楽観的で新しモノ好き、マイペースすぎる父。家事とパートをこなす働き者、心配性ゆえに小言の多い母。『てつおとよしえ』は、昭和っぽさあふれるご両親に育てられた山本さほさんが、家族史を振り返るハートウォーミングなコミックエッセイ。「思い出した順にマンガにしていったので、子ども時代の話も大人の反抗期のころの様子もあって、わりと時系列がバラバラになってしまいました。その分、私が両親からどんなふうに影響を受けたかが伝わっていたらいいなと思います」性格は正反対なのに、金婚式を越えても仲がいいというご両親の睦まじさはもちろん、子ども時代の山本さんが甘えん坊ぶりを発揮するエピソードも微笑ましい。たとえば、第10話の「温泉とサラミ」は、子どものころに両親と車で温泉に出かけた、雪が降る日の思い出だ。パーキングエリアの自販機で買ってもらったカップラーメンのおいしさや、帰り道で寝たふりをして家までおぶってもらった幸福感…。思わずほっこりしてしまう。「お風呂に入るときには、必ず父についていきました。父は常に食べ物を隠し持っていたので(笑)、それ目当てに。ハムとかサラミとか、母だと『体に悪い』となかなか食べさせてくれないものをこっそり分けてくれるのが楽しみで」自分のことよりも家族に献身する〈よしえ〉は、典型的な昭和の母、というイメージ。「将来を考えなさいという母の心配が、10代のころはイヤでしかたなかったんです。大人になったいまはわかりますが。とはいえ、母の言うことを全部受け止めるのもしんどいので、そこは父のように受け流す合気道的な知恵が母のいちばんの対処法なんだなと。父から学びました」そんな母は、実は山本さんのいちばんの応援団かもしれない。「連載していた文芸誌を毎月買って、チェックしてました。『こんなこと描いて恥ずかしいでしょ』と言いながら、『お父さんがこの前こんなことしたのよ』と結構ネタを提供してくれましたね。マンガにしても面白くない話が多かったですが…(笑)」家事を全部ひとりで担っていた母。気になった新製品なら、値段は二の次で買ってしまう父。「いまだったら、ツイッターに上げた途端に炎上しそうです(笑)。でもそういういくつものバランスで、うちの家族はできていたのだなとあらためて思いますね」山本さほ『てつおとよしえ』自伝的作品『岡崎に捧ぐ』では描ききれなかった著者の家族にフォーカスした、ファミリーヒストリー。極端なところもあるけれど、すべては愛情の裏返し。新潮社1210円©山本さほ/新潮社やまもと・さほマンガ家。1985年生まれ。2014年、幼なじみとの友情を描いた自伝的作品『岡崎に捧ぐ』でデビュー。『きょうも厄日です』等、著書多数。※『anan』2023年7月12日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2023年07月09日ダンスパフォーマンスグループs**t kingz(シットキングス)が、盟友・三浦大知とのコラボ楽曲「No End feat. 三浦大知」を7月19日(水) に配信リリースすることを発表した。本楽曲は、s**t kingzの日本武道館単独ライブ『THE s**t』のテーマ曲。サブスク解禁に先立ち、Music Videoが7月8日(土) 21時にプレミア公開されることも決定した。「No End feat. 三浦大知」は、s**t kingzと三浦大知プロデュースのもと、作詞・歌唱は三浦大知が担当。作曲は三浦やAI、8LOOM、BTSなど国内外多数のアーティストに楽曲提供しているUTAが手掛ける。歌詞を書くうえで三浦大知は、「僕たちに共通していることは何かを考えた時に、"もっと新しい事をしたい、もっと誰もやってない事をやりたい"という“とめどない欲望”なのかなと思った。“ダンサー史上初”の日本武道館ライブという大きな目標を達成してもなお、シッキンが"まだまだいくぞ"と決意表明出来るような、そんな歌詞にしたいなと思い書いてみました」とコメントしている。MVは、本楽曲の歌詞のいたるところに込められたメッセージである「満足できない」「止まるわけにはいかない」「まだまだここから」という“渇望”や“込み上げる衝動”を全面に出すべく、“未知なる世界”を感じさせる洞窟で撮影された。かなり激しいダンスにも関わらず、足場は、土や石が転がり、斜面もある今までで最も厳しい撮影環境だったという。メンバーは「それでもいい映像を撮りたくて頑張りました!過酷だったはずの1日でしたが、スタッフも含めみんなで一丸となって乗り越えた達成感で清々しかったです!」とコメント。見どころは各メンバーのソロパートだといい、「メンバーそれぞれの魅力を特に注目して見てください!洞窟というシチュエーションに炎、水、光と幻想的かつ攻撃的な作品になっています。15周年を迎えたs**t kingzのこれから先への牙剥き出しのパフォーマンスを是非ご覧ください!」と語った。<s**t kingzメンバー コメント>■shoji15周年の記念すべきタイミングで、武道館公演を控えた心が燃えるタイミングで、ライブハウスツアーを控えたワクワクするタイミングで、遂に三浦大知と楽曲を制作する事が出来ました。むしろ、この時の為に我慢し続けてきました!三浦大知と共に歩んできたこれまでの時間と、想いと、熱意がぶつかり合って、最高にアツい楽曲が完成しました!!!s**t kingzの事をs**t kingz以上に理解している三浦大知だからこそ、紡がれた言葉に想いとリアルを感じてもらえると思います。何度も観て、聞いて、楽しんでください!■kazuki15周年、そして武道館という大舞台を控えたこのタイミングで、同世代で昔から一緒に頑張ってきた大知と一緒に作品を作ることを狙ってました!■NOPPOいつかは絶対に大知と一緒に楽曲を作りたい!とずっと思っていました。今年はLiveツアー、武道館と沢山の方々と会える機会があり、しかも15周年!こんな勝負の年に、10年以上の付き合いで、ずっと刺激をくれる三浦大知の音楽なしでは迎えられなかったので、実現できて嬉しいです。■Oguri三浦大知は共に走り続け、闘い続けている戦友であり、表現者としても人間としても心から尊敬できる、シッキンにとって大切な存在です。15周年、初の武道館公演に向けた渾身の一曲は、大知の力を借りて最高最強な音楽を作りたかったんです!■三浦大知 コメント10年以上の付き合いになるシッキンと遂に楽曲を作る事が出来て本当に嬉しいです。音楽プロデューサーのUTAさんにお願いしまして、みんなで一緒に0から作り上げていく時間がとにかく楽しくてずっとワクワクしながら制作しました。僕達は誰かに何かを言われているわけでもないのに、「何か新しいものを生み出したい!生み出さなければ!」という謎の使命感と欲望に逆らえない、ある種、病気的なまでの衝動に常に突き動かされています。そんな終わりのない三浦大知とシッキンの溢れる情熱が詰まりまくった一曲になりました。熱いです。感動的です。是非聴きまくっていただきたいです!MVを見せて頂きましたが、シッキンの表現がもう画面内に収まってません。画面から溢れ出してしまっています。身体の内側から吐き出された「まだ足りない!」という尽きる事のない炎のような探究心とダンスに対する愛を感じる事のできるMVだと思います。最高です!<リリース情報>Digital Single「No End feat.三浦大知」「No End feat.三浦大知」配信ジャケット7月19日(水) 配信リリースLyrics:Daichi Miura、s**t kingzMusic:UTA、Daichi Miura「No End feat.三浦大知」MV※7月8日(土) 21:00プレミア公開<ツアー情報>『s**t kingz Dance Live Tour 2023 「踊ピポ」』s**t kingz Dance Live Tour 2023『踊ピポ』ビジュアル【東京】9月8日(金) 開場 18:00 / 開演 19:009月9日(土) 開場 12:00 / 開演 13:00 開場 17:00 / 開演 18:00会場:Zepp DiverCity問合せ:キョードー横浜TEL:045-671-9911(月〜金 11:00〜15:00)【福岡】9月16日(土) 開場 16:00 / 開演 17:00会場:Zepp Fukuoka問合せ:BEATEL:092-712-4221(平日 12:00〜16:00)【愛知】9月18日(月・祝) 開場 16:00 / 開演 17:009月19日(火) 開場 18:00 / 開演 19:00会場:Zepp Nagoya問合せ:サンデーフォークプロモーションTEL:052-320-9100(全日 12:00〜18:00)【北海道】9月22日(金) 開場 18:00 / 開演 19:00会場:Zepp Sapporo問合せ:WESSinfo@wess.co.jp(Mailto:info@wess.co.jp)【大阪】9月29日(金) 開場 18:00 / 開演 19:009月30日(土) 開場 12:00 / 開演 13:00 開場 17:00 / 開演 18:00会場:Zepp Namba問合せ:キョードーインフォメーションTEL:0570-200-888(11:00〜18:00 ※日祝休業)【宮城】10月7日(土) 開場 16:00 / 開演 17:00会場:仙台 GIGS問合せ:ジー・アイ・ピー (お問い合わせフォーム)【広島】10月15日(日) 開場 16:00 / 開演 17:00会場:BLUE LIVE 広島問合せ:キャンディープロモーションTEL:082-249-8334(月〜金 11:00〜17:00)【チケット料金】価格:8,800円(税込)※3歳以下入場不可 / 4歳以上チケット必要※ドリンク代別※1公演につき1人4枚まで公式HP:<イベント情報>『s**t kingz Workshop Tour 2023』『s**t kingz Workshop Tour 2023』ビジュアル【東京】9月10日(日)入門クラス:開場 10:45 / 開演 11:30入門クラス:開場 14:00 / 開演 14:45経験者クラス:開場 17:15 / 開演 18:00会場:有明アリーナ サブアリーナ問合せ:キョードー横浜TEL:045-671-9911(月〜金 11:00〜15:00)【福岡】9月17日(日)入門クラス:開場 11:15 / 開演 12:00経験者クラス:開場 14:15 / 開演 15:00会場:Whask(ワスク)問合せ:BEATEL:092-712-4221(平日 12:00〜16:00)【愛知】9月20日(水)入門クラス:開場 15:15 / 開場 16:00経験者クラス:開場 18:15 / 開場 19:00会場:SPACE “D”問合せ:サンデーフォークプロモーションTEL:052-320-9100(全日 12:00〜18:00)【北海道】9月23日(土)入門クラス:開場 11:15 / 開演 12:00経験者クラス:開場 14:15 / 開演 15:00会場:DANCE STUDIO NATIVE SAPPORO問合せ:WESSinfo@wess.co.jp(Mailto:info@wess.co.jp)【大阪】10月1日(日)入門クラス:開場 10:45 / 開場 11:30入門クラス:開場 14:00 / 開場 14:45経験者クラス:開場 17:15 / 開演 18:00会場:城東区⺠センター ホール問合せ:キョードーインフォメーションTEL:0570-200-888(11:00〜18:00 ※日祝休業)【宮城】10月8日(日)入門クラス:開場 11:15 / 開演 12:00経験者クラス:開場 14:15 / 開演 15:00会場:エルパーク仙台 スタジオホール問合せ:ジー・アイ・ピー (お問い合わせフォーム)【広島】10月14日(土)入門クラス:開場 11:15 / 開演 12:00経験者クラス:開場 14:15 / 開演 15:00会場:TSS テレビ新広島 別館 9F スタジオ問合せ:キャンディープロモーションTEL:082-249-8334(月〜金 11:00〜17:00)【チケット料金】価格:7,150円(税込)※全自由 / 整理番号付 番号順入場※未就学児入場不可 / 小学生以上チケット必要※1公演につき1人2枚までs**t kingz Dance Live in 日本武道館『THE s**t』10月25日(水) 日本武道館開場 17:30 / 開演 18:30関連リンク公式サイト:::::
2023年07月07日町の高台にある、森の中かと錯覚するような道の先に立つ洋館の主であり、顧客の求めに応じて完全オーダーメイドで香りを作る調香師・小川朔。その館に家事手伝いのアルバイトとして通うようになった若い女性・若宮一香を語り手にした『透明な夜の香り』は、ゾクゾクするような妖しさが楽しめる傑作で、熱狂的なファンを生んだ。五感を刺激される描写が官能的。天才調香師が活躍する第2弾。常に新しい小説舞台を用意してきた千早茜さんだが、初めて小川朔が登場する続編を執筆。『赤い月の香り』で語り手を務めるのは、一香とは対照的な朝倉満だ。騒がしくて、哀しみも寂しさも〈怒りの匂い〉にしてしまう彼が、終盤の思いがけない展開に深く関わっていくさまに、息を呑む。「前作では、天才を書いてみないかというリクエストも踏まえ、朔の天才性を前面に出しました。ただ一香と出会ったことで、朔は少し人間味を帯びたし、〈感覚に対する身体の反応が過敏な〉満を羨ましく思っているところもあるんですね。なので本作では、朔が作った香り自体は完璧でも、それがどんな効果を及ぼすかまではコントロールできないという回も入れました」朔が分析し、調合する香りの描写の中に、愛、執着、記憶などの分かちがたい感情が溶け込み、読み手の鼻腔をくすぐってくる。「愛情と執着って、ともするとすごく近いものになり得ると思うんです。相手が大事だから気にかけるんですけれど、気にかけ方が過剰だと束縛や嫉妬にもつながってしまう。私は朔と似てそこらへんのバランスがすごい不器用な人間なので、結構悩みながら書きましたね」さて、朔のファンとしては気になっているだろう、一香との関係。「これについてはすごく考えたんですね。メモもいっぱいあって(笑)。最初は映画『シザーハンズ』のようなイメージで、雪が降る中でずっと相手の幻影を見て思い続けているとかを考えていたんですが、朔と一香は映画のふたりよりは交流があるわけで。はっきりした進展を明示するか、平行線の名前のつかない関係のままか、読者はどちらを望んでいるのか気になりますね」朔が満を洋館のアルバイトとして採用した真の理由とは。満の記憶を縛り悪夢のように追いかけてくる赤い月の秘密とは。一気読み必至だ。千早 茜『赤い月の香り』『透明な~』の主要キャラもたびたび登場、一香は満と関わり、朔と真逆キャラの新城も活躍。庭師の源さんの過去はかなりのサプライズ!集英社1760円ちはや・あかね1979年、北海道生まれ。2008年、『魚神』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。’13年、『あとかた』で島清恋愛文学賞、今年1月に『しろがねの葉』で直木賞ほか受賞歴多数。※『anan』2023年7月5日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2023年07月03日現在テレビ出演などを休止し、表舞台から姿を消している三浦瑠麗氏(42)。コメンテーターとして引っ張りだこだった三浦氏が消えたきっかけは、夫の三浦清志氏だった。投資会社「トライベイキャピタル」代表取締役である清志氏は「建設の見込みのない太陽光発電の建設計画を別の会社の代表に持ちかけ、出資金としておよそ10億円を騙し取った」として刑事告訴され、その後、業務上横領の疑いで逮捕・起訴された。当の三浦氏にも数々の“いわく”がーー。’19年7月、三浦氏のTwitter投稿によって「夫婦関係に関する投稿をされプライバシーが侵害された」として、テレビ朝日の社員が三浦氏を相手に起こした訴訟で、今年3月に三浦氏の敗訴が確定。原告は当時、「公に発言することの責任を、三浦さんには自覚してほしいと思います」とのコメントを発表していた。本誌も今年2月下旬の夜、夫ではない男性と腕を組んで歩いたり、タクシーの中で男性にしなだれかかる姿を目撃している。そんな三浦氏だが、気になる点が。それは、フジテレビの番組審議会に参加しているということだ。三浦氏は’19年4月から同会の委員を務めており、今年6月14日開催の「第528回 番組審議会」にも参加している。このことについては清志氏の逮捕から特に異論が噴出しており、SNSでは厳しい声がこう上がっている。《三浦瑠麗氏を番組審議会委員として平然と起用し続けるフジテレビ》《未だに三浦瑠麗氏を番組審議会の委員のままにしているフジテレビ。この人に何を審議してもらうの?》《フジテレビは何を考えているのでしょう。番組審議会のメンバーとして相応しいのでしょうか?》そこで、本誌はフジテレビに「三浦さんは7月の番組審議会にも参加しますか」「三浦さんが審議会の委員を続けていることを批判する声もありますが、見解は」「国際政治学者の肩書を掲げる三浦さんが番組審議会の委員に選ばれたのは、なぜでしょうか」といった質問状をメールで送った。すると、担当者はこう回答した。「三浦さんには、当社の番組審議会の委員として、番組や放送全体について貴重なご意見を頂いています。7月もその予定に変更はございません」テレビからいなくなっても、テレビの審議は続けていくようだ。
2023年07月01日すれ違う友情が切ない余韻を残す、息もつかせぬホラー×ミステリー。新名智さんの『きみはサイコロを振らない』をご紹介します。〈呪われたゲームがあるんだって。遊ぶと死ぬ、とか〉。同級生でガールフレンドの霧江莉久(きりえ・りく)に、都市伝説めいたゲームを探そうと誘われた高校生の志崎晴(しざき・はる)。実際に3人の男性がプレイした後で亡くなっており、噂のゲームが混入したソフトの山は、ある因縁があって、雨森葉月(あめもり・はづき)の住まいに運び込まれていた。葉月は莉久が心を許している無二の存在で、呪いについて研究している大学院生。半信半疑だった3人だが、あるときから晴は〈黒い影〉を見るように。かくて、晴、莉久、葉月は問題のゲームを探さなくてはいけなくなる。死を招くゲームはどれなのか。その呪いは解けるのか。新名智さんの『きみはサイコロを振らない』はそんなぞくぞくする設定で描かれる。「ゲームをテーマにしたいと前から考えていました」呪いのゲームを特定しようと始まった推理は、呪いが発動するには条件があるのではないか、実はいくつもあるのではないか…等々、一種のロールプレイングゲームのよう。晴たちが向き合わなくてはいけない課題が変遷していき、それがゲームというものの本質にも迫っていく。「ゲームをテーマに書くなら、単に、主人公たちがゲームを遊ぶとかゲームの中に入り込む話ではなく、“ゲームとは何か”を分析的に解き明かす話にしようと思っていました。そのときには、ちょっとアドベンチャー的な要素も入れて、主人公たちががんばって新しい道を開いていくみたいな感じを出したいなというのもありました」実は晴には、心にのしかかっている出来事がある。中学時代の友人・雪広(ゆきひろ)が死ぬ前に会ったのが自分だったからだ。ゲームに疎かった晴を誘い、その楽しさを教え、〈人生なんて、しょせんはゲームだ〉とうそぶいていた雪広。彼の死の真相が呪いのゲーム探しのパラレルなストーリーとして走り、読者を揺さぶる。「晴がゲームを追いかける理由が必要だなと考えていて、雪広という存在が出てきました。ふたりの関わりを見ても、現実社会でのゲームの盛り上がりを見ても、ゲームって人と人とをつなぐものというか、人の間にあって初めて意味が出るものなのだなとあらためて感じましたね」晴だけではなく、莉久も葉月も癒えない傷を抱えている。少しずつ変わる彼らを見届けてほしい。『きみはサイコロを振らない』ゲームは現代のものと思われがちだが実は神話にも通じる世界。古典とのつながりを葉月が語る、新名さんらしい考察部分も興味深い。KADOKAWA1815円にいな・さとし1992年生まれ、長野県出身。大学時代はワセダミステリクラブに所属。2021年「虚魚」が横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈大賞〉を受賞し、デビュー。他の著作に『あさとほ』。撮影・鈴木慶子※『anan』2023年6月28日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2023年06月25日雀を追いかけて家の外に飛び出し、途方に暮れていた〈マルル〉。ボス猫〈ハチ〉のピンチを助けたことで2匹は“ツレ”となり…。過酷な野良生活をリアルに描き、猫マンガファンの涙を絞った『ツレ猫 マルルとハチ』。その著者が園田ゆりさん。「前に住んでいたのは野良猫が結構多い地域でした。毎日散歩していると、エサをくれる人を覚えてなついている子や、悲惨な状態で生きている子など、さまざまな猫を見るように。若いころはお金もないし猫飼育の経験もないしで勇気が出なくて、ひどい状態の猫を救えなかったなぁとふがいない気持ちでした。いざ飼おうとなっても、女性の一人暮らしだと譲渡会でなかなか合格できなくて、飼えるまでが長かった。いまは2匹と暮らしているのですが、そんな猫へのさまざまな思いをこじらせて生まれたマンガです」2巻の終わりで保護団体に捕獲されたマルル、ハチと〈サビ姐さん〉。3巻ではシェルターでの新生活に少しずつ適応しようとする姿が描かれ、それぞれの個性が炸裂。「私も猫にたくさん触れるまで、運動神経に優れた動物という意識があったのですが、猫でもドンくさい子はすごくドンくさいし、ずっと遊びたがりもいれば、遊びにまったく興味のない子もいるんですよね。保護猫カフェやシェルターなどにも行きますが、猫の個性については取材で知ったというより、動物観察好きが高じて自然に学んだ部分が大きいかもしれません」登場する猫たちはみな言葉をしゃべる。当然、作者のアテレコなのだが、猫がいかにも考えそうなことばかりだ。笑えるわ可愛いわで、眺めているだけで、んーたまらん!「マルルとハチたちが友情を意識しているとは思いませんが、お互い生存のためには何か助け合うぐらいのことはするだろうなと。作者の私が勝手にアテレコしているだけで、実際は違うのかもしれないけれど、生物としてあり得ないような大嘘は言わせないと決めています」また、3巻では、長毛が伸びっぱなしになっていて歯肉炎もひどく、野良生活で弱ってしまった猫〈けだま〉にフォーカスされている回もあり、エピソードは必見だ。「結構ライトに描いてるんですが、毎日毎日『明日は生きられるかな』という状態の野良猫がいるのだということを知ってほしい。この作品が、猫と人間の関わりを考えるきっかけになってくれたらうれしいですね」園田ゆり『ツレ猫 マルルとハチ』3猫捜索のうまい〈やすお〉や新人ボランティアの〈日野〉など猫シェルターの人間たちの仕事ぶりから、保護施設の様子もよくわかる。講談社748円©園田ゆり/講談社そのだ・ゆりマンガ家。兵庫県出身。本作は「コミックDAYS」で連載中。他の著作に、『きつねくんと先生』『あしあと探偵』などがある。※『anan』2023年6月21日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2023年06月20日小学5年生の晶(あき)は、物知りで絵が上手な高校生の兄・達(とおる)が大好きだ。しかし、不登校で家にいることの多い達は、晶のクラスメイトの権(ごん)ちゃんからは〈大変だよね〉などと同情されてしまうし、〈衝動的に、必要以上に〉動いて音を立ててしまうので大家さんからはお目玉を食らう。兄をめぐる軋轢と受容を、晶の真っすぐな視点で描き出したのが、川上佐都さんの『街に躍(は)ねる』だ。温かな兄弟愛や人との信頼を通して、普通という呪縛を解いていく感動作。「私の周りでも、知識が豊富で、ぼそっとつぶやいたアイデアがすごく面白かったりする人が、何人かいたんですね。でも、闊達に人とコミュニケーションしたり、人前でプレゼンしたりするのは苦手そうで、世間のもの差しではかってしまうと理解されにくい。それこそ達のような人を語り手にしてしまうと、『これが苦しい、あれが苦しい』のお話になりかねないなと思ったんです。そうしないために、別視点を用意して、彼をカッコ良く書いてみたいという気持ちがありました」晶は、取り立てて頭がいいキャラではなく、ただ明るくて純粋な子として描かれる。「自分の家で起きていることが“普通”だから、よその家と比べて普通じゃないと言われたら、戸惑ったり反発したりするわけですよね」兄に〈権ちゃんの言う「コミュ障」〉ではなくなってほしい気持ちと、自分までもが普通を求める周囲に同調してしまうことへの嫌悪で揺れる晶。家族ぐるみで立ち向かう試練を通し、真っすぐに一生懸命考え続ける晶がまぶしく、愛おしい。本書は2章からなる。受賞後に、兄弟の母視点となる第二章を加筆。「『この子のことを私がいちばんわかっている』というプライドがあり、見えにくい部分も見ている母親に語らせるのが面白いのではないかと」達の生きづらさや、彼を見守る晶や母のつらさは、語りの端々から伝わってくる。だが、それを理解してくれる味方が必ずいる。たとえば晶には親友のシンジュが、母には2人の夫が。そんな温かな存在が余さず描かれているのも本書の魅力だ。「達自身は、自分が人と違うとも感じていないだろうし、幸福なのかもしれない。私たちが勝手に、『普通じゃないとかわいそう』というのは違うんじゃないかなと思います」普通のレールに乗らなくても幸せに生きよう、と言われた気がする。川上佐都『街に躍(は)ねる』達を対等の友人として接してくれる年上の美術館員・加賀美や、子どもにはおおらかな愛情を持つ元夫など周囲の大人もいい人揃い。ポプラ社1760円かわかみ・さと1993年生まれ、神奈川県鎌倉市出身。3年弱の投稿生活を経て、第11回ポプラ社小説新人賞特別賞を受賞。受賞作を含む本書がデビュー作となる。※『anan』2023年6月14日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2023年06月12日熊本・天草にラグジュアリーホテル「天ノ寂(あまのじゃく)」が、グランドオープン。スモールラグジュアリーホテル「天ノ寂」熊本に「天ノ寂」は、客室11室とダイニング、エステルームなどで構成されたスモールラグジュアリーホテル。全室温泉付きスイートに泊まりながら、天草の海の幸を楽しむことができる。全室オーシャンビュー&温泉付き客室は、全11室どの部屋もゆとりがある松島温泉付きのスイートルーム。大きな魅力となるのは、全室部屋からもお風呂からも圧巻の海の景色を堪能できることだ。1面に広がる天草の海を眺めながら至福の時を過ごせる。"魚介の宝庫"天草を味わう料理そして、ダイニング「わび」では、"魚介の宝庫"である天草ならではの日本料理と鮨を提供。近海でとれた新鮮な旬の海の幸をたっぷり使った珠玉の1皿を、天草の海のロケーションを眺めながら味わうことができる。"芸術に触れあえる宿"で天草の魅力を体験また、「天ノ寂」は芸術にも触れ合える宿とし、ラウンジや客室には天草出身の「横島庄司」氏の絵画を、客室のオブジェやルームキーホルダーには和水町の彫刻家「上妻俊宏」氏の作品が施されている。文様染めの織物「天草更紗(あまくささらさ)」や「天草陶磁器」など天草の魅力も感じられる宿となっている。【詳細】「天ノ寂」グランドオープンオーブン日:2023年6月5日(月)住所:熊本県上天草市松島町合津6136−13客室数:全11室<料金(1泊夕朝食付き2名利用時1名の料金)>・スイート(174㎡) 85,800円~・ジュニアスイート(104㎡) 63,800円~・クアッドスイート(139㎡)74,800円~【問い合わせ先】「天ノ寂」TEL:0969-56-3888
2023年06月12日各紙の文芸時評などでも好意的に取り上げられた三島由紀夫賞候補作「息」に、新潮新人賞受賞作「わからないままで」を併せ、このたび初めての著書を刊行。小池水音さんは、雑誌やウェブメディアの編集者の顔も持つ、気鋭の新人作家だ。学生時代は、村上春樹や伊丹十三らを担当したことでも知られる元編集者で作家の松家仁之氏の講義に熱心に通ったという。翻訳小説を彷彿させる、繊細な筆致。純文学界の新鋭が放つ2作を収録。「松家さんは50代で初めて小説を書かれたんですね。僕もそのくらいの年齢になったら自分も書けるようになりたいと思って。となると、たとえ力不足でも、20代のうちに一度形にしておきたい…。それが最初のモチベーションでした。だから、賞に応募しようともあまり思ってはいなかったんです」表題作は、15年ぶりに再発したぜんそくの発作の苦しさを媒介に、過去の記憶とそれに続く現在を見つめ直していく〈わたし〉こと、たまきの視点で描かれる。幼い頃に同じぜんそくに苦しんだ弟は若くして死を選び、遺された姉である〈わたし〉の孤独に読者の胸も締めつけられる。「僕自身も子どものころにぜんそくで息も絶え絶えの経験をしたことがあります。書きながら、最初は姉のたまきの苦しみを書くところから出発したのですが、書き進めるうちに、たまきが自分のつらさを明かせなかったのと同じように、父や母、死んだ弟もそれぞれに、きっとまた別の形で、明かせない苦しみを抱えているのだろうな、それも掬い上げなければいけないなと感じたんです」実は「息」も「わからないままで」も、モチーフに家族が自死した経験が描かれている。だが書き方は大きく異なる。「初めて一人称に挑戦した『息』は、ある限られた季節を濃密に描こうという試みだったので、目の前に起きる物事を追っていくスタイルでした。後者では、1章で小学生の子どもと父親のことを書き、次に成人した男性の離婚後の姿を書き…というふうに、あまり時系列で整理していかないことで、かえって浮かび上がるものはあるかもしれないなと」『新潮クレスト・ブックス』という海外文学レーベルを愛読、「文学の栄養はほとんどそこから得てきた」と語る小池さん。そんな文学青年にとって必然の挑戦なのかもしれない。「なぜ小説に惹かれたかといえば、やはり自分自身の体験は大きいです。それがなければたぶん小説を書くことも切実に読むこともなかった。なので、生と死の相克やそれと向き合う人々というテーマは持ち続けていきたいと思っています」『息』表題作には〈ガネット〉という鳥が、併録作には〈ホワイトウイングス〉という紙飛行機が、巧みなモチーフとして織り込まれている。新潮社2090円こいけ・みずね1991年、東京都生まれ。2020年「わからないままで」が新潮新人賞を受賞し、デビュー。山田洋二監督の映画『こんにちは、母さん』のノベライズを7月に刊行。※『anan』2023年6月7日号より。写真・土佐麻理子(小池さん)中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2023年06月06日『うみみたい』は、気鋭の詩人・水沢なおさんによる初小説集だ。産むこと、増えることに惹かれながら臆するうみと、生まれてきたこと、産むことを否定したいみみ。表題作は、性や生殖をめぐって異なる思いを持つふたりを軸に描かれる。身体、性、生殖、たまご、海、水…透き通った感性に瞠目し、共鳴する。「自分の中にはその両方の気持ちがあるんですね。特に〈うみたい〉というより〈ふえたい〉といううみの気持ちに近い気がします。そのふたつがどう違うのかを突き詰めてみたいというのもありました」うみとみみは副業で、むむというキャラクターぬいぐるみのネット販売をしている。うみのアルバイト先〈孵化コーポ〉は、卵生生物をブリーディングする施設だ。ポケモンのミュウツーの名言〈だれがうめと頼んだ〉…作中に登場するモチーフが世界観を幾重にも塗り重ねる。「言葉を集めたというか、思い浮かんだ言葉の中に〈うみみたい〉があったんです。この5文字に、生殖や海など自分が大切にしてきたモチーフや感覚が入っていると感じ、その言葉に導かれるように、ストーリーができてきた気がします。ダブルミーニングになるなど、これぞと思う表現や言葉ってそんなに出合えない。だからこそ、出合えたときには湧き出るものがある。見えていなかった世界が広がるんですね」うみとみみは同じ美大卒。在学中からその才能で特別な存在だったみみのアトリエに、うみが転がり込む形で同居は始まった。そんなふたりの無二の関係性から、読者もまた自身が抱えてきた感情や価値観を見つめることになる。「互いが親密になって溶け合っていく感じって、自分が消えていく感覚にも近いような気がして。そうなれるほど大切な人と出会えた喜びの中に、やわらかな孤独も光っている。そういう表裏一体な感覚は書きたかったです」読者から「みみに幸せになってほしい」という感想をもらい、小説を書く面白さを強く感じたという。「詩では人物はむしろ曖昧にして読み手ごとの多様な解釈や感情をかき立てるのが書く楽しさかなと思っていたのですが、小説だと作中人物が読者の中にリアルに存在して世界を広げていくことができるんだなと」うみとみみが互いの違いを認めながら決めたこととは。かけがえのない美しさに満ちたラストシーンだ。『うみみたい』表題作ほか、何もかもがたまごから生まれたらいいのにと思う女性のひとり語り「スウィミング」など、4つの中短編を収録。河出書房新社1760円みずさわ・なお1995年、静岡県生まれ。武蔵野美術大学卒。2019年に第一詩集『美しいからだよ』が発売になり、第25回中原中也賞を受賞。’22年に刊行した第二詩集『シー』は発売即重版。※『anan』2023年5月17日号より。写真・土佐麻理子(水沢さん)中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2023年05月14日天木じゅんさんがThe Sauna(ザ・サウナ)にて、水着で屋外水風呂に浸かる動画を公開!気持ちよさのあまり「あぁー!冷たい~!」ともれでる声もセクシー この投稿をInstagramで見る 天木じゅん Jun Amaki(@jun.amaki)がシェアした投稿 天木じゅんさんが、アウトドアサウナを楽しめるサウナ施設のThe Sauna(ザ・サウナ)にて、水風呂に入るシーンの動画を公開。はち切れそうな三角ビキニで、外での水風呂の寒さに対して勢いよく水に浸かるシーンが収められており、勢い余って胸元も揺れるところが映っています。肩まで入ったり、足を出したりする姿も映っており、気持ちよさそうに水風呂を楽しむ姿に思わず目を奪われてしまう動画です。これに対して、ファンからは「かわええ」「Beautiful」「すんごいバディ」などとコメントが殺到。サウナーでもある天木さん、これからのセクシーショットにも期待です!あわせて読みたい🌈「セクシーさ半端ない」「美尻小尻クビレ」足立梨花さんのオフショットに称賛の声
2023年04月25日〈辺鄙な片田舎〉の秋祭りでふるまわれたおしるこを食べ、4人が命を落とした。猜疑心と不信感に囚われた〈夜鬼(やぎ)町〉の住人たちは、祭りに参加していた108名の中に毒物を混入させた人間がいると、犯人捜しに躍起になる。『私たちはどこで間違えてしまったんだろう』は、特別な状況下にいると、人はどれほど簡単に同調圧力に流されてしまうかを、まざまざと描き出したミステリーだ。その著者が美輪和音さん。毒物混入事件で疑心暗鬼になる人々。犯行よりもどす黒い思惑が交錯する。「コロナ禍でも強く感じたのですが、恐怖と不安に駆られると、声の大きい方に引っ張られてしまう人は多いですよね。その人はどうにもならない事情を抱えているのかもしれないと、出来事の背景を自分の頭で考えて判断すればそこまでひどい事態は起きないはずなのに。正義や良心が暴走することの危機感を抱きます」有名な心理実験(看守役はどんどん強権的になり、囚人役はどんどん卑屈になったといわれる「スタンフォード監獄実験」)がモチーフになった本作は、閉鎖的な町の様子を監獄に喩えたプロローグから幕を開ける。良くも悪くも人間関係が濃い田舎町だからこそ、過去のトラブルや事件が掘り返され、ちょっとしたなりゆきで容疑者は変転。第一章で毒物混入事件は決着を見たかに思えたが、第二章で様相はがらりと変わり、怒濤のどんでん返しが始まる。「第二章を、第一章の10年後にするのはプロットの段階から決めていました。過酷な状況で育った子どもは、大人になったときにどういう道を選ぶのかを書きたかったので」実際、重苦しいストーリーの中で、語り手の仁美や幼なじみの涼音、修一郎が、終始、優しさや誠実さを失わないことは救いだ。「同調圧力に屈していく大人と対照的な存在として、彼女たちが一種の清涼剤のようになってくれたらと思いました。特に仁美は、不器用な恋愛要素も含めて、一度は自分の弱さに負けてしまうのだけれど、その間違いに気づける人物でもあります」これまでにも実在の事件を下敷きに、いわゆる悪女にフォーカスした作品を書いてきた美輪さん。「社会を揺るがすほどの犯罪が起きると、『なぜこんな事件が起きたのか』と原因や背景が気になってしかたがない。女性が関わっているならなおさら、感情の赴くままに行動できる人物への興味は尽きないです」『私たちはどこで間違えてしまったんだろう』主役級からモブ的な人物まで、描写のリアリティが秀逸。美輪さんがこれまで書いてきたイヤミスとは一線を画する読後感の良さも魅力だ。双葉社1980円みわ・かずね東京都生まれ。青山学院大学卒。2010年「強欲な羊」で、第7回ミステリーズ!新人賞を受賞し、小説家デビュー。『ウェンディのあやまち』『暗黒の羊』など著書多数。撮影・大泉美佳※『anan』2023年4月19日号より。写真・中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2023年04月18日何かと気が散りやすく、しかも想定外の事態に陥ると途端にパニック気味になる、主人公の花田もね。ある晩、海辺で自分と同じ〈大丈夫じゃない感じ〉の匂いがした不思議な生き物の芦川さんと出会い、彼ももねの〈大丈夫を目指す活動〉に参加することに。もねや彼女に寄り添う芦川さんのやることなすことに共感し、元気をもらうファンが続々と!そんなユニークなコミックが、井上まいさんの『大丈夫倶楽部』だ。大丈夫な自分になりたい。でも、ならなくても大丈夫と熱くエール。「私も仕事がなかなか、にっちもさっちもいかなくなった時期があったんです。もねのように『大丈夫になりたい』と思いつつ、やり過ごしていた実体験が発想のきっかけです。翻案していますが、もねが味わう焦りや落ち込み、ちょっとしたきっかけで快復する心情のアップダウンを描く上での手がかりにしています」もねを面白がりつつおおらかに見守る幼なじみの早瀬や、書道教室の爽やかお兄さんで大丈夫を体現しているゲンローさんこと玄郎(くろう)、衝突しがちなもねの母など、もねと周囲の人たちとの交流が楽しく、それぞれにいい味出しているキャラクター。なかでも芦川さんの存在感は大きい。「話し手と聞き手の両方がいた方がストーリーを動かしやすいというのはあるのですが、『自分にも芦川さんみたいな人がいたら、もう少し気楽だったかも』という気持ちもあったのかも。見た目に関しては、試行錯誤した末に、いまの丸っこいフォルムになりました」3巻に入ると、もねが偶然知り合ったアキラと再会したり、芦川さんと謎の探偵事務所との縁が見えてきたり、作中作を含め宇宙というモチーフが作品全体とつながってきたりと、物語はさらに波乱の展開に。本作の裏テーマでもある〈ハビタブルゾーン(生命居住可能領域)〉=いまいる場所を大丈夫な場所にする大切さが、いっそう色濃くなる。「失敗したくないと思ったところで失敗してしまう時はしてしまうもの。ただ、失敗していま大丈夫じゃなくても仕方ないことだと受け止められるようになれたらいいね、というメッセージは伝えたいです」本作は、上から下へ縦にスクロールして読む形式で連載が始まったのだが、ふつうの横開きのマンガ形式にも対応している。「画面を作る上で考えなくてはいけない条件がまったく違うので、最初は挑戦でした。スクロール形式は自分のテンポで読むアニメみたいな印象なんです。そんな縦読み用のギミックも入れつつ、ページをめくると大胆に場面展開できる横読みならではのダイナミックさも取り入れて、どちらの読者にも楽しんでもらえる作品を目指したいですね」井上まい『大丈夫倶楽部』3現在、ウェブトゥーン「マンガ5(ファイブ)」で連載中。出張掲載としてウェブサイト「路草」でも一部読める。1巻は書籍と電子書籍、2~3巻は電子書籍のみ。レベルファイブ748円©LEVEL‐5 Inc.いのうえ・まいマンガ家。大阪府出身。2013年商業誌デビュー。’17年、小学館『ゲッサン』にて「春のムショク」(完結済み、全4巻)を初連載。※『anan』2023年4月19日号より。インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2023年04月18日恋愛小説や推しの作家などについて、書評や著者インタビューを通して、作家と作品のきらめきを伝えているライターの三浦天紗子さんと吉田大助さんに語っていただきました。画期的な恋愛小説が登場。すべての男性の必読書!?吉田大助(以下、吉田):今、恋愛小説って超下火じゃないですか。その代わり、家族小説が全盛になっている。ステイホーム期間もあり、家族という関係について考える機会が増えたことも作用していそうです。三浦天紗子(以下、三浦):恋愛小説が盛り上がっていたのは20年くらい前ですかね。その後、恋愛はリスクしかないとかコスパが悪いとかさんざん言われ続けて、世の中の価値観がシフトしましたからね。吉田:そんな時代にとんでもない作品が生まれたんです。紗倉まなさんの『ごっこ』、もう読まれました?なにがすごいって、体の相性の「合う・合わない」というパラメータを取り入れた恋愛小説集なんです。ロマンティックさのかけらもなくなるじゃないですか!プラトニックな状態であれば好きでい続けられたのに、いざ結ばれてみたらがっかり、みたいなことが起こりうる世界なわけです。三浦:生理的嫌悪や体の相性があるのは、女性は知っているけども、と。吉田:現実のそれを恋愛もののなかに持ち込んじゃっていいの?という驚きですよね。今までも、目の前の相手との相性の良さを強調するために他の人に対する「合わない」を書く手法はあったんです。だけど、相手のことを「合わない」と感じたり、相手が自分のことを「合わない」と感じているのがわかっちゃっている状態でし続ける関係って何なの、と。三浦:そういうSEXや恋愛のリアルは、それこそananや恋愛指南書などでは普通に語られてきたけど、たしかに小説では珍しいかもしれませんね。本当のことを書くと冷めてドラマが生まれにくいし、合わないなんて言うべきでないと女性側が洗脳されてきたというか。吉田:少女漫画でも、ヒロインが気になる男子にいきなりキスされてズッキューンとなるのが昔からのお決まりじゃないですか。そこで「うわ、気持ち悪っ」とか「マジで合わん」となる可能性を、今までの恋愛コンテンツは無視してきた。三浦:紗倉さんがそこに風穴をあけたと。吉田:そこを見よ、と。パンドラの箱を開けちゃいましたよ(笑)。三浦:男性も読んだ方がいいですね。本を読んで人生を深め、出版界を盛り上げよう。吉田:今日僕がananにのこのこと顔を出したのは、西加奈子さんの『くもをさがす』を推すためなんです。三浦:乳がんを公表された西さんの初のノンフィクションですね。吉田:闘病記なのかな…と読むのを躊躇する人がいるかもしれないけど、これは紛れもなく「西加奈子文学」の最新作。ノンフィクションとか関係なく、西さんの小説を読んで一度でも心が震えたことのある人は安心して手に取ってほしいです。三浦:まだしっかり読めていませんが、わりと淡々と客観的に、病気のことを見つめているなという印象でした。吉田:リアルな体験よりも少し抑えめに書いてくださっているようなんですが、正直、読んでいて苦しくなる部分もあります。でも、西さんの真骨頂である「光」がちゃんと見える。西さんは初期からずっと希望を書き続けている人ですから。社会問題を思考することができたりブックガイド的な要素もあったりと、全人類におすすめの一冊です。三浦:日本の女性作家の小説が海外でブームになっていますが、これまでとは少し違う流れも。ドラマ化もされた原田ひ香さんのベストセラー『三千円の使いかた』が、欧米から人気なんですよ。吉田:それは知らなかったです。節約系のお金小説ですよね。温かくていい話だけど、ちょっと意外な感じもしますね。三浦:私も最初は驚いたのですが、節約するとか3000円をどう使うかという価値観、モノとの向き合い方が海外の人からしたらすごく面白いみたいです。吉田:なるほど。なんだか第二のこんまり(R)さんになれそうな予感も…(笑)。三浦:さっき版権ビジネスの話が出ましたが、原田さんもインタビューで同じことを言っていました。日本の小説家にとって海外はブルーオーシャンだと。吉田:それは間違いないです。今はまだ海外での受け入れられ方が、異国趣味的な物珍しさが勝っているかもしれないけど、日本人が思う人生観や家族観、人間ドラマみたいなものが向こうの読者に届き始めている気もするんですよね。それにもともと日本の小説はコンテンツが豊富。SFとかミステリーなんて世界でもトップクラスに面白いと断言できるし、そのあたりが発見され始めて流通していくと、びっくりするような展開になるんじゃないかと。ぜひ、なってほしい!紗倉まなの描く、恋愛描写のリアルさに衝撃。側にいるとしても、「わかる」ことの難しさ。『ごっこ』紗倉まな6つ年下の恋人・モチノくんの逃避行に付き合わされてドライブを続けるミツキ。そろそろ資金が尽きそうだ。(ごっこ)恋人、夫婦、友だち…。これは「ごっこ」なのか?形式を保ちながら背後に蠢いている感情を丁寧に描いた3作を収録。1650円(講談社)「体が合わない問題」をさらりと俎上に載せた、紗倉まなさんの『ごっこ』。「このリアルは男性作家には絶対描けない!」と吉田さんは力説。「体が合わない感覚を抱くのは、男性の側にもあります。ただ、ヘテロ男性はおしなべて身体感覚は鈍いです。女性の側の方がセンシティブだし、紗倉さんは“たったひとつの本職”と公言しているAV女優の仕事を通して、考える機会が多かったのかもしれない」体の相性や曖昧な関係に悩む女性はもちろん、すべての男性に読んでほしいとも。「別に合わないなら合わないでいいんですよ。それでも一緒にいたいと思う感情の尊さ、それだけでなくてズルさも描いた。脱帽です」西加奈子初のノンフィクションは「西文学」だ。がんとの闘病の先の希望と生を描く。『くもをさがす』西 加奈子カナダ在住時に乳がんが発見された西加奈子さんの闘病と日常生活に対する思いが綴られる。家族や親族のことやカナダと日本の違いなどの描写も興味深い。どんな時代でも生きていくことの希望を描くノンフィクション。4月19日発売。1540円(河出書房新社)「がんの話だから、ノンフィクションだから…といって、手に取らないなんてもったいない!ずっと主人公たちが“希望”へと至る道のりを描き続けてきた西さんが、ご自身のしんどい経験も生への賛歌に昇華させた、“文学”です」(吉田さん)がんの発見から寛解までの約8か月を、現実に起きた事件の記録とともに思いを綴る。「引用される多数の作品を見ると、文学をはじめとした芸術が生み出す側、受け取る側にかかわらず、いかに人を支え、助け、救うかを感じます」(吉田さん)多数の引用作品は、西さんの思考をたどるブックガイドのようにも楽しめる。原田ひ香の、お金小説に各国から翻訳オファー!お金との付き合い方が見えるベストセラー。『三千円の使いかた』原田ひ香一人暮らしを始めたばかりの美帆。元証券会社勤務の姉・真帆。専業主婦の智子、そして堅実に貯金をしている祖母・琴子。貯金額も世代も異なる御厨家の女性たちが、それぞれの人生でお金とどう向き合っていくのかを軽やかかつ鮮やかに描く。770円(中公文庫)文庫が88万部の大ヒットの原田ひ香さんの『三千円の使いかた』。中央公論新社の担当によると「コロナ禍でのおうち時間の増加で、投資や貯蓄など“お金をどう使うか”について気になっているときに、実用書より読みやすく、手に取りやすかったのではないか」とのこと。欧米はもとより、東南アジア、アジアなど言語、文化を問わず多数の国から出版のオファーが殺到しているそう。「原田さんの読者が気になる実用知識を物語に落とし込んで展開する妙が、世界から見たらとても新しく映ったよう。3000円をどう使うか、という発想はあまりないのかもしれませんね」(三浦さん)三浦天紗子さんライター、ブックカウンセラー。女性誌や文芸誌、Webメディアで書評やインタビュー、メディカル記事を担当。著書に『そろそろ産まなきゃ』(CCCメディアハウス)など。吉田大助さんライター。雑誌を中心に、書評や作家インタビューなどを手がける。編者を務めたアンソロジー『僕たちの月曜日』(角川文庫)が発売中。ツイッターは@readabookreview※『anan』2023年4月19日号より。写真・中島慶子取材、文・熊坂麻美(by anan編集部)
2023年04月16日ディストピア小説やアンソロジー作品、詩人の書く小説について、ライターの三浦天紗子さんと吉田大助さんに語っていただきました。本読みライターの対談で見えてくる、小説界の新潮流とは?ディストピアの世界から新しい価値観や勇気を得る。吉田大助(以下、吉田):世界的には9.11、日本では3.11以降とくに、終末的な世界や監視社会を描くディストピア小説が盛り上がってきました。そのなかで、今すぐ海外出版されてほしいと思わずにいられない衝撃作が夕木春央さんの『方舟』です。簡単に言うと「誰か一人を犠牲にすれば全員が助かるけどどうする?」という、いわゆるトロッコ問題の話ですが、『方舟』は「それは…アリなの!?」と頭を抱えたくなるくらい究極の結論を出したんです。三浦天紗子(以下、三浦):読みました。面白かったけどモヤモヤしたところも多かったかな(笑)。吉田:この作品は人間の醜さや暗黒的な心理描写が特徴の「イヤミス」的な話でもある。つまり、人として越えちゃいけない一線を踏み越えることをOKとすることで可能となった物語。現実では体験しえない感情に小説を通して触れるという意味では、小説らしい小説ともいえる。三浦:それはたしかにそうですね。登場人物と同じ状況に陥ったときに自分ならどうするかと考えたり、思いがけない価値観と出合うのも小説を読む醍醐味のひとつですからね。吉田:ディストピア小説って、いま三浦さんがおっしゃったように「自分ならどうする?」ということや倫理観を突き付けられる思考実験の要素が強いですよね。その意味で、安野貴博さんの『サーキット・スイッチャー』もおすすめです。誰かの犠牲が避けられない状況で、自動運転を担うAIは命の重さをどう判断するかという、これまたトロッコ問題がテーマですが、ハリウッドばりのアクション・スリラーで、何より素晴らしいのは最後に希望を見出していること。ディストピア的想像力をキックする、「ホープパンク」「ソーラーパンク」といった海外SFの潮流とのリンクを感じました。三浦:私はディストピアでは、川野芽生(めぐみ)さんの『無垢なる花たちのためのユートピア』を推したいです。気鋭の歌人である川野さんの初の小説集ということで話題になっていますが、歌人というフックなしに単純にすごい才能の作家が現れたなと。とくに印象的だった一編「卒業の終わり」は、ある秘密を抱えた女学園を舞台に、主人公がどう生きていくかや女性性を問う物語。ハッピーエンドではないけれど、過酷な現実のなかで思いを巡らせて立ち向かうこと自体が美しいのだと気づかせてくれました。若い世代も勇気をもらえる一作だと思います。テーマ切りのアンソロジーは読書の幅を広げるツール。三浦:複数の作家の短編を集めたアンソロジーはこの5年くらいブームです。読書の入り口としても、いろんな作家を知る入り口としても価値があると思います。吉田:アンソロジーでは、昨年末に日韓同時発売された『絶縁』があらゆる意味で感動的でした。村田沙耶香さんを含むアジア9都市9人の作家による“絶縁”をテーマにした作品を編んだもので、冒頭に置かれた村田さんの短編「無」から大傑作。これだけで十分元をとれる素晴らしさです。三浦:韓国実力派作家、チョン・セランさんの発案らしいですね。日韓中、タイやシンガポールなどの気鋭作家が集まり、すべて書き下ろし。「奇跡のアンソロジー」といわれているのも納得です。吉田:出版文化遺産になってもいいくらい前代未聞の本だと思います。制作に約3年かけたみたいですし、本当によくぞやってくれましたと編集者に大拍手です。それぞれの国の今の息吹が反映されていてどれも良作。『絶縁』がアジアの作家を知る入り口になってくれるはずです。三浦:アンソロジーってなかなか売り上げにつながりにくいなかで、想像以上に売れたのが百合小説の『彼女。』です。相沢沙呼さん、織守きょうやさん、斜線堂有紀さんら豪華なラインナップも魅力ですし、ガールズラブという側面だけでなく、女性同士の関係性からジェンダーの問題にまで肉薄し、読みごたえ十分。吉田:百合というポップな看板を入り口にして、女性性の議論にまでたどり着くのは、すごくいい届け方ですね。三浦:最近、詩や短歌の世界から小説への流入が目立っています。それも詩や短歌界のスターが満を持して小説デビューしたというより、小説の完成度でまず注目されて実は詩や短歌の有望株だったというケースが多い印象です。吉田:川野芽生さんも歌人でしたよね。僕はあまりこのジャンルは詳しくないんです。ほかにはどんな方がいますか?三浦:すごいと思ったのは、山﨑修平さん。彼は詩人と文芸評論家の二足のわらじを履きながら小説の世界に来た人。初小説の『テーゲベックのきれいな香り』は、詩人である主人公が「書くとは何か」という問いに向き合う連作集で、わかりやすいストーリーがあるわけじゃないけど、読み進めた先に私自身が見知ったような懐かしい風景や感情がふと現れたりする。そういう面白さが魅力です。吉田:ある意味、新しい小説と位置づけられそうな作品ですね。気になるな~。三浦:中原中也賞を獲った期待の詩人・水沢なおさんも最近、初小説『うみみたい』を出しました。彼女の書く詩は、生と性を連想させるSF散文詩というか、もともと小説っぽかった。そこに物語の仕組みを加えた感じですね。きっと編集者は彼女に小説を書かせるだろうと思っていたから、やっぱりそうだよねと。吉田:この間『この世の喜びよ』で芥川賞を受賞した井戸川射子さんも、出発点は詩でした。詩や短歌と小説の垣根が、薄くなりつつあるのかもしれません。三浦:それはあるかも。若い世代は文学を自由に捉えて表現していますね。トロッコ問題に通じる!?ディストピア小説。最悪の状況のなかで、死んでもいいのは“誰”?『方舟』夕木春央大学時代の6人の友人と従兄と共に山奥の地下建築を訪れた柊一は、偶然出会った3人家族と共に一夜を過ごすことになった。ところが、明け方に地震が起き、扉が塞がれ、さらに浸水してきていることがわかる。そんな状況下で殺人が起こり…。1760円(講談社)AIのトロッコ問題解決法とは!?『サーキット・スイッチャー』安野貴博完全自動運転車が普及した2029年の東京。自動運転のアルゴリズムを開発する企業の社長が車内で襲われ拘束された。襲撃犯は車に爆弾を仕掛けて首都高の封鎖を要求するが…。現役SEが専門知識を駆使して描く疾走感あふれるサスペンス。1870円(早川書房)美しく残酷な幻想世界を凝縮。『無垢なる花たちのためのユートピア』川野芽生第一歌集『Lilith』で現代歌人協会賞を受賞した著者の初の小説集。花の名前を持つ77人の少年たちと7人の指導者を乗せて伝説の楽園を目指す船で起きた悲劇を描く表題作ほか5編を収録。1870円(東京創元社)トロッコ問題とは、「ある人を助けるために誰かを犠牲にするのは許されるか」という倫理的葛藤を問うもの。世界中で議論が交わされている。「リスクとリスクを天秤にかける、選択と決断の問題でもある。極端に言えばすべての物語がトロッコ問題をテーマとして孕んでいるんです」(吉田さん)ホープパンクの台頭について吉田さんは、「とてつもない絶望のなかに一縷の希望を描くうまさは、伊坂幸太郎さんが天才的。伊坂さんの作品が今続々と新装版で刊行し直されているのは、“絶望だけでなく希望も読みたい”というトレンドに合致している気がします」。編集のセンスが光る!アンソロジー。発想の違いにも注目したいスカート発のとりどりの世界。『朝倉かすみリクエスト!スカートのアンソロジー』朝倉かすみ北大路公子佐藤亜紀佐原ひかり高山羽根子津原泰水中島京子藤野可織吉川トリコひとりの作家が好きな作家たちにお題に沿った短編をリクエストするシリーズ作。元事務員の友人が遺した9号から15号の制服スカート、痴漢の手をかみちぎるスカートの歯、制服の自由化でスカートをはく彼氏…。スカートにまつわる9編を。748円(光文社文庫)コアファンにもビギナーにも。百合の多様性を味わう短編集。『彼女。百合小説アンソロジー』相沢沙呼青崎有吾乾くるみ織守きょうや斜線堂有紀武田綾乃円居 挽新作の百合小説7編と7人のイラストレーターによる扉絵がコラボレーション。女性同士の切実な関係性とルッキズムを描いた斜線堂有紀「百合である値打ちもない」、ミステリー要素を含んだ乾くるみ「九百十七円は高すぎる」などを収録。1925円(実業之日本社)どんなお題で誰に書いてもらうか、テーマ選定と作家のラインナップがアンソロジーのキモと、三浦さんは話す。「ふつうの小説以上に企画力や編集者の腕がものをいう本だと思います。『彼女。』がヒットしたのは、キャッチーな装丁込みで“読みたい”と思わせるバランスが素晴らしかったから。それぞれの作品の扉イラストも小説の世界観を際立ててグッときます。また、作家の朝倉かすみさんが選んだ9人の好きな作家たちに“スカート”というお題で書いてもらった『スカートのアンソロジー』もおすすめ。これも裏テーマとしてフェミニズムがあり、スカートから広がる多彩な物語は示唆に富んでいます」詩人の書く小説に注目。“超小説”で未知の読書体験を。『テーゲベックのきれいな香り』山﨑修平物語は2028年の東京を舞台にスタート。詩人の「わたし」が住む街が災厄に見舞われ、暮らしが混乱をきたすなか、「書くとは何か」「詩とは何か」という問いを追いかける記憶の旅が始まる。装画を手がけたのは浅野忠信さん。1980円(河出書房新社)「生まれる」「産む」生殖行為を考える物語。『うみみたい』水沢なお卵生生物を孵化させるアルバイトをしながら、性行為に対して後ろ向きなうみ。そして、「生まれたくなかった」と思い続けているみみ。美大の同級生だったふたりは同居しながら制作を続けているが…。表題作ほか、3編収録。1760円(河出書房新社)「東直子さんや加藤千恵さん、雪舟えまさん、最近だと、小佐野彈さん、くどうれいんさんなど、歌人で小説を書く人はわりと多いのですが、ここのところ若手詩人の小説デビューが増えていて面白い」と三浦さん。山﨑修平さんと水沢なおさんはその注目株。歌人や詩人の書く小説は、言葉の美しさやリズム感、独特な物語構成や連想的な場面転換など、歌や詩のフィールドで培った巧みな表現力が魅力と三浦さんは言う。「ストーリーや文章の意味をなかなかつかめなくても、磨かれた言葉の美しさや遊びを味わい、書き手の思考の片鱗に触れるのも小説体験として意義が。構えずに手に取ってほしいです」三浦天紗子さんライター、ブックカウンセラー。女性誌や文芸誌、Webメディアで書評やインタビュー、メディカル記事を担当。著書に『そろそろ産まなきゃ』(CCCメディアハウス)など。吉田大助さんライター。雑誌を中心に、書評や作家インタビューなどを手がける。編者を務めたアンソロジー『僕たちの月曜日』(角川文庫)が発売中。ツイッターは@readabookreview※『anan』2023年4月19日号より。写真・中島慶子取材、文・熊坂麻美(by anan編集部)
2023年04月15日おすすめの歴史・時代小説、若手作家の作品について、書評や著者インタビューを通し作家と作品のきらめきを伝えている、ライターの三浦天紗子さんと吉田大助さんに語っていただきました。本格派だけど親しみやすい。一級の歴史・時代小説は必読!三浦天紗子(以下、三浦):最近、時代小説がまたきていますね。コアなファン以外も手に取りやすい作品が増えて、じわじわすそ野が広がっています。たとえば永井紗耶子さんの『木挽町のあだ討ち』。吉田大助(以下、吉田):これは面白かったですね~。芝居街で起きたある仇討ちについて5人の話者がそれぞれに語り、少しずつ真相が見えていく「回想の殺人」ミステリーですが、江戸に生きる人々の生活や感情の描写が秀逸でぐんぐん引き込まれました。次期直木賞、大本命だと思います。三浦:永井さんは去年直木賞の候補作になった『女人入眼』も素晴らしかった。本当に筆達者な方ですよね。吉田:江戸を舞台にした作品を長く書かれているから、史実も文化も庶民の暮らしも隅々まで知り尽くしている。いってみれば在野の研究者ですよね。土台があるからここまで書けるわけで、それでいうと蝉谷めぐ実さんも同じです。彼女はもともと大学で文化文政時代の歌舞伎を研究されていた人。その知識を存分に生かした『おんなの女房』は抜群でした。三浦:蝉谷さんの作品は私もとても好き。『おんなの女房』のテーマは芸道のすごみ。フェミニズムに通じることだし、『木挽町のあだ討ち』は家族的なつながりに光を当てています。豊富な知識と現代的な感性を持ってエンタメ化できているところがおふたりの強み。時代ものを読まない人にこそ体験してほしいです。吉田:蝉谷さんも新人ですが、ほかにも才能あふれる若い作家が続々出てきています。安堂ホセさん、日比野コレコさん、宇佐見りんさん、遠野遥さんと、近年の文藝賞受賞者だけでもイケイケです。三浦:最近の若手はみんな、デビュー作から完成度が高くてびっくりしますね。私はいま吉田さんがおっしゃったなかでは日比野さんが気になります。彼女は昨年、『ビューティフルからビューティフルへ』で文藝賞を獲りましたが、言語センスなど、もっと話題になっていい逸材だと思います。吉田:文体というか、いろんな文脈を持った言葉の並列のさせ方が面白いですよね。松本人志さんの言葉に影響されてきた、というananのインタビューがネットでバズってましたし(笑)。三浦:ラップ好きということもあって、言語センスが独特ですよね。小説のなかに詩や短歌を意図的に越境させてちりばめてもいる。どこかミュージカルに通じるような無二の文体が魅力です。吉田:Z世代の作家のなかでの僕のイチオシは、高野知宙(ちひろ)さん。デビュー作の『ちとせ』は御一新直後の京都を舞台に、失明する運命にある三味線弾きの少女を描いた作品ですが、五感に訴える情景描写のみならず、書きすぎないセンスが抜群なんですよ。ちとせの運命はどうなったかという事実関係をギリギリまで明かさず、クライマックスへと至る重要な場面でサラッと記す。たった1~2行にとてつもない爆発力を込められる書き手なんです。しかも高野さん、これ書いたときまだ高校生だったんです!三浦:人生3周目くらいなのかも(笑)。すごい新人が出てきましたね。話を聞いているだけで読みたくなりました。私は一昨年にホラー作品の『虚魚(そらざかな)』でデビューした新名智さんにも注目しています。この作品は2人の女の子が「人が死ぬ怪談」を探っていく物語。ホラーということでどうしても光が当たりにくいけど、青春小説としても読めるし何より文章がうまい。新名さんはまだ2冊しか出していないのですが、もっともっと読みたい作家さんです。知識に裏打ちされた歴史・時代小説が熱い。人と人とのつながりを巧みに紡いでいく。『木挽町のあだ討ち』永井紗耶子雪の降る夜に、芝居小屋の裏通りで、若衆・菊之助があだ討ちを成し遂げる。その2年後に、あだ討ちの顛末を聞きたいと菊之助の縁者を名乗る者が現れて…。あだ討ちを目撃した者たちに話を聞いていくと驚くべき真相が見えてくる。1870円(新潮社)女形の夫婦を通して、共に生きることを問う。『おんなの女房』蝉谷めぐ実武家の娘・志乃は芝居について何も知らないまま、歌舞伎役者で人気の女形・燕弥の元に嫁ぐ。家でも女としてふるまい、芸事にまい進する夫に対し、戸惑いながらも尽くそうとする志乃。そこに他の役者の妻たちとの交流も生まれ…。1815円(KADOKAWA)小さなブームが数年おきに訪れるという歴史・時代小説が、再燃してきている。「10数年前に『ネオ時代小説』ブームがありましたが、史実と違う、ポップすぎるという否定派も当時はいて。一方、永井紗耶子さんと蝉谷めぐ実さんはわりとガチで江戸時代を研究しているうえ、エンターテインメントの体幹がしっかりしている。歴史・時代小説のトップランナーとして長く活躍するはず」(吉田さん)「おふたりに先駆けて芸道・時代小説を手がけた大島真寿美さんの『渦』もぜひ。浄瑠璃作者・近松半二の生涯を描いた作品で、人形浄瑠璃の世界を知る一冊としても」(三浦さん)デビュー作の完成度がすごい!大型新人の台頭。生の息吹の混沌と鮮烈。これが現代高校生の声。『ビューティフルからビューティフルへ』日比野コレコ死にたくなる気持ちに抗う高3の静とネグレクト家庭育ちのナナ。ナナは駅前で声をかけてきた若い男・ビルEを〈ことばぁ〉という老女の家に連れていく。静、ナナ、ビルEの3人はことばぁから出される宿題を通して自分を見つめ直す。1540円(河出書房新社)少女の葛藤と成長を描く青春譚。『ちとせ』高野知宙舞台は明治5年の京。天然痘で失明の不安を抱えた少女・ちとせは俥屋の跡取りと出会い、京で見聞を広げていく。景色や人々を目に焼き付けながら、やがて三味線の名手となったちとせは大きな舞台に立ち…。京都文学賞中高生部門最優秀賞受賞作。1760円(祥伝社)各文学賞への応募が軒並み増加し、新人らしからぬ高水準の作品が続々誕生している。「某新人賞の選考委員いわく、ステイホーム期間のおかげで時間をかけて推敲した結果か、最終候補の全体的なレベルが上がってきている、と。Twitter発の『タワマン文学』で注目を集めて作家デビューした麻布競馬場さんも、暇になったから書き始めたと言っていました(笑)。コロナ禍が文学に与えた影響は、これからわかってくると思います」(吉田さん)「長編に日比野コレコさんや安堂ホセさんがトライしたとき、今の言葉の強度のまま書き切れたらすごいし、また違う新たな作風を見せてくれるのかもしれない。楽しみです」(三浦さん)三浦天紗子さんライター、ブックカウンセラー。女性誌や文芸誌、Webメディアで書評やインタビュー、メディカル記事を担当。著書に『そろそろ産まなきゃ』(CCCメディアハウス)など。吉田大助さんライター。雑誌を中心に、書評や作家インタビューなどを手がける。編者を務めたアンソロジー『僕たちの月曜日』(角川文庫)が発売中。ツイッターは@readabookreview※『anan』2023年4月19日号より。写真・中島慶子取材、文・熊坂麻美(by anan編集部)
2023年04月15日書評や著者インタビューを通して、作家と作品のきらめきを伝えているライターの三浦天紗子さんと吉田大助さん。さまざまなジャンルの本を日々読み込むおふたりに、小説界で今起きていることや推しの作家、読書の喜びについて存分に語っていただきました。本読みライターの対談で見えてくる、小説界の新潮流吉田大助(以下、吉田):まず注目したい流れとしては、日本の女性作家の作品が英語圏で爆売れしていること。2018年に村田沙耶香さんの芥川賞受賞作『コンビニ人間』が英訳刊行されて、海外メディアで高い評価を受けたうえにベストセラーとなった。多和田葉子さんや柳美里さんら、欧米の文学賞を受賞している作家もここ数年で増えてきました。英米文化圏の作家とは違う想像力が、特に女性の主人公像のなかに宿っていると捉えられている。たくさんの日本文学の英訳を手がけてきた辛島ディヴィッドさんによれば、「quirky(奇妙な/奇抜な/風変わりな)」の一語がキーワードだとのことです。三浦天紗子(以下、三浦):男性作家では、犯罪や社会悪を描いたノワール小説の名手・中村文則さんが海外でも高く評価されていますね。吉田:中村さんは、相当数の作品が英訳されているんじゃないかな。男性作家では、別格中の別格ですよね。そのつながりでいえば、海外人気も高い川上未映子さんの新作『黄色い家』は大注目。前世紀末の東京で少女たちが生き延びるために犯罪に手を染める物語ですが、女性性をテーマにした作品が多かった川上さんが今作でノワールも乗せてきた。もう最強じゃないですか!?三浦:クライムノベル的なドキドキ感もすごくあって、川上さんのエンタメ力を感じましたね。吉田:この作品はすでに各国から翻訳のオファーが殺到しているそうですし、海外の版権ビジネスがこれからの出版界のカギを握ると思います。英語圏の翻訳は入ってくるお金がケタ違い。今は海外サイドが目を付けた作品に日本の出版社側が反応している段階ですが、その経験は今後必ず花開くと思うんですよね。三浦:たまたま『黄色い家』の後に津村記久子さんの『水車小屋のネネ』を読んだら、主人公たちの境遇が似ていて驚きました。いわゆる親ガチャに外れた少女たちのサバイブものですが、描き方はまったく違う。『黄色い家』が「陰」で、『水車小屋のネネ』が「陽」という感じ。どちらも読んでほしいと思います。吉田:津村さんのこれ、僕もすごく読みたかったんですよ!三浦:“親という資産を持たない”姉妹が周りの過剰すぎない善意に支えられて成長していく話で、ギフト的な才能を武器にする展開じゃないところがいい。しゃべる鳥のヨウム「ネネ」が彼女たちをほどよく手助けする小説の自由さを感じる要素もあって。温かく、とてもいい作品です。吉田:そのバランス、すごくいいですね。というのも、最近は時代を映して貧困やジェンダー、家族観などをテーマにした小説がかなり多い。それらをストレートに書くだけだとお腹いっぱい気味かも。三浦:「似た内容を最近も読んだな」と思うものが結構多いですよね。世相を反映した問題は読者にとっても身近なテーマだけど、小説ならそこに意外性や発見も欲しい。吉田:そうなんです!その点で僕は石田夏穂さんの『我が友、スミス』と宇野碧さんの『レペゼン母』を推したい。前者はボディビルの世界からジェンダーバイアスを、後者はラップバトルを通してミソジニーと親子関係を描いた作品。設定や視点にひねりがあるから、そのなかに自分と直結するものを見つける方が実は、普遍的なテーマやメッセージ性が刺さる。この回路作りが重要なのかもと思います。ここ5年ほどで日本の小説の海外人気が高まる。善と悪も凌駕する、クライムサスペンス。『黄色い家』川上未映子貧困や親との確執から「黄色い家」に集った少女たちは、まっとうに稼ぐ術を持たず危ういシノギに手を出した。主人公・伊藤花の庇護者的存在の黄美子を交えたいびつな共同生活は、ある女性の死をきっかけに瓦解へ向かうが…。2090円(中央公論新社)これまで海外で評価され、読まれてきたのは大江健三郎さんや村上春樹さんらレジェンド的な作家と一部の男性作家が主だった。しかし近年は村田沙耶香さんが火付け役となり、川上未映子さん、柳美里さん、松田青子さん、小川洋子さんら、女性作家の海外人気がうなぎ上り。「日本特有の受動的な女性像や社会の閉塞感などが、ある種の新鮮さとして海外で受け入れられている。対談でも出ていた、設定や視点にひねりがあるなかに自分と直結するものを見つける方が普遍的なテーマやメッセージ性が刺さる…という流れにもつながります。僕らが海外文学を読む理由のひとつも、そこにありますよね」(吉田さん)家族、フェミニズム…注目テーマの斬新な切り口。支え合う人々の希望と再生の物語。『水車小屋のネネ』津村記久子身勝手な母とその恋人から離れ、姉妹で生きることに決めた18歳の理佐と10歳の律。生活の場としてたどり着いた山あいの町でしゃべる鳥「ネネ」と出会い…。背伸びしない善意がゆるやかに循環するなかで生きる姉妹の40年の軌跡を描く。1980円(毎日新聞出版)女性性や評価主義に一石を投じる。『我が友、スミス』石田夏穂会社員・U野は、ジムで自己流の筋トレに励んでいたところ、ボディ・ビル大会への出場を勧められて本格的に取り組むことに。しかし、大会で結果を残すには筋肉だけでなく「女らしさ」を求められると知った彼女がとった行動とは…。1540円(集英社)痛快なラップバトルで綴る家族の愛。『レペゼン母』宇野 碧和歌山で梅農家を営む明子は、借金まみれのダメ息子・雄大が悩みのタネ。ある日、彼がラップバトルの大会に出場すると知り、明子は「最後のチャンス」とばかりにマイクを握る。素直になれない親子はこれまでの思いをぶつけ合って――。1540円(講談社)家族的なつながり、ジェンダー、貧困など、世相や社会課題を反映した小説が全盛の時代。それゆえ直球すぎる作品には、「やや食傷気味」。「SNSでもみんなが主張し、お腹いっぱいのテーマだからこそ、フィクションでは斬新なアプローチや緻密なプロット、仕掛けが重要。まっすぐ語られるより、思わぬところから自分が知っている感情が浮き上がってくる方が腹落ちの仕方が違うんです」(吉田さん)「LGBTQキャラを加えたり、貧困や毒親など家族問題を下敷きにしたり、必然を感じない安易な設定に食傷しているなか、上の3作品はエンタメとしても出色です」(三浦さん)三浦天紗子さんライター、ブックカウンセラー。女性誌や文芸誌、Webメディアで書評やインタビュー、メディカル記事を担当。著書に『そろそろ産まなきゃ』(CCCメディアハウス)など。吉田大助さんライター。雑誌を中心に、書評や作家インタビューなどを手がける。編者を務めたアンソロジー『僕たちの月曜日』(角川文庫)が発売中。ツイッターは@readabookreview※『anan』2023年4月19日号より。写真・中島慶子取材、文・熊坂麻美(by anan編集部)
2023年04月15日海外で最もよく読まれている作家といえば、必ず名前があがる中村文則さんと村田沙耶香さん。2人の対談から小説の海外翻訳の最前線を探ります。村田沙耶香(以下、村田):この数年、日本の小説がイタリアでブームなのだと、イタリアの翻訳家さんから教えてもらいました。イタリア語翻訳ができる人が足りなくて、たくさんの小説をご自身や生徒さんが翻訳なさってるそうです。中村文則(以下、中村):日本文学は、村田さんをはじめ、多和田葉子さんや柳美里さん、川上弘美さん、小川洋子さん、川上未映子さんなど、海外でも女性作家の勢いがあります。村田:中村さんはそれこそ10年以上前からいち早く海外で評価された方で、ノワール小説の分野で貢献した作家に贈られる「デイヴィッド・グディス賞」を日本人で初めて受賞されているので、作家仲間からも尊敬されていて、新しい道を切り開いたというイメージがあります。中村:いやいや。僕はむしろ、今こうして日本の女性作家が注目されているのは、いい流れだなと思っています。村田:私の本を日本語からデンマーク語にしてくださるメッテ・ホルムさんという翻訳家さんは、村上春樹さんの作品も手がけていて、デンマークで日本文学を広めてくださっている方です。今村夏子さんや本谷有希子さんもお好きだと言っていました。日本の女性作家たちに注目が集まるわけ。中村:元々、東野圭吾さんや桐野夏生さんなど、ミステリーは本当によく訳されていました。今そうした支持が他の小説にも広がってきたと感じています。村田:ですね。ふんわりした情報で申し訳ないですが、少し前は、フランスで「ノヴェラ」と呼ばれるいわゆる中編小説くらいの長さの日本作品が多く訳されていたと聞きました。日本の現代小説は、欧米の長編作品と比べると短く、中編として扱われるようです。今は他の国でも短い作品が本になるケースが増えたと聞いたことがあります。中村:アメリカ人は相変わらず長い作品も好きなんだけれど、長編だと翻訳にお金もかかる。それで出版自体を躊躇するというのはあるみたいです。だから、翻訳ものに限ると、短いものがいい。村田:そういうことなんですね。中村:村田さんは、『コンビニ人間』などの自作を、英訳されたものと照らし合わせながら読んだりしますか?村田:英語が苦手で、今もレッスンを受けたりしてるくらいなので。訳は翻訳家さんを信じて任せることにしています。中村:僕も同じです。でも『掏摸〈スリ〉』の冒頭だけ比べてみたことがあって。僕は自分で書くとき、日本語のリズムにこだわっているんですね。その文体のリズムを翻訳者に感じ取ってもらって、翻訳者がそれを訳すと独特な英語のリズムが出る。絶妙なところで、キッド、アップと韻を踏んだり。逆で言えばカミュの『異邦人』の邦訳は翻訳ならではの魅力的な文体。日本語で書かれた僕の小説をそのまま読む人と、英語になった形で読む人とがいて、それも面白さだと思うのですが。村田:私の著作の英訳はほぼ、翻訳家の竹森ジニーさんが手がけてくださっているのですが、以前、一緒にイベントに出たときに、お話を聞いてとても感動したんです。彼女はまず全体を通して訳し、その後、目をつぶって、小説中に流れているボイスがどうすれば忠実に伝わるかを考えて、もう一度ていねいに訳していくとおっしゃっていました。ただ日本語を他言語に変換するだけではなくて、作品の声がしっかり伝わることを大切にしてくださっていると感じました。中村:たとえば『コンビニ人間』だとどんな工夫があったんですか。村田:日本のコンビニが舞台なので、「いらっしゃいませ」がよく出てくるんです。でも訳したときに「Welcome」だとちょっと意味が変わってしまう。ジニーさんは「これは日本ならではのニュアンスがあるから訳せない」と。それであえて「Irasshaimase」のままにしたそうなんです。中村:機械的な言葉だし、何度も出てくると呪文みたいに機能してきますね。村田:そういうジニーさんのセンスを尊敬し、信頼しているので、全部お任せすることにしています。中村:僕の短編で「心を開きなさい/鯵の開きみたいに」というふざけたセリフがあって、でもロシアで訳されるとき、鯵の開きを読者は知らないから、翻訳者さんが工夫して。「毛皮のコートを着たニシン」という料理があって、それはニシンが隠れるイメージで、逆の意味で使ったんです。「毛皮の~みたいに隠さないで」と。翻訳の妙だなと思いました。村田:コロナ禍で中止が相次いでいた海外の文学フェスティバルや書店イベントが少しずつ戻ってきていますね。中村:海外でのイベントに行くと、お客さんは二派に分かれていると感じます。その作家に関心があって来てくれる人と、日本や日本のカルチャーに関心があって来てくれる人。アジアやヨーロッパだと、アニメ好きが多いこともあってジャパニーズカルチャーをもっと知りたいという空気があるんですが、アメリカはそもそも「個」に関心がいく。作家個人として見てくれるのがうれしい。あと、海外では責任も感じる。シンガポールのブックフェアに招かれたとき、「日本人で呼んだ最初の作家だ」と言われて、失敗したらもう次から日本人作家呼ばれなくなるんだと(笑)。村田:海外メディアのインタビューを受けると、日本との違いに戸惑ったりもします。「作家」に求める言葉や意見がしっかりあると感じ、心打たれる場面もあります。「日本の女性は今どういう状況にあるのか」と聞かれたり。それこそデンマークでその質問が出たとき「子供の頃から清潔な肉便器だと思っていた」と答えたんです。そのとき専門の研究者の方が説明してくださって、「そんな言葉はとても悲しい」と仰ってました。中村:海外と日本とで事情が違うなあと思うことに、書評もあります。アメリカの『ニューヨーク・タイムズ』でかなり長い書評を書いてもらったことがあるんですが、決して褒めているだけじゃない。厳しい評価も書かれています。村田:私も『生命式』、英語版だと『Life Ceremony』というんですが、その書評が『ニューヨーク・タイムズ』に載ったことがあるんです。でも私にとっては難しすぎる英語で、ちゃんと深く読むことができなくて。ジニーさんに河出の編集者さんが意味をお聞きしていました。中村:日本だと基本的に書評するのは薦めたい作品だけど、海外だと信頼できる媒体で書評されたなら十分価値があると考えるらしいです。賞レースも、日本だと落ちたら触れないという感じになるのに、海外だとノミネートされるだけでもすごいという空気。僕は『悪と仮面のルール』が2014年に米国のホラー系の「ブラム・ストーカー賞」にノミネートされたんです。一次選考に通りましたという連絡が来て、「二次は読者投票です」と言うんだけど、並びの候補作にスティーヴン・キング作品とか入ってるの。読者投票なら勝てるわけない(笑)。そういえば、村田さんも米国の「シャーリー・ジャクスン賞」にノミネートされていましたね。村田:『信仰』という作品です。ダークな作風の短編を対象にした賞で、最終候補に残りましたと。ただ、選考会がないそうなんです。「選考委員たちが作品の話をしながら過ごしていくうちになんとなく決まります。春くらいに」と言われて、本当に驚きました。中村:それは知らなかった(笑)。何にせよ、自分の著作が海外で翻訳されて感想を聞けたり海外の作家さんと交流できたりは刺激になるし、楽しい体験です。村田:私も、友達になった海外の作家さんとまた早く会いたいです。なかむら・ふみのり1977年、愛知県生まれ。2002年に「銃」で新潮新人賞を受賞し、デビュー。’05年、「土の中の子供」で芥川賞を受賞。著作は、台韓中などのアジア諸国、欧米、中東など15の言語に翻訳されている。むらた・さやか1979年、千葉県生まれ。2003年、「授乳」が群像新人文学賞優秀作となり、デビュー。『生命式』『地球星人』など飜訳されている作品多数。アジア9都市9人の作家が競作するアンソロジー『絶縁』に参加。※『anan』2023年4月19日号より。写真・土佐麻理子取材、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2023年04月15日20年余の歴史を持つ「女による女のためのR‐18文学賞」。宮島未奈さんは2021年、「ありがとう西武大津店」でその大賞、読者賞、友近賞(特別選考委員・友近さんの名前を冠した賞)をトリプル受賞。3冠を射止めたのは史上初だ。その受賞作を含む『成瀬は天下を取りにいく』は、本好きの間では刊行前から話題に。とりわけ主人公・成瀬あかりの突き抜け方に揺さぶられ、推し宣言するファンが続出!「私も応募作を書き終わったときに、『成瀬のようにふるまいたかったけれど、できなかった人に読んでほしいな』と思っていたんです。そうしたらAマッソの加納愛子さんが〈成瀬になりたくて、なれなかった〉と私の思いそのままのコメントをくださって、これには感動しました」「R‐18文学賞」受賞作は、成瀬の幼なじみ・島崎みゆきの視点で進む。中学2年の夏休み、コロナ禍に閉館が決まった西武大津店に通い、ローカルテレビの中継番組に映り続けると決めた成瀬。風変わりな思い出作りに挑む少女たちのひと夏を描く。続く2話目「膳所(ぜぜ)から来ました」で成瀬は〈お笑いの頂点を目指そうと思う〉と島崎を誘って〈ゼゼカラ〉というお笑いコンビを結成。「主人公は、変わっているけれどなんでもできてしまう子がいいなと思ったんですね。もちろん成瀬のキャラクターも好きですが、私がいちばんうらやましかったのは島崎みたいな友達がいることです。10代20代の未熟な時期、ただ一緒にいることを友情としたり、それもお互い厳しいことは言わないようにして平穏を保ったりしますよね。だからよけいに、厳しいことも言うけれど基本的に成瀬を全肯定してくれる島崎みたいな存在が私も欲しかったです」最終話「ときめき江州(ごうしゅう)音頭」は、怖いものなしの成瀬に、初めての逆境が訪れるというストーリー。「成瀬にとっていちばん耐えがたいことは何かと考えたら、ああいう展開になりました」また、作中では琵琶湖の観光船「ミシガン」ほか実在の名称も登場。滋賀という土地が魅力的に描かれる。「私は実は『びわ湖アンバサダー』でして(笑)。私自身がミシガンには何度も乗っているんです。描写にはその経験が生きています」本書は、そんなローカル愛に満ちた、新たな滋賀文学でもある。『成瀬は天下を取りにいく』作中に登場する〈ときめき坂〉は大津市実在の場所(他のときめき小学校やときめき夏祭りは架空のもの)。6編からなる連作短編集だ。新潮社1705円みやじま・みな1983年、静岡県生まれ。現在は、本書の舞台でもある滋賀県大津市に在住。京都大学文学部卒。2018年「二位の君」で第196回コバルト短編小説新人賞を受賞(宮島ムー名義)。※『anan』2023年4月12日号より。写真・土佐麻理子(宮島さん)中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2023年04月10日プロサウナーとしても活躍中のグラビアモデル・天木じゅんさん。仕事終わりにソロサウナへ行った様子を自身のInstagramで投稿しました。露出度が高すぎるサウナショット この投稿をInstagramで見る 天木じゅん Jun Amaki(@jun.amaki)がシェアした投稿 「現場が神楽坂だったので、お仕事終わりに大好きなソロサウナtune。毎度行くたびに進化し続けていてめちゃおすすめサウナです」と投稿した天木さん。サウナハットをかぶり、豊満なバストを隠すにはバスタオルが足りないセクシーショットをお披露目しました。ポーズが異なる5枚の画像は、どれも公開ギリギリショットでドキドキさせられます。この投稿に、フォロワーから「エロい」「かわいい」「すんごい好き」「美しい〜」など絶賛するコメントが寄せられています。ビキニからあふれでる豊かなバストに注目が集まる天木さん。次はどんなセクシーポーズを見せてくれるのか楽しみです!あわせて読みたい🌈「ウエスト綺麗」「本当に可愛い」吉岡里帆さんが大胆くびれを披露!で大絶賛
2023年04月06日一度も恋愛感情を持ったことがないけれど、結婚や子どもをあきらめることもできない38歳の平井。両親の離婚によって結婚には興味が持てないが、恋愛を忌避しているわけでもない42歳の菅沼。大谷朝子さんの『がらんどう』では、そんなふたりがルームシェアする距離感が心地よく、それでも「普通」の呪縛から逃れられない女性たちの姿が描かれる。平井や菅沼の心情に共感必至の一冊だ。結婚、子ども、経済力。女性たちは答えを出せないままに、思い惑う。「本作を書く前に婚活のつらさを書いてみようと始めた作品があったんですが、重すぎて挫折しました(笑)。もう少し別の形でそのしんどさを描けないかなと思って考えたのが、菅沼のような強いエネルギーの人物を主人公のそばに置くことでした。菅沼のように“普通”を笑い飛ばしてくれる人がいたら平井はずいぶん気持ちが楽になるだろうなと。私もああいう友達が欲しかったんですよね」普通じゃないことを選ぶのに臆病な平井は、菅沼との同居に安寧を見いだしながらも、当たり前に結婚したり産んだりする生き方に思いを巡らせ、〈したくない。でも、できる、かもしれない〉と揺れ続ける。そんな平井に対し、普通であることを気にしない菅沼がかけた言葉は、読者にとってもお守りのようだ。〈諦めないことが正解じゃないように、たぶん諦めることも正解じゃないよ〉「平井の〈わたしの産みたさはどこから来るのだろう〉という強迫観念は、ひとつは普通でいなければという社会的な要因ですが、もうひとつ、女性の体を抱えていることから来る要請なのかなと思うんですね。女として生まれてしまったがゆえに、頭では産まない選択もあるとわかっているけれど、本能や母性が、切り離して人生を考えさせてくれない気がします」菅沼の副業になっている3Dプリンターで作る犬のフィギュアやお焚き上げサービス、平井が登録しているマッチングアプリやある医療サービスなど、作品を彩るモチーフがとても現代的なのも本作の美点。そのひとつひとつの空虚さが〈がらんどう〉というタイトルと呼応する。「書くときは、個人的に引っかかって見過ごせないと思うことがヒントになることが多いですね。どちらかというと私自身は平井と似ていて、普通じゃない選択をする怖さがわかります。そういったことも含めて、『普通の人』の感覚を大事にしながら書いていきたいです」大谷朝子『がらんどう』語り手の平井は、ルームメイトの菅沼と同じアラフォーで、アイドルデュオ「KI Dash」という推しも同じ。ふたり暮らしは快適だったが……。集英社1595円おおたに・あさこ1990年、千葉県生まれ。2022年に「空洞を抱く」ですばる文学賞を受賞。改題した本作でデビュー。現在は、仕事をテーマにした次回作に取り組んでいる。撮影=山口真由子※『anan』2023年4月5日号より。写真・中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2023年04月03日ショートムービーのような余韻とハッとさせられる印象的な会話。田沼朝さんの『四十九日のお終いに』は、一編一編が忘れがたいオムニバスコミックだ。商業誌未発表作品を含め、読み切りと表題作の後日談となる描き下ろしの全9編を収録。ありそうでなさそうな1対1の絆。各編に漂う空気感にはまる人、続出。「1話めの『海はいかない』は、編集さんとの打ち合わせのときに、大人になってから出会った人と仲良くなることって、ちょっとめずらしいしワクワクするよね、というところから物語が広がっていったような記憶があります」女性ふたりの距離感とテンポのいい会話の妙に痺れる短編。女性会社員の高森は、社外の女性とひょんなきっかけで、休憩所でおしゃべりする仲になる。何も起きない夏なのに、やけに思い出深いものになりそうな、ガール・ミーツ・ガールの秀作だ。「私も会社員時代に、しゃべったことはないものの、なんとなく顔見知りという別の職場の人がいました。私には話しかける勇気はなかったですが、思い返すと、あのふたりみたいに話すことができたら楽しかったのかもしれないですね(笑)。高森たちはこの関係がずっと続くとも思っていないでしょう。それでもこの出会いの特別感はうらやましいなと。自分の憧れを描いた感じです」表題作は、石川青年が父の葬儀で幼なじみと再会したことからストーリーが動いていく。父権的な父親が亡くなり、母親の口からこぼれたひと言に傷ついた石川。家族の難しさと無二の友情の描き方が繊細で、読者を揺さぶる。「彼らは20年来の幼なじみで、疎遠だった時期もあります。だけど、ここからここまでが友情というように、パチンとスイッチが切り替わるわけではないんじゃないかと。長く一緒にいるからこそグラデーションな関係性を振り返ることができる。それこそが、かけがえのないものかも」なんといっても感服するのは、田沼さんの抜群のネームセンスだ。〈夏なのに勤労で日々が溶けていく…〉〈行動こそが人生をつくるとだけ言っておきますよ〉等々、ハッとさせられる名フレーズが随所に。「作品に取り掛かる前に、ヒントを求めてスマホのメモをスクロールしつつ眺めたりすることもあるのですが、実際はほとんど使えないですね。でも『こんなことを考えていたのか』という発見もあって、それが取っ掛かりになったり」商業誌掲載されたのはデジタル作品だが、同人誌時代のアナログの雰囲気を踏襲しているそう。「生活感を描くのが好きなんですね。それと余白を大事にして抜けをつくることにはこだわっています」田沼 朝『四十九日のお終いに 田沼朝作品集』男×男、男×女、女×女、男×かかと(?)など、描かれるのは、基本、1対1の関係。誰かと出会ったり、誰かがいなくなったりの、小さな変化を見つめる。KADOKAWA814円©田沼朝/KADOKAWAたぬま・あさ大阪府生まれ。2014年より同人活動を始め、’21年5月商業誌デビュー。本作と、現在『ハルタ』連載中の『いやはや熱海くん』1巻が同時刊行。※『anan』2023年4月5日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2023年04月03日丸亀製麺といえば、うどんの専門店として知られていますが、うどんと並んで人気の高いメニューが天ぷらです。天ぷらの具が持つ風味が、サクッと揚がった衣と相まって絶妙な味わいを生み出します。丸亀製麺の天ぷらには、定番のえび天やいか天はもちろん、野菜の天ぷらなどもありますが、中でも「かしわ天」が人気です。みなさんは、この「かしわ」という言葉が何のことかご存じですか。「かしわ」は鶏のむね肉だった※写真はイメージかしわ天:鶏のむね肉とり天:鶏のもも肉実は「かしわ天」は鶏のむね肉で、「とり天」は鶏のもも肉を指します。かしわ天は香川県で有名な讃岐うどんのトッピングとして全国に広まりました。一方のとり天は、ポン酢やカボスにつけて食べる大分県の発祥の郷土料理といわれています。期間限定で店頭に出ることが多く、いつも販売しているわけではありません。2種類の天ぷらが並んでいたら、ぜひ一度食べ比べてみてください。揚げたてのかしわ天を食べよう丸亀製麺のかしわ天は、揚げたてが一番おいしいといわれています。丸亀製麺では、天ぷらカウンターで揚げたてをお願いしたら、作ってくれるのをご存じでしょうか。注文を受けてから揚げられた天ぷらはサクサクの食感が味わえます。サクサクの揚げたてのかしわ天を、店頭で試してみましょう。[文・構成/grape編集部]
2023年03月07日「そのときどきで、震災をめぐる小説は書かれてきたと思うんですけれど、僕はいまようやく書いてみようという気持ちになれたというか。長い時間軸を経たからこそ見えてきたものがありました」現役書店員の顔も持つ佐藤厚志さんが第168回芥川賞を受賞した『荒地の家族』は、宮城県を中心に異例の売れ行きを見せている。311から10余年という年月が何をもたらしたか。生活者のリアル。主人公の坂井祐治は、ひとり親方で造園業を営む40歳。震災の2年後に最初の妻を亡くし、2番目の妻とはある不運がもとで離婚した。高齢の母の住む実家に戻り、ひとり息子を育てるシングルファーザーだ。「インフルエンザをこじらせた先妻・晴海の死もそうですが、震災で死んだというふうに言い切れない死がいっぱいあって。その無念というか行き場のない思いはもうどこでも拾われないですよね。それを拾えるとすれば小説だと思うんです」再婚した知加子との生活は数年しかもたなかったが、やり直しのきっかけをつかもうと、祐治は知加子の職場に押しかける。だが、知加子と接触することさえ阻まれる。災厄に立ち向かうとき、元の生活を取り戻したいという気持ちは同じでも、どこの地点から再出発したいか、断ち切って前に進みたいか、そのアプローチは人それぞれだろう。本書では、自分なりにあがきながらうまくいかない人々が多く登場する。「それこそ家族でも共有できてない苦しみなんていっぱいある。それをうまく表現できたらと思います」被災地の変わりゆく様子が活写され、祐治らの心象風景と重なる。「海の方は人が住めない『災害危険区域』にされたりして、境界が引かれて忘れ去られていくような気がするんです。忘れまいとすることはそのささやかな抵抗のつもり。自分ではどうしようもない災厄は誰にでも起こりうるし、そんな思いが広く届いてほしいと願っています」ちなみに、祐治の仕事ぶりの描写があまりに見事なので、どのような取材をしたのか尋ねてみると、「中学の同級生がそれこそひとり親方をやっていて、彼のような職人的な人間を主人公にした作品は書きたいという気持ちがずっとありました。たとえばいちばんつらい作業は何かとか道具の名称とか、居酒屋で聞くべきことだけ聞いた感じですが、非常に助かりました(笑)」『荒地の家族』舞台になっている宮城県亘理町は、佐藤さんの祖父の家があった場所で幼少期から遊びに行っていた。いまも墓参のためにときどき訪れている。新潮社1870円さとう・あつし1982年、宮城県生まれ、仙台市在住。2017年、「蛇沼」で新潮新人賞を、’20年、「境界の円居」で仙台短編文学賞大賞を受賞。他の著作に三島由紀夫賞候補作『象の皮膚』が。※『anan』2023年3月8日号より。写真・土佐麻理子(佐藤さん)中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2023年03月06日人とつながりたいのにうまくいかない。原因は「型に囚われすぎているせい」かも。こんな関係があってもいいなと思うきっかけをくれる6冊をご紹介。『ヴィレッジヴァンガード』を皮切りに、パン屋と本屋が併設された『パン屋の本屋』や、“すべての女性を応援する本屋”がコンセプトの『HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE』など、ファンが多いユニークな名物書店で歴々店長を務めてきた花田菜々子さんに聞きました。人間関係を見つめる本。自己愛と自己肯定感のバランスに苦しんでいる恋愛下手な人、必読。『傲慢と善良』辻村深月/¥891(朝日文庫)婚約者が失踪し、手がかりを求めて彼女の故郷へと向かった主人公。見えてきた真実とは。恋愛との向き合い方を見つめ直すきっかけにも。「現代の日本社会で起きている、恋愛や母娘のすれ違いを凝縮している本だなと思いました。文庫の帯に〈人生で一番刺さった小説〉とあって、刺さる=感動するというイメージで読み始めたんですが、実は自分自身があぶり出されて、気づきたくなかったところを容赦なく突き刺してくるという意味でした(笑)。男女双方の視点で描かれ、つき合っている同士でもお互いをどこか見下し合っていたりなど、自己愛や自己肯定感のねじれが描かれます。人間は、ある種の傲慢さを抱えずには生きられないけれど、それを越えていい関係を結んでいくこともできるのだなと」特別なふたりのさりげない瞬間。ふたりの本質的な関係に好感度UP。『ふたりたち』南 阿沙美/¥2,200(左右社)注目の写真家が、自身の美術短大時代の元同級生とその息子や、コールセンターバイトの仲良し元同僚、夫婦、飼い主とペットなど、12組の“ふたり”をテーマに撮ったスナップとエッセイ。「南阿沙美さんが『この関係っていいな』と思ったふたりを撮った、ちょっとユーモラスな写真の数々が、尊いというか、まばゆいというか。電気グルーヴのふたりが入っていますが、ほとんどが市井の人です。ばっちり決めた記念写真では出てこない、ふたりにしか出せない味があって、その特別な関係性の魅力を際立たせている感じがします。撮影しながらあれこれ聞き出したことや、自身との関わりなどを加えて、ふたりにしかない絆を文字でも紹介しているので、それを読むと、被写体のふたりにより興味が湧きます」心理療法家が真正面から論じた、友情とは何かという思索のヒント。『大人の友情』河合隼雄/¥572(朝日文庫)日本で心理学を広めた人物が、友達が欲しい、男女間の友情は成立するか、友情と同性愛など多角的に問いかけた友情論。「うちの書店でもコンスタントに売れ続けている本です。時代が変わっても、連帯感の楽しさ、反対に誰ともつながれない寂しさは普遍的な感情で、それだけ、友情に悩むことがあるのだろうなと感じます。著者が長年感じていらしたことが本質的な言葉でまとめられていて、夫婦でも上司と部下のような関係でも、長い時間を経て友情めいたものは生まれてくると言っています。結婚や転職などで自分の環境が変わると、いままでみたいなつき合いができなくなるのもすごく悩みだったりするし、大人だからこそ友達について考え直さないといけない時期があるなと思うんですよね」家族や恋人や友達など、美化して語られがちなつながりを問い直す。『人間関係を半分降りる――気楽なつながりの作り方』鶴見 済/¥1,540(筑摩書房)近すぎる関係性を少し離して、流動的なつながりをたくさん持つ。そのためのノウハウもアドバイス。「平成のミリオンセラー『完全自殺マニュアル』の著者が、この本に込めたのは、人間関係の捉え直しです。著者自身が人生でいちばん悩んだのは人間関係だと書いていて、自身の虐待の記憶やパワハラ体験などを振り返りながら『自分を苦しめるしがらみからは降りても大丈夫ですよ』と提案してくれているんですね。家族は大事だとか恋愛はすべきだといった既存の価値観に踊らされる必要はないし、それでしんどい思いをしている人にこそ、たとえばお店とお客さんのような緩い関係性を複数持つことが気楽に生きるコツだと言っています。この時代らしくて、いま必要とされているアイデアだと思います」違和感、反発、裏切り…、友情はネガティブな体験からも芽生える。『うちらきっとズッ友―谷口菜津子短編集―』谷口菜津子/¥880(双葉社)嘘ばかりつく転校生と彼女が気になる少女、気の合わない嫁と姑、ゲームを介して友情を育む少年少女などを描く、目からウロコの友情オムニバス。「フェミニズム視点と等身大の言葉で男尊女卑的な枠組みをどんどん解放する谷口菜津子さんは、もっとも注目されているマンガ家さんのひとりだと思います。ここがしゃくに障るなど内面が細やかに描かれ、イヤなやつと思いながらもそこに関係性が出来上がるのが面白い。人間関係って人の数だけあるのだなと改めて思いました。頻繁に会っておしゃべりしたり飲みに行ったりする関係性だけが友達だと思いがちですが、これを読むと、こういう関係も友情と呼んでいいのかもしれないという気づきをくれる。友達というものの可能性を広げてくれるマンガです」簡単に切れない関係だからこそ、続けるための努力が不可欠。『子どもにキレちゃう夫をなんとかしたい!』水谷さるころ(著)山脇由貴子(監修)/¥1,100(幻冬舎)キレやすい夫に変わってほしいと、夫婦と6歳の息子全員でカウンセリングを体験。家族問題はどう変わったかのルポコミック。「離婚したらいい、親子の縁を切ればいいと言うのは簡単ですが、著者のように、基本的にパートナーを尊敬していて好きだからこそ、イヤだと思っている現状を我慢しないし諦めないという姿勢がすごくいいなと思います。人間関係は、諦めてなあなあに済ませたり、感情的になって終わらせてしまったりという人が多いと思うので、見違えるような変化というわけではないですが、変えることができるお手本があるのは希望ですね。プロのカウンセラーの手を借りろということではなく、お互いフィードバックし合ったりという地道なコミュニケーションが大事なのだなと感じました」はなだ・ななこ1979年、東京都生まれ。『蟹ブックス』店主、作家。『ヴィレッジヴァンガード』に12年勤めたのち、いくつかの個性派書店で店長を経験。書店員歴は20年以上。女性ファッション誌や新聞書評などの連載多数。※『anan』2023年3月8日号より。写真・市原慶子取材、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2023年03月04日夫の清志氏が詐欺容疑で刑事告訴され、周辺が騒がしい国際政治学者の三浦瑠麗(42)。そんな三浦の“まさかの姿”を本誌は目撃した。2月上旬、三浦は飲食店で待ち合わせた男性と、深夜1時ごろまで3軒ほど居酒屋をハシゴ。1軒目を出て後は男性と腕を組んで密着し、甘えるような姿も。翌日の夕方も、別の男性とホテルのバーで合流。この日も店を出た後は男性と腕を組んで、さらに乗り込んだタクシーの中では、男性の肩に頭を乗せてしなだれかかる姿を見せていた。本誌の取材に対して、三浦が社長を務める会社は「いずれの男性も仕事関係の10年来の友人です。個人情報については控えさせていただきます」と回答。14日17時時点で、SNSや会社HPでも報道に対する本人のコメントもない。しかし、清志氏が代表を務める会社が投資トラブルによって家宅捜索を受け、刑事告訴されている渦中に、堂々と“密着デート”を楽しんだ三浦に対しては、ネット上から“メンタル強すぎ”といった驚きの声が相次いだ。そんな三浦だが、’21年5月に、「第13回ベストマザー賞2021」を受賞している。受賞に際して、「わたしは最高の母親になれているとは思いませんが、これからも毎日『大好きだよ』と伝えたいと思っています。そして、愛されるだけでなく、愛するって素晴らしいことなんだ、ということを伝えていけたら」と、コメントを発表していた。実は、同年のベストマザー受賞者には、もう一人“醜聞”が最近話題を呼んでいる人が……。元AKB48の篠田麻里子(36)だ。昨年8月、篠田の不倫を疑った夫が長女を連れて別居していると報じられて以降、篠田と不倫関係にあると報じられる男性とのLINEのやり取りや、T氏との修羅場音声が飛び出すことに。篠田の親族が、夫のモラハラを告発するなど夫婦トラブルは泥沼化の様相を呈している。2019年2月に結婚、20年4月に長女を出産し、21年5月にベストマザーを受賞した篠田。その際、「私自身が1番びっくりしています」とした上で、「子育てを1人でやっていると不安になったりすることもある。個人的にはママとしてはまだまだですが、ベストを尽くして子育ても楽しんでいきたいと思います」とコメントしていた。主催する日本マザーズ協会が「選ばれたベストマザーの方達の生き方や考え方が、少しでもママ達の幸せのヒントになれれば」と、子育て支援・母親支援を啓発する活動の一環として、ママ達の投票によって選出されているベストマザー賞。同じ受賞経歴をもつ女性有名人に“醜聞”が相次いだことに、ネット上では呆れる声が。《ベストマザー賞って、この三浦さんとか篠田さんが受賞されてますね。 どの辺がベストマザーなのか審査員に説明してほしいわ…もっと母として素晴らしい人っていっぱいいると思うけど、どういうこと? 》《まあよくも「ベストマザー」に選出された方々が醜聞をまき散らしたものです》《これで2021年にはベストマザー賞を受賞してんのかぁ 》《コレが…『ベストマザー』か…世も末だな… 》
2023年02月14日ときは文化12年、町人文化が花開くころ。江戸木挽町の芝居小屋のそばで、ある惨劇が起きる。雪が降る夜、女に扮した若衆・菊之助が仇討ちを成し遂げて宵闇に消えたのだ。それから2年後、菊之助の縁者だと名乗る侍が〈森田座〉の関係者を訪ね歩く形で、物語は進む。永井紗耶子さんの『木挽町のあだ討ち』は、時代ミステリー×人情ドラマの極上エンターテインメントだ。新作歌舞伎にしてほしい!艶やかな仇討ちエンターテインメント。「歌舞伎を土台にしたミステリーは役者を中心に描かれることが多いのですが、私はずっと舞台裏の話を書いてみたいと思っていました。それが、本書の仕掛けにもうまくハマると思ったんですよね」語りを務めるのは、仇討ちの一部始終を目撃したという面々だ。木戸芸者の一八(いっぱち)、立師(たてし)の与三郎、衣装係で女形のほたる、小道具職人の久蔵と妻のおよね、戯作者の篠田金治…、エピソードの数々をリレー形式で聞くうちに、読者の中では次第にある疑問が膨れ上がる。菊之助は、心の底では仇討ちを望んでいなかったのではないか。その理由は何か。にもかかわらず、決行したのはなぜか。「事件をめぐり、それぞれがどう関わり、何をどのぐらい明かしていくかについてはバランスを見ながら考えました。ただ、彼らの半生については、私も、しゃべらせてみて初めてわかった部分もありましたね。たとえば一八は、吉原の中で生まれた男です。吉原に生きる女の生きづらさとも違う苦悩があるのだなと。小道具職人の久蔵とおよねの夫婦は、夫があんなに無口だとは思わず、話し好きな妻にしゃべってもらえてやっと詳細が見えてきたり」薄衣に包まれていた真相が明かされたときの驚きもさることながら、「悪所」とされた吉原や芝居小屋で懸命に生きてきた彼らが訥々と語る人生模様が胸を打つ。そこには、身分や職業、女性やジェンダーをめぐる差別の問題があるからだ。時代小説ではあるが、現代にも通じる温かなメッセージが内包されている。「私は辛い話を現代小説で読むと、過剰に感情移入してしまうので、少し現実と距離がある時代小説の方が気楽に想像して楽しめるんです。でも、江戸の社会システムは、調べれば調べるほど今に似ているところもある。そこで生きた人々の物語を考えるのは、今を考えることにも通じて、面白いです」『木挽町のあだ討ち』大叔母の影響で立ち回りをワークショップに参加し学ぶこともあるほど歌舞伎ファン。落語や能も愛する永井さんの古典芸能知識も活きている。新潮社1870円ながい・さやこ1977年、神奈川県生まれ。2010年「絡繰り心中」で小学館文庫小説賞を受賞しデビュー。2020年刊行の『商う狼―江戸商人 杉本茂十郎―』は細谷正充賞や新田次郎文学賞ほかを受賞。※『anan』2023年2月15日号より。写真・土佐麻理子(永井さん)中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2023年02月12日著名なミステリー文学賞に応募して大賞を受賞。『元彼の遺言状』は刊行されるや否やベストセラーに。その後も、新刊を出すたびに話題となり、いまもっとも目が離せない作家のひとりです。デビューしてまだ3年目に入ったばかりのフレッシュなキャリアと、存在感の大きさのギャップに瞠目。2年間の生活の変化や、今後の抱負など、快進撃を続ける新川帆立さんの現在の心境はいかに。――単行本デビューしてすぐに退職されたそうですね。思い切った決断ですよね。新川帆立(以下、新川):実はデビューする前からそう決めていました。2020年に受賞が決まり、退職は単行本が出た’21年の1月末ですね。辞めた翌朝、「きょうからはもう会社に行かなくていいんだ!」とすごい幸せな気持ちになって、この幸せを手放したくないと(笑)。たまたまデビュー作が売れましたが、売れる売れないにかかわらず、最初の3年くらいは執筆に全集中しないと作家として生き残れないかもしれないと必死だったので、むしろ兼業は考えませんでした。――作家という仕事についてなんとなくのイメージがあったと思いますが、いまのような劇的な変化を迎えてみていかがですか。新川:想像していた世界と大きな違いはなかったですね。いざやってみたら、始業時間でも何でも自分で決められるのがいい。私は、人と会わなくても孤独を感じたりしない方なので、結構、性に合っていました。プロットを立てるのが苦手だったり、初稿時に漢字の変換ミスや人名間違えとかが壊滅的に多かったり、自分でも「作家としてどうなのか」と思うところもありますが、調べものや取材は好きですし、何より書くことがいちばん楽しいんです。――プロットを立てるのが苦手というのは、さまざまなインタビューでも言われてますね。けれど、これだけバラエティに富んだストーリーを発表していらっしゃるので、意外です。新川:たとえば、ある場面で、AさんとBさんが会話しているとします。そのAさんが発したひとことでBさんの気持ちが変わり、それを踏まえてBさんの次の行動も決まってくるというのがあるんですよ。書き進めることで初めて、そのときのAさんやBさんの心情も具体的になるというか。肝心のひとことがプロットだけでは想像できないんですね。私自身も実際に文章にして「あー、わかった」と腑に落ちるところがあります。打ち合わせのときに、ある程度のあらすじをくださいと言われることが多いので一応は出すのですが、実際の物語は、アイデア通りにはなかなか展開しませんね。現実にいそうと思えるリアルな女性を書きたい。――新川さんの小説の女性主人公は、それぞれ個性的ですよね。「元彼の遺言状」シリーズの弁護士・剣持麗子をはじめ、最新刊『令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法』でも、一見おとなしそうに見える木村琴美(「動物裁判」)や、勝ち組に見えてとあるコンプレックスに悩む寺田万里子(「自家醸造の女」)、意地とプライドで火花を散らす女性雀士の塔子と由香里(「接待麻雀士」)など、みな強いけれど欠点もあって、等身大で感情移入できるキャラクターです。女性を描くときに意識されていることは。新川:私自身、一部の小説での女性の描かれ方に不満があったんですよね。「こんなに都合のいい女性はいないでしょ」と感じる登場人物が出てくると興醒めしてしまう。読者の気持ちに立ってみると、何よりリアリティが大事だなと。一方で、私の作品が“キャラ立ちしている”と評されることがあって、実はそれが少し不満なんですね。キャラ立ちというと、現実より濃いめに味つけしているというか、強烈にデフォルメしたようなキャラクターに捉えられているのかなと思って、忸怩たる思いになる。私自身は、「どこかにいそう」と自分でも信じられるような人物だけを書いているつもりなんです。たとえば、一緒にドラッグストアに行ったら、あのキャラクターなら「この化粧品を買いそうだな」とか「絶対にドラッグストアコスメを使わなそう」とか。Netflixでは何を見るか、どんなファッションが好きか。いちいち作中では書きませんけれど、自分の中ではそれが何となくわかるくらいの距離感で捉えているんです。実際、そのくらいしっくりきたキャラクターでないと続きを書けない。ミステリーは謎が大事で人物は人形的、記号的でもいいという読者さんもいるでしょうが、私はどうにか人間味も足して両立させたいと思っているんです。――最新刊には、リーガルSFと銘打ったユニークな6編が収録されています。令和が〈礼和〉や〈零和〉などになって、それぞれ動物に人間と同じ権利を認める〈動物福祉法〉や、現金を廃止する〈電子通貨法〉など架空の法律がある社会が舞台。スラップスティック的だったり、痛快だったり、ブラックだったり、読後感もバラエティがありますね。新川:『令和その他の~』に収録した「接待麻雀士」という短編を書いたときに、その架空法律の部分が面白いと編集さんが言ってくださったんですね。――健全な麻雀賭博を奨める〈健雀法〉が制定されて賭け麻雀が合法化されたけれど、それを悪用して賄賂を贈る違法麻雀接待がはびこるようになって…という設定、いつか本当にそうなりそうです。新川:そうした“もしも”を織り込んだ法律とオムニバスドラマの『世にも奇妙な物語』のようなズレたパラレルワールドを合わせて見せることで、現実の解像度がクリアになったりするといいなと思い、あえて現実からほんのちょっとだけ狂った設定を並べてみました。――法律だけでなく、各編の背景になっている題材もユニークでそそられました。どんなふうに決めていったのですか。新川:いまっぽいトピックを編集者さんにお題として挙げてもらい、そこから連想していきました。SFって一般的には自然科学だと思われていますけれど、法学みたいな社会科学だってサイエンスなんですよ。自分が法学を学んでいたからよけいそう思うのかもしれませんが、新しい技術が生まれれば、世の中の人の考え方が変わっていくように、新しい法律が制定されたら、新しい常識ができてくる。すると、それに振り回される人も現実に出てくると思うんですね。その悲喜劇を描いていると、やっぱり社会の課題や矛盾みたいなものも引っ張ってくることになるんですよね。――そういう意味で、新川さんの書く作品って社会派でもあるのかなと思ったりします。新川:やはり切実なテーマじゃないと、読者も時間を割いてまで読みたいと思わないんじゃないかなーと。なので、自分にとっても切実で、世の中の人もきっと切実に悩んでいるだろうという状況や心理を書いていこうとは思っています。たださすがに社会派と言われたことはないですね。強いて言えば人間派ということで(笑)。デビューからわずか2年で短編集や長編など8作品を出版。アニマルライツ、メタバース、バーチャルリアリティ、安楽死問題、キャッシュレス社会など、イマドキの話題を織り込んだ『令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法』(集英社)は、興味深い短編揃い。連載していた離婚弁護士ものを、春ごろに刊行予定。しんかわ・ほたて1991年、アメリカ合衆国テキサス州ダラス生まれ、宮崎県宮崎市育ち。東京大学法学部卒、同法科大学院修了後に弁護士として勤務。第19回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、2021年に受賞作『元彼の遺言状』でデビュー。同シリーズほか、「競争の番人」シリーズ、『先祖探偵』など著書多数。現在、イギリス在住。※『anan』2023年2月8日号より。写真・土佐麻理子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2023年02月04日政治学者・三浦瑠麗氏(42)の夫・三浦清志氏が抱える10億円の投資トラブルによって三浦氏本人にも影響が出始めている。三浦氏が木曜レギュラーを務める情報番組『めざまし8』(フジテレビ系)は当面の間出演見合わせに。また、Twitterでも8万件を超えるツイート数で「三浦瑠麗」が一時トレンドに上がるなどネットでも注目を集めている。10億円の投資トラブルとは、三浦氏の夫・清志氏が太陽光発電事業の名目で約10億円をだまし取ったとして詐欺容疑で刑事告訴されたというもの。東京地検特捜部は20日、清志氏の会社と自宅を家宅捜索した。三浦氏は一連の事態を受けて20日、自身が代表のシンクタンクのホームページで「全く関与していない」とのコメントを出している。しかし、夫婦は別人格であるとはいえ、批判の声は大きい。「三浦氏は、政府の成長戦略会議や過去に出演したテレビ番組でも、太陽光発電を推奨するような発言があったということで、“利益誘導”や“詐欺の広告塔”の疑いなどが報じられています。また、夫の投資トラブルに関連する民事裁判で、夫が代理人に立てていたのが、旧統一教会の顧問弁護士で現役信者という報道も出たため、余計に注目が集まっているのでしょう」(全国紙記者)そんな中でネットでは今、三浦氏の過去のある論文に注目が集まっている。それは自民党が主催する「国際政治・外交論文コンテスト」で2004年に三浦氏が最優秀賞である「自由民主党総裁賞」を受賞した論文だ。同コンテストは04年から22年まで毎年行われており、第1回目の初代最優秀賞受賞者が三浦氏なのだ。「このとき三浦さんはまだ東京大学農学部の学生で23歳でした。ここから三浦さんの華々しいキャリアが始まったと言えるでしょう」(前出の記者)この論文についてネットでは、《よくテレビでお見かけする三浦瑠麗さんが東京大学農学部4年のときに自民党総裁賞を受賞した「論文」があるんだけど、わたしはあれを読んで彼女を見る目が一気に変わった。よくない方へ。あといまの自民党は相当やばいなと思った。興味あれば見てみてほしい》《これ、出来レースで「とりあえずなんか書いてよ」とオファーされたんじゃないのか?誤字が3か所もあったし1、2時間で知っていることさらりと適当に書いて提出した感がすごい。箔付のためにこのコンテストが用意された気すらする》《論文コンクール第一回の受賞者だったかと。父親の人脈などから自民党に一本釣りされたのだろうと思いました。杉田水脈議員に近く、でももう少しアカデミック受け?する人材というつもりだったのでは》■《我々日本人は国際社会においては、ジャパニーズ・ドリームの体現者だとまず自覚を》ここまで言われる論文とはどのような内容なのか。一部抜粋する。テーマは「日本の国際貢献のあり方を考える」で、冒頭は《国際貢献とは日本の生き様を示す舞台でなければならない》という見出しから始まる。《国際貢献の究極の目的は、国際社会の住人としてその責任を果たすことであり、日本の信じる正義を実現することである》《日本は、世界一の長寿国であり、世界一安全な国である。世界に誇れる独特の伝統を保持しつつ、世界にも例を見ない美しい国土を持った国である。我々日本人は、国際社会においては、まさにジャパニーズ・ドリームの体現者であることをまず自覚すべきである。その上で、どのように具体的な国際貢献をなし得るか考えてみるべきであり、国際貢献とは、日本の生き様を国際社会に示す舞台でなければならない》《日本の理想を掲げることは、他国に対して優越的な地位を主張したり、威張ったりすることではない。むしろ、日本と言う類い稀な国に生まれた我々の、世界とアジアに対する特別の責任を自覚した覚悟の必要な姿勢である。日本の国際貢献のあるべき姿は日本の理想を高く掲げることであると考えるが、それは、日本人自身の生き様を世界に対してしめしていくことに他ならない》この論文については著名人・識者からも辛口コメントが続出。映画評論家の町山智浩氏はツイッターで20日、次のように指摘した。《このたった4Pの論文だけで今の国際政治学者としての地位を築いたのか。参考文献も論拠となるデータも実証的な論拠もなく、ただ自分の気持ちだけを書き連ねている。これは論文ではない。作文だ》麗澤大学客員教授の飯山陽氏も21日に配信した自身のYouTubeチャンネルで三浦氏の論文を採点して「及第点はあげられない」「感想文としてもダメ。中身は一層意味不明」と酷評。昨年の同コンテストでは、10代~90歳まで86名の応募があり、授賞式には岸田文雄首相(65)や茂木敏充幹事長(67)らも出席したことを、審査委員を務めた井上信治議員(53)がブログで明かしているが、一体どのような論文コンテストなのか。過去の審査員の1人である、青山学院大学の袴田茂樹名誉教授に聞いた。■「評価がバラバラになることもあります」「三浦さんが受賞した第1回目は私が審査員になる前のことだと思います。一昨年の第18回まで10回前後は審査員を務めましたので、私が責任を持って言えるのはその期間のことだけです。選考の手順は、まず自民党国際局の方で下選びをして、入賞件数の2?3倍ほどの論文を選出。それを7?8名ほどの外部の審査員が採点して、採点の合計が高い順に賞を取るというシステムです。各人がそれぞれの評価をしますから、評価がバラバラになることもありますし、皆さんの評価が同じようなときもありましたし、それは年によってさまざまでした」それではどういう人物が審査員に招かれるのだろうか。「審査員には、政治学者や出版社の編集長、マスコミで論説するような人などがいました。識者が必ずしも中立と言えるかどうか私にはわかりませんが、櫻井よしこさんや百田尚樹さんのような保守論客が常連メンバーということはありません(笑)。とはいえ、自民党に招かれているので、自民党の対外政策を真っ向から批判し続ける人ではないとは思いますが、私は自民党の党員でもありませんし、当時の安倍政権の対露政策に対しては公にかなり批判していましたので、そういう意味で、時の政権を全面的に支持する論文が選ばれるようなシステムになっているとは限らないです。少なくとも私に関しては、自信を持って公正な立場で選考にあたってきました」三浦氏の論文が論文の体裁をしてないとの指摘がある件については、袴田名誉教授は次のように解説する。「引用文献等をきちんと書いた学術形式になっているものと、自分の意見を独自に述べるものと結構バラバラでした。色んな人の意見を引用しながらではなく、自分の独自の意見を述べるという論文も私はここではいいと思います。学生、学者、あるいはもっと年配の人たちの論文など色々ある中で、私が読んだ中で一番年齢が低かったのは中学生の論文でした。非常にいい論文でした。決して学術的なスタイルではありませんが、むしろ下手な学者の論文より言うべきことを自覚した内容で、よく中学生でこれだけのものを書けたなと驚いたくらいです。なので、学術的な論文の体を成しているかは評価には関係なく、中学生が自分の体験を元に書いた論文でも、非常に強い印象を受けて評価した論文もあるということは言っておきます」三浦氏が再び『めざまし8』に登場する日は来るのだろうか。
2023年01月28日怒髪天ロックバンド・怒髪天が、本日Zepp Hanedaにて行われた新春公演にて、3月22日(水)にニューアルバム「more-AA-janaica」(ヨミ:モウエエジャナイカ)の発売と、5月10日(水)より開催する全国ツアーを発表した。作品の詳細はまだ未発表ながらも、バンドからこんなメッセージが届いている。右手に怒りを、背中に哀愁をたずさえて・・・。壮年満作 “OSSAN STRIKES BACK”収録楽曲は6曲を予定しており、全方向にベクトルが向いた聴きごたえ200%の「問題作にして最高傑作」となることは間違なさそうだ。尚、初回生産限定盤には今作の歌詞からインスパイアしたアート、モード、そしてシュールな完全撮り下ろしの写真集を付属。こちらもこれまでの、怒髪天の写真集の概念を覆す「問題作」となりそうだ。写真集からのビジュアルを使用した、“特製プロマイドセット”がもらえる、アルバムの先行予約キャンペーンもスタート。ぜひチェックしてほしい。■ライブ情報more-AA-janaica TOUR 〜もうええじゃないか、もう〜5/10(水)千葉 LOOK5/13(土)水戸 LIGHT HOUSE5/19(金)金沢 AZ5/20(土)岐阜 Yanagase ants5/27(土)広島 セカンド・クラッチ5/28(日)高松 DIME5/30(火)奈良 EVANS CASTLE HALL6/01(木)岡山 YEBISU YA PRO6/03(土)小倉 FUSE6/04(日)福岡 LIVE HOUSE CB6/06(火)滋賀 U☆STONE6/10(土)松本 ALECX6/11(日)新潟 GOLDEN PIGS BLACK STAGE6/17(土)仙台 Rensa6/18(日)郡山 HIPSHOT JAPAN6/24(土)名古屋 CLUB QUATTRO7/01(土)大阪 umeda TRAD7/07(金)札幌 ペニーレーン247/14(金)新宿 BLAZE【リリース情報】アーティスト:怒髪天タイトル:more-AA-janaica(ヨミ:モウエエジャナイカ)発売日:2022年3月22日(水)商品形態:初回生産限定盤(CD+写真集) / TECI-1802 / ¥6,050(税込)通常盤(CDのみ) / TECI-1806 / ¥2,750(税込)CD収録内容:6曲入りCD写真集内容:完全撮り下ろし。今作の歌詞からインスパイアしたアート、モード、そしてシュールな完全撮り下ろしの「問題作」。怒髪天オフィシャルウェブサイト : 怒髪天 / IMPERIAL RECORDS : 詳細はこちら プレスリリース提供元:NEWSCAST
2023年01月15日