意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「イラン“ヒジャブ”抗議デモ」です。ヒジャブを発端に広がる反政府運動。深刻な人権問題。昨年9月イランにて、ヒジャブ(スカーフ)のかぶり方が不適切と、22歳のクルド人女性マフサ・アミニさんが風紀警察に拘束され、3日後に死亡しました。これに対する抗議デモが拡大し、世界中のセレブリティが女性の自由と人権をSNSで訴えました。イランでは、9歳以上の女性は、国籍や宗教を問わず公共の場では、髪の毛を覆うヒジャブと体の線を隠す服の着用が法律で義務付けられています。事件のあと、イランの抗議デモは国内各地で膨れ上がり、当局はデモ参加者のうち、治安部隊に危害を与えた2人の男性を死刑に処し、2人目は公開処刑を行いました。昨年12月半ばの段階で約1万8000人が拘束され、治安部隊との衝突などにより約490人が亡くなっています。カタールで開かれたサッカーW杯では、イランの選手やサポーターがデモへの連帯を示し、国歌を歌いませんでした。国内でも、プロサッカー選手のアミル・ナスル・アザダニさんがデモに参加したことで拘束され、長期の懲役刑にあたる罪に問われています。イランの国民的俳優のタラネ・アリドゥスティさんは、抗議活動に加わった人を死刑にすることに異を唱え、反革命と暴動を支援する虚偽の情報を拡散した罪で、12月半ばに警察に逮捕されました(※1月4日に釈放)。10月にイスラムの女性に取材したところ、イスラム教の経典コーランでは、女性が男性を誘惑するようなきっかけを作ることが禁じられていますが、ヒジャブのかぶり方まで制約されているわけではないと話していました。つまりこれはとても政治的な意味合いの強い問題です。独裁的な政治家たちが国の統治を強めるために、ヒジャブに言いがかりをつけているのであり、イスラムの教えによるものではありません。民主的な運動で国家体制が崩れることを警戒する統治者が、締め付けを図っているのです。イスラム教そのものに対して、世界で誤解や偏見を生みかねないことを、その方は懸念されていました。イランの男性中心の政治の権力構造が、ヒジャブ着用の問題に表れているということに目を向けてほしいと思います。ほり・じゅんジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX月~金曜7:00~)が放送中。※『anan』2023年2月8日号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2023年02月04日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「白紙革命」です。現体制に影響はなくても、将来、分岐点になるかも。昨年11月、中国で白い紙を掲げ、ゼロコロナ政策に抗議する運動が広がり、「白紙革命」「白紙運動」と呼ばれました。発端は、11月24日に新疆ウイグル自治区ウルムチの集合住宅で起きた火災です。ロックダウン下で移動制限があったため、脱出も救助も遅れ10人が死亡しました。これまでにも厳しいゼロコロナ政策により、自宅を出られず感染した家族がそのまま死を迎えるなど、溜まっていた市民の怒りが噴き出し、抗議運動につながりました。当局の言論統制を免れるため、スローガンは書かずに白紙を掲げたのです。白紙運動はSNSを通じて、北京、上海、重慶、天津などの都市で一気に起こり、アメリカやヨーロッパ、東南アジア在住の中国人も声を上げ、日本では11月末に新宿駅前で集会が開かれました。興味深かったのは、参加者にはグラデーションがあり、ゼロコロナ政策に不満を持つ「穏健派」と、習近平体制に反対する「過激派」に分かれていたことです。穏健派のほうでは静かにロウソクに火を灯して、被害者を追悼し白紙を掲げており、過激派のほうでは「習近平独裁を倒せ!」「中国人に自由を!」と叫んでいました。そういう意味では民主化を求めて一斉に声を上げた天安門事件とは質が異なります。しかし、強権を振るう現政権に対して、中国の人々が顔も名前も出して抗議したというのは、命懸けの大きな事件です。これにより、習近平政権はゼロコロナ政策を緩和の方向に転換。ただ、その後、感染者は急増し、各地で医療崩壊が起きています。白紙運動により、習近平体制が揺らいだわけではありません。ただ、自分たちが声を上げれば政府に届くのだという原体験を得たので、こういうことが積み重なった先に、体制が倒れることが将来起きるかもしれません。新宿の抗議集会に参加していた天津出身の女性は、「これで将来が変わると思いますか?」という質問に、「絶対に変わらない。変わらないからこそ、声を上げる意味があると思う」と話していました。中国は中国なりの「人民民主主義」を目指していると言います。民主主義としては、ひとつの前進なのかもしれません。ほり・じゅんジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX月~金曜7:00~)が放送中。『anan』2023年2月1日号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2023年01月27日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「出産育児一時金」です。喜ばしいことだが政策として中途半端な点も。2023年度より、出産育児一時金の支給が原則、42万円から50万円に引き上げられることになりました。財源は74歳以下の世代の医療保険料でまかなわれていましたが、今回の増額分は、’24、’25年度の2年間で、75歳以上の後期高齢者の約4割にあたる、年収211(’25年度は153)万円を超える人の医療保険料を引き上げて充てることに。いままでは若い世代が高齢者の年金を支えていました。少子化克服のため、今度はお年寄り世代が若者たちのために少しお金を割いてやってくださいということです。ただ、国民同士でお金を回すのか、ほかに財源はないのかという声も上がっています。出産にかかる費用は病院によって異なり、不透明なところがありました。一時金が増額されると、その分値上げをしても構わないと考える病院も出てくるのではという懸念もあり、厚生労働省は各病院やクリニックに対して、出産費用をホームページで公表するよう促しています。一方で、後期高齢者が支払う医療費の窓口負担額は昨年10月から変更に。一定以上の所得のある約370万人の負担額が1割から2割に引き上げられました。日本の医療費は年々増大し、’19年度には44兆円、約30年の間に倍以上に増えています。今回の出産育児一時金の増額は、子育て政策に力を入れているというメッセージを伝える意味ではいいですが、少々中途半端ではないかとも思います。出産費用をすべて国費負担にするとか、大学卒業まで面倒をみる、あるいはゆりかごから墓場までの社会福祉政策を行うなど、細々とした策で対処するのではなく、若年層から高齢者層まで一体保障のなかで組み直さなければ、本当の意味で「分配なくして成長なし」にならないのではないでしょうか。一部の人だけ受益があるのは、社会的協力を得られなくなる恐れも出てきます。北欧の福祉国家では、国民は税金の使い道に敏感で、納得いかない場合は選挙で反対の意を表します。そこは見習いたいですね。自分が年間どれほど税金を支払い、何に使われているかに意識を向けることは、民主主義社会に生きる者の責任でもあると思います。ほり・じゅんジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX月~金曜7:00~)が放送中。※『anan』2023年1月25日号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2023年01月21日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「旧統一教会問題と質問権」です。不透明さは拭えず。本当の意味の救済措置を考えて。昨年、岸田総理は旧統一教会に対して、「質問権」を行使しました。質問権とは、オウム真理教の一連の事件を受けて、1995年に宗教法人法が改正されたときに追加されたもので、法令違反が疑われる場合に、宗教法人に対して報告を求めることができるというものです。その結果、「法令に違反して著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為」と判断された場合には、宗教法人の解散が命じられます。これまでに解散命令が出されたケースは、オウム真理教と霊視商法詐欺事件で摘発された明覚寺の2例。質問権が行使されたのは初めてでした。旧統一教会に対して、もしも解散命令請求をすることになったとしても、法人格を剥奪されるだけなので、宗教団体としての活動は続けられます。様々な問題が指摘されていながら、なぜこれまで、せっかく作ったこの「質問権」を使うことがなかったのか。政治家たちとの結びつきが指摘されていくなかで、やはり密接な関係があったがために保護されていた団体なのではないか?という疑問は晴れません。目指すゴールは、団体の解散や、政治的な関係を切り離すだけではなく、社会的な救済やケアを求めている人たちに対して、どういうサポート体制を作るかだと思います。かつて、オウム真理教の元信者の皆さんを取材したときに、なぜ教団に身を置き続けたのか、大本の理由を聞いたところ、家族との関係に悩み、アイデンティティや居場所を失っていたときに出合ったものだったと話していました。これはオウム真理教や旧統一教会など、宗教だけの問題ではありません。すべての財産を召し上げられても、そこに依存しなければ生きていけなくなるような精神状態に追い込まれる人たちに対して、どう危機を察知し対処していくのか。それを考える必要があるでしょう。でなければ、また別の何かに吸い寄せられていくだけだと思います。「被害者救済法案」が可決され、ここまでスピーディに進んだことは喜ばしいことです。ただ、すべての被害者が救われるわけではないことを忘れてはいけないと思います。ほり・じゅんジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX月~金曜7:00~)が放送中。※『anan』2023年1月18日号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2023年01月13日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「人口爆発」です。想定外の早さで世界は人口が急増。いまから対策を!2022年11月に世界の人口は80億人に達しました。現在、最も人口の多い国は約14億2600万人の中国ですが、今年、インドが中国を追い抜くと予測されています。1960年のインド人の平均寿命は41.42歳でしたが、’20年には69.89歳に。衛生環境が急速に改善し、医療技術の向上で乳幼児の死亡率も低下し、平均寿命が延びました。60年の間に平均寿命が28歳延びたというのはものすごい急成長ぶりです。’50年にはインドの人口は16億人を突破するといわれています。さらに、人口が急増しているのがアフリカです。現在、アフリカの総人口は約14億人で世界人口の18%を占めています。それが’50年には24億人を超え、先進国は人口減少に傾いていますから、世界の4人に1人がアフリカの人になると予測されています。世界は今、人口爆発の真っ只中にあり、食糧危機が迫っています。現に西アフリカでは干ばつや洪水などの気候変動で食糧生産ができなくなり、生産できる土地が奪われ、紛争地域が広がっています。今後20~30年の間にアフリカで10億人以上の人が急増、地球規模で人口が増えれば、当然抱えきれなくなるでしょう。国連によると、’50年までに人口が大幅に増える国はインド、ナイジェリア、パキスタン、コンゴ民主共和国、エチオピア、エジプト、フィリピン、タンザニアです。予測では’50年のナイジェリアの人口は3億7470万人で、アメリカの3億7500万人に並びます。現在の戦争の火種は、鉱物資源や民族的なアイデンティティに基づいた問題ですが、食糧を作れる土地の奪い合いが世界に広がれば大変なことになります。知恵を結集して、互いの繁栄のための持続可能な食糧確保、生産、共生のあり方を模索しないといけません。人口が急増すると、学校も不足し、学ぶための資材も足りなくなります。教育を受けられないと、困難を乗り越えるための知恵を生み出すことも難しく、奪い合いや暴力に発展しやすくなります。子どもや孫たちの世代が穏やかに暮らせるようになるために、今から対処しておかなければいけないことを知っておいてほしいと思います。ほり・じゅんジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX月~金曜7:00~)が放送中。※『anan』2023年1月11日号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2023年01月07日ananで連載中、意外と知らない社会的な問題についてジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」の拡大版をお届け。円安や物価高、気候変動…私たちの暮らしに密接に繋がっている、社会の問題たち。2023年は、どうなっていくのでしょう?ここでは、環境問題について堀さんが解説し、五月女ケイ子さんが独自の視点から読み砕きます。Q. 災害、気候変動、海面上昇…環境問題はこれからどうなる?A. 目標達成のリミット間近。コロナ禍や戦争でエネルギー不足。シフトチェンジが求められそう。2023年は、国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で、気温上昇を1.5~2°C未満におさえることを目標に掲げた、150の国と地域がその進展状況を検証する年です。その後5年ごとに検証されます。日本は原発の多くがストップしており、石炭、石油、天然ガス依存が続いて、目標達成には厳しい状況です。’23年は、日本のエネルギー問題において、原発をどうするのかという話に決着をつけられるかどうかが大きなポイントになるでしょう。欧州もやむなく原発回帰の流れ。CO2削減、目標達成に日本はどうする?ロシアのウクライナ侵攻により、欧州はロシアからの石油や天然ガスの輸入がストップし、深刻なエネルギー不足になっています。脱原発を掲げてきたドイツも、代替エネルギーが必要になり、方向転換をせざるを得なくなってきました。環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんも、火力エネルギーに立ち戻るならば、原発を容認するという立場に変わり、流れを大きく変えるきっかけの一つになりました。政府は今、原子力発電所の最長耐用年数60年をさらに延ばし、古い原発を使い続けようとしています。しかし、それでは安全面の不安も残りますし、1か所で大量の原子力エネルギーを作るため、無駄も出てきます。安全性も高い最新の技術を使った小型の原発を使い、必要なところに最小限投入するなど、今に適した選択肢もあるのではないかと思います。我慢、節電だけでなく、持続可能な環境対策を改めて考える一年に。日本は、エネルギー消費を4割減らし、再生可能エネルギーでの電力の50%を賄えば、「2030年度までにCO2の排出量を2010年度比で50~60%削減」という目標が達成できます。しかし、これは簡単に実現できる数字ではありません。気候変動はまったなしの問題ですが、電気料金が値上がりし、経済成長も先行き不透明ななか、「節電してください」と我慢を強いられると、環境対応疲れも出てきて、反発心が芽生えてしまいます。環境よりも足元の暮らしをまず優先してほしいという気持ちになるのもやむを得ないのではないでしょうか。暖房を使うのを我慢して体調を崩してしまうというような、本末転倒なことも起きかねません。’23年は、止めている原発や再生可能エネルギーへの展望など、もう一度私たちで環境対策、エネルギーの問題を考える年にしないといけないのだと思います。気候変動により増える自然災害。災害に強い地域を作ることも肝要。台風や豪雨災害など、日本では毎年のように災害が深刻化しています。東京都大島町は9年前に大規模な土砂災害に見舞われ、40人近い方が亡くなられ、まだ行方不明の方もいらっしゃいます。町では10年かけて予算を組み、復興計画を立てたのですが、この間にも災害が何度も起きて、財政的にも非常に困難な状況に陥りました。また、気候変動により、漁場や藻場が荒れて稼ぐこともできません。この大島町は一例にすぎず、各地で同様のことが起こっています。気候変動により生業さえも失いかねない。災害に強い地域作り、また、暮らしの基盤を確保することも必要になってくると思います。持続可能な環境対策にスーパーシティ構想が再定義されそう。’23年以降は、“スマートグリッド”と呼ばれる電力の一体運用や、人々の消費・流通・移動などがトータルに設計管理される“スーパーシティ構想”の議論が、国会でも再開されそうです。スマートシティ化の構想は10年ほど前から政府によって掲げられていたのですが、この数年は棚上げ状態になっていました。しかし地域でどのくらい電力が消費されているのかが可視化されれば、その地域の発電によって、無駄なく電力を賄うことができます。また、デジタル技術を使い、移動手段も無人のEV車が地域をめぐり、送迎してくれる。農業や畜産業もデータ管理により無駄な生産をせず、食品ロスを防ぐなど、様々な問題が同時に解決できるようになります。岸田内閣が掲げている「デジタル田園都市国家構想」にもそういった一体運用が盛り込まれています。北海道の上士幌町では、観光と畜産と暮らしと移動をデジタルで共有するような仕組み作りがなされているのです。牛の受精卵をドローン輸送と陸送を組み合わせて効率よく運び、環境負荷を軽減させる工夫も。また、岩手県八幡平市では、ベンチャー企業が入り、地熱発電の仕組みを使ったスマート農業が始まっています。これからは単体の環境対応というよりは、持続可能で、様々な業種がイノベーションを起こしながら、皆が豊かさを手に入れられる環境対策が花開いていくでしょう。五月女解読員のひと言「節電」って、全然いまっぽくないし、全然持続可能じゃないですよね。「省エネ」が叫ばれた昭和より進化したネットワークを、賢く駆使できたら、やみくもに厚着して寒さを我慢しなくても、スマートに令和っぽく乗り切れそうです。ほり・じゅんジャーナリスト。市民投稿型ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN Journalism」主宰。『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX)、『ABEMA Prime』(ABEMA)などに出演中。監督作に『わたしは分断を許さない』など。そおとめ・けいこイラストレーター。オンラインストア「五月女百貨店」では、面白楽しいオリジナルグッズを多数、販売中。LINEスタンプも各種展開。近著に細川徹との共著『桃太郎、エステヘ行く』(東京ニュース通信社)がある。※『anan』2022年12月28日‐2023年1月4日合併号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2023年01月01日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」の拡大版をお届け。堀潤さんがニュースを解説、五月女ケイ子さんが等身大の視点から読み砕きます。Q. 最近よく聞くスーパーアプリって?A. 一つのアプリケーションのなかに、コミュニケーションツールやショッピング、決済など、様々なコンテンツが集約されたアプリのこと。みんなが平等に、共通で使えるデジタルプラットフォームを作ることが求められています。デジタルの分野は2023年以降も著しく成長するでしょう。現在たくさんのサービスがアプリになっていますが、それらが一つのアプリに集約される「スーパーアプリ化」が進むと思います。ショッピングもコミュニケーションも決済も、一つのアプリに。たとえば、今は決済サービスだけでも、PayPay、LINEPay、楽天Pay、au PAY、iDなど多数ありますが、いずれ淘汰されるでしょう。日本では、PayPayやLINEがスーパーアプリ化しています。ただ、国のほうでは、民間企業のスーパーアプリ化が進み、国民の個人情報が海外のサービスに吸収されることを大変警戒しています。デジタルの分野でさらに広がりそうなのが、「PHR(パーソナルヘルスレコード)」です。健康に関する個人のデータがデジタルによって共有され、医療サービスに繋げたり、商業的に活用することも可能になるでしょう。同じような健康状態の人たちのコミュニティが作られて、一緒に運動を頑張る、個々の体に必要な栄養素の入った食材が示されて、それらの食料セットがレシピとともに家に届けられるというようなサービスも夢ではなくなりそうです。PHRの利点は、データの可視化によって、病気を未然に防げる、健康な状態を保つ機会に繋がりやすくなる点です。たとえば、体に悪いと知りながらも、つい甘いものや揚げ物を食べすぎてしまうというようなよくない生活習慣も、日常的に体の数値を目にすることで、改善しやすくなるでしょう。コロナ禍を経て、非接触で体温を測るなど、体に触れたり針を刺したりせずとも計測できる技術が進歩しました。カメラの前に立つだけでコレステロール値が測れる技術まで開発され、’23年以降はこういう技術が一般向けのサービスとして広がっていくと思います。PHRによって、健康寿命が延び、高齢者が働けるように。日本は深刻な人口減少に悩まされていますから、国民の健康寿命を延ばし、働ける人の数を増やしたいという国の思惑もあります。PHRは、経済産業省や厚生労働省が一般企業とともに、どうしたら普及させられるか、課題は何かということを現在協議しています。マイナンバーカードを普及させたいというのも、国としては、皆が共通して使えるデジタル基盤を広げたいという意向があるんですね。将来マイナンバーカードはマイナンバーアプリとして利用することが主流となります。それがスーパーアプリ化されれば、マイナンバーのシステムを使い、国民の大切な個人情報を守りながら、サービスは民間に開放し自由にビジネスを展開するという理想が叶えられると国は考えているようです。ここで注意をしなければいけないのはサイバー攻撃です。最近でも国税庁を騙った迷惑メールが多数ばらまかれました。民間の病院や水道会社がサイバー攻撃の標的になっています。これらは、個人ではなく、国家レベルの犯行関与も疑われています。VPNのサーバーが古かったりすると、そこが狙われる可能性も。国家として、対策をとる必要があると思います。五月女解読員のひと言カメラの前に立つだけで健康状態がわかったらすごいですね。疲れてるので、サプリや漢方情報も同時に教えてほしいです。今も、アンチエイジングの広告が勝手にやってくるけど、信頼できる情報を選べる機能もできたら嬉しいです。ほり・じゅんジャーナリスト。市民投稿型ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN Journalism」主宰。『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX)、『ABEMA Prime』(ABEMA)などに出演中。監督作に『わたしは分断を許さない』など。そおとめ・けいこイラストレーター。オンラインストア「五月女百貨店」では、面白楽しいオリジナルグッズを多数、販売中。LINEスタンプも各種展開。近著に細川徹との共著『桃太郎、エステヘ行く』(東京ニュース通信社)がある。※『anan』2022年12月28日‐2023年1月4日合併号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年12月31日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」の拡大版をお届け。堀潤さんがニュースを解説、五月女ケイ子さんが等身大の視点から読み砕きます。Q. 物価が上がる一方、賃金は上がらない。何が起こっているの?A. 日本が乗り遅れてしまった世界の出口戦略。スタグフレーションに陥っています。今、日本は物価高、燃料高に悩まされています。物価は高騰しているのに、先進国のなかでも日本だけ賃金が上がらず、さらに円はどんどん安くなっています。アメリカやヨーロッパに比べると、実感値として、2~3倍、モノの値段が開いている状況です。コロナ禍でなんとか持ち堪えていた日本経済もいよいよコロナ対策の補助金対応が弱くなり、2022年7‐9月期のGDPは4期ぶりにマイナス成長になりました。さらに社会保障費が増額され、2023年秋からはインボイス制度の導入も始まり、締め付けが厳しくなるので、税金の負担が多くなり、将来の展望が描きづらいというのが現状です。稼ぐ力がないので、金融緩和を終わらせることができない日本。2008年のリーマン・ショック以降、金利を低く抑え、貨幣の発行量を増やして、人々がお金を借りやすい状況にして、不景気を支えてきました。世界各国がこのような金融緩和政策をとってきたのですが、これをやり続けると貨幣の価値が暴落し、「多額のお金を出してもモノが買えない」というインフレが進んでしまいます。ある程度稼ぐ力がついてきたので、そろそろ終わらせていいだろうと、’22年の3月にアメリカが出口戦略(金融緩和の終了)を導入。ヨーロッパもそれに続きました。ところが日本だけ追随することができなかったのです。なぜなら、賃金が上がっていないから。この状態のまま金利を上げたら、途端にローンが支払えないなどの事態に陥り、日本経済は混乱します。また、日本企業の衰退も影響しています。自動車産業はガソリン車からEV車に取って代わろうとしていますし、世界に誇っていた大手家電メーカーも他国に追い抜かれ、半導体産業は台湾や中国、韓国に持っていかれ、日本はこれから何で食べていけばいいのか、先ゆきが見えません。日本の成長が見られず、円が買われなくなった。世界経済が不穏になったときには、リスク回避として安定した円が買われていたのですが、日本が成長しない国となれば円を持っていても仕方がないので、投資家たちは皆、手放すようになります。するとますます円の価値は下がってしまいます。これまでは、モノの値段が下がる企業の収益が下がる賃金が下がる(売れないので)さらにモノの値段を下げる、といったデフレスパイラルが起きていました。それを改善しようと、いまモノの値段を上げています。しかし、賃金は上がらないままなので、スタグフレーションという最も警戒しなければならない局面にさらされてしまいました。暮らしを立て直すには、投資、あるいは副業。新しく稼ぐ道を!賃金を上げるためには、需要、仕事を作らなければいけません。これまでは、公共事業を増やし、仕事を作って金回りをよくしました。しかし、オリンピックを招致しても、それはうまくいきませんでした。岸田政権では、デジタル田園都市国家構想といい、地方のデジタル化を進めて、一次産業や観光に付加価値をつけようとしています。ただ、それがどれほどの恩恵をもたらすのかはまだ見えていません。今後も賃金が上がる見込みはなかなかないので、国は個人に向けて、NISAやiDeCoのルールを緩和方向へ。限られた資産をうまく運用して将来に備えてほしいと呼びかけています。また、副業解禁の波は2023年以降も広がるでしょう。自分の専門的な技術を持って、業を起こしていく人たちがより増えていくと思います。金融機関も新しいベンチャー企業に融資しようという姿勢になっているので、アイデアと意欲がある人は、すぐに起業したほうがいいでしょう。働きながら、学び直しをして新たな技術を身につける、リスキリングの支援も国では始めています。AmazonやTwitter社での大量解雇がニュースになりましたが、それらの会社で技術を身につけた優秀な人材はほかの分野で新たな仕事を生みます。人材の流動性があるから、アメリカは成長できているのだと思います。日本の企業も学びと働く環境をセットに、新たなことを生み出そうとする人を優遇していこうというふうに変わっていくと思います。五月女解読員のひと言リスキリング。仕事を軸に持ちつつなら、「生まれ変わる」ほど大ごとじゃなく、自分をバージョンアップできる感じがしていいですね。私もイラストを軸に、職人に弟子入りしたり、エクセルで、事務処理も自分でできるようになりたいです。ほり・じゅんジャーナリスト。市民投稿型ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN Journalism」主宰。『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX)、『ABEMA Prime』(ABEMA)などに出演中。監督作に『わたしは分断を許さない』など。そおとめ・けいこイラストレーター。オンラインストア「五月女百貨店」では、面白楽しいオリジナルグッズを多数、販売中。LINEスタンプも各種展開。近著に細川徹との共著『桃太郎、エステヘ行く』(東京ニュース通信社)がある。※『anan』2022年12月28日‐2023年1月4日合併号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年12月30日嵐の松本潤が出演する、リクルート・SUUMOの新CM「新しい住まいに出会うとき松本潤さん」編が、2023年1月2日より放送される。新CMでは、松本が「人は、新しい住まいに出会うとき、想像する」と、建物の屋上から優しいまなざしで人々の暮らしに思いを馳せる。「そこで、くつろぐ自分を。夢を、育てていく自分を。そんな姿が見えたなら、そこはきっといい住まいになる」という松本の言葉と共に、新たな暮らしと住まいを想像する人々の様子が映し出される。監督との打ち合わせを終えると、屋上のセットに立った松本。ワンシーンごとに温かな表情、未来への前向きなまなざしを丁寧に表現した。また、ナレーション録りでも、声のトーンやスピード、余韻などの表現を細やかに収録。終了後には「伝わったら良いな」と話し、新CMへの思いやこだわりを感じさせる撮影となった。■松本潤インタビュー――今回のCM撮影の感想は?気持ちの良いCMですよね。撮影前に監督に完成イメージを見せてもらったのですが、空気感がすごく柔らかくて、温かい。そのイメージに自分を当てはめながら撮影しました。自分がどんな家に住んで、どういう人生を歩むか、どんなライフスタイルで過ごしていくかという、住まいの大切さを柔らかいトーンで表した作品になっていると思います。「家を探すことって、生活を豊かにすることなんだ」というメッセージが伝わると良いなと思っています。――2022年はどんな1年でしたか。今年は働きましたね! 忙しい1年でした。同じ作品の撮影に入っている時間がすごく長かったです。今までは1つの作品が終わったら次の現場に行って……ということが多かったのですが、今回はその現場に行くことが家に帰ることに近いというか、日常の生活の中に自然にその現場があるという初めての経験をしているので、すごく新鮮でした。良い1年でしたし、来年も良い1年にしたいですね。――プライベートではいかがでしたか。今年は旅行に行きたいと思っていたものの行けなかったのですが、仕事の関係で各地の神社仏閣などを見てまわる機会がありました。「日本にはこんなにいろいろな所があるんだ」とか「ここにはこんな歴史があるんだ」など、知らなかったことを知れる時間があり、すごく良かったです。
2022年12月27日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「習近平政権3期目」です。独裁体制の続く中国。白紙運動で流れは変わるのか。10月23日に中国で習近平政権の3期目が始まりました。中国の政治は、毛沢東後は、共産党幹部たちが複数人で協議をし、最終的に皆で合意をして決める仕組みでした。しかし、習近平政権になってからは、集団指導体制ではなく習近平指導体制に変わっていきました。国家主席の任期も憲法で2期10年までとされていましたが、2018年にその期限は撤廃されました。習近平国家主席は、国民からの支持を集めるために、汚職の摘発に力を入れました。不動産業の大手・中国恒大集団が経営危機に陥っても、取引に不透明なところがあるとして、国は救済しませんでした。急成長したアリババに対しては、いきなりトップを呼び出し叱りつけておとなしくさせました。習近平体制になってからは、中国の躍進は目覚ましく、経済成長を背景に強い支持と強権を集めていきました。自らの政治基盤を固め、執行部のなかでも異を唱える人たちを要職からはずし、習主席のゼロコロナ政策を支えてきた人たちが党最高指導部のナンバー2やナンバー5に起用されています。中国が目指しているのは一帯一路構想をさらにアップデートし、中国を中心とした世界の経済基盤を広げていくことです。また、「一つの中国」を掲げているので、台湾への侵攻は5年以内にあるだろうといわれています。ただ、中国からしてみれば台湾は自分たちの領土であり、日本やアメリカも台湾を独立国と認めてはいないため、内政に口を出すのは難しく、全面戦争になる可能性は少ないと思います。そんななか、11月24日に新疆ウイグル自治区の高層住宅で火災が起き、10人が死亡。ゼロコロナ政策のせいで救助が遅れたとし、「自由を返せ」とゼロコロナ政策、さらには共産党、習近平体制に対する抗議のデモ「白紙運動」が各地で起きています。言論統制にかからぬよう、スローガンを書かずにA4の紙を掲げて抗議の声を上げています。中国で政権批判をすれば身に危険も及びます。天安門事件以来の出来事ともいわれ、それだけ市民の不満が膨れあがっていることを表しています。東京でも新宿で抗議の集会が開かれました。今後に注目したいと思います。ほり・じゅんジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX月~金曜7:00~)が放送中。※『anan』2022年12月28日‐2023年1月4日合併号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年12月26日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「アメリカ中間選挙」です。人権と環境を守る。民主主義の良心が守られた結果に。11月8日にアメリカ中間選挙が行われました。現職大統領の評価が問われ、与党は不利になることが多く、今回も共和党のイメージカラーである赤の「レッドウェーブ」が起きる(共和党圧勝)と予想されました。しかし、実際には上院は民主党と共和党が同数で、下院は共和党が多数になったものの、圧勝にはなりませんでした。民主党の善戦に大きく影響したのは、人工妊娠中絶の問題です。50年近く「中絶は憲法で定められた女性の権利」とされていました。ところが、トランプ政権時に、アメリカの連邦最高裁判所は保守派の判事が多く占めることになり、その権利は覆されました。保守派は中絶に反対しており、保守の多い州では中絶を禁止、規制する動きが増え、人工妊娠中絶ができる病院が閉鎖したり、中絶薬を販売するだけでも違法になりかねない状況に。そんななか、今年の6月、オハイオ州の10歳の少女が性暴行の被害を受け妊娠、隣の州に行かなければ中絶手術を受けられなくなったことが社会問題化しました。女性の権利を守ろうという論調に合わせる形で、民主党がある程度議席をとったのではないかといわれています。民主党は、環境問題にも積極的で、GX(グリーントランスフォーメーション)など、環境分野で産業を起こすことを明確に打ち出しています。今回は20代の若い世代の投票が目立ち、気候変動対策をここで終わらせてはいけないという思いが票に結びつきました。さらにトランプ氏の出馬予想を受け(のちに出馬を表明)、共和党支持者のなかにも、トランプ化を防ぎたいという動きが影響したのではという意見も上がっています。刹那的な富を求める資本主義というよりは、持続可能で誰もが幸福追求できる社会のあり方を政治は調整するべきだという主張が、素直に反映されました。「民主主義の良心」が守られたともいえる中間選挙だったと思います。この直後にバイデン大統領は習近平国家主席と初対面しました。国民の支持を集めたバイデン大統領に、中国も真摯に向き合いました。世界情勢においても混乱を避け、やや安定のメッセージを示すことができたと思います。ほり・じゅんジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX月~金曜7:00~)が放送中。※『anan』2022年12月21日号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年12月16日タレントのNANAMIさんが、2022年12月12日に自身のInstagramを更新。ロックバンド『SPiCYSOL』のメンバーである、AKUNさんと結婚したことを発表しました。共に過ごしていく中で彼の優しさや愛情に救われこれからの人生を共に過ごしたいと思いました。これから共に支え合い、優しさが溢れる、笑顔が絶えない明るい家庭を築いていきたいと思います。これまで以上にお仕事も邁進して参りますので今後ともよろしくお願い致します。nanami023ーより引用※写真は複数枚あります。左右にスライドしてご覧ください。 この投稿をInstagramで見る NANAMI(@nanami023)がシェアした投稿 NANAMIさんは、元俳優の堀北真希さんの実の妹。タレントとして活躍するNANAMIさんの結婚発表を、多くのファンが祝福しています。・おめでとうございます!美男美女カップルの誕生ですね…!・素敵な写真から、幸せなことが伝わってくる!・お幸せに過ごしてください!NANAMIさん、ご結婚おめでとうございます![文・構成/grape編集部]
2022年12月12日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「ディープテック」です。研究が広く知られ活用の道がより広がることを期待。「ディープテック(Deep Tech)」とは、「深いところに眠る技術」と、「世の中に深く根ざした問題を解決する技術」を意味する造語で、長年の研究をもとに、世界を変える可能性があるような影響を与える技術を指し、大変注目されています。日本で研究されている技術だと、たとえば「ペロブスカイト太陽電池」。低価格でフィルム状にもできる新しい太陽電池です。また、慶應義塾大学で研究されている、力触覚を再現する技術の「リアルハプティクス」もその一つです。専用の手袋をはめて手を動かすと、遠く離れた場所にあるものに触れたときの硬さや感触をリアルに感じ取れるというものです。もともとは医療技術の開発から始まりました。脊髄に穴を開けるという手術をするとき、間違って神経に触れてしまうと医療ミスが起きてしまいます。リアルハプティクスの技術を使い、医師が離れた場所で治療を行うときに、医療機器の先端が患者さんの体内で骨に当たる感覚を手の中に実感できるようにしました。離れた場所の触感を再現するのは難しいといわれており、2002年、日本は世界に先駆けて、ハプティクス伝送=力触覚伝送に成功したのです。このような世界最先端の技術の開発を基礎研究から始め、実際に社会に実装されるまでには膨大な時間がかかります。その研究が何の役に立つのか、どういう形で成果が得られるのかが明確でないと、資金も集まらずに研究を続けることが難しくなるという問題が日本では起きています。すると有能な研究者も、より安心して研究ができ、正当な評価を得られるアメリカや中国など海外に流出していってしまいます。慶應義塾大学ハプティクス研究センターのセンター長の大西公平さんは、自分たちの技術をさまざまな業界の人にも見せて、これによりどんなふうに社会を変えられるのか、知恵を集めてそれを研究にフィードバックさせたいとおっしゃっていました。本来、イノベーションは、私たちの困りごとの解決に役立てることが期待できるものです。成功事例を広く発信し、日本の発展に活かしていくことができればいいなと思います。ほり・じゅんジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX月~金曜7:00~)が放送中。※『anan』2022年12月14日号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年12月10日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「岸田政権発足1年」です。成果はまだだが、描くビジョンの実現を期待したい。岸田内閣は発足から2年目を迎えました。10月の所信表明ではコロナ対策や旧統一教会の問題に触れながらも、多くの時間を成長戦略について語りました。キーワードは“スタートアップ創出元年”。5年間で企業を10倍に増やそうとしています。新しい技術の学びの機会がなかった人たちに向けては、「リスキリング」と呼ばれる学び直しの政策に5年間で1兆円規模の予算を投入しようとしています。また、デジタルを使いビジネスを変容する「DX」化や、環境対策を取り入れた「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」を掲げ、新しい産業づくりや、新規参入者を増やし起業家たちの活動を促進し、いままでにない日本の稼ぎ方をめざす。成長することで、分配を増やしていくビジョンを示しました。外交に関しては「直接対話と平和交渉を続ける」と明確に打ち出した点は評価されるべきだと思います。ロシアとの問題は非常に困難だけれども、平和条約締結を諦めないと言い、ちょうど日中国交正常化50周年のタイミングでもあったので、両国の良好な関係を築いていきたいと発言しました。北朝鮮のミサイル発射実験が相次いでいますが、金正恩氏との会談も希望しています。あれらの行動は、アメリカや国際社会に対して、北朝鮮の存在をアピールするためのもの。だからこそ、日本が大国の間に入って、交渉の道を開いていく役割を担えればいいのではないかと個人的には思います。所信表明で語られた内容がしっかり実行されれば、とてもすばらしいと思います。ただ、この1年を振り返ると、まだ成果は見えてきていません。方針がころころ変わっているようにも見えますし、ダイナミズムがないだけに、「聞くだけですね」などと揶揄されてしまいます。肝心なところで説明をしないという姿勢も改善してほしいです。ただ、欠点にばかり目を向けていても始まりません。旧統一教会のニュースも大切ですが、メディアもそればかりでなく、日本経済をどう立て直すのかを本気になって考え報道しないと、共倒れになりかねません。どうしたら良い社会が作れるのか、みなさんと一緒になって考えていけたらと思います。ほり・じゅんジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2022年12月7日号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年12月03日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「スピーキングテスト」です。受験科目に加えることが、英語力向上につながる?都立高校の入試の合否判定に、来年度から英語のスピーキングテスト導入の準備が進められていますが、受験生や親御さんらから中止を求める声が多く上がっています。都議会でも、立憲民主党や東京維新の会から、合否判定から除外する要請を盛り込んだ条例案が出されました。入試の中学校英語スピーキングテスト(ESAT‐J)は、日本人の英語能力を上げていきたいという理由から導入されました。英語能力を示すEFEPI(英語能力指数)の世界ランキングを見ると、2021年は日本は112か国中78位。前年は100か国中55位、2011年には44か国中14位でした。経済成長につれ海外留学が増えたことなどで、英語力が上がっている他国に日本がどんどん追い抜かれている状況が露わになっています。ESAT‐Jは、英文の音読や絵に描かれたシチュエーションに対する解答、自分の意見を述べることが求められ、タブレットに録音して答えます。このテストが、英語以前に、自分の思いを言葉に表すことが得意か否か、コミュニケーション能力を問うものにならないか。吃音や障害のある子供に対して不公平にならないかという問題が指摘されています。テストを受けないという選択肢もあるのですが、受けて低い点数をつけられるよりも受けないほうが受験に有利になる可能性も。また、ベネッセが実施しますが、一事業者が選定された経緯が不透明。解答した音声はフィリピンに送られ採点されます。AからFのグレードに分けられ点数がつきますが、1点の違いでもグレードが分かれてしまうこと、採点の正当性についても問題視されています。そもそも、受験にスピーキングテストを加えることで、日本人の英語力が上がるのでしょうか。それよりも、普段から、英語に触れられる機会を増やす、海外から来る外国人との交流を頻繁にする、留学や英会話スクールへの助成を入れるなど、ほかにもより効果的な方法はあるように思います。11月27日には本テストが実施されます。東京で導入されればこれは全国に広がる可能性も大きい。改めてきちんとした議論が必要だろうと思います。ほり・じゅんジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2022年11月30日号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年11月25日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「日中国交正常化50周年」です。50年の間に刻々と変化した力関係。直接対話を求む。9月29日、日中国交正常化50周年を迎えました。習近平主席は非常に平和的、友好的なメッセージを打ち出し、日本側も中国の覇権主義に対して一定の重しをかけながらも、両国の発展のために協力し合っていきたいというメッセージを送りました。国際社会でロシアが孤立するなか、世界の信用を得ようとするあたりは、習近平主席のしたたかさが垣間見られた印象です。文化大革命を経て集団指導体制をとっていた中国でしたが、近年は永久国家主席を狙っているのではないかと推察されるほど、習近平主席に権力が集中しています。“一つの中国”を掲げ、香港の自由を奪い、次のターゲットが台湾であることは間違いありません。これまでに日本と中国は4つの政治文書を交わしてきました。1972年に田中角栄首相と周恩来首相の間で日中共同声明を。1978年には福田赳夫首相と鄧小平党中央委員会副主席との間で日中平和友好条約を結び、互いの領土を尊重し合うことを確認。これを機に日本は中国に政府開発援助(ODA)を大胆に入れていきました。1998年には小渕首相と江沢民主席の間で日中共同宣言を交わしました。このときは中国への侵略行為に反省を示し、日中の関係を調整しました。2008年に福田康夫首相と胡錦濤主席が出した日中共同声明のキーワードは、戦略的互恵関係。尖閣問題など、日中関係が冷え込みましたが、互いに恵み合える戦略的なパートナーシップを作りましょうと手を打ちました。これらの文書を振り返っても、中国が次第に力を持ち、日本の立場がだんだん弱くなっていることが明白です。習近平体制のなかで、岸田政権が5つ目の文書を交わすかどうかが注目されましたが、50周年式典のなかでは何もありませんでした。日中首脳会談も、2019年を最後に開かれていません。今後、台湾問題は避けて通れませんし、世界が注視する中国の海洋進出問題、電子戦や宇宙戦、軍事的パワーを強めている中国と、これからどう対峙していくのか、日本の技術力や安全保障政策が問われます。友好を前面に打ち出した50周年、これらの問題もしっかりコミットしてほしいと思います。ほり・じゅんジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2022年11月23日号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年11月19日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「静岡水害と災害報道」です。自治体の連携と報道の重要性を再確認した一件。9月23~24日、台風15号の影響で静岡県は記録的な大雨に襲われました。川の氾濫、土砂災害により、静岡市清水区の水道を供給する川の取水口が破損し、区の8割にあたる約6万3000世帯で断水し、1週間経っても半数程度しか復旧がなされませんでした。静岡の災害に関しては報道量も少なく、自衛隊の派遣も遅れました。被害は10月17日時点で、死者3名。全壊、半壊、一部損壊、床上浸水、床下浸水合わせて8448棟です。SNS上では「なぜこの被害をメディアは伝えてくれないのか」という不満が相次ぎました。投稿された映像や画像を見ると、町全体が水に浸かり、大規模な土砂災害が起きており、山間部では孤立した集落も生まれていました。時期がちょうど安倍元総理の国葬と重なったため、さまざまな憶測や不信感を招き、静岡県が自衛隊派遣要請を行ったのが災害発生から2日後だったということにも不満の声が膨らみました。マスコミは、各地の災害を都道府県の発表で知り取材に動きます。今回の件は、実は静岡市と静岡県の連携がうまくいっておらず、掛川市などは被害状況がすぐにあがりましたが、静岡市のみ翌日の夕方まで、被害が県に知らされていませんでした。報道も自衛隊派遣も、それが原因で初動が遅れてしまったのです。報道のないなか、SNSを利用している人は、被害状況や給水などの情報を入手できましたが、そうでなければ、何が起きているのか、どういう支援が得られるのかもわからない状況が続いていました。これから報道は、自治体の発表と市民発信の両方を使い、いち早く伝えることが必要になるでしょう。発生翌日に清水区に入り、取材をしたところ、飲料水は比較的入手できたけれど、トイレを流したり、体を拭くなど、生活用水が圧倒的に足りず、給水があっても何に溜めて運べばいいのかとても困ったと話していました。静岡県は地震や富士山噴火に備えて防災訓練を徹底しています。それでも当事者になると戸惑うことが多くあったと言います。災害対策には平時からの綿密な準備と、各所連携する仕組みの必要性にあらためて気付かされます。ほり・じゅんジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2022年11月16日号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年11月12日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「干ばつ」です。干ばつを機に広がる紛争。世界に関わる問題。世界で異常気象が広がっています。日本や台湾が台風や大雨の被害を受ける一方で、アメリカやヨーロッパではこの夏、熱波が続き、干ばつが深刻な状況に。8月に欧州委員会の欧州干ばつ観測所は、欧州の6割以上の地域が干ばつの危険にさらされており、渇水状況は、過去500年で最悪と発表しました。アメリカではカリフォルニア州や中西部で干ばつが発生。中国は長江流域を中心に干ばつが続き、山火事も相次いで起こりました。アフリカの干ばつも拡大しており、西アフリカでは、干ばつと紛争により過去最悪の食料危機にさらされています。干ばつにより水が枯れてしまうと、農作物が生産できず飢餓に陥ります。人々の暮らしが貧しくなれば、奪い合いが始まり紛争が広がります。すると、世界中の武器がそういう場所に集中し、武装勢力が活動を活発化させるために、拠点を置くようになります。西アフリカのブルキナファソは、比較的治安の安定していた国でした。ところが、気候変動により水がめが枯渇し、貧しさから紛争当事国に変わってしまいました。ブルキナファソ、マリ、ニジェールなどのサヘル地域では、イスラム過激派組織の略奪が相次ぎ、市民が家を追われ難民になっています。そして、マリでは’20年と’21年に、ブルキナファソでは今年の1月と10月にクーデターが起きました。洪水や干ばつで農作物の収穫量減少が深刻化、ニジェールは’21年の穀物生産は前年比39%減少、マリでは15%減りました。’21年11月時点でブルキナファソの約260万人が食料危機に瀕していました。WFP(国連世界食糧計画)は、食料を届けるだけでは根本解決にならないので、干ばつ地域で食料の生産ができる取り組みに力を入れ始めました。砂漠化した土地に半円状の窪みを作り、雨季に雨が溜まるようにし、緑化を進めるというものです。草の根的で時間のかかる方法ですが大事な試みです。8月のTICAD(アフリカ開発会議)で、日本政府はアフリカ地域に対して官民総額300億ドル規模の資金投入を約束しました。支援を行うことが、結果的に世界の平和につながることを知っていただきたいと思います。ほり・じゅんジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2022年11月9日号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年11月05日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「内密出産」です。命を守るために、ルールが整備され、合法化された。内密出産とは、匿名での出産を望む妊婦が、病院にだけ身元を明かして出産すること。9月末に国は内密出産の初のガイドラインを示しました。これまで内密出産は、違法の可能性がありました。2021年、熊本市の慈恵病院が未成年の女性の匿名での出産を受け入れ、世に是非を問う形で流れが変わりました。赤ちゃんが生まれると出生届を出しますが、病院が母親に代わり届け出をするときに、母親の名前を知りながら空欄にするのは法律に抵触します。また、帝王切開になった場合、本人と家族の同意が必要ですが、内密出産の場合には家族と相談できない状況にあり、万一手術で母親が亡くなってしまったら、病院が家族から損害賠償を請求される可能性がありました。生まれた子供が成人して自分の出自を知りたいと思ったときに、身元を開示するのかなど、ルールがないと、病院の請け負うリスクが大きく、受け入れが難しかったんですね。しかし、病院が内密出産を受け入れなければ、尊い命が失われます。誰にも頼れずに母親がトイレで産み落とし、赤ちゃんを殺してしまうような事件も。慈恵病院が赤ちゃんポスト(育てることができない赤ちゃんを、母親が匿名で託すことができる施設)の運用を始めたのも、社会問題化している孤立出産を解決したいという思いからでした。内密出産のガイドラインには、慈恵病院の例をベースに、母親の氏名や身元を病院内で適切に管理すること、親や医師が出生届を出さなくても、市区町村長の権限で戸籍が作れること、仮名でカルテを書いても医師法に問われないことなどが盛り込まれました。内密出産の希望者は潜在的に多くいるといわれています。望まない妊娠に悩んだら、各自治体の妊娠相談ホットラインを利用してほしいと思います。妊娠したかもしれないという段階での相談も受け付けています。これらの情報も、性教育とともに義務教育のなかできちんと伝えるべきでしょう。孤立出産で事件が起きると、母親が加害者として罪に問われますが、男性の側に責任追及がなされないというのも大きな問題だと思います。ほり・じゅんジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2022年11月2日号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年10月28日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「国葬」です。開催決定経緯に問題あり。国を分断する結果に。7月に銃撃を受けて亡くなった安倍元首相の国葬が9月27日に日本武道館で行われました。参列者は約4200人。うち700人強が海外から参列。会場の外の一般献花には想定以上の人が駆けつけ、長蛇の列となり、2万6000人近くが花を手向けました。並んでいる方に取材したところ、長期政権で世界に日本の存在を示したことに感謝する声がいくつも聞かれました。その一方で、国葬に反対の声を上げる市民グループが武道館や国会議事堂周辺でデモを行いました。日比谷公園、大阪、広島などでも反対の集会が開かれ、憲法改正や非正規雇用、ジェンダー問題など安倍政権が残した課題に対して各グループが訴えていました。直前の世論調査では、反対が賛成を上回っており、9月5日時点で国葬中止を求める署名は40万人を超えていました。国を二分するような状況。これだけ分断が深まったのは、国葬の基準が曖昧で、国会が開かれずに閣議決定し、国民に対して丁寧な説明のないまま実行されてしまったことが大きいです。戦前には「国葬令」があり、皇族と、国家に功労があった者には、特別の意味をもっての国葬が開かれました。ところが何を功労とするのか規定が難しく、戦後、国葬令は失効しました。戦後に皇族以外で国葬が執り行われたのは、1967年の吉田茂元首相だけです。当時の天皇が「なんとかしてやってくれ」と言い、国会議員のなかで根回しがなされ、国葬を開く機運を作ったと関係者は話しています。ちなみに佐藤栄作元首相は国費以外に国民から寄付を募った「国民葬」。中曽根康弘元首相は内閣と自民党の「合同葬」の形をとりました。今回の国葬にかかった費用は警備費などを含めて総額約16.6億円といわれています。岸田首相は、国葬を開く理由の一つに、弔問外交を掲げていました。今回のような開催経緯の不透明さは、世界に対しても、ガバナンスの利いていない国という印象を与えかねません。人々の悼む気持ちまで分け隔てられていったことは残念でなりません。今回どういう議論があったのかを記録に残し、次世代の教訓として伝えることは大事な責任ではないかと思います。ほり・じゅんジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2022年10月26号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年10月22日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「デジタル庁発足1年」です。課題はあるものの一定の成果はあり。育てることが大事。デジタル庁が発足して、9月で1年が経ちました。大きな目玉として掲げられたのはマイナンバーカードの健康保険証としての利用開始でした。ところが導入機器にコストがかかることや、利用したほうが料金が高くなるなど課題が挙がり、マイナンバーカード自体の普及も物足りなさが残っています。政府でもこれまで紙で管理していたデータをクラウド上に移行し、効率よく使える仕組みが始まることになりました。ただ、そこで使われるクラウドはAmazonとGoogle。いま日本は欧米と歩調を合わせた自由主義諸国のアライアンスにいますが、有事の際、国のデータが、外国のクラウドサービスによって共有されているのは安全なのかという心配もあります。自国のデータをどのようにして守るかはこれから丁寧な議論が必要でしょう。コロナ対応においても、デジタル庁が立ち上がったことで、新型コロナワクチン接種証明書アプリが迅速に開発されました。外国からの渡航者を管理する「Visit Japan Web」の運用も行っています。他にもキャッシュレス法の成立、地方自治体のシステムの標準化、デジタル田園都市国家構想の推進、教育分野のデジタル化や医療情報のDX化、信頼ある自由なデータ流通「データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト(DFFT)」などでも成果を残してきました。デジタル庁は、各省庁とは独立して設置され、霞が関のコンサルタント的な役割を担います。文科省や厚労省、その他の省庁がデジタル化に関して悩んでいるときに、アドバイスや提案ができることを目指した、官民連携の省庁です。デジタル田園都市国家構想、地方創生×デジタル化の政策などで一定の成果があるものの、長時間労働、デジタル庁の民間出身職員が次々に退職するなど、官と民がうまく交じり合っていないという問題も実はあります。とはいえ、発足してまだ1年ですから、ここで成果の有無を判断するのは早計だと思います。長期的視野に立ち、デジタル実装のための担い手たちや政策をしっかりと育てていくことが、今後の日本の成長につながるのではないでしょうか。ほり・じゅんジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2022年10月19日号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年10月12日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「NPT会議決裂」です。核の危機感を持ち、橋渡しに、本気の姿勢を見せて。ウクライナでは、ロシア軍がヨーロッパ最大級のザポリージャ原子力発電所を占拠し、原発を盾に攻撃を強めています。本来、国際法により、原発は攻撃してはいけないと定められているのにもかかわらず、原発のある地域を舞台にした戦闘が続いています。国際原子力機関(IAEA)が現地に入り、誰が攻撃し、何が起きているのか、原発事故が起きないよう策をとっていますが、送電網が遮断されるなど、非常に深刻な事態に陥っています。8月にはNPT(核兵器不拡散条約)再検討会議がニューヨークで開かれました。ここでは、核兵器の不拡散だけではなく、現在のウクライナ情勢を背景に、原子力は平和利用のために使うことを盛り込んだ最終合意文書を作ろうとしましたが、ロシアは一貫して、「原発を攻撃していない。ロシアに非があるようなことを盛り込むのであれば、文書に署名できない」と主張。最終的に文書はまとまりませんでした。前回の検討会議でも、最終合意文書はまとまらず決裂しました。中東の非核化を求め合意を取ろうとしたのですが、土壇場になってアメリカが核保有国のイスラエルに配慮して、合意できないと言い出し否決されました。NPTは2回連続、核を持つ国は大きな脅威であり、保有国にしか交渉力がないことを見せつける結果になりました。核保有国も非保有国も一致団結しようと昨年、核兵器禁止条約が発効しました。しかし、核保有国は不参加。広島選挙区選出の岸田総理は両者をつなぐ橋渡しをしたいと話していましたが、核兵器禁止条約には参加せず。NPT再検討会議に乗り込んだものの、何か成果を残したわけではありません。いま、核兵器がいつ使われてもおかしくない緊張が続いていますが、その危機感が日本では共有されていないように思います。今年は、核兵器や原子力の平和利用の大きなターニングポイントとなる年になるはずでした。次のチャンスは、来年のG7。岸田総理の肝入りの企画で、広島で開催されます。核保有国に対し、「核が再び攻撃に使われるようなことがあってはならない」と、粘り強く交渉する姿勢をぜひ世界に打ち出してほしいと思います。ほり・じゅんジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2022年10月12日号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年10月08日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「赤字ローカル線」です。技術を使い、町に付加価値をつける好機にしては?赤字ローカル線の問題が深刻になっています。少子高齢化や過疎化が大きな要因ですが、コロナ・パンデミックにより、JRの経営を支えてきた新幹線の利用客が激減。赤字を補填できなくなったことが大きく作用しています。1kmあたりの1日の平均乗客数1000人未満を主な基準に、現在、JR東海を除くJR5社の61路線100区間が見直しの対象になりました。赤字路線が廃止になってしまうことは、地域にとっては死活問題。住民の足が失われ、移動が困難になるだけでなく、地域の誇りが失われてしまうんですね。電車が通ることで、都市部とつながり、人の往来によって文化が育まれます。赤字でも朝夕だけ運行するなど路線をなんとか維持してきたのは、学生の通学に必要だったからです。地域に学校は必須。学校を失えば、その土地で子供を産み育てようというモチベーションもなくなりますから、将来的に町は廃れていってしまいます。そんななか、北海道の上士幌町では新しい試みを始めています。この地域は30年以上前に鉄道が廃止になり、帯広空港からのアクセスは限られた本数の路線バスしかありません。観光客はレンタカーで移動し、運転手不足のためタクシーはほとんど走っていません。そこで町はデジタル化と新しいテクノロジーを導入し、空港と町の間に自動運転バスを走らせることにしました。上士幌町は自動運転車の実証実験の場になっているんですね。時速30~50kmのゆったりしたスピードで、観光客は雄大な農地や牧草地を眺めながら、自動運転バスのなかでお弁当やお酒を楽しんだりして過ごし、町まで来ることができます。また、鉄道の代わりに、ドローンと陸送を組み合わせたハイブリッド型の輸送も検討中です。「赤字ローカル線の見直し」というと、後ろ向きなニュースとして語られがちです。しかし、最新技術を駆使することで、町や観光に新たな付加価値をつけることも可能になります。国鉄の民営化により、これまでは地域にインフラを背負わせすぎたかもしれません。国や地域の補助金を投入することで、新産業を起こすことも今後は考えていく必要があるでしょう。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2022年10月5日号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年10月02日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「食料危機」です。戦争により小麦の供給がままならず深刻な状況に。現在、世界的な食料危機に陥っています。紛争や気候変動、コロナ・パンデミック、そして価格高騰により世界で8億2800万人の人が飢えに苦しんでいます。ロシア軍のウクライナ侵攻で状況はさらに深刻化しています。ロシア軍が侵攻するまで、ウクライナの小麦の輸出量は世界5位。ロシアは世界最大の輸出国でした。アジアやアフリカ、中東の開発途上国などの貧しい地域は、ウクライナやロシア産の小麦に頼っていました。戦争により農地は荒らされ、ウクライナの小麦畑はロシア軍により地雷が埋められ、撤去しなければ農作業できない状態に。また、農業従事者の国外避難、怪我や死亡により、生産量は減る一方です。さらに、小麦の輸出拠点となっていたウクライナのオデッサ港がロシア軍により事実上封鎖され、政治交渉に使われました。それにより、イエメンやスーダンなど中東、アフリカ地域に小麦が届かず、供給価格が2倍以上に。このままでは飢餓地域に小麦を届けられないため、世界食糧計画(WFP)は停戦して港を開き、人道支援チームが入れるようにとロシアにリクエストし続けました。国連とトルコの仲介でようやく合意に達しましたが、その直後に港は攻撃されてしまいました。日本では、小麦の価格高騰は値上げのニュースとして取り上げられることが多いですが、世界では、深刻な飢餓が加速していることをぜひ知っていただきたいです。日本は米が余っていますから、米粉を使ったパンの製造技術を広げるなど、何かできることがあるかもしれません。岸田首相がアフリカの食料支援に約1.3億ドルの拠出を決めたと発表したとき、「日本も大変なのに、支援する余力はないのでは?」という心ない声も寄せられました。しかし、それらの開発途上地域に支えられて日本は発展してきました。今こそ世界協調を実践してほしいと思います。WFPのもとで開発された「ShareTheMeal」は、飢餓撲滅を目的としたアプリで、スマホ決済で85円から寄付ができます。世界各地の人道支援を必要とする現地からのレポートも書かれていますので、ぜひ見ていただければと思います。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2022年9月28日号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年09月24日元乃木坂46の堀未央奈が、自身のYouTubeチャンネル「miona hori 【堀未央奈 公式】」で、同じく元メンバーで同期だった北野日奈子と共演した。乃木坂46の2期生として活躍してきた2人。ファンからは「堀北コンビ」として人気を博していた。今回はファンからの質問に2人で答えていく動画を投稿。仲良さげにツッコミ合う動画に、SNSでは「堀北コンビ最強!!」「堀北コンビ最高すぎる」「堀北コンビでYouTubeやる世界線に生きててよかった」「激アツ!!!2人ともありがとう!!!」などと歓喜の声が上がった。また、北野日奈子のYouTubeチャンネル開設を匂わせる発言や、今後のコラボ企画についても話が及ぶなど、これからの2人の活動にも注目が集まっている。
2022年09月24日PARCO PRODUCE 2022『ホームレッスン』(2022年9月24日〜10月9日 紀伊國屋ホール)が上演される。作・谷碧仁、演出・シライケイタによる本作は、ある家族の姿を描いた5人芝居。中学で現代国語を教える伊藤大夢(田中俊介)は恋人の三上花蓮(武田玲奈)と“できちゃった結婚”をすることになり彼女の実家で暮らし始めるが、そこは奇妙な「100の家訓」が存在する家族だった。今回本格的な舞台に初挑戦するのが、家訓を破って懲罰のために部屋に閉じ込められている花蓮の弟・朔太郎役の堀夏喜(FANTASTICS from EXILE TRIBE)だ。ふだんはパフォーマーとして活躍しており、最近ではドラマ『少年のアビス』や映画『HiGH&LOW THE WORST X』など俳優としても活動を重ねている。ちょうど「もっとお芝居を頑張りたい」と思っているところに舞台の話が飛び込んできたという堀にインタビューし、ハードなシーンも待っている今回の挑戦について話を聞いた。○■「もっと力をつけていきたい」と思っていた――本格的な舞台に初挑戦とのことですが、いかがですか?お芝居1本の舞台は初めてなんですが、グループ活動以外で個人の映像のお仕事をさせていただいて、「もっと力をつけていきたい」「お芝居をしっかり突き詰めたい」と思っていた中でのお話で、思い描いている作品に出会うことができました。脚本を読み込んで長期間、作品に向き合える舞台に挑戦してみたいと思いましたし、お芝居を頑張りたいけど具体的にどう行動に移したらいいのか探しているところでもあったので、本当にすごいタイミングでした。――お芝居に対しての気持ちはどうやって膨らんでいったんですか?グループに入った頃はお芝居に挑戦することすら想像してなかったですし、やりたいと思いはじめたのは本当に最近なんです。グループのライブでお芝居を取り入れて舞台的なことをやってみたのが入口で、さらに1人でドラマの現場に行き始めるようになって。グループから離れてお芝居の現場にいると緊張することもたくさんあるんですけど、その分達成感とやりがいがあり、何より今まで経験したことがなかった“演じる”という行為がすごく面白かったので、今は本当にどんどん挑戦したいという気持ちです。――今回の稽古の段階で学んだことや、刺激を受けたことは?意気込みプラス緊張と不安で考えが凝り固まってしまっていて「役になりきらなきゃ」と考えていたんですが、演出のシライさんとご挨拶をした時に「堀夏喜としての魅力を出そう」とおっしゃってくださったんです。役と自分を織り交ぜるということに気づかせていただいて、今後もお芝居をする上で大切な言葉をいただいたと思っています。実際に稽古に入ってからも自分の経験と実力の足りなさが身に染みて、全てが勉強になっています。台本の読み合わせをしているだけでも、書かれている以上の流れや息遣いが存在しているんです。周りの役者の方々は本当に色々な演技を試されているので、最近はちょっとずつ自分でも色々な表現を試してみたいなと思っていて、実際にやってみることで新たな面白さも感じました。――主演の田中さん、他の共演者の皆さんとも交流されているんですか?田中さんとは実は同郷なので、愛知県の話をしたりしています。同郷が多かったので、ちょっと盛り上がることもありました。5人中3人が愛知県出身だったので「そんな現場なかなかないよね」と(笑)――LDHさんの中でも俳優をされている先輩はたくさんいると思いますが、共演してみたい方はいますか?やっぱり、同じ愛知県出身の岩田(剛典)さんです。僕はまだライブでしかご一緒したことがないんですけど、岩田さんのこれまで出られた作品のお話や、お芝居のお話をしてみたいし、勉強させていただきたいです。○■クライマックス級のハードなシーンが…――今回紀伊國屋ホールでの上演となりますが、こういった舞台作品にはこれまで触れていたんですか?僕としては劇場で公演をするということ自体が、新しい感覚なんです。メンバーの出演する舞台も観に行かせてもらっていたんですが、その時はお客さんとして楽しんでいたので、今となればもっと視点を変えて観てみたかったな。今後はもっと感じることがありそうだなと思っています。――それはやっぱりパフォーマーとしてステージに立っている時の気持ちと違うものでしょうか?全然違いますね。もちろんパフォーマーとしての感情の設定とかはあるんですけど、今回はもう頭がパンクしてます(笑)。ダンスではペース配分も考えられるんですが、今、お芝居に向かっていると感情に重きをおいて第一に表しているので、疲れ方が全然違うんです。内側から疲れが来る感覚です。――台本を読むとかなりハードなシーンもあるかと思います。ファンの方も驚かれるのでは…?本当にクライマックス級のハードなシーンがあって、心をすごく使うなという感覚があります。普段の僕の活動を知っている方からは、想像もつかない姿だと思うので、相当びっくりされるんじゃないかな、と……。でも僕はびっくりしてもらえることにやりがいを感じますし、きっと舞台に惹きつけられると思うんです。逆に普段の活動を知らない方には、舞台が終わってからFANTASTICSに触れて、ギャップも感じていただけたら嬉しいです。――では、改めてこういうところを見てほしい、というポイントも教えて下さい。いろんな家族の形があり、その家ならではの“普通”というものがあると思うけど、これだけ奇妙な家族を見て何を感じるのか……いろんな方が観て反応してくださることによって、この舞台自体も変わっていきそうだなという予感もしています。僕自身も内側から面白いと思っているお話なので、絶対に観ていただきたいですし、個人的にも初めての経験となるので、僕がチャレンジしている姿にもぜひ注目してください。■堀夏喜1997年8月6日生まれ、愛知県出身。2016年からFANTASTICS from EXILE TRIBEのパフォーマーとして活動。主な出演作としてドラマ『恋です! 〜ヤンキー君と白杖ガール〜』(21年)、『東京であざとく頑張って何が悪いの? 〜上京ガールの成長日記〜』『少年のアビス』(22年)、配信ドラマ『L 礼香の真実』(20年)などに出演。現在映画『HiGH&LOW THE WORST X』が公開中。
2022年09月23日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「宗教2世」です。公的支援から外れる貧困。偏見もなくそう。安倍元首相の銃撃事件を機に宗教2世の存在がクローズアップされました。僕は以前からオウム真理教信者の子供たちや、脱会した方のその後の社会生活について当事者に取材してきました。彼らは、一般の社会生活を送るのは極めて困難な状況に陥っていました。学校でも職場でも自分が宗教2世であることを伝えるのは難しかったとみなさん話しておられます。奇異な目で見られたり、レッテルを貼られたり、警戒されたり。友人や恋人に話せば自分から離れていくのではないかという怖さから、余計に一人で抱え込んでしまいます。一方では、SNSの普及により、初めて自分以外にも同じような状況にある人がいることがわかり、心が支えられたとおっしゃる方もいます。今回の事件の山上容疑者の家は、旧統一教会の信者である母親が多額の献金をしたことにより破産しました。このようにカルト教団で、常識を超えた霊感商法などで信者がお金を吸い上げられていくような家庭で育った人は、経済的に非常に苦しい状況に陥ります。ところが、こういう場合の貧困は法的なサポートから外れてしまうんですね。生活保護費は、病気や怪我で働くことができない人に支給されます。しかし、宗教による過剰献金の家庭の場合、両親のどちらかが働いており、お金も稼いでいる。それが家庭や子供たちに回らないという状況ですから、当然、生活保護の対象にはなりません。旧統一教会の信者の子供たちは「祝福2世」と呼ばれ、教会内で大切に育てられます。しかし自由な恋愛や結婚ができないなど厳しい教えがあります。教義に疑問を抱き、親とは違う道を歩みたいと思っても、家族や人間関係、自分の居場所などをすべて切り離すことになるので相当の覚悟が必要です。この問題はほかの新興宗教にも通じます。宗教2世は自分で信仰を選べず、そういう家庭に生まれたことで社会的孤立を強いられ、学びの機会や様々な選択の自由を奪われます。偏見を抱いてしまう社会風潮にも問題はあると思います。公的支援のあり方も再考の余地があるでしょう。宗教の問題というよりは、子供の虐待や貧困の観点から捉えるのが重要ではないかと思います。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2022年9月21日号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年09月17日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「黄金の3年間」です。経済政策次第で、黄金になるか闇になるかの瀬戸際。衆議院が解散しないかぎりこれから3年間は国政選挙はありません。多数の議席をとった岸田政権にとっては、政権が揺るがされることはないため「黄金の3年間」といわれています。再分配政策を掲げて当選した岸田総理ですが、経済政策をどこまで実行できるのか。何もしなければ国民にとっては暗黒の3年間になりかねません。世界情勢は混乱し、物資もエネルギー価格も高騰。インフレに悩む欧米諸国は金融緩和の引き締めに入りました。ところが日本はなかなかデフレから脱却できず、賃金は上がらず、消費は冷え込むばかり。日銀は金融緩和を継続することにしました。世界のなかで日本は競争力を失い、貧しさが際立ってきています。安倍政権では航空宇宙産業や新しいテクノロジー、菅政権ではデジタル庁の立ち上げなど、明確なメッセージが打ち出されましたが、岸田政権の経済政策の目玉はいまだに出ていません。「資産所得倍増」を掲げ、NISAやiDeCoなどの投資を推奨していますが、元手がなければ投資マインドも起こりにくいでしょう。製造業ではAIやデジタル化が進み、人手が必要なくなります。それらの人材は第一次産業やサービス業に流れますが、一次産業は法人化が遅れていますし、サービス業は低賃金で過重労働、競争も激しい。いま日本の中間的な働き手が行き場を失っているんですね。ですから、早急にしっかりと稼げる産業づくりを行う必要があると思います。かすかな希望は「デジタル田園都市国家構想」。地方創生とデジタル政策を掛け合わせて、これまで都市に集中していた産業を地方に分散させ、地域で付加価値の高い競争力のある産業を作ろうというものです。日本の黄金期が再び迎えられるかどうかはこの3年間で試されます。経済政策に積極的な手を打たなければ、不労所得に支えられる金融市場への課税と社会保障の見直しで財源を確保する方向に進み、国は縮小方向に向かってしまいます。私たち国民は政府の働きに注視し、政策が良くなかった場合には、3年後に厳しい決定を下すという圧力をかけておく必要があります。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2022年9月14日号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年09月10日来年の大河ドラマ「どうする家康」で徳川家康を演じる松本潤が、家康の素顔を求めて旅をする歴史ドキュメントの第2弾「どうする松本潤?徳川家康の大冒険2」が9月10日(土)に放送される。今回のテーマは、「なぜ家康は天下人になれたのか?」。幾度となく襲いかかる人生の危機の中で、家康が熱心に行っていたのは戦や政争ばかりではない。実は、家康が人知れず、日々熱心に取り組んできた「趣味」の中に、家康が危機を乗り越え、天下人にのぼりつめることができた秘密が隠されている。乗馬、たか狩り、聞香など家康が打ち込んだ趣味の数々を松本さんが体を張って実際に体感。さらに、「最も家康に似ている」といわれる普段は非公開の家康・等身大の木像や、徳川宗家・次期当主の徳川家広さんも登場。愛知県、岐阜県、山梨県、京都府をめぐり、教科書には載っていない知られざる徳川家康の人物像に迫る。解説は本郷和人(東京大学史料編纂所教授)、語りはキムラ緑子が務める。【どうするポイント 1】「乗馬」天下人への道は「負けても死なない」こと三方ヶ原の戦いで武田信玄に惨敗し、絶体絶命の危機に陥った若き日の家康。「生きていてこそ次がある!」。どんな状況であっても最後は逃げて命をつなぐために、家康がのめり込んだのが「乗馬」だった。日本伝統の古馬にまたがり、「家康の逃げの乗馬術」に迫る。【どうするポイント2】「たか狩り」天下人への道は「誰よりも長生きする」ことライバルたちが次々と病死する中、家康の秘策は「ライバルたちよりも長生きすること」。健康オタクへの道を邁進する家康がことのほか重視したのは「たか狩り」だった!75歳という驚きの長寿を全うし、天下人レースを逃げ切った家康健康長寿の秘訣に迫る。【どうするポイント 3】「聞香」天下への道は「己に勝つ」こと誰が敵で誰が味方なのか?陰謀渦巻く心理戦を勝ち抜いた家康の強さは、どんな状況下でも冷静さを失わないメンタルの強さでもあった。それを支えていた家康の趣味こそが「香」。家康がのめり込んだ「聞香」とはどんな世界なのか?家康考案のオリジナル香の再現にも挑戦する。■木道壮司チーフ・プロデューサーよりコメント天下人となった徳川家康は、神君・家康公として神格化され、「いかにエラい人か」を伝える記録ばかりが残されています。本当の人間・家康とはどのような人物だったのでしょうか?今回、そんな家康の素顔を探るため、家康がのめり込んでいた「趣味」を、松本さんが家康の気持ちになりきって体当たりで挑戦!そこからどんな家康像を発見することができたのでしょうか?歴史の裏側を松本さんと一緒に探っていけば、2023年の大河ドラマ「どうする家康」がより楽しくなること間違いありません。「どうする松本潤?徳川家康の大冒険2」は9月10日(土)19時30分~NHK BSプレミアム、BS4Kにて放送。(text:cinemacafe.net)
2022年09月06日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「政治と宗教」です。政策にどれだけ介入していたのか。透明性を求める。安倍元首相の銃撃事件を機に、政治家と旧統一教会との関係が問題になっています。自民党の保守系グループ、なかでも清和会とのつながりは古く、歴史的な経緯がありました。旧統一教会の教祖・文鮮明氏は1968年に国際勝共連合という、共産主義に勝つことを目的に掲げた政治団体を立ち上げました。敗戦後の日本は、民主主義国家になるか、中国やソ連をはじめとする共産化の波に呑み込まれるかの瀬戸際にありました。日本の共産化を防ぐという大義のもと、イデオロギーを同じくする一部の保守系の政治家たちは、勝共連合と強く結びついたのです。1980年代になり、統一教会の悪質な霊感商法などが社会問題になりました。’97年に教会から名称変更の要望がありましたが、実態が変わらないまま変更を認めれば社会に悪影響を及ぼすと、文化庁は認めませんでした。ところが、2015年に変更申請は文化庁に受理され、現在の「世界平和統一家庭連合」に。ちょうど第3次安倍政権が発足して1年目でした。当時の下村博文文科相のもとで交わされた文書が公開されましたが、変更が可能になった理由の部分は黒塗りでした。教会側にとっては、政治家が集会に出て挨拶をしたり祝電を寄せることは、自分たちの正当性を証明することにもなります。信徒たちはボランティアとして無償で選挙運動を支えていました。問題は、政権与党は宗教団体からの政策リクエストをどれほど受けていたのか、ということです。憲法改正やスパイ防止法推進、同性婚や選択的夫婦別姓に反対など、自民党の主張と団体の運動方針は重なるところがあり、因果関係の有無を明確にしてほしいです。旧統一教会に限らず、私たちの与り知らないところで、さまざまな団体が絶えず献金をしたり、選挙を手伝ったり、組織票を入れるなど、政治家と利害関係を結びながら、自分たちの求める政策を実行させるという構図が、今回明らかになりました。政治は放っておくと、お金や力のあるところに吸い寄せられてしまいます。市民やメディアが絶えず緊張感を持ってチェックし、政治の透明性を求める努力を続けていかなければならないと思います。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2022年9月7日号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年09月02日