大きな事件は起こらない。しかし、何気ない小さな出来事が積み重ねられるうち、気づけば不思議な場所に迷い込んだ感覚にさせるのが劇作家・倉持裕さんの劇作の魅力。藤間爽子さんが出演する舞台『帰れない男~慰留と斡旋の攻防~』もまた、大きな屋敷に招かれた主人公・野坂が、強く引き留められるわけでもないのになぜか帰る機会を見失ってしまうという不思議な物語だ。「摩訶不思議なテイストですが、人間の本質もしっかり描かれています」「最初にお話を伺ったとき、主人公が屋敷から出られないというだけで、どう話を進めていくんだろうというところに興味が湧きました。私が演じるのはお屋敷の奥様で、今までそういう役をやったことがなかったので、挑戦にもなると思って」お屋敷の主人に扮するのは山崎一さん。歳の離れたこの夫婦が、絶妙な意味深さで主人公を翻弄する。「当初は魔性の女性をイメージしていたんですが、台本を読んでみたら、どこにでもいそうなチャーミングな女性でした。だから今は役を作り込むというよりは、わりと自分に近いところで演じている感じです。摩訶不思議なテイストではありますが、それだけじゃなく、人間の本質みたいなものがしっかり描かれている気がするんです。例えば、帰りたいのになんだか帰れないときとか、本当は好きなのにわざと突き放してしまったり、思っていることと真逆のことを言ってしまったりって、私にもあること。倉持さんが、そういう人間の行動に着眼点を置かれたのがすごく面白いなと思いますし。セリフを読んでいると、時おりグサッと刺してきたり、ハッとさせられたりすることもあって。ただ不思議な話では終わらない面白さや、共感する部分が入っているなと思います」倉持さんからは禁欲がテーマの一つになっている、とも。「登場人物それぞれみんな欲を持っていて、表には出さないけれどどこか滲み出てしまう。そこになにかエロスのようなものがあったりするのでは、とおっしゃっていました。今はなんでも言いたいことが言える世の中だから、リアリティを持たせるために時代を昭和初期の頃に設定したのだそう。今の時代の、誰でもなんでも言える風潮は素晴らしいことではあるけれど、昔の日本人の、言いたいことがあっても抑えているからこそより重くなったり、フツフツと湧き上がるみたいなことってある気がするんです。この作品では、そんな隠しきれない想いが重く息苦しい雰囲気にはなるけれど、そこが面白かったり滑稽に見えたりするんじゃないかと思っています」野坂自身、本当に帰りたいのか、本心では帰りたくないのか、物語が進むほど謎は深まるばかり。その男を演じるのが林遣都さん。「稽古初日の段階ですでに台本を読み込んでセリフを入れてこられていて結構焦ります(笑)。遣都さんは主人公っぽいというか、つい追いたくなってしまう華やかさと陰とをお持ちの方で、まさに“野坂さん”という感じなので楽しみですね」M&Oplaysプロデュース『帰れない男~慰留と斡旋の攻防』危ういところを助けたことから、瑞枝(藤間)から屋敷に誘われた野坂(林)。当初はすぐに帰るつもりだったが、なぜか1日2日と過ぎてゆき、やがて野坂の友人・西城(柄本)が心配して迎えに来るが…。4月13日(土)~5月6日(月)東京・本多劇場作・演出/倉持裕出演/林遣都、藤間爽子、柄本時生、新名基浩、佐藤直子、山崎一全席指定8000円U‐25チケット5500円(観劇時25歳以下対象)M&OplaysTEL:03・6427・9486名古屋、島根、富山、大阪、仙台公演あり。ふじま・さわこ1994年8月3日生まれ、東京都出身。近作に映画『夜明けのすべて』。6月には出演映画『九十歳。何がめでたい』が公開。日本舞踊家・藤間紫としても活動。※『anan』2024年4月17日号より。写真・小笠原真紀ヘア&メイク・坂本志穂(グラスロフト)インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2024年04月17日飲むバランス栄養食「カロリーメイト リキッド」の新TVCMに、声優&俳優として大活躍の津田健次郎さんが登場。3月30日(土)より全国で放映がスタートします。手軽に栄養補給できる「カロリーメイトリキッド」は、続けやすい3フレーバー展開。・まろやかなミルクの風味とコーヒーの優しい味わいの「カフェオレ味」・華やかなフルーツの香りとすっきりとした甘さの「フルーツミックス味」・爽やかなヨーグルトテイストでさらっとした飲み心地の「ヨーグルト味」■津田健次郎さんが猫とたわむれる姿は必見!新TVCMで津田さんが演じるのは、仕事も育児も頑張る父親役。慌ただしい日常の中で“からだの栄養”となるカロリーメイト リキッドを飲んだり、“こころの栄養”である愛猫とじゃれあったりしながら、自身の栄養を補給していく様子が描かれています。津田さん演じる父親が元気いっぱいの子どもにちょっかいを出されて慌てるシーンも。実生活でも2児の父という津田さんのリアルパパ姿は見逃せません。ちなみに飼い猫の声を担当しているのは、津田さんの大先輩にあたる声優の井上和彦さん。癒しの低音ボイスにも注目です。また大塚製薬の公式YouTubeでは新TVCMのメイキング映像も公開。愛猫役の“みーこちゃん”や子どもとコミュニケーションを取る津田さんの自然体な姿が楽しめます。また今回のCMに関する津田さんのインタビューも公開されました。▼CMの中で子どもにちょっかいをかけられて慌てるシーンが印象的でしたが、津田さん自身は子育てで苦労されたことなどありますか?子どもに仕事を中断されるみたいな、ああいう突拍子もない思い通りにならない、言うことを聞いてくれない、というところが、ああ大変だなあとは思うんですけど、子どもってそういうものなので、それはそれで一緒に楽しみながら過ごせたらなと思っています。▼CMの中で「怪獣」と呼ばれる子どもの姿が印象的でしたが、津田さん自身は昔、どんな子どもでしたか?ぼーっとした子どもでしたね。本当にマイペースで、ぼけーっとして過ごしていた、そんな覚えがあります。ちょっと周りのペースとあんまり合ってない感じのぼーっとした感じでしたね。▼津田さんのお子さんはどんなお子さんですか?よし、今時間あるから遊ぼうかっ!て時は全然、「ううん、別に」って感じだったり、自分が仕事し始めたら急に「遊ぼう」って来たりとか、自分の時間で生きてるなっていう天真爛漫な感じです。▼声優としても俳優としてもご活躍の津田さんにとって「こころの栄養」ってなんだと思いますか?やっぱり妻や子どもと一緒に過ごす時間が「こころの栄養」になっています。▼今回のCMでは、声優の大先輩である井上和彦さんと飼い主と猫という関係性での共演になりましたが、今後どんな役柄だ共演してみたいですか?和彦さんも低音の方なので、兄弟とか、大先輩に対して兄弟というのもなんですけど(笑)、親子とか、近い関係でぜひご一緒してみたいなと思います。カロリーメイト リキッド新TVCM 「吾輩は栄養である・怪獣との毎日」篇2024年3月30日(土)より全国でオンエア開始15秒 30秒 メイキング映像
2024年03月28日学校イチの人気者オミくんと、彼との妄想を密かにSNSに綴るエリーが織りなす胸キュンラブストーリー、映画『恋わずらいのエリー』。これが3度目の共演の、宮世琉弥さんと原菜乃華さんがW主演を務めます。注目の若手俳優2人が恋のときめきと成長を表現。左・宮世琉弥さん、右・原菜乃華さん。――役について教えてください。宮世琉弥さん(以下、宮世):オミくんは“ウラオモテ”王子で、裏ではかなりのツンデレで。僕にとってはこれが初めての王道のラブストーリーなので、ツンデレの引き出しがなかったんですけど、ツンデレな監督から技を盗みまくりました(笑)。原菜乃華さん(以下、原):エリーはピュアなところが魅力です。人からのアドバイスも素直に受け止めて、彼女なりに実践しながら引きこもりがちな性格を変えていきます。エリーの成長は、完璧に見えて実は努力しているオミくんの姿に、背中を押してもらっていた部分も大きいと思います。宮世:エリーは、徐々に自分の気持ちを伝えられるようになっていくよね。オミくんも成長していくし、そうやって自分の殻を破って変わっていく二人に学ぶところも多かった。そういうところも含めて、年代に関係なく共感していただける部分があるので、学園ラブストーリー作品は観に行きにくいと感じる年代の方も、楽しんでいただけます!原:エリーは勇気を出して「一緒に帰りたいです」とか、想いを一生懸命伝えるんです。年齢を重ねるにつれて気持ちをストレートに伝えられなくなる…という人も、この映画を観たら、キュンキュンする感覚を取り戻していただけると思います。――今作が3度目の共演ですね。宮世:最初の共演から、原さんはすごくお芝居が上手くて!役に入り込んでいる原さんに、何だか吸い込まれるような感覚があるんです。原:嬉しい!私は宮世さんとやっていると、すごく安心できます。お芝居のパターンを変えてもすぐに対応してくださるから、ちゃんと見てくださっているのがわかるんです。宮世:原さんとはもう、いい意味でお仕事という感覚がない!原:私も。初めての方だと「ここまで近づいたほうがお芝居しやすいけど、大丈夫かな…?」って思うけど、宮世さんには気兼ねなくいけました。けど、誰にでもフレンドリーなムードメイカーの宮世さんも、急に静かになっちゃったことがあって。宮世:オミ軍団とのシーンね。さすがの僕も、女の子11人に囲まれたら人見知り発揮します(笑)。原:余裕のある普段の感じとのギャップがかわいらしかったです。宮世:原さんは、話し出すと止まらないところが素敵だなと思った。原:絶対に思ってないですよね!?「わかる~」って言いながら、聞いてなかったの、バレバレですよ(笑)。――エリーは、オミくんが彼氏だったら…とたくさん妄想しますが、お二人は妄想をしますか?宮世:僕は『ジョジョの奇妙な冒険』の主人公だったら、自分のスタンドになんて名前をつけようかなとか考えてるうちに寝落ちしてますね。原:私は、現実より妄想の世界にいるほうが多い日もあるくらい。ほら、甘いものとしょっぱいものって、交互だったら永遠に食べ続けられるじゃないですか。宮世:これは、原さんの話が止まらなくなる流れだな(笑)。原:それぞれでおいしくて、一緒にしてもおいしい組み合わせって何だと思います?ポテトチップとケーキは違うし…。宮世:はい、チャンチャン!…『anan』とかけました。原:現場でもよく韻踏んでて、上手くいくとドヤ顔してたよね(笑)。『恋わずらいのエリー』さわやか王子・オミくんとの妄想をSNS上でつぶやくのが日課の妄想大好き女子・エリー。しかし、彼には裏の顔があった。共演に西村拓哉、白宮みずほ、藤本洸大、綱啓永、小関裕太ほか。3月15日全国公開。2024「恋わずらいのエリー」製作委員会 ©藤もも/講談社みやせ・りゅうび2004年1月22日生まれ、宮城県出身。’19年の俳優デビュー以降、ドラマ『君の花になる』『パリピ孔明』などに出演。4月10日、Ryubi Miyase名義でデビューアルバム『PLAYLIST』をリリース。ジャケット¥63,800パンツ¥36,300(共にサイト/ヨウジヤマモトプレスルーム TEL:03・5463・1500)その他はスタイリスト私物はら・なのか2003年8月26日生まれ、東京都出身。’22年、映画『すずめの戸締まり』で主人公に選ばれる。’23年、映画『ミステリと言う勿れ』や大河ドラマ『どうする家康』などに出演。公開待機作に『【推しの子】』。ワンピース¥31,900(JILL STUART)シューズ¥14,900(CHARLES&KEITH/CHARLES&KEITH JAPAN)リング¥184,800(e.m./e.m.青山店 TEL:03・6712・6797)※『anan』2024年3月20日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・徳永貴士(SOT/宮世さん)山田安莉沙(原さん)ヘア&メイク・礒野亜加梨(宮世さん)馬場麻子(原さん)インタビュー、文・小泉咲子(by anan編集部)
2024年03月19日映画の長い歴史において、“不朽の名作”と呼ばれる作品は数多くありますが、間違いなくその1本に挙げられるのが『ピアノ・レッスン』。いまなお愛され続けている名曲「楽しみを希(こいねが)う心」を生み出したことでも知られる本作が公開から30年のときを経て、4Kによる鮮明な映像で蘇ります。『ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスター』【映画、ときどき私】 vol. 64019世紀半ば、ニュージーランドの孤島。父親の決めた相手と結婚するためにやってきたエイダは、娘のフロラと1台のピアノとともにスコットランドを離れる。「6歳で話すことをやめた」エイダにとって、ピアノをもはや声の代わりとなっていた。ところが、夫となるスチュアートはピアノを重すぎると海辺に置き去りにし、しまいには現地で通訳を務めるベインズの土地と交換してしまう。そんななか、エイダに惹かれたベインズは、ピアノ1回のレッスンにつき鍵盤を1つ返すと提案。はじめは渋々受け入れたエイダだったが、レッスンを重ねるうちに彼女のなかにもある感情が芽生えることに…。1993年に、カンヌ国際映画祭のコンペティションで女性監督初のパルム・ドール受賞という快挙を成し遂げた本作。今回は、映画史にその名を刻み込み、歴史を変えたこちらの方にお話をうかがってきました。ジェーン・カンピオン監督2021年には『パワー・オブ・ザ・ドッグ』でアカデミー賞の監督賞に輝くなど、『ピアノ・レッスン』から30年以上経ったいまなお第一線で活躍し続けているカンピオン監督。そこで、当時の制作秘話や自身にとって愛とは何か、そして若い世代に伝えたい思いなどについて語っていただきました。―本作のヒロインであるエイダは、30年前のキャラクターとは思えないほど非常に現代的なところがある強い女性像だと感じましたが、人物像を形成するうえでどのようなことを意識されていましたか?監督まず、「話をしない」ということによって、エイダの社会に対する拒絶を表現したいと思いました。あるフェミニストの作家からも「エイダという女性は反抗的な女性である」と言われたこともありますが、それは私を含むすべての女性が抱いている怒りだと考えています。そして、それは誰もが同等の機会を与えられていないことに対する怒りです。とはいえ、私のフェミニズムはあくまでもベーシックなもの。根底にあるのは、「男女が平等に扱われてほしい」というそれだけです。いい仕事をするのに、ジェンダーは関係ない―作品を発表した当時、ご自身の出身地であるニュージーランドでもそういった流れはあったのでしょうか。監督個人的な経験からお話すると、私がフェミニズムのムーブメントを感じたのは、大学生だった70年代の頃。当時は映画学校も男女の比率が半々でしたし、若い女性みんなが関わっているほど女性解放の運動が盛んにされていました。このまま順調に行くかと思っていましたが、90年代後半から「お金がすべてである」という風潮が社会を覆ってしまい、どんどんひどい状況に…。そこから昨今の#MeToo運動へとつながっていくわけですが、ようやく女性たちに追い風が吹き始めたように感じています。そもそもいい仕事をするのにジェンダーは関係なく、重要なのはそれぞれの感覚や才能。最近はそういった理解が進んできているように思います。―また、本作を語るうえで、テーマ曲となるマイケル・ナイマンのピアノ曲「楽しみを希う心」は欠かせませんが、いまだから話せる誕生秘話があれば教えてください。監督実は、私自身はピアノが弾けませんし、あまり音楽的な人間でもないので、彼にアプローチすることを恥ずかしいと感じていたんです。でも、実際にアプローチしてみるとすごく喜んでくださいました。というのも、彼は私が手掛けていたテレビシリーズのファンだったんですよ(笑)。その後、彼がオーストラリアに来てくれたので、ピアノの部屋を用意したのですが、5分くらい滞在したと思ったらショッピングに出かけてしまい、それが終わったら今度はクリケット。そしてまたショッピングに行きたいというので、正直に言うと時間がなくなってきて私自身はすごく慌てていました。本当に美しい曲でワクワクした―それは驚きですが、その状況からどのようにして、あれだけの名曲が生まれたのでしょうか。監督もともと彼は弦楽器を多用することで有名な方だったので、「怒らないで聞いてほしいのですが、できればピアノで表現してもらえませんか?」と聞いてみました。はじめは彼もかなりショックを受けていたようですが、「古いスコットランドの曲をリサーチしてみようと思う」と言って快く了承してくださったのです。エイダはスコットランド出身の設定だったので、曲によって彼女の底辺にあるものが浮かび上がってくるようなすごくいいアイデアだと思いました。―実際、初めて曲を聴いたときはどのような印象を受けましたか?監督その時点でいまの完成形とほぼ同じ曲が出来上がっていましたが、本当に美しくて、ワクワクしたのを覚えています。私は音楽に詳しいほうではありませんが、音楽が私の体や魂にどんな作用を及ぼすのかを感じることはできるので、その思いを彼に伝えました。私の人生において、彼と一緒に仕事ができたことはもっとも偉大な経験のひとつ。彼はとても直感的な方で、本物の天才です。その後、彼の家族とも友情を育むことができたので、そういった意味でも素晴らしい思い出となりました。愛とは人間が持つもっとも洗練された“ギフト”―本作のみならず過去作『ブライト・スター ~いちばん美しい恋の詩~』などでも、監督の描くラブストーリーには繊細な美しさと大胆な力強さがあると感じています。そういった部分が観客の心を捉えている要素でもあると思いますが、ラブストーリーを描くうえで大事にしていることはありますか?監督私にとって、愛というのは人生において一番重要で、一番美しいもの。人間が持つもっとも洗練された“ギフト”ではないかと感じているほどです。愛には人間同士だけでなく、自然への愛などいろいろありますが、相手に深く注意を払い、深く理解し、深く感謝するというのが愛だと考えています。おそらくそれは私が表面的なことに興味がなく、人の心が持っているものを知りたいという気持ちが強いからそう感じるのかもしれません。愛が与えるつながりの経験とは、“本物の心”を持っている人に対してのご褒美だと私は思っています。―素敵なお考えですね。では、まもなく公開を迎える日本についてもおうかがいしますが、どのような印象をお持ちですか?監督私は日本の文化が大好きで、これまで3回訪れたことがあります。いつも短い滞在ではありますが、その繊細さや礼儀正しさは美しいですよね。特に、細部へのこだわりは素晴らしいと思うので、そういう部分を愛しています。そのほかにも黒澤明監督をはじめ、『愛のコリーダ』という非常にエロティックな映画を作られた大島渚監督も大好きですが、日本の文学にも魅力を感じているところです。なかでも「源氏物語」は世界のなかでも非常に古い物語なので、興味を持っています。次に日本を訪れるときは、もう少しゆっくりしたいですね。孤独なときこそ一番深い学びがある―それでは最後に、ananweb読者にメッセージをお願いします。監督いまみなさんが過ごしている20代や30代というのは非常に大変な年代であるというのは理解しています。特に、自分探しをしたり、自分らしくいられるパートナーや仕事を見つけたりするうえで、葛藤が多い時期ですからね。ときには孤独を感じることもあると思いますが、私自身の経験を通して言えるのは、孤独なときこそ一番深い学びがあるということです。自分が不幸だと思ってしまうときは、考えすぎていることが多いので、そんなときは心とカラダをつなげてみると幸せを感じられるのではないかなと。私の場合は、心を安定させるために瞑想やヨガ、気功などに取り組んでいます。いずれにしても、自分は自分が考えている以上の存在であるという意識と勇気を持てるようになると、また別の境地にたどり着けるはずなので、みなさんにもぜひそれを伝えたいです。心が震えるほどの美しさを目の当たりにするどれだけ年月が経っても、決して色褪せることのない傑作。美しい映像と音楽、そして自分らしい生き方を貫いたエイダの揺るぎない愛の姿に、誰もが心を突き動かされるはずです。取材、文・志村昌美胸を締めつけられる予告編はこちら!作品情報『ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスター』3月22日(金)TOHOシネマズ シャンテほか、全国ロードショー配給:カルチュア・パブリッシャーズ(c)1992 JAN CHAPMAN PRODUCTIONS&CIBY 2000Photo by Grant Matthews courtesy of Netflix Inc.
2024年03月19日うつむく、視線を送る、こちらを振り返る。作品の中で見せる些細な動き一つで、私たちの心をかき乱す、俳優の柄本佑さん。いま日本で一番色っぽいと言われている彼に、色気と役者の関係について、聞きました。スタッフと力を結集して初めて、その役の色気が出せる。現在放送中の大河ドラマ『光る君へ』で、吉高由里子さん演じる主人公のまひろ(紫式部)の心を毎週揺さぶっている、柄本佑さん扮する藤原道長。まだ若く、一見ふわふわしているように見える年頃の道長が、思いがこもった恋文をしたため、熱い眼差しでまひろを見つめ、さらに兄・道兼などに対して感情を爆発させる…。変化し、そのたびに新たな魅力を見せる道長から、まひろだけでなく、私たちも目が離せない。「道長さんを色っぽいと言ってもらえるのは嬉しいです。見ている方に、そんなふうに受け取ってもらえているんだと思うと、いま制作陣が向かっている方向が間違っていないという確信にも繋がる。明日からの撮影に気合が入ります。ありがとうございます(笑)」そう言いながら、にっこりと笑う柄本さん。でも同時に、役柄の色気は自分一人で作り出せるものではない、とも言います。「役を演(や)る上で、“その役柄が放つ色っぽさ”について考えていないわけではないです。でも実は、大石静さんの脚本のト書き部分には、仕草だったりなんだったり、わりと具体的なことが書かれているんですよね。なので、僕がゼロから“道長の色気”について考える必要はそんなにはありません。役者として僕がやるべきことは、脚本という二次元に書かれたものをなるべく邪魔せずに、映像という三次元に上げるか、ということくらいなんです。あとは衣装やメイク、照明、撮影、他にもさまざまな技術を総動員して“役柄の色気”を醸し出していく。役者は、そういうもののほんの一部なんです。だからさっき“色っぽいと言ってもらえるのは嬉しい”と言ったのは、チームとしての仕事を褒めてもらえたわけだから、そこが本当に嬉しい、という気持ちなんです」そんな柄本さんに色っぽいと思う人を挙げてもらうと、まず挙がったのがコメディアンの志村けんさん。そして渥美清さん、小林桂樹さん、三木のり平さん、森繁久彌さん…と、昭和の役者陣がズラリ。また意外なところでは、吉本新喜劇の座長である芸人・すっちーさんの名前も!!「みなさんに共通しているのは、クレバーであり、そして自分自身に対してシニカルな眼差しを持っていること。色気って、僕は“普通であること”と深く関係がある気がしていて。役柄を演じたり、芸人として舞台に立ったりする“自分”と、普通の状態の“自分”の間に距離があればあるほど、その人に奥行きが出ると思うんですよ。普通でいることは、とても大事だと思う。普通の自分がいて、その上でいろんなことに苦悩したりあがくから、色気が出る気がするんですよね…。でもこれ、完全に好みの話ですよね。僕の好きな色気はそういうこと(笑)」笑いながら「色気って難しい…」とつぶやき、ときにじっと黙りつつ思考を巡らせる柄本さん。話をするうち「そういえば…」と、あるエピソードを聞かせてくれた。「僕は高校生のときに映画の世界に足を踏み入れたわけですが、現場が楽しくて、学校がつまんなくなっちゃったんですよ。そのときに母に、“いま楽しいのはいいけれど、そのうちきっと、現場がしんどくなるときがくる。だから学校生活を大事にしなさい”と言われたんです。時は経ち、大人になってひとり暮らしをはじめた頃に学校時代の同級生に会ったら、彼はスーツで会社に行っているのに、自分は撮影がない時期だったこともあり、浮足立ってたんですよね。そのときにふと、日常をきちんと送ることこそが自分と社会を繋ぎ留めてくれ、それがあって初めて役者という仕事ができる、ということが理解できた。母が言っていたのは、こういうことだったんだな、と。以来、ちゃんと着替えるとか、部屋を汚くしないとか、シンクに食器を溜めないとか(笑)、小さなところから地盤を作り、それが今日に繋がっている気がします。芝居の上手い下手よりも、生活者であることのほうが、役者には大事なんだと思います」道長が生きていた平安時代の色っぽい人といえば、字が上手な人一択。簡単に男女が会えるわけではない中、彼らは文(ふみ)を送ることで気持ちを伝え、また綴られた文字や紙にたきしめられた香りから相手を想像し、恋心を膨らませた。「文のやりとりを経て会えたとしても最初は御簾(みす)越し、その向こうで対面できてもほぼ暗闇で、ほとんど見えなかったらしいですから、情報量が圧倒的に少ないんですよね。でもだからこそ、ある意味豊かで広がりがある時代だったような気もしますね。ちなみに道長さんはあまり達筆ではなかったので、そこまでモテたわけではなかったみたい。でも僕は、物語が進むにつれてもっと上手にならなくてはいけないので、頑張って練習しようと思っています(笑)」えもと・たすく東京都出身。2003年、映画『美しい夏キリシマ』でデビュー。映画『きみの鳥はうたえる』『素敵なダイナマイトスキャンダル』などで第73回毎日映画コンクール男優主演賞、第92回キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞ほかを受賞。近作にドラマ『空白を満たしなさい』や映画『ハケンアニメ!』『シン・仮面ライダー』など。ブルゾン¥418,000ニット¥129,800パンツ¥264,000(以上ジョルジオ アルマーニ/ジョルジオ アルマーニ ジャパン TEL:03・6274・7070)※『anan』2024年3月20日号より。写真・内田紘倫(The VOICE)スタイリスト・林 道雄ヘア&メイク・AMANO(by anan編集部)
2024年03月15日登場人物は7歳の自閉症の少女。幼いながらにガンに侵され、死を意識しながらさまざまなことに想いをめぐらせる。舞台『スプーンフェイス・スタインバーグ』は、そんな“スプーンフェイス”と名付けられた少女の独白からなる一人芝居。それを片桐はいりさんが演じると聞けば、反射的に「観てみたい!」となる人は多いはず。しかし当の片桐さんときたら、「セリフを言うってことに興味がないので、本当に私、これやるんですかねって感じです」と、冒頭から思いもよらない発言が。「長ゼリフも死ぬ役も嫌なんですけれど、やってるうちに楽しくなってきました」「デビューしたのが劇団だったんですけれど、当時、あまりにも滑舌が悪いし、声は小さいし…。だから、言葉はしゃべるけれどひと言も理解できないっていう設定の役をやっていたくらい。そんな出自だから、ずっとセリフを言うってことがちゃんとわからないし、ありえないって思っていたタイプなんです」そのせいか、近年はフィジカルを主軸とした舞台に多く出演していた片桐さん。しかしコロナ禍のなか出演した舞台で「ちょっとセリフを言うのが楽しいかもと思えた」のだそう。「その流れがなかったら、台本を読む前に断っていたと思う」とも。「ここまで何十年も俳優をやってきて、今さら何言ってるのって話なんですけれど、今回、台本って目で読んだだけで判断しちゃダメなんだなって思いました。一時期はセリフを言いたくなさすぎて、台本の長ゼリフの塊を見ただけでお断りしたこともあったくらい。でも今回の台本をいただいて、何気なく口に出して読んでみたら面白かったんです。物語自体は、自閉症でガンになって、しかも両親も問題があって…すごく悲惨なわけですよ。でも、声に出してみたら楽しい部分が結構ありました。読んでいるときにはわからなかったけれど、子供ならではのモノを見る目というのか、結構皮肉もあったりして。…もっと早く気づけよ、っていう話なんですけれど」演出をつとめるのは、’17年の舞台『チック』で読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞し、深い洞察力で戯曲から人間味溢れる人物像を描き出すことに定評がある小山ゆうなさん。「稽古が始まった当初は、老人ホームの老婆が7歳の女の子になりきってる設定とか、いろんなことを提案したりしていたんです。でもやっていくうちに、これはシンプルにやるほうが面白いかもしれないと思うようになりました。小山さんはさすが、いろんなアイデアを持っていらして、1時間くらいの上演時間でも観る側が退屈しないようにとすごく考えてくださっている。まだまだどうなるかわからないけれど、いろんな可能性がある作品だなと思います」片桐さんとWキャストで本作を演じるのは安藤玉恵さん。いずれも舞台はもちろん映像でも数々の個性的なキャラクターを演じ、独特の存在感を発揮している俳優同士。「稽古もバラバラでやるのかと思っていたら結構一緒で、小山さんを交えて作品の勉強会をしたり、翻訳の常田(景子)さんと会って、セリフの細かいニュアンスを相談させてもらったりしています。同じシーンでも、私はこう変えたいけれど安藤さんは変えない、みたいなところもあって。演出自体はそんなに変えられないけれど、演じる人によってかなり違う印象の作品になるんじゃないかと思うんですよね」一人芝居だけれど、同じ役に向かう同士がいることで心強さも。「それだけで助かりましたって感じです。じつはこの作品、安藤さんが先に決まっていて。だからやるって選択肢があり得た部分もあるんです。今、ちょっと変で面白い作品に、たいてい安藤さんが出演されている印象があるんです。そういう方が先にキャスティングされているっていうことは、普通のことをやろうと思っていないんだっていうアピールだと思って。そしたら私は違う側からやります、ってことができるのかなと思っています」膨大なセリフ量に加え、「病気で苦しむ役はやりたくない」とも話していたけれど、稽古が進むにつれ「嫌なことをふたつもやっていたら、結構楽しくなってきた」のだとか。「嫌は嫌なんだけれど、苦手なホラー映画をゲームとして最後まで観きった感覚かな。これだけ毎日付き合って、エリザベス・キューブラー・ロス(アメリカの精神科医)の、死について書かれた本まで読んだりして。だんだん慣れ…というか克服できてる気がして」自らの死期を知り、死と向き合っていくスプーンフェイスの独白は、子供らしい無邪気さと自由さに溢れ、どこか希望も感じさせる。「私は、基本的に面白いことをしたいタイプの俳優で、一人芝居で何かを乗り越えようとか素晴らしいことをやりたいとか思ってないんです。単純に、ちょっと異色の面白い作品になったら私は満足です」KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『スプーンフェイス・スタインバーグ』“スプーンフェイス”と呼ばれる7歳の自閉症の少女は、自身がガンに侵され死ぬ運命にあることを知る。徐々に症状が悪化していくなか、大好きなマリア・カラスの歌を聴きながら、自分がこの世に生まれた意味を問い続ける。2月16日(金)~3月3日(日)横浜・KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ作/リー・ホール翻訳/常田景子演出/小山ゆうな出演/片桐はいり・安藤玉恵(Wキャスト)一般5500円A&Kセット券(特典付き)9800円ほかチケットかながわ TEL:0570・015・415(10:00~18:00)©Tadayuki Minamoto※『anan』2024年2月21日号より。写真・小笠原真紀インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2024年02月19日日本で昔から愛され続けている時代劇のひとつといえば、47人の赤穂浪士たちが吉良邸に討ち入りする様子を描いた「忠臣蔵」。まもなく公開を迎える最新作『身代わり忠臣蔵』では、吉良上野介の弟・孝証が“身代わりミッション”で幕府をだますという大胆な脚色が話題となっています。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。川口春奈さん【映画、ときどき私】 vol. 635思いがけず殿の身代わりとなった孝証が想いを寄せる女中の桔梗を演じている川口さん。昨年には「anan AWARD 2023」の俳優部門にも輝くなど、映画やドラマなどで幅広い活躍を見せています。今回は、主演を務めたムロツヨシさんとのエピソードや身代わりがいたらしてほしいこと、そして30代を目前にしたいまの心境などについて語っていただきました。―本作はこれまでの忠臣蔵とは大きく異なる作品となっていますが、どのようなところが魅力だと感じていますか?川口さん今回はコメディ要素が強いこともあり、時代劇を普段観ないような方でもテンポよく楽しんでいただける痛快なストーリーになっていると思います。あとは、男性社会だけでなく恋愛感情も描かれているので、桔梗との関係性にはほっこりしていただけるかなと。桔梗は強い女性ではありますが、かわいいと思ってもらえるようなマドンナになれたらいいなと考えて演じました。―孝証を演じるムロさんとの現場で印象に残っていることがあれば、教えてください。川口さんムロさんとは10年ぶりくらいにお会いしたということもあって、お互いの近況を話していたらあっという間に終わってしまった気がします。孝証のキャラクターとムロさんの穏やかで優しい人柄によってリラックスできたことで、すごく自然体で撮影に挑めました。観るのは好きだけど、コメディを演じるのは難しい―本作の現場では全体的にアドリブも多かったようですが、ムロさんともそういったやりとりはあったのでしょうか。川口さんボケとツッコミのようなシーンではあえてカットをかけず、長めに撮影をするようなことはありました。ただ、基本的にはムロさんが自由に演じられて、それを私が見ているという感じで(笑)。でも、そういう関係性は、キャラクターにも合っていたと思います。間合いやタイミングというものを狙いすぎるのもダメなので、コメディ作品は本当に難しいですよね。偶然が重なったときに面白くなったりするので、観るのは好きですけど演じるのは大変だなと毎回感じています。―なるほど。今回は京都での撮影となりましたが、どのようにして過ごされていましたか?川口さん待ち時間も着物だったので外に行くわけにもいかず、部屋で台本を読んだりしていました。ただ、撮影が日中に終わることが多かったので、そういうときはタクシーの運転手さんに「オススメのお店ありますか?」と聞いて、教えてもらったラーメン屋さんにそのまま行ったことも。そんなふうに、「今日は何を食べに行こうかな?」と考えていることが多かったです。応援してくださる方や家族からのリアクションが原動力―では、もし誰かに自分の身代わりになってもらえるなら、何をお願いしたいですか?川口さん家のことや雑務をこなすのが苦手なので、そういったことを完璧にやってもらいたいです!お料理とかもしてくれたら本当にありがたいですね。―誰かの身代わりをしてみるのはどうですか?たとえば、ムロさんとか。川口さんできれば誰の身代わりもしたくないですが、特にムロさんはすごい気遣い屋さんなので大変そうだなと(笑)。ただ、ムロさんに関してはいつも心配してしまうくらい気を遣っていらっしゃるので、少しでもお手伝いができるならしたいなという気持ちはあります。いや、でも本当にムロさんは大変そうです。―劇中では孝証が身代わりをしていく過程で、初めて人から必要とされる姿も描かれていますが、共感する部分などもありましたか?川口さん私も「自分が必要とされていると感じたい」という気持ちは前提にあると思います。自分がいることで何かが解決したり、「作品を観て救われた」とか「面白かった」と言ってくださる方がいたりすることで成り立っている仕事だと思うので。それだけに、作品をちゃんと届けたいという心構えはいつも大切に考えています。自分のためだけにはできない仕事なので、応援してくださる方や家族からのリアクションが自分にとっては原動力です。オフはなるべく外でアクティブに過ごして気分転換―毎日お忙しいと思いますが、オンオフの切り替えなどはどうされていますか?川口さんカラダのメンテナンスをしたり、飼っているワンコと出かけたり、人と会ったりして自分なりに気分転換をしています。ワンコに関しては時間もお金も手間もすべて注いでいるので、溺愛しているというより、もはや私の分身に近いですね(笑)。劇中に出てくるお犬さまのような扱い方で、とにかく“犬ファースト”の生活になっています。あとは、おいしいご飯を食べるのが楽しみのひとつ。家にいるとどうしても仕事のことを考えてしまうのでなるべく外に出たいというのもありますが、アクティブなので家にいる時間は少ないほうだと思います。―最近テンションが上がった食べ物やハマっているものがあれば、教えてください。川口さん好きなのは、タイ料理や韓国料理。エスニック系も好みなので、カレー屋さんを巡ったりもしています。気になるお店をリストにしていることもあって、それを巡っていくのも楽しいです。大事なのは、自分がちゃんと楽しめているかどうか―まもなく29歳となりますが、20代最後の年をどのように過ごしていきたいですか?川口さん30代にはなってみないとわからないですが、いま何か掲げている理想とかは特にありません。あまり年齢は気にしていないので、とにかく健康に気を付けてこれからもお仕事を続けていけたらいいなと考えています。それと、旅行が好きなので行ったことのない場所に行って、見たことのない景色を見たり、食べたことのないものを食べたりして、いろんなことをたくさん吸収できたらいいなとは思っています。―川口さんといえばいつも笑顔で明るいイメージがありますが、落ち込んだときはどうやって乗り越えているのでしょうか。川口さん昔から大事にしているのは、ちゃんと息抜きをして1回フラットにすること。さっきもお話したように、バランスを保つためにオフの使い方は意識しているほうだと思います。パフォーマンスの質を落とさないためにも、自分で自分の機嫌を取るようにもしていますが、そういうのは大きいですね。とはいえ、私はあまり落ち込んだりしないほうで寝たら忘れちゃう(笑)。ズルズル引きずらないというか、気が付いたらどうでもよくなっていることが多いです。あとは、自分がちゃんと楽しめているかどうか。それは仕事にも反映されることなので、そういった部分は大切にしています。いいことも悪いことも、成長に繋がっている―それでは最後に、仕事や恋愛に悩む同世代のananweb読者に向けて、メッセージやアドバイスをお願いします。川口さん私も完璧じゃないですし、みなさんと同じように悩みながら働いていく、というのを繰り返しているところです。その過程では、いいことも悪いこともあると思います。でも、そうやっていくことで絶対に成長もしているし、強くもなっているので、一緒にがんばっていきましょう!インタビューを終えてみて…。劇中で演じられた桔梗のように、芯の強さとかわいさをあわせ持っている川口さん。これから30代に向けて、どのような女性になっていくのかも楽しみなところです。本作では普段とは違う素敵な着物姿もぜひ堪能してください。こんな「忠臣蔵」は観たことない!クセが強すぎるキャラクターたちが次々と登場し、これまでの時代劇とはひと味もふた味も違う面白さが詰まった本作。斬新なストーリー展開に驚かされるだけでなく、笑って泣ける新たな「忠臣蔵」の誕生です。写真・大内カオリ(川口春奈)取材、文・志村昌美ストーリー嫌われ者の旗本として知られていた吉良上野介。ある日、城内で斬りつけられ、逃げた傷で瀕死の状態に陥ってしまう。理由は、吉良から陰湿ないじめを受けていた赤穂藩藩主がブチ切れたことによるものだった。斬った赤穂藩主は当然切腹だが、吉良も逃げた傷を負ったとなれば武士の恥。両家ともお家取り潰しの危機を迎える。ここで吉良家家臣から出てきた奇想天外な打開策は、殿にそっくりな弟の孝証を身代わりにすることだった。そんななか、赤穂藩の部下である大石内蔵助は仇討の機会をうかがっているような動きを見せる。はたして、孝証は世紀の大芝居で身代わりミッションをコンプリートできるのか…。痛快な予告編はこちら!作品情報『身代わり忠臣蔵』2月9日(金)全国公開配給:東映(C)2024「身代わり忠臣蔵」製作委員会写真・大内カオリ(川口春奈)
2024年02月07日普段行くことができない場所に観客を誘うのが映画の魅力でもありますが、最新作『すべて、至るところにある』が連れていってくれるのは、第一次大戦勃発の地でもあるバルカン半島。『どこでもない、ここしかない』と『いつか、どこかで』に続き、バルカン半島3部作の完結編となる本作では、旧ユーゴスラビアの国々に広がる圧巻の景色が映し出されていることでも注目を集めています。そこで、こちらの方々にお話をうかがってきました。リム・カーワイ監督 & 尚玄さん【映画、ときどき私】 vol. 634大阪を拠点に、香港や中国、バルカン半島などで映画を製作し、どこにも属することなく唯一無二の映画作りを続けているリム監督(写真・左)。タッグを組んだのは、リム・カーワイ監督作『COME & GO カム・アンド・ゴー』と『あなたの微笑み』でも存在感を放ち、国内外で活躍している俳優の尚玄さん(右)です。劇中では、突然消息を絶ってしまった映画監督のジェイを演じています。今回は、“前代未聞の制作スタイル”と呼ばれるリム監督の現場の様子や尚玄さんの役作りの苦労、そしておふたりがいま伝えたい思いなどについて語っていただきました。―最初から3部作にしようと考えていたのか、それともコロナ禍を経験したことによって生まれたものですか?監督バルカン半島の景色や歴史に興味を持っていたこともあり、1作目を撮り終えたときから3部作にしようという構想はありました。そこで最後は、総括の意味も込めて前の2作品を撮ったアジア人の映画監督という設定が面白いかなと思いついたのです。そんなときにコロナ禍になり、ウクライナとロシアで戦争が起きたので、世界が“世紀末”のようだと感じたことも。アーティストとしてこういう状況をどうとらえるのかについていろいろと考えたこともあって、主人公にはそのあたりの思いを投影しています。現地の建造物に影響を受けてアイデアが生まれた―本作に脚本はなく、撮影も行き当たりばったりだったとか。尚玄さんリムとはすでに2本一緒に仕事をしていて、撮影方法は理解していたので、今回も“いつものスタイル”なんだろうなと思っていました。以前は、沖縄から北海道まで移動しながら即興劇で撮影していましたからね。そういうプロセスを知っているという意味ではあまり不安はありませんでしたが、自分としては飛び込むような気持ちでセルビアに乗り込みました。最初に言われていたのは、映画監督の役で、イタリアの(ピエル・パオロ・)パゾリーニ監督のイメージということくらいだったと思います。監督尚玄さんは見た目がパゾリーニ監督に似ているので、彼のような気難しい映画監督がこういう時代をどう思うかという話にしたいと考えました。でも、撮っているうちに、どんどん変わってきてしまったんですよね…。―それは現地に着いてから、ストーリーに影響を与えるような出来事があったということでしょうか。監督そうですね。なかでも大きな影響を受けたのは、「スポメニック」と呼ばれる旧ユーゴスラビアの巨大建造物。ここには戦争や虐殺の犠牲者たちのために作られたモニュメントがありますが、いまの時代にも通じるものがあると感じたので、そこでアイデアが生まれました。それは尚玄さんが日本を出発する3日前のことでしたが、その時点では「映画監督が宇宙人の基地を探しに行く物語のなかで、姿を消した彼のあとを女優が追う」という構想しかなかったと思います。さまざまな現場を経験して、適応能力は高くなった―その話を聞いたときの印象は?尚玄さん「何を言ってるんだろう」と思いましたよ(笑)。でも、わからないままでいいやと。行けばわかるんだろうなと感じたので、とりあえずバルカン半島の歴史などについての予備知識だけを頭に入れてから向かいました。―以前『義足のボクサーGENSAN PUNCH』で取材させていただいた際、マインドセットは得意とおっしゃっていましたが、それが即興劇でも生かされている部分はありましたか?尚玄さん俳優が自由に芝居をするためには確固たる“背骨”みたいなものが必要で、それを作るために普段はすごく時間をかけています。ただ、今回は十分な準備期間がなかったので、そういう意味での不安は多少あったかもしれません。でも、リムの現場には慣れてきましたし、ブリランテ・メンドーサ監督の現場も同じようなところがあるので、与えられた要求に対してキャラクターとしての一貫性を保ちながら即座に適応できるようにはなりました。これまでもいろいろな芝居のトレーニングはしていますが、独創的な監督たちとさまざまな現場を経験したことで適応能力はかなり高くなったと思います。最終的には、いいケミストリーの効果を出すことができた―またおふたりで挑戦してみたいことはありますか?監督僕はマレーシア人なのに、実はまだマレーシアで撮影をしたことがありません。ぜひ次はマレーシアで撮りたいですし、尚玄さんにもまたお願いしたいので、いろいろと考えていますよ。いままでやったことないような役をやってほしいですね。尚玄さん最初はAV監督で、2本目が沖縄の成金だったので、そう考えると全部まったく違う役ですよね(笑)。でも、次はある程度の枠組みは作ってきてくださいよ。監督尚玄さんはどんどん良くなっているし、僕にも慣れたと思うので、別にいらないんじゃないですか?尚玄さんいやいや(笑)。―脚本がない場合、監督はどのようにして撮影を進めているのでしょうか。尚玄さん直前にだいたいのセリフを聞くことが多いですが、たとえば「明日は何するの?」とリムに聞くと「ちょっと待って」とか言いながら夕食後に1人で散歩に行くんです。で、ふらっと帰ってきて急にアイデアが思い浮かんだりするみたいですが、遅いときは当日の朝になることも…。なので、基本はリムに降りてくるのを待つしかないという感じですね。監督しかも、時系列で撮っていないので、俳優にとっては状況や気持ちの変化がわかりづらいところがあったかもしれません。そういう意味では彼らにプレッシャーを与えていて申し訳ない気持ちもありますが、俳優との信頼関係があったからできたことだと思っています。尚玄さん確かにそうですね。難しさはありましたが、リムは絶対に無理強いはしないですし、修正してほしいときはちゃんと言ってくれるので、そこに助けられました。監督だから最終的にいいケミストリーの効果が出せたんだと思っています。いいタイミングで撮影することにこだわった―それは作品からも感じられました。また、キャストとスタッフの計5名だけで車1台に乗り込んで撮影したというのも驚きですが、ハプニングはありませんでしたか?尚玄さんハプニングしかなかったんじゃないかな(笑)。監督はい、そうですね。―ちなみに、どんなことがありましたか?尚玄さん僕の口からは言えないことが多いですね…。監督あはは。どんどん言ってもらって大丈夫ですよ!尚玄さんでも、ハプニングをそのまま使っているところもあるので、観てくださる方が「もしかしてこれもハプニングかな?」と想像しながら楽しんでいただけたらと思います。―そのあたりも、面白がって観ていただけるといいですね。どのシーンも景色が素晴らしかったですが、撮影も大変だったのではないかなと。尚玄さん通行人がけっこういたので、誰もいなくなるのをひたすら待つことも多かったです。でも、これはスケジュールを決めていなかったからできたことだと思います。監督確かに、いいタイミングで撮るためにかなり粘りましたよね。それから旧ユーゴスラビアは道路が狭いので、たどり着くまでが大変でいつもドキドキしていました。尚玄さんでも、行く先々でゲストハウスを探して、現地のおいしい料理を食べるのが楽しかったです。僕も若いときはバックパックで世界を回っていましたが、そういう旅の仕方をだんだんしなくなっていたので懐かしい気持ちにもなりました。これまで60カ国以上旅をしてきた僕でもバルカン半島は初めてだったので、面白かったです。頭で決めつけすぎずに、直感で生きるようにしている―印象に残っている場所があれば、教えてください。尚玄さんたどり着くまで長時間を要したからというのもありますが、やっぱりセルビアのKadinjača(カディンジャチャ)のスポメニックですね。霧の中から急に大きな物体が現れたときは圧巻でした。あとは、撮休のときに1人で行ったモンテネグロ。美しい景色が見れる湖畔でのんびりワインを飲んだりできて、すごく楽しかったです。監督この作品に映っている景色は、セルビアやボスニア・ヘルツェゴビナに住んでいる人でさえ行ったことのないような場所ばかり。実際、現地の方々からも見たことないと驚かれたくらいです。―監督は海外の俳優だけでなく、日本の俳優ともたくさん仕事をしてきていますが、どのような印象ですか?監督日本人のみなさんは、本当に真面目ですよね。ただ、それゆえに尚玄さんのように臨機応変に柔軟に対応できる方が少ないようにも感じている部分もあります。もちろんそこが日本人のいいところでもありますが、いろんな監督のスタイルや多様化に対応するためにも、つねにオープンでいることは大事だと感じています。尚玄さん確かにそうですね。俳優は準備しないと怖いものなので、気持ちはわかりますが、僕も仕事をするときは頭で決めつけずに、自分の直感でその場を生きるということを徹底しています。どんどん外に出て、未知のものと出会ってほしい―尚玄さんは最近父親になられましたが、そのことが心境や考え方に変化を及ぼしたこともあったのでは?尚玄さん父親になったことは、僕のなかでもかなりの転換期だと感じています。これまでは自分の人生の尺度で生きていましたが、いまは自分が死んだあとのことまで考えるようになりました。ニュース1つとっても、物事の見方がすごく変わった気がします。―それでは最後に、ananweb読者にメッセージをお願いします。尚玄さんバルカン半島には独自の美しい文化を持っている国々がたくさんあるので、ぜひそのあたりを見ていただきたいです。ただ、そのいっぽうで戦争の傷跡が残っている部分があるのも事実。そういった歴史を少しでも知ってほしいですし、リムの作品では一緒に旅をしているような臨場感も受け取っていただきたいです。監督これからの時代はどうなるのかまったく予想できませんし、いい方向には行かないこともあるかもしれません。それでも目の前にあるものを1つずつクリアしながら生きていくしかないので、みなさんもいまの瞬間を生きることを大事にしていただきたいです。最近の若い世代は考え方が内向きになっている印象を受けるので、もっと他の国の歴史や文化に興味を持ち、心を開いてもらえたらいいなと。僕自身は旅先で知らない人と話したりすることでインスピレーションをもらっているので、みなさんもチャンスがあれば、どんどん外に出て未知のものと出会ってほしいです。インタビューを終えてみて…。息のあったやりとりに、お互いへの信頼が伝わってきたリム監督と尚玄さん。撮影の裏側には驚くことも多かったですが、そういった関係性だからこそできた作品だと改めて感じました。今後おふたりがどんな挑戦をされるのか、次回作にも期待が高まるところです。たどり着いた先に待ち受けるのは希望バルカン半島の壮大で美しい景色に圧倒され、ミステリアスなストーリー展開にもどんどん引き込まれていく本作。さまざまな文化に触れられるだけでなく、主人公たちと一緒に旅をしている感覚を味わえる必見作です。写真・園山友基(リム・カーワイ、尚玄)取材、文・志村昌美ストーリー旅先のバルカン半島で、エヴァは映画監督のジェイと出会い、一緒に映画製作を始める。ところがその後、世界はパンデミックと戦争に襲われてしまう。そして、ジェイはエヴァにメッセージを残し、姿を消すのだった。エヴァはジェイを探すため、再びバルカン半島を訪れると、かつて自分が出演した映画が『いつか、どこかに Somewhen, Somewhere』というタイトルで完成していたことを知る。エヴァがセルビアや北マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナを巡るなか、ジェイの過去と秘密が明かされることに…。誘い込まれる予告編はこちら!作品情報『すべて、至るところにある』1月27日(土)よりイメージフォーラム他全国順次公開配給:Cinema Drifters(C) cinemadrifters写真・園山友基(リム・カーワイ、尚玄)
2024年01月26日KADOKAWAは3月14日、俳優の中村倫也さんによる書籍『THE やんごとなき雑炊』を発売します。同書は、料理好きとして知られる人気俳優・中村倫也さんの「初の料理本」。中村さんが「雑炊」を作りながら「雑談」をし、その調理過程からイマジネーションしてショートエッセイを執筆する「雑炊×雑談×俳優」を実現させた雑誌の連載企画「中村倫也のやんごとなき雑炊」を書籍化しました。一般的な「雑炊」の想像をはるかに超えるスペシャルな20の雑炊レシピと、調理中にふいに出てきた中村さんの言葉の数々、その折々に綴ってきたエッセイが楽しめる一冊です。「簡単でおいしい!」に加え、「中村倫也の生き方の工夫や考え方」までも知ることができます。収録している雑炊レシピは、「中国の、田舎町の、怖い先輩雑炊」「あの波に消えた、ビーチボールは。」「泳げ!たまごごい雑炊」など。中村さんは書籍化にあたり、下記のようなコメントを寄せています。「ものづくりをする上で、制約を大切にしている。これは私が定められた枠組みの中で求められる発想力にこそ創造性を感じるタイプだからだ。何でもアリと言われると、逆に物足りない。工夫が必要な環境でこそ「人間」が見えてくる。そんな期待を込めての”雑炊”縛り。なんとも絶妙な枠組みだ。囲いの中で、どんな料理が生み出されるのか。どんな言葉が溢れ出るのか。頭と心だけでなく、舌でも楽しめる書籍。ぜひ手に取っていただければ幸いです」■書誌情報書名:THE やんごとなき雑炊著者:中村倫也監修協力:タカハシユキ定価:1,870円※全国の対象書店、Amazon.co.jp、楽天ブックス、セブンネット、HMV&BOOKS onlineでは、それぞれ購入特典付き(フォルサ)
2024年01月23日2021年の『春原さんのうた』でマルセイユ国際映画祭のグランプリを含む3冠を獲得するなど、国内外で高く評価されている杉田協士監督。昨年の東京国際映画祭でも注目を集めた最新作『彼方のうた』が、まもなく公開を迎えます。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。眞島秀和さん【映画、ときどき私】 vol. 630映画やドラマ、舞台などで幅広い活躍を見せ、今年も主演ドラマ「#居酒屋新幹線2」や「おっさんずラブ-リターンズ-」といった話題作への出演が控えている眞島さん。劇中では、主人公の春と過去にある関わりがあった剛を演じています。そこで、現場の様子や年齢を重ねていくなかで感じる心境の変化、癒しの時間に欠かせない存在などについて語っていただきました。―杉田監督とは、以前からお付き合いがあったそうですが、今回ご一緒されてみていかがでしたか?眞島さん杉田さんとはお互いに20代の頃から一緒に映画作りをしてきましたが、杉田さんの現場はほかで味わうことのないような穏やかで優しい時間がつねに流れている印象。いつ始まったかもわからないようなとても不思議な雰囲気なので、撮影に参加した感覚もないくらいです。しばらく会えていなかった時期もあったので初日は驚きもありましたが、久々に再会したときに「こういう作品を作るところに杉田さんはたどり着いたんだな」と感慨深い気持ちにもなりました。昔を思い出してノスタルジックな気持ちになった―ということは、役作りもこれまでとは違う部分もあったのでしょうか。眞島さん僕はもともとたくさん準備していくタイプの役者ではありませんが、今回はいつも以上に「撮影現場に行くんだ」という意識をなるべく持たないほうがいいかなと。特に、普段お芝居をされていない方々にもご協力いただいて撮影した作品だったので、スッとお邪魔するような感じで行くようにしていました。―なるほど。そのなかでも印象に残っていることはありますか?眞島さん実は、撮影場所がたまたま僕が若い頃によく行っていた場所の連続だったので、それはすごい偶然でしたね。役者を目指し始めたばかりで何も進まないもどかしい時間を過ごしていた街の景色のなかにいるのは不思議でしたし、ノスタルジックな気持ちにもなりました。―本作では、悲しみを抱えている人同士が支え合っていく姿が描かれていますが、ご自身にもそういう経験や転機となった出会いなどはありますか?眞島さん人生ってそういう出来事の連続じゃないかなと思います。作品でいうならドラマ「海峡」や「なぜ君は絶望と闘えたのか」のように、自分ができるすべてを出し尽くせるような作品に節目節目で出会えていることも本当にありがたいことです。「人生は夕方が一番いい」という言葉の意味がわかった―今年で俳優デビューから25年を迎えましたが、心境の変化などはありますか?眞島さん「現場であと何回こういう喜びが味わえるのかな」とか、「両親や友達にあと何回会えるんだろう」とか、そういう感覚が強くなってきたような気がしています。これが年を重ねていくうえで起きる変化のひとつなのかなとも思いますが、そのおかげでいまは瞬間瞬間がこれまで以上に愛おしく感じるようになりました。最近は大したことじゃなくても楽しめるようになってきたので、景色も前よりきれいに見えるんですよね。これってすごく素敵なことだなと思っています。―それは47歳になったいまだからこそわかることであって、20代や30代の頃には気付けなかったと。眞島さんそうですね。そういう思いが顕著になってきたこともあって、前に朗読を担当した小説「日の名残り」のなかに出てくる「人生は夕方が一番いい」というセリフの意味もちょっとだけわかってきました。いろんなことを逆算するようになってからのほうが楽しくなってきたので、これからも目の前のことを一つ一つしっかりとやりつつ、より密度の濃いものにしていきたいなと考えています。愛犬との散歩の時間が何よりも癒し―お忙しいなかで、日々の癒しとなっている時間はどんなときですか?眞島さんそれは、仕事が終わって家に帰ってきてから行く愛犬との散歩の時間です。特にハードルの高い作品のときは本当に助けられているので、毎日「長生きしてくれ」と懇願しています(笑)。少し前に、ギネス世界記録で世界最高齢だったワンちゃんが31歳で亡くなったニュースを見て、「そこを目指そうね」って話しているところです。最近はほかにハマっていることもまったくなく、ワンちゃん一筋ですね(笑)。―そんなふうに、仕事を忘れられるような時間は大事ですよね。眞島さんあと、お散歩をしていると季節の移り変わりや近所のいろんな変化にも気付けるのがいいなと。この前も、家の近くに交番ができたので、おまわりさんにうちの子を紹介してきました。―おまわりさんにワンちゃんを紹介されたんですか!?相手は眞島さんだと気が付いていたのでしょうか…。眞島さんいや、それはないですね。ちなみに、なぜ紹介したかというと、うちの子は光る首輪をつけているんですけど、おまわりさんたちが「あの光っているのは何だ!」みたいな感じで警戒して立ち上がっているのが見えたんですよ(笑)。なので、「この色はうちの子ですよ」というのを知ってもらおうと思って、紹介しました。仕事で適当にやってきたことはひとつもない―お仕事とワンちゃん以外に、いま興味を持っていることや挑戦してみたいことはありますか?眞島さんバイトしたいなと思うことはありますね(笑)。―それは意外ですが、どんなバイトをしてみたいですか?眞島さんバーのカウンターに立ってみたりとか、飲食業がいいなと思いますね。活気のあるお店の前を通ると、威勢よく声を出しながら働いてみたいなと考えることがよくあるので。―眞島さんがいたら驚きですが、楽しそうですね。では、ご自身が仕事を続けるなかで貫いてきたことがあれば、教えてください。眞島さん特にそういうものはないですが、何に対しても本当に一生懸命やってきたつもりなので、適当にやってきたことはひとつもないはずです。それくらいじゃないかなと思います。「いまが大変でも年月がたてば大丈夫」と伝えたい―「色気がすごい俳優ランキング」で1位に輝くなど、近年はそういう観点で注目されることも増えているようですが、ご自分ではこの状況をどのように受け止めていますか?眞島さん「そう見える人もいるんだな。ふーん…」くらいの感じですね(笑)。でも、僕らの仕事というのは、作品としてのエンターテインメントを提供するだけでなく、客観的にどう見えるかを楽しんでもらうのもひとつですからね。なので、みなさんにとってそれが楽しいことに繋がっていればいいなと思っています。―それでは最後に、ananweb読者に向けてメッセージをお願いします。眞島さん女性だけでなく、男性にも言えることですが、20代から30代にかけては1つのターニングポイントみたいなところがあるかもしれません。でも、いま抱えている悩みや将来に対する不安というのは、ある程度年月がたったら、全然大したことじゃなかったなと思うことがほとんどです。僕にもそういう時期がありましたが、一生懸命やっているだけで何とかなりましたから。もし、プライベートで悩みがあるのなら、仕事をがんばっていればいつの間にか時間が過ぎて気にならなくなるので、「いまが大変でも大丈夫ですよ」というのを伝えたいです。インタビューを終えてみて…。大人の色気を漂わせつつ、落ち着いた雰囲気で一つ一つ丁寧に答えてくださる眞島さん。なかでも、仕事に対する真剣な表情と目尻を下げて愛犬について話されるときのギャップがとても素敵でした。本作では、眞島さんならではの存在感を放つ佇まいが印象的なので、ぜひスクリーンでご覧ください。内に秘めた悲しみにそっと寄り添う多くの言葉で語ることなく、観る者の心に訴えかける本作。杉田監督ならではの余白と余韻が生み出す、温かくて不思議な世界観に包み込まれる1本です。写真・園山友基(眞島秀和)取材、文・志村昌美ストーリー駅前のベンチに座っていた雪子に、書店員の春は道を尋ねるふりをして声をかける。春は雪子の顔に見える悲しみを見過ごせずにいたのだ。またあるときは、剛の後をつけている春。剛の様子を確かめる日々を過ごしていた。実は、春が子どもだった頃、街中で見かけた雪子や剛に声をかけた過去があったのだ。春の行動に気づいていた剛が春の職場を訪れ、春自身がふたたび雪子に声をかけたことで、それぞれの関係が動き出す。そして春は2人と過ごすうちに、自分自身が抱えている母親への思いと悲しみの気持ちに向き合っていくことに…。引き込まれる予告編はこちら!作品情報『彼方のうた』1月5日(金)よりポレポレ東中野、渋谷シネクイント、池袋シネマ・ロサほか全国順次公開配給:イハフィルムズ(C)2023 Nekojarashi Inc.写真・園山友基(眞島秀和)
2024年01月04日講談社は2024年2月3日、『橋本環奈写真集カレイドスコープ』を発売します。同誌は、橋本環奈さんの25歳の誕生日を記念して企画された5年ぶりとなる3rd写真集。発売日は、橋本さんの誕生日となります。写真集はバカンスシーズンである9月のバルセロナをロケ地に、橋本さんのセルフプロデュースのもと作られました。事前に打合せを重ねて衣装19ポーズを決定し、ロケ場所にこだわって撮影した1枚1枚を厳選したものを、1冊に集約しています。朝焼けのビーチの駆け抜けや、世界遺産の旧市街の散策、バルセロナ名物でもあるホテルのルーフトッププールでのファッションシュートの挑戦など、スペインの夏の日差しとともに撮影を楽しむ姿が収められました。さらに、バルセロナから2時間の場所にある海辺の街“カダケス”の小さな別荘でのリラックス感あふれるシーンも撮影。今の橋本環奈さんの色とりどりの魅力を余すところなく捉えた特別な一冊です。気になる方はぜひお手に取ってみてくださいね!■書誌概要書誌名:橋本環奈写真集 カレイドスコープ価格:2,970円判型:A4ページ数:144ページ※オール撮り下ろし※本編未収録カットのポストカード封入(全6種のうちランダムで1枚封入)発行元:講談社(フォルサ)
2023年12月30日小日向文世さんを筆頭に、出演者の名前の並びだけでワクワクさせる舞台『海をゆく者』。今回、キャストをほぼ変えずに再々演されるのだから、その評価は推して知るべし。古希を迎える俳優たちが元気で、一緒に舞台がやれるのが嬉しいです。「正直初演は、セリフの量も多いし段取りも大変で苦労した覚えがあるんです。ただ評判が良かったから、もしかしたら再演するかもな…と思ったくらい。でも今回の再々演のお話は、純粋に嬉しかったですね。ひとりだけ高橋克実さんに代わりましたけど、古希を迎える俳優たちが元気で、再び一緒に舞台がやれる。こんな嬉しいことはないですよ」アイルランドのダブリン北部の町。クリスマスイブに集まった男たちがカードゲームに興じる中、ロックハートと名乗る男がやって来る。それこそが小日向さんの役なのだけど、じつは正体が…という、サスペンス要素満載のダークコメディだ。「登場する男たちはみんな、けっして幸せとは言えない人生をおくっている人たち。それでもクリスマスイブに大好きなウイスキーを飲んで浮かれて。しかもオヤジなもんだから、お互いに無邪気にみっともない部分をさらけ出す。そのワイワイしている感じとか、本当に愛すべき人たちだなって思うんです。でもそこにロックハートが来ることで雲行きが怪しくなってくるんですけど」その正体は…なんと驚き。知っているのは平田満さん演じるシャーキーのみで、ふたりにしかわからない駆け引きが繰り広げられる。「一緒にポーカーをやっている間は、直接挑発したりは絶対にしないんですけど、シャーキーだけは彼の無言の圧力を感じているんです。ただ、ふたりきりになると、彼らだけがわかる言葉で追い詰めていく。そこのセリフの掛け合いがうまい具合に進んでいくのが楽しいです。栗山(民也)さんの演出も、音楽で物語を色付けしたりせず、人物ひとりひとりをちゃんと浮き立たせて見せてくださっているのも本当にいいんです」丁々発止のセリフのやり取りだけで、じゅうぶんに場を持たせられる俳優たちが揃っているからこそ、だ。「このメンバーだから一緒にやっていて楽しいっていうのはあります。お互いに20代の頃から知ってるし、さんざん芝居してきている連中だから信頼もしているし。今回はみんな70歳に近づいて、哀愁も漂うんじゃないかと期待しています(笑)」PARCO劇場開場50周年記念シリーズ『海をゆく者』クリスマスイブの朝。兄・リチャード(高橋)とシャーキー(平田)の兄弟が暮らす家に、ロックハート(小日向)という男が訪れる。彼の顔を見たシャーキーは顔色を変え…。12月7日(木)~27日(水)渋谷・PARCO劇場作/コナー・マクファーソン翻訳/小田島恒志演出/栗山民也出演/小日向文世、高橋克実、浅野和之、大谷亮介、平田満全席指定1万円ほかパルコステージ TEL:03・3477・5858新潟、愛知、岡山、福岡、広島、大阪公演あり。こひなた・ふみよ1954年1月23日生まれ、北海道出身。オンシアター自由劇場を経て、ドラマ『HERO』などで注目を集めるように。最近の出演作に、ドラマ『VIVANT』、映画『大名倒産』、舞台『ART』など。放送中のドラマ『下剋上球児』にも出演している。※『anan』2023年12月6日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・石橋修一ヘア&メイク・河村陽子(vitamins)インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2023年12月04日いよいよ2023年も、最後の1か月へと突入。そこで、ラストスパートをかける前にオススメの映画として、再起をかけた2人の女性を描いた『女優は泣かない』をご紹介します。今回は、主演を務めたこちらの方にお話をうかがってきました。蓮佛美沙子さん【映画、ときどき私】 vol. 619数々の話題作に出演し、近年は『鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成』や『スイート・マイホーム』などでも注目を集めている蓮佛さん。本作では、崖っぷちに立たされた女優・梨枝をユーモアたっぷりに好演しています。そこで、自身が苦境に立たされた経験やどん底を抜け出せたきっかけとなった出会い、そして挑戦中の新たな夢などについて語っていただきました。―脚本を読み終わった瞬間に「絶対にやりたい」と思われたそうですが、決め手となったのは何ですか?蓮佛さんコメディ作品は、テンポや間が1秒違うだけで面白みが変わってしまう奥深さがあるので以前から好きでしたが、この作品は脚本で描かれている笑いの方向性がとにかく面白くて、大好きだったんです。しかも、ただのコメディではなくて、家族との関係性などの普遍的なテーマも描かれていて、気が付いたら泣いていて。映画のキャッチコピーで「笑って泣ける」というのをよく耳にしますが、この作品は私にとってまさにそんな映画だな、と。これほどまでにコメディ要素とハートフルな要素が無理なく共存している映画というのはなかなかないですし、キャラクターも面白かったので、ぜひ出たいと思いました。「いま撮りなさい」と映画の神様に言われていると感じた―撮影中はたくさんの奇跡が起きたそうですが、そのなかでも印象的なエピソードがあればお聞かせください。蓮佛さん今回は熊本県の荒尾市で3週間ほど撮影をしていましたが、いつもなら雨が多い時期だったにもかかわらず、地元の人が驚くぐらいとにかく天気がよかったんです。あとは、ロケハンで行ったときは風が強かった場所があって、私の髪の毛がメデューサみたいにならないか監督と心配していたんですけど、本番になったら無風だったり。一番びっくりしたのは、撮影最終日に外ロケを終えた後、屋内のシーンを撮るためにすべての機材を部屋のなかに運び終わった瞬間、雨が降ってきたことです。コロナ禍の影響で2021年から撮影が1年以上止まったこともありましたが、「いま撮りなさい」と映画の神様に言われているみたいで、鳥肌が立ちました。―それはすごいですね。また、ドラマ部志望の若手ディレクター・咲を演じた伊藤万理華さんとのやりとりも絶妙でしたが、共演されてみていかがでしたか?蓮佛さん万理華ちゃんは役者として私と真逆のタイプだと思いますが、ほんとに天才だなぁと思いました。それが私にとっては刺激的でしたし、彼女の自由さやフワッとした本能的な感じがすごく好きでした。あと、お芝居をしていて思ったのは、「相性がいいってこういうことなのかな」ということ。初めてご一緒しましたが、テンポ感がバチっとハマる瞬間がすごく多かったので、最高の相棒に出会えて本当に幸せでした。終わったことは考えすぎないようにしている―撮影の合間は、どのようにして過ごされていましたか?蓮佛さんお互いに「無理に話さなきゃ」とかもなかったので、本当に居心地がよかったです。万理華ちゃんはどこでも寝る子なので、気が付いたら衣裳部屋でベンチコートにくるまってミノムシみたいに寝てたりして。私はその様子をこっそり写真に撮って、「まりっかの寝相フォルダ」を作るのが楽しかったです(笑)。―素敵な関係性ですね。劇中で梨枝は“カメラの前では泣けない女優”として描かれていますが、ご自身にも実は苦手なことはありますか?蓮佛さん私も泣くのは得意ではないですね。脚本のト書きに「一筋の涙」と書いてあると、「そんな簡単に言わないで」とか思ってしまうので(笑)。いまはもう割り切って向き合ってはいますけど、いくら心が泣いていても、物理的な表現がないと正解とされない感じに少し構えてしまうというか。でも、泣き芝居の話とは変わっちゃうんですけど、最近は苦手なこと、うまくいかないことがあっても、「まぁそんなこともあるよね」と考えるようにしています。―ということは、それまでは引きずってしまうことが多かったと。蓮佛さんそうですね。家に帰ってからもずっと一人反省会をしていましたが、いまはなるべく終わったことは考えすぎないようにしています。自分のなかでいろんな変化を感じている―そんなふうに心境が変化したきっかけがあったのでしょうか。蓮佛さん心に負担のかかる役が多かった時期に自分のコンディションも悪くなってしまい、もう少しいろんなことを切り離す必要があると思うようになって。もちろんまだ反省することはあるものの、このスタイルのまま行くのはよくないなと感じたので、ここ数か月の私のスローガンは、何事においても「まぁ、いいか」です(笑)。15歳で仕事を始めてから基本ずっと同じスタイルでやってきましたが、いまが変えるタイミングなのかもしれませんね。私はお家が大好きで引きこもり体質なのですが、最近旅行に行ったりして、「次はここに行くためにがんばろう」みたいなのもいいな、と思ったり。ここ最近で、いろいろと自分のなかで変わってきているのを感じています。―そういう気持ちは大事だと思います。ちなみに、現場で無理難題を言われる劇中の梨枝のような経験もありますか?蓮佛さん無理難題とはちょっと違うんですが、『ドン・ジュアン』というミュージカルに参加させていただいたときに、事前に踊れないことは伝えていて、「蓮佛さんの役は踊らないから大丈夫です」と言われていたのに、稽古場に行ったら踊りがたくさんあって「聞いてた話と違う!」となったことはありました(笑)。私以外みんなダンスの経験者だったので、本当にあれは苦しい時間でしたね(笑)。―でも、そんな大変な局面でもプロとして最後までやり切ったところはさすがですが、ご自身が貫いていることといえば?蓮佛さんプロの定義というのは難しいところですが、私が個人的に意識しているのは、「自分の役に顔向けできないことはしない」です。それがどんな役でも、いただいた役の顔に泥は塗りたくないので、どれだけ役に対して誠実でいられるかは自分にずっと問いかけています。適当にやったり、「こんなもんでいいか」と思ったりは絶対にしたくないです。人との出会いに恵まれたおかげで、乗り越えられた―どんな仕事にも通じるような素晴らしい心がまえですね。また、本作では人生のリスタートも描かれていますが、ご自身にとっても転機となった出来事はありますか?蓮佛さん『リトル・ナイト・ミュージック』という作品で初めてミュージカルに挑戦したのですが、公演期間中ずっと良いコンディションを維持することが私には難しくて。喉を壊してしまって、生まれて初めてボロボロに挫折しました。―どん底の状態から、どうやって這い上がってきたのでしょうか。蓮佛さん抜けたと思えたきっかけは、先程もお話した『ドン・ジュアン』に出演したとき。オファーをいただいたとき、お断りする選択肢もあったのですが、「ここを逃したらずっとトラウマのままになってしまうかもしれない」という思いもあったので、やってみることにしました。緊張からご飯が喉を通らないときもありましたが、主演を務めたKis-My-Ft2の藤ヶ谷太輔くんがあるとき、すごく体調が悪いなかそれを観客にまったく気づかせないくらいのパワフルなパフォーマンスをされていて。そんなふうにピンチを乗り越えている人を初めて目の当たりにして、衝撃を受けました。そういう背中を見せてもらったおかげで、別の舞台に出演したときにはなぜかほとんど緊張しなくなっていて。そのときに「少しは克服できたのかな」と思えたので、藤ヶ谷くんには足を向けて寝られません(笑)。私は人との出会いに恵まれている人生だと思っていて、こうやっていろんな方から力をもらうことで、乗り越えてきたと感じています。周りに感化されることなく、心のままに生きてほしい―そして現在は、海外作品のオーディションにも挑戦されているとか。蓮佛さん25歳のときに、お休みが取れたので、ロサンゼルスに2週間の語学留学をしたことがありました。事前にちゃんと勉強をしていなかったこともあって、学校に行っても何も成果が出ず、あとでもったいないことしたなと。いい経験はできましたが、お金を無駄にしてしまった気がしたので、「無駄ではなかった」と思うために日本に帰ってからオンラインの英会話教室に入りました。それからは、走り出したら止まらない3歳児みたいにやめられなくなっちゃったんですよね(笑)。でも、海外のオーディションで味わう緊張感はいまの自分には必要だと感じていますし、好奇心も強いほうなので、日本にはない未知の世界を知りたいなぁ、と。1回きりの人生、目標に向けてがんばっています。―楽しみにしています。それでは最後に、蓮佛さんと同世代のananweb読者に向けて、メッセージをお願いします。蓮佛さんライフステージ的に「結婚や仕事はこれでいいのかな?」と思うことも多いかもしれませんが、まずは好きに生きましょう!世の中が自分を焦らせているように感じることがあっても、いまはいろいろと選択肢が広がってきた時代ですし、周りに感化されることなく、心のままに生きられたらいいなと。これは自分自身に対しても、思うことですね。インタビューを終えてみて…。透き通るような美しい肌と、柔らかい笑顔が印象的な蓮佛さん。過去のつらかった出来事から現在の心境の変化まで、興味深いお話をたくさんしていただきました。そういった経験が糧となり、今回の役にも生かされていると思うので、そのあたりも踏まえたうえでお楽しみください。どん底だからこそ、できることがある!人生で崖っぷちに立たされたときこそ、新たなスタートを切るチャンスでもあると感じさせてくれる本作。涙を拭いたあとには、きっと笑顔が待っているはずだとそっと背中を押してくれる1本です。写真・園山友基(蓮佛美沙⼦)取材、文・志村昌美スタイリスト・道端亜未ヘアメイク・SAKURA(Makimura office)スリーブレストップス¥31,900、ハイネックトップス¥39,600、パンツ¥55,000(CFCL/CFCL Inc. support@cfcl.jp)、イヤカフ(右耳)¥60,500、イヤカフ(左耳上部)¥49,500、イヤカフ(左耳下部)¥121,000、リング(右手人差し指)¥99,000、リング(左手人差し指、中指)¥62,700(Hirotaka/Hirotaka 表参道ヒルズ TEL:03-3478-1830)ストーリースキャンダルで女優の仕事を失った梨枝は、“女優が生まれ故郷の熊本で素顔を見せる”密着ドキュメンタリー撮影のため、10年ぶりに帰郷。ドラマ部志望の若手ディレクター・咲とともに渋々撮影に挑んでいた。女優復帰と希望部署への異動をかけて、それぞれ再起を図っていた2人だが、まったくソリが合わずたびたび衝突する。かつて父親と大喧嘩の末に家を飛び出していたこともあり、こっそりと撮影をしたい梨枝だったが、小さな町で噂が広まり、家族の耳にも入ってしまう。がんに冒されている父の病状を知りながら、父を避けていた梨枝に怒り心頭の家族。果たして、前途多難なドキュメンタリー撮影の行方はどうなってしまうのか。そして、梨枝と父親の確執は…。目が離せない予告編はこちら!作品情報『女優は泣かない』12月1日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開配給:マグネタイズ(C)2023「女優は泣かない」製作委員会写真・園山友基(蓮佛美沙⼦)
2023年11月30日キリンビバレッジは11月21日から、「キリン 午後の紅茶」の新CM「紅茶がつないできたもの」篇をの放送を、全国で順次開始しました。同CMのテーマは、「紅茶がつないできたもの」。イギリスでのアフタヌーンティー発祥から現代までおよそ200年、紅茶の周りにある温かい人々とのつながりを描きます。今回のCMで、アフタヌーンティーを広めたと言われるアンナ・マリアに扮したのは中条あやみさん。アンナ・マリアが淹れた紅茶は明治時代の社交場の飲み物に、1904年に行われたセントルイス万国博覧会でのアイスティーに、大正時代の喫茶店でカップルが嗜むミルクティーへと、時代の変遷と共に形を変えながら変わっていきます。現代に切り替わったシーンでは、ホットミルクティーのペットボトルをやさしく袖で包む中条さんが登場します。紅茶の周りでは、どの時代も変わらず人々の笑顔とさまざまな会話が繰り広げられており、人と人とをつなぐ大切な役割を果たしていることがうかがえるCM。最後に粉雪が舞う中、ミルクティーを男性に手渡す中条さんの様子は、寒い時のミルクティーがほっこりと心を温める、どこか懐かしい気持ちを思い起こさせるような場面です。CM楽曲にはロックバンド・RADWIMPSの人気楽曲「前前前世」のオーケストラアレンジを制作し使用しています。新CMはキリンビバレッジYouTubeチャンネルでも公開中です。■CM情報タイトル・尺数:「紅茶がつないできたもの」篇(15秒、30秒)放送開始日:2023年11月21日(火)放送エリア:全国Youtube:「紅茶がつないできたもの」篇 (15秒)「紅茶がつないできたもの」篇 (30秒)HP : (フォルサ)
2023年11月30日声優、アーティストとして、声を武器に音に乗せて思いを表現してきた内田雄馬さん。最新アルバムでは、新たな挑戦でひとつ自分の殻を破ったという。その理由と、新しい今の自分自身について聞いてみました。3rdアルバム『Y』発売記念インタビュー自分の言葉で内田雄馬という物語を育てていく。『呪術廻戦』の伏黒恵役、『ちいかわ』のラッコ役など、数々の人気作で存在感を発揮。’19年「第十三回声優アワード」で主演男優賞を受賞した後もさらなる飛躍を遂げ、現在最も注目を集める人気声優・内田雄馬さん。’18年にはアーティストデビューを果たし、5周年を迎えた今年5月からは6か月連続デジタルリリースにも挑戦。「声優を始めて10年が経ち、アーティストデビューからも5年を迎えましたが、気持ちとしてはデビューした時からずっと地続きで。まだまだ生まれたての小鳥のような気持ちでいるんです。『これから頑張っていかなきゃ』って。今後もその気持ちは変わることなく、20年30年と続けていきたいと思いますし、続けられるように頑張りたいです。とはいえ、変化はいろいろとありました。声優一本だった頃は、演じる役の影響を強く受けてしまい、私生活でもスイッチが切り替えられないことが多々あったんですよ。どのように役と付き合っていくべきなんだろう、と葛藤していました」そんな悩みを抱えながら声優活動をしていた内田さんだが、アーティスト活動を始めたことで表現への向き合い方に変化が起きた。「最初は歌うことが好きなだけで。自分がアーティストとして何を表現すべきか、よくわかっていなかったんです。なので、楽曲ごとに表現を変え、その歌の物語を表現するという形でアプローチしていくことにしました。それって、声優でやっていることに近い感覚で。そんな中、活動を続けていくうちにアーティスト内田雄馬として、何を届けたいのか。それを僕個人だけじゃなく、チームで作り上げていくことを学びました。『内田雄馬は自分だけのものじゃなく、みんなで作っていくものなんだ』と気づけたんですよ。それが客観的な視点を持つための大きな一歩だったような気がします。アーティスト活動を始めたからこそ、声優としても演じる役を俯瞰して捉えられるようになりました」約2年ぶりとなるニューアルバム『Y』は、内田さんが声優として個人として感じたことも楽曲に落とし込もう、と決めて制作したという。なかでも自身で作詞・作曲をした「旅路」には、これまで見せてこなかった内田さんのパーソナリティが強く表れている。「僕は今まで『みんなで一つのことを共有して一緒に歩いていくことは心強いし、大切なことなんだよ』と皆さんに言ってきたんです。だけど実は、僕自身はずっと自分の気持ちを形にするのが、得意じゃなかったというか…怖かったんですよ。でも、改めて自分自身の言葉で曲をお届けすることで、内田雄馬の人間性がより届いて、これまで発表してきた楽曲の説得力も増すんじゃないかなと思い、勇気を出して自分の言葉でつづり、曲を制作しました」そんな内田さんが、心のファスナーを開けようと思ったのはどうしてだったのだろう?「自分を応援し続けてくれている方がいるのは、本当に大きな力になっていて。その感謝をしっかり届けたいと思っていました。今年、新型コロナでライブを延期にしてしまった時、『どうしよう』という混乱や皆さんへの申し訳ない気持ちでいっぱいでした。もしかしたら『大切な時にこんなことになって、本当にダメだな』とか『頼りないな』と思われても仕方ないなって。でも、心配して待ってくださっている方がたくさんいてくれた。それにとても救われました。僕は弱くて一人では何もできないけど、そんな自分がみんなとなら楽しい空間を作り上げることができると教えられてきたんです」『Y』はリード曲「Joyful」をはじめ、5周年の記念にふさわしい、洗練された楽曲が多数入っている。だからこそ素直な顔を覗かせた「旅路」が際立っており、いろんな表情を感じられるからこそ、素晴らしい一枚になった。「今作は、今の内田雄馬を余すところなく描き切ったアルバムになったと思います。アーティストとしての覚悟も含めて、しっかりと気持ちを乗せることができました。何より、僕が僕自身と見つめ合うことで、自分と向き合うことや一歩踏み出すことが怖かったりする方の力になれるようなアルバムになったのではないかと思います」内田さんが30代に突入して1発目のアルバムとなった『Y』。これからどのように30代を突き進んでいこうと考えているのだろうか。「ここ数年は僕の参加する現場でも、若い役者さんがどんどん出てきていて。今後は僕が若い方を支えていけるような役者になっていきたいんです」その言葉の裏には、若手時代に支えてくれた先輩声優の背中が。「デビューした頃は、主役を任されることが重要だと思っていました。でも仕事をしていく中で、いろんな立ち位置や役割があることを知った。一人では作品を形作れないんです。主人公には主人公の役割があるし、他のキャラクターたちにもそれぞれの役割がある。そのどれもが大切なものなんです。自分も初めて主演させていただいた時、支えてくださる先輩たちがいたから、僕はまっすぐ全力投球をし続けていけばよかった。そのことに後々気づけたんですよ。変化や新しい風はどの業界にも必要で、僕ら役者もそう。新しい子たちが出てきた時に、今度は僕らの世代が支えていけるようにしっかりステージアップをしていくことが大事だと思っているんです。もちろん変化していくことは大変なことですが、だからこそ新しい気づきに繋がっていくと思っています。音楽も同じだと思うんです。自分のやりたいこと、残したいものを届けるために今の自分の形をどんどんアップグレードしていくこと。それは、想いを人へ届けていくためにも、大事なことだと思っています」うちだ・ゆうま東京都出身。主な出演作に、TVアニメ『シャングリラ・フロンティア~クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす~』(サンラク)、『MFゴースト』(片桐夏向)、『呪術廻戦』(伏黒恵)、『BANANA FISH』(アッシュ・リンクス)など多数。ナイロンシャツ¥33,000(THE JEAN PIERRE/ADNUST TEL:03・5456・5821)デニムシャツ¥35,200(junhashimoto/ADNUST)パンツ¥33,000(NEPHOLOGIST/ADNUST)3rdアルバム『Y』。【5th Anniversary BOX(CD+Blu‐ray)】¥9,900【CD+BD盤(CD+Blu‐ray)】¥4,290【通常盤(CD)】¥3,5205th Anniversary BOXには、写真集や内田雄馬化カードなど豪華特典が封入。11月29日発売。(KING RECORDS)※『anan』2023年11月29日号より。写真・内田紘倫(The VOICE)スタイリスト・奥村 渉(WM)ヘア&メイク・花嶋麻希取材、文・真貝 聡(by anan編集部)
2023年11月27日作家を志す文学青年の弟・トムをストーリーテラーに、極度に内気な姉のローラと独善的で口うるさい母親のアマンダとの閉塞感ある家族の姿を描いたテネシー・ウィリアムズの『ガラスの動物園』。その後日譚を、日本の不条理劇の第一人者である別役実が描いた『消えなさいローラ』。この2本の戯曲を連続上演する企画が実現。吉岡里帆さんは、演出を手がける渡辺えりさんから直々に出演をオファーするメッセージをもらったという。「これまで現場でご一緒したことがなかったので、最初は驚きました。でも、私が出演していたドラマ『しずかちゃんとパパ』を見て、耳が聞こえないお父さんと暮らしている娘の役を暗く演じてないのがよかったと言ってくださって。今回の『ガラスの動物園』も戦争が迫りくる重苦しい時代の物語ではありますが、その中でも明るさを大事にしたいと、お声かけくださったそうです」吉岡さん演じるローラは、極端なほど内向的な役だが、今回、「2本立てにしたことで、より一層面白いキャラクターになっている」と話す。「『ガラスの動物園』は何かわからない不安な気持ちや切なさがじわっと残るような終わり方をします。でも、その日々がどれだけ美しくて尊かったかが『消えなさいローラ』で見えてきて、台本を読んだときの後味がガラッと変わりました。ローラも、口数が少ないイメージだったのが、『消えなさいローラ』では、それまでの溜まりに溜まったフラストレーションを爆発させているかのようにすごく情熱的。えりさんがおっしゃるには、別役さんが書かれる作品の多くが自己や自己のアイデンティティに迷う人の物語で、この作品もまさにそうなのだとか。実際、ここに出てくるローラも、途中からローラなのかアマンダなのかわからなくなっていって、台本上の役名も“女”という表記になっています。自分という存在は不確かで、それを認識してくれている他者がいなくなってしまえば、まるで存在していなかったかのように消えていく。その切なさとか、逆に、誰かがいることで確かになる、ある種の生命力を大事に演じたいと思っています」母・アマンダはその渡辺さんが、弟のトムは尾上松也さんが演じる。「トムはストーリーテラーの役割も担っているので、この役がブレるとすべてがブレてしまうと思うのですが、松也さんがしっかりと基盤を作ってくださっています。例えると、枠組みが木じゃなくて鉄でできているような(笑)安心感というか。アマンダは娘や息子に言葉で圧をかけるような役なのに、えりさんが演じることで、口うるさいけれどとても愛情深いお母さんになるから全然嫌な気持ちにならない。むしろ毎日顔をつき合わせて、ケンカしながらもコミュニケーションをとっていた古き良き日本の家庭みたいに見えてくる。娘として相対していても自然と心が開くので暗くなりようがなくて、母親がこうだとこんなふうに娘は育つんだなって思っています(笑)」『消えなさいローラ』は二人芝居。松也さんの相手を、渡辺さんと吉岡さん、そして和田琢磨さんの3人が日替わりで務める趣向もユニーク。「間違いなく、三者三様のお芝居になると思います。スタミナのあるトムでよかったです(笑)」『ガラスの動物園』『消えなさいローラ』大恐慌時代のアメリカ。工場で働く文学青年のトム(尾上)は、口うるさい母・アマンダ(渡辺)と極度に内気な姉・ローラ(吉岡)との暮らしに閉塞感を抱いていた。ある日、娘の将来を憂う母の働きかけで、トムが職場の同僚・ジム(和田)を家に連れてきた。彼はかつてローラが憧れた相手で…。上演中~11月21日(火)新宿・紀伊國屋ホール『ガラスの動物園』作/テネシー・ウィリアムズ翻訳/田島博『消えなさいローラ』作/別役実上演台本・演出/渡辺えり出演/尾上松也、吉岡里帆、和田琢磨、渡辺えり全席指定1万円Bunkamuraチケットセンター TEL:03・3477・9999(10:00~17:00)山形、大阪公演あり。よしおか・りほ1993年1月15日生まれ、京都府出身。昨年主演した映画『ハケンアニメ!』で日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞。現在放送中のドラマ『時をかけるな、恋人たち』(フジテレビ系)に主演。ピアス¥133,100(シャルロット シェネ/エドストローム オフィス TEL:03・6427・5901)その他はスタイリスト私物※『anan』2023年11月15日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・ちばひろみヘア&メイク・北原 果インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2023年11月15日『Wの悲劇』や『ヴァイブレータ』など数多くの脚本を手掛け、『火口のふたり』では監督としても高い評価を得ている荒井晴彦さん。芥川賞受賞作『花腐し』の映画化に挑んだ最新作は、綾野剛さんや柄本佑さんをはじめとする実力派キャストたちが顔を揃えていることでも反響を呼んでいます。そこで、ヒロインを務めたこちらの方にお話をうかがってきました。さとうほなみさん【映画、ときどき私】 vol. 615ドラマ『六本木クラス』や『あなたがしてくれなくても』、『30までにとうるさくて』、映画『愛なのに』など、さまざまな話題作への出演が続いているさとうさん。「ゲスの極み乙女」のドラム担当ほな・いこかさんとしても知られていますが、俳優としては「さとうほなみ」の名義で活動されています。本作では、ピンク映画の監督を務める栩谷と脚本家志望の伊関というふたりの男が愛した女優の祥子役を見事に演じ切り、注目を集めているところです。今回は、現場で感じたことや日常生活で欠かさずしていること、そしていまの心境などについて語っていただきました。お名前を聞いたとき、絶対にご一緒したいと思った―脚本から映像化の想像ができなかったにもかかわらず、この作品には強く惹かれていたそうですが、どういうところに魅力を感じましたか?さとうさん最初に脚本を読ませていただいたのは、オーディションのとき。肝となる2つのシーンだけだったので原稿用紙2枚分のみでしたが、物語の概要を聞いただけですでに面白いと感じていました。なかでも一番想像がつかなかったのは、ラストシーン。脚本には山口百恵さんの「さよならの向う側」の歌詞がすべて書いてあるだけで、どうなるのかが何も書かれていませんでした。でも、これだけ言葉を大事にする荒井監督がそうするということは、ここに『花腐し』にとっての何かしらの意味が絶対にあるんだろうなと。そういう気持ちで挑んでいましたが、現場ではさらにいろんな偶然や監督の思いつきなどもそこに合わさっていったので、結果的に激エモな終わり方になったと思っています。―ぜひ、観客のみなさんにもそのエモさを感じていただきたいですね。そして、本作では綾野さんと柄本さんと共演できるというのも出演を熱望した理由のひとつだったのではないかなと。さとうさん荒井晴彦監督、綾野剛さん、柄本佑さんというお三方のお名前を聞いたとき、絶対にご一緒したいと思いました。取材などで綾野さんが「柄本さんのファンだった」とおっしゃっているのを聞きましたが、私こそずっと前からおふたりのファンですから!といっても、まだご本人たちには伝えていないので、この記事で知っていただけたら本望です(笑)。現場にいてくれるだけで心強かった―それは喜ばれると思います。実際にご一緒されてみて、現場での様子についても教えてください。さとうさん綾野さんはお芝居に対してストイックで、本当にいろんなことをよく考えていらっしゃると感じました。それだけでなく、周りのキャストやスタッフのこともしっかりと見ていてすごく気を遣ってくださいますし、場の雰囲気を大切にされる方でもあるので、いてくださるだけで心強かったです。今回は、濡れ場やちょっとしたアクションもありましたが、カラダが交わることや動かすことに関する技術的な面を自ら監修してくださったのもすごいなと。「自分に委ねてくれたら受け身を取るから大丈夫だよ」と言っていただいたので、そういう面でも助けていただきました。―柄本さんについて、印象に残っていることはありますか?さとうさん本当にナチュラルな方なんですが、器の大きい方でもあると感じました。カメラの回っていないところで話していたと思ったら、いつの間にか役に入っているので、ご自身から役にシフトチェンジしているところを見せないようにしているところも素晴らしかったです。仕事選びの基準は、大変でも心を動かされたとき―お仕事選びについては、ご自身がキュンとするかどうかを大事にされているそうですが、本作にもそういう感覚はあったのでしょうか。さとうさん普段、私のなかで基準となっているのは、そこに挑むのがどれだけ自分にとって大変なことだとわかっていても心を動かされたとき。『花腐し』に関しては、「キュンキュンキュンキュン…」くらい最高にキュンとしました。―今回は役柄上、肌を出されるシーンが多かったですが、色気があってとても美しかったです。演じるうえで、意識されたこともありましたか?さとうさん特に何かを気を付けていたわけではありませんが、みなさんのお目汚しにならない程度にはしたいなと(笑)。ただ、後半はピンク映画を生業としている女優として描かれていたので、「肌を人に見せることを意識するとはどういうことか」というのは考えていたかなと思います。いつ仕事が来てもいいようにしているピンク映画の女優としてのプライドを持っているようにしました。―なるほど。非常にお肌もキレイなのですが、意外にも美容にはあまり興味がないとか。とはいえ、ケアとして何かされていることもあるのでは?さとうさん毎日欠かさず、赤ワインを飲んでいます(笑)。というのも、マッサージを担当していただいている方に「手足は冷え切っているし、腸の活動も悪いけど、あなたは赤ワインとの相性が非常にいい」と言われたからです。自分にとって、年齢の分岐点となったのは25歳―それはお酒好きにはうれしいアドバイスですね。普段、どのくらい飲まれていますか?さとうさん詳しくは言えませんが、“適量”ということにしておいてください(笑)。―わかりました。30代もまもなく折り返しですが、30代ならではの変化や楽しみ方みたいなものがあれば教えてください。さとうさんあまり変わっていないような気もしますが、逆に代謝が良くなりました。―それはすごいですね!赤ワインの効果でしょうか…。さとうさんそうですね。もしかしたら、体温が上がっているのかもしれません(笑)。ちなみに、気持ちの面で言うと、私にとって年齢の分岐点は25歳のとき。「あと5年で30歳だからいろんな決断をしなきゃ」みたいな焦りがありました。でも、27歳くらいで「多分もう変わらないな」と気が付いてから、30歳に対する恐れを乗り越えた気がします。ただ、そう考えると次にそれが来るのは35歳なのかなと思ったりもしますが、いまのところ不安や怖さはありません。というのも、いまの40代の方ってすごく若々しくて、みなさん楽しんでいらっしゃるので、自分もそういう風に生きていけるなら年齢はあまり関係ないなって。ただ、来年35歳になったときにめっちゃ恐れているかもしれないので、そのときにまた聞いてください(笑)。観客にしか見えない部分を最後まで楽しんでほしい―ぜひ楽しみにしております。それでは最後に、ananweb読者に向けてメッセージをお願いします。さとうさんこの作品はとても面白い構成の映画となっていて、登場人物たちの関係性は観客にしか見えない部分があるので、そこを楽しみつつ最後までしっかりと観ていただけたらうれしいです。あとは、みなさんにも赤ワインを推奨したいですね(笑)。というのは置いておいて、最近ハマっているのは、朝歩くこと。「朝に日光を浴びるといい」とよく言われていますが、それって本当なんだなと実感しています。私の場合は、音楽を聴きながら何も考えずに歩き、近所の神社に挨拶して帰ってくるという流れですが、それだけも一石二鳥どころか一石三鳥くらいになっているような気がするので、オススメしたいです。インタビューを終えてみて…。飾らない人柄と弾ける笑顔が魅力的なさとうさん。ユーモアたっぷりのお話にも、終始笑わせていただきました。劇中では、全身全霊で役と向き合っているのがひしひしと伝わってくるほどの熱演を見せていますので、ぜひそちらにも注目してみてください。切なさに胸を締め付けられる現在と過去が交錯するなかで、ふたりの男とひとりの女が繰り広げる激しい愛の物語を描いた本作。朽ちてなお純粋さを失わない愛の姿は、いつまでも降り続ける雨のように、観る者の心に突き刺さるはずです。写真・園山友基(さとうほなみ)取材、文・志村昌美ストーリー斜陽の一途にあるピンク映画業界で監督を務めている栩谷。5年も映画を撮っていなかったためにアパートの家賃を支払うことにも困り、制作会社の事務所に居候させてもらっていた。梅雨のある日、栩谷は大家からあるアパートの住人に対する立ち退き交渉を頼まれる。アパートを訪ねた栩谷は伊関という名の男と揉み合いになるが、部屋に入って話し始めると、伊関はかつてシナリオを書いていたことを栩谷に明かす。そして、映画を夢見たふたりの男の人生は、女優・祥子との奇縁に繋がっていくのだった…。引き込まれる予告編はこちら!作品情報『花腐し』11月10日(金)テアトル新宿ほか全国公開配給:東映ビデオ(C)2023「花腐し」製作委員会写真・園山友基(さとうほなみ)
2023年11月09日ビジュアルの再現度の高さに加え、音楽や照明、場面転換などの演劇的手法を駆使した多彩な演出で評価を受ける舞台『鬼滅の刃』。シリーズ4作目の今回は、重層的なドラマが描かれる遊郭編。本作から主人公の炭治郎を、阪本奨悟さんが演じる。「炭治郎のまっすぐな純粋さを大事にまっさらな気持ちで臨みたいです」「オーディションを受けさせてもらったんですが、すでに期待値が高い中で自分がそれを越えていけるかプレッシャーはありました。ただ、僕自身が兄姉と仲が良く、妹の禰豆子(ねずこ)を想う炭治郎に共感する部分も多く、演じてみたい役でもありました。炭治郎の魅力って、家族を想う純粋さだったり責任感だったり、諦めない心だったり…少年らしいまっすぐさなんですよね。15歳の炭治郎を自分が演じるにあたって、ここまで身についたものをとっぱらって、まっさらな気持ちで臨みたいです」鬼となった妹を人間に戻すため鬼殺隊に入った炭治郎。「其ノ肆 遊郭潜入」と銘打った今回は、鬼の動向を探るため遊郭に潜入する。「“柱”の宇髄さんの生い立ちが色濃く描かれる回でもありますし、僕としては花魁に扮した上弦の鬼・堕姫(だき)と炭治郎との戦いが舞台でどう表現されるのか楽しみです。それには僕もちゃんと準備しておかないと」迫力ある殺陣も魅力の舞台だけに、舞台稽古に入る前から自主的に殺陣のレッスンに通っていたそう。「殺陣の経験はあっても、そこまで激しいものはやってきていないんです。この作品には炭治郎を含めて超人的なキャラクターばかり。普通より1段上のレベルでないと表現できないものがあると思うので、事前にやれることはしておきたくて」それは原作へのリスペクトゆえ。「原作漫画や小説なら読んでおきたいし、アニメ化されていれば見て、作品や役への理解は深めておきたいじゃないですか。ただ、演じるのは生身の人間同士で、相手のお芝居を受けて生まれる感情もある。それが時には原作とは少し表現が変わってくることもあるかもしれない。でも、そこでリアルに生まれてきた感情を無視してしまったら物語として破綻してしまう気がするんです。僕は人と人が相対して生まれるものも同時に大事にしたいと思っています」アーティスト活動もおこなっており、伸びやかな美声の持ち主として評価も高い阪本さん。今作でも歌を披露する場面があるそう。「作品に自分が貢献できるとしたらやっぱり歌なのかなと思っています。歌を通じて役に繋がれる瞬間もありますので、そこも楽しみなんです」舞台『鬼滅の刃』其ノ肆 遊郭潜入11月12日(日)~19日(日)メルパルクホール大阪、12月1日(金)~10日(日)TOKYO DOME CITY HALL原作/『鬼滅の刃』吾峠呼世晴(集英社ジャンプコミックス刊)脚本・演出/末満健一音楽/和田俊輔出演/阪本奨悟、髙橋かれん、植田圭輔、佐藤祐吾、辻凌志朗、蛭薙ありさ、倉持聖菜、西葉瑞希、梶川愛美、佐竹莉奈、遠山裕介、廣瀬智紀、宮本弘佑、佐々木喜英ほか【大阪公演】全席指定1万1500円サイドシート1万1500円【東京公演】S席(アリーナ、第1・第2バルコニー)1万1500円S席サイドシート1万1500円A席(第3バルコニー)9500円A席サイドシート(第3バルコニー)9500円©吾峠呼世晴/集英社©舞台「鬼滅の刃」製作委員会さかもと・しょうご1993年6月13日生まれ、兵庫県出身。最近の主な出演作に、ミュージカル『刀剣乱舞』、演劇調異譚『xxxHOLiC』など。シンガーソングライターとしても活躍中。ニット¥44,000(CULLNI/Sian PR TEL:03・6662・5525)中に着たTシャツ¥14,300(CLOUD LOBBY/JOYEUX TEL:03・4361・4464)※『anan』2023年11月8日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・山田安莉沙ヘア&メイク・木内真奈美(オティエ)インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2023年11月08日村上春樹の小説を原作に、意識と無意識を融合させたキュートかつダークな世界。ダンス、音楽、美術、衣装、全てにおいてセンスを感じる舞台『ねじまき鳥クロニクル』は、観客を極上の観劇体験にいざなった。イスラエルのインバル・ピントが演出・振付・美術を手掛け、大友良英率いるバンドが生演奏を行った。初演は好評を博したが、コロナで全公演の上演は叶わず、3年ぶりに再演が実現。門脇麦さんは初演に続き、17歳の笠原メイを演じる。五感を使って演出意図をキャッチして体に落とし込む作業をしてました。「インバルは、視覚センスが突出している人。人物の立ち位置から場面を組み立ててみたり、時間をかけて振り付けても、やはり違うと思ったら、潔く一から作り直したり。ニュアンスや空気感をとても大切にされていて、その創作過程は稽古場で見ていても刺激的でしたね」原作は全3巻もある長編小説である。門脇さんは村上作品の大きな魅力の一つは文体にあると感じていた。「ただ、あの日本語のニュアンスは翻訳ではおそらく伝わらないと思います。だから、私が原作を読んで感じ取った空気感やメイという少女を表現することよりも、イスラエル人のインバルが日本文学の村上作品を読み、どんなエッセンスを受け取り表現したいと思ったのか。それを体現することの方がこの舞台では大事なんじゃないかなと思いました」稽古場での、言葉に頼らないコミュニケーションは性に合ったらしい。「文学作品の舞台というと、言葉が一番大切なように思うけれど、日本語を介さない創作現場では、削ぎ落とした骨組み、本質だけが残ります。インバルたちがどうしたいのかを五感を使ってキャッチして、体に落とし込む作業を稽古場ではひたすらしていた気がします。私もたいてい勘で生きているので、全く違和感はなかったです(笑)」14歳まではバレエダンサーを目指していた門脇さん。フィリップ・ドゥクフレや野田秀樹など、これまでも身体的な表現を得意とする演出家の舞台に多く出演してきた。そんな経験が、インバルの創作現場を楽しむ力を蓄えていたのかもしれない。「もともと身体先行の感覚人間なので、言葉を使うと、どう説明しようという方に気持ちが傾いて、そっちの方が意味を限定してしまい、かけ違うことがあるように思いますね」最近では、映画『ほつれる』や『渇水』などの映像でも言葉以外の、表情や佇まいでその人物を強く印象づける豊かな表現をしている。「映像は日に3~4シーン撮らなければいけないので迷っていられません。想像以上に感情が高まってしまったなと後から思うような時もあります。その点、舞台は稽古期間があり、試行錯誤できます。基盤がある状態で本番を迎えられるから映像より自由度は高いかもしれないです」最近特に表現に深みが増して見えると伝えると、年齢のせいじゃないですか?と笑う。「一応、毎日一生懸命生きているので、ちょっとは深まってもらわないと困るんですよね(笑)」どんな現場でも、能動的に楽しもうと取り組めば楽しみは必ず見つかる。そう気づいてから演じることがますます面白くなってきたらしい。「楽しむパワーって、大きいんですよね。客観視して没入しすぎない方法を今は楽しんでいますけど、また気が変わるかもしれません(笑)」舞台『ねじまき鳥クロニクル』飼い猫捜し、女子高生の笠原メイとの出会い、謎の女からの電話、妻の失踪…。岡田トオルの身に次々と不可解な出来事が起きる。現代の世田谷から戦時中の満州まで、時空を超えて世界が繋がる。11月7日(火)~26日(日)池袋・東京芸術劇場 プレイハウス原作/村上春樹演出・振付・美術/インバル・ピント脚本・演出/アミール・クリガー脚本・作詞/藤田貴大音楽/大友良英出演/成河、渡辺大知、門脇麦、大貫勇輔・首藤康之(Wキャスト)、音くり寿、松岡広大、成田亜佑美、さとうこうじ、吹越満、銀粉蝶ほかS席1万800円(土・日・祝日1万1800円)、サイドシート8500円ホリプロチケットセンター TEL:03・3490・4949(平日11:00~18:00)大阪、愛知公演あり。かどわき・むぎ1992年8月10日生まれ、東京都出身。2011年ドラマデビュー。主な出演作に映画『愛の渦』(’14)、『浅草キッド』(’21 Netflix)、『あのこは貴族』(’21)、『ほつれる』(’23)、ドラマ『リバーサルオーケストラ』(’23)など。台湾映画『Old Fox』が台湾にて公開。モヘアニットトップス¥45,100中に着たカットソー¥11,000スカート¥39,600(以上オーラリー TEL:03・6427・7141)ブレスレット¥53,900左手のリング¥32,400右手のリング¥35,200(以上サピア バハール/フィルグ ショールーム TEL:03・5357・8771)※『anan』2023年11月8日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・高野智史ヘア&メイク・伏屋陽子(ESPER)インタビュー、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2023年11月05日竹野内豊さんと山田孝之さんのダブル主演という豪華さに加え、2人が美しい女性たちに監禁されるという衝撃のストーリーで話題を呼んでいるサスペンススリラー『唄う六人の女』。今回は、この刺激的な世界観について、こちらの方にお話をうかがってきました。水川あさみさん【映画、ときどき私】 vol. 611劇中では着物姿で登場し、木の枝のようなもので何度も突く“刺す女” を演じた水川さん。主人公の男たちを取り巻く“六人の女”のなかでも、彼らを森のなかに迷い込ませるきっかけとなる重要な役割を担っています。そこで、撮影の裏側や日常生活で大切にしていること、そして40歳になってから感じる人生の楽しみ方などについて語っていただきました。―オファーがあったのはかなり早い段階だったそうですが、出演の決め手となったものは何ですか?水川さんこれまで石橋(義正)監督の作品というのは、派手でエキセントリックなものが多かったのですが、この作品に関しては脚本を読んだときに「どういうふうに描くんだろう?」と想像がつきませんでした。そういう未知な世界観にそそられたというのは、大きかったと思います。あとは、セリフのない役は初めてだったので、「すごく面白いことができるかもしれない」という興味も湧いていました。竹野内豊さんのおかげで、思いっきりできた―監督からは「表現をしない、リアクションをとらない、無表情。でも凛としてほしい」という演出があったとか。それらは普段求められることとは真逆だと思うので、そういう難しさもあったのでは?水川さんそうですね。普段は、脚本を読むとその人物が持つ感情の流れみたいなものが自然とわかりますが、この役に関してはまったくわからない。そのなかで何をすべきかと考えたときに、監督が重要視しているのは、“ただそこに存在すること”だと感じました。相手にセリフを言われるとつい表情で答えてしまいそうになりましたが、それよりもちゃんと存在する大切さというのを教わったような気がしています。いつもは表現することにおいての難しさを考えますが、今回は表現をしないという難しさと面白さが共存していて楽しかったです。―今回の役どころは“刺す女”ということで、容赦なく竹野内さんを刺したり、叩いたりしていましたが、その間がとにかく絶妙でした。タイミングなどは任されていたのでしょうか。水川さんわりと何回かやり直して撮りました。というのも、自分としては一生懸命叩いているつもりでも、そう見えていなかったり、監督が求めている激しさにたどりついていなかったりというのがありました。どう映っているのかというのが大事だったこともあって、役としては必死さが見えてはいけないけれど、私としてはかなり必死でしたね(笑)。でも、竹野内さんが「どんとこい!」という感じでいてくださったおかげで、思いっきりやることができました。よく知っている山田孝之さんだから、言葉はいらなかった―竹野内さんとおふたりのシーンが多かったですが、ご一緒されてみて印象に残っていることを教えてください。水川さん竹野内さんとは今回が2度目の共演でしたが、私が20代の頃にご一緒して以来なので、すごく久しぶりでした。「そのときに比べると、自分たちもだいぶ変わってきたね」というお話もしましたが、竹野内さんはいくつになっても若々しい。アクションシーンのために肉体的な準備もされていましたが、そういう様子をそばで見ていて、役にも作品にもすごく真摯な方だなと改めて感じました。―そしてもう一人の男には、20年来の友人でもある山田孝之さんが出演されています。激しくぶつかり合うシーンもありましたが、そこは仲がいいから安心していけたところもあったのではないかなと。水川さんそうですね。よく知っている相手だからこそ、遠慮することが逆に失礼になったりもしますから。そういう意味でも、あえて言葉にしなくてもお互いに思いっきり行けたところはあったかなと思います。―撮影中はどのようにして一緒に過ごされていたのでしょうか。水川さん現場での彼は、役にとても集中していたので、特に話す時間はなかったですね。でも、撮影が早く終わったときにはみんなで食事に行って少しお酒を飲む時間を持つことはできました。大事にしているのは、日常をどう過ごすか―以前、取材をさせていただいた際、「ちゃんとご飯を作って食べる」「洗濯や掃除をする」といった日常を大事に過ごし、「当たり前のことを当たり前にできる人でありたい」とおっしゃっていたのが印象的でした。そんなふうに日常生活の質を上げる大切さに気付いたのはいつ頃からですか?水川さん年齢を重ねていくうちに、自分のなかにある豊かさに気が付くことや自分の内面を知ることが役にも反映されているとわかるようになりました。昔は日常生活と役を演じることはまったく別のことだと思っていましたが、すべては1つにつながっているんだなと。だからこそ、日常をどう過ごすかということがすごく大事なんだなと感じています。それが正解だとは思っていないですし、はっきりとしたきっかけはありませんが、徐々にそう考えるようになりました。―食事や身に付けるものなどで特に意識していることはありますか?水川さん「こだわりありますよね」と言われることが多いんですけど、実は全然何もこだわっていないんですよ(笑)。自分が本当においしいと思うものや身に付けていて気持ちいいものとか、自分が心地いいと思うことを広げています。―こだわりが強そうに見えてしまうだけで、ただご自身が好きなことをしているだけということなんですね。水川さんそうなんですよ。自分らしくいるためにしていることで、何かにこだわっているというわけではありません。いまのほうが自分らしくいられて自由を感じる―また、「年齢を重ねれば重ねるほど充実していると感じている」ともおっしゃっていましたが、40代に入ってみていかがですか?水川さん心境の変化とかはないですが、20代より30代、30代より40代とどんどん元気になっているのを自分で感じています。特に20代は「もっとがんばらなきゃいけない」みたいに「こうしなきゃ!」と自分を勝手に決めつけていたので、楽しむ方法がわかってきたいまのほうが自分らしくいられて自由だなと。お芝居に関しても、50代に向けてどう変化していくのかはまだわからないですが、すごく楽しみです。―とはいえ、人生の半分くらいまで来た焦りみたいなものはなかったのでしょうか。水川さんそれは全然ないですね。だって、折り返しでこれだけ楽しいってことは、あと半分もめっちゃ楽しいってことですから!もちろん大変なこともあるとは思いますが、それでも「どうなるんだろう?」という興味も含めるともっと楽しいんじゃないかなという気がしています。自分の感覚を頼っていけば、きっといい方向に行ける―素敵な考え方ですね。ちなみに、落ち込んだときはどのように対処されていますか?水川さん単純ですけど、おいしいものを食べたり、大声で歌ったり、とにかくカラダが元気になることをします。心とカラダはすごく密接なので、そうすることで自然と気持ちも上がっていきますからね。落ち込んだときこそ、自分にご褒美をあげる時間を持つようにしています。―それでは最後に、ananweb読者に向けてメッセージをお願いします。水川さん「私なんか…」みたいについなりがちですし、他人の基準で考えてしまって苦しくなることもありますが、みなさんにはもっと自分を信じて生きてほしいなと思っています。なので、「自分はどうしたいのか」とか「どうしたら自分が心地よくなるのか」みたいなことに目を向けてもらえるといいのかなと。何かを選択するときにも、自分の感覚を頼っていけばきっといい方向に行けると思うので、「自分を内観してみるといいですよ」というのは伝えたいです。インタビューを終えてみて…。とにかく気さくで、大きな笑顔が素敵な水川さん。お話を聞いているだけで、こちらまで前向きな気持ちになりました。自分の芯をしっかりと持ち、全力で好きなことをして楽しんでいる姿は、ぜひ見習いたいところです。本作では、水川さんの新たな一面を見ることもできるので、そのあたりにも注目してください。最後に待ち受けるのは、壮大な真実!魅惑的な女性たちが繰り広げるミステリアスな世界観に、どんどん引き込まれていく本作。入り乱れる狂気と美しさに翻弄され、気が付けば誰もが虜となってしまうはず。現実を忘れて、“異界”へと足を踏み入れてみては?写真・園山友基(水川あさみ)取材、文・志村昌美スタイリスト・番場直美ヘアメイク・岡野瑞恵ドレス¥198,000(バウト/ボウト TEL:03-6434-0079)、右耳のイヤカフ¥35,200、左耳のイヤカフ¥29,700、中指のリング¥30,800、ピンキーリング¥25,300、バングル¥49,500(以上リューク info@rieuk.com)ストーリーある日突然、40年以上も会っていない父親の訃報が入り、父が遺した山を売るために生家に戻ることにしたフォトグラファーの萱島。開発業者の下請けをしている宇和島は、その土地を買うために萱島のもとを訪ねていた。契約の手続きを終え、人里離れた山道を車で帰っていると途中で事故に遭い、2人は気を失ってしまう。目を覚ますと、男たちは体を縄で縛られて身動きができないことに気付く。そんな彼らの前に現われたのは、この森に暮らす美しい六人の女たち。何を聞いても一切口を利かない彼女たちは、萱島と宇和島の前で奇妙な振る舞いを続けるだけだった。異様な地に迷い込み、理由もわからぬまま女たちに監禁されてしまった男たちは、この場所からの脱走を図るのだが…。禁断の予告編はこちら!作品情報『唄う六人の女』全国公開中配給:ナカチカピクチャーズパルコ(C)2023「唄う六人の女」製作委員会写真・園山友基(水川あさみ)
2023年11月01日「映画の可能性を広げ、世界に羽ばたく新たなクリエイターを支援する」というコンセプトのもと、TikTokと東宝がタッグを組んで立ち上げた「TikTok TOHO Film Festival」。先日、第3回目が開催され、「縦型映画」という新たな映画のカタチへの関心が高まっているところです。そこで、その魅力についてこちらの方にお話をうかがってきました。池田エライザさん【映画、ときどき私】 vol. 610「TikTok TOHO Film Festival 2023」でアンバサダーと審査員を務めた池田さん。現在は、俳優としてだけでなく歌手や映画監督としても才能を発揮し、幅広いジャンルで活躍されています。今回は、ご自身が作ってみたい「縦型映画」や創作活動の源、そして心境の変化などについて語っていただきました。―審査員としてさまざまな作品をご覧になったと思いますが、どのような印象を受けましたか?池田さんいままで私が撮らせていただいたのは横型の長編と短編で、時間の制限もあまりないものだったので、縦型というルールがあり、しかもいつでもスライドできてしまうTikTokのようなプラットフォームで作るのは大変だろうなと思いました。でも、制限があるからこそ生まれる工夫があるので、そういうものに触れられたのは私にとってもすごく刺激になったのではないかなと。それはいまだかつてないものだからこその魅力だと感じました。縦型ならではの不思議さを生かした作品を撮ってみたい―そのなかでも、池田さんが思う縦型映画ならではの可能性とは?池田さんこれまでの映画は基本的にすべて横を前提として世界を作り上げているので、縦にすることでいままでなら映らなかった美術や照明も見れますし、空間の大きさが横型映画よりも顕著にわかる部分もあると気付かされました。ほかにも、主人公が抱えている閉塞感がより伝わりやすくなる場合もあるので、そういうところは今後の参考にもなったところです。―ご自身が縦型映画を撮るとしたら、どんな作品を作ってみたいですか?池田さんたとえば、縦で階段を撮るだけでも現代アートを見ているような感覚になるので、そういう近代的な映像を撮ってみたいですね。縦型ならではの不思議さを生かして、アングルやカットワークで遊んでみたら面白いのかなと。そういったアイデアをもう少し自分のなかで温めてから、いつか挑戦してみたいなと思っています。偶発的に出会える動画は、勉強の時間になっている―また、今回のグランプリ受賞者には、記念として斉藤由貴さんを主演にした新作を撮れる権利が与えられましたが、もし池田さんが斉藤さんを撮るとしたらどんなストーリーを描いてみたいですか?池田さん以前、共演させていただいたことはありましたが、残念ながら現場がまったくかぶらなかったんです。なので、これはあくまでも私の勝手な印象でのお話ですが、斉藤さんって種族に分け隔てなく会話ができそうな方だなと感じています。道端の猫も小鳥もあの声に耳を傾けたくなるような魅力を持っていらっしゃるので、個人的には斉藤さんと動物を掛け合わせてみたいですね。ただ、動物との撮影は大変ですから、同じ俳優としてはそんなご苦労をかけるわけにはいかないという気持ちはあるのですが…。―ぜひ、観てみたいです!ちなみに、いまハマってる動画などはありますか?池田さん最近は、「おすすめ」フィードに猫の動画ばかり流れてくるようになったので、猫の知識ばっかり増えているような気がします(笑)。でも、スライドして何が出てくるかわからないからこそ、思いもよらぬ情報と偶発的に出会えるのは面白いですよね。私にとっては、勉強の時間にもなっています。これからも落ち着くことなく、いろいろ挑戦したい―ほかにも、日常生活で欠かさずにしていることやお気に入りのルーティンなどがあれば、教えてください。池田さんこの半年くらいで、ようやくジムにちゃんと通うようになりました。それまではずっと3日坊主というか、体験入会してはクーリング・オフみたいな感じで終わっていたので(笑)。きっかけとしては、体型が気になるというよりも仕事を続けるために精神的なタフさを育てたいなと思って行くようになりました。あとは、生活のなかにおける緩急の調節は意識しているほうかなと。仕事帰りの車のなかで、洗濯するタイミングとかいつお風呂に入るかとかを考えるんですが、その通りにルーティンをこなすのが大好きなんです。でも、自炊は得意じゃないので、そこはしないままとかはありますが…。―無理せず楽しく生活するのは大事ですよね。以前ananwebでお話をうかがった際、創作活動の源は「思いついてしまうからやるしかない」とおっしゃっていました。いまもそこは変わらないのか、変化してきている部分もありますか?池田さん相変わらず落ち着きがないので、先日も母から「おちつけ」とひらがなで4文字だけ送られてきました(笑)。といっても、これは最近の私が寝不足でも朝早く起きて、家のことをしたり、日用品の買い出しに行ったりしているのを見て、体調を崩さないか心配で忠告してくれているものだと思っています。でも、そんな感じで良くも悪くもつねに頭のなかは止まらない状態。周りからすると落ち着きがない人のように見えているみたいですが、そういうデメリットも私にとってはメリットでしかないんです。なので、これからも落ち着くことなくいろいろと挑戦し続ける気がしています。やってみて大変なら引き算をすればいい―それだけ創作活動に対する情熱が強いということではないかなと。池田さん確かに、私は0か100かみたいなところはありますね。でも、20代の前半までは腰が重くて、「映画を撮りたい」と言うだけで何もできていない時期もありました。そんななかで、いざ映画を撮れることになったら全部自分でしなきゃいけないので大変でしたけど、やってみたらそれがとにかく楽しくて。腰を軽くした瞬間、こんなにも充実するんだということを知りました。―読者のなかにも、やりたいことがあってもなかなか腰が重くて動けないという人は多いのかなと思いますが、どうすれば池田さんのようになれますか?池田さん私の場合は運やめぐり合わせもありましたが、やってみた先にしか味わえない感覚があるので、一度それを知ってみるのがいいのかなと。お風呂と同じで、「入るまでは面倒だけど、入ってみたら最高!」みたいなことだと思います(笑)。なので、一旦やってみて、大変だったらそこから引き算をしていくのがいいのかなというのが最近感じていることです。―とりあえず、一回試してみてから考えるというのは大切ですね。池田さん私は自分のことを「働き者のお母さんやお兄ちゃんとは違って、なんて怠惰な人間なんだろう」とずっと決めつけていたことがありました。でも、コロナ禍がきっかけで、家事をいろいろするようになったら、実は家族と似ていることに気がついたんです。そうやって、自分のことを決めつけすぎなくなってから楽しくなりました。がんばりすぎずに、自分のわがままにも耳を傾けてほしい―なるほど。27歳になって20代も後半に入ってきましたが、そういう意味で心境に変化などを感じている部分もあるのでしょうか。池田さん年上の女優さんたちはいまだに無邪気でとてつもなくかわいい方が多いので、私も最近はあまり大人っぽくいなくていいんだなと思うようになりました。というのも、これまではイメージや周りの目ばかりを気にしていた部分が多かったですからね…。でも、いまはそういうものを自分に課すのを一回やめてみようと考えられるようにもなったので、自分のなかにある子どもらしさを育てて、30代はもっとはしゃぎたいです(笑)。―それでは最後に、ananweb読者にメッセージをお願いします。池田さん私たちは考えすぎで、周りのためにがんばりすぎているようなところがあるなと感じています。でも、自分のわがままには自分が耳を傾けてあげないと誰も聞いてくれないので、周りにそれを求めて苦しくなるのではなく、頭の片隅に自分のわがままも覚えておいてほしいなと。これは私自身がしたいと思っていることでもありますが、みなさんも少し楽になるためにそういう意識をぜひ持っていただけたらいいなと思います。インタビューを終えてみて…。これまでに何度か取材をさせていただいたことがありますが、美しさに年々磨きがかかっているのはもちろん、ご自身を解放できるようになったことで内面的な魅力もますます増しているように感じる池田さん。これからもいい意味で落ち着くことなく、いろんなことに挑戦し続ける池田さんがどんな発信をされるのかが楽しみです。縦型ならではの面白さが詰まっている!映画の概念を壊し、新たな可能性を秘めている縦型映画。才能豊かなクリエイターたちによる個性豊かな作品の数々に触れることができる絶好の機会としても、本映画祭への注目は今後さらに高まること間違いなしです。写真・園山友基(池田エライザ)取材、文・志村昌美映画祭情報『TikTok TOHO Film Festival 2023』写真・園山友基(池田エライザ)
2023年10月31日この秋も注目の映画が目白押しですが、そのなかでも豪華キャストが集結していることで話題となっているのは、石井裕也監督の最新作『愛にイナズマ』。そこで、見どころについてこちらの方々にお話をうかがってきました。池松壮亮さん & 若葉竜也さん【映画、ときどき私】 vol. 608映画監督という夢をデビュー目前で奪われた女性が、10年近く音信不通の家族とともに繰り広げる反撃の物語を描いた本作。主人公の兄で長男の誠一を池松さん、次男の雄二を若葉さんが演じています。今回は、初共演で感じたお互いへの思いや現場での忘れられない出来事、そして自身にイナズマが走った瞬間などについて語っていただきました。―まずは、おふたりが兄弟役として決まったときのお気持ちを教えてください。池松さんこの役が若葉くんに決まったと聞いてうれしかったんですが、実年齢は僕がひとつ下で、「初めましてで家族になれるかな?」といったことをいろいろと考えました。でも、人間的な要素を隠し持っているような役に見事な説得力を注ぎ込まれていて、この家族のバランスも含め、これ以上ないキャスティングだったと思っています。―これまで共演がなかったのが不思議なくらいですが、ようやく初共演ということで反響は大きかったのではないでしょうか。若葉さん今回は各所から「ついにこの2人の共演が見られる」と言われて、そんなに待望してくださっていたんだなと初めて感じました。僕の周りには池松くんのファンが多いというのもありますが、こんなにもみんなが騒いでくれるとは思っていなかったです。池松さんそういえば(仲野)太賀も「どうなるんでしょうね!」と言っていました(笑)。若葉くんとの兄弟は面白くなっている自信がある―完成した作品を観て、太賀さんからはどんな反応がありましたか?若葉さん「最高でした!」と笑っていたので、うまくいったのかなと思っています。池松さん(松岡茉優さん演じる)花子も含めて、とても面白い兄弟になっている自信があります。―実際、共演してみてお互いへの印象に変化はありましたか?池松さん初めての共演で兄弟役というのはあまりないご縁だと思っているので、ほかの共演者にはない、特別な感情を抱いています。作品にともに向き合い、折村家という物語をともに信じた“共犯者”として特別な思いがありますし、撮影期間中、素晴らしい俳優さんだなと改めて感じる日々でした。若葉さん以前から池松くんの作品はたくさん観ていましたし、もともと好きでしたけど、池松くんってちょっと鋭利なイメージがあったんです。なので、こんなに穏やかでチャーミングだとは思いませんでした。あとは、現場の音も人の話もよく聞いていて、すごく敏感な方です。池松くんの名シーンには、周りを気にせず笑ってしまった―本作では松岡茉優さん、窪田正孝さん、佐藤浩市さんを含む5人のシーンが多かったと思いますが、現場の様子はいかがでしたか?池松さんカメラが回っているときもいないときも、そう決めたわけではなく自然とみんなが同じ場所で同じ時間を過ごしていました。そうやって過ごしていることで互いの存在を認識していくようなプロセスがありました。まるで本当の家族のような真実味を生むということは簡単なことではありませんが、「この家族で行けるところまで行こう!」という心の団結ができていたと思います。この物語のなかで壊れていた家族がもう一度家族をやり直すように、さまざまな家族行事を一つ一つ撮影しながら家族のようなものになっていく感覚がありました。―そのなかでも撮影中の印象的なエピソードなどがあれば、お聞かせください。若葉さん僕は池松くんがちっちゃいマスクをつけているシーンですね。本当にいい顔してるんですよ(笑)。池松さんいやいや、若葉くんも同じマスクしてたでしょ!若葉さんでも、池松くんの場合は、マスクをつけていないときの顔が透けて見えるんです。あれは本当に名シーンですね。こういうことはほとんどないんですけど、試写を観たときに「周りを気にせずにここまで笑ったのは何年振りだろう」と思ったほど笑いました。池松さん石井さんのうまいところですよね。ものすごいアクセルを踏んでおいて、そこから思いっきり急ハンドルで笑いに転調する。あのシーンは確か台本にはありませんでしたが、現場でやっぱり撮りたいとなって、急遽ゲラゲラ笑いながら撮影しました(笑)。いまの時代は誰もが演じながら生きている―ぜひ、みなさんにも注目していただきたいですね。劇中に「人はみな俳優でありつねに演じている」というようなセリフがありましたが、職業柄おふたりにも普段からそういう部分はあるのではないかなと。素の自分でいられるのはどんなときですか?若葉さん僕は、もはや本当の自分が何なのかわからなくなっているかもしれませんね(笑)。地元の友達といるときは限りなく素に近いですけど、そんなの1年に何時間あるんだろうというくらい。素に戻っているかどうかさえわからなくなっている瞬間は、たくさんある気がしています。池松さん確かに、難しいところですよね。“本当の自分”と言うけれど、結局は全部自分であるとも言えますから。ただ、いまの時代は個人と大多数の社会が密接に繋がっていて、生き延びていくためにあらゆる処世術が必要です。結果誰もがアイデンティティ難民に陥ってしまうようなところがあります。そもそも人は自分を演じ、役割を演じる生き物だと思いますが、それが過剰になっている、そうしなければ生きていけないような世の中になっていることの危機感は感じます。そういったあらゆる欺瞞と嘘にまみれてしまったものを、雷やカメラや、家族やマスクを使って、人間のありのままの姿を暴いてみるというのがこの映画の真の試みだと思っています。撮影中もイナズマが走るようにビリビリきていた―『愛にイナズマ』というタイトルのように、ご自身の人生においてイナズマが走った出来事があれば、教えてください。池松さん若葉くんはもちろん、浩市さん、松岡さん、窪田さんとこの作品で出会えたこと、それぞれの奮闘と勇姿に撮影中ビリビリきていました。若葉さんそれに比べて僕はバカみたいな話になっちゃうんですけど、ラーメンがすごく好きで、本当においしいラーメンを食べると、ほっぺがビリビリするんです。池松さんほっぺにイナズマだね(笑)。若葉さん最近もほっぺにイナズマが走る瞬間を蒲田で味わいました。好きなものに理由は付けないようにしている―また、本作を通して改めてご家族のことを考えたのではないかなと思うのですが、ご自身にとって家族の存在とは?池松さん今回のように疑似家族を作りあげるというのは、意識的にも無意識的にも自分の記憶や人生を持ち寄るような行為でもあるので、全然会えていない妹のことや、いつかいなくなってしまうであろう父親のことなど、考えていたと思います。本作では、花子がすべてを信じられなくなったときに、最後の頼みの綱としてダメな家族に会いに行き、自分を肯定してもらえる場所を取り戻すという構図ですが、仮に家族でなくてもそういったことがこれからの時代も当たり前の希望としてあってほしいなと思います。若葉さん僕は生まれ育った場所が大衆演劇だったので、本番が始まると父親は師匠になり、兄弟はライバルになるという環境でした。なので、たまに家族で外食に行くと照れくさくて…。そういう居心地の悪さみたいなものをケンカのシーンを撮影しているときに思い出しました。池松さん自分の家族が好きだということに理由があるかと言われると難しいですが、そういう理屈を超えたところに本来は生きる指針があるのかなとも思います。若葉さん僕も好きなものに理由があるほうが少ないかもしれません。たとえば、人に対して「こういう人だから好き」と理由を付けちゃうと、「もしその人がそうではなくなってしまったら…」と考えてしまうので。逆境だらけの主人公を見て奮い立ってほしい―では、おふたりにとって仕事のモチベーションとなっているものと言えば?若葉さん僕は、興味ですね。自分が興味のないことに時間をあまり割きたくないという気持ちは強いほうだと思います。池松さん若葉くんは興味のあることにしっかりと責任を取っているけど、それを保ち続けるというのは生きることと同じくらい難しいことですよね。僕のモチベーションは、月並みですが夢かなと思います。―最後に、ananweb読者に向けてメッセージをお願いします。池松さんこの映画が観てくれた方への大きなエールになったらうれしいです。主人公、花子の奮闘に奮い立ち、イナズマのような映画体験をしてもらえたら幸せです。明日への逆転ファミリーラブコメディ、愛と勇気と優しさについての映画です。同時代を共に生きる、逆境だらけの誰かの人生にイナズマが届くことを願っています。若葉さん僕もまさに池松くんと同じような気持ちでこの映画と向き合い、作っていきました。ぜひ、そういう思いを感じていただきたいです。インタビューを終えてみて…。今回が初共演だったとは思えないほど、同じような空気感を漂わせていた池松さんと若葉さん。お互いをリスペクトする気持ちがあるのはもちろん、家族として過ごした濃密な時間があったからこそ、おふたりの間には居心地の良さがあるようにも感じました。次はどのような役柄で再び共演を果たすのかが楽しみなところです。ラストに待ち受けているのは、痺れるほどの大きな愛!奪われたものを自らの手で取り返そうと立ち上がる主人公たちの姿にも、俳優陣が繰り広げる演技バトルにもイナズマが走る本作。理不尽な現実に直面し、誰もがマスクの下に本音を隠して生きてきた日々を経験したいまだから心に刺さる1本です。写真・園山友基(池松壮亮、若葉竜也)取材、文・志村昌美池松壮亮 ヘアメイク・FUJIU JIMI若葉竜也 ヘアメイク・FUJIU JIMIスタイリスト・Toshio Takeda (MILD)トップス(08sircus 08サーカス/08book 08ブック TEL:03-5329-0801)、パンツ(NEONSIGN ネオンサイン TEL:03-6447-0709)ストーリー長年の夢だった映画監督デビュー目前で、すべてを奪われた花子(松岡茉優)。イナズマが轟く中、反撃を誓った花子は、運命的に出会った恋人の正夫(窪田正孝)とともに、10年以上音信不通だった家族のもとを訪ねる。妻に愛想を尽かされた父・治(佐藤浩市)、口だけがうまい長男・誠一(池松壮亮)、真面目ゆえにストレスを溜め込む次男・雄二(若葉竜也)。そんなダメダメな家族が抱える“ある秘密”が明らかになった時、花子の反撃の物語は思いもよらない方向に進んでいく…。衝撃が走る予告編はこちら!作品情報『愛にイナズマ』10月27日(金)、全国公開配給:東京テアトル(C)2023「愛にイナズマ」製作委員会写真・園山友基(池松壮亮、若葉竜也)
2023年10月26日ドラマ『ジャックフロスト』で初のW主演を務めた俳優・鈴木康介さんの自身初となるカレンダー『鈴木康介 2024カレンダー』の発売が11月4日に決定し、表紙カットが解禁されました。端正なルックスが支持を集め、雑誌でのモデル起用も多い鈴木さん。そんな彼の魅力を余すことなく盛り込んだ今回のカレンダーは、「月と太陽」をテーマにナチュラルな表情で構成されています。貴重なアザーカットで制作されたオリジナルグッズは公式オンラインストアで期間限定販売中とのこと。さまざまな役柄で作品を盛り上げ、俳優としての活躍の場を広げている鈴木さんに来年も目が離せません。ぜひチェックしてみてはいかがでしょうか。■商品概要『鈴木康介 2024カレンダー』フォーマット:カレンダー発売日:2023年11月4日価格:3,300円(エボル)
2023年10月26日今年27年目となる長い芸歴を持ち、幼少期から映画やドラマ、舞台など数多くの話題作に出演してきた前田公輝さん。11月2日にPrime Videoでいよいよ世界独占配信される映画『ナックルガール』ではアクションシーンも盛りだくさんということで、本格的な肉体改造に初挑戦!「ちょうどこのananの撮影が『ナックルガール』のクランクアップ直後で、体を最も大きくしていた時期。例えばミュージカルに出演する時は、筋肉痛が出ると声の出が悪くなってしまうので、過度のトレーニングは控えて有酸素運動メインにするとか、役によってトレーニングの内容や体の大きさは意識してコントロールしています。理想は、ある程度の厚みを持たせた体。30代になると、特に胸筋をつけておかないとスーツを着た時の説得力が出ませんから」今回の撮影中、鏡を見た瞬間に噴き出しつつも「でも、悪くないな…(笑)」とまんざらでもない様子だったのが、素肌にレザーベルトをまとった衣装。前田さんの新たな顔を引き出したカット。「同じ事務所の鈴木亮平さんが演じた“変態仮面”に続く覚悟もしていましたが(笑)、着てみると思っていたよりパンクでカッコいいし、K‐POPのMVみたい。みなさんの見たいという欲求を可視化したり、自分に落とし込んで演じるのが役者の仕事でもあるので、この撮影でも、ある男の帰宅後の物語を想定して演じてみました。これまでサイコパスな人物やヒール役はたくさん演じてきましたが、見た目だけでは意外と本質はわかりにくいものなんですよね。だからこそ、作品として面白くなるとも思うし。日中はスーツ姿でも、家に帰ると隠していた姿を曝け出すような感覚は、一本の作品を撮っているかのようで、すごく楽しかったです」20代前半までは、オスカー像を待ち受け画面にしていた前田さん。「役者である以上、いつかアカデミー賞の授賞式が開かれるドルビー・シアターに行って賞を取ってやる!と今でも憧れを抱いています。でもプライベートで行きたいのは、フロリダにあるウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート。日本のディズニーリゾートもそうですが、アトラクション一つとっても史実に基づきこだわり抜いて作られていたりするので、知れば知るほど感動するし、のめり込んでしまいます。フロリダには敷地内に動物園があると聞き、ディズニー作品には動物をモチーフにしたものも多いので、新しい楽しみ方ができそう。以前、友達3人で東京ディズニーランドに行った時、僕の熱量が高すぎて引かれてしまったので、今度は同じディズニー好きと行きたいですね」旅のマイルールやこだわりは、おしゃれをすること。「旅行となると、汚れてもいい服や動きやすい服を選びがち。でも服でモチベーションを上げたいし、写真もたくさん残したいから、ハイブランドをさりげなく組み合わせながら一軍の服で行きたい。普段僕は、マネージャーさんにも驚かれるほどバッグや荷物を持ち歩かないのですが、旅先でも手ぶらが理想。携帯と財布、カチューシャにもできるサングラスだけをポケットに入れて、フットワーク軽く旅を満喫したいです」まえだ・ごうき1991年4月3日生まれ、神奈川県出身。ドラマ『大奥 Season2』(NHK総合)に出演中。日韓共同制作のクライム・アクションエンターテインメント映画『ナックルガール』はPrime Videoで11/2より世界独占配信。ジャケット¥67,100シャツ¥25,300パンツ¥30,800ネクタイ¥6,600(以上ラッド ミュージシャン/ラッド ミュージシャン 原宿 TEL:03・3470・6760)※『anan』2023年10月25日号より。写真・樽木優美子(TRON)スタイリスト・藤長祥平ヘア&メイク・松橋亜紀取材、文・若山あや(by anan編集部)
2023年10月25日これまでに数多くのベストセラー小説を生み出してきた人気作家の湊かなえさんが、2019年に作家生活10周年の節目として書き下ろしたミステリー長編「落日」。湊さんの”令和最高傑作”とも名高い本作の映像化は、北川景子さんや竹内涼真さんをはじめとする豪華キャスト陣の熱量高い演技に“心震える究極の一作”と話題で、現在WOWOWオンデマンドで全話配信中です。そこで、物語のカギを握る重要な役どころを演じたこちらの方にお話をうかがってきました。竹内涼真さん【映画、ときどき私】 vol. 607新進気鋭の映画監督と新人脚本家が15年前に小さな町で起きた一家殺害事件の真相に迫っていく本作で、事件の犯人である立石力輝斗を演じている竹内さん。30歳を迎えて最初の作品で、自身初となる死刑囚役に挑んでいます。今回は、役作りで意識したことや共演者との忘れられない瞬間、そして人生のヒントを見つける方法などについて語っていただきました。―以前からこういった役を演じてみたいと思われていたそうですが、お話があったときはどのようなお気持ちでしたか?竹内さん配役というのは年齢や見た目によって決まってくるところもあると思いますが、実は昔からこういう役にも挑戦したいと思っていました。でも、僕にそういうイメージがなかったのか、挑戦する機会がなかったんですよ。そんななかで、30歳というタイミングでこういった薄暗い陰のある役に巡り合えて、自分に任せていただけるんだということが純粋にうれしかったです。―ご自身でこういう役ができると感じていらっしゃったのはなぜですか?竹内さん誰にでも陰と陽の部分があると思いますが、そういう意味で感覚的にできるんじゃないかなというのがありました。それに、人が隠したいと思うところを表現するのが俳優の仕事だと思うので。あとは、自分のなかでもいまだったら陰の部分を出せるタイミングだったのかもしれないです。妹がいなければ、違う力輝斗になっていたかもしれない―今回は非常に難しい役どころだったと思いますが、どのような準備をして挑まれたのでしょうか。竹内さんまずは、台本をすごく読み込みました。この作品において、ミステリーの肝となるのは、彼がなぜ死刑を選んだのかということ。ただの殺人鬼ではないので、そのあたりは自分のなかで筋を通しておきたいと考えました。あとは、服装や髪型だけでなく、佇まいにいたるまでいろんなアイデアを出し合いながら作り上げました。―確執のある劇中の兄妹とは違って、実際の竹内さんは妹さんと仲が良いイメージですが、同じ兄としての立場や感情が生かされたところもあったのではないかなと。竹内さん確かに、自分にも妹がいることがどこかでリンクしていた部分はあったかもしれません。でも、意識的にしていたことではないので自分ではわからないですが、もし僕に妹がいなかったら違う力輝斗になっていた可能性はあると思います。北川さんとは、本気で心のぶつかり合いができた―事件の真相を追う映画監督役を演じられた北川景子さんとのクライマックスシーンは、本作において非常に大きな見どころでしたが、現場の様子について教えてください。竹内さん実は、北川さんとはそのシーンを撮るときに初めてお会いしました。でも、お互いに本気で心のぶつかり合いができたので楽しかったですし、感慨深かったです。短い時間ではありましたが、しっかりとコミュニケーションができましたし、全力を出せたと思います。―相手が北川さんだからこそ刺激を受けたり、引き出されたりした部分もあったのかもしれませんね。竹内さん北川さんはとても気さくで、自分のパーソナルスペースをオープンにしてくださる方なので、会った人はみんな好きになりますよ。相手を緊張させずに、フレンドリーに入り込んできてくださるので、そういうのって大事だなと。だからこそ、長年いろんな作品に出られたり、たくさん主演を務めたりされているんだろうなと改めて感じました。あと印象に残っているのは、北川さんの肌がキレイすぎてびっくりしたこと。ピカピカに光っていたので、「すっごいキレイだな」と思いながら見ていました(笑)。大事なのは、つねにアンテナを敏感に張っておくこと―確かに、画面越しでもその美しさは伝わってきました。今回ご一緒された内田英治監督とは3年振りとなりますが、監督は竹内さんの成長ぶりに驚いたとか。30歳になったこともあるかもしれませんが、ご自身で振り返ってみても変化を感じる部分はありますか?竹内さんいろんなことに対する考え方は、だいぶ変わりましたね。といっても、別に30歳になったからというわけではなく、自分としては自然と変わっていくタイミングに従っているだけという感覚です。でも、20代のときに比べたら生活も、食事も、朝起きる時間も、物事への取り組み方もまったく違いますね。すべてにおいて、意識する次元が変わったんだと思います。―年齢や経験を重ねていくなかでご自分なりに変わっていったのか、それとも周りからの影響ですか?竹内さん自分で気づくこともあるし、相談した人からの言葉に救われることもあるので、両方ですね。人生のヒントはいつどこにあるかわからないので、つねにアンテナを敏感に張っておくのは大事だなと感じています。すべて自分の捉え方次第ですからね。あとは、一生懸命だけでなく真面目にやっていかないと成功しないと思うので、求める真面目さのレベルも変わってきました。かっこつけているわけじゃないんですけど、「周りを変えたかったら自分が変わるしかない」と考えています。というのも、僕は周りが自分の鏡だと思って生きているので、物事がうまくいかないときは、自分に問題があるんだなと思うほうです。そこはつねに意識しているかもしれないですね。ネガティブでいる時間はもったいない―過去には自分のネガティブ思考がうまくいかない原因だと考えて、意識的にポジティブになる癖をつけてご自身を変えたこともあったとか。竹内さん変わるまでに1年くらいかかりましたが、そうしないと人生がいい方向にいかないことに気がついたんです。時間を大切にしようと思ったら、ネガティブになってモジモジしている時間はもったいない。自分が幸せになれる物事の捉え方をしていかないと、自分が行きたい方向に最短距離では行けませんから。そのためには、普段からだらけていてはダメなので、ポジティブな思考にするためにも自分をいい状態にすることが大事だと考えるようになりました。そこから起きる時間や生活も変わっていったんだと思います。―そんななかで、竹内さんを癒してくれる時間といえば?竹内さんそれは親友と夜中までいろんな話をしたり、家族や友達とおいしい物を食べたりしているときです。ほかにいろんな趣味もありますが、コーヒーにこだわったりと、好きなことはとことん追求するタイプですね。オフのときはそういうところに時間を使ってバランスを取るようにしています。自分で自分の可能性を決めつけてはいけない―いま思い描いている今後の夢についても、お聞かせください。竹内さん目標というのは、大きいのも小さいのもどちらも大事ですが、つねに自分の心とカラダと相談しながら、上に向かって設定しています。最近は配信によって世界各国で視聴できる時代なので、世界で戦える作品に参加していきたいというのが、いまは自分のモチベーションになっています。―以前からマーベル作品の大ファンであることも公言されているので、海外を目指す可能性もあるのではないでしょうか。竹内さん海外に行ってみたいというよりも、自分が好きな作品を作っている人たちと仕事をしてみたいとか、日本とは規模が違う現場で世界を見てみたいという気持ちはあります。もちろん、日本にも良さはありますが、それだけでなく各国のいいものをたくさん自分のなかに取り入れていきたいです。―それでは最後に、ananweb読者にメッセージをお願いします。竹内さんまず大事なのは、自分の可能性を自分で決めつけないこと。僕もまだ30代なので偉そうなことは言えませんが、“成功のヒント”みたいなものは意外と身の周りに転がっていて、それをキャッチできる状態かどうかが大切な気がしています。いまは何でもすぐ調べられる便利な時代でもあるので、なりたい自分でいたいと思うことは、誰にでもできることだと思っています。インタビューを終えてみて…。本作では、いままでのイメージを打ち壊すような新たな一面を見せている竹内さん。映像からだけでなく、言葉や表情からもこれまで以上に高い意識で役と向き合っているのが伝わってきました。俳優としても、人としても魅力を増していく竹内さんがどのような30代を過ごされるのか楽しみなところです。魂の叫びに、胸が締めつけられる!事件の裏に隠された真相とそれぞれの思いが交錯し、観る者をどんどんと引き込んでいく衝撃のミステリー。心を揺さぶる真実が明かされたとき、そこに差し込む“希望の光”を誰もが感じずにはいられないはずです。取材、文・志村昌美スタイリスト・徳永貴士(SOT)ヘアメイク・佐藤友勝カメラマン・福岡諒祠(GEKKO)ストーリー初監督作品で国際的な評価を得た新進気鋭の映画監督・長谷部香(北川景子)。注目を集めるなか、新人脚本家の甲斐真尋(吉岡里帆)に映画の脚本の相談を持ちかける。物語の基となるのは、真尋の生まれ故郷でもある笹塚町で15年前に起きた“笹塚町一家殺害事件”。引きこもりの男性・立石力輝斗(竹内涼真)が高校生の妹・沙良(久保史緒里/乃木坂46)を自宅で刺殺後、放火して両親も死に至らしめた事件だった。真尋の師である人気脚本家の大畠凜子(黒木瞳)は、真尋の背中を押すいっぽうでこの事件に興味を示し始める。この事件を追うことは、香と真尋それぞれが抱える“ある過去”とも向き合わなければならないことを意味していた。事件を調べていくうちに、2人は衝撃の真実にたどり着くことに…。引き込まれる予告編はこちら!作品情報「連続ドラマW湊かなえ『落日』」WOWOWオンデマンドにて全4話配信中
2023年10月18日春画の奥深い魅力にとりつかれた男女をコミカルに描く映画『春画先生』。内野聖陽さんは“春画先生”こと変わり者の研究者・芳賀、柄本佑さんはその弟子の編集者・辻村を演じる。芳賀の手ほどきで春画を学ぶ弓子(北香那)が覚醒し、やがて3人の関係は奇妙な方向へ加速する。江戸時代の庶民の愉しみ、春画を巡る偏愛コメディ。――台本を読んで感じたことは?内野聖陽(以下、内野):奇妙な恋愛ドラマで、面白そうと思い読みましたが、まさかこんなにもほくそ笑んでしまうコメディになるとは予想していなかったです。柄本佑(以下、柄本):塩田(明彦)監督はコメディに振りたかったんでしょうね。辻村と弓子の濡れ場の衣装合わせで、当たり前のようにスマホを額につける実験をされて、なるほどと(笑)。内野:芳賀がひとり耽るシーンでも、弓子から着信があるとハートマークがぷるんぷるん飛び回る画面が用意されてた。結局、使わなかったんだけど、そこまで味付けしていいんだなと。辻村がはいてた青いTバックは?柄本:(笑)。あれは衣装合わせでは白と黒が用意されてたんですけど、その日晴れていたこともあって、空色を提案しました。辻村には生命力があって、春画先生へのリスペクトには歪んだものがまったくなく、むしろ爽やかだと感じたので。――演じながら大事にしたことは?内野:この映画は“芳賀一郎の大冒険”とでもいうのかな。弓子に本音を隠しながら進んでいくんだけど、騙してはいない。芳賀が策士には見えないように気をつけましたね。そのための一つが、台詞の言い方です。監督からは「今回は台詞を歌い上げないで、ぶっきらぼうに」というお達しがありました。柄本:非常に強度のある本で、流れに乗ればいけると思ったので、役作りはしてないです。本を読んで感じた辻村の印象として、シンプルに“元気よくハキハキ喋る”ということくらいでした。内野:佑は“役作り”という言葉とは、縁遠そうだよな(笑)。柄本:内野さんとは10代の頃から何度もご一緒させてもらってますけど、僕とまったく違い、予断なく役と徹底して向き合い、役を知っていく。その姿は、毎回新鮮です。内野:呆れてるんだろう?(笑)柄本:勉強させていただいてます!内野:役へのアプローチは役者ごとに違うからね。佑は、ストーリーの中で、どうしたらそのキャラクターが面白く存在できるのか考えていて、その捉え方が天才的。偉そうだけど、会うたびに進化している。柄本:内野さんには、少なからず成長した姿をお見せしなければというプレッシャーが、常にありますよ。――弓子役の北香那さんの演技はいかがでしたか。内野:全身全霊、体当たりでやっていらっしゃいました。たくさんのインスピレーションを与えてくれる素敵な共演者でしたね。弓子のあの怒った顔に、春画先生はまいっちゃったんだろうな。柄本:あの表情はすごく魅力的でしたよね。真っすぐ放たれた感情と、北さんのルックスとのギャップが色っぽかったです。――春画に馴染みのない人に向けて、言葉をいただけますか。内野:今回、コレクターの方に本物を見せていただいたり、何百という春画を見ましたが、髪の毛一本一本の繊細さ、着物のたおやかさ…それはもう見事なんです。春画に描かれた男女の睦み合いは、どこかいかがわしいものというイメージから、生きとし生けるものへの肯定なのだと僕自身が変わりました。なので、まずは入り口に立ってほしいです。面白い世界だから、こっちにおいで~。柄本:ぜひ、覗きに来てください。内野:覗いたら、あとは野となれ山となれです(笑)。『春画先生』原作、脚本、監督は、ロングランヒット作『黄泉がえり』や先鋭的な作品で知られる塩田明彦。安達祐実が芳賀の亡き妻の姉を演じる。全国公開される商業映画として、無修正で浮世絵春画が描写されるのは邦画史上初。10月13日全国公開。©2023「春画先生」製作委員会うちの・せいよう(写真右)1968年9月16日生まれ、神奈川県出身。’96年、連続テレビ小説『ふたりっ子』で脚光を浴びる。2007年、大河ドラマ『風林火山』に主演。’21年、紫綬褒章を受章。現在、W主演ドラマ『きのう何食べた? season2』(テレビ東京系)が放送中。えもと・たすく(写真左)1986年12月16日生まれ、東京都出身。2003年、映画『美しい夏キリシマ』で主演デビュー。近年の出演作に、ドラマ『初恋の悪魔』(日本テレビ系)、映画『シン・仮面ライダー』など。来年1月から始まる大河ドラマ『光る君へ』に、藤原道長役で出演。※『anan』2023年10月18日号より。写真・神藤 剛スタイリスト・中川原 寛(CaNN/内野さん)坂上真一(白山事務所/柄本さん)ヘア&メイク・佐藤裕子(スタジオAD/内野さん)AMANO(柄本さん)インタビュー、文・小泉咲子(by anan編集部)
2023年10月16日国内外で「まるで一本の映画のようだ」と高い評価を受けている豊田徹也さんの漫画『アンダーカレント』。その実写映画化で、主演を務めるのは真木よう子さん。どのシーンも、心の奥底にある苦しみを忘れずに演じました。「お話をいただく前に、私も“映画になるな”と感じながら原作を読んでいました。日常を描いたヒューマンドラマなので、奇抜な設定や展開がいらないですし、無理なく映画にできそうだなと。好きな漫画の映画化、しかも主人公ということで、断る理由がなかったです」真木さんが演じるかなえは、夫が失踪した後、なんとか家業の銭湯を再開させるが、ある想いをずっと秘めながら日常を送る。「かなえちゃんは、はたから見れば普通の生活に戻れたように思えるけど、苦しみを忘れていないし、そこから逃げてもいません。ずっと“アンダーカレント=心の奥底”に苦しみを抱えながら生きているということを大事に、どのシーンでも忘れてはいけないと思いながら演じました。私も、かなえちゃんが受けた衝撃ほどではないけど、ずっとここ(と胸に手を当てる)に残っている出来事があるんですよね。だから、かなえちゃんにも寄り添えるんです」かなえへの想いが溢れ、今泉力哉監督と意見がぶつかったことも。「一番かなえちゃんのことを知っているのは私という自負があったので、かなえちゃんの感情について今泉さんの解釈を聞き、“かなえちゃんのことをわかってもらえてない”と感じたシーンがあったんです。『それじゃ、この子がかわいそうじゃないですか』と訴えましたが、険悪になったということではないんです。双方『わかりました、ごめんなさい』という感じで、その場で終わったので安心を。私、切り替えが早いんですよ。この作品も撮影が終わったら役を引きずることなく『ウェ~イ!!お疲れさまでした~』って踊りながら帰ってましたから(笑)」失踪した夫・悟を演じるのは永山瑛太さん、銭湯に住み込みで働く男を演じた井浦新さん、探偵を紹介した友人役の江口のりこさんなど、芸達者が勢ぞろい。その中でも、現場でインパクトを残したのは…。「リリー(・フランキー)さんでしょう!全部持っていかれましたけどいいやと思って。あんな化け物みたいな人が来ちゃったら諦めるしかないです(笑)」チャレンジングだった撮影として選ぶのは、かなえが服を着たまま、水に飛び込むシーン。「映画全体にとって大切なシーンだとわかっていたので、いつも以上に頑張ったんでしょうね。鼻に何も詰めず背面から入って、浮かんで沈んでとやっていたら、3日間、塩素で鼻がやられ、匂いも味もしなくなってしまいました(笑)。この作品は水もそうなんですけど、静かな低いトーンの声だったり、銭湯のお湯だったり、音がすごくいいんです。スマホやテレビよりも、映画館で観たほうが鮮明に響いてくると思います。『アンダーカレント』を映画館で観たって言えば、“わかってる人感”が出て、きっとモテますよ(笑)」『アンダーカレント』かなえは夫の悟と銭湯を共同経営していたが、悟が突然、失踪を遂げる。うさんくさい探偵を雇い悟を探すが、知らなかった事実が次々と明らかに。音楽は細野晴臣。第42回バンクーバー国際映画祭出品作。10月6日全国公開。©豊田徹也/講談社©2023「アンダーカレント」製作委員会まき・ようこ1982年10月15日生まれ、千葉県出身。2014年の第37回アカデミー賞では、映画『さよなら渓谷』で最優秀主演女優賞、『そして父になる』で最優秀助演女優賞をW受賞。出演映画『大いなる不在』は来年公開。ブラウス¥61,600スカート¥124,300(共にTory Burch/トリー バーチ ジャパン TEL:0120・705・710)アクセサリーは本人私物※『anan』2023年10月11日号より。写真・内山めぐみスタイリスト・藤井希恵(THYMON Inc.)ヘア&メイク・Miyuki Ishikawa(B.I.G.S.)インタビュー、文・小泉咲子(by anan編集部)
2023年10月10日歌舞伎を観るならまずはコレ。尾上右近さんおすすめの古典歌舞伎10演目をご紹介します。【連獅子(れんじし)】歌舞伎といえば毛振り!勇壮な姿に釘付け。文殊菩薩の霊山。獅子頭を手にした狂言師の右近と左近が現れ、親獅子が我が子を谷底に突き落として這い上がってきた子だけを育てるという、獅子の子落とし伝説を厳かに舞い始める。舞い終えたふたりが胡蝶に誘われ場を去ると、現れたのは法華宗の僧と浄土宗の僧。旅の道連れとなるが、互いの宗派を知った途端、言い争いに。そのとき一陣の風が吹き、親子の獅子の精が現れる。毛振りを見ると清々しい気持ちになります。歌舞伎のジャンルのひとつとして、踊りで物語を表現してゆくのが舞踊。「基本的に舞踊は、始まって終わるまでに物語が完結するうえ音楽劇的な要素もあり、誰にでも観やすいジャンルだと思います。その中でも『連獅子』は、多くの人が歌舞伎と聞いてイメージする“毛振り”があり、華やかさや迫力も含め、観て面白い演目だと思います。獅子はもともと能に端を発していますが、それが毛を振るというのは歌舞伎にしかない演出。あの毛を振る間の歌舞伎俳優の心境というのは、ど派手なパフォーマンスを見せてやろうというのではなく、心静かに経を唱えているような感覚。僕は、あれこそ歌舞伎の自己犠牲の美学が一番凝縮した姿だと感じます。そこに子に試練を与える親獅子の厳しさが重なりますし、親獅子に食らいついていく子獅子の姿には、生や芸を受け継ぐことの重みを感じる。でも、そこに不思議な命の高揚感があり、だからこそご覧になる方々は清々しい気持ちになるのではと思っています。また同じ『連獅子』でも演じる方によって全然違うので、見比べるのも面白いと思います」(尾上右近さん)【春興鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)】踊るうち徐々に興に乗ってゆく娘の変化に注目。江戸城の大広間。正月の祝いの余興にと奥づとめの弥生が殿様に舞を所望された。最初は恥ずかしがって逃げるが、お局らに引き戻されてしまう。ようやく観念すると、さまざまな舞を次々と披露する。徐々に舞が興に乗るなか、弥生が手にしたのは獅子頭。いつしか獅子頭が弥生を翻弄し始め、姿を消した彼女に代わり、獅子の精が姿を現す。僕にとって絶対外せない特別な演目です!右近さんが幼いときに観て、歌舞伎に魅了されるきっかけとなったのがこの演目。「これがあるから自分は歌舞伎をやっていると言っても過言ではないので、これを挙げないと自分としては納得できない」と言うほど特別なもの。「弥生は、最初はお殿様に所望されて仕方なく踊り始めますが、殿様に見られているという高揚感も手伝って、徐々に興に乗って踊りに気持ちが集中していきます。この弥生の見られている高揚感と緊張というのは、演じている役者の心境とぴったりリンクしますし、ひとりで30分の大曲を踊り切るわけで、役者にとって孤独な闘いでもあり、それだけ覚悟のいる演目でもあります。歌舞伎の舞踊の中ではストーリー性が薄いこともありエンターテインメント性より芸術性が強いかもしれませんが、歌舞伎の芸術としての側面を味わうには最適なはず。初めてご覧になるなら、ぜひ僕が挑戦するときに観てほしいです。絶対後悔させませんので」【京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)】美しい女性が釣り鐘を前に大蛇に豹変。恋に狂った清姫が大蛇となり僧を鐘ごと焼き殺した伝説が残る道成寺で、鐘供養が行われることに。そこに鐘を供養させてほしいと訪ねてきたのは美しい白拍子(男装の舞妓)。女人禁制ながら、修行僧たちは舞の披露を条件に寺へ招き入れる。さまざまな舞を披露するが、次第に白拍子の様子が変わり鐘に登ったかと思うと蛇の正体を見せるのだった。細部にまで日本の美が詰まっている総合芸術です。「1時間近くをひとりで踊り通すわけで、役者にとっては『鏡獅子』同様、心境的には自分との闘いのような演目ではあるんです。ただ、華やかで美しい衣装に鬘があって、大道具があって、役者がいて、音楽があって、小道具もすべてキラキラしていて、細部まですべてに日本の美が詰まっていて、それらが互いに引き立て合って、観る者を作品の世界に引き込んでくれる。役者ひとりの力で魅せる芸術ではなく、歌舞伎が総合芸術であることを実感してもらえる演目だと思います」赤の振り袖に烏帽子をかぶっての、能を取り入れた静かで厳かな舞から始まり、引き抜きという手法で一瞬にして浅葱色の衣装に替わったり、小道具も次々と持ち替えて、さまざまな踊りを見せていく。「視覚的にも聴覚的にも起伏がたくさんあって、観る人を飽きさせないようにと考えて作られていますし、この作品の時代背景や設定などを知らなくても楽しめる演目だと思います」【弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ) 白浪五人男(しらなみごにんおとこ)】美しい娘だと油断するなかれ。その正体に驚き。呉服問屋・浜松屋を、従者を連れた美しい娘が訪れる。品物を選ぶ最中に娘が万引。それを番頭が見咎めるが、その品は他で買ったものと判明。無実の罪を着せられたと従者の男が店に法外な金を要求。仕方なく金を渡すが、じつは娘は男で、すべてがゆすりの芝居だった。娘は開き直ると着物を脱ぎ刺青を見せ、盗賊の弁天小僧菊之助と名乗るのだった。女形の楽屋裏での姿を想像してもらえれば(笑)。「ヤンチャ小僧って、周りは手を焼きながらも、かわいいなって思ったりしますよね。弁天小僧は、まさにそのかわいさとかっこよさが共存した存在。しかも女性の格好をしているときは本当に綺麗だから、その後の展開を知らずに観た人は、男がやっているのに女形って本当に綺麗だなと感じると思うんです。それが後で服を脱ぎだし裸になっちゃうのだから、驚きますよね(笑)。弁天小僧が男に戻る場面は、女形の役者が楽屋に戻った状態と同じなわけで、女形の裏で見せる素の顔というかバックステージを見ているような感覚も楽しんでいただけるはず。男が女性を演じる女形という存在をうまく利用した話だと思います」正体がバレた弁天小僧菊之助が、開き直って自分の素性を明かす場面での「知らざぁ言って聞かせやしょう」は、歌舞伎屈指の名ゼリフ。「難しい知識は必要なく、これが名ゼリフといわれているんだ、と思って楽しんでいただければと思います」【夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)】蒸し暑い夏の夜、はずみで起きた哀しい惨劇。武士の玉島兵太夫に大恩のある魚売りの団七は、兵太夫の息子・磯之丞の恋人で遊女の琴浦が男たちに絡まれているのを助ける。老侠客の三婦の家に匿われた琴浦だったが、団七の使いを騙る団七の義父・義平次が彼女を連れ去ってしまう。それを知り義平次を追いかけ琴浦を取り返した団七だったが、揉み合ううちに義平次を斬ってしまう。芝居の随所から夏の暑さを感じる作品です。劇中の主人公・団七のセリフに、「悪い人でも舅は親」というものがあるが、どんなにはずみで犯した過失であっても親殺しは世の大罪。「あってはいけないことではあるけれど、団七の、一度走り出したら止まれない男の性みたいな部分は多くの方に共感していただけるのではないかと思います。義理と忠義を立てようと奔走する団七を邪魔する舅がいなくなり、ほっとする気持ちと同時に、本人が望まない結果となった団七をかわいそうにも思う。いろんな感情が湧き上がる作品です。団七は多少無理でも男を立てることを優先しようとするけれど、義父の義平次は、泥水をすすってでも必死に生きるのが男だという、ふたりの価値観の違いも面白いですよね。また、夏の暑さだとか、遠くから聞こえてくる祭り囃子だとか、季節を感じる描写が芝居の随所にあり、湿度と汗でベタベタするような夏の夜の空気感を体感してもらえるところも面白い作品だと思います」【東海道四谷怪談(とうかいどうよつやかいだん)】みるみるうちに面相が醜く変わり恐ろしい姿に。色男の民谷伊右衛門は、産後の肥立ちが悪く、ことあるごとに主君の仇討ちを迫る妻の岩を疎ましく感じていた。その矢先、隣家の金持ちの伊藤家から孫娘との縁談を持ちかけられ、承諾した伊右衛門の元に伊藤家から毒薬が届く。血の巡りの薬と騙され飲んだ岩の顔はたちまち醜く変わり、非業の死を遂げる。その後、伊右衛門は岩の亡霊に悩まされ…。江戸時代生まれのホラーは怖いけどすごく哀れ。「江戸時代にもホラーというジャンルは存在して、当時から少しでも涼しく感じたいということで、夏に上演され喜ばれてきたジャンル。ゾクッとする怖さを楽しむ人がいるのは、今とまったく同じです。この物語の中心人物であるお岩様は、信じていた夫に騙されて殺されて、本当にかわいそうな女性です。夫の伊右衛門に薬と偽られ毒薬を飲んでしまい、髪をすく間にどんどん髪が抜けていく描写などは、怖いけどすごく哀れ。そのぶん恨みも深いのか、お化けになって登場するお岩様は本当に怖いので、ホラー好きな人なら喜んでいただけるのではないでしょうか」また、伊右衛門はお岩を死に至らせたばかりでなく、内職の手伝いに雇った小仏小平も殺害。そのふたりの幽霊が同時に現れる場面では、一人の役者が二役を一瞬で演じ分ける早替わりの演出も。「舞台の上に幽霊を登場させる演出の面白さもあれば、仇討ちのエピソードなどもあり、見どころの多い作品です」【め組の喧嘩(めぐみのけんか)】火消しと力士の意地の張り合い。喧嘩は迫力満点!品川宿、隣り合わせた座敷で飲んでいた力士たちと鳶の面々が、ひょんなことから小競り合いに。そこに割って入ったのは町火消しの「め組」の鳶頭・辰五郎。場は収まるが、鳶は武士に召し抱えられた力士より格下だと言い放たれる。面子を汚された辰五郎は仕返しを決意。妻と子に別れを告げ、彼を慕う鳶たちを率い、真剣勝負の場に乗り込んでいく。江戸の華といわれる“喧嘩”を堪能できます。「火消しと力士それぞれが自分たちの主張を曲げず、意地の張り合いから、それぞれのプライドをかけての命懸けの喧嘩に発展していきます。火事と喧嘩は江戸の華といいますが、それを嫌というほど堪能できる演目。これぞまさに“江戸っ子”というものが随所に描かれているので、そこを楽しんでもらえると思います」描かれるのは、ひたすら喧嘩の場面だが、「大人が本気で喧嘩している姿って、はたから見ていると面白いんですよね」とも。「力士たちへの意趣返しをしようと決意した鳶たちが勢揃いする場面がありますが、その迫力は本当に圧巻のひと言。鳶頭の辰五郎を筆頭に、手桶の柄杓でおのおの水盃をして威勢よく駆け出していく姿は無条件にかっこよく、観ていて気分が高揚すること間違いなし。出てきすぎじゃないの?と思うくらいたくさんの鳶がそこに登場するのも面白く、お祭り騒ぎ感も満載。わかりやすく見応えのある作品です」【義経千本桜(よしつねせんぼんざくら) 川連法眼館(かわつらほうげんやかた)】親への恋しさゆえ武将に化けた子狐の情愛に涙。兄・源頼朝に謀反を疑われた源義経は川連法眼の屋敷に匿われていた。そこに家来・佐藤忠信が訪ねてくるが、そのすぐ後、静御前を伴い忠信が来たとの知らせが入る。義経の命により忠信の真偽を確かめようとした静の前に正体を現したのは狐。鼓にされた父狐と母狐への恋しさゆえ、鼓を持つ静の供をしていたという。憐れんだ義経は狐に鼓を与える。あっと驚くようなアクロバット的演出も。『義経千本桜』は、兄・源頼朝から謀反を疑われ追われる身となった源義経の物語を背景に、戦によって思わぬ境遇となった人々を主人公にした、複数の物語で構成される壮大な作品。「タイトルロールでありながら、どのお話も主人公は義経ではなくその周りに生きる人々。なかでもこの場面は、狐が主人公で、その狐が人間の姿に化けて言葉をしゃべるというところが面白いです。しかも描かれているのは狐ではあれど親子愛で、どの時代もどの人にも伝わるテーマ。また義太夫という、ナレーションを兼ねた音楽に乗った音楽劇的な要素もあれば、“ケレン”と呼ばれるあっと驚くようなアクロバット的な演出もあり、見どころが多い演目。物語のラストは、狐の視点で大団円を迎えるので観ていて爽快感がありますしね。また、物語の時代背景や前後のエピソードを知らずとも、このお話単体で楽しめるので、初めて歌舞伎をご覧になる方にはぴったりだと思います」【俊寛(しゅんかん)】孤島に残された俊寛の深い悲しみが胸に迫る。平清盛打倒の謀略で孤島に流された俊寛僧都、藤原成経、平康頼。侘しい島暮らしの中、成経は海女・千鳥を妻に迎えた。そんなおり島に赦免船が。喜ぶ彼らだったが、使者の瀬尾は千鳥の乗船を拒む。当惑する中、瀬尾から妻が清盛に殺されたと聞いた俊寛は絶望。瀬尾を討ち、その罪で島に残る代わりに千鳥を船に乗せるよう懇願。俊寛は、ひとり島から涙で船を見送る。徐々に遠ざかっていく船を見送る俊寛に注目です。「舞台の真ん中に大きな岩があって、浜辺があって、海が見えて、そこに突然大きな船がやってくる…。あえてリアルを追求せず、デフォルメされた大胆な構図のセットで歌舞伎をやるということに、驚く人もいるのではないでしょうか。終盤、どんどん潮が満ちていく中、ひとり岩の上に取り残された俊寛が、仲間が乗る船を見送るシーンがあります。このとき船は舞台上に出すことなく、俊寛を演じる役者の目線を通して、徐々に遠ざかっていく船の姿を想像させる演出になっています。セットと役者、そしてそれを観る観客の想像力を借りることで、孤島にひとり残された老人がこれから直面する現実の悲しさを強烈に印象づける、極めて演劇的な作品だと思います」それゆえ、俊寛を演じる俳優によって、作品の印象がガラッと変わってくるのも面白いところ。「この作品に限ったことではないですが、さまざまな俳優で比べて観られるのも歌舞伎の面白さです」【実盛物語(さねもりものがたり)】どんでん返しに次ぐどんでん返しで飽きさせない。平家全盛の世。平家の武将・実盛と瀬尾は源氏方の木曽義賢の妻が産む子の詮議に訪れる。そこに運ばれてきたのは源氏のシンボル・白旗を握る女の片腕。それは源氏方の娘・小万の腕で、元源氏方の実盛が平家に白旗が渡るのを恐れ切り落としたもの。小万の子・太郎吉が母に悪態をつく瀬尾に刃を向けると瀬尾は自らを討たせ、小万はかつて己が捨てた娘だと告白する。「そんなわけあるか!」と心の中でツッコんで(笑)。「物語の舞台が源平合戦の時代であったりするので、フォーマルな堅い演目のように感じるかもしれませんが、描かれているのは登場人物たちの心の話。ここに登場する武士たちは、みんなが庶民と何ら変わらないことを思っていて、我々と何ら変わらない行動を取るので、親近感を持ってカジュアルな気持ちで楽しんでいただける演目だと思います。また、切り落とした片腕を死体に繋いだら、死んだ人が息を吹き返すという馬鹿馬鹿しい展開もあるので、『そんなわけあるか!』と心の中でツッコみながら楽しんでいただければと思います(笑)。そしてもうひとつの見どころは、最後に出てくる馬。中に人が入っているんですが、結構大きく迫力があるので本物かと驚く方もいるはず。しかもちゃんと芝居をする馬で、尻尾を揺らしたりブルッと震えたりする仕草は結構リアル。その馬に実盛が乗りますが、高さも乗り心地もまるで本物みたいなので注目していただければ」おのえ・うこん1992年5月28日生まれ、東京都出身。清元節宗家の家に生まれながら、7歳から歌舞伎の舞台に立ち、名子役として評判に。2005年に二代目尾上右近を襲名。現在は、歌舞伎の舞台のほか、ドラマや映画、バラエティ、現代劇やミュージカルなど幅広く活躍。’15年からは自主公演『研の會』を主催し、数々の大役に挑戦。11月には歌舞伎座への出演も決まっている。※『anan』2023年10月4日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・三島和也(Tatanca)ヘア&メイク・西岡達也イラスト・momo構成、取材、文・望月リサ(by anan編集部)
2023年10月01日3歳のときに曽祖父で名優の六代目尾上菊五郎の踊る『春興鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)』を映像で観て歌舞伎の虜になり、歌舞伎俳優の道を歩み始めた尾上右近さん。その右近さんの考える歌舞伎の魅力とは、「なんでもない所作に拍手が起こる現象があるところ」。結局は、歌舞伎がすごいっていう結論になるんです「手ぬぐいをすっと取る動きだけで、深い感動を呼ぶっていうことが歌舞伎では本当にあるんです。それがなぜできるかといったら、“芸”があるからなんですね。先輩の中には何も動かずそこにいるだけで感動を呼ぶ方もいらっしゃいますけれど、基本的には芸で魅せるものだと思っています」その芸とは、何百年と続く歴史の中で“型”として構築されたもの。「新作歌舞伎と違い、古典は自分以外にも同じ役をやっている人がたくさんいます。もっと言えば、過去にその型を作った人がいて、それがいろんな人の手により継承されてきた歴史がある。だからどんなに僕が褒めていただいても自分の力だと思えなくて、結局、歌舞伎がすごいんだって結論になる。でもそれが古典の面白さだとも言えるんですよね」しかし古典も、昔の型をただ踏襲してきただけではない、とも。「六代目菊五郎の話ですが、かつては数百人の劇場でやっていたものが1000を超えるキャパに変わってきたとき、それまでの蛍を目で追う振りが後ろの観客には伝わらなくなったそう。どうしたらいいかを考えていたときに、目の不自由な人が、目の代わりに指先で見ると話していたのがヒントになって、蛍を指で追う振りを思いついたんだとか。そうやって時代を超えるために変わるものもあれば、変わってはいけないと意地になっている部分もあって、今の古典歌舞伎があるんですよね」その時代時代に歌舞伎役者がいて、彼らの肉体や精神を通して伝承してきたところに価値がある。「松本白鸚のお兄さんのところに教わりに伺ったとき、お兄さんが僕くらいの頃、年上の先輩に芸を教わりに行かれた思い出話をたくさんしてくださったんですよね。そのとき十七代目中村勘三郎さんの芸がいかにすごかったか話しながら当時を思い出して感動して泣かれるんです。僕はそのお兄さんの姿に感動でした。十七代目の芸を間近で見た感動を伝承する。これこそが継承で、その感動もひっくるめて古典になっていくんだなと思いました」歌舞伎1603年頃に京都・鴨川の四条河原で、出雲の阿国が始めたかぶき踊りが始まり。“かぶき”とは“傾(かぶ)く”が語源といわれ、風変わりな派手な服装で、これまでにない斬新な踊りを踊ったことから付いた名称といわれる。かぶき踊りは庶民の間で一世を風靡したが、風紀の乱れを助長するとして幕府より禁止令が下った。その後、男性による野郎歌舞伎が誕生。元禄時代、人気役者と実力派作家の台頭とともに娯楽として発展した。おのえ・うこん1992年5月28日生まれ、東京都出身。清元節宗家の家に生まれながら、7歳から歌舞伎の舞台に立ち、名子役として評判に。2005年に二代目尾上右近を襲名。現在は、歌舞伎の舞台のほか、ドラマや映画、バラエティ、現代劇やミュージカルなど幅広く活躍。’15年からは自主公演『研の會』を主催し、数々の大役に挑戦。11月には歌舞伎座への出演も決まっている。※『anan』2023年10月4日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・三島和也(Tatanca)ヘア&メイク・西岡達也構成、取材、文・望月リサ(by anan編集部)
2023年10月01日新作の制作が発表されるたびに、主演が誰なのか、大きな話題を集める朝ドラ。10月2日スタートの『ブギウギ』で、ヒロインを演じるのは趣里さん。「決まった時の反応は、『まさか、そんなはずはない』と、一回携帯を置きました(笑)。だんだんと実感が湧いてくると、嬉しさと同時に身が引き締まる思いでした。『朝ドラのヒロインは大変』と聞いてましたけど、実際その通りです(笑)。でも、各部署のスタッフのみなさんも大変なのに、『やってやろう!』という心意気がすごく伝わってきて。これは、朝ドラの現場が代々受け継いできた伝統だと思うんです。そうしたみんなの熱い想いで作られてきたからこそ、長く愛されてきたのかなって」ヒロイン・花田鈴子のモデルは、日本芸能史に燦然と輝く大スター・笠置(かさぎ)シヅ子さん。スタンドマイクの前に立ち、体を動かさずにバラードを歌うことが当たり前だった時代に、笠置さんは躍動的に踊りながら歌うスタイルで一世を風靡した。その人を演じるということは、芝居に加え、歌や踊りも避けられない。本格的にバレエを習っていた趣里さんに、ダンスの素地はあるけれど、歌は…?「素晴らしい歌手を演じさせていただくので『頑張らないと』というのは、最初から思っていました。ボイトレの先生とは二人三脚で、普段の呼吸法からレッスンしていただき、だんだんと歌うことが楽しくなってきたところです」“ブギの女王”と称され、ステージで太陽のように光り輝いていた笠置さん。しかし、革新的な衣装やメイク、パフォーマンスは、ついこの前まで敵国だったアメリカ的だと批判を浴びてしまう。「ちょうど、その頃のシーンを今撮影しているんですけど、『舞台メイクが派手だ』『外国人みたいだ』って、ものすごく言われるんです。そこで、だいたいの人は負けそうになっちゃいますよね。でも笠置さんは、自分のスタイルを貫き、歌うんです。懸命に届けた歌でお客さんに喜んでもらうことが、ご自身の喜びになっていたのだと思います。私のお芝居も、誰かのためになっていたらいいなって」鈴子はプライベートも、波瀾万丈な人生を送ることに。「本当に大変なことがたくさん起こるんです。それでも、乗り越えて乗り越えて、前を向き、明るく生きていく。そんな笠置さんを描く『ブギウギ』には、朝ドラヒロインらしさが詰まっています」笠置さんが世間からのバッシングや試練を乗り越えられた理由について、趣里さんは鈴子を演じながら感じることがあるそう。「きっと音楽という確かな軸があったから頑張れたんだと、撮影をしながら感じます。笠置さんにとってすべての原点が音楽。音楽を愛し、愛された人なんです」歴代の朝ドラで、趣里さんが惹かれたのは『おしん』だそう。「前のマネージャーさんがすごくハマっていて、私も再放送を見たら、おしんも本当につらいことの連続で…。『つらいねぇ』と言い合いながら見ていたんですが(笑)、おしんを演じた田中裕子さんの声はとても儚いのに、貧しいながらも生きるエネルギーみたいなものが感じられて、引き込まれました」60年以上も続く朝ドラ。新たに始まる『ブギウギ』でヒロインを演じる趣里さんが、愛してやまないタイムレスカルチャーとは?「ビートルズです。私は15歳でイギリスにバレエ留学をしたんですが、その少し前にイギリス人の先生が弾き語りしてくれた『Let It Be』にすごく感動して!イギリスには、iPodにビートルズの曲だけを入れて持っていき、癒されていました。今聴くと、あの頃の情景がぶわっと思い出されます。バンドをやっていた伯父もビートルズ好きで、いろいろ教えてもらったり、日本のアーティストでもバンドに興味を持つきっかけになったり、ビートルズは、私にとって音楽の原点です」朝ドラ昭和、平成、令和と時を超えて愛される日本の朝の定番。「連続テレビ小説(通称:朝ドラ)」の放送がNHKで始まったのは1961年。古くからそのほとんどが女性の一代記を描き、懸命に生きる姿は人々を元気づけ、昭和、平成、令和と時代を超え、“朝の定番”として、日本中から愛されてきた。旬のキャストや話題の脚本家などを積極的に起用し、放送開始から60年以上が経った今も多くの注目を集めている。近年は再放送や「NHKプラス」での見逃し配信など、“朝の時間”以外にも視聴する方法が増えたことで、若い世代を中心に、新たな視聴者層を獲得している。しゅり1990年9月21日生まれ、東京都出身。NHK連続テレビ小説は2016年の『とと姉ちゃん』に出演。’19年、映画『生きてるだけで、愛。』で第42回日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞。主演ドラマ『東京貧困女子。―貧困なんて他人事だと思ってた―』(WOWOWプライムほか)が11月17日スタート。シャツ¥69,300(3.1 フィリップ リム/3.1 フィリップ リム ジャパンcustomercare@31philliplimjapan.com)イヤリング¥2,468,400(ヴァン クリーフ&アーペル/ヴァン クリーフ&アーペル ル デスク TEL:0120・10・1906)その他はスタイリスト私物連続テレビ小説『ブギウギ』歌や踊りが大好きだった鈴子(趣里)が、やがて戦後日本を明るく照らすスターとなる。趣里さんが主題歌「ハッピーブギ」を歌うことも話題に。10月2日より毎週月~土曜8:00からNHK総合にて、BSプレミアムとBS4Kは毎週月~金曜7:30から放送。その他、再放送あり。©NHK※『anan』2023年10月4日号より。写真・川原崎宣喜スタイリスト・中井綾子ヘア&メイク・伴まどか取材、文・小泉咲子(by anan編集部)
2023年09月30日