26年前に松尾スズキさんが書き下ろし、18年前に再演。演劇ファンの間で名作と語り継がれる『ドライブインカリフォルニア』が再再演を果たす。田舎のドライブインを舞台に、事情を抱えた人々のややこしい思いが錯綜する物語で、阿部サダヲさんは店長のアキオを演じる。人の業が渦巻く話題の舞台が18年ぶりに再再演。ホームの大人計画で、新境地を切り開く?「初演の頃は僕も大人計画に入って3年目くらい。松尾さんの作品のなかでも大人っぽい印象でした。徳井(優)さんや小日向(文世)さんが演じた役をやるような年になったんだなあって思いでいます(笑)」一人何役も演じ、スピーディに展開していた初期の大人計画。一幕もので、じっくりと俳優の演技を見せる本作は異色だった。テンション炸裂、パンチのある役を多く演じてきた阿部さんにとって、今回の抑制のきいたアキオ役は意外だったそうだ。「あまりやったことのない役なので、面白そうだなと思います。大人計画を初めて観る人には入りやすいお話だし、ずっと観てきた人にとっては新鮮な感じがするんじゃないかな」阿部さんは、これまでも『ふくすけ』や『マシーン日記』、最近では『THE BEE』(野田秀樹作・演出)など、高い評価を得た作品の再演で主役を担ってきた。しかも、初演の記憶を塗り替えてしまうほど、自分の役にしてしまうからすごい。「再演をやるプレッシャーは、昔はありました。他の人に当て書きされた役だし、初演の人がやればいいのに、と思うことも(笑)。でも、『ニンゲン御破算』の再演で、中村勘三郎(初演時勘九郎)さんの役をやることになった頃から、さすがにふっ切れましたね。芝居も人も全く違うし、別ものとしてやっていいんだと思えるようになりました」近年、映像では『MOTHER マザー』や『死刑にいたる病』など、シリアスな作品で非道な男を演じることも増えてきた。「どんな役もやりたいと思っています。『ハードな役は辛くなりませんか?』とよく聞かれますけど、全然そんなことない。撮影が終わればすぐ切り替わりますから。殺人犯の気持ちを家にまで持ち帰っていたら迷惑ですよね?(笑)」年々演技に深みが増しているが、あまり考えてやってはいないという。「自分が観て面白いと思えないと、お客さんにも面白がってもらえない。楽しまないとダメだなとは思います。でも、満足したり、達成感を得ることはないです。千秋楽でたくさん拍手をもらっても、もっとできる、もっとやりたいと思っちゃいます」芝居の「正解」を探すのではなく、無限の可能性を追い求めることを楽しんでいる。だから、阿部さんのお芝居は一瞬も目が離せなくなるのだ。日本総合悲劇協会 VOL.7『ドライブインカリフォルニア』竹が名産の田舎町でドライブインを営むアキオ(阿部サダヲ)。東京に出ていた妹のマリエ(麻生久美子)が14年ぶりに息子を連れて帰ってくる。次第にある事情が明らかに…。5月27日(金)~6月26日(日)下北沢・本多劇場作・演出/松尾スズキ出演/阿部サダヲ、麻生久美子、皆川猿時、猫背椿、小松和重、村杉蝉之介、田村たがめ、川上友里、河合優実、東野良平、谷原章介指定席7800円ほか大人計画 TEL:03・3327・4312(平日11:00~19:00)大阪公演あり。あべ・さだを1970年生まれ。’92年より「大人計画」に参加。映画『舞妓Haaaan!!!』で日本アカデミー賞優秀主演男優賞、舞台『THE BEE』にて第29回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。映画『死刑にいたる病』公開中。※『anan』2022年5月18日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・チヨ(コラソン)ヘア&メイク・中山知美インタビュー、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年05月15日大ヒットコミック『xxxHOLiC』が、蜷川実花監督の手により初の実写映画に。色鮮やかな作品世界とは一転、白の世界で、主演の神木隆之介さんと柴咲コウさんのお二人が今の思いを語ります。想像できない発想や、ものの見方が独自の世界に。――映画では、神木隆之介さんは四月一日君尋(わたぬききみひろ)を、柴咲コウさんは壱原侑子(いちはらゆうこ)を演じられましたが、それぞれ役作りをする上で大切にしたことを教えてください。神木隆之介:初めに台本を読んだ時に、四月一日にすごく暗いイメージを持ちました。原作だと意外とそうでもなくて、時にはツッコミ役なんかもするので、そこが原作と違うなって。ただ、あまりにも暗く、ボソボソ話すのもな…と思って、短く少ない言葉の中に色やバリエーションをつけたり、監督から「自由にやっていいよ」と言われたシーンでは、逆にちょっとはしゃいだりもしながら。柴咲コウ:侑子の場合は、メイクと衣装の力で勝手に役に入り込めました。衣装や髪飾りが重いので、あまり動けませんでしたが、あえて動かないのもポイントなのかな、って。人間は心臓が動いているので、普通体が揺れたりするものですが、微動だにしないことで人間っぽさをなくしたというか。またそれによって、感情にほだされず、自らの精神も揺らがない、ブレない侑子像を作れたと思います。――侑子が発する言葉には、時折、格言のような重みを感じました。柴咲:セリフでちょっと難しかったのは、説教っぽくならないようにすることで。人の気持ちを代弁したりもするので、押し付けがましくならないように、それでいて説得力が出るように、試行錯誤しながら言葉を発していました。――撮影中に、蜷川実花監督から指示されたことや、演出、手法などで特殊だったこと、印象的だったことを教えてください。神木:特殊だとは思わなかったのですが、光にすごくこだわっていた印象がありますね。ライトもそうだし、このタイミングでここがピカッと光るように、みたいな。あとはエスカレーターのシーンでは、上下しているはずなのに止まって見えるような画角とか、僕には想像できない考え方や、ものの見方をされる方だなぁと。柴咲:すごく感覚的な方ですよね。だからそういうものが、演出に出ているのかな。神木:そうだと思います。完成作を観たら、CG演出もすごくて。“アヤカシ”が出てくるシーンの撮影では、監督から「モヤモヤッとしたこんなのが、こうやって来るの。私もまだどうなるかわからないんだけどね」っていうようなざっくりした指示で(笑)。それが完成作では、すごく細かい動きをしていたのでびっくり。もうちょっと複雑なリアクションをしたほうがよかったのかな。柴咲:でも四月一日は、毎回アヤカシを見ているんですもんね。神木:慣れていますよね(笑)。柴咲:CGもすごかったけど、現場セットも細部まで美術が施されていて、隙がない感じ。蝶のモチーフや、アンティークもので埋め尽くされていて、圧巻でした。神木:僕、侑子さんの部屋の縁側に作られた藤棚のセットが、この世の景色か?と疑うぐらい美しくて、すごく印象に残っています。柴咲:私も。あとは、侑子が外を歩くシーンはすごく奇妙でした。歩くんだこの人、って(笑)。神木:確かに。それでいえば、僕も新宿の街や交差点を走り回ったこと。街ゆくいろんな人に見られて、ある意味印象的でしたね。――共演者との裏話があれば、ぜひ教えてください。神木:江の島で連日撮影をしていたある日、まっちゃん(松村北斗)と、今日帰らずに泊まっちゃう?って話になって。せっかくだから思い出残そうよ、って二人でスイートルームに泊まりました。翌日は、現場に入る前に江の島観光をしたり、みなさんにお土産を買ったりして(笑)。柴咲:あ、神木くんにお土産のピン留めもらったね。素敵でした。――気配りがさすがです。では、映画のストーリーにちなんで、どんな願いも叶うなら手に入れたいものは?そしてそのために差し出す対価はなんでしょうか。神木:(即答で)イケメン高身長です!柴咲:早っ!神木:まっちゃんもそうだけど、横浜流星も吉沢亮も、キンプリの(永瀬)廉も…羨ましいですよ。もしそれが手に入るなら、対価として、自分が自分でなくなってもいいですよ。柴咲:怖っ(笑)。私は、自分も含め、全人類の魂の向上かな。例えば、争いは醜いことだということを、みんなが当たり前のように認識できたらいいのに、と思います。神木:さすが…。比べると僕の答えがバカみたい(笑)。――お二人はドラマ『Dr.コトー診療所』以来の、約19年ぶりの共演だそうですね。神木:あの時僕は小3ぐらいだったので、今回、柴咲さんが僕のことを覚えていただいているのか、すごく不安でした。柴咲:それは私こそですよ。成長の過程で忘れ去られているかも、って(笑)。ただ、今の神木くんは10歳当時とは別人だと思っていますけどね。本当にあらゆる細胞が入れ替わっていそうだし。神木:柴咲さんには、当時から優しく接していただいて。柴咲:そうでしたっけ?あの時は、神の子だと思っていたので。神木:どういうことですか?(笑)柴咲:オーラが子供じゃない、選ばれし子供だと思っていました。神木:そんなこと、あるわけないじゃないですか、僕みたいな、平凡な人間が(笑)。今回も、この作品の世界観に入れるだろうか、とプレッシャーだったし、挑戦でした。だって、実花さんやその現場に携わる人たちはみなさん、特別な感覚や芸術的才能を持っていると思うので。そんなに持ってないよ、俺、って。だから全部を実花さんに委ねた感じです。柴咲:持ってたよ!さすがでした。そして、実花さんの色彩感覚とオリジナリティが原作の世界観と絶妙に混ざり合って、独自の世界観を作り出した作品になったと思います。でも今日の真っ白な衣装も好き。神木:うん、どっちも好き。ただ、白い服を着ている時の緊張感は、僕は半端ない。白い服の日は、なぜか烏龍茶やカフェラテなどをこぼして、ちゃんとシミになるから。柴咲:あはは(笑)。でもすごく似合うし、オーラカラーじゃない?心の闇に寄り憑く“アヤカシ”が見える高校生・四月一日君尋が、対価の代わりに人の願いをなんでも叶える壱原侑子と出会い、運命が変わっていく…。映画『ホリック xxxHOLiC』は、4月29日より全国公開。しばさき・こう1981年8月5日生まれ、東京都出身。現在放送中のドラマ『インビジブル』(TBS系)に出演。また、映画『沈黙のパレード』は9月16日より公開、映画『月の満ち欠け』は今冬公開予定。ジャケット¥467,500パンツ 参考商品(共にFENDI/フェンディ ジャパンTEL:03・3514・6187)シューズ¥126,500(JIMMY CHOO TEL:0120・013・700)右耳のピアス(トップのキャッチのみ使用)¥1,672,000左耳のピアス¥374,000左耳のイヤーカフ¥572,000右手のリング¥748,000(以上MESSIKA/MESSIKA JAPAN TEL:03・5946・8299)その他はスタイリスト私物かみき・りゅうのすけ1993年5月19日生まれ、埼玉県出身。出演映画『GHOSTBOOK おばけずかん』が7月22日より全国公開。また、2023年度前期連続テレビ小説『らんまん』にて主演を務める。シャツ¥27,500(クルニ/シアン PR TEL:03・6662・5525)その他はスタイリスト私物※『anan』2022年5月4‐11日合併号。写真・矢吹健巳(W)スタイリスト・長瀬哲朗(UM/神木さん)柴田 圭(辻事務所/柴咲さん)ヘア&メイク・MIZUHO(VITAMINS/神木さん)ilumini(柴咲さん)取材、文・若山あや(by anan編集部)
2022年05月03日ミステリー作家・櫛木理宇の最高傑作とも言われている『死刑にいたる病』が、ついに実写映画化。『孤狼の血』や『凶悪』で知られる白石和彌監督が手掛けたこともあり、原作ファンのみならず、映画ファンからも注目を集めている1本となっています。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。阿部サダヲさん【映画、ときどき私】 vol. 480劇中では、世間を震撼させた稀代の連続殺人鬼・榛村(はいむら)を演じた阿部さん。岡田健史さんや岩田剛典さん、中山美穂さんといった豪華俳優陣との共演はもちろん、阿部さんの見事な怪演ぶりがすでに話題となっています。今回は、役作りの裏側や現場での忘れられないエピソード、そして日常生活におけるこだわりなどについて、お話いただきました。―『彼女がその名を知らない鳥たち』に引き続き、すごい役で白石監督からオファーがきましたが、どのようなお気持ちでしたか?阿部さん白石監督とはまたご一緒したいと思っていたので、声をかけていただいたときはうれしかったです。ただ、まさか24人も殺している殺人犯の役になるとは考えもしませんでしたが……。でも、役者である限り、この榛村という人物は一生に一度あるかないかくらいの役ではありましたし、先輩たちからも「凶悪な役とか合うんじゃない?」と言われたこともあったので、挑戦したいと思いました。―これまでも幅広い役どころを演じられているので、シリアルキラーの役が初めてというのは少し意外な感じがしました。阿部さんファンの方が教えてくださったんですが、歴代の作品のなかで刑務所に入っていることは多いみたいです(笑)。でも、ここまでひどい殺人犯ではなく、どれも軽犯罪ですが。とはいえ、捕まっている場面や面会のシーンがけっこうあったので、演じたことがありそうというイメージがあるのかもしれません。―では、実際に演じてみて、いかがでしたか?阿部さん人をいたぶる場面では、経験したことのないようなことばかりでしたし、けっこうハードな描写も多かったので、気持ち的にはきついところもありました。でも、撮影自体は楽しかったです。実は、血が流れるものやゾンビが得意ではない―ちなみに、原作は読まれてから現場に入られたのでしょうか。阿部さん偶然、妻が読んでいたので、家に原作がありましたが、身近にあったことに驚きました。このような話を思いつくことに驚きましたが、すごくおもしろかったです。―ということは、こういったタイプのサスペンスやミステリーなどはお好きですか?阿部さんいや、苦手です(笑)。というより、怖いです。実は、血が流れるものが苦手で、ゾンビとかもあまり得意ではなくて……。なので、この作品では、本当にひどいことをしているなと自分でも思ったほどです。―苦手な方がされているとは思えないほどの狂気で、特に目の迫力がすごかったですが、そこは意識されていましたか?阿部さん僕自身はあまり気にしていませんでしたが、監督は『彼女がその名を知らない鳥たち』で僕が見せた目の怖さが印象に残っていたので今回の配役をしたとおっしゃっていました。男性を突き飛ばすシーンのときに、「5分前に人を殺したような顔をしてほしい」と言われて作った表情でしたが、監督はそういうところを伝えたかったのかもしれないですね。岡田くんに引き出されるようなところはあった―なかでも、引き込まれたのは、岡田健史さんとの面会のシーン。綿密なリハを行っていたのか、それとも本番でぶつかり合う感じだったのか、現場の様子を教えてください。阿部さん岡田くんとは撮影に入るずいぶん前に1回だけ本読みで顔を合わせたくらいで、全然会っていなかったので、どういう芝居をしてくるかもまったくわからない状態でした。なので、面会シーンは僕もすごく楽しみだったんです。岡田くんが外で何をしていて、どんな芝居をしているかを僕は見られないので刺激的でしたね。それに、彼は純粋な方なので、外から帰ってくるたびに顔が変わっていくんですけど、それがおもしろくて。ネタバレになるので詳しくは言えませんが、彼が僕のことを“ある人物”と勘違いしているシーンでは、不思議な表情を浮かべていて、そういうふうにアプローチしてくるのかと驚かされました。それを受けて僕も違うパターンで行きましたが、そんな感じで僕も引き出されるような感じはあったのかなと。本当に予測不能でおもしろい方ですよ、岡田くんは。―ぜひ、おふたりの表情には注目していただきたいですね。そのほかにも豪華な共演者が揃っていましたが、印象に残っている方といえば?阿部さん中山美穂さんは、会えるだけでうれしかったですね(笑)。だって、中山美穂さんですよ!僕が芝居を始める前から見ていて、すごい時代を生きてきた方ですからね。―共演者というよりは、ファン目線に近い感じだったと。阿部さんそうですね。でも、度胸がなくて話しかけられませんでした……。ずっと見てたんだから、話しかければいいのにと思うんですが。―ということは、一度も声をかけられずに終わってしまったのですか?阿部さん川辺で撮影していたときに、確か僕が蚊に刺されて、「ここは蚊がいますよ」くらいは言った気がします(笑)。でも、その1回きりなので、もう少し話しかければよかったなとは思いました。人を操るよりも、操られるほうが楽に感じる―それは次回の共演に持ち越しですね。完成した作品をご覧になったとき、気になるシーンなどはありましたか?阿部さん岡田くんが外で動いている様子を見るのは初めてだったので、まずはそれが楽しみでした。自分のシーンでいうと冒頭のほうにレコードを聞きながら紅茶を飲んでいるところがありますが、撮影のときは「クラシックっぽい曲が流れます」とだけ言われていたんです。でも、監督が榛村のテーマソングを作ってくださっていたので、曲が流れた瞬間にしびれたというか、ゾクっとしました。『Mr. ビーン』のオープニングくらいでしか、聞いたことのないような曲でしたから(笑)。すごくうれしかったのもありますし、かっこいい曲だったので、監督にお願いしてすぐに曲のデータをいただいたほどです。―今回は、人を巧みに操る話術や表情というのは、事前に研究されたりしたのでしょうか。阿部さん榛村としては自然にしていることなので、どうすれば操れるかというのを意図的に考えていたわけではありません。なので、芝居している感じにも見えないような意識はしていました。「あの人がこんなことをするなんて……」と近所の人が言うような雰囲気が出ればいいかなと。「連続殺人犯ってこうでしょ」ではなく、榛村が日常を過ごすなかで、結果的に人を操っていたという感覚です。―ちなみに、ご自身は人を操るのは得意ですか?それとも操られがちですか?阿部さんどっちもある気がしますが、あまり人を操れてはいないかもしれないですね。「飲み会やってよ」と人に言っても、誰もやってくれませんから。―(笑)。ということは、できれば飲み会の幹事を操りたいと。阿部さんそうですね。でも、人との付き合いや距離感が一番難しいですよね。何でも言うこと聞いてくれる人がいたら逆に怖いですし。そういう意味では、人を操るほど責任を持てないので、操られるほうが楽かもしれないです(笑)。ルーティンを決めずに生きている―また、榛村といえば、典型的な秩序型殺人犯ということで、自分のなかで絶対的なルールがいくつかありましたが、阿部さんにもこれだけは譲れないルーティンのようなものはありますか?阿部さん僕はそういうのを決めて生きていないんですよね。とはいえ、お休みがないとおかしくなってしまいそうなので、お休みだけはきちんといただいています。あと、コロナ禍になってから、僕も家族も家にいる時間が長くなりましたが、そこで気がついたのは、ひとりの時間も必要だということでした。おそらく、向こうも思っていると思いますが(笑)。―では、お気に入りのひとり時間の過ごし方といえば?阿部さん知らない道を行って、迷っているときが一番好きです。変な道に入って行くと、ワクワクしますから。そういうところがあるので、ルーティンがないのかもしれないですし、なので芝居でも作っているときが一番楽しいんでしょうね。―なるほど。迷うからこそ見えるものもあるんですね。阿部さんちなみに、最近はスマホのマップで近道を教えてくれますが、それを巡って妻とケンカになることも。なぜなら、僕の知っている行き方のほうが早いと僕が思っているからです。妻は僕が早歩きするつもりだとか言うんですけど、そんなことしなくても絶対僕のほうが早い。だって、僕は50年以上も生きているわけで、そんな最近できたばかりのマップに負けるはずがないんですよ!―(笑)。確かに、スマホに操られている感じが嫌だなと思うことはありますし、迷う楽しみがなくなった気はします。阿部さんそうですよね。そんなふうに決めないから迷うし、毎日がすごく変わっていく感じはあります。ご飯を食べに行っても、毎回同じものを頼むこともしないほうかもしれないです。変化するかどうかは、自分が決めること―ほかにも、仕事のあとの楽しみといえば何ですか?阿部さんあまりないですが、お買い物とかは好きです。いまは自転車がほしいなと思っています。―自転車で行きたい場所はありますか?阿部さん瀬戸内のほうにあるしまなみ海道は、自転車で走ってみたいですね。でも、いざ行くとなったら面倒になってしまいそうではありますが……。―行けないと思うと行きたくなりますし、行っていいよと言われると面倒になるお気持ちわかります。阿部さんそうなんですよ、難しいですね。―では、ananweb読者へ向けて、阿部さんから元気になるようなメッセージをいただけますか?阿部さん明日は必ず来るものなので、僕は毎日生まれ変わっていいと思っています。変化を嫌う方もいますが、女性はどんどん変わっていいんじゃないかなと。ただ、「変化するかどうかは、君が決めることだよ」ということは覚えておいてほしいなと思います。―素敵なお言葉をありがとうございます。それでは最後に、本作の見どころについても教えてください。阿部さんもしかしたら、女性のみなさんは普段あまり観ないタイプの作品かもしれませんが、人を信じていいのか、いけないのかという部分も描かれていますし、注意喚起にもなる作品だと思っています。僕自身もこういう役は初めてなので、そのあたりもぜひ注目していただきたいです。インタビューを終えてみて……。劇中では、血も涙もない冷酷な表情に背筋がゾッとしましたが、取材では次々と繰り出されるおもしろいお話で終始笑わせてくださった阿部さん。まさに新境地とも言える役で見せる細かな表情の動きや仕草、そして観客までも操るような声のトーンなどにぜひ注目してみてください。ギリギリの心理戦から目が離せない!二転三転する真実の先にたどりつく、驚愕のラストに戦慄が走る究極のサイコ・サスペンス。かつてないほどの残虐さを見せながら、得も言われぬ魅力で人々を惹きつける連続殺人犯・榛村に、あなたも翻弄され、いつの間にか虜になってしまうはず。写真・北尾渉(阿部サダヲ)取材、文・志村昌美ストーリー鬱屈した日々を送っていた大学生・雅也のもとに、一通の手紙が届く。それは、稀代の連続殺人鬼として世間を震撼させた榛村からだった。犯行当時、榛村は雅也の地元でパン屋を営んでおり、中学生だった雅也もよくそこに通っていたのだ。すでに、死刑判決を受けていた榛村だったが、「最後の事件は冤罪だ。犯人が他にいることを証明してほしい」と雅也に依頼する。事件を独自に調べ始めた雅也だったが、そこには想像をはるかに超える残酷な事件の真相があった……。謎が深まる予告編はこちら!作品情報『死刑にいたる病』5月6日(金)全国ロードショー配給:クロックワークス©2022 映画「死刑にいたる病」製作委員会写真・北尾渉(阿部サダヲ)
2022年05月03日人生においてひたすら前に進んでいくことは大事ですが、ときには行き先を見失って立ち尽くしてしまうこともありませんか?そんな気分のときにオススメしたい映画は、“大人のためのおとぎ話”ともいえる注目作『ツユクサ』です。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。小林聡美さん【映画、ときどき私】 vol. 478主演を務めているのは、すでに40年以上のキャリアを誇り、幅広い世代の女性たちから愛されている小林さん。本作では、50歳を目前に控えた主人公の芙美(ふみ)が、ある過去を抱えたまま田舎町でひとり暮らしをするなかで、さまざまな“奇跡”と出会っていくさまを描いています。今回は、芙美を通して感じたことやラブシーンの裏側、そして人生の選択をするうえで大切にしていることなどについて、教えていただきました。―まずは、脚本を読んだときの第一印象をお聞かせください。小林さん読み終わったときに、「なんてかわいいお話なんだろう」と思いました。子どもの語りからはじまって、宇宙の話になり、芙美が隕石にぶつかってからは恋があったり、周りが少しずつ幸せになったりしていくんです。ただ、私には慣れない恋模様が描かれていたので(笑)、「これを私がやるのか……」みたいな不安はありました。―恋のお相手は、松重豊さんが演じられていましたが、脚本を読まれた段階で配役はご存じでしたか?小林さんはい。でも、松重さんが相手というのは、あえて思い描かないように読みました。そのほうが、純粋に物語の展開を楽しめる気がしたので。自分のなかでも恋愛のシーンは、“ひとまず横に置いておく物件”みたいな感じでした(笑)。―実際、キスシーンでは松重さんと事前にやりとりされたこともあったのでしょうか。小林さん特に相談はしなかったですが、こういう時期なので、うがい薬を用意する係の人が待機していて、撮影直前に消毒するというリアルな現場でした(笑)。恋の場合は、一歩踏み出すのを考えてしまう―とても素敵なシーンでしたが、裏では意外と事務的に進んでいたのですね……。小林さん松重さんの役どころが歯医者さんということもあって、口のなかをチェックされるシーンがあるんですが、そちらのほうが恥ずかしかったですね。―しかも、その流れでキスというのには驚きました。小林さんそうですよね。でも、撮影では恥ずかしいとか言っていられないというか、そういう仕事ですからね。今回は信頼できて紳士的な松重さんだからこそ、口のなかまで見せられたというのはあったと思います。―わかる気がします。物語のなかで、芙美はさまざまな転機と向き合うことになりますが、彼女の生き方はどのように感じましたか?小林さんいままでいたところから一歩を踏み出した彼女の勇気を讃えたいですね。特に、素敵な人が現れて、「どうしよう」となっているときに、行動に出たところは立派ですよね。この年になると、少し傍観してみようかなと思いがちですから。―小林さんもそのあたりの決断力は芙美と似ているところがありますか?小林さん私の場合、恋じゃなければ考えずに行けます(笑)。―これまで恋愛ものはあまり出られていないですが、このタイミングでラブストーリーに挑戦してみて、いかがでしたか?小林さん恋愛の部分にフォーカスすると変に意識してしまいそうだったので、あくまでも物語の流れの一部として捉えて、そこにはこだわらないことにしました。昔より、いまは人生も恋愛も選択肢がたくさんある―海外の作品では60代や70代の女性でも恋愛している姿が描かれていますが、日本ではあまりないので、そういう意味でもこの作品の描かれ方は新鮮なところではないかなと。小林さんいくつになっても恋愛はするし、年齢を重ねても若い人たちと同じような“心のひだ”もあるのに、もしかしたら上手に描ける人が少ないのかなという気はしています。でも、いまの40代後半以降の人たちは昔に比べたらすごく自由だし、人生や恋愛の選択肢もたくさんある。そういう意味では、こういう作品も軽い気持ちで観られる世の中にはなっているのかなと。この作品も最初の脚本は芙美が自分の年齢を気にしているようなセリフがありましたが、現代のテイストに合わない雰囲気で、そういった部分は削られていきました。この10年の間に、世の中も女性の立ち位置も変わってきて、今後は日本映画でもこういった作品は増えるんじゃないかなと感じていますし、そうなってほしいです。―この作品に続いて、増えていくといいですね。そのほかに、平岩紙さんと江口のりこさんとのシーンでは女性ならではのトークが非常におもしろかったです。小林さんアドリブっぽく話していたり、素で驚いていたりするようなところもありますが、すべて脚本通りです。事前に3人で打ち合わせすることもありませんでしたが、全員がのびのびと自分らしく演じられたのが、あのシーンの大らかさと楽しさにつながっているのかなと思います。―撮影の合間はどんなことをお話されていましたか?小林さん現場ではあまり親密な話はできなかったですね、それぞれにマイクがついていましたから(笑)。今回、支度部屋としてお借りしていたのは、地元のスーパーの方々が休憩室として使っている場所でしたが、そこにあるテレビで韓流ドラマが始まって「ここで働いているおばさんたちが楽しみに観ているドラマなんだろうね。いいねー」とか、3人で話しながら観ていました。経験することは素晴らしいと改めて感じた―まるで映画のなかと同じですね。松重さんは、前から小林さんに聞いてみたかったことをこの現場で質問されたとか。小林さん松重さんはとにかくおいしいものがお好きな方なので、「最近食べたものでおいしかったものは何ですか?」とか、そんな話ばっかりでした(笑)。―さすが松重さんです。ちなみに、何かオススメされましたか?小林さんアイスキャンディのおいしい会社を教えて差し上げたら、すぐ試していらっしゃいました。おいしかったみたいで、ご自宅の冷凍庫いっぱいだそうです(笑)。―本作の芙美は49歳ですが、小林さんご自身は50代に入った際、心境の変化などを感じることはあったのでしょうか。小林さんそこまで意識はしていませんでしたが、自分が想像していた50歳よりも幼いし、「こんな感じでいいのかな?」と(笑)。ただ、老年への準備というか、これからどういうふうに年を取っていきたいかというのは、何となく持っていたほうがよさそうだなというのは感じました。「バリバリ動けるのはあと何年だろう」といったことを具体的に考えるところはあったと思います。いまは50代後半で、60代への心の準備はなんとなくしていますが、30代からゆるやかにつながっている感覚なので、あまり急激に変わることはありませんでした。―小林さんといえば45歳で大学に入学していますよね。なかなかできないことだと思いますが、後押しとなったのは何ですか?小林さんそれは、タイミングですね。若いときほど仕事が忙しいわけでもなかったので、いまなら行けそうと思ったのと、体力的にもラストチャンスかなと。前からやりたいと思っていたことができたのはよかったですし、やっぱり経験というのは素晴らしいなと改めて感じました。先を見据えるより、その日を楽しみたい―いまや「人生100年時代」とも言われていますので、これからチャレンジしたいこともあるのでは?小林さん100歳といってもいつまで元気でいられるかによりますし、世の中もどうなっているかわからない時代ですからね。私としてはあまり先を見据えて計画するよりも、「いつ死んでもいい」くらいの気持ちでその日その日を楽しめたらいいかなと。最近はピアノを始めたので、“奇跡の老女ピアニスト”を目指してがんばります!―ぜひ、楽しみにしております。この作品では“小さくて大きな奇跡”がいくつも描かれていますが、最近起きた奇跡があれば教えてください。小林さん芙美みたいな素敵な奇跡は、なかなかないですよね。強いて言えば……、コロナ禍で全然会えなかった近所のおじいさんと最近ばったり会ったくらいかな(笑)。立ち話ができて楽しかったですけど、これは奇跡ではないですよね……。―(笑)。では、「こんな奇跡が起きたらいいな」はありますか?小林さん私は鳥を見るのが好きなので、鳥たちとコミュニケーションを取れるようになるとか(笑)。以前、カラスとずっと目が合って、語り掛けてくるようなテレパシーを感じたことがあって、鳥の言葉がわかったらいいなと。新しい趣味として、バードウォッチングもいいですねえ。―素敵ですね。もし、小林さんにとっての“座右の銘”があれば、教えていただけますか?小林さん若い頃はよどみなく生きていきたいと思っていたので「流れる水は腐らない」でしたが、年齢を重ねるとともに「終わりよければすべてよし」になりました。大変なことがあっても、俯瞰しておもしろがれるように心がけています。悔いや後悔のないように、行きたいところに行くべき―これまでにさまざまな選択と向き合ってきたと思いますが、決断する際に基準としているものは何ですか?小林さん「それをやりたいか」「嫌なのに我慢していないだろうか」「やりたいと無理に思い込ませてはいないか」というのを自分の心に聴きます。もちろん、すべてに対してやりたいことしかしないとなると、ただのわがままですが、あくまでも大事なポイントに関しては、そういったことを自分の心に確認するようにしています。―ちなみに、20代や30代のときにしておいてよかったことがあれば、教えてください。小林さん20代のときは、自分の仕事の出来なさ加減に落ち込み、「向いてないかも」と思うこともしょっちゅうありました。でも、そこで結論を出さずに続けてきたからこそ、いろいろな経験ができたのかなと。いまは向いてないと思ったら簡単に仕事を変えられる時代ですが、私はこの仕事を続けてこれてよかったです。いつも「次はもうちょっと自分を納得させたい」という思いでここまで来た感じです。あとはいろんなご縁ですね。―それでは最後に、ananweb読者に向けてメッセージをお願いします。小林さん「悔いのないように。そして後悔はしないように」ということですね。たとえボロボロになったとしても、自分が行きたいと思うならなら行けばいいんじゃないかなと。私自身はいままでに後悔はなく、みんないい経験だったなと思っています。インタビューを終えてみて……。どんな質問にも気さくに答えてくださり、優しい太陽のような小林さん。いろいろな経験をしてきたからこその言葉は、どれも心に響くものばかりでした。恋愛に関する話のときだけは少しはにかんでいらっしゃる姿が印象的でしたが、キュンとする素敵なシーンばかりなので必見です!あなたの周りにも“奇跡”は溢れている!大人になればなるほど、恋する気持ちにも悩みにも素直に向き合えないときはあるけれど、いくつになっても幸せをつかんでもいいのだと教えてくれる本作。人生につまずいて立ち止まっているときこそ、隣に寄り添いながら背中を優しく押してくれる1本です。写真・山本嵩(小林聡美)取材、文・志村昌美ストーリーとある小さな田舎町で暮らす芙美は、気の合う職場の友人たちとほっこり時間を過ごしたり、年の離れた親友の少年と遊びに出かけたりして過ごしていた。ところがある日、隕石に遭遇し、1億分の1の確率と言われるあり得ない出来事を経験する。日々の生活を楽しく送っているように見える芙美だったが、実は“ある哀しみ”を抱えていた。そんななか、篠田という男性と出会い、草笛をきっかけに親しくなっていく。50歳を目前にした芙美に小さな奇跡が起きようとしてた……。心がじんわりと温まる予告編はこちら!作品情報『ツユクサ』4月29日(金・祝)より全国公開配給:東京テアトル©2022「ツユクサ」製作委員会写真・山本嵩(小林聡美)
2022年04月28日日本が世界に誇る文化のひとつといえば、圧倒的な恐怖感と独特の世界観を持つジャパニーズホラー。そんななかで、新たな衝撃作として話題となっているのが、実在の幽霊団地事件をもとに描いた考察型体験ホラー『N号棟』です。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。萩原みのりさん【映画、ときどき私】 vol. 477近年は、『成れの果て』で主演を務めたのをはじめ、『佐々木、イン、マイマイン』や『花束みたいな恋をした』といった話題作にも出演するなど、注目を集めている萩原さん。劇中では、廃団地で起こる怪現象の謎を突き止めようと奮闘する死恐怖症を抱える女子大学生の史織を熱演し、観客を恐怖体験へと誘っていきます。今回は、撮影現場の裏側や自身の心境の変化、女性としての理想像などについて語っていただきました。―『N号棟』というタイトルを聞くだけで、笑えてきてしまうほど大変な現場だったそうですが、実際どのくらい大変だったのでしょうか。萩原さんとにかくめちゃめちゃ大変で、どれくらいかは映画を観て「察してください」と言う感じです(笑)。―確かに、観ているだけでもかなりの疲労感でした。萩原さんまず撮影場所が廃墟だったので、電気も水道も通っていないし、トイレも仮設トイレがあるという状況。そういう環境のなかで、朝からひたすら撮り続ける日々でした。内容も内容でしたし、撮影期間も短いうえに、ひとつひとつの撮影にすごく時間がかかっていたので、そういう大変さもあったかなと。特に、クライマックスのシーンは6~7時間くらいかけて撮っていますが、その間は最高潮につらい状態をずっと維持しなければならないのでしんどかったですね。しかも、怖がって怯えている感じを出すためにつねに過呼吸気味だったので、体力がゼロになるまでやっていたような現場でした。疲れている様子は、まさにリアルだった―撮影中はどうやって体力回復されていたのか、「これがあったから乗り切れた」みたいなものはありました?萩原さんそもそも、回復しない状態のまま進んでいく役柄だったので、そのあたりは徐々に気力を失っていく史織と重なっていたと思います。疲れている様子は、まさにリアルですね。―そういう状態でも、クランクアップするとすぐに戻れるものなのでしょうか。萩原さんそのときは、別の作品も撮っていて、撮休の日はほかの現場に行かなければならなかったので、ひきずる余裕がありませんでした。でも、それが気分転換になったというか、救いになっていたのかもしれません。ただ、その現場は『N号棟』とはまったく関係ない作品なのに、セットのなかに『N号棟』に出てくる教授の部屋に飾ってある死に関する哲学書がなぜか置いてあったことも……。そんなふうに、すべてが地続きになっているような錯覚に陥る瞬間はありました。―それはゾッとする偶然だったと思いますが、実際に現場でも怖い思いをしたことはありませんでしたか?萩原さん大変すぎて、もはや怖いと感じる余裕もありませんでしたね。というのも、エレベーターが動かないので、毎回5階くらいまで階段で上がらなければいけないのが体力的にきつくて。廃墟には鳥の死骸などもあったので、最初は怖くてギャーギャー言っていました。でも、だんだん慣れてきて何も思わなくなっちゃったのと、「ギャー」って叫ぶだけで疲れることがわかったので、すごい場所にいるはずなのに、みんなすごく普通にしてましたね(笑)。とにかく、階段を上って現場にいくことがそのときは一番のミッションであり、ほかのことを見ている余裕すらなかった感じです。みなさんがどこで怖がってくれるのかが楽しみ―ちなみに、この現場以外で不思議な経験をしたことはないですか?萩原さん全然ないですね。ただ、人生で1回だけ占いに行ったことがあって、そのときに「あなたは霊感が強すぎて閉じている」と会った瞬間に占い師さんから言われたということはありました。でも、一度も霊を見たことがないので、「ああ、そうですか……」という感じでしたが(笑)。とはいえ、実はものすごくビビりなので、お風呂では目をつぶれません。目を閉じたら誰かがいる気がしてしまい、髪や顔を洗っているときはいかにすぐ目を開けられるかとの闘いです(笑)。―お気持ちよくわかります。普段、ホラーはご覧になりますか?萩原さん『ソウ』とか海外のホラーはけっこう好きでよく観ています。というのも、日本の作品は現実味があって怖いですが、海外は描写がぶっ飛んでいたりするので、日常的でも非現実みたいな。私がそういう作品を観るのは、ジェットコースターに乗って疲れを吹き飛ばしたいみたいな感覚で観ることが多いです。―では、この作品では、どのあたりが見どころだと感じていますか?萩原さん個人的には、この作品はホラーというよりも、生きるとか死について繊細に考えさせられる人間ドラマだと思っています。なので、逆にみなさんがどこで怖がってくださるのかがすごく楽しみです。ちなみに、私が一番怖かったのは、筒井真理子さん。振り返ったときの表情は、正直言って本当に怖かったです(笑)。でも、その圧倒的な存在感と筒井さんの言葉のおかげで、追い込まれる状況に連れて行ってもらえる感覚はありました。ラストにかけてどんどん存在が大きくなっていくので、筒井さんを楽しみにしていただくのもいいかなと思います。役と自分の境目がわからなくなる瞬間も経験した―こういった役を演じることで、死や生きることに対して考えが変わったところもあったのでは?萩原さん現場に入るまでに自分ができることは、死恐怖症について理解することだと思ったので、当事者の方のブログを読んだり、死についての哲学書を読んだり、動画を見たりということを徹底的にしました。ただ、生きるとか死ぬとかは、ある意味身近なことでもあるので、それが私の実人生にまで踏み込んで来るような感覚があり、役と自分の境目がなくなってしまったことも。自分自身に投影しすぎてしまったときには、何が現実かわからなくなり、「どうして私はここを歩いているんだろう」とか「何で私は女優をしているんだろう」みたいなにすべてのことが一気にわからなくなってしまうような瞬間もありました。―それほどまで役に入り込んでしまうことは、いままでもありましたか?萩原さんいや、ないですね。これまではどんな役でも自分の人生とは離れている感覚だったので、そういうふうになったのは今回が初めてでした。―そこまでいくと、撮影が終わっても影響が残った部分があったのではないと思いますが。萩原さん実は、それまでも小さい頃から、「死んだらどうなるんだろう」とか「死について考える感覚すらなくなるってどういうことなんだろう」と考えて朝になってしまったことは何度もありました。答えが出ないからこそずっと考えてしまうんだと思いますが、この作品で死について考えることに疲れ果てたのか、いまでは考えなくなったので、逆に前を向けるようになった気がしています。10年後の自分はどうなっているのか未知―なるほど。今年はデビューから10周年となりますが、そういう意味での変化を感じることもあったのではないでしょうか。萩原さん私も感じるのかなと思っていたんですが、そういうこともあまりなく、もう10年も経っちゃったんだなという感じというか。学校に通っていた期間よりも長く何かしてきたことがないので、不思議な気持ちです。―では、次の10年はどう過ごしていきたいですか?萩原さん10年後に自分が役者の仕事をしているかどうか、どうなっているかもわからないくらい未知ですね。10年前は自分が役者の仕事を始めるとは考えてもいませんでしたし、1~2年くらいでやめると思っていたので(笑)。最初にスカウトされたときは、「何もせずにあとで後悔するくらいなら、『テレビに出たことあるよ』といつか自慢できるかもしれないからやってみたら?」と母に言われて、それぐらいの感じで始めたので。私の周りの人もまさか私がこの仕事を10年も続けるなんて、思ってもいなかったでしょうね。だからこそ、10年後もいまはまだ考えられないです。大人に見えない人間味のある女性になりたい―もし、「こんな女性になりたいな」と意識していることがあれば、教えてください。萩原さん私は、昔から“大人に見えないのにちゃんと大人”みたいな人にすごく憧れていているので、「大人になりたくない」とずっと言っている大人になりたいと思っています。いつまでも無邪気で、10代の頃と変わらないところでテンションが上がったり下がったりするような人間味のある女性でいられたらいいなと。そのままの感覚を持ち続けていたいと思っています。最近では、舞台でご一緒させていただいた女優の呉城久美さんがまさにそんな感じの方で、ずっと同じ年くらいだと思っていたら、実は10歳くらい上だったと知ってびっくりしました。そう感じさせないフラットなところが素敵ですし、悩みがあるときは同じように悩んでくれ、一緒に解決方法を見つけてくれるところもすごく魅力的なんですよね。私も10歳、20歳年下の後輩から親しみを持って接してもらえるような先輩になりたいです。インタビューを終えてみて……。過酷な現場の裏側も笑顔でお話されている姿を見て、内に秘めた強さを感じさせる萩原さん。役とリンクし、真に迫ったリアルな表情には、ぜひ注目です。ご自身でも想像がつかないというこれからの10年でどのような道をたどって行かれるのか、今後も楽しみにしたいと思います。一度足を踏み入れたら、もう戻れない!肉体的緊張感のみならず、精神に支配されていく“神秘的恐怖”も体感できる新時代のホラー映画。生と死の狭間に位置する異空間でしか味わえない衝撃体験をしてみては?写真・山本嵩(萩原みのり)取材、文・志村昌美ストーリーとある地方都市にあったのは、霊が出ることで有名な団地。女子大生の史織は、元カレの啓太が卒業制作を撮影するホラー映画のロケハンに、興味本位で同行する。啓太の現在の恋人・真帆と3人で向かったのは、廃墟同然の団地だったが、そこにはいまでも住人たちがいた。不思議に思いながらもロケハンを進めようとすると、突如激しいラップ現象に襲われる。その後も、頻発する怪奇現象に見舞われるが、言葉巧みな住人たちの“神秘的体験”に魅せられた啓太と真帆は洗脳されてしまう。そして、追い詰められた史織は、思いもよらぬものを目にしてしまうことに……。ゾクゾクする予告編はこちら!作品情報『N号棟』4月29日(金・祝)新宿ピカデリーほか全国公開配給:SDP©「N号棟」製作委員会写真・山本嵩(萩原みのり)
2022年04月27日映画には、知られざる真実や忘れられた過去にも光を当てる力がありますが、注目作『山歌(サンカ)』では、かつて日本の山々に実在していた「サンカ」と呼ばれる流浪の民の姿を描いています。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。杉田雷麟さん【映画、ときどき私】 vol. 475本作で、主演に抜擢されたのは、『半世界』や『罪の声』『孤狼の血 LEVEL2』といった話題作への出演が続いている若手実力派俳優の杉田雷麟(らいる)さん。劇中では、生きづらさを抱えていた中学生の則夫が山でサンカの家族と出会い、さまざまな経験を通して変化していくさまを見事に演じています。今回は、初主演作への思いや今後挑戦してみたいことなどについて、語っていただきました。―まずは、初主演が決まったときのお気持ちからお聞かせください。杉田さんオーディション用の脚本では、ラストの父親と対峙する場面しか描かれていなかったので、そのときはまだ自分の役や内容についてあまりわかっていませんでした。実は、主演であることも受かってから知り、「え主演?」となったほどなので(笑)。―かなり驚いたと思いますが、同時にプレッシャーも感じたのではないかなと。杉田さん確かに、初めは主演ということに気負ってしまったところもありました。でも、本読みを進めていくうちにだんだん緊張がほぐれていき、則夫が自分の体のなかに染み込んでいった感じです。サンカについても、監督が僕の疑問点についてきちんと説明してくださったおかげで現場にはすごくいい状態で入れました。―笹谷遼平監督は杉田さんの影の部分に惹かれたとおっしゃっていますが、何か意識されていますか?杉田さんオーディションに行くときは、毎回「絶対にこの役を獲るぞ」という感じで気合いを入れて行きますが、重めの役が続いていたときに受けたオーディションだったので、そういうふうに見えてしまったのかなと。監督からは「影が2メートルくらいに見えた」と言われました(笑)。一番に考えていたのは、自分らしくいること―ちなみに、普段の杉田さんはどんな感じですか?杉田さん友人といるときは、ツッコんだり、ボケたりする感じで、けっこう明るいほうだと思います。とはいえ、スベることは多いですが……。―(笑)。今回、現場では主演として心がけていたこともありましたか?杉田さん自分らしくいたいというのを一番に考えていたので、主演というのはあまり意識していなかったです。それよりも周りの方に助けていただいたほうが多かったので、またこういう機会があれば、次はがんばりたいと思います。―撮影から3年近く経っていますが、初主演を経験したことで変化を感じる部分もあるのではないでしょうか。杉田さん演技については、3年前より成長していてほしい気持ちはありますが、役者に対する思いやこの道で生きていく覚悟に関しては、役者を始めたときからずっと変わっていません。いい意味であの頃とは変わっていない気がしています。―素敵ですね。本作で描かれている「サンカ」については、どのような印象を受けましたか?杉田さん最初に聞いたときは、何にも縛られることなく、自由に生きていてうらやましいというか、少し憧れるようなところはあったかもしれません。でも、劇中でも描かれているように、サンカの人たちが生きにくい時代になっていると知り、自分たちが何気なく便利に暮らしている陰で、やはり何かが犠牲になっていると改めて感じました。命や自然の偉大さについて改めて実感した―自然に対する見方や生き方など、何か影響を受けたところもあったのでは?杉田さん撮影では、実際に魚やヘビをさばくシーンがありましたが、直前まで生きていたものを焼いて食べたので、僕たちは命をいただいているんだなと実感しました。普段の生活ではあまり考えていないことだったので、ヘビの頭を切り落とすシーンでは僕の素のリアクションが映っています。―ご出身は栃木県ということですが、子ども時代はどんなふうにして過ごされていましたか?杉田さん僕は自然のなかで遊ぶことがわりと多かったので、トカゲやヘビを追いかけていたりしていましたね。ただ、最近はあまりそういうことに触れる機会が少なかったので、今回の現場を通じて、改めて命や自然の偉大さについて考えました。―杉田さんはサッカーやボクシングなどをされてきたということで、体力には自信があるほうだと思いますが、それでも山での撮影は大変だったのではないかなと。杉田さん雨が多くて寒さなどのきつさはあったものの、山に溶け込んでいるような感覚でいられたので、体力的な問題はありませんでした。ただ、撮影の最後のほうで大量発生していたヒルに刺されてしまい、かかとが血だらけになったことはありましたが(笑)。今回は、自分と則夫を切り替えることもなく、初めから終わりまで猛ダッシュで駆け抜けているようなイメージだったので、どちらかというとドキュメンタリーに近い撮影環境だったかもしれないですね。20代はいろいろな役をやって、幅を広げたい―今年でいよいよ20歳となりますが、法改正によってすでに4月から新成人となりました。心境の変化などはありましたか?杉田さん社会的にはすでにいろいろなことが適応されてはいますが、正直あまり実感がないというか……。やっぱり僕のなかでは、12月の誕生日に20歳を迎えたときが節目になる感じはしています。―どんな20代にしたいですか?杉田さん20歳になったら、今後演技をしていくうえで必要な感情が生まれ、幅も広がると思うので、とにかくいろいろな役をやりたいです。そのためにも、いまやれることを全力でできたらと。20代は、物事をもっと客観的に見れるようにもなりたいです。―ちなみに、これまでターニングポイントとなった作品や監督との出会いといえば?杉田さん本作の笹谷監督は伊参スタジオ映画祭で大賞を受賞したことでこの映画を作ることができたと聞きましたが、そのときに自分のなかでも監督をやってみたいという気持ちが生まれました。そういう意味では、この作品もひとつのターニングポイントになっている気がします。いつか自分の作品を海外に出してみたいと考えている―すでに脚本を書き始めているそうですが、どのようなものを書かれているのか教えていただけますか?杉田さん自分で読み返してみても、浅くてダメだなと思うものばかりなのでまだちょっと……。というのも、自分でも明確にコレだと言えるものが見つけられていなくて、どこに行こうかなとさまよっている状態なので。これまでわりと暗めの役が多かったので、そういうタイプの作品にひっぱられがちなんですが、それが本当に自分の撮りたいものかどうか僕自身でもわかっていないんだと思います。まずはいろいろと書いてみて、俳優と監督の両方ができるようになりたいです。映像化まではまだ遠い話ではありますが、いつか自分の作品を海外に出して、多くの方に観てもらえるようになれたらいいなと考えています。―非常に楽しみです。ちなみに、ご自身は普段どんなタイプの作品が好きですか?杉田さん洋画を観ることが多いですが、日本だと刑事ドラマをよく観ています。―最近観てよかったものがあれば、教えてください。杉田さん僕が大好きなトム・ハンクスさん主演の『ターミナル』とホラー映画の『ソウ』。どちらもほぼ同じ場所で展開されていますが、それであそこまでおもしろくできるということは、やっぱり脚本がおもしろければいい映画が作れるんだと、この2作品だけでも、思い知りました。最近は、時間があるとだいたい動画配信サービスで映画やアニメを観ていますが、俳優の仕事を始めてからは純粋な観客としての目線ではなくなりましたね。どうやって撮っているのか、つねにいろいろなことを考えながら観ています。これからもいい意味で変わらずに、がんばっていきたい―これから俳優として目指している理想像はありますか?杉田さん主役でも脇役でも両方務まるようになりたいですし、少し出ているだけでも印象に残るような俳優になりたいと思っています。いつか刑事役もやってみたいですし、コメディなども含めてどんどん幅は広げていきたいです。僕は演じているときが一番楽しいですし、現場では学ぶことも多いので、とにかく一生懸命やることをいつも意識しています。―それでは最後に、ananweb読者へメッセージをお願いします。杉田さんこの作品では、僕らが演じている以外にも、山の情景や命の描写などたくさん映し出されているので、観ていただいたときに、何でもいいので何かを感じ取ってもらえたらうれしいです。僕自身は、これからもいい意味で変わることなく、成長していきたいと思っています。応援よろしくお願いします。インタビューを終えてみて……。「現場と違って、取材での撮影は恥ずかしくて苦手」とはにかみつつも、さまざまな表情を見せてくれた杉田さん。雷麟というお名前は本名で、雷のように厳しく、頭がよくなるようにという願いが込められているそうですが、それを体現するような唯一無二の存在として、今後ますますの活躍に期待です。山が訴える声に耳を傾ける圧倒的な山の景色のなかで、人間も自然の一部であることを感じるとともに、真の意味で「生きる」とは何かを改めて考えさせられる本作。則夫のように、多くの人が生きづらさを抱えている現代にこそ観たい1本です。写真・北尾渉(杉田雷麟)取材、文・志村昌美ストーリー高度成長にわく1965年の夏。中学生の則夫は受験勉強のため、東京から祖母の家がある山奥の田舎を訪れていた。父と祖母に勉強を強いられ、一方的な価値観を押し付けられていた則夫は、ふとしたきっかけで、山から山へ漂泊の旅を続けるサンカの長である省三と娘のハナ、母のタエばあと出会う。既成概念に縛られることなく自然と共生している彼らと交流を深めていく則夫。生きづらさを抱えていた則夫にとって、いつしかサンカの家族は特別な存在となっていた。そんななか、彼らが山での生活を続けられないほど追い込まれていることを知った則夫は、ある事件を引き起こすことに……。引き込まれる予告編はこちら!作品情報『山歌(サンカ)』4月22日(金)よりテアトル新宿、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開配給:マジックアワー©六字映画機構写真・北尾渉(杉田雷麟)
2022年04月21日1992年にアニメ放送がスタートして以来、長年にわたって国民的な人気を誇る『クレヨンしんちゃん』。記念すべき30周年を飾る劇場版最新作『映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』では、忍者の里を舞台に、しんのすけの出生にまつわる“真実”に迫っています。そこで、ゲスト声優を務めたこちらの方にお話をうかがってきました。川栄李奈さん【映画、ときどき私】 vol. 472女優として目覚ましい活躍をみせる川栄さんが演じたのは、「自分こそがしんのすけの本当の母親だ」と名乗り現れる、くノ一(くのいち)の屁祖隠(へそがくれ)ちよめ。今回は、作品の見どころだけでなく、連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』でヒロインを務め終えたばかりの心境や次に掲げる夢などについても、語っていただきました。―まずは、ちよめというキャラクターに対して、どのような印象を抱きましたか?川栄さん最初は、くノ一で妊婦という設定なのにアクションシーンがあることに驚きました。活発な妊婦さんで、なんて面白いんだろうと。しかも、芯の強いところもあるので、カッコイイお母さんだなと思いました。―ご自身と似ているところなどもあったのでしょうか。川栄さん女性としての強さみたいなところは共感できましたし、みさえがちよめに対して「あなたもお母さんでしょ?」と投げかけるシーンでは、すごくジーンときました。『クレヨンしんちゃん』の魅力は、子どもだけでなく、大人も感動できるところ。今回も、野原家を見ていて、当たり前の暮らしができることは素晴らしいことで、すごく幸せなことなんだと感じました。しんちゃんは、つねに身近にいた存在―小さいときからずっとアニメを見ていたそうですが、『クレヨンしんちゃん』との思い出と言えば?川栄さん幼少期から金曜日の夜は『クレヨンしんちゃん』と『ドラえもん』はセットで見ていた家庭だったので、朝のニュース番組のように、自分にとってはつねに身近にあるものでした。ちょっとお下品なギャグとかもあるので、あまり見せたくないという親御さんもいるようですが、そんなことも知らず、みんな見ていると思っていたほど。「見ちゃいけない」と言われている友達がいたのを知ったときは、びっくりしました。―となると、しんちゃんから受けていた影響もかなりあったのでは……。川栄さん「おしりブリブリ」とかはよくしていましたね(笑)。でも、それもみんなしていると思っていたくらいですから。―しんちゃんの真似をして、ご両親に怒られることはなかったですか?川栄さんそれよりも、笑っていましたね。なので、家族のコミュニケーション方法のひとつというか、みんなが微笑ましくなる瞬間でした。―いままでも声優のお仕事は非常に緊張されているそうですが、自分が大好きなアニメに参加することになってプレッシャーもあったのでは?川栄さんそうですね。特に、声優は本職ではないので、「自分が出てる!やったー!」みたいな気持ちよりは、「自分の声で大丈夫かな?」という不安のほうが大きかったです。いい意味で変わることなく、素で生きている―そんななかでも、ご自身なりに工夫されたこともあったと思いますが。川栄さんたとえば、初めのほうはちよめがシリアスな問題を抱えているので、トーンを暗めにしています。そのあと、最後に向けて少しずつ明るくしているのですが、子どもたちと話すときだけは寄り添うような優しい声を意識しました。声優のお仕事をやらせていただけるのは本当に貴重なことなので毎回噛みしめながら収録をしていますし、声優のみなさんのいいところを盗めたらと。そうやっていくうちに、自分の声にも自信を持てるようになったらいいなと考えています。―ちなみに、同じくゲスト声優であるハライチさんとは何かお話されましたか?川栄さんイベントや取材でお会いしただけなので、あまりお話はできませんでしたが、おふたりは本人役で出られるのでうらやましいです。というのも、誰もが知っている方でないとできないことだと思うので。改めてハライチさんのすごさを感じました。―ということは、川栄さんも本人役で出たいと?川栄さん本人役もいつかはやってみたいですね。でも、その前にビッグにならないといけないですが(笑)。―そういう意味では、朝ドラのヒロインを務められたことも次のステージに上がったきっかけになったと思いますが、心境に変化などはありますか?川栄さん私も朝ドラに出たら変わるんだろうと思っていたんですが、意外とあまりそういうこともなく、何も変わらずに素のままで生きています。なので、いい意味で特に変わったことはないですね。今後の作品がモチベーションになっている―大きな夢を叶えたあと、次の目標があれば、教えてください。川栄さんずっと抱いている夢は、映画で賞を獲ること。映画のほうがドラマよりも出演本数が少ないので、これからはもっと映画にもたくさん出たいです。お芝居がすごく好きなので、今後の作品がいつもモチベーションになっていますし、それを楽しみに生きています。―朝ドラではかなり英語も勉強されたということなので、今後は英語を使ったお仕事も考えているのでは?川栄さん実は、英語の勉強は一旦やめてしまったんです(笑)。というのも、私は何か目標がないとできないタイプなので……。しかも、英語ができる方からも「そんなにすぐに話せるようにはならないよ」と言われてしまい、やっぱり日々の積み重ねが大事なんだなと感じています。でも、ご縁があってまた英語を使えたらいいですね。英語を使う役がきたらがんばります!―毎日かなりお忙しいと思いますが、オンオフの切り替えなどは意識的にされているのでしょうか。川栄さん私は仕事の現場が終わったら「終わり!」となる性格で、役を引きずることはまったくありません。現場に行く前もガチガチに決めずに、台本を1、2回読んで空気感をつかんだらそれを持っていく感じにしているので、切り替えは得意なほうだと思います。自分の長所は、前のことを引きずらないところ―それは、お仕事を続ける過程で身に付いたものですか?川栄さん前のことを引きずらずに次の仕事ができるのはAKB48のときからなので、そこはもともと持っている自分の長所でもあるのかなと。セリフ覚えが得意なこともあり、家でも台本を開いている時間は最小限にしているので、息抜きはけっこうできているように感じています。あと、仕事のあとの楽しみといえば、大好きなお風呂に入ること。2~3時間は入るので、映画を観たり、台本を読んだりしながら過ごしています。―ほかにも、マイブーム的なことはありますか?川栄さんここ数年はお香にハマっていて、朝ドラの撮影で大阪にいたときも、朝起きたらまずお香をたくのがルーティーンでした。日によって香りを変えることもありますが、匂いによって癒されたり、スッキリしたりすることが多いかなと。匂いフェチのようなところもあるので、街を歩いているときにいい匂いがしたら、それをたどってお店に入ることもあるくらいです(笑)。―また、髪をバッサリ切ってから雰囲気も変わられましたが、切ろうと思ったきっかけは?川栄さん朝ドラが終わったときに腰のあたりまで伸びていて、ちょうど作品も重なっていなかったので、切りたいなと思って。髪が長かったときとは、洋服やアクセサリーの選び方がかなり変わったので、いまはそれを楽しんでいます。こんな時期でも、楽しいものを見つけてがんばりたい―とても素敵です。川栄さんといえば、撮影時もご自分でメイクをされることがあるほどコスメ好きということですが、最近お気に入りのメイク法を教えてください。川栄さん私は季節によってメイクを変えるのが好きなので、春ならオレンジやピンクを多めに使うようにしています。コスメも新しいものがいろいろと出るので、ネットやインスタで上げている人の情報を参考にしながら買っていますが、それが毎シーズンの楽しみです。―では、美肌を維持するためにしていることとは?川栄さんそれは、シンプルに皮膚科に行くことです(笑)。いまの時期は、花粉で肌が荒れることも多いですからね。そういうときは、皮膚科が一番だと思います。―確かに、それは大事ですね。それでは最後に、ananweb読者へメッセージをお願いします。川栄さんいまは仕事もリモートが増えているので、なかなか外に出られる機会がなくなっているかもしれませんが、そういうこともプラスにとらえられるようになるといいのかなと。家にいる時間を使っていままでできなかった趣味に取り組むのもいいですし、逆にたくさん休むのもありですよね。これは私にも言えることですが、コロナ禍が明けたときに何か役に立つものが身についていたらいいと思うので、みなさんも休みつつ、楽しいものを見つけてがんばってほしいと思っています。インタビューを終えてみて……。とても気さくで明るく、癒しのオーラを放っている川栄さん。子ども時代の思い出話には屈託のない笑顔を見せるいっぽうで、仕事に対しては真剣な眼差しで話されているのが印象的でした。劇中では、物語の大きなカギを握っている屁祖隠ちよめにぜひ注目です。ギャグも感動も満載の忍者アクション超大作!地球の未来と家族の明日を守るために立ち上がった“嵐を呼ぶ5歳児”しんのすけ。笑いに包まれるのはもちろんのこと、家族の絆が生み出す力には、大人でも思わず涙してしまうかも写真・山本嵩(川栄李奈)取材、文・志村昌美ストーリーひろしとみさえのもとに「しんのすけ」が誕生してから5年、嵐のような平和な日々を過ごしていた。ところがある日、5歳になる珍蔵という名の少年とともに屁祖隠ちよめと名乗る女性が野原家を訪れ、「私がしんのすけくんの本当の母親なんです」と打ち明ける。突然のことに戸惑いながらも、追い返すわけにもいかず、2人を野原家に泊めることに。しかし、その夜、謎の忍者軍団が突如襲い掛かる。ちよめはなんと、忍者の里を抜け出して追われているくノ一だったのだ!そしてその息子として、しんのすけもさらわれてしまうことに……。続きが気になる予告編はこちら!作品情報『映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』4月22日(金)より全国ロードショー配給:東宝©臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2022写真・山本嵩(川栄李奈)
2022年04月18日赤堀雅秋さんといえば、世の中の光の当たらない場所で生きる人々の、痛々しく情けなくも滑稽な姿を描いた作品で知られる劇作家で演出家。今や多くの俳優が出演を熱望するその人と、田中哲司さん、大森南朋さんたちの演劇ユニットによる新作舞台『ケダモノ』が上演される。田中哲司:なんか当たり前のように3作目がきましたね。大森南朋:2回目が終わったときの勢いで次が決まったようなものですね。田中:「またこのメンツでさぁ…」って次あるのが当たり前みたいに話したけど、考えてみると、このメンツでやれるってすごく幸せでありがたいことだよね。大森:稽古も本番もそれなりに大変…だけど、なんかほっとします。田中:でも1回目は楽しいばっかりだったのが、2回目は赤堀くんの厳しさが出て、「あれ?ちょっと大変かも?」ってなった(笑)。大森:そうですね。僕らから引き出そう引き出そうとしてくる。田中:感情を爆発させる場面とか、稽古段階から本番並みに要求されるから。本当に惨めなところを晒け出させられるというか。少しでも閉じていると、こじ開けられるという。大森:今回は楽しくできたらいいですね。田中:赤堀くんの作品って一貫してだらしないダメな人ばかり出てくるんだけど、今回も輪をかけてダメ人間の集合体。大森:これまでの2作より暴力的な感じですね。田中:登場人物にかわいげがない。まだ先が読めないけど、相当テンションの高いぶつかり合いになりそうな気がする。大森くんの役の人物紹介の最後に「クズ」って書いてあって、それがちょっと面白かった。大森:赤堀くんに普段そう思われているんじゃないかと心配になりました。今回少しダラシない役で、稽古終わって家に帰ってどんな顔していいのかわからないです(笑)。田中:僕は赤堀くんの台本はやりやすいんだよね。セリフがスッと入ってくるし、しゃべりやすいし。大森:僕は、このユニットでやってると、毎回キャッキャしちゃいます。とくに哲さんとの芝居はそう。田中:たまに笑いをこらえるのに必死になる。大森:仲のいい人との芝居は笑っちゃうんですよ。平静を装ってても、ふたりとも目の奥が笑ってたり。田中:でも、それくらい信頼してるってことで。普段板の上に立つときは緊張感を保っているけれど、大森くんとだと何が起きても何とかしてくれるから大丈夫って安心感がある。大森:それは僕もです。もちろんちゃんとやることはやるけれど、万が一何かミスしたとしても、どっちが何を間違えたのかわかんないくらいのニュアンスになりますし。田中:そこへの恐れは一切ないね。逆にミスも、どう挽回するかのチャンスくらいに思えるというか。前回俺、名前間違えたよね?大森:ありました!こともあろうに自分の名前を間違えるっていう…。笑いをこらえてスンとしてる哲さんを前に誰か笑うかなと思いきや、みんなスンとしてるもんだから、それを見てた僕が笑いそうになりました。田中:今回の共演者もすごそうだね。大森:(門脇)麦ちゃんとか、独特の雰囲気を持っていて、どこか底知れない感じがしてる。田中:今も素晴らしいけれど、伸びしろがどこまでもありそうで。大森:あめく(みちこ)さんはやっぱり手練だし。田中:(荒川)良々とも共演は久々だから楽しみ。何より結局、赤堀くんの作品が好きなんだよ。観るのもやるのも。たぶん僕は、たまたま東京に出て今こうして役者をやってるけど、田舎にいたら完全にそっち側の人間だった気がする。だから惹かれるのかなって思う。大森:赤堀くんの作品は、演劇ではあるんですけれど、表面的ではない人間のえぐった部分をちゃんと描いていると思うんです。じつは誰でも持っている狂気とか凶暴性とか、その先の絶望とか優しさとか、そういうものを生々しく見せつけるというか、見せてくれる気がします。田中:今回の僕らの目標は、どれだけクズになれるかだね(笑)。『ケダモノ』4月21日(木)~5月8日(日)下北沢・本多劇場作・演出/赤堀雅秋出演/大森南朋、門脇麦、荒川良々、あめくみちこ、清水優、新井郁、赤堀雅秋、田中哲司全席指定7800円ほかcontact@pragmax.co.jp札幌、大阪公演あり。たなか・てつし(一枚目写真左)1966年2月18日生まれ、三重県出身。出演映画『とんび』が公開中。『シン・ウルトラマン』は5月13日公開予定。9月には舞台『住所まちがい ‐Three on the seesaw‐』への出演も控える。おおもり・なお(一枚目写真右)1972年2月19日生まれ、東京都出身。出演映画『グッバイ・クルエル・ワールド』は今秋公開予定。また現在放送中の連続テレビ小説『ちむどんどん』(NHK)にも出演。※『anan』2022年4月20日号より。写真・小笠原真紀ヘア&メイク・TAKAHASHI(stereogn/大森さん)取材、文・望月リサ(by anan編集部)
2022年04月17日勉強や仕事以外でスキルアップしたい…そんなあなたは、“習い事”をチェック。普段の生活ではなかなか味わえないカルチャーを実際に体験することで、思わぬ才能に気づいたり、予期せぬ一生モノの学びを得られるかも。ここでは“農業”に注目します。「育てる」を習う。農作物など、何かを育てることに興味を持つ人が増加。栽培する楽しさや、収穫の喜びを知れるだけでなく、自然や健康に関する知識も増えて、大きな学びに!習い事:農業習っている人:俳優、モデルの石川 恋さんヘルシーで飾らない、ナチュラルな雰囲気を持つ俳優、モデルの石川恋さんが、“#恋の畑日記”と題して、農業を楽しむ姿をSNSで次々と公開し、話題に。「もともと野菜を食べることも、料理をすることも好きだったので、農作物を育てることにはずっと興味がありました。自社農園で育てたオーガニック野菜を提供するレストランをよく利用していたのですが、そこのスタッフの方に誘われて、昨年の3月にそこの農園を友達のトラウデン直美さんと一緒に訪れ、収穫体験を行ったのが始まりです。伺ってみると、まず驚いたのが野菜を作っているのが、私と同世代の方ばかりだったこと。若い方たちが有機野菜のおいしさを広めたいと、真剣に農業と向き合う姿に感銘を受けました。それに採れたての野菜のおいしさにビックリ!それまでニンジンと春菊は苦手だったのですが、収穫したてのものは苦みが少なく、生でそのまま食べたら、そのおいしさに衝撃を受けました」それ以来、農業の魅力に惹かれ、月1~2回のペースで農園に通って、苗の植え付けや収穫などのお手伝いをしているそう。「農家さんは、休日はほとんどなく、天候などの自然条件に大きく左右される仕事なので、毎日本当に大変です。だから私は農業をやっているとは到底言えませんが、毎回行くたびにいろいろなことを教わることで、大きな学びに繋がっています。行く時どきで作業は異なって、大豆を播種機で植えたり、雑草を抜いて畑の手入れをすることも。毎回農業の奥深さを肌で感じています。また、フードロス問題についても考え始めるようになりました。野菜は自由に生きている植物なので、形も大きさもまちまちなのは当たり前。でもスーパーには同じ形、大きさのものばかりが並んでいます。それは、市場に出回る野菜の規格が決まっているから。それ以外の不揃いの野菜の多くがそのまま廃棄されてしまっているのです。味は変わらずおいしいのにもったいなくないですか!?農家の方たちが手間ひまかけて作った農作物をいかに無駄にせず、どうやったら丸ごとおいしく味わってもらえるか、そういった問題にも向き合っていきたいです」もともとインドア派で家に籠もっているのが好きだった石川さん。農園に行くようになってからアクティブになったそう。「太陽の下で土に触れていると、すごくエネルギーがもらえます。それにこの2年近く、思うように外出できなくなったことで、大好きな仲間たちと一緒に畑に入ったり、収穫した野菜を食べたり、その何気ない時間をすごくいとおしく感じるようになりました。自然と触れ合うことの素晴らしさも知り、富士山に登ったり、ダイビングしたり、チャレンジ精神も旺盛になりました。自分で体験するからこそ得られることがたくさんある。これからも農業のことをどんどん学んで、発信していきたい。そしてゆくゆくは自家菜園にも挑戦してみたいです!」生育を助けるために間引きの作業を栄養満点のニンジンを育てるために、小さなニンジンを引き抜く「間引き」も野菜づくりに欠かせない作業。「間引いた野菜もおいしいので、この時は炊き込みご飯にして食べました」フードロス対策にもなる絶品レシピ!カリフラワーを使ってチャーハンに。「お米の代わりにして、細かく刻んで炒めるとおいしい!カリフラワーは一気に増える野菜。フードロスを生まないために工夫しています」野菜が持つ健康パワーは超偉大!栄養価の高い野菜の王様「ケール」は生命力が抜群。「森みたいに、もさもさとこんなに大きく育つ。バルサミコ酢と塩で和えるだけで美味!腸内環境が整い、体もどんどん健康に」いしかわ・れん俳優、モデル。1993年7月18日生まれ、栃木県出身。『CanCam』(小学館)専属モデル。映画『かそけきサンカヨウ』がAmazon Prime Videoで配信中。ドラマ『和田家の男たち』のBD&DVDが6月29日に発売。※『anan』2022年4月20日号より。写真・小笠原真紀ヘア&メイク・新地琢磨(sui)取材、文・鈴木恵美(by anan編集部)
2022年04月17日4月から始まる舞台『広島ジャンゴ2022』。広島の牡蠣工場と西部劇の世界を往き来するという奇想天外な設定で、さまざまな社会の不条理を浮き彫りにしていく作品だ。13年ぶりの共演となる天海祐希さんと鈴木亮平さんは、どんな化学反応を見せてくれるのだろうか。【Question1】13年前の初共演の時のこと覚えていますか?鈴木亮平さん(以下、鈴木):共演と言うにはおこがましいんですよね。『カイジ 人生逆転ゲーム』という映画なんですけど、当時僕は映像の業界に入ったばかりで、役も「黒服A」という、たまにしかセリフがない役だったので。現場で先輩方のお芝居を見て学ばせていただいていた時期でした。天海祐希さん(以下、天海):私は鈴木さんに対しては強烈な印象があります。笑顔がとても素敵だったのと、現場でちょっとお話しした時、いい意味で私に対して気負いも壁もなく自然体で。なんていうか、そこにたまたまいただけの人のような受け答えがとても印象に残って、この人誰だろう?って後から調べましたよ。鈴木:その話、すごい嬉しいですけど、多分僕、態度がデカかったんですよね(笑)。天海:ちがうちがう、そんなんじゃなくて。爽やかでサラッとしてて。短いやりとりだったんですけど、とてもいい印象が残ったんです。鈴木:天海さんが自然に話しかけてくださったので気負う必要がなかったんです。まるで以前からの知り合いのように接してくださって。天海:出来上がった映画を観た時に、鈴木さんが的確に動いていらっしゃったから、ああ、これからどんどん伸びてくる人なんだなって感じました。そうしたら、あれよあれよという間にご自分のポジションを確立されて、ああ、やっぱりな、なんて思ってました。鈴木:僕は、天海さんこそ壁をつくらない方だなと思いました。共演後にテレビで見ていても「あの時しゃべった感じとホント一緒だな」と感じたりして。それにしても、その方とこういうふうにまたご一緒できるというのは非常に感慨深いものがありますね。【Question2】役者としてのお互いをどう思っていますか?鈴木:天海さんはリズムがすごい。速いんです。だからストーリーがすごく面白く見える。そのリズムを勉強させてもらっています。もちろん速いだけじゃなく聞かせるところは聞かせていて、お芝居の緩急が見ていて一番面白いところにはまってくる。相手とキャッチボールしながらそれができるってすごいです。とにかく惹きつけられちゃうんですよね。天海:鈴木さんって、ものすごい熱量を持ってひとつの役に突き進む役者さんだと思います。お芝居は上手い下手っていうよりも、熱があるかどうかのほうが私は重要だと思っているんです。一方で、鈴木さんは作品のことも共演者のことも考えて演技ができる方。全体をとらえながら真ん中に立つことができる人ってそうそういない。人間としてのスケールが大きい人だなという印象です。鈴木:体も大きいし(笑)。天海:それもね、単純に私よりこれだけ身長の高い方と横に並べるのはすごく嬉しいなと思ってます。とても頼りにしています。鈴木:僕、大きいせいで快活な役や強い役、頼られる役が多いんですが、今回は板挟みでおろおろする役なんですよね。天海:振り回される役って実は大変。私の役はガンガンいけばいいけど、それを受けなきゃいけないから。鈴木:なるべく柔軟な姿勢で臨みたいと思ってます。実は天海さん演じる強いジャンゴに翻弄されるのも楽しみなんです。天海さんって、この人になら翻弄されたいっていう感じを出してくださる方だと思うので。天海:全力で鈴木さん演じるディカプリオを翻弄していかなくちゃね(笑)。自分の役を誠実にがんばればがんばるほど、鈴木さんを翻弄できるはずだと思ってます。【Question3】この舞台で楽しみにしていることは?鈴木:演出の蓬莱竜太さんとは今回が2回目なんですけど、ご本人の人間性や稽古場の雰囲気を含め、ぜひまた一緒にやりたいと思っていたのでそれが叶って嬉しいです。しかも共演が天海さんはじめ超一流の方々なので、楽しみでもあり、身が引き締まります。天海:蓬莱さんの作品は何回か拝見していて、いつかご一緒できたらと思っていました。深くて、鋭い何かでちょっと切られるようで、最後にどこか希望があって。そんな世界観の一員になれることが楽しみ。鈴木:気がかりなのは歌があることなんですよね…。さっきから天海さんにも相談してるんですけど。天海:物語の中にちゃんと入っていけば大丈夫ですよ。歌うのは役であって鈴木さんじゃないんだから。鈴木:僕、これがコロナ禍になって初めての舞台なんです。マスクしながら舞台の稽古をした経験がなくて…顔の下半分が見えないと伝わってくる情報がすごく減ると思うんですね。その時どんな気づきが生まれるのかはある意味楽しみです。天海:本当はね、食事に行ったりしてこのシーンはどうだとか、それは違うだろうとか、意見をぶつけ合ってコミュニケーションをとるのも舞台の素敵なところなんですけど、今回それが難しいので稽古場でそれをぶつけるしかない。お互い、心を動かし動かされながらやりたいですね。鈴木:同じセリフでも毎回違うのが舞台の魅力。ジャズでいうセッションみたいに、自由にアドリブを入れたりっていう楽しさがありますよね。天海:今日ここで人生終わっても構わない、なんてつい思いながら演じることができる場をもらえていることがすごく嬉しい。ありがたいな、幸せだなって思います。あまみ・ゆうき俳優。1967年生まれ、東京都出身。映画、ドラマ、舞台、CMで活躍。代表作は、ドラマ『離婚弁護士』『女王の教室』『BOSS』『緊急取調室』など。ワンピース¥55,000パンツ¥31,900(共にアドーア TEL:03・6748・0540)イヤリング¥60,500(シェイスビー/エストネーション 六本木ヒルズ店 TEL:0120・503・971)すずき・りょうへい俳優。1983年生まれ、兵庫県出身。本誌連載「鈴木亮平のシネマで英会話」でもおなじみ。映画『孤狼の血 LEVEL2』で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。ジャケット¥70,400パンツ¥35,200(共にウィーウィル TEL:03・6264・4445)Tシャツ¥17,600(08サーカス/08ブック TEL:03・5329・0801)靴¥71,500(パラブーツ/パラブーツ 青山店 TEL:03・5766・6688)COCOON PRODUCTION 2022『広島ジャンゴ2022』気鋭の演出家・蓬莱竜太が手がける異色の“ニュー”ウエスタン活劇。4月5日(火)~30日(土)東京・Bunkamuraシアターコクーン、5月6日(金)~16日(月)大阪・森ノ宮ピロティホールで上演予定。※『anan』2022年3月30日号より。写真・小川久志スタイリスト・大沼こずえ(eleven./天海さん)八木啓紀(鈴木さん)ヘア&メイク・林 智子(天海さん)古久保英人(Otie/鈴木さん)インタビュー、文・東海林美佳(by anan編集部)
2022年03月29日笑いと人情を粋にブレンドした時代活劇を、大音量のロックとド派手な演出で魅せる劇団新感線“いのうえ歌舞伎”。本来2020年に上演されるはずだったその舞台『神州無頼街』がようやくお目見えする。出演は、福士蒼汰さん&宮野真守さん。’17年にダブルチーム制で上演された『髑髏城の七人』Season月でそれぞれの主演を務めた二人が、町医者・永流(ながる)(福士)と陽気でお調子者の草臥(そうが)(宮野)のバディ役で念願の共演を果たす。ときに助け合い、ときに足を引っ張り合う仲良しバディが、幕末に踊り歌い暴れ回る。宮野真守(以下、宮野):初対面はたしか…『髑髏~』の事前取材だったよね。福士蒼汰(以下、福士):僕は当時のことをあまり覚えていなくて…。でも宮野さんのことは声優界で活躍されている方だと知っていたので、舞台でご一緒できることが意外でした。宮野:仲良くなったのは稽古中だったと思う。僕は殺陣をやるのがほぼ初めてで、時間にも追われる中でなかなか覚えられなくて。それで同じ役を演じる福士くんが(早乙女)太一くんと自主練するっていうときに、便乗させてもらったりして。福士:距離が縮まったのは、そのあたりから徐々にだと思います。マモちゃん(宮野さんの愛称)はたぶん僕に合う鍵を持ってたんだと思う。宮野:何それ。カッコいいな(笑)。福士:僕が何をしても受け入れてくれる包容力みたいなものを感じました。そうじゃなかったら、こんなに自分を出せなかったと思います。しかも、殺陣でどんなに疲れていても、素晴らしい発声でエモーショナルなお芝居をされて、さすが声優界のプリンスだなと…。感情に訴えかけるお芝居をされる方ということに、本当に驚きました。それまではお互い畑が違うと思っていたので、僕の中で少し距離がありましたが、今はすごく尊敬しています。宮野:(嬉しそうに)ありがとう!蒼ちゃんはお茶目な人だけど、自分のやるべきことに対してストイックでまっすぐで、そのピュアさが…。福士:(喋る宮野さんのほうに体ごと向いてじーっと凝視)宮野:(気にせず)今回演じる永流っていう役にも反映されているよね。あと本読みで、第一声を発したときのヒーロー感っていうのかな、それが役にも本人にもあるんだなって。福士:(満面の笑みで)マモちゃんの“口出し屋”というのもぴったりです。こんなサービス精神旺盛な人、他に見たことない。宮野:そこを(脚本の中島)かずきさんが拾ってくれたんだろうね。福士:相手を言葉で言いくるめるシーンは、まさにそうですね。でも同時に、草臥の抜け出したい過去のような部分をマモちゃんも持ってる気がする。闇を感じるというか…。宮野:まあ宮野も抱えてるものはあるかもね…ということで(笑)。今回の舞台は、華やかで、歌あり踊りあり、アクションありの新感線らしさもありつつ、任侠の世界っていうこれまでと違うチャレンジをしていますね。侍ではないので時代劇だけど“喧嘩”な空気が強いし、喋り口調も見得の切り方もちょっと違うし。福士:どこかポップで現代のように感じるのはそこかも。僕は医者の役だから任侠とは違うけど、義理人情が厚くてクサくてカッコいいなと思っています。宮野:毎公演、命懸けで演じています。でも、だからこそ生まれてくる“命懸け”の表現ってあると思いますし。福士:今回もお客さんが観て気持ちいい瞬間が、きっと多いと思います。2022年 劇団新感線 42周年興行・春公演いのうえ歌舞伎『神州無頼街(しんしゅうぶらいがい)』清水次郎長が、宴席に突如現れた新顔の侠客・身堂夫婦(松雪・髙嶋)にサソリを仕掛けられ、あわや死の寸前で町医者の永流(福士)に助けられる。一連の出来事を目にした草臥(宮野)は、事件に首をつっこみ…。作/中島かずき演出/いのうえひでのり出演/福士蒼汰、松雪泰子、髙嶋政宏、粟根まこと、木村了、清水葉月、宮野真守ほか大阪公演/3月17日(木)~29日(火)オリックス劇場S席1万5800円ほか静岡公演/4月9日(土)~12日(火)富士市文化会館ロゼシアター 大ホールS席1万4800円ほか東京公演/4月26日(火)~5月28日(土)東京建物 Brillia HALLS席1万4800円ほか大阪・静岡/キョードーインフォメーション TEL:0570・200・888東京/サンライズプロモーション東京 TEL:0570・00・3337左・ふくし・そうた1993年5月30日生まれ、東京都出身。2017年の劇団新感線『髑髏城の七人』で初舞台を踏み、’20年に『浦島さん』にも出演。現在、主演を務めるAmazon Originalドラマ『星から来たあなた』が配信中。福士さん・ジャケット¥140,800シャツ¥156,200パンツ¥81,400靴¥74,800(以上ヨウジヤマモト TEL:03・5463・1500)その他はスタイリスト私物右・みやの・まもる1983年6月8日生まれ、埼玉県出身。声優として数々の作品で活躍する一方、歌手としても活動。舞台出演も多く、近作にミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』Season1、『ウェイトレス』など。※『anan』2022年3月16日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・小松嘉章(nomadica/福士さん)横田勝広(YKP/宮野さん)ヘア&メイク・高橋幸一(Nestation/福士さん)Chica(C+/宮野さん)取材、文・望月リサ(by anan編集部)
2022年03月14日古今東西、数多のクリエイターが言葉では表現しきれない“焦がれる気持ち”を映画やドラマに投影してきた。愛の正体に迫り、考えるきっかけを与えてくれる至極の作品を、セレクターに選んでもらいました。合理的じゃない純愛にも人間らしい美しさがある。ハッピーエンドのわかりやすいラブストーリーより、観賞後に余韻が残る作品に惹かれてしまうという霧島れいかさん。俳優として『ノルウェイの森』や『ドライブ・マイ・カー』など名作文学を原作とする映画で活躍してきた彼女にとっても、“愛”は答えの見えない永遠の未解決問題だという。「普段は韓国の恋愛ドラマや大好きなブラッド・ピットの映画をチェックして目の保養をすることもありますが(笑)。観賞後、記憶に残るのは、ちょっと複雑でイビツに見える愛のカタチが描かれた作品です。愛というものをわかったつもりになっていた自分に、新たな問いを与えてくれるような…。そんな傾向を反映して、今回は“クセの強い”作品ばかりを選んでしまいました」実際、他者と愛を育むのは簡単なことではなく、嫉妬心や不信感を募らせ、見苦しい姿を晒してしまうことも。スマホのような便利なツールがない時代は、恋人同士のすれ違いも多かったからこそ、愛に翻弄されてきた人間の歴史が名作映画には刻まれている。「抑えられない衝動に突き動かされてしまい、愛に振り回される登場人物の姿が、今の若い人たちには痛々しく見えるかもしれません。でも、たとえ合理的ではなくても、愛を求めてガムシャラに突き進む恋人たちの物語を、私は美しいと思うんですよね。むしろ、第三者から見たら障害だらけの非効率な恋愛でも、諦めずに貫きたくなるのが“純愛”なのかなと。『オアシス』や『COLD WAR』は、そんな生々しくも人間らしい純愛を描いた作品としてセレクトさせてもらいました」「この人だ!」と思ったら、周囲に何を言われても自分の気持ちを貫きたい。最初は多くの人がそう思うけれど、実際に行うのは難しいのも事実。些細なきっかけで相手を疑ってしまったら、途端に愛は歪んでしまうことも。「結局のところ、純愛=相手を一途に信用することだと思うんです。どこまで自分の気持ちを突き通せるか、なのかなと。反対に相手のリアクションを求めていると、何かが起きるたびに不安を掻き立てられてしまう。間違った方向に意識と熱を注いでしまい、どんどん不幸の連鎖が起きてしまうような気がします。『さざなみ』や『ドライブ・マイ・カー』は、そういった人間の心の迷いが丁寧に表現されている秀作。お互いにひとつも隠し事がない状態が愛なのか、どこまで相手を信じるべきなのかと、それなりに経験を積んだ大人でも判断が難しいテーマが内在している作品だと思います」また映画を通して、そういった複雑な感情を味わえば、想像力に広がりが生まれることも。さらに人間の強さや弱さ、多様な価値観を知り、他者を受け入れる準備が整うこともある。少なくとも作り手側は、そんな願いを込めて撮影に挑んでいると霧島さん。「生々しい描写が苦手で、セックスシーンに嫌悪感を抱く人もいるかもしれません。それは生理的な感覚なので仕方がないですが、ネットを介したコミュニケーションばかりで、人と向き合うことから離れてしまうと、コミュニケーションにおいて相手の気持ちを推し量る想像力を失ってしまう気もします。結果的に、自分しか愛せないことになってしまいかねないと思うんです。だから、ときにはこういった感情のうねりを描いた映画もチェックして、友達と感想を共有してみてほしいですね」“変化球”の作品ばかりではなく、ときには王道のラブストーリーを観て、原点に戻ることも大切だと考えているそう。「私も幅広いジャンルの作品を観るようにしていますが、なんだかんだ言って、恋愛系に関しては王道の作品にときめいてしまうんですよね。以前は謎めいた男性に惹かれたり、悪そうな男性に振り回される恋愛に憧れる時期もありましたが、いろんな経験をしたうえで、今は何周か回って原点に戻りたい気分なんです。久しぶりに『ロッキー』を観て、“やっぱりコレでしょ”って思ったりして(笑)。ロッキーみたいに、自分のために真っすぐに戦ってくれる男と愛し合うことも女の幸せ。まだまだエイドリアンになりたい願望を捨てきれない今日この頃です」なりふり構わず求め合う無様で美しい純愛のカタチ。『オアシス』ひき逃げ死亡事故で服役していた青年ジョンドゥ(ソル・ギョング)は、出所して家族と再会するも社会不適合者として疎まれてしまう。後日、被害者の娘である脳性麻痺の女性コンジュ(ムン・ソリ)と出会い、互いに惹かれ合う。「世間体や偏見で埋め尽くされた社会から疎ましく思われても、なりふり構わずに二人だけの世界を築いていく。本能的に求め合う様子が生々しく、無様で、だからこそ美しくも見えてしまいます。愛が通じ合ったときの人間の強さを感じ取れる作品ですね」。Blu-ray¥5,170(ツイン)© 2002 Cineclick Asia All Rights Reserved.長年築き上げた愛にほころびが生じる。犯人は自分の嫉妬心。『さざなみ』長年連れ添った夫婦の元に、1通の手紙が届く。それは夫の元恋人の遺体が発見されたというものだった。「夫が過去の恋愛を反芻するようになり、妻はもうこの世に存在しない女への嫉妬心や夫への不信感を募らせていく。この映画を観ると誰もが、『愛とは何か?』と考えさせられると思います」。DVD¥4,180(TCエンタテインメント)©The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014抑圧されてきた性欲を解放する。その愛は狂気だった。『ピアニスト』厳格な母親に厳しく育てられたピアノ教授のエリカは、性的に抑圧されて育ったため歪んだ性欲を肥大化させていた。「年下の美青年にアプローチされ、エリカはずっと妄想の世界で楽しんでいた性的嗜好を打ち明けます。でも期待していたような喜びは得られず、彼とすれ違い…。極めて人間らしい姿に圧倒されます」。DVD¥4,180(TCエンタテインメント)©2001 Wega Filmproduktionsgesellschaft MBH/ MK2 SA/ Arte France Cinema/ Les Films Alain Sarde.冷戦、亡命、逃避行。恋人たちが命がけで愛を貫く時代の物語。『COLD WAR あの歌、2つの心』冷戦下の1950年代、時代に翻弄される恋人たちの姿を、美しいモノクロ映像で描き出す。「政府に監視されながらも再会を諦めない二人。愛を貫くという選択の重みを感じられます」。Blu-ray¥5,280(発売元:キノフィルムズ/木下グループ販売元:ハピネット・メディアマーケティング)© OPUS FILM Sp. zo.o. / Apocalypso Pictures Cold War Limited / MK Productions / ARTE France Cinema / The British Film Institute / Channel Four Televison Corporation / Canal+ Poland / EC1 Lodz / Mazowiecki Instytut Kultury / Instytucja Filmowa Silesia Film / Kino Swiat / Wojewodzki Dom Kultury w Rzeszowie肉体も精神も強い男が一途な愛を証明する!!不朽の胸キュン作品。『ロッキー』スラム街に暮らす4回戦ボクサーのロッキーが、愛する女性エイドリアンのために世界チャンピオンと死闘を繰り広げる。「一途に気持ちを向けてくれて、不屈のメンタルで逆境に立ち向かう。実は『ロッキー』こそ、乙女心を強く刺激してくれる男性像が描かれた完璧な恋愛映画。言わずもがな、スタローンの肉体美は理屈抜きで女を惑わせます(笑)」©Everette Collection/アフロ大切な人の秘密を探り、真相を暴こうとする。それは“愛”なのか?『ドライブ・マイ・カー』演出家の家福悠介(西島秀俊)が、広島の滞在先から仕事場へ愛車で向かう道中で、2年前に亡くなった妻(霧島れいか)が残した秘密に気づいていく。「誰しも少なからず秘密があるなか、相手の全てを知ろうとすることが愛と呼べるのか、どんな真相が待っていても、受け入れることができるのか、愛をめぐる奥深い問いかけに満ちた映画だと思います」全国公開中©2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会霧島れいかさん1972年生まれ。新潟県出身。モデルとしてデビュー後、’98年から俳優として活動し、多数の作品に出演。米アカデミー賞4部門にノミネートされた『ドライブ・マイ・カー』にも出演。ミステリアスな存在感を生かし、数々の作品で色気をまとう女性を体現してきた。※『anan』2022年3月9日号より。イラスト・green K取材、文・浅原 聡(by anan編集部)
2022年03月06日NHK連続テレビ小説『スカーレット』の十代田八郎や、『最愛』の“大ちゃん”こと宮崎大輝など、日本中が焦がれる役を演じてきた俳優・松下洸平さん。シンガーソングライターの顔も持っている彼が主演をつとめるのは、音楽劇『夜来香(イエライシャン)ラプソディ』。第二次世界大戦末期の混沌とした上海を生きる、作曲家・服部良一を演じる。「服部さんは、まさに音楽に恋い焦がれた人です。生きることさえ困難であった時代の中にありながら、音楽のことを一番に、最優先に考えている。欲得を考えず、ただそれが好きだからという想いだけで突っ走る彼のピュアさを軸に演じることで、服部さんの生き様を表現できたらと。僕はいつも、台本をいただくと、最初に、役の人物像を探るんです。この人はどういう性格なのか、世の中のことにどれくらい目を向けているのか。そうして、芯のような、人間でいう骨格の部分を作っていきます。それから、セリフを覚え、共演者の皆さんと声を合わせ、演出家と話し合いながら肉付けをしていく。途中、自分が想像もしていなかった形に役が変化して迷うこともありますが、そんな時は最初に自分が描いた像を思い出すと、原点に立ち戻れる。一番シンプルな役作りの仕方だと思っています」服部さんのピュアな生き方に憧れながらも、「そうあり続けるのは簡単ではないですね」と微笑む。「いろいろな欲が出たり、他人を顧みず我を通したい時もありますから。ただ、総じて、この仕事が好きだからこその行動ではあるんですけど。僕はどちらかというとピュアでまっすぐに役を演じようと思ってやってきましたが、服部さんとくらべると、ピュアさは足りないなと思いますし、見習わなきゃとも思っています。八郎や大輝もそうですが、演じた役を素敵に思っていただけることは、もちろん嬉しいです。だからこそ、役を剥ぎ取った自分も、僕なりの魅力をちゃんと備えていかないと、とは思っています。作品はいつか終わるけど、僕自身は終わらず続いていくわけですから。自分以上に役が大きくなるのは、嬉しいと同時に、背筋も伸びます」一方で、これまでとは違う雰囲気を纏う役にも挑戦したいという。「今日の撮影のような妖艶なムードのものや、泥くさい役もやってみたいんですが、まだ経験がないですね。皆さんが僕に抱いてくださっているイメージも大事にしたいとは思いますが、逆に、常に新しいことにトライすることは忘れず、自分の中にまだ秘めているものや、隠している感情も開放して、“気持ちよく裏切る”ことができればいいなと思っています」あらためて、今号の特集テーマである“焦がれる気持ち”について尋ねてみると、少し時間を置いた後にこんな答えが返ってきた。「一途で、まっすぐな気持ちではあるけれど、一方的に想いを馳せている感じがします。焦がれている対象とはしっかりと繋がっておらず、少し孤独を感じる。陰か陽かでいうと陰な感じです」松下さん自身、そんな焦がれる気持ちを常に感じているという。「誰かに認められたい、褒められたいという欲に対してですね。ものづくりが仕事なので、自分たちが作ったものを見せたいし、見せたら褒められたい。もちろん、“好きで作っているんだから何も言われたくない”という人もいると思いますが、僕は割と単純で、欲しがりなんです(笑)。もちろん、褒められるばかりではなく、思わぬ反応がくることもありますが、全部ひっくるめて成長のきっかけになると思いますから」“一人の時間”も欠かせない。「仕事で誰かと一緒にいるのは好きだし、エネルギーをもらえる大事な時間です。でも、誰とも会わないというだけじゃなく、何も考えない一人を楽しむ時間も必要ですね。たそがれたり、将来や家族のことなど、エモいことをぼーっと考える瞬間もきっとあると思うんですが(笑)、それさえも考えないことが、僕には必要なんですよね。昔からそうで、小学生の時、友だちと遊ぶのが好きなのに、たまに誘いを断って田んぼでカモをぼーっと見ることが好きでしたから(笑)。観察日記もつけていましたよ。今は、ドライブや散歩が大切な時間です」さまざまな作品を経験したことで、最近、仕事における新たな目標が生まれたと松下さん。「昔にくらべて、責任の大きさを実感する仕事が増えてきました。スタンスや芝居に取り組む姿勢は変わらないけれど、一つの作品を大事にしながら、同時に別の大事にしなければならないものがあったり。だからこそ、服部さんではないですが、大好きな仕事に対して、よりピュアでいたい。これからずっと変わらない目標です」まつした・こうへい1987年3月6日生まれ、東京都出身。主演舞台cube 25th presents音楽劇『夜来香ラプソディ』が3/12から、東京・Bunkamuraシアターコクーンほか、名古屋、大阪、長岡で上演される。3/14にデジタルシングル「KISS」が配信。4月クールのドラマ『やんごとなき一族』に出演。ジャケット¥60,500シャツ¥49,500パンツ¥31,900(以上CINOH/MOULD TEL:03・6805・1449)靴¥12,100(RIVIERAS/アマン TEL:03・6418・6039)※『anan』2022年3月9日号より。写真・樽木優美子(TRON)スタイリスト・丸本達彦(UNFORM)ヘア&メイク・KUBOKI(Three PEACE)取材、文・重信 綾(by anan編集部)
2022年03月06日いくつになっても青春の楽しさを味わいたいものですが、そんな欲求に応えてくれる1本といえば、アニメ映画『ブルーサーマル』。上昇気流に乗って空を飛ぶ航空機・グライダーというスポーツを通じて成長し、恋愛や友情に悩む若者たちの姿が幅広い層から共感を集めています。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。堀田真由さん【映画、ときどき私】 vol. 463“ネクストブレイク必至”として注目を集め、現在は女優、モデルとして活躍している堀田さん。本作では、キラキラな大学生活を夢見ている一生懸命な主人公の都留たまきを演じ、声優に初挑戦しています。今回は、声優として味わった苦労や学生時代の思い出、そしてこれからのことについて語っていただきました。―以前から声のお仕事をやってみたいと思われていたそうですが、そう考えるようになったきっかけはありましたか?堀田さん自分ではあまり意識していませんでしたが、周りの方から声をほめていただくことが多く、自分の声に対する“気づき”があったのがはじまりでした。そこからいつかアニメーションやナレーションといった声のお仕事ができたらいいなと。そんななかで、この作品のことを知り、ぜひ私も参加したいと思ってオーディションを受けることにしました。―オーディションの前に、特別な準備などもしましたか?堀田さん家でセリフの練習はしましたが、ほかに何をしたらいいのかまったくわからなかったので、とにかくフラットでいることを意識しました。あとは、『ブルーサーマル』のタイトルに合わせて、願掛けでブルーのセーターを着ていったくらいですね(笑)。全部にぶつかっていく思いで挑んだ―実際、手ごたえを感じる瞬間もありました?堀田さんそこで自分ができることは精一杯できたかなとは思います。ただ、役が決まってからは周りが声優の方々ばかりだったので、「私で大丈夫なんだろうか」と不安になったことも。でも、やり始めたらすごく楽しかったので、いまはまたぜひやりたいという気持ちでいっぱいです。―演じるうえで苦労したのは、どのあたりでしょうか。堀田さん普段、私は関西弁を使っていますが、長崎弁は話したことがなかったので、本当に大変でした。声優が初めてなうえに、方言も初めてでまさにダブルパンチ。そんななかでも、いろいろな練習をしたり、現場で教えていただいたりしながらできるようになっていった感じです。あとは、テクニック的なことよりも、一生懸命なたまきの気持ちがしっかりと伝わればいいなと。わからないことだらけでしたが、「全部にぶつかっていこう!」くらいの思いで挑みました。―初めてのアフレコ現場ということで、驚いたこともあったのではないかと思いますが。堀田さんそうですね。いつもはすべてのセリフを頭に入れた状態で現場に行くので、台本を見ながらお芝居をする感覚は不思議でした。台本の持ち方から立ち方、ページをめくるタイミングまでびっくりすることはたくさんありましたが、いろいろと学ぶことは多かったです。努力していれば、無駄になることはない―ご自身もたまきと同じように、10代で滋賀から単身で上京を経験されています。演じるうえで、当時のことを思い出すこともあったのでは?堀田さん私の場合は、夢を叶えるために出てきたので、そのとき抱えていた思いはたまきとは少し違うかもしれませんが、「人生は何があるかわからないな」という気持ちは近いと感じました。―たまきは偶然の出会いから思いがけない方向へと人生が進んで行きますが、ご自身にも似た経験があったということですか?堀田さん私は自分の意志でこの仕事を選びましたが、最初は受かると思っていなかったので、「とりあえずオーディションに行ってみよう」くらいの感覚でした。ただ、そのときにいまのマネージャーさんが私を見つけてくれたおかげで、人生が大きく変わったと感じています。―とはいえ、その過程でくじけそうになったことはないのでしょうか。堀田さんいまはいろいろなことを考えてしまいますが、10代のときのほうが怖いもの知らずでしたね(笑)。ただ、たとえ夢が叶わなかったとしてもちゃんと努力をしていれば、絶対に無駄になることはないと昔から思っていたので、ダメ元でもオーディションに向けて準備することが大事だといつも考えていました。おいしいご飯を食べているときが一番幸せ―そういう積み重ねがいまに繋がっているんですね。では、青春の思い出といえば?堀田さん昔は美容にもあまり興味がなかったので、日焼けで真っ黒な“スポーツ女子”みたいな感じでした(笑)。高校生になってからは、学業とレッスンと現場をかけ持っていたので、いま思うとある意味あのときが青春だったなと思います。―本作では、空の映像も圧巻でしたが、実際にグライダーで飛んでみたい場所はありますか?堀田さん地元である琵琶湖や自分が住んでいた街の上を飛んでみたいですね。とはいえ、実は高いところが苦手で、飛行機もあまり得意ではないんですけど……。ただ、映像として完成したものを観たときは、乗ってみたいなと思いました。―劇中でブルーサーマルをつかまえると幸せになれると言われていましたが、いま堀田さんが幸せを感じる瞬間は?堀田さん仕事をしているときやクランクアップの瞬間は幸せですが、やっぱり一番は、そのあとにおいしいご飯を食べているときです(笑)。最近は、韓国料理にハマっています。大切なのは、疲れを次の日に持ち込まないこと―とはいえ、やはり体のことを気遣った食生活などを送っているのでしょうか。堀田さんモデルのお仕事もしているので、「ちゃんとしなきゃ」とは思うんですけど、実はまったく何も意識していなくて……。とにかくいまを楽しみたいという気持ちのほうが強いので、ついいっぱい食べてしまいます(笑)。―では、その代わりに美容法として毎日していることがあるとか?堀田さんどれだけ忙しくても、湯船にはちゃんと浸かるようにしています。その日の疲れはその日のうちに取りたいので、湯船でしっかりとリラックスするというのは続けていることです。というのも、なるべく次の日に持ち込まないというのは大事だなと思うので。悩みを抱え込んでしまいそうなときは、ドラマや映画を観たり、小説を読んだりして、一旦違う世界に行くように心がけています。あとは、なるべくひとりの時間を作ること。自分自身と対話しながら、いまどういうコンディションなのかをチェックするように意識しています。寝る前にその日あったいいことを考えることもありますが、そんなふうに前向きな気持ちで寝るのもオススメです。この作品が何かのきっかけになってほしい―それなら誰でもすぐに実践できそうですね。今回は声優に初挑戦しましたが、これから挑戦したいことを教えてください。堀田さん長く仕事を続けていると、だんだん初めてのことが少なくなってきますが、最近楽しかったのは、ラジオのゲストに初めて呼んでいただいたときのこと。「やっぱり私は声のお仕事が好きなんだなぁ」と改めて感じたので、これからも声を使ったお仕事をもっとしていけたらいいなと思っています。―それでは最後に、ananweb読者へのメッセージをお願いします。堀田さんいまは前向きな気持ちになれないときもあるかもしれませんが、エンターテインメントに救われることもあるので、この作品がみなさんにとって何かのきっかけになってもらえたらいいなと思っています。映像もとてもキレイなので、ぜひ映画館でご覧いただきたいです。インタビューを終えてみて……。たまき同様に笑顔がステキで、何事にも一生懸命なところが伝わってくる堀田さん。劇中では、声優初挑戦とは思えない見事なハマりっぷりを見せています。透明感がありながら、お茶目さもある魅力的な声にぜひ注目です。どこまでも飛んでいける可能性を感じる!「スポーツ・恋愛・青春」の三拍子に加え、まるで空を飛んでいるかのような美しい映像も満喫できる本作。もがきながらも前に進もうとする主人公たちから、自分を信じて飛び出す勇気をもらえるはず。あなたも幸せになれる風に乗って、どこまでも遠くへ飛んでみては?写真・山本嵩(堀田真由)取材、文・志村昌美ドレス¥148,500、ジャケット¥137,500、シューズ¥80,300/すべてPlan C(パラグラフ03-5734-1247)ストーリー「キラキラな恋がしたい!」と普通の大学生活に憧れて長崎から上京した都留たまき。ひょんなことから体育会航空部の雑用係をすることになってしまう。思い描いていた大学生活とかけ離れた環境に不満を抱いていたが、主将の倉持が操縦するグライダーで空に飛び立った瞬間から、その世界に魅了されていく。気がつけば、ともに練習に励む先輩や同期との間にも固い絆が生まれていた。そんななか、仲たがいしていた姉や強力なライバルがたまきの前に現れる。果たしてたまきは“幸せになれる風=ブルーサーマル”を捕まえることができるのか……。吸い込まれるような予告編はこちら!作品情報『ブルーサーマル』出演:堀田真由島﨑信長榎木淳弥小松未可子小野大輔白石晴香大地葉村瀬歩古川慎高橋李依八代拓河西健吾寺田農原作:小沢かな『ブルーサーマル―青凪大学体育会航空部―』(新潮社バンチコミックス)監督:橘正紀脚本:橘正紀高橋ナツコ主題歌:「Blue Thermal」SHE’S(ユニバーサル ミュージック)挿入歌:「Beautiful Bird」SHE’S(ユニバーサル ミュージック)アニメーション制作:テレコム・アニメーションフィルム製作:「ブルーサーマル」製作委員会3月4日(金)全国公開配給:東映映画公式Twitter/Instagram:@eigabluethermal© 2022「ブルーサーマル」製作委員会写真・山本嵩(堀田真由)
2022年03月03日公開を控えている映画『やがて海へと届く』では、主人公の真奈(岸井ゆきの)とすみれ(浜辺美波)の、大学時代からの友人・遠野を演じている杉野遥亮さん。真奈が、ある日突然姿を消した親友のすみれの秘密を探りながら進むこの物語。原作の幻想的な世界観を、一部アニメーションで表現し、映像とコラボレーションさせる手法も話題になっている。「完成作を観て、切なくて儚い、そんな感情に胸が締め付けられましたが、アニメと実写を組み合わせた表現は、すごく新しくて、映像もとても美しかったです。中川(龍太郎)監督とは、人の本質を探る話をしたことが印象的で、感情の奥深くにあることの方が、表面にあることよりも現実だったりするという、監督の哲学的な考えにもすごく共感できました。僕にとってとても有意義な現場だったし、新たな経験がまたひとつ増えた気がします」遠野のような、ごく“普通”の青年役から、恋に一途な“ヤンキー君”、時には小学3年生男子まで、幅広い役を柔軟に受け入れて演じるという、役者としてのスキルの高さに注目が集まっている杉野さん。この日の撮影でも、カメラの前に立つと、黙々と、そして軽やかにポーズを変えながら応じていた。時折カメラに送る目線には、クールな色気を含んでいる。杉野さんの考える“色気”とは、どんなものか。「色気とは他人が感じるもので、自分で認識するものではないと思っているし、僕が色気について話すなんておこがましいというか…。ただ、色気とは何かを考えると、見た目の作り込みではなく、懐の深さや視野の広さ、誰かを愛し続ける強さを持つような、精神的部分から生まれるものなのかな。そして日々、相手にも自分にも、嘘をつかずに正直に生きること、そんな積み重ねもいつしか色気になるのかもしれないです。ちなみに僕が色気を感じるのは、漫画『ONE PIECE』に登場する“白ひげ”。自分の身をもって経験してきたことから生まれる包容力は、主人公のルフィをも超える色気となって表れていると思います。たくさん傷つきながらも、怯むことなく新たなチャレンジを続ける者だけが、手にした強さには憧れます。だから僕も、先回りして結論を知るより、経験して失敗したことを自らに刻み込みながら、辛くても人生に立ち向かいたいと思っています」一方で、華やかな色気に心を奪われることも。「映画『マイ・フェア・レディ』の、オードリー・ヘップバーンの美しいオーラにはハッとしました。見た目だけではない美しさを感じ、不思議と気持ちが晴れました。並大抵の精神力では保てないであろう、美しい心から放たれる色気は、最強です」役に色気を求められた時は、どのように演じるのだろう。「まず、監督が求めるものと、自分が考えるものを擦り合わせて、どの類の色気なのかを明確にすることから。精神から生まれる色気や、肉体的な色気など、色気の解釈は人それぞれだし、いろいろな種類がありますから」色気の源は、あくまでも自分の内側にあるとしながら、仕上げに身に纏うなら“香水”だという杉野さん。「一つだけ愛用している香水がありますが、でも色気のためにというよりは、お守り代わり。昔の人は香りを、身を守るものとして使っていたと聞き、すごく納得できて。僕も、心の強さを保てなくなった時や、自分に戻るという意味でその香りを大切にしています」すぎの・ようすけ1995年9月18日生まれ、千葉県出身。出演映画『やがて海へと届く』は4月1日より公開。現在放送中のドラマ『妻、小学生になる。』に出演中。ジャケット¥123,420シャツ¥82,060パンツ¥73,700(以上ナヌーシュカ/ヒラオインク TEL:03・5771・8809)パール×シルバーネックレス¥121,000(シンゴクズノ/シアンPR TEL:03・6662・5525)その他はスタイリスト私物※『anan』2022年3月9日号より。写真・土屋文護(TRON)スタイリスト・Lim Lean Leeヘア&メイク・後藤 泰(OLTA)取材、文・若山あや(by anan編集部)
2022年03月03日DV、セックスレス、夫の浮気など、さまざまな悩みを抱えた妻たちの“禁断の愛”を描き、大きな反響を呼んでいるNetflixシリーズ『金魚妻』。配信開始後から人気を博し、国内の「今日の総合TOP10」でもつねに上位にランクインするほどの盛り上がりを見せています。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。篠原涼子さん【映画、ときどき私】 vol. 462劇中で、主人公である“金魚妻”こと平賀さくらを演じている篠原さん。夫からのDVやモラハラに苦しむ日々を送っているなか、金魚屋を営む春斗と運命的に出会い、一線を越えてしまう様子が描かれています。今回は、演じるうえで意識したことや現場の様子、そしていま叶えたい夢などについて語っていただきました。―まずは、本作に出演したいと思った決め手から教えてください。篠原さん以前から地上波では難しい作品に挑戦してみたいなという気持ちがあったので、この作品のオファーをいただいたときはチャンスだなと。特に、世の中の女性たちが秘めている気持ちを表現できるところにもおもしろさを感じたので、すぐにお引き受けしました。―さくらを演じるうえで、どういったことを意識されましたか?篠原さんさくらはどちらかというとか弱い女性ですが、これまでの私は強い女性を演じることが多かったので、か弱さをどう出すかというのは慎重に考えました。ただ、それだけでは人間味がなくなってしまうので、自分を守ろうとする芯の強さみたいなところは持っていたいなと。自分を大切にしたいとか他人に対する思いやりには共感できたので、演じやすいキャラクターではありました。―本シリーズには、金魚妻のほかに外注妻、弁当妻、伴走妻、頭痛妻、改装妻といったさまざまな秘密を抱えた妻たちが登場します。篠原さんが気になったのはどの妻でしょうか。篠原さん一番好きなのは、やっぱり自分が演じた金魚妻ですが、意外性があっておもしろかったのは弁当妻。一視聴者としても「もしこんなことが起きたら……」と考えて、すごくドキドキしてしまいましたから。想像を超えてくるところもあったので、見応えがありましたね。みなさんも、「自分だったらどれかな?」と当てはめながら観るのが楽しいと思います。ひらめきと刺激をもらいながら演じていた―今回、相手役を務められた春斗役の岩田剛典さんとの共演で、印象に残っていることがあれば、教えてください。篠原さん岩田さんとは同じ場所での撮影が多かったので、浅草に行ったシーンでは本当に外に遊びに行っているような感覚で楽しかったです。現場では彼のお芝居を見て、「こうくるなら私はこういう表現にしてみよう」といった感じでひらめきをいただきながら演じさせてもらいました。―役者としてインスピレーションをもらえる存在だったと。篠原さんそうですね。岩田さんはとても真面目で、ひとつひとつのお芝居をとても丁寧に大切にする方なので、刺激をもらいつつ私はそれを乱さないようにしていました。―篠原さんから見た岩田さんの魅力といえば?篠原さん全部が魅力的だと思います。気さくで、本当に気遣いができる方ですし、集中力もとてつもなく高いので、すべてにおいてきちんとされている方だという印象を受けました。―そんな岩田さんに、多くの女性たちがキュンとしてしまいますが、篠原さんもキュンとしたシーンはありましたか?篠原さんたくさんありましたね。なかでも、春斗の肩に湿布を貼ってあげるシーンで、部屋から出て行こうとした瞬間に後ろから腕をつかまれて引き戻されるところはいいなと思いました。本当は行きたくないけれど、その気持ちを出してはいけない場面だったので、止めてくれる彼の熱意がすごくうれしく感じたシーンです。運命の出会いがあると信じていたほうが楽しい―本作では、おふたりの刺激的なシーンも話題となっていますが、撮影はどのように進められていったのでしょうか。篠原さんまず初めに何となく流れを決めてから取り掛かりましたが、技術的なことも含めたうえでやってみないとわからないことのほうが多かったので、いろいろと話し合いながら進めていきました。―本作のキャッチコピーのひとつに「その愛は裏切りか、運命か」というのがありますが、篠原さんは運命の出会いは信じている?篠原さん私は絶対にあると思っています。特にこういうお仕事をしていると、恋愛に関わることだけでなく、運命的な出会いはたくさんありますから。それに、運命の出会いがあると信じて生きていたほうが楽しいんじゃないかなと。みなさんにもこういった作品を通して、夢心を抱いていただけたらと思います。―前回取材時に、「念じていれば思いは絶対に叶う」という気持ちをつねに大切に持っていらっしゃるとお話されていたことがありましたが、いま叶えたい夢は何ですか?篠原さん『金魚妻』を全世界の方々に観ていただけること。まずはそれを願っています。―配信が始まってから、すでに反響を感じているのでは?篠原さんまだ自分で調べたりはしていないので、いまのところはスタッフの方からいただいた感想を聞いているところですが、これからチェックしてみようかなとは思っています。英語を学んで、幅広い考え方に触れたい―ちなみに、プライベートで叶えたい夢があれば、教えてください。篠原さんこれは前からずっと言っていることですが、英語を話せるようになりたいですね。とはいえ、なかなかやる気になっていないので、この気持ちをちゃんと形にできるようにしたいですし、それがいまの目標です。―英語を使うお仕事もしたいとお考えですか?篠原さんまずは旅行で使えるようになったり、いろいろな人たちとコミュニケーションを取れるようになったりしたいですね。そうすることで幅広い考え方に触れられるので、いろいろと学べることも増えるかなと考えています。―お仕事で忙しい日が続いていると思いますが、オンオフの切り替えに役立っているものはありますか?篠原さんそれは、お風呂から上がってNetflixを観ている時間です。最近はいろんな作品をたくさん観ているので、家に帰ったら、「今日は何を観ようかな?」と考えたり、マイリストに入れたりするのが楽しみのひとつになっています。―いまハマっているシリーズは?篠原さん『Lupin/ルパン』とか『イカゲーム』とかもおもしろかったですが、最近はスペインのシリーズ『ペーパー・ハウス』にドハマリしています。仕事のモチベーションは、みんなの笑顔―ほかにも、スタイル維持のためにYouTubeでエクササイズをしているとか。それも毎日続けられているのですか?篠原さん正直に言うと、『金魚妻』の撮影が終わってからリバウンドしてしまって、元に戻っちゃったんです(笑)。でも、また運動を始めようと思ってはいるので、食事制限や運動を少しずつ再開しようと思っています。―以前、ananweb読者へ向けて「悩みごとはあるほうが人生の糧になる」ともおっしゃっていましたが、悩みとうまく付き合える方法があれば、教えてください。篠原さん私は基本的に悩みを作らないようにしていますが、できてしまったとしたら乗り越え方はよく寝ること。まずは健康でいることが一番重要ですからね。エネルギーがあれば、それが明日へとつながり、悩みに向き合う力になると思うので、よく食べてよく寝てよく笑うことが大事だと思います。―では、お仕事に対するモチベーションの源となっているものは?篠原さんスタッフや支えてくださっている観客の方々の笑顔を想像することですね。みなさんが喜んでくれたらいいなという気持ちを大切にしています。いつでもいろいろな色に染まれるようにいたい―作品選びの基準となっているものは何ですか?篠原さん「いろいろな色に染まりたい」というのが私の変わらない思いであり、そこが基準となっています。ただ自分がやりたいものだけをするのではなく、周りの意見を聞きながら私自身はどんな色にも染まれるように白のままでいたいです。―『金魚妻』を経たいま、次に挑戦するならどんな役?篠原さんポップな作品とかファンキーな役というのはあまりないので、そういうのができたらおもしろいかなと。でも、まったく違うものをしたいと思うようになるかもしれないので、あまり自分で決めつけないようにしています。―それでは最後に、ananweb読者へ見どころをお願いします。篠原さん冒険できる作品で、ドキドキワクワクもできるような内容になっています。恋人と一緒に楽しむこともできると思うので、あまり難しく考えずにぜひリラックスしながら楽しんでいただけたらうれしいです。インタビューを終えてみて……。圧倒されてしまうような大人の色気がありつつ、チャーミングさもある篠原さん。『金魚妻』にかける強い思いを感じずにはいられませんでした。徐々に変化していくさくらの表情に込めた篠原さんの繊細な演技にも、ぜひ注目してみてください。女性たちの秘密が次々と明かされる!誰もがうらやむようなタワーマンションに暮らす6人の妻たちが繰り広げる禁断のラブストーリー。葛藤や悩みを抱えた女性たちが自らの意志で人生を選択し、一線を越えた瞬間、あなたの心もざわつき始めるかも写真・北尾渉(篠原涼子)取材、文・志村昌美ストーリー多数のサロンの共同経営者として働き、タワーマンションの最上階で華やかな生活を送っている平賀さくら。ところが、実は夫からのDVに苦しむ日々を過ごしていた。夫の浮気も仕事のために耐えていたさくらだったが、ある日ふと立ち寄った金魚屋で店主・春斗と出会う。なぜか懐かしそうに自分を見つめる春斗との会話に、さくらは心が癒されていくのを感じていた。そして、夫からの暴力が限界となり家を飛び出したさくらは、春斗と一線を越えてしまう。果たしてその愛は裏切りか、運命か……。作品情報Netflix シリーズ『金魚妻』Netflix にて全世界独占配信中写真・北尾渉(篠原涼子)
2022年03月03日放送中の朝ドラ『カムカムエヴリバディ』の前半には勇役で登場、世界中で視聴され話題になっている、Netflixドラマ『今際の国のアリス』では、正体不明のチシヤを演じ、唯一無二の存在感を示している村上虹郎さん。正統派から謎めいた役まで、見事にものにしてしまう若手役者の筆頭格であるが、役が抜ければ、今度は素の強いオーラを放つ。多くの人はそこに、妖艶な色気を感じていることだろう。「色気の要素は、大人の男性の場合、断然“経験値”だと思います。何事にも全力で戦いにいって、ボロボロに負けても、それでもなお立ち向かっていく姿に僕は色気を感じるし、勝って負けて…の経験が多いほど、色気が身に付くと思っていて。ただ、その中にも種類はある。たとえば、歌舞伎で女方を演じる中村七之助さんのような、中性的な色気もあれば、リリー・フランキーさんやオダギリジョーさんの、落ち着いた声のトーンや佇まいには“引き”の色気を感じます」一方で、「矛盾するかもしれないんですが、まだ経験値の少ない若者でも、色気を持つ人はいる」と村上さん。「若い人が、大人に対して、経験値や知性、知識量で勝てるわけがなくて。そこで武器となるのが“生意気さ”。まだ負けたことがないから持てる、溢れ出る自信や、知らないからこそ輝けるキラキラした眼差しが若い色気となるのかもしれません。たとえば俳優の清水尋也、髙橋里恩には、目を見張る色気を感じます。時たま自分も、『色気がある』なんて言われたりもするんですが、自分では全然わからないですね。ただ、もしそうだとすれば、複雑なアイデンティティが僕にはあるからかも。個性派の二人から生まれて、特殊な学校を出て留学し、今は役者としていろんな作品に関わらせてもらっていて。良くも悪くもその複雑な環境において見てきた景色や、そこから生まれた思考回路は、誰にも想像することができないですから。よく、ミステリアスな人に惹かれると言うけど、僕のようにオーソドックスではない場合は、より、そう感じられやすいのかもしれませんね」そんな村上さんのアイデンティティが、少しだけわかるエピソードも。「10代の頃は誰よりも目立ちたかったから、全身カラフルなファッションでした(笑)。でも20代に入ってすぐに、私服はほとんど黒しか着なくなった。その理由は、色を入れると選択肢が多すぎてしまうのと、10代とは真逆に、誰にも気づかれずに自分の楽しみたいことだけを、好きな時に堪能したいという気持ちからでもあります。それから、毎日かぶっていたハットをやめて、アクセサリーもほとんどつけなくなったのは、装飾に頼るのではなく、身一つで自分がどれだけカッコよくいられるかを磨くべきだと思ったから。その上で、アクセサリーをまた身につけることもあるかもしれません。ちなみに白い服は、生活習慣がちゃんとしていて、“白を扱える仕上がった大人”が纏ってはじめて、カッコよく映えるものだと思う。だから僕も、いつかは白を纏えるような大人になりたい」憧れる色気は、意外なもの。「ジェイデン・スミス、ティモシー・シャラメのような色気は参考にはなるけれど、本能的に好きなのはマシュー・マコノヒーのような、顔や体の骨格やサイズ感がドシンとしている人が放つ色気。いてくれるだけで安心感があり、強い父性を感じます。僕はそっち側にはなれないからこそ、憧れるんでしょうね」むらかみ・にじろう1997年3月17日生まれ、東京都出身。映画『孤狼の血 LEVEL2』にて第45回日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞。ジャケット¥259,600シャツ¥156,200タンクトップ¥14,300パンツ¥48,400(以上ヨウジヤマモト/ヨウジヤマモト プレスルーム TEL:03・5463・1500)ネックレス¥481,800(ミラモア/ミラモア ファイン ジュエリー TEL:03・5738・7803)その他はスタイリスト私物※『anan』2022年3月9日号より。写真・西川元基(mild)スタイリスト・二村 毅(hannah)ヘア&メイク・橋本孝裕(SHIMA)取材、文・若山あや(by anan編集部)
2022年03月03日「禁断の小説がついに映像化」として注目を集めている話題の1本といえば、まもなく公開を迎える日・台合作映画『ホテルアイリス』。そこで、主演を務めたこちらの方にお話をうかがってきました。永瀬正敏さん【映画、ときどき私】 vol. 457小川洋子さんによるエロスが描かれた同名小説をもとにした本作で、ロシア文学の翻訳家として孤島に暮らす謎めいた男を演じる永瀬さん。劇中では、ホテル・アイリスを手伝う若い娘マリと繰り広げる倒錯した愛とゆがんだ欲望に堕ちていくさまを見事に演じ切っています。今回は、台湾での現場の様子や海外で活躍し続ける秘訣、そして自身にとって欠かせない存在について語っていただきました。―まずは、出演の決め手となったものから教えてください。永瀬さん僕が若いころはこういうタイプの映画がけっこうあったので、自分もいつか出られるといいなと以前から考えてはいました。それがこのタイミングできたこと、そして役者として幅が広がることがすごくうれしいなと感じたのが最初です。ただ、原作の翻訳家は僕よりもさらに年上の設定。特殊メイクをしたり、白髪を増やしたりするような作り込みをしてやるべき役ではないなと考えていたところ、映画では原作よりも年齢を引き下げたいと。さらにマリの年齢を上げ、2人の年齢差を縮めることで生まれる“化学反応”を見たいということだったので、それならぜひということでお受けしました。意識していたのは、答えを出さない芝居―以前、作品選びにおいては脚本を重視されているとお話をされていましたが、今回の脚本を読まれたときの印象は?永瀬さん原作にも言えることですが、自分のなかで「これだ!」という結末が見えませんでした。マリの妄想の世界だったのか、夢なのか、それとも現実だったのか……。人によっても、そのときの気分によっても、まったく違って感じられる作品だなと。どんなふうにでも受け取れるので、おもしろい脚本だと思いました。だからこそ考えていたのは、「いろんな解釈してもらうためにはどうすればいいのだろうか」ということ。芝居もはっきり答えを出さないように意識していたので、どこまでやるかの線引きは監督に厳しくジャッジしてもらっています。原作を大切にしつつ、あの場所でこの俳優たちと監督が作り出す『ホテルアイリス』のリアリティや寓話性をどう見せるか?という思いはありました。―なるほど。翻訳家はかなり謎の多い男性でしたが、演じてみていかがでしたか?永瀬さんぜひ、また演じてみたい役どころのひとつですね。似たようなキャラクターはいると思いますが、アプローチ方法や演出によって表現の仕方も変わっていくおもしろさがある役ですから。そういう出会いがまたあればうれしいです。―撮影は約3年前ということなので、昨今の現場とは違うところもあったのではないかなと。あのときだからできたこともあるのでしょうか。永瀬さんおそらくそれはあると思います。いまはコロナ禍で生まれた新しいスタンダードができていますが、僕にとってはそれまで当たり前だと思っていたやり方で撮ることができた最後のほうの現場ですから。あと、マリを演じたルシアさんは映画初出演でしたが、初めてだったからこそ彼女の「ドンときやがれ」みたいな感じが出せたのかなと。経験や勉強を積み重ねると違う表現の出し方が身についてくるので、そうではないものが見られたのはよかったです。台湾の人たちは、切り替えるのがうまい―ルシアさんとのシーンでは息を飲むような過激な場面も多かったですが、意識されていたことは?永瀬さん彼女は現場に入った時点ですでにマリとして存在してくれていたので、僕が余計なことをする必要はありませんでした。彼女自身の真ん中にある“骨”の部分がブレることは一切なかったので、それは大したもんだなと。きっとこれから幅広い作品で、いろいろな表現をしていかれると思いますが、この現場で彼女と一緒にお芝居できたのは、本当に刺激的でした。―日本からは、マリの母親役である菜葉菜さんと翻訳家の甥を演じた寛一郎さんも参加されています。現場でのやりとりで印象に残っていることはありますか?永瀬さん菜葉菜さんは髪型が気になっていたようで「私、ヅラっぽくないですか?」とずっと言ってましたね(笑)。でも、その違和感があの母親っぽいなと思いましたし、ストレートヘアのマリの髪をとかすシーンにも意味合いが出てくるので、それがいいんじゃないかなとは伝えました。寛一郎くんはある理由でしゃべれない役どころなので、それゆえに表情の足し引きは難しかったでしょうし、彼のなかでもいろいろなチャレンジがあったと思います。あと、メイクをしているシーンがありましたが、あのときはめちゃくちゃキレイでしたね(笑)。―永瀬さんはこれまでも台湾での撮影を経験されていますが、台湾の現場といえばどんな特徴が挙げられますか?永瀬さん台湾の人たちは、とにかく切り替え上手。撮影中はすごく集中力がありますが、一旦撮影が終わったら、友達みたいになるんですよ。特に今回は若いスタッフが多かったというのもありますが、シビアな撮影の合間にルシアさんとスタッフが近くにあった小道具を僕にいっぱいつけてキャッキャ言いながら写真撮って遊んだりしていたことも(笑)。集中するところと気を抜くところのメリハリのつけ方がうまいなと感じました。海外の現場で大事なのは、積極的に関わること―年齢に関係なく、フレンドリーでフラットな方が多いんですね。永瀬さん本当にそうですね。なので、打ち上げも最高におもしろかったですよ。現地の女性プロデューサーさんが嗚咽をもらしながら号泣していたりとか。―台湾流の打ち上げはどんな感じですか?永瀬さんガンガン飲んで、ガンガン食べるだけ(笑)。とにかくみんな元気ですよ。―現地の方々と打ち解ける永瀬さんのお力もあると思いますが、これまで数多くの海外作品にも出演をされています。海外でも活躍し続けられる秘訣についてお聞かせください。永瀬さん特に、英語圏の方々とお仕事をするときですが、僕の英語は中学生レベルよりもひどいボキャブラリーなので、そこに関しては開き直りですね(笑)。「だって日本人なんだもん。もうちょっと簡単な単語でゆっくりしゃべってよ」と。ただ、わからなかったときに「エクスキューズミー」をちゃんと言えるかどうかは大きいかなと思います。―恥ずかしがらずに「わからない」と言えるのはできそうで、なかなかできないことかもしれません。永瀬さんそのほかに大事なのは、積極的に関わること。海外だと日本の現場よりも、役者の意見を聞きたがるので、そこでアイディアを出せないとダメな場合も。気に入ってもらえるかもらえないかよりも、自分のなかでアイディアをたくさん持っていたほうが相手とコミュニケーションを取れる気がします。日本には“引きの美学”がありますが、国によってはそれが通用しないこともありますからね。ただ、「一緒にものを作りたい!」という気持ちがあればどの国でも受け入れてもらえるとは思います。これまで味わったことのないジレンマを感じている―2年前にananwebにご登場いただいた際、「まだ内緒だけど、国籍に関係ないプロジェクトが3つくらいある」とおっしゃっていました。今回教えていただける最新情報があれば、お聞かせください。永瀬さん1つのものを形にするというのはこんなにも大変なんだなと思いつつ、まだいろいろとがんばっている最中です。特にいまは海外の方々とコラボレーションするのは本当にむずかしい時期ですからね。さまざまなジレンマを感じてはいます。―このような葛藤は、長いキャリアでも味わったことがなかったのでは?永瀬さんそうですね。でも、そこを乗り越えていかないといけないですし、それを言い訳にもしたくないので、逆にもっといい作品を作ろうとしなきゃダメだなと思っています。いまは頼れる仲間たちと肩を組んで、表現できる場を作っていけたらいいなと考えているので、小さな一歩ではありますが、ちょっとずつ前に向かっている感じかなと。いつか完成したら、「この作品のことでした」とお知らせするので、そのときにまたananwebでインタビューしてください(笑)。女性のみなさんがどう感じるかがこの作品の“肝”―楽しみにしておりますので、ぜひよろしくお願いいたします。つねに映画のことを考えていらっしゃると思いますが、仕事を忘れて素に戻れる瞬間はありますか?永瀬さんこれを言うとすぐ家に帰りたくなってしまうんですが、それはうちの息子といるときです。……といっても、猫なんですけど(笑)。あの無垢な存在のおかげで、オフにパーンと切り替われるので、いまは彼の存在感が大きすぎるくらいで。本当に、天使ですね。今年15歳になったばかりですが、最近少し体調を崩したので、極力一緒にいるようにしています。いまも話ながら「何をしてるかな?」と考えてしまうので、もう家に帰りたくなってきました(笑)。僕は彼に助けられている部分がすごくあると感じています。―永瀬さんに愛されていて幸せですね。それでは最後に、公開を楽しみにしているananweb読者へメッセージをお願いします。永瀬さん最初にお話したように、観る方やそのときの状況によっていろんな解釈ができる映画なので、観終わったあとにぜひ話し合っていただきたいです。特に、女性のみなさんがどういうふうに感じられるのかに興味がありますし、そこがこの作品の“肝”ではないかなと。できれば、観ていただいた方全員の感想をうかがいたいくらいです。友達でも彼氏でも家族でも近所の方でもいいので、一緒に劇場へ行って観終わったあと話をしていただき、みなさんの間で何かが生まれればいいなと思っています。インタビューを終えてみて……。劇中では、冒頭から圧倒的な存在感を放っている永瀬さん。匂い立つ色気と底知れぬミステリアスさには、誰もが釘付けになってしまうはずです。そのいっぽうで、取材では目を細めて愛猫のことを語る姿もとても素敵でした。進行中のプロジェクトではいったいどんな永瀬さんを見ることができるのか、次の取材が楽しみです。欲望の果てまで溺れてしまう一度足を踏み入れたら最後、抜け出すことのできない官能的な“禁断の世界”へと堕ちていく感覚を味わえる本作。異国情緒あふれる美しい景色とともに、濃密で刺激的な時間を堪能してみては?写真・北尾渉(永瀬正敏)取材、文・志村昌美スタイリスト・渡辺康裕 (W)桶谷梨乃 (W)ヘアメイク・勇見勝彦(THYMON Inc.)コート、シャツ、パンツ/ともにYOHJI YAMAMOTO(ヨウジヤマモト プレスルーム03-5463-1500)ストーリー寂れた海沿いのリゾート地にあるホテル・アイリスで母親を手伝っているマリ。ある日、階上から響き渡る男の罵声と暴力から逃れようと取り乱している女の悲鳴を聞く。マリは茫然自失で静観していたが、男の振る舞いに激しく惹かれているもう一人の自分と無意識に何かが覚醒していくことに気づき始めていた。男はロシア文学の翻訳家で、小舟で少し渡った孤島に独りで暮らしているという。住人たちは、彼が過去に起きた殺人事件の真犯人ではないかと噂していた。男とマリの奇妙な巡り合わせは、二人の人生を大きく揺さぶり始めることに……。胸がざわめく予告編はこちら!作品情報『ホテルアイリス』2月18日(金)より、全国ロードショー配給:リアリーライクフィルムズ + 長谷工作室©長谷工作室写真・北尾渉(永瀬正敏)
2022年02月17日2月も国内外からさまざまな話題作が続々と公開を迎えますが、そのなかから大人の女性たちにオススメしたい1本は『夕方のおともだち』。SMの女王様とドM男による不思議な愛のカタチを描いたヒューマンラブストーリーです。そこで、こちらの方々にお話をうかがってきました。村上淳さん & 菜葉菜さん【映画、ときどき私】 vol. 452本作で筋金入りのドM男・ヨシダヨシオを演じた村上さんと、女王様・ミホを演じた菜葉菜さん。「恋愛映画の名手」「エロティシズムのマエストロ」などと称される廣木隆一監督のもとでW主演を務めたおふたりに、ハードな撮影の裏側やエロスとは何かについて語っていただきました。―廣木組の常連である村上さんにとって、本作が廣木監督作品では初主演となります。10年前にはお話があったそうですが、最初の印象はいかがでしたか?村上さんSMに関してはまったく抵抗はなかったですし、廣木さんらしい物語だなと。言葉にするのが難しい男女の揺れ動くさまを描いた繊細な題材だと思いました。ただ、企画が立ち上がってから数年経ったとき、僕よりもほかの人のほうが映画的にうまくいくような気がして、「オファーをいただいてありがたいんですが、あの人はどうでしょう?」と廣木さんに推薦したこともありましたね(笑)。というのも、あまり年を取ってから演じると、年齢に見合わない社会的立場にいるヨシオが無能に見えてしまったりとか、無意識のうちにいろいろな意味合いが入ってしまうと思ったので。だからこそ、“宙ぶらりんの状態”のうちに演じたいというのがあったんですが、結果的には2年前の46歳のときに撮れてよかったなと感じています。―つまり、年齢も経験も重ねたいまだからこそできた表現できた部分もあると。村上さんそうですね。まずは、考えることをやめました。といっても、放り投げるということではなく、現場の状況に対する自分の反射神経や順応力を信じようと。いずれにしても、どんなに組み立てて行ったところで、廣木さんの脳みそには到底かなわないですからね。ただ、廣木さんは何も考えていない俳優は好きじゃないんだと思います。そういう難しさもありますが……。実際、何も考えていない場合、廣木作品はそのまま映ってしまう。ある意味、残酷な人ですよ(笑)。押しつけがましくない人間の感情が描かれている―菜葉菜さんは企画が立ち上がった当初から、「この映画にだけは出たい」とずっと思っていたそうですが、そういう気持ちにさせたものとは?菜葉菜さんこの世界に入ったとき、事務所の社長からたくさん映画を観るように言われて、そのなかで出会ったのが廣木さんの作品でした。いろいろと観ているうちに、映画として素晴らしいのはもちろん、廣木組の女優さんはみんな魅力的に映っているなと。それからは、自分もいつか廣木組で主演をしたいと思っていました。いまでは考えられないですが、初めてオーディションで廣木さんに会ったときには、「あの役は私がやったほうがよかったと思います!」と言ってしまったこともあったくらい。すごい食いつき方をしてしまったこともあります(笑)。村上さんあはは。でも、いまでもやりそうじゃない?菜葉菜さんさすがに、もう大人になりましたよ。そんなふうに、廣木組での主演をひとつの目標としているなかで声をかけていただいたのが『夕方のおともだち』。原作を読んだときに、最初と最後の印象がこんなにも違うことに驚きましたし、押しつけがましくない人間の感情やその裏に隠された人間関係がすごく素敵だと感じたので、絶対にやりたいと思いました。いつまで役者を続けられるかわかりませんが、この役をやるまではやめられないなと。それくらいの気持ちにさせられる作品でしたし、廣木さんも「絶対にやろうね」とずっと言ってくださっていたので、モチベーションが落ちることはありませんでした。待ち続けてよかったです。女王様から教えてもらったのは、信頼関係の大事さ―役作りのために、おふたりで本物の女王様からレッスンは受けたとか。その過程で衝撃を受けたことといえば?村上さん実は、SMに対して僕は免疫があるんですよ。といっても、知り合いに女王様がいるとかではなくて、廣木さんの『不貞の季節』という作品でもSMが題材だったので。でも、そのころから美しくもありある角度から見るとおもしろいというイメージのほうが強いですね。菜葉菜さん今回は、おふたりのM男さんに来ていただきましたが、そのうちのひとりは、少しぽっちゃりとしたM男役として映画にも実際に出ていただいています。村上さんその方がレッスンのときにものすごく爽やかに登場した時点でおもしろかったですが、女王様にムチで叩かれたときに「痛い!」ってずっと言ってたんですよ。「気持ちいい」かと思っていたのに、やっぱり普通に痛いんだと。そう考えたら、おかしくて笑いをこらえるのが必死でした。菜葉菜さんあれは本当におもしろかったですよね。―そのなかで、参考にされたこともありましたか?村上さんもうひとり初老の男性がいたんですが、女王様から唾液をいただくというプレイを見せていただいたときのこと。女王様の唾液をありがたそうにむにゃむにゃしながら味わっていたので、それは劇中でも真似させてもらいました。―“女王様の極意”として学んだことがあれば、教えてください。菜葉菜さん今回は、技術的な面での苦労が多く、特に難しかったのはムチの振り方。ムチを家に持ち帰って、壁をペチペチと叩いて練習したほどです(笑)。女王様にはいろいろなお話を聞かせていただきましたが、そこで教えていただいたのは、信頼関係がいかに大事であるかということ。女王様と相手が一緒に世界を作り上げていくからこそ感じるのであって、私が同じことをしても、きっと気持ちよくはないでしょうね。村上さん確かに、一歩間違えれば……というような世界ですから。もしかしたら、普通の恋人同士よりも精神的なつながりは強いんじゃないかな。今回の映画では、そういった部分もきちんと映すことができたのでよかったです。エロティシズムを表現できる女優に憧れていた―菜葉菜さんは、以前から「エロスを追求している」とお話されていますが、本作を通じてエロスに対する理解に変化はありましたか?菜葉菜さんそういう発言をしていた自分が恥ずかしいんですが、いま思うと若いころは追求の仕方を間違っていたんじゃないかなと。昔の女優さんたちがエロティシズムを表現している姿に憧れていたので、「脱ぎたくないとかありえない」とか言って尖っていただけだと思います。でも、そのときはエロスを身につけないといい女優になれないと思っていたんですよね。―劇中の菜葉菜さんには、同性から見ても感じる色気やエロスがありました。菜葉菜さん本当ですか!?これまで、友達からはエロスのかけらもないと言われてきたので、もし少しでも私からエロスを感じていただけたのならすごくうれしいです。―特に、女王様の衣装を着ていたときのお尻が美しかったです。菜葉菜さんありがとうございます。確かに、お尻だけは唯一褒められるので、ぜひそこは注目していただけたらと(笑)。村上さん発言し続けていたことが、実ってよかったね。菜 葉 菜さんそうですね。でも、ムラジュンさんは「菜葉菜のどこにエロスを感じたの?」と思ってますよね。村上さんそんなことないよ!現場で、“歩くエロス”だなと思って見てましたよ。「エロスが来た」とか「エロスがお弁当食べてるな」とか「咀嚼音すらエロスティック」だった(笑)。菜葉菜さんちょっと、鼻がヒクヒクしてますけど!村上さんあはは。女性に対しては、“在り方”を見るようになった―ちなみに、村上さんが女性にエロスを感じる瞬間があれば、教えてください。村上さんここ1年くらいですが、女性を一般論としてのエロの対象として見なくなったような気がしています。もちろん人並みに性欲はありますよ。それよりもいまは、魂のレベルというか、その人の“在り方”を見るようになりました。―なるほど。もはやエロスを超越してしまっている感じなんですね。村上さんただ、脇パイは好きですね。菜葉菜さんえ?トップではなくて脇のほう?初めて聞いたんですけど(笑)。これはおもしろいので、ぜひ書いてもらいましょう!―書いていいのでしょうか!?村上さん大丈夫ですよ、僕NGありませんから。―では、脇パイに(笑)はつけておきます。村上さんいやいや、笑ってないです。真顔です。―(笑)。では、「(真顔で)脇パイが好き」ということで。ありがとうございます。劇中では、容赦なくムチで叩かれたり、縛られて海に入れられたりしていたので、苦労したシーンもあったと思いますが。村上さん僕は縛られるが意外と屈辱的でしたね。自分では身動きが取れないので、縛られた状態のまま助監督たちに運ばれるんですが、それが屈辱的でとにかく早くほどいてほしかったです。ちなみに、今回使用しているムチは素材がウレタンだったので、本物に比べると実はあまり痛みはありません。ただ、そのおかげで感情が乗せやすくなり、芝居のボリュームをコントロールできるようになっています。現場があれば、ほかには何もいらない―なるほど。そういった理由があるんですね。村上さんただ、ヨシオの同僚役を演じた鮎川(桃果)さんに皮のベルトで叩いてほしいとお願いするシーンだけは、めちゃくちゃ痛かったですね。あのシーンは、セットを壊す関係上、1発OKしか許されなかったので、本番の前に「いいのが(痛いのが)入るまで次のセリフを出さないから本気で来て」と言っていたんです。そのときの鮎川さんは戸惑っているような感じでしたが、女優って怖いですよね。始まったら、いきなりバチコーンって(笑)。本当に痛かったです。完成した作品をよく見たら、鮎川さんはベルトを2回手に巻いていたんですよ。彼女みたいなタイプは、本来だったらそういうことをできないはずなんですが、それを自然にしてしまうのが“廣木マジック”だなと改めて思いました。―そのシーンは、ぜひ注目ですね。ヨシオはSMによって、生きる喜びを感じていましたが、おふたりがそういう感覚を得る瞬間といえば?村上さん僕は、やっぱり現場に立っているときですね。今回で言うと、コロナ禍前でみんな楽屋も一緒だったので、そこで雑談している瞬間が一番楽しかったなと。あれがあれば、僕はほかに何もいらないですね。菜葉菜さん確かに、私も現場が本当に好きですね。村上さん女性らしく、ヨガとかピラティスしているときじゃなくていいの?菜葉菜さん(笑)。どっちもやっていません!実は最近もマイナス10度の場所で、毎朝4時起きが続いたことがあって、「私は何やってるんだろう」と思っていたんですけど、いざ撮影が終わって「やっと解放されたー!」となったら、一気に抜け殻みたいになってしまって。あんなに毎日つらかったはずなのに、あの瞬間に生きている実感を味わっていたんですよね。だから、現場にいるときが、一番充実しているんだと思います。村上さんこの仕事向いているんだろうね。ナチュラルボーン女優だと思うよ。菜葉菜さんじゃあ、もう少しがんばって続けていきます!怖がらずに、この世界に飛び込んでほしい―それでは最後に、ananweb読者にメッセージをお願いします。菜葉菜さん女性のなかには、もしかしたらSMという部分に抵抗がある方もいるかもしれませんが、観る前と後で本当に大きく印象が変わります。せつなくて、せつなくて、堪らないのに、こんなに爽やかな気分になれる映画はないです。何気ない男と女の日常を切り取っているので、彼らの感情には共感できる部分もあるのではないかなと。ぜひ、怖がらずにこの世界に飛び込んでいただきたいです。村上さんキラキラ系ではないものの、ラブが詰まっている優しい作品になっているので、身構えることなく気軽に観ていただきたいですね。SMを全面に押し出しているわけでもないので、友達との会話のなかで出てくる「私ってMかも?」みたいな話題の延長だと考えてもらうくらいでいいのかなと。数ある作品のなかで、選んでいただけるのであれば、期待を裏切ることはないと思います。インタビューを終えてみて……。終始、息の合った絶妙なやりとりを見せてくださった村上さんと菜葉菜さん。思いがけない回答には、笑いが止まらなくなるほど楽しませていただきました。おふたりから教えていただいたそれぞれの見どころポイントなどにも注目しながら、ぜひこの世界観を堪能してください。愛の儚さと美しさが心の奥に優しく染みる性別や立場を超えた絆で結ばれたヨシオとミホが繰り広げる異色の愛を描いた唯一無二のラブストーリー。閉塞感が漂う日々を生きる私たちに、人とつながることの大切さ、そして癒しと生きる実感を与えてくれるはず。爽快感に包まれる予想外のラストもお見逃しなく!写真・山本嵩(村上淳、菜葉菜)取材、文・志村昌美ストーリー寝たきりの母親と暮らし、市の水道局に勤める一見真面目なヨシダヨシオ。しかし、いっぽうで筋金入りのドMな一面を持ち、夜な夜な街で唯一のSMクラブへ通いつめ、女王様のミホからお仕置きを受けていた。ところが、ヨシオをこの世界に目覚めさせ、突然目の前から姿を消してしまった“伝説の女王様”ユキのことが忘れられず、このところプレイに身が入らない。そんなある日、思いもしないところで彼女を見かけたヨシオは、ミホを置き去りにしてユキを必死に追いかける。その先でヨシオとミホを待ち受ける結末とは……。続きを覗きたくなる予告編はこちら!作品情報『夕方のおともだち』2月4日(金)TOHOシネマズ六本木ヒルズ 大阪ステーションシティシネマ 全国順次ロードショー配給:彩プロ©2021「夕方のおともだち」製作委員会写真・山本嵩(村上淳、菜葉菜)
2022年02月02日ぽつりぽつりと、静かにこぼれる言葉の中に感じられるのは、互いへのゆるぎない信頼感とリスペクト。流れる空気がどことなく似ている、有村架純さんと森田剛さんの初共演トークをお送りします。映画『前科者』で、有村架純さんは保護司の阿川佳代を、森田剛さんは殺人を犯して更生を目指している“前科者”工藤誠を熱演。この深くて重い作品に、お二人は、どのような心構えで挑んだのか。――緊迫感やスピード感のある展開に魅了された作品でした。最初に物語を読まれた時の感想と、役作りについて聞かせてください。有村架純:原作漫画を読み、そこで阿川佳代という人物に対して感じたインスピレーションを大切に、岸(善幸)監督が書かれた脚本を読んで、人物像を擦り合わせていきました。佳代は、ただの正義のヒーローではありません。撮影中は、過去に傷を抱え、生きづらさを感じてきた人生の中で、自分の存在意義を探すために保護司というボランティアを始めたのだろう、という部分を心に留めながら演じました。また、保護司になって3年目の未熟さも大事にしたかったので、壁にぶつかった時の回避術をまだ知らない彼女の、全力で走って、泣いて、笑って、怒って…という愛らしいキャラクター像が見えればいいな、と。完成作を観たら、岸監督がこだわっていた“エンターテインメント作品”としてうまく着地していたし、心苦しい作品ですが一筋の光を感じました。森田剛:僕は最初に、ひとつの物語として客観的に原作漫画を読み、とにかく暗いな…と(笑)。それでも、工藤に寄り添う佳代の言葉や行動がとても力強くて、勇気を与えてくれるところに希望を感じて。また、人との距離感を測るのが不器用な工藤だからこそ、人と接することで心が緩む瞬間は、すごく魅力的に見えたりもしました。――森田さんは、これまでにもシリアスな役が多い印象です。森田:好きなんです(笑)、暗い話や人物が。愛情を知らずに育った人の人生が気になるし、なぜか理解したくなり、演じてみたいと思っちゃうんですよね。――撮影中のお二人は、どのような距離感だったのでしょうか。有村:あまり話さなかったですね。森田:はい、あえてそうしていて。有村:でも、言葉を交わさなくても、役の上では心がつながっている感じがしたし、信頼関係は築けていると思っていました。森田:僕も、それが全てだと思うんですよね。待ち時間の会話でお互いを知るよりも、お芝居から得られる安心感のほうが、役者としては大事だなって思うから。有村:そうやってラストスパートに向けて、距離をとりつつ気持ちをつないでいたんですが、シリアスなシーンの撮影が終わり、残り2日ぐらいでようやく私が「趣味はなんですか?」という基本データを伺うという(笑)。森田:このまま会話をせずに終わっていくのかな、と思っていたので、突然趣味を聞かれてすごく緊張したのを覚えていて(笑)。有村:あははは(笑)。撮影中はほとんど目を合わせなかったから…。でも植物がお好きだと聞き、その瞳がとてもキレイで。きっと、優しい方なんだろうなと思いました。森田:僕は、仕事でも人に対しても、すぐに緊張してしまうんですよね…。緊張を知らない“鉄の心臓”があれば、欲しいです(笑)。有村:私は、実はドライな部分があり、嬉しいと感じても無邪気に喜びをあらわにできなくて…。だから、“可愛らしいリアクション”ができる人になりたいですね(笑)。森田:いらないんじゃない?(笑)有村:なくてもいいですか?森田:そう思いますよ。――お二人はドラマや映画、舞台などいろいろなジャンルで活躍されていますが、心理的に惹かれてしまう作品や、演じてみたい役柄はありますか?有村:自分が出演する場合は、今作のように、重厚感のある作品や、エンターテインメント性があるものは好きです。プライベートでは、日常を淡々と切り取った作品が好きで。たとえばフランス映画は、その雰囲気や世界観に惹かれます。森田:へぇ~、そうなんだ!有村:想像を膨らませながら観るのが、好きなんですよね。森田:僕は、バイオレンス作品を観るのが好きです。有村:そうなんですね。出演されたことはありますか?森田:まだそういう作品には出演したことはないんだけど、自分の新たな面が見えそうで。いつか出演してみたいですね。映画『前科者』1月28日全国公開。有村さん演じる阿川佳代が保護司になりたてのころを描いたドラマ『前科者‐新米保護司・阿川佳代‐』がWOWOWおよびAmazon Prime Videoにて配信中。ありむら・かすみ1993年2月13日生まれ、兵庫県出身。2023年に放送予定の大河ドラマ『どうする家康』(NHK)に、築山殿役として出演が決まっている。ビスチェ¥28,600ラップベルト¥23,100(共にエボニー TEL:050・5218・8076)パンツ¥30,800(ルーム エイト/オットデザイン TEL:03・6804・9559)イヤカフ、右耳¥16,500左耳¥19,800(共にリュークinfo@rieuk.com)シューズ¥38,500(マナ TEL:03・5829・6611)その他はスタイリスト私物もりた・ごう1979年2月20日生まれ、埼玉県出身。短編映画『DEATH DAYS』がMOSS公式YouTubeチャンネルにて配信中。舞台『みんな我が子』の出演が控える。ジャケット¥88,000パンツ¥72,000(共にルメール/スクワット/ルメール TEL:03・6384・0237)その他はスタイリスト私物※『anan』2022年2月2日号より。写真・笠井爾示スタイリスト・瀬川結美子(有村さん)吉本知嗣(森田さん)ヘア&メイク・尾曲いずみ(有村さん)TAKAI(森田さん)インタビュー、文・若山あや(by anan編集部)
2022年02月01日人気俳優のみなさんがどんな休日を過ごしているのか、興味をそそられる人は多いですよね?そこで話題となったのは、撮影が突然休みになった俳優たちの1日を気鋭のクリエイターたちが妄想を膨らませ描くWOWOWオリジナルドラマ『撮休』シリーズ。好評を博した『有村架純の撮休』、『竹内涼真の撮休』に続き、第3弾『神木隆之介の撮休』が放送されています。今回は、こちらの方にお話をうかがってきました。神木隆之介さん【映画、ときどき私】 vol. 441ドラマや映画の撮影期間中にある休日を通称“撮休”と呼んでいますが、本作でさまざまなクリエイターたちが妄想して作り上げたのは、“オフの神木隆之介さん”。そこで、全8話にわたって自分自身を演じた神木さんに、思い出の撮休エピソードや彼女との理想の過ごし方、そして驚きの“職業病”などについて幅広く語っていただきました。―本人役とはいえ、他人が考えた自分自身を演じてみていかがでしたか?神木さんフィクションでありながら、まるでノンフィクションのように感じさせる必要があるので、私生活の僕がしゃべっているような雰囲気を見せたくて、役作りは一切しませんでした。たどたどしいところも含めて、「僕だったらこう話すかな」というのを考えながら演じています。―なるほど。各話はそれぞれのクリエイターの方々が神木さんに抱いているイメージが反映されていますが、実際のご自身と比べてみて、近いところはありましたか?神木さん「みなさん、好青年に描いていただいてありがとうございます!」という感じです。どの僕もちゃんとした人間でクズ感はないですよね、本人とは違って(笑)。実際の僕よりもまじめで、まっとうな意見を言っている部分が多かったですが、世間のみなさんから見ると、僕はふざけていないイメージなんでしょうか?(笑)―そういう印象を抱いている人は多いのかなと。この際、訂正しておきたいパブリックイメージがあれば、教えてください。神木さん公の場で余計なことを言わないだけで、僕は本当にお調子者ですし、ふざけてばかりいる人間ですよ。落ち着きもないですし、28歳にしては無駄にテンション高めかなと(笑)。ただ、僕は無駄なことも、ふざけることも大好きなので、そこは伝えておきたいですね。―過去には、世間のイメージとのギャップに悩まされるようなこともあったのではないかなと。神木さんそういうことに苦しんだりしたことは、まったくなかったですね。共演者の方から、「意外とうるさいんだね」とか言われることはありますが(笑)。でも、僕としては相手が僕にどんなイメージを持っていたとしても、実際に会って話しているときが真実。そこから新しく構築していけばいいと思っているので、イメージを気にしたことはないですね。似たような経験に共感することもあった―第4話「夢幻熊猫(むげんぱんだ)」では、女優業に興味を持つ姪っ子さんにアドバイスをしていますが、実際に悩みを相談されたらどうですか?神木さんあそこまでまじめには返さないと思いますし、「役者ってさ……」みたいに自分のことを話すことはないかもしれないですね。ちなみに、僕にも姪がいて、ここ最近「女優になりたい」と言い始めたみたいです。―まさに同じシチュエーションですね!神木さんまだそうらしいと聞いただけですが、僕としてはやってみなきゃわからないから、いいんじゃないかなとは思っています。無責任に聞こえるかもしれないですが、想像していた以上につらければやめればいいですし、耐えられれば続けたらいいんじゃないかなと。どんな仕事でもつらいことはあるので、僕としては「がんばれー!」くらいの感じです。―将来が楽しみですね。今回、一番自分に近いのは、どのエピソードですか?神木さん僕はしゃべることが本当に好きなので、第7話の「友人の彼女」は話しているシーンが多くて近いかなと思いました。この話は友達と仲が良すぎて、友達の彼女から嫉妬されるという内容ですが、実は僕にも同じような環境がありまして。ゲーム会社に勤めてる3つ上の親友がいるんですけど、毎日のようにゲームで遊んでいたとき、「この人、彼女とかいるのかな?」とふと思ったんです。優しい人なので何も言わないんですけど、もしかしたら僕がかなり独占しているんじゃないかなと。そしたら、最近結婚したんです。というか、彼女がいたんですよ!―ということは、その彼女から嫉妬されたとか……。神木さん紹介したいと言われて会ったんですが、奥さまから「隆さんとのいままでの関係を壊したくないので、私のことは気にせずにこれからもどうぞ誘ってやってください」と言われて、なんて優しいんだろうと。でも、同時にすごい申し訳ない気持ちにはなりましたね。だからこそ、このエピソードにはすごく共感しました。あと別の友達も、僕と一緒にカラオケに行き過ぎて、周りから予定を聞かれるときに「今日は神木くんと遊ばなくて大丈夫?」といつも聞かれると言っていましたね。一番優先してもらっているみたいです(笑)。彼女とは家でゆっくりして、買い物に出かけたい―そのお話も納得してしまうほど、神木さんといえば愛され力が高いですが、何か秘訣はあるのでしょうか。神木さん自分ではよくわかりませんが、「相手に楽しんでほしい」というのは第一に考えています。「神木と話せておもしろかった。悪い時間じゃなかったな」と感じてもらえることを目指しているので。周りからは、グイグイくる変なヤツだと思われているかもしれませんが、僕はウザいと思われてもいいんです。ただ、裏ではなくて、面と向かって「ウザい」と言ってほしいですね。そうすることで、ウザいキャラとしてお互いに“言葉のプロレス”ができますから。そんなふうに、一緒の時間を楽しく過ごしたいというのが伝わっているのかもしれないですが、それを受け入れてくれる人がいるのはありがたいことです。―また、第5話「優しい人」では、恋人と過ごす撮休が描かれています。神木さんが思う恋人との理想の撮休といえば?神木さんまず、午後までは寝たいですね。劇中では、カーテンをいきなり開けて起こされるのですが、あれはちょっと嫌だなと思いました。低血圧気味なので、もう少し優しく起こしてもらわないと機嫌が悪くなる可能性も……。家でゆっくりするのもいいですけど、一緒に買い物に行くのもいいですね。―彼女がキスシーンに嫉妬する場面もありましたが、こういう女性はどう思いましたか?神木さんすべてを理解してとは言わないですが、どんな仕事でも理解しようとしてくれない時点で、相手へのリスペクトがないと思うので、それがお互いの関係を壊すのであれば難しいのかなと。「そっちの世界のことはよくわからないけど、がんばってるよね!」みたいな感じがいいですよね。もちろん、キスシーンに嫉妬する気持ちはわからなくもないですけど、ちゃんと信頼関係が築けていれば、わかってもらえるはずなので。ここに出てくる彼女とは、お互いのためにならないので、速攻別れたほうがいいと思います!(笑)おもしろさを追い求める子ども心は大事にしたい―そのあたりも見る方に、委ねたいところですね。ちなみに、もし急に明日撮休になったら何をしますか?神木さんやっぱり午後までは寝て、ダラダラとお風呂に入り、一緒にカラオケに行ける人を探しますね。もし誰も募れなくても1人でカラオケに行って、散歩くらいはしたいかなと。あとは、ゲームして終わると思いますが、実際はそんなものですよ(笑)。―カラオケがお好きなんですね。神木さんカラオケが第一希望ですが、それは「何かした」というせめてもの救いになるからですね。何もしなかったというのはできるだけ避けたいので。いろんなジャンルを歌いますが、最近は桑田佳祐さんの「可愛いミーナ」やボカロ系を歌っています。カラオケに行けなかったら、1日中ゲームすることになるでしょうね。特に、新しく発売された『ファイナルファンタジーXIV』を買ったら、家にこもることになりそうですが……。パソコンの横に冷蔵庫も置いているので、そこですべて完結できるようになっています(笑)。パブリックイメージと全然違いますよね。―ちなみに、今までで一番いい撮休の思い出があれば、教えてください。神木さんコロナ禍の前ですが、秋葉原に行き、アニメグッズを探して、カラオケでアニソン歌って帰る、みたいなのは楽しかったですね。―もし長期で休みがあったら、したいことはありますか?神木さん1つだけ、本当にやりたいことあります。それは、鳥取砂丘に行ってラクダを借りて、石油王のコスプレをして写真を撮ることです。それをSNSのアイコンにして、「どうも石油王です」と書くことが僕の一番の目標です。―石油王!?なぜですか?神木さん一時期流行ったというか、「どうも石油王です」と書いたらモテるとネットで見たので。その次は、「どうも吉沢亮です」と言ったら全員落ちるそうなので、石油王と吉沢亮くんは二強みたいです(笑)。僕は人がしないようなくだらないことにものすごい労力を使って、語り継がれるようなことをしたいなと。メリットデメリットとかではなく、単純におもしろさを追い求める子ども心は大事にしたいと思っています。私生活でもカメラの位置を意識してしまうことがある―石油王、楽しみにしています。第1話「はい、カット!」では、“はい、カット!シンドローム”というカットがかかるまでは何でもできるという状況に陥っていましたが、その時間内にしてみたいことはありますか?神木さん「横浜流星だよ」と言いながら渋谷でナンパしまくりたいです(笑)―(笑)。横浜流星さんに憧れる理由は?神木さんだって、あんなにかっこよくて、背が高い王子さまみたいなタイプいないですよね!うらやましいですよ。横浜流星だと言えば、絶対イケると思うのでしてみたいですね。―“はい、カット!シンドローム”は、子役で仕事をしている人ならではの架空の症状として描かれていますが、俳優ならではの職業病もあるものなのでしょうか。神木さんありますね。ふとした瞬間に「カメラがここにあったら、こう映ってるだろうな」とか、音楽を聞きながら「この曲が主題歌だったら、こういう物語がいいだろうな」とかいろいろなことをつねに想像してしまいますね。―現実と区別がつかなくなることもあるのでは?神木さんそういうときは、だいたいボーっとしてますね。たとえば、買い物中に考え始めると、お店を出たあとに、「ちゃんと買ったんだっけ?」みたいになることも。あとは、カメラの位置を意識しているときは、目線とか顔の角度とかをなんとなくそれに合わせて変えたりすることもありますよ。もはや癖みたいなものです。―すごい職業病ですね。多くの俳優さんにある現象なのでしょうか。神木さん第1話でご一緒した安達祐実さんとは、「そういうのあるよね」みたいな話はしましたが、ほかの方には聞いたことがないですね。2022年も「よかった」と言ってもらえるようになりたい―そういうなかで、素に戻るためにしていることがあれば、教えてください。神木さん基本的に、ゲームやカラオケをしているときと、友達といるときは素になりますね。そもそも、僕としては普通に一都民の感覚なので、そんなに意識したことはないです。ただ、回転寿司のお店で「神木さま、4名さま!」と大きな声で呼ばれたときは、びっくりして素になりましたけど、それくらいですね(笑)。―20代も残り2年を切りましたが、30代はすでに意識されていますか?神木さんここ最近は、「もう30か、やばいな!」みたいに学生のノリでおもしろおかしく盛り上がっていますが、本心ではあまり気にしていないですね。でも、もう少し落ち着かないといけないかなと思ってはいますが。―今後やってみたい役はありますか?神木さん一番は、山田涼介くんと2人でアイドル役をすることですかね(笑)。あとは、配信者の役をして、リスナーとの絆を描いたらおもしろそうかなと思います。―では、始まったばかりの2022年はどういう年にしたい?神木さんいつも通り、がんばるんですけど、去年はドラマ『コントが始まる』で菅田将暉くんや仲野太賀くんといった素晴らしい人たちと出会えたので、刺激を受けている彼らから「よかったじゃん!」と言ってもらえるようなことができたらいいですね。―最後に、本作シリーズの見どころをお願いします。神木さん各話いずれも、みなさんに楽しんでいただける作品になっていると思っています。横浜流星くんは出ていませんが(笑)。一番見てほしいところをあげるとすれば、全話のオープニングに出演しているマネージャー役の池田鉄洋さんです。渾身の怪演なので、ぜひ注目してください!インタビューを終えてみて……。さすがの話術と頭の回転の速さで、おもしろい回答を続出させる神木さん。いい意味でパブリックイメージを壊してくださる姿に、取材中は笑いが止まらなくなりました。俳優としてはもちろん、気になる素の部分もさらに深掘りしたいところです。予想外の展開に、目が離せない!8つのパラレルワールドのなかで、個性豊かなキャストに囲まれながら、さまざまな表情を見せる神木隆之介さんが堪能できる本シリーズ。神木さんの知られざる撮休を一緒に過ごしている気分を味わってみては?取材、文・志村昌美ストーリー1995年のデビュー以来、数々の話題作で人々を魅了してきた人気俳優・神木隆之介。多忙な毎日を送っていたある日、マネージャーから突然撮影の休みを告げられる。はたして、彼は“撮休”をどのように過ごすのだろうか……。早く続きが観たい予告編はこちら!作品情報『WOWOWオリジナルドラマ神木隆之介の撮休』WOWOWにて放送・配信中毎週金曜よる11:00より放送・配信(各話放送終了後、WOWOW オンデマンドにてアーカイブ配信)。【WOWOWプライム】第1話無料放送/【WOWOWオンデマンド】無料トライアル実施中・出演:神木隆之介安達祐実/成海璃子、藤原季節/MEGUMI、矢本悠馬/長澤樹/木竜麻生松重豊、大塚明夫、田中要次/萩原みのり、井之脇海、北村有起哉/仲野太賀、坂井真紀/池田鉄洋・監督:瀬々敬久、森ガキ侑大、三宅唱、天野千尋、枝優花・脚本:狗飼恭子、高田亮、篠原誠、ふじきみつ彦、竹村武司、玉田真也・天野千尋、山﨑佐保子、山田由梨・番組HP:
2022年01月12日お互いにモデルとして第一線で活躍し、しかも同学年だという玉城ティナさんと琉花さんが、“監督”と“主演”という立場で登場。ふたりが新たに築き上げた“不思議な関係性”を語ります。同学年でモデル…共通点の多い私たち。――ショートフィルム『物語』で、“監督”と“主演”という関係性にある玉城ティナさんと琉花さん。それ以前から、関わりは?玉城ティナ:もちろん、琉花さんの存在は昔から知っていたし、モデルの仕事で数回会ったことはありますが、がっつり同じ時間を過ごしたのはこれが初めてですね。琉花:はい。私も玉城さんのことを映画などで見て知っていたし、可愛くて素敵な方なんだろうな…と思ってインスタを拝見していました(笑)。玉城:私も、勝手に琉花さんのインスタを見てました(笑)。でも、今回私が琉花さんをキャスティングしなければ、この関係性は生まれていなかったと思うと不思議。――琉花さんを主演に選んだ理由を教えてください。玉城:一番は、琉花さんに興味を持っていたからです。琉花:嬉しい!玉城:普段私も選ばれる側だから、このように選ぶ側になるというのは、初めての感覚でした。琉花さんが、お芝居をするのは初めてだというのはちょっと意外でしたが、でも、私も監督をやるのは初めてだったので、初めて同士。だから「お互いにわからないことも、一緒に作っていけたら嬉しいです」って最初にお伝えしたんです。琉花さんは、撮影が始まる前の顔合わせで、めっちゃ緊張していて…。琉花:最初に選んでいただいた時、嬉しすぎて「やりたいです!」ってすぐにお返事をしましたが、そのあと、セリフがたくさんあってまだ覚えてないし、どうしよう、できるかな…と緊張してきちゃって。でも玉城さんが「台本も変わるかもしれないし、やりやすいようにすればいいよ」って言ってくれて、安心しました。玉城:実は、私たちは同学年なんですよね。琉花:そして同じ、モデルという職業でもあって。玉城:それなのに、監督と主演という立場からか、琉花さんは最初から敬語で。琉花:あははは(笑)。玉城:監督の立場で私がタメ口にしちゃうと、権力を持ってるみたいで嫌だから、私も敬語に。琉花:時々「監督」とか「ティナちゃん」て呼んだりもしました。玉城:タイミングが難しいね(笑)。――『物語』は真っ白な部屋を舞台に、里奈(琉花)、裕也(奥平大兼)、玉城さんが演じる名もなき女性が、奇妙な関わりを見せます。観る人によって解釈が変わりそうですね。玉城:多くを説明するより、観たあとに余韻が残る作品にしたい、と思って。役作りやお芝居も、琉花さんにお任せしました。琉花:捉え方はきっといろいろで、私も、何度も何度も台本を読んでいるうちに、玉城さんが描きたいことがなんとなくわかってきたんですよね。玉城:すぐに誰とでもつながれるこの時代に疲れてしまうこともあれば、でもやっぱり話を聞いてくれる人がいるだけで救われることもある。脚本を書く時にはそんなことを思い浮かべていました。――そんなおふたりの関係性を、一言で表すなら?玉城:今は監督と役者の関係で、友達とも言い難いし、同僚とも違うし。一緒に作品を作るというのは、変な関係。だから“同じ地球にいる者たち”とか(笑)。琉花:“不思議な関係”だよね。玉城:監督と役者のことを、一緒に作品を作るにあたり、みんなで一つの方向に進むという信頼関係から“共犯者”なんておっしゃる監督もいるんですが、それも今なら、正しい表現だと感じます。――ちなみに、おふたりはつながりは多いほうですか?玉城:この仕事をしていますから、まあまあ多いですよね。琉花:私もそうかな。人とつながるのは得意なほうではあると思います。そして、この作品に出て、つながり方はいろいろあるな、と実感しました。玉城:私は、一人の時間も欲しいし、誰かと過ごす時間も大事。ただ、一人の時間を孤独だと思わずに楽しめるのは、心の底で誰かとつながっているからでもあって。琉花:一人っ子なので、私も一人でいる時間が好きです。玉城:私も一人っ子!やっぱり共通点、多いですね(笑)。玉城ティナが監督・脚本を務めた『物語』は、5人の俳優たちがショートフィルムの制作に挑むWOWOWによるプロジェクトの第2弾「アクターズ・ショート・フィルム2」の一作品。琉花、奥平大兼のW主演。2月6日(日)17:00よりWOWOWにて放送・配信。たましろ・てぃな(写真・左)1997年10月8日生まれ、沖縄県出身。主演を務めるドラマ『鉄オタ道子、2万キロ』(テレビ東京系)が1月7日24:52から放送スタート。ロングジレ¥95,700(アキラナカ/ハルミ ショールーム TEL:03・6433・5395)ニットドレス¥134,200(フラッパー/エンメ TEL:03・6419・7712)ネックレス¥29,700(ボーニー/エドストローム オフィス TEL:03・6427・5901)ブレスレット¥19,580(ブリーレオン/ジャック・オブ・オール・トレーズ プレスルームTEL:03・3401・5001)人差し指のリング¥24,200(エネイ/ショールームリンクス TEL:03・3401・0842)中指のリング¥22,000(アトリエエスティーキャット)シューズ¥259,600(ロジェ ヴィヴィエ TEL:0120・957・940)るか(写真・右)1998年1月19日生まれ、東京都出身。ファッションモデルとして雑誌のカバーを飾ったり、数多くの広告に出演。写真家として写真展を開催するなど、多方面で活躍中。ボアベスト¥28,600(タンcontact@tanteam.jp)ロングシャツ¥46,200パンツ¥30,800ベルト¥50,000(以上ハイク/ボウルズ TEL:03・3719・1239)ネックレス¥26,400(アトリエ エスティーキャット)ピアス¥5,170リング¥9,350(共にニナ・エ・ジュール)ブーツ¥48,400(フラッタード)以上ショールーム 233 TEL:03・6859・8112※『anan』2022年1月12日号より。写真・内田紘倫(The VOICE)スタイリスト・入江陽子(SIGNO)ヘア&メイク・吉﨑沙世子(io/玉城さん)上川タカエ(mod’s hair/琉花さん)インタビュー、文・若山あや(by anan編集部)
2022年01月08日日本が誇る鬼才・園子温監督の最新作にして、自身初となる本格ワークショップから誕生した話題作『エッシャー通りの赤いポスト』がいよいよ公開を迎えます。そこで、すでに海外の映画祭でも熱い支持を得ている本作について、こちらの方々にお話をうかがってきました。藤丸千さん、黒河内りくさん、モーガン茉愛羅さん、山岡竜弘さん、小西貴大さん【映画、ときどき私】 vol. 440697名もの応募があったなかで、ワークショップの参加者に選ばれたのは51名ですが、そのなかでもメインキャストに抜擢された5名。ある新作映画のオーディションを舞台に繰り広げられる本作で、訳ありの女・安子役の藤丸さん(写真・中央)、若き未亡人・切子役の黒河内さん(左から2番目)、カリスマ映画監督・小林役の山岡さん(右)、小林を支える恋人・方子役のモーガンさん(右から2番目)、小林を尊敬する助監督・ジョー役の小西さん(左)がそれぞれの役を熱演しています。今回は、撮影の裏側や園監督の現場ならではの経験などについて語っていただきました。―まずは大勢のなかから選ばれたと知ったとき、どんなお気持ちでしたか?小西さん園子温監督の作品に出られるというのは、すごいチャンスだなと思いました。でも、そのぶん不安も大きかったですね。モーガンさん私は楽しみが100だったかな。初めての映画を園監督のもとでできることがうれしかったので。出演が決まった聞いたときはあまりにうれしくて、一回電車を降りてホームでガッツポーズしてしまいました(笑)。藤丸さん51名に選ばれた時点では、まだ役は決まっていなかったので、キャスティングに向けて気を引き締めていました。絶対に安子を演じたいと思っていたこともあり、かなり気合は入っていましたね。―役の争奪戦もあったようですが、どのようにキャスティングが決まったのでしょうか。小西さん挙手制だったんですけど、女性たちはけっこう熾烈でしたよね。いい意味で。モーガンさん確かに、女性陣のほうがメラメラしていたかも。藤丸さんそんなに熾烈だった?まあ、誰かが安子に手を挙げたら「迎撃するぞ!」とは思ってましたけど……。山岡さんそういうところだよ!一同(笑)モーガンさんでも、オーディションが本番というくらい、みんな本気でした。藤丸さんしびれるような熱い3日間で楽しかったです。園監督からは愛しか受け取っていない―黒河内さんは、実は園監督の作品を1本も観たことがないまま応募されたとか。その後、監督の“霊感”が働いて、そのことがバレたそうですが……。黒河内さん応募してからは観ましたが、申し訳ないことにそれまでは園監督の作品を観たことがありませんでした。ただ、このことは誰にも言っていなかったのに、途中で「あなたの映画は実は⼀度も観たことがありません。オーディション会場では、『昔からのファンです』と嘘つきます」というセリフが追加されたんです。あとで、事実を監督に話したら「そうだったの?」と監督も驚いていましたが。山岡さん園監督ってそういうところあるよね。藤丸さん“洞察の鬼”だからこその直感なんでしょうね、きっと。黒河内さん本当にドキッとしましたが、おかげでより役とリンクできました。―園監督は「つい厳しくなることもあった」とおっしゃっていますが、現場できつかったこともあったのでしょうか。藤丸さん監督の話を聞いて、私たち5人はみんな「そんなことあった?」と思っていました(笑)。ピークに持っていくためのアシストはしてもらいましたが、怖い印象はないです。小西さん甘えさせない厳しさはあったし、決してゆるい現場ではなかったですけど、僕らは全部愛としてしか受け取ってないですから。理不尽に怒られることもなく、いい意味で追い込んでくださいました。山岡さんあとは、納得いかないと思っていたときに、「もう1回だけだぞ」とチャンスをくれることも。モーガンさん特に方子と小林のシーンでは、なかなか思い通りにいかなくて、深夜1時を回っているのに、何テイクもしてくださって、すごく応援してくれました。山岡さん監督からは「お前の自由だから、好きなようにやれ」と言っていただきましたし、そういう思いも映り込むようにしてくださいました。なので、セミドキュメンタリーみたいな作品になっていると思います。いまでも園監督の言葉は背中を押してくれる―そのほかにも、園監督からかけられた言葉で印象に残っているものがあれば、教えてください。小西さん僕は撮影の中盤で「いまからお前は世界の反対側にいる人たちの心臓めがけて伝えろ!」と言われたんですが、そこで不思議とすべてのことが腑に落ちるのを感じました。まさに“園監督マジック”ですね。藤丸さん私はマスコミに向かって吠えるシーンを撮ったとき、セリフを言い終えたのに、カットがかからなかったので、とりあえず続けたんです。そしたら、撮影が終わったあと、「そのまま自由にいけ」と。その言葉は、いまでもふとしたときに私の背中を押してくれています。―撮影中に大変だったことやハプニングはありましたか?小西さん声を張り上げるシーンが多かったので、まったく声が出なくなったことはありましたね。黒河内さん私も熱が出たり、のどが痛くなってしまったりしたので、小道具の裏にのどあめを隠しながらやっていました。藤丸さん暑さのせいもありましたが、頭にグッと力を入れたせいで、鼻血が出たことも。血のりまみれのシーンではありましたが、リアルな血も出てしまったのはハプニングでした(笑)。山岡さん僕は急遽川に飛び込むことになったシーンですね。しかも、小林監督の親衛隊である“小林監督心中クラブ”のみんなが僕をつかまえようと本気で乗っかってきたので、溺れかけました……。小西さんさすがの園監督も「小林が死ぬから手を放してやれ!」って横で走りながら叫んでましたよね(笑)。モーガンさんハプニングではないですけど、ペンキをみんなにかけるシーンでは衣装の関係で、絶対に一発で成功させないといけなかったのはかなりプレッシャーでした。しかも、そのあとに半ページ分はある長ゼリフ。やり遂げたときは思わず笑みがこぼれました。藤丸さんその撮影のあとみんなで銭湯に行ったのも、思い出深いよね。芝居ではなく、真実が映っている―渋谷でのゲリラ撮影もあり、大変だったのではないかなと。黒河内さん確かに、渋谷のスクランブル交差点だったので、かなり周りからは注目されましたね。モーガンさん私が撮影を見に行ったとき、園監督が「Sono Sion Films」と書いたTシャツを着てかなり目立っていたので、それに周りがざわついていておもしろかったです。一同(笑)藤丸さん本編でも本気で生きている人に感化されていく様子が描かれていますが、それが現実とリンクしているようなところがあったので、私たちが雑踏のなかで発した「立ち上がれ!」という言葉を一人でも覚えてくれていたらうれしいですね。黒河内さんあのシーンは、芝居ではなく真実だったと思っています。―そのほかにも、忘れられない出来事はありましたか?モーガンさんワークショップの初日のことで鮮明に覚えているのは、初めての顔合わせのときのこと。藤丸さんの第一声を聞いた瞬間に「この人は絶対に安子だ」と強く思いました。山岡さん僕も「こんなお芝居をする人がいるのか」と衝撃でした。演技と言うよりも、とんでもない人がいるなと事件を目撃しているような感覚に陥ったのを覚えていす。藤丸さん実際のパーソナリティは、まったく違いますけどね。うれしすぎて、いまマスクの下で口角がめっちゃ上がってます(笑)。初めての現場でありがたいスタートを切れた―今回、山岡さんは応募を相談した先輩の1人から「もしかしたら⼈⽣変わるかもしれないね」と言われて応募したそうですが、実際にこの作品に関わったことで、人生が変わったと感じている方はいますか?藤丸さんもし、本当に変わるとしたら、それは公開のあとの話になるのかなと。ただ、すでに海外の映画祭で観てくださった方から感想をたくさんいただいていて、それはすごく支えになっています。小西さん僕は色んなチャンスに声をかけてもらいやすくなりましたね。それだけ園監督の作品に出たということに対する期待値が業界のなかで高いんだなと。改めて、園監督の偉大さを感じています。山岡さん僕は世界の見つめ方が変わりました。園監督がいろいろなことを楽しんでいる姿を見たことによって、日々が瑞々しくなったと言いますか。撮影から2年半、ずっと夢のなかにいるような気分です。その眼差しを持ち続けていれば、これからももっと変えていけると思うので、いまは期待でいっぱいですね。モーガンさん私はこの映画が初めてだったので、まだ変化はわからないですけど、いろいろなことを試せた現場で、ありがたいスタートを切ることができたと感じています。小西さん園監督には、「地球にナイフを突き立てろ」とよく言われましたが、この映画ではみんなが爪痕を残し合っているので、そういう生き方をしたいですし、自分を出すことを臆さないという姿勢に変われたと思います。園監督の映画の素晴らしさを見てほしい―劇中では、みなさんそれぞれに見どころがありますので、「自分のここを見てほしい」と思うシーンやポイントについて教えてください。小西さん僕は川原で小林監督と走ったあとにお別れするシーンです。藤丸さん私は安子が中盤に再登場するアパートのシーンに注目してほしいですね。でも、ラストも好きなので、正直言うと全部です(笑)。あと、実はスタートと言われる前から撮られていた部分も使われていたりするので、そのあたりも見ていただけたらと。モーガンさん確かに、本番前の映像もけっこう使われていたりするよね。そういった部分も楽しんでほしいですが、劇中で使っている方子のカメラは実際に私が仕事で愛用していたカメラを使いました。カメラ好きの方には、喜んでもらえるかなと思います。黒河内さん切子に関しては、抑圧されている人の象徴のようなところがあるので、心情的にリンクする方は多いのかなと。なので、特定のシーンを挙げるというよりも、周りの人に支えながら花開いていく様子や切子の心情に思いを馳せながら観ていただくとおもしろいと思います。山岡さん何度か観ているなかで気がついたのは、仮面を外したような純粋な顔をする小林の顔が随所に差し込まれていること。見逃しがちなところではありますが、そういう部分にも園監督の映画の素晴らしさが表れていると思うので、ぜひ見ていただけるとうれしいです。―この経験を経て、今後はどんな役者になりたいと思っていますか?藤丸さん今回はちょっとエキセントリックな役でしたが、どんな役でも演じられる役者になるべくがんばりたいです。モーガンさんこの作品がきっかけで藤丸さんと一緒にアクションのレッスンを受けているので、いつかアクション映画に出たいと思っています。強い敵をどんどん倒すような“最強の女”をやってみたいですね。黒河内さんまずは、黒河内りくとして実生活でいろんな経験をしながらそれを役に生かしていけたらと思っているので、幅広くいろいろなことに視野を広げていきたいです。小西さんわかりやすく言うと、「売れたい」です。今回の作品では無名でも実力があって、役に合っていればキャスティングされるということを実現しているので、風穴を開けたこの映画の意味をつなげるためにも、1人でも社会に認められる人が出てほしいし、僕自身もそうなりたいです。山岡さん僕はお芝居が大好きなので、自分がまだ触れたことのないような表現で作家さんの思いを伝えられたら最高ですね。それを一生続けていきたいですし、個人それぞれの芸術が尊ばれる世界になったらいいなと思っています。この映画で、世界中を元気にしていきたい―それでは最後に、どなたか代表して作品の見どころをメッセージとしていただきたいのですが……。藤丸さん監督役ということで、ここはやっぱり山岡さんを推薦します!モーガンさん・黒河内さん・小西さんこれは全員一致ですね。山岡さんいやいや、無理だって。―では、みなさんの期待を背負って山岡さんお願いします!山岡さんわかりました。この映画では、51名それぞれの人生が、虹色どころか、51色の繊維の束のようになり、それが映画のなかでうねるように……。一同(笑いがもれる)モーガンさん繊維の束?小西さん言い方が芸術的過ぎるから(笑)。もう少しわかりやすくお願いします。山岡さんすみません、気を取り直して。キャストみんなの人生が映画に乗っかり、それが面白さにもつながっているので、いままでの映画にはないものに仕上がっています。公開の延期もありましたが、コロナ禍でふさぎこんでいるいまこそもっとも届けたい映画になったので、一人でも多くの方にご覧いただきたいです。この映画で、日本中、そして世界中が元気になることを願っています。小西さん観た方の何かが変わるような映画なので、それを確かめてほしいです。キャストみんなが命がけで前に進もうとしている姿も見ていただけたらと。藤丸さん51名の登場人物全員が主役なので、みなさんには自分に一番響く主人公を見つけていただきたいです。インタビューを終えてみて……。濃密な時間と経験を一緒に過ごした仲間だからこそ生まれた絆に触れることができた今回の取材。みなさんが目を輝かせながら話す姿を見ているだけで、この作品に対する思いと園監督への愛をひしひしと感じました。みなさんが今後どのような役者になるのか、ますます楽しみです。人生には立ち向かうべきときがある!ほとばしる熱量がスクリーン全体から溢れ出し、圧倒的な演技で観る者を魅了する本作。「人生のエキストラでは終われない!」と、誰もが胸のなかに湧き上がるものを感じずにはいられないはず。新たな年を迎える前のいまこそ、観ておきたい1本です。写真・北尾渉(藤丸千、黒河内りく、モーガン茉愛羅、山岡竜弘、小西貴大)取材、文・志村昌美ストーリー鬼才のカリスマ映画監督・小林正は、新作映画のために演技経験の有無を問わず出演者を募集する。参加者は、浴衣姿の劇団員、小林監督の親衛隊“小林監督心中クラブ”、俳優志望の夫を亡くした若き未亡人・切子、殺気立った訳ありの女・安子など。オーディションではそれぞれの事情を語り、演じて見せる。助監督のジョーたちに心配されながら、脚本作りに難航する小林の前に現れたのは、元恋人の方子。脚本の続きを書いてくれるという彼女に励まされながら、制作に打ち込んでいたが、エグゼクティブプロデューサーからの無理な要望で、自暴自棄に陥ってしまうことに……。衝撃が走る予告編はこちら!作品情報『エッシャー通りの赤いポスト』12月25日(土)より全国ロードショー配給:ガイエ©2021「エッシャー通りの赤いポスト」製作委員会写真・北尾渉(藤丸千、黒河内りく、モーガン茉愛羅、山岡竜弘、小西貴大)
2021年12月24日仕事でも家庭でもムダに気を使い、よかれと思ってやったことはすべて裏目に出て、心の中でつぶやく。“俺はいったい、何と闘っているんだ…”。安田顕さんが扮したのは、スーパー“ウメヤ”の万年主任、伊澤春男・45歳。休日に、誤発注によりスーパーから呼び出されたり、店内での“内引き”疑惑が浮上するなどドタバタな日々を過ごしながら、いつも誰かのために走り回っている。物語は、そんな春男の、言葉にできない心の声で溢れている。みなさん毎日、何かと闘いながら生きているんですよね。「ここまでモノローグが多い作品は初めてだったので、新しいチャレンジになると思いました。春男について、李(闘士男)監督に『自らを礎にして弱い人を救う彼は、平々凡々に見えて、実はスーパーマンですね』と言ったら、『いや、スーパーマンなんかじゃない。みんながそうやって生きているんです』と言われて。演じているうちに、その通りだと思い直しました。みなさん毎日、心の中で“チキショー”と思っていたり、何かと闘いながら生きているんですよね。それに僕だって、今も、ここまでの質問にお答えしたことがうまく伝わっているだろうか…なんてすでに考えているんです。だから春男の気持ちがよくわかります」撮影中に印象的だったのは、娘(岡田結実)の恋人(SWAY)が挨拶に来るシーンだそう。高級酒“ナポレオン”をちらつかせて威厳を示そうとするなど、父親の複雑な心境が面白おかしく描かれている。「あのワンシーンに李監督の狙いが詰まっていて、思わず笑っちゃうけれど最後はホロッとくる温かさがあるし、春男らしくていい。李監督とご一緒するのは、映画『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』に続き2作目ですが、その時の最後の撮影はお酒を飲むシーンで、僕は本当にお酒を飲んでしまって。それを踏まえて今作でもこのシーンをあえてラストにしてくれて『ナポレオンは僕の自前です。一発撮りでいくので、本当に飲んでください』と返してきてくれた。そんなことをしてくださるのも粋だなぁと。男として、改めて李監督に惚れました。ちなみに僕が父親の威厳を示すとしたら、延々と自分の出演作品を見せる、なんてバカ話をこの前していたんですけど(笑)」そんな安田さんも、日々闘い、葛藤していることがあるという。「“ちょっと一杯”が“いっぱい”になること(笑)。今はなかなか難しくなっちゃったけど、馴染みの店で交流できるのはやっぱり楽しいです」『私はいったい、何と闘っているのか』現実と理想は遠くても、日々闘い続ける主人公の春男の人生やその家族の絆を描いたハートフルな物語。監督/李闘士男原作/つぶやきシロー『私はいったい、何と闘っているのか』(小学館)出演/安田顕、小池栄子、岡田結実、ファーストサマーウイカほか12月17日より全国公開。©2021 つぶやきシロ―・ホリプロ・小学館/闘う製作委員会やすだ・けん1973年12月8日生まれ、北海道出身。主演ドラマ『しもべえ』(NHK総合)が来年1月7日より放送。主演映画『ハザードランプ』ほか、出演映画『リング・ワンダリング』『とんび』が来年公開予定。ジャケット¥143,000タートルニット¥22,000パンツ¥39,600(以上GOTAIRIKU/オンワード樫山 お客様相談室 TEL:03・5476・5811)※『anan』2021年12月22日号より。写真・岩澤高雄(The VOICE)スタイリスト・村留利弘(Yolken)ヘア&メイク・西岡達也(Leinwand)インタビュー、文・若山あや(by anan編集部)
2021年12月20日劇作家、テネシー・ウィリアムズの名作『ガラスの動物園』は、閉塞感を抱きながら暮らす家族の姿を描く追憶劇。今作で、脚の障害がコンプレックスである内気なローラを演じる倉科カナさん。自然体でありながら太陽のようにその場の雰囲気を明るくするパワーを持つ彼女が、笑顔を封印して鬱屈とした役に挑む。「ガラス細工のように繊細なローラの悩みから何か受け取ってもらえたら」「デビュー当初にテネシー・ウィリアムズ作の舞台『やけたトタン屋根の上の猫』を観て以来、いつかテネシーの戯曲をやりたいと願い続けてきました。たくさんの素晴らしい女優さんが演じてきた『ガラスの動物園』のローラを演じられるなんて、夢がひとつ叶いましたね。ローラは、家族の心の痛みを自分のことのように感じ取ってしまう女性。彼女が大切にしているガラス細工の動物たちのように繊細なんです。母が望むように生きてあげたいと思いながら、自分の気持ちや体がついていかない苛立ちや葛藤を丁寧に演じたいです。私自身は熊本出身、火の国生まれで気が強い一面もあるので、根っこの部分はローラと違うタイプ。でも、人の気持ちが分かるからこそ疲れてしまう気にしいなところは同じ(笑)。ローラの悩みから何か受け取ってくださるものがあればいいですね」今回は、ローラの弟・トムを岡田将生さん、母のアマンダを麻実れいさん、過去にローラが恋心を抱いていたジムを竪山隼太さんが演じる。憧れていた元宝塚歌劇団のトップスター・麻実さんとの共演には大興奮だったそうで…。「麻実さんの舞台のDVDを観て、その表現力に感銘を受けて。マネージャーさんに『いつか麻実さんと一緒にお仕事したいです』と話していた矢先に、偶然にも共演が決まってビックリ。初めての読み合わせから、麻実さんのエネルギーに満ち溢れるアマンダに魅了されっぱなしです。同世代の岡田さんは精力的に舞台に挑まれているので、こっそり同志のような感覚を抱いていて(笑)。貪欲にお芝居を追求される方なので、対峙した時にどんな化学反応が起こるのか楽しみです」ローラがガラス細工を集めて作った動物園に癒されていたように、倉科さんにとって今の心の拠り所は?「ニャンコの雪(せつ)です!出かける前に『君のごはん代を稼いでくるね』って声をかけるのが日課(笑)。私の最大の心の支えで、力をもらっています。あと、最近始めたバイオリン演奏も楽しみ。ドラマでバイオリニストを演じたことがきっかけで練習中なのですが、他の楽器よりは才能があるかもしれないなって(笑)。おうち時間でできる趣味が増えたので、続けてみようかな」『ガラスの動物園』1930年代のセントルイスを舞台に描かれるウィングフィールド一家の物語。ある日、母のアマンダ(麻実)の言いつけでトム(岡田)は職場の同僚・ジム(竪山)を姉のローラ(倉科)と出会わせる。12月12日(日)~30日(木)日比谷・シアタークリエ作/テネシー・ウィリアムズ翻訳/小田島雄志演出/上村聡史出演/岡田将生、倉科カナ、竪山隼太、麻実れい全席指定1万1000円東宝テレザーブ TEL:03・3201・7777福岡、愛知、大阪公演あり。くらしな・かな1987年12月23日生まれ、熊本県出身。現在、ドラマ『らせんの迷宮~ DNA科学捜査~』『婚姻届に判を捺しただけですが』に出演中。2022年5月・6月に上演予定の舞台『お勢、断行』で主演を務める。※『anan』2021年12月15日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・多木成美(コンテンポラリー・コーポレーション)ヘア&メイク・草場妙子インタビュー、文・福田恵子(by anan編集部)
2021年12月13日『エリザベート』や『マタ・ハリ』など、数々のミュージカルで主演を務める愛希れいかさんが、『泥人魚』にて初のストレートプレイに挑戦する。しかも混沌にまみれたアングラ劇という、これまでとはまるで違うタイプの作品。しかし意外にも「小さい頃から、母がそういう舞台も好きでよく観に連れて行ってもらっていた」のだそう。「大人になってからも、すすんで観に行ったりするくらい興味はあったんです。自分から出てみたいと言葉に出して言えないけれど、理由も分からず惹かれる感じはなんだろうと思っていたんです」諫早湾の干拓事業を題材に、“ヒトか魚か分からぬコ”や“人の影を踏む興信所”が登場する不可思議な世界が怒濤のように展開する作品。「台本は何度も何度も読んでいますが、最初は分からなすぎて頭を抱えました。でも稽古場で立って声を出してセリフを言ってみると、“なるほど”って思う瞬間があるんですよね。宮沢(りえ)さんにも『台本と向き合うのはひとりの時間にして、稽古場で起きていることに目を向け、耳を傾けてみて。雑談から生まれるものもある。分からなくても熱量を持って大きな声で言ってみると見えるものがあるかもしれないよ』とアドバイスをいただきました。実際、ひとりでは読み解けなかったことが、みなさんのお芝居を拝見しながら、『こことここが、こんなふうにつながるんだ!』と分かったり、普段はボソボソと読んで覚えるセリフを、本意気で読んでみたらすんなり入ってきたりと、発見が多い現場です」演じるのは、“月の裏側を熟知しているとのたまう女”月影小夜子。「演出家の金(守珍/キム・スジン)さんが、役者さんから出てくるいろいろなアイデアを喜んで受け入れて、どんどん試していこうとされる方なんです。金さんからは、『月影は資本主義の塊。泥水のような汚れた世界で生きているけれど、どこかでは少女のようにピュアなものを追い求めている女性じゃないか』とアドバイスをいただきました。だからこそ、磯村(勇斗)さん演じる蛍一のようなキラキラした人に恋をするんじゃないかと。そうやって寄り添ってくださるので、一緒に作品や役を読み解かせていただいている気がして、今は難しさ以上に楽しんでやれています」まさにそれが唐作品の魅力だ。薄暗くドロドロとした世界で、必死に営み続ける人間のエネルギー、役者の肉体が発する詩のような言葉…。その力強さと美しさに心を掴まれる。「最初は怒涛の展開に戸惑うかもしれません。でもこれほど熱量がある舞台ってなかなかないと思うんです。すべてをさらけ出してやっている役者の姿や、そのエネルギーに触れることで届くものがあると思います」COCOON PRODUCTION 2021『泥人魚』ある日、蛍一(磯村)が暮らす都会の片隅にあるブリキ店に、かつて諫早漁港で共に働いていた、しらない二郎(岡田)が現れる。かつての二郎の裏切りをなじる蛍一の元に、彼を探してやすみ(宮沢)という女が現れる。12月6日(月)~29日(水)渋谷・Bunkamuraシアターコクーン作/唐十郎演出/金守珍出演/宮沢りえ、磯村勇斗、愛希れいか、岡田義徳、石井愃一、金守珍、六平直政、風間杜夫ほかS席1万1000円ほかBunkamuraチケットセンター TEL:03・3477・9999(10:00~17:00)まなき・れいか1991年8月21日生まれ、福井県出身。2018年まで宝塚歌劇団月組トップ娘役として活躍。退団後はミュージカルを中心に数々の作品で主演。放送中の大河ドラマ『青天を衝け』に井上武子役で出演を果たした。シャツ¥47,300(HAENGNAE/ヘンネ カスタマーサポートcustomer@haengnae.com)※『anan』2021年12月8日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・山本隆司(style3)インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2021年12月07日寺山修司といえば、昭和に人気を博した劇作家であり詩人で歌人。軽妙でリリカルな文体で描き出す世界は、どこか妖しく不可思議でありながら、人間くさくてユーモラスでもある。いまだ根強いファンを持つ作家の20代後期の作で未上演となっていた戯曲『海王星』が、山田裕貴さん主演で上演される。寺山修司が書き下ろした未上演の幻の音楽劇が初演。「これまで映画にも舞台にもなっていない戯曲を、みなさんの前でお披露目できるというのは、とても光栄なことです。ただ…めちゃくちゃ難しい。最近自分がお芝居をしていて、どういう気持ちでここにいるのかわからなくなることってなかったんです。でも今回の役に関しては、自分の中で気持ちがうまく繋がらなくて、その状態のままセリフを発するということに、すごく難しさを感じています」そして一拍おいてから「この人がどういう声で話すのか。どんな間で、それがどれくらいの音圧でしゃべるのか。今、呼吸はどうなっていて、心臓のバクバクはどれくらいなのか。そんなところから悩んじゃって…」とも。つまり普段、そこまで追求し演じているということなのだろう。「考えすぎなのかもしれないですけど、一回違うと思い始めると細かいところまで気になってきちゃうんです。共演のみなさんはまず動いてみるということができるのですが、映像の仕事が圧倒的に多い僕には、頭と体を切り離して動くということがなかなかできないんですよね」演じるのは、船の難破で父を亡くした青年・猛夫。ホテルを舞台に、父への想いと、父と再婚するはずだった魔子に惹かれていく自身の恋心との狭間で苦悩する姿が描かれる。「演出の眞鍋(卓嗣)さんから説明していただいたのは、登場人物はみな、追い求める理想像とは違う現在の自分に劣等感を抱いている人たちだということ。その劣等感やコンプレックスを隠すために、夜な夜な集まってドンチャン騒いで寂しさを紛らわしている。理想と現実という両極端のベクトルが反作用を起こして、気持ちの中でゴチャゴチャしてほしい、役としても俳優としても内側にカオスを持っていてほしいと言われました。だから今は、そのカオスを一生懸命やろうとしています」いつだってそうやって悩み考えて考えて、あのどこか生々しさを感じさせる役が生まれてくるのだ。「不器用だからめちゃくちゃ考えるんだと思います。そうしながらやっていくうちに、わからなかった感情に気づいたり、しゃべる声や動きがしっくりくる瞬間があるんです。ただ、しっくりきすぎるのもよくなくて。きれいに見えすぎてしまっていないかということも、疑ってみないといけない。…なんか嫌なんです、“お芝居です”と見えてしまうことが。誰かの人生をのぞいているような感覚で観てもらいたいんです」映画にドラマにと今年最も活躍した俳優のひとりと言っていいだろう。「僕はまだ、こんな作品をやりたいです、と自分から言えるような俳優ではないと思っています。ただ、熱量を持って僕にぜひと言ってくださるならば、できる限り応えたいと思っています。今回の舞台もそう。声をかけてくださった方たちもだし、僕が出てるからと観に来てくださる方々、みんながよかったと思えるものにできたらと思っています。今回くらいカオスを抱えた役を演じるのは、もしかしたら初めてかもしれない。今はまだどう表現したらいいかわからないけれど、だからこそ表現の仕方が見つかった瞬間、すごく気持ちがいいかもしれないです」PARCO PRODUCE 2021 音楽劇『海王星』戦艦の船底にあるホテル。父親が乗った船が難破し、悲しみに暮れる猛夫(山田)の前に、父の婚約者の魔子(松雪)が現れる。互いに惹かれ合うが、死んだはずの父(ユースケ)が生還し…。12月6日(月)~30日(木)渋谷・PARCO劇場作/寺山修司演出/眞鍋卓嗣音楽・音楽監督/志磨遼平(ドレスコーズ)出演/山田裕貴、松雪泰子、清水くるみ、伊原六花、大谷亮介、中尾ミエ、ユースケ・サンタマリアほか全席指定1万3000円ほかパルコステージ TEL:03・3477・5858大阪、富山、宮城、青森、名古屋公演あり。やまだ・ゆうき1990年9月18日生まれ。愛知県出身。最近の出演作に、映画『東京リベンジャーズ』『燃えよ剣』など。主演ドラマ『志村けんとドリフの大爆笑物語』(フジテレビ系)は今月放送予定。ジャケット¥91,300パンツ¥52,800(共にコモン スウェーデン/ジェムプロジェクター TEL:03・6418・7910)シューズ¥51,700(フェランテ/トゥモローランド TEL:0120・983・522)その他はスタイリスト私物※『anan』2021年12月8日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・森田晃嘉ヘア&メイク・小林純子インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2021年12月06日11月12日公開の映画『恋する寄生虫』にW主演する林遣都さんと小松菜奈さん。限られた取材時間の中でも、ものづくりへのひたむきな姿勢が窺える二人は、“恋”ד虫”という一風変わったテーマにどうアプローチしたのか。自分と向き合い、受け入れることも大事だと思った。――林さん演じる潔癖症の高坂と、小松さん演じる視線恐怖症の佐薙(さなぎ)が恋に落ち、そして“虫”によって予想外の展開を見せる異色のラブストーリーですが、初めて脚本を読んだ時はどう思われましたか?林遣都:これまであまり演じたことのないジャンルの作品で、最初は、このファンタジックな世界観を生身の人間が表現するのは難しそうだな…と。でも共演するのは小松菜奈ちゃんで、監督は話題の映像作品を手掛けてきた柿本(ケンサク)さんだと聞き、新たな題材に挑戦するにはとても心強いメンバーだと思いました。高坂と佐薙の心の変化を丁寧に、繊細に描くことで、二人をより身近に感じられると思い、高坂の人生をしっかり自分の中に落とし込まなければ、と気合が入りました。小松菜奈:私は、人間に寄生して生きようとする虫と、それを理性で止めようとする人間の関係性みたいなところに面白さを感じました。感情的にぶつかり合うシーンでも、まずは現場に行って演じながら作っていくという演出のスタイルがこの物語には合っていて、頭で考えるのではなく、心が動いていく様子をリアルに表現したいなって。林:菜奈ちゃんと柿本監督は感覚派でもあり、現場で起こることを楽しんでいらっしゃいました。みんなでたくさん話し合い、同じ方向を見て撮影ができたと思います。小松:さらに柿本監督のCG編集によってどう広がっていくのかを楽しみにしながら完成作を観たのですが、高坂の部屋から始まる冒頭のシーンからこの作品の世界観に引き込まれて、ワクワクしました。そして二人の小さな世界観の中に、ぎっしり詰まった感情がちゃんと表現されていたんです。――“恋”ד虫”の斬新な掛け合わせに、共感する部分は?林:僕自身は潔癖症ではないけど、高坂の人とのコミュニケーションが苦手な部分には共感しました。でも無理に自分を変えたり、他人に合わせたりせず、自分と向き合って受け入れることも大事だと、この作品を通して思ったんですよね。考えすぎたり、孤独を感じやすい世の中でもあるので。小松:私は、実は以前からずっと気になっていた「目黒寄生虫館」に行こうとしたことがあって。その時は休館で行くことができなかったのですが、その数日後にこのお話をいただいたので、すごい!運命かもって(笑)。もともと寄生虫とか深海魚とか、未知なものが好きで。――コロナ禍になる前に撮影されたそうですが、奇しくも今の時代にリンクする部分も多くて…。小松:潔癖症やマスク越しのキスなど最初はピンとこなかったので、先取りした感じはありましたね。――ちなみに今年もあとわずかですが今年のお二人のトレンドは?林:メジャーリーガーの大谷翔平選手。異次元な活躍を同じ時代に見られるというのはすごいです!小松:私は、Googleマップでの仮想旅行。今までは作品が終わる度に海外旅行でリセットしていたのですが、それができなくなったので。国内外、行きたい場所にピンを刺していたら引くぐらいピンだらけになりました(笑)。はやし・けんと1990年12月6日生まれ、滋賀県出身。2007年主演映画『バッテリー』で俳優デビュー。今年7月には、主演映画『犬部!』が公開に。また出演映画『護られなかった者たちへ』が現在公開中。こまつ・なな1996年2月16日生まれ、東京都出身。主演映画『ムーンライト・シャドウ』が全国各地にて現在公開中。映画『余命10年』が2022年の春に公開を控えているなど、活躍中。トップス、ベルト、ジュエリー すべて参考商品(以上シャネル/シャネル カスタマーケア TEL:0120・525・519)パンツ 参考商品(ラムシェ/ブランドニュース TEL:03・3797・3673)ブーツはスタイリスト私物『恋する寄生虫』極度の潔癖症で社会に適応できずに生きてきた高坂賢吾は、視線恐怖症の高校生・佐薙ひじりの面倒を見てほしいという奇妙な依頼を受ける。やがて、ともに孤独を感じていた二人は恋に落ちるが…。11月12日より全国ロードショー。※『anan』2021年11月17日号より。写真・内田紘倫(The VOICE)スタイリスト・菊池陽之介(林さん)遠藤彩香(小松さん)ヘア&メイク・主代美樹(GUILD MANAGEMENT/林さん)小澤麻衣(mod’s hair/小松さん)取材、文・若山あや撮影協力・バックグラウンズ ファクトリー(by anan編集部)
2021年11月15日劇場公開前から予告編の再生回数が異例の340万回を超え、上映館数も一気に拡大するなど、大きな注目を集めている話題作『梅切らぬバカ』。そこで、本作についてこちらの方にお話をうかがってきました。塚地武雅さん【映画、ときどき私】 vol. 429「演技が上手い芸人ランキング」には必ず名前が上がる塚地さん。今回は、母親と自閉症を抱える息子が懸命に生きていく姿を描いた本作で、「忠さん(ちゅうさん)」こと息子の忠男を演じています。役作りの過程で初めて知ったことや50代を目前にしたいまの心境、そして理想のお嫁さん像などについて語っていただきました。―今回は本当に難しい役どころだったと思いますが、脚本を読まれたときのお気持ちはいかがでしたか?塚地さん最初は、かなり不安でした。というのも、お笑い芸人である僕が登場したら、作品の邪魔になってしまうと思ったからです。いわゆる無名の役者さんのほうがより本物に見えるんじゃないかなとも感じたので、「僕が出たらマイナスになりませんか?」と監督に相談したこともありました。そしたら、監督から「そんなことはまったくないので、いままで通り、役に対する真面目な姿勢とこだわりを持って忠さんを膨らませてほしい」と。それなら全力でやろうと思って、受けることにしました。―思わず塚地さんであることを忘れてしまうほど、忠さんそのものだったと思います。塚地さん観てくださった方々が、僕を見ると「忠さん!」と呼んでくださるんですが、役柄の名前で呼ばれるのはうれしいですね。―今回は、役作りのために自閉症の方々やご家族とも面会されたそうですね。実際に会われてみて、いかがでしたか?塚地さんグループで住まわれているところを訪問させていただき、いろいろなお話を聞かせてもらいました。自分の周りに自閉症の方がいなかったこともあり、知識がまったくなかったので、行動を予測できないところが実はちょっと怖いと思っていたんです。でも、この映画を通じてさまざまなことを知っていくうちに、ただ喜怒哀楽の表現がストレートなだけなんだということに気づかされました。そんなふうに、自閉症の方の性格や行動パターンを理解すれば、見方は変わるものなんだなと。いままで自分が抱いていた印象は、あくまでもこちらの勝手な先入観で作り上げられているものだったと知ることができました。自閉症の方との関わりを通して、しっかりと役に臨めた―ということは、役へのアプローチもかなり変わったのでは?塚地さんそうですね。たとえば、自閉症の方の大半が忠さんと同じように、時間に正確だったり、ものすごい几帳面な性格だったりするというのは驚きました。そういったさまざまな特徴を知ったうえで、しっかり役作りに臨めたので、自閉症のみなさんと会う前と会ったあとでは、演じ方もかなり変わったと思います。―塚地さんは文字や数字に色がついて見えたりする「共感覚」の持ち主で、珍しい現象とされているそうですが、ご自身が演じる役を色で考えることもあるのでしょうか。塚地さん子どもの頃から、名前と人が合わさると色は見えますね。でも、ただ色が見えるだけ。この話をすると「私って何色ですか?」と尋ねられることも多くて、「その色はどういう意味ですか?」と聞かれちゃうんですが、僕も理由は何もわからないんですよ……。―オーラが見える人と間違えられているのでは?塚地さんそうなんですよ!「わからない」と伝えると、毎回がっかりされるので、それが嫌でだんだん僕も言わなくなってきてますね。―確かに、それはちょっとつらいですね。塚地さんイメージとしては、着ている服の色みたいに見えるだけなので、「あの人は赤いシャツを着てる人」くらいの感覚です。役に関しても色は見えますが、それを役作りに投影することはないです。―ちなみに、忠さんは何色ですか?塚地さん青ですね。だからといって、クールに演じようとか、そういうわけではないですよ。でも、見えることは見えるんです。―すごく興味深いです。意味はないということは、この機会にみなさんにもちゃんと知っておいてもらえるといいですね。塚地さん色を言ったあと、「ということは?」となるのが、本当に怖いです(笑)。ウケるためなら何でもできるが、役者の仕事は不安だらけ―塚地さんはご自分の出演作は毎回観たくないと思うそうですが、本作はすでにかなりの反響があるので、今回は自信を持ってお届けできるのでは?塚地さんいや、ないですね。それよりも、「イケメン俳優かアイドルでないと予告編の再生回数がこんなに行くことはないですよ」とか「予告編だけで泣けた」とか言われて、その方々が本編を観たときに「あれ?」となったらどうしようと逆に不安しかありません。―みなさんの期待値が上がりすぎてないか、いままで以上に心配になっている感じですか?塚地さんまさにその通りですね。とはいえ、いつも不安な気持ちはあります。撮影中も監督と役者さんはモニターでチェックをされていますが、僕はそれさえも見ることができません。「ああ、俺が邪魔してるわ」と思っちゃうので。だから、試写とか見てられないですね。ほかの方のシーンは「素晴らしいな」と楽しめるんですが、自分が映ると「登場するな!」と言いたくなりますから(笑)。―コントのときも、そうなりますか?それとも、役者のときは別の感覚なのでしょうか。塚地さんそう言われたら、コントのときはしっかりチェックしてますね。たとえば、「もっとこの表情をしたほうがウケるな」とか「この画角ならこっちの動きのほうがいいな」とか考えますから。ウケるためなら何でもできるので、欲深い人間ですね(笑)。―つまり、基準となっているのは、ウケるかどうかであると。塚地さん僕のなかで大きくは一緒ですが、分けているとすれば、映画やドラマはリアリティで、コントはどこかファンタジー。役者のほうはリアルな自分により近いから見ていられないのかもしれないですね。加賀まりこさんは、本当のお母さんのようだった―なるほど。リアルといえば、今回は加賀まりこさんとのかけあいは本当の親子のようでした。現場での様子はいかがでしたか?塚地さん段取り的なリハはしましたけど、本番はほぼアドリブ。僕は決められたルーティンをひたすらこなしているだけで、それを加賀さんがサポートするという流れでした。特別なことをしているわけではないのに、ちゃんと親子に見えるのは、加賀さんの懐の深さと慈愛に満ちた母性のおかげだと思います。加賀さんのお芝居は、本当にすごかったです。―撮影以外にも、印象に残っている加賀さんとのエピソードがあれば、教えてください。塚地さん役柄についてのアドバイスはもちろん、「一人で大丈夫?」「ちゃんと食べてる?」などプライベートの心配までしてくださって、お母さんのようでした。加賀さんの周りの方もこの作品を観てくださっていたようで、あるとき「私の友達が塚地くんのことを褒めていて、『素晴らしい役者さんと共演できてよかったね』と言ってたわよ」と教えてくださったことがありました。で、それを言ってくださったのが女優の浅丘ルリ子さん(笑)。そんなすごい方に言ってもらえる立場じゃないのに、と驚いたこともありました。―それはかなりすごいですね。塚地さんあとは、天海祐希さんも観てくださっていて、ドラマでご一緒したときに現場で「嘘がなくて、めちゃくちゃよかったよ。淡々としているけど、人生ってああいうものだから」と熱弁してくださったときもうれしかったです。でも、加賀さんがよかったという意味で、僕がよかったわけではない可能性もありますから……。まだ、認められませんね。―ただ、浅丘さんと天海さんは嘘をおっしゃるタイプではない気がします。塚地さん確かに、それはありますね。でも、公開されて観てくださったみなさんの声を聞くまでは、とにかく不安で仕方ないです。バカがつくほど好きなのは、15年追いかけているK-POP―忠さんといえば、几帳面で分刻みのルーティンをこなす性格。塚地さんにも毎日絶対に欠かせないルーティンはありますか?塚地さん朝は起きなくてはいけない時間の30分前に起きて、まずお風呂にお湯を溜めます。ボタンを押したら二度寝して、お風呂の準備ができたら半身浴を15分ほどするのが毎朝のルーティンです。家に帰ってきたら、まず玄関で「ただいま」と言います。もちろん、一人ですけどね(笑)。そのあと、ソファに座って大声で「よいしょー!」と必ず言うんですが、そこで自分のスイッチをオフにして一日を締めています。ただ、たまに間違えてマンションのエントランスで「よいしょー!」と言っちゃって焦ることもありますが……。―(笑)。では、スイッチをオフにしたあとの楽しみといえば?塚地さん韓流ドラマとか、韓国のオーディション番組を欠かさず見ています。―忠さんはバカがつくほど梅を大切にしていますが、塚地さんがバカになってしまうほど好きなものといえば?塚地さんやっぱりK-POPは大好きですね。15年くらい前に、周りから勧められて見た東方神起がきっかけでしたが、そこからはCSのチャンネルをいくつも契約して、K-POPも韓流ドラマも片っ端から見ています。最近、BTSが急に盛り上がっていますけど、僕はデビュー当時からずっと見続けていますからね(笑)。あとは地方ロケの前後に自分の時間を取って、ご当地名物を食べたり、街を散歩したりするのが、好きな時間の過ごし方です。50代も、僕の未来は明るいと感じている―劇中では、忠さんが「お嫁さんがほしい」とたびたび口にする姿がかわいらしかったです。塚地さんにとって理想のお嫁さん像とは?塚地さん笑っていてくれていたら、それだけでいいです。あとは、たとえ面白い話ではなかったとしても、「今日こんなことがあってね」みたいなことを一生懸命話してくれたら最高ですね。家に帰ったときに、「ただいま」と言って返事が返ってくる生活を夢見ています。―11月25日には、50歳の誕生日を迎えられます。お気持ちに変化はありますか?塚地さん実は、めちゃくちゃビビってます。でも、もう50歳になるのにまだ若手みたいな扱いで、お笑いの世界って何なんですかね(笑)。僕が若い頃に見ていた50代の芸人はベテランだと思ってたんですけど、僕なんてつい最近も学生服着て収録してましたから。何でいまだに、若手扱いなんだろうと驚いています。ただ、先日ドラマの現場で「僕、今年で50歳なんですよ」とメイクさんに言った瞬間、隣にいた小日向文世さんが「若っ!これからできることがいろいろあるね」とおっしゃったんです。僕が20歳の子にするみたいなリアクションでびっくりしましたが、そのときに「俺はまだまだ若いのか」と気がついて力になりました。僕が知っている諸先輩方はみなさん本当にパワフルなので、いまは僕の未来も明るいなと感じています。―それでは、50代をどんなふうに過ごしていきたいかを教えてください。塚地さんまずは、大切な伴侶を迎えて、東京に家を買い、さらに地方に別荘を持てたらいいですね。最近は地方の暮らしに憧れているので、ゆっくりと過ごしていけたらいいなと思っています。インタビューを終えてみて……。塚地さんの笑顔にこちらまで笑顔になり、笑いと癒しをたくさんいただいた取材となりました。あれほどの名演技を披露し、周囲から絶賛の声が届いているにもかかわらず、不安な思いを抱えていらっしゃるのは意外でしたが、謙虚な姿もまた塚地さんの魅力。俳優・塚地武雅さんの素晴らしい熱演は必見です!人生を豊かに育ててくれるのは、人との間に生まれる絆何気ないささやかな日常のなかにある幸せや親子の深い愛に、心の奥がじんわりと温かくなるのを感じられる本作。偏見にとらわれ、人間関係が希薄になりがちな現代で、他者と向き合うからこそ得られる喜びについても改めて考えさせてくれる珠玉の物語です。写真・山本嵩(塚地武雅)取材、文・志村昌美ストーリー都会の古民家で占い師として生計を立てている山田珠子は、自閉症の息子・忠男と二人暮らし。ささやかな毎日を送っていたが、息子が50回目の誕生日を迎えた日、母はこのままでは共倒れになるのではないかと気がつく。悩んだ末、珠子はグループホームに忠男の入居を決めるが、環境の変化に戸惑った忠男は、ホームを抜け出してしまう。近隣住民からの反発を受けるなか、珠子は大切に育ててきた庭の梅の木を切ることを決意するのだが……。目頭が熱くなる予告編はこちら!作品情報『梅切らぬバカ』11月12日(金)より、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー配給:ハピネットファントム・スタジオ©2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト写真・山本嵩(塚地武雅)
2021年11月11日ドラマ『あいつが上手で下手が僕で』は、売れない芸人たちが集まる寂れた劇場が舞台の青春群像劇。そのなかでお笑いコンビ、エクソダスのツッコミ担当・島世紀を演じるは和田雅成さん。明るいキャラに軽快な関西弁は、まさに本人そのまま。売れない漫才師の役で世界を救う!?「役のポジティブさは尊敬します」「芸人志望の役は経験ありましたけど、今回は売れてないとはいえ芸人さんの役だけにプレッシャーでしたね。漫才って、舞台のコメディのテンポともまた全然違うので。ただ、相方の時浦がまっきー(荒牧慶彦さん)っていうのは心強かったです」荒牧さんとは舞台『刀剣乱舞』をはじめ数々の舞台で共演している仲。「お互いに、今ボケてくるだろうなとか、このタイミングでボケたらツッコんでくれるなとかが、空気感でなんとなくわかるのはありがたかったです。逆に第1話でコンビを結成する設定なので、合いすぎても気持ち悪いからって最初の漫才のシーンはへんに練習せずに臨みましたから。それくらい信頼感ありますね」なんとこの作品、1台のカメラが劇場や芸人たちの間を縦横無尽に動き回り、ひとつの場面を1カットの長回しで撮る手法が用いられている。出演者には相当の対応力が必要に。「僕らよりカメラマンさんが大変だったと思います。しゃべる順に顔を撮ったら、人と人の間を抜けてこっち側にカメラが移動するので、このタイミングでちょっと避ける、とかを全部場当たりしてやってました。途中でNGを出したら頭から撮り直しなので、最初こそ緊張感がありましたけど、途中からはそんなリスキー感も楽しみつつやってました」島は調子に乗りやすく、肝心な場面で大遅刻するようなキャラクター。「でも太陽みたいな人なんですよね。そのポジティブさは尊敬するし、それでも上を目指すって素敵だなって。僕、いろんなところで言ってるんですけど、暗いニュースが多い今、笑顔になれる作品だし、マジで世界を救えないかなって思うんです」和田さん自身も、つねに周りに目を配り、笑いで場を盛り上げてくれる人。この取材中もしかりだ。「僕は自分で面白ができないので、上手にボケる人がうらやましいです。でも、周りの人は笑顔にしたいし、幸せになってほしいんです」その笑いのスキルはどこから?と尋ねると、「そんなん全然ないんです」と、照れつつも全力否定。「もともと地元では全然ツッコミもしなかったし。ただ、飲食店でアルバイトを始めて、こんなふうにお客さんと話したら笑ってもらえるかなってお笑い番組を見ながら考えるようになったんですよね。フットボールアワーの後藤さんとか千鳥さんが発するワードのパワーは、今もすごいなって注目して見ちゃいます」今作はドラマ終了後に舞台になることも発表されている。名コンビの漫才をぜひ生でも体験したい!『あいつが上手で下手が僕で』 売れない芸人たちが“島流し”される湘南劇場。ここにやってきたピン芸人の時浦(荒牧)は、島(和田)とエクソダスという漫才コンビを組み、現状脱出を目指す。毎週水曜24:59~日本テレビ、毎週土曜24:58~読売テレビで放送中。わだ・まさなり1991年9月5日生まれ、大阪府出身。舞台『刀剣乱舞』や舞台『おそ松さん on STAGE』など舞台を中心に、近年は映像作品でも活躍。出演映画『映画演劇 サクセス荘』は12月31日公開予定。シャツ¥27,500パンツ¥29,700(共にSHAREEF/Sian PR TEL:03・6662・5525)Tシャツ¥8,250(WIZZARD/TEENY RANCH TEL:03・6812・9341)※『anan』2021年11月3日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・石橋修一ヘア&メイク・西田総子インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2021年11月01日