『コンビニ人間』で芥川賞を受賞して話題となった村田沙耶香さんが待望の新作を上梓。『地球星人』は、家族から疎まれ、自分は宇宙人から使命を課せられた魔法少女だと信じる少女・奈月(なつき)が主人公。毎夏、祖父の長野の家に親戚が集まる際に会ういとこの由宇(ゆう)と「生き延びよう」と約束をするが…。「幼い頃、毎年長野の祖父母の家に親戚が集まっていたんです。いとこたちと庭のテントで寝たり、川で遊んだり…。あの家について書きたいなというのが始まりでした」由宇も家庭では不遇な目にあっており、自分を宇宙人だと信じている。「子どもの頃の恋って、孤独であればあるほどのめりこむ気がしていて。妄想の部分がすごく膨らむんだと思います」ある事件により二人は引き離され、成長した奈月は社会に馴染めないまま。だが、周囲を安心させるために、ネットで自分と似た男性を見つけ偽装結婚を企む。「ちゃんと就職して、ちゃんと結婚して、ちゃんと家庭を作れという、“ちゃんと”の圧力ってしんどい。そこをうまくできている人になりたいと思っていましたが、そういう人たちのほうが変わっているようにも思えて。その不思議さを宇宙人の目で見たらどうなんだろう、という気持ちがありました」地球の他の人々、つまり“地球星人”とうまく折り合えない彼らの行動は暴走していく。その行動はぎょっとする域にまで達するのだが、「社会の価値観に染まれないことを突き詰めたらどうなるか自分でも知りたくて書いていますね。突き破った先に居場所みたいなものがあるような気が、ずっとしているんです」他にも書きたかったテーマがある。幼い子の性的被害だ。「たとえば、私も変な人に抱きつかれたことがあるんです。でも“悪気はなかったんだ”と自分に言い聞かせることで自分の心を守り、声をあげようとしなかった。そういう時に声をあげることで、何かが変わったかもしれないのに。今もひどいニュースがたくさんありますが、世界を悪いまま次の世代に手渡さないように、自分も書かなければ、という気持ちがありました」こちらもまた、突き抜けた展開が待っているのである。むらた・さやか作家。2003年「授乳」で群像新人文学賞優秀賞を受賞しデビュー。’13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞、’16年『コンビニ人間』で芥川賞を受賞。『地球星人』家族の中で疎外感を抱く奈月は、自分が魔法少女だと信じている。毎年祖父の家で会ういとこの由宇にだけは心を許してきたのだが…。新潮社1600円※『anan』2018年10月17日号より。写真・土佐麻理子(村田さん)中島慶子(本)インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2018年10月10日『春の雪』『奔馬』『暁の寺』『天人五衰』の4冊からなる、三島由紀夫の長編小説『豊饒の海』。その舞台化が、てがみ座の長田育恵の脚本、ロンドンを拠点に活躍するマックス・ウェブスターの演出により実現する。そこで美しき夭逝の青年・松枝清顕を東出昌大が、清顕の魂を受け継ぐ若者・飯沼勲を宮沢氷魚が演じる。【チケット情報はこちら】三島作品を愛読するという、三島ファンである東出は『豊饒の海』というタイトルを聞いた時、「その壮大なスケールに戸惑い、恐れのようなものを感じました」と明かす。また宮沢も「4作全部ということで、これをどう舞台化するのか。その疑問はなかなか拭えませんでした」と続ける。だが今ふたりは、不安よりも楽しみの方が大きいのだと言う。その理由が……。ひとつは演出のウェブスターの存在。本稽古前にワークショップを行った際、彼がこう切り出したそう。「僕はみんなよりもちょっと有利な部分がある」と。その時のことを東出は「日本人は“三島”というのを神格化している部分があるけれども、彼はそれを知らずに原作を読み、舞台化出来ると思ったそうなんです。さらに“やることは人間のドラマを描くことだ”と。まさしくそうだと思いますし、血の通った人間のドラマとして描くことで、より生き生きとした『豊饒の海』が出来るのではと思います」と期待する。さらにもうひとつの理由が、大胆に翻案した長田の脚本だ。「長田さんが本当に上手に、4作の素晴らしいところを汲み取ってひとつの作品にしてくださいました。まるで新しい作品にも思えるほどです」と宮沢。さらに東出も「原作は三島の遺作であり最高傑作なので、文学的な表現がブイブイ」と笑い、「ただ今回は舞台だけで絶対に伝わると思いますし、初見の方でも安心して観ていただけると思います」と太鼓判を押す。それぞれ演じる清顕、勲という人物をどう捉えているのか問うと、東出は「4作全部読んでもわからない。それが正直なところです。でもそのわからないってところが、多分に魅力的に映る人物なのだと思います」と、謎めいた清顕像を三島ファンらしく紐解く。また宮沢は、「勲は覚悟がはっきりしていて、ピュアで、正義感に溢れた人物。そういった部分は大事にしていきたいですし、青年から大人になっていく、その変化もうまく表現していけたらなと思います」と難役への意欲を見せた。彼らの肉体を通し、三島の魂がどう体現されるのか。11月の開幕が待ち遠しい。公演は11月3日(土・祝)から12月2日(日)まで、東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA、12月8日(土)・9日(日)大阪・森ノ宮ピロティホールにて上演。取材・文:野上瑠美子ヘアメイク(東出):廣瀬瑠美ヘアメイク(宮沢): 川端富生スタイリスト:林 道雄
2018年09月27日9月24日(月)今夜放送される日本テレビ系「人生が変わる1分間の深イイ話×しゃべくり007」の「しゃべくり007」パートに俳優の井浦新がゲスト出演。日テレバラエティー初出演となる井浦さんは“しゃべくりメンバー”たちとどんな絡みをみせる!?「しゃべくり007」は「ネプチューン」「くりぃむしちゅー」「チュートリアル」の3組7人の芸人がMCを担当。彼ら“しゃべくりメンバー”たちには毎回登場するゲストが誰か知らされておらず、ゲストが登場した際のMC陣のリアクションも見どころだ。今回のゲスト、井浦さんは90年代からファッションモデルとして国内のみならず海外にも活動の場を広げ、日本を代表するモデルとして活躍。その後是枝裕和監督作『ワンダフルライフ』で俳優業に進出。『ピンポン』や『青い車』などで注目され、2012年放送の大河ドラマ「平清盛」出演より「ARATA」から本名である井浦新名義に改名、最近では「アンナチュラル」「健康で文化的な最低限度の生活」などのドラマで改めて注目を集めている。そんな井浦さんが今回、しゃべくりメンバーとのトークのなかで“超マニアック趣味”や“謎の舞”などを披露でキャラ崩壊のピンチに!? 今夜はドラマや映画では見られない井浦さんの姿をしっかり目に焼き付けて。「ケンカツ」も好評のうちに終了した井浦さんだが、10月には映画最新作となる『止められるか、俺たちを』の公開が控えている。主演に門脇麦を迎え、2012年に逝去した故・若松孝二監督率いる“若松プロダクション”を舞台にした物語を映像化する同作で井浦さんが演じるのは若松監督役。『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』『キャタピラー』『海燕ホテル・ブルー』『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』と幾つもの若松監督作に出演してきた井浦さん。同作では“恩師”を演じることになる。『止められるか、俺たちを』は10月13日(土)全国公開。「人生が変わる1分間の深イイ話×しゃべくり007」は9月24日(月)今夜21時~日本テレビ系で放送。(笠緒)
2018年09月24日アイドルグループ・欅坂46の最年少メンバーにして、グループの絶対的支柱でもある平手友梨奈さん。その圧倒的な存在感は一体どこから来るのか、映画・音楽ジャーナリストの宇野維正さんが分析しました。ランボーやラディゲや三島由紀夫。モーツァルトやピカソ。ポップ・ミュージックの世界ならばプリンスや宇多田ヒカル。この世界には10代のうちから後世に残るような作品を生み出して、「早熟の天才」と呼ばれてきた人々がいる。別にそれは作品じゃなくてもいい。ローティーンの頃から、マイケル・ジャクソンや安室奈美恵のパフォーマンスからはわかりやすく天才性が溢れ出ていた。そして、実際にマイケルも安室も天才だった。努力の人でもあったけど。「早熟の天才」ってなんだろう?映画『響 -HIBIKI-』で平手友梨奈が演じているのは、15歳にしてプロの小説家や編集者が震撼する小説を書く少女だ。ティーンの頃から誰もがソーシャル・メディアを通して承認欲求に駆られているこの時代において、彼女は自分の才能を自分の存在よりも大きな「自明のもの」として受け入れていて、名声欲とも無縁だ。以前、宇多田ヒカルが「16歳の女の子が大金を手にしたって、いい車に乗れるわけじゃないし、夜の街に繰り出して友だちにお酒をおごることもできない」と言ってた時は深く頷くしかなかった。「早熟の天才」が持てはやされる理由の一つは、当人には「使い道」がないが故の、その純粋さにある。今年6月、平手友梨奈は17歳になった。あまり「天才」という言葉で語られることがない(言うまでもなく、容姿だってとても大きな才能の一つではあるが)アイドルの世界において、これまで例外的に彼女をめぐっては「天才」という言葉が飛び交ってきた。欅坂46のパフォーマンスではセンターに立ってグループを牽引している立場であるにもかかわらず、テレビの歌番組のひな壇などでは隅に座っていて、彼女が言葉を発することはほとんどない。その様子は、メンバーやスタッフが彼女と世界の間に立つ壁となることで、必死に何かを守ろうとしているようにも見える。「天才とはフラジャイルなものである」というのも、「天才」、特にその純粋さが称揚されがちな「早熟の天才」につきまとう先入観の一つだろう。しかし、本来「天才」とはどんなことにも揺らぐことがない自明なものであるからこそ「天才」なのだ。フラジャイルであるどころか、自分の目の前に立ちはだかるものを何の打算もなく次々と爽快になぎ倒し踏みつけていく『響 -HIBIKI-』の主人公。スクリーンの向こうからは、平手友梨奈の叫び声が確かに聞こえてきた。ひらて・ゆりな2001年6月25日生まれ、愛知県出身。欅坂46最年少メンバーにしてグループの絶対的支柱。ファーストシングル「サイレントマジョリティー」から最新曲「アンビバレント」まで、7作連続センターを務める。見る者を一瞬にしてその世界に引き込む研ぎ澄まされたパフォーマンスに、幅広い世代が熱狂。その天才ぶりと無邪気な素顔とのギャップも魅力!?初主演映画『響 -HIBIKI-』が9月14日から、全国東宝系で公開。愛称てち。うの・これまさ映画・音楽ジャーナリスト。著書に『1998年の宇多田ヒカル』『くるりのこと』(共に新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)など。※『anan』2018年9月12日号より。文・宇野維正 ©Lepusinensis
2018年09月11日昨今注目度を高めている作家、古谷田奈月さん。最新刊は『無限の玄/風下の朱』。三島賞受賞作の「無限の玄」は、ブルーグラスバンドを組んだ男家族の話で、父・玄は死んでは生き返ることを繰り返す。この男性しか登場しない話は『早稲田文学増刊 女性号』に掲載された。「もともと男がどう、女がどう、ということでないところを目指したいと思っていて。私という女性が、“女性だけの書き手を集めた雑誌”で女性について書くことに窮屈さを感じ、男性を書こう、と自然とそう考えました」本作では、日ごろ男性を見て感じていたことを反映させた。「男性だけのマチズモ的な社会の中で上下関係が形成され、受け継がれていっているように見えるので、その終わりのなさを書きたかった。ブルーグラスという弦楽器のバンドにしたのは、弦というものが締め付けや抑圧のイメージに繋げやすかったからです」女嫌いで威圧的だった父親の元で生きてきた息子たちの関係にも少しずつ変化が訪れるが、「自分も相手も共同体の一部であったと思っていても、実は“個”なんですよね。ずっと生きてきたコミュニティの中で自分が個であることに気づきながら生きていくのは、すごく大変だと思う。でも、今いる場所を疑う視点は持っていたい」一方、芥川賞候補作「風下の朱」は、大学の女子の野球部の話だ。「『無限の玄』は自分から見た男性を書きましたが、女性である自分が客観的に女性を書くのはずるい気がして。ですから自分のことを書きました。ここに出てくるポリティカルコレクトネスを気にする立場の人も、自分の欲求に正直な人も、何も考えていない人も、みんな自分ですね。それに今回は、生理のことを書きたかった。明らかに生活に支障をきたすものが結構なスパンでやってくる悔しさもあって」一連のジェンダーを主題とした小説を書いてみて思ったのは、「性というものから解放された状態を求めていましたが、自分が女性であることからは逃れられないと気づきました。自分の性を引き受けたうえで自由を求めることは可能だと、そう思えるものを今後は書いていきたいです」『無限の玄/風下の朱』父親と叔父、息子たちで組んだ旅回りのブルーグラスバンドで、ある日、父親が死亡するが…。男社会、女社会、それぞれを投影した2編。筑摩書房1400円こやた・なつき作家。1981年生まれ。2013年に「今年の贈り物」で第25回ファンタジーノベル大賞受賞。’17年『リリース』で織田作之助賞、’18年「無限の玄」で三島由紀夫賞受賞。※『anan』2018年9月12日号より。写真・土佐麻理子(古谷田さん)大嶋千尋(本)インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2018年09月10日こんにちは、トイアンナです。私はこれまでに3回、婚活をやってきました。最初は23歳のとき。大学を出たら激務になることがわかっていたため、卒業前に彼氏を見つけようと必死でした。あわてて婚活パーティへ参加したものの、右も左も分からず玉砕。次は27歳、当時の彼氏と別れていた期間で結婚相談所へ登録。ガチの婚活を経験し、ゴールインしました。そして今年の私、31歳。バツイチという大きなハンデを抱えての再戦です。とはいえ3回目ともなれば婚活の全体像も把握していますし「何から始めればいいかわかんない」なんて事態にも陥るまい!と婚活をナメてかかっていたのは否定しません。そして大苦戦しました。■出会いの数が増えるたび、傷つくねアラサーの婚活で何よりもつらかったのは、自分との葛藤でした。出会いを繰り返すたび、「この人と結婚するくらいならおひとり様がいい」と思わされる男性に出会いました。「こういう言動をされると傷つくからやめて」と伝えると「君の理解がいたらないのは仕方ないが、君に反論する資格はない」と斜め45°上から返答が降ってくるモラハラ男性。初回デートで超好感触かと思いきや、ブロックされるLINE。「この世には三島由紀夫を理解できない人間が多いだろう?僕はそういう世界が嫌で、消えたいと思いながら現世に踏みとどまってるんだ」と文学青年をらせん階段でねじったようなメンタルの男性。こんな案件に出会った日にはもう、すごい。休日を無駄にしてしまったという後悔がすごい。体力がゴリゴリと削られていく音が聞こえます。そして脳内に響くのは、次の声です。「でもさ、こういう相手にしか出会えない自分がその程度ってことじゃないの?」ああああ~~!婚活ウツとはこれか~~!春先の私は、ベッドでのたうち回っていました。■出会いって、最初はランダムなんですよでも、違うんです。出会いって最初はランダムなんです。すごく素敵な人もいれば、とんでもないゴミもいます。振り返れば素敵な男性もいました。ワークライフバランスや、子育てのビジョンが合わないからお断りさせていただいた男性には、私なんかにはとてもとても・・・・・・もっといい人と出会ってください!と、ひれ伏すような方もいらしたのです。けれど疲れているときほど「とんでもないゴミ」の方が目につくんです。そして自分を責めてしまう。違うんです、最初のうちは、出会いってランダムなんですよ。ゴミを踏むときもあれば、殿上人にも会えるのです。それに気づいたのは、ゴミと殿上を行ったり来たりして、最後に居心地のいい相手を見つけてからでした。■ゴミを踏んでも楽しめる要素を準備しよう私は月に8人の男性と出会っていました。来年夏までに婚約したかったので、それくらいスケジュールを詰めるしかなかったのです。そうなると確率上、ゴミのようにマッチングし得ない相手にも出会います。そのとき、「聞いてよ!ほんとひどくて!」とグチらせてくれる友人や知人がいました。こうしてネットでコラムを書いている以上、私が具体的すぎる愚痴をバラまいてしまえば相手への名誉棄損になりかねません。だからこそ、現実の婚活友達は強い味方でした。さらに、婚活の場所は主に私から指定していました。もともとグルメで、行きたい店リストがずらりと並んでいました。たとえ出会いの質が悪くとも、ご飯が美味しければ十分ではありませんか。オシャレすぎて近づけなかったT.Y.Harbor()やCICADA()に初入店を果たせたのも、婚活のおかげです。おかげで婚活をしていたこの8か月、たいそうデブりましたが幸せです。と、グルメへ視野を向けたところ婚活が楽しくなっていきました。「私が悪いのか」「どうすればいいんだ」ではなくて「次はどこへ行こう」と思えるような婚活へ。婚活をしているみなさんも、自分の行きたい場所を男性へ提案すれば、その日に得るものがあるんじゃないでしょうか。あなたの出会いが自分を責める苦行から、行くのが楽しみなものへと変わりますように・・・・・・。(トイアンナ/ライター)
2018年09月07日2015年に『フランス芸術文化勲章』シュヴァリエを受勲し、フランスを中心に海外で精力的に活動するダンサー・伊藤郁女と、ダンサー、俳優の枠を越えて活動する森山未來による初クリエーションKAAT DANCE SERIES 2018『Is it worth to save us?』が10月に横浜・KAAT 神奈川芸術劇場にて世界初演される。演出も手掛ける伊藤に話を聞いた。【チケット情報はこちら】伊藤と森山の共演は初めてのこと。「KAATでこの企画を実施することになり、誰と一緒にやろうかという話になったとき、“未來くんと共演したい”と言いました。私は昔から“お人形さんみたいに踊りますね”と言われたりするのですが、未來くんも舞台では何を考えているかわからないような、お人形みたいな感じのところがあると思うんです。それに、いろんな想像ができる顔だちや身体を持っているとも思います。あとは、私が普段からあまり踊りや演劇の境のないところでやっているので、そういう人がいないかな、と頭の中を探ったときに未來くんがいました。踊れるだけでなく歌も歌えるし、台詞も言える人だから、そういう意味でもすごくいい。良いダンサーはいっぱいいるんですけど、光のあるダンサーはあまりいないですからね」。森山個人の印象は「繊細。いろんなことを考えて生きているし、いろんなことに疑問を持ってやっている人だと思います」作品のもとになるのは三島由紀夫のSF小説『美しい星』。自分たちを宇宙人だと思った家族が地球を救おうとする物語だ。だが、本作ではその物語を上演するのではない。「『Is it worth to save us?』は、“社会からはずされていきそうな自分の感情”を元につくっています。みんな、人と違うことをダメだとか怖いと思い、仲間外れにされないように生きていますよね。『美しい星』の中では、それを“宇宙人だから”と思うことで解消しているところがありますが、今回はポジティブに考えたらどうかという提案をする作品です」昨年の3月から始まった稽古は、今年の2月に日本でも行い、今後はフランスなど世界各地で断続的に続けていくという。「最終的なところは私がやっていますが、人とつくるのが好きですし、なにかを“しなさい”と言うのが嫌なんですよ。未來くんはそこに驚いてましたね。“へー、けっこう聞くんだ、人の話”とか言われて(笑)」。「まだ今は、話をしている段階で何も固まっていないです」と話すが、最終形は「笑ってほしいな、というのはあります。でもそれはハハハじゃなくて微笑んでしまうような感じ。“メッセージ”にはしたくないのですが、ふたりの人間的なものを出したいということがベースにあります」公演は10月31日(水)から11月4日(日)までKAAT神奈川芸術劇場大スタジオにて上演。チケットの一般発売は9月1日(土)より。なお、本日8月31日午後11時59分までチケットぴあにて先着先行受付中。取材・文:中川實穂
2018年08月31日2018 PARCO PRODUCE “三島×MISHIMA”シリーズの『豊饒の海』に続く第2弾として、この秋上演される舞台『命売ります』。原作は、三島由紀夫作品のなかでも文庫版(1998年刊行)が累計発行部数29万部超のうち25万部は15年以降の重版という、今改めて注目を浴びる小説。脚本・演出はノゾエ征爾。【チケット情報はコチラ】主演の東啓介と、上村海成に話を聞いた。物語は、ある日ふと「死のう」と思い立ち服毒自殺を図るも未遂に終わった主人公・羽仁男(はにお)が、「命売ります」という新聞広告を出すことから動き出す。すると訳ありげな怪しい男女がつぎつぎに現れ……。原作を読んだ東は「羽仁男は僕が今まで読んできた主人公とは違いました。“自分はこうしたいから進むんだ!”ではなく“もうどうでもいい”からはじまって、そこから人が変わっていく、それがすごく素敵だと思いました。作品として、今やる意味というのものもあると思っています」。上村も「登場人物がみんな別の生き方をしていて、自由な生き様のようなものを感じました。今って“多様性を認めよう”と言ってる割に、みんなの意見に賛同しないといけない空気があるように感じます。その中でこうやっていろんな人がいるのを見ると、そんなに縛られなくていいんじゃないかと思ってもらえるんじゃないかな」。東が演じるのは羽仁男、上村が演じるのは母親のために羽仁男の命を買いに来る高校生・井上薫。役について東は「実はもともとテニスのインストラクターになりたかったのですが、それが怪我でできなくなってしまったときに“今までの時間ってなんだったんだろう”“自分が生きている意味ってなんだろう”と考えたことがあります。僕はそこで芝居というやりたいことを見つけたのですが。誰もが1度は死にたいとかもう嫌だとか思ったことがあると思うので、今回はそこから考えていければいいなと思っています」、上村は「僕の役は、すごく素直にお母さんのためにやっているのですが、それがまっとうじゃなく感じられるほどの真っ直ぐさなので。そうなるくらいに自分も役に没頭していかなければと思っています。真面目な中にも怖さを孕んでいる。簡単には演じられない役だと思います」。人気2.5次元作品やミュージカル作品で次々と主演を務める東、NHK連続テレビ小説『半分、青い。』で主人公の弟・楡野草太役でも注目を集める上村。若手として伸び盛りのふたりが、今作では手練れのキャスト陣にズラリと囲まれる。それについて東は「プレッシャーはめちゃくちゃ感じます(笑)。でも主演として引っ張れるところは引っ張っていきたいです」と意気込む。ふたりの挑戦にも期待しつつ開幕を待ちたい。公演は11月24日(土)から12月9日(日)まで東京・サンシャイン劇場にて上演。取材・文:中川 實穗
2018年08月21日新人監督に無名俳優ばかりながらリピーターが続出中の話題作『カメラを止めるな!』や、8月17日(金)に公開となる『銀魂2掟は破るためにこそある』など、平成最後の夏にふさわしい“お祭り映画”に沸く日本映画界。そんな中、秋は“ノスタルジー”な空気漂う、最高に“エモい”映画が続々と公開となる。今回はその中からひと足早く、注目作をピックアップ!■コギャルブームに沸いた90年代が舞台の青春ドラマ!懐かしさ漂うJ-POPの名曲が彩る『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(8月31日公開)90年代、青春を謳歌した女子高校生の仲良しグループ“サニー”。専業主婦の奈美(篠原涼子)は、ある日、高校時代の親友・芹香(板谷由夏)と再会するが、彼女が末期がんに侵されていることを知る。「死ぬ前にもう一度だけ、みんなに会いたい」という芹香の願いを叶えるため、奈美は再び“サニー”のメンバーを呼び集めるが…。夢と刺激で溢れていた高校時代と、かつての輝きを失った現在の“2つの時代”が交差して描かれる本作。大ヒットメーカー・小室哲哉が音楽を担当しており、安室奈美恵の「SWEET 19 BLUES」を始め90年代のヒット曲が次々と流れ、コギャルルックや彼女たちの小物に至るすべてが郷愁を誘う。“強い気持ち”と“強い愛”が巻き起こす感動のラストの行方を、ぜひスクリーンで確かめて。■映画、青春、そして恋――。危うく、きらめいていた一瞬を描く青春群像劇『止められるか、俺たちを』(10月13日公開)舞台は1969年。新宿のフーテン仲間のオバケに誘われて、"若松プロダクション"の扉をたたいた吉積めぐみ(門脇麦)、21歳。彼女の目を通し、若松孝二を始めとする映画に魅せられた若者たちの生き様や駆け抜けた時代を描く。若き日の若松監督を演じるのは、『実録・連合赤軍―あさま山荘への道程』『キャタピラー』『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』『千年の愉楽』などで長年、若松監督とタッグを組んできた井浦新。いまや日本映画界を牽引する存在となった白石和彌が監督を務め、師匠・若松孝二と共に駆け抜けた若き日を描きだす。自分は何を表現したいのか、何者になりたいのか、何も見つけられない自分への焦り…。全てから取り残されてしまうような言いようのない不安に駆られながら、“何者かになろうと夢みた”若者たちの情熱を映し出している本作。知られざる異才たちのまっすぐで、バカで、愛おしい青春の1ページの記憶は、きっと誰にとっても胸に刺さるものがあるはず!■1人の夢がみんなの夢に!その“将棋への情熱”が前人未踏の奇跡を起こす『泣き虫しょったんの奇跡』(9月7日公開)将棋界に奇跡をもたらした異色の棋士・瀬川晶司五段の自伝的作品(講談社文庫刊)を実写映画化。主演を務める松田龍平ほか、野田洋次郎、永山絢斗、染谷将太、妻夫木聡、松たか子、國村隼といった“主役級”の豪華キャストが集結。第42回モントリオール世界映画祭フォーカス・オン・ワールド・シネマ部門への正式出品も決定している。幼い頃から将棋一筋で生きてきた“しょったん”こと瀬川晶司は、「26歳の誕生日を迎えるまでに四段昇段できないものは退会」というプロ棋士養成機関・奨励会の規定により、26歳にして人生の目標を失い社会の荒波に放り出されてしまう。一度は夢破れたしょったんが、周囲の人々に支えられながら、史上初めて奨励会退会からのプロ編入という偉業を成し遂げた奇跡の実話を描き出す。大きな挫折の苦悩と絶望からの再起を図るしょったんを演じたのは、『青い春』以来16年ぶりに豊田利晃作品で単独主演を務めた松田龍平。奇しくも今年、しょったんがプロ編入の偉業を成し遂げたときの年齢と同じ“35歳”に達した松田さんは、「自分が本当にやりたいことに対して、どれだけ魂を注いでいるかという晶司の気持ちに投影する部分が多かった」とふり返る。瀬川晶司五段本人も「(松田さん演じるしょったんが)周りから“瀬川さんにしか見えない”と言われることも多かった」と語る通り、劇中ではしょったんの心情の機微や移り変わりが丁寧に表現されている。さらにそんなしょったんを支えるのは、個性豊かな人々。自信を持てなかったしょったんの背中を優しく押した恩師、奨励会時代の仲間、将棋道場の席主や、会社の同僚、そして親友…。しょったんの夢を支える人々との熱い人間ドラマは、きっと涙なしでは観られないはず。また、そんなしょったんの生き様や人間ドラマの数々は幼少期から丁寧に描かれており、劇中では、狭く古びたしょったんの部屋で仲良くこたつを囲む奨励会員たちの姿や、レトロな雰囲気漂う喫茶店など、昭和ならではのどこか懐かしさや温かみのある、独特の空気感も注目となりそう。“お祭り映画”を楽しんだら、ノスタルジーな雰囲気漂う“エモさ”満点の映画で癒されてみては?『泣き虫しょったんの奇跡』は9月7日(金)より全国にて公開。(text:cinemacafe.net)■関連作品:SUNNY 強い気持ち・強い愛 2018年8月31日より全国東宝系にて公開© 2018「SUNNY」製作委員会泣き虫しょったんの奇跡 2018年9月7日より全国にて公開©2018『泣き虫しょったんの奇跡』製作委員会©瀬川晶司/講談社止められるか、俺たちを 2018年10月13日よりテアトル新宿ほか全国にて順次公開©2018若松プロダクション
2018年08月19日林修がMCを担当し、この4月から放送が開始された「林修のニッポンドリル」が番組初となる4時間スペシャルを6月27日(水)今夜放送。バラエティに富んだゲストとともにニッポンをこよなく愛する林先生による、視聴者も知らないニッポンを知る授業が今夜も開講する。林先生のほか副担任として「千鳥」ノブ、学級委員長として風間俊介、ゲストとして瀬戸内寂聴、尾上松也、加藤一二三、「麒麟」川島明、菊地亜美、「バイきんぐ」小峠英二、中田喜子、本仮屋ユイカ、松本明子、山本舞香らが出演。今回はスペシャルということで3つのテーマでお届け。1つ目のテーマとなる「天皇陛下の365日」では“天皇陛下のお仕事”について紹介。来年2019年4月30日で天皇陛下が退位されることを受け、「平成」の年号が「31年」で終わりを迎える。この節目に、天皇陛下が我々ニッポン国民のためにいったいどんな仕事をされているのかに迫る。現在84歳ながら“日本一忙しい”と言っても過言ではない天皇陛下の多忙ぶりに、スタジオは驚愕に包まれる。続いてのテーマは「昭和史」。大正11年生まれ、御年96歳の寂聴さんが「昭和ニッポン」を動かしたと考える田中角栄、美空ひばり、三島由紀夫ら昭和の偉人たちの知られざる素顔を、当時の貴重映像とともに紹介。寂聴さんが日本の数多くの政治家のなかでも田中角栄元総理を「この人はすごい!」と思った理由や、三島さんから「自分の秘書になった方がつまらない小説を書いているより、女として幸せになる」と言い放たれたという寂聴さんが三島さんの言葉の真意、「人間としていい生涯だったのでは」と寂聴さんが考える昭和の歌姫・美空さんの人生など、様々な昭和の偉人たちについて寂聴さんが語る。3つ目のテーマは、全国に8万ある神社の最高峰であり年間参拝者が800万人以上を誇る「伊勢神宮」。伊勢神宮の御利益がある完全参拝ルートや、“伊勢神宮マニア”の風間さんや尾上さんも「知らなかった。教えてくれないとわからないですよね」と口にした「参拝前に○○に立ち寄る」「○○をかなえる神様がいる」「参拝後に○○に行く」など、より御利益が得られる参拝方法についても解説する。7月21日(土)、22日(日)には山梨県北杜市の女神の森セントラルガーデン森羅メインホールで「尾上松也オリジナル公演百傾繚乱」を開催する尾上さんや、現在公開中の映画『恋は雨上がりのように』に出演している山本さんなど豪華なゲストとともに知らないニッポンの姿を学べる。「林修のニッポンドリル4時間SP」は、6月27日(水)19時~フジテレビ系で放送。(笠緒)
2018年06月27日俳優・東出昌大が、11月より上演される三島由紀夫原作舞台「豊饒の海」で主演を務めることが決定。若手からベテランまで、東出さんとMISHIMAの世界を共に創りあげる共演者も発表された。本舞台は2018PARCO PRODUCE “三島×MISHIMA”シリーズの第1弾で、この秋、三島氏の絶筆の書である「豊饒の海」と、エンターテインメント性にあふれた「命売ります」の2作品の舞台化に挑む。第1弾を飾る「豊饒の海」は、第一部「春の雪」、第二部「奔馬」、第三部「暁の寺」、第四部「天人五衰」の全四作からなる長編小説だが、今回舞台では、全四作を一つの舞台作品として創作するという、前代未聞の意欲作。てがみ座主宰の長田育恵が脚本を手掛け、ロンドンのオールドヴィック・シアターのアソシエイト・ディレクターで、ロンドンのネクストジェネレーションのトップを走るマックス・ウェブスターが「メアリー・ステュアート」以来、3年ぶりに日本で演出。三島由紀夫文学作品を大胆翻案する。主演を務めるのは、現在主演映画『OVER DRIVE』が公開中、今後も『パンク侍、斬られて候』『菊とギロチン』『寝ても覚めても』など出演作の公開が続々と控えている人気俳優の東出昌大。三島由紀夫の「美」の象徴とも言うべき松枝清顕役という大役に挑む。今回、初舞台となった2015年上演の「夜想曲集」以来、3年ぶり2度目の舞台出演となる東出さんは、「思春期より三島由紀夫の虜になり、その作品の多くを読んできた私は、『豊饒の海』の舞台化を聞き震えました。役者になって最大の試練になると思います」と心境を明かし、「持てる全てを注ぎ込みます。三島世界の再現を、楽しみに待っていて下さい」と力強いメッセージを寄せている。また、清顕の影を追い続ける男・本多繁邦を、本作では青年時代、中年時代、老齢時代と3人の俳優が演じる。まず老齢の本多は、ベテラン俳優の笈田ヨシ。中年時代の本多は、バレエダンサーの首藤康之。そして若年時代の本多は、芥川賞受賞作家・唐十郎を父に持つ若手俳優の大鶴佐助がキャスティング。3つの黒子を持つ清顕の生まれ変わりとして登場するのは、ドラマ「コウノドリ」へに出演が話題となり、今年7月マームとジプシーの新作「BOAT」で初主演&初舞台を踏む宮沢氷魚、『一週間フレンズ。』『リバーズ・エッジ』などに出演する上杉柊平ら若手俳優が抜擢。さらに、神野三鈴、初音映莉子と実力派女優も参加する。第一部から第四部、それぞれが小説として完結しているが、この四作を通して通奏低音のごとく響くのは、「輪廻」という言葉。第一部「春の雪」で、「又、会ふぜ。きつと会ふ。滝の下で」ということばを残し、20歳で生命を落とした男・松枝清顕。彼の影に取り憑かれた男・本多繁邦。本多の人生に松枝清顕の生まれ変わりとして登場する3つの黒子の人々。四作を通して、夢と転生を描く壮大な物語だが、「清顕」を追い求めた本多にとって、彼の存在はなにを象徴していたのか、そしてなぜそこまで清顕に執着したのか――。60年後、晩年の本多は清顕との恋が成就せず、仏門に身をおいた聡子を訪るが、聡子は「清顕など知らない」と言う。全てが夢だったのか?自分のこれまでの清顕への執着は何だったのか?というのが「豊饒の海」の結末。本舞台では、清顕という美に憧れ続け、取り残されてしまった人間、本多繁邦を軸に、三島氏が最後に描いたこの「豊饒の海」という世界を、いまを生きている我々の人生という「普遍」の世界に投じていくという。2018 PARCO PRODUCE “三島 × MISHIMA”「豊饒の海」プレビュー公演は11月3日(土)~5日(月)、本公演は7日(水)~12月2日(日)紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて上演。12月8日(土)~9日(日)森ノ宮ピロティホールにて上演。(cinemacafe.net)
2018年06月27日渡辺えりが作・演出を務め、80年代から小劇場界を牽引してきたオフィス3○○が、前身の「劇団3〇〇」の創立から数えて40周年を迎えている。その40周年を記念する公演『肉の海』が6月7日(木)に東京・本多劇場で開幕する。チケット情報はこちら作品は、2015年に第28回三島由紀夫賞を受賞した純文学の新鋭・上田岳弘の最新作『塔と重力』を原作に、渡辺が上田の全作品群を読み解き、ほかの上田作品の要素も盛り込んでオリジナルの世界を再構築した物語。人はなぜ生まれ死んでいくのか、なぜ残虐な殺戮を繰り返し、膨大な犠牲を払いながら今を生きざるを得ないのか。そこに歯止めを掛けることはできないのか。格差が広がり、ナショナリズムやポピュリズムが台頭してきた現代社会に警鐘を鳴らす内容を、“超音楽劇”として上演する。キャストも40周年の記念公演に相応しく、豪華な顔ぶれが集結。ベテランの三田和代、ベンガル、尾美としのり、久世星佳が名を連ねる一方で、喜劇性豊かな青木さやか、ダイノジの大地洋輔から、小劇場で大活躍の土屋佑壱、藤田紀子、原扶貴子、宮下今日子といった面々、さらに歌唱力抜群の土居裕子、ディズニ-・アニメーション映画『モアナと伝説の海』の日本版でヒロイン・モアナ役の吹き替えを務めた屋比久知奈という、年齢も、普段の活躍する場も異なるバラエティ豊かなキャストが揃う。さらに、オフィス3○○の元メンバー樋口浩二、友寄有司らが華を添え、もちろん渡辺えり自身も出演する。公演に際し、渡辺は「世代もジャンルも違う魅力あふれる役者陣が40周年の舞台で炸裂して、まるで旗揚げの頃のような過激でシュールな作品になりました。皆様どうぞお楽しみください」とコメントを寄せた。注目の公演は6月7日(木)から17日(日) まで、東京・本多劇場にて。チケットは発売中。なお、チケットぴあでは6月9日(土)より当日引換券の販売も開始する。
2018年06月07日日本一長い歩行者専用吊橋「三島スカイウォーク」に、新しく自然共生型アウトドアパーク「フォレストアドベンチャー・三島スカイウォーク」が2018年7月26日(木)にオープン。 「フォレストアドベンチャー・三島スカイウォーク」は、全長400m、日本一の吊橋「三島スカイウォーク」ならではの絶景体験を楽しめる施設だ。フランスを発祥とするフォレストアドベンチャーの“自然を活かした、樹上のアウトドアパーク”という理念に基づいた、33のアクティビティを設ける。北エリアの森林で繰り広げられるアドベンチャーコースには、自然の立木の地上2~15mの高さに設置されたプラットフォームから、別の木に移動する樹上体験を用意。長さ300mのロングジップスライドで、一気に地上へ滑り降りるスリルと爽快感が味わえる。このロングジップスライドは、2本のラインで設置されており、カップルやペアの2人1組で同時に滑走が可能。往路では日本一長い吊橋を潜り抜けて着地し、復路は富士山と三島スカイウォークに向かって滑り抜ける“絶景”ジップスライドを堪能できる。その他、森の中で約10メートルのクライミングを満喫できる「クリフチャレンジャー」などが登場し、森の中をセグウェイで駆け抜ける「セグウェイツアー」の全コースも完成。また、新築の受付棟ログハウス「ツリーツリーツリー(tree tree tree)」には、ピクニック気分が味わえるカフェ「Picnic Café」がオープンし、地元食材を使ったホットドッグやサンドイッチ、ドリンク、スイーツなどを提供する。さらに、資料館「スカイウォークミュージアム」やギフトショップを展開する。【詳細】フォレストアドベンチャー・三島スカイウォーク開業日:2018年7月26日(木)営業時間:9:00~17:00(最終受付15:00) ※荒天中止住所:静岡県三島市笹原新田313(三島スカイウォーク内) 三島スカイウォーク 北エリア料金:・アドベンチャーコース+ロングジップスライド 通常料金 3,600円/人・ロングジップスライド 通常料金 1,800円/人・クリフチャレンジャー 1,000円/10分※吊橋入場料別途。利用条件:身長140cmまたは小学4年生以上、体重130kg以下。※18歳未満は、保護者または同等の資格者の同伴が必要。■セグウェイツアー場所:三島スカイウォーク北エリア(吊橋を渡った先)コース長さ:約2.5km(所要時間約60分)料金:4,500円(吊橋料金別・16歳~70歳位までを推奨)※未成年は、 保護者の方の同意が必要。
2018年04月14日『実録・連合赤軍あさま山荘への道程』『キャタピラー』でベルリン国際映画祭を席巻し、数々の衝撃作を世に送り出しながら、2012年に逝去した故・若松孝二監督。このたび若松監督生誕82周年にあたる4月1日に、主演に門脇麦、監督に若松プロダクション出身の白石和彌を迎えた、若松プロ映画製作再始動の第1弾『止められるか、俺たちを』の劇場公開が発表された。■あらすじ1969年、原宿セントラルアパート(当時)の一角にあった“若松プロダクション”。本作は、「何者かになること」を夢見て若松プロの扉を叩いた1人の女性・吉積めぐみの眼差しを通して、「ここではないどこか」を探し続けた映画人たちの怒涛の生き様を描く。青春を映画に捧げた、若者たちのむき出しの生のグラフィティである。若手実力派・門脇さんが、若松プロダクション助監督・吉積めぐみ役を熱演。若松プロダクション出身であり、『孤狼の血』『彼女がその名を知らない鳥たち』『凶悪』など、いまや日本映画界を代表する白石監督がメガホンを取り、脚本は同じく若松プロダクション出身の井上淳一が担当。さらに、若松孝二役には『実録・連合赤軍あさま山荘への道程』『キャタピラー』『海燕ホテル・ブルー』、そして監督の遺作となった『千年の愉楽』などに出演してきた若松組常連の井浦さんが務める。■監督&キャストからコメント到着白石監督「井浦新さんが若松孝二だとカッコよすぎる、と思ったあなた」まさかの若松プロを舞台とした青春映画を恐れ多くも監督しました。この映画は僕にとっての英雄譚であり、僕自身の物語でもありました。井浦新さんが若松孝二だとカッコよすぎる、と思ったあなた、是非見てください。俳優って、新さんて、凄いなと思うはずです。そして門脇麦さん。もう言うことありません。麦さんを通して、この映画があなた自身の物語になることを切に願っています。門脇麦「この出会いは一生の財産」私は若松監督にも、もちろん当時の若松組の皆さんともお会いしたことがありません。そんな中、白石監督を初め、若松組をよく知る皆さんの下、当時の皆さんの背中をひたすら必死に追い求めながら挑んだ作品です。スクリーンの中の彼らは青春を生きる若者の姿そのもので、とにかく輝いていて、胸があつくなりました。私はこの先何度も彼らに会いたくなって、この映画を観るんだろうなと思います。この出会いは私の一生の財産です。井浦新「むちゃくちゃで幸せな夢をみた」若松プロに集結した親しい顔ぶれ、真新しい風を吹かせた若者たちと、むちゃくちゃで幸せな夢をみた。ただただ感謝しかありません。井浦さんは、若松監督の『11・25自決の日三島由紀夫と若者たち』で主演を務めた際、三島由紀夫を演じるにあたってアルファベットの芸名はふさわしくないとARATAから本名に戻したほど、監督から大きな影響を受けてきたことで知られる。そんな井浦さんが演じる“恩師”の姿にも注目だ。『止められるか、俺たちを』は今秋、テアトル新宿ほか全国にて順次公開。(text:cinemacafe.net)
2018年04月01日前回に続き、小林さんの文房具コレクションをご紹介。レトロで可憐なパッケージが素敵な空き缶は彼女のイメージにもぴったり。いただきもののお菓子の箱もつい集めてしまうと笑う。 書くことで永遠に生き続けられると気づけた。この世界を目指すきっかけは、幼少期に読んだある1冊の本だったと小林さん。 「小さい頃に、アンネ・フランクの『アンネの日記』を読んだんです。本の中で、彼女が作家かジャーナリストになりたいと書いてるんですが、10歳の私には、こんなにかっこいいお姉さんがいるんだと衝撃的で。そのときから私も作家になりたいと思っていました。〝私の望みは、死んでからもなお生き続けること〟と彼女は書いているんですが、書くことによって〝そうか! 死なないんだ〟ということが初めてわかって。作家を志すきっかけがこの1冊でした」 テンプレートを使ったドローイング風景。和紙、Gペンやインクも、小林さんの大切なパートナーだ。 自宅にあったこの『アンネの日記』が、彼女の運命を変えていくことに。 「しばらくそのことは忘れていたんですが、私が30歳を過ぎて父が80歳の誕生日を迎えた時に、その父が16〜17歳の頃につけていた日記をたまたま見つけて。それがちょうど戦時中の日記で、そこでアンネ・フランクと父が同じ年の生まれだったことに気づきました。そこで、アンネの日記と父の日記を持って旅をしてその二冊の同じ日の日記を読みながら、私自身も日記を書き記した本が『親愛なるキュリーたちへ』です。作家になりたい、何かを書きたいという私にとって、大きな転換点でしたね」 近年は、目には見えない放射能を題材にした作品も多く、膨大な知識も必要になる。一体何が、彼女の興味を駆り立てるのだろうか。 「よく社会的なことが好きと思われがちですが、なぜ自分が今を生きているのかを知りたいだけなんです。この時代のこの場所でこんな風に生きているということが、私にとってすごく不思議なことで。自分の半径5メートルくらいのことを突き詰めていくと、家族のことだったり、過去のことを考えざるを得なくなっていきます。戦争のこともですし。今につながる時間の中で何があったのかを調べる過程が続いているだけなんですよね。歴史に興味があるのではなくて、なぜ今があるのかっていうことへの疑問ですね。そういう目に見えないことを見たい、どうやったらそれを紙の上に描きつけられるんだろうといつも考えています」 小林さんの仕事デスクには、今まで手がけた作品が並んでいた。 この目に見えないものに興味が湧き始めたのは、ごく最近のことだという。どうやったら紙の上で表現できるのか、それを探りながら描くことはとても楽しいと小林さん。以前は、夜遅くまで仕事することも、土日に作業することも多かったというが、約2年前の出産を機にその生活は一変。お子さまを保育園に預けるようになってからも、今の生活のリズムを掴むまでには約1年かかったという。 「10ヶ月くらいの時から入園できたんですが、保育園の先生方のありがたさを、本当に実感しています。だいたい朝8時半〜9時くらいで保育園に連れて行き、お迎えに行く18時までが仕事の時間です。もう、すぐに時間が過ぎていってしまいます(笑)。やっぱり気持ちは焦りますね。時間の作り方も、まだわからないことがたくさんあって。いつも時間が足りないと感じていて、もっともっとやりたいという気持ちもあります。放射能の名付け親でもあるマリ・キュリーとか、子どもを2人も育てながらいったいどうやって研究を続けたんだろう、すごすぎる……とか考えたり。特に小説やマンガが佳境をむかえたときや展覧会前などは、家がカオスな状態に(笑)。そんなときは、〝でも、みんながみんなノーベル賞2度も受賞するような科学者級じゃないんだから!全部完璧じゃなくても、まあいいか〟っていう気持ちで過ごすようにしています」 優しい空気を纏っている小林さんのイメージからは、想像できない意外な一面。こんな風にときには力を抜くことも、働く女性には大切なことなのかもしれない。女性から憧れる対象である小林さんだが、ご自身の憧れる女性像とは? 「賢く、美しい女性ですね。10歳のときに出合ったアンネ・フランクがまさにそう!本がすごく好きなので、憧れる女性像も本の中の人物であったり、女性の作家さんだったり。その時々で変わっていますが、賢く美しい女性にはいつも憧れています」 自宅は本だらけという小林さん。タイトル買いをしたり、自分の好きな本をオススメしている方の推薦本をこまめにチェックしたりしているそう。そこで、彼女のオススメの本をいくつか教えてもらった。 「池田澄子さんという俳人の方で、『思ってます』という句集がおすすめです。あたりまえにある日常から、一気に過去や宇宙や魂へつながるような句に、いつも心打たれます。他にも、津島佑子さんの絶筆である小説『狩りの時代』や、ジュリー・オオツカさんの『屋根裏の仏さま』という、20世紀初頭に写真だけを見てアメリカ大陸へ渡っていった〝写真花嫁〟を題材にした小説も面白いですよ」 先頃まで、軽井沢ニューアートミュージアムで行われていた『Trinity展』では、初めてガラス作品に挑戦した。美しさに惹かれるというウランガラスで作ったドルマーク。 今描きたいのは、目に見えないこと。最後に、小林さんの今後の活動について率直に語ってもらった。 「コミックと小説、展示という表現で、目に見えない歴史のようなものを、今の私が生きているところから繋がっているように描いていけたらと思っています。特に、コミック『光の子ども』でも題材にしている放射能は、良いとか悪いと言った時点で、何か見えなくなってしまうものが大きいと思うんです。私は、そこからこぼれたものを見たいという気持ちなんですよね。 放射能って、それこそ発見された当時は夢みたいなエネルギーだったと思うし、それと同時にすごく恐ろしいものでもあって。でも、私たちは綺麗なモノに、心から惹かれていきますよね。例えば、ガラスにウランを少し混ぜると蛍光グリーンに光るんですけど、その姿がすごく綺麗なんです。当時は、電力や火力でもない光り輝く何かってすごくレアな存在で。それを見たときの感動たるや、すごいことだったんじゃないかと思っていて。自分自身もそこに惹かれちゃうなっていうのがわかるから、それを含めて描いていきたいと思っています。美しさと恐ろしさが一体化したものへ、一番興味が湧いています。 もう、勝手なミッション感ですね(笑)。描きたいっていう気持が大きすぎて、それは多分一生解決しないことだから、自分の中で見えないゴールに向かって励むという感覚です。自分が知りたい、納得できないことを解決したいという気持ち。それを誰かに観てもらえたり、読んでもらえたりして、その人にとってこういう見方もあるんだなって思っていただけたら嬉しいですね」 小林さんの原動力は、純粋に〝見えないモノを知りたい〟という気持ち。文字だけ並ぶと少し仰々しく感じるかもしれないけれど、それは私たちが日々感じている気持ちとなんら変わらないのかもしれない。クリエイターとして、そして母としてもますますパワーアップするであろう彼女の今後の活動も見逃せない。 【Profile】小林エリカ(こばやし・えりか)漫画家・作家・アーティスト。著書に、アンネ・フランクの日記と実父の日記をモチーフにした小説『親愛なるキティーたちへ』(リトルモア)、小説『彼女は鏡の中を覗きこむ』(集英社)など多数。今年の春には、第27回三島由紀夫賞候補、第151回芥川龍之介賞候補になった小説『マダム・キュリーと朝食を』(集英社)の文庫が発売に。連載も多数で、現在WEB『MilK JAPON』では「おこさま人生相談室』、雑誌『&Premium』では「文房具トラベラー』を担当中。放射能の歴史をめぐるコミック『光の子ども』は、リトルモアWEBで不定期連載。コミック本『光の子ども1,2』(リトルモア)も発売中。
2018年03月23日三国志、長いです。こんにちは、カミーユです。去年からずっと、中国のドラマ『三国志』を観ております。大きな声では言えませんが、こっそり中国の動画サイトに無断でアップされてあるのないかなと思って、中国人の子に聞いてみました。いくつか動画サイトを教えてもらい、観ようとするのですが、サイトにアクセスすると何故か私のPCが異常な警戒音を発します。仕方ないので、TSUTAYAに貢いでいます。▶︎過去の連載記事はこちらから。1|2|3|4|5|6|7|8|9|10Photo by j_arlecchino異なる“死に方”を選んだ、私の「推し武将、推し天皇、推し作家」数ヶ月ほどだらだら見続けているのですが、先日ついに、私の推し武将、周瑜(しゅうゆ)が死にました。嗚呼、周瑜!!作品によって描かれ方は違うのですが、今作の中ではサイコパスとして描かれておりまして、サイコパスに目のない私はサイコ周瑜を非常に気に入っておりました。諸葛亮孔明(しょかつりょうこうめい)をライバル視しており、でも決して追いつけず劣等感を抱くというキャラなのですが、死ぬときも病床でのた打ち回りながら、「天は俺を生んでおきながら、何故、諸葛亮も生んだのだ(既生瑜何生亮)!」と叫びながら憤死しました。嗚呼、憤死!Photo by Manuel Joseph周瑜の憤死を味わいながら、崇徳(すとく)天皇を思い出しました。崇徳天皇は私の推し天皇なのですが、色々あって島流しにされて怒り狂って舌を噛み切って「日本国の大魔縁となり、皇を取って民とし民を皇となさん」とかなんとかわけの分からないこと言って、最後は天狗になりました。嗚呼、崇徳天皇! で、崇徳天皇となると今度は三島由紀夫が連想されます。三島由紀夫は私の推し作家なのですが、彼の「春の雪」という作品が映画化されたときに、崇徳天皇の歌がモチーフとされていました。三島由紀夫の最期は、簡単に言えば、色々あって自衛隊駐屯地に乗り込んで占拠して切腹して自害しました。嗚呼、切腹! 死に方にも色々あります。周瑜は憤死、崇徳院は天狗、三島は切腹です。これって、大きくカテゴライズすると全て自殺なのではないかと思います。三島は明らかに自殺ですが、周瑜と崇徳院も自らを死(天狗含む)に追いやったわけでありますから、自殺の枠に近いでしょう。三島由紀夫Photo by DietrichLiao自殺を“絶対悪”と言い切る資格があるのでしょうか?となるとですよ、自殺って、絶対悪にされるものでしょうか。例えばですが、無双の武将として気高く生きてきた周瑜が諸葛亮にプライドをボコボコにされて、そんな彼に、「周瑜、ガンバ、恥辱にまみれてもいいじゃない、死なずに生きよう、にんげんだもの」なんて言えなくないですか。島流しにされた崇徳院に対して、「崇徳院、ガンバ、流刑でも天狗にならずにいいじゃない、にんげんだもの」とか言えなくないですか。私はちょっと言えないんですよね。何故なら死に方って、生き方と同じくらい個人の自由だと思うからです。 十代の頃、よく不法侵入していた近所の大学の図書館に、ストア哲学の本がありました。そこには、「ストア学派では、自殺は人間の自由の最高の表現であるとする」と記されておりました。この一節に、私は感動しました。有り難いことにこれまで自殺を願うことも実行することもなく生きて来られましたが、だからといって自殺を絶対ダメだと決めつけることには違和感がありました。それって、どうなの。生き方が自由なら、死に方も自由でしょ?きっと、生きられないほどの苦しみというのは、存在すると思うのです。英雄の挫折や作家の苦しみもそうであろうし、重病の辛さもそうです。そういう人に対して、自殺は絶対悪と言い切る資格は、果たして私達にあるのでしょうか。だってその苦しみを持っているのは、本人だけでしょう。本人しか知りえない苦しみであるのなら、それを知ったかぶりで諫めるのは驕りではないでしょうか。Photo by Giammarco Boscaroてゆうか、他者に対して自殺は駄目だと言い切るよりも、もうちょっと緩い言い方でいいんじゃないんでしょうか。私は自殺しないし多くの人(マジョリティ)は駄目って言ってるけど、決めるのはあなた次第、くらいでいいんじゃないでしょうか。なんかその方が自殺率減るんじゃないかという気がします。私は死なない、あなたは知らない。それでいいじゃないですか。自分の死に方くらい、自分で決めたっていじゃない、にんげんだもの。CAMILLE AYAKA (カミーユ 綾香)Facebook|Instagram北九州市出身。在日韓国人と元残留孤児の多く住む多国籍な街で育つ。警固インターナショナルの代表としてアジア各国を飛び回りつつ、十数言語による語学スクールとインバウンド支援の多言語ウェブサイト制作会社を運営する一方、難病の重症筋無力症とパンセクシュアルというセクシュアリティの当事者として、様々なマイノリティの生きやすい社会を目指して精力的に活動中。「マイノリティの爆弾」を「マジョリティ社会」に投げつけるために2017年5月から本メディアBe inspired!で連載中。Photo by Keisuke Mitsumoto▶︎オススメ記事・“平和ボケ”の日本人へ。社会がいう“正しい答え”ではなく、自分にあった答えを探すための冊子を作る若者・「当たり前」を疑わない人へ。「哲学」という“自由になる方法”を知った彼女が「答えも勝敗もない対話」が重要だと考える理由。Text by Camille AyakaーBe inspired!
2018年03月19日文房具コレクションの一部。右上から時計回りに、ベトナムのバラの切手、香港のキャンディの包紙、王冠模様のキャンディの包紙、ポルトガルのおみやげでいただいたピック、ユニークな形のオブジェはアメリカで発見、ビビットなバラのカードは上海のもの。 気づけば収集しているモノは、文房具だけでした。現在小林さんの仕事場は、友人のオフィスの一角にある。きれいに整頓された机の下には、「文房具トラベラー」と書かれたボックスが。雑誌の連載で文房具愛を語っている小林さんらしく、その箱の中には文房具がぎっしり。そこでまずはこんな質問から。好きな文房具ベスト3は? 「1位は、ダントツでテンプレートです。アルファベットや数字をかたどった文字モノを中心に集めていて、私の作品にも多く使っている相棒です。第2位が紙ですね。私がいつも使う好みの紙はもう決まっていて、日本生まれの〈LIFE(ライフ)〉のバンクペーパーか、アメリカ〈クレイン〉社のコットンペーパー。あと、和紙がすごく好きで。作品にも和紙を使うんですが、Gペンで描いたときの滲み具合や、インクがポタリと落ちた感じも気に入っています。そして第3位なんですが、好きすぎてなかなか決めきれられず(笑)。ペン、特に水性ペンやGペンも好きですし、スクリーントーン(注:漫画の画材で色の濃淡や背景などに用いられる)も……。(しばらく悩んで)決めました! 第3位は顔料絵の具にします。金銀の光る色が特に好きなんです」 小林さんのデスク。机の上には、文房具類を入れている棚と作品のみという潔さ。収集中の文房具の一部は、足元のバンカーズボックスの中に大切に保管されている。 小林さんのテンプレートコレクションの中から、最近お気に入り3種をセレクトしてもらった。使い込んだインクのシミから、その愛が伝わってくる。 自他共に認める、テンプレートラバー!一番好きな文房具は? の質問に、すかさず「テンプレート!」と答えた小林さん。テンプレートとは、正しい図を書くための文房具のことだ。プラスチックの板に型どられた図形をなぞるだけで、円や記号、数字やアルファベットを正確に描くことができる。 「テンプレートを好きになったのは大人になってからで、いつの間にかこんなに集まっていました。イギリスの『Helix(ヘリックス)』という文房具メーカーのモノが多いのですが、どれもいろんな旅先で見つけて集めてきたものなんです。日本の100円ショップでもいくつか見つけました。あと、私がテンプレート好きなことを知られていて(笑)、周りからいただくことも。ただ最近では数が少なくなっていて、文房具界の絶滅危惧種になりつつあるのが少し悲しいですね。よく使うモノにはインクがついて黒ずんでいますが、そんなところにも愛着が湧いていて。綺麗にもできるんですが、この感じもなんかだかいいなと思ってそのまま使っています」 写真左:友人からの年賀状。干支のうさぎをデザインしたユニークなテンプレートだ。写真中:オランダで購入した特大の品。数字からアルファベットまで一式揃う。写真右:『Helix』社の赤いテンプレートとアメリカで見つけた一品。 小林さんのテンプレートコレクションは、手のひらサイズから、日本ではあまり目にすることのない大きなモノまで、専用の箱がいっぱいになるほどの量。一見同じように見えるテンプレートも、数字やアルファベットに様々なフォントが使われていて眺めていて飽きない。これが文房具の面白さなのかもしれない。 そして、なんと好きが高じてテンプレートを作ったことも! 「私も参加しているkvina(クビーナ)というクリエイティブユニットで2011年に『CLASKA Gallery&Shop “DO”(クラスカ ギャラリー&ショップ ドー)』さんと一緒に製作しました。バレンタインに合わせて、エスペラント語(注:人工的に作られた世界共通語)で〝好き〟を書けるラブレター・テンプレートを作ったんです。テンプレートは、また作ってみたいアイテムですね」 制作に関わったテンプレート。日本語、英語、エスペラント語でラブレターを贈れるようになっている。 旅先でときめきの文房具探し。漫画家・作家という仕事柄、文房具は大切なパートナー。それゆえ、文房具選びに対する想いもひとしおだ。 「仕事で使っている文房具は、どういう画材を使ってどんな風に描こうかと考えているうちに、極まったアイテムたち。使うものはもう定番化しているので、『伊東屋』『世界堂』『東急ハンズ』をぐるぐるまわって、欠かさないようにしています。でも、それは仕事用の文房具の話。それ以外の趣味で集めている文房具は、旅先の文房具屋さんで探すことが多くて。これが私にとって、大きな楽しみなんです。そもそも旅先で本屋さんへ行くのが好きで、そこで文房具を売っていることも多いし、スーパーの文具売り場をまわったり、フリーマーケットやスリフトショップなどでみつける古いモノも好きですね」 例えば、キャンディの包紙や空箱、ピックなども、小林さんにとっては愛すべき文房具になる。彼女と同じように、素敵な包紙や雑貨にときめいてつい集めてしまうという人も多いはず。 「実は、高級な文房具にはあまり興味はないんです。だから、私が集めているモノは高くないことが前提。普段、何気なく使えるような文房具が好きですね。危うく捨てられそうなモノの中から素敵なモノを見つけられた瞬間は、すごくテンションがあがって嬉しくなります」 小林さんの目利きが光った戦利品のレースペーパー。多くはアメリカのスリフトショップで購入。 「以前アメリカのスリフトショップに立ち寄ったとき、古いレースペーパーがたくさん出ていて。その中から、繊細なカッティングの品を選んで持ち帰りました。特に手前中央の四角いレースペーパーは、ある商品の下に敷いてあったものなんですが、このレースペーパーがどうしても欲しくてその品を買ってしまいました(笑)」 海外で見つけた文房具ばかりかと思いきや、実は日本の古道具も。なかには家族から受け継いだ品もある。 古いスタンプたち。活版のように、自分で文字を組み合わせて使うことができる。 「もともとスタンプも好きで集めていたのですが、キリがないので厳選した一部がこちら。左下の木箱に入ったスタンプは実家でみつけたモノで、おそらく父が所持していたのだと思います。上段の中央のスタンプも、日本で作られていた年代物ですね。日本の文房具もかわいいデザインのモノがたくさんありますよね。特に紙モノなんかは、そのクオリティの高さにいつも感動しています。他にもいただいたお菓子の空箱や、祖母が持っていたり、プレゼントに結ばれていたりしたリボンだったり。文房具コレクションのなかには、色んな方たちからいただいて手にしたモノもたくさんあるんですよ」 リボンのストックは大きな瓶の中に。 ここまで文房具を愛する小林さんなら、ライフスタイルに関するモノにもこだわりがあるはず!けれど、返ってきたのは意外な答えだった。 「単に文房具が好きなだけで、モノに対するこだわりは特にないんです。おしゃれになりたいとは思うし、憧れるけれど、ファッションやインテリアとか、全然わからなくて。洋服とかも同じものを10年、20年とできれば着たいような感じです(笑)。 実は、文房具屋さんと本屋さん以外、あまりお店に買い物には行かないんです。店員さんに話しかけられることに緊張しちゃって、苦手なんです。だから洋服も生活用品も、ネットショップで注文することがほとんどですね。だから、いつも靴のサイズが合わなくて返品したり(笑)。試着とかも、ドギマギしてできないんですよね。 でも、文房具屋さんって話しかけられることがないですから!自分が欲しいものが集中して買えるので、そんなところも私に合っているのかもしれません」 文房具に対する見事な偏愛ぶりをみせてくれた小林さん。来週は、小林さんがこの世界に入るきっかけになった本から、彼女が憧れる女性像。そして、育児をしながらの働き方など、彼女の仕事についてクローズアップします。ぜひ、来週もお楽しみください。 【Profile】小林エリカ(こばやし・えりか)作家・漫画家・アーティスト。著書に、アンネ・フランクの日記と実父の日記をモチーフにした小説『親愛なるキティーたちへ』(リトルモア)、小説『彼女は鏡の中を覗きこむ』(集英社)など多数。今年の春には、第27回三島由紀夫賞候補、第151回芥川龍之介賞候補になった小説『マダム・キュリーと朝食を』(集英社)の文庫が発売に。連載も多数で、現在WEB『MilK JAPON』では「おこさま人生相談室』、雑誌『&Premium』では「文房具トラベラー』を担当中。放射能の歴史をめぐるコミック『光の子ども』は、リトルモアWEBで不定期連載。コミック本『光の子ども1,2』(リトルモア)も発売中。
2018年03月16日御年95歳の作家・瀬戸内寂聴先生と、その秘書を務める66歳年下の瀬尾まなほさん。「もう一度生まれ変わっても女がいい」と語る寂聴先生が、今を生きるanan世代の女性たちに伝えたいこととは?御年95歳でありながら、現役作家として活躍する瀬戸内寂聴先生。ここ数年、その傍らに優しく寄り添うある一人の女性がいるのをご存じだろうか?寂聴先生の秘書を7年前から務める瀬尾まなほさんは、アンアン読者世代と同じ、30歳。寂聴先生にその文才を認められ、初めて綴ったエッセイ本『おちゃめに100歳! 寂聴さん』(光文社)が話題に。66歳も年齢の離れた二人の人生に共通する、ある運命的な出来事とは?まるで漫才コンビのような二人の軽快なトークから、女の生き方のヒントを読み解きます。――二人の出会いは7年前、就職先を探していた瀬尾さんが、お友達の紹介で京都の寂庵に面接に来たことからはじまったと聞きますが。瀬尾まなほさん(以下、瀬尾):私が大学を卒業する直前だったので、22歳の時です。その時は、恥ずかしながら瀬戸内寂聴先生が小説家であるということも知りませんでした。瀬戸内寂聴さん(以下、寂聴):この子、本当に何も知らなかったの!本も読んでいなければ、文学少女でもなかったから、私は一目で「この子に決めよう」と思って。そのほうがかえって気が楽だと思ったのね。――働きはじめた当初から、瀬尾さんは自分でいつか本を出版したいと思っていたのですか?瀬尾:小説家志望で入ったわけではないので、まさかそんなこと、考えつきもしませんでした。寂聴:ただ時々、この子から手紙が届くんです。一緒に暮らしていたら、面と向かって言えないことも増えてくるじゃないですか。ある時、机の上に手紙が置いてあって、それを読んだら「この子は文才があるかもしれない」と思って。あまりに内容と文章が素直で良かったから、自分の小説にもそのまま引用したくらい。――そこから、瀬尾さんの人生が少しずつ動きだしたわけですね。ちなみに、寂聴先生が22~23歳だった頃はというと…?寂聴:結婚して子供を産んで、不倫して…いちばん濃い時だったかもしれません。21歳で結婚した夫は古代中国音楽史の学者だったので、「これで学者の妻になるんだ。これからは夫の才能を私が高めよう」とはり切っていたんですが。瀬尾:その先生が文学を志すようになったのは、23歳の時?寂聴:最初は「小説家になりたい」なんて口では言っていたけれど、タダでなれるとは思っていなかったの。当時は夫との家を出て、お金もなくて、困っていた時。でもある日、三島由紀夫先生にファンレターを書いてみたら、返事が来たんです。彼は誰にも返事を出さないことで知られているんだけど、「あなたの手紙はあまりにも面白いから」って。そこから文通がはじまった。――寂聴先生が瀬尾さんの才能を引き上げたのと同じで、当時の三島先生も、寂聴先生の文才を見抜いていたのですね。寂聴:ただ、いざ小説を書いて送ってみたら「あなたは手紙はあんなに上手いのに、小説は普通だ」と言われましたけど(笑)。でも、人は誰でもその人にしかない才能を持って生まれているんですよ。だけど、自分ではなかなか気づけないものだから、誰かに発見してもらうことがすごく大事になってくるの。それが、この人(瀬尾さん)のように早く発揮できればとても良かったと思うけれど、おばあちゃんになってから芥川賞をとるような人もいますから。だからいくつになっても諦めることはないと思う。――22歳の時に寂聴先生と出会ったことで、瀬尾さんの人生は大きく加速したわけですが、同時に先生ご自身にも変化の実感はありましたか。寂聴:二人が出会って、どちらかといえば変わったのは私なんですよ。瀬尾:いや先生、私のほうが変わりました!寂聴:まなほが来てくれて、着るものも、食べるものも、すべてが変わりました。今まで、仕事で付き合う人にもここまで若い人はいなかったから、この人といると、毎日が面白くてしかたがないの。瀬尾:先生、今朝もお味噌汁を噴き出して笑っていましたもんね(笑)。――逆に瀬尾さんは、先生と出会ってどんな変化の実感がありますか?瀬尾:先生に出会って、好きなように生きる大切さを私は学びました。95歳になっても、新しいことをどんどん取り入れている人を間近で見ていると、安定志向に入っていては駄目だと思いますし、今までの出会いを大切に、これからの自分の人生を走り続けたいと思うようになりました。だから、人生が大きく変わったのは私のほうだと思います。寂聴:まあ、私があなたの今の年齢の時は、ひととおりの女の人生をやっていましたよ。だから、まなほは何をやっているんだと思って。もっとたくさん恋愛して、楽しまないともったいないじゃない。瀬尾:いいんです、私は先生の元で働けて今は幸せなんですから!(笑)恋愛、結婚と仕事、人間関係、女友達など…多くの人が20代や30代にかけて直面する“女の悩み”。どうすれば今の自分を肯定し、人生をより豊かに楽しむことができるのか。迷える読者のお悩みを、年齢差66歳の二人にぶつけてみました。女の幸せ=結婚?出産?「今の会社に転職して5年、一人で任される仕事も多くなり、毎日に充実感があります。交際2年になる優しい彼もいて、最近、生まれて初めて、今が楽しいと心から思えます。ただ、彼から結婚の話をされると不安になり逃げたくなってしまうのです。正直、結婚して子供を産みたい、という気持ちがわきません。なぜ、私はそう思えないのか、どこか冷たい人間なのでしょうか。今の自分を、いつか後悔する日が来るのでしょうか?」(34歳・PR)寂聴:このくらいの年頃の女性であれば、結婚して好きな人の子供を産みたいと思うのが自然なこと。健康な若い女性で、その気持ちが全然わからないって、この人ちょっと変わっていると思う。瀬尾:でも、女性の未婚率は年々高くなっていますし、“結婚できない”のではなく、あえて“結婚しない”人生を選ぶ人も増えていますよね。寂聴:私が思うに、そういう人は無理に自分に言い聞かそうとしているだけ。例えば、本やなんかの影響でね。でも、一般的な女性なら、誰だって年頃になれば子供は産みたいと思うものなの。たとえ、相手が家庭を持っていたとしても。瀬尾:もちろん、私もいつか子供は欲しいと思います。とはいえ、今すぐ子供ができたとなったら、ちょっと恐ろしいなと感じる部分もあるんですよ。仕事ができなくなるとか、先生の元から離れないといけないとか、復帰できないかもしれない、とか…。この相談者の方も、彼がいてすごく幸せなんだけど、今すぐ結婚して子供を産むには、きっと心の準備ができていないはず。その気持ち自体は、わからなくもないですね。寂聴:ただ、好きな男性があなたに子供を産んでもらいたいと思ってくれるのは、すごく幸せなことなのよ。相手の気持ちをそんなふうに考えられたら、少しは前向きになれると思います。瀬尾:そうですね。それに、この方にもいつか「子供が欲しい」と思うタイミングが来るかもしれません。今は無理に決めなくても、流れに身を任せていいんじゃないでしょうか。仕事が大事な気持ちもわかりますし、子供ができたら自分でも驚くほど、子供が好きになったという人もいるくらい。どちらに転んでも、幸せになれないことなんてないと思います。せとうち・じゃくちょう1922年5月15日生まれ。徳島県出身。小説家であり、僧侶。’97年に文化功労者、’06年文化勲章を受章。これまでに発表した著書は400冊以上。せお・まなほ1988年2月22日生まれ。兵庫県出身。大学卒業後、瀬戸内寂聴先生の秘書となる。困難を抱えた若い女性や少女を支援する「若草プロジェクト」理事も務める。『いのち』瀬戸内寂聴講談社1400円ガンの摘出手術と長い入院生活を終えた作家の「私」。脳裏に甦るのは、これまでの人生で出会った男たち、そして筆を競った友の「死に様」だった。瀬戸内さんが95歳の命を燃やして書き上げた、“最後の長編小説”。『おちゃめに100歳! 寂聴さん』瀬尾まなほ光文社1300円秘書として7年間、瀬戸内寂聴先生の傍らにいる瀬尾さんが、先生の「おちゃめな素顔」と「愛あふれる本音」を赤裸々に綴った初めてのエッセイ本。貴重なプライベート写真と本人直筆食卓レシピイラストも初公開。※『anan』2018年3月7日号より。写真・内田紘倫(The VOICE)取材、文・瀬尾麻美(by anan編集部)
2018年03月03日映画監督に、出演役者の印象を伺っていく「監督は語る」シリーズ。今回は『羊の木』(2月3日公開)に出演する松田龍平について、吉田大八監督に話を聞いていく。松田は1999年に映画『御法度』でデビューし、その年の新人賞を独占する。映画『青い春』(02)の主演以降、『まほろ駅前』シリーズ(11、14)、『探偵はBARにいる』シリーズ(11、13、17)など話題作に出演。さらに『舟を編む』(13)では第37回アカデミー賞ほか、多数の主演男優賞を総なめにした。最新作となる『羊の木』では、過疎対策としてある町に受け入れられた元殺人犯で、錦戸亮演じる主人公・月末と交流を深めていく宮腰一郎を演じる。○松田龍平の印象開き直るわけじゃないけど、宮腰は言葉で説明できるような役になったらつまらないと思っていました。決して逃げではなく、自分なりに目指すべき宮腰に対してできるだけ誠実であろうとすれば、そうなってしまうんです。だって人間の言葉で捉えられるなら、人間の枠内にあるってことだから。当然松田くんとも撮影の前に何度か話し合ったのですが、僕が言葉を尽くして説明しながら、最後の最後で宮腰の芯に対して触れられないという苦しさを、彼のほうで感じ取ってくれて、自分が引き受けるしかないという覚悟を持ってくれたことで、宮腰という役がギリギリで成立したような気がします。あんなにフレンドリーで穏やかに見えながら、人間の枠におさまらない何かが、輪郭から少しずつにじみ出ている。彼が覚悟して演じてくれたおかげで、ただ立っているだけ、ただ歩いているだけで、何かざわざわしたものを感じる宮腰になったと思います。それは観ているこちらが人間だからですよね。もちろん松田龍平は人間だけど、宮腰は人間じゃない。普通に考えたら「そんな役、できるわけがない」で終りなんだけど、「求められたら、やるしかない」というのもまた松田くんだから、もし彼じゃなければどうなっていたか、全く想像がつかないですね。この無謀な賭けに付き合ってくれた松田龍平という俳優に、感謝するしかないです。○映画『羊の木』でのおすすめシーン文(木村文乃)に引き続き、やっぱり全編通してギターを持っている姿が別の意味でグッときますね。ギターが、ギター以上の何かになっている。たとえばギターを間に挟むことで、月末と宮腰の友情は儚い艶を帯びるし、いちばん最後に弦を爪弾いてからポツリと言う台詞が、宮腰の心からの叫びのようで、僕にはたまらないほど切なく聞こえます。■吉田大八監督1963年生まれ、鹿児島県出身。CMディレクター として国内外の広告賞を受賞する。2007年『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』で長編映画監督デビュー。同作は第60回カンヌ国際映画祭の 批評家週間部門に招待され話題となる。その後 『クヒオ大佐』(09)、『パーマネント野ばら』(10) とコンスタントに作品を発表。『桐島、部活やめるってよ』(12)で第36回日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀監督賞を受賞した他、国内の各映画賞を賑わせた。『紙の月』(14)でも第38回日本アカデミー賞 優秀監督賞受賞、主演の宮沢りえにも数々の映画賞をもたらした。17年は、三島由紀夫の異色のSF小説を映画化した『美しい星』の公開の他に、作・演出を手掛けた舞台「クヒオ大佐の妻」の上演が評判となる。
2018年02月04日映画監督に、出演役者の印象を伺っていく「監督は語る」シリーズ。今回は『羊の木』(2月3日公開)に出演する木村文乃について、吉田大八監督に話を聞いていく。木村は2004年に映画『アダン』オーディションでヒロインデビュー。『風のダドゥ』(06)で主演を務めるなど、その後も活躍を重ねている。映画・テレビドラマと話題作に次々と出演。2017年は映画『追憶』、『火花』、ドラマ『大河ファンタジー 精霊の守り人』『A LIFE~愛しき人~』『ボク、運命の人です。』に出演し、現在は映画『伊藤くんAtoE』が公開中。最新作となる『羊の木』では、過疎対策として仮釈放された6人の元殺人犯を受け入れる町に戻ってきた女性・石田文を演じる。○木村文乃の印象僕は逆に、木村さん側からの自分の印象が気になっています(笑)。撮影の前、僕はほぼ、彼女に「ギター弾けるようになった?」しか言ってないんです。木村さんに「『ギターのことしか言わない監督だ』と思ってたでしょ」と言ったら、「思ってました」と返されました。でも僕としては、彼女がギターを弾く姿に込めたものが大きかったんですよね。文には、元受刑者たちとは違う意味で、月末(錦戸亮)には明かされない過去の時間がある。ギターをかきむしるようにして弾く姿を通じて、後悔や苛立ち、不安……そんなもろもろを表現して欲しかったんです。だから、参考にしてほしいギタリストの映像や、彼女が持つSGタイプのエレキギターを特集したムックを闇雲に送ったりしましたね。初めて仕事をする女優へのアプローチとしてはかなり偏っていたんでしょうけど、彼女は戸惑いつつ面白がってくれました。硬質だけど弾力がある、いい文にしてくれたと思います。○撮影現場での様子現場ではあまり喋らなかったですね(笑)。本当は気さくな人だと思うんだけど、文という役は6人の受刑者と月末の関係とはまた少し、違う位置にいるじゃないですか。ある種孤立した感じは、意識してくれていたような気がします。そんなに話はしなかったけど、それでお互いやりにくいということは全くなかったです。月末に対する冷たさや、突き放し方については結構微妙なバランスを要求させてもらいました。「今のは柔らかすぎる」「それだと怖すぎる」という具合。宮腰(松田龍平)との関係の深まり方に関してはあえて描写を省略していて、それは月末にとっての「いきなり2人が恋人になっている衝撃」を強調したかったから。その辺のニュアンスもうまく感じ取ってくれたと思います。○映画『羊の木』でのおすすめシーン文はいい「顔」がいっぱいあるんだけど……でも演奏ですね、やっぱり。本当に雄弁というか、彼女の思いが音になって炸裂するようなシーンですから。……おすすめがギターの場面で、木村さんは喜ぶのかな?(笑) でも、あのシーンが説得力を持っていることが、大事なんですよね。文と月末の関係性もちゃんと反映しているし、何より音がカッコいい! 趣味です(笑)。■吉田大八監督1963年生まれ、鹿児島県出身。CMディレクター として国内外の広告賞を受賞する。2007年『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』で長編映画監督デビュー。同作は第60回カンヌ国際映画祭の 批評家週間部門に招待され話題となる。その後 『クヒオ大佐』(09)、『パーマネント野ばら』(10) とコンスタントに作品を発表。『桐島、部活やめるってよ』(12)で第36回日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀監督賞を受賞した他、国内の各映画賞を賑わせた。『紙の月』(14)でも第38回日本アカデミー賞 優秀監督賞受賞、主演の宮沢りえにも数々の映画賞をもたらした。17年は、三島由紀夫の異色のSF小説を映画化した『美しい星』の公開の他に、作・演出を手掛けた舞台「クヒオ大佐の妻」の上演が評判となる。
2018年02月02日映画監督に、出演役者の印象を伺っていく「監督は語る」シリーズ。今回は『羊の木』(2月3日公開)主演の錦戸亮について、吉田大八監督に話を聞いていく。錦戸は1997年にジャニーズ事務所に入ってから数々のテレビドラマに出演し、NHK連続テレビ小説『てるてる家族』(03~04)では日刊スポーツ・ドラマグランプリ新人賞を受賞した。また、『ちょんまげぷりん』(10)で映画初出演にして主演を務めた後、『エイトレンジャー』シリーズ(12、14)、『県庁おもてなし課』(13)、『抱きしめたい –真実の物語-』(14)などで活躍。最新作となる『羊の木』では、過疎対策として仮釈放された6人の元殺人犯を受け入れる公務員・月末一(つきすえ はじめ)を演じる。○錦戸亮の印象彼の演じた月末という役は、個性の強いキャラクターたちに囲まれて、彼らが移住してきたことで起こる新しい事件など、特殊な状況に、普通の人間として向き合わなければならないんです。彼が最初から最後まで、健全な「普通さ」を持ち続けていることが、ポイントになってきます。もちろん状況に応じて、人間らしい葛藤や嫉妬もあり、悩んだり傷ついたりもするんだけど、それが異常な域には踏み込まないことが大事で、彼の抑制の効いた演技や佇まいが、映画の軸としては非常に重要でした。彼がぶれないでいるから、逆に他のキャラクターもより際立ってきます。基本的に、錦戸くんは周りの登場人物たちから攻められ続けながら、しっかり真ん中にいて、どんどん普通の人間として輝きを増していくんですよね。見事でした。こういう俳優は本当に貴重だと思います。○撮影現場での様子撮影しながら感じたのは、相手に応じて、ごく自然に違う受け身をとれるセンス。共演者の間合いやその場の空気を反射したうえで、正確にドンピシャな答えを出す確率が非常に高く、監督としては非常に助かりました。基本ができていれば、もっと深いところまで一緒に掘れるじゃないですか。「じゃあこういうのも試してみよう」というトライもできて、演出していて楽しかった。完成披露試写会ではファンの方から「かわいい」と言われていましたが、まあ、僕にとっても息子のような年齢だし、かわいいですよ(笑)。彼の出ているバラエティ番組をあまり見たことがなかったのですが、撮影が終わってから見る習慣がついて、いつのまにか関ジャニ∞のファンになっちゃいました。最近また映画のプロモーションで会うようになり、撮影していた頃とはまた違う魅力も感じるようになりました。33歳の男としてのマナーも備えつつ、ファンの気持ちにも誠実に応えるというバランスを、すごく繊細に、でも自然に保っていられるところは、若いのに素敵だなと思います。○映画『羊の木』でのおすすめシーン一番好きなのは、バンドの練習をしている倉庫で、宮腰(松田龍平)の過去について文(木村文乃)と2人で話すシーンです。月末のずるさや小心さだけじゃなく、文に対する抑えようのない想いが溢れている。月末はバランスのとれたキャラクターだけど、ここではむき出しのナイーブな感じが出ていると思います。錦戸くんのすごく繊細な表情の中に、月末の人間的な葛藤をビンビンに汲み取れる感じがして、好きですね。■吉田大八監督1963年生まれ、鹿児島県出身。CMディレクター として国内外の広告賞を受賞する。2007年『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』で長編映画監督デビュー。同作は第60回カンヌ国際映画祭の 批評家週間部門に招待され話題となる。その後 『クヒオ大佐』(09)、『パーマネント野ばら』(10) とコンスタントに作品を発表。『桐島、部活やめるってよ』(12)で第36回日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀監督賞を受賞した他、国内の各映画賞を賑わせた。『紙の月』(14)でも第38回日本アカデミー賞 優秀監督賞受賞、主演の宮沢りえにも数々の映画賞をもたらした。17年は、三島由紀夫の異色のSF小説を映画化した『美しい星』の公開の他に、作・演出を手掛けた舞台「クヒオ大佐の妻」の上演が評判となる。
2018年01月31日2月の博多座は、中村勘九郎、中村七之助、尾上松也といった人気花形揃い踏みで「二月花形歌舞伎」を上演。昼の部は、幕末の鹿児島を舞台に運命に翻弄される若者を描いた『磯異人館』、早替りを交えながら七役を見事に演じ分ける様が魅力の『お染の七役』。夜の部は時代物の勇壮さと様式美が堪能できる『義経千本桜 渡海屋・大物浦』、一目惚れの恋をテーマにした三島由紀夫作の喜劇『鰯賣戀曳網(いわしうりこいのひきあみ)』といったバラエティに富んだ名作揃いだ。2月2日(金)の開幕を前に、中村勘九郎、中村七之助に話を聞いた。二月花形歌舞伎 チケット情報博多座は5年ぶりの出演となるふたり。勘九郎が「父(故・中村勘三郎)との思い出が多い劇場ですので、来たかったんですよ」と語る博多座での公演だけに、演目にもかなり気を配った。博多の友人が多い七之助はリサーチも入念に行なったとか。「わかりやすくて派手なものがいい、という声が多かったんです。表面的にわかりやすいだけではなく、情愛の深いものや、様々な感動がある演目ばかり。歌舞伎にもいろいろなジャンルがあるんだと思って頂けると思います」(七之助)父、祖父が演じてきた思い出深い演目『鰯賣~』は夜の部で上演。2014年の「中村勘三郎三回忌追善公演」で初めて兄弟でやり、今回は2回めとなる。「九州では父も祖父もやっていないので、九州初上陸の演目となります。三島由紀夫先生が六代目歌右衛門と私の祖父に当てて書いてくださった作品で、逆シンデレラストーリーの超ハッピーエンドな物語。残念ながら直接父から教わる機会はなかったのですが、大好きな作品だったので父が演じていた時の息づかいなどもしっかり覚えています。ふわっとした愛嬌や色気が漂うような空気感が出せれば」と勘九郎。そして七之助が七役を演じ分ける『お染の七役』は昼の部で上演される。「早替りはもちろん楽しんで頂きたいのですが、実は今回台本も少し変えようと思ってまして。お家騒動に至るまでの登場人物の思惑や背景をもう少し詳しく表現します。冒頭に関してはほとんど新作になってますね。新しくなった『お染の七役』は博多座が初上演。しかも今回は兄も早替りするんです。同じ演目でふたりの役者が同時に早替りするのはあまりないので、お楽しみに!」と七之助。「え?今、初めて聞きました(笑)」と驚く勘九郎に、「大丈夫、大丈夫(笑)」と七之助が笑顔で返すなど、兄弟ならではの率直なやりとりが微笑ましく、どんな舞台になるのか期待が高まる。同世代であり、子どもの頃からの仲である尾上松也が全演目に出演するのも話題。「気楽に楽しんで騒いで頂いて。あ、他のお客様にご迷惑にならない程度に(笑)。熱い博多の気質で、どんちゃん騒ぎながら観て頂けたら嬉しいです」(七之助)「今回出てくださる先輩方は皆さま寛容な方ばかりなので、騒いでもきっと許してくださると思います(笑)」(勘九郎)2月2日(金)から25日(日)まで博多座で上演。チケット発売中。
2018年01月17日江戸川乱歩×三島由紀夫が織りなす戯曲『黒蜥蜴』に出演する井上芳雄さんに、作品の見どころを伺いました。美貌の女盗賊・黒蜥蜴と名探偵・明智小五郎の攻防を描いた江戸川乱歩の探偵小説を、三島由紀夫が妖艶で耽美な世界へと昇華させた戯曲『黒蜥蜴』。かねてより三島作品に強い憧れを抱く世界的演出家のデヴィッド・ルヴォーの演出で上演される。「ルヴォーは、世界の第一線で活躍する演出家でありながら、日本文化にとても造詣が深い方。そのルヴォーの感性を通した三島さんの作品は、シンプルな美しさを感じさせて、それがとても胸にくるんです。作中に、ピアノの音を聞き外を見るというシーンがあるんですが、ルヴォーは方向を指し示すのではなく『太陽が昇る方を見てください』と言うんです。登場人物それぞれが思い描く太陽の位置も色も形も違うはずですが、それでいいんですよね。具体的に説明しようとしないのに、彼が思い描いた世界が無限の広がりをもって舞台の上に立ち上がる。それがまるで魔法みたいに思えて」これまでの稽古を反芻し、じっくりと噛みしめるように語る井上芳雄さん。演じるのは明智小五郎だ。「三島作品というと美しく重厚なイメージがありますが、それだけじゃなく、時に滑稽だったりグロテスクだったり…。黒蜥蜴は、完璧な美を追い求めて犯罪に手を染め、正当な立場であるはずの明智自身も、犯罪に焦がれて探偵をしているという歪んだ部分をもっている。でも、歪(いびつ)だったりグロテスクだったりするからこそ、彼らの根底にある純粋さが際立つような気がするんですよね」黒蜥蜴に扮するのは中谷美紀さん。「お綺麗なのはもちろんですが、セリフは完璧、周りへの気遣いも素晴らしく、英語もできて…隙が一切ない。まさに黒蜥蜴みたいです(笑)」井上さん自身も、音大生の時に歌の才能を見出され、ミュージカル界のプリンスとして第一線を走ってきた人。しかし「自分は努力して完璧になろうとしてきた人」なのだそう。「生まれながらに音楽と共にある、みたいな人に昔から羨望をもっていました。でも、上手くなりたいと渇望するから走り続けてこられたとも思うんです。そこは犯罪に焦がれる明智と似ているのかもしれません」いのうえ・よしお1979年生まれ、福岡県出身。『エリザベート』などのミュージカルを中心に、近年はストレートプレイや映像作品などでも活躍。4月からは舞台『1984』も控える。ジャケット¥90,000カットソー¥18,000(共にランバン コレクション TEL:03・3486・1573)女盗賊の黒蜥蜴(中谷)から、宝石商の娘・早苗の誘拐予告が届いた。犯罪を阻止するために雇われた名探偵の明智(井上)は、一度は奪われた早苗を見事に奪還するが…。上演中~1月28日(日)日比谷・日生劇場原作/江戸川乱歩脚本/三島由紀夫演出/デヴィッド・ルヴォー出演/中谷美紀、井上芳雄、相楽樹、成河ほかS席1万2500円A席9000円(共に税込み)梅田芸術劇場 TEL:0570・077・039(10:00~18:00)2月1日~5日に大阪公演あり。※『anan』2018年1月17日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・吉田ナオキヘア&メイク・川端富生インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2018年01月15日1月13日(土)今夜放送の「SWITCHインタビュー達人達(たち)」はモデルで女優の水原希子と写真家の長島有里枝によるクロストークをお届け。“撮られる側”である水原さんと“撮る側”である長島さんが語り合うなかで“共鳴”したこととは!?本番組は異なる分野で活躍する2人の“達人”が番組の前半と後半でゲストとインタビュアーが“スイッチ”、各々の「仕事の極意」を語り合うことで“発見”し合うクロスインタビュー番組。ミスセブンティーンに選ばれ「セブンティーン」誌でのモデル活動から女優へと活躍の場を広げ、『ノルウェイの森』や『ヘルタースケルター』などで注目されると、その後「失恋ショコラティエ」や「信長協奏曲」、そして2015年公開の『進撃の巨人』などでその評価を高めた水原さん。モデル、女優としてだけでなく400万人を超えるフォロワーをもつ“インスタグラムのカリスマ”としても知られ、その発信力、発言が大きな話題となることも少なくない日本のインフルエンサーの1人だ。一方の長島さんは1973年、東京都生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業後、文化庁新進芸術家在外研修員としてアメリカに留学し、2000年には第26回木村伊兵衛写真賞を受賞。写真だけでなく文筆にもそのクリエリティブの幅を広げ2010年には「背中の記憶」で第23回三島由紀夫賞候補、第26回講談社エッセイ賞を受賞。作品を通して家族や女性のあり方について問い続けている。10代のころからモデルとして活躍、自分らしさをいかに出すか模索してきたという水原さんは、多くのフォロワーがいるインスタグラムでも、ときに誤解を受けることもありながら、リアルな自分を伝えようと発信を続けている。そんな水原さんにとって自分、家族、仲間と身近な存在を題材にイメージやフィクションに縛られない姿を写し取ろうとする長島さんは刺激的な存在だといい、被写体とフェアな関係でありたいという長島さんの発言に“共鳴”する。被写体とフォトグラファーという関係性の2人が偽りのない表現の可能性について語り合うなかで見えてくるものとは。「SWITCHインタビュー達人達(たち)」は1月13日(土)22時~NHK Eテレで放送。(笠緒)
2018年01月13日デヴィッド・ルヴォー演出の『黒蜥蜴』が1月9日、東京・日生劇場で開幕した。原作・江戸川乱歩、脚本・三島由紀夫で描かれた物語は舞台にどう立ち上がったのか。女賊・黒蜥蜴を演じる中谷美紀、探偵・明智小五郎を演じる井上芳雄をはじめとするキャストが見せたのは、そここに“美”が宿る世界だった。舞台『黒蜥蜴』チケット情報観客を待っているのは、すりガラスが半分残った天井だけが用意された舞台。ほかには何もない薄暗闇の中に生演奏の音楽が流れ始めると、いくつものドアが現れた。人々が追い追われるように行き交うなか、いつしかそこはホテルの一室となる。のちの場面には、すりガラスの天井が東京タワーの窓になったりもする。魔法のような、しかし演劇だからこそできるこの仕掛けが想像力を掻き立て、瞬く間に物語に入り込ませてくれる。物語は、宝石商・岩瀬(たかお鷹)の娘・早苗(相楽樹)を誘拐するという脅迫状が届いたことから始まる。探偵の明智(井上芳雄)を見張りに雇い、見合いのために大阪のホテルにやって来た岩瀬父娘。そこには上客である緑川夫人(中谷美紀)がいたが、彼女こそ、誘拐予告をした女賊・黒蜥蜴だった。しかし、美しいものを盗み、その美しさを永遠に留めるという自分の美学と信念のみに生きてきた黒蜥蜴が、明智と出会うことで初めて恋というものを知る。やがて早苗をさらうことに成功するも、明智への思いに自らが苦しめられることとなる黒蜥蜴。扮する中谷は、その揺らぎを生々しく見せた。妖艶に佇み、大胆に冷酷に犯罪を決行しながらも、狂おしく惑う姿には、心寄せずにはいられない。対する明智を演じる井上。探偵であるにもかかわらず犯罪への憧れを口にするその危うさに色気が漂う。自信たっぷりに黒蜥蜴を追い詰める様、そして黒蜥蜴の悲しみを受け止める姿に、持ち味である気品が存分に活かされる。家政婦のひなを演じた朝海ひかるの黒蜥蜴への妄信的な献身、黒蜥蜴を慕う雨宮役の成河が見せた嫉妬や葛藤も、この物語の深度を増した。黒蜥蜴に仕える妖しげなダンサーたちも意味深だ。さらには、岩瀬の傲慢、早苗の無邪気が、黒蜥蜴という存在の純粋さと尊さをあぶり出す。中谷が早替えで見せる黒蜥蜴の衣裳も必見。本当に美しく生きるというのはどういうことなのか。ルヴォーとキャストが相反する様々な感情と世界を提示しながら、美しき愛を残酷なまでに突きつける。東京公演は1月28日(日)まで。その後、2月1日(木)から5日(月)まで大阪・梅田芸術劇場メインホールで上演。取材・文:大内弓子
2018年01月11日俳優の中村蒼が9日、BSジャパンBSジャパンの新ドラマ『命売ります』(2018年1月スタート 毎週土曜21:00~)の記者会見に、前田旺志郎、YOU、田口浩正、田中泯、和嶋慎治(人間椅子)とともに登場した。同作は、三島由紀夫の小説を初の実写化。昨年「隠れた怪作小説発見」と銘打たれ重版が進み、30代~50代を中心に28万部という異例の大ヒットを記録した。広告代理店に勤め、経歴、収入など何不自由ない生活を送る山田羽仁男(中村)は、突然自殺を決行したが失敗し、「命を売る」ビジネスをスタートさせる。毎日が平坦で生に執着する気持ちがまったくない「羽仁男」というキャラクターに、中村は最初戸惑ったというが、「回を増すごとに愛せるようになってきました」と語る。 YOUは「台本をいつも移動中に覚えさせてもらったりするんですけど、今回の台本の"命"が赤くてめっちゃでかく書いてある」と明かし、「人前で出しにくくて」と笑わせた。また、田中は「19歳だったか、クラシックバレエの稽古をしている時に、母屋の方から三島が市ヶ谷で演説やってると聞いて、それをライブで夢中で聞いていたのを思い出しました」としみじみと振り返る。OPでは舞踊も披露したが、「8回か9回踊って、1回1回が10分以上ですから。それをあれだけの短い時間に詰めるのは驚きに近い。ほんのくしゃみ1回分くらいしかない」と編集について語り、中村も「ぜいたくですよね」と苦笑していた。中村は、大地真央がゲストに来た時のエピソードを披露。中村は「住む世界が僕と全然違う人なので。どういう会話が成り立つのかなと思った」と撮影時を思い出し、ロケ地に牛丼屋があったことから「大地さんに『牛丼屋入ったことありますか?』と聞いたらないって。駄菓子も名前すら知らなかったり」と大地の浮世離れした生活を覗かせる会話の内容を明かす。前田も「僕たちが当たり前のように飲むジュースも知らなくて、僕は高校生でたくさんジュースを飲むので、『知らない人もいるんだ』と思った」と驚いた様子。中村は「僕の想像してた通りの大地さんだったので嬉しかったです」と笑顔を見せた。
2018年01月09日舞台『黒蜥蜴』の公開ゲネプロが8日、東京・日生劇場で行われ、中谷美紀、井上芳雄、相楽樹、朝海ひかる、たかお鷹、成河が登場した。同作は、江戸川乱歩の探偵小説を三島由紀夫が1961年に戯曲化し、以来様々な俳優によって上演されている。稀代の女盗賊・黒蜥蜴と、名探偵・明智小五郎の勝負と愛の行方を描く。今回はデヴィット・ルヴォーが演出を務めた。体の線に沿った数々のドレスを身にまとった中谷の黒蜥蜴は、妖艶でありながらどこか可憐な佇まい。清廉さと大人の男性の色気を併せ持つ井上の明智小五郎、神経質で美しい部下・雨宮を演じた成河とともに『黒蜥蜴』の世界を創り上げた。「ルヴォーさん主催の演劇学校に、出演料を頂戴して通わせていただいたような、充実したお稽古」と振り返る中谷は、9日の初日を前に「少々緊張している」という。「井上芳雄さんをはじめとする共演者の皆さんの言葉に耳を傾け、表情を見逃さず、心と心の対話を最も大切に演じたいと思います」と意気込んだ。さらに中谷は「高尚なものと低俗なもの、喜劇と悲劇、美しいものと醜いもの、愛と憎しみ、エロスとタナトス、相反する2つの世界が混じり合い、拮抗し合う三島ワールドをぜひご覧いただきたいです」と語った。井上は「悲しいほどに美しい美紀さんの黒蜥蜴とご一緒できるのも光栄です」と喜びを表す。「きっと今まで見たことのない、でも、心の奥ではどこか知っていた愛の世界がそこにあるはずです!」とアピールした。「不思議と緊張もなく穏やかな気持ちです」という成河は、「想像力を刺激するシンプルで力強い演出」が見所と明かす。「デヴィット・ルヴォーの美意識が行き届いた、演劇ならではの『空間の使い方』に是非注目して欲しいと思います」とコメントを寄せた。東京公演は日生劇場にて9日〜28日、大阪公演は梅田芸術劇場メインホールにて2月1日〜5日。
2018年01月08日俳優の中村蒼が、BSジャパンの新ドラマ『命売ります』(2018年1月スタート 毎週土曜21:00~)の主演を務めることが18日、わかった。同作は、三島由紀夫の小説を初の実写化。昨年「隠れた怪作小説発見」と銘打たれ重版が進み、30代~50代を中心に26万部という異例の大ヒットを記録した。広告代理店に勤め、経歴、収入など何不自由ない生活を送る山田羽仁男(中村)は、突然自殺を決行したが失敗し、「命を売る」ビジネスをスタートさせる。「お母さんに殺されてください」と羽仁男に依頼をしてくる高校生・井上薫役に前田旺志郎、羽仁男がよく行く喫茶店の常連客・宮本役に田口浩正、喫茶店のマスター・杏子役にYOU、「裏社会の男と不倫する妻と、寝てほしい」と依頼してきた実業家・岸宗一郎役に田中泯と、実力派キャストが集結する。同局 森田昇プロデューサーは「三島由紀夫作品とい うことで文芸作品のようなイメージを持たれる方もいると思いますが、非常に観念的でありまた難しいテーマを扱いつつも、極上のエンターテイメント作品であります」と同作について説明。「『命を売り買いする』というショッキングな内容ですが、生と死について臆せず向き合い考えながらストーリーを楽しんでいただければと考えています」と語り、「中村蒼さんのセクシーな魅力とともに毎回登場する強力なゲストにも注目ください」とアピールした。○中村蒼コメント多くの人から愛されている三島由紀夫さん作品で、主人公を演じられて光栄です。独特な三島ワールドが映像化されることでどうなるのか楽しみです。命を売る、命を捨てる覚悟が出来ている男はどんな人生を送るのか。“死ぬこと"に対して前向きで、それが周りの幸せに繋がるというのは不思議な感覚ですが、どうやってストーリーが進んでいくのか楽しみですし、この作品が僕にとって転機になる予感がします。色々な人を魅了する羽仁男の様に、この作品に多くの人が引き込まれる様に皆で頑張っていきます。(C)「命売ります」製作委員会
2017年11月18日映画『花筐/HANAGATAMI』が2017年12月16日(土)より、有楽町スバル座ほか全国で公開される。監督を務めるのは尾道三部作をはじめ数多くの“古里映画”を撮り続けてきた大林宣彦。戦争の時代に生きる若者たちを主軸に、青春群像劇を圧倒的な映像力で描く。原作は三島由紀夫がこの一冊を読み、小説家を志したという檀一雄の純文学「花筐」。1941年の春、佐賀県唐津に暮らすことになった17歳の榊山俊彦が、学友たちと青春を謳歌する中でいつしか戦争の渦に飲み込まれてゆく。主人公・榊山俊彦を演じるのは窪塚俊介。俊彦が憧れを抱く、たくましい美少年の鵜飼役には、『三度目の殺人』など話題作に出演が相次ぐ満島真之介。病に苦しむヒロイン・美那には若手女優の矢作穂香。他にも、常盤貴子、長塚圭史、柄本時生、山崎紘菜、門脇麦などの個性溢れる実力派が揃い踏みだ。詳細『花筐/HANAGATAMI』公開日:2017年12月16日(土)有楽町スバル座ほか全国順次ロードショー監督:大林宣彦キャスト:窪塚俊介、満島真之介、長塚圭史、柄本時生、矢作穂香、山崎紘菜、門脇麦、常盤貴子©唐津映画製作委員会/PSC 2017【あらすじ】1941年の春、アムステルダムに住む両親の元を離れ、佐賀県唐津に暮らす叔母の元に身を寄せることになった17歳の榊山俊彦の新学期は、アポロ神のように雄々しい鵜飼、虚無僧のような吉良、お調子者の阿蘇ら学友を得て“勇気を試す冒険”に興じる日々。肺病を患う従妹の美那に恋心を抱きながらも、女友達のあきねや千歳と“不良”なる青春を謳歌している。しかし、我が「生」を自分の意志で生きようとする彼らの純粋で自由な荒ぶる青春のときは儚く、いつしか戦争の渦に飲み込まれてゆく。「殺されないぞ、戦争なんかに!」__俊彦はひとり、仲間たちの間を浮き草のように漂いながら、自らの魂に火をつけようとするが……。
2017年11月03日左から、井上芳雄、成河撮影:源 賀津己ヘアメイク:高橋幸子スタイリング:吉田ナオキ、市川みどり(ルミナス)江戸川乱歩の原作を三島由紀夫が戯曲化、これまで何度も映像化・舞台化されてきた『黒蜥蜴』。その世界観に惹かれ続けてきた英国人演出家のデヴィッド・ルヴォーが、長年の演出プランをもって、ついに舞台化に着手する。黒蜥蜴を演じるのは、舞台活動でも高い評価を得ている中谷美紀、また彼女と対峙する名探偵・明智小五郎に井上芳雄、緑川夫人の部下・雨宮には成河と、華も実力も兼ね備えたキャスティングが実現した。本作への想いを井上と成河に聞いた。舞台『黒蜥蜴』 チケット情報大阪の宝石商・岩瀬(たかお鷹)は、娘の早苗(相楽樹)を誘拐するという脅迫状に怯え、私立探偵の明智小五郎(井上)を呼び寄せる。宿泊中のホテルには岩瀬の上得意である緑川夫人(中谷)もいたが、実は彼女こそ脅迫状を送った女賊の黒蜥蜴その人であった。互いに尋常ならざるものを感じとる明智と緑川夫人。そんな中、緑川夫人は早苗に、部下の美青年・雨宮(成河)を紹介し……。2012年の舞台『ルドルフ ザ・ラスト・キス』でルヴォーの演出を受けている井上は、「ルヴォーさんは、とにかく人たらし。スタッフ一人ひとりにまで声をかけてくださるから、誰もが彼のファンになってしまうんです(笑)。僕もルヴォーさんの作品にまた出たかったので、こんな素晴らしい作品でご一緒できるなんて二重の喜びですね」と語る。一方、今回が“ルヴォー組”初参加となる成河からは「当初、もっとフレッシュな俳優さんが雨宮役に相応しいのではと思っていたので、そうルヴォーさんにお伝えしたんですよ」と驚きの発言が。「でも実際に彼と演劇について話しているうちに、段々と考えが変わってきて。『成河が蓄えてきた、フィジカルな部分も引き出して舞台を作りたい』と言っていただいたことが、出演の決め手となりました」と、絶妙な配役に至る一端を明かしてくれた。インタビュー中も互いに茶々を入れるなど、仲の良い様子がうかがえるふたり。井上は成河について、「オン・オフ含めて『いま何を考えてるの?』と、つい聞きたくなる人。自然と本音を漏らしてしまう相手でもありますね」と話す。成河はそれを「井上くんはミュージカル出身で、僕は泥臭い小劇場演劇から始めた人間。守備範囲が微妙に異なるから、他では言えない話もできるんじゃないかな」と分析する。「それでも、根本的なところで話が合うのは事実。僕は彼のことを、輸入品である“ミュージカル”を日本に浸透させることができる人だと思ってますから」と盟友への言葉は止まらず、思わず井上が笑いだすひと幕も。信頼で結ばれた井上と成河が響き合い、共に作り出す『黒蜥蜴』の世界。それがどんな様相を示してくれるのか、本番が楽しみだ。舞台『黒蜥蜴』は2018年1月9日(火)から28日(日)まで東京・日生劇場、2月1日(木)から5日(月)まで大阪・梅田芸術劇場メインホールにて上演。取材・文佐藤さくら
2017年10月13日