意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「外国人労働者拡大」です。頼れる労働力だが受け入れ体制は問題が山積み。日本は少子高齢化が加速し、空前の人手不足です。それを補おうと、政府は外国人労働者へ門戸を広げようとしています。2017年10月現在、外国人の雇用状況は約127万9000人。2016年に100万人を突破し、1年で2割ずつ増え、最多を更新中です。外国人労働者を雇用している事業所数は、全国で19万4595か所で前年より1割以上増。国別の外国人労働者の数は、中国人、ベトナム人、フィリピン人の順に多く、最近とくに増えているのはベトナムとネパールです。円の価値が高いため、これらの国々の人にとって日本の賃金は魅力的なのです。日本に住むには、ビザとは別に「在留資格」が必要になります。留学生や、日本人と結婚をした場合以外は、その人の学歴や職歴により、日本に必要な人材とみなされて初めて資格が取れます。これまでは、大学教授や弁護士など、高度な専門技能を持つ人にしかその資格は与えられませんでした。せっかく日本の大学で学んでも、日本で就職できず帰国してしまうケースも多々。そこで政府は規制を緩和し、日本の大学を卒業した留学生には、在留資格を出すことを検討しはじめています。マンガやアニメ、日本料理などクールジャパン戦略に関連する分野の専門学校卒業生もそこに含まれます。また、単純労働による在留資格は、これまでは認められませんでしたが、深刻な人手不足が見込まれる、介護や建設業、農業、漁業などの職種でも資格が得られる新しい在留資格案が先日発表されました。生活に支障がない程度の日本語ができることを条件に、最長5年まで在留可能。高度な技能を持つ人材は永住許可も検討されています。来年4月の制定を政府は目指していますが、外国人の急激な受け入れ拡大は、問題なのではないかという声も上がっています。たとえば、日本語のできない外国人の子どもは、日本の公立学校に4万3000人以上います(2016年現在)。その数は増え続けていますが、サポートできる体制は整っていません。いまや日本の社会は外国人労働者抜きには回りません。ともに日本で働く仲間として、受け入れる態勢を整える必要があると思います。堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2018年11月7日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年11月02日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「日ロ平和条約」です。70年以上平行線だった問題。いま何を選択するか?9月にウラジオストクで開かれた東方経済フォーラムの席で、プーチン大統領はいきなり「日ロ平和条約を年末までに、前提条件なしに締結しよう」と発言し、波紋を呼びました。1951年、第二次世界大戦を終結させるサンフランシスコ講和条約にソ連(現ロシア)は調印しませんでした。その後、1956年の日ソ共同宣言により国交は回復したものの、ロシアとの間では、戦争は終わっていないことになっています。平和条約締結を阻んでいるのは、領土問題。日本は、歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島の4島返還を条約締結の条件にしています。ところが、ロシアは歯舞、色丹の2島のみ返還という姿勢を崩していません。鳩山一郎内閣のとき、2島返還、平和条約締結ののちに残りの2島の交渉を続けるという方針で決まりかけましたが、いったん返還を認めてしまうと、残り2島は二度と戻らないかもしれないという強い反対意見があり、条約締結は棚上げされました。このとき、アメリカのダレス国務長官が「2島返還を認めるなら、アメリカは沖縄を領土とする」と脅したともいわれています。返還する島には米軍基地を置かないことなどの条件があり、交渉が進まない理由にもなっていましたが、今回は「前提条件なし」。ロシアは日本との平和条約締結に焦っているのです。ロシアの国内経済は落ち込み、プーチンの支持率も下がってきているため、ここで日本の支援を受け、経済成長を狙いたい。日本にとっても、ロシアと協力体制をとることは安全保障面からも大きな意味があります。唐突に感じられたプーチンの年内締結の提案ですが、僕は、これまで何度も首脳会談を行っている仲の安倍首相との間で、すでに話がなされていたのでは?と考えています。4島返還に固執するのか。まず2島、で手打ちにするのか、日本は選択を迫られています。世界的にみると、ロシアは、クリミア半島に侵攻したり、シリアに激しい空爆を仕掛けるなど、非人道的な行為を重ね、経済制裁を受けています。自国の利益のためにロシアと手を組むとなれば、アメリカや欧州から日本が孤立する可能性も実はゼロではありません。ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2018年10月31日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年10月27日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「災害とインフラ」です。被災後に想定されるリスクを平時から確認して。西日本豪雨、北海道地震と災害が続いています。先日は台風が日本を縦断し、停電や交通機関がストップするなど各地で混乱をきたしました。インフラがストップすると、台風や地震がおさまっても、生活の不都合は続きます。まず、長期間停電が続くと、充電もできないのでスマートフォンが自由に使えなくなります。北海道地震で被災したある地域では、携帯基地局の電力災害がダウンし、エリア一帯が圏外になりました。そうすると、どこで何が起きているのか、被害の大きさや支援の状況もまったく把握できなくなります。断片的な情報により、デマにのせられることも。こういうとき唯一頼りになるのが、乾電池で動く防災ラジオです。また、学校や公民館が被災してしまい、避難所を開設できなくなるというケースもしばしば起こっています。近所の避難場所に指定されている施設と、そこまでの経路は2つ以上、チェックしておいたほうがよいでしょう。大きな災害時には、人命救助や消火活動を行う緊急車両が円滑に動けるように、交通規制が敷かれます。東京の場合、環八から都心方面は交通抑制。環七から内側方向へは通行禁止、首都高、主要な国道などの幹線道路は緊急自動車専用路になります。車で都外には出られなくなると思ってください。いま、関東で30年以内に震度6弱以上の地震が起こる確率は、千葉市85%、横浜市82%など各地で高い数値が予想されています。また、富士山の噴火リスクも高まっており、神奈川、山梨、静岡の3県では合同で定期的に避難訓練をしています。もし火山灰が数cm積もったら、それだけで東海道新幹線、東名高速、飛行機はストップしてしまいます。雪と違い、灰は撤去しないかぎりなくならないので、長期間、東京への物流はストップしますし、家に閉じ込められるような状況になります。いつ、どこで何が起きるかわかりません。被災しても自力で生き延びられるよう、最低1週間分の水や食料を蓄えるようにしておきましょう。普段、当たり前にしていることができなくなります。スマホや電力、コンビニに頼れなくなったら、どうなってしまうか、みなさんも想像してみてください。堀潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2018年10月24日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年10月20日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「北朝鮮の実情」です。予想外に開かれた平壌。互いに知ることが重要では?8月に平壌を視察してきました。想像以上に発展しており、現地の新聞や雑誌には、新しい工場建設の見出しが日々躍っていました。また、街なかでは外国人が多く歩いていました。北朝鮮と国交を断っている先進国はアメリカとフランスと日本のみ。世界の98%の国とは交流があるので、決して閉ざされた国ではないんですね。北朝鮮の人たちの話を聞くと、彼らの希望はとにかく経済発展させること。これまで国家予算は核開発にあてられ、国民は厳しい生活に耐えてきましたが、核兵器が完成して、ようやく生活や科学技術の向上を望めます。農村部との格差をなくすために、AR(拡張現実)技術を使って遠隔操作で教育を施すなど、教育にも力を入れていました。非核化に関しては、「アメリカが核を持っているかぎりは難しい」とコメント。ただ、9月9日の軍事パレードで大陸間弾道ミサイルの展示はなく、それは、米朝間交渉を円滑に進めるための配慮だといわれています。経済制裁のダメージは受けていて、ある女子学生は「おしゃれな雑貨が入ってこなくなった」と話していました。最新医療現場では日本やドイツ製の医療機器も置かれており、すべてを自国製で賄うのは難しいため、一刻も早い国際社会との連携を願っています。拉致問題について学生に意見を聞いてみると、そんなことが自国であったことに衝撃を受けた、と話していました。でも彼らの主張は、それよりもまず戦時賠償解決のほうが先立つんですね。交流を断っているため、お互いに50年くらい前のイメージのまま止まっています。これは両国政府の反日、反北朝鮮プロパガンダが浸透しているといえます。北朝鮮の方々は、過去の日本に対しては厳しい認識を持っていますが、日本の国民性や技術力に対しては期待を抱いており、互いに協力したいという声もたくさん聞きました。北朝鮮も日々変化しています。外交官同士が雑談レベルで話せる関係を持ち、互いの最新のニーズを知ることが大事だと思います。韓国や中国との間にある問題と同様、対立する道具にするのではなく、知恵を出し合って、解決する機運を高めていきたいですね。堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2018年10月17日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年10月14日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「翁長知事と沖縄」です。翁長知事の主張は辺野古への新基地建設反対でした。翁長雄志沖縄県知事が8月に急逝されました。翁長さんは元々は自民党員でしたが、2014年の知事選でさまざまな政党の人たちと団結、普天間基地の辺野古移設に反対する「オール沖縄」という枠組みで、それ以降の全ての選挙を戦ってきました。誤解されている方も多いのですが、翁長知事は、沖縄から米軍基地の全面撤退を求めていたわけではありません。普天間基地の辺野古移設で、沖縄に新しい基地を造ることに反対を唱えていたんですね。辺野古には205haの巨大な新基地を建設予定で、そのためには美しい海、珊瑚礁を破壊し、約160haを埋め立てることになります。巨大基地にはいま以上の数のオスプレイを配備。沖縄住民は騒音と事故の恐怖にさらされます。翁長知事の前任・仲井眞知事は辺野古の埋め立てを承認しましたが、それを撤回するべく、国に働きかけていました。知事がたびたび東京を訪れ、安倍総理や政府要人に面会を求めていましたが、ことごとく断られたのです。昨年末、普天間の小学校に米軍ヘリの一部が落下。学校上空の飛行停止を求め、知事が官邸を訪れましたが、安倍総理は面会しませんでした。こういう聞く耳を持たない対応が、沖縄を蔑んで、軽視しているのでは、という政府不信にもつながっていきました。日本の国土のわずか0.6%の沖縄県に、米軍専用施設の74%が集中して置かれています。もし、横田基地のそばに巨大な新基地を建設することになり、オスプレイが大騒音を立てて頻繁に飛び交うとしたら、東京都に住む人はどう思うでしょう?私たちはどこかで、「遠い沖縄の問題」と思ってはいないでしょうか。しかしこれは、沖縄だけではなく、同じ日本の問題です。かつて橋本龍太郎総理の時代は、当時の大田昌秀知事と会談を重ね、「普天間基地返還」という難しい交渉を成立させました。いまではまるで国と沖縄県の主張が平行線、対立関係にあるようにみえる報道を目にしますが、根気強い話し合いにより解決策は見つけられます。沖縄県知事選挙は9月30日に行われます。どの候補が選ばれるにせよ、沖縄の問題を日本全体で考えられるようにできたらと思います。堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2018年10月3日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年09月28日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「災害支援とボランティア」です。確実な支援には、的確なニーズを知るのが肝要。熊本地震の経験をふまえ、西日本豪雨では、安倍政権は「プッシュ型支援」を取り入れました。災害が起きたとき、これまでは地元の自治体からの要請を受けて、必要物資を送っていましたが、自治体や職員が被災した場合、どうしても後手に回ってしまいます。そこで今回は、要請を受ける前に、国のほうから業務用エアコンやスポットクーラー、簡易トイレ、無線機などを必要と思われるところに送りました。ただ、愛媛県大洲市では、送られてきた仮設トイレの管理方法が決まらず使われなかったなど、一部ミスマッチが生じました。こういう問題は試行錯誤しながら徐々に整備していくものなので、多少の齟齬は仕方ないと思います。今回は、自衛隊も現地の情報収集・連絡専門要員を約200人派遣。災害直後は混乱していますから、具体的なニーズを把握することがとても大変です。専門要員がいたことで的確、迅速な支援につなげることができました。ニーズを把握することは、ボランティアをする上でも重要です。「なにか助けになれば!」と災害発生直後に駆けつける方がいらっしゃいますが、被災地側はまだ指示できる状況ではなく、手持ち無沙汰になることも。もしもボランティアをしたいと思ったら、まず地元の災害ボランティアセンターか、社会福祉協議会に問い合わせましょう。現状を知り、ボランティア保険に入り、心構えのレクチャーを受け、県外の人も募集しているかなど条件を確認してください。ボランティアは誰でも歓迎されるとは限りません。駐車場の確保の問題もありますし、「地域の人のみに限る」というところもあります。ボランティアの車が渋滞を引き起こし、自衛隊や救急車両が入れなくなるというトラブルも起きます。また、泥かき要員だったら、基本的には道具は持参しなければいけません。不衛生な環境もあるため、マスクやゴーグルも必須です。社会福祉協議会では、ボランティアの作業マニュアルを作り、道具や服装について明記していますので、ぜひ参考にしてください。善意の押し付けにならないためにも、被災地に迷惑をかけないボランティアのあり方を知る必要がありますね。ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2018年9月26日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年09月19日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「豪雨災害」です。予測不能な事態に脳が間違った判断を下すことも。この夏、西日本を中心に広い範囲で集中豪雨が発生し、多大な被害をもたらしました。多くの人が逃げ遅れてしまった理由は何でしょう?その一つに挙げられるのが「正常性バイアス」です。山口大学の高橋征仁教授によると、これは心理学の用語で、予期せぬ事態に直面したときに、先入観や偏見が働いて、「これは大丈夫だ」と正常範囲内のできごとと判断してしまう心の動きだそうです。異常が発生すると、過大なストレスがかかります。その恐怖や不安に苛まれると人体が危機に至る。そのため、心の平安を保とうと脳が間違った判断をしてしまうのです。今回の西日本豪雨も、現場の聞き取り取材によると、警報が鳴り、避難勧告が出ていても、正常性バイアスがかかり、その情報が意識の深部に到達しなかったことがわかりました。また、地域によっては、ものすごい雨音により、警報が物理的に聞こえなかったのではないかという意見もありました。西日本豪雨の被害が拡大したもうひとつの理由は、国、県、市町村の間で情報の共有がうまくできていないということです。国の管轄は大きな1級河川で、県や市町村は支流を担っていますが、エリアごとに細分化されているため、1本の川の上流から下流まで俯瞰して管理する組織がありません。岡山県の高梁川の場合も、上流域の氾濫は午後11時台に起こり、死者も出ていました。ところが、下流域の倉敷市真備町に避難指示が出たのは、午前1時30分。上流で氾濫が起きた段階で、中・下流の被害は想像できたはずです。しかし連携できていなかったために情報の伝達が遅れてしまい、50名以上の被害が出ました。気象庁の統計によると、1時間に50ml以上の大雨が降る頻度は、’70~’80年代に比べると現在は約3割増加。1時間に50ml以上降った回数も、1976年からの10年間に比べ、2007年以降の10年間では33.5%増えています。地球温暖化などにより、これからも集中豪雨は増えるでしょう。豪雨に見舞われたら、まずは過信せずに逃げること。冷静な判断ができにくい状況であることも、頭に入れておいたほうがよいでしょう。堀潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2018年9月19日号より。写真・中島慶子題字&イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年09月14日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「海洋プラスチック汚染」です。生態系や人体に悪影響を与えかねない問題です。海洋プラスチック汚染が、いま問題になっています。プラスチックは、太陽光に当たったり、熱や雨にうたれると劣化し細かな破片になります。5mm以下のものを「マイクロプラスチック」といいます。でもどれだけ細かくなっても分解されず、自然に還ることはありません。この砕けたマイクロプラスチックと、洗顔料や歯磨き粉などに含まれる研磨剤のマイクロビーズ(これもマイクロプラスチックの一種)が、大量に海に流出しているのです。国連によると、2015年のプラスチックゴミの発生量は約3億t。毎年800万tが海に流出。その半分は中国やインドネシアなど東南アジアの4か国から。しかし、別の調べでは日本からも数万tが流れ出ているという報告もあります。いちばんの問題は、生態系が乱されること。海の小さな生き物がマイクロプラスチックをえさと間違えて食べ、それを小さな魚が食べ、やがてサメなどの大きな魚が食べます。しかし、消化されませんから、体内に蓄積。栄養がなくても満腹感を得られるため、魚は発育不良になります。また、プラスチックは有害物質が付着しやすい。そんなプラスチックゴミを食べた魚を最後に人が食べているのかもしれません。今年カナダで開催されたG7で、プラスチックの製造や使用の規制強化を進める「海洋プラスチック憲章」に欧州4か国とカナダは署名しましたが、アメリカと日本はサインしませんでした。その後、EUの欧州委員会はストローや皿など、一部の使い捨てプラスチック製品の使用を禁止する方針を発表。一方、日本では「海岸漂着物処理推進法」の一部改正で、民間企業に対して、マイクロビーズの製品への使用を抑制するまでにとどまり、禁止や罰則を設けるまでには至っていません。国民の生活や産業に打撃を与えるかもしれない、という判断からです。その後スターバックスがプラスチックストローの全面廃止を宣言しました。それに続き、日本でもすかいらーくホールディングスが、大手外食産業で初めて、撤廃を決めました。プラスチック製品は便利です。しかし、今後は付き合い方を考えねばなりません。ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2018年9月12日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年09月06日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「高度プロフェッショナル制度」です。6月、8つの法律から成る働き方改革関連法が成立。長時間労働をなくすため、残業時間の上限が原則月45時間、年間360時間に定められました。上限を超えると使用者側に6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科せられます。また、「同一労働同一賃金」を導入。同じ企業で同じ仕事内容の場合、正規雇用と非正規雇用の待遇格差を是正することになりました。8つの法律の一つが「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」です。年収1075万円以上の専門職は、残業や休日、深夜労働などの割増賃金の支払い対象から外すというもの。証券アナリストや医薬品開発の研究者、経営コンサルタントなどが対象とされています。残業せずに自分の裁量で効率よく働けばいいという制度なのですが、現実問題、自分の仕事が終わったからと、残業せずに帰ることができるでしょうか。上司に新たな仕事を頼まれ、サービス残業を強いられるのではないか。家族が過労死した遺族らはこの法案に反対していました。優秀で責任感の強い真面目な人こそ、過労に至ります。本来、法律はそういう働き手を守るためにあるべきなのに、「高プロ」はそうではないと肩を落としていました。実はこの法案、第1次安倍内閣のころにも「ホワイトカラー・エグゼンプション」という名で推し進められましたが、猛反対にあい、潰されました。安倍内閣が、なんとしてもこの法律を通したかった背景には、アメリカからのリクエストがあります。「日米投資イニシアティブ」という、経済的にパートナーシップをとろうという交渉のなかで、アメリカは日本の雇用環境を、従来の終身雇用型の家族的なあり方ではなく、成果主義ですぐに首を切れる外資系スタイルに変えることを要望。そうして、日本企業でアメリカ人の雇用を増やすことを望んでいるのです。高プロは、労働者側に、拒否する権利を与えています。しかし、有給休暇の申請さえしづらい日本の職場環境で、対象者は拒否できるのか。また、現在は一部の高所得者、専門職のみが適用対象になっていますが、それも将来もっと広げられるのではないかと、危惧する声も上がっています。堀潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2018年9月5日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子
2018年09月04日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「児童虐待」です。見つけたら通報の義務がすべての市民にあるのです。3月に東京都目黒区で発生した、5歳の船戸結愛ちゃんの虐待死亡事件は、世間に大きな衝撃を与えました。日本小児科学会の調べによると、全国で1年間に虐待によって死亡した可能性がある子どもの人数は、約350人。この数は高い水準で増え続けています。これは、児童相談所など、制度として様々な欠陥があるからなんですね。東京都内の児童相談所の数は11か所。児童福祉司1人が抱える虐待相談などの世帯数は100を超えます。これは欧米の約5倍の数字。児童相談所も児童福祉司の数も全く足りていないのです。また、児童相談所には常勤の弁護士がいません。日本は、親の親権が強く保障されているので、子どもを親から引き離そうとするとき、親に訴えられないよう、法律家の判断を仰ぎたくても、スピーディに対応できないのです。そして、東京都の警察内には児童虐待専門の部署がありません。児童虐待防止法には、市民は児童虐待を認知したら通報する義務があると明記されています。その相談窓口の全国共通ダイヤルは「189(いちはやく)」。通報は匿名でできますし、虐待でなかった場合も罪には問われません。3月の事件を受け、社会起業家の駒崎弘樹さんを中心に、芸能人や作家、ソーシャルセクターが集まり、制度の改革を求める10万人の署名を集めて厚生労働大臣に提出。政府は緊急に児童虐待対策に動き出しました。結愛ちゃん家族が以前住んでいた香川県の児相の担当は、大変心配していたのですが、東京に転居したあと、新担当は家庭訪問に行ったけれども本人に会うことができませんでした。これを受け、面会ができなかった場合は強制的に立ち入り調査ができるよう児相の権限を強化。また、各地の児相や警察が情報を共有できること、児相や児童福祉司の数を増やすことなどが検討されることになりました。しかし、虐待は対応だけでなく、未然に防ぐことが実は重要です。店や電車で子どもが泣きわめいているのを、迷惑そうにしている周囲の大人たちの視線が、どれほど親御さんを追い詰めているか。虐待を生まない社会を作るために、私たちはどうしたらいいか、いま一度考えてみませんか。堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。新刊『堀潤の伝える人になろう講座』(朝日新聞出版)が好評発売中。※『anan』2018年8月29日号より。写真・中島慶子題字&イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年08月28日異例の暑さが日本列島を襲った今年の夏。カラダにはあらゆるダメージが蓄積しています。不眠、食欲不振、倦怠感、むくみ…そういった不調は、脳と血流の状態を改善することで解消可能!その仕組みと、今日から実践できる具体的なメソッドを伝授します。夏バテ解消法1:脳を守れ!ダルい、食欲が湧かない、眠れないなど。夏バテ=慢性的な熱中症の症状は、軽い自律神経失調症に似ている。それもそのはず夏バテの背景には、自律神経の乱れが関わっている、と東京慈恵会医科大学教授・柳澤裕之先生。「自律神経とは、内臓や血管、ホルモンなどの働きをコントロールし、生命活動を維持するための大切な神経。脳の視床下部というところが、その働きをコントロールしています」たとえば気温が高いとき。汗をかいたり体表の血流を増やしたり、熱を逃がして体温上昇を防ぐのも自律神経の役割。「気温が高いと、水分や塩分が汗としてカラダの外へ逃げてしまい、細胞が脱水症状を起こします。自律神経を作る神経細胞も、他の細胞と同様に脱水症状を起こします。また、クーラーの効いた室内と暑い外を行き来していると、自律神経は体温調節に大忙し。脱水症状や働きすぎが重なれば、自律神経も視床下部も疲れ切って、やがては自律神経失調症になってしまうのです」(柳澤先生)自律神経が乱れて食欲をなくしたり夜眠れなくなったりすると、体内は栄養不足に。当然水分も塩分も足りなくなるので、さらに夏バテが加速するという負のスパイラルが生まれる。「水分や塩分をこまめに補給する、涼しいところにいるといった基本の熱中症対策はもちろん、自律神経と視床下部を休めることも、夏のダメージリセットには欠かせません」(柳澤先生)自律神経の疲れをリセットするには、正しい生活習慣が不可欠。「睡眠をきちんととって、バランスのよい食事を心がけることが第一。その上で、脳ならではのリセット術を試しましょう。まずは、1日数回、ひとりになる時間を取ること。人間関係のストレスから、回復する時間を作ります。また、鶏ムネ肉やイワシ、マグロを食べるのもおすすめ。抗疲労成分として注目を集めるイミダゾールジペプチドという物質が、脳や自律神経の疲労を緩和します。豚肉に含まれるビタミンB1、果物や酢のクエン酸も、疲労回復に効果的」(柳澤先生)夏バテ解消法2:血流をスムーズに!中医学では、健康なカラダには“気・血・水”の3つがバランスよくめぐっていると考える。逆にバランスが崩れると、体調不良や病気の原因になるという。「気はエネルギーのことで、血と水をめぐらせる原動力。血は、血液のこと。水は、体液全般を表します。バランスの崩れ方には様々な種類がありますが、夏バテの場合は主に気が減ってしまう“気虚(ききょ)”、水が不足する“陰虚(いんきょ)”、血のめぐりが滞る“お血(けつ)※”の3種類が当てはまります」(えみクリニック東大前 院長・吉永惠実先生)まず真っ先に現れるのは、気虚と陰虚の2パターン。「ダルい、朝起きるのがつらい、食欲がない、というのは気虚の典型的な症状。胃腸もエネルギー不足で弱ってしまっています。陰虚は、カラダが干からびているイメージ。ノドが渇くのに水を飲んでも潤う感じがしない、暑いのになかなか汗が出ず熱がこもる、などの症状が現れます」(吉永先生)気虚や陰虚が進行すると、今度は血のめぐりが滞って“お血”の状態に発展する。「お血になると、生理痛がひどくなったりカラダがむくんだり、肩こりや頭痛がひどくなったりします。肌のくすみやシミも、血の滞りが原因。さらに女性の場合、お血から月経困難症や子宮筋腫など婦人病になるともいわれています。舌を観察してみて、赤黒くなっていたり舌のフチに黒い点があったら要注意。血のめぐりをスムーズにするよう心がけて、お血になるのを防ぎましょう」(吉永先生)気・血・水は互いに影響を与え合っているので、血の滞りを解消するには、気と水にアプローチすることも必須。「カラダの冷やしすぎや極端な温度差は、気を減らして血と水のめぐりの妨げに。外から屋内へ入るときは汗をしっかり拭く、肌着だけでも替えるなどして冷えを防いで。エアコンは控えめにして、南国フルーツやウリ科の野菜、菊花のお茶など食べ物でカラダを冷やす工夫を。冷えすぎたら、腹巻き、半身浴などで温め、気・血・水のめぐりをサポートしましょう。乾かしたミカンの皮やクコの実は、特に血のめぐりを助けます」(吉永先生)柳澤裕之先生東京慈恵会医科大学 環境保健医学講座教授。内科一般や環境生理学、予防医学、生活習慣病など、幅広い分野を研究。疲労と脳のメカニズムに詳しい。吉永惠実先生えみクリニック東大前 院長。内科、漢方内科医。病気以前の不調にも中医学で対応。取り入れやすい漢方アドバイスが好評。女性特有の悩みもケア。※「お」は、やまいだれ+於※『anan』2018年8月29日号より。イラスト・五月女ケイ子取材、文・風間裕美子(by anan編集部)
2018年08月23日記録的な酷暑だった夏もやっと終盤。しかし、安心するのはまだ早い!夏のダメージは、アナタのカラダを確実に蝕んでいる。「暑さや紫外線など夏特有の現象は、カラダから水分と塩分を奪い、ゆっくり熱中症を進行させます。結果、9月頭は慢性的な熱中症と、長時間の冷房や極端な温度差に晒されるクーラー病が加わり、いわゆる“夏バテ”が増加。その背後には、実は脳と自律神経の疲労が隠れています」(東京慈恵会医科大学教授・柳澤裕之先生)「中医学的に言うと、夏は“陽の気”、つまり熱が強すぎる状態です。すると生命を支えている3大要素、“気・血・水”のバランスが崩壊。気が滅入ったり水が不足したりして、最終的には血流が滞ってしまいます。そのまま放っておくと、健康と美容に大打撃を受ける恐れも」(えみクリニック東大前 院長・吉永惠実先生)たかが夏バテだと侮っていると、ダメージはどんどん悪化。やがてはこんな恐ろしくておブスな夏バテ女になってしまうかも!?全身砂漠化警報発令中“シワシワ女”カラダから水分が抜けて、どれだけ飲み物を飲んでも満たされない。肌や髪の潤いも不足するから、美容的にもダメージ大。放っておくとシワやたるみなど、エイジングサインにつながることも!むくみのせいで体重急増“ブヨブヨ女”クーラーや冷たい食べ物でカラダを冷やしすぎて、血流が悪化。老廃物の排出がうまくいかずに、カラダがむくんでしまう。血行不良がひどくなると、顔がむくんだりシミが現れることも!?頭に熱がこもって噴火寸前“イライラ女”カラダがエネルギー不足に陥って、熱をうまく発散できない状態。こもった熱が頭に集まり、気分はイライラカッカ。頭以外は熱が不足するので、お腹をこわしたり末端が冷えやすくなる。食欲減退進行中“ガリガリ女”食べなきゃいけないとわかっているけど、食べ物を見るとゲンナリ。無理して肉を食べても、消化不良に。喉越しのよい素麺などに食が偏り栄養不足で痩せてしまい、肌や髪がボロボロに。このまま消えてなくなりたい“ドンヨリ女”暑さのせいかと思っていたけど、涼しいところにいてもカラダが重くて動くのがおっくう。一日じっとしていたい気分。夜は寝つきが悪く、朝になると余計ダルい。典型的な自律神経失調症の初期状態。柳澤裕之先生東京慈恵会医科大学 環境保健医学講座教授。内科一般や環境生理学、予防医学、生活習慣病など、幅広い分野を研究。疲労と脳のメカニズムに詳しい。吉永惠実先生えみクリニック東大前 院長。内科、漢方内科医。病気以前の不調にも中医学で対応。取り入れやすい漢方アドバイスが好評。女性特有の悩みもケア。※『anan』2018年8月29日号より。イラスト・五月女ケイ子取材、文・風間裕美子(by anan編集部)
2018年08月22日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「ナチスのプロパガンダ」です。いまも使われるプロパガンダ手法。自覚が必要です。今夏、ナチス関連の映画『ゲッべルスと私』や『ヒトラーを欺いた黄色い星』が公開されました。ヒトラー率いるナチス・ドイツの独裁体制が始まったのが85年前。ヒトラーはプロパガンダの名手で、ゲッべルスを宣伝大臣に任命し、ラジオや映画、新聞を駆使し、自分が魅力的なリーダーであることを知らしめました。「プロパガンダ」とは大衆宣伝のこと。知らず知らずのうちに、ある主義や思想を大衆に浸透させてしまうことです。プロパガンダ自体には、良いも悪いもありません。しかしナチス・ドイツは、間違った選民意識をドイツ国民に植え付け、ユダヤ人廃絶に加担・黙認させました。欧州中のユダヤ人を強制収容所に送り強制労働をさせ、女性や子供までガス室に送り、約600万人を虐殺したのです。80年も前のヨーロッパの悲劇が現在の日本と何の関係が?と思われるかもしれません。しかし現代でも、「いつの間にか世の中が偏った空気に包まれる」ということは起きているのです。例えば、先日のサッカーW杯。「観ない奴は非国民」という熱狂の声があがり、「観ない自由はある」という反論派との論争が起きました。でも、ない問題をあたかもあるように見せ、人々を分断するメディアにまんまと乗せられたともいえます。メディアは番組や記事に注目を集めるため、反論が出ることを見越した上で、わざと過激な見出しをつけて対立を煽ります。これは、仮想敵を作り、美しいドイツを守るためにはユダヤ人を排除せねばならないという極端な理論を押し通したナチスと同じ、プロパガンダ手法です。問題は情報を受け取る私たちの側にもあります。メディアの煽りには乗らない、という冷静な姿勢が大事。煽られるのは怒りや不安だけでなく、SNSでよく見る「いい話」や「感動的な話」も実は危険です。ネット社会では、誰がどんな目的で私たちの「精神」に働きかけ、プロパガンダを仕掛けているかわかりません。心が揺さぶられたときには立ち止まり、頭の半分で「誰かが私の心に何かを刺した」と警戒心を持ってください。いつの間にか体制に反論できなくなった、ナチス・ドイツの教訓を忘れてはなりません。堀潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。新刊『堀潤の伝える人になろう講座』(朝日新聞出版)が好評発売中。※『anan』2018年8月15・22日号より。写真・中島慶子題字&イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年08月19日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「AYA世代のがん」です。人生のイベントが集中する世代のため負担は大きい。AYA世代とは「Adolescent & Young Adult」、思春期と若い成人の15~39歳の人をさします。実はAYA世代のがん対策は遅れており、今年3月、厚生労働省は「がん対策推進基本計画」のなかに初めて組み込みました。AYA世代のがんは、他の世代に比べて患者数が少なく、がんの種類も多様なため、治療法がまだ確立されていないんです。また、AYA世代は小児と成人領域の狭間の世代だということもあります。15歳未満は小児科で対応しますし、40歳以上は成人病予防としての健康診断も一般化されています。ところがAYA世代は健康に意識が向く前に、受験や就職、結婚、出産など、人生の様々な課題にぶつかる時期です。そのため、がんが発覚しても、学校や仕事はどうするのか。誰にどこまで公表するのか。患者の環境や生活によって異なるため、個別のニーズを考慮した診療連携体制を構築することが肝要といわれています。国立がん研究センターは今年初めて、AYA世代のがんの現状を公表。2009~’11年までの人口10万人あたりの罹患率を日本の総人口に当てはめると、1年間にがんと診断された数は、15~19歳が約900例。20代が約4200例。30代は約1万6300例。10代は白血病、20代は卵巣がんや精巣がんなどの胚細胞腫瘍・性腺腫瘍、30代は女性乳がんが最多。AYA世代は進行も早く、希少な難治性がんであることが多いのです。標準的治療が確立されていないため、治療の選択肢も限られます。病気のストレスに加え、思春期特有の悩みも重なりますし、家族や友人らとの人間関係、将来への不安も抱えることになります。治療の副作用による脱毛や、むくみなども大きな負担に。僕の知人のデザイナーの広林依子さんは、26歳のときに乳がんが発覚。余命宣告をされ、生きた証を残したいと、昨年亡くなるまでメディアに出続けました。治療費を稼ぐために、描いたイラストをインスタグラムにアップして売ることもしていました。彼女を支えていたのはパートナーとご家族です。これまで目が向けられていなかったAYA世代のがん。周囲の広い理解と早急な対策を望みたいですね。堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。新刊『堀潤の伝える人になろう講座』(朝日新聞出版)が好評発売中。※『anan』2018年8月8日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年08月11日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「リカレント教育」です。人生100年時代を乗り切るための職業訓練的な学習。政府は人生100年時代構想会議のなかで、リカレント教育の充実を検討しています。「リカレント教育」とは、社会人が生涯にわたって再教育を受けることができ、就学と就労を交互に行える教育システムのこと。「recurrent」は、反復・循環の意で、1960年代にスウェーデンの経済学者ゴスタ・レーンが提唱しました。欧州では、仕事を始めてからも新たに学習する必要があれば、長期にわたり正規の学生として学校に再入学することを推奨しています。スウェーデンやフランスなどでは給料保証もされ、フルタイムの就学と就労を繰り返せるのです。アメリカにはコミュニティ・カレッジという公立の2年制大学があり、何歳になっても専門的な学びを得ることができます。そもそも、大学や大学院にいろいろな年齢層の人が一緒に学んでいる環境があるんですね。ところが、日本の場合は終身雇用、年功序列のシステムが確立されていたため、在職中に数年間会社を休んで大学に通うというのはなかなかできませんでした。しかし、いまは会社が定年まで存続できるかわかりませんし、寿命は延び、人生100年時代に入りました。少子化により、労働者人口も減っています。そこで、国はリカレント教育の拡充を提唱し始めたのです。一つの会社、一つの仕事に固執せず、時代の変化に合わせて新たな知識やスキルを身につけ、バージョンアップを目指す。職業訓練的な学習ですね。そうやって働く場を自分で開拓していく必要がますます出てくるでしょう。日本の伝統的なリカレント教育は放送大学。文部科学省が設置した通信制の大学です。一般の大学でも、今後は社会人の受け入れを増やそうとしています。ほかにも、一般社団法人日本オープンオンライン教育推進協議会と連携して、NTTドコモグループの会社が提供している「gacco」というオンラインサービスは、大学教授陣の講義を無料で受けられ、登録者は43万人を超えています。時間や経済的な制約があっても、学ぼうと思えば機会はあります。仕事をどう広げたいか、何を身につける必要があるのか、その見極めが一番大切なのかもしれません。ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。新刊『堀潤の伝える人になろう講座』(朝日新聞出版)が好評発売中。※『anan』2018年8月1日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年07月30日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「iPS細胞研究のいま」です。再生医療とともに創薬の分野でも研究が進んでいる。京都大学の山中伸弥教授率いる研究チームがiPS細胞の作製に成功してから12年が経ちました。iPS細胞は人工多能性幹細胞といい、病気やケガによって体の組織や臓器の細胞が失われてしまっても、自身の体細胞から人工的に作り出すことができ、再生医療などでの活用が期待されています。人体に使用する際の危険性もだいぶクリアになったと、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は発表。2015年には、患者の細胞から網膜を再生し移植をしたところ、経過は良好で異常は見られていなかったという臨床報告が上がりました。ほかにも、脊椎損傷やパーキンソン病、貧血などの血液疾患に関しても動物実験では安全性が確認されています。最近では、iPS細胞から、ミニ肝臓の大量製造に成功したという報告も。肝臓移植を待つ人は年間、数千人にのぼり、ドナーの数が圧倒的に不足していますから、これが将来、実用されたなら、たくさんの命が助かるでしょう。現在研究が進められているのは、再生医療ともうひとつ、新薬の開発です。難病指定されているパーキンソン病やミトコンドリア病。皮膚・結合組織疾患、悪性関節リウマチ、骨や関節系の疾患、消化器系の疾患。アルツハイマー、てんかん、アトピー性皮膚炎、スギ花粉症…などを改善する薬をiPS細胞を使って作ろうとしています。ただし、創薬は疾患箇所の体細胞を採取して行いますが、そもそもそれが病気の根本原因なのか?また、Aさんの疾患細胞から作られた薬が、同じ病気とはいえ、BさんやCさんにも効果があるのか?など、まだまだこれから研究が必要な課題もあります。iPS細胞の研究には、クラレや味の素、ニコンなどの民間企業も積極的に参加しており、これからますますビジネスとして注目されることでしょう。そのぶん、最新研究の成果が一部の企業の独占にならないよう、情報公開も求めていきたいですね。科学技術の発達につれ、いよいよ人が死ににくくなる時代。一方で、生命に対して人間がどこまで介入してよいのか、という倫理観を問われる議論も、持ち上がってきています。ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。新刊『堀潤の伝える人になろう講座』(朝日新聞出版)が好評発売中。※『anan』2018年7月25日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年07月21日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「海賊版漫画サイト」です。漫画は無料で読むものと勘違いしていませんか?漫画やアニメを違法にアップロードし、ユーザーに無料で提供する海賊版サイト。10代を中心に大人まで、利用者はウナギのぼりに増え、被害額は3000億円以上。状況を改善するべく、4月、内閣府は「漫画村」をはじめとする3つの大手海賊版漫画サイトを対象にブロッキングの要請を検討すると発表。漫画やアニメは日本のクールジャパン政策には欠かせないもの。積極的な輸出をはかるためにも著作者を守っていかねばなりません。これを受け、NTTグループは3サイトに対してブロッキングを実施しました。しかし、サイトのブロッキングは、憲法で保障されている、「通信の秘密」「検閲の禁止」に抵触するのではないかと、法律家やメディア業界から反発の声が上がっています。これまでも児童ポルノなど人権に関わり、ほかに手段がない場合には実施してきました。しかし、たとえブロッキングしても、サーバーやアドレスを変えればまた立ち上げられるので、いたちごっこにすぎないところもあるのです。海賊版サイトを立ち上げるには、資金も労力もかかります。それでもなかなかなくならないのは、莫大な広告収入が得られるからです。優良企業の広告が、知らぬ間に海賊版サイトに掲載されていたケースも多々。そこで、海賊版サイトへの出広をなくし、資金源を断つことがサイトへの大きな打撃になると考えられています。悪質サイトの撲滅にはまず、(1)サイトに中止を要請。(2)ユーザーに利用しないよう要請。(3)広告掲載中止を要請。(4)検索にかからないよう制限を要請。そして最後に「サイトブロッキング」という手段を選ぶのが適当なのではないでしょうか。私たち読者に求められているのは、海賊版サイトを利用しない機運を高めることです。たとえ使いやすく無料で読めたとしても、利用者が増えれば漫画は売れなくなり、制作者にお金が回らず、制作続行が困難になり、将来、新しい漫画が作られなくなるかもしれません。また、ブロッキングが広がれば、国によって通信の自由が奪われる事態に陥らないとも限りません。結果、私たちに跳ね返ってくる問題であるということを忘れないようにしましょう。堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。新刊『堀潤の伝える人になろう講座』(朝日新聞出版)が好評発売中。※『anan』2018年7月18日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年07月13日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「子ども食堂」です。立ち上げだけでなく持続できる仕組みを。見守る社会が肝要。いま、日本の子どもの7人に1人が相対的貧困に陥っています。そこで民間から支援のひとつとして広がったのが「子ども食堂」です。週に1回もしくは月に1回程度開催され、子どもが一人で参加し、無料または低料金で食事を摂れるというもの。全国に2286か所まで拡がってきました。数が増えたのは喜ばしいことですが、実は問題を抱え閉じてしまった食堂も少なくありません。自治体やNPOが支援しているケースもありますが、個人が集い、手弁当で始めているところがほとんど。食材を持ち寄り、地元の飲食店や企業に提供を依頼するなどしてやりくりしているため、継続するのは大変なんです。主催者が途中で仲たがいをしてしまったり、食中毒が出て閉鎖に追い込まれることも。最大の問題は、「子ども食堂=貧困」というイメージがつき、子どもが通いづらくなってしまったということです。子ども食堂には、子どもの孤食問題を解決するという目的もあります。親に500円玉1枚を渡され、コンビニでカップ麺やおにぎりを買って一人で食事を済ます子どもたち。栄養面の偏りだけでなく、困ったことがあっても相談する人が誰もいないという孤立が深刻な問題です。子ども食堂へ行けば友達もできますし、ボランティアのお兄さんお姉さんに宿題をみてもらったり、ゲームをして遊んだり。子どもの居場所づくりが可能になります。子ども食堂はまだ不足しています。問題を解決するため、事故に対応できるよう保険参加を支援するクラウドファンディングが立ち上がったり、地元の人が誰でも集える場所として、名称を「じもと食堂」にしてみたり。文京区では非営利団体と共同で、貧困家庭に食事を届ける「こども宅食」を始めました。食事を届けるだけでなく、親や子を孤立させないつながりを作ることを重視。この取り組みの支援には、ふるさと納税も使えるようにしました。子どもを地域で見守るということが大事なスタンス。「こども食堂ネットワーク」のHPでは近くの子ども食堂が調べられます。行政、企業、NPO、個人が協力し合って、社会問題を解決することが必須になってきています。堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。新刊『堀潤の伝える人になろう講座』(朝日新聞出版)が好評発売中。※『anan』2018年7月4日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年06月29日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「人生100年時代」です。教育、雇用、社会保障を変えていく必要があるんです。安倍政権が掲げている人づくり革命のベースになっているのが「人生100年時代」です。日本は超高齢社会に突入しており、2007年に生まれた子供の半数が107歳よりも長く生きると予想されています。それに伴い、教育、雇用、社会保障など、国の制度を見直さねばならなくなりました。政府は昨年9月に有識者を集めて「人生100年時代構想会議」をスタート。すでに会議は7回開かれました。これまでの日本人の主な人生設計は、一つの会社で定年まで勤めあげ、退職後はゆったりとした年金生活を10~20年過ごして一生を終える、というものでした。それが、寿命がさらに20年延び、定年後の生活が長くなるのです。厚生労働省の発表によると、平成28年の男性の平均寿命が80.98歳。日常生活に制限のない健康寿命は72.14歳。女性は平均寿命が87.14歳に対して、健康寿命は74.79歳でした。現在では、iPS細胞など再生医療の分野の研究や、義手義足など身体機能を補う技術が進んでおり、健康寿命も延び、これからは高齢でも現役で働けるようになると予想されています。社会的にも、日本の人口は減少していきますから、高齢者も大事な労働力に。若者が高齢者の生活を支えるという、高齢者に重きをおいた従来の社会保障から、幼児教育や高等教育の無償化など、互いに支え合う全世代型の社会保障に変わっていくでしょう。終身雇用は崩れ、雇用の流動性が求められます。そこで、政府が推奨しているのが、何歳でも学び直しができる、「リカレント教育(生涯学習)」です。社会に出たあとも、新しい技能や知識を身につける機会を得て、第二、第三の仕事に就くことができるようにしようとしています。そのとき注意しなければいけないのは、急速な社会の変化です。20年前に花形だった業種がいまは斜陽産業という例はいくつも出てきています。AI時代の到来により、人が担う仕事も変わるでしょう。人生100年時代は社会も生き方も働き方も変容しますから、意識の変革が必須。20年単位で自分をバージョンアップしていくような柔軟な姿勢が大事なのかもしれませんね。堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。新刊『堀潤の伝える人になろう講座』(朝日新聞出版)が好評発売中。※『anan』2018年6月20日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年06月14日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する連載「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「公文書」です。明確なルールが不十分。国民の財産という意識を。森友学園や自衛隊の日報など、公文書にまつわる問題がたびたび取りざたされています。公文書とは、国や地方公共団体などの機関、公務員が作成する文書を指します。日本では長い間、公文書についての明確なルールが決められておらず、「公文書管理法」という法律が整備されたのも2009年、麻生内閣のとき。年金の納付記録漏れなどが発覚し問題になった時期でした。公文書管理法の第1条には、「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主権者である国民が主体的に利用し得るもの」と記載されています。公文書は国民の大切な財産。のちに政策や意思決定の経緯を検証するための重要な資料となります。日本には、太平洋戦争で敗戦が濃厚になったときに、軍が書類を焼却処分したという苦い過去があります。たとえば、満州で陸軍の731部隊が、生物兵器の人体実験を行ったのではないかといわれている件も、関係資料が残っていないために実証ができておりません。現在、公文書は内容に応じて最長30年保管され、その後も歴史的に必要と判断されたものは、国立公文書館に移されます。公文書にするかどうかは各役所の判断に委ねられており、公文書にすると決まったら、文言もいろいろ整えてから作成されるのだそうです。短期で目的を終えると担当者が決めたら「1年未満文書」として、管理簿へ記載されず、審査を受けることなく廃棄できます。自衛隊の日報があとから見つかったという問題も、日報を公文書とするかどうかの意識にズレがあったからではないかといわれています。アメリカには国立公文書記録管理局があり、誰でも自由に閲覧できます。僕もサンオノフレ原発事故について調べたときに、民間企業の担当者の連絡先まで辿ることができました。「不都合になりそうなことは隠す」のではなく、公益性を考え、社会にとって必要な情報は公開する。民主主義国としてアメリカは先輩格だなと実感しました。徹底した管理をするには、人員が足りていないという問題もあります。今後の公文書のあり方、情報公開と保存についてしっかりと整備し、ルールを作り上げていくことが望まれます。ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。新刊『堀潤の伝える人になろう講座』(朝日新聞出版)が好評発売中。※『anan』2018年6月6日号より。写真・中島慶子題字&イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年06月10日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「尊厳死と安楽死」です。超高齢化社会の日本の今後の課題。徹底した議論を。今年の1月、評論家の西部邁さんが入水自殺をした際、知人の2人が自殺の手助けをしたとされ、自殺ほう助の罪に問われ、逮捕されました。西部さんは生前、老齢で病気になり家族に迷惑をかけたくないと思う人間が、自分の裁量で死ぬという選択があってもよいのではないかとおっしゃっていました。橋田壽賀子さんも昨年、『安楽死で死なせてください』という著書を出され、物議を醸しました。尊厳死とは、回復の見込みがなく苦痛を伴う状態にある場合、延命措置を断り最後は自然死を迎えるというもの。安楽死には、薬物を投与したり、延命治療を途中でやめる「積極的安楽死」と、延命治療を行わない「消極的安楽死」がありますが、線引きは曖昧です。現在、日本では安楽死は認められていませんが、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、スイス、カナダ、アメリカの一部では認められています。オランダでは2002年に安楽死を法制化し、通常の医療行為として、保険が適用されているそうです。認められる条件は、本人の自発的な要求のほか、改善の見通しがない、安楽死以外の解決策がない、安楽死の担当医以外の医師の診断などです。2016年には6091人の人が安楽死を選択。7割が末期ガン。あとは高齢者や認知症患者などが占めていました。超高齢者がますます増える日本にとって、終末期医療・ケアは大きな課題です。厚生労働省は3月に「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を改訂しました。本人の意思を尊重するのは大前提ですが、本人が意思決定できなくなる前に、家族や医療・介護従事者が連携をとって方針を繰り返し話し合い、文書にしておくことを勧めています。尊厳死、安楽死は難しい問題です。治る見込みがなく、毎日苦痛を伴いながら家族を犠牲にして生き続けるのは確かに辛い。しかし、生きることを前提に作られている社会で、死を自ら選択できることになれば社会不安を起こします。また、弱者は切り捨ててよいという発想にもなりかねません。人生100年時代、社会でも家族間でも徹底して議論する必要があるでしょう。堀潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。新刊『堀潤の伝える人になろう講座』(朝日新聞出版)が好評発売中。※『anan』2018年6月13日号より。写真・中島慶子題字&イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年06月09日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する連載「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「18歳成人」です。少年法や保護者の責任期限など、要検討事項も多々。3月の閣議で、政府は成人年齢を20歳から18歳に引き下げる民法改正案を決めました。それに合わせ、結婚できる年齢を女性も18歳に変更、2022年4月の施行に向けて、現在、細かな法律の整備を進めています。成人年齢引き下げのきっかけとなったのは、4年前に憲法改正の是非を問う国民投票の投票年齢を18歳としたことです。続けて一昨年、選挙権も18歳に引き下げられました。今回、飲酒や喫煙、公営ギャンブルができる年齢は20歳のまま据え置きになりますが、親の承諾なしにクレジットカードを作ったり、ローンを組むことが可能になります。高校を出たての若者が悪徳商法に引っかかるなどの被害が出ないかと、心配の声も上がっています。一番懸念されているのは、少年法の適用年齢を引き下げるかどうかです。現在、未成年の犯罪の場合は少年院に送られ、更生指導を受け、一般社会に戻されます。ところが、もしも18~19歳でいきなり刑務所に送られることになれば、社会経験のないまま、更生の機会も得られず、再び社会に放り出されることにもなりかねません。刑期を終えたあと、2年以内の再犯率は11.5%。この数字が増えてしまうことになるかもしれません。未成年でも凶悪事件は刑法で裁かれる場合もあるので、20歳のままの年齢設定でもよいのではという意見も出ています。また、成人年齢引き下げでしっかり議論すべきなのが、保護者が責任を持つ年齢です。児童養護施設にいられる年齢、養育費の支払い義務は何歳までになるのか。18歳から成人となれば、大学費用の負担がシングルマザーやファーザー家庭で増えたり、あるいは子ども本人に負担が及ぶでしょう。世界では、成人年齢を18歳に定めている国がほとんどです。世界のスタンダードに合わせ、自立する年齢が早まるのはよいことですが、そのかわりに、税金や労働法、経済の仕組みやリテラシーなど、社会に出て必要とされることの教育プログラムを作る必要があると思います。ブラックバイトの問題が後を絶たないのも、それらが違法だという知識が、雇われるほうにないのが一因なんですね。ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。新刊『堀潤の伝える人になろう講座』(朝日新聞出版)が好評発売中。※『anan』2018年5月30日号より。写真・中島慶子題字&イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年05月23日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する連載「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「死刑制度」です。世界は廃止が主流。加害者の人権をどう捉えるか。1989年~‘95年に起きた一連のオウム真理教事件。関連する刑事裁判がすべて終結し、麻原彰晃死刑囚をはじめ、死刑が確定した13人の刑の執行もまもなく行われるといわれています。日本の死刑の歴史は古く、5世紀の仁徳天皇時代からあり、現在の刑法に定められたのは明治40年です。しかし、世界では死刑制度は廃止の方向に進んでいます。1990年時点で、死刑制度のあった国は96か国、廃止国は80か国。2009年には死刑存置国は58か国に減り、廃止国は139か国に増えました。イギリス、フランス、ドイツなど、ベラルーシ以外の欧州諸国や南米諸国は廃止。アフリカでも廃止国が増えており、アメリカで死刑が存置されているのは一部の州のみです。中国も国際社会からの批判を受け、適用を厳格化することにしました。多くの国が死刑制度を廃止にした主な理由は、人権的な問題と、実は死刑が凶悪犯罪の抑止力にはならないと証明されたからです。国連人権理事会は、日本政府にも死刑制度の廃止や一時停止の勧告を行いましたが、政府は世論が求めていないからと、検討する構えを見せていません。平成26年度の内閣府の世論調査によると、80.3%の人が「死刑もやむを得ない」と答えました。「死刑は廃止すべき」が9.7%、「わからない、一概にいえない」が9.9%。「やむを得ない」と答えた人のうち5割以上の人が、その理由を「被害者やその家族の気持ちがおさまらない」「凶悪な犯罪は命をもって償うべき」としています。そして、「死刑を廃止すると、凶悪犯罪が増える」と考える人が57.7%いました。しかし一方で、袴田事件や名張毒ぶどう酒事件といった死刑判決が確定した事件が、再審でのDNA鑑定により冤罪だったことなど、問題も複数起きており見過ごせません。日弁連は、人権擁護の観点から死刑制度廃止を訴え続けていて、再来年、国連犯罪防止刑事司法会議が日本で開催されるまでに、進展を見せたいと考えています。加害者とはいえ、人が人を殺してもよいのか。終身刑ではなく、死刑でなくてはならない理由は何か?みなさんはどう思いますか?堀潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。新刊『堀潤の伝える人になろう講座』(朝日新聞出版)が好評発売中。※『anan』2018年5月23日号より。写真・中島慶子題字&イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年05月16日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する連載「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「米朝首脳会談」です。史上初のできごと。非核化と拉致問題解決を望みます。トランプ大統領は3月、北朝鮮が韓国を通じて申し入れた直接対話に、応じると即答。金正恩朝鮮労働党委員長とトランプ大統領の首脳会談が6月上旬までに開かれることになり、世界を驚かせました。実現すれば、現職のアメリカ大統領と北朝鮮の最高指導者の会談は史上初となります。北朝鮮はここ数年、核実験と弾道ミサイルの発射を繰り返し行い、アメリカは経済制裁の圧力を強め、いつでも応戦態勢にあることをアピール。両国間の緊張状態が続いていたため、首脳会談の受け入れは、突然手のひらを返したように見えますが、北朝鮮は20年以上、米国大統領との直接会談を求めていました。国際社会に北朝鮮の金体制を認めさせたいという理由からです。しかし、いまや核を保有するとみられる、非人道的な独裁国家を認めるわけにはいかないと、これまでの大統領はそれを拒否していました。けれども、トランプ氏は大統領選のころから直接対話の可能性をほのめかしており、今回それが実現されようとしています。もちろん、これには1月に北朝鮮と韓国の閣僚級の会談が行われ、平昌五輪で南北合同チームが参加するなど、韓国の尽力による南北融和ムードも下支えしています。北朝鮮にとって、最大の貿易国は中国です。アメリカとの直接対話の前に、中国との関係を良好に保ちたい金委員長は、急きょ非公式に中国を訪問。習近平主席と会談し、「米韓が北朝鮮に対して平和的な措置をとれば、朝鮮半島の非核化問題も解決できるだろう」とコメントしました。先日、安倍首相は、中国外相と北朝鮮の「非核化」と拉致問題の解決に向けて協力体制をとることを確認。続いて渡米し、トランプ大統領と会談。米朝首脳会談では拉致問題を議題にあげるという、大統領の約束をとりつけました。この数か月、北朝鮮とアメリカ、中国、韓国の4国間で交渉が急展開し、圧力路線一辺倒だった日本は、若干蚊帳の外にあった印象でしたが、拉致問題を交渉のテーブルにのせる確約がとれたことは、喜ばしいできごとです。実現するか否かも含めて、米朝首脳会談の行方に、世界中が注目しています。堀潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。新刊『堀潤の伝える人になろう講座』(朝日新聞出版)が好評発売中。※『anan』2018年5月16日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年05月11日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「仮想通貨の現状」です。仕組みが不安定。投資目的の購入はリスクが高すぎる。今年1月、仮想通貨交換業者の大手コインチェックで、ハッキングにより仮想通貨「NEM(ネム)」580億円分が流出する事件が起きました。仮想通貨の技術を支えるのはブロックチェーンという仕組み。世界中の複数のサーバーで情報を共有。互いに監視、管理するシステムなので安全だと言われていました。なので流出後のNEMも追跡できていましたが、遂には、ダークウェブといわれる、一般ではアクセスしづらいインターネット最深層部にある闇の取引所で取引され、細かく分散、換金されてしまいました。そのため、全てのNEMの追跡は実質不可能に。流出したお金の最終的な行き先は、独裁国家の可能性も高いと言われています。仮想通貨の取引に関して、取り締まる法がなかったため、金融庁は、昨年4月に改正資金決済法を施行。仮想通貨交換業者に登録制を導入しました。コインチェックは、まだ申請段階の「みなし業者」だったんですね。この事件を受け、他のずさんな業態の交換業者にも処分命令を出し、登録審査の基準も厳しくしました。またZaif(ザイフ)という仮想通貨取引所では、2月にビットコインが0円と表示され、ある利用者が21億BTC(時価総額2246兆円)をタダで購入するというトラブルが起きました。翌日それは無効になり、後にZaifはシステムエラーによるものと謝罪。ただ、そもそも発行総量が2100万BTCと決まっているビットコインが、なぜ総量を上回って購入できたのか、ネット上では疑問の声が上がりました。最近は「ICO」といい、株のように仮想通貨を発行して資金を調達する仕組みも出てきました。様々な仮想通貨が生まれましたが、変動が大きすぎて安定した売買ができず、もはや通貨ではなく、ただの投資のためのデータになってしまっているものもあります。仮想通貨はまだ過渡期。勉強のための少額購入ならよいですが、まとまったお金を投資するにはリスクが高すぎると思います。先日、コインチェックはネット証券のマネックスグループに買収されました。仮想通貨はあくまで、ブロックチェーンという技術を世界に浸透させる先導役なのだと思います。堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。新刊『堀潤の伝える人になろう講座』(朝日新聞出版)が好評発売中。※『anan』2018年5月2・9日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年05月07日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「平昌パラリンピック」です。平昌パラリンピックで、日本は前回ソチ大会を上回る10個のメダルを獲り、選手は大活躍でした。2012年のロンドン大会以降、パラリンピックやパラアスリートへの関心は高まり、企業のブランディングの一環として、広告への起用や支援も増えてきました。東京五輪に向けてNHKも放送に力を入れ、約60時間と、ソチ大会から放送時間が倍増したのは喜ばしいことです。僕も現地に行きましたが、今回日本の報道陣は頑張っていて、他国が1クルー程度だったのに対し、どこも日本の取材クルーが大挙して押し寄せていました。韓国の公共放送でさえ、放送時間は18時間程度と日本の3分の1以下。日本の報道陣を見て、文在寅大統領が急遽、放送時間を拡大するよう指示を出したほどです。ただ日本でも、取材したものの、発表する放送枠、紙面が少ないことに報道陣は頭を悩ませていました。財務省の文書改ざん問題など、世間の関心を集めるニュースに場を奪われてしまったことも要因です。取材の受け皿を広げるためには、「もっとパラアスリートを見たい」という視聴者の声が必要になるでしょう。オリンピックに比べてまだ関心の低いパラリンピック。金メダルを獲ったアメリカの義足のスノーボーダー、マイク・シュルツさんは、義足を作る会社の経営もしています。「パラアスリートたちのストーリーや、競技の技術力の高さは価値あるものだから、自分たちの活躍を通して、皆の関心を引き寄せたい」と話していました。今回、もう一つ平昌で痛感したのは、ボランティアの方々の重要性です。通訳や障害者の方の移動支援など、とてもスムーズだったんですね。ボランティアのなかには、「世界の人々と交流を深め、平和に貢献したい」と、2か月間仕事を休んで参加している青年もいました。平昌ではボランティアスタッフに食事と宿泊施設を提供していましたが、現状、東京五輪ではボランティアの宿泊費は自己負担です。選手の活躍、観客の声援、ボランティアの温かな支援が重要な要素となる五輪。約11万人のボランティアを募集しますが、気持ちよくサポートしてもらうためにも、待遇面のケアは必要だと思います。堀潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2018年4月25日号より。写真・中島慶子題字&イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年04月20日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「アメリカの核態勢の見直し」です。抑止力のために、実践的な核兵器を持つことに。今年2月にアメリカは、「核態勢の見直し」(NPR)を公表しました。これは1994年から行われているもので今回で4回目。オバマ前大統領は「核なき世界」を訴えており、前回の2010年のNPRでは核兵器の役割を低減させると発表しました。これに対し、トランプ大統領は今回、ピンポイントで狙える小規模な使いやすい核、「戦術核」を持つと公表したのです。これまでアメリカが持っていた核兵器は「戦略核」といい、全土を焦土にしてしまうような、広範囲に効力を示すものでした。それを使用した後の被害規模を思えば、実際問題、容易には使えません。「使うことを前提に持っていなければ、抑止力にはならない」というのがトランプ大統領の主張です。この背景には、ロシアや中国が軍事力を増し、戦術核を開発してきたことや、北朝鮮の脅威の拡大などもあります。アメリカは核兵器のオプションを増やし、サイバー攻撃や核以外の攻にも対抗して使えるようにしたいと考えたんですね。アメリカは、冷戦期に比べて、核保有量を85%以上削減してきました。技術の進歩により、小さくても性能のいいものができ、必ずしも大きな核兵器を保有しなくてもよくなったからです。世界で核軍縮が進んだように言われていますが、核の脅威そのものがなくなったわけではないんですね。今回のNPRの公表も、オバマ政権時代から進めていた核戦略近代化計画に即したもの。トランプ氏がいきなり方針転換をしたように見えますが、表向きは核廃絶を訴えながら、裏で核開発を進めてきたアメリカの、表の顔をなくしただけ、ともいえます。核を持たない国は核廃絶を訴えます。しかし、核保有国は、積極的に核の不使用を宣言しません。世界から核兵器をなくした場合、どうけん制し合い、世界の均衡を保てばよいのか、ほかの抑止力が見つからないからです。日本政府は今年のNPRを高く評価すると発表しました。けれども、どのような核も非人道的なものに変わりはありません。武力以外の抑止の方法を、真剣に考えなければいけない時期に来ているのではないでしょうか。堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2018年4月18日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年04月17日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「徴兵制度」です。戦争の形も変わり兵役制度も変化してきています。今年の1月よりスウェーデンは、8年前に廃止していた徴兵制度を復活させました。ロシアの脅威に備えるためです。続いてフランスでも今年、マクロン大統領が、18~21歳の男女を対象に兵役を課すことを発表しました。ロシアへの対抗、テロ対策の強化が主な理由です。また、アメリカのNATO軍への負担が大きいため、トランプ大統領がヨーロッパ各国にも公平に参加してほしいと依頼したことも起因していると思われます。ただ今回のフランスの兵役は1か月なので、軍事訓練というよりは国威発揚を促すことに重きがおかれているのではないでしょうか。日本人は、徴兵制度というと太平洋戦争のときのイメージを持つかもしれませんが、いまは無人攻撃機やサイバー攻撃などが増え、かつての大量の歩兵による肉弾戦とは戦争の形が変わっています。それにともない、兵役の内容も変化してきているんですね。たとえばIT先進国のイスラエルでは、18~19歳から男子が3年、女子は2年の兵役義務があります。軍隊で心身ともに鍛えながら、同時にさまざまな最新のIT技術を学んで身につけます。退役後はそのスキルをいかし、起業するケースが多いんですね。また、マレーシアでも男女が徴兵され、3か月間の共同生活を行います。ただし、軍事訓練というよりは社会奉仕活動がメインなのだそうです。現在、男女ともに兵役のある国はこの2国のほか、ノルウェー、スウェーデンのみ。男性のみ義務がある国は、韓国、北朝鮮、シンガポール、ベトナム、タイ、スイス、ロシアなど。アメリカやイギリス、ドイツ、イタリアなどには徴兵制度がありません。かつてはあったのですが、冷戦が終わったときにほとんどが廃止されたんです。日本に徴兵制度が復活する可能性は低いでしょう。ただ、現在自衛隊が定員割れしています。「予備自衛官補」という、18~34歳の学生や一般社会人が基本訓練を受け、災害時や有事に徴集されるという制度も設けています。現在の自衛隊の人手不足を考えると、災害救助や救急救命のノウハウを学ぶための短期間の徴兵制度なら、あってもよいのではという声もあります。堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2018年4月11日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年04月06日「叶えるぞ!」という自分の意識を言葉に乗せてつぶやく。すると言葉は強力なパワーアイテムになる。たった一言で幸せを引き寄せる言葉のエネルギーの使い方を、効果的な時間帯とされる“夜と朝”のうち、今回は夜に注目して紹介!願いを叶えるためには、自分を受け入れたうえで“言葉”にすることが大事だと、引き寄せ実践法アドバイザーのMACOさん。「そのままの自分を認めて肯定することで、良い波動が生まれます。その波動を言葉に乗せて発すると、自分が望む心地のいい現実を引き寄せることができます。フレーズに意識を向け、つぶやくことを習慣づけることが大切ですよ」言葉の持つ引き寄せ力を味方にするには、夜と朝がベストタイム。「脳が半覚醒状態になる入眠前や起床時が、いちばん言葉を刷り込みやすいとき。まず就寝前に疲れた心と体をリセットし、翌朝、新たなスタートを切るための言葉を自分自身に宣言しましょう」MACOさんおすすめの3フレーズを、今日から始めてみて。まずは、今日一日に感謝し自分をねぎらう“夜のリセットワード”をご紹介!就寝前は、対人関係で消耗したエネルギーを取り戻したり、負の感情をリリースする時間。頑張った自分を褒めていたわるような言葉や、ブレた軸を戻して修正するフレーズを唱えよう。今日何を感じたとしても、それでヨシ。【受容】一日外で過ごすと他人のエネルギーの影響を受けたり、「私ってこれでいいのかな?」と、自分を否定したり不安になることも。「それでいい!」と、自分の存在価値を認める言葉で自分を受け止めてあげよう。【類義語】「今日のネガティブは次の未来のため!」「私って何でもうまくいくんです」「私は食べても太らないんです」今日も私は、オッケーでした。お疲れさま!【肯定】今日一日頑張った自分をいたわり、ねぎらってあげることも大切。そのとき、「オッケー!」「頑張った私、えらい!」など自己肯定感が高まるフレーズを選ぶと、明るくポジティブな気持ちが持てるようになる。【類義語】「今日の私、よくやったね!」「今日も一日、楽しかった。ありがとうございます」「私は、みんなから愛されていい!」私が、私の世界のいちばん。【意識と思考の修正】最後に、他人に持っていかれたエネルギーを取り戻し、ブレてしまった自分を“軸”の中心へと戻す作業を。「他の誰でもない、私こそが全ての頂点に立つ!」ということをイメージしながらつぶやいて。【類義語】「私は大好きな人のいちばんでいる」「私の周り全方向から幸せが私に集まってくる」「私は自分にしかない価値を発揮できる!」MACOさん引き寄せ実践法アドバイザー、メンタルコーチ。メディアやセミナーで活躍。『MACO ネガティブな人のための引き寄せパーフェクトBOOK』(宝島社)など著作多数。※『anan』2018年4月4日号より。イラスト・五月女ケイ子取材、文・重信 綾(by anan編集部)
2018年04月01日まずは母語を完璧に。自分の意見を話す訓練も大事ですね。グローバル化が進むなか、2020年度より、英語教育(外国語活動)の開始を小学校3、4年生に早め、5、6年生からは英語が正式な教科となることが決まりました。現在、文部科学省では指導計画を考案中です。僕自身、英語習得に苦労したので、英語教育のスタートが早くなるのは、とてもいいことではないかと思います。早期英語教育の話が出ると、「母語の教育をおろそかにしてはいけない」という反論がよく上ります。母語はとても重要です。必ずしも日本語でなくても構いませんが、複雑な気持ちを表現できる言語を何か一つ、徹底的にきちんと身につけるのは、生きていく上で必要なことです。言葉は人に気持ちを伝えるだけでなく、自分の思考を深める助けにもなるからなんですね。母語も新しく学ぶ言語も未熟な状態を「ダブルリミテッド」または「セミリンガル」といいます。それだと“アイデンティティ・クライシス”に陥りやすく、モヤッとした気持ちを伝えられないと不安が募り、暴力的になったり、引きこもりになることもあります。勘違いされやすいのは、その言語環境にいれば子供は勝手に言葉を話せるようになるだろう、ということ。しかし、思考を深めるくらいの言語を習得するには専門的な教育が必要です。日本語であれば、国語の授業や小論文ですね。これにより言葉の表裏を知り、表現が鍛えられます。ですから、早期英語教育を始めるにあたっては、母語教育が重要なんですね。ダブルリミテッドは避けなければいけません。海外で日本人が苦労するのは、言葉以前に、自分の意見を話すということではないでしょうか。英語力があっても、意見がなければコミュニケーションにはなりません。文科省では、討論や発表を通じ、自ら問題を見つけ解決できる学習を、英語だけでなく各教科で導入していこうと計画しています。日本人以外の非英語圏の人たちは、多少文法が間違っていたり、発音が訛っていても、たくましく自分の意見を英語で伝えようとします。日本人が英語が苦手な理由は、「間違ったら笑われる」という不要な羞恥心が邪魔をしているのかもしれませんね。堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2018年3月28日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年03月25日