●『ジョジョ』のジョセフ・ジョースターに憧れ「意外と、芸人と共通点あるなって思うところが多かったですよ」。漫画家という職業についてそう語るのは、お笑い界きっての漫画ファンとして知られるケンドーコバヤシ(以下ケンコバ)だ。『ドラえもん』で漫画の世界の扉を開いたというケンコバが、漫画家の仕事場を訪れて取材を行い、作品の裏話などを掘り起こすバラエティシリーズ『漫道コバヤシ』の新作DVDが5月に発売されたが、取材を通じて漫画家に感じたことや理想の漫画観、そして『鬼滅の刃』完結や、コロナ禍におけるお笑い界などについて、リモートインタビューで話を聞いた。――改めてケンコバさんと漫画との出会いについてもお聞かせください。最初は『ドラえもん』ですかね。アニメ化直前に読んでたんですよね。未だに実の姉と話すことがあるんですけど、生意気なことに、幼稚園の年長組くらいやったと思うんですけど、「これ、もうすぐ絶対アニメになる」って俺が予言してたらしいんですよね(笑)。ほな、半年後くらいにアニメ化されて「私びっくりした」っていう話を、まだ姉ちゃんとたまに話すんです。――ジャンルによるのかもしれないですが、名作の条件はありますか?「基本、こういう漫画が好き」っていうのはありますよ。主人公の身体的特徴はもちろんなんですけど、ハートが強くなかったら嫌なんですよね。――例えば『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズだったり。ジョジョの主人公はだいたいハート強いですからね。だから意外と『エヴァンゲリオン』とかは、主人公が好きじゃないんですよ。(碇シンジは)ハートが弱いので。――『エヴァ』の男性キャラなら、加持リョウジとかでしょうか?そうですね。加持さんとかの方が好きですね。――生き方や考え方の面で影響を受けたキャラクターはいますか?『ジョジョ』第二部のジョセフ・ジョースターですね。いい意味で軽く、相手を舐め腐って勝つっていうね(笑)。あれ、やっぱり理想ですよね(笑)。めちゃくちゃ特訓とかしているんですけど、それを見せない。そこは美学として僕も持ちたいですよね。――漫画と言えば先日、吾峠呼世晴先生の『鬼滅の刃』が完結しました。物語が最高に盛り上がったまま、綺麗に終わったのかなという印象でしたが、ケンコバさんはどんな思いがありますか?これは新たな漫画のルールが作れたというか。作者の思い通りに終わらせていいんだっていうね。やっぱり若干あったと思うんです。「ここで終わりたいけれども、人気がすごいんで続けさせてください」って、正直あったとは思うんですよね。これからは、そうなっていくんじゃないですか。『鬼滅の刃』で、いい例ができたというか。――漫画ファンとしては、作者が尊重されるのがうれしい?うれしいですね。いろいろ大変やとは思うんですよ。アニメ化とかも今はあるんで。●漫画家のギャップや仕事現場に驚き――5月にリリースされた『漫道コバヤシ』のDVDでは、『キャプテン翼』の高橋陽一先生、『キン肉マン』のゆでたまご先生(嶋田隆司先生/中井義則先生)、『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』の三条陸先生、『約束のネバーランド』の出水ぽすか先生、『こち亀』の秋本治先生の仕事場を訪れました。それぞれ印象的だったことや驚いたことを教えてください。まず高橋先生は、天然というか、ご本人の記憶が薄いというか(笑)。まあ、走り続けている先生なので、当然なんですけど、こっちが用意した質問のほとんどを「そんなの描いたっけ?」みたいな感じでしたから(笑)。話していてすごい面白かったですね。僕が「もしかしたらこういうことやったんじゃないですか?」って予測で言うたら、「じゃあそういうことにします」みたいな感じで話が進んでいったんで(笑)。「いいのかな?」と思いながら、ドキドキしながら取材を進めた記憶がありますね。ゆでたまご先生は、嶋田先生は何度も出ていただいたことがあるんですけど、中井先生は本当にレア。なかなか取材は受けない方なんです。しかも、お二人同時にお話を聞けたのは、かなり貴重な映像になりました。中井先生はいまだに絵の勉強をされていると。あれだけの名声を手に入れた人が未だに勉強しているっていうのは驚きですよね。三条先生は、漫画の理論がものすごくしっかりした人で、「少年誌はこう描いたらいける」みたいなことをよく考えている人やなと。だから、僕とか単なる漫画ファンよりも、プロの漫画家を目指す人が見るべき回やなと思います。出水先生は、失礼になったら申し訳ないですけど、こんなに変わった人っているんだって感じでした(笑)。正直最初、めちゃくちゃびっくりしましたよ。ライダースーツにヘルメットで来たときは。取り押さえた方がいいかなと思いましたね。しゃべりも超ハイテンションで。いい意味で、思ってた人とは違いましたね。漫画好きの少女がそのままプロになったって感じでした。――これまでにも、女性漫画家の方は取材されてますよね。それこそ、大御所やったら柴門ふみ先生とかおられるんですけど、出水先生は少女漫画より少年漫画に熱かったみたいな。『キン肉マン』好きっていう、意外な一面もあったんで、全てがギャップだらけで面白い先生でしたね。――そして、秋本先生です。秋本先生の自宅に訪問できたのはすごかったですよ。DVDの中でも語ってますけど、「あんなソファ、どこで売ってんのやろ?」っていうソファですからね。30人くらい座れるソファなんですよ。どのニトリ行っても見たことないです。まさに、漫画界の第一人者っていうのを、目の当たりにしましたね。●芸人と漫画家の共通点「トップどころの人は似ている」――今回取材された先生方も含めて、漫画家の先生方は人生を賭けて、漫画一本で勝負されていますよね。そんな漫画家さんとは、ケンコバさんにとってどんな存在なのでしょう?話をしていて、意外と芸人と共通点あるなって思うところが多かったですよ。芸人のトップどころの人と、漫画家のトップどころの人って、似ているなと。すごくシャイというか。やっぱり内にためているものを、作品に爆発させてるんやろうなって思う方が多かったですね。――芸人さんだと、例えば松本人志さんはシャイな人柄で知られていますよね。松本さんとか、ビートたけしさんもシャイですし、(とんねるずの)石橋貴明さんもプライベートでお食事させてもらったことがあるんですけど、「こんな感じの人やねんや」っていうくらいシャイで。そう思えば、さんまさんの異常さが浮き立つ (笑)。さんまさんだけは異常者なんでしょうね(笑)。24時間さらけ出しているというか。――もしケンコバさんが自分の描きたいように描ける画力を持っていたとしたら、こんな漫画が描きたいなというアイデアはありますか?やっぱり、王道のバトルものを描きたいですよね。『HUNTER×HUNTER』で言う念とか、『ONE PIECE』で言う悪魔の実とか。ああいう王道のやつ、描いてみたいですね。ジャンプの王道というか、少年誌の王道というか。いざ自分が漫画家になるとなったら、隙間を狙っていくと思うんですけどね。――ケンコバさんが描くお色気路線漫画も面白いのかなと思います。お色気路線も、どっちかと言うたら、小学生向けのお色気路線とか描きたいですよね。昔はあったんですよ。ドキドキさせるような。――『まいっちんぐマチコ先生』とか?そうですそうです!! 大人から見たら、全然お色気でもなんでもないんですけど、小学生くらいが見たらたまらんようになってくる漫画って、昔はけっこうあったじゃないですか。――コロナの騒動が落ち着いても、今後エンタメ業界は様々な対応や変化を求められると思います。お笑いにはお客さんがいることが重要だと思うのですが、ケンコバさんはどうなっていくべきだと考えていますか?いろんな見方があると思うんですけど、優先すべきは、声を出していいスタイルにしてあげたいなと思うんですよ。マスクを着けて静かに見なあかんというのは、(お笑いに)一番似合わないので。それやったら、ネット(配信)主体でもいいかなと思うんですよね。リアクションを大きく取ってもらえるのが一番。結局お笑いって、一番大事なのって気晴らしになることやと思うので。だから、おとなしく見るよりは、手を叩いて笑えるような状況やったら、ネットでもいいんじゃないかなと僕は思います。こっちはやりにくいですけどね、リアクションがないので。なんか、すべってる感じはすると思うんですけど。意外と僕も、自分の気持ち良さより、お客さん優先ということを考える男なので。■ケンドーコバヤシ1972年7月4日生まれ。大阪府出身。NSC大阪校11期生。お笑いコンビ・松口VS小林、モストデンジャラスコンビを経てピン芸人へ転身。漫画、プロレスなどへの深い造詣を活かした独自のネタでブレイク後、東京へ進出して全国区に。2015年には漫画キャラクターたちの美学をまとめた『「美学」さえあれば、人は強くなれる マンガのヒーローたちが僕に教えてくれたこと』も出版している。
2020年08月12日