スカウトが見るポイントは技術だけではない。早熟、晩熟傾向などの成長スピードや、何より人間性を含めたポテンシャルであることを前編でお送りしました。プレミアリーグのトッテナムやイングランドサッカー協会のスカウト責任者を歴任するなどたくさんの育成年代の選手を発掘してきたベテランスカウト、リチャード・アレン氏に、後編では成功している選手の保護者が行っているサポートの具体例などを伺いました。(取材・文・写真:末弘健太/BAREFOOT)ベテランスカウト、リチャード・アレン氏が語る、スカウトの際に技術以外でチェックすることとは■プレーしている時には見えない部分も大事――スカウティングをする際に社会性や精神面にもフォーカスを当てるとおっしゃっていましたが、ピッチ外で選手が自分を高めるために何かできることはありますか?スカウトは試合会場に行き、ピッチ上で起きる事象を見ることになります。ただ試合が始まる前や終わった後の選手の言動も見ることができます。良いスカウトというのはただ試合を見に行くわけではなく、試合前後に起こることも全て見に行きます。そして彼らはできるだけ多くの情報を集めます。特に目では見られない情報ですね。例えばその選手はどんな性格なのかなどです。やはり、いつでも少しでも今の自分より良い選手になりたいという気持ちを常に持つことは大切ですよね。クリスティアーノ・ロナウドやリオネル・メッシなどの素晴らしい選手は常にこの気持ちを持ち続けています。その気持ちがあればチーム練習以外の時間で、もしフィジカル能力が足りなければそのトレーニングをするし、技術的に劣っていればそれを補うようにするはずです。もちろん選手がこのようなことをしているかはスカウトには見えにくいところなので、彼らがどのような人間なのか探るために、彼らをよく知る人に話を聞くことも非常に重要です。しっかり毎回の練習にコミットしているか、毎日自分をよくしようとしているか、必要があれば何かを犠牲にしてまでトレーニングができるか、などのメンタリティがあるかを確認します。私はそれをGood Characterと呼んでいますが、それはただの「いい子ちゃん」というわけではなく、トレーニングや試合の時に全身全霊でそれに取組めるメンタリティのことです。今の話が質問の答えになっているかわかりませんが、プレーをしている時だけ見える事象だけではなく、そこでは見えないことも、良い選手になるには非常に重要です。あとは選手のバックグランドも重要な要素ですね。両親が過去にアスリートだったかどうか、保護者が選手をしっかりとサポートしてくれているか、こういった細かいこともスカウトをする上で一つの判断材料にはなります。ある論文の中で、「適切な程度」のサポートを受けているアスリートは、過度にサポートを受けていたり、受けているサポートレベルが低いアスリートよりも成功しやすいというデータが出ています。――では保護者からのサポートというのは非常に大切ということですよね。そうです。ただ、ここは非常に気を付けなければいけません。もちろん過干渉はいけません。選手をサポートしてくれている周りの人にしっかりと責任を与え、モチベーションを高めてあげることは大切です。選手はそれぞれ家庭によって受けられるサポートのレベルが違い、トレーニングに行くのに車で送ってもらえる選手もいればバスなどの公共交通機関で向かう選手もいます。では保護者に活動場所まで送ってもらえる選手の方が成功するかと言うと、もちろんそうではなく、逆にバスで自分で通う経験が選手を成長させることもあります。ほとんどの成功している選手の保護者は、それが母子家庭だろうと父子家庭だろうと関係なく、親から、過干渉でもなく、放置されすぎているわけでもなく、適切な程度のサポートを受けています。親が子どもに自分の夢を押し付けるのではなく、選手の夢をサポートすることが大切です。■子どものモチベーションを下げないために気を付けること――具体的には保護者からはどのようなサポートが必要ですか?選手の年代によってサポートの種類は変わってくるかと思いますが、今お話したように、選手を支え続ける姿勢を貫くことがどの年代でも鍵になります。時に保護者は、親ではなく、コーチになりたがります。でも本来は、指導はコーチに任せ、サポートに徹するべきです。選手がうまくプレーできない時など、話を聞いてあげたり、寄り添ってあげたり、場合によっては背中を押してあげることも必要です。なので、特段「このサポートが必要」というのはなく、通常の親としての役割を普通にこなすということが大切だと思います。やはり選手がやりたくないと思っていることを、無理矢理やらせ始めたりすると問題が起こります。各家庭での子どもへのサポートは違っても当たり前ですが、うまくいかない時は励まし続けてあげましょう。物事を大きくとらえさせ、長期的に考えさせましょう。指導したり、やることを指示したり、プレーに口出ししたりしないようにしましょう。これをしてしまうと選手は混乱してしまいます。コーチの指示と親の指示も聞かなければいけなくなり、一貫性が無くなってしまいます。上手くプレー出来ていても出来ていなくても、何が起ころうともピッチサイドで笑顔で見届けてあげる。それが大切です。あなたが子どもの成長の願っても、全ての子どもが目指しているゴールまで辿り着けるわけではありません。もちろん全ての子どもにポテンシャルはあり、確実に成長しますし、自分のポテンシャルを超える子どももいます。ただし現実は、プロ選手になれる数はそこまで多くありません。トッププロ選手になるにはさらに数が限られます。それはどのスポーツにも当てはまります。さらには人生にも当てはまります。エリートとは限られた人にしかなれないからエリートと呼ばれるのです。色々な要素が相互的に作用しその選手を形成しますが、両親のサポートというのはその要素の一つにすぎません。ただその中で気を付けなければいけないのは、サッカーを強要したりすると選手はモチベーションを下げ、場合によってはサッカーをやめてしまいます。いかがでしょうか。サッカーが好きで頑張っているお子さんをサポートしたいのはどの親御さんも一緒だと思いますが、それが「無理やり」「強要」になってしまうとお子さんはサッカーを楽しめなくなってしまうのです。成長過程において常に右肩上がりで成長するものでもありません。停滞するとき、上手くいかない時もおおらかな気持ちで見守ってあげることが大事なのだとリチャード氏の言葉から気づかされます。Ricard Allen(リチャード・アレン)トッテナム・ホットスパーで6年間アカデミーのスカウティング部門の最高責任者を任され、ヨーロッパサッカー協会連合 (UEFA) やイングランドサッカー協会 (The FA) が開催するジュニアユースとユースのすべての大会で様々な国のトップクラブを視察。the FA Talent Identification in Footballコース (才能あるサッカー選手の選考) を欧州各国のプロフェッショナルクラブで開催し、スカウティングについての講義も開催。現在はラフバラ大学サッカー部門 ダイレクターを務めている。BAREFOOT(ベアーフット)はロンドンに本社があるイングランドサッカー留学会社。選手や指導者、サッカービジネス留学などの個人プログラムも充実している一方、チームでのイングランド遠征も手配可能。長くイングランドのサッカー界に携わっていることから、サッカー関連の情報やノウハウ、クラブとの強い繋がりがある。BAREFOOTのホームページはこちら>>
2020年07月15日スカウトの人って選手のどこを見ているの?身体が大きくて速いと有利なんでしょう?など、スカウトの人が何を見て判断するのか気になる親御さんも多いのでは。今回は、世界最高峰のリーグ、イングランドプレミアリーグのトッテナム・ホットスパーFCやイングランドサッカー協会でスカウト部門のトップとして育成年代の発掘に関わってきたベテランスカウト、リチャード・アレン氏に「U-13世代をスカウトする時に見るポイント」を伺いました。(取材・文・写真:末弘健太)技術以外にスカウトが見ているのは......(写真は少年サッカーのイメージ)■「成長速度の違い」も見ている――U‐13世代をスカウティングする際に何を見ますか?スカウティングといってもファンデーション・フェーズ(5~11歳)とU‐13では少し見るものが変わってきます。U‐12、U‐13からは少しずつ、その選手が攻撃的な選手なのか守備的な選手なのかわかってきます。最終的にどこのポジションがその選手にとってベストかはその時点ではわかりませんが、どこが強みでどこが改善点なのかわかってきます。ただし、この年代の選手を見る上で気を付けなければいけないことは、選手それぞれで成長の速度が違うということです。思春期が訪れる頃に、身体的な機能は一気に発達していきます。12、13歳の選手でも15、16歳に見える選手もいますし、9歳くらいにしか見えない選手もいます。これによってもちろん身体能力に差が出てきてしまいます。なので、その場のパフォーマンスの出来で評価するのではなく、選手のポテンシャルを見てあげることが大切です。チームの中で非常に速くて強い選手がいたとしても、もしかしたらそれは彼がチーム内で月齢が一番高いだけかもしれません。この年代の選手をスカウティングをする上で、この点は必ず気を付けなければいけない点です。――では、その一時のパフォーマンスの良し悪しよりも、ポテンシャルを秘めていることの方が大切ということですよね?そうですね。私はその選手のプレーの意図を見るようにしています。例えばある選手がパスを出したとします。その判断は良いものでしたが、身体能力的にパスが通らないことがあるかと思います。30mのパスを出したかったとしても、15mもしくは20mにしか届かなかったということです。そのような時、指導者の方は選手にしっかりと自信を持たせてあげることが必要ですね。パスは届かなかったけど、プレーの意図は良かったと。たとえその場面でのプレーがうまくいかなくても、その選手が正しいプレーをしようとしていれば、私はそれを評価します。■技術面だけではない、スカウトが見る「ポテンシャル」の内容――ポテンシャルがある選手というのはどのように見分けていますか?良い意図のあるプレーをしている選手がポテンシャルがある選手ということでしょうか?もちろん良い意図のあるプレーをすることは大切ですが、最終的には全ての要素が揃わなければ良い選手とは言えません。技術的な能力が高いことも大切です。ゴールデンエイジと言われる時期には技術的な能力が一気に向上します。そしてそれは11vs11の中でゲームの理解度を向上させなければいけない年代になっても伸び続けます。ただし、最終的には技術的の能力に加え、ゲーム理解度と身体能力がうまく相互的に作用してプレーすることになります。そしてそれが自動的に(自然と)できないといけません。あなたが技術的に素晴らしいとしても、身体の成長が追い付いていなくてうまくプレーできないということもありますし、反対にとてもうまくプレーできても、それは身体の成長が周りの選手より早いからということもあり得ます。もちろん、そういう選手は技術的にも優れていて、身体能力も高いという可能性もありますが。この辺りの判断は難しく、スカウトの人間も時々見落とすことがあります。プロの世界では19、20、21歳で素晴らしいプレーをする選手がいますが、彼らが必ずしもU‐13の時に素晴らしい選手だったとは限りません。だから今チームの中でベストイレブンに入っていなくても、将来的にベストイレブンに入ってくる可能性は大いにあります。多くのことは変わっていくのです。――あなたはプレミアリーグ・トッテナム・ホットスパーなどのプロクラブで指導者としての長いご経験がありますが、U‐13の選手をスカウトをする上で大切にしていることはありますか?上記の通り、やはりまずはポテンシャルがあるかどうか、成長の余地があるかどうかが大きなポイントとなります。クラブが求める能力まで伸びる可能性があるのか。スカウトによっては、身体能力などの特徴がある選手を見る人もいます。例えば、思春期に入る前でもずば抜けて素早い選手がいるとして、おそらくその選手は思春期後もずば抜けて素早いのは変わらないだろうと思います。私個人的には技術的な能力を重要視します。もちろん現時点で技術的にパーフェクトである必要はなく、技術的に伸びる要素があることが大切です。私はとにかく1に技術2に技術3に技術です。もちろん最終的にはゲーム理解度や戦術理解度も高める必要があり、身体的な特徴も少なくとも1つ2つは最低ないとプロの世界では戦っていけませんが。あと、この年代を見るうえで大事にしていることといえば、人/選手としての言動や人間性です。社会性や精神的な部分ですね。選手はU‐13の時期でもこのような能力を培います。もちろんこの時点で精神的に成熟しきっている必要はありません。ただし、良いメンタリティを持っているとスカウトに感じさせることは大切です。「もっとうまくなりたい」「もっと学びたい」というような強い気持ちをもち、集中して一生懸命練習している選手は、やはり目にとまります。もちろんまだ若く発展途上なので、先ほど話したようにU‐13時点でパーフェクトである必要はなく、例えば感情のコントロールをうまくできない選手もよくいます。でもこれは技術的な要素と同じで、例えばヘディングの技術がそこまで高くない選手がいます。でもそれは、ヘディングの方法を教わってしっかり練習すれば改善されるのと同様に、精神的な部分も経験を積めば成長していきます。とても強いウィニング・メンタリティを持っている選手で、時に感情のコントロールをうまくできずレッドカードを貰って退場することがあります。イングランドの選手ではベッカムだってW杯で退場したし、ルーニーだって退場しました。多くの選手がやってしまいます。でも彼らが成長するにつれて、その課題に対して上手く向き合えるようになりました。■クラブごとに「良い選手」は異なる各クラブにクラブ哲学があるかと思いますが、それはスカウトする際に影響を与えますか?全てのクラブにクラブ哲学があるかと思います。スカウトをする上で、クラブのニーズと選手のクオリティをマッチングさせることは非常に重要です。あるクラブは1on1に強く、ボールをうまく扱える選手を好むとします。ファーストタッチの質、オンザボール、オフザボールでの色々な動き方ができるという技術的な要素ですね。反対に、あるクラブはとにかく身体能力が大切だと考えていて、たくさん走れてロングボールをバシバシ蹴れる能力などにフォーカスしていて、技術的な側面はあまり必要ないと感じています。このようなクラブ哲学を基に、クラブがどのような選手を求めているか明確にすることはスカウトをする上で非常に重要です。どのクラブも同じようなタイプの選手を探しているわけではありません。ロンドンの中でも、トットナムが求めている選手はチェルシーが求めている選手とは異なります。どのクラブも良い選手を探していることには間違いありませんが、その「良い選手」のニュアンスがそれぞれによって異なり、チェルシー、ウェストハム、フルハム、アーセナル、トットナムが求めている選手というのは全て異なります。リチャード氏の言うように、クラブの哲学、その時志向するスタイルなどによって「良い選手」が異なるのです。セレクションなどを受けて合格できなかったとしても、それは良い選手ではなかったからではないのです。そのクラブがその時求める条件に合ってなかっただけなので、結果に一喜一憂せず技術やメンタルを磨くことで選手として成長することができるということを心に刻んでお子さんをサポートしてあげてください。後編では、子どもの夢をサポートするために親はどうすればいいかをお送りします。Ricard Allen(リチャード・アレン)トッテナム・ホットスパーで6年間アカデミーのスカウティング部門の最高責任者を任され、ヨーロッパサッカー協会連合 (UEFA) やイングランドサッカー協会 (The FA) が開催するジュニアユースとユースのすべての大会で様々な国のトップクラブを視察。the FA Talent Identification in Footballコース (才能あるサッカー選手の選考) を欧州各国のプロフェッショナルクラブで開催し、スカウティングについての講義も開催。現在はラフバラ大学サッカー部門 ダイレクターを務めている。
2020年07月06日