サカイクに届く「うちの子は運動が苦手で、動きが鈍いように見えるんです......」という悩み。運動が苦手な子は、何から始めれば良いのでしょうか?いわきスポーツクラブのアカデミー、ドームアスリートハウスアスレティックアカデミー(以降DAHAA)のアドバイザーを務め、選手育成に長年携わる小俣よしのぶさんに聞く、運動能力向上のポイント。後編では、運動の基礎となる身体機能である姿勢維持と重心コントロール機能、運動が上手になるための能力である自己観察能力、運動好きを育てるために必要な「運動有能感」の重要性と大切さについて伺いました。(取材・文:鈴木智之写真:)裸足なのもポイント。DAHAAではあらゆるスポーツの基礎となる体力運動能力向上を図る長期育成プログラムを通してスポーツ万能キッズの育成を行っています<<前編:「うちの子運動神経が悪くて」と悩む親必見!「サッカー以前」に必要な運動スキルとは■猫背はイライラ、エネルギー不足の原因に小俣さんは運動が上手になる前提として「まずは姿勢ですね。猫背などが運動に必要な身体機能の低下を引き起こしたり、あるいはその現れと見ることができます。姿勢は運動が上手になるためには必要なんです。ここから改善する必要があると思います。」とアドバイスを送ります。「いまの子どもたちは携帯ゲームやスマートフォンなどの利用時間が多く、その間は長時間にわたり下を向いていることが多いです。このような姿勢が猫背につながると言われています。猫背は身体機能低下やケガ障害につながるとも考えられていますから猫背である場合は、改善が必要だと思います。まずは背筋を伸ばして骨盤を立てるイメージを作ること。これが運動の基本姿勢になります」人間は地球上で生活する限り重力の影響を受けています。立ったり、座っている、歩いたり、飛び跳ねたりする時にも身体を支える、言い換えると重力に抵抗しながら姿勢を維持しなければなりません。その姿勢を支える筋肉群(抗重力筋群)があるのですが、猫背などによってそれらの筋力や柔軟性が低下します。それによって身体を支えられなくなる、重心のコントロールが苦手になるということが現代の子どもに起きているそうです。「筋肉の中には姿勢を支えたり、重心をコントロールするために必要な身体の状態を感知するセンサーが入っています。運動不足などによる姿勢を支える筋群などの低下はこれらのセンサー機能の低下にもつながります。重力に抗って姿勢を維持できなくなってくると、それが猫背となって現れます。長時間、猫背でいると身体にさまざまな弊害が起こります。例えば、猫背になると前かがみ姿勢になるので胸が圧迫されます。これは言い換えると肺も圧迫されることになり、肺をしっかりと膨らませることが難しい姿勢です。酸素を体内に取り込む器官が肺で、それが圧迫されると呼吸が浅くなります。その結果、酸欠になったりしてイライラしたり、疲れやすくなるとも言われています。さらに人間は酸素を利用して活動のエネルギーを作ります。酸素を取り込む量が少なくなったり、その器官がうまく働かないと運動スポーツに必要なエネルギーも不足してしまいます。」また、腹圧を高めて踏ん張ることができないため、ボールを蹴るときやヘディングなどでジャンプ、あるいはコンタクトするときに力の発揮が弱くなるそうです。「良い姿勢を作ったり、維持することは、運動を行う上でとても大切です。いわきFCでは食事中の姿勢なども注意するようにしています。またDAHAAでは裸足で運動を行い姿勢維持機能の強化を図っています」■運動能力を高める3つのポイント、平衡、リズム、定位とは?姿勢維持が前提要件として整った上で、あるいはそれを改善するために様々な運動をすること。それが結果として、サッカーのパフォーマンス向上につながります。運動能力を高めるための3つのキーワードが「平衡」「リズム」「定位」です。平均台を渡る子どもたち。運動ではバランスが崩れながらもコントロールできることが大事まずは「平衡」とはどういう事を指すのかと伺うと、こんな回答をいただきました。「平衡(へいこう)」というのは、バランスと言えますが、バランスを安定させるだけはなく、バランスを崩したり、崩れたバランスを立て直したり、目まぐるしく変化する運動の中で姿勢を維持するなど、どのような体勢であっても姿勢と重心をコントロールする能力です。これはすべての運動の基礎となります。」と教えてくれました。さらに「器械体操のウルトラH難度やフィギュアスケートの4回転ジャンプ、サッカーのオーバヘッドキックやGKのダイビングキャッチなどは、この姿勢と重心コントロールが適切であるから成せる技なんです。バランスを鍛えるエクササイズというとバランスボードなどの不安定な物の上に乗ってバランスを崩さないようにするエクササイズや、身体の安定性をねらって体幹トレーニングなどをします。これらのエクササイズは、静止状態でのバランスの安定性を作るものであって運動やスポーツに必要なバランスとは異なります。本来、バランスは崩れないと運動できません。走ったり、跳んだり、投げたり、蹴ったりなどの運動はバランスの安定と不安定が目まぐるしく変化する中で行われるのです。したがってバランスを安定させるエクササイズや体幹を強化するだけではなく、バランスが崩れながらもコントロールできる能力が必要なのです」続いては「リズム」について。小俣さんは「運動が上手、運動の勘が優れた選手の特徴として、運動の変化の中における力を入れたり抜いたりする能力に優れています。熟達者のスキルなどが流れるような、あるいは力感を感じられないのはスキルの流れの中で適切に力の出し入れ、それに伴う動きの速度の抑揚とメリハリがスムーズであるからです。サッカーのドリブルで相手を抜くときは、動きの経過と力発揮の強弱が動きの速度の抑揚を生み出し、この動きがリズミカルに見えるので、メッシやネイマールのドリブルの中にリズムを感じ取るのです。力発揮の強弱がぎこちない、あるいはバラバラだと、スムーズに動くことができません。幼児の運動、例えば走ったり、投げたりなどの複雑な運動を見るとロボットのような動きをすることがありますが、あれは動きの中での力発揮の強弱ができていないために、あのようなぎこちない動きなるのです。リズムと言っても、これは音楽のリズムとは異なるものです。例えばダンスをやったところで養成できる能力ではありません。音楽のリズムは『二拍子』や『三拍子』などのビートという単位で構成され、アクセントを持つ音の強弱が連続するものです。音が基本となります。運動のリズムは身体の動きの中に現れる力の強弱と速度の緩急によるものですから、運動と音楽のリズムは根本的に異なります。最近では音楽に合わせてステップワークを行うエクササイズを見かけますが、あれが上達しても運動スポーツの上手さにはつながりません」最後に「定位」ですが、自分と自分の周辺の状況や状況の変化を把握する能力で、例えば自分がグラウンドのどのあたりいるのか、ボールと自分、相手との位置関係はどうかといったことを感覚的に捉えて運動や姿勢を変化させる能力のことを言うのだそうです。小俣さんはサッカーのスキルで例を示して「ドリブルでディフェンダーの間を突破する際に、この定位能力が必要となります。自分をカバーしているディフェンダーとの距離感(間合い)やディフェンダーの動きの変化、それに対して、どちらに切り返してカバーを外すのかを判断して自分の運動(ドリブル)とそれに伴う姿勢や体勢を適切に変化させます。あるいは相手ゴールを背にしてパスを受け、反転してゴールに向かってシュートを蹴る場合、自分とゴール、カバーしているディフェンダーとの位置関係を瞬発に判断してカバーのいない方向に反転します。その際にトラップから反転しながらキックへの運動の変化があり、それに伴い姿勢と重心が変化し、振り返ってゴールまでの距離を瞬時に読み取りながらシュートを打つために適切な力発揮度合いの変化が生じます。このような振り向きざまのシュートにも定位能力が関わっています」「これらの能力が整っていない、あるいは統合されていない、未発達であったりすることが、運動ができない=運動神経が悪いとみなされているのだと思います。これら3つの能力は、運動の基礎をなす要素ですから、これらの発達度合いや養成は非常に重要だと思います。その中でも特に平衡は運動のすべての根幹となります。姿勢の維持と重心のコントロールが適切でないとリズムや定位にも狂いが生じます。これらの能力を鍛えるには、前編で紹介した36の運動にある『姿勢の変化や安定性を伴う運動』と『重心の移動を伴う運動』が効果的であると言われています。サッカーがうまくなるためにドリブルやリフティングなどの練習だけをするのではなく、体育でやっているような器械体操、マット運動、鉄棒、さらに遊びの中に含まれるさまざまな運動など、一見サッカーと関連しない、あるいはサッカーから離れた運動が大事なのです。サッカーがうまくなりたいからといってサッカーばかりしすぎると、特定の能力は鍛えられますが、体力や運動能力が偏ったり、身体形態の健全な発育を阻害したり、それらがロコモティブシンドロームやケガ障害の要因になったりします。サッカーの基礎はスポーツ万能、言い換えると高い基礎体力運動能力です」■自己観察能力は、自分で体験しないと身に付かない小俣さんはスポーツが上達する上で欠かせないのは「運動の最中に、自分の身体や運動を常に感じ取る、自分自身を観察する能力」だと言います。動物の動きをする子どもたち。自分の身体をどう動かせばいいのか常に意識する能力は、子どもが体験の中で身につけていくしかない「このような行為を内省や自己観察と言うのですが、自分の体はどうなっているのか、どう動いたのか、どこに力が入ってるのか。そして、どうやったらうまく出来たのかということを常に意識したり感じ取る能力です。これは動画などの映像を使って自分の運動を見ることとは違います。動画もスキル習得にとって適切な方法ではありますが、そもそもこの自己観察能力がない、あるいは低い選手や、特に競技経験の浅い子どもには適していない指導です。自分の身体と運動の感覚が備わっていない選手に動画を見せて動きを指示したり、イメージを伝えても、それらを理解して指示やイメージ通りの運動に変えることは非常に難しいです。自己観察能力が備わるとスキル習得や運動学習の効率も高くなると言われています。こればかりは、大人が教えるものではなく、子どもが運動体験する中で身につけていくものです」「遊びやスポーツ活動の中で、自分の身体と運動に向き合い自己観察を行いながら感覚を研ぎ澄まし習得するものです。しばしば選手たちに、例えば、練習中にシュートを打った後などに、直ちに蹴った時の感覚を振り返れと言います。チームメートとおしゃべりしたり、ほかのことを考えていると感覚を忘れてしまいます。自己観察は感覚を通して行うものですから運動の最中や直後の感覚の振り返りが重要なのです。また指導者が1プレーごとに細かく指導したり、動きを指摘することも感覚を失わせる行為です。指導者は、選手の動きに変化が見られた時などに『今、どんな感じだった?』とか『今の動きと、さっきまでの動きは、どのように変わった?』などの質問をして選手が自己観察するきっかけを作ることが自己観察能力の養成には肝要です。ブリース・リーの有名なセリフに『Don’t think!Feel!』というのがありますが、正にあれです」「人間は本来、走ったり、投げたり、蹴るなどの複雑な運動を行う能力を持っています。運動ができない子、苦手な子は体験機会がないことが原因のひとつで、運動機会を与えるうちにできるようになるんです」そのときは、なるべく大人がやり方を教えず、自分でチャレンジすることで、自然と身につけていくと言います。「例えば、ボール投げ運動であれば、ボール投げが上手、あるいはフォームが整っている場合は野球のピッチャーの投げ方を指導することも可能で、その際には大人が介入して教えることはできると思います。しかし、元々ボール投げが苦手、あるいはその運動体験や運動感覚が乏しい子どもに高度な体力運動能力が要求されるボール投げ運を教えるのは難しいです。投げる運動が苦手な子どもには投げ方を教えるのではなく、先ずボール投げの楽しさに気づかせて、その後は自分の好きなように投げさせてみることが大事です。投げる運動を繰り返す中で投運動に必要な体力運動能力が鍛えられ、かつ運動の感覚が養われていきます。投運動の基本が備わってきたら、高度な投げ方を指導するというように段階的に取り組むほうが合理的です。これはサッカーのスキル習得も同じです」もともと運動体験が乏しいのに専門的な指導をしてもつまらないのでやる気も出ないし上達しません。まずは「楽しさ」に気づかせてあげましょうスポーツ教室などに行くと、子どもたちが取り組む姿を、近くで保護者が見守っています。微笑ましい光景ですが、小俣さんはその際「できたことを褒めるだけでなく、認めることがポイント」と言います。「子どもは何かの運動に取り組んで、上手にできると保護者の方をチラっと見ます。『いまできたよね、すごいでしょ』という感じで。これは、認めてもらいたいという要求があって、それを認めてもらうと自信ややる気につながります。運動を通して自信や動機が高まることを『運動有能感』と言います。自分はうまくできたんだ、やればできるんだ!という気持ちは心身の健全な成長にとって欠かせません。特に子どもは、運動を通してこれらの能力を身につけやすいと言われています。運動が、子どもの自信や性格を作るんです」■子どもを伸ばす褒め方のコツ登ったり、跳んだり、様々な遊びを通して運動能力を高めていくのです。そして、自信を持つことで積極的にチャレンジするようになりますそして保護者に向けて、次のようにアドバイスを送ります。「子どもの頃は自分に自信を持つことが大切で、この頃に形成された精神構造などは、それ以降の自身のあり方に影響するということも聞きます。うまくできたときに、子どもが『見て!見て!』と言うのは、自分の有能感を示して褒めてもらいたいからなんです。有能感が芽生えると、次はこういうことをやってみようという、チャレンジする気持ちが沸き上がってきます。それが積極性を生み、苦手な運動にも積極的に取り組むようになり、結果として体力運動能力の向上につながるのです」子どもを褒めるときにも、コツがあるようです。それは「他の子と比べずに、できたことを見つけて褒めること」です。「ただし褒めすぎると、子どもは褒められることが目的になり、褒められないと刺激になりません。つまらなく感じてしまいます。だからこそ、認めることが大事で、『いま、できたね。どうやったらできたの、ママに教えて?次はこれをやってみれば』というふうに持っていってください。それが、運動が好きになり、上達するためのひとつの方法です」いかがでしょうか。運動神経云々ではなく、運動機会が子どもたちの体力運動能力の向上につながるのです。前編でもお伝えした36の基本運動は、親子で海や山、川などの自然体験をしたりアスレチック体験など一緒に楽しみながらできるものです。遠出しなくてもご家族で近場の自然でアクティビティを楽しんだり、公園などで一緒に運動体験をしてみてはどうでしょうか。そして楽しみながら「褒めるポイント」を実践して、お子さんのチャレンジする力を引き出してあげましょう。<<前編:「うちの子運動神経が悪くて」と悩む親必見!「サッカー以前」に必要な運動スキルとはドームアスリートハウスアスレティックアカデミーとはアンダーアーマー日本総代理店である(株)ドームのトップアスリート専用のパフォーマンス開発機関「ドームアスリートハウス」が運営するスポーツ万能キッズを養成するアカデミー。その特徴は、①あらゆるスポーツや運動の基礎となる体力運動能力からパフォーマンスアップのための専門的フィジカルを鍛えるプログラム、②日本最高レベルのトレーニング施設、③トップアスリートを指導するパフォーマンスコーチによる専門性の高い指導。育成年代のスポーツや運動についてのご相談やお問い合わせは下記までDAHアスレティックアカデミー>>小俣よしのぶ(おまた・よしのぶ)いわきスポーツクラブ(いわきFC)アカデミーアドバイザードームアスリートハウスアスレティックアカデミーアドバイザーWaisportsジャパン(筑波大学発ベンチャー企業)研究員石原塾アドバイザー筑波大学大学院修了体育学修士育成システム、競技スポーツの一般トレーニング学の研究を専門とし、その知見を活かしJリーグ、競技団体、プロ野球、自治体などの指導者研修や講演活動を行っている。
2020年01月29日「うちの子は運動神経が悪くて......」「他の子と比べて、動きが鈍いのよね......」。そんな感想を持つ保護者の方から、サカイクに相談のメールがよく届きます。そこで今回は、子どもや成長期のスポーツ選手たちの育成について多くの知見を持つ、いわきスポーツクラブアカデミーアドバイザー、ドームアスリートハウスアスレティックアカデミー(以降DAHAA)アドバイザーの小俣よしのぶ氏に話を聞きました。(取材・文:鈴木智之写真:新井賢一)DAHAAではあらゆるスポーツの基礎となる体力運動能力向上を図る長期育成プログラムを通してスポーツ万能キッズの育成を行っています■サッカーをするための基礎的な運動体験が大事スポーツの現場でよく使われる、運動神経が良い、悪いという表現。耳慣れた言葉ですが、小俣さんは「そもそも、運動神経に良いも悪いもありません」と穏やかな笑みを浮かべて言います。「運動は神経を介して筋肉、骨、関節などの運動器が脳と繋がって行うものなので、神経が良い、悪いというものではないんです。人間の基本構造に優劣はありません。」では、運動ができる子と苦手な子の違いはなんでしょうか?小俣さんは「一番の大きな違いは、運動体験です。運動の得意な子どもは遊びなどの運動を通して、運動に必要な体力と運動能力を身につけています」と教えてくれました。しかし、近年、子どもが外で遊ぶ機会や場所が減り、遊びを通した運動体験を得ることが難しくなっています。代わって、身体活動による遊びではなく、スマートフォンやTVゲームなど運動量の少ない静的な活動時間が多くなっていると言われています。昨年12月、スポーツ庁より平成31年(令和元年)の体力運動能力調査の結果が発表されましたが、それによるとスマホやゲーム機、パソコンの利用増加が体力運動能力低下要因の一つではないかと報告されています。「子どもたちをサッカースクールに入れると、サッカーも運動もできるようになると考える保護者の方もいると思いますが、そもそもいまの子どもたちはサッカーをするための基礎的な運動体験から得られる体力運動能力が低いため、サッカーのスキル習得を中心とした練習や運動をしても、サッカーの難しいスキルをなかなかうまくできないし、体力運動能力も向上しないんですね。その様子を見て、うちの子は運動神経が悪くて...と思う人が多いのではないでしょうか」そのような現状を踏まえて小俣さんがアドバイザーをしている、いわきスポーツクラブが運営する『いわきFC』の中高校生はボールを使ったサッカーの練習と並行して、基礎的な運動体験による体力運動能力の向上を図るトレーニングを行っており、サッカーのスキル練習よりも重要視しているそうです。さらにDAHAAでは、あらゆるスポーツの基礎となる体力運動能力向上を図る長期育成プログラムを通してスポーツ万能キッズの育成を行っています。■じっと立っていることすらできない子が増えている小俣さんによると、現代の子どもたちには、運動スポーツ活動や日常生活に影響を与える大きな3つの問題があるそうです。1つがエネルギー系体力不足、2つ目が子どもロコモティブシンドローム、3つ目がそれらに伴う運動に必要な身体機能の低下や未発達です。小俣さんは、それぞれどのようなことなのかを説明してくれました。「まず、エネルギー系体力とは、大きな力を発揮したり、力の発揮を維持する能力です。体力テストでは握力や立ち幅跳び、持久走などがそれらにあたります。エネルギー系体力不足とは筋力の不足とも言い換えられ、その現象が例えば、すぐに疲れたと言って運動を止めてしまったり、体がフニャフニャしていて運動に力強さを感じられない、あるいはサッカーに多く見られますが腕立て伏せなどの筋力発揮運動をしっかりとできない、ロングパスを蹴ることができない、ジャンプしてのヘディングが苦手というものです。エネルギー系体力不足による運動への影響は、身体活動の基礎となる姿勢維持にも及びます。これは言い換えると立っているときに身体を支える力が弱いんです。人間は重力の影響を受けているので、身体に力を入れないと倒れてしまいます。サッカーの基本である走る運動も身体を支える力が必要です。走運動は、片足ジャンプを交互に連続する運動で、50m走なら50mにわたって交互連続ジャンプをすることと言い換えられ、この間ずっと姿勢を維持し続けなければなりません。そう考えると一見単純に見える走る運動でも、かなりの体力が必要であることを理解できると思います。走るフォームを直してほしいという要望をよく聞きますが、走る運動は総合的な体力運動で、子どもにとっては高負荷の運動なんです。さらに昨今は学校体育のゆとり化の影響、外遊びから得られる運動体験による体力運動能力向上が見込めないため、運動の基本である姿勢さえも維持できない子どもが増えています」。続いては「子どもロコモティブシンドローム」です。以前、サカイクでも取り上げましたが、ロコモティブシンドロームとは、骨、筋肉、関節、靭帯などで構成されている運動器に障害が起こり、「立つ」「歩く」といった日常生活を送るために欠かせない機能が低下している状態のことを言います。片足ジャンプをする子どもたち。一見単純に見える「走る」運動は、総合的な体力運動なのです小俣さんは「ロコモティブシンドロームは、本来高齢者の疾患として認知されていましたが現在では子どもにも蔓延している疾患なんです」と注意をうながします。ある報告によると中学生の約1割が目を開けて片足立ちを5秒以上できない、約4割は前屈して指先を地面につけることができない生徒がいたりするのだそうです。さらにはロコモティブシンドロームはスポーツを専門的に行っていても起こるそうです。そのような観点から幼少期から競技に専門特化することは危険なのです。3つ目が「運動に必要な、身体機能の低下や未発達」です。「いまの子どもたちは遊びの中で運動をする機会が少ないこともあり、運動が苦手な子が多く、運動をしたがりません。その結果、運動に必要な機能が低下するという悪循環に陥っているケースも少なくありません」小俣さんはいわきFCアカデミーやDAHAAのほかに、若年層向けフィジカルトレーニングの指導をしていますが、そこでは運動に必要な「運動動作スキル」の習得に役立つ、基礎運動をメインに取り組んでいるそうです。「運動をするためには筋力や持久力、スピードなどの体の力、いわゆる『体力』と、身長や体重、体型や体格などの『身体形態』が密接に関わってきます。これら体力と身体形態を総合したものが『フィジカル』となります。そして、このフィジカルをまとめて、難しい運動やスポーツを行う、あるいはスポーツの難しいスキルを習得したりする力を『運動能力』と定義されています。運動能力は、言い換えると『コオーディネーションや巧みさ』でもあり、走る、投げる、跳ぶ、蹴るといった運動を器用に行う能力です。この体力と運動能力を一体化させることで運動動作スキルが向上しますから、これらを総合的に養成することが大事になります。さらに、こう続けます。「体力と運動能力は、異なる要素です。よって保護者の方は、お子さんが運動が苦手なように見えたら、体力が低いのか、あるいは運動能力が低いのかという視点で見るといいと思います。例えば、体力や身体形態が同年代の子どもと比べても大きいほうであるが、速く走ることが苦手だったり器用さに欠ける場合は、体力は高いが運動能力が低いと判断できます。逆に身体は小さくて力も弱いが、すばしっこかったり器用だったりする場合は、体力は低いが運動能力は高いと見ることができます。」■家庭でできる身体機能を整える運動そう言って、運動が苦手なお子さんの運動機能を向上させるために、家庭でもできる「身体機能を整える運動」を教えてくれました。36の基本運動(出展:『あんふぁん』 フジサンケイ新聞社 2008年10月号より)36の基本運動で、次のような運動があります。【姿勢の変化や安定性を伴う運動】立つ/両手を相手と組む/乗る/逆立ち/渡る/起きる/ぶら下がる/浮く/回る【重心の移動を伴う運動】走る/登る/歩く/跳ねる/泳ぐ/垂直に跳ぶ/くぐる/滑る/這う【人や物を操作する運動】持つ/支える/運ぶ/押す/当てる/操る/蹴る/押さえる/捕る/振る/漕ぐ/渡す/投げる/倒す/引く/打つ/つかむ/積む※36の基本運動についてはNHKエデュケーショナルの「遊育(あそいく)」ページなどでもご確認いただけます上記の運動をどのように取り入れているかを伺うと、いわきFCやDAHAAで実践していることを明かしてくれました。「これらのアカデミーでは、姿勢の変化や安定性を伴う運動と、重心の移動を伴う運動が整ってきたら、人や物(ボールなど)を操作する運動へと移っていきます。サッカーをするためには、姿勢と重心のコントロールを無意識に行いながら、ボールなどを巧みに操作する能力が必要です。姿勢や重心のコントロールができずに、フラフラした状態でボールを扱っても上手くいきませんよね。運動経験の少ない現代の子どもたちにとっては、基礎的な運動ができるようになってから、サッカーなどの専門種目に取り組むのが良いと思います。算数の難しい問題、例えば四則計算や文章問題なども九九を暗記しているという基礎があるから解けます。運動スポーツも一緒で基礎体力運動能力が整っているから上手くなったり、楽しくなります。36の基礎運動を遊びを通して体験することで体力運動能力を向上させ、それがサッカーなどのスポーツに活かされるのです。現在、サッカー界で流行している例えば体幹トレーニング、ファンクショナルやムーブメントトレーニングは、そもそも基礎体力運動能力が備わっている大人がやるものです。運動体験が未熟だったり体力運動能力が低い子どもがやっても、ねらった通りの効果を得ることは難しいと思います。」次回は、サッカーがうまくなるために必要な姿勢と、子どもが運動が好きになるにはどうしたら良いかについて紹介します。ドームアスリートハウスアスレティックアカデミーとはアンダーアーマー日本総代理店である(株)ドームのトップアスリート専用のパフォーマンス開発機関「ドームアスリートハウス」が運営するスポーツ万能キッズを養成するアカデミー。その特徴は、①あらゆるスポーツや運動の基礎となる体力運動能力からパフォーマンスアップのための専門的フィジカルを鍛えるプログラム、②日本最高レベルのトレーニング施設、③トップアスリートを指導するパフォーマンスコーチによる専門性の高い指導。育成年代のスポーツや運動についてのご相談やお問い合わせは下記までDAHアスレティックアカデミー>>小俣よしのぶ(おまた・よしのぶ)いわきスポーツクラブ(いわきFC)アカデミーアドバイザードームアスリートハウスアスレティックアカデミーアドバイザーWaisportsジャパン(筑波大学発ベンチャー企業)研究員石原塾アドバイザー筑波大学大学院修了体育学修士育成システム、競技スポーツの一般トレーニング学の研究を専門とし、その知見を活かしJリーグ、競技団体、プロ野球、自治体などの指導者研修や講演活動を行っている。
2020年01月21日