時代の空気とそこに生きる人々の秘めたる本音を、絶妙な比喩を交えて表現してきた朝井リョウさん。そんな朝井さんが作家生活10周年記念作品として、昨年に『スター』(朝日新聞出版)を、そしてこの3月に『正欲』(新潮社)を刊行した。「『スター』は初めての週刊連載だったので、次々に展開するグルーヴ感のある作品を目指していました。一方、人間の欲望をテーマにした『正欲』は書き下ろしだったので、衝動のままに書くというか、読み手にとって咀嚼しにくい作品になるかもと思っていました。それで前者を〈白版〉、後者を〈黒版〉と名づけたんです。でも、完成してみれば、『スター』は閉所で誰かと誰かがずっと対話をしている話で、逆に『正欲』は、私の本の中で“生きる”ということにいちばん前向きな本になったと感じています。本当に小説って計画通りにいかないんです。ただ、『正欲』を書きながら、この数年で明確化してきた、“生と死のうち生を選ぶとして、その理由になり得るものとは”というテーマに少し向き合うことができた気がしていて、それはよかったなと感じています」朝井さんの言葉は強い。デビュー作のタイトルは、10年経ったいまもさまざまにもじられる言葉として定着している。また本書では、性欲と重なる音に「正」の字を当てはめたタイトルにしたことで、性的欲求だけではなく、生きる上でおろそかにできない承認欲求や生存欲求のような欲も俎上に乗せた。たった2文字で、正しい欲とは何か、それを誰がジャッジするのか、と突きつけられているかのようだ。「〈正欲〉という題名は執筆前から決まっていました。欲はすごく個人的なことで、正はすごくパブリックなイメージの文字。そのアンバランスさが居心地の悪さを醸し出してくれるかなと。性欲はずっと書きたいテーマだったのですが、それをテーマに据えたとして説得力が出る自分なのかと、ずっと躊躇していました」不登校児の息子を持て余している検事の寺井啓喜、自分は〈正しい命の循環〉から外れていると感じている寝具店勤務の桐生夏月、学祭の実行委員として〈ダイバーシティフェス〉を仕切る大学生の神戸八重子が、代わる代わる語り手を務め、物語は進む。冒頭に置かれているのは、ある手記と衝撃的な事件の記事だ。語り手を含め、それらに何かしらの形で関わる人々が、自らが直面している問題を語っていく。作中には、性的指向をひた隠しにしている人物も出てくる。それは決して、多様性を認めようという建前だけでは解決しない苦悩も孕んでいる。多様性という言葉にしても、〈清々しいほどのおめでたさでキラキラしている言葉〉〈話者が想像しうる“自分と違う”にしか向けられていない言葉〉と評し、安易に是としないところが朝井さんらしい。「好きな顔のタイプとかはよく聞く話ですが、他のパーツ、たとえば膝とかの好みってなかなか聞かない。同じ体でも人を興奮させる部位とそうでない部位があるということがずっと不思議でした。『正欲』には、そういうレベルのものを筆頭に、ずっと頭の中に流れていたさまざまな回路が集合しています。どんな話題にも、それっぽい答えみたいな言葉はあると思うんです。たとえばコロナ禍でのステイホーム。私も色々と準備をして家にいられる状況を整えました。家庭ごみの清掃業者の方々の大変さに気付いたのはかなり後のことでした。それっぽい答えに安住しているときほど視野は狭まる。全員の暮らしやすさや生きやすさが実現するまでには、どうしても順番が生まれてしまう――色々と実感しました。もっと言えば、最後まで順番が回ってこない人もいるような世界で、それでも生きるほうを選ぶきっかけになり得る言葉に巡り合いたい。これは今後の課題でもあります」装幀にも一瞬で掴まれる。「メインテーマである“欲”を彷彿とさせるので、人間を含めた動物を表紙にしたかったんです。写真家の友人に相談したら、菱沼勇夫さんの作品を教えてもらいまして、内容にとても惹かれました。鑑賞者を集中させる力がすごいんです。菱沼さんの作品からは、私たちにはきっと理解ができないレベルの、被写体への執着のようなものを感じます。鴨の写真を表紙に選んだ理由は幾つもありますが、せっかく読者の方が考察してくださっているので、変に限定せずにおこうかなと思います」小説家として10年が経ち、何か変化はあったのだろうか。「私はこれまで、小説を書くときに社会を反映した広い視野を持たなければという強迫観念みたいなものがありました。やはり若いときに直木賞という大きな賞をいただいたことで自縄自縛しがちだったのですが、今回思ったのが、広い視野を持つ努力よりも狭い視野の人をたくさん書く努力のほうが向いているかも、ということです。そうすれば、極狭な私自身の視野でも小説を書ける気がする。こういう感じで、自分の中にある、できないことやわからないことへの恐怖心が少し減ったのも変化かもしれません。それは、先ほど少し触れた今後の課題に関わってくることでもあります。『死にがいを求めて生きているの』あたりから、もう生きている理由はないからと終わりを選ぼうとする自分、または誰かがいるとして、そのとき機能しうる言葉を私は見つけられているのだろうかとずっと考えているんです。その言葉を見つけ出す作業は、小説や読者のためというより自分のために、今後も続けていくと思います」変化する時代の中で、作品の質や価値はどう変わっていくのかを考察した『スター』に続く最新刊『正欲』。あらゆる欲望は、多様性という美辞麗句ですべて肯定できるのかと問いかける。新潮社1870円あさい・りょう作家。1989年、岐阜県生まれ。2009年、『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。’13年、『何者』で直木賞を、’14年、『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞を受賞。※『anan』2021年5月19日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年05月18日菅野美穂、高畑充希、尾野真千子といった豪華女優陣が、瀬々敬久監督の最新作『明日の食卓』に出演決定。菅野さんは『ジーン・ワルツ』以来10年ぶりの映画主演を果たす。原作は、2002年に第42回講談社児童文学新人賞を受賞した「十二歳」で作家デビュー後、「しずかな日々」で第45回野間児童文芸賞、第23回坪田譲治文学賞を受賞、「昔はおれと同い年だった田中さんとの友情」で第69回小学館児童出版文化賞を受賞した椰月美智子による「明日の食卓」。本作に挑んだのは、菅田将暉と小松菜奈W主演の『糸』や綾野剛主演の『楽園』、そして『8年越しの花嫁奇跡の実話』を生み出した佐藤健と再びタッグを組んだ『護られなかった者たちへ』の公開が控え、精力的に作品を生み出している瀬々敬久監督。物語に登場するのは、同じ“石橋ユウ”という名前の子どもを持ち、住む場所も環境も全く違う母親3人たち。10年ぶりの映画主演となる菅野美穂が元フリーライターで2人の息子を育てる留美子役に挑み、やんちゃ盛りの息子たちを育てながら仕事復帰を目指す母親をパワフルに演じる。また、シングルマザーで大阪に暮らす加奈には高畑充希。若くして子どもを産み、日々非正規の仕事を掛け持ち、時間に追われながらも息子のために健気に生きる姿を体現する。そして年下の夫と優等生の息子に囲まれ、一見何不自由なく幸せを手に入れているあすみを尾野真千子が丁寧に演じている。それぞれの「石橋家」が交錯し、明るく幸せな生活が思いもよらない方向へと向かっていく様は、女優たちのリアリティあふれる、鬼気迫る演技が臨場感をもたらす。3人の女優たちはいずれも、瀬々監督とは初タッグ。子を持つ親なら誰もが直面する社会問題をエンターテインメントに昇華する。あらすじ同じ「石橋ユウ」という名前の小学3年生の息子を育てる3人の母親たち。神奈川在住・フリーライターの石橋留美子(菅野美穂)43歳、夫・豊はフリーカメラマン、息子・悠宇10歳。大阪在住・シングルマザーの石橋加奈(高畑充希)30歳、離婚してアルバイトを掛け持ちする毎日、息子・勇10歳。静岡在住・専業主婦の石橋あすみ(尾野真千子)36歳、夫・太一は東京に通い勤務するサラリーマン、息子・優10歳。それぞれが息子の“ユウ”を育てながら忙しく幸せな日々を送っていた。しかし、些細なことがきっかけで徐々にその生活が崩れていく。無意識に子どもに向いてしまう苛立ちと怒り。住む場所も家庭環境も違う“3つの石橋家の”行き着く運命は…?菅野美穂「運命を感じる役との出会い」私自身が育児中という事もあり、運命を感じる役との出会いでした。留美子を演じながら、子どもへの愛情と、母性の狂気を改めて見つめ直すような気持ちになりました。瀬々監督の作品に参加させて頂くのは今回が初めてだったのですが、寡黙なお人柄ですが熱い思いでお芝居を受け止めてくださいました。瀬々組の阿吽の呼吸のスタッフの皆さんのお陰で、集中して取り組む事ができたのだと思います。毎日抜け殻になるまで撮影をした、という気がします。高畑充希さん、尾野真千子さんという素晴らしい女優さん達と一緒にこの作品に参加させて頂けてとても幸運に思っています。高畑充希「1日1日の密度があまりにも濃すぎて」はじめての瀬々組。とてつもなくパワフルな現場で、あれよあれよという間に時間が過ぎてゆきました。1日1日の密度があまりにも濃すぎて、撮影期間の記憶がほとんどありません。笑でも、スタッフさん達の瀬々監督作品への愛を毎日肌で感じていた事だけは覚えていて、きっとその愛情が、出来上がる映画からも溢れているんだろうなと思います。自分自身が生まれ育った大阪の、空気とか匂いとかを思い出しながら懐かしみながらこの加奈という役をやらせていただけて、本当に幸せでした。尾野真千子「役を演じて怖くもありました」母を演じる事はやはり難しいです。母の気持ち、子の気持ち、まだいくら考えてもわかりません。いくら歳をとっても経験者当事者でないとわかりません。この役を演じて怖くもありました。でも繋がりとは素敵で美しい大切なものなのですね。瀬々敬久監督「分断化された世界の中で一番必要なテーマ」一見平穏で楽しそうな子育て中の三つの家族がゆっくりと崩壊していく様子を、決して悲観的にならず最後は希望を持って描いている原作にまず惹かれました。それはどんな家族にも訪れうる悲劇で、他者の身になって想像するという、今の分断化された世界の中で一番必要なテーマだと思えました。より広い世界観につながる映画にしたい、そう思いました。3人の母にはこの上ない方たちに集まって貰えました。菅野美穂さんは実際に子育て中であり、ご自身の経験を生かしてチャーミングなお母さんを演じてくれました。そしてラストは一線を超えた迫力です。高畑充希さんが演じるのは大阪のシングルマザー、これも高畑さん自身が大阪出身ということもあり、頑張るオカンを等身大で気丈に演じていただき感動的です。尾野真千子さんが演じるのは、ちょっとサイコな小学生の母親です。複雑な性格の彼の暴走を食い止めるには体当たりの魂の叫びしかなく、まさにそこに至っています。映画の中では、やがてこの三人の姿が微妙に繋がっていきます。映画ならではのその醍醐味も楽しんでもらえたらと思います。原作・椰月美智子「いろいろな意味で問題作となるはず」『明日の食卓』が映画化されると聞いたとき、これほど映像化にぴったりな小説はないんじゃないかと、自身はじめての映像化に胸が高まりました。そして、瀬々監督!主役の三人である菅野美穂さん、高畑充希さん、尾野真千子さん!のお名前を耳にし、この映画は成功するに違いないと確信しました。「三人の母親」と「虐待」は、どのような経緯をたどって、どのような結末になるのでしょうか。いろいろな意味で問題作となるはずです。期待しかありません。『明日の食卓』は2021年春、全国にて公開予定。(text:cinemacafe.net)
2020年12月10日朝井リョウさんの新作『発注いただきました!』は作家生活10周年記念のお祭り本。企業等から依頼を受けて書いた小説やエッセイ20編と、書き下ろし短編を収録。受注作は依頼内容実際に書いた作品感想戦の順に掲載。感想戦では工夫した箇所等がユーモアたっぷりに語られる。企業からの依頼にどう応えた?工夫が楽しいタイアップ作品集。「発注の内容をオープンにしていいと言ってくださった企業の方々に感謝しています。感想戦は、ここを頑張りました、褒めてください、と自分から言っていくスタイルです」たとえばゾンビ漫画『アイアムアヒーロー』の映画化記念のアンソロジーに書いた青春短編は、注文されてないのに原作のキャラクターや台詞を登場させ、かなり苦労したのだとか。「でも、私の短編に対しては驚くくらい読者の感想がなくて。もとからの私の読者に届けたら面白がってくれるのではと思い、そのためにこの本の企画が始まったんです」難しかったのはキャラメルの箱に載せた、文字数の少ない掌編。「数百字のなかに登場人物の情報を入れなくちゃいけない。文字数が極限まで削られている俳句のすごさを思い知りながら書きました」一方、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』と『チア男子!!』のコラボ小説では、思わぬ初体験が。「両さんを登場させたら、もう勝手に行動して事件を解決してくれるんですよ。作家がよく言う“登場人物が勝手に動く”というのを初めて体験しました。しかも自分じゃない人が作り出したキャラクターで」思わぬ仕掛けとしては、「基本的には、登場人物の名前にその会社の会長や社長の名前を使っています。社内ウケが欲しくて」と、読者、商品、クライアント全方向にサービス精神を発揮。「タイアップは“やりまっせ!”という意識に変わって、つい“全力下僕”をやっちゃうんですよね」ただし最後の書き下ろし「贋作」は、まったく異なる読み心地。「頭にあったけれど出しどころがなかった話を書きました。自戒を込めて書いています」昔から「怒り」が執筆の原動力と語っていた朝井さんらしい一編だ。「今後は“怒り”がマイルドな名前に変わりそうな気がします。でも“読んで幸せな気持ちになれた~”という小説を書けるようになるまではまだ時間がかかりそうです」あさい・りょう1989年生まれ。2009年に『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。’13年に『何者』で直木賞、翌年『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞受賞。『発注いただきました!』キャラメルが登場する掌編、aikoの楽曲を題材にした小説、“20”にまつわる短編…さまざまな発注にどう応えたのか?タイアップ作品集。集英社1600円※『anan』2020年4月8日号より。写真・土佐麻理子(朝井さん)中島慶子(本)インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2020年04月02日驚きの高校生作家が誕生した。『探偵はぼっちじゃない』でボイルドエッグズ新人賞を受賞しデビューした坪田侑也さんは現在高校2年生。小学3年生の時から小説を書き始め、受賞作を執筆したのは中学3年の夏休みだったという。注目の新人作家は2002年生まれ。少年と教師、それぞれが出合う謎。「毎年、夏休みの自由課題で僕は小説を提出していて、3年の時に書いたのがこの小説でした。そうしたら友達が持ち帰って家族で読んでくれて、そこのお母さんが“ボイルドエッグズ新人賞に応募したらどうか”、と勧めてくださったんです」主人公の一人は、明るく振る舞いながらも心は孤独な中学3年生、緑川光毅。ある日彼は、同じ学校の生徒、星野温から「一緒に探偵小説を書こう」と声をかけられる。「高校生になると忙しくなるから小説を書く時間が減ってしまう。それならこれまで感じてきたことを全部詰め込もうと思い、選んだのが“小説を書く”という題材でした」また、中学生が抱える独特な心情も書こうと、考えた。「中高生は、人を陽キャラと陰キャラで分けてとらえるところがある。緑川君のように無理して陽キャラのグループに合わせようとするのは、中学生の性格としてリアリティを感じました。星野君は誰にも流されない孤高の存在で、憧れます。こういう人と友達になれたら楽しいだろうなと思いながら書いたんです」一方、新人教師の原口は周囲に認められようと焦り気味。自校の生徒が自殺サイトに出入りしていると知り、誰かを突き止めて助けようとする。このパートがもう、社会人としての大人の悩みや戸惑いがリアルに描かれていてびっくり。「中学生が小説を書くだけでは話が単調になるので、教師目線も入れることにしました。大人らしい台詞まわしを書くのが難しかったです」やがてそれぞれの謎は絡み合う。現実に満足できない人たちの感情が、どう変化していくのかも読みどころ。さらには緑川たちが執筆する本格ミステリも作中作として登場、これもまた面白い。それにしても坪田さん、話してみると相当なしっかり者という印象。「学校ではよく“ツッコミ役だね”と言われます。でも、デビューしてからは、みんなに“先生!”と呼ばれてイジられています(笑)」坪田侑也『探偵はぼっちじゃない』探偵小説を書こうとする2人の中学生男子、生徒の自殺を止めようとする2人の教師。彼らの行動が、やがて思わぬところで結びつく。KADOKAWA1600円つぼた・ゆうや2002年、東京都生まれ。慶應義塾普通部在学中に執筆した本作で昨年第21回ボイルドエッグズ新人賞を受賞、同作を今年刊行して作家デビュー。現在は慶應義塾高等学校の2年生。※『anan』2019年6月26日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2019年06月24日トップライター:シラヤナギ リカ新学期が始まるときや、連休明けなど「学校に行きたくない」と感じる子が多いとよく聞きます。わたしも、ふだんから娘(小6)が「学校に行きたくない」と言ってきたらどうしよう、とドキドキしてしまいます。もし言ってきたら、学校に行きたくないくらいに辛い思いを娘がしていると知ることになり、親としてとても悲しいし、ショックだと思います。でも、きっとわたしは「じゃあ行かなくてもいいよ」と言うでしょう。一方で、「学校に行きたくないこと」を大人になかなか言い出せない子どももいることを、自身の苦い経験から感じています。言葉にできないけれど、気づいてもらいたい今から数十年前、小4のころだったでしょうか、わたしは学校に行きたくない時期がありました。理由は、クラスでいじめられていたからです。当時、わたしのクラスには、貧困家庭のクラスメイトがいました。今と違って100円ショップや、ファストファッションのお店はありません。昭和の貧困はひと目でわかるほど、はっきりとしていました。もちろん子どもだったので、そのクラスメイトの経済状況をはっきり理解していたわけではありません。でも、古びた半袖の体操服で、春も夏も秋も冬も登校してくる彼女は常にどことなく汚れていて、コンパスや習字道具などの文房具も学校から貸し出されるものを使っていました。成績もおそらくよくはなかったはずです。クラスメイトや先生が話しかけても声に出して返事をせず、曖昧に笑うだけの彼女は、中学年になるとクラスの中心となっている子たちから、避けられるようになりました。彼女が入ったあとのトイレには入らない、彼女が使った水道から水を飲まない、なぜなら菌が移るから。そんないじめがじわじわとクラスや学校に広がっていきました。わたしは、そういったナンセンスないじめを不快だと感じていました。そして、「正しいことは正しい!」という子どもっぽい正義感に満ちあふれていました。ある日、ついに菌が移る説を積極的に唱えていたリーダーの女子に向かって「そういうの、くだらないじゃん!菌なんてないし!」と言ってしまったのです。リーダーに意見した日から、廊下を歩いていると反対側から来る生徒が次々とぶつかって来たり、すれ違うときに小声で「バーカ」と言われたり、体育の時間、組んでくれる子がいなかったりするようになったのは、かなり辛いことでした。もともと人気者派閥ではなかったわたしに加勢してくれる子はおらず、わたしはぶつかってくる子をにらんでみたり、「バカって言う方がバカなんだよ!」と、言い返したりするのが精一杯でした。そんな毎日がどれくらい続いたのかはっきり憶えていませんが、しばらくたったころ、いじめに気がついた担任の先生に呼び出されました。そのときの会話は、なぜかまったく記憶になく、そこが誰もいない階段の踊り場だったこと、「これでいじめが終わる」と心底ほっとしたことを憶えています。期待した通り、その日を境にいじめは終わりました。どうやって収束させたのか、わたしにはわかりませんが、学校で悪口を言われることもなくなり、体育でペアを作れるようになりました。担任の先生は一度、家にも来て何やら母と話して帰りました。大人は子どものころの気持ちを忘れてしまう先生が臨時で家庭訪問したあと、母からは「なぜ、言わなかったの?」と問い詰められ、同時に「気がつかなくてごめん」とも言われました。もっと幼いころならすぐに言っていたのかもしれませんし、もう少し大きかったら親以外の誰かに相談したのかもしれません。ただ、そのころの自分を思い出してみると、わたしは「先生に言いつけるのは、告げ口だからずるいのでしたくない」と思っていたこと。そして「自分では言いたくないけれど、誰かが気づいて、解決してくれればいいのに」も思っていました。さらに言えば、いじめられていても、わたしはそのリーダーの子が大人や先生に怒られればいいとは思わなかったし、「また仲良くできればいいのにな」と考えていました。いくら「子どものときの気持ちをぜったいに忘れないようにしよう!」と思っていても、大人になると忘れてしまうもの。大人が子どものSOSに気づくことは本当に難しいことだと思います。元気よく学校へ出かけ、帰って来てもテレビを見ながら笑っている娘も、大人には言えない複雑な思いを抱えているかもしれません。もちろん娘だけでなく、今、困っている子どもはどこかにいて、かつてのわたしのように「誰か気がついてくれないかな」と思っているでしょう。かつて子どもだった大人が、「大人は子どもの気持ちに気づけないことがある」と、肝に銘じ、身近にいる子どもたちや、みんなの小さなSOSを見逃さないようにできたらいいのに……と思います。いじめられている子どもの揺れる思いを描いた短編集『ナイフ』いじめられている子どもの揺れる思い、また子どもがいじめられたときに感じる親の不甲斐ない、そして切ない気持ちに気づかせてくれる小説に、重松清さんの『ナイフ』という短編集があります。どの作品もいじめがテーマになっており身につまされる話ばかりです。テーマの重さに昔のつらい記憶を呼び起こされる方もいるでしょう。けれどもどのお話も結末には救いを感じさせます。また、いじめをめぐる微妙な、時に残酷なバランスのなかで生きる子どもたちの気持ちに大人が気づくきっかけになるかもしれません。ぜひ読んでみてくださいね。中学生のお子さんにもおすすめです。『ナイフ』(重松 清新潮文庫刊)『ナイフ』(著:重松 清新潮文庫刊)私はナイフを持っている。これで息子を守ってやる……。小さな幸福に包まれた家族の喉元に突きつけられる「いじめ」という名の鋭利なナイフ。日常の中のゆがみと救いをビタースイートに描き出す出色の短編集。第14回 坪田譲治文学賞受賞を受賞した秀作。シラヤナギリカ(しらやなぎりか)神戸に住んで6年目のエディター・ライターで、小学生の女の子の母。子育てフリーペーパー「リトルフロッグス」を不定期で発行しています。
2018年10月11日読むのに真面目な理由も目的も不要。ただただ楽しいエッセイ集第2弾『風と共にゆとりぬ』について、著者・朝井リョウさんに話をうかがいました。トリュフチョコレートを彷彿させる色合いに金色の飾り文字が並ぶ表紙。どんな重厚な作品かと思ったら、朝井リョウさんのエッセイ集第2弾『風と共にゆとりぬ』である。「装丁はできるだけ名作っぽくしてください、ってお願いしました」本を開きページをめくってまた驚く。紙がやたらと、妙に、分厚い。「間違えて2枚めくっちゃった、って思いますよねー。名作らしくボリューム感を出したかったんです」小説家の随筆集は、新聞や雑誌に載ったものを収録する場合が多い。だが本作は書き下ろしがメイン。「新聞連載分以外は全部、雑誌に掲載した数本も含め、この本のために書きました。エッセイを書くこと自体が楽しくて幸せなんです」眼科医との攻防、作家仲間・柚木麻子さんと臨んだ結婚式の余興、レンタル彼氏との騙し合い…。軽妙な語り口に笑いつつも、自分の感情を客観視するバランスの良さに感服。日頃から自発的に書くそうで、「一日のうちにある程度枚数を書かないと、全然生産していなくていいのかという気分になってしまう。なので小説が進まなかった日は、発表するあてがなくてもエッセイを書くんです。エッセイ用の語彙は別腹のようで、言葉が湯水のように出てくる。小説で堅苦しい言葉を使うと気取った感じになりますが、エッセイだとそれが面白かったりする。使える言葉の範囲が広がるので、小説を書いている時より辞書をよく使います。それも楽しくて」帯には<ひたすら楽しいだけの読書体験をあなたに>とある。「小さい頃、本が好きなのに“読んで何か得なければ”と感じることもありました。そうしたプレッシャーが一切なく読めたのがさくらももこさんの『もものかんづめ』から始まるエッセイ三部作。どこから読んでも、5分だけ読んでも1時間読んでも面白くて、何も試されることなく文章を読む楽しさを味わえて、ありがたかった。その感謝の気持ちもあって、自分も作家になったらそういうものを出したいと思っていました。さくらさんに倣って三部作を目指します」噴き出すこと間違いなしなので人前で読むのは危険。また、278、282ページは人前で開くのも危険かも…。理由は見れば分かります。あさい・りょう作家。1989年生まれ。‘09年『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞してデビュー。‘13年『何者』で直木賞、‘14年『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞受賞。※『anan』2017年8月9日号より。写真・水野昭子(本)インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2017年08月07日「ぴあ」調査による2015年6月27日のぴあ映画初日満足度ランキングは、『そこのみにて光輝く』の呉美保監督が手がけた『きみはいい子』がトップに輝いた。2位に『劇場版 進撃の巨人 後編~自由の翼~』が、3位にマッツ・ミケルセン主演のウェスタン・ノワール『悪党に粛清を』が入った。その他上位作品の画像1位の『きみはいい子』は、大人も子どもも共感できる文学作品に贈られる坪田譲治文学賞を受賞した中脇初枝の同名短編集が原作。虐待、いじめ、独居老人といった子どもとおとなをめぐる問題を通して、その先に見える希望と再生が描かれる。出演は高良健吾、尾野真千子ら。出口調査では「“幸せ”について考えさせられた。自閉症の子が日常について話す場面は、心にじわっと言葉が染みた」「映画を観て私も、不思議な温かい気持ちを人に与えたいと思った」「自分の子育てを思い出し、親というのは、みんな同じことで悩んでいるんだなと思った」などの声が女性客を中心に寄せられた。また「小さな子のいるお母さんたちにぜひオススメしたい」「今子育てをしている人にも、もう終わった人にも、年齢に関係なく観てほしい」という声もあがった。2位の『劇場版 進撃の巨人…』は、テレビアニメの第14話から25話までのエピソードで構成された劇場版の後編。観客からは「見どころは映像の美しさ。立体の動きや、アクションシーンヘのこだわりが感じられ、終始ワクワクしながら観られた」「テレビアニメに比べて音の質が一段とよくなっている。作品の世界観を丁寧に作り上げていて満足」「劇場版は、原作とテレビアニメに忠実で、次に繋がる話があり、アニメ第2期への期待が膨らんだ」などの声が寄せられ、10代から30代の観客を中心に支持を集めた。(本ランキングは、6月27日に公開された新作映画11本を対象に、ぴあ編集部による映画館前での出口調査によるもの)
2015年06月29日高良健吾&尾野真千子が出演する『そこのみにて輝く』の呉美保監督最新作『きみはいい子』が、6月19日~26日(現地時間)にて開催された「第37回モスクワ国際映画祭」にて、NETPAC賞(The Network for the Promotion of Asian Cinema / 最優秀アジア映画賞)を受賞したことが明らかとなった。まじめだが優柔不断で、問題に真っ正面から向き合えず肝心なところで一歩を踏み出すことができない新米の小学校教師・岡野(高良健吾)。近所のママ友たちとの表面的な付き合いの陰で自分の娘に手をあげ、自身も親に暴力を振るわれていた過去をもつ雅美(尾野真千子)。他人と会話をかわすのは、登下校の途中で挨拶をしてくれる名前も知らない小学生のみ、最近感じはじめた認知症の兆しにおびえる独居老人・あきこ(喜多道枝)。とあるひとつの街に暮らし、さまざまな局面で交差しながら生きているおとなと子どもたち。悩みや問題を抱えて生きる彼らが、人と人とのつながりに光を見いだし、小さな一歩を踏み出す姿を、真摯にそして丁寧に映し出す再生と希望の物語。前作『そこのみにて光輝く』で、モントリオール世界映画祭最優秀監督賞をはじめキネマ旬報ベストテン監督賞など、あわせて41もの映画賞に輝いた呉監督が、第28回坪田譲治文学賞、2013年本屋大賞第4位に輝いた中脇初枝の名著を映画化した本作。虐待やいじめ、独居老人といった現代社会における子どもと大人の問題を描きながらも、「ひとがひとを愛するということ」を真摯に、丁寧に紡ぎあげている。モスクワ国際映画祭には、呉監督とエグゼクティブ・プロデューサーの川村英己が参加し、23日に現地で会見を実施。本作のテーマについて質問を受けた監督は「これは世界の誰にでも当てはまるテーマなんじゃないかと思っている。ひとつでも救いになったり、何かの一歩になるきっかけになれば」とコメントしている。監督の言葉を示す通り、翌24日の公式上映終了後には呉監督のもとに大勢の観客が駆け寄り、「この映画を世界中のひとたちに観てほしい!」、「これは世界中、どこの国にでも当てはまる」と、本作のテーマに深く共感する感想を興奮気味に伝えていたそう。呉監督をはじめキャストの高良さん、尾野さんは27日に開催される本作の初日舞台挨拶に参加予定だ。『きみはいい子』は6月27日(土)よりテアトル新宿ほか全国にて公開。(text:cinemacafe.net)■関連作品:きみはいい子 2015年6月27日よりテアトル新宿ほか全国にて公開(C) 2015「きみはいい子」製作委員会
2015年06月26日14年に発表した3本目の長編映画『そこのみにて光輝く』が、「第38回モントリオール世界映画祭」最優秀監督賞を始め、数々の映画賞を受賞したことも記憶に新しい注目の監督・呉美保に、今月27日より公開される新作映画『きみはいい子』について訊いた。今回監督が挑戦したのは、「第28回坪田譲治文学賞」を贈られた中脇初枝による小説「きみはいい子」の映画化。監督初の群像劇となる本作は、幼児虐待やネグレクト、モンスターペアレンツ、認知症など、現代社会の問題を描いている。シビアな事象を題材としながらも、高良健吾、尾野真千子、池脇千鶴、富田靖子らの俳優陣が演じるキャラクター達が、時に戸惑い、傷つきながらも、人との関わりを通じて救われ、新たな気づきを得て、前に歩み出していくというストーリー。見終えた時には、胸に温かい感情がこみ上げるような、やさしさに満ちた作品だ。原作を読んだ時に「まず一読者として、作品の世界に引き込まれた」という呉監督。映画で扱う現代社会の問題については「例えば『虐待』と言っても、昔は暴力、せっかん、躾とか別の言葉で表現されていましたよね。一括りに『虐待』と言語化されることで、意味を限定してしまい、ある種の閉鎖感に繋がっています。グレーな部分、混ざり合う部分があるのが人間。だから、この作品が、一歩前に進めたり、救われるような感覚になれたとか、大げさじゃなく等身大の救いになれたら」と語る。本作では、新米の小学校教師・岡野匡を高良健吾、娘に手をあげ、自身も親に暴力を振るわれていた過去のある母親・水木雅美を尾野真千子が演じる。登場人物の人生を演じる役者達とは、撮影前に脚本には書かれていないその役の人生を想像してもらい、監督と役について語り合う時間を持ったのだという。「その話し合いがあることで、群像劇ゆえに短い、一人あたりが登場する尺に、その人の持つ多面性を凝縮して描いていけるようになります」と呉監督。14年初夏、小樽で行われた約3週間のロケでも「役者の気持ちが切れないように、ロケで一気に撮影し、作品の世界観を凝縮させました」と振り返る。12年に原作を読んだ時から、足かけ3年を経て制作された本作。監督に映画ならではの魅力を問うと「まず、映画は物づくりに向き合う時間が長いですよね。陶芸のように、練っていく作業がすごく多いんです。今回は、私達作り手の思いを脚本に込めるために、約2年の構想期間を設けて準備をしました。そして、テレビや広告には『今』という感覚があります。ただ、映画は『普遍』だと思っています。だからこそ、緊張感を持って普遍的かつ、純粋なメッセージを込められるように作品と向き合っています」と語る。最後に、これから映画を観る方へのメッセージを求めると「幸せの価値基準は人それぞれ。だから、この映画が“自分にとっての幸せって何なんだろう?”と、考えを巡らせてもらうきっかけになったら嬉しいです」。呉監督の作品には余韻がある。どこかの街の誰かの人生が描かれているのに、観る人の感情と響き合う部分があるのだ。新作『きみはいい子』には、人が人を救う瞬間が数多く込められている。“誰かに認められたい”という誰もが持つ思いを満たすものは、実はとても身近にあるということに気づかせてくれる一本になることだろう。
2015年06月19日俳優の高良健吾と女優の尾野真千子が主演する、呉美保監督作『きみはいい子』(6月27日公開)が、6月19日から26日まで開催される第37回モスクワ国際映画祭のコンペティション部門に、日本映画では唯一出品されることが19日、わかった。同映画祭は、カンヌ、ヴェネチア、ベルリンと並ぶ世界四大映画祭の1つとして知られ、ロシアのモスクワで開かれている。近年では、2013年に『さよなら渓谷』(大森立嗣監督)が審査員特別賞を、そして昨年は『私の男』(熊切和嘉監督)が金賞、最優秀男優賞を浅野忠信が受賞。呉監督は、前作『そこのみにて光輝く』でのモントリオール世界映画祭最優秀監督賞に続いての国際映画祭での受賞となるか、注目が集まる。呉監督は今回の選出を受け、「日本の、どこにでもある町の、どこにでもいる人を描きながら、この映画はもしかしたら、世界のどこかのだれかにも通じるのではと、その『だれか』にこそ見てもらえたらと、こっそり思っていました」と明かす。そして、「日本での公開直前に、モスクワでのコンペ上映だなんて、ワクワクさせてもらえることに心から感謝です」とコメントを寄せた。本作は、第28回坪田譲治文学賞、2013年本屋大賞4位に輝いた同名小説(著:中脇初枝)が原作。子供にまつわる現代の問題をはらみながらも人が人を愛することについて描き、高良は問題に真っ向から立ち向かえない新米教師、尾野は自身も同様の経験をしているにもかかわらず子どもに手をあげてしまう母親を演じる。(C)2015「きみはいい子」製作委員会
2015年05月19日6月19日~26日に開催される第37回モスクワ国際映画祭のコンペティション部門に、『そこのみにて輝く』の呉美保監督最新作『きみはいい子』が、日本で唯一の出品作品に選出されたことが、このほど明らかとなった。まじめだが優柔不断で、問題に真っ正面から向き合えず肝心なところで一歩を踏み出すことができない新米の小学校教師・岡野(高良健吾)。近所のママ友たちとの表面的な付き合いの陰で自分の娘に手をあげ、自身も親に暴力を振るわれていた過去をもつ雅美(尾野真千子)。他人と会話をかわすのは、登下校の途中で挨拶をしてくれる名前も知らない小学生のみ、最近感じはじめた認知症の兆しにおびえる独居老人・あきこ(喜多道枝)。とあるひとつの街に暮らし、さまざまな局面で交差しながら生きているおとなと子どもたち。悩みや問題を抱えて生きる彼らが、人と人とのつながりに光を見いだし、小さな一歩を踏み出す姿を、真摯にそして丁寧に映し出す再生と希望の物語。綾野剛を主演に迎えた『そこのみにて光輝く』で、モントリオール世界映画祭最優秀監督賞を始めキネマ旬報ベストテン監督賞など昨年度の日本映画賞を総なめにした呉美保監督が、第28回坪田譲治文学賞、2013年本屋大賞第4位に輝いた中脇初枝の名著を映画化する『きみはいい子』。マスコミ試写会では「号泣しました」「今年のナンバーワン!」「家族をつくりたくなりました」などといったと感動と称賛の声が沸き、詩人の谷川俊太郎やジャーナリストの増田ユリヤといった各界著名人からも絶賛の声が上がるなど、大きな注目を集めている。モスクワ国際映画祭では、近年日本からの出品作品として2013年に『さよなら渓谷』(大森立嗣監督)が審査員特別賞、昨年は『私の男』(熊切和嘉監督)が金賞、最優秀男優賞(浅野忠信)を受賞している。今回の出品決定にあてて、呉監督は「日本の、どこにでもある町の、どこにでもいる人を描きながら、この映画はもしかしたら、世界のどこかのだれかにも通じるのではと、その“だれ”かにこそ見てもらえたらと、こっそり思っていました。モスクワ映画祭コンペティション部門への出品が決まったとお聞きし、そんなわたしの願いが早くも通じたようで、とってもうれしいです。日本での公開直前に、モスクワでのコンペ上映だなんて、ワクワクさせてもらえることに心から感謝です」とコメントしている。ディスコミュニケーションが叫ばれる現代社会における子どもとおとなの問題を描きながらも、「ひとがひとを愛するということ」を真摯に、丁寧に紡ぎあげた本作。今回の出品で、呉美保監督にとっては前作『そこのみにて光輝く』に続く国際映画祭での受賞となるか、大きな期待がかかる。『きみはいい子』は、6月27日(土)よりテアトル新宿ほか全国にて公開。(text:cinemacafe.net)■関連作品:きみはいい子 2015年6月27日より、テアトル新宿ほか全国にて公開(C) 2015「きみはいい子」製作委員会
2015年05月19日俳優の高良健吾と女優の尾野真千子が主演する、呉美保監督最新作『きみはいい子』(6月27日公開)の予告編が21日、公開された。本作は、第28回坪田譲治文学賞、2013年本屋大賞4位に輝いた同名小説(著:中脇初枝)が原作。子供にまつわる現代の問題をはらみながらも、人が人を愛することについて描く。高良は問題に真っ向から立ち向かえない新米教師を演じ、尾野は自身も同様の経験をしているにもかかわらず子どもに手をあげてしまう母親に扮する。約2分の予告編は、どこにでもありそうな小学校と街の日常の風景から始まる。しかし、娘が遊んでいたボールが誤って手に当たり、持っていたティーカップを落とすと尾野演じる母親の表情が一変。娘をたたく手を止められなくなってしまう。後半では、"おとな"と"子ども"を通して、人と人とのつながりを問いかける。「世界は救えないけど 誰かを救うことはきっとできる」というコピーとともに、決意の表情で学校に向かう高良演じる新米教師。教室で子どもたちに、「家族に抱きしめられること」を宿題に出す。共演には、尾野演じる母親のママ友を『そこのみにて光輝く』で「第9回アジア・フィルム・アワード」最優秀助演女優賞を受賞した池脇千鶴が演じるほか、高橋和也や富田靖子などベテランの俳優陣が脇を固める(C)2015「きみはいい子」製作委員会
2015年04月21日俳優の高良健吾、女優の尾野真千子らが出演する呉美保監督映画『きみはいい子』(6月27日公開)の最新ビジュアルが6日、公開された。本作は、第28回坪田譲治文学賞、2013年本屋大賞4位に輝いた同名小説(著:中脇初枝)が原作。子供にまつわる現代の問題をはらみながらも、人が人を愛することについて描く。高良は、問題に真っ向から立ち向かえない新米教師を演じ、尾野は、自身も同様の経験をしているにもかかわらず子どもに手をあげてしまう母親に扮する。ほかにも、尾野演じる母親のママ友を『そこのみにて光輝く』で「第9回アジア・フィルム・アワード」最優秀助演女優賞を受賞した池脇千鶴が演じ、高橋和也や富田靖子などベテランの俳優陣が脇を固める。公開されたビジュアルでは、子どもに抱きしめられる高良と、池脇千鶴扮するママ友に抱きしめられる尾野が映しだされている。「どうしたらいい子になれるのかな?」という子どもの純粋な問いに戸惑う新米教師(高良)と、大声でわが子を叱責しながらもトイレでひとり涙を流す母親(尾野)の姿を捉えた、"静"を表現したビジュアルが先日公開されており、今回のものはそれに対する回答とも言えるエモーショナルなものに。「抱きしめられたい。子どもだって。おとなだって。」のコピーが指すように、さまざまな問題を超えて、人とのつながりに光を見いだしていく本作にふさわしいビジュアルに仕上がっている。(C)2015アークエンタテインメント
2015年04月06日『そこのみにて光り輝く』(2014年)でモントリオール世界映画祭最優秀監督賞を受賞した呉美保監督の最新作『きみはいい子』(6月公開)のビジュアルが、このほど公開された。本作は、第28回坪田譲治文学賞、2013年本屋大賞4位に輝いた同名小説(著:中脇初枝 )が原作。子供にまつわる現代の問題をはらみながらも、人が人を愛することについて描く。出演は、『横道世之介』(2013年)でブルーリボン主演男優賞に輝き、NHK大河ドラマ『花燃ゆ』の高杉晋作役で注目を集める新進の高良健吾や、『そして父になる』(2013年)などに出演し、演技派としての地位を固めつつある尾野真千子らが務める。公開されたビジュアルは2パターン。問題に真っ向から立ち向かえない新米教師に扮(ふん)した高良バージョンと、自身も同様の経験をしているにもかかわらず子どもに手をあげてしまう母親を演じる尾野バージョンが完成した。「抱きしめられたいのは、子どもだけじゃない-」のコピーに寄り添うように、複雑な感情をたたえた2人の表情が印象的なビジュアル。それぞれが抱える問題にぶつかりながらも、なにげない言葉や行動によって小さな救いの光が差す本作を象徴する内容になっている。そのほか、尾野演じる母親のママ友を『そこのみにて光輝く』で新境地を開いた池脇千鶴が演じ、ほかにも高橋和也や富田靖子などベテランの俳優陣が脇を固める。
2015年02月13日幼児虐待・ネグレクト・学級崩壊など現代の社会問題を描き、「第28回坪田譲治文学賞」を受賞した、作家・中脇初枝の「きみはいい子」(ポプラ社刊)が映画化されることが決定。その主演に高良健吾、ヒロインに尾野真千子を迎えることも発表された。原作は、ある雨の日の夕方、ある町を舞台に、誰かのたったひと言やほんの少しの思いやりが生むかもしれない、そんな光を描き出した五篇からなる連作短篇集だ。今回の映画化では、「サンタさんの来ない家」「べっぴんさん」「こんにちは、さようなら」を描く。そんな本作で高良さんが演じるのは、新人の小学校教師・岡野匡。何不自由のない家庭で苦労せずに育った真面目な青年。学年主任に言われる通りに子どもたちに接するのだが、なかなか上手くいかない。トイレに行きたいと言えずおもらししてしまう児童、クラスの女の子たちから「キモイ」と言われる女子児童、クラスメイトをいじめる児童…そんな中、クラスの子どもたち子どもたち一人一人が、誰かの愛情で包まれていることを知る。そして、17時までは家に帰ってくるなと言われ、校庭で時計を見上げて待つ児童や、義父から虐待を受ける児童に手を差し伸べるべく、行動を起こしていくこととなる。一方、尾野さんが演じるのは3歳児の母・雅美。昨年『そして父になる』では子どもの取り違えによって苦悩を抱える母を演じたが、本作では一転して虐待母を演じることとなる。そんな尾野さん扮する雅美は、幼少期に自身が虐待を受け、その連鎖として、公園ではママ友たちと笑顔で接するが、家に戻ると一変…3歳の娘・あやねの髪を掴んで引きずり、絨毯に放り投げ、叩き、蹴る。何度も、何度も。その壮絶なシーンをどう演じるのか、注目が集まりそうだ。この社会の、家族の中に潜む闇を描く本作でメガホンを握るのは、綾野剛・主演作『そこのみにて輝く』がモントリオール世界映画祭「ワールドコンペ部門」への正式出品が決定し、注目を集める女優監督・呉美保。また6月下旬より、北海道・小樽でクランクインを予定している。(text:cinemacafe.net)
2014年06月20日主人公の少年・ヨシオと、彼にしか見ることが出来ない不思議な存在“いけちゃん”の交流を通じて、どこか寂しさや儚さを散りばめつつ少年の成長を綴った感動作『いけちゃんとぼく』が公開を迎えた。原作となった漫画家・西原理恵子の手による絵本は、絵本という枠を飛び出して、出版当時から多くの人々に絶賛されてきた。作家の角田光代さんもそんなファンの一人。作家の方に「いけちゃんとぼく」を語ってもらう特別企画「いけちゃんと恋愛小説家」もいよいよ最終回。角田さんにその魅力をうかがった。まず、角田さんにとって“いけちゃん”とはどういう存在なのだろうか?そして作品を多くの人が愛してやまない理由はどこにあるのか聞いてみた。「自分が子どものとき、愛されている実感というのはあんまりないと思うんです。『大事にされなかった』と思いこんでいる人も多いと思うし、『私はすごく大事にされ、愛されて育った』と言っている人ですら、両親もしくは周囲の大人たちが、どんなふうに自分を大事にし、愛したのかはわからないはずなんです。それが、いけちゃんの言葉、視線に触れることで『あっ!』と思い出す、というか、気づく瞬間がある。あ、こんなふうに見守られていたんだな、と。だれにも何にも傷つけられることがないようにと願われていた繭のなかの世界を、そういうもののなかにたしかにいたということを、思い出すんだと思います」。角田さんは「その幸福で美しい繭の世界を、でも私たちはいつしか出なくてはならない」と少年の成長に言及しつつ、さらに物語が持つ魅力をこう表現する。「この作品のすごいところは、出ていく側の孤独も、見送る側のさみしさも、読み手は両方わかってしまう、ということなんだと思います。そうしてこの作品のなかでは、それは親と子の関係を超えて、男女の愛情というものにも共通している。出会って、恋をして、相手の幸福を願い、でもまたいつか、別れていく。男と女、親と子、恋人、夫婦…だれしもが自由に入れる扉が、この作品にはいくつもあって、だからだれしもすっと入って、そこにある美しいものと、ひりつくような孤独を見て、泣いちゃうのではないでしょうか」。角田さん自身、かつては「自分はあまり親に大事にされていない子供だと信じていた」とか…。「もともと暗い性格なので、子どものころ、孤独感というものがすごく強かったので。でも子どものころに書いた作文を読み返すと、やっぱりいかに幸福な繭の世界に住んでいたかと思わされるわけです。もう父も母も、おばも亡くなり、私の子ども時代を知る人はいないのですが、『いけちゃん』を(原作でも映画でも)読んだり観たりすると、その幸福に触れられるように思うんです」。そして、この物語から思い起こされる、自らの少女時代のこんなエピソードを明かしてくれた。「私は家からバスと徒歩で一時間かかる小学校に通っていたのですが、入学して数か月は、仕事を休めない母親に頼まれて、無事に学校にいけるか、また帰ってこられるか、変装しておばがあとをつけていたそうです(変装していたのは私が見つけるとおばにたよるようになってしまうため、だそうです)。私はそのことを三十歳近くなるまでずーっと知らなかったんです」。映画を、角田さんは“いけちゃん”の視点で追っていったという。「私には子どもはいませんが、子どもがおっきくなっていってしまうときの親の孤独というものがわかった気がしました。あとは、やっぱり好きな男の人が子どものころに抱えていたはずの、孤独や根拠のないかなしみを思って、『だいじょうぶ』と言いにいきたくなる気持ちとか、至極よくわかりました」。また原作には描かれない、子どもの成長をそっと見守る“母”の姿も心に残ったようだ。「おかあさんがいけちゃんに『ありがとう』と言うところがすごく、すごく好きでした。子どもの孤独に寄り添うのは、いつだって親ではない。どんなに愛情あふれる両親だって、どうしても入りこめない子どもの領分がある。そのとき子どもは何に救われているのか。そのことを、ああ、おかあさん、わかってくれていたんだな、わかってくれているのがおかあさんだよな、と思って、泣いてしまいました」。最後に、『いけちゃんとぼく』の持つラブストーリーとしての側面について尋ねた。「原作でも、映画でも、いけちゃんは子どものヨシオに、世界はすごくいいところだしきみはそんな世界にちゃんと迎えられる、ということと、でも理不尽なことだってたくさんあるんだということを伝えます。それは一見、母親の役割のようですが、でも、もし自分が子ども時代の彼に会えたら、いちばん伝えたいこと、やりたいことって、そんなふうに彼の孤独に寄り添うことかもしれないと、気づかされました。恋愛しても、結婚しても、相手はどうしたって他人で、自分とは異なる世界を持った一個人なわけで、だからこそ人と関わることはゆたかでもあり、かつさみしさも連れてくるのですが、そのことが原作にも映画にも、とてもよく描かれていると思います。ここに描かれた愛情というのは、母とか恋人とかの分類なしに、すごくすごくでっかいもんだと思います」。角田光代(かくたみつよ)1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。90年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞してデビュー。96年「まどろむ夜のUFO」で野間文芸新人賞、98年「ぼくはきみのおにいさん」で坪田譲治文学賞、「キッドナップ・ツアー」で99年産経児童出版文化賞フジテレビ賞、2000年路傍の石文学賞、05年「対岸の彼女」で直木賞を受賞。著書は「恋愛旅人」、「エコノミカル・パレス」、「空中庭園」、「愛がなんだ」など多数。特別連載「いけちゃんと恋愛小説家」・vol.1 小川洋子・vol.2 梅田みか『いけちゃんとぼく』蒼井優インタビュー『いけちゃんとぼく』ともさかりえインタビュー 西原理恵子、角川書店、 2009「いけちゃんとぼく」製作委員会■関連作品:いけちゃんとぼく 2009年6月20日より角川シネマ新宿ほか全国にて公開© 2009「いけちゃんとぼく」製作委員会■関連記事:悩める母・ともさかりえいまでもいけちゃんが見える?「逃走癖があるので(笑)」いけちゃんと恋愛小説家 vol.2 梅田みか少年と少女、男と女それぞれの思いいけちゃんと恋愛小説家 vol.1 小川洋子寂しさと共に息子の成長を見つめる母「胸が苦しくなった」 蒼井優が明かす“いけちゃん”と“ぼく”をつなぐ心の会話
2009年06月22日