新国立劇場が2024年ゴールデンウィークに上演するバレエは、『ラ・バヤデール』。現在頻繁に上演されている数々の古典バレエの中でも、飛び抜けてエキゾチックでドラマティック、かつ壮大なスケールで描かれる名作だ。舞台は古代インド。次々と見どころが押し寄せる本作の魅力とは──?マリウス・プティパの傑作『ラ・バヤデール』が新国立劇場にレパートリー入りしたのは、2000年の秋。当時の芸術監督、牧阿佐美が手がける古典バレエ改訂版の第1作として上演された。まず目を奪われたのは、古代インドの寺院や王宮、人々が纏う衣裳の息を呑むほどの美しさ。しかもそこで展開されるのは、古典バレエらしいおとぎ話ではなく、ヒリヒリするような人間ドラマだ。(撮影:瀬戸秀美)ヒロインは寺院に仕える舞姫(バヤデール)のニキヤ。戦士ソロルと恋仲だが、ソロルは王の娘ガムザッティとの結婚を承諾し、物語は悲劇へと突き進む。権力への服従、恋敵のふたりの諍い、裏切り、後悔──さまざまな立場の人たちの愛憎渦巻くスリリングなストーリー展開は、おとぎ話を敬遠しがちな大人をも惹きつける。(撮影:瀬戸秀美)初演以来度々上演を重ね、新国立劇場の人気レパートリーとして定着したが、それを支えたのは、表現力豊かな歴代ダンサーたち。今回主役を演じるダンサーは、小野絢子・福岡雄大、柴山紗帆・速水渉悟、米沢唯・渡邊峻郁、廣川みくり・井澤駿の4組だ。さらにガムザッティ役には木村優里、直塚美穂が配され、日替わりで充実の舞台を展開する。劇場では日々、各々の個性、役柄への深い洞察が存分に活かされた舞台が生み出される。(撮影:瀬戸秀美)もちろん、傷心のソロルが夢に見る「影の王国」のコール・ド・バレエの幻想的な美しさも圧巻。ひとり、またひとりと現れるニキヤの“影”が、静かな歩みでスロープを降りてくる。後から後から次々と。その夥しい数の “影”が、ぴったりと呼吸を合わせて踊るさまの、何と美しいこと──。主役たちが繰り出す華やかな踊りはバレエの大きな魅力だけれど、コール・ド・バレエが放つ不思議な美しさに浸ることができるのも、『ラ・バヤデール』だからこその特別な体験だ。(撮影:瀬戸秀美)古代インドが舞台だけに、この作品ならではのユニークな踊り、キャラクターも登場。とくに、第2幕に登場する黄金の神像=ブロンズ・アイドルは、本作のシンボルともいうべき存在だ。全身を金に塗り、目の覚めるようなテクニックで観客の目を釘付けにする。この役も、奥村康祐はじめ4人のダンサーたちが日替わりで踊る。誰がどんな存在感で魅せてくれるのか、ワクワクしながら劇場に向かう。それもまた、バレエの愉しみ。公演は4月27日(土)〜5日(日・祝)、東京・新国立劇場オペラパレスにて。(撮影:瀬戸秀美)文:加藤智子★ソロル役速水渉悟さんのインタビュー掲載中!()<公演情報>新国立劇場バレエ団『ラ・バヤデール』振付:マリウス・プティパ演出・改訂振付:牧阿佐美音楽:レオン・ミンクス編曲:ジョン・ランチベリー美術・衣裳:アリステア・リヴィングストン照明:アリステア・リヴィングストン/磯野睦出演:新国立劇場バレエ団指揮:アレクセイ・バクラン管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団2024年4月27日(土)~5月5日(日・祝)会場:新国立劇場 オペラパレス公式サイトチケット情報()
2024年04月25日東京・六本木の国立新美術館で「マティス自由なフォルム」が開催されています。20世紀最大の巨匠のひとりとして知られるフランスの芸術家、アンリ・マティス(1869-1954)。本展では、特に彼が後半生で取り組んだ「切り紙絵」に着目し、日本初公開となる大作も登場しています。展示風景や学芸員さんのお話、おしゃれな限定グッズ&スイーツもご紹介!南仏ニースから約100点以上も来日!「マティス自由なフォルム」展示風景※本記事の写真は、主催者の許可を得て撮影しています。© Succession H. Matisse【女子的アートナビ】vol. 331本展では、マティスが後半生を過ごした南仏のニース市マティス美術館が所蔵するコレクションを中心に展示。ニースでマティスが手がけた「切り紙絵」にフォーカスしながら、絵画や彫刻、版画、舞台衣装など約150点の作品が紹介されています。国立新美術館主任研究員の米田尚輝さんは、本展の概要について次のように解説されています。米田さん今回の展示作品のうち、90パーセント以上がニース市マティス美術館のコレクションから構成されています。同美術館のコレクションはマティスがニース時代に制作したものが多いのですが、初期の重要作品もあります。今回は時系列的に構成され、パリ時代に描いた初期作品からフォーヴィスム時代、南仏時代の作品、さらに重要な彫刻の作品群も展示されています。南仏で明るい光と出合う左:アンリ・マティス《マティス夫人の肖像》1905年、右:《日傘を持つ夫人》1905年ニース市マティス美術館蔵© Succession H. Matisseでは、いくつか見どころをご紹介。まず、「Section1 色彩の道」では初期からフォーヴィスム時代の作品が並んでいます。マティスは21歳のときに画家になると決意。パリの国立美術学校でギュスターヴ・モローに学び、ルーヴル美術館で巨匠たちの作品を模写したりしながら技法を身につけていきました。その後、南仏に滞在し明るい光と出合ったことがきっかけとなり、鮮やかな色彩を使うフォーヴィスム絵画が生まれました。ちなみに、「フォーヴィスム」は日本語にすると「野獣派」となります。マティスなど一部の画家たちは荒々しい強烈な色彩を使うため、フォーヴ(野獣)にたとえられてこの名称がつきました。絵に描かれているオブジェも登場!右:アンリ・マティス《小さなピアニスト、青い服》1924年ニース市マティス美術館蔵 © Succession H. Matisse 、左:《赤い“ムシャラビエ(アラブ風格子出窓)”》北インド? 19世紀末〜20世紀初頭 個人蔵(寄託:ニース市マティス美術館)続く「Section2 アトリエ」では、アトリエで描かれた作品や、アトリエ自体をテーマにした作品を展示。マティスは南仏ニースに滞在し、骨董品などのオブジェを集め始めました。会場では、マティスが所有していたオブジェと、そのオブジェが描かれた絵画作品もあわせて展示。東洋風の火鉢や大きな織物などと一緒にマティスの絵が並べられ、ユニークな光景を見ることができます。展示風景より、マティスがデザインした衣装(制作したのは、モンテ・カルロ・バレエ団のアトリエ)© Succession H. Matisse続く「Section3 舞台装置から大型装飾へ」では、マティスが手がけたデザインに関する仕事などを紹介。マティスは、1920年にパリのオペラ座で開かれたバレエ・リュスの舞台「ナイチンゲールの歌」の舞台装置と衣装デザインを担当。この衣装のためにマティスは何枚も習作を描いたそうです。会場では、色鮮やかな衣装がズラリと並び、見ごたえがあります。色も形もポップでかわいい!アンリ・マティス《花と果実》1952-53年ニース市マティス美術館蔵 © Succession H. Matisse「Section4 自由なフォルム」では、本展のメインビジュアルにも使われている切り紙絵の大作《花と果実》が登場!色も形もポップでかわいい雰囲気の花の絵は、見ているだけで明るい気分になってきます。本作品について、米田さんは次のように述べています。米田さんマティスは1952年ごろ、アメリカ人コレクターから大型装飾作品を注文されました。本作品は、その装飾作品のためにマティスが提案した四つの案のうちのひとつです。5枚のカンヴァスが繋げられ、大きな切り紙絵になっています。本作品は、今後ニース市から外に出る可能性は限りなく低いと思いますので、日本で見られる最後の機会かもしれません。昭和のマティスブーム!展示風景© Succession H. Matisseまた、本展では、マティスと日本の関係を紹介した展示もあります。日本ではじめてマティスの展覧会が開かれたのは1951年、昭和26年でした。当時80歳を超えていたマティス本人が、展示作品の選定やポスター制作などにも指示を出したそうです。会場では、そのときの展覧会に関する資料なども展示され、昭和に巻き起こったマティスブームの様子を知ることができます。ヴァンスのロザリオ礼拝堂内部のレプリカ最後の「Section5 ヴァンスのロザリオ礼拝堂」では、マティスが晩年に室内装飾から祭服デザインまで手がけたロザリオ礼拝堂についての作品や資料などを展示。さらに、ヴァンスのロザリオ礼拝堂内部のレプリカをほぼ原寸大で再現した部屋に入ることもできます。グッズもスイーツも超おしゃれ!本展の特設ショップでは、オリジナルグッズが充実。かわいいマグカップやトートバッグ、ステーショナリーなどが揃っています。特にステキなのは、《花と果実》をあしらったTシャツ。グレーの生地と作品の相性がぴったりです。上:[デザート] アンリ・マティス《花と果実》「昔ながらのゴーフルと色々な果実バタフライピーのクリームとフランボワーズのクーリー」、下:アンリ・マティス《花と果実》 1952-1953年切り紙絵、410 × 870 cm、ニース市マティス美術館蔵 © Succession H. MatissePhoto: François Fernandezマティスの《花と果実》は、スイーツとしても登場。名画はどんなものにアレンジしてもおしゃれになりますね。色彩鮮やかなマティスの展覧会は、春のお出かけにもぴったりです。連休中も開館しているので、ぜひ足を運んでみてください。Information会期:2024年2月14日(水) ~ 2024年5月27日(月)開館時間:10:00~18:00※毎週金・土曜日、4月28日(日)、5月5日(日)は20:00まで※入場は閉館の30分前まで休館日:毎週火曜日休館※ただし4月30日(火)は開館会場:国立新美術館企画展示室2E観覧料:一般 ¥2,200、大学生 ¥1,400、高校生 ¥1,000※中学生以下無料
2024年04月21日4月13日(土)、新国立劇場『デカローグ1〜10』の初日の幕が開いた。原作は、ポーランドの巨匠クシシュトフ・キェシロフスキ監督による映画。十戒をモチーフとした十篇の連作集を、3カ月かけて完全舞台化するという大プロジェクトの開幕を飾ったのは、プログラムA(『デカローグ1』『デカローグ3』)・プログラムB(『デカローグ2』『デカローグ4』)の交互上演。いつにも増して幅広い年齢層の観客が足を運んだ新国立劇場小劇場にて、A・B両プログラムを観た(4月14日・15日)。1987〜88年に撮影され、1980年代のワルシャワの団地に住まうさまざまな人々の姿をオムニバス形式で描き出す『デカローグ』。ポーランド映画の金字塔ともいわれる作品だけに、演劇ファンのみならず映画ファンの関心も集めている。淡々とした語り口で展開するキェシロフスキ作品が、舞台上にどのように立ち上がるのか。期待を募らせ劇場に足を踏み入れると、どことなく懐かしい空間が視界に飛び込んでくる。三層に組まれた集合住宅の装置は、コンクリートの無機質な手触りに、ガラスブロックから入ってくる柔らかな外光をも感じさせる。たびたび背景に映し出される巨大団地の外観のイメージも、昭和期の公団住宅の風景と重なり、ノスタルジックな雰囲気に。あの映画独特の薫りを伝える、ひっそりとした美しさが心地よい。演出は、本プロジェクトを牽引する小川絵梨子新国立劇場演劇芸術監督と、上村聡史のふたり。幕開けの公演は、プログラムAの二篇を小川、プログラムBの二篇を上村が担当、各プログラムでそれぞれの仕事をじっくり味わう形となった。『デカローグ1』「ある運命に関する物語」より、右から)ノゾエ征爾、石井 舜、高橋惠子(撮影:宮川舞子)プログラムAの前半、『デカローグ1』は「ある運命に関する物語」。大学教授クシシュトフ(ノゾエ征爾)は12歳の息子パヴェウ(石井舜)とふたり暮らし。腕立て伏せを競ったり、コンピューターを用いてさまざまな問題を解いたりする姿が微笑ましい。父子に優しく寄り添うクシシュトフの姉、イレナを演じ強い印象を残したのは高橋惠子。信心深く、パヴェウを教会に通わせようとするも、無神論者のクシシュトフとは意見が合わない。十戒の最初の戒め「わたしのほかに神があってはならない」が、重々しくのしかかってくるエピソード。「死ぬってどういうこと?」と父に問うパヴェウの声が、いつまでも耳に残る。『デカローグ3』「あるクリスマス・イヴに関する物語」より、右から)千葉哲也、小島聖(撮影:宮川舞子)団地の片隅から、主人公たちの生活を覗き見ているような気分プログラムB『デカローグ2』は、「ある選択に関する物語」。バイオリニストのドロタ(前田亜季)は、同じ団地に住む医長(益岡徹)を訪ね、重い病を患い入院している夫アンジェイ(坂本慶介)の余命を知りたいという。ドロタは愛人の男の子供を妊娠していた──。常に苛立ちを隠せずにいる彼女の姿が痛々しい。『デカローグ2』「ある選択に関する物語」より、右から)前田亜季、益岡徹(撮影:宮川舞子)『デカローグ4』「ある父と娘に関する物語」は、近藤芳正演じる父ミハウと、夏子演じる娘のアンカの物語。母はアンカが生まれた時に亡くなっているが、快活で魅力的なアンカと優しい父は、まるで友達、ともすると恋人同士のように仲が良い。ある日アンカは「死後開封のこと」と父の筆跡で書かれた封筒を見つけ──。十戒は「あなたの父母を敬え」と戒めるが、この父娘はどうだろう。劇場を後にしても、登場人物たちのその後の人生が気にかかる。『デカローグ4』「ある父と娘に関する物語」より、右から)近藤芳正、夏子(撮影:宮川舞子)必要以上に畳み掛けるセリフの応酬も、仰々しい場面転換もない舞台。それだけに、次々と登場する俳優たちの存在感が、ぐっと胸に迫る。演じるのは皆、普通の団地の普通の人たち。そこに時折、亀田佳明演じる“男”が姿を見せる。天使とも捉えられる彼は、十篇すべてにセリフなしで登場し、若い男や路面電車の運転士、医師といった姿で、ことの成り行きを、ただ、見守る。客席の私たちも、団地の片隅から、主人公たちの生活を覗き見ているような気分だが、どんな場面のどんな人たちにも、不思議と責めたり見捨てたりする気にはなれない。彼らの運命や迷い、選択や孤独は、救いがない場合もあるけれど、ただ静かに、見守っていたくなる舞台だ。この作品を、十篇すべてを完全上演する意味は、3カ月間この作品に寄り添うことで、おのずと見えてくるだろう。公演は5月6日(月・休)まで。新国立劇場小劇場では、このあと5月18日(土)~6月2日(日)に『デカローグ5・6』(プログラムC)、6月22日(土)~7月15日(月・祝)に『デカローグ7〜10』(プログラムD・E)を上演。取材・文:加藤智子<公演情報>舞台『デカローグ 1~10』原作:クシシュトフ・キェシロフスキ/クシシュトフ・ピェシェヴィチ翻訳:久山宏一上演台本:須貝英演出:小川絵梨子/上村聡史2024年4月13日(土)~7月15日(月・祝)会場:東京・新国立劇場 小劇場●[デカローグ1~4(プログラムA&B交互上演)]2024年4月13日(土)~5月6日(月・休)●[デカローグ5~6(プログラムC)]2024年5月18日(土)~6月2日(日)●[デカローグ7~10(プログラムD&E 交互上演)]2024年6月22日(土)~7月15日(月・祝)チケット情報:()公式サイト:
2024年04月19日5月30日(木)に開幕する新国立劇場のモーツァルト《コジ・ファン・トゥッテ》。主人公のひとりグリエルモ役を演じるのがバリトン歌手の大西宇宙(たかおき)だ。圧倒的に二枚目な美声と知的な表現力。2月に発表された令和5年度の芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞するなど、世代を代表するトップランナーとして疾走中の大西が、最も付き合いの長いオペラだと語るのが《コジ・ファン・トゥッテ》だ。「初めて全曲のスコアを買って勉強したのも《コジ》だし、最初から最後までやった初めての役もグリエルモでした。学生時代、武蔵野音楽大学のオペラ公演が《コジ》で、2年かけて1幕ずつ。さらにそのあと、大学院や先生まで含めた、大学あげての公演も《コジ》で、そちらでもグリエルモをやらせてもらいました。それだけずっとやったので、他の役のパートも覚えちゃうんですね。ニューヨークに留学して、ジュリアード音楽院とメトロポリタン歌劇場の研修所との合同公演でも《コジ》をやって、グリエルモのカヴァーだったのですが、レチタティーヴォの稽古にドン・アルフォンソがいないことがありました。『誰かできる人いない?』『僕たぶん歌える』と、その場でいきなりやってみたらほぼ全部完璧にできて。『アルフォンソも勉強してきたのか?』と聞かれたので、『ノー。でも人のパートも覚えるのは当然でしょ?』と答えて(笑)、METの人たちから感心されました。たぶん《コジ》は、相手のセリフも覚えてないとできないオペラだと思うんです。もちろんそれが段取りになってしまってはダメで、覚えたうえでちゃんとリアクションして演じなければなりません。全体を把握していると、その中で自分が動いているのかよくわかる。それは大切なことです。《ドン・ジョヴァンニ》や《フィガロの結婚》でもそうですけどね。ただ、稽古中に間違えて人のセリフを言いそうになっちゃうことがあって、それはある意味弊害かもしれません(笑)」ORCHARD PRODUCE 2024鈴木優人&バッハ・コレギウム・ジャパン×千住博モーツァルト オペラ《魔笛》 (C)K.Miura去年の7月に兵庫県立芸術文化センターの《ドン・ジョヴァンニ》(題名役)、と今年2月のバッハ・コレギウム・ジャパンとのBunkamura《魔笛》(パパゲーノ)と、モーツァルト・オペラへの出演が続いている。「ありがたいです。バス歌手のフェルッチョ・フルラネットさんに、『若い時はモーツァルトをたくさん歌いなさい』と言われたことがありました。『いつでもモーツァルトに戻ってこられるようにしなさい』と。どんなレパートリーを歌うようになっても、歌い手の軸みたいなところにはつねにモーツァルトがあるという意味だと思っています。じっさい、ヴェルディとかワーグナーとか、僕はわりと広いレパートリーを歌っているのですが、モーツァルトに返ってくると、声が整う感じがします。声域に無理がないので、さまざまな表現を試すこともできますし、若い頃に歌っていた喉の感じが蘇ってくる気もするんです。ただ、たぶん若いときは表現もひどく若かっただろうとは思います。《コジ》って“大人”なオペラだと思うんですね。もともとちょっと無理矢理なところがある話なので、それが嘘っぽくならないように、演劇的にどう表現すればいいかを考えなければなりません。若いときはまだ、絶対にそんなことまで考えられなかった。いまはそれなりに経験も積んできたので、いまの自分のインテリジェンス、いまの感覚で取り組めたら、それが表現できるのかなと思っています」大西宇宙ふたりの若い士官が、女性の貞操の固さを試そうと、互いの恋人を口説く芝居を打つ。その2組のカップルのなかでいちばん面白い登場人物がグリエルモだという。「感情の落差が大きい役です。自分の恋人フィオルディリージがかたくなに貞操を守っているのに対して、自分が口説いたドラベッラのほうはわりと簡単に陥落してしまうので、最初のうちはノリノリの頂点にいる。それなのに、じつはフィオルディリージはただ葛藤していただけで、最後には彼女のほうが本当に落ちてしまう。最終的にいちばん傷つくキャラクターがグリエルモです。だからフィナーレの四重唱で、他の3人がすごくきれいに歌う乾杯のシーンのカノンを、グリエルモだけは歌わない。いちばん心を裏切られているのはじつはグリエルモなんですね。人間性が出る、演劇的にいちばん面白い役だと思っています。非常にロマンティックなラブ・デュエットもあるし、繊細な部分もありますが、ただきれいに歌うだけではなくて、キャラクター性が込められているんです」グリエルモをバリトン歌手が歌い、皮肉屋の老哲学者ドン・アルフォンソをバス歌手が歌うイメージがあるけれど、実際にはグリエルモのほうが声域が低く、重唱でもいちばん下を歌うように書かれている。「そうなんです。じつはグリエルモのほうが低いんです。アルフォンソはずっとやかましくしゃべってる人。よくしゃべるお爺ちゃんって声が高いイメージがありますよね。いっぽうでグリエルモがダンディに書かれているとも考えられます。低音のセクシーボイスみたいな。そういうふうにアプローチすると、グリエルモがまたちょっと違う人にも見えてくる。それもありかなと思います」今回上演される新国立劇場のダミアーノ・ミキエレット演出のプロダクションは2011年5月に新制作初演。現代のキャンプ場で繰り広げられるカラフルな舞台が評判を呼んだ。その後2013年にも再演。2020年の上演予定はコロナ禍で中止になったため、11年ぶりの登場となる。「ステージ上のどこを見ても何かが起こっているような感じで、すごく面白いと思います。ただ、舞台が完全に現代なので、18世紀の物語の歌詞をどういうふうに解釈していったらいいのかなというのは、あらかじめ注意して勉強しようと思っています。いま念頭に置いている箇所がいくつかあります」たとえばオペラの冒頭で、ドン・アルフォンソに挑発されて、恋人たちの貞操を試す賭けに応じるシーン。グリエルモと士官仲間のフェルランドは「軍人の名誉(soldati d’onore)にかけて!」と誓うが、このプロダクションの設定ではふたりはキャンプ場に遊びに来た大学生だ。「それをどう解釈して演じるべきなのかなということは、先にシミュレーションしておかないとなりません。でも、もともとすごく比喩が多い台本なので、そういう変更はありだと思うんです。そもそもモーツァルトのオペラって、言葉の裏を読まなきゃいけないところがあって、言っていることがそのままの意味じゃないことが多いんです。リッカルド・ムーティさんもおっしゃっていたんですけど、裏を読むためのヒントが音楽にあったりするので、それを見つけていくのも楽しい作業なんですね。この不協和音は何だろう?みたいな。もちろん指揮者や演出家の解釈次第でもありますが、それをどう表現するかは、歌い手のセンスの見せどころだと感じます。とくに《コジ》は、それがないとつまらない、機能しないところがある作品だと思います」アンサンブル・オペラと言われ、重唱が魅力的、かつ数多く登場する作品だ。「アンサンブルの中で、自分が出なければいけないところもあるし、変なところで悪目立ちしてもいけません。それを自分たちでちゃんと俯瞰できていないとダメなんですね。それだけに、《コジ》は名演がなかなか難しいと感じています。きちっとやるのがすごく難しいオペラです。でも音楽は本当に素晴らしい。音楽的には、モーツァルトの中でもいちばん完成されてるんじゃないでしょうか。すごいオペラだなと思います」佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2023「ドン・ジョヴァンニ」撮影:飯島隆/提供:兵庫県立芸術文化センター指揮は飯森範親。じつは若い大西を“見い出した”のが、その飯森だったのだという。「日本でのキャリアを飯森さんに築いていただいたような感じなので、飯森さんにはぜひ、“大西を見つけた指揮者”というクレジットを差し上げたいですね(笑)。彼は若いアーティストを発掘するのが天才的にうまくて、彼に見い出された人は多いんです。たしか僕は『YouTubeで見たよ』と言われました。最初の共演は、まだこれからジュリアードに入るというぐらいの頃で、第九で呼んでもらいました。それから今まで15年間ぐらいずっと、ツェムリンスキーからマーラーからカルミナ・ブラーナから、本当にあらゆる音楽を一緒にやらせてもらっています。だから今回、いちばん付き合いの長いオペラである《コジ》を、いちばん長く共演している飯森さんと一緒にできる。僕にとってはとても感動的なことなんです。楽しみです」グリエルモ役は自分に合っている。そう言い切る。「長い付き合いだからといって、なにかひとつのアイディアに固執するのではなく、自分の考えるグリエルモ像が、このプロダクションにどのようにブレンドするか。僕自身もそこがすごく楽しみだし、今回、いちばん見てほしいところです。情熱的なところと非常に鬱屈したところ、美しいラブ・デュエット。そんなグリエルモのキャラクターの幅や感情の動きをお見せできると思いますので、そこは細かく注目していただいて大丈夫。声楽的にもとても自分に合っている役なので、声の魅力も存分に感じてもらえると思います。最初から最後まで、全部自分に合っていると言えるオペラって、けっこう少ないと思うのですが、グリエルモ、ドン・ジョヴァンニ、アルマヴィーヴァ伯爵、そこに最近パパゲーノが加わったモーツァルトの4役は、自分の声と表現の幅にすごくマッチしていると思っています。どうぞご期待ください」ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトコジ・ファン・トゥッテ■チケット情報()5月30日(木)~6月4日(火)新国立劇場オペラパレス全2幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉指揮:飯森範親演出:ダミアーノ・ミキエレット美術・衣裳:パオロ・ファンティン照明:アレッサンドロ・カルレッティ再演演出:三浦安浩フィオルディリージ:セレーナ・ガンベローニドラベッラ:ダニエラ・ピーニデスピーナ:九嶋香奈枝フェルランド:ホエル・プリエトグリエルモ:大西宇宙ドン・アルフォンソ:フィリッポ・モラーチェ合唱:新国立劇場合唱団合唱指揮:水戸博之管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団取材・文:宮本明
2024年04月17日4月13日(土) 東京・新国立劇場にて舞台『デカローグ』が開幕し、プログラムA・B交互上演がスタート。併せて、各話の舞台写真とキャストコメントが公開された。『デカローグ』は、『トリコロール』三部作や『ふたりのベロニカ』で知られる、ポーランドの名匠クシシュトフ・キェシロフスキが発表した作品で、旧約聖書の十戒をモチーフに1980年代のポーランド、ワルシャワのとある団地に住む人々を描いた十篇の連作集。全10話を大きく3つのタームに分け、4・5月は『デカローグ1~4』を、5・6月は『デカローグ5~6』を、そして6・7月は『デカローグ7~10』を上演する。「プログラムA」ではデカローグ1とデカローグ3、「プログラムB」ではデカローグ2とデカローグ4が上演される。<キャストコメント>【デカローグ1 ある運命に関する物語】■ノゾエ征爾役への取り組み方から現場の雰囲気まで、海外の演劇作品に参加しているかのような初体験尽くしで、ただただ夢中に、がむしゃらになっていたら、あっという間にもう開幕ですって。お客さんに楽しんで頂きたい一心で皆で取り組んでおります。是非ともこの作品の目撃を!!■高橋惠子本日無事に初日を迎える事ができ、お運びいただいたお客様への感謝と共に、これからの長い旅路がスタートした事を実感しています!デカローグ1のイレナとして瞬間瞬間の相手や周りの変化や輝きを感じながら悔いのないよう、生きてみようと思います。是非今こそ観て頂きたい物語です。ご来場をお待ちしております!『デカローグ1 ある運命に関する物語』より左より)高橋惠子、石井舜、ノゾエ征爾【デカローグ3 あるクリスマス・イヴに関する物語】■千葉哲也初日開きました!タイトな稽古時間でしたが中身が本当に濃い……充実した時間を過ごさせていただきました。ドラマのデカローグとはかなり違う作品になり、演劇ならではの作品になったのではないかと思います。これからも本番という旅が続きますが、素敵な時間を観客の皆様に体験して頂ければと思います。こうして無事に初日を迎えられた事を、演出家はじめ、スタッフ、共演者に心からの感謝。■小島聖桜の花びらも散り始め、そろそろ新緑の季節ですが、今日から私は千秋楽までクリスマスイブの日に身を置いています。ポーランドのクリスマスはどのくらい寒いのでしょうか。家の中は暖かい時間が流れている中、やりきれない気持ちを束の間、手放したくて外にいます。日常の中のささやかな旅です。夜中から朝の7時まで。朝日が昇る前までの数時間、どうぞ一緒に旅してください。そしてそれぞれの日常に戻っていきましょう。『デカローグ3 あるクリスマス・イヴに関する物語』より左より)小島聖、千葉哲也【デカローグ2 ある選択に関する物語】■前田亜季ついに開幕です。時代は1980年代後半のポーランドですが、今の私たちにも通ずる、普遍的な悩みや葛藤の中で人生を歩んでいる人々の物語です。人間の不甲斐ない部分も含め、日々を生きていく背中にそっと手を添えてくれる様なキェシロフスキの優しい視点や肯定感に、稽古中何度も救われる気持ちになりました。お客様にも、この団地の住人として感じてもらえたら嬉しいです。舞台ならではのデカローグを見ていただけるよう、精一杯この中で生きたいと思います。■益岡徹稽古を重ねる事に、生きるということ、を考える作品だなと、実感しています。私の役の老いた医師は、戦争で妻や子供、家族を失っています。その後40年以上をどう生きてきたのか、そのことは、書かれていません。おそらく1枚の家族の写真とその記憶と、厳しい人生を生きてきたのだろうと。そして身ごもった子供を産むべきか、堕ろすべきか苦しむドロタの姿に、それでも、人は生きるべきと医師は気がつく。私も、楽日までずっと考えることになりそうです。『デカローグ2 ある選択に関する物語』より左より)益岡徹、前田亜季【デカローグ4 ある父と娘に関する物語】■近藤芳正こんなに、心に汗掻いたのは初めてだ。海外作品は、セリフが多いものだが、これは少ないセリフでのやり取りが多く、セリフにならない感情、インナーボイスが溢れている。そのうえミハウという役はずっと悩み、迷い続け、自分では結論が出せなくなっていて、例え出したとしても、それが正解なのかどうなのかまったく自信がなく、心のなかがぐちゃぐちゃになってる。いまインナー下着脱いだら、やっぱ汗でぐちゃぐちゃだぁコリャ凄いぞ!言葉にならない声を聴きに来て欲しい。■夏子稽古場で、客席で、他の役者の方のお芝居を観ている時、何ものにも代え難い感動を味わいます。このような感動を味わいたくて生きているんだなと思います。今日始まった壮大な10篇の物語の一員としてお芝居できることが、改めてとても嬉しいです。楽しんで頂けますように!『デカローグ4 ある父と娘に関する物語』より左より)夏子、近藤芳正<公演情報>『デカローグ 1~10』『デカローグ 1~10』ビジュアル【公演日程】会場:新国立劇場 小劇場■デカローグ1~4(プログラム A&B 交互上演)4月13日(土)~5月6日(月・休)■デカローグ5~6(プログラム C)5月18日(土)~6月2日(日)■デカローグ7~10(プログラム D&E 交互上演)6月22日(土)~7月15日(月・祝)原作:クシシュトフ・キェシロフスキ/クシシュトフ・ピェシェヴィチ翻訳:久山宏一上演台本:須貝英演出:小川絵梨子上村聡史【プログラム A】(デカローグ1 / デカローグ3)■デカローグ1 ある運命に関する物語演出:小川絵梨子出演:ノゾエ征爾高橋惠子チョウ ヨンホ森川由樹鈴木勝大浅野令子亀田佳明デカローグ3 あるクリスマス・イヴに関する物語演出:小川絵梨子出演:千葉哲也小島聖浅野令子鈴木勝大チョウ ヨンホ森川由樹亀田佳明【プログラム B】(デカローグ2 / デカローグ4)■デカローグ2 ある選択に関する物語演出:上村聡史出演:前田亜季益岡徹坂本慶介近藤隼松田佳央理亀田佳明デカローグ4 ある父と娘に関する物語演出:上村聡史出演:近藤芳正夏子松田佳央理坂本慶介近藤隼亀田佳明【プログラム C】(デカローグ5 / デカローグ6)■デカローグ5 ある殺人に関する物語演出:小川絵梨子出演:福崎那由他渋谷謙人寺十吾斉藤直樹内田健介名越志保田中亨亀田佳明■デカローグ6 ある愛に関する物語演出:上村聡史出演:仙名彩世田中亨寺十吾名越志保斉藤直樹内田健介亀田佳明【プログラム D】(デカローグ7 / デカローグ8)■デカローグ7 ある告白に関する物語演出:上村聡史出演:吉田美月喜章平津田真澄大滝寛田中穂先堀元宗一朗笹野美由紀伊海実紗亀田佳明■デカローグ8 ある過去に関する物語演出:上村聡史出演:高田聖子岡本玲大滝寛田中穂先章平堀元宗一朗笹野美由紀伊海実紗亀田佳明【プログラム E】(デカローグ9 / デカローグ10)■デカローグ9 ある孤独に関する物語演出:小川絵梨子出演:伊達暁万里紗宮崎秋人笠井日向鈴木将一朗松本亮石母田史朗亀田佳明■デカローグ10 ある希望に関する物語演出:小川絵梨子出演:竪山隼太石母田史朗鈴木将一朗松本亮伊達暁宮崎秋人笠井日向亀田佳明チケット情報:()公式HP:
2024年04月14日三鷹の森ジブリ美術館では、宮崎駿監督作『君たちはどう生きるか』の新企画展示が5月25日(土)からスタートする。新展示は、“第二部レイアウト編”と題され、レイアウトを、200点あまり展示する。レイアウトとは、そのカットの背景やキャラクターの位置関係、動きの指示、カメラワークなどが書き込まれた、アニメーションの設計図。本作では、原画担当のアニメーターによって描かれ、宮崎監督と作画監督が確認・修正。製作過程で描かれた絵のほとんどが、紙に鉛筆と絵の具で描かれているという意味において、近年では稀な手描きアニメーション作品。本企画展示では、製作過程において描かれた絵をそのまま展示し、手描きの表現の豊かさと、カットにこめられた力と思いが感じられる展示を目指しており、3期にわたり、展示物を半年ごとに全て入れ替えて公開中だ。新企画展示「君たちはどう生きるか」展第二部レイアウト編は5月25日(土)~11月10日(日)三鷹の森ジブリ美術館にて開催予定。(シネマカフェ編集部)■関連作品:君たちはどう生きるか 2023年7月14日より公開©2023 Studio Ghibli
2024年04月10日新国立劇場2024 / 2025シーズン『消えていくなら朝』の全キャストが決定した。本作は、小川絵梨子芸術監督によるすべての出演者をオーディションで決定するフルオーディション企画の第7弾。『消えていくなら朝』は、2018年7月に蓬莱竜太が新国立劇場のために書き下ろし、宮田慶子が演出、第6回ハヤカワ「悲劇喜劇」賞を受賞した作品だ。今回は蓬莱自身が演出を手掛ける。最も身近で、最も厄介な存在である「家族」を、蓬莱独自の視点で切り取った本作が、オーディションを経て選ばれた6名のキャストと共にどんな新たな“光景”を生み出すのか期待が高まる。■キャスト羽田定男(僕):関口アナン羽田庄吾(兄):松本哲也羽田可奈(妹):田実陽子羽田君江(母):大沼百合子羽田庄次郎(父):大谷亮介才谷レイ(彼女):坂東希『消えていくなら朝』は2025年7月に新国立劇場 小劇場で上演予定。■作・演出 蓬莱竜太 コメントたくさんの役者さんに出会えたオーディションでした。オーディションとは残念ながらほとんどの役者とご一緒できないのだと、改めて痛感しました。色々な迷いと思いの中、6人を選出させていただきました。その選択が既に作品の世界と核を作るような作業だと感じていました。公演は来年ではありますが、長い期間をかけながら作り上げていきたいと思います。是非ともその世界を味わいに劇場に足を運んでください。■演劇芸術監督 小川絵梨子 コメント『消えていくなら朝』のオーディションにご応募くださった方々、そして長期にわたるオーディションにご参加くださった方々に厚く御礼申し上げます。オーディションを通して皆様と出会う機会をいただけることは、我々劇場にとりましても、また演出家の方々にとりましても大切な財産です。本企画はこの度で7回目を迎えましたが、これまで続けてこられたのは、ご応募くださったお一人おひとりのおかげです。オーディションですべてのキャスティングを、との思いを掲げても、参加してくださる方々がいてくださらなければ、この企画自体を続けることが難しかったと思います。過去には本企画でのオーディションでの出会いから、当劇場の作品や、またご担当くださった演出家の方の別の作品でご一緒させていただく、といった機会も少なからず生まれており、本企画を続けていく上でひとつの励みともなっております。新国立劇場演劇では、引き続きオーディションにて作品を作ることの豊かさとその意義を探究しつづけて参りたいと思います。皆様にまたご興味を持っていただくことができましたら幸いに存じます。重ねて、本作品に興味を持ってくださったこと、オーディションにご参加いただきましたお一人おひとりに、心より感謝申し上げます。<公演情報>シリーズ光景─ここから先へと─Vol.3 『消えていくなら朝』2025年7月会場:新国立劇場 小劇場作・演出:蓬莱竜太芸術監督:小川絵梨子出演:大谷亮介、大沼百合子、関口アナン、田実陽子、坂東希、松本哲也チケット一般発売:2025年5月6日(火・休)※料金:未定公式HP:
2024年04月08日東京・上野にある国立西洋美術館で「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?——国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ」が開催されています。かなり長いタイトルがつけられたユニークな本展について、研究員さんのお話や展示風景などをレポートします!“死者の作品しかない美術館”に現代アートが集結!国立西洋美術館入り口付近※本記事の写真は、主催者の許可を得て撮影しています。【女子的アートナビ】vol. 328本展では、国立西洋美術館で史上初となる「現代アーティストたちが制作した作品」を展示。同美術館が所蔵するコレクションにインスパイアされて新たに制作された作品など、20組以上のさまざまな世代のアーティストたちによる多彩なジャンルのアート作品が紹介されています。本展を担当された国立西洋美術館主任研究員の新藤淳さんは、開催の経緯について次のように述べています。新藤さんこの展覧会は、ひとつの問いからはじまりました。国立西洋美術館は、生きている作家の作品は収められていない状態が続いている、つまり“死者の作品しか存在しない美術館”なのですが、生きているアーティストたちも招いたほうがいいのではないか、という問いです。なぜなら、この美術館には生きたアーティストたちの糧となるために建てられた歴史があるからです。美術館の母体となった「松方コレクション」を築いた松方幸次郎は、当時日本にいた多くの絵描きたちに本物の油絵を見せてあげたいという思いから、コレクションを集めていきました。未来の芸術をつくるアーティストたちの刺激になってほしいという願いが込められていたと考えられるこの美術館に、今生きているアーティストたちの方々を招き、問いを投げかける形で展覧会を構成しました。章タイトルがユニーク!左:ポール・セザンヌ《葉を落としたジャ・ド・ブッファンの木々》(1885-86)、右:内藤礼《color beginning》(2022-23)では、展示作品のなかから、特に印象に残った作品をいくつかご紹介していきます。まず、全体を通してユニークだと思ったのは、各章のタイトル。問いかけるスタイルで、末尾にクエスチョンマークがついています。例えば最初の0章は、「アーティストのために建った美術館?」。この章では、「国立西洋美術館はアーティストのために建ったのではなかったか?」という問いかけを象徴する作品や資料が紹介され、コレクションを築いた松方幸次郎の肖像画や、美術館の基本設計を担当したフランスの建築家、ル・コルビュジエのスケッチなどが並んでいます。続く1章のタイトルは、「ここはいかなる記憶の磁場となってきたか?」。1章で目を引いたのは、内藤礼のアクリル絵画《color beginning》。本作品の隣には、国立西洋美術館の所蔵作品であるポール・セザンヌの油彩画《葉を落としたジャ・ド・ブッファンの木々》が並び、この二作品だけ、ほかのアーティストたちの作品とは離れ、大きな壁で仕切られた端っこにある静かな空間に展示されています。解説によると、セザンヌの『葉を落としたジャ・ド・ブッファンの木々』の隣に、自身の絵画を距離をあけて展示する、というプランを内藤が提案。この展示室を見た感想としては、シンプルに、居心地のいい空間だと思いました。イケアの家具が展示室に!?展示風景より、小田原のどかの作品など続く2章「日本に『西洋美術館』があることをどう考えるか?」では、靴を脱いだ空間で鑑賞する小田原のどかの作品群がユニークです。彫刻家の小田原は、国立西洋美術館の彫刻が免震用台座のうえに展示されていることに興味を示し、彫刻を「転倒」させたインスタレーションを制作。まっすぐ立っているのが当たり前、というイメージがある彫刻が倒れている光景は、なかなかインパクトがあります。彫刻の「転倒」と、人間が思想的に「転向」することを重ね合わせているそうで、深いテーマが含まれた作品です。展示風景より、鷹野隆大の写真など4章「ここは多種の生/性の場となりうるか?」では、ショールームのような、あるいは友人の部屋のような不思議な展示室が出現。写真家の鷹野隆大によるプロジェクトで、彼の写真とイケアの家具、国立西洋美術館の所蔵作品などが並び、かなり異質な光景を見ることができます。解説によると、鷹野は手ごろに買えるイケアの家具が並ぶ日常空間に、個人ではけっして買えない国立西洋美術館の芸術作品を飾ることで生まれる違和感がおもしろいと感じた、とのこと。実際、この部屋に入るとすごくミスマッチな感じがして、なんとも落ち着かない気分になりました。展示風景より、弓指寛治の作品など反─幕間劇─のセクションでは、弓指寛治によるカラフルで強烈な作品群を展示。美術館とは思えない空間で、どこかの学園祭やイベントに迷い込んだ気分になります。国立西洋美術館のある上野公園は、文化エリアといわれていますが、路上生活者の方々も暮らしていました。弓指は、それらの人々にフォーカスし、路上生活者の多い近隣エリアに約1年通った経験をもとに絵画などを制作しました。手前:竹村京《修復されたC.M.の1916年の睡蓮》(2023-24)釡糸、絹オーガンジー作家蔵、奥:クロード・モネ《睡蓮、柳の反映》(1916)5章「ここは作品たちが生きる場か?」では、竹村京の《修復されたC.M.の1916年の睡蓮》と、クロード・モネの《睡蓮、柳の反映》の組み合わせに目を引かれます。国立西洋美術館が所蔵するモネの本作品は、一部が破損した状態のままで保存されていますが、絹糸などを使った竹村の作品と重ねて見ると、まったく新しいタイプの非常に美しいアートに見えます。照明の効果もあると思いますが、布を通して見るとモネの絵が光を放ち、睡蓮の浮かぶ水面が揺れているように感じました。桜と一緒に…!本展ではほかにも映像作品や陶芸、詩なども含めたバラエティー豊かな展示作品が揃っています。性的な表現を含む映像などもあり、テーマやメッセージが含まれているものも多く、見ごたえ抜群です。国立西洋美術館で、これほど多くの現代アーティストたちによる刺激的な作品を見られる機会は、今後あるかどうかわかりません。ちょうど上野ではお花見シーズンに入っていますので、ぜひ桜と一緒に、このユニークな展覧会をご覧になってみてください。Information会期:2024年3月12日(火)~5月12日(日)開館時間:9:30~17:30(金・土曜日、4月28日(日)、4月29日(月・祝)、5月5日(日・祝)、5月6日(月・休)は9:30~20:00)※入館は閉館の30分前まで会場:国立西洋美術館企画展示室休館日:月曜日、5月7日(火)(ただし、3月25日(月)、4月29日(月・祝) 、4月30日(火)、5月6日(月・休)は開館)観覧料:一般 ¥2,000、大学生 ¥1,300、高校生 ¥1,000、中学生以下無料
2024年04月07日サンシャインシティプリンスホテルは、イギリス国立美術館「ロンドン ナショナル・ギャラリー」とのコラボレーションによるコンセプトルームを、2024年5月1日(水)から2月28日(金)までの期間で販売する。サンシャインシティプリンスホテル×ロンドン ナショナル・ギャラリー設立200周年という、記念すべきアニバーサリーイヤーを迎えたイギリス国立美術館「ロンドン ナショナル・ギャラリー」。サンシャインシティプリンスホテルでは3回目のコラボレーションとなる今回は、“四季を感じる泊まれる美術館”をテーマに、同館所蔵の絵画(複製画)を飾ったコンセプトルームが登場する。“四季を感じる泊まれる美術館”テーマのコンセプトルーム期間ごとに春・夏・秋・冬の4種類に装いが変わるコンセプトルームには、それぞれの四季をテーマに描かれた名画の複製画を展示。そのうち、印象派を代表する画家・ルノワールの作品に関しては、季節を問わず四季を通して楽しめる。4種のオリジナルアメニティまた、本プランの利用者にはオリジナルアメニティをプレゼント。「ロンドン ナショナル・ギャラリー」の200周年を記念したデザインのトートバッグ、ハンカチタオル、アクリルキーホルダー、カードキーの4種類を持ち帰ることができる。ルノワール作品を表現した春夏秋冬パフェさらに、館内のカフェ&ダイニング シェフズパレットでは、ルノワールの作品をモチーフにしたオリジナルパフェを提供。《雨傘》《小舟》《湖畔の風景》《劇場にて》の4作品をそれぞれ春・夏・秋・冬のイメージと共に落とし込んだ、全4種類のパフェが用意されている。詳細サンシャインシティプリンスホテル × ロンドン ナショナル・ギャラリー■コンセプトルーム販売期間:2024年5月1日(水)~2025年2月28日(金)<春>2024年5月1日(水)~6月30日(日)<夏>2024年7月1日(月)~9月30日(月)<秋>2024年10月1日(火)~11月30日(土)<冬>2024年12月1日(日)~2025年2月28日(金)料金:1名 17,400円〜※1室2名利用時。料金は、宿泊日、利用人数により異なる。※料金には1名分の1泊室料、オリジナルアメニティ4種(トートバッグ、ハンカチタオル、アクリルキーホルダー、カードキー)、オリジナルパフェ、消費税、サービス料を含む。■「ルノワール」のオリジナルパフェ (コーヒー・紅茶付き)料金:1名 2,900円※注文特典として、オリジナルステッカー全4種類のうち1枚をランダムでプレゼント。開催場所:カフェ&ダイニング シェフズパレット(ホテル1F)提供時間:12:00~19:00(ラストオーダー 18:30)【予約・問い合わせ先】サンシャインシティプリンスホテル 宿泊予約TEL:03-5954-2238(受付時間:10:00~17:00)
2024年04月06日20世紀前半までの西洋美術を収蔵・展示してきた国立西洋美術館で、現代アーティストとの初の大規模なコラボレーション展『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?——国立西洋美術館65年目の自問 | 現代美術家たちへの問いかけ』が3月12日(火) に開幕した。小沢剛、長島有里枝、ミヤギフトシら21組が参加し、5月12日(日) まで開かれている。国立西洋美術館は、第二次世界大戦後にフランス政府から寄贈返還されることになった松方コレクションを収蔵、展示する施設として1959年に設立された。実業家・松方幸次郎が日本の若い画家たちに「本物の西洋美術を見せたい」と収集された西洋美術コレクション。戦後に国立西洋美術館の創設に協力した当時の美術家連盟会長の安井曾太郎は〔松方コレクションの〕「絵がもし返ってきた時、誰が一番これの恩恵を受けるんですかと、それは日本国民全部かもしれんけども直接的には我々美術家じゃありませんか」との思いを表明していた。つまり、未来を生きるアーティストに資するためにこの美術館ができたのではないか。開館から65年目を迎え、「国立西洋美術館は、未来のアーティストたちが生まれ育つ場所となりえてきたのか」という自問を込めてこの展覧会はつくられた。3月11日に開かれた記者内覧会で、同展を企画した国立西洋美術館主任研究員の新藤 淳は「作家の皆さんの熱量を持った反応によってこの展覧会は成り立っています」と感謝を述べた。記者内覧会。国立西洋美術館主任研究員の新藤 淳(中央)と出展作家たち展覧会は0章〜7章と「反-幕間劇」で構成。同館設立の資料を展示した0章をはじめ、多大な文脈から編まれている。印象に残る作品をいくつか紹介したい。第1章「ここはいかなる記憶の磁場となってきたか?」は、所蔵作品と現代作家の対話のような展示だ。同館が所蔵するポール・セザンヌの油彩画と、その作品を見た内藤礼の新作絵画。一見、白い色面のような内藤作品はじっと見ていると色彩が浮かんでくる。また、同館で開催された1974年の「セザンヌ展」や1981年の「モーリス・ドニ展」に触発されたという批評家で画家の松浦寿夫も独自の絵画で応答している。左から、ポール・セザンヌ《葉を落としたジャ・ド・ブッファンの木々》1885-86年、内藤礼《color beginning》2022-23年左から、ポール・セザンヌ《ポントワーズの橋と堰》1881年、松浦寿夫《キプロス》2022年続く第2章「日本に『西洋美術館』があることをどう考えるか?」では、日本の近代彫刻史を研究する彫刻家・美術評論家の小田原のどかが、新作インスタレーションの中でロダンの彫刻を横倒しにして展示。実際に美術館の収蔵庫で、地震対策も兼ねて横倒しで保管されているのを見て発想したという。併せて、部落解放運動の出発点であるとともに日本最初の人権宣言といわれる「水平社宣言」を起草した画家・西光万吉の掛け軸を展示。「転倒」に「転向」を重ねて複層的な問題提起がなされている。小田原のどかの展示より、奥に五輪塔、床にオーギュスト・ロダン《青銅時代》1877年(原型)、西光万吉《毀釈》1960年代、床にオーギュスト・ロダン《考える人》1881-82年また、第4章「ここは多種の生/性の場となりうるか?」では、写真家・鷹野隆大が、「国立西洋美術館の所蔵品がもし現代の一般的な部屋に並んでいたらどう見えるか」と考え、展示室にIKEAの家具を並べ、その中に所蔵作品と自身の写真作品を配置した。また、飯山由貴は松方コレクションの成り立ちを批判的に読み解く展示壁を制作し、鑑賞者の声も拾えるように仕立てた。鷹野隆大の展示より、壁面にはギュスターヴ・クールベ《眠れる裸婦》1858年、鷹野隆大《kikuo(1999.09.17.Lbw#16)「ヨコたわるラフ」シリーズより》1999年飯山由貴《この島の歴史と物語と私・私たち自身——松方幸次郎コレクション》(2024年)より階段から続く「反-幕間劇——」と称した弓指寛治のインスタレーションも胸に残る。近年の上野公園整備に伴い、あまり姿が見えなくなった路上生活者を山谷地区に訪ねて描いた肖像画などを展示。もとは新藤のリクエストから始まったため、新藤を誘って山谷に出かけ、路上生活者をケアする看護師たちにも出会っていく。亡くなった路上生活者がつくりためた作品群が異彩を放つ。弓指寛治の展示より弓指寛治の展示より。路上生活者に出会っていく様子やそれぞれの人生の物語などが描かれているところで、行方不明だった松方コレクションのクロード・モネ《睡蓮、柳の反映》が2016年にルーヴル美術館で発見されたのち、国立西洋美術館に所蔵となったニュースをご記憶だろうか。第5章「ここは作品たちが生きる場か?」では、竹村京が、この絵画の欠損部分を補完するように大きな布に絹糸を刺し、モネ作品にベールを重ねるようにインスタレーションした。残っていたモノクロ写真をもとに、色彩や筆跡を推察してつくりあげたという。「モネの眼になってつくるのが楽しかった」と竹村が語る、時空を超えたコラボレーションだ。竹村京《修復されたC.M.の1916年の睡蓮》2023-24年釡糸、絹オーガンジー作家蔵裏側にクロード・モネ《睡蓮、柳の反映》(1916年)が展示されているさらに最終章では、梅津庸一、坂本夏子、杉戸洋に物故作家の辰野登恵子を加え、日本の現代作品がポロックら同館所蔵作品といかに拮抗しうるかを見せる。左から、辰野登恵子《Work 85-P-5》1985年、ジャクソン・ポロック《ナンバー8、1951 黒い流れ》1951年、坂本夏子《Tiles》2006年左壁面は杉戸洋作品、右壁面と手前の立体は梅津庸一作品ほかに、常設展の絵画を子どもや車椅子の目線に下げて展示することなどを提案した田中功起作品ほか、さまざまな方向から美術館に問いかけがなされている。なお、飯山由貴は記者内覧会の最後、国立西洋美術館はオフィシャルパートナーを務める企業にイスラエルと武器貿易をしないよう働きかけてほしいと有志とともに訴えた。開会式終了後には、同じく出品作家の遠藤麻衣も、作家の百瀬文とともにアクションを行った。今、主にヨーロッパのミュージアムでは、現代の問題に応答すると同時に、過去の歴史とどう向き合うかを検証し始めている。そうした世界の動きに連なる行為ともいえるだろう。取材・文・撮影:白坂由里<開催概要>『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか? ──国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ』2024年3月12日(火)~5月12日(日)、国立西洋美術館にて開催公式サイト:
2024年03月28日2024年4月2日(火)より、京都国立近代美術館で、『没後100年富岡鉄斎』展が開催される。「最後の文人画家」といわれる富岡鉄斎(1836-1924)は、家学である石門心学を中心に、儒学・陽明学、国学・神道、仏教などの諸学を学びながら、独学で絵画も極め、深い学識に裏付けられた豊かな画業を展開した。明治初期には神官として古跡の調査と復興に尽力し、「万巻の書を読み、万里の路を行く」ことを座右の銘に日本全国を旅して理想の山水図を探求。1924年(大正13)年の大晦日に数え年89で亡くなった。そんな鉄斎の没後100年を記念して開催される同展は、彼の画業と生涯を改めて回顧する、京都では27年ぶりとなる展覧会だ。富岡鉄斎 《富士山図》(右隻) 1898年 63歳 清荒神清澄寺 鉄斎美術館※展示期間:4/2~4/14、4/16~4/29最大の見どころは、六曲一双の大作《富士山図》や《菟道製茶図・粟田陶窯図》双福など、鉄斎の画業を語る上で欠かすことのできない代表作が多数展示されること。なかには重要文化財《阿倍仲麻呂明州望月図・円通大師呉門隠栖図》(展示期間:4月2日~4月14日)や《妙義山図・瀞八丁図》のように、京都会場でしか展示されない作品や、これまで一般に公開されてこなかった《土神建土安神社図・椎根津彦像・平瓫図》三幅対、50年振りの公開となる《渉歴余韻冊》など、従来の鉄斎展では見られなかった作品を鑑賞できる貴重な機会となっている。富岡鉄斎 《菟道製茶図・粟田陶窯図》(右隻) 1869年 34歳 清荒神清澄寺 鉄斎美術館※展示期間:5/1~5/12、5/14~5/26富岡鉄斎 《菟道製茶図・粟田陶窯図》(左隻) 1869年 34歳 清荒神清澄寺 鉄斎美術館※展示期間:5/1~5/12、5/14~5/26さらに生前、書家としても親しまれた鉄斎の書の名作や、彼の画室に置かれていた硯や墨、絵具、絵具皿といった遺愛の品々も紹介する。とくに稀代の印章コレクターとして知られる鉄斎の印章120顆の公開も興味深い。4月13日(土)14時~、同館主任研究員で同展担当者、梶岡秀一による講演会「富岡鉄斎の旅と日常」も予定されている。詳細は同館ホームページで確認を。<開催概要>『没後100年富岡鉄斎』会期:2024年4月2日(火)~5月26日(日)※会期中展示替えがあり会場:京都国立近代美術館時間:10:00~18:00、金曜は20:00まで(入館は閉館30分前まで)休館日:月曜(4月29日、5月6日は開館)、4月30日(火)、5月7日(火)料金:一般1,200円、大学500円公式サイト:
2024年03月26日国立文化財機構 文化財活用センター〈ぶんかつ〉が作品輸送費等を支出し、東京国立博物館・京都国立博物館・奈良国立博物館・九州国立博物館の4つの国立博物館が収蔵品を貸し出す「国立博物館収蔵品貸与促進事業」において、2024年度事業の実施対象館が決定いたしました。これにより国立博物館が所蔵する各地域ゆかりの文化財86件が、鹿児島、岐阜、福井、愛知、栃木、茨城の6つの施設で順次公開される予定です。■2024年度 国立博物館収蔵品貸与促進事業 実施対象館(会期順)対象館 :鹿児島市立美術館(鹿児島県)展覧会名 :鹿児島市立美術館開館70周年記念「没後100年 黒田清輝とその時代」会期 :2024年7月24日(水)~2024年9月1日(日)貸与予定件数:43件対象館 :岐阜県美術館(岐阜県)展覧会名 :「清流の国ぎふ」文化祭2024 PARALLEL MODE:山本芳翠展会期 :2024年9月27日(金)~2024年12月8日(日)貸与予定件数:6件対象館 :福井市立郷土歴史博物館(福井県)展覧会名 :鉄(くろがね)の名工 越前明珍(えちぜんみょうちん)会期 :2024年10月19日(土)~2024年12月1日(日)貸与予定件数:6件対象館 :豊橋市美術博物館(愛知県)展覧会名 :銅鐸の国 -伊奈銅鐸出土100年-会期 :2024年11月30日(土)~2025年2月2日(日)貸与予定件数:14件対象館 :佐野市立吉澤記念美術館(栃木県)展覧会名 :佐野市合併20周年記念特別企画展「丸山瓦全と佐野の文化財保護~天明鋳物を護り、エラスムス像を見つけた~」(仮称)会期 :2025年1月25日(土)~2025年3月9日(日)貸与予定件数:9件対象館 :茨城県立歴史館(茨城県)展覧会名 :開館50周年記念 春の特別展「雪村 -常陸に生まれし遊歴の画僧-」会期 :2025年2月15日(土)~2025年4月6日(日)貸与予定件数:8件■2024年度 国立博物館収蔵品貸与促進事業 展覧会概要(会期順)<鹿児島市立美術館>鹿児島市立美術館開館70周年記念「没後100年 黒田清輝とその時代」貸与予定件数: 43件会期 : 2024年7月24日(水)~2024年9月1日(日)URL : X(旧Twitter): Instagram : Facebook : 重要文化財 湖畔 黒田清輝筆 明治30年(1897) カンバス・油彩 東京国立博物館蔵(※貸与予定作品)みどころ:2024年に開館70周年を迎える鹿児島市立美術館では、没後100年となる日本近代を代表する郷土作家・黒田清輝(1866~1924)の足跡を多角的に紹介する展覧会を開催します。鹿児島で生まれた黒田は、法律の修学を志して留学したフランスで絵画の道へ転向しました。帰国後、清新な画風で日本の洋画を開拓し、生涯にわたって日本の美術振興に力を注いだその存在は、鹿児島において藤島武二(1867~1943)や和田英作(1874~1959)をはじめとした作家たちの輩出にも影響を及ぼしました。本展では、黒田清輝筆「湖畔」(重要文化財)をはじめ、東京国立博物館が所蔵する黒田、そして同時代に活躍した画家の作品をあわせ43件を貸し出す予定です。<岐阜県美術館>「清流の国ぎふ」文化祭2024 PARALLEL MODE:山本芳翠展貸与予定件数: 6件会期 : 2024年9月27日(金)~2024年12月8日(日)URL : X(旧Twitter): Instagram : Facebook : 花化粧 山本芳翠筆 明治時代・19世紀 カンバス・油彩 東京国立博物館蔵(※貸与予定作品)みどころ:日本洋画の素地を築いた山本芳翠(1850~1906)は、美濃国恵那郡野志村(岐阜県恵那郡明智町)生まれの近代洋画家です。五姓田芳柳(1827~1892)に学び、のちフランスで本格的な油彩画技法を身に着けました。帰国後の活動は、明治美術会や白馬会などの美術団体結成、日清・日露戦争への従軍画家としての参加、演劇等他の芸術分野との交流など多彩なものでした。 本展では、山本芳翠や黒田清輝(1866~1924)らの作品を通して彼らがフランスから日本へもたらした明治洋画が、今日までどのように受け止められてきたのか考察します。東京国立博物館から、山本芳翠筆「月夜虎」ほか、黒田清輝作品とあわせて6件の作品を貸し出す予定です。<福井市立郷土歴史博物館>鉄(くろがね)の名工 越前明珍(えちぜんみょうちん)貸与予定件数: 6件会期 : 2024年10月19日(土)~2024年12月1日(日)URL : X(旧Twitter): Facebook : 自在鷹置物 明珍清春作 江戸時代・18~19世紀 鉄製 鍛造 東京国立博物館蔵(※貸与予定作品)みどころ: 福井藩主越前松平家のお抱え甲冑師「越前明珍」は代々小左衛門吉久を名乗り、甲冑・自在置物・鉄鐔など、鍛鉄とその加工技術を巧みに用いた名作を遺しています。 本展では、明珍を中心とする越前の鍛冶の作品の数々、全国の明珍派はじめ名工が手がけた「自在置物」などを一堂に集め、江戸時代の金属加工技術の粋と、その中で確かな位置を占める越前明珍の軌跡を追います。東京国立博物館から「自在鷹置物」、「甲冑金物」など6件を貸し出す予定です。<豊橋市美術博物館>銅鐸の国 -伊奈銅鐸出土100年-貸与予定件数: 14件会期 : 2024年11月30日(土)~2025年2月2日(日)URL : X(旧Twitter): Instagram : Facebook : 突線鈕3式銅鐸 弥生時代(後期)・1~3世紀 愛知県豊川市小坂井町伊奈松間出土 東京国立博物館蔵(※貸与予定作品)みどころ:大正13年(1924)12月27日に、宝飯郡小坂井村伊奈字松間の麦畑(現・豊橋市立前芝中学校校庭)から3口の三遠式銅鐸が出土し、その後、東京帝室博物館に収蔵されました。本展は、出土から100年を記念し、国内有数の銅鐸集中地帯として知られる三河・遠江地方から出土した銅鐸を一堂に会し、銅鐸の果たした意義と弥生時代の社会を考える展覧会です。東京国立博物館から13件、奈良国立博物館から1件の銅鐸を貸し出す予定です。<佐野市立吉澤記念美術館>佐野市合併20周年記念特別企画展「丸山瓦全と佐野の文化財保護~天明鋳物を護り、エラスムス像を見つけた~」(仮称)貸与予定件数: 9件会期 : 2025年1月25日(土)~2025年3月9日(日)URL : Instagram : 重要文化財 銅梅竹透釣燈籠 室町時代・天文19年(1550) 千葉市中央区千葉寺町千葉寺址出土 銅製 鋳造 畑野勇治郎氏寄贈 東京国立博物館蔵(※貸与予定作品)みどころ:佐野市立吉澤記念美術館では佐野市合併20周年を記念し、足利の考古学者・丸山瓦全(1874~1951)を取り上げた展覧会を開催します。丸山瓦全は、少年期を母の実家である葛生(佐野市)の吉澤家で過ごしました。同家は江戸時代後期以来書画に親しんだことから、瓦全も幅広い文物に深い関心を持ちました。龍江院(佐野市)にあったリーフデ号船尾像の発見・調査と旧国宝指定、天明鋳物研究と戦時下における梵鐘保護活動など、栃木県の文化財保護に大きな功績を残しました。 本展では「銅梅竹透釣燈籠」(重要文化財)をはじめ、東京国立博物館から9件を貸し出す予定です。<茨城県立歴史館>開館50周年記念 春の特別展「雪村 -常陸に生まれし遊歴の画僧-」貸与予定件数: 8件会期 : 2025年2月15日(土) ~ 2025年4月6日(日)URL : X(旧Twitter): Instagram : 雪景山水図 雪村周継筆 室町時代・16世紀 紙本墨画 谷口豊三郎氏寄贈 京都国立博物館蔵(※貸与予定作品)みどころ:茨城県立歴史館は開館50周年を記念し、常陸の国の部垂(現在の茨城県常陸大宮市)を出生地とする戦国時代の画僧・雪村周継の名品を紹介する展覧会を開催します。雪村は常陸北部を領した佐竹一族として生まれ、幼くして出家すると正宗寺などで画業の修練を重ねます。のちには会津や小田原、鎌倉などを訪れて画才を磨き、晩年は会津や三春(現在の福島県田村郡三春町)を往来しながら多くの傑作を生み出しました。本展では、雪村の作品とともに雪村を育んだ時代や地域に関連する資料を紹介し、茨城県および周辺地域の歴史と文化の奥深さや交流の様子などにも触れていきます。東京国立博物館からは「鷹山水図屏風」(重要美術品)を含む4件、京都国立博物館からは「雪景山水図」など4件、あわせて8件を貸し出す予定です。■2025年度「国立文化財機構所蔵品貸与促進事業」募集予定2025年度から事業名称が「国立文化財機構所蔵品貸与促進事業」となり、従来の4つの国立博物館に加えて東京・奈良の2つの文化財研究所の所蔵品も貸出対象となります。2024年4月1日(月)から、2025年度国立文化財機構所蔵品貸与促進事業実施対象館の申請受付を開始します。申請受付期間:2024年4月1日(月)~6月28日(金) [17時必着]貸与促進事業の申請、展覧会情報に関する詳細は、以下の〈ぶんかつ〉公式ウェブサイトでご確認いただけます。URL: 全国の美術館・博物館からのご応募をお待ちしています。2025年度国立文化財機構所蔵品貸与促進事業 募集チラシ■文化財活用センター 2018年に設置された、文化財活用のためのナショナルセンターです。「文化財を1000年先、2000年先の未来に伝えるために、すべての人びとが、考え、参加する社会をつくる」というビジョンを掲げ、「ひとりでも多くの人が文化財に親しむ機会をつくる」ことをミッションとして、さまざまな活動をしています。■ぶんかつSNSぶんかつ公式サイト X(旧Twitter) @cpcp_nich ぶんかつ Instagram @cpcp_nich ぶんかつ 詳細はこちら プレスリリース提供元:@Press
2024年03月25日今シーズンより新国立劇場バレエ団のプリンシパルの ひとりとしてカンパニーを牽引する速水渉悟が、古典の傑作『ラ・バヤデール』ソロル役に初挑戦する。入団以来、数々の主要な役柄で存在感を示し、つい先頃は芸術選奨文部科学大臣新人賞・中川鋭之助賞受賞で話題をふりまいた。ますますの活躍が期待される彼に、新たな役柄への取り組み、舞台への思いを聞いた。「前回、入団して1年目に上演され他の役で踊ったので、上演が決まった頃から楽しみにしていた作品です。配役を聞いた時は嬉しかったですね」『ラ・バヤデール』は、古代インドを舞台に、寺院に仕える舞姫ニキヤと戦士ソロルの悲恋を描く古典の傑作。主役の踊りはもちろんのこと、エキゾチックかつ絢爛豪華な美術・衣裳、見応えあるソリスト陣の踊り、どこまでも幻想的な群舞、愛憎渦巻くドラマと、様々な魅力がぎゅっと詰まった作品だ。「役柄を自分なりに解釈し、唯一無二の、僕にしかできないソロルになりきれたらと思っています」新国立劇場バレエ団 速水渉悟戦士ソロルは、舞姫ニキヤと燃え上がるような恋の只中にあるにもかかわらず、王侯ラジャーの娘で絶世の美女、ガムザッティとの縁談を断りきれず、恋敵となる女性ふたりの直接対決、ヒロインの命の危機まで招いた末にニキヤは命を落としてしまう。「古典バレエに登場する男性の役というのは、良くも悪くも素直な人が多いのかな(笑)、という印象ですね。『ジゼル』のアルブレヒトもそうですが、リハーサルが始まる前の段階であまり深く考え過ぎず、踊りながら作り上げていくほうがいいのかなと感じています」凛々しい戦士でありながら極めて優柔不断という、複雑な人物像だ。「気持ちは、わかります(笑)」。が、「踊りの部分で大事にしたいのは、力強さ。それがソロル役の魅力の一つだと思うので、そこはしっかりと残しながら、味付けをしていきたい」と、意欲を見せる。「2月の公演、『ホフマン物語』の時、指導に来てくださった大原永子先生(前芸術監督)から、『あなたたちは“演じ”たらダメ。役になりきらないと』という言葉をいただきました。なりきるほうが入りやすいな、と以前から感じてはいたので、大原先生の言葉で再確認、という思いです。また、舞台は自分以外のダンサーと一緒に作り上げるもの。 “自分はこうする”と決め込んでしまうと、他の役の方と噛み合わないところが出てきます。臨機応変というか、パッときたものに返信できるようにしなければいけない。その点、なりきっていたほうがいろいろと視野が広がってくるのかなと思います。もちろん、お客さまに自分が一番綺麗に見えるポジションを、と自分を客観視する意識はあります」舞台経験が多いほど引き出しが多くなる「ポケモンと一緒です」ニキヤ役の柴山紗帆、ガムザッティ役の木村優里というふたりのプリマとのパートナーシップも見どころだ。「これまでも一緒に踊ってきたダンサーたちですから、コミュニケーションもとりやすい。この作品についてはまだ話をしていませんが、スタジオでリハーサルに取り組んで初めて、こういうふうに踊りたいんだな、こう接するのがいいんだな、ということが見えてくるのだと思います」『くるみ割り人形』より、柴山紗帆と(撮影:長谷川清徳)ドイツの名門、ジョン・クランコ・バレエ学校で学んだのち、米国のヒューストン・バレエで活躍。新国立劇場に入団して6シーズン目、プリンシパルとして着実に活躍の幅を広げているが、ここでのキャリアは決して順風満帆ではなかった。本番を翌日に控えた舞台稽古中に負傷、という苦い経験も。「2年目、3年目、4年目と、コロナ禍や怪我で踊れなくなる時期がありましたが、5年目にやっとコロナ禍が終わり、自分の身体もコントロールできるようになった。去年はたくさん勉強でき、レベルアップできた年だったかと思います。やはり、舞台をたくさん経験している人のほうが引き出しは多い。ポケモンと一緒です」ポケモン? と、一瞬耳を疑うが──。「戦えば戦うほど経験値が増えて、レベルアップする。入手困難なポケモンより、すぐに出会えるポケモンでも経験値を上げてレベルアップすればそのほうが強くなる。やはり経験で差が出るのかなと思うんです」エデュケーショナル・プログラム『白鳥の湖』より、木村優里と(撮影:鹿摩隆司)舞台経験の重要性を、身をもって知ったダンサーならではの力強い言葉。自身のことを「あんまり悩まないほうです」とも明かす。舞台での姿から、ポジティブなエネルギーを感じるというファンの声もよく聞く。「嬉しいですね! 僕たち、舞台で踊る者は、お客さまに感動していただけるように、と取り組んでいる。そういった感想を聞けるのはすごく嬉しいです」『ラ・バヤデール』の見どころについてあらためて尋ねると──「前回踊らせていただいた黄金の神像のシーンです」。2018年の公演で自身が踊ったこの役は、物語の展開には絡まないが、『ラ・バヤデール』の世界観を象徴する重要な役柄。全身を金色の姿で大技を繰り出すさまが異彩を放つ。「全身金ピカに塗って踊りましたが、肌が弱くて真っ赤になりました。でもテクニック満載の踊りでカッコいい役! 今回も素敵なダンサーたちが踊りますから、本当に楽しみです。僕自身は、まだ誰にも見せていないソロルをお届けしますので、ぜひ、映像では伝わらない、生の舞台を見ていただきたいですね。毎回、期待に応えるだけでなく、期待以上のものをお届けする。ずっとそう思っています」公演は4月27日(土)から5月5日(日・祝)まで、東京・新国立劇場オペラパレスにて。チケットは発売中。取材・文:加藤智子<公演情報>新国立劇場バレエ団『ラ・バヤデール』振付:マリウス・プティパ演出・改訂振付:牧阿佐美音楽:レオン・ミンクス編曲:ジョン・ランチベリー美術・衣裳:アリステア・リヴィングストン照明:アリステア・リヴィングストン/磯野睦出演:新国立劇場バレエ団指揮:アレクセイ・バクラン管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団2024年4月27日(土)~5月5日(日・祝)会場:新国立劇場 オペラパレスチケット情報:()
2024年03月22日国立文化財機構 文化財活用センター〈ぶんかつ〉は、東京国立博物館・NHK(日本放送協会)との共同研究「みんなの8K文化財プロジェクト」の一環として開発したコンテンツ「8Kで楽しむ国宝屏風『洛中洛外 京めぐり』」を東京国立博物館にて公開します(実証実験期間:2024年3月19日(火)~4月7日(日)、会場:東京国立博物館 平成館1階 ガイダンスルーム)。本コンテンツは、2022年に同館で公開した8K映像コンテンツ「時間をこえた出会い―洛中洛外 400年前の京都へ」(東京国立博物館創立150年記念 特別企画「未来の博物館」内で公開)をインクルーシブな視点で改修したもの。共同研究プロジェクトにより制作した国宝「洛中洛外図屏風(舟木本)」の8K3DCGを用いており、6人のナビゲーターが、屏風に描かれた400年前の京都の街並みを読み解き案内します。今回の改修では、国内外を問わず現代の博物館が求められている、誰もが楽しめる「インクルーシブ」なサービスを目指し、日本語・英語のバイリンガル字幕、そしてNHKグループが取り組むデジタルヒューマン「KIKI」による「手話」サービスを追加しました。利用者は、自身のスマートフォンなどを使って、このサービスを手軽に利用できます。これにより、外国人来館者や聴覚障がいのある方々も、8Kクオリティの映像と、ユニークで興味深いナビゲーターのトークを同時にお楽しみいただけます。会場内には〈ぶんかつ〉がキヤノン株式会社との共同研究で制作した、高精細複製品「洛中洛外図屏風(舟木本)」も展示します。70インチの画面に映る8Kクオリティの美しい映像と、間近で実寸大の屏風の中の街並みや人びとの暮らしの細かな描写とを見比べながら、国宝屏風の魅力をご堪能いただける絶好の機会です。普段の展示室ではかなわない、新たな鑑賞体験をお楽しみください。(会場内は写真・動画の撮影も可能です。)「8Kで楽しむ国宝屏風『洛中洛外 京めぐり』」キービジュアル■8Kクオリティの映像で国宝「洛中洛外図屏風(舟木本)」のディテールを楽しもう!国宝「洛中洛外図屏風(舟木本)」は、江戸時代に活躍した絵師・岩佐又兵衛が、約400年前の京都の街並みを俯瞰するかのように描いた大パノラマの絵画です。6曲1双の屏風に、武士や商人のみならず、かぶき者や酔っ払いまで、じつに老若男女2500人を超える人びとが遊び、暮らすさまが生き生きと描きだされています。70インチの画面に映る8K映像では、肉眼では見るのが難しい細部までじっくりと鑑賞することが可能です。このコンテンツでは、洛中洛外図屏風の世界を「食と享楽」「美と芸能」「歴史と文化」という3つのテーマで、土井善晴さん〔料理研究家〕、伊集院光さん〔タレント〕、IKKOさん〔美容家〕、林家正蔵さん〔落語家〕、磯田道史さん〔歴史学者〕、山崎怜奈さん〔タレント〕ら6人のナビゲーターがご案内します。江戸時代にタイムトリップし、活気あふれる京の都を歩いているかのような体験をお楽しみください。国宝 「洛中洛外図屏風(舟木本)」(左隻) 岩佐又兵衛筆 江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵国宝 「洛中洛外図屏風(舟木本)」(右隻) 岩佐又兵衛筆 江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵国宝「洛中洛外図屏風(舟木本)」の詳細情報はこちら ※原本の展示はありません。※会場に展示される国宝「洛中洛外図屏風(舟木本)」の高精細複製品は、〈ぶんかつ〉とキヤノン株式会社による共同プロジェクト「高精細複製品を用いた日本の文化財活用のための共同研究」の一環として活用しています。■ここに注目!新たに追加されたインクルーシブなサービス・手元のスマートフォン画面で、トークを目で見て楽しめる!多言語字幕サービス利用者自身のスマートフォン・タブレットなどの携帯端末で、映像で登場する6人のナビゲーターのトーク内容を、日本語・英語の字幕で楽しむことが可能です。※今回の実証実験では、日本語と英語のみ。今後、中国語・韓国語のサービスも追加予定。多言語サービスの画面イメージ(日本語)多言語サービスの画面イメージ(英語)手元のスマートフォンで、ナビゲーターの会話を日本語・英語の字幕で楽しむことができる操作画面操作画面操作は簡単。どなたでも手元のスマートフォンやタブレットなどで、ボタン一つで英語の字幕や音声、手話CGのサービスを手軽に利用できる【アプリケーション制作:株式会社アフタイメージ】■デジタル・ヒューマン「KIKI」による手話CG!聴覚障がい者向けサービス6つのトークのうち、「歴史」を案内する磯田道史さんのトークでは、NHKグループが取り組むデジタル・ヒューマン「KIKI」による「手話CG」のサービスも利用できます。まるで人間のような自然な表情や手の動きで、聴覚障がいがある利用者の皆さまにもわかりやすく、この国宝屏風の見どころを紹介します。手話CG 画面イメージ■「KIKI」とは?インクルーシブ社会の実現を目的に開発された、手話が得意なデジタルヒューマン。聴力を失った兄のために手話を学ぶ。兄と参加したフェスで、ラップミュージックを見事に表現した手話通訳者と出会う。その情熱的なパフォーマンスに感銘を受け、いまは自分のスタイルを大切に、手話通訳者として活躍中。今回のコンテンツに搭載している手話CGは、インクルーシブ社会の実現に向けて、NHKグループが筑波技術大学の大杉豊教授の監修のもと開発し、提供しているサービスです。デジタルヒューマンの動きは、手話ネイティブの動きをモーションキャプチャにより収録し反映しており、今回のサービスにおいても、大杉教授が単語ひとつひとつを確認し、指導にあたり完成いたしました。「手話CG」公式サイト デジタルヒューマン「KIKI」(C)NEP/GMS70インチモニターで見た「洛中洛外図屏風(舟木本)」の細部新たな手話CGサービスを利用した体験の様子■「8K文化財プロジェクト」とは?東京国立博物館とNHKが2020年から取り組んできた共同研究プロジェクト。最先端のスキャナーやフォトグラメトリ技術を使って、文化財を撮影し、超高精細な3DCG=「8K文化財」を制作。これまでに、重要文化財「遮光器土偶」、国宝「洛中洛外図屏風(舟木本)」、重要文化財「樫鳥糸肩赤威胴丸」、重要文化財「能面 伝山姥」、「小面 天下一河内焼印」など東京国立博物館の所蔵品や、国宝「百済観音像」、国宝「救世観音像」(いずれも法隆寺蔵)、中尊寺金色堂(中尊寺蔵)などの文化財を撮影し、3DCG=「8K文化財」を制作、東京国立博物館における展示、NHKの番組やイベント等で公開してきました。2022年秋に共同研究の集大成として開催した展示「未来の博物館」では、「洛中洛外図屏風(舟木本)」、「救世観音像」の3DCGを使った体験型展示を制作・公開。9万人をこえる来場者に新たな鑑賞体験を提供し、好評を得ています。2023年からは〈ぶんかつ〉もプロジェクトに加わり、制作した「8K文化財」の活用と展開に取り組んでいます。NHKの「みんなの8K文化財プロジェクト」公式サイト 「8K文化財プロジェクト」ロゴ「未来の博物館」会場内での同コンテンツ上映の様子 (2022年、東京国立博物館)■実施概要8Kで楽しむ国宝屏風『洛中洛外 京めぐり』会場 :東京国立博物館 平成館1階 ガイダンスルーム(東京都台東区上野公園13-9)主催 :東京国立博物館、文化財活用センター、NHK期間 :2024年3月19日(火)~4月7日(日)休館日:4月1日(月) (注)3月25日(月)は開館料金 :無料 *ただし、総合文化展観覧料もしくは開催中の特別展観覧料[観覧当日に限る]が必要です。■本サービスの推奨動作環境Android版:Android OS 11.0以上/iOS版:iPhone XS以降の端末、iOS 16.0以上※本サービスは本展会場内においてのみ利用可能です。※全ての端末での動作を保証するものではありません。※ご利用端末の特別な設定、空き容量や通信状況・通信速度などが起因し、正常に動作しない場合があります。※言語:【音声】日本語・英語、【字幕】日本語・英語、【手話CG】日本語本リリースで紹介している原品の情報は、ColBase(コルベース/国立文化財機構所蔵品統合検索システム)でご確認いただけます。ColBaseは、国立文化財機構の4つの国立博物館(東京国立博物館、京都国立博物館、奈良国立博物館、九州国立博物館)と奈良文化財研究所の所蔵品および皇居三の丸尚蔵館の収蔵品を、横断的に検索できるサービスです。ColBaseに掲載されている画像は、申請不要で商用利用にもお使いいただけます。(ただし出典を明記していただく必要があります。詳しくは「利用規約」をお読みください。) <文化財活用センター>2018年に国立文化財機構に設置された、文化財活用のためのナショナルセンターです。「文化財を1000年先、2000年先の未来に伝えるために、すべての人びとが、考え、参加する社会をつくる」というビジョンを掲げ、「ひとりでも多くの人が文化財に親しむ機会をつくる」ことをミッションとして、さまざまな活動をしています。文化財活用センター〈ぶんかつ〉WEBサイト X(Twitter) @cpcp_nichぶんかつ【文化財活用センター】 YouTube @cpcpnichぶんかつ【文化財活用センター】 Instagram @cpcp_nichぶんかつ【文化財活用センター】 詳細はこちら プレスリリース提供元:@Press
2024年03月19日新国立劇場が、『トリコロール』三部作(青の愛/白の愛/赤の愛)、『ふたりのベロニカ』で知られるポーランドの映画監督、クシシュトフ・キェシロフスキによる十遍の連作集『デカローグ』を完全舞台化、2024年4月から7月まで連続上演する。3月11日に同劇場で実施された制作発表会見では、総勢43名ものスタッフ、出演者が集結、前代未聞の挑戦的な大プロジェクトであることを印象付けた。旧約聖書の十戒をモチーフに、1980年代のポーランドワルシャワのある団地に住む人々を描くオムニバス形式の作品。それぞれが独立した1時間程度の作品ながら、同じ人物が物語を超えて登場するなど、緩やかに繋がってゆく。元はテレビ映画用に撮影されたが、のちに映画化、スタンリー・キューブリックらが絶賛したことも知られる。はじめに作品への思いを打ち明けたのは、翻訳を手がけた久山宏一。ポーランド留学時代の『デカローグ』との出会いを振り返りつつ、「キェシロフスキは当初、十人の若い監督を『デカローグ』でデビューさせる計画でした。今回の舞台化は、日本の若い才能ある舞台人たちによる脚本の再解釈という意味で、キェシロフスキの意図の実現ともいえるかもしれません」と感慨深げ。また上演台本を手がけた須貝英は「映画ファンの方たちを失望させてはいけないというプレッシャーを感じつつ、舞台の脚本にしなければいけない。試行錯誤もかなりしたと思います」と明かした。翻訳の久山宏一上演台本を手がけた須貝英演出は、新国立劇場演劇芸術監督の小川絵梨子と、上村聡史が分担する。「キェシロフスキ監督はたくさんの人々の存在を通して、人間が存在することへの根源的な肯定を書かれた。とても大事なテーマだと思います」という小川。上村は「脚本は、非常に緻密に計算されている。ヨーロッパでは『デカローグ』を演劇化したプロダクションも多く、物語力ある作品だと思います」と語った。共に演出を手掛ける小川絵梨子(左)と上村聡史続いて、各プログラムの出演者たちが、それぞれの物語や見どころ、意気込みを述べた。■プログラムA:4月13日(土)〜5月6日(月・休)、プログラムBとの交互上演プログラムA出演者(撮影:阿部章仁)デカローグ1「ある運命に関する物語」演出:小川絵梨子12歳の息子と暮らすクシシュトフを演じるノゾエ征爾は、「実生活でも息子に対する眼差し、気持ちが変わってきた」。その姉イレナ役の高橋惠子は、「台本を読み終えて、しばし呆然としました。お客さまにも心を動かしていただけるよう稽古を重ねたい」。ノゾエ征爾(中央)デカローグ3「あるクリスマス・イヴに関する物語」演出:小川絵梨子「過去に不倫関係であった男女が、行方不明になった彼女のパートナーを探しに行く。お互いに抱えている孤独を確認し合う話だと思って稽古しています」と語ったのはヤヌシュ役の千葉哲也。元恋人のエヴァを演じる小島聖は、「感情を表面に出すのは簡単ですが、それをいかに出さずにキープしたまま突っ走るか、一生懸命探っています」と明かす。千葉哲也(前列右)■プログラムB:4月13日(土)〜5月6日(月・休)、プログラムAとの交互上演プログラムB出演者(撮影:阿部章仁)デカローグ2「ある選択に関する物語」演出:上村聡史自身が演じるドロタのことを「夫は入院中。愛人の子をみごもっており、大きな選択を前に葛藤している」と前田亜季。医長役の益岡徹は、「大きなプロジェクトですが、スポットが当たるところは小さい。大きな団地に行ってちょっと覗いてみる、という面白さがあると思います」。益岡徹(中段左)デカローグ4「ある父と娘に関する物語」演出:上村聡史娘とふたり暮らしのミハウを演じる近藤芳正。「娘を持つ役を意外といっぱいやっているので、パーフェクトな部分があるかと(笑)」と場を和ませる。娘・アンカ役の夏子は「一通の手紙によって、親子の関係がどう変わっていくのか。繊細なやり取りを楽しんでいただけるよう頑張りたい」と意気込んだ。近藤芳正(前列右)「重ねていくと壮大な絵になる」全篇上演の意義■プログラムC:5月18日(土)〜6月2日(日)プログラムC出演者(撮影:阿部章仁)デカローグ5「ある殺人に関する物語」演出:小川絵梨子「タクシー運転手を殺害してしまう青年・ヤツェクと、死刑制度に反対する新米弁護士。全く出会うはずのなかったふたりが交わってしまう物語。舞台上でヤツェクとして生きることができるのが楽しみ」と話す福崎那由他。弁護士・ピョトル役の渋谷謙人は、「劇中で触れられる死刑制度。少しでも関心を持っていただければ」。福崎那由他(前列左)デカローグ6「ある愛に関する物語」演出:上村聡史「郵便局員の青年・トメクは、向かいに住むマグダを日々望遠鏡で覗いている。見返りを求めない愛を信じないマグダの心は、徐々に変化していきます」と、マグダを演じる仙名彩世。トメク役の田中亨からは、「郵便局にマグダが来て、そこからどんなふうに愛の物語になっていくのか。見応えのある作品だと思います」。仙名彩世(前列右)■プログラムD(6月22日(土)〜7月15日(月・祝)、プログラムEとの交互上演)プログラムD出演者(撮影:阿部章仁)デカローグ7「ある告白に関する物語」演出:上村聡史「(両親と同居している22歳の女性)マイカが生んだ子供を、マイカの母が娘として育てている家庭。マイカはそこから娘を連れてカナダに逃げようとする──。海外の戯曲は初ですが、全力でのぞみたい」と打ち明けたのはマイカ役・吉田美月喜。娘の父親・ヴォイテク役は章平。「“ただ、生きる”を目標に稽古に励みたい」。母を演じる津田真澄は「行く末がすごく気になる家族。緊迫したシーンが多い」とほのめかす。章平(中段中央)デカローグ8「ある過去に関する物語」演出:上村聡史「辛く重い過去を持つ者たちが過去と向き合いながら生きてきて、また改めてその過去と向き合ったり、話したり話せなかったり、という物語。人間は、会って話をすることがすごく大事だなと思います」と、大学教授ゾフィア役の高田聖子。その聴講生・エルジュピタ役の岡本玲は、「十篇の話の、作品の繋がりを大切にしながら演じたい」。高田聖子■プログラムE(6月22日(土)〜7月15日(月・祝)、プログラムEとの交互上演)プログラムE出演者(撮影:阿部章仁)デカローグ9「ある孤独に関する物語」演出:小川絵梨子伊達暁が演じるのは40代の心臓外科医・ロマン。性的不能と診断され、「妻はそれを受け入れるも、妻には若い学生の不倫相手が──。もやもやした内面を、どう舞台上に現出させることができるかがテーマ」と意欲的。妻・ハンナ役の万里紗は、「パートナー同士が相手の弱さや恐れをまるで鏡のように映し出す、その様は滑稽で、リアリティがある」。不倫相手のマリウシュ役・宮崎秋人は「まっすぐに愛していけたら」。伊達暁(前列左)デカローグ10「ある希望に関する物語」演出:小川絵梨子竪山隼太演じる弟のアルトゥルと石母田史朗演じる兄・イェジーは、父の死により久しぶりに再会。「兄と一緒に、父の住んでいたフラットを訪れ、父が膨大な切手のコレクターであることに気づく。切手1枚に莫大な価値があることが判明して、という人たちの話です」と竪山。石母田は「切手の価値を知り、それに固執していく様はものすごく滑稽。興味深く感じています」と語った。竪山隼太(前列左)最後は、ただひとり、全編に出演する亀田佳明。「天使役です。演出は、ごまかしのない表現を要求するという意味では本当に“しつこい”ふたり(笑)。強度のある作品になっていくのではという予感がしています」とコメントした。亀田佳明質疑応答の場で、この作品の「根源的な肯定感」に改めて触れた演出の小川。「1枚1枚の絵が素晴らしい、が、1、2、3……と重ねていくと、また1個壮大な絵にもなるという仕掛けになっていると思います」と、全篇上演の意義をアピールした。開幕は4月13日(土)、東京・新国立劇場小劇場にて。取材・文:加藤智子<公演情報>新国立劇場の演劇『デカローグ1-10』2024年4月13日(土)~7月15日(月・祝)会場:東京・新国立劇場 小劇場チケット情報:()公式サイト:
2024年03月13日国立新美術館で現代美術のグループ展、『遠距離現在 Universal / Remote』が開幕した。2020年からはじまった約3年間のパンデミックの期間を現代美術の作品を通して振り返る、国内外のアーティスト8名と1組が参加する展覧会だ。6月3日(月) まで開催されている。同展は、国立新美術館では5年ぶりとなる現代美術のグループ展。展覧会のタイトルにある “Universal / Remote” とは、Universal Remote(万能リモコン)という単語をスラッシュで分断することで、その便利な機能を停止させ、ユニバーサル(世界)とリモート(遠隔、非対面)をあらわにするという意味の造語だ。非常に深刻な状況であったにも関わらず、現在の私たちが忘却しつつあるかつてのパンデミックの日々について、展覧会という形を通して振り返ることを試みる。展覧会は、社会を包括する資本や情報への問題意識に着目した作品を取り上げる「『Pan-』 の規模で拡大し続ける社会」と、個人の働き方や居住について眼差しを向ける作品を集めた「『リモート』化する個人」という2つの軸で構成される。「『Pan-』 の規模で拡大し続ける社会」で紹介される井田大介は、映像作品を3点提示。ゆらゆらとゆらめく紙飛行機の姿を捉えた《誰が為に鐘は鳴る》、勢いよく飛び立つ気球《イカロス》、熱されたブロンズ像を捉えた《Fever》からなる3点の映像作品は、すべて炎をモチーフにしており、飛行や上昇、落下というメタファーを用いてコロナ禍の社会を可視化しようと試みている。井田大介《Fever》(部分)2021年井田大介《誰が為に鐘は鳴る》2021年井田大介《イカロス》2021年徐冰(シュ・ビン)の《とんぼの眼》は81分にわたる長時間の映像作品。切ないラブストーリーが語られる本作品の映像はすべて、ネット上に公開されている監視カメラ映像をつなぎあわせたものだ。作品制作にあたって、約11000時間分の映像がダウンロードされたという。徐冰《とんぼの眼》2017年徐冰《とんぼの眼》2017年トレヴァー・パグレンは監視技術や通信、インターネットをテーマにした3つのシリーズを展示する。大陸同士を海底でつなぐ通信ケーブルの上陸地点の風景を撮影した《上陸地点》、海に敷設されているケーブルそのものを作家自身が潜り、撮影した《海底ケーブル》、そして《幻覚》は、作家本人が設計したAIエンジンが生成している。トレヴァー・パグレン《海底ケーブル》2015〜16年トレヴァー・パグレン《幻覚》2017〜18年「『リモート』化する個人」のセクションは、デンマークの写真家、ティナ・エングホフの《心当たりあるご親族へ》プロジェクトから始まる。本作は孤独のうちに亡くなった人々の自宅を撮影したものだ。展示風景よりティナ・エングホフ《心当たりのあるご親族へ》2004年ティナ・エングホフ〈心当たりのあるご親族へ〉2004年ヒト・シュタイエルのインスタレーションは、高級ファッションブランド、バレンシアガを起点として、ここ30年間の格差社会と資本主義について取り扱う。作品を取り囲む青い壁に書かれたBELANCIEGEはバレンシアガの偽ブランド名だという。ジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ、ヒト・シュタイエル、ミロス・トラキロヴィチ《ミッション完了:ベランシージ》(一部)2019年海や山、公園といった風景をカメラに収め、油絵として描き続けている木浦奈津子は、私たちが暮らす何気ない毎日、そして生活の本質を捉える作品を複数展示する。木浦奈津子《こうえん》2023年展示風景より木浦奈津子の作品エヴァン・ロスの《あなたが生まれてから》は、作家に次女が誕生した2016年6月以降にPCにキャッシュされた画像を使ったインスタレーションだ。壁や床一面に貼り付けられたおびただしい画像が鑑賞者を取り囲む。エヴァン・ロス《あなたが生まれてから》2023年エヴァン・ロス《あなたが生まれてから》2023年そして、展覧会の最後を飾るチャ・ジェミン《迷宮とクロマキー》は、インターネットが普及した韓国社会において、欠かすことができない配線を整備する作業者の姿を追う映像作品だ。チャ・ジェミン《迷宮とクロマキー》2013年新型コロナウイルスのまたたく間の流行、そして全世界規模に行われた感染症対策のなかで、私たちはグローバル社会のなかにいることを否応なしに実感することとなった。そして、グローバル化を続ける社会のなかで、リモート化していく個人。展示作品を通して2つの概念、視点からコロナ禍の社会を振り返ることで、ポストコロナの世界と向き合う。これからの未来を考えるためにも見ておきたい展覧会だ。取材・文・撮影:浦島茂世<開催概要>『遠距離現在Universal / Remote』2024年3月6日(水)~6月3日(月)、国立新美術館で開催公式サイト:
2024年03月12日初代国立劇場閉場後初の舞踊公演『Discover NIHONBUYO ―日本舞踊へのいざない―』が、3月24日(日) に国立能楽堂で開催されることが決定した。国立劇場では2015年から『Discover ~』と題し、外国語対応したプログラムの無料配布や字幕表示がある、外国人にも楽しめる歌舞伎や文楽などの日本の伝統芸能公演を定期的に開催。分かりやすい解説とコンパクトな上演時間で伝統芸能に初めて触れる日本人にもおすすめの公演となっている。今回の『Discover』で取り上げるのは、豊かな表現力をもつ踊りが唄や三味線、囃子の響きと一体となって、日本の四季折々の情景や様々な物語・伝説などを表現する「日本舞踊」。実演を交えた解説の後、名作の鑑賞を通して日本舞踊の魅力を紹介する。<公演情報>未来へつなぐ国立劇場プロジェクト 令和6年3月舞踊公演『Discover NIHONBUYO ―日本舞踊へのいざない―』『Discover NIHONBUYO ―日本舞踊へのいざない―』ビジュアル3月24日(日) 14:00 開演(16:00時終演予定)会場:国立能楽堂解説 日本舞踊の魅力 西川箕乃助一中節 都若衆万歳 藤間恵都子地唄 浪花十二月 山村友五郎 吉村古ゆう長唄 連獅子 西川箕乃助 西川佳【チケット料金】(税込)正面席:6,000円(学生4,200円)脇正面席:5,500円(学生3,900円)中正面席:5,500円(学生3,900円)※障がい者の方と介護者1名は2割引です。(他の割引との併用不可)※車椅子用スペースがございます。※インターネットでも学生料金、障害者割引による申し込みが可能です。チケット情報:()
2024年03月12日新国立劇場2024/2025シーズン演劇のラインアップが発表された。2月28日に実施された説明会には新国立劇場演劇芸術監督の小川絵梨子が登壇し、上演作品や新たな取り組みについて説明した。ロシアのウクライナ侵攻が始まった頃にプランを立てた作品が多いと話す小川。「失ったり、不安になったり、傷ついたり、恐怖を感じたり、その中でもなんとか生きて未来への希望を見出したいと葛藤する人々を丁寧に描く物語が、多く集まったと思います」と述べたうえで、各作品の説明に移った。■『ピローマン』(2024年10月8日〜27日)(左から)成河、亀田佳明作:マーティン・マクドナー翻訳・演出:小川絵梨子出演:成河、亀田佳明、斉藤直樹、松田慎也、大滝寛、那須佐代子イギリスの劇作家、映画監督であるマーティン・マクドナーの人気作が登場。日本でも人気の高い作品だ。翻訳・演出は小川絵梨子が手がける。「10年ほど前、新国立劇場ではないところで一度演出していますが、キャストやコンセプトなどを一新した形でのお届けになると思います。ある架空の国で、非常に理不尽な状況などがある中で、ある作家を中心に描かれる物語です。理不尽な世の中で、物語を生み出す作り手の意義、そして責任、物語が紡ぎ出していくべき希望について問う作品になればと考えています」(小川)。■『テーバイ』(2024年11月7日〜24日、新作)(上段 左から)植本純米、加藤理恵、今井朋彦(下段 左から)久保酎吉、池田有希子、木戸邑弥原作:ソポクレス『オイディプス王』『コロノスのオイディプス』『アンティゴネ』翻訳:高津春繁(『オイディプス王』『コロノスのオイディプス』)、呉 茂一(『アンティゴネ』)による構成・上演台本・演出:船岩祐太出演:植本純米、加藤理恵、今井朋彦、久保酎吉、池田有希子、木戸邑弥 ほか新国立劇場初登場となる船岩祐太が構成、上演台本、演出を担う。ソポクレスの『オイディプス王』、『コロノスのオイディプス』、『アンティゴネ』を下敷きとした物語だ。「私の任期に始まり、続けている“こつこつプロジェクト”から上がってきた作品です。既に1年以上の“こつこつ”を続け、さらに稽古をしての上演となります。オイディプスの運命や、クレオンが権力者になっていくまでの、そこでの葛藤と、人間のもつ不安、迷い、ある種の自己欺瞞などによる苦難、困難を体験しながら、テーバイの土地で生きていこうとする人々、為政者を描く物語です」(小川)。■『白衛軍 The White Guard』(2024年12月3日〜22日、日本初演)(上段 左から)村井良大、前田亜季(下段 左から)上山竜治、大場泰正、大鷹明良作:ミハイル・ブルガーコフ英語台本:アンドリュー・アプトン翻訳:小田島創志演出:上村聡史出演:村井良大、前田亜季、上山竜治、大場泰正、大鷹明良 ほかブルガーコフの小説を、オーストラリアの作家アンドリュー・アプトンが戯曲化。「ロシア革命直後、ソビエト政権が誕生したときのキーウにいたある一家の物語を描いています。戦争、侵略という、あらゆる正義の名のもとに行われている破壊活動は、人々の人生、家族の生き方、個人の思い、そしてもちろん命というものを潰していってしまう。まさしくいまに繋がっている物語かと思います」(小川)。演出は上村聡史が担当する。■こつこつプロジェクト Studio公演『夜の道づれ』(2025年4月)(上段 左から)石橋徹郎、金子岳憲(下段 左から)林田航平、峰 一作、滝沢花野作:三好十郎演出:柳沼昭徳出演:石橋徹郎、金子岳憲、林田航平、峰一作、滝沢花野三好十郎作品を、新国立劇場初登場の柳沼昭徳が演出する。「元々ラジオドラマとして書かれ、三好さんの作品の中でもあまり上演されていない作品だと思います。主人公のふたりはまさしくこの、(新国立劇場が面している)甲州街道沿いをずっと歩いている。戦後の日本で、夜中の甲州街道をふたりで歩きながら、日本がそれまでどのように歩んできたのか、そしてどのような道を進む選択して歩んでいくべきかというのを問いかける作品です」(小川)。『テーバイ』と同じく第2期こつこつプロジェクトからの作品で、通常より小規模かつ簡素に上演する試演という位置付けとなる。これまでクローズドで展開してきた“こつこつプロジェクト”だが、小川は「料金をなるべく低価格にして、たくさんのお客さまに観ていただき、お客さまとのトークセッションなどを実施し、さらに作品の強度を上げる、“こつこつプロジェクト”の延長の形という新しい試みを始めます」と意欲的だ。登場人物がほぼ家族のみという作品を通して、いまの日本、世界、社会のありさまを映し出すシリーズ「光景─ここから先へと─」■Vol.1『母』(2025年5月〜6月、海外招聘公演)『母』舞台写真提供:ブルノ国立劇場作:カレル・チャペック演出・上演台本:シュチェパーン・パーツル字幕翻訳:広田敦郎出演:ブルノ国立劇場ドラマ・カンパニー■Vol.2『ザ・ヒューマンズ─人間たち』(2025年6月、日本初演)作:スティーヴン・キャラム翻訳:広田敦郎演出:桑原裕子■Vol.3『消えていくなら朝』(2025年7月、フルオーディション7)作・演出:蓬莱竜太登場人物がほぼ家族のみという作品を取り上げるシリーズ。「社会の最小単位ともいわれる家族。さまざまな家族が織りなす光景として、いまの日本、世界、社会のありさまを映し出し、それを手がかりに皆で考えたり、もう一度出会ったりしていこうということを意図とし、お届けするシリーズです」と小川は語る。1作目の『母』は、カレル・チャペックの『母』。日本初演となる。チェコの共和国のブルノ国立劇場を迎えての招聘公演だ。小川自身がチェコを訪れ、演出家や芸術監督と直接話をしてきたという。「それは有意義なことでした。ブルノ国立劇場はレパートリーシステムをとっており、この作品もそのレパートリーのひとつ。近年、テルアビブでも上演し、大きな評判をよんだそうです。演出家、芸術監督もいらっしゃる予定なので、そこでいろんなお話を聞くという国際交流も必ず、やりたいと思っています」(小川)。『ザ・ヒューマンズ─人間たち』も日本初演作品。アメリカ出身のスティーヴン・キャラムによる戯曲を、桑原裕子の演出で上演。「とても不思議な作品で、家族の日常の会話が描かれてはいるけれど、家族であろうと共有し得ない、もしくは打ち明けられない、という人たちが抱えている、そこはかとない不安、果てしないある種の恐怖みたいなものが、会話の中からこぼれ出していくよう」と小川。近年映画化され、高い評価を得ている。3つ目の『消えていくなら朝』は、蓬莱竜太が2018年に新国立劇場のために書き下ろした作品。蓬莱自身の演出、またフルオーディション企画の第7弾として上演する。「いままさに、稽古場で第2次オーディションが行われており、たくさんの役者さん方のご協力を得ながら進めている。当時でも十分に切実だった宗教2世の問題に切り込んでいる作品。2020年代となった今、さらに鮮明な、そして身近な物語として我々に響いていくのではないかと考えます」(小川)。■こつこつプロジェクト─ディベロップメント─ギャラリープロジェクト「作り手が通常の1カ月の稽古ではできないことを試し、作り、壊して、また作る場にしたい」という小川の思いから始まった「こつこつプロジェクト」第3期がスタートする。演出家は第2期から参加の柳沼昭徳に加え、栗原崇、鈴木アツトが新たに参加する。また、一般の人々を対象としたトークセッションやワークショップなどを実施するギャラリープロジェクトも引き続き展開。さらに小川は「視聴覚に困難を持たれている方にも作品を楽しんでいただけるような公演も、積み重ねていきたい」と意欲を示した。また、新しい作り手、若手の登用のほか、力を入れたいと語ったのが、これまでも実施してきたプレビュー公演だ。「全部の公演ではないのですが、2日間のプレビュー公演を行い、お客さまのアンケートをいただき、3日間ほど劇場を閉める、さらに稽古を積み重ね、デザイナーの方々には作品とのマッチをさらに磨き上げていただく。客観的な目を通したうえで初日を迎えるためのプレビュー公演ですが、様々な演劇の作り方、創造の場を、さらに模索、開拓していくことも積み重ねていきたい」、また、世界の国立劇場とのつながり、国際交流について積極的に繋いでいきたいとも述べた。説明会の後に実施された懇談会でも、小川は記者から寄せられる様々な質問にひとつずつ丁寧に答え、ブルノ国立劇場での出会い、経験について、フルオーディション企画の手応えなどに触れた。あらためて質問が寄せられたプレビュー公演については、「作っていると、どんどん主観に入っていってしまう。プレビューというのは、観客の新しい視点を組み入れながら作品を立ち上げていくシステム。プレビューをすることがどういうことなのか、劇場側の我々も体験をして、その意義をこの先も問うていきたい」と、力を込めて語った。実施にあたっては日程調整の難しさがつきまとうが、2024年10月の『ピローマン』では既にプレビュー公演実施が決定。こうした様々な取り組みを通して、多くの人の心に響く、より力強い舞台が実現されることを期待したい。取材・文 加藤智子
2024年03月08日新国立劇場が2024/2025シーズン、バレエ&ダンスのラインアップを発表した。2月28日に実施した説明会では、吉田都舞踊芸術監督が各演目への思いを述べ、同時に2025年7月に実施するロンドン公演についても意気込みを語った。4つの新制作を含む9演目に取り組む来シーズン、芸術監督として5年目を迎える吉田は「With a Sense of Adventure」をテーマに掲げ、「冒険心を持って」突き進むシーズンとし、新たな挑戦にも一歩踏み出す。吉田が冒頭で触れたのは、昨年実現した劇場内の新スタジオのオープンや、東京医科大学と包括連携協定による医療体制の充実化について。これまでグループで実施していたコンディショニングのセッションも、ダンサー一人ひとりのニーズに応じたパーソナル・コンディショニングに変えたという。芸術監督就任以来、ダンサーを取り巻く環境の改善に積極的に取り組んだ成果といえるが、吉田はよりよい環境づくりへとさらなる意欲を見せる。続いて、吉田自身による各演目の紹介が行われた。■こどものためのバレエ劇場2024『人魚姫〜ある少女の物語』(新国立劇場バレエ団委嘱作品・世界初演2024年7月27日~30日)振付:貝川鐵夫音楽:C.ドビュッシー、J.マスネほか新国立劇場で22年間ダンサーとして活躍し、振付家育成プロジェクト「NBJ Choreographic Group」でいくつもの作品を発表してきた、貝川鐵夫による新作だ。同プロジェクトから誕生した全幕バレエはこれが初。こどもも大人も存分に楽しめるバレエをと、吉田も期待を寄せる。■『眠れる森の美女』(2024年10月25日~11月4日)振付:ウエイン・イーグリング(マリウス・プティパ原振付による)音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー2014年に新国立劇場で新制作されたイーグリングによる古典全幕作品。「全12回公演になりますので、きっとデビュー・キャストが多くなると思います。私自身楽しみでもあります」と話す吉田。彼女の薫陶を受けたフレッシュな才能の活躍が期待できそうだ。眠れる森の美女(撮影:鹿摩隆司)■「DANCE to the Future 2024」(2024年10月25日~11月4日)「DANCE to the Future 2024」Choreographic Group作品集「NBJ Choreographic Group」で生まれた選りすぐりの作品を上演するシリーズ。小㞍健太をアドヴァイザーに迎え、ダンサーたちが創作にのぞむ。「すでに2回ワークショップをしていただいて、いろいろな身体の使い方、動きに挑戦したり短い振付にアドヴァイスをもらったりと、勉強になります」(吉田)。■『くるみ割り人形』(12月21日~2025年1月5日)振付:ウエイン・イーグリング音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキークリスマスの風物詩として親しまれている作品だが、新国立劇場では近年、年末年始まで公演期間を延長し、ファンを掴んでいる。「次回は全18回公演とチャレンジングなのですが、今シーズンの年末年始は2万6千人を超える方々にお越しいただき、とても嬉しく思います。公演だけでなく、劇場自体を楽しんでいただきました。キャストについては、デビューもあるかもしれませんね」(吉田)くるみ割り人形(撮影:長谷川清徳)2025年7月には『ジゼル』のロイヤル・オペラハウス公演も■「バレエ・コフレ」(2025年3月14日~3月16日)『エチュード』〈新制作〉振付:ハラルド・ランダー音楽:カール・チェルニー編曲:クヌドーゲ・リーサゲル『精確さによる目眩くスリル』〈新制作〉振付:ウィリアム・フォーサイス、音楽:フランツ・シューベルト『火の鳥』振付:ミハイル・フォーキン、音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキーコフレとはフランス語で宝石箱の意味。バレエのレッスン風景へのオマージュである『エチュード』、鬼才フォーサイスの先鋭的バレエ、ロシアの民話を題材としたバレエ・リュスの傑作と、スタイルの異なる20世紀の3作品を同時に楽しめる魅力的なトリプル・ビルが実現する。吉田自身が好きだという『エチュード』は、以前から上演を希望していたが、著作権保有者から上演許可を得られなかった。「どんなレベルのバレエ団なのか、知らないバレエ団には上演許可は出せないと言われ、そのままコロナ禍へ。でもその後、ありがたいことに先方から『ぜひ上演していただきたい』とご連絡をくださった。とても嬉しく思います」(吉田)。火の鳥(撮影:鹿摩隆司)■Co.山田うん『オバケッタ』(2025年3月29~3月30日)作・振付・演出:山田うん音楽:ヲノサトルダンス公演は、山田うん率いるダンスカンパニーによる、大人もこどもも楽しめる作品を上演。2021年3月に新国立劇場でつくられた本作は、「死んだらみんなどこに行くの?」をテーマに、個性際立つダンサーたちが妖怪や怪物になってあの世と小この世を行ったり来たり、人間の生死を優しく温かく描く。Co.山田うん『オバケッタ』(撮影:長谷川清徳)■『ジゼル』(2025年4月)振付:ジョン・コラリジュール・ペローマリウス・プティパ演出:吉田都音楽:アドルフ・アダンステージング・改訂振付:アラスター・マリオット2022年、新国立劇場開場25周年記念公演として新制作。吉田自ら演出を手がけ、好評を得た。「作品は繰り返し上演することで育っていく」と、再演への意欲、その意義を述べた吉田。3カ月後のロンドン公演への前哨戦ともなる、重要な舞台となる。ジゼル(撮影:鹿摩隆司)■『不思議の国のアリス』(2025年6月12日~6月24日)振付:クリストファー・ウィールドン音楽:ジョビー・タルボット英国ロイヤル・バレエで2011年に上演、ルイス・キャロルの世界をバレエ化、色彩豊かな独創的な舞台は、世界各地の劇場で人気を博した。新国立劇場では2018年に新制作。物語のキーパーソン、手品師/マッドハッター役のタップダンスがユニークな魅力を放つ。「タップダンスに興味のあるダンサーを募ったところ、何名か声を上げてくれて既に練習を始めている。タップは向き不向きもあると思いますし、なかなか難しい役柄。誰が役を掴むのか、楽しみにしているところです」(吉田)。不思議の国のアリス(撮影:長谷川清徳)■「Young NBJ GALA 2025」(2025年7月12日〜13日)パ・ド・ドゥ集『O Solitude』振付:中村恩恵音楽:ヘンリー・パーセル福田圭吾による新作(新国立劇場バレエ団委嘱作品・世界初演)2023年秋にも実施した、若手ダンサーを中心としたシリーズ公演。若手がクラシックのパ・ド・ドゥに取り組む難しさを感じた前回の公演を、吉田はしみじみと振り返るが、真摯に、また果敢に挑戦する若手の姿に触れる貴重な機会となる。『O Solitude』は、2013年の「DANCE to the Future」にて新国立劇場初演された中村恩恵によるソロ作品。また、かねてから創作にチャレンジしてきた新国立劇場バレエ団ダンサーの福田圭吾による新作も。ダンサーが振付に取り組む場を与えたのは、2010年から14年に芸術監督を務めたデヴィッド・ビントレーだが、「(『人魚姫』の貝川も福田も)ずっと、たくさんチャレンジしてくれていたダンサーたち。今回こうして新作を依頼できてとても嬉しく思っています。ビントレーさんの思いが実を結んできたのかなと思います」(吉田)。続いて吉田は、2025年7月24日から27日に実施予定のロンドン、ロイヤル・オペラハウスでの『ジゼル』公演についても言及。「これまでにも海外公演を実施しているけれど、いずれも招待公演でした。今回は自ら進んで行くので、心配な部分は数えられないほどあります。まずは、作品。サー・ピーター・ライトの『ジゼル』を踊って育った私ですが、その私が演出した『ジゼル』を……、というプレッシャーは大きく、ダンサーたちについても、 “ちゃんと踊る”だけでは足りない。お客さまに喜んでいただけるレベルまでもっていけるのかという不安はありますが、これまで積み上げてきたものがある。私も含め、覚悟を決めて頑張っていきたいと思います」。海外公演は4年ほど前から準備を進めていたというが、彼女自身がロイヤル・バレエのプリンシパルとして数々の作品に主演したロイヤル・オペラハウスの舞台に、ダンサーたちを連れていってあげたいという強い思いがあった。「あの舞台のあの空気、あのお客さまの前で、実際に踊ってみないとわからないことがある。それを経験したあとのダンサーの変化がとても楽しみですし、だからこそ、今後はどんどん自分たちから海外公演を実施していく必要があると思っています」。コロナ禍の厳しい時期を乗り越え、医療分野を含むダンサーたちの環境改善、公演回数を増やすこと、若手活躍の場つくること、さらには海外公演と、ダンサーたちの未来を見据えての芸術監督の取り組みは多岐にわたる。来シーズン、彼らの進化を実感できるシーズンとなりそうだ。取材・文:加藤智子
2024年03月07日2月21日、新国立劇場が2024/2025シーズンのオペラ・ラインアップを発表。会見を開き、大野和士芸術監督が概要を発表した。シーズン・ラインアップは以下のとおり。●ベッリーニ:夢遊病の女【新制作】© Javier del Real | Teatro Real10月3日(木)~14日(月・祝)[全5公演]指揮:マウリツィオ・ベニーニ演出:バルバラ・リュックアミーナ:ローザ・フェオーラ(ソプラノ)エルヴィーノ:アントニーノ・シラグーザ(テノール)ほか新シーズンの開幕を飾る新制作。ベッリーニ作品が新国立劇場で上演されるのはこれが初めて。かねてから大野芸術監督が標榜している、ベルカント・オペラのレパートリーを増やすという狙いに合う選曲。プロダクションはマドリードのテアトル・レアル、バルセロナのリセウ大劇場、パレルモ・マッシモ劇場との共同制作で、すでにマドリードで初演されている。大野「輝かしい愛の歓びで終わるハッピーエンドのオペラ。演出のリュックは俳優出身で、オペラの世界に新しい光を放ちつつある。巨匠指揮者ベニーニとのコンビネーションをぜひ楽しんで。主役二人は説明不要。とくにフェオーラは、まだ若いがMETをはじめ急激に活躍の場を広げている。大スター、シラグーザとの愛の二重唱が繰り広げられる」●ロッシーニ:ウィリアム・テル(ギヨーム・テル) 【新制作】11月20日(水)~11月30日(土)[全5公演]指揮:大野和士演出・美術・衣裳:ヤニス・コッコスギヨーム・テル:ゲジム・ミシュケタ(バリトン)アルノール・メルクタール:ルネ・バルベラ(テノール)マティルド:オルガ・ペレチャッコ(ソプラノ)ほかロッシーニ最後のオペラ。序曲は有名だが、オペラ全幕を見る機会はなかなかない。約5時間の大作。オリジナルのフランス語台本による上演(「ウィリアム・テル」という名前はフランス語では「ギヨーム・テル」となる)。大野「演出のコッコスは、コロナ禍の2021年に『夜鳴きうぐいす/イオランタ』がリモートでの演出だったので、オペラパレスには初登場。リリックな性格を描き出すのが上手い。苦しみながらも自由を希求する村人たちの内面性が強く浮かび上がるだろう。テルを歌うのは、この役のスペシャリストのミシュケタ。ただ優美なだけでなく、人を包み込むあたたかさを持った声に惹かれて彼にお願いした」●モーツァルト:魔笛(再演・2018年制作)12月10日(火)~12月15日(日)[全4公演]指揮:トマーシュ・ネトピル演出:ウィリアム・ケントリッジタミーノ:パヴォル・ブレスリック(テノール)パミーナ:九嶋香奈枝(ソプラノ)ほか大野「不思議な世界に連れて行ってくれるケントリッジ演出の《魔笛》。タミーノ役のブレスリックはいまや誰もが推す大スター。タミーノは若い頃から歌っているが、レパートリーを変えず、あたまの真ん中からぴーんと美しい線を描くように声を出す技術を維持しているのは素晴らしい。夜の女王に安井陽子さん、九嶋香奈枝さんがパミーナ・デビュー。パパゲーナには新国立劇場オペラ研修所出身の種谷典子さん。研修所で学んだ成果を発揮してほしい」●ワーグナー:さまよえるオランダ人(再演・2007年制作)新国立劇場「さまよえるオランダ人」2012年公演より撮影:三枝近志2025年1月19日(日)~2月1日(土)[全5公演]指揮:マルク・アルブレヒト演出:マティアス・フォン・シュテークマンオランダ人:エフゲニー・ニキティン(バス・バリトン)ゼンタ:エリザベート・ストリッド(ソプラノ)ほか大野「指揮者アルブレヒトに注目してほしい。オペラ指揮者として指折りの存在で、招聘が難しい指揮者の一人。何回もラブコールしてやっと初登場が叶った。オランダ人役には2012年の同役以来の登場のニキティン。威圧感があって、オランダ人の不思議な性格をよく表現することができるバス・バリトン。ゼンタには新国立劇場初登場のストリッド。“ユーゲント・ドラマティシュ”=若く劇的な声で適役。●ツェムリンスキー:フィレンツェの悲劇/プッチーニ:ジャンニ・スキッキ(再演・2019年制作)2025年2月2日(日)~2月8日(土)[全4公演]指揮:沼尻竜典演出:粟國淳(フィレンツェの悲劇)グイード・バルディ:デヴィッド・ポメロイ(テノール)シモーネ:トーマス・ヨハネス・マイヤー(バリトン)ビアンカ:ナンシー・ヴァイスバッハ(ソプラノ)(ジャンニ・スキッキ)ジャンニ・スキッキ:ピエトロ・スパニョーリ(バリトン)ラウレッタ:三宅理恵(ソプラノ)ほか大野「沼尻・粟國 の名コンビで生まれたプロダクション。シモーネに私たちの『マイスタージンガー』でハンス・ザックスを歌ったマイヤー。スキッキ役のスパニョーリは2017年の《フィガロの結婚》でアルマヴィーヴァ伯爵を歌っているが、その頃よりはるかに声が充実している。しかも面白いことができる歌手なので、ぜひにとお願いした」●ビゼー:カルメン新国立劇場「カルメン」2021年公演より撮影:寺司正彦2025年2月26日(水)~3月8日(土)[全5公演]指揮:ガエタノ・デスピノーサ演出:アレックス・オリエカルメン:サマンサ・ハンキー(メゾソプラノ)ドン・ホセ:アタラ・アヤン(テノール)エスカミーリョ:ルーカス・ゴリンスキー(バス・バリトン)ほか大野「2021年の新制作時はコロナ禍で、人と人の距離を離さなければならなかった。演出のオリエは今回、その距離を詰めて、声の交錯が浮かび上がっているようにしたいと、再来日してくれる。ホセ役のアヤンは若手ナンバーワンとして、強い声で将来を嘱望されているテノール。すでにカルメンで世界的に活躍しているハンキーの深い声と、彼の元気に満ちた強い声が、作品をより劇的にしてくれるはず」●プッチーニ:蝶々夫人2025年5月14日(水)~5月24日(土)[全4公演]指揮:エンリケ・マッツォーラ演出:栗山民也蝶々夫人:小林厚子(ソプラノ)ピンカートン:ホセ・シメリーリャ・ロメロ(テノール)ほか大野「蝶々さんを歌う小林厚子さんは、以前に高校生のためのオペラ鑑賞教室ではこの役を歌っているが、本公演ではこれがこの役のデビュー。彼女の大きなデビューになると思う」●ロッシーニ:セビリアの理髪師2025年5月25日(日)~6月3日(火)[全5公演]指揮:コッラード・ロヴァーリス演出:ヨーゼフ・E.ケップリンガーアルマヴィーヴァ伯爵:ローレンス・ブラウンリー(テノール)ロジーナ:脇園彩(メゾソプラノ)フィガロ:ロベルト・デ・カンディア(バリトン)ほか大野「アルマヴィーヴァのブラウンリー、ロジーナの脇園彩さん、フィガロのデ・カンディア、バジリオの妻屋さん。まさに総スター。これだけの歌手が揃った《セビリア》はなかなかないだろう。こんなにもいろんなキャラクターがあるのかというぐらい、登場人物によって歌い方が違う作品。お客さんにもそのキャラクターの違いを心から楽しんでもらええるはず」●細川俊夫:ナターシャ【新制作/創作委嘱作品・世界初演】2025年8月11日(月・祝)~8月17日(日)[全4公演]指揮:大野和士演出:クリスティアン・レートナターシャ:イルゼ・エーレンス(ソプラノ)アラト:山下裕賀(メゾソプラノ)メフィストの孫:クリスティアン・ミードル(バリトン)ほか大野芸術監督による日本人作曲家委嘱作品シリーズ第3弾。細川俊夫は、大野和士がエクサン・プロヴァンス音楽祭で世界初演した《班女》(2004)や、2018年に新国立劇場で上演された《松風》など、オペラ作品での評価も高い。新作《ナターシャ》は細川自身の原案によるオリジナルのストーリーで、しばしばノーベル文学賞候補の一人としても名の上がる作家・多和田葉子がオペラ台本を手がけているのも注目。新国立劇場の本公演としては異例の8月の公演。大野「この日本人委嘱シリーズで、私がずっと胸に抱いていた作曲家が細川俊夫さんです。どこか不思議な国の話。ウクライナ語を話すナターシャと日本語を話すアラトの二人が、なんとなく通じ合いながら旅をする。二人は現代のさまざまな問題で埋め尽くされている地下の世界へ下りていき、驚き、絶望しながらも、この地獄を自分たちの中に据え置いてはいけないのだと確信し、最初に出会った海辺に戻り肩を寄せ合う……。というのは私の想像(笑)。まだそこまで具体的にはなっていなくて、多和田さんの戯曲がほぼ完成して、そろそろ細川さんの作曲が始まるところです」この数年、コロナ禍で邪魔をされた格好ではあったが、大野監督の周到な計画がもう一度軌道に乗り始めたのを感じるラインアップ。古典から現代まで、喜劇から悲劇まで、オペラの魅力をたっぷり味わえるシーズンになりそうだ。文:宮本 明
2024年02月29日『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか? ──国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ』と題して、国立西洋美術館で初めて「現代美術」を大規模に展示する展覧会が開かれる。会期は3月12日(火)〜5月12日(日)の2カ月にわたる。20世紀前半までの西洋美術を収蔵/保存/展示する国立西洋美術館には、いわゆる「現代美術」は存在しない。しかし1959年に松方コレクションを母体として開館した国立西洋美術館の成立までの歴史を紐解いてみると、開館以後の同時代を生きるアーティストらが所蔵品に触発され、未来の芸術をつくる刺激の場になってほしいという願いがあったことがわかる。では、国立西洋美術館はそのような土壌となってきただろうか。開館から65年目にあたり、そうした問い直しのもとにこの展覧会が立ち上がった。参加アーティストは、内藤礼、長島有里枝、小沢剛、エレナ・トゥタッチコワ、ユアサエボシなど、世代もジャンルも幅広い。例えば、日本の近代彫刻史を研究している彫刻家・評論家の小田原のどかは、かねてから思い描いていた国立西洋美術館の所蔵品を活用した展示を行うという。写真家・鷹野隆大は、「歴史的名画が一般家庭に置かれたらどうなるか」というシミュレーションとなる展示を実施。違和感あるいは普遍性を感じるのか、どんな感覚が起こるか確かめたい。また、日本が西洋美術を受容する近代美術史を顧みながら「美術とは何か」を考え、絵画や陶芸などを制作、私塾やギャラリー運営などにも携わってきた梅津庸一も参加。梅津庸一自身として、また私塾「パープルーム」(梅津庸一+安藤裕美+續橋仁子+星川あさこ+わかもとさき)としても出展する。ほかにも、死者への鎮魂や亡き者への視点を変容させる絵画を描き、空間にインスタレーションする弓指寛治など、国立西洋美術館という枠組みの中で、あるいは枠組みを超えてどのように展開されるのか興味深い。<開催概要>『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか? ──国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ』会期:2024年3月12日(火)~5月12日(日)会場:国立西洋美術館時間:9:30~17:30、金土は20:00まで(入館は閉館の30分前まで)休館日:月曜(3月25日、4月29日、5月6日は開館)、5月7日(火)料金:一般2,000円、大学1,300円、高校1,000円公式サイト:
2024年02月26日戦後日本の写真史で最も重要な写真家の一人である中平卓馬。その初期から晩年までの活動を振り返る『中平卓馬火―氾濫』が東京国立近代美術館で2月6日(火) に開幕、4月7日(日) まで開催中だ。2003年に横浜美術館で開催された個展『中平卓馬:原点復帰―横浜』からは21年ぶり、本格的な回顧展は2015年に逝去してからは初となる。中平卓馬《無題 #437》2005年 東京国立近代美術館蔵 (C)Gen Nakahira ★これまで中平卓馬の展覧会の開催が難しかった理由の一つは、現存する初期作品があまりないことにある。制作の転換期に中平自らネガフィルムやプリントの大半を焼却してしまったのだ。今回の展覧会ではその空白を埋めるべく、中平がカメラマンおよび批評家として寄稿した雑誌などを展示し、初期の仕事からつぶさに紐解かれている。展覧会入口を飾る中平卓馬のポートレート1968年頃撮影:森山大道東京国立博物館蔵(C)Daido Moriyama Photo Foundation中平卓馬は1938年東京・原宿生まれ。60年代半ば、総合月刊誌『現代の眼』の編集者としてスタートし、写真家・東松照明との出会いを機に写真家に転身。2010年代初頭まで約50年にわたり活動を続けた。今展は「来たるべき言葉のために」(1964〜69年)、「風景・都市・サーキュレーション」(1970〜71年)、「植物図鑑・氾濫」(1972〜74年)、「島々・街路」(1975〜77年)、「写真原点」(1978〜2011年)の5章で構成。1〜4章は1977年に病により活動を中断するまでに当たり、最後の5章で再起から晩年までをたどる。それぞれの章の主な見どころを紹介しよう。まず1章「来たるべき言葉のために」では、主に1968年に美術評論家・多木浩二、詩人・岡田隆彦、写真家・高梨豊と刊行した写真同人誌『Provoke(プロヴォーク)』を紹介。「挑発する」という意味の誌名の通り、既存の写真表現になかった「アレ、ブレ、ボケ」、すなわち荒れた粒子、ノーファインダーの構図、ピントの合っていない不鮮明な写真で賛否両論を呼ぶ。2号から森山大道が加わり、3号で終刊した。なお、「プロヴォーク」以前に『現代の眼』『アサヒグラフ』など雑誌を主戦場に撮影・執筆した記事も紹介。高度経済成長に沸く社会に鋭い批評の眼を向けていたことが伝わる。写真同人誌『Provoke』1968-69年東京国立近代美術館蔵[無題]『Provoke』3号 1969年8月プロヴォーク社1969年東京国立近代美術館蔵寺山修司の連載「街に戦場あり」で撮影を担当した『アサヒグラフ』 1966年個人蔵2章「風景・都市・サーキュレーション」では、地下鉄、自動車、コンビナートなどを撮影した「風景」「都市」と題する作品が並ぶ。高度経済成長下で均質化する日本の風景。その背後に潜む国家や資本による権力構造について「風景論」と呼ばれた議論が起こる一方で、写真自体が消費的なイメージに加担してもいた。中平はそうしたジレンマを打ち破るべく、1971年「第7回パリ青年ビエンナーレ」で《サーキュレーション―日付、場所、行為》を発表。その日に出会うものすべてを写し、その日のうちに現像して焼き付け、その日のうちに展示することに奔走した。《サーキュレーション―日付、場所、行為》(シカゴ美術館での再現展示〈2017年〉の際のプリント)1971年(2016年にプリント)中平元氏蔵ところがさらに作風を一変する転換期が訪れる。3章「植物図鑑・氾濫」では、1973年に評論集『なぜ、植物図鑑か』で過去の自作を批判し、自らのイメージを世界に投影するのではなく、「植物図鑑」のように“あるがままを撮る”ことを目指した時期に焦点を当てる。1974年、東京国立近代美術館で開催されたグループ展「15人の写真家」に出品された《氾濫》も展示。樹脂ボードに直貼りされた48点のカラー写真からなる作品で、併せて2018年にプリントされた同作も展示されている。《氾濫》「15人の写真家」(1974年 東京国立近代美術館)出品作1974年東京国立近代美術館蔵さらに4章「島々・街路」では、沖縄や奄美諸島への渡航をきっかけに、「都市」から「島々」へと関心が広がる様子を紹介。沖縄でのデモで起訴された青年を支援するために1973年に初めて沖縄を訪れて以来、日本という国の枠組みを問い直すために、沖縄から奄美、吐噶喇(トカラ)列島へと足を延ばしていく。同じ頃、小説家・中上健次と香港やシンガポール、スペイン、モロッコなど海外にも出かけた。1976年にはフランス・マルセイユの画廊でグループ展に参加し、現地制作した《デカラージュ》を発表。《サーキュレーション―日付、場所、行為》《氾濫》と同様、美術館というシステムを撹乱し、乗り越えることを試みた。奄美、吐噶喇の写真1975-76年(2023年に本展のためにプリント)《デカラージュ》1976年、ADDA画廊(フランス・マルセイユ)での展覧会出品作中平元氏蔵ところが1977年、作家活動が突如中断に追い込まれる。急性アルコール中毒に襲われた中平は、倒れる前数年分の記憶を喪失。言語への障害も残ったのだった。最後の5章「写真原点」では、写真家としての再起を沖縄から始めた中平を追う。なかでもモノクロームからカラーへと移行し、タテ構図で世界の断片を切り取った写真群は圧巻だ。被写体に対して、初めて出会うもののように接近し、その事物の存在を切り取る。また、青森県八戸市での撮影風景を記録したドキュメント映像では、いつもの赤いキャップの生前の姿に出会える。「キリカエ」展(2011年)出品作の展示風景2011年東京国立近代美術館蔵(株式会社コム・デ・ギャルソン寄贈)「キリカエ」展(2011年)出品作の展示風景2011年東京国立近代美術館蔵(株式会社コム・デ・ギャルソン寄贈)病の前後で、それまでの思考や作風が連続しているとみるか、断絶しているとみるか。全体を通じて、ジャーナリスティックな視点も詩的な感性も持つ中平が、無意識の世界に飛び込み、ものや人や風景に出会い直していったようにも思われた。遺された実作と理論から、情報やイメージがますます氾濫する現代にも通じる問いかけを感じてほしい。取材・文・撮影(★をのぞく):白坂由里<開催概要>『中平卓馬火―氾濫』2024年2月6日(火)~4月7日(日)、東京国立近代美術館にて開催公式サイト:
2024年02月14日新国立劇場でバレエ『ホフマン物語』が上演される。スコティッシュ・バレエを率いた振付家、ピーター・ダレルによる全幕バレエで、新国立劇場では2015年に新たな美術、衣裳で上演、今回が再再演となる。幕ごとに20代、30代、40代のホフマンの物語が語られるが、各幕でホフマンが恋する女性を主役級女性ダンサーたちが競演する華やかさも魅力。本作三度目の取り組みとなるプリンシパル、小野絢子と米沢唯に、役作りや見どころについて聞いた。ホフマン青年時代の恋人は、バレリーナに憧れる女性まず尋ねたのは、ふたりが演じるアントニアについて。第1幕で人形のオリンピアに恋をしたホフマンだが、続く第2幕ではバレリーナになることを夢見る、ピアノ教師の娘アントニアと恋仲になっている。小野 『ホフマン物語』は、プロローグに登場する初老のホフマンが、過去の三人の女性にまつわる物語を振り返ります。アントニアは彼の青年時代の恋人。オペラでは、歌が大好きだけれど心臓が弱く、歌うと死んでしまうという女性ですが、私たちはバレエに置き換えて表現します。(撮影:鹿摩隆司)米沢 ホフマンの人生の中で、たったひとりの、愛が通じ合った相思相愛の恋人です。この第2幕は多分、ホフマンの人生で一番幸せだった時期ではないでしょうか。小野 この幕には、「ザ・」バレエ・シーンといえる場面があるんです。そこでのアントニアは、アントニアではあるけれどアントニアではない──彼女が夢見ていたバレリーナになって踊るのですが、パートナーは、ホフマン!彼女の中ではそこでもパートナーは彼がいい、ということなのでしょう。理想のパートナーとしてホフマンを巻き込んでしまうんですね(笑)。米沢 普通の女の子からプリマ・バレリーナへ、短時間でガラッと印象が変わるのは大きな見どころですし、演じがいがあります。恋人のホフマンに対して、突然「(つんとすまして)私を持ち上げなさい」というような雰囲気の大プリマになるんですから(笑)。小野 ブレることなく好きなものがあるというのは、バレエ作品のヒロインらしいところですね。米沢 命をかけてでもどうしても踊りたいという思いに突き動かされ、ミラクル博士(実は悪魔)に理性のたがを外され、突っ走った先に死を迎える──大好きなホフマンさえも置いて!そんな情熱的なところにぐっときます。三人目の女性ジュリエッタは“非現実的”アントニアは、プリンシパルとして数々のヒロインを演じてきたふたりにぴったりの役柄といえる。米沢はさらに別日程で、第3幕に登場する三人目の女性ジュリエッタも演じる。年齢を重ね、宗教に帰依したホフマンを誘惑する高級娼婦だ。(撮影:鹿摩隆司)米沢 彼女は完全に 、“女王”。ホフマンを連れてくるのはボスのダーパテュート(実は悪魔)ですが、彼女はホフマンの中にある欲望の世界、そのトップに君臨している女王だと私は考えています。どこか非現実的で、アントニアのように血の通った人という感じがしないように思いませんか?小野 彼の中の気持ちの揺らぎみたいなものを象徴しているように思えますよね。まるで『白鳥の湖』で黒鳥が現れたときと同じく、勝手に落ちていくようにも見受けられます。米沢 誘うとすぐついてきますから(笑)。ホフマンが自分で十字架を作って突き出すというシーンも印象的ですが、それは彼が、彼自身の中にある十字架を持って立ち上がる、ということなのかなと思います。ホフマン役の中でもかなりのハイライトではないでしょうか。このシーンはアントニアの話とも繋がっていると思うんです。彼女の死をずっと悼み続けていても、どうしても女性というものに惹かれてしまう。でも最後は、彼が強く立ち上がることによってダーパテュートとジュリエッタは消え失せる──。それは、十字架からダーパテュートとジュリエッタが逃げたというよりも、彼が立ち上がった、ということが重要なのかなと思うんです。その後、エピローグには再び、初老のホフマンの恋人、オペラ歌手のラ・ステラが登場する。米沢 彼女はオリンピア、アントニア、ジュリエッタという3人の魅力の全てを持ち合わせている人。歌を歌い、丈夫な身体も持っているし、可愛らしさも色気もある。全部を兼ね備えた存在なのだけれど、結局ホフマンはともに生きていくことができない。すべて悪魔が邪魔していることになっていますが、多分、彼自身の問題なのだろうなと思います。小野 人間らしさにあふれたバレエですよね。現実というものはが思いきり描かれている感がある。でもだからといって救いがない感じもしない。ホフマンは辛い思い出を拒絶しているようには感じられません。それらを胸に抱きながら、生きようとしている。だからこそ、初老となったホフマンもただの偏屈で嫌なおじさんではなく、人々が寄ってくるような、愛すべき人物なんですよね。ちょっと影があって──。それが、ホフマンの魅力であり、この物語の魅力なのかなと感じます。(撮影:鹿摩隆司)彼は全然ヒーローではないし、駄目なところもいっぱい見せるし、第1幕ではわりと鼻につくところもある(笑)。舞台を観て、ちょっと自分のことも見直して──という人もいるのではないかなと思います。大人の方は、いろいろ深く感じていただける作品ではないでしょうか。ホフマンを悪の道へと引きずり込む“悪女”に意欲今回の公演では小野は日替わりでふたりのホフマン(福岡雄大、奥村康祐)と対峙し、米沢も二つの役ごとに別のホフマン(井澤駿、奥村康祐)と組んで踊る。相手が変わることで、踊り方や表現は変わってくるのではないだろうか。(撮影:鹿摩隆司)小野 それぞれに違うものになりますし、この作品に関してはやはりホフマンが主導してどんどん物語を組み立てていく。ホフマンの舵取りに従っていくことで、一本筋が通ることになりますから、そこは注意深く取り組んでいきたいですね。男性(ホフマン役)にとってはとんでもない難役だと思います。経験、技術、感性、ダンサーというか、アーティストとしての力量が試される。各々がどのようなホフマンをつくりあげてくるのか、私はとても楽しみにもしています。米沢 私の場合は、どちらの役ものびのびと楽しく、です。ジュリエッタ役として(奥村)康祐さんを悪の道に引き込むのはめちゃくちゃ楽しいです(笑)。2018年に一緒に踊った(福岡)雄大さんのホフマンも好きでした。抗いきれない欲望に苦しんで、とても魅力的な顔をするんです。今回、康祐さんがどんな表現をするのか、すごく楽しみです。(撮影:鹿摩隆司)その可憐な容姿からは想像もつかない発言だが──。米沢 ある時期から──『マクベス』(ウィル・タケット振付、2023年4月世界初演)くらいから吹っ切れて、悪女を演じることが楽しくなりました。以前は一所懸命、自分の内面を迷いながら探ってというところがありましたが。“ホワイト”の役も好きですから、両方できるというのはすごくありがたいです。今回の公演では前芸術監督の大原永子も駆けつけ、リハーサルを指導。スコティッシュ・バレエのプリンシパルとしてピーター・ダレルの薫陶を受け、新国立劇場での本作の上演実現を牽引した彼女だけに、ダンサーたちは皆、大きな信頼を寄せる。米沢 大原先生はよく「ダレルさんは手の使い方が独特」とおっしゃっていました。普通のポール・ド・ブラ(腕の動き)よりもう一つ内側、身体の近くを通りなさい、と。また男性と組むとき、両手を繋いで複雑に絡ませて手で体を回すといった動きが多く、覚えるのが大変でした。一見さらっと踊っているように見えて“玄人受け”する振付ではないかと思います。(撮影:鹿摩隆司)小野 今回、大原先生にリハーサルを見ていただくのは久しぶり。この作品に命を、エネルギーを吹き込んでくださいます。先生がこの作品を振付家から直接習われたということはとても大きいこと。スコティッシュ・バレエではオリンピア、アントニア、ジュリエッタを全部踊られていて、この作品に対して強い思い入れもある。もちろん、リハーサルでは苦労することもあるけれど、先生に指導していただくことで方向性がしっかりと決まりますから、安心ですね。(撮影:鹿摩隆司)取材・文:加藤智子<公演情報>新国立劇場バレエ団『ホフマン物語』振付・台本:ピーター・ダレル音楽:ジャック・オッフェンバック編曲:ジョン・ランチベリー美術:川口直次衣裳:前田文子照明:沢田祐二出演:新国立劇場バレエ団指揮:ポール・マーフィー管弦楽:東京交響楽団2024年2月23日(金・祝)~2月25日(日)会場:東京・新国立劇場 オペラパレスチケット情報:()公式サイト:
2024年02月10日新国立劇場 2023 / 2024シーズン『デカローグ 1~10』が、4月13日(土) から7月15日(月・祝) に東京・新国立劇場 小劇場で上演される。このたび、演出を務める新国立劇場演劇芸術監督の小川絵梨子によるコメントが到着した。ポーランドの名匠クシシュトフ・キェシロフスキが発表した『デカローグ』。旧約聖書の十戒をモチーフに1980年代のポーランド、ワルシャワのとある団地を舞台にした、そこに住む人々の普遍的な愛と人間の弱さを描いた、十篇の連作集だ。本公演は全10話を大きく3つのタームに分け、4月から5月は『デカローグ1~4』を、5月から6月は『デカローグ5~6』を、そして6月から7月は『デカローグ7~10』を上演。総勢40名以上のキャストが出演する。小川は本作について「登場人物たちは皆、どこにでも存在し得る隣人として描かれており、日常を生きる中で一つ一つの選択に悩み、葛藤し、時には失敗をしたり後悔もします。また、どの選択が正しかったのか振り返った時にも分からず、曖昧で孤独な不安の中に取り残される事もあります。各エピソードは十戒をモチーフにしていますが、決して人間を裁き断罪する物語ではなく、寧ろ、人間を不完全な存在として認め、その迷いや弱さも含めて向き合うことを描いた物語となっています。そこには正解もハッピーエンドもないかもしれませんが、人間をそのままに見つめ寄り添う視点の奥底には、人への根源的な肯定と愛が流れているように感じます」とコメント。また「世界各地で戦争は続き、日々の生きづらさや、人生を生きることへの不安が簡単に消えることはありませんが、人間という存在への深い愛情と希望、そしてたとえ到達出来なくとも、人がより良い世界に向けて葛藤し続けることの必然と大切さを、この十篇の物語を通して少しでも描く事が出来たら幸いです」と思いを語っている。■小川絵梨子 コメント全文『デカローグ』は人生と愛についての連作集です。十篇がそれぞれ独立した作品でありつつ、登場人物はみな同じ団地の住人であることから互いに繋がってもおり、十篇が壮大な一つの物語ともなっています。 登場人物たちは皆、どこにでも存在し得る隣人として描かれており、日常を生きる中で一つ一つの選択に悩み、葛藤し、時には失敗をしたり後悔もします。また、どの選択が正しかったのか振り返った時にも分からず、曖昧で孤独な不安の中に取り残される事もあります。各エピソードは十戒をモチーフにしていますが、決して人間を裁き断罪する物語ではなく、寧ろ、人間を不完全な存在として認め、その迷いや弱さも含めて向き合うことを描いた物語となっています。そこには正解もハッピーエンドもないかもしれませんが、人間をそのままに見つめ寄り添う視点の奥底には、人への根源的な肯定と愛が流れているように感じます。世界各地で戦争は続き、日々の生きづらさや、人生を生きることへの不安が簡単に消えることはありませんが、人間という存在への深い愛情と希望、そしてたとえ到達出来なくとも、人がより良い世界に向けて葛藤し続けることの必然と大切さを、この十篇の物語を通して少しでも描く事が出来たら幸いです。<公演情報>新国立劇場 2023 / 2024シーズン『デカローグ 1~10』2024年4月13日(土)~7月15日(月・祝) 東京・新国立劇場 小劇場原作:クシシュトフ・キェシロフスキ/クシシュトフ・ピェシェヴィチ翻訳:久山宏一上演台本:須貝英演出:小川絵梨子/上村聡史デカローグ1~4(プログラムA&B 交互上演)公演日程:2024年4月13日(土)~5月6日(月・休)●プログラムA(デカローグ1、デカローグ3)デカローグ1:ある運命に関する物語演出:小川絵梨子出演:ノゾエ征爾 高橋惠子チョウヨンホ 森川由樹 鈴木勝大 浅野令子亀田佳明デカローグ3:あるクリスマス・イヴに関する物語演出:小川絵梨子出演:千葉哲也 小島聖ノゾエ征爾 浅野令子 鈴木勝大 チョウヨンホ 森川由樹亀田佳明●プログラムB(デカローグ2、デカローグ4)デカローグ2:ある選択に関する物語演出:上村聡史出演:前田亜季 益岡徹坂本慶介 近藤隼 松田佳央理亀田佳明デカローグ4:ある父と娘に関する物語演出:上村聡史出演:近藤芳正 夏子益岡徹 松田佳央理 坂本慶介 近藤隼亀田佳明デカローグ5~6(プログラムC)公演日程:2024年5月18日(土)~6月2日(日)●プログラムC(デカローグ5、デカローグ6)デカローグ5:ある殺人に関する物語演出:小川絵梨子出演:福崎那由他 渋谷謙人 寺十吾斉藤直樹 内田健介 名越志保 田中亨亀田佳明デカローグ6:ある愛に関する物語演出:上村聡史出演:仙名彩世 田中亨寺十吾 名越志保 斉藤直樹 内田健介亀田佳明デカローグ7~10(プログラムD&E 交互上演)公演日程:2024年6月22日(土)~7月15日(月・祝)●プログラムD(デカローグ7、デカローグ8)デカローグ7:ある告白に関する物語演出:上村聡史出演:吉田美月喜 章平 津田真澄大滝寛 田中穂先 堀元宗一朗 笹野美由紀 伊海実紗亀田佳明デカローグ8:ある過去に関する物語演出:上村聡史出演:高田聖子 岡本玲 大滝寛田中穂先 章平 堀元宗一朗 笹野美由紀 伊海実紗亀田佳明●プログラムE(デカローグ9、デカローグ10)デカローグ9:ある孤独に関する物語演出:小川絵梨子出演:伊達暁 万里紗 宮崎秋人笠井日向 鈴木将一朗 松本亮 石母田史朗亀田佳明デカローグ10:ある希望に関する物語演出:小川絵梨子出演:竪山隼太 石母田史朗鈴木将一朗 松本亮 伊達暁 宮崎秋人 笠井日向亀田佳明チケット情報:()公式サイト:
2024年02月01日グランド ハイアット 東京は、国立新美術館で開催される展覧会「マティス自由なフォルム」に合わせ、アンリ・マティスの切り絵作品《花と果実》から着想を得た「スプリング アフタヌーンティー ブッフェ」を2期に分け開催。第1期は2024年3月1日(金)から4月15日(月)まで、第2期は4月16日(火)から5月27日(月)まで。《花と果実》の爽やかなカラーに着目した限定ブッフェ第2期では《花と果実》のグリーンやブルーの色味に焦点を当て、爽やかなカラーをまとったメニューが登場。濃厚な“抹茶”や香ばしい“ピスタチオ”をふんだんに使用したスイーツ&セイボリーを提供する。“抹茶&ピスタチオ”のスイーツたとえば、美しいライトグリーンのムースは、香り高いピスタチオと甘酸っぱいラズベリーを合わせて仕上げている。そのほかにも、シュー生地に濃厚な宇治抹茶クリームをサンドしたスイーツや、抹茶シロップに漬け込んだスポンジを用いたチーズケーキなど、見た目も味も上品なデザートを用意した。美しいブルーのゼリーまた、マティス作品の中でもひと際目を引く“鮮やかなブルー”を表現した「バタフライピーティーゼリー」にも注目。涼しげなカラーのゼリーは、見ているだけで初夏の訪れを感じられそうだ。新緑を思わせる贅沢なセイボリーさらにセイボリーには、ほうれん草のピューレにケールとベーコンを合わせたキッシュや、自家製スモークサーモンのムースとピスタチオをあしらったタルトレットなど、全5種のメニューを揃えた。新緑を思わせるような鮮やかなビジュアルとともに、本格的な料理を堪能できる。詳細スプリング アフタヌーンティー ブッフェ~抹茶&ピスタチオ~提供期間 :2024年4月16日(火)~5月27日(月)提供時間 :15:00~17:00(最終入店 15:30)※平日 120分、土・日・祝日 90分制場所:グランド ハイアット 東京 2階 オールデイ ダイニング「フレンチ キッチン」住所:東京都港区六本木6-10-3料金:平日 5,940円、土・日・祝日 7,590円 ※サービス料15%別<メニュー>■スイーツフラワーバニラムース、ピスタチオとラズベリーのムース、抹茶パリブレスト、抹茶クレームダンジュ、ストロベリーショートケーキ、バタフライピーティーゼリー■セイボリーほうれん草 ケール ベーコンのグリーンキッシュ、パテ・ド・プロヴァンサルのイベリコハムロール そら豆 バジルクリーム、スモークサーモンのムースとピスタチオのタルトレット、チキン きゅうり 抹茶マヨネーズのサンドイッチ、グリーンベジタブルスティック アボカドとクリームチーズのディップ■スコーンプレーン、抹茶、クローテッドクリーム オレンジジャム■紅茶ティーブランド「ART OF TEA」の紅茶※別途カフェラテ(アイス、ホット)やカプチーノ(アイス、ホット)なども選択可能【問い合わせ先】「フレンチ キッチン」TEL:03-4333-8781(直通)
2024年01月28日グランド ハイアット 東京は、国立新美術館で開催される展覧会「マティス自由なフォルム」に合わせ、アンリ・マティスの切り絵作品《花と果実》から着想を得た「スプリング アフタヌーンティー ブッフェ」を2期に分け開催。第1期は2024年3月1日(金)から4月15日(月)まで、第2期は4月16日(火)から5月27日(月)まで。アンリ・マティス《花と果実》着想のアフタヌーンティーブッフェ第1期では、“桜&ストロベリー”の春らしい要素を落とし込んだメニューがラインナップ。《花と果実》の中でもピンクやイエロー、オレンジなど、明るい色彩からインスピレーションを受けたスイーツの数々を展開する。“エディブルフラワー”のムースケーキ中でも注目は、可憐な花々が目を惹くバニラムースケーキ。カラフルなエディブルフラワーを透明なゼリーの中に散りばめて、美しい見た目に仕上げた。そのほか、真っ赤に熟したいちごを使用したストロベリータルトや、切り絵をイメージし、色鮮やかなチョコレートをのせたチョコレートムースなど、マティスの切り絵作品を連想させるようなスイーツがブッフェ台を彩る。桜を味わうショートケーキやゼリーまた、桜のエッセンスを加えたメニューも華やかなビジュアルで登場。桜のシロップを浸み込ませたスポンジに桜の生クリーム重ねたショートケーキや、みずみずしいいちごと桜を合わせたゼリーなど、春の訪れを感じるスイーツを堪能することができる。南フランスの家庭料理を再現したセイボリーセイボリーでは、マティスが愛した南フランス・プロヴァンスの家庭料理がお目見え。特に「ラタトゥイユのキッシュ」は、トマトソースではなくあえてフレッシュなトマトを使用することで、ズッキーニやたまねぎ、パプリカなど、野菜の食感を活かした味わいが魅力となっている。なお、「スプリング アフタヌーンティー ブッフェ」第2期では、《花と果実》のグリーンやブルーの色味に焦点を当て、抹茶&ピスタチオをメインとしたスイーツやセイボリーを用意する。詳細スプリング アフタヌーンティー ブッフェ~桜&ストロベリー~提供期間 :2024年3月1日(金)~4月15日(月)提供時間 :15:00~17:00(最終入店 15:30)※平日 120分、土・日・祝日 90分制場所:グランド ハイアット 東京 2階 オールデイ ダイニング「フレンチ キッチン」住所:東京都港区六本木6-10-3料金:平日 5,940円、土・日・祝日 7,590円 ※サービス料15%別<メニュー>■スイーツフラワーバニラムース、桜とホワイトチョコレートのムース、桜&ストロベリーショートケーキ、桜パリブレスト、ストロベリータルト、桜クレームダンジュ、桜&ストロベリーゼリー■セイボリーラタトゥイユのキッシュ、パテ・ド・プロヴァンサルのイベリコハムロール いちご バジルクリーム、スモークサーモンムースのタルトレット 桜エビを添えて、低温調理したチキンブレスト いちご 桜マヨネーズのサンドイッチ、カラフルベジタブルスティック 桜クリームチーズのディップ■スコーンプレーン、桜、クローテッドクリーム ストロベリージャム■紅茶ティーブランド「ART OF TEA」の紅茶※別途カフェラテ(アイス、ホット)やカプチーノ(アイス、ホット)なども選択可能【問い合わせ先】「フレンチ キッチン」TEL:03-4333-8781(直通)
2024年01月28日東京国立近代美術館では、「美術館の春まつり」を2024年3月15日(金)から4月7日(日)まで開催する。桜など春にちなんだ作品が集結桜の開花時期に合わせて、東京国立近代美術館で開催される毎年恒例の「美術館の春まつり」。期間中は、所蔵品ギャラリーの所蔵作品展「MOMATコレクション」にて、桜をはじめとする花を描いた作品などを含めた作品約200点を、12の展示室ごとにテーマを設けて様々な切り口から紹介する。会場では、春の時期のみ公開する東京国立近代美術館の代表作のひとつ、川合玉堂による重要文化財《行く春》、雨に濡れる吉野の桜を描いた菊池芳文《小雨ふる吉野》などを展示。また、木の枝や桜など自然を対象とした絵を多く描いた現代作家・児玉靖枝の《ambient light - sakura》のほか、“樹”をモチーフにし続けてきた日高理恵子、20世紀に活躍したスイスの画家、パウル・クレーらによる春にちなんだ作品も鑑賞することができる。開催概要「美術館の春まつり」会期:2024年3月15日(金)~4月7日(日)会場:東京国立近代美術館住所:東京都千代田区北の丸公園3-1開館時間:10:00〜17:00(金・土曜は20:00まで)※入館はいずれも閉館30分前まで※同時開催の企画展「中平卓馬火―氾濫」■所蔵作品展 「MOMATコレクション」会期:2024年1月23日(火)~4月7日(日)会場:4-2階 所蔵品ギャラリー観覧料:一般 500円、大学生 250円※金・土曜日の17:00以降は一般 300円、大学生 150円※高校生以下および18歳未満、65歳以上、障害者手帳の所持者と付添者は無料※所蔵作品展入館当日にかぎり、コレクションによる小企画「新収蔵&特別公開|ジェルメーヌ・リシエ《蟻》」も観覧可■同時開催・企画展「中平卓馬火―氾濫」会期:2024年2月6日(火)~4月7日(日)会場:1階 企画展ギャラリー観覧料:一般 1,500円、大学生 1,000円※高校生以上および18歳未満、障害者手帳の所持者と付添者は無料※企画展入館当日にかぎり、所蔵作品展「MOMATコレクション」、コレクションによる小企画「新収蔵&特別公開|ジェルメーヌ・リシエ《蟻》」も観覧可・コレクションによる小企画「新収蔵&特別公開|ジェルメーヌ・リシエ《蟻》」会期:2024年1月23日(火)~4月7日(日)会場:2階 ギャラリー 4※所蔵作品展「MOMATコレクション」の観覧料で鑑賞可【問い合わせ先】TEL:050-5541-8600 (ハローダイヤル)
2024年01月26日『消えていくなら朝』が、2025年7月から8月にかけて新国立劇場 小劇場ほかで上演されることが決定した。本公演は、小川絵梨子芸術監督がその就任とともに打ち出した支柱のひとつである、すべての出演者をオーディションで決定するフルオーディション企画の第7弾。『消えていくなら朝』は、2018年に新国立劇場に書き下ろされ、第6回ハヤカワ「悲劇喜劇」賞を受賞した作品で、今回はその作家でもある蓬莱竜太が演出を担当する。出演者の応募は2024年1月12日(金) より開始。2月から3月にかけてオーディションを実施し、合格者は2025年5月下旬よりスタートする稽古を経て、7月の公演に出演する。■小川絵梨子芸術監督 コメント『かもめ』、『反応工程』、『斬られの仙太』、『イロアセル』、『エンジェルス・イン・アメリカ』、『東京ローズ』と続き、フルオーディションでの公演は今回で7作品目となります。本作『消えていくなら朝』は、蓬莱竜太さんが以前、新国立劇場に書き下ろしてくださった、ある家族の物語です。安心や帰属の基盤となる一方、背負わざるを得ない宿命ともなり得る、最も原初的な人間の関係性。自らの根幹の一部として向き合わざるを得ない家族の現実、そして、繋がりの裂け目から溢れるように表出してくる確執や葛藤、悲しみや罪悪感の感情、そして受容への希求が鮮烈に浮き彫りされていきます。普遍的な家族の物語であると同時に、宗教二世の問題にも踏み込んだ本作は、今の社会においてより切実に響き渡る物語であると思います。『消えていくなら朝』へのオーディションへ是非ご参加いただけましたら幸いです。オーディションにて、たくさんの新しい方々との出会いとたくさんの嬉しい再会がありますことを祈っております。ご応募をお待ちしております。何卒、よろしくお願い申し上げます。■作・演出:蓬莱竜太 コメントこの作品は2018年に新国立劇場に書き下ろした作品です。当時の芸術監督であった宮田慶子さんから執筆のオファーをいただき、僕自身は演出をしないという大前提があったからこそ書けた作品でもありました。僕の中では結構思い切った作品でした。自分のコアのような部分に触れたり、時には叩いてみたり、踏んづけたりするような感じがありました。今回この作品で演出をしませんか、フルオーディションでやりませんか、という依頼をいただいた際には、そう来たかと、色々な意味で震える思いをしました。応募してくださる方も挑戦ですが、間違いなく僕にとっても挑戦になります。戯曲執筆時に想定していた、役それぞれの年齢設定を書きましたが、その設定にこだわらずに、どんどん応募してくださったら嬉しいです。共に模索しながら、共に悩みながら、新たな作品を生み出せたらと思っています。<公演情報>『消えていくなら朝』作・演出:蓬莱竜太芸術監督:小川絵梨子公演日程:2025年7月~8月中旬予定会場:新国立劇場 小劇場ほかオーディション詳細はこちら:
2024年01月11日戦後日本を代表する伝説的写真家・中平卓馬の約20年ぶりの大回顧展が、 2024年2月6日(火)から4月7日(日)まで、竹橋の東京国立近代美術館で開催される。初期から晩年までの約400点の作品と資料を展示する没後初の本格的な回顧展である。中平卓馬(1938-2015)は、日本の戦後写真の転換期となった1960年代末から70年代半ばにかけて、実作と理論の両面において大きな足跡を記した写真家だ。1960年代末に「アレ・ブレ・ボケ」と称された、既成の写真美学を逸脱した作品を発表した中平だが、1973年の評論集で自己批判と方向転換の宣言を行い、翌年にはカラー作品《氾濫》を発表。1977年に急性アルコール中毒による昏倒で記憶喪失に陥って活動を中断するも、再起をはたし、2010年代初めまで写真家として活動を続けている。こうした中平の存在は森山大道や篠山紀信ら同時代の写真家を刺激し、後続世代にも多大な影響を与えてきたが、そのキャリアを彩る劇的なエピソードが、かえって中平像を固定し、その仕事の詳細を見えにくくする面もあったという。同展は、その中平の仕事を改めて丁寧にたどり、再検証する試みだ。1970年代半ばの模索期の仕事や、再起後の作品の位置づけなどに特に焦点をあてている。大きな見どころは、多くの未公開作が並ぶこと。近年になってその存在が確認された《街路あるいはテロルの痕跡》のヴィンテージ・プリントや、日本では未公開の《デカラージュ》などが特に注目される。また、1974 年の東京国立近代美術館での『15 人の写真家』展に出品された48点組の大作《氾濫》が、半世紀ぶりに同じ会場に並ぶことも話題となろう。この《氾濫》をはじめとしたカラー写真の重要作が一挙に展示されること、また中平が社会にイメージを流通させる手段として重視していた雑誌の仕事を掘り下げるため、多数の掲載誌が紹介されるのも見どころとなっている。常に時代や社会に批判的に対峙し、ラディカルな挑発の姿勢を貫いた写真家だった中平は、没後も国内外で大きな関心を集めている。同展は、充実した作品群と資料とともに、近年の研究成果も交え、中平の思考と実践の軌跡をたどれる待望の展覧会だ。<開催概要>『中平卓馬火―氾濫』会期:2024年2月6日(火)~4月7日(日)会場:東京国立近代美術館1F 企画展ギャラリー時間:10:00~17:00、金土は20:00まで(入館は閉館30分前まで)休館日:月曜(2月12日、3月25日は開館)、2月13日(火)料金:一般1,500円、大学1,000円公式サイト:
2024年01月11日新国立劇場バレエ団 2023/2024シーズン『くるみ割り人形』が、12月22日(金) に東京・新国立劇場 オペラパレスで初日を迎えた。新国立劇場バレエ団では、少女クララがクリスマスに見た夢と冒険を通して成長する姿を描くイーグリング版を2017年より上演。まさに夢の中の浮遊感を表すような複雑なリフトが多く用いられ、主役から群舞まで高度なパートナリングや多彩なステップで魅せる新国立劇場バレエ団ならではの舞台で、新国立劇場の冬の風物詩として多くの人に愛されている。公演期間は2024年1月8日(月・祝) までで、全17公演が予定されている。<公演情報>新国立劇場バレエ団 2023/2024シーズン『くるみ割り人形』振付:ウエイン・イーグリング音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー指揮:冨田実里 ほか管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団合唱:東京少年少女合唱隊出演:新国立劇場バレエ団公演日程:2023年12月22日(金)~2024年1月8日(月・祝) 東京・新国立劇場 オペラパレスチケット情報:()公式サイト:
2023年12月25日