文:八木 奈々写真:後藤 祐樹みなさんは『時をかける少女』『パプリカ』などを代表作にもつ作家、筒井康隆をご存じでしょうか? 星新一、小松左京と並んで「SF御三家」と称されているように、日本にSFを根付かせたうちのひとりといわれています。本連載でも以前、筒井先生の『旅のラゴス』を紹介させていただきましたが、私と筒井先生の出会いは約9年前。なんとなく手に取った作品にがっちりと心を掴まれてしまい、読後の熱が冷め止らぬまま、書店のサイン会に足を運びました。筒井先生の作品は当時の私に、物語が面白い、だとか、装丁が美しい、などだけではない、読み手の向き合い方次第で同じ物語でも全く違うものになるという本の無限の楽しみ方を教えてくれたのです。こちらの写真は、許可を得て引用しています。そんな筒井先生の作品のなかでも個人的に思い入れの強い筒井康隆ワールド全開の3作品を、今回はご紹介させていただきます。少々難しくてもなんとか最後まで読んでいただきたい。描かれていないはずの展開や、その背景、行間に込められたの感情がみえてきたとき、最後まで読んだ自分を抱きしめたくなるでしょう。※ ↑単行本でのご紹介となります。1.『残像に口紅を』私が14歳の頃、初めて出会った筒井先生の作品がこちら。一章ごとに使える文字がひとつずつ消えていき、それと共に小説世界のその文字を含むものも消えていく感覚はありながらも、記憶は確実になくなってしまうといういかにも実験的な物語。難解に聞こえるかもしれませんが、そこはさすがの筒井先生。文字のみの小説なのに文字が消えていくのを感じさせないほど見事に物語が構成されています。正直、物語としてスラスラ読める作品ではないかもしれませんが、最後の“あとがき”ならぬ“調査報告”にある学術論文のような解説を読み終え本を閉じた後、この上ない高揚感に包まれました。言葉のプロである“作家”という仕事と、描かれていない物語の背景に深く興味をもち、これ以降、私は本を読むのが一段と好きになりました。2.『モナドの領域』河川敷で女性の「美しい」片腕が見つかるところから始まる本作品。前知識なしで読んだため、最初は著者久しぶりのミステリー小説かなと期待していたら、唐突に素領域理論の“神”が登場し……。なるほどそうきたかと期待を大きく上回る筒井康隆ワールド全開の展開へ。書かれている内容についてしっかりと味わうためには哲学に対する基礎知識が必要な表現も多く、私のなかでかみ砕けない部分もありましたが、不思議と読みづらさは感じず、頭をフル回転させながらページを捲る時間さえやけに心地よく感じました。物語に浸かりすぎてしまい、後半、登場人物が自分の方へ顔を向けた気がしてゾッとしましたが、自ら物語に巻き込まれていく感覚と読了後の穏やかな余韻が忘れられず、今日までに何度も何度も手に取っています。中毒性あり。3.『大いなる助走』直木賞に落選した作家が、逆恨みで選考委員を殺していくという衝撃的な大虐殺ストーリー。当時大いに話題を呼びベストセラーにもなった反面、文壇について茶化す表現や馬鹿にする描写がたくさんあるため、他の小説家を敵に回してしまったとも言われている問題作でもあります……が、筒井先生が描く人間の理性が壊れるさまは本当に魅力的で、強い引力で私たち読者を惹きこんでいきます。リアルだけれどファンタジー、ファンタジーだけれどリアル。その壊れ方には妙な説得感があり、描かれる文壇の内部事情からは目をそむけたくなるほどグロテスクですが、コミカルなタッチと終盤の怒涛の展開は読んでいて純粋に面白く、自分自身すらネタにしてしまう筒井さんのしたたかさと小説芸は見事だなと感じざるを得ません。……恐るべし。■噛むほどにハマる筒井ワールドをご賞味あれ……!いかがだったでしょうか……? まだまだ紹介したい作品や語りたい魅力はたくさんあるのですが、正直、予備知識なしで手に取るのが一番気持ちの良い筒井康隆ワールドへの浸り方だと私は感じています。ぜひみなさんも騙されたと思って一度手に取ってみてください。そして一文字一文字を味わってみてください。噛めば噛むほどおいしい筒井康隆の世界へ。■「TheBookNook」についてこの連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。一冊の本から始まる「新しい物語」。「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。↓ 八木奈々さんご紹介作品の購入はこちらから ↓
2023年11月17日Dos Monos(ドスモノス)と小説家・筒井康隆がコラボレーションした新曲「DOG EATS GOD feat. 筒井康隆」が配信リリース。Dos Monos×筒井康隆の新曲「DOG EATS GOD」Dos Monosは、荘子it、TaiTan、没からなる日本のヒップホップユニット。2022年7月には、「時をかける少女」「パプリカ」「残像に口紅を」といった作品で知られる日本文学界の巨匠・筒井康隆と異例のコラボレーションを発表。20分を超える組曲編成のアルバム『だんでぃどん feat. 筒井康隆』をCD発売し、大きな話題を集めた。今回リリースされる新曲「DOG EATS GOD feat. 筒井康隆」は、最新アルバム『だんでぃどん feat. 筒井康隆』の核であり、唯一配信リリースされる楽曲。めくるめく一大音絵巻の如く展開される組曲形式のアルバムの中でも一際骨太なビートの上に、筒井康隆本人による朗読と演劇団体「マームとジプシー」の青柳いづみによる台詞、そしてDos Monosの3人によるラップが絡みつく、ミュータント・ブーンバップ・ソングとなっている。また今回、メンバーの没が描いた3人の似顔絵アーティストビジュアルも公開された。【詳細】Dos Monos 新曲「DOG EATS GOD feat. 筒井康隆」配信日:2022年9月2日(金)※最新アルバム『だんでぃどん feat. 筒井康隆』収録曲。
2022年09月09日筒井康隆の小説『パプリカ』をアマゾンが配信シリーズとして製作することになった。監督とエグゼクティブ・プロデューサーを務めるのは、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 Birds of Prey』を手がけたキャシー・ヤン。プロデューサーにはマシ・オカも名を連ねる。ライブアクション作品になるということだが、それ以上の詳しいことはわかっていない。ヤンは、『メディア王〜華麗なる一族〜』で今年のエミー賞(ドラマシリーズ監督部門)にノミネートされている。このシリーズのほかに、ヤンは、自ら脚本を書き下ろしたSF映画『The Freshening』の準備も進めている。文=猿渡由紀
2022年08月23日株式会社メルカリは、株式会社ローソンと共に2020年7月1日からのレジ袋有料化を前に、通常は捨てられてしまうレジ袋にも付加価値を与えるべく、「モノガタリ by mercari」に寄稿している伊坂幸太郎氏、吉本ばなな氏、筒井康隆氏の小説を印字したレジ袋“読むレジ袋”を、2020年6月24日~26日の3日間限定で全国のナチュラルローソン138店舗※にて無料配布いたします。※筒井康隆氏『花魁櫛』のレジ袋は、ナチュラルローソン芝浦海岸通店にて26日限定で配布になります。“読むレジ袋”は、通常は捨てられてしまうレジ袋に「小説を読む」という新たな価値を与えたレジ袋です。レジ袋にはメルカリが2020年4月から始動したプロジェクト「モノガタリ by mercari」で連載されたモノにまつわる3つの小説が印字されています。国内では年間450億枚のレジ袋が使われていると推定※されており、捨てられがちなレジ袋に小説という付加価値を加えることで、身のまわりのモノにも一つひとつに価値があると気づきを与え、改めてモノとの向き合い方について考え直すきっかけになることを願い、企画しました。ナチュラルローソンでは「人と地球にやさしい」をテーマに、環境に配慮し自然に優しい天然成分を使用した化粧品の取り扱いや、紙製包材を使用した弁当や調理パンを販売するなど、これまでも積極的に環境対策に取り組んでまいりました。※環境省の中央環境審議会の専門委員会資料より(2018年実績)このような経緯から、これまでもSDGsを積極的に推進してきたナチュラルローソンと「モノガタリ by mercari」の取り組みの方向性が一致し、7月1日のレジ袋有料化を前に共同でサステナブルな社会を目指したアクションとして、ナチュラルローソン138店舗にて“読むレジ袋”を配布します。なお、本レジ袋は環境に配慮し、バイオマスプラスチック※を50%以上配合しております。※バイオマスプラスチックは、石油ではなく再生可能資源である生物資源(バイオマス)を原料とするプラスチックです。環境負荷が少なく、かつ炭酸ガスのバランスを崩すことの無いなどが特徴です。■背景メルカリは、「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」ことをミッションに、誰かにとって不要になったモノが、他の誰かの役に立つ、そんなマーケットプレイスを目指しています。その信念のもと、モノにまつわるストーリーを通じてモノの価値を伝えるプロジェクト「モノガタリ by mercari」を2020年4月28日より始動いたしました。10名の有名作家に寄稿いただいたモノに関する小説は、プロジェクト開始初日にツイートした作品の反応数は211万(6月20日時点)などを一つひとつのモノが持つストーリーに共感いただいた読者のコメントが相次ぎました。ローソンは、店舗を起点に「3つの約束」として、「圧倒的な美味しさ」、「人への優しさ」、「地球(マチ)への優しさ」の実現を目指しています。「地球(マチ)への優しさ」として、環境課題の解決を目指し、商品のプラスチック削減や店舗のCO2排出量の削減、食品ロス削減などの取り組みを進めています。また、ローソンでは7月1日からのレジ袋有料化に先駆け、5月18日から一部店舗にてレジ袋の有料化実験を行っております。実験店舗ではレジ袋をご購入されるお客様は全体の約3割で、マイバッグを持参されるお客様やレジ袋不要を申告されるお客様が増えました。今後もマイバッグ持参のご協力やレジ袋有料化のお客様への周知を図ることで、さらなるレジ袋削減を目指してまいります。■配布概要・配布期間:2020年6月24日(水)~2020年6月26日(金)※配布時間は各日14時~予定・配布個数:各店舗、各日100枚 ※なくなり次第終了・配布場所:ナチュラルローソン 138店舗※帝京大学病院本院・アーバンドックパークシティ豊洲・S六本木ヒルズ・S六本木ヒルズ50F・港日赤通り・順天堂医院B棟・プラナ東京ベイ・東品川四丁目・クオールアトレ竹芝・SOCOLA武蔵小金井クロスを除く※筒井康隆氏『花魁櫛』のレジ袋は、ナチュラルローソン芝浦海岸通店にて26日限定で配布になります。・配布方法:各店舗内、専用ブースにて配布・配布スケジュール:2020年6月24日 伊坂幸太郎「いい人の手に渡れ!」2020年6月25日 吉本ばなな「珊瑚のリング」2020年6月26日 筒井康隆「花魁櫛」※筒井康隆「花魁櫛」のみ、Twitter・公式サイトでの作品公開に先行してレジ袋を配布■「モノガタリ by mercari」概要「モノガタリ by mercari」は、筒井康隆氏、吉本ばなな氏など日本を代表する有名作家や小説デビュー作『ふたご』が直木賞候補にノミネートした「SEKAI NO OWARI」の“Saori”こと藤崎彩織氏ほか、10名の書き手が書き下ろした「モノ」のストーリーをメルカリ公式Twitterで発表するプロジェクトです。・投稿期間:2020年4月28日~2020年6月30日・特設ページ:・メルカリ公式Twitter:・公式ハッシュタグ:「#メルカリのモノガタリ」■「メルカリ」についてメルカリは、「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」をミッションに、フリマアプリ「メルカリ」の開発・運用を行っています。世の中には価値があるモノが捨てられてしまうなど、地球資源が無駄になっていることが多いと私たちは考えており、個人間で簡単かつ安全にモノを売買できる「メルカリ」を日本とUSで展開しています。■「ナチュラルローソン」について「毎日だから大切に」をコンセプトに、“美しく健康で快適な”ライフスタイルを身近でサポートするお店です。都内を中心に145店舗(2020年5月末現在)を展開し、素材にこだわったオリジナル商品や、有名ブランドとのコラボレーション商品など、ナチュラルローソンでしか手に入れることのできない商品を取りそろえています。企業プレスリリース詳細へ本記事に掲載しているプレスリリースは、株式会社PR TIMESから提供を受けた企業等のプレスリリースを原文のまま掲載しています。FASHION HEADLINEが、掲載している製品やサービスを推奨したり、プレスリリースの内容を保証したりするものではございません。掲載内容に関するお問い合わせは、株式会社PR TIMES()まで直接ご連絡ください。
2020年06月23日2011年よりブログ『プロ野球死亡遊戯』を開始し、累計7,000万PVを記録するプロ野球死亡遊戯こと、中溝康隆氏。そんな中溝氏の新著『原辰徳に憧れて -ビッグベイビーズのタツノリ30年愛』(白夜書房)が11月22日に発売された。本著のテーマは、プロ野球・読売巨人軍の現監督「原辰徳」。なぜ原をテーマにしたのか聞くと、「現役時代の『アイドル原辰徳』のその後の変化具合にも興味があった」と語る。偉大なONと比較され続けて叩かれることも多かった現役時代から、勝利にこだわり、幾度もの優勝を経験した監督時代までの変化について語った。○■ONと比較され続けた現役時代――今回、「原辰徳」をテーマにした理由をお聞かせください。世代的に、プロ野球を見始めたときのスーパースターが原辰徳でしたね。最盛期にはCM7社も出ていた「アイドル原辰徳」のその後の変化具合にも興味がありまして。この本のテーマでもあるんですが、60歳を過ぎた原辰徳があまりにも若大将キャラと変わってきているので、そういう変化を記録していったら面白いんじゃないかと思いました。――中溝さん自身、いつ頃から原さんを見始めたんですか。小学校に入った85年頃ですね。当時はピークというか一番人気があった時期からは過ぎていて、結構ボロクソに叩かれていましたからね。「大人から叩かれる原辰徳」という感じでしたが、自分はそれを見て「俺らが原辰徳を応援しないで誰が応援するんだ」という気持ちになって(笑)。たぶんそういう少年たち、この本で書いたのちにビッグベイビーズと呼ばれるちびっこファンが、世の中にはいっぱいいたんじゃないかなと思います。――確かに原さんは選手時代、よくファンやメディアから叩かれていましたよね。もちろんカッコよさもあったんですけど、いかんせん当時はON(王貞治・長嶋茂雄)が辞めてすぐだったので、どうしても偉大なONと比較され続けてました。原さんに対する逆風みたいなものは子どもながらに感じてましたね。世の中全体が「原には何を言ってもいいぞ」みたいな雰囲気は絶対あって、あらためて過去の雑誌を見てみるとやっぱりここまで書くかっていうレベルで辛辣でひどかったです。○■「プロ野球界でもっとも叩かれた男」――「チャンスでポップフライ」というイメージもよく語られるところです。でも打たない、ポップフライのタツノリがまた良いみたいな(笑)。クロマティとか吉村(禎章)とかはちゃんと打つんですけど、原はポップフライがあるからこそ、たまにホームランを打つとファンが熱狂できるという、幸福な関係はありましたね。スーパースターなんだけど弱さを愛されるという、今の瞬間的にすぐ炎上しちゃうSNS時代にはちょっといないタイプの選手ですよね。当時は今と違って、地上波中継で毎日プロ野球をやっていて、しかも年間の平均視聴率も20%超えで、世の中の共通言語としてのプロ野球がありました。どれだけみんなから毎日見られていたんだという。その環境で原さんはプロ野球界でもっとも叩かれた男ですね。――確かに当時のプロ野球、巨人人気はすごかったですよね。当時は今よりもバリバリの男性社会でパワハラやモラハラへの意識も低かったこともあって、新橋とかで飲んでるおじさんファンから見たら、「今の若いヤツはダメだな」という象徴が原だったと思います。でも、原さんは88年、89年くらいからは、もはや叩かれもしなくなってくるんですよ。ようするに、KK(清原和博、桑田真澄)が出てきたり、西武が強くて巨人一辺倒から変わってきたねと言われ始めたりした時期だったので。当時は巨人=原というイメージだったので、原人気とともに巨人人気が徐々に落ちていった雰囲気はありました。Jリーグでサッカー人気も高まり、それが結果的に93年の長嶋監督復帰に繋がったわけですよね。――そしてその後、原さんは1995年に現役を引退しました。引退した1995年は「ケガして復帰してホームラン打ったら泣く」みたいな、アイドルのような流れが定番化していて(笑)。でも95年の終盤、代打原がコールされるとそのたびにめちゃくちゃ声援が出るようになり、俺らタツノリフリークはそれを見て「いまさら分かったのか」なんて思ってましたね。当時はFAで選手を獲りまくっていて、俺らの原がヤバいぞとなったんですが、それでファンが原に対する思い入れを増すという不思議なシンクロが出てきました。最後の最後まで、ファンとのシンクロは強くあったと思います。○■監督としてON越え、そして3度目の監督就任――現役引退された原さんは、1999年からコーチとして復帰した後、2002年に監督に就任しました。第1次政権(2002年~03年シーズン)は選手と年も近いし、兄貴分的な感じだったんですよ。それが第2次政権(2006年~2015年シーズン)になると怖くて、「ニセ侍」とか「砂遊び」発言が出たりとか。さわやかアイドル時代の現役時代から見ると、ヒールターンの前兆が出ていて面白いですね。原さんはどう思っているか分からないですけど、監督でONを超えるというアングルがあるじゃないですか。それをやり始めたのが第2次政権で、実際に結果では3連覇を2回してON越えをしたなと。だからある意味、ON越えをした第2次政権でストーリーは終わったんですよ。でも、ダースベイダーのごとく戻ってきましたね(笑)。――原さんは2018年に3度目の監督就任を発表しましたね。3度目の復帰は、ファンとしても「え!?」っていうのはあったんですけどね。違和感がなければ、この本のように1年間細かく追っていないと思うんです。1年前は、長野(久義)や内海(哲也)が人的補償で抜けたりで、賛否を呼びました。ただ開幕してみると、原さんのコメントが第2次政権と違って優しく、今までとはすごい変わったタツノリが見れて、それもまた面白いなと。これだけキャラを変えるスーパースターはレアですよね。1年間追っていて、これだけ盛りだくさんの人っていないと思うんですよ。――結果を見ても、終わってみれば優勝でした。終わってみれば「原が監督だったから優勝できたんじゃないか」とファンも思いました。今年はやりくりで勝った部分もあるので、原さんの力量を評価せざるを得ないと。若手を積極的に起用していて、巨人を育てようとしているのが今回見えますし、ON越えを頑張ってやろうとしていた前回とは変わってきているなと感じました。○■たまにチラ見せするアイドル時代の顔――リーグ優勝時には、原さんは涙も見せていましたね。全権監督といういわば前時代的なシステムで帰ってきているので、そのプレッシャーもあっての涙だと思います。鬼のタツノリの中に仏のタツノリが見えるというか、61歳の原辰徳がたまにチラ見せするアイドル時代の顔もファンにはたまらないです。これだけ涙が似合うプロ野球選手はいないですよ(笑)。――今後、原さんのどういった姿を見たいですか。いつかセリーグの他球団の監督になって、阿部慎之助と闘ってほしいですね。自らが育てた後継者を叩き潰しにいくって映画的で、プロ野球界のストーリーとしてもめちゃくちゃ面白いじゃないですか。後継者を育てたら、巨人ではもうやり尽くした感がありますしね。――それでは最後に本の見どころをお聞かせください。どの世代にも楽しめるように書きましたが、まず、原辰徳と同時代を生きた方に読んでほしいです。なぜなら、自分の生きてきた人生と原辰徳の野球人生がシンクロしているので。そしてこの本の担当編集マンが90年生まれなんですが、そんな90年代に生まれた若い巨人ファンの方にも、80年代のアイドル時代の原辰徳人気をぜひ体感してほしいなと。それを体感したうえで、今の原監督を見るとさらに面白いと思いますね。ナイターがないちょっと時間を持て余すオフシーズンの夜に、令和元年の優勝を振り返りつつ、来季への気持ちを高めるためにも手に取ってもらえたらうれしいです。
2019年11月27日2011年よりブログ『プロ野球死亡遊戯』を開始し、累計7,000万PVを記録し話題となったプロ野球死亡遊戯こと、中溝康隆氏。そんな中溝氏が小説デビュー作となる『ボス、俺を使ってくれないか?』(白泉社)が12月14日に発売された。なぜ小説を書くにいたったのかの経緯や小説特有の難しさ、そして巨人ファンの中溝氏に今年の巨人の振り返りと来季の巨人の展望を聞いた。○■「原稿を書くのにもっとも時間がかかりました」――本書は漫画雑誌『ヤングアニマル』(白泉社)で連載していた小説「絶体絶命」が書籍化したものです。中溝さんは実際の野球選手などを題材にした"ノンフィクション"のイメージが強いですが、小説を書くに至った経緯をお聞かせください。編集の方に『ヤングアニマル』の電子版で野球小説を書きませんかと提案されたのが最初です。個人的に村上龍さんの『走れ!タカハシ』などがすごく好きで、まだ当時現役だった巨人の鈴木尚広をモチーフに『走れ!タカヒロ』を書きました。そうしたら、意外と反応が良くて、結果的に連載化に至りました。――小説を書かれるのは初めてだったのですか。プロとして書くのは初めてで、目の前で起きた野球について書くことと、ストーリーを膨らませて書くことはやはり違いました。今までの中でも、原稿を書くのにもっとも時間がかかりましたね。○■小説は「これまで書いた原稿の裏側が詰まっている」――本作は選手はもちろん、ビールの売り子さんや新聞記者が主人公として登場するオムニバス形式です。実際にそういった人物について書くため、なにか取材などはされたのですか。はい、しましたね。その都度、売り子さんや新聞記者に話を聞きに行ったりしました。そして、別の取材で野球選手にインタビューをしに行くと、記事には書けない話が結構面白いんですよ。それを小説では活かしましたね。自分がこれまで書いた原稿の裏側が詰まっています。なので読者の方は、この話は本当なのかな、嘘なのかなと思いながら読んでもらっても面白いと思います。――取材を通して、印象に残っていることはなんですか。野球選手にイップスの話を聞いたことです。イップスになる前は「なんでイップスになるんだろう。自分はならないだろう」と思っていたそうですけど、自分がいざなったら、本当にまったくボールを投げられなくなってしまったと。素人からすると、プロ野球選手のイップスって他人事じゃないですか。でも実際には、意外となってしまう人も多くて、それだけのプレッシャーの中でプレーしている野球選手は改めてすごいなと思いました。野球選手は年俸なども含め、そういった表に出せない話がいっぱいあるんだろうなとも感じましたね。――確かにそういった裏側をそのまま描いてしまうと、シリアスすぎてしまいますが、フィクションであれば、そういったことも題材として書けますよね。ファンは20代で辞めてしまった野球選手に「まだやれる」とか「もったいない」と思うじゃないですか。でも選手の中には「もういいっすよ」「もう充分」と思う人もいるらしいです。どちらかというと、そちら側に興味がありますね。今まであまり描かれてこなかったですし、選手としても今まで応援されてきたので、表立っては「もう充分です」とは言えないじゃないですか。そういった面を書きたいなという思いはありました。――確かに、野球小説というと「スター選手が活躍してカッコイイ!」というヒーローストーリーが多いですが、本作はそうではなく、「華やかな裏には…」という部分が描かれていますね。個人的に、欠点のないヒーローには惹かれないんです。野球場でヒーローであっても、1人の男だと思うし、それこそ"おねえちゃん"のことで悩んだりとかもあると思うので。例えば、本の中では年俸3億円の1流選手であるけれども、若手の突き上げという悩みがある姿などが登場します。普段あまり語られない、"人間"の部分を書きたかったんです。俺ら会社員も、野球選手も変わらない部分もあるよと思っています。――そういった点で、中溝さんが特に共感できる選手は誰ですか。引退しましたが、村田(修一)さんです。年が近いというのもありますし、晩年は報われなかったじゃないですか。最終的には理不尽な自由契約で、巨人から独立リーグに行くという。僕らの仕事も、良いときとダメなときがあるわけで、それを重ねられる選手に惹かれますね。――中溝さんは、村田さんが独立リーグでプレーされてるとき、インタビューもしてましたね。栃木まで行って取材しました。想像していた以上に厳しい環境で野球をしてるんだなと感じました。スポーツニュースを見ていると、「独立リーグから挑戦」という美しいストーリーで描かれるんですが、実際に友達もいない土地に家族と離れて行くことは、言うほど簡単じゃねえなと。でも、村田さんはそれをやっているんだなと感じることができました。○■2018年の巨人の振り返りと2019年の巨人の展望――そうなんですね。そんな村田さんを自由契約にして迎えた、2018年の巨人の戦いぶりについてはいかがでしたか。最終盤は楽しかったです。クライマックスシリーズのファーストステージは実際に見に行ってましたが、菅野(智之)のノーヒットノーランの瞬間がピークでしたよね。ただ、4年目の高橋由伸監督を楽しみにしていたので、辞任すると聞いたときは「俺の3年間を帰してくれ」と(笑)。自分は由伸監督をもう1年見たい派で、ようやく岡本(和真)が台頭したりと結果が出始めたときに辞めてしまったので、未来の第2次由伸政権に期待したいです。正直、子どもの頃から原(辰徳)ファンだった俺も「3度目(の監督就任)か…」と思ったのですが、オフの動きを見ていると、久々の「悪役の巨人」という感覚は嫌いじゃないですね。選手を獲りまくる、あの巨人が戻ってきたなと。巨人がこうあった方が面白いのかなと思いますし、原監督のコメントはツッコミどころがあって、マスコミもファンも盛り上がる。それも原さんの強みですよね。2019年はすごく楽しみです。――では、由伸監督が去られて残念ではあるものの、原さんには期待しているのですね。そうですね。そして由伸さんにしても、どんな表情で野球を見るのか、どんな解説をするのかも楽しみです。――それでは最後に、本書を通して読者にどんなことを感じてほしいか、お聞かせてください。本を読んで「これ自分の話だな」と思ってもらえるとうれしいです。会社員も野球選手も、結局は運やタイミングが重要で、似ている部分があるなと。野球選手もレギュラー選手がケガをしたとか、チーム事情に左右されますからね。「野球も人生もいろいろあるけど、俺ら終わっちゃないよ。まだこれからだよ」と思ってほしいです。
2019年01月03日筒井康隆の手による、SF小説の金字塔とも言うべき作品で、これまで4度にわたってTVドラマ化されてきた「七瀬ふたたび」が芦名星を主演に迎えて『七瀬ふたたび The Movie』として映画化されることが発表された。主人公・火田七瀬は人の心を読むことができる、すなわち“テレパス”であるがゆえに能力者狩りの暗黒組織に追われている。七瀬以外に透視、念動力、そして未来予知などの特殊能力を持つ能力者たちは存在するが、次々と組織に追い詰められ、命を落としていく。その中には七瀬が秘かに愛していた予知能力者・岩瀬も…。彼女たちは何のために生まれてきたのか?能力者たちの切り札的存在・時間移動の能力を持つ藤子と共に七瀬は最後の戦いに赴くが…。1970年代初頭に刊行され、シリーズ3作(「家族八景」、「七瀬ふたたび」、「エディプスの恋人」/新潮文庫刊)を通じて累計430万部を売り上げた大ベストセラー「七瀬」シリーズ。映画化は今回が初めてだが、原作者の筒井さんは「なんといっても芦名星は、今までの七瀬の中で、もっとも七瀬らしい七瀬である。強いまなざしと、凛とした態度は、七瀬のキャラクターそのものだ。人気が沸き上がること、間違いなしだろう」と太鼓判を押す。七瀬役に抜擢された芦名さんは「『七瀬ふたたび The Movie』は能力者たちのお話で、最初から不思議な世界に引き込まれます。いまの私たちの生活では遭遇しない世界なのですが、知らないところで本当にある世界のような…。演じている方々もとても個性があって、ひとりひとりの不安や葛藤、悲しい出来事やハラハラするような出来事のバランスが素晴らしいと思います。最初からドキドキして、最後まで途切れることなく、スピード感のある映画だと思いました」と自信をのぞかせる。さらに、原作のシリーズの第1作「家族八景」に言及し「こちら(「家族八景」)も読んでいた私には、(映画で)より深い部分が見えて、とても面白かったです。映画をご覧になって下さる方もぜひ『家族八景』を読んでいただいた後に、この映画を観ていただければと思います」とのメッセージを寄せてくれた。七瀬以外の能力者たちに扮する共演陣も豪華!タイムトラベラー・漁藤子役に佐藤江梨子、サイコキネシストのヘンリー・フリーマン役を演じるのはダンテ・カーヴァー、未知の能力を秘めた山沢ノリオ役を今井悠貴が演じ、そして七瀬が秘かに想いを寄せていた予知能力者・岩淵了役に田中圭が扮する。また、七瀬と行動を共にするがゆえに、闘いに巻き込まれていく真弓瑠璃役を前田愛が熱演、さらに吉田栄作が、能力者たちを追いつめる組織を束ねる狩谷を演じている。海外ドラマではここ数年、「HEROES」、「スーパーナチュラル」など超能力者たちの物語が大きな話題を呼んできたが、日本でも色あせぬ輝きを保ち続けるSF小説の傑作がついに映画化!『七瀬ふたたび The Movie』は2010年6月、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国にて公開。■関連作品:七瀬ふたたび The Movie 2010年6月、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国にて公開© 2010「七瀬ふたたび」製作委員会
2009年12月08日