『アレンとドラン』は、文化系女子にとっては、痛いけど非常によくわかるお話だ。単館系のマイナー映画が大好物で、外見も中身もわかりやすいサブカル女子の林田(リンダ)。田舎から東京の大学に進学して、趣味の合う少数派との交流をSNSで満喫するものの、大学ではいまいち浮いてしまっている。作者の麻生みことさんに本作について聞きました。サブカル女子とリア充イケメンの恋愛は果たして成立するのか!?「若気の至りで、みなさん本当はいろんな失敗をしているはずなのに、なかったふりをして生きていたりするじゃないですか。友だちや私自身の恥ずかしい失敗を、リンダには詰め込んでみました」自意識過剰なくせに自己評価が低い、いわゆるメンドーなタイプ。ゆえに無駄に空気を読みすぎてなかなか友だちができなかったり、文化系おじさんのえじきになりそうになるのだが、そんなリンダに何かと手を差し伸べるのが、江戸川(エドガー)というリア充イケメンだ。「リンダにとってエドガーは最も遠い存在で、絶対に友だちにはなれないと思っていたタイプ。だけどそんなのはきっかけ次第で、たまたま親切にしてもらえただけで好きになっちゃうもんなんですよね」一方で、大学のゼミの無頼派な平良先生も映画オタクであることが判明し、周りが疑うほど懐くリンダ。ぼっち上等と見せかけて、意外と楽しくやっちゃってる!?と思うものの、好きなものばかりにかまけていたせいで、恋愛のしかたがよくわからない。自分の気持ちに気づいてからの思考回路や行動がいちいち笑えるのだが、ふと気づけばリンダもエドガーも平良先生も、そもそも他人に興味がなさそうな人ばかり…。「そんなつもりはなかったんですけどね(笑)。恋愛体質ではない彼らが歩み寄るのは難しそうですが、どんなアクシデントを入れていこうか考え中です。リンダが痛い目に遭ってもそれはそれで経験なので、心と体にひどい傷を負わない限り、いっぱい走って転んで立ち直れって、親心みたいな気持ちで描いています」みなさんがなかったことにしていた黒歴史が蘇る可能性も…。リンダと一緒に七転八倒できますよ!『アレンとドラン』サブカル女子がアパートの隣に住むリア充バーテンダーと出会い、少しずつ人生が開けていく風変わりなラブコメ。タイトルにピンときた人もそうでない人も!講談社429円あそう・みことマンガ家。1991年デビュー。代表作『そこをなんとか』が完結したばかり。『good!アフタヌーン』で「小路花唄」を、『Kiss』で「アレンとドラン」を連載中。※『anan』2018年10月10日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・兵藤育子(byanan編集部)
2018年10月07日若いというのは、必ずしもいいことばかりなんかじゃない。自分がその“季節”を生きている最中は、わかりきっていたはずのことなのに…。紀伊カンナさんのマンガ『魔法が使えなくても』は連作形式の群像劇なのだが、そこに出てくる若者はかつての、あるいは今の私たちの姿だったりもする。たとえば「辞めたい」が口癖で、なおかつ失踪癖のあるアニメーターの岸くん。仕事はクールにこなすものの、心ここにあらずといった感じの千代ちゃん。バンドマンとして夢を叶えつつあるように見える、たまき。地下アイドルに魅せられるキキちゃん。社会に漕ぎ出した彼らは、オールの使い方もわからず、夢と現実の折り合いを思案している。「仕事も恋も元気にバリバリやる!的なものも楽しいけど、自分が描くならもっと違うアプローチをしてみよう、そのほうが今を生きてる人に沿っているような気がしたんです。ハツラツと過ごす人の一方で、こんなはずじゃあ…と日々をしょんぼり過ごしてしまうような、そんな人たちに向けて描こうとしているところはあります」別物だと思っていた物語が思いがけずつながったり、登場人物がニアミスしたりするのが連作短編の面白さといえるが、そういう意味で本作はさりげない部分から、「こうきたか!」と唸ってしまうものまで、しかけがたっぷり。ときに物語の見え方がガラリと変わったりもするのだが、これもまさに周到に練られた短編を読む醍醐味といえるだろう。「私はマンガで特に何かを伝えたいとは思っていなくて、基本的に読む人が何かを感じて考えてもらえたらのスタンスでやっています。ただ、筆が遅くて作品ごとの間が空いてしまうタイプなので、そのぶん一冊を繰り返しじっくり読んでもらえるような構成や画面を目指せればと思っています」やりたいこととできること、そしてやるべきことの間でもがき、かけがえのない日々を生きる若者たち。カッコ悪さも眩しく見えてしまうのは、やっぱり若さのなせるワザかも。『魔法が使えなくても』ガツガツせず自然体で生きようとする若者を、仕事や夢を軸に切り取った6つの連作短編。今にも音楽が鳴りだしそうな、ポップで躍動感のある絵柄も注目。祥伝社1000円©紀伊カンナ/祥伝社フィールコミックスきい・かんなマンガ家。沖縄の離島を舞台にした、心が洗われるようなBL『海辺のエトランゼ』でデビュー。続編『春風のエトランゼ』(既刊3巻)も人気。本作は初の一般誌での作品。※『anan』2018年9月19日号より。写真・大嶋千尋(本)インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2018年09月18日友だちのリア充アピールを鬱陶しく感じてしまったり、匿名をいいことに平気で他者を“口撃”したり、過去の恥ずかしい発言を後悔したり、嫌いな人からフォローされてしまったり…。ネットでモヤモヤした感情を抱いた経験は、大なり小なりあるはず。そんな複雑化しすぎたコミュニケーションに疲れてしまった人のために存在するのが、「もしもし堂」という携帯電話会社だ。マンガ『もしもし、てるみです。』について作者の水沢悦子さんに話を聞いた。ネットに疲れた人に贈る、つながりの物語。「アンチネットというつもりではないのですが、人と人の距離感についていろいろ思うところがあり、時代にも合っているので、この設定がちょうどいいと思いました」もしもし堂の営業所で働く販売員のてるみさんは、ネットを毛嫌いしている古風でおっとりした大人の女性。そんな彼女に恋心を抱いているのが、過去にスマホでいろんな失敗をやらかしてしまった、中学2年生の鈴太郎だ。「ミライフォン」が普及し、SNS「トモッター」や「ニャイン」を駆使する同級生を尻目に、ネットから遠ざかる人生を選んだ鈴太郎は、「もしメカ6号」という時代遅れ感たっぷりの携帯電話(ただし、通話相手の心拍数を計測するセンサー付き!)に乗り換えて、てるみさんの元へ足繁く通うように。「もしもし堂周辺のスマホのない空間は、どうしても昭和っぽくなってしまいますよね。自分もある程度昭和を生きましたので」と、著者が言う通り、クロスワードパズルや電話相談、間違い電話など思わず懐かしさを覚えてしまうようなアイテムや出来事がたくさん。「自分が電話で商売するならこんな感じがいいっていうのが、もしもし堂なんだと思います。女子たちが電話でお客様の相談に乗ったり、話し相手になったりする、もしもし堂サポートセンターの存在は、今の時代に絶対に必要だと思っていて、国が運営してほしいくらいです。大きな雇用も生まれるし、おしゃべりをするだけで楽しく働けて、人も癒せるなんて、素晴らしいですよね」1話2ページで展開していく物語は、笑いはもちろん、エロや癒しの要素が満載なのだけど、知らず知らずのうちにネットに振り回されている現代人に対するメッセージが、さりげなく潜んでいたりもいる。今の時代、てるみさんのようにネットを完全に遮断することは難しいかもしれないが、もしもし堂で繰り広げられる血の通った温かいやり取りには、ストレスを軽減するためのヒントがたくさんあるはずだ。「いまやネットは、どうしようもなく存在するもの。上手に使えば素晴らしいツールですし、共存していくしかないので、批判だけにならないようにして、功罪の功の部分もちゃんと描いているつもりです。もしもし堂の社訓『君子の交わりは淡きこと水の如し』が伝わればいいですね」『もしもし、てるみです。』2 『花のズボラ飯』の著者がネット全盛の時代に放つ、超アナログな世界観。個性的なデザイン&機能のもしメカ1~6号にも注目!アニメBeansでも配信中。小学館972円©水沢悦子/小学館みずさわ・えつこマンガ家。デビュー作『花のズボラ飯』(原作:久住昌之)が大ヒット。近未来を描いた「ヤコとポコ」を『エレガンスイブ』(秋田書店)で不定期連載中。※『anan』2018年9月5日号より。写真・大嶋千尋インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2018年08月29日漫画『愛と呪い』の著者・ふみふみこさんにお話を伺いました。「ここではないどこか」がなかった‘90年代、少女と世界に起きたこと。「本当はもっと明るくて人を幸せにするようなマンガが好きなのですが、私の場合、良くも悪くも怒りがマンガを描くエネルギーになっていて。自己救済のためにマンガを描くのは、これで最後にするつもりなので、すべて出し切ろうと思います」『愛と呪い』は、ふみふみこさんの半自伝的物語とされている。主人公の山田愛子は、物心ついた頃から父親に性的虐待を受けていて、新興宗教にのめり込んでいる母親や祖母たちは、それを見て見ぬふりどころか笑って受け流している。宗教系の学校でも、周りの生徒たちのように教祖に対して妄信的になれない。「家庭や学校のように当たり前にいる環境って、外に出てみないと異常なところに気づけなかったりするじゃないですか。その感じを表現したくて、何が正義で何が嘘なのかがわからなかった子ども時代は、水彩っぽくぼんやりと描いているんです」逃げ場のない苦しみを味わい、この世界と自分自身を誰かに終わらせてほしいと思っているさなかに、阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件が立て続けに勃発。そして愛子と同い年で酒鬼薔薇聖斗と名乗る少年Aによる、あの事件が起こる。「自分の鬱屈した話を描きたいだけだったので、最初は時代性みたいなものを入れるつもりはなかったんです。だけど自分の人生もしんどかったけど、世の中もしんどかったんだなと改めて気がつきました」現時点で救いがあるとすれば、20年後の愛子が「今となってはもう笑い話」と振り返っていること。当初の願い通り、著者は本作を描くという行為によって、自身を救うことはできているのだろうか。「ずっと引きずってきた中二病みたいなものが、薄まった気がします。意外とみなさん、普通にマンガとして読んでくれているのも楽になったというか。今はまだしんどい場面が多いのですが、最終的にはいろいろあったけどなんとか生きてこられたよっていう姿を描きたいと思っているので、生きづらさを感じている人は最後まで読んでほしいですね」『愛と呪い』1 性的虐待、カルト宗教、世間を震撼させた事件…。終末の予感に満ちていた‘90年代に思春期を送った著者による渾身の物語。浅野いにおさんとの対談も収録。新潮社640円©ふみふみこ/新潮社ふみふみこマンガ家。‘06年『ふんだりけったり』で「Kiss」ショートマンガ大賞・佳作を受賞してデビュー。主な作品に『女の穴』『ぼくらのへんたい』など。LINEマンガで「qtμt」を連載中。※『anan』2018年8月8日号より。写真・大嶋千尋インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2018年08月02日『違国日記』を描くにあたって、マンガ家・ヤマシタトモコさんがイメージしたのは、ポール・フェイグ監督による女たちの『ゴーストバスターズ』。「どこが?って言われそうだけど、ただただハッピーでポジティブになれるこの映画が大好きなんです」女同士の面倒くささと心地よさ。わかってくれる人がいる幸せ。物語としてのとっつきやすさを大事にしつつ、その先に残るものを描いてみたかったというヤマシタトモコさん。少女小説家の高代槙生(こうだいまきお)が、まったく反りが合わなかった姉の遺児である中学生の田汲朝(たくみあさ)を勢いで引き取ることに。人見知りが激しくて不器用な槙生は、朝にとって大人の枠から外れている不思議な女性であり、オープンマインドで素直な朝を槙生は子犬のようだと思う。「大人って子どもに対して、実は大人ぶっているだけだったりしますよね。一方で自分は変わっていないつもりでも年とともに忘れてしまい、ふとしたきっかけで生々しく思い出すことも。両方の視点からそういったことを描いていきたいんです」大人になったらわがままを言ったり、バカ笑いをしたり、些細なことでケンカをしないかというと、当然そんなことはない。子どもじみた自分を見せる相手を選ぶことができるのが、大人のずるさなのだろうか。槙生と朝、さらにそれぞれの友人との関係性は、第三者との理想的な距離感について考えさせられる。「たとえば女の人に、自分の服とか行いなんかを褒めてもらったときのほうが、男の人に同じことを褒められるよりも嬉しかったりするじゃないですか。恋愛的な意味ではなく、この人に好かれたいと素直に思える女性がいることや、女性同士で気持ちを交換できることって、かけがえがないと思うのです」いまだ反抗期が終わっていないような大人と、反抗するチャンスがなかったものわかりのいい子ども。“違国”の人だからこそ感じるカルチャーギャップや憧れから、さまざまな感情がかき立てられる作品だ。人と暮らすことが不向きな少女小説家と、両親を事故で失った素直な姪っ子。ギクシャクしているけれども思いやりが垣間見える日常を著者独特の感性で描く。祥伝社680円©ヤマシタトモコ/祥伝社フィールコミックスマンガ家。2005年デビュー。『HER 』『ドントクライ、ガール』で「このマンガがすごい!2011」オンナ編1位、2位を独占して話題に。近作に『WHITENOTE PAD』(全2巻)など。※『anan』2018年6月27日号より。写真・大嶋千尋インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2018年06月23日小玉ユキさんのマンガ『ちいさこの庭』は、その名の通り、“ちいさな人”たちと人間の物語を描いた、ファンタジックな作品。親指姫や一寸法師、コロボックルなど小人が登場する物語は、子どものためのものと思っていたけれども、そういう人はいつの間にか“ちいさこ”の存在が見えなくなってしまったのだろう。『坂道のアポロン』の実写映画が先月公開された小玉ユキさんの最新刊は、森に棲むといわれる“ちいさこ”と人間たちのオムニバス。「人間に近い生態だけど、ちょっとだけ異世界に住んでいる生き物というモチーフが好きで、以前にも人魚や地底人、白鳥の化身を描いてきました。ちいさこはその延長という感じなのですが、体の大きさが違うだけで絵的にも面白いので、マンガにする価値がありそうだと思っていました」全5話のなかでちいさこと出会う人たちは、絵本好きな少女、恋愛小説家と編集者、引きこもりの男子中学生など。ちいさこは子どもだから見えるというわけではなく、一度恋をするとそれきり見えなくなってしまうらしい。「恋を絡めたのは、少女マンガだからです。ちいさこが見えなくなる瞬間を描きたいと思ったのが先にあって、見える人と見えない人のやりとりは副産物みたいなものでしたが、実際に描いてみるとそっちのほうが面白かったですね」たしかにそこは、少女マンガ。恋愛小説家なのに見えたり、夫婦の片方だけが見えたりなど、シチュエーションは何かとワケあり。小玉さんが描きたかったというちいさこが見えなくなる瞬間、つまり恋に落ちる瞬間は、誰かを好きになる喜びと、ちいさこと別れる寂しさがないまぜになって、ロマンティックだけど胸が締め付けられるような切なさを覚えてしまう。「特に感動させたいとは思っていないんですが、それぞれのキャラクターに“救い”または“発見”をあげたいな、ということは考えています。短編は限られたなかに状況説明やカタルシス、余韻を詰め込むのが難しいですが、それができたときの気持ちよさは格別です」1話ごとに心が温まりつつ、一冊通して読み終えるとより大きな感動が待っている。オムニバスの醍醐味を味わえる作品だ。『ちいさこの庭』生きる時代も性別も立場も異なる人たちが、ちいさこと出会って不思議な体験をする、5編のファンタジックオムニバス。初めて挑戦したという時代物が新鮮!小学館429円こだま・ゆきマンガ家。代表作は『坂道のアポロン』『月影ベイベ』など。『月刊flowers』5月号より、波佐見焼の窯元を舞台にした大人の恋の物語「青の花器の森」がスタート。※『anan』2018年4月25日号より。写真・大嶋千尋インタビュー、文・兵藤育子©小玉ユキ/小学館
2018年04月24日作家という職業は、ともすると、家を出なくても成立してしまう。通信や輸送の手段が発達した現代は、その傾向が一層強く、机に向かったままパソコン上で選んだ商品が自宅に届けられるお取り寄せと、作家との相性はすこぶるいいようだ。マンガと小説による往復書簡!?作家の楽しいお取り寄せライフ。「私たちも、もともとお取り寄せが好きで、あげっこなんかもよくしていたんです」(榎田ユウリさん)マンガと小説のリレー形式で話が進んでいく『先生のおとりよせ』は、公私ともに仲のよい中村明日美子さんと榎田ユウリさんによるコラボ作品。オネエの美少女マンガ家・中田みるくと、巨乳好きの官能小説家・榎村遥華がコラボ作品でタッグを組むことになり、性格は真逆ながら、お取り寄せという共通の趣味をきっかけにコンビ力を発揮していく。現実とフィクションが混在しているのが興味深いが、最初に決めたのは作家ふたりのキャラクターくらい。話がどう転がっていくのかは、中村さん、榎田さんもまったくわからなかったというのがユニークだ。「リレー形式の難しさは特に感じなかったですね。たとえばお見合いの話があるよっていう終わり方で振ってみて、榎田さんがどんな見合い相手を出してくるのか、私としても楽しめたので」(中村さん)「お互いに挑まれたらやってやろうじゃんっていうタイプで、相手のさじ加減もなんとなくわかっているので安心でしたね」(榎田さん)登場するお取り寄せは、実際に両氏のお気に入りなので、ガイドとしても使える一冊になっている。「最近はお取り寄せの可能なお店がすごく増えているので、話題性だけでは決められないんですよね。自分用は特に、過剰包装ではないかなども気になります」(中村さん)「今後も日常化しすぎず、ご褒美やプレゼントとして利用するのが、個人的には理想ですね」(榎田さん)なかむら・あすみこマンガ家。2000年デビュー。青春モノからサスペンス、BLまで多彩な作品を執筆。代表作は『Jの総て』『同級生』『鉄道少女漫画』『ノケモノと花嫁』『王国物語』。えだ・ゆうり作家。2000年デビュー。代表作に、『カブキブ!』、魚住くんシリーズ、妖琦庵夜話シリーズなど。ラノベ、キャラノベ、BLと、多岐ジャンルで作品を発表。新感覚のお取り寄せグルメ作品。屈折したイケメンふたりのハイテンションな反応も見もの。作家のこだわりもチラリと見え、お仕事マンガとしても楽しめる。リブレ845円©中村明日美子/榎田ユウリ/リブレ※『anan』2018年4月18日号より。写真・大嶋千尋インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2018年04月16日「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞し、本作『1ミリの後悔もない、はずがない』でデビューした一木けいさん。帯には「椎名林檎さん絶賛!!」の文字が躍り、無意識にハードルが上がっていたのだが、その期待をまったく裏切らない、小説を読むことの楽しさを純粋に味わわせてくれる連作短編だった。1作目は「どこにも行けない閉塞感を書きたかった」という、受賞作「西国疾走少女」。由井という女性が、中学時代に住んでいた西国分寺のこと、そして初恋の同級生・桐原のことを大人になって思い出すのだが、当時の彼女の家庭環境は複雑で、桐原に会うまでは人生に何の希望も見出せないような状態だった。「強い子を書きたかったんです。人の目を気にしないで、こんなふうに生きられたらいいなっていう憧れの部分もありましたし、境遇はまったく異なりますが、中学時代の自分の思いも乗せて書いています」桐原を好きになり、受け入れてもらうことで、由井は初めてこの世に生まれたことをよかったと思い、自分の存在を肯定できるようになる。騒々しい教室の片隅や放課後の帰り道、泊まりがけのスキー教室などを舞台に描かれる、思春期らしい不器用ながら繊細な心情。好きな人を前にしたときの目眩がしそうなほどの高揚感や、ほんの少し離れることを考えるだけで湧き上がってくる悲しさがとてもリアルで、こちらまで切なく、くすぐったくなってしまう。「自分のなかに、中学生のときの感情が当たり前のように残っているので、彼女たちを書くことに難しさを感じないんです。イタい大人なのかもしれないですけど(笑)。体が内側からパンと大きくなって、自分が自分ではなくなっていくような感覚も、はっきり覚えています」そのほかの4編には、当時の由井と多少なりとも同じ時間を共有した人のその後が描かれているのだが、彼らもみな何かしらの後悔を抱えて、現在と過去を行き来している。「私としてはほかのところをえぐっているつもりだったのですが、きっとどこかに潜んでいたんでしょうね、後悔という感情が。気がついたら、最初から最後まで後悔でした」誰かを愛することの狂おしさを知っている人は、たとえ今が満ち足りているとしても、後悔という感情からは逃れられないのかもしれない。いちき・けい作家。2016年「西国疾走少女」で第15回「女による女のためのR- 18文学賞」読者賞を受賞。アンアン2093号官能特集内で短編小説を書き下ろしている。現在、バンコク在住。絶望的な日々のなかでの鮮烈な恋の記憶を描いた「西国疾走少女」、変わり果てた憧れの先輩と再会する「ドライブスルーに行きたい」など5編。新潮社1400円※『anan』2018年4月18日号より。写真・土佐麻理子(一木さん)大嶋千尋(本)インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2018年04月12日産後うつを経て気がついた、自分を許すことの大切さ。およそ10人に1人が経験するといわれる、産後うつ。2013年に女の子を出産した藤田あみいさんは、自分がうつ状態になったことを最初は受け入れがたかったようだ。「子どもを産むまでふわふわ生きてきたというか、地に足がついていなかったと思うんです。目の前にか弱い生き物が出てきた瞬間に、母になったのだから変わらなきゃいけないと思ってしまったんでしょうね」はじまりは、娘が発達障害かもしれないという不安が生じたことだった。インターネットを検索しては不安になり、周りの人や医師に「問題ない」と言われてもほっとするのは一瞬で、強迫性障害を発症してしまう。娘を愛する気持ちは、変わらないどころか日々強くなるのに、治りたいという意志とは裏腹に症状が悪化。本書は入院中に1週間ほどで書き上げたそうで、「懺悔」という言葉にはこんな思いが込められていた。「私にとって、懺悔は3段階ありました。娘の障害を疑うようになったとき、まず世間体を気にしてしまったのがひとつ目。その後も不安が拭えなくて、懺悔の対象が娘と夫に変わってきて、最終的には自分自身に許してもらえなければ、抜け出せないような状況でした」散々迷惑をかけて、周りの人を不幸にしている自分や、当たり前の生活を送れなくなった自分を許せなかったのだが、その気持ちこそが藤田さんを苦しませていたのだ。「そのことにずっと気づけなかったんですよね。自己犠牲なんて、最初からいらなかったんです」藤田さんの場合は母になったことでこうした状況に陥ってしまったわけだが、仕事や人間関係などにおいても、理想とかけ離れていることに自己嫌悪を抱いてしまう人は、意外に多いのではないだろうか。そして「こうでなければならない」と本来望んでいないような世間的ルールを、自分自身に強いてみたり…。「娘がどうしたら幸せになれるんだろうって考えたら、不安要素がどんどん出てきてしまったのですが、娘にとっては私がそばにいてあげるだけでよかったんです。変わらなくていいということに気づいたら、すごく自由な気持ちになれました」自分自身を受け入れる。現代社会を健やかに生きるうえで大切なことに、この本は気づかせてくれる。ふじた・あみいイラストレーター。女性誌やウェブにてコミックエッセイを連載。ウェブで「ぜんぶ、無印良品で暮らしています。〜三鷹の家大使の住まいレポート〜」を執筆、2016年に書籍化。産後うつの状態から心を取り戻すまでの葛藤を綴った、「Hanakoママweb」連載の書籍化。今を生き抜くための学びが多い一冊だ。マガジンハウス1500円※『anan』2018年4月4日号より。写真・土佐麻理子(藤田さん)大嶋千尋(本)インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2018年03月29日クレイジーという個性が光る最強にカワイイ女の子たちが次々と登場する、川夏子さんが描いたコミック『boy meets“crazy”girl』。狂気、というとドキリとしてしまうけれども、ちょっと度が過ぎてしまったり、自分をコントロールできなくなるようなことは誰にでもある。特に恋をしているときは、そんな内面に潜んでいる狂気という名の素顔が表に出やすいのかもしれない。「最初はボーイミーツガールという普遍的なテーマで、いろんなパターンを描いてみようと思っていました。そしたら私が魅力を感じる女性には、自然にcrazyという冠がつくことに気がついて。昔から強い思いを持つ人に惹かれる傾向があって、その強さはなぜか、“普通”のカテゴリーから外されてしまうことが多いんです。最初にcrazyとカテゴライズすることで、力強さや優しさを制約なく描きたいと思いました」この短編集に出てくるのは、大好きな男の子の服装や髪型を完コピしてしまう女の子、片思いしている先輩の前で思い出の品を容赦なく燃やす女の子、一日に何度も外見を大胆に変える女の子など。突飛な行動も、根本にある思いがちらりと見えると、とても愛おしく感じてしまう。「社会にはいろいろな制約があるので、正直に出せない思いもたくさんありますよね。そうやって押し殺している欲求をまっすぐ伝えたら、どんなことが起こって、相手はどう反応するのか。キャラクターの正直な思いが曲がってしまうことのないよう、気をつけながら描きました」奇をてらったり、物語を盛り上げることを目的とした突飛さではないから妙にリアルだし、不器用な愛情表現を受け止める相手の反応もいちいち絶妙。著者初の単行本なのだが、繊細な感情表現や人間関係の描き方は、すでに持ち味となっている。「自分の少し前を歩いているキャラクターがしゃべっていることを、逃さないようビデオに撮っている感じで物語を作っています。短編は、自由に布を裁つように物語を切り取っていけるのが楽しさであり、難しさとも思っています。切りすぎて、後悔することも多いのですが(笑)」今後も“つながり”を描いていきたいという川夏子さん。まずはデビュー短編集で、新たに登場した才能を存分に味わっておこう。女の子のさまざまなクレイジーな部分を切り取った9つの短編と、男同士の出会いを描いた2編。極端な部分を持っている人ほど、魅力的に見えるからステキ。祥伝社900円(C)川夏子/祥伝社フィールコミックスかわ・なつこマンガ家。2013年「純愛サンプル」で『on BLUE』よりデビュー。『FEEL YOUNG』でも短編を発表。na名義でイラストを執筆することも。Twitterは@n__atuco※『anan』2018年2月21日号より。写真・水野昭子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2018年02月18日お笑いコンビ「カラテカ」の矢部太郎さんがコミックエッセイを上梓。矢部さんと大家さんとの絶妙な関係を描いた作品なのだそう。お笑い芸人の本業以外での活躍が目覚ましいが、またまた新たな名作が誕生した。カラテカのボケを担当する矢部太郎さんによる本作は、現在87歳の大家さんとの日常を描いたコミックエッセイ。大家さんと京王プラザホテルでお茶をしていたところを、マンガ原作者の倉科遼さんに目撃され、一風変わったその関係をマンガに描いてみることに。「大家さんのことを変わっているとは思っていたのですが、一緒にいる僕は正常だと思っていたんです。倉科さんに指摘されて初めて、僕も大家さんの感覚に相当引き込まれていることに気がつきました(笑)」8年ほど前から大家さんの一軒家の2階に間借りしているという矢部さん。大家さんは「ごきげんよう」とあいさつする上品な方で、矢部さんの洗濯物が夜露に濡れるからと、勝手に取り込んでおいてくれたり、頻繁に食事を共にしたり。その距離感に戸惑いながらも、大家さんとの“ふたり暮らし”を楽しむように。「僕が知らないことや興味のなかったことに気づかせてもらえるんですよね。たとえば新宿中村屋って、普通はカレーを食べに行くところだと思っているじゃないですか。だけど大家さんは、そこに飾られている絵が見たいから行くんです。全然違う価値観を持っているのが面白くて」新宿伊勢丹が大好きな大家さんは、コンビニやスーパーなど“最近できたもの”を信用していない。だけど初めて食べたグミはお気に入りだったりして、なんだかとってもお茶目なのだ。そんなほのぼのとしたやり取りも、永遠には続かないのだとふっと気づかされる瞬間も……。「たとえば本当にいいバラエティ番組って、ムチャクチャ面白くて笑えるけれども、しんみりしたりするじゃないですか。そういう笑いはひとつの理想かもしれません」隣近所との付き合いが希薄な都会で、ふたりの関係は奇跡のように思えるが、実はそうでもないらしい。「このマンガを読んだ人から『私も大家さんと仲がいいです』という声が結構届いたりして、僕らだけじゃないんだなって思いました。思いがけず反響が大きくてびっくりしていますけど、こういう作品を読んでくれる人がいっぱいいるなんて、まだまだ温かい世の中ですよね」やべ・たろうお笑いコンビ、カラテカのボケ担当。芸人としてだけでなく、舞台やドラマなどで俳優としても活躍。父親は絵本作家のやべみつのり。本書は初めて描いたマンガ。『大家さんと僕』48歳差の大家さんとの穏やかだけど刺激的な日常を綴ったコミックエッセイ。矢部さんの優しい眼差しに笑って泣き、大家さんの人柄に女性として憧れます!新潮社1000円※『anan』2018年1月24日号より。写真・土佐麻理子(矢部さん)水野昭子(本)インタビュー、文・兵藤育子
2018年01月20日奇跡のバレエ団として名高いバレエ・リュスの、実在の人物をモデルに描く『バレエ・リュスニジンスキーとディアギレフ』の著書・桜沢エリカさんにお話を伺いました。バレエに疎くても、ニジンスキーというダンサーの名前は聞いたことがあるだろう。とはいえ彼が活躍したバレエ・リュスを知っている人は、バレエ好きでもそう多くないかもしれない。しかし、シャネル、ピカソ、マティス、コクトーなど錚々たる芸術家とコラボしたバレエ団と聞けば、俄然興味が湧くはずだ。「私自身、バレエが大好きなのですが現代モノしか観ていなかったので、バレエ・リュスのことは知りませんでした。調べてみたら、今あるバレエの大本になっていると言っていいほどすごいバレエ団だったんです」物語の軸になるのは、ニジンスキーと、ディアギレフという天才プロデューサー。ニジンスキーはディアギレフと出会ったことで、ヨーロッパで一躍スターに。ふたりは同性愛の関係にあり、これまで描かれていたディアギレフ像は、良くも悪くもニジンスキーを支配する意地の悪いオジサンというイメージが強かったそう。しかしながら桜沢さんの描くディアギレフには、人間らしい魅力が。「いわゆるオネエだったと思うんですけど、自分の目指す世界観を完成させるための冷徹さを持ちつつ、占いを異様に信じていたりして、なんだかかわいらしいんですよね」ニジンスキーはというと、バレエ・リュスに在籍した期間が実際はそう長くなく、のちに精神を病んでしまうのだが、伝説化されている人物だけに描き方を悩んだようだ。「写真で見ると役柄によって全然雰囲気が違うし、スタイルも現代の感覚からするとあまりいいとはいえない。でもバレエシーンには、やっぱり力が入りましたね。若い頃はベッドシーンを描くのが好きだったんですけど、今はバレエシーンがそれに代わった気がします。体を描くのが好きなんでしょうね、きっと」陰のキーパーソンであるミシアというパトロネスとシャネルの描き方も効いていて、彼女たちの物語ももっと読みたくなる。事実とは信じがたいほど濃密な時代を知る入門編としては、申し分のない一冊だ。さくらざわ・えりか漫画家。10代でデビューして以来、恋愛マンガの名手としてコミック誌やファッション誌など多方面で活躍。『メイキン・ハッピィ』『天使』など著書多数。奇跡のバレエ団として名高いバレエ・リュス。史実としても楽しめるし、友情そして恋愛物語としても味わい深い。実在の人物をモデルに描くのは初だそう!祥伝社 1200円(C)桜沢エリカ/祥伝社フィールコミックス※『anan』2017年12月27日号より。写真・水野昭子(本)インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2017年12月26日益田ミリさんの著書『美しいものを見に行くツアーひとり参加』は、その名の通り、ツアーにひとりで参加する醍醐味を知ることができる一冊。いつか行ってみたい場所はたくさんあっても、きっと行けないのだろうと心のどこかで諦めてしまっていないだろうか。益田ミリさんは40代になって、そんな漠然とした夢を次々と実現してしまった。「30代の終わりにプラハを旅行したとき、教会で演奏会に遭遇して、死ぬということはこんなに美しい世界に別れを告げることなのだと焦るような気持ちになったんです」そして世界中の美しいものを見るために頼りにしたのが、添乗員が同行するツアー。本書では北欧オーロラの旅やモンサンミッシェル、リオのカーニバルなどひとりで参加した5つのツアーの様子が綴られていく。「最初にオーロラツアーに申し込んだときは、私でも行けるんだって胸が震えました。こんなに気軽に旅ができるなら、20代のうちにもっと参加すればよかったと思ったくらい」はじめは「寂しい人だと思われていないかしら」と、周りの目を気にしていた益田さん。しかしながらほかの参加者と大人な会話を交わしたり、美しい景色と向き合ったりしているうちに、徐々に解放されていく姿から旅の醍醐味が伝わってくる。「ドイツのクリスマスマーケットは、ひとりで回るのが本当に楽しくて、誰に気兼ねすることなく、これ食べよ!次はあれ食べよ!って、つい早歩きになってました(笑)。完全なひとり旅だと尻込みしてしまう場面も結構あるけれど、お母さんが近くにいてちょっと遠出をする子どもみたいに気楽だったのは、ツアーだからこそだと思います」団体行動の窮屈さも人間観察の場と捉え、ユーモアに転じてしまうところはさすが。自分自身とじっくり対話をしたり、いろんな想像を膨らませてみるのも、“ツアーひとり参加”のいいところといえそうだ。「バスの窓から町の風景をぼんやりと眺めながら、ここで生まれ育ったらあのカフェに行ってるだろうなと想像して、違う人生を生きられる瞬間があるんです。以前は記念にいろんなものを買いたくなっていたけど、見たり、その場で体験するほうに旅の楽しさを感じるようになったのが大きな変化かもしれません」達人でなくても「行きたい場所」と「行ける場所」がイコールになるこんな旅のしかたは、大人の贅沢といえるのではないだろうか。『美しいものを見に行くツアーひとり参加』旅先での感動はもちろん、参加者とのやり取りや、さりげない描写も魅力的。旅じたくや団体行動で気になるトイレ問題など役立つ情報も!幻冬舎1300円ますだ・みりイラストレーター。『ほしいものはなんですか?』『週末、森で』『お茶の時間』『今日の人生』『すーちゃん』シリーズなど著書多数。小誌にて「僕の姉ちゃん」を連載中。※『anan』2017年12月20日号より。写真・水野昭子インタビュー、文・兵藤育子
2017年12月16日昨年アンアンマンガ大賞を受賞した、かわかみじゅんこさん『中学聖日記』の第3巻は、もうチェック済みだろうか。「まだ好き」はいつまで続く?女教師と生徒の恋のゆくえ。中学3年生のイケメン男子・黒岩くんが、25歳の新米教師・聖(ひじり)ちゃんに恋心を抱くラブストーリーは、第2巻の途中から高校生編に突入。ちょっぴり大人になった黒岩くんに、萌えた人も多いハズ。「個人的には、黒岩くんの少年ぽさが減ってしまって残念なのですが、自分の興味ないことには無神経、みたいな残酷さは消えないように気をつけています」思春期の男子が年上のおねえさんに恋をする物語は、マンガに限らず“禁断の恋”の王道といえるが、それでもあえてこのテーマで描いてみたかったことを尋ねると……。「思春期特有のアンバランスながら妙に芯の通っている感じと、年上とはいえ未熟な女性キャラという、ふたつの色気と迷走感ですかね。すみません、今考えました」高校生になった黒岩くんは、少々落ち着いたように見えるものの、何を考えているのかよくわからないたたずまいと、いつ何をしてもおかしくないような危うさは健在。「逆に今っぽさはあまり意識しないようにしています。私は今、海外に住んでいて、日本の今どきの子たちの話している言葉とかそぶりが自然と聞こえてきたり、目に入ってきたりするような状況がなく、わからないことはやっぱりわからないので。それでも普遍的な部分は必ずあるような気がするので、黒岩くんを描くときはそこを大事にしています」最新刊の見どころは、同窓会で再会した黒岩くんと、るなちの関係。中学時代は聖ちゃんに夢中で、るなちのひたむきな思いなどほぼ眼中になかった黒岩くんだが、その辺りの変化にも時の流れを感じさせる。そしてやっぱり一番気になるのは、黒岩くんと聖ちゃんの行く末。「大真面目に恋愛モノに挑戦しているつもりです。私としては黒岩くんが暴走しているときと、聖ちゃんの体を描いているときが楽しいのですが(笑)、キャラクターそれぞれの恋愛感情に振り落とされないように頑張ります。誰が最初に泣くか、予想しながら読んでいただけたら!」それってかなり気になるコメントだが、最新刊も胸キュンが止まらないことだけは保証します!かわかみじゅんこ『中学聖日記』3ある事件から2年後を描いた最新刊。先生に恋をした黒岩くん、生徒に恋をされた聖ちゃん、黒岩くんを思い続けるるなち、どの立場も切ないラブストーリー。祥伝社680円(C)かわかみじゅんこ/祥伝社フィールコミックスマンガ家。’95年デビュー。『パリパリ伝説』『銀河ガールパンダボーイ』『少女ケニヤ』『あかずのふみきり』など著書多数。本作で第7回ananマンガ大賞を受賞。パリ在住。※『anan』2017年12月13日号より。写真・水野昭子(本)インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2017年12月09日子どものときも、大人になっても!いつだってアニメは、私たちに寄り添ってくれる人生のバイブル的存在。あのシーン、あのセリフに、笑ったり、感動したり、勇気が出たり、行動したり、価値観を変えられたり……。深い人生観がつめ込まれた、大人が観るべきたくさんの名作をピックアップ。anan初のアニメ特集、はじまります!今回は、辻村深月さんにお話をうかがいました。小さい頃から観続けてきたアニメがすべての源に。私の父親はオーディオが趣味で、家庭用が出回るようになってすぐに、ビデオカメラやビデオデッキを買っていました。両親が共働きだったこともあり、私が家で退屈しないようにと、テレビで放送されるアニメをとにかくたくさん録画してくれていたんです。そのなかから好きな作品を選んで、ビデオテープが伸び切って画像がおかしくなるくらい繰り返し観ていたのが、アニメの原体験です。アニメはファースト世代が『宇宙戦艦ヤマト』、次が『機動戦士ガンダム』、さらにその次が『新世紀エヴァンゲリオン』といわれているのですが、わが家のビデオコレクションには父世代のアニメも網羅されていました。そういった作品も普通に観ていたので、50代、60代の人たちともアニメの話で盛り上がれるんです。これまで観てきたアニメが共通言語になるような体験は、大人になると結構あって、たとえば『ガンダム』を全部観ているって言うと、年上の方から途端に信頼してもらえるようになる(笑)。ひとつの世界を網羅することによって広がる人間関係が、大人にはたくさんあるのが楽しいし、それっていつ始めても遅くないと思うんです。反対に、下の世代におすすめを教えてもらうのも面白くて、アニメはどんどん表現が進化しているから、観続けていると時代に置いていかれる感じがしないんですよね。長編小説『冷たい校舎の時は止まる』でデビューしたとき、作品を読んでくれた周りの人に、「小説というよりアニメっぽいね」という感想をもらったことがあります。小説を書くうえでも私にとってアニメは影響だらけなのですが、アニメの素晴らしいところは、世界をひとつの層で見ていないことだと思います。アニメって設定が深いものが多いのですが、実写よりも先にそれが実現可能なメディアだったんですよね。自分が生きている世界とは別の扉がどこかにあるかもしれないっていうことを、初めて視覚的に見せてくれたのがアニメでした。私の小説は現実をベースにしているけど、ほんのちょっと不思議な設定が多い。たとえば『ツナグ』のように、死んだ人と会えるような世界観を抵抗なく書けるのは、アニメを観てきたおかげだと思っています。かなり年配の読者からも「実際は絶対にあり得ないことなんだけど、あってもおかしくないように読める」とよく言ってもらえるのですが、それは私の発明でも何でもなくて、アニメで上質なお手本をたくさん見てきたからこそ、できること。アニメを観てきたことは、作家としての私の武器であり、財産です。辻村深月さんの人生を変えたアニメ『ドラえもん』【人格と小説の書き方の基本を作った、パソコンのOS的存在】「これなくして今の自分はないと言えるほどに大切なのが、藤子・F・不二雄先生の作品。特に『ドラえもん』は私にとってのOSみたいな感じで、人格形成にまで影響を受けていると思います。こういうことをしたら人としてダメだというのを教えてもらったし、お話作りのお手本としてもあらゆる基礎がつまった一番の教科書です。テレビアニメ版と映画版、どちらも好きなのですが、今でも毎週放送されていることに幸せを感じます」(C)藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK『銀河鉄道999』【想い続けるだけでもいいという恋愛観を育まれた名作】「特に夢中になったのは劇場版。周りの男子はメーテルに夢中になっていたけれど、私は女海賊・エメラルダスの強さに惹かれました。彼女はトチローという男の人のことが好きで、彼のことをずっと探しているんです。告白したり、結ばれることを前提としないで、自分の心の中だけで好きな人のことを想い続ける恋愛の形があってもいいし、それがすごく素敵だなと思えた作品。エメラルダスとトチローは、私にとって理想のカップルです」(C)松本零士・東映アニメーション『新世紀エヴァンゲリオン』【いろんな人と感動を共有してつながることの楽しさを実感】「高校生のときに放送された作品で、私と同世代で影響を受けていない人はほぼいないはず。内容の深刻さやシリアスさもですが、人間の弱さを肯定したテーマなど禁忌がないところが斬新でした。今でいうオタクとリア充の壁を取っ払った作品で、教室のあちこちでみんながアニメの話をオープンにできるようになったのが当時は衝撃でした。それまでアニメを観なかった子とビデオの貸し借りをするようになり、人によって見方が違うのも新鮮でした」(C)カラー/Project Eva.『絶対無敵ライジンオー』【日常と同じ場所に大冒険があることを意識させてくれた】「私が理想とする、ロボットアニメのすべてがつまった作品。クラスメイトが地球防衛組として団結して悪と戦うのですが、大事な模試の最中に出動要請があったりして、小学生の普通の悩みと地球を救う重大な任務が同居している。アニメはこうであってほしいと思うんです。最終回も衝撃的で、子どもをなめていない。自分が子どもに向けて何か書くときは、大人も面白いと思えるものでなければ通用しないのだと、常々言い聞かせています」(C)サンライズ『少女革命ウテナ』【女性としてどう生きるべきか規範を示し、支えてくれた】「この作品がなければ、今と同じ形で小説を書いていることはなかったと思います。最初に感動して、もう一度観直したらフェミニズムの話として完璧な一本の歴史を見せられた気持ちになって。これを作った幾原邦彦監督が男性であることにも、すごく勇気づけられました。主人公たちやこのアニメを作った人に軽蔑される生き方はしたくない、自分の好きなことを貫きたい、という規範になる部分がたくさんあって、女性としても支えられました」(C)ビーパパス・さいとうちほ/小学館・少革委員会・テレビ東京(C)1999 少女革命ウテナ製作委員会つじむら・みづきananで連載したアニメーションの制作現場を舞台にした小説『ハケンアニメ!』の文庫が好評発売中。『島はぼくらと』『朝が来る』『かがみの孤城』など著書多数。ワンピース¥6,500(ダブルネーム/ダブルネームTEL:0120・786・120)アクセサリーは本人私物※『anan』2017年12月6日号より。写真・女鹿成二スタイリスト・辻村真理取材、文・兵藤育子(by anan編集部)
2017年11月30日女性に不足しがちな栄養素の代表格は、鉄、タンパク質、カルシウム、食物繊維、葉酸、亜鉛の6つ。体によいものを選んでいても、ベースとなる栄養素が摂れていないと、効果は発揮されにくいもの。今回は、肌荒れを予防してくれる食物繊維の上手な摂り方についてご紹介。意識して摂って、変化を実感しよう。水溶性と不溶性を1:2のバランスで。腸内環境を整えることは免疫力の向上につながり、肌荒れや女性に多い大腸がんの予防に。脂肪をつきにくくしてくれる効果もある。水溶性と不溶性の食物繊維があり、1:2の比率で摂るのが理想的。「1食でたくさん摂るのは難しいため、一日の食事で分けて摂るようにしましょう」効果が期待できるのは、この組み合わせ!【アボカドのヨーグルトサラダ】アボカドは水溶性食物繊維が豊富で、老廃物を排出して腸内環境を整えるため、美肌作りに役立つ。同じく整腸作用のあるヨーグルトとサラダにして合わせると、相乗効果が期待できる。【しいたけとわかめのスープ】不溶性食物繊維の豊富なしいたけと、水溶性植物繊維の豊富なわかめをスープにすれば、溶け出した栄養素も余すところなく摂取できる。ちなみに干ししいたけは、生よりも食物繊維が豊富。【こんにゃくとみそディップ】カロリーが少なく、ダイエット食品としても人気のこんにゃくは、不溶性食物繊維が豊富で便秘などに効果的。乳酸菌を生で摂取するためにも、みそは非加熱処理の商品を選ぶのがおすすめ。【えのきたけを炒めてみそダレで】安価で手軽に調理しやすく、不溶性食物繊維が豊富に含まれているえのきたけ。さっと炒め、火を止めてから、お酒やだし汁などでのばしたみそダレで和えると、乳酸菌の効果も期待できる。五十嵐ゆかりさん管理栄養士、料理研究家。日々の暮らしに取り入れやすい健康レシピを提案。読売新聞の医療情報サイト「yomiDr.」で予防医療に関するレシピを連載中。※『anan』2017年11月29日号より。写真・Getty Images取材、文・兵藤育子(by anan編集部)
2017年11月28日女性に不足しがちなカルシウム。未来の体のためにもしっかり摂取しておきたい栄養素の一つです。今回は、カルシウム摂取に効果的なベストコンビをご紹介いたします。カルシウム摂取は未来の体への投資。閉経後は、女性ホルモンの低下が骨粗しょう症を招きやすいため、今から意識して、日常的にカルシウムの摂取を。「吸収をサポートするマグネシウムやタンパク質、ビタミン類と一緒に摂りましょう」スナック菓子などでリンを摂りすぎると、カルシウム吸収が阻害されるので注意。効果が期待できるのは、この組み合わせ!【トマトと桜えびの和え物】丸ごと食べられる桜えびは、カルシウムを余すところなく摂取できる。トマトのビタミンCがカルシウムの吸収を助けるので熱を加えず和え物に。ビタミンCの豊富なレモンを搾って食べても。【ブロッコリーのチーズ焼き】チーズはカルシウムを多く含み、吸収率も比較的優れているが、ビタミンCの多いブロッコリーと組み合わせるとさらに効果的だそう。茹でるとビタミンCが壊れやすい。下茹でせずに焼くこと。【いわしの梅煮】カルシウムやタンパク質、ビタミンDが豊富ないわし。梅干しと一緒に煮るのは臭みを取るだけでなく、骨を柔らかくする効果も。じっくり煮て骨まで食べられるようにして、カルシウムを無駄なく摂取。【いちごのヨーグルトがけ】いちごのビタミンCは、ヨーグルトのカルシウムの吸収を助けてくれる。いちごと一緒にそのまま食べてもいいが、ヨーグルトを人肌程度に温めると、カルシウムの吸収率アップが見込める。五十嵐ゆかりさん管理栄養士、料理研究家。日々の暮らしに取り入れやすい健康レシピを提案。読売新聞の医療情報サイト「yomiDr.」で予防医療に関するレシピを連載中。※『anan』2017年11月29日号より。写真・Getty Images取材、文・兵藤育子(by anan編集部)
2017年11月28日体によいものを選んでいても、ベースとなる栄養素が摂れていないと、効果は発揮されにくいもの。今回は、女性に不足しがちな栄養素である「鉄」について、より効果が期待できる組み合わせなど覚えておきたいポイントを紹介。意識して摂って、変化を実感しよう。不足しがちな栄養素を積極的に摂取しよう。インナービューティを考えるうえで、日々の食事は基本中の基本。「日本人女性の多くに不足しがちな栄養素は、鉄、カルシウム、食物繊維、タンパク質です。さらに言うと、亜鉛と葉酸も意識して摂ったほうがよいでしょう」(管理栄養士・五十嵐ゆかりさん)栄養バランスを気にしているつもりでも、好き嫌いなどで無意識のうちに偏ってしまったり、誤った知識や調理法で適切に摂取できていないことも。これらが不足するとほかの栄養素も十分に働かなくなってしまい、美容や健康面でさまざまな不調をもたらす恐れが。「個人差はありますが肌のターンオーバーは28日程度なので、食生活を変えたら1か月程度で見た目に変化を感じるようになります」栄養素によっては、変化が目に見えにくいものもあるので、習慣づける意味も込めて、まずは3か月を目安に頑張ってみて!非ヘム鉄の摂取は組み合わせがキモ!月経のある女性にとって、鉄は貧血の予防や改善に役立つほか、肌のくすみや冷え、むくみなどを抑える役割も。「動物性食品に含まれるヘム鉄と、植物性食品に含まれる非ヘム鉄があり、非ヘム鉄は吸収されにくいため、ビタミンCや動物性のタンパク質と合わせて摂りましょう」効果が期待できるのは、この組み合わせ!【あさりとネギの汁物】あさりが豊富に含む鉄や亜鉛は、ネギのビタミンCと合わせると吸収率がアップするそう。鉄分は熱に強いものの、水に溶け出る性質があり、煮汁ごと味わえるみそ汁やスープなどで食べるのがよい。【卵とほうれん草の炒め物】非ヘム鉄とビタミンCが豊富に含まれていて、相乗効果が見込めるほうれん草に、動物性タンパク質の卵をプラス。ただしビタミンCは熱に弱い性質があるため、さっと軽く炒める程度にして。【納豆にシラスをトッピング】納豆には非ヘム鉄と、その吸収率を上げるタンパク質が含まれているが、鉄、カルシウムを含むシラスを合わせるとさらに期待大!ネギを加えて、ビタミンCをプラスするのもおすすめ。【小松菜入り炒り豆腐】小松菜に含まれるビタミンCが、豆腐の鉄の吸収を助けてくれる。小松菜はアクが少ないので下茹でせずに、硬い部分から炒めるなどの工夫をすると、ビタミンCの損失量を抑えることができる。五十嵐ゆかりさん管理栄養士、料理研究家。日々の暮らしに取り入れやすい健康レシピを提案。読売新聞の医療情報サイト「yomiDr.」で予防医療に関するレシピを連載中。※『anan』2017年11月29日号より。写真・Getty Images取材、文・兵藤育子(by anan編集部)
2017年11月28日『anan』の本を紹介するコーナーでいつもステキな新刊を紹介してくれる、ライターの瀧井朝世さん。書評や作家インタビューで引っ張りだこなので、ほかの媒体で瀧井さんの文章を読んだことのある人もいるはず。新潮社の雑誌『波』で7年にわたって連載している書評コラムが、ついに書籍化!読みたい本が連鎖していく、人気ライターの偏愛読書コラム。「私は書評家ではなくライターですので、上から薦めるのではなく、この本、面白かったよねっておしゃべりしているような雰囲気にしたいと思いました。アンアンで著者インタビューをするときは、アンアンの読者が好きそうな作品を選んだりしますが、これに関しては好き勝手にやらせていただきましたね」本書のキーワードは、タイトルにもある“偏愛”。毎回新刊を1冊ピックアップし、そこから自由に連想した好きな作品2冊とともに、合計3冊について語るのが基本形。膨大な読書量のなかから、偏愛本が芋づる式に出てくるのだが、そのテーマと取り上げる本が実に幅広く面白そうで、読書欲が大いに刺激される。「奇をてらわず、頭に浮かんだ作品を素直に挙げているだけなんです。だから自分の読書傾向が、知らず知らず出ちゃってると思います」瀧井さんが書評を執筆する際に細心の注意を払っているのは、書き手としてのスタンス。「取り上げた作品をすでに読んでいる人も、私の原稿を読むのだと意識しています。新刊本を私よりも先に読んでいる人や、より多くの本を読んでいる人が絶対にいるのだと思いながら、読んでくれる人のほうを向いて書いていますね」なかには雑誌に発表した時期からかなり時間が経っているものも。それを踏まえて、作者のその後の活躍や、作品に対する追加情報を新たに注釈で補ってくれているのも、読む人のことを考えた嬉しい心配り。「やっぱり本は無理やり読まされるよりも、自分で選んで読んだという気持ちになれたほうが、楽しめると思うんです。好きな本について語り合ったあとみたいな気分で、これをきっかけに誰かが何かの本を読んでくれたら、私にとってはそれが一番嬉しいことだと思っています」偏愛本ばかりなのに、読者に寄り添っているところはさすが。とっても信頼できる読書仲間を得たような、そばに置いておきたい一冊だ。たきい・あさよライター。数々の雑誌で作家インタビュー、書評などを担当。『王様のブランチ』ブックコーナーの出演を経て、現在はブレーンを務める。’18年2月にインタビュー集を出版予定。『偏愛読書トライアングル』2010年から現在も『波』で連載中の「サイン、コサイン、偏愛レビュー」。そのなかから56本を厳選。160冊以上の偏愛本を網羅している。新潮社1700円※『anan』2017年11月29日号より。写真・土佐麻理子(瀧井さん)水野昭子(本)インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2017年11月26日恋バナは女の子の大好物だが、胸がときめくような話よりも、ダメ恋、いわゆる残念な話のほうが案外盛り上がってしまうもの(しかもなぜか夜が更けるほどに)。尾崎衣良さんの『深夜のダメ恋図鑑』は、そんな夜な夜な繰り広げられる世にも恐ろしいダメ恋トークに参戦しているような楽しさを味わえる。「少女マンガらしいかっこいいヒーローを描くのが苦手で、ならばいっそのこと真逆の、一切ときめかないような男を描いてしまおう、という発想から生まれました」根っからの少女マンガ育ちで、王子様のような存在を現実の世界に求めてしまう千代、元ヤンで美人だけどなぜか既婚者によく言い寄られる円、彼氏が途切れたことはないもののダメ男ばかりと付き合ってしまう佐和子。この3人の体験談が立て板に水を流すように語られるのだが、それがまあとにかく、女性目線で見ると笑えるものばかり。「友人から聞いた話や自分の体験したことに、わかりやすく肉付けして描くことが多いですね。ニュースや雑誌の特集からインスピレーションをもらったり、恋愛話に限らず人から聞いた話を男女関係に置き換えて描くこともあります」食べ物やお金に対する価値観の違いから生まれる相手への不満や不信感、合コンやデートの際に「アウト~!」と言いたくなる振る舞いなど、誰もが我が身に置き換えられそうなエピソードなのもいい。「ムカつくけれど、のちに笑って話せるようなことにしようと思っているので、DVみたいな笑えない話はタブーにしています。あとは、共感してもらえることも大事ですね。佐和子がなぜ諒くんと付き合っているのかという点では、まったく共感されていませんが(笑)」現実の恋愛では女性側に非があることも多々あるだろうが、ここは少女マンガということで、男性諸君には「笑える悪人」になっていただき……。女性が『ダメ恋』を読んでストレス発散できれば、男性にもきっと優しくなれるはず(願望)。おざき・いらマンガ家。著書に『外面が良いにも程がある。』『セカンドバージン』など。「深夜のダメ恋図鑑」は『プチコミック』で連載中。コミックス1~3巻発売中。自分のことは棚に上げ、「こんな男いるよな~」と膝を打ちたくなる、ダメ恋エピソードが満載。男性に言いたい放題言わせたあとに放つキメ台詞が痛快です。小学館429円(C)尾崎衣良/小学館※『anan』2017年11月22日号より。写真・水野昭子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2017年11月19日高野雀さんの新刊『あたらしいひふ』は、数ある同人誌時代の作品から選りすぐった4編を収めた一冊。人を服装で判断して憧れたり、敬遠したりするのはよくあることだ。しかもその服を選んでいる理由には考えが及ばないまま、“別の世界の人”として一線を引いてしまうことも意外と多いのではないだろうか。「本書に収録されている『Recycled Youth』を発表したとき、嘲笑気味に“おしゃれって感じ”という感想をもらって…。自分をおしゃれだなんて思ったこともないし、おしゃれって一体何だろう?と考えたのが、女性と服をテーマにしようと思ったきっかけです」黒い服しか選ばない地味系の高橋、モードな服を着こなす渡辺、コンサバな鈴木、かわいく盛って武装するギャルの田中。表題作は同じ会社で働く外見も価値観も異なる4人の女性が登場するのだが、流行りのファッションで身を固めるのは、冴えない自分を隠すためだったり、かたや無難な服しか選べないことに引け目を感じていたりして、それぞれの悩みを俯瞰できるのが面白い。思春期の男女が抱く身体的劣等感と、その部分に惹かれる異性を描いた「It’s your(new) ID.」も、元同級生・30歳の男性3人が再会する「Recycled Youth」も、コンプレックスがキーワード。他人に見えている自分と、“本当の”自分の間で悩むのは、男も女も関係ないのだと実感。「私は凡人だから他人の話のほうが圧倒的に面白いし、その気持ちや行動を理解したいから物語にしているところがあるのかもしれません」収録作品はすべて過去に同人誌で発表していて、単行本化にあたり大幅な加筆修正を行っている。「過去の作品の描き直しは、苦行でしかないですけどね(笑)。自分にダメ出しをしながらやりました」高野さんの入門編としても楽しめるし、その独特の感性は同人誌時代からすでに顕在化していることを確認もできる、レアな作品集だ。たかの・すずめマンガ家。2014年、商業誌デビュー。主な作品に『さよならガールフレンド』『13月のゆうれい』など。月刊誌『フィールヤング』にて「世界は寒い」を連載中。『あたらしいひふ』 「女と服」の関係を群像劇で描いた表題作は、登場人物のファッションを2017年版にバージョンアップ。数ある同人誌時代の作品から選りすぐった全4編。祥伝社680円(C)高野雀/祥伝社フィールコミックス※『anan』2017年11月15日号より。写真・水野昭子インタビュー、文・兵藤育子
2017年11月11日出産という女性にとって最大の命題を笑いも交えつつ軽やかに(そして泣ける!)綴ったエッセイ『産まないことは「逃げ」ですか』。著者の吉田潮さんにお話を伺いました。自分を主語にして決断すれば、産んでも産まなくても後悔はない。子どもを産みたいかどうか、多くの女性は一度は考えたことがあるのではないだろうか。苦労なく授かる人もいれば、子どもは必要ないという人もいるし、産みたくても叶わない人も。だけど、なぜ欲しいのか、あるいは欲しくないのかじっくりと理由を問われると、そこは意外と曖昧だったりもする。34歳で「子どもが欲しい病」にかかり、39歳で不妊治療をして、結果的に「産まない人生を選んだ」という吉田潮さんも、当初は深く考えていなかったという。「過去の日記を掘り起こしたら、子どもがすごく欲しくて不妊治療をしていたはずなのに、妊娠していないとわかったとき、『ホッとした』って書いていたんです。あのときの自分は、不妊治療を頑張っていることを世間にアピールしたかっただけというか、自分ではないものに突き動かされていたのかもと思いました」突き動かされていたものの正体は「女性は子どもを産むべき」という世間一般の価値観や、「親が喜ぶに違いない」という思い込み。“自分”がどうしたいかではなく、“世間”や“親”などに主語がすり替わり、不自由さを感じていたからこそ本音が漏れてしまったのだ。「女に生まれたからには産んでおかなきゃっていう内なるプレッシャーがあった、という知人がいるのですが、彼女も自分が産みたいかどうかではなかった。勝手にリミットを設けて焦る人も多いと思うんです」吉田さんは、封印しておきたかったであろう不妊治療のときの心境や、具体的な費用、夫とのやりとりを赤裸々に綴り、「産む・産まない・産めない」それぞれの立場の間に存在する溝や、両親や夫の胸の内、本書のタイトルになっているドキリとする疑問にも軽やかに切り込んでいく。「『自分が主語』ってわがままに聞こえるかもしれないけれど、産む産まないに関しては特に、そうしたほうが気が楽になると思うんです。絶対正しい答えなんてない。一方からしか見ていなかったものは、反対側から見たら全然違う!っていうような気づきがあると嬉しいですね」“自分が主語”という考えは、産む産まないに限らず、家族とのあり方、働き方など、生き方そのものについても共通なのだと気づかされる。豪快だけど繊細な吉田さんの優しさ溢れるメッセージは、女として最強の友を得たような気持ちになれる。よしだ・うしおライター兼絵描き。『週刊新潮』での「TVふうーん録」ほか、アラサー女性応援サイト「WOTOPI」で「産むも人生 産まないも人生」を連載。コメンテーターとしても活躍。『産まないことは「逃げ」ですか』出産という女性にとって最大の命題を笑いも交えつつ軽やかに(そして泣ける!)綴ったエッセイ。ひとりで抱え込まず、パートナーにも読ませるべし!KKベストセラーズ1200円※『anan』2017年10月18日号より。写真・土佐麻理子文・兵藤育子(by anan編集部)
2017年10月16日犬山紙子さんの夫・劔樹人さんが「今日も妻のくつ下は、片方ない。」を発売。兼業主婦になって試行錯誤した日々についてお話をうかがいました。家事という難題に緩やかに挑む主夫の憂いとささやかな幸せ。夫婦の永遠のテーマといえる、家事分担問題。共働き世帯が増加しているものの、働き方や収入バランスは千差万別なので、正解は自分たちで見つけるしかないのが現実だ。「うちの場合、家事ができる人とできない人というよりも、できない人ともっとできない人というところからスタートしているんです」本書の副題は「妻のほうが稼ぐので僕が主夫になりました」。念のため説明しておくと、劔樹人さんは、アンアンでもコラムを連載している犬山紙子さんの夫。音楽を生業にしてきた劔さんは、副題の理由で兼業主夫に。「人生で一番後回しにしてきた」という家事を、試行錯誤しながらこなす様が綴られていく。「全自動洗濯機とはよく格闘してますね。女性の服は難しくて、珍しいものが放り込まれていると普通に回していいものか悩みます。(自分の袖を見ながら)なんでこうやってホコリが付くのかも不思議だし…」高性能の家電を使いこなせているのか心もとなかったり、リクエストに応えて、食べたことのない、つまりは完成形の味がわからない料理を作ってみたりする迷走ぶりが、切なく、そしていじらしい。「それでもどうにかできているのは、気負わないようにやらせてもらっているおかげかもしれないですね」家事を取り巻く日常の取るに足りない出来事(洗濯機の上に置き忘れていたメガネが温かくて癒されたり、七味唐辛子が風に舞う様に見とれたり…)の描き方は、「俳句に近いチャレンジ」というだけあって、そこはかとない余韻を残す。「自分としてはギャグを描いているつもりもないんです。目指しているのは、益田ミリさんの世界観をしょうもなくした感じですかね(笑)」スーパー主夫のアイデア術ではもちろんなく、あるあるネタ満載でもなく、とても私的な主夫エッセイ。だからこそ一夫婦の事例として、ヒントになることもたくさんある。「夫婦の状態が変われば、家事の分担も変わるもの。うちも子どもが生まれた今は描いた形とは変わっていますし、その都度ちょうどいいバランスで共有すればいいと思います」「今日も妻のくつ下は、片方ない。」独身時代は家事と無縁の生活をしていた著者が、主夫として奮闘する様が笑えてしみて、母性本能さえくすぐられる、コミックエッセイ。後半の展開も必見!双葉社1000円。(C)劔樹人/双葉社つるぎ・みきとミュージシャン、マンガ家。神聖かまってちゃんのマネージャーとして活躍。2014年にマンガ家デビューし、雑誌『小説推理』、ウェブマガジン「MEETIA」などで連載中。※『anan』2017年9月6日号より。写真・水野昭子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2017年09月05日田舎のお寺暮らし、猫、年上のお姉さん。オジロマコトさんの『猫のお寺の知恩さん』は、キーワードを羅列しただけでも好きな人にはたまらない世界観となっている。事実、これらのシチュエーションありきで動きだした物語なのだとか。「最初にテーマみたいなものを2行くらいでまとめて、先のことはあまり考えずに行きあたりばったりで描き始めました。先々の展開を考えてもそうじゃない方向へ行ってしまうことのほうが実際は多いので、大体いつもこのやり方ですね」都会育ちの須田源は、県外の高校に進学することになり、遠い親戚のお寺に下宿することに。そこで3つ年上の幼馴染み・知恩さんと再会し、高校生にはちょっぴり刺激的なひとつ屋根の下での生活が始まる。そのくらいの年頃だと2~3歳上の人がやけに大人びて見えるものだが、源の目にも知恩さんはいかにも“お姉さん”といった雰囲気に映る。しかしまだ20歳にもなっていない知恩さんは、しっかり者のようでいて少々抜けているところもあり、そのギャップがたまらない。行きあたりばったりという執筆スタイルは、作品全体に流れるゆったりとした空気感にも不可欠なものなのだろう。「季節感を大事にしたいので、たとえば夏だったら海に行ったり、花火を見たりするよなあ、とまず考えてみるんです。描きたいイメージが一枚の絵から物語に広がっていく感じですね。読者の方には、何かすごいことが起こってほしいと思われているんじゃないかといつも不安になりながら描いていますけど(笑)」家族とではなく友だち同士で海に行くのがちょっとした冒険だったり、休日に勉強会をしたり、部活でレギュラーに選ばれずこっそり傷ついたり……。日常を丁寧に紡いでいく物語は、たしかに大事件が起こるわけではないけれども、それらがかけがえのない日々であることを教えてくれる。セリフの少なさも、その美しさをより際立たせている。「口にするのは簡単だけど、実際は言わなかったりすることは意外と多いので、そこは絵でリアルに描きたくて。そのぶんキャラクターの表情を描くのに時間はかかってしまうのですが、セリフがないと読む人が自由に想像を膨らませてくれるので、それもまた面白いんですよね」『猫のお寺の知恩さん』知恩さんの無防備さに源とともにドギマギしつつ、昔ながらの質素だけど豊かなお寺暮らしや、自由すぎる猫たちとヘタレな犬に癒される、甘酸っぱい物語。小学館552円(C)オジロマコト/小学館オジロマコトマンガ家。主な作品に『カテキン』(全10巻)、『富士山さんは思春期』(全8巻)など。本作は2016年、TVBros.主催のブロスコミックアワード大賞を受賞。※『anan』2017年8月30日号より。写真・水野昭子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2017年08月25日普通のおばあちゃんなのに、なぜか応援したくなる。おざわゆきさんの『傘寿まり子』は、そんな80歳のおばあちゃんを描いた作品です。ひょっとしたら、現代に生きるおばあさんのことを誤解していたかもしれない。おざわゆきさんの『傘寿まり子』を読むと、反省の意味も込めてそんなふうに思ってしまう。「私の周りには母を含めて高齢の方がわりと多く、仲間みたいな感じで接していたので想像しやすかったんです。今のおばあさんは昔と違ってどんどんおしゃれになっていますし、気持ちも若くなっている。そういう意味でも、より多くの方が興味を持ちやすいテーマかなと思いました」おざわさんいわく「達観しつつ、欲もある」のが現代のおばあさん。「80代にもなると、高齢者という意識を持ち始めてから長い年月が経っています。人生どうなるかわからない不安を散々経験しながら、かといって自分のやりたいことも捨てきれないんじゃないかって思うんです」80歳で作家のまり子さんは、4世代同居で居場所がなくなり、家出を決行。一応仕事があるので、ひとりでも暮らしていけると高をくくっていたが世間はそう甘くない。それでもめげずに自らの足で立っていこうとするのだが、見ず知らずの人を無闇に信じることが難しい世の中でバカ正直なくらい人を信じ、結果、人とつながっていく様が気持ちいい。「絶望的な状況に陥ったとしても、それを真正面から受け止めず、うまい具合に回避して、自分なりに解決できる方法があるかもしれない。まり子さんはひとつずつこういうふうにやり過ごしているんだ、と思ってもらえるように描いています」聖人でもスーパーおばあちゃんでもないまり子さんを応援したくなるのは、希望的観測も含め未来の自分と重ね合わせてしまうからなのか。「たとえば30年後の私は、今の私がシフトするだけで中身は変わっていない気がします。高齢者という名前になっても私は私であり、最後の瞬間まで自分の人生なんですよね」『傘寿まり子』80歳のベテラン作家・まり子さんが、家出をしてネットカフェに居座ったり、初恋の人と同棲をしたりしながら、人生を切り拓いていく勇気溢れる物語。講談社各580円おざわゆきマンガ家。母親の戦争体験をモチーフにした『あとかたの街』(全5 巻)と『凍りの掌 シベリア抑留記』で第44回日本漫画家協会賞コミック部門大賞を受賞。※『anan』2017年8月2日号より。写真・水野昭子(本)インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2017年08月01日宇仁田ゆみさんのマンガ『パラパラデイズ』は、アニメの制作現場を描いた作品。自身の作品がアニメ化されたこともあり、その制作現場に興味を持つようになったという宇仁田ゆみさん。「みなさんすごく強くて聡明な方々で、心惹かれるものがあったんです。この人たちが働く世界として物語を構築していくなら、自分にももしかしたら描けるかもと思いました」『パラパラデイズ』の主人公は、10年少々キャリアがあり、作画監督を任された八嶋くん。いわゆるお仕事マンガは、新人が成長していく過程をメインにしたものが多いだけに、中堅の奮闘ぶりは、ある意味新鮮だ。「会社などで働いていると、自分は新人のつもりでもあっという間に下の人が入ってきますよね。ある程度仕事を続けているとどんな職業でもすぐにそういう立場になるし、そこからが仕事の本番のような気がするので、いろんな方の心に届くように描けたらいいなと思って、中間管理職的な主人公にしました」人に教えることが苦手だと思っている八嶋くんの言動や考え方に、思わず共感してしまう人も多いはず。「目の前にある仕事を自分でやってしまうのが一番早いのはわかっているけど、職場と自分の未来のために少し回り道をしなきゃいけないこともありますよね。かといって本当に時間がなくて自分で『おりゃー!』とやっつけてしまわないと、絶対に終わらないときも。そういうせめぎ合いや選択も描いていきたいです」キツいイメージのあるアニメの現場だが、登場人物たちの姿を通して働くことの意味を考えさせられる。「一日中好きなことと向き合って、収入や評価を得られる楽しさもありますが、好きなことによって心や体がむしばまれる可能性も。楽しさとつらさのバランスのとり方を、各キャラクターで匂わせられたらいいですね。アニメーターさんは基本的に作品ごとに職場や周りのメンバーが変わっていくので、その辺りも楽しみにしていただけたら嬉しいです」『パラパラデイズ』作画監督を任された八嶋くんの前に気になる絵を描く後輩が現れたり、尊敬する先輩が出戻ってきたり。夢を追うことの楽しさとつらさを丁寧に描いた奮闘記。小学館552円(C)宇仁田ゆみ/小学館うにた・ゆみマンガ家。アニメ化もされた『うさぎドロップ』、大家族ストーリー『よっけ家族』、子育てエッセイ『ソダテコ』、眠りがテーマのコメディ『ねむりめ姫』などがある。※『anan』2017年7月19日号より。写真・水野昭子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2017年07月16日出だしを聞いただけで、面白さを確信してしまう物語がときどきあるが、えすとえむさんの『いいね!光源氏くん』はまさにそれ。何しろ、あの平安のプレイボーイが現代に迷い込んでしまうのだから。「中学のときに『あさきゆめみし』というマンガを読んで、その影響で『源氏物語』の現代語訳や原文も手に取ってみたのですが、当時はわりと女の人にスポットを当てて読んでいたんです。大人になって光源氏を冷静に見てみると、いくらイケメンだからといってあんなにたくさんの女性を悲しませるなんて、ちょっとないわと思って(笑)。その感覚のままで現代に来ちゃったら面白いかもしれないと思ったんですよね」光源氏がタイムスリップする先は、都内でひとり暮らしをしている27歳のOL・藤原沙織の部屋。彼女は“光源氏を名乗るコスプレ男”を半信半疑で居候させるのだが、スマホやら抹茶フラペチーノやらネイルやら、現代カルチャーと遭遇する彼の反応が、「まあこうなるよね」とある程度予測できるのにいちいち笑えてしまう。しかも彼は、何かに感動するたびに和歌を詠み、ツイッターに投稿までしてしまうのだ。「この時代の貴族は嬉しかったり悲しかったりしたときに、日常的に歌を詠んでいたと思うのですが、その感覚がツイッターやインスタグラムなどのSNSとフィットする気がしたんです。ツイッターは特に、文字数の制限もありますしね」女好きオーラがダダ漏れなのに、一緒に暮らしている沙織には興味を示さなかったり、昼間は家でゴロゴロしていて生活能力がまったくなさそうだったり。時代が変わるとイラッとすることも少なくないのだが、イケメンが家にいるのは悪い気がしないし、どこか憎めない光くん。「このマンガを描いてみて、ギャグやコメディを描き続けている方の体力を尊敬しました。ネームを描きながら結構悩んだり苦労したはずなのですが、作画に入るとバカバカしくて、何が大変だったのか実はよく覚えていないんですけどね(笑)」読み終わって、光くんともう会えないのかと寂しく思わせるところも、天性の人たらしのなせるワザだ。◇独身OLの部屋になぜかタイムスリップしてしまった光源氏が、スマホを手に東京の街を歩き、ツイッターを始め、女の家から朝帰りする日々を描いたコメディ。祥伝社700円 (C)えすとえむ/祥伝社フィールコミックス◇えすとえむマンガ家。2006年、BL作品でデビュー。現在はBL誌、女性誌、青年誌などで幅広く活躍。若き靴職人が主人公の「IPPO」を『グランドジャンプPREMIUM』で連載中。※『anan』2016年11月23日号より。写真・森山祐子インタビュー、文・兵藤育子
2016年11月21日マスラオとは「立派な男。勇気のある強い男」という意味だが、『マスラオ礼賛』の目次に並ぶのは、ハドリアヌス帝、アニメ『トムとジェリー』のトム、子ども向け番組の人気キャラクター・ノッポさん、水木しげる、スティーブ・ジョブズなどなど。一見「?」な人もいないではないが、読んでみると「男の中の男」ってむしろこういう人なのかも、といつの間にかヤマザキマリさんの冷静かつ熱い分析に大いに納得していたりする。「面白い人を選んでみたら男性ばかりだったというのが、正直なところなんです。女性は要領がよくて、自分を客観的に見ることができるけれども、男性は変なところをあるがままに露見させてしまう。そこがおかしくもあり、羨ましいんですよね」ステキなお友達を紹介する感覚で書いたという文章は、彼らの偉業とともに、その普通じゃなさにも容赦なく光を当てる。たとえば社会性の欠如だったり、執拗なこだわり方だったり、バランスの悪さだったり、情けなさだったり……。世間的にはマイナスとみなされるような部分を隠さず(隠せず)に、好きなことに没頭して、才能を開花できるのが男性の素晴らしさなのだと力説する。「男の人って強そうに見えても、基本的に打たれ弱いじゃないですか。私たち女性はミドリガメや金魚みたいに、多少濁った水でも生きていけるけど、彼らは熱帯魚並みに弱い生き物なんです。それなのに泥水でも平気なふりをして、実際はダメージを受けていたりする。そういうときは、『無理しなくてもいいから自分の水槽に戻りなさい』って女性が言ってあげるべき。たとえばイタリアでは、女性のほうが強いことを認めているから、男性は自由だし魅力的でいられるのだと思うんです。反対に、男性の弱さを認めてくれる女性も魅力的だと思われている。これって日本と反対ですよね?」マッチョで経済力があるような、女性にとって“便利な”男性像を押し付けることはもうやめて、イケメンの定義にもっと寛容になったほうが、女性は幸せになれるかも。◇やまざき・まりマンガ家、エッセイスト。17歳でイタリアに渡り、フィレンツェで油絵を学ぶ。2010年『テルマエ・ロマエ』でマンガ大賞、第14 回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。◇『マスラオ礼賛』ローマ皇帝から猫まで、偏愛する「男の中の男」の魅力を綴ったエッセイ。画期的なジェンダー論としても楽しめる。写真のぬいぐるみは、小3のときに『トムとジェリー』のトムが好きすぎて手作りしたもの。幻冬舎1500円※『anan』2016年10月26日号より。写真・森山祐子インタビュー、文・兵藤育子
2016年10月23日ちひろさんは、不思議な人だ。ナンバーワン風俗嬢だった過去を一切隠さず、町の弁当屋で看板娘として働いている。周りのオバサン連中からは早く落ち着けと嫌みを言われ、オジサン連中とは飲み仲間、家庭環境が複雑な子どもたちに妙に懐かれているものの、本人はいたってニュートラル。何事も気負わず、色恋沙汰にプライオリティを置かない生き方が、とても楽しそうなのだ。「恋愛や結婚には向き不向きがあるから、やりたい人がすればいいんです。よく『一度山に登ったら、絶対に好きになるから!』と説得する人がいますよね。登ったことのない人は、つらさや面倒くささを避けてる自分ってどうなんだろうと考えちゃうけど、実際に登った人全員が夢中になるかというと、そうじゃない。恋愛や結婚、出産するかどうかなど生き方を責められるのは、『なんで山に登らないの?』って言われてるのと同じようなことだと思います。『これをやらないと不幸だよ』っていう周りから植え付けられた先入観を外せるかどうかで、自分の幸せが決まってくる気がするんですよね」その点、ちひろさんは誰からも縛られず、誰のことも縛らない。だから見ていて気持ちがいい。「人は誰かに思い入れを持つようになると、嫌いなことや許せないことが出てきてしまうもの。ちひろは人に対して親身にはなるけれども、結構いい加減でもある。これって実は大事なスキルだと思うんです」ちひろさんと、彼女を取り巻く愉快な人たちとの日常は、日々事件が起きているといえば起きているし、取るに足りないといってしまえばそれまで。そのすき間に見え隠れするメッセージは思いのほかディープで、幸せを感じる能力を試されているような、怖いマンガともいえる。「飲みやすいけど腹にもたれるようなマンガを作りたいんです(笑)。幸せになれるかどうかは、その人のさじ加減ひとつ。一般的に人がうらやましがるものを何も持っていないちひろが、のうのうと楽しそうに暮らしている姿だけでも、十分伝わるんじゃないかな」◇ちひろさんの自由な生き方&価値観に、多くの女性が共感。本作の前段にあたる風俗嬢時代を描いた『ちひろ』もオススメ。どちらから読んでも楽しめます!秋田書店619円◇やすだ・ひろゆきマンガ家。主な著作に『ショムニ』『ちひろ』『紺野さんと遊ぼう』『ラビパパ』『寿司ガール』など。「ちひろさん」は『エレガンスイブ』で連載中。(C)安田弘之/秋田書店※『anan』2016年10月5日号より。写真・森山祐子(本)インタビュー、文・兵藤育子
2016年10月04日訪れる人の視点や時間の過ごし方によって、同じ土地でも印象が変わるのが旅の面白さ。イラストレーターであるオガワナホさんのフィルターを通した本書の副題は、「食、アート、カルチャー、癒し台湾の新たな発見をつめこんだイラストガイド」。まさに、街歩きのわくわくを堪能できる一冊に仕上がっている。「テーマは、インスピレーションを探す旅。私みたいな外国人イラストレーターが、台北ではどんなところへ行って、どんなものが目に留まるのかを伝えられたら面白いのでは、という思いからスタートしました」お寺や市場、グルメ、マッサージなど観光の定番も取り上げているけれども、台北はライフスタイルブームのまっただ中。最先端のカルチャーに出合える書店やギャラリー、雑貨屋、カフェなどに多くのページを割いているのが特徴といえる。「FacebookやInstagramで探してよさそうなところへ実際に行ってみたり、現地のクリエイティブな人に取材をしていくなかでオススメの場所を教えてもらったりすることの積み重ねでした。もともと旅行が好きなのですが、出発前に徹底的にリサーチをするタイプなんです。それが役に立ちましたね」通常のガイドブックにはなかなか載らないような、新進気鋭のお店の雰囲気や注目アイテムなどのイラストは見ているだけで心が躍るし、親近感のある文章は、台北通の友だちからいろんな情報を直接教えてもらっているような気分になれる。「歩きながら建物や人間観察などするだけで、いろんな発見があると思います。ステキな本屋さんが増えているので、言葉を理解できなくても装丁などのデザインを見るのも楽しいですよ。つい、あれも行きたい、これも行きたい!となりがちですが、インスピレーショントリップを楽しむならば、何かを見たらちょっと立ち止まり、考える時間を持つくらいがちょうどいい気がします。私自身も目標なんですけどね(笑)」◇おがわ・なほ国内外で活躍するイラストレーター。著書にナナとミミの絵本シリーズ。アロマライフコーディネーター川野菜穂さんとのコラボ商品“Aromatic Brooch by nn”が販売中。◇インスピレーションが得られる場所、モノ、人を、写真を使わずイラストと文章のみで紹介する台北ガイドブック。読んだら絶対に行きたくなります!誠文堂新光社1300円※『anan』2016年10月5日号より。写真・森山祐子(本)土佐麻理子(オガワさん)インタビュー、文・兵藤育子
2016年09月29日