11月15日(火) に初日を迎える新国立劇場のムソルグスキーのオペラ《ボリス・ゴドゥノフ》新演出初演。直前の稽古の合間を縫って、公演を指揮する大野和士芸術監督に話を聞くことができた。「ムソルグスキー畢生の大作。私はムソルグスキーは不世出の大天才と言っていいと思っています。それはたとえばショスタコーヴィチも言っているんですね。彼はムソルグスキーの未完のオペラ《ホヴァーンシチナ》を補完していますが、私たちがショスタコーヴィチの特性であると思っているもののほとんどを、彼はムソルグスキーから得たと言っているんです。人間の内面性、瞬時に変わる心模様が、哲学的な深みにまで達しているような音楽を作ることのできた作曲家です」今回の舞台は、ポーランド国立歌劇場との共同制作で、同劇場芸術監督のポーランド人演出家マリウシュ・トレリンスキが手がけるプロダクション。本来は今年4月に、先にワルシャワで初演される予定だったが、ロシアのウクライナ侵攻を受けて中止となった。「結果として新国立劇場で世界初演されることになりました。この《ボリス・ゴドゥノフ》ほど、人間の精神の表裏を描き尽くしたオペラはありません。それをこのような時期に日本で初演することはとても意味のあることだと思っています」もちろん世界情勢は今回の上演にも影響している。当初は3人のロシア人歌手の出演が予定されていたが、招聘を断念した。「ボリスと修道僧のピーメン。そしてボリスの臣民でありながら、裏切って行ってボリスの政権を倒すシュイスキーという役の3人を新たにお願いしました。ボリス・ゴドゥノフ役は私の友人のギド・イェンティンスさん。昨年の《ニュルンベルクのマイスタージンガー》でポーグナー役を歌ったバス歌手です。彼がボリスを2回、ロシア語で歌っているという情報が耳に入ってきたので、すぐ彼に電話して、やっていただくことにしました。ピーメン役は実はなかなか決まらなかったんです。あるとき、私がたまたまYouTubeで見つけた素晴らしい声のバス歌手がジョージア人のゴデルジ・ジャネリーゼさんでした。まだ32歳。ピーメンは老僧の役なので、年齢的にどうかとは思ったのですが、ここまで声のいい人を見つけることはなかなかできない。これは運命だと思いました」「シュイスキーは、これも私の友人のアーノルド・ベズイエンさんというオランダ人テノールです。シュイスキーという登場人物は、貴族らしい清らかな優しい声で、最初に声を聴いただけだと、この人はいい人だろうと騙されてしまうような役なんですね。それを彼にお願いしました。先日、オーケストラと合唱と合わせるリハーサルがあったのですが、3人の歌にみんなびっくりしていました。ロシアの歌い手たちが来られなくなったのは悲しいことですけれども、こういう困難をみんなで乗り越えて出す結果が今回の公演です。ぜひ日本の多くの聴衆の皆さんに聴いていただきたいと思っております」映像も巧みなトレリンスキ演出の本質は台本の読みの深さ演出のトレリンスキは映画監督出身。今回も大がかりな映像が強烈なインパクトを与える。「トレリンスキさんとは、エクサンプロヴァンスとワルシャワの劇場で一緒にプロコフィエフの《炎の天使》をやりました。たしかに照明や映像を使いますが、それよりも私は、彼の台本の読みの深さにとても惹かれました。声だけを聴かせるような舞台を作る人です。今回も、ボリスがひとりで悩むシーンとか、修道僧がひとりで歌うシーンなどは、舞台上に何かがあるということを感じさせません。逆に、合唱が出てくる場面などでは、視覚的な要素も大いに使う。演出家としての多面的な手腕を、この《ボリス・ゴドゥノフ》でも見事に発揮していると思います」「私の知人のひとりは、今回は5公演のうち4回見に来ると言っています。1回よりも2回、2回よりも3回見たほうが、舞台と音楽の関係、演出と音楽の解釈が作品にどう作用しているかがわかるわけですよね。1回目には視覚的な要素にすごく心を奪われたという方が、2回目には音楽的な深さのほうが心に残ったというような場合もあると思います。もちろん、1回見ていただくだけでも楽しめるように、舞台も音楽も、私たちみんなが頑張るということは間違いないですけれども(笑)」11月6日(日) に劇場ホワイエで開催された「オペラトーク」では、パネリストとして招かれたロシア文学者の亀山郁夫と元外交官で作家の佐藤優の両氏が、「この時期にこのオペラの上演は世界的事件」(亀山)、「大野さんは勇気がある。政治的な戦いの中で、人間の共通の言葉を見つけることができる」(佐藤)と、ともに上演への驚きとその意義を語った。「その点で言うと、日本でこれを上演できるのは、日本人の懐の深さがあるんだと思います。このロシアの物語をやるということは、現実として当然、いま起きているさまざまな政治的な問題と関わってきます。それを考えることなくしてはできないと思います。それゆえになかなか演奏できないという国もあるわけです。この作品の場合には、それがあり得る。これがたとえば愛の二重唱で満ちているようなオペラであれば、どんな国のどんな時代でも、それが検閲で禁止されたことはないわけですよね」ただしムソルグスキーが描いているのは、人間のドラマであり、内面的な精神描写の巧みさがこのオペラの最大の魅力だろう。その特質を端的に示す例として、大野監督はオペラ冒頭のボリスの登場シーンを挙げる。「《ボリス・ゴドゥノフ》の原作は史実をもとにしたプーシキンの戯曲ですが、ムソルグスキーは台本を完全に書き直しているんですね。民衆が「ボリスよ、私たちの皇帝となってくれ」という大賛歌が歌われた後に、普通だったら「よし、皆の者。私について来い!」というのがオペラの常套ですよ。ところがこのオペラでは、「私の心は千々に乱れている……」と、作品の中でも一番暗いと思われる音楽が出てくるんです。なぜなら、プーシキンの戯曲では、本来帝位を継ぐはずだったドミトリーを殺したのがボリスです。その罪の意識、あるいは皇帝であることのプレッシャーや、裏切られるのではないかという不安。そうしたものに苛まれている。その焦燥がボリスの登場の音楽なんです。主人公がこんな音楽で登場するオペラはないですよね。ムソルグスキーが、人間の心に対して鋭い感性を持っていたことの表れだと思います。もうひとつ。聖愚者という登場人物が出てきます。かつてボリスを皇帝として賞賛していた民衆が、いまはボリスを追い落とそうとする偽ドミトリーの賛歌を歌わんとしている。そのとき聖愚者が彼らに、「泣け、ロシアの民よ。すぐに(別の新たな)敵がやってくるだろう。あなたたちは苛まれ続けるのだ」と歌います。ムソルグスキーのオリジナルです。民衆の熱狂とはどういうものか。その本質は悲しみを伴うものだということを、音楽で書いたのです。これはロシアだけの話ではないですよね。人間の本性に対しての鋭い直観力。それを音楽にできた大天才がムソルグスキーです。その大傑作をご覧ください」新国立劇場の《ボリス・ゴドゥノフ》は11月15日(火)~26日(土)。東京・初台の新国立劇場オペラパレスで。取材・文=宮本明撮影=石阪大輔<公演情報>新国立劇場 開場25周年記念公演 オペラ『ボリス・ゴドゥノフ』<新制作>チケット情報:
2022年11月15日11月15日(火)に初日を迎える新国立劇場のムソルグスキー《ボリス・ゴドゥノフ》新制作初演。6日(日)、劇場で「オペラトーク」が開催された。公演の指揮者でもある新国立劇場オペラ芸術監督・大野和士の司会進行。パネリストとしてロシア文学者の亀山郁夫と、元外交官で作家の佐藤優が登壇した。亀山郁夫(ロシア文学者)冒頭、まず亀山が「今このオペラが上演されることにショックを受けた。日本でしか体験できない世界的事件」と言えば、佐藤も「とても勇気が必要なこと。みんなが少しずつ勇気を出し合うことで、政治的・軍事的な戦いの中でも、われわれ人間の共通の言葉を見つけることができる。上演にはとても意味がある」と述べた。芸術の現代性、社会性が、これまで以上に大きな意味を背負っている時代であることを、あらためてひしひしと感じる。佐藤優(作家)16世紀末の実在のロシア君主ボリスを題材にした作品。大野はまず、その時代の背景である「大動乱時代」が、現代のロシアでどのように捉えられているのかを尋ねた。「ロシアがモンゴルの支配から自立する長い戦いの時代の末期。そうしたテーマが、現代の大きく混乱する世界とどう重なっているかを読み取ることが大事」(亀山)「ロシアには、現在の戦争の帰趨によっては再び動乱時代が来るのではないかという恐怖がある。いま欧米はすでに大混乱だし、日本も動乱の直前で、この作品のテーマは現代的」(佐藤)ただしボリスの人物像は、史実と原作者プーシキンの戯曲、そしてムソルグスキーのオペラ台本とで、かなり異なるという。「ムソルグスキーのボリスは非常に人間くさい」と亀山。これを受けて大野も、人間の内面のドラマを巧みに描くムソルグスキーの作曲技法について、主人公の登場シーンをヴェルディ《オテロ》と比較して、歌やセリフも交えた迫真の演技で説明した。大野和士(指揮、新国立劇場オペラ芸術監督)話題はさらに、オペラのキーパーソンの一人である「聖愚者」の存在や、物語の核ともいえる、グリゴリー(偽ドミトリー)が亡き皇子の名を「僭称(名を騙ること)」する意味などに及び、公演に向けて気分は高まった。イベントの模様は新国立劇場YouTubeチャンネルで公開中なので、実際のトークをぜひ確認してほしい。実に興味深い内容だ。ボリス役を演じるギド・イェンティンス(バス)ら歌手たちの実演も。オペラトークではボリス・ゴドゥノフ役のギド・イェンティンスら歌手による歌唱も新国立劇場の《ボリス・ゴドゥノフ》は11月15日(火)~26日(土)に全5公演。東京・初台の新国立劇場オペラパレスで。取材・文:宮本明写真:新国立劇場提供新国立劇場オペラ『ボリス・ゴドゥノフ』チケット情報: オペラトーク全編はこちらオペラ『ボリス・ゴドゥノフ』オペラトーク
2022年11月10日ミッフィーの友達「ボリス」と「バーバラ」のダブルウォールグラスが、ダブルウォールグラス専門店「グッドグラス(GOODGLAS)」から登場。2022年6月20日(月)より、新宿マルイアネックスの限定イベントで発売される。ボリス&バーバラの新作ダブルウォールグラス発売後に"即完”を記録した「ミッフィー」のダブルウォールグラスに続き、ミッフィーの仲間である、少しおっちょこちょいなくまの「ボリス」と、しっかり者のガールフレンド「バーバラ」が新作として仲間入り。飲み物を注ぐたびに、内側の層にデザインしたキャラクターのフェイスが浮かび上がる、「グッドグラス」お馴染みのキュートなビジュアルを楽しむことができる。取っ手付きの"マグタイプ”でグラスはガラス職人による手作りで、取っ手のついた"マグタイプ”として登場。ー20℃から120℃まで対応した耐熱仕様のため、オールシーズン楽しめるのも嬉しいポイントだ。セット使いもおすすめ単体ではもちろん、「ボリス」「バーバラ」のセット使いで楽しむと、より可愛さもUP。それぞれ専用ボックスも付属するため、大切な人へのギフトとしてもおすすめしたい。【詳細】「ボリス」/「バーバラ」ダブルウォールグラスマグタイプ 各4,345円発売期間:2022年6月20日(月)~7月3日(日)展開店舗:新宿マルイ アネックス 1階 イベントスペース「グッドグラス」期間限定イベント内住所:東京都新宿区新宿3-1-26※グッドグラスジャパン公式サイトでは、6月18日(土)から販売。<仕様>材質:ホウケイ酸ガラス仕様:耐熱 ー20℃~120℃サイズ:D12.7cm、H7cm ※手作りのため個体差あり容量:130ml手作りのため個体差ありパッケージ:専用ボックス
2022年06月20日書籍『ヒグチユウコ ボリス カードブック』が、2022年5月に発売される。猫のボリスに焦点をあてた、全24作品収録画家・絵本作家のヒグチユウコが描く、猫の“ボリス”にクローズアップしたポストカードブックが登場。前作『ヒグチユウコ ポストカードブック』から3点、新規掲載作品21点を詰め込んだ全24作品の豪華な内容となっている。インテリアにもおすすめ愛らしいボリスの姿はもちろん、美しい色彩も目を惹くポストカードは、部屋のインテリアにもぴったり。お気に入りのスペースに、額縁に入れて飾るだけで、グンとおしゃれな空間が演出できるはずだ。ボリス雑貨店で原画展もなお書籍『ヒグチユウコ ポストカードブック』の発売を記念した原画展「BORIS CARDBOOK Exhibition & テディベアの(小)おしごと」展が、原宿・ボリス雑貨店にて開催。期間中はヒグチユウコの作品はもちろん、ぬいぐるみ作家・今井昌代の作品も同時に展示される。【詳細】書籍『ヒグチユウコ ポストカードブック』1,870円発売時期:2022年5月仕様:B6変形 上製(はがし無線上製本) 総48頁■「BORIS CARDBOOK Exhibition & テディベアの(小)おしごと」展※原画展とテディベア・ぬいぐるみ作家の今井昌代の近作の展示が同時にスタート。場所:ボリス雑貨店住所:東京都渋谷区神宮前4-16-2会期:2022年5月14日(土)〜7月5日(火)営業時間:11:00〜19:00定休日:水曜日
2022年04月29日ミッフィーの人気インテリア照明「FIRST LIGHT miffy and friends」のオリジナルサイズに、「ライオン」「ボリス」が仲間入り。2021年3月1日(月)より、全国のインテリア・ライフスタイルショップ等で発売される。オランダ発のデザインスタジオ「ミスターマリア(Mr Maria)」が手掛ける「FIRST LIGHT miffy and friends」は、世界的人気キャラクター“ミッフィー”をモチーフにした人気インテリア照明。まるでオブジェのような愛くるしいビジュアルながら、オランダで設計及び製造された、軽くて耐久性のあるこだわり仕様で人気を集めている。今回はミッフィーの絵本でも人気の高い「ライオン」「ボリス」が、約30cm前後のオリジナルサイズに新たな仲間としてジョイン。またこれまでの商品名「オリジナルランプ(Original Lamp)」から「スターライト(Star Light)」へと名称を変更しただけでなく、照明仕様に電源ケーブルタイプや6段階調光を新たに採用するなど、さらに“使いやすく”機能面もアップデートされている。【詳細】「FIRST LIGHT miffy and friends」新作「スターライト」発売日:2021年3月1日(月)販売店舗:全国のインテリア・ライフスタイルショップ、マークストア(オンランサイト)価格:各24,000円+税サイズ:ミッフィー:幅25×奥行25×高さ50cmボリス:幅34×奥行24×高さ35.5cmライオン:幅30×奥行25.5×高さ40.8cm
2021年02月22日エンジニアド ガーメンツ(ENGINEERED GARMENTS)は、2020年春夏ウィメンズ&メンズコレクションを発表した。“フランス”から着想今シーズンのテーマは“フランス”。フランスならではの多民族性や、フランスの作家・ジャズトランペット奏者のボリス・ヴィアンから着想を得たコレクションを展開する。軽快でアヴァンギャルドな雰囲気の漂うプリントTシャツや、様々なファブリックを使ったウェアからは、多様な主張を受容するフランスの空気を読み取ることができる。ジャカードやプリントなど多彩なファブリック注目したいのは、トロピカルなハワイアン柄のファブリックや、一見パッチワークのように見える、様々な柄を組み合わせたプリント、カラフルなマドラスチェック、小花柄など、多様性を表現するかのように多彩なテキスタイル。アクティブなベージュのブルゾン、カーゴパンツには、ホワイトのシャツ、エスニックジャカードのベストを組み合わせて、着こなしにアクセントをプラスする。淡いピンクやライトブルーのストライプのジャカード生地は、凹凸のあるソフトな質感が特徴的。ポンチョとワンピースを組み合わせることで、軽快で開放的な着こなしに。目の異なるチェックを組み合わせたマドラスチェックのワンピースには、同柄のジレを重ねることで流れるようなドレープが加わり、より遊びのあるシルエットを作り出す。ツイードジャケットやボーダーカットソーなど加えて象徴的なのは、ツイードで仕立てたノーカラージャケットだ。一見するとシックなオーラを放つものの、中に着た活動的なジャケットや、ラフなワンピースと組み合わせることで、カジュアルな雰囲気に溶け込んでいく。身頃には、紋章を思わせるゴールドのブローチを複数飾り、華やかに仕上げた。また、フレンチシックを彷彿させるボーダーのフーディーやカットソー、パンツなども展開する。フラワー刺繍デニムのオールインワンやジャケットカラフルなフラワーモチーフの刺繍を配したインディゴデニムは、ジャケットやベスト、パンツ、オールインワンに用いられている。柔らかな肌触りと表情豊かなシワ感に、花の色彩が映え、春夏らしい穏やかな空気感を作り出す。オールインワンには、細かいドットの半袖パーカー、ボーダーカットソーを組み合わせることで、爽やかな雰囲気を演出する。バブアー、キーンとコラボまた、バブアー(Barbour)とコラボレーションしたアノラックパーカーやショートジャケット、コートは、洗いにかけた、独特の風合いが印象的。キーン(KEEN)とコラボレーションしたサンダルも登場する。
2019年08月20日ファッション誌のパリ特派員、翻訳家として20年間、フランスを日本に伝えてきた村上香住子による大人のパリガイド決定版『Paris Style』が販売されている。村上香住子は、20代の頃からパリで暮らし、フランス文学のボリス・ヴィアン、アンリ・トロワイヤなどの翻訳を手掛けた翻訳家。1985年に再び渡仏するとその後20年間パリに滞在し、マガジンハウスやフィガロジャポンのパリ支局長として活躍した。また、フィガロ誌にて「猫ごころ、巴里ごころ」も連載している。今回発売された『Paris Style』では、名高い俳優やアーティストたちへの取材、社交の場を経験した村上だからこそ知る“パリ”の情報を幅広く紹介。インテリアや雑貨、文具などの身近なものから、洋服やヴィンテージ、アクセサリー、美容院、スパなどの美容情報、カフェやレストラン、ワインなどのフード、美術館、音楽ホール、映画などのアートやカルチャーまで様々な情報が掲載された。また、巻末にはジェーン・バーキン、カロリーヌ・ド・メグレなど9人のパリジャン・パリジェンヌのお気に入りの場所が初公開されている。【書籍情報】『Paris Style』著者:村上香住子写真:在本彌生カバー絵:Andre Saraivaブックデザイン:有山達也、山本祐衣出版社:Little More NEW BOOKS発刊:2016年9月26日価格:2,000円
2016年10月09日おひとりさまの読者のみなさんは、クリスマスや年始もお一人で過ごしましたかねそうですよね。一方の私は、「キリスト教徒じゃないんで」とかベタな言い訳をしつつ浮かれた街のムードを無視していましたが、今回はそんなみなさんに、喧嘩を売るかのごとくとある恋愛小説をすすめてみようかと思っています。ロマンチックな『日々の泡』と、裁判沙汰になったもう1冊©bortescristianとある恋愛小説とは、ボリス・ヴィアンの『日々の泡』。こちらは岡崎京子が『うたかたの日々』という邦題で漫画化したり、ミシェル・ゴンドリーが『ムード・インディゴうたかたの日々』というタイトルで映画化したりしているので、なんらかの形でストーリーを知っている人もいるかもしれません。資産家の息子でお金持ちのコランが、パーティーで知り合った女性クロエと恋に落ち結婚するのですが、なんとクロエは肺に睡蓮の蕾ができるという奇病にかかってしまいます。クロエの病気を治すため、コランは常に部屋に大量の花を飾っておかなければなりません。しかし、日に日にかさんでいく花代のせいで、コランの資産も乏しくなっていき……というのが主なあらすじです。このように、あらすじだけ記述するとよくある「病気が2人の愛を引き離しちゃう系」に思えなくもない『日々の泡』ですが、よく読むと「肺に睡蓮の花……?」とそもそもクロエの病気が意味不明だし、コランについては資産家の息子のくせに花代くらいで生活苦になるのかよ、と突っ込みたくなるところも満載です。だけどそのシュールさがこの小説のいちばんの魅力でもあり、他にも水道の蛇口からウナギが出てきたり、ネズミがしゃべったりするので、細かいことはいちいち気にしていられません。ところどころで「はあああああ???」と思いつつも作品世界に吸い込まれ、意味不明なはずのその描写に、この世の物とは思えない美しさや儚さが見てとれてしまう、というのがこの『日々の泡』なのです。しかし、『日々の泡』はかなり奇妙であるとはいえ、基本的にはどこまでもロマンチックな恋愛小説です。12月に『日々の泡』を読んだりしたら、もしかしたら1人でいるのがちょっとさみしくなってしまうかもしれません。そこで、そんなあなたにおすすめしたいもう1冊が、ヴァーノン・サリヴァンの小説『墓に唾をかけろ』。こちらはタイトルからしてとんでもねえですが、ストーリーもとんでもない。黒人の弟をリンチされ殺された兄が、白人の姉妹を弄んだ上に殺して復讐するという物語です。性描写や暴力描写がかなり生々しく下品なので、俗悪な人種差別小説として、出版当時は裁判沙汰にもなったそう。なんでそんな小説を『日々の泡』と一緒にすすめるのかというと、実はこの2つ、作者が同じなんですよ。ヴァーノン・サリヴァンというのは、ボリス・ヴィアンが名乗った別の名前として、広く知られています。一方でベタベタに甘い恋愛小説(変だけど)を書いておいて、別の名前で裁判沙汰になるほどの禁書を書くボリス・ヴィアンという作家、ミステリアスで謎が尽きないので私は大好きなんです。賞賛しつつ唾を吐きけるという態度なぜボリス・ヴィアンは、こうも相反するイメージの小説を書いたのでしょうか?小説家以外にも、ヴィアンはトランペット奏者であり、俳優であり、歌手であったりと多才な人物でありましたが、彼のことを知れば知るほど、私はなんだかこの人に欺かれているような気分になってきます。いよいよ2015年も終わりが近付き冬も深まってきましたが、1人でさみしくなったときも、恋にズブズブとのめり込みそうになったときも、思い出してほしいのは『日々の泡』と『墓に唾をかけろ』です。片方で赤面するほどのスウィートな恋愛を描きつつ、片方で読むだけで不快になる女性への暴力を描いたボリス・ヴィアン。私はヴィアンの2冊の小説を読むと、物事に対するバランスのとれた距離感、というのを考えます。ある事象に対して、同一人物とは思えないほど正反対の2つの視点を重ねて持つこと――ヴィアンの2冊の小説を読むと、そんなことが可能なのかと驚きますが、何か1つの考え方にのめりこんでしまいそうになったとき、こういった視点に救われることって大いにあります。ちなみにこのヴィアンという作家、『唾を吐きかけろ』が映画化したというので試写会に行ったところ、その試写会で心臓発作によって倒れ、そのまま亡くなったそうです。「俺は40歳まで生きないだろう」と予言していたとおり、享年39歳。この人、やっぱりどこまでも変な人ですねえ。というわけで、こんな時期だからこそ、『日々の泡』をじっくりゆっくり読んでみるのおすすめです。ちなみに私は、『墓に唾をかけろ』のほうが好きですけどね!Text/ チェコ好き
2016年01月05日恋愛小説の最高峰として知られるボリス・ヴィアンの「うたかたの日々」を、『エターナル・サンシャイン』のミシェル・ゴンドリー監督が映画化した『ムード・インディゴ~うたかたの日々~』。主演を務めたオドレイ・トトゥが、“ロミオ&ジュリエットのようなカップル”と例えるロマン・デュリス演じる恋人との関係や、作品の魅力を、自らの恋愛観も交えて熱く語った。舞台はパリ。財産に恵まれ、働かなくても裕福な暮らしをしていたコランは、あるパーティで美しい女性・クロエと恋に落ちる。2人は互いに惹かれ合い、愛に満ちた幸せな日々を送っていた。だが、クロエは肺に睡蓮の花が咲くという不思議な病に冒されてしまう。クロエを救おうと、コランは自由奔放なそれまでの生活を捨て、働き始める…。「魅力は、イマジネーション、自由、そしてなによりもロマンチックな恋愛ね。2人はまるでロミオ&ジュリエットのような絶対的なカップルだからこそ、多くの人の心をとらえたんだと思う」。オドレイは原作にそんな感想をもったそう。自分が演じるにあたっては「原作より実年齢が上だから、純情すぎないキャラクターを心掛けたわ」というアレンジも。2人の幸せな日々はクロエの病によって崩れ始めてしまうが、「いままでの暮らしが美しかった分、その人生の不当さは観る者に響くと思うの」と語った。さらに、ゴンドリー監督の演出によって「ラブストーリーに遊び心が加わった」とも。「遊びの要素がなければ、恋愛だって退屈するでしょ?私はロマンチストな人間よ。その方が楽しいもの」と恋愛観も披露してくれた。また、著述家の湯山玲子氏は、本作で描かれる恋愛からは「ウキウキ気分を現実に取り戻すこと、という教訓も読み取れる」と語る。「セックスとプロポーズの期待だけという殺伐とした恋愛しか知らない、いまの恋人たちに必要なのは、スケートやダンスに興じるデートの世界」と、本作の見どころを紹介する。キュートで残酷、悲痛で幸せ。そんな相反する魅力を放つ大人の愛の物語。人恋しくなる秋、胸を締め付けられるような切ない恋愛に酔いしれてみては?『ムード・インディゴ~うたかたの日々~』は10月5日(土)より新宿バルト9、シネマライズほか全国にて公開。(丸山こずえ(cinema名義))■関連作品:ムード・インディゴ~うたかたの日々~ 2013年10月5日より新宿バルト9・シネマライズほか全国にて公開(C) Brio Films – Studiocanal – France 2 Cinema All rights reserved
2013年10月04日