意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「カマラ・ハリス米副大統領」です。初の有色人種、女性副大統領の誕生。今後の活躍に期待。1月20日より、アメリカでは新大統領、ジョー・バイデン政権がスタート。副大統領に就任したのはカマラ・ハリスさんです。昨年11月の大統領選で、バイデンさんの勝利宣言にて「私が最初の女性の副大統領になるかもしれませんが、最後ではありません」とスピーチし、多くの女性たちを勇気づけました。副大統領の最大の職務は、任期中に大統領が死亡や辞任、免職した場合に昇格し、すべての大統領権限を担うこと。つまり、次期大統領になる可能性もあり、アメリカでは副大統領候補同士の討論会がテレビ放送されるほど、大事なポストなんです。ハリスさんは黒人女性としては史上2人目の、南アジア系のアメリカ人としては初の上院議員。アフリカ系、南アジア系のアメリカ人としても、女性としても初めての副大統領になりました。父はジャマイカ人で経済学の研究者、母はインド人でガンの研究者です。二人は大学在学中に公民権運動に関する卒業研究を通じて知り合ったそうです。ハリスさんは小さいころから、妹とともに人種差別の抗議デモに参加しており、筋金入りのダイバーシティ論者なんですね。7歳のときに両親は離婚しますが、母は黒人女性であることに誇りを持つよう徹底的に伝えました。カリフォルニア大学卒業後は検事として活躍。サンフランシスコの地方検事を2期務めました。任期中、有罪判決率が52%から67%に上がるという功績を残しています。主に性犯罪を中心に取り組んだそうです。前回の大統領選で、ヒラリー・クリントンさんは“ガラスの天井”を破ることができませんでした。ヒラリーさんは白人で裕福なので、批判も受けやすかった。でも、ハリスさんは移民二世です。勝利宣言のスピーチでも19歳でインドからアメリカに渡った母のこと、また、これまであらゆる人種の公平と自由と正義のために戦い、犠牲を捧げてきた女性たちについて語りました。アメリカの分断を修復できるかどうかは、多様性の象徴のようなハリスさんが活躍できるかどうかにかかっています。自由主義を支えるのは多様性なのだということが証明できれば、アメリカの再生も見込めることでしょう。堀潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が昨年公開された。※『anan』2020年1月27日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年01月21日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「ブレインテック」です。脳波とITの融合。病気治療にも役立つ技術開発。昨年11月に野口聡一さんを乗せた民間の宇宙船を打ち上げたスペースX社。CEOはイーロン・マスク。彼の事業でいま最も注目されているのが、2016年に設立したニューラリンク社です。ここでは、人間の脳とコンピューターを繋ぐ技術「ブレイン・マシン・インターフェイス」を研究開発しています。脳とコンピューターが直接接続されて、人体の機能が拡張されていく未来がもう始まっているんですね。脳神経とITを融合させる新しいサービスや研究開発のことは、「ブレイン(脳)」と「テクノロジー」を合わせて「ブレインテック」と呼ばれています。昨年8月末にニューラリンク社は、脳に脳波を読み取るデバイスを埋め込んだ豚の様子をリアルタイムでモニタリングしました。今後、思ったことがそのまま目の前で起こるようなこと、たとえば「スイッチをつけたい」と思うと、すぐに部屋の照明がつく、みたいなことが可能になるかもしれません。元ケンブリッジ大学の研究者たちが作ったBIOS(バイオ)社では、脳から発せられる情報を操作し、難病の治療を内側からやろうという技術の研究が行われています。脳の神経情報を解析し、書き換えることで心臓病や糖尿病、関節炎などの症状の改善が期待されています。2021年中には臨床試験の開始を予定しているそうです。スウェーデンのスタートアップ企業では、うつ病治療に前頭部を刺激して症状を改善させるヘッドセットを作りました。欧州では認証され、自宅で使えるものとして、実際に治療に投入されているようです。ほかにもマイクロソフト、オラクル、シスコなどの米国企業、日本の富士通などもブレインテックの研究を始めているといわれています。これからは脳のデータが大きな資産になっていくでしょう。自分さえ無自覚なことが、情報としてどこかに集積されることになるのですから、すごい時代です。究極の個人データを誰がどう管理していくのかが課題になりますね。本来なら、一企業や一国家ではなく、人類データセンターのような公平を期したところに預けられるとよいのかもしれません。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が昨年公開された。※『anan』2021年1月20日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年01月14日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「子供・若者白書」です。自己肯定感の低い若者たち。長所を伸ばせる社会に。内閣府が毎年国会に提出している「子供・若者白書」。2019年に発表された「日本の若者意識の現状~国際比較からみえてくるもの~」が話題になりました。これは‘18年の冬に7か国の13~29歳の男女を対象に行われた調査で、国際競争力や結婚観、自ら切り拓く力など、日本の国力に関わる若者の実態を知ることが目的で行われました。この結果、日本の若者は他国の若者と比べて、自己肯定感が低い傾向にあることがわかりました。「自分自身に満足しているか」という問いに対して、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」を含め、イエスと答えた若者は、日本は5割に届きません。ところがアメリカは「そう思う」が57.9%。肯定的回答を合わせると、欧米諸国はほぼ8割を超えています。「自分に長所があると感じているか」という問いには、「そう思う」と断言する日本の若者はわずか16.3%。他の6か国は日本の倍近く、さらにそれ以上の高い割合で「そう思う」と答えています。日本の若者の自己肯定感の低さは、自分は役に立たないと感じる「自己有用感」の低さが関わっているようだと内閣府は分析しています。一方で、家族に大切にされていると感じる若者は多く、海外留学や海外居住を求める割合は低い。堅実で謙虚な優しい日本の若者像が浮かび上がりました。なかでも気になったのは、「よく嘘をつくか」という問いに7割の若者が、つかないと答えている一方で、「人は信用できないと思う」という設問に肯定的回答をした割合が5割以上。これは、政府のモリカケ問題や桜を見る会の問題、ブラック企業やいじめを隠蔽しようとする学校など、社会に対する不信感の表れなのではないかと思います。「うまくいくかわからないことに意欲的に取り組むか」という設問にはイエスとノーの回答がほぼ半々でした。成功体験の有無が影響しているのかもしれません。1月11日は成人の日。若者たちがそれぞれの特性に応じて活躍できる環境を、社会として作るべきではないでしょうか。若者のみなさんには、とるに足らない人間なんていないのだから、好きなことを追求して長所を伸ばしていってほしいと思います。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が昨年公開された。※『anan』2020年1月13日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年01月09日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「2020年の民主主義」です。民主主義の危機が深まった2020年。国連の変革を求む。2020年は民主主義が問われた一年でした。香港の民主主義は失われ、一国二制度は実質、消えてしまいました。ベラルーシでは独裁政権を倒そうとデモが続いていますし、タイでは’16年に即位した新国王がスキャンダルにまみれ、経済も悪化しており、若い世代を中心に憲法改正や王室改革を訴えて大規模なデモが始まりました。スーダンでは市民革命が成功し、新たな和平を生み出そうとしています。レバノンやパレスチナ、ヨルダンでも、強権的な政治に対して、市民の生活が立ちゆかなくなり、連日、反政府運動が行われています。これらは思想の運動ではなく、市民の「生きるための戦い」。やむにやまれぬ状況に追い込まれて声を上げています。新型コロナウイルスによって経済状況が悪化し、これらの動きは加速しました。この流れは、経済の仕組みが変わらない限りなくならないのだろうと思います。つまり、民主主義と資本主義の相性が悪いということがわかってきたんですね。資本主義で国の覇権を広げていこうとすると、民主的な手続きを踏まない独裁政権のほうがスピーディに進める。そうして中国は、コロナからもいち早く立ち直り、経済政策も着実に実施していきました。世界のなかで中国の存在はより大きくなり、アメリカに伍する経済大国になりました。中国との関係が深い国や企業は安定するけれども、搾取される市民にとっては自由と尊厳が奪われるような状況が鮮明に。先日もブータン領内に集落を建設して、実質的な移民政策を始めようとし、インドとの緊張が高まってきています。ただ、そうした覇権の先に本当の豊かさがあるのでしょうか?情報が公開される透明性のある政府と、市民が参加できる民主主義でないかぎりは、状況は改善されないでしょう。国連が機能不全に陥っているのも問題です。太平洋戦争が終わってから75年。国連は戦勝国によって作られた組織ですから、日本もドイツも常任理事国ではありません。インドやアフリカ、中東のリーダーも世界の秩序決定に参加したいと思っています。多様化するいまの世界に応じた、新しい時代の秩序を作ってほしいなと思います。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開中。※『anan』2020年12月30日‐2021年1月6日合併号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年01月02日世界各地の紛争や民主化運動も景気の向上も、「消費」から「生産」への転換がポイント。堀潤&五月女ケイ子が語り合います。自分で作る喜びが、新しい仕事を生む。五月女(以下、五):‘20年は香港やベラルーシなど、民主化運動が世界の各所で起きていました。堀:ベラルーシも香港もシリアも、経済格差が民主化運動の根本にあることが多いです。Black Lives Matterもそう。黒人の所得が著しく抑えられていて、教育機会も恵まれず、搾取され続けている構図は、まさに「生きる権利」の問題なんです。声を上げると大きな権力によって逮捕、拘束、場合によっては殺害されてしまう、そうした人権弾圧は無視できません。経済格差の問題は、日本も直面している課題ですよね。知らず知らずのうちに私たちも搾取の構図のなかに生きている可能性もあります。五:そういうニュースを見ると、自分たちではどうにもならないし、いったい、どうしたらいいんだろうという気持ちになっちゃいます。堀:意外に思うかもしれませんが、紛争地域や開発途上国の人道支援法がヒントになるかもしれません。その土地で農業を始めるなど、自分たちの仕事を作り、安定した収入が得られるようお手伝いするんです。持続可能な仕組みができると地域は安定します。「生産者になる」ということは大きなポイントになると思います。五:生産者…ですか。堀:現在の資本主義のグローバル経済は、海外でモノを安く作らせて、安く仕入れたものをある程度の値段で売って利益を得るという仕組みでした。多く儲けるために、労働力のより安いほうを求め、搾取の流れが加速しました。儲けは企業に吸い取られて、労働者は安い賃金で働き続けるしかない、その不満のくすぶりがやがて争いにつながります。それが、新型コロナによって移動が制限され、海外からモノが入らなくなってしまった。そのとき、地元で作ったものを地元で消費する、土地に根付いた経済活動が支えになったんです。コロナ禍が始まったころ、マスク不足になりましたよね?五:そうでした!自分たちで布マスクを作ったりしてました。堀:消費するばかりの生活だったけど、コロナによって、生産する喜びを知った人が多くいたんですね。お店で高い家具を買うよりも、自分でDIYするほうが楽しいとか、グルメサイトのレストランめぐりをするより、自分で育てたトマトを食べるほうが幸福だとか。五:よくわかります!自粛中、家のなかでもいろいろ工夫して過ごすという生活が意外と楽しかったんです。それまでは一人で植物を育てていたのですが、娘もガーデニングに目覚めて、ベランダ中が緑になりました。温泉に行けないからと、バスルームに「湯」と書いて、温泉宿のつもりになって1日3回もお風呂に入ったり(笑)。堀:それですよ!(笑)自分で何かを作り出すことに幸福価値を置くようになる。個人もそれができるようになると経済が上向きになります。これまでは消費することで経済を回していました。それによって、モノは安く叩かれ、日本経済は縮小しました。コロナ禍によって、自分で何か付加価値をつけて「生産者」になれたら、1人当たりのGDPが上がります。日本のGDPは世界3位ですが、1人当たりのGDPは25位にまで落ち込んでいるんです。五:自分で作るとなると、それだけ時間も必要になりますね?堀:スローライフのような価値観が今後は広がっていくのだと思います。政府は1人当たりの生産を効率的にいかに上げるか、ということに腐心しています。たとえば「介護などの仕事は機械やAIに任せて、浮いた時間をあなたのほかの生産に当ててほしい」と。五:え?AIで浮いた時間も働かなきゃいけないんですか?(笑)堀:人口減少、少子高齢化の進む日本は、機械化、AI化によって、生産効率を上げ、いまの税収を維持することが国に課せられているんです。女性もお年寄りも障害のある方もみんな働く「一億総活躍社会」ですから!(笑)五:休ませてはくれないんだ…。堀:それも考えようです。「つまらない作業はAIにまかせて、あなたは大好きな野菜作りで生計を立てられるようにしましょう」ということ。YouTuberではないですが「自分の好きなことを仕事に」と理想を掲げています。五:でも、好きなことをお金につなげるのって難しいですよね?堀:まず、自分の好きなことは何なのかを知る必要がありますよね。そのための教育や大学のあり方も変わっていかないといけないでしょうね。組織のなかで従順に仕事をこなすのではなく、自分から仕事を生み出す、企業家のような発想が求められるでしょう。五:なるほど。消費者から生産者への移行って、原始的な社会に還るということなんですか?堀:いえ。生産にデジタルを組み込もうとしています。どこにどんな作物の種を蒔き、いつどのくらい水をやれば収穫できるのか。AI解析による指導で、プロ並みの農作物が作れるようにするとか。五:原始と科学のコラボ!?(笑)堀:コロナによって、業態も変わっていきます。たとえばこれからのレストランは、シェフがレンタルキッチンで作った料理を宅配によって届けてもらうことがメインになっていくかもしれません。五:新しい仕事を考えないと(笑)。堀:今後は自力でお金を生み出せる人とそうでない人が出てきます。国は生み出せない人をどうサポートするか考えてほしいと思います。堀 潤さん1977年生まれ、兵庫県出身。ジャーナリスト。監督したドキュメンタリー映画『わたしは分断を許さない』が公開中。同名著書も刊行。ほかに『堀潤の伝える人になろう講座』等。五月女ケイ子さん1974年、山口県生まれ、横浜育ち。イラストレーター。WEBサイト「五月女百貨店」では、‘21年のカレンダーほか、楽しいグッズが絶賛販売中。※『anan』2020年12月30日-2021年1月6日合併号より。イラスト・五月女ケイ子取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年01月02日‘21年、必ずある衆議院選挙。選挙が欲望の装置に大化けする可能性も。堀潤&五月女ケイ子が語り合います。菅政権の行政改革。ちゃんと見極めて。堀:‘20年は7月に東京都知事選挙がありましたが投票率は低いまま、小池百合子さんが圧勝しました。‘21年には衆議院総選挙が予定されていますが、ちょっと警戒しなくちゃいけないなと思ったのは、政治家に求める一番が経済、景気を良くすることになってきていることです。五月女(以下、五):やっぱり景気は良くなってほしいし、そこを求めてしまいますよね…。堀:誰にとっての景気か、というのもあります。ある程度資産を持ち、運用収入のある人たちにとっては、いまもものすごく景気がいいんです。コロナ禍にもかかわらず株価は上がってバブル期を超える勢い。アメリカではニューヨークダウが初の3万ドル突破というようなことまで起きました。五:そうなんですか!堀:一方で、資産がなく、仕事も住む場所も奪われ、生きる希望を絶たれてしまう人もいる。激しく二極化して、パラレルワールドのようなことが起きているんです。選挙で象徴的なのがアメリカ大統領選挙なんですが――。五:バイデンさんが勝ちましたね。堀:はい。ギリギリのところでトランプさんが負けたという感じでしたね。もともと、トランプさんを支持していたのは、「ラストベルト(錆びた工業地帯)」と呼ばれる地域の、格差の底辺のほうにいる人たちです。「メディアも投資家も敵だ。自分たちのアメリカを取り戻そう!」と言って、支持者を熱狂させました。目先の欲望の装置として選挙が働くと、またたく間にトランプさんのような急進的なリーダーを生んでしまいます。バイデン大統領になっても、格差はなくならないので、「富裕層のための政治をしている」という不満は今後も根強く残るでしょう。五:アメリカって、はっきりと勝敗がついていいですよね。日本は選挙をしても、政治があまり変わらない感じがしちゃいます。堀:国民が大統領を直接選んでいるということが大きな実感につながっているかもしれませんね。日本は政党を選んで、選ばれた与党から総理が選ばれますから。日本の歴史家が指摘していましたが、平家が負けて以来、古い封建社会、武家制度に慣れきってしまい、「お上の文化」として、上が決めたことに従う体質が日本人はなかなか抜けないそうです。五:選挙のときも、普段、政治についてあまり気にしてないので、よくないと思いつつ、投票前日に候補者を考えたり、いつもどう選んだらいいかわからないんです。堀:選ぶポイントの一つは、「自分がどういう社会を求めるか」ですよね。9月に菅さんが新しい総理になりましたが、安倍さんの任期満了までなので期限つきの1年間なんです。次の選挙ではその働きも問われます。菅さんにしてみれば短期間で結果を出さなければならないので、実現させやすい小さな成功を積もうとしています。脱ハンコ、不妊治療の保険適用、選択的夫婦別姓の実現、携帯電話の料金値下げなど…。五:それは嬉しい!堀:そう。みんなが反論しないようなことを次々に実行する。ただ、考えなくてはいけないのは目の前の問題だけではないはずです。五:でも、小さなことでも、そんなふうに一つ一つ実現していってくれたら、それはそれで気持ちがいいし、「やってくれている!」という感じがしちゃいます(笑)。堀:そうですね(笑)。でも、携帯の値下げがどういう文脈で始まったか。消費税を10%に上げて消費が落ち込みました。みんな、何にお金を使っているか調べたら、携帯や通信費。携帯会社ばかり儲けさせるなんてとんでもない、ほかにも消費を回せ!と値下げを迫ったんですね。五:みんなの生活のために安く、ではなかったんですね(苦笑)。堀:携帯会社の料金が高いのは、5Gの開発に投資しているからです。IT関連は、日本は完全に世界に出遅れて、AmazonやGoogleに国民のデータをごっそり預けている状態。それで本当にいいのでしょうか?国も携帯会社も、なぜ料金が高額になるのか、明確な説明をすればいいと思うんです。五:たしかに。高い理由がわかれば納得して払います!堀:「脱ハンコ」も経済のスピードを上げるためです。役所と民間の取引で、役所側の決済に時間がかかると民間の事業のスピードも落ちてしまう。だから、無駄な押印は省略することになりました。不妊治療の保険適用は、女性がもっと働いて社会で活躍できるようにするため。経済活動人口を増やして税収を上げたいというのが本音です。経済を回すのに阻害されている要因を逐一洗い出しているのが、菅政権の行政改革なんです。五:全然知りませんでした(笑)。良さそうに思える政策も、裏の意味を考える必要があるんですね?堀:いまはコロナなど、不安要素がたくさんあるので、なんでもスピーディに解決することを求められます。でも、効率ばかり重視されると、民主主義にとって一番大事な熟議、じっくりといろんな意見を交わして確かな選択をしていくということが見過ごされてしまいます。五:みんなの意見を聞いていたら、たしかに時間はかかりそう。堀:デジタル庁を立ち上げて、デジタル化を進めても、私たちの個人情報をどう管理し、透明性はどれくらい担保されるのか。そういう議論をすっとばすことに危険が潜んでいるかもしれないことを忘れないでほしいです。誰もが「いいじゃない」と思える政策に落とし穴がないか、そこを検証するのがメディアの役割だと思います。堀 潤さん1977年生まれ、兵庫県出身。ジャーナリスト。監督したドキュメンタリー映画『わたしは分断を許さない』が公開中。同名著書も刊行。ほかに『堀潤の伝える人になろう講座』等。五月女ケイ子さん1974年、山口県生まれ、横浜育ち。イラストレーター。WEBサイト「五月女百貨店」では、‘21年のカレンダーほか、楽しいグッズが絶賛販売中。※『anan』2020年12月30日-2021年1月6日合併号より。イラスト・五月女ケイ子取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年01月01日堀潤&五月女ケイ子の「社会のじかん」SP。激動の時代、日本は、世界はどう変わる?東京五輪はフルスペックでの開催にならなそう。五月女(以下、五):‘20年に開催予定だった東京五輪が、新型コロナで延期になってしまいました。‘21年はできそうなんでしょうか?堀:僕が取材した大会関係者によると、通常の形では無理といわれていますね。五:国際オリンピック委員会のバッハ会長も来日していたので、やる気満々なのかと思ってました。堀:「できるものならやりたい」というのはみんなの総意なんですよ。そして、バッハ会長は開催する立場の人。ただ、実際には、いかに混乱させずに、通常開催は難しいという空気を広げていくか。「激変緩和策」というのですが、急に計画を変更できないので、段階を踏んでみんなが納得できる形を目指そうとしています。どの競技なら開催できそうかという検証が水面下で始まっているんですね。五:密にならずにできる競技に絞って開くということですか?堀:そうです。基本的にフルスペックではやれない。開催方法も模索しています。たとえば、各国のプールで水泳選手が一斉に泳ぐのをカウントするのはどうかとか。フェンシングなどは密を避けられる競技ですよね?五:ほんとだ。マスクもしていますし、完全に距離を保てる!今後、コロナでも大丈夫な新しい競技が増えるかもしれないですね。堀:はい。競技によってはルールの変更もあるかもしれません。パラリンピックは、障害によっては感染リスクも大きいので、無理はさせられないといわれています。五:選手たちはどう受け止めているのですか?堀:パラリンピック選手のメンタルトレーナーの方に伺ったところ、東京に照準を合わせて、開催できなくなると衝撃が大きいので、次のパリやロサンゼルス五輪にモチベーションを持っていこうとしているとおっしゃっていました。五:4年後、8年後にですか…。堀:でも、ほかにも方法は模索されていて、最近では「バブル(注1)」といって選手と関係者だけを完全隔離して、ホテルと競技会場を往復する開催方法が試されました。先日は水泳の国際大会で採用され、北島康介さん率いる日本チームが好成績を残しました。注1「バブル」選手と競技を「バブル(泡)」のなかに包み込むイメージで、徹底した感染予防対策を講じた大会運営方法。競技場、練習場、ホテル、移動バスをすべて隔離し、移動の動線まで制限し、開催期間中、バブルにはPCR検査で陰性が証明された関係者しか入れないようにします。NBAが行ったものを参考に、‘20年秋にブダペストで行われた国際水泳リーグでも実施されました。新省庁「デジタル庁」がコロナ対策の時短を進める?堀:‘21年の大きな目玉としては、「デジタル庁」が誕生します。五:具体的にはどんなことをするんですか?堀:いままで、いろんな省庁にまたがっていたことを統合します。たとえば、‘20 年5月に「スーパーシティ法(注2)」の改正案を成立させましたけど、これを実際に運用しようとすると、新しい技術革新が必要になる。自動車の自動運転や再生可能エネルギーの一体運用、高齢者の健康をリアルタイムで把握できるIoT等々。これらは管轄がそれぞれ、国土交通省、経済産業省、厚生労働省とバラバラだったんです。データをどこでどう管理するか、どう認可を出すか、全体設計を描くのがデジタル庁。五月女さんは、マイナンバーカード(注3)は作りました?五:まだです。区役所で申請用紙をもらってはきたんですけど(笑)。堀:‘21年3月からマイナンバーカードの健康保険証利用、‘26年には運転免許証との一体化が予定されています。マイナンバーは総務省、保険証は厚生労働省、運転免許証は警察庁関連。これらを1枚のカードに統合するのに、デジタル庁のような統合機関が活躍するんですね。マイナンバーカードがあれば、住民票や印鑑証明もコンビニの複合機に差し込めば読み取ってすぐに入手できますよ。五:うわー、便利になりますね。堀:コロナ対応も、これまでは保健所から上がってくる感染者数を手書きで書いてそれをFAX送信して集計するというアナログなやり方が一部で課題とされました。それが、今後、発熱者数からPCR検査を受けた人、入院の必要な人などデータで一括運用できれば効率的かつ迅速な対応がとれます。コロナによって働き方もライフスタイルも国の仕組みも変わりました。防災の観点からもテクノロジーの活用は、これからさらに求められるようになるでしょうね。五:アナログだった私もコロナによって、キャッシュレスとかオンライン打ち合わせとか、新しいことを強制的にでも受け入れるようになりました。自分がIT改革されたみたいでびっくりです(笑)。SF映画のようなことが現実になって、私だけじゃなく政治も変わっていかないといけないんですね。都市と地方の格差を埋めるのは防災力UPがカギ。五:人によってコロナの感染予防の意識もいろいろですよね?Go To トラベルキャンペーンが始まって、旅に出る人もいれば、「東京から来るな」と言われて実家の法事にも出られないという人の話も聞きます。堀:本当に難しい問題ですよね。東京は比較的近くに病院がたくさんあります。それでも感染者が増えて、病院がひっ迫しそうな勢いなのに、地方の医療体制はさらに脆弱なんですね。地方で感染者が増えれば、医療崩壊も起きかねません。地方の防災力を上げていかない限り、そうした批判はなかなかやまないでしょうね。五:いつになったら、気兼ねなく東京と地方を行き来できるようになるのでしょう?まだ時間がかかりそうですよね…。堀:いつとは言い難いですが、一方で、コロナ禍でリモートワークが可能になって、都心から周辺地域に移住を決めた人も目立ってきたんですよ。地方のほうが住環境もいいし、暮らしやすいと、鎌倉や逗子、葉山、茅ヶ崎などの湘南エリアに家族連れで引っ越す人たちが増えて、物件の値段が上がっているそうです。五:そうしたい気持ちはわかる気がします。堀:通勤ラッシュも、地方と都市の格差も、東京一極集中が問題なんですよね。国もワーケーション(注4)を推進したり、地域にいながら日常の生業を維持できるあり方を提唱したりしています。新型コロナ問題がある程度解決の目処がついたら、本格的に都市と地方の格差是正を進めることが今後の課題になるだろうと思います。五:地方の医療体制は、これから良くなっていきますか?堀:そこで有効なのが「オンライン診療」ですね。初診からオンラインでできるようになりました。いままでは地域の薬局を守るために、オンラインで薬を出すことは許可が下りませんでしたが、コロナによって、一気に解禁の流れになってきています。五:暮らしも人の価値観もコロナで変えざるを得ないことになって、いろんなことを良い方向に変えていってくれているのかも?堀:進まなかった問題が一気に進んだところはありますよね。コロナくらいの大きなインパクトがないと、なかなか変えられなかったんでしょうね。注2「スーパーシティ法」「スーパーシティ」構想を盛り込んだ、国家戦略特別区域法(特区法)の一部を改正し、規制緩和する法案が‘20年6月に公布。スマートシティに防災や社会福祉の要素を加え、地域住民のデータを連携して管理することで、効率のいい都市計画を‘30年ごろまでに実現しようとしています。注3「マイナンバーカード」マイナンバー(個人番号)とは、住民票を持つすべての人に番号をつけ、年金や保険、税金、収入などを一括管理しようというシステム。マイナンバーカードは、マイナンバーが記載された顔写真やICチップつきのカードのことで、交付には申請をしなければいけません。マイナンバーカードがあれば、1枚で様々な行政手続きがオンラインで申請できるようになります。政府はカード所持者を増やしたく、マイナポイントを発行するなど、手を尽くしています。煩雑だった申し込みも、スマホやPCでもできるようになりました。注4「ワーケーション」「ワーク」と「バケーション」を組み合わせた造語。リモートワークを進化させ、地方やリゾートなど、旅行先でも仕事ができるようにし、積極的に休暇が取れるようにしようと、国が推奨しています。堀 潤さん1977年生まれ、兵庫県出身。ジャーナリスト。監督したドキュメンタリー映画『わたしは分断を許さない』が公開中。同名著書も刊行。ほかに『堀潤の伝える人になろう講座』等。五月女ケイ子さん1974年、山口県生まれ、横浜育ち。イラストレーター。WEBサイト「五月女百貨店」では、‘21年のカレンダーほか、楽しいグッズが絶賛販売中。※『anan』2020年12月30日-2021年1月6日合併号より。イラスト・五月女ケイ子取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年12月31日新型コロナウイルス感染症の登場によって翻弄された2020年。生活様式もすっかり変わりました。今後の社会はどうなるのか?運命を拓くために、社会情勢を知ることは必須。堀潤&五月女ケイ子が検証します。afterコロナ?or withコロナ?2020-‘21の最大の課題を考える!堀:‘20年は新型コロナウイルス一色でしたね。五月女(以下、五):仕事柄、普段から家に籠もっているので、生活自体はあまり変わらないけど、外に出るのが怖くなっちゃいました。堀:緊急事態宣言が出たときは、法律に縛られたわけではないのに、みんな自粛して、あんなに人のいない渋谷や新宿を初めて見ました。見事に足並みが揃った。日本人らしさを発揮しましたね。五:ハロウィンもみんなおうちで過ごしていたみたいですし。堀:オンラインでアバターで参加とかね(笑)。強権と言われた前安倍政権でも、スペインのように自粛中に外出したら逮捕とか、韓国のように行動をGPSで追跡するなんてことはしなかった。接触確認アプリCOCOAを開発しましたが、必要最低限の情報だけ収集。日本の民主主義は国家権力に慎重姿勢だということが再確認できました。しかし、冬を迎え、再び緊張した状況に。正念場ですね。五:世界中が同じ状況になること自体が初めて。コロナ対応が国によって全然違うのも興味深かったです。ところで、ワクチンって、いつごろできそうなんですか?堀:ワクチンの開発(注1)は、通常では早くても3~4年はかかってしまうんです。副反応、副作用がないか、実証を得るまでに時間がかかります。ただ、開発にイノベーションが起きて、ウイルスのデータ解析に基づく机上の計算でできるようになりました。また、承認手続きを簡略化し、開発までの時間を短縮化するという国際的なコンセンサスも得られました。中国がいち早く開発に成功したのですが、安全面には課題が残っています。アメリカのファイザー社とドイツのビオンテック社が開発したワクチンは95%、アメリカのモデルナ社のワクチンは94%の有効性があると発表されました。イギリスのアストラゼネカ社のものは、たやすく保存でき、コーヒー1杯分(4ドル程度)で一回打てるようになるのではないかといわれています。五:うわあ。それは嬉しい!堀:イギリスでは早くも12月頭にファイザー社のワクチンを承認しましたし、アメリカでも緊急使用許可を申請しています。これらの発表は、メッセージ性のほうが強いのだと思います。「ワクチンがある」という安心感が人を動かしますよね?ただ、ワクチンはリスクゼロではありません。投入を急げばリスクは高まるし、安全性を求めると投与に時間がかかってしまいます。日本の国会では、ワクチンをどう承認し、深刻な副反応、副作用が出た場合の対処法などを協議しています。こうした動きは、きっと常態化していくのでしょう。五:常態化というと?堀:新型コロナの話は、いってみれば「シーズン1」で、別の新しいウイルスが「シーズン2、3」として登場するでしょう。そのたびにワクチンを即座に開発し投入が迫られる。どんな速さでその戦いを迎え撃つのか。タッチアンドゴーのような訓練がこれから続いていくんだと思います。注1「ワクチンの開発」新型コロナウイルスのワクチンは、中国のシノバック社がいち早く開発したものの、試したところブラジルで副反応が見られ、採用を中止に。イギリスのアストラゼネカ社のワクチンは平均で90%の効果があったと発表。他のワクチンは専用の冷蔵施設が必要なのに対して、これは一般的な温度での保管が可能なため、安価なワクチンを全世界に供給できるのではと期待されています。ワクチン開発では現段階では中国勢の分が悪い。ワクチンの主導権争いで欧米が勝てば、これまでの中国の一帯一路構想に水を差すことになり、中国になびいていた開発途上国や新興国を欧米勢に組み入れる大きな転機になりそうです。堀 潤さん1977年生まれ、兵庫県出身。ジャーナリスト。監督したドキュメンタリー映画『わたしは分断を許さない』が公開中。同名著書も刊行。ほかに『堀潤の伝える人になろう講座』等。五月女ケイ子さん1974年、山口県生まれ、横浜育ち。イラストレーター。WEBサイト「五月女百貨店」では、‘21年のカレンダーほか、楽しいグッズが絶賛販売中。※『anan』2020年12月30日-2021年1月6日合併号より。イラスト・五月女ケイ子取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年12月30日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「脱ハンコ」です。無駄な手続きを省くのが目的。押印否定ではない。菅政権になり、書類に押印をする手続きを簡略化しようと「脱ハンコ」の動きが官民で急速に進んでいます。コロナ禍のなか、テレワークが推奨されながらも、経理部門などでは、押印のためにわざわざ出社しなければいけないというような事態になっていたことも、改革の後押しとなりました。ただ、河野太郎行政改革大臣も話していましたが、政府はすべての押印をなくそうとしているわけではありません。印鑑証明や銀行印、契約書の押印などは残ります。そもそもハンコの問題ではなく、書類申請や申し込みなど、責任を分散させるために何人もの承認印を押させるなど、煩雑だった手続きを見直すことから始まりました。契約書の押印も、実は民法上では必須ではありません。口約束でも証明さえできれば契約は成立します。ただ、たとえば裁判になったとき、「自分で判を押した」ということが本人の承認意志の有無の証明になるため、押印を求められることが常になっているのです。インターネットの登場とともに電子取引が増え、2001年には電子署名法が施行されました。しかし、電子認証の申請手続きのハードルが高く、なかなか利用されませんでした。その後、テクノロジーが発達し、民間企業の方で電子署名の仕組みが進み、2017年以降、電子契約サービス市場は急速に伸びています。2018年に約37億円程度だったのが2023年には198億円になる見込みです。コロナ禍で契約者数が増え、電子契約サービスを導入している日本の法人数は300万社前後にのぼりました。Eメールの登場で、逆に、手書きの文書が特別なものになったように、今後、印を押す行為は文化として継承されていくのではないかと思います。脱ハンコは菅政権の行政改革の「1丁目1番地」。デジタル化の一つとして進められました。安倍政権のころから提案されていた事案。代替サービスもありますし、押印の必要性は法的根拠もなく、なんとなく皆が続けていた古い産業形態だったので、おそらく誰も反対はしない。ここにメスを入れるのは、菅総理にとって、手柄を立てるのにもってこいのテーマだったんです。堀潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開中。※『anan』2020年12月23日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年12月24日本誌では、連載ページをはじめ、特集記事でイラストを担当してくれることもある、五月女ケイ子さん。最近はCMなどでも活躍している、まさに売れっ子イラストレーターです。そんな五月女さんが、5年ぶりに個展を開催。タイトルは前回を引き継ぎ、その名も「乙女の逆襲展2」。スタローンの映画のような飛躍力、それを感じさせる展覧会にしたい。「’15年の展覧会の準備期間は40歳になった頃で、人生の岐路に立ってる印象がありました。その中から、自分を変えたい思い、そして“逆襲”という言葉が生まれ、あの展覧会に繋がりました。女でも『崖っぷちだ』って言ってもいいし、『酒飲みたい』って言ってもいいじゃんという気持ちで描いた絵に、いろんな女性から『今の気持ちにフィットしてます』と声をかけてもらい、『あぁ、みんな同じことを考えてたんだな』と、感動したのを覚えています」そして今年はパート2。しかも前回同様、またもや少し、迷いを感じながら準備を始めたそう。「春先からのコロナ禍の中で目標が見えなくなり、私の絵って本当に必要とされているのだろうか…と、悩んでしまう日もありました。その中でたまたまツイッターに上げた絵に、『元気が出ました』という書き込みをたくさんいただいて…。絵そのものが、物理的に何か役に立てるわけではないけれど、見た人が笑ってくれたりすることで、元気を出すことのお手伝いはできるかもしれない。そんな気持ちで、改めて展覧会に向き合うことになりました」前回は自分の殻を破るという“個人個人の逆襲”でした。さて’20年の五月女ケイ子は、何に逆襲を?「世の中の雰囲気も5年前とは大きく変わりましたよね。SNSで自分の意見を言える人が増えた印象がありますし、特に女性が『つらい!』と言えるようになった。例えば“ポテトサラダくらい作れ”論争とかもそう。女の人も男の人も、“当たり前”から少しずつ解放され始めている。そういう意味では、逆襲は結構進んでいる気がします(笑)。だからこそ今、『頑張っていきましょうよ~!』と、みんなに呼びかけたくなった…のかな(笑)。以前の私は“清く正しく美しく”でしたが、今は“清く正しく、たくましく”。私の好きな映画『ロッキー』と『ランボー』は、1は普通の映画だったのに、2になった途端、急に肉体派になるんです。この展覧会も“2”なので、その2作のような、飛躍力のある絵をお見せできたら嬉しいです」「五月女ケイ子 乙女の逆襲展2」ギャラリーハウスMAYA東京都港区北青山2‐10‐26開催中~12月20日(日)11時30分~19時(土・日曜、最終日は17時まで)TEL:03・3402・9849 ©Keiko Sootome 2020そおとめ・けいこイラストレーター。本誌で堀潤さんと「社会のじかん」を連載中。また今年は、カップヌードルやNewマイティアCLスタンダードのCMなどのイラストも手掛け、話題に。※『anan』2020年12月16日号より。写真・小笠原真紀(by anan編集部)
2020年12月12日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「大阪都構想」です。大阪をきっかけに、都市のあり方の再検討が進めば。11月1日、大阪都構想についての住民投票が行われ、反対多数で否決されました。大阪都構想とは、大阪府が「都」になることではありません。大阪市を廃止して、4つの特別区として再編。東京23区のように地域ごとに行政区を割って、地域特性を生かし細やかな地域サービスを実現。広域的な行政は大阪府が行うという提案でした。これまで大阪府も大阪市も同じように権限を持ち、財源もあるため、「二重行政」となって税金の無駄遣いになっていると問題視されていました。たとえば、大阪府で高層商業ビルを建てたのに、同じようなビルを大阪市でも建てたり。あるいは、府がやろうとすることに市が反対し、プロジェクトが進まないというような事例も重なり、大阪の産業の衰退を招いたといわれてきました。それを解消しようと当時、府知事だった橋下徹さんと松井一郎さん(現在の大阪市長)が中心となり、2010年に「大阪維新の会」が立ち上がり、大阪都構想を掲げたのです。2015年に住民投票をしましたが否決。今年2度目の住民投票も再否決され、廃案になりました。大阪維新の会は新自由主義的な政党なので、競争させて無駄は省くという考え方。コストカットの側面から、行政サービスが悪くなるんじゃないか、というのが反対派の見立てでした。廃案になったものの、菅総理は「大都市制度の議論に一石を投じた」と提案については一定の評価を示しました。実際、平成の大合併により、多くの市町村の再編が行われ、同じ市のなかでも中心部は潤うが山間部は廃れるといった格差も生まれてしまいました。逆に、合併を選ばなかった村が地域特性を生かして発展していったケースも。社会的ニーズが多様化し、生活環境が変化に富むいま、暮らしや財政の基盤となる行政はもう少しミニマムにしていったほうが、隅々にまで目が届くのではないかと思います。松井市長は、その後、大阪市を残したまま区の権限を強くする8つの「総合区」を設置する条例案を来年2月に市議会に提案すると表明。大阪に限らず、これを機に地方行政のあり方を再検討する動きが進むことを望みます。堀潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開中。※『anan』2020年12月9日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年12月08日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「日本学術会議」です。さまざまな論点が浮き彫りに。透明性が重要です。日本学術会議の新会員候補者のうち6名の任命を菅総理が拒否。その理由がなかなか明らかにされていないことから、さまざまな憶測が飛び交い、日本学術会議のあり方が問われるまで、大きな問題になりました。日本学術会議は、昭和23年に日本学術会議法という法律で定められた内閣府直轄の政府機関。日本の科学技術が戦争に利用されていった歴史を踏まえ、科学が文化国家の基礎という考え方に立ち、国の施策や生活に科学を反映させ、平和的な復興、人類社会の福祉への貢献、世界の学会と提携して学術の進歩に寄与するという目的で設立されました。また、技術の発達とともに、たとえばAIやゲノム編集など、倫理的な問題や高度な政治判断が求められるようになり、6月に科学技術基本法が見直され、科学技術に人文科学系の分野も含まれるようになりました。「科学者を養成するためにこういう施策を」「この分野に科学技術の浸透を」など、科学界から政府に対して提言・勧告するのも役割なのですが、最近では、見解を問われていない事柄については意見の発表を行わないなど、「ちゃんと機能しているの?」という批判もあがりました。日本学術会議は、独立した機関と説明をしていますが、内閣府の直轄で税金が投入されているため、本当に独立していると言えるのか?という声もあります。今回の任命拒否が、候補者の反政府的な発言や行動が理由だった場合、議論は2つに分かれます。ひとつは、国の機関なのだから、自分たちの政策に反対する人をわざわざ任命する必要はないだろうという意見。もう一つは、科学が間違った使われ方をしないためには国の方針に物言いをつけられる独立した存在としての役割を期待したい。だからこそ、反対意見を持つ人も必要という考えです。科学者の意図しない形で、技術が政治に使われてしまった最たる例は原子爆弾です。政治と科学のつながりは一歩間違えば恐ろしいことに。あらゆる観点から検証する慎重さが求められます。安全保障上の問題で、理由を説明できない事情があるのかもしれませんが、政府は情報の透明性を大事にしてほしいと思います。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開中。※『anan』2020年12月2日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年11月26日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「新疆ウイグル問題」です。企業のSDGsの意識を強めるきっかけになった。中国の新疆ウイグル自治区では、中国政府がウイグル族の人々を弾圧したり、100万人以上を収容所で強制労働させているなど、非人道的な行為が長年、世界的に問題になっていました。ウイグル族はイスラム教を信仰しており、中国共産党は実質的に宗教の自由を認めていません。特定の宗教は弾圧し、言葉や文化も漢民族への同化政策をとっています。そのことに反発し、一部のイスラム原理主義への回帰思想の人たちがテロを起こすようになり、中国共産党はそれらの過激派をテロ組織と認定し、取り締まりを強化するという悪循環も生まれているのです。今年、新疆ウイグル問題がさらに注目を浴びたのは、3月にオーストラリアの政府系シンクタンクが、世界の82社のサプライチェーン(部品や原材料の調達から製造、販売、消費までの一連の流れ)に、ウイグル族の強制労働が含まれていると発表したからです。そのなかにはアパレル、自動車、電化製品、携帯端末、ITなどの世界の有名多国籍企業や日本の企業も数多く含まれていました。これまでは人権や環境に配慮していると宣言していた企業でも、ウイグルの人たちから搾取するような強制労働に加担していることが明らかになり、各社対応に追われました。いまやESG投資が広まっており、人権や環境に感度が高い企業が投資の対象になり、それらに問題を抱えているとただちに企業価値を損ねます。しかし、サプライチェーンは多岐にわたっているため、メーカー側にしてみれば、まさか自分たちの会社が!と寝耳に水の出来事でもあったのです。トランプ政権は6月にウイグル人権法案を施行。ウイグル族弾圧に関与していることがわかった中国当局の担当者に、制裁を科せるようにする法律です。9月にはウイグル自治区で生産されている綿製品の輸入の禁止を宣言し、対中政策を強化しました。もしかしたら、私たちが普段着ている服や使っているスマホが、ウイグルの人々の強制労働につながっているかもしれません。そういう想像力を欠かさないようにしたいですね。こういう動きをきっかけに、SDGsの取り組みが世界的に進むことを願います。堀潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開中。※『anan』2020年11月25日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年11月19日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「ベラルーシ情勢」です。自由主義諸国vsロシア&独裁国家の対立が如実に。8月の大統領選挙で6期目の当選を果たしたベラルーシのルカシェンコ大統領。ネットの世論調査では支持率が3%だったにもかかわらず、80%の票を得たため、不正選挙だと市民が抗議。暴力的な制圧がなされ、直後には6000人の市民が拘束され、拷問を受けた人もいました。デモは最大時には10万人以上が参加、2か月以上たった今も、辞任を求めるデモは続いています。ベラルーシはロシアとEU諸国双方に隣接する旧ソビエト連邦の国で、「欧州最後の独裁国家」と呼ばれています。ソ連崩壊に伴う独立後、1994年にルカシェンコ政権が発足。民主的な国の誕生と、国民の期待を背負って生まれたのですが、長期政権のうちに腐敗し独裁化が進行。不正選挙が繰り返されました。経済成長に問題があり、市民の政治参加に制約がかかっていたところに、今年、大統領が「ウォッカやサウナが効く」などと新型コロナを軽視したため感染者が増え、国民の不信感はさらに募りました。そこでルカシェンコ大統領が支援を求めたのがロシア。プーチン大統領はルカシェンコを支持し、15億ドルの融資と軍事的協力の継続を約束。ベラルーシの貿易相手の80%はロシアで、文化的にも地理的にも近い存在です。ソ連から独立した国々が次々とEUに加盟し、自国と緊張関係を持つようになってしまったため、ロシアにしてみればベラルーシをEU側に引き抜かれたくない。ただでさえプーチン大統領の支持率が落ちている今、市民が蜂起して政権が倒れる事態が隣国で起きて、ロシアに飛び火することを恐れています。ベラルーシの抗議運動は音楽を流したり、民族衣装を着たり花束を持つなど徹底して平和的に行われています。暴力に訴えれば、それを理由に軍や警察に即刻制圧されてしまうからです。34年前、チェルノブイリの原発事故で飛散した放射性物質の7割がベラルーシに降り注いだといわれ、復興のために広島の原爆研究を共有するなど、核の被災国としても日本とはつながりのある国。独裁政権の横暴を止めるには「国際社会が見ている」ということが力になります。ベラルーシの現状をぜひ知っていただきたいです。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開中。※『anan』2020年11月18日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年11月12日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「小選挙区制」です。時局により、すぐ体制が変わりやすい選挙制度。安倍前総理の退陣により発足した菅内閣の任期は2021年の9月末までです。支持率の高いうちに衆議院を解散、総選挙を行って、盤石な体制を整えようという声も自民党内から強く上がっています。いま衆議院選挙で取り入れているのは小選挙区比例代表並立制。小選挙区制では、1つの選挙区から1人を選出します。この場合、与党かそれ以外か、ほぼ一騎討ちになるため、時の風によって体制が一気にひっくり返りやすい。民主党政権も、原発や消費税問題で対応を間違い、あっという間に政権が自民党に戻ってしまいました。小選挙区制では少数派の意見を拾いにくいという問題もあります。実は1993年までは中選挙区制でした。同じ選挙区内から3~5人を選べたので、多様な議員を国会に送ることができたのです。ただ、選挙区が広いと選挙運動に金がかかり、地元の有力者や代々政治家家系の候補者が有利になり、汚職も広がりやすい。それを改善しようと小選挙区制になりました。選挙で「支持する候補者はいるが、所属する政党は支持していない。どうしたらいい」という悩みをよく聞きます。僕は、小選挙区制では政治家個人の資質を見て選び、比例代表制の政党は、普段から自分の考え方に近い政党に投票するようにしています。ただ、比例代表制も、党の判断で名簿上位に並んだ候補者が私たちが選んだわけではないのに当選し、その後、汚職にまみれていく問題などが起きています。自民党の青年局が73歳定年制を打ち出したときには、党内でも相当の抵抗がありました。73歳を越えた候補者が比例代表の名簿の上位におり、本当にこの人たちは必要かと切り込んだのです。国民にとっていい政策を実現するには、与党と野党が緊張関係を持ち、多様な意見が飛び交い、慎重に議論できるようにしておくことが必須です。現在、女性議員や女性閣僚の比率はOECD加盟国でも日本は最低レベル。時代にマッチした、新しい感覚を持った議員が活躍できる国会や政府であってほしいですね。そのためにこの選挙制度は最適なのか、あらためてチェックする必要があるのかもしれません。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開中。※『anan』2020年11月4日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年11月03日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「菅内閣誕生」です。なぜ改革が必要か、目的と理由の情報公開も求む。安倍総理が病気を理由に退陣。9月16日、自民党の菅義偉総裁が、第99代内閣総理大臣に指名され、菅内閣が発足しました。就任の記者会見ではデジタル化強化のために新しくデジタル庁を創設することや、少子化対策として不妊治療の保険適用を実施したいと発言しました。安倍政権の流れを汲み、継承していくのは安全保障政策や自衛隊のあり方、憲法改正など。菅さんは外交経験は少ないため、ロシアのプーチン大統領など、前総理がこれまでに積み上げてきた信頼関係を生かし、体調が回復し次第、安倍さんが外交特使として派遣されるのではないかと注目が集まっています。特にいまは、アメリカと中国が牽制し合っている最中なので、前任者に託すというのは、いい対策なのではないかと思います。一方、内政に関して菅内閣は、積極的に改革を行おうとしています。安倍さんとの大きな違いは、菅さんは世襲政治家ではなく無派閥ということ。会見でも「行政の縦割り、既得権益、悪しき前例主義を打ち破り、規制改革を全力で進める」と断言していました。前政権では、成長戦略が道半ばで終わってしまったので、これからは民間の参入を積極的に打ち出すことになりそうです。政府内でもベンチャー企業が活躍できるかもしれないという期待は、企業家の間に高まっています。また、官邸人事は強化されるでしょう。内閣の方針に沿う人は重用するけれど、抵抗する人は容赦なく切るという傾向は今後も続きそうです。9月には「日本学術会議」が推薦した候補者のうち6名の任命を見送りました。その理由が不明だという声が上がりましたが、明確な説明はなされていません。パンケーキ好きなど、柔らかいイメージのメディアプロパガンダも効いて、就任時には74%と高い支持率を集めました。しかし、改革により、特定の産業や企業、一部の富裕層や企業家にのみ利益がもたらされ、弱者が切り捨てられることになってはいけません。「誰にとっての改革なのか」ということは見失わないでほしいと思います。また、なぜ改革が必要なのか、目的と理由に関するしっかりとした情報公開はぜひ求めたいところです。ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開中。※『anan』2020年10月28日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年10月21日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「優生思想」です。弱者を切り捨てる、効率主義に基づく恐ろしい思想。優秀な人間を増やし、劣った人を排除しようとするのが「優生思想」です。象徴的なのはナチスドイツ。「アーリア人は世界一優秀で、最も卑劣なのはユダヤ人だ」と根拠もなしに決めつけ、大量のユダヤ人を強制収容所に送り虐殺しました。ナチスはそれ以前に、障害のある人々を排除していました。第一次世界大戦に負け、民族の誇りを傷つけられたドイツ。世界恐慌に襲われ、強い国として復活を遂げねばならなくなったときに、「効率の悪い人間はいらない」と、障害のある人やLGBTの迫害を始めたのです。ドイツ国民はこれに対して否定的な声をあげませんでした。国の成長のためには仕方がないと段階的に優生思想に染まり、ユダヤ人虐殺も容認してしまったのです。ナチスの崩壊により、この思想の根本的な間違いにドイツは気づきましたが、戦後も優生思想を続けていたのが日本です。1948年に「優生保護法」を制定。「不良な子孫の出生の防止」「母性の生命健康を保護する」ことを目的に定められ、本人の同意なしに中絶、避妊、断種(手術により生殖能力を失わせること)をさせていました。この法律は1996年、「母体保護法」に改定されるまで続きました。優秀か否かを国が選別し、劣っている人を、国を挙げて差別するというのはとても恐ろしいことです。これは産業構造に支配された考え方といえます。学校教育でも科学の発展につながる理数系は尊重され、国語や音楽など、生産性に直結しないものは役に立たないというような価値基準が広がってはいないでしょうか。7月、有名ミュージシャンが、優れた遺伝子を持つスポーツ選手や芸能人の配偶者は、国家プロジェクトとして政府が選定するべきじゃないかとツイートし、大きな波紋を呼びました。これは、優秀でなければ社会に必要ないという考えに結びついてしまいます。「効率の悪い人は社会のお荷物」という感覚は、私たちのなかに、拭えず残っているのかもしれません。優生思想的なものがあるかもしれないという自覚は持っておきましょう。社会の効率主義が変わらないかぎり、優生思想は生き続けてしまう恐れがあります。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開中。※『anan』2020年10月21日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年10月16日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「TikTok買収」です。モバイル向け動画のプラットフォーム、TikTokが急成長。ダウンロード数は世界で20億件を超えました。TikTokの親会社は中国企業のバイトダンス。個人情報が中国政府に流出するのではという懸念から、インドは6月に国内でのTikTokの使用を禁止。トランプ大統領も「安全保障上の理由から、閉鎖されるか売却されるかだ」と述べ、TikTokのアメリカ事業の買収に、マイクロソフトほか数々の企業が興味を示しました。最終的には、オラクルとの提携が決定。TikTokやWeiboなど、中国のSNSを運営する企業の真の目的は、利用者のスマホのなかに、どれだけ自分たちのビジネスインフラを入れ込めるかということです。利用者のモバイルに入り込み、利用者の情報をコントロールし、嗜好にぴったりのモノを売るインフラを世界に広げていこうとしています。中国は5月に「デジタル人民元」の試験運用を開始。中国当局が発行するデジタル通貨がアプリを介して世界に流通する日も遠くないでしょう。すると、中国系のアプリサービスや通貨を使用しなければ、世界の商売に参画できなくなる可能性も出てきます。アメリカやEU諸国は、そうして世界の貿易地図が中国に塗り替えられることを最も恐れています。日本や欧米諸国からすればそんな中国は脅威ですが、世界に照らしてみれば、中国に親和性のある国のほうが多数。一帯一路構想が広がり、東南アジアやアフリカ、東欧、中欧諸国などは、経済的に強く結びついている中国との共存共栄を望んでいるのです。独自のITインフラを持っていない日本は、すでにアメリカ系のインフラを使用しています。EUも独自のインフラはありませんが、自衛のために、個人情報を企業に握らせないルールづくりを徹底し、制裁金を課すなどのプレッシャーをかけています。日本政府は国民に何のリスクも知らせないまま、行政までもが海外のプラットフォームを使っています。これは、危機感が少し足りないのではないでしょうか。自国の商売や国民の情報を守るのが国の役割。それができないのなら、自衛の策を直ちに打つべきだと思います。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開中。※『anan』2020年10月7日号より。写真・中島慶子題字&イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年10月02日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「日本の防衛」です。攻撃力を高めるより外交、経済政策でリスク回避を。日本の防衛における今年の大きなトピックは、河野防衛大臣が陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の秋田・山口への配備を撤回したことでしょう。撤回の理由は、想定されていた安全が確保できないこと。改修に費用がかかりすぎることなどでした。イージス・アショアは、飛んできたミサイルを撃ち落とすシステムです。いま計画を撤廃することで、防衛のためには敵基地に攻撃する能力のあるミサイルシステムが必要なんじゃないかと、話は思わぬほうに進んでいます。そうなると新しい兵器を買わなくてはいけませんし、攻撃能力を持てば、当然攻撃されるリスクも高まります。こうして、際限なく防衛力の拡張にひきずりこまれてしまうことを「安全保障のジレンマ」といいます。2020年度の防衛予算は5兆3130億円と過去最大になりました。2010年くらいまでは5兆円程度でしたが、近年一気に跳ね上がっています。理由の一つは、アメリカが防衛費を見直したこと。自国の経済も疲弊しているアメリカは、日本や韓国から軍を撤退し、自分の身は自分で守ってくれという姿勢でいます。これを受け、これまで空母を持たなかった日本も、空母の機能を持たせるために護衛艦いずもを改修したり、母艦に離発着できるオスプレイを配備したり、宇宙やサイバー関連にも防衛費を投入しました。ただ、安全保障は、軍事力増強だけが方法ではありません。外交政策も大きな歯止めになります。経済的な結びつきを強め、相手国を攻撃すれば自分たちも不利益を被る、という関係を作っておくことはとても有効です。EUが誕生したのも同じ理由です。2つの世界大戦の反省を受け、経済的関係を強めることでEU圏内は戦争を回避してきました。日本も、TPPやRCEPなど、アジア太平洋地域で大きな貿易圏を作り、互いを攻撃しにくくする方法を構築しようとしています。いま新型コロナで、人もモノも行き来しづらくなり、自国第一主義に走りがちです。しかし、各国の連携が薄れれば、リスクも高まります。このなかでどういう防衛協調策があるのか、今後もウォッチしていきたいと思います。ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開中。※『anan』2020年9月30日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年09月23日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「コロナ禍の災害支援」です。被災地と離れていながらできる、新しい支援に注目。今年も豪雨災害が続いています。7月には熊本を中心に、九州やその他の地域が大きな被害に見舞われました。しかし、このコロナ禍では感染リスクもあり、自由に移動ができません。現地ではやはり人手が足りていないとのこと。とはいえ、県外の方が来ると地元から一斉に不安の声があがり、疑心暗鬼も招いてしまうそうです。そんななか、新しい支援の形が2つ見られました。一つは、被災した当事者がAmazonの「ほしい物リスト」で必要物資を公開し、支援を募るというもの。八代市の水没した保育園では、園児の帽子からフェルトペン、シーツに至るまで具体的に必要なモノと数をリストアップしました。これまでは、被災地で何が必要なのかの情報をリアルタイムに得るのが難しく、物資を送っても自治体の倉庫で管理されて適切に届かないというような問題がありました。その点、この方法は明快で合理的です。もう一つは、熊本地震をきっかけに結成された支援団体「BRIDGE KUMAMOTO」の働きです。広告を手掛けるデザイナーや映像クリエイターらが中心メンバーで、7月の豪雨災害を受け、いち早く基金を創設。これはクラウドファンディングで支援金を募り、被災地支援を行う組織や団体はBRIDGE KUMAMOTOに申請して、助成金を受け取れるというシステムです。全国のクリエイターたちに呼びかけて動画メッセージ集を作るなど、お金以外の支援も行っており、僕もナレーターとして参加しました。このように中間支援団体がSNSを展開して支援に入るというのは新しい動きです。行政では手の回りにくいところを細やかにサポートしています。豪雨や台風災害は今後も起きるでしょう。地震や富士山の噴火の危険もはらんでいます。コロナ禍の複合災害では、外に出られない、外からの支援が得られない状況が続く恐れがありますから、食糧や水、常備薬に加え、マスクや消毒液も適量、備蓄しておいたほうがよいでしょう。これまで避難所ではたびたび、食中毒や感染症の問題が起きていました。コロナにより、衛生面の危機意識が一般的に高まったのは、良かったことかもしれません。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。3月に監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開された。※『anan』2020年8月26日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年08月19日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「香港国家安全維持法」です。中国の強権を示す法律。一国二制度崩壊の危機に。6月30日、中国の国会・全国人民代表大会(全人代)にて香港国家安全維持法(国安法)が全会一致で可決。香港政府は同日23時頃に公布し即日施行しました。翌1日は、23年前に香港がイギリスから返還された記念日でした。この法律は、国の分裂、政権転覆、テロ活動、外国勢力と結託して国家安全に危害を加える行為を犯罪とみなすもので、最高刑は無期懲役。香港人だけでなく外国人にも適用され、国外在住の人も含まれます。これまで香港は言論の自由が守られ、司法の独立性も認められた民主的な都市でした。しかし2014年頃から少しずつ中国共産党が香港行政、司法に介入する姿勢を見せ始め、民主化を求めるデモ活動が続いていました。昨年は香港警察の市民への取り締まりが強くなり、SNSや防犯カメラによる監視、カード情報などから抗議運動関係者が特定されていきました。国安法により、中国本国による直接の取り締まりが合法化されます。この法律に対する抗議デモが起き、1日で370人が逮捕され、そのうち10人が国安法に抵触。「香港独立」の旗を持っていただけで捕らえられた人もいました。返還から50年は一国二制度を変えない約束でしたが、実質反故にされた形です。アメリカは、これまで香港に対して認めてきた貿易や渡航の優遇措置を、一部を除き停止しました。イギリスは、返還前に発行していた許可証を持つ香港市民には、将来的にイギリス市民権の申請を可能にすると発表。日本にとって中国はビジネスでも安全保障上でも良好な関係を保っておきたい相手です。日本政府はこれまで強い批判を示していませんでしたが、自民党内から習近平国家主席を国賓として迎える予定を中止するべきという声も上がり、判断に注目が集まりました。貿易相手国だからこそ、自由や人権、公平であることに対する価値観を共有する必要があると思います。そうでなければ、安心して連携をとれません。日本や欧米から抗議が上がる中、ロシアや、中国と経済的な結びつきの強い東南アジアや中南米の国々からは、国安法を支持する声が上がっており、分断が深まっています。ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。3月に監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開された。※『anan』2020年7月29日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年07月28日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「検察」です。権力を持つからこそ、独立した存在であるべき。著名人も含め多くの反対の声がTwitter上にあがった「検察庁法改正案」は、今国会では廃案となりました。定年延長が問題になっていた黒川弘務東京高等検察庁検事長は、緊急事態宣言のさなかに新聞社記者らと賭け麻雀をしていたことが発覚し、5月に辞職しました。検察官とは、検事と副検事を指します。法律違反を犯した人を逮捕するのが警察官。逮捕された人が、本当に罪を犯したのか、裁判にかけるに値するかを調べるのが検察官。法律に照らし合わせて刑を定めるのが裁判官です。日本では、犯人を起訴できるのは検察官のみ。日本の裁判は無罪率が低いといわれますが、それは、検察が裁判に勝てると踏んだものしか起訴しないからです。性犯罪のように、密室で行われて証拠をそろえるのが難しいものは起訴されないことが多い。伊藤詩織さんの例がまさにそうです。刑事訴訟で争うことができず、民事訴訟を起こし、ようやく一審で勝訴できました。かつて、郵便不正事件で厚生労働省の元局長の村木厚子さんが無実の罪に問われ、長期間拘留された事件もありました。検察が事前に用意したストーリーに沿って裁かれていくというのは、とても怖いことですよね。それくらい検察官の権限はすごく大きいんです。その検察庁の人事を、時の政府が強く握るというのはやはり危険です。そうなれば検察官は自分の生活や出世のために、政権に擦り寄る可能性があります。また政府が敵とみなした人を、検察が簡単に起訴することもできるようになってしまいます。それらを憂慮し、多くの人が反対を述べ、改正案は見送られました。一方で、国家権力にも相対してメスを入れることもできる存在なので、検察はやはり独立した存在でなければいけません。正義の検察が暴走しないよう、私たち国民は常に監視しておく必要があります。実際の監視役はメディアが担うべきでしょう。それなのに、雀卓を囲み、検察と新聞記者がずぶずぶの関係だったというのは残念でなりません。一緒に食事をしようが麻雀をしようが、正義に反することが起きたときには、ペンの力で刺してほしかったと思います。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。3月に監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開された。※『anan』2020年7月22日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年07月16日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「9月入学」です。コロナ禍では無理。じっくりと時間をかけて再考を求む。学校の入学・始業時期を4月から9月にする案は「今年度・来年度のような直近の導入は困難」と、見送られることになりました。9月入学制度はこれまでにも何度も議題にのぼっています。世界ではアメリカ、カナダ、イギリス、フランス、ベルギー、トルコ、モンゴル、ロシア、中国などの国が9月入学制度を導入しています。日本も明治維新後、西洋の教育を導入した当初は9月始業でした。ところが、国の会計を4月~3月を一年とする年度制を採用したこと、徴兵制の始まりなどから4月始業に変わり、今に至ります。今年、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために学校の休校が続き、授業の遅れが問題になりました。そんななか、高校生のツイートをきっかけに、全国知事会から国へ9月入学の検討要請があり、安倍首相も「有力な選択肢の一つ」とコメント。いったん検討し始めたのですが、実際に導入するとなると、初年度の入学生徒数が半年分増加し、大量の教員不足が生じてしまうこと、また、保育所の入学待機児童数が増大すること、システムやカリュキュラムの再編など、拙速な対応は無理と判断されたのです。このコロナ禍で、ただでさえ問題が山積するなか、大きな改変をしようとしたのは現場の声を無視した行動だったと思います。授業の遅れを取り戻すことが目的なら、感染者数は地域によって差がありますし、全国一律にすること自体がナンセンスなのではないでしょうか。4月でも9月でも、いつ学校が始まっても継続してきちんと教育を提供できる仕組み作りを議論するべきなのではないかと思います。日本は会社も年度ベースなので、学校の始業時期をずらせば就職にも影響が及びます。会社を通年採用に変え、大学も途中入学を許すなど、個々のスタイルに合わせた社会設計が必要になるでしょう。世界の学校制度はもっと柔軟です。イギリスは年に3回、入学の機会がありますし、フランスでは家庭での義務教育の就学も可能になっています。また、海外は飛び級制度も広く採用されていますね。日本もこれを機に時間をかけて議論し、右に倣えではない、多様な学校制度へと見直してみてはいかがでしょうか。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。3月に監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開された。※『anan』2020年7月15日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年07月09日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「内閣総理大臣」です。独裁を避けるため日本が選んだ内閣という組織。新型コロナウイルス感染症の対策をめぐり、世界各国のリーダーの違いを目の当たりにする機会が増えました。政治のシステムは大きくわけて議院内閣制と大統領制があります。前者のトップは首相、後者のトップが大統領。日本は議院内閣制をとっており、安倍首相は内閣総理大臣。内閣という行政府の長です。大統領制にはアメリカ型とフランス型があり、アメリカは大統領個人が行政を担いますが、フランスは大統領が国家元首として外交や儀礼を担い、国内の政治は首相に任せます。ドイツも政治は国内外とも首相が担い、大統領は外交儀礼を行います。日本の元首は憲法で明文化されていませんが、儀礼や国会の召集などの元首的な役割は、ほとんど天皇が担っています。イメージでは、大統領のほうが総理大臣よりも強い権限を持っているように感じるかもしれません。しかし、アメリカの場合、大統領に議席はなく、議会と大統領個人は拮抗する関係を保っています。大統領がいくら「こうしたい!」と言っても、議会がつっぱねて「予算を通さない」と揺さぶりをかけることができる。オバマ前大統領もトランプ大統領もそれで思うように政策を進められず苦労しました。そうやって大統領の独裁にならないようにバランスをとっているのです。日本は太平洋戦争の過ちを繰り返さないため、総理大臣一人に権限を持たせず、内閣という国務大臣の集団で行政を進めるようにしました。問題がおきた場合は、「責任をとります」と内閣が総辞職をしますよね?内閣総理大臣一人が辞めることはありません。ただ、内閣=ほぼ与党ですから、総理の意向が通りやすいという意味では、大統領よりも総理のほうが権限を持っていると言えるかもしれません。誤った道を進まないためには、与党のなかにさまざまな意見を持つ人がいることが大事になってくるのです。大統領選挙のように、国民が直接総理を選ぶシステムではありませんが、私たちは選挙で「与党」を選べます。内閣総理大臣は与党の党首が任命されることがほとんど。議員選挙が私たちの暮らしや将来に直接関係し、どれだけ重要か、自覚していただけたらと思います。堀潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。3月に監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開された。※『anan』2020年7月1日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年06月26日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「新しい生活様式」です。withコロナの生活。新しい未来を築くチャンス。日本政府は5月25日に、緊急事態宣言を全国で解除しました。しかし、新型コロナウイルスの感染リスクがなくなったわけではありません。専門家会議の提言を踏まえて厚生労働省が掲げた「新しい生活様式」が、引き続き推奨されることになります。具体的には、人との距離をできるだけ2m(最低1m)空けること、マスクの着用、手洗い。感染の多い地域からの移動を避けること。レストランでは対面に座らず、料理のシェアはしない。仕事はテレワークに移行…などです。これからは暮らしも働き方も事業のあり方も大きく変化していくことになるでしょう。まず飲食店は、店内の密接度を減らさなければなりません。自粛期間中、多くの店がテイクアウトを始めました。今後も宅配がメインになったり、キッチンのみで飲食スペースを持たない店も増えていきそうです。人々の移動は世界的に制限され、観光業は大打撃を受けています。タイ国際航空など経営破綻した会社も出てきました。日本はこれまでインバウンド需要拡大に力をいれていましたが、国内旅行に焦点を当てるようになるでしょう。海外セレブ向けの高級ホテルを展開していた星野リゾートも、ワクチンができるまでの1年~1年半は、通常モードには戻らないことを想定し、近場の旅に対応する方針を掲げました。働き方では、都内で62.7%の企業がテレワーク・在宅勤務に対応できるようになりました。高い家賃の都心のオフィスは不要と、郊外または地方に拠点を置く企業も出始めています。感染を防ぐためには、人の移動を抑えることが必須で、物流も制限されています。これまでは東京一極集中で、仕事も消費も行われてきました。これからは地元で作ったものを地元で消費する、地産地消が推進されますし、地方移住者が増えれば、なかなか実現できなかった地方創生も現実味を帯びてきそうです。毎日の通勤ラッシュと決別し、家族と過ごす時間を持てるワークライフバランスがとれるようになるでしょう。まだ手探り状態ですが、ここでいち早く新しい未来を描いた人の社会になっていく、そういう岐路に私たちは立っているのだと思います。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。3月に監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開された。※『anan』2020年6月24日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年06月19日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「緊急事態条項」です。迅速な判断を求め自分の権利を放棄しないで。5月3日の憲法記念日に安倍総理は、支持層の主催する憲法フォーラムにあてた動画メッセージで、改憲への意欲を示すとともに、「緊急事態条項」の必要性を強く訴えました。憲法改正は、自民党が結成当時から掲げている党是です。改憲したい主な理由について、これまでは憲法9条の自衛隊の明記や、環境保全条項の追加などを主張してきましたが、4月から繰り返し焦点を当てているのが緊急事態条項の創設です。新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、政府は4月に緊急事態宣言を発出。国民に外出の自粛や休業の要請をしました。しかし、あくまでも要請レベルで、日本は海外のようなロックダウンはできません。憲法に緊急事態条項を加えることで、大災害や武力攻撃など国家の秩序が脅かされる状況に陥ったとき、政府などの一部機関に大きな権限を与え、個人の権限を抑制できるようにしたいという考えです。これに対し憲法学者や野党などは、「緊急事態宣言」と「緊急事態条項」は別もので、いま改憲を主張するのは火事場泥棒だと非難しました。民主主義は多くの人が意見を交わし、ひとつひとつを審議・検証するシステムですから、どうしてもことの決定には時間がかかります。その点、指導者に強い権限を預ければ、物事は迅速に進むでしょう。しかし、その指導者がもしも間違った選択をしてしまったらどうなるか?ナチスドイツや太平洋戦争下の日本政府の悲しい歴史を思い出してみてください。内閣が力を持ち、内閣主導で議会をコントロールできるようになれば、いくら支持する議員を選挙で選んでも、私たちの声は届かなくなる可能性があります。ですから、ここは慎重にならなければなりません。緊急事態条項を加えるならば、たとえば国民が不適切と判断した総理大臣はリコールできる仕組みを作っておくなど、暴走した場合に歯止めをきかせることができる対策を、あらかじめ用意しておくことが大事なのではないでしょうか。憲法は、私たちが国家をしばるためにあります。「よくわからないから、誰か決めて」と、自分から権利を差し出すようなことは、どうかしないでください。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。3月に監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開された。※『anan』2020年6月17日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年06月16日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「がんゲノム医療」です。莫大ながん組織のゲノムを解析。今後の治療に期待。「ゲノム」とはDNAをはじめとする、遺伝子情報の全体のことを指します。遺伝子情報を個別に検証し、その特徴を明らかにすることで、体質や病状に合わせた、より効果的、効率的な治療や診断を行うのが「ゲノム医療」です。がんは、遺伝子の変異や異常が蓄積することによって起こる病気。日本で最も多い死亡原因であり、日本人の2人に1人は生涯のうちにがんにかかるといわれています。国際的な共同研究グループ「国際がんゲノムコンソーシアム」の調べによると、がん患者の数は世界的に増え続けており、2012年には800万人の方ががんで亡くなり、1400万人が新たにがん患者として診断を受けていました。このままいくと2050年には年間で1750万人ががんで死亡し、2700万人が新しい患者となると推定されており、がんに対する対策は急務なのです。日本からは国立がん研究センターや理化学研究所、東京大学などが参加している国際がんゲノムコンソーシアム。このたび37か国1300人を超えるがん研究者が協力し、38種類約2800例のがん組織のゲノム解析に成功しました。スーパーコンピューターを使い、4600万個以上のゲノムの変異や異常を調べ、特徴を明らかにしたのです。解析されたデータは公開され、世界中のがん研究者が活用できるようになります。日本では全国に、がんゲノム医療中核拠点病院、がんゲノム医療拠点病院、がんゲノム医療連携病院を指定し、全国どこでもがんゲノム医療を受けられる体制づくりを進めています。一般にがん治療では、標準治療という科学的根拠に基づいて推奨される治療がなされます。具体的には手術、化学療法(抗がん剤治療)、放射線治療です。がん遺伝子検査によって、その人の特徴的な異常を調べることで、治療法の選択に役立つ場合があります。たとえば、抗がん剤の投与の検討や、標準治療のないがん、標準治療が終わった患者さんに対して、合う薬物療法を調べるために有効とされています。症例の少ない希少がんに関しては、まだデータが不足していますが、がんゲノム医療の発展は、将来のがん治療に期待が持てそうです。ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)公開中。※『anan』2020年5月13日号より。写真・中島慶子題字&イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年05月09日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「WHO」です。世界的な協力がなければ、健康と平和は保たれない。WHO(World Health Organization)は、日本語で「世界保健機関」。ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)や、IMF(国際通貨基金)と同じ、国連の専門機関の一つで、保健衛生分野を受け持っています。WHOの歴史は、1946年にニューヨークで開かれた国際保健会議にて、「世界保健機関憲章」が採択されて1948年からスタートしました。世界保健機関憲章には、「健康とは、病気ではないだけでなく、肉体的、精神的、社会的に満たされた状態」で、「最高水準の健康に恵まれることは、あらゆる人々にとっての基本的人権のひとつ」。世界中すべての人々が健康であるためには、「個人と国家の全面的な協力が得られるかどうかにかかっている」と書かれています。現在、WHOの加盟国は194か国。本部はスイスのジュネーブにあり、日本は1951年に正式加盟をしました。WHOの主な役割は、「流行病の制圧」や「疾病の認定や分類」のほかに、医薬品をはじめ保健に関わる分野の国際的な基準を決めることです。どこかの国で新型の疾病が発生していると聞きつけると、WHOの職員が現地に入り、徹底的な調査をし、処置および対応をしていきます。各国で研究のバラつきがある医学情報は整理し、医療の弱っている国や地域に対しては支援や指導も行って、対策も講じています。WHOのこれまでの大きな功績といえば、天然痘を撲滅したことです。1958年に天然痘根絶計画を掲げ、徹底的な調査、治療、ワクチン開発を行い、封じ込め作戦により1977年には世界中から消え去り、1980年に根絶宣言をしました。いま世界的な混乱をきたしている、新型コロナウイルス感染症について、WHOは1月末に緊急事態宣言をし、3月中旬にパンデミックとみなすと発表しました。WHOがイニシアティブをとって、現状調査、対応、認定、支援を行うことで、そこで集めた情報がワクチンの開発に生かされています。国を超えて、人とモノの移動が激しくなっている現代だからこそ、深刻な事態に陥っており、国際協調が必須になっているんですね。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)公開中。※『anan』2020年4月29日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年05月01日編集部:学研キッズネット編集部大日本印刷株式会社(DNP)が、株式会社丸善ジュンク堂書店、株式会社文教堂及び株式会社トゥ・ディファクトと共同で運営するハイブリッド型総合書店は、2020年4月21日(火)から5月31日(日)までの期間、「読書一生分」相当のhontoポイント「934,586ポイント」などが抽選で当たる、『読書一生分プレゼントキャンペーン』を実施することを発表しました。「読書一生分」とは今回の企画は、本好きのためのサービスでありたいという思いのもと実施している「読書一生分プレゼントキャンペーン」の第4弾。「読書一生分」とは、「一世帯当たりの書籍・雑誌等の年間支出額」に日本人の「平均寿命」を掛けて算出。「一世帯当たりの書籍・雑誌等の年間支出額」は第1弾(2016年)の13,344円/年から年々減少しており、2020年の今回は10,703円/年となりました。「平均寿命」は長い方の女性のものを採用しており、こちらは2016年の87.05年から年々微増、今回は87.32円/年。年間支出額10,703円×平均寿命87.32年で、2020年の読書一生分は「934,586」円に。今回も健康を維持して長生きし、たくさんの本を読んでいただきたいという思いから、2020年の読書一生分キャンペーンを実施。キャンペーン特設ページには、本キャンペーンで毎回起用している人気のイラストレーター五月女ケイ子さんによるビジュアルを起用した。また、いろいろな「宝もの」画像がランダムで表示される「宝ものさがし」をキャンペーンページ内に設置。キャンペーンへ応募後、表示された「宝もの」画像をtwitterに投稿すると、当選確率が10倍になる。。「読書一生分プレゼントキャンペーン」概要○キャンペーン期間2020年4月21日(火)~ 2020年5月31日(日)23:59○キャンペーン特典・1等:読書一生分のhontoポイント934,586ポイント…1名・2等:読書一年分のhontoポイント 10,703ポイント…10名・3等:honto電子書籍ストアで使える1,000円クーポン…10,000名※3等は1,001円以上の買い物時に利用可能。●キャンペーン対象者キャンペーン期間中に以下の条件を満たしたお客様・キャンペーンページより応募(honto会員であればどなたでも応募可能です)●プレゼント発送方法1等・2等:当選者へメールまたは電話にて受取方法をご連絡します。3等:当選者のMyページにクーポンを付与します。●当選連絡時期2020年6月中旬(予定)●キャンペーンURL:●キャンペーンの注意事項・本キャンペーンへの応募は、一人1回までとなります。・プレゼント発送時までにhontoを退会した場合は対象外です。・当選権利の譲渡・売買は禁止です。・本キャンペーンに当選されたお客様および本キャンペーンによりポイントを取得したお客様は、確定申告等の手続きが必要となる場合があります。詳細はお近くの税務署へお問い合わせください。確定申告等手続きの必要有無および内容、方法等については、hontoお客様センターへお問い合わせいただいても回答致しかねますので、予めご了承ください。・キャンペーン内容は予告なく変更・中止になる場合があります。■会員555万人突破記念・大感謝祭キャンペーンを実施中会員555万人突破とお客さまの日頃のご愛顧に感謝して、さまざまなキャンペーン企画を実施しています。〇電子書籍ストアスペシャルセール(期間:2020/4/15~6/9)参考URL:ハイブリッド型総合書店「honto」について「honto」は、ネット書店(本の通販ストア、電子書籍ストア)と、丸善、ジュンク堂書店、文教堂、啓林堂書店などのリアル書店を連携させた総合書店です。「読みたい本を、読みたいときに、読みたい形で」提供するサービスで、本を愛する人をサポート。2020年4月現在、honto会員は約550万人、hontoサイトと共通で利用できるhontoポイントサービスは約180店舗で展開。【ハイブリッド型総合書店「honto」公式サイト】【大日本印刷株式会社会社概要】・会社名:大日本印刷株式会社(Dai Nippon Printing Co., Ltd.)・社長: 北島 義斉・所在地:〒162-8001 東京都新宿区市谷加賀町一丁目1番1号■「学研キッズネットFor Parents」のニュース一覧はコチラ■学研キッズネット編集部(がっけんきっずねっと)『学研キッズネット』は、1996年にオープンした小・中学生のためのWebメディアです。学研の子ども向け書籍や雑誌の編集ノウハウを活かし、子どもたちが安全に楽しめるサイトとして運営しています。子どもたちのしあわせのために、家族のしあわせのために、有益な情報やサービスをお届けできるよう、いつも精一杯がんばっています。すくすく伸びる子どもたちのために
2020年04月21日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「通常国会」です。テレビ中継が審議のすべてではありません。国会には、通常国会(常会)、臨時国会、特別国会、参議院の緊急集会があります。常会は毎年1月に召集され、150日間開催。審議が長引けば、会期を延長します。国会では翌年度の予算を決めたあとに、様々な法案を審議します。令和2年の常会は約50本の法案が提出されました。夏に東京五輪を控えていたため、会期延長は難しいだろうと法案の数が過去最少に抑えられました。多い年は100近い法案があがることもあります。国会というと、テレビで中継されるものがすべてと思われるかもしれませんが、そうではありません。テーマごとに少人数の「委員会」で議論を交わし、そのあとに「本会議」で採決をとります。内閣委員会、総務委員会などの「常任委員会」と、会期ごとに編成される「特別委員会」があり、国会議員は各々専門分野の委員会に割り振られます。委員会ではしっかり内容を揉み、法案の8割以上が与野党全会一致で可決しています。テレビで取り上げられる本会議は、派手な動きがあったり、政府の疑惑や不祥事を追及する場面が多いので、揉めてばかりいる印象ですが、その他の場所で建設的な議論が着々と進められているのです。新型コロナウイルス対策以外に現常会で注目されているのは「年金制度改革関連法案」。定年の延長も推進されることになりました。その他「デジタル・プラットフォーマー取引透明化法案」。巨大IT企業に、運営状況の報告や企業内情報の提出を求めることができる法律です。たとえばアマゾンなどが突然大きな規約変更を行い、取引業者や消費者が不利益を被ったときに、メスを入れられる体制をとるためのものです。また、高齢ドライバーの交通事故対策を盛り込んだ「道路交通法改正案」も審議されています。近年、高齢者ドライバーによる交通事故が多発していることを受けて提案されました。運転技能検査の基準に達しない場合には75歳以上の免許更新を認めないという法案です。私たちの暮らしにかかわる法律が日々作られているのが国会。衆議院、参議院のHPでは、審議中継をインターネットで見ることができるので注目してみてください。ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)公開中。※『anan』2020年4月22日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年04月20日