。テワナドレスは母から子へと受け継がれるとか。女性の手仕事も脈々と受け継がれ、「着物と同じね」と石内さんが撮影中に共感するシーンも。フリーダの強さは日常をちゃんと送っている生命力の強さ「フリーダは衣装持ちですが、その中でもテワナドレスは圧倒的に多い。痛みをあれだけ抱えた人だったので、衣装に守られているという感覚があったんじゃないでしょうか」1937年ヴォーグに載った時に着ていたグリーンのブラウスが、お洒落で驚きました。「自分をアピールするために、戦略的だったとは思うんですけれど、それだけじゃなく本当に大事にしていたんでしょうね。ただ、彼女はセルフプロデュースが本当に上手い人だと思います。本人は身長150cm足らずなのに、あれだけ大きく見せるというか、強く見せるというのは、衣装の力が大きいと思いますね」フリーダは、洗練された独自の感覚でテワナドレスを注文していたので、現地の刺繍家たちからは、あれは伝統本来のものではない、と言われているようです。「センスいいですよね。石内さんも着物を着崩して着るんですけれど、本当にかっこいいと思います」石内さんが淡々と撮影した写真は、光や風と柔らかく重なり合って、まるで家族の遺品をファミリーで見ているような親密な日常感に繋がってくるから不思議です。「石内さんもおっしゃってましたが、フリーダはいろいろセンセーショナルな物語を抱えていましたけれど、彼女の強さはそういうものじゃなく、あれだけの障害を抱えながら、ちゃんと日常生活を送っていた強さだと。映画でも、フリーダの日常の生命力を描きたいと思っていました。彼女は衝撃的な絵を描いていますが、タッチとか見るとすごく繊細で可愛らしかったりするんですよね。実物を見ると、よりそれは感じました」そんなフリーダの遺品を、あちらのスタッフが「こんなところで撮るの?」と驚くほど、石内さんはカジュアルに撮影していたとか。「ものを撮ってる感覚ではなく、身体としてものを撮れる人だから、フリーダ像を一回とっぱらって、もう一回、普遍的な女性というものを立ち上げるんだという意識は、最初から持っていたと思うんです」と小谷監督。撮影中も、「フリーダ、そうだったの」と話しかけながら撮影していたという石内さん。メキシコに行く前から話しかけていたそう。「フリーダ、呼んでくれてありがとう」と。そんな女性二人の息吹が伝わってくる「フリーダ・カーロの遺品」、自分に投影して観てみませんか? きっと新しい発見があり、生きる勇気が湧いてくるはずです。ドキュメンタリー映画『フリーダ・カーロの遺品 ― 石内都、織るように』2015年8月からシアターイメージフォーラムほか 全国順次公開監督・撮影:小谷忠典 出演:石内都 予告編: 小谷忠典(こたに・ただすけ)1977年大阪出身。絵画を専攻していた芸術大学を卒業後、ビュジュアルアーツ専門学校大阪に入学し、映画製作を学ぶ。『子守唄』(2002)が京都国際学生映画祭にて準グラン プリを受賞。『いいこ。』(2005)が第28回ぴあフィルムフェスティバルにて招待上映。初劇場公開作品『LINE』(2008)から、フィクションやドキュメンタリーの境界にとらわれない、意欲的な作品を製作している。最新作『ドキュメンタリー映画100万回生きたねこ』(2012)では国内での劇場公開だけでなく、第17回釜山国際映画祭でプレミア上映後、第30回トリノ国際映画祭、 第9回ドバイ国際映画祭、第15回ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭、サラヤ国際ドキュメンタリー映画祭、ハンブルグ映画祭等、ヨーロッパを中心とした海外映画祭で多数招待された。映画写真 ©ノンデライコ2015
2015年07月24日パーソナルスタイリストという職業をご存じですか? 撮影のために服や小物を用意するだけでなく、その人の生き方にまで深くかかわり、その人本来の魅力が最も輝く服装を、本人自ら選べるように導く仕事だそうです。政近準子さんは、日本でその第一人者です。各界の女性管理職やビジネスエリート始め、イタリアでは貴族のスタイリングを担当するなど特異な経験をお持ちですが、驚くべきは、この15年間で2万人近い一般女性の服装を変え、ひいては、人生をも変えたというデータに裏打ちされたキャリアでしょう。そんな政近さんに、服にも人生にも迷いがちなアラフォー女性へのアドバイスを伺いました。美魔女さんたちが辛かったと、泣きながら駆け込んで来る実際、お会いしたらファッションチェックされちゃうのかな? とドキドキでしたがとんでもない! 慈愛に満ちて頼りがいのある美しい政近さんに、すっかり惹き込まれてしまいました。スタイリスト養成学校も経営する彼女のところには、20年以上のキャリアを捨ててまで、弟子入りしてくる40代の女性が多いとか。「このままで本当にいいのか? 人生の後半戦、自分を活かしたいなら清水の舞台から飛び降りるのか、現状維持か」と。そんな命がけで…と思いますが、人生は服選びそのもの、と政近さん。年齢を重ねることを怖れるアラフォー女性に対し、まず「年を取ることを受け入れるのが大事」と明言します。「若さにしがみつくのは、若くてキレイだった時の自分が最高だと思っていて、そこから遠のくのが許せないから。美魔女さんをがんばって続けていた人たちの中には、実は辛かった~っと、涙する方もいますよ。プチッと切れる時がやはり来るんですね」自分を知ること、客観視が第一歩政近さんいわく、その辛さは「何を着たらいいかわからくなっていることも原因の一つ」だそう。迷える子羊たちに、彼女はまず「あなたはどういう人ですか?」と尋ねるとか。そこで、自分の現状についてしか話せない方が多いのだそうです。日本の方はとくに…。「自分のルーツ、アイデンティティーを知らないことは、服選びにも支障をきたします。両親、祖父母、先祖にまで遡って、家庭で話し合ってルーツを探り、自分を知ること、これがすべての第一歩です。そして自分を客観視すること。そこから、あなたが着るべき服も決まってきます。服を選ぶとき、自分はどうなりたいか、少し先の未来を想像できることが重要なのですが、それにはまず過去を知らないとダメ。過去の自分のことを知らずして自分探しのしようもないんですね」と、政近さんは力説します。NHK『助けて!きわめびと』での、凄絶なスタイリング体験また、同じ40歳でも東京と地方ではまた環境が違う、と政近さん。5月9、16日に放映予定のNHK『助けて!きわめびと』という番組のロケで、山形県に住む48歳の主婦の方と出会ったそうですが、地方の方は結婚する時期が早く、40代で子供の手が離れた後、どうしたらいいかわからなくなってしまう女性が多いというのです。その女性は、「一生に、一度でいいからキレイと言われてみたい」と意を決して、番組に応募してきたとか。彼女のワードローブは、Tシャツ、アロハ、カーデガン、ジーンズだけ。政近さんは、ワードローブチェックを通して、なぜ、彼女がそうなっているのか、カウンセラーのように、家族との関係や本人の生き方にまで分け入って聞き出します。そして、おしゃれで美人な姉と常に比較され、華やかな服は似合わないと思い続けてきた “自己肯定感の低さ” に着目するのです。そして彼女に、今、着ている服が似合っているのか、似合いそうな服は何なのか、街角で多くの人に聞き取り、自分を客観視する。家族との関係を含め、どんな自分になりたいのか、どういう服を着たいのか徹底的にイメージするなど、様々な宿題を出していきます。こうした「荒療治」を経て、その女性は素敵に生まれ変わったそうです。「凄絶過ぎますか? 私にとっては、毎日がそうなんです(笑)」と政近さん。人を素敵にしようと思ったら、そこまで必要なのだと。人生は服次第!だと実感させられました。自分にふさわしい服を見極める “目” を養おうアラフォー女性ならば、洋服の価値やクオリティをチェックして、情報を頭にいれておくことも大切だと政近さんはいいます。「若い人向けのブランドも高級ブランドも、両方をチェックしましょう。また、高いから買わないと決めつけないで、クオリティ、着心地、自分に似合うかどうかをしっかりと吟味して、『これは高くても買うべきだ』などの判断ができないとダメ。金額やブランドじゃなく、自分の価値観で選ぶこと。それが知的ファッションなのです」と具体的なアドバイスも。50代に向けてどう生きるのか、お金をどう使うのか?自分のルーツ・過去を知り、自分を客観視して、自分に似合う洋服を選ぶ。自分らしいおしゃれをすることで気持ちもハッピーになり、自然と心のゆとりが生まれてきます。これは、ひいては周りの幸せにつながるのだそう。「お母様やお祖母様から引き継げるものはないか? 考えても見当たらない場合は、自分で作っていけばいいんです」そう言うと、よく「娘がいないから・・・」と言う方がいるそうですが、引き継ぐとは、単に服や宝石といった物質的なものだけでなく、家風、価値観、美意識などの精神的な部分も含まれるとか。自分の服選びについても、「30過ぎたら人のせいにしないこと」と政近さん。「自分にふさわしいものを見つけるために、もっと必死になるべきです」と語ります。「また、よく“自分にご褒美”という方がいますが、そうではなく、40代になったらもっと社会に貢献する考えを持ったほうがいいですね。みなさん、お金の使い方がちょっとおかしい。家族にも周囲にも気持ちいいように…と考えたほうが幸せになれると思いますよ」とニッコリ。歯に衣着せぬ、政近さんの力強いアドバイスは、アラフォー女性にとって心地よい刺激となるはず。ご出演される、NHK『助けて!きわめびと』~キレイと言われてみたい 前編/後編~ の放送がとても楽しみです。【政近準子さん プロフィール】パーソナルスタイリスト創始者 (有)ファッションレスキュー社長、パーソナルスタイリストプロ育成校 PSJ学院長。株式会社東京スタイル ファッションデザイナー出身。25歳でイタリアへ移住後、【その人を輝かせる服を提案できるパーソナルスタイリング】 の必要性を提唱。2001年に起業し、日本で初めてタレントやモデルだけではなく 一般の方にもスタイリングを提案。政治家 会社社長 管理職 起業家などの富裕層を主に顧客に持つ。国内最大のプロパーソナルスタイリスト所属事務所ファッションレスキュー全体では、延べ1万人以上をスタイリング。著書に、『働く女性のスタイルアップ・レッスン』、『「似合う」の法則』、『「素敵」の法則』、『一流の男の勝てる服二流の男の負ける服』、『人生は服、次第。』、『チャンスをつかむ男の服の習慣』がある。 NHK『助けて!きわめびと』「キレイと言われてみたい 前編/後編」【放映日時】2015年5月9日(土)、16日(土) 午前9時30分~9時55分 NHK総合ひとつの道をきわめた“きわめびと”が、視聴者からのお悩みに応える番組。1万人以上を顧客にもつパーソナルスタイリストの政近準子さんは、本人すら気づいていない「キレイ」を引き出す“きわめびと”。「服が人生を変える」をモットーに、「いま、似合う服より、未来のなりたい自分に似合う服を選ぶ」ことで、自分自身を変えていくことが本当のキレイを生むと説く。そんな政近さんにお悩みを寄せたのは、「一生に、一度でいいからキレイと言われたい」という山形の主婦だった。【司会】三宅裕司、松嶋尚美、一柳亜矢子アナウンサー(NHK大阪)【出演】パーソナルスタイリスト 政近準子【ナレーション】本上まなみ
2015年05月07日