蓬莱竜太作、栗山民也演出の『母と惑星について、および自転する女たちの記録』が7月に上演される。再開発計画によって一時閉館することが決まったパルコ劇場における、最後の新作舞台だ。描かれるのは、3姉妹と母の愛憎物語。三女を演じる志田未来と母に扮する斉藤由貴が、意気込みを語った。【チケット情報はこちら】今回の顔合わせは、昨年の『オレアナ』で初舞台を踏んだばかりの志田にとって、とても心強いものだったようだ。「斉藤さんはとても尊敬する女優さんです。斉藤さんが現場に入られると現場にいい空気が流れるんです。舞台はまだまだわからないことだらけなので、いろいろ学んでいけたらと思っています」(志田)。斉藤も、「間違いなく、稀有な演劇体験ができると思います」と期待する。テレビドラマ『小公女セイラ』と『信長のシェフ』での共演経験から、志田の女優としての才能を嗅ぎとっていたからだ。「役の感情をきちんと自分の感情とリンクさせて、ひと言ひと言に魂を込められる。そんな女優の種を持っている人だなと感じていたので、今回もきっと、演技の光合成みたいなことが起きるんじゃないかと楽しみなんです」(斉藤)。そんな実力派のふたりが演じるのは、確執のある娘と母だ。しかも、物語は母親が亡くなったところから始まる。「今回の役は好きだなと思った要素がふたつあるんです。最初から死んでいること。そして、娘たちに最低な母親だと思われていること。どんな人物で何があったのか、ワクワクしますよね(笑)」(斉藤)。娘のほうも、3姉妹それぞれに事情を抱えている。「まだ完成台本がないのでわからないんですけど、母に対しても3人それぞれ違う思いがあったりするようなんです。脚本の蓬莱さんは、母という存在から“命”を考える作品にしたいとおっしゃっていました。そして、そのなかに笑いもあるコメディにしたいと。稽古でいろいろ探っていけたらなと思います」(志田)。斉藤が付け加える。「きっと、私は娘たちにひどい振る舞いをするのだと思います。娘にもさまざまな問題や悩みがあるのでしょう。でも、最終的にはろ過してろ過して、ものすごく純粋な愛情のひと雫が現れる気がします。それをお客さまに持って帰ってもらえたら」(斉藤)。ふたりの言葉からは、作品に役に、丁寧に向きあおうとする真摯な思いがのぞく。次女の鈴木杏、長女の田畑智子が加わって、女優たちはどんな母娘を見せるのか。現パルコ劇場の締めくくりにふさわしい、愛おしい作品になりそうだ。舞台『母と惑星について、および自転する女たちの記録』は7月7日(木) から31日(日)まで、東京・PARCO劇場で上演。その後、宮城、広島、福岡、大阪を周る。東京公演のチケット一般発売は5月14日(土)午前10時より。取材・文:大内弓子
2016年05月13日再開発計画によって一旦閉じることになったPARCO劇場。今年1月からは、“クライマックス・ステージ”シリーズとして、劇場ならではの演目を打ち出している。なかでも6月に上演される『メルシー!おもてなし~志の輔らくごMIX~』は、その最たる作品となりそうだ。今や 名物となった立川志の輔による独演会『志の輔らくご in PARCO』で披露された新作落語をもとに舞台を作ろうというのだから。主演を担うのは中井貴一。PARCO劇場と作品への熱い思いを見せた。舞台『メルシー!おもてなし~志の輔らくごMIX~』チケット情報「今回のお話は、『最後にもう1回どう?』と、劇場が僕を呼んでくれたのかもしれないなと、迷わずお引き受けしました。それぐらい僕はこの劇場が好きなんです」。中井はこう切り出して、劇場への思い入れを語る。「長い歴史によって作られたあの独特の雰囲気。赤い座席の背がハート型に色あせているのを見ると、これまでのお客様の愛を感じて励まされるんですよね。そして、458席というキャパシティが、観る側としても演者としても心地いいんです。もう少し大きな劇場になると、僕らも届かせようと頑張ってしまったりするんだけど、ここなら、お客様を自然に引き込んで、お客様も自然に引きこまれていくという空間であったような気がします」。そんな独自の空間で最後に演じるのが、志の輔の落語の世界。外国大使夫人が雛人形を見に来た商店街の騒動を語った「メルシーひな祭り」を軸に、4本の落語を紡いでいく。「志の輔さんはとても優れた脚本家でありプレイヤーであると感じます。登場人物の個性が浮き立っていて、それを全部ひとりで演じていらっしゃる。芝居がそれにどこまで対抗できるのか、間合いひとつをとっても、非常に難しいことだとは思いますが、落語より面白かったよと言わせるのが僕たちの使命。落語を意識しすぎず、ちょっと洒落た大人の舞台にしたいと思っています」。『コンフィダント・絆』『趣味の部屋』など、これまでもPARCO劇場で上質な芝居を見せてきた中井。今回も笑いのなかに、宝物となるような何かを潜ませてくれるはずだ。劇場の最後に立ち合うにあたっては臆さず思いをあふれさせる。「ここにいられる時間を大切に演じることになるでしょうね。来てくださる方も、肩の力を抜いて気軽に観ながら、この空間をしみじみ感じてくださればうれしいです。カフェで売っているおいしいホットドッグも最後にぜひ(笑)」。劇場空間を愛する者同士、濃密な時間を味わいたい。公演は6月4日(土)から26日(日)まで。チケットの一般発売は4月29日(金・祝)午前10時より。取材・文:大内弓子
2016年04月28日ブロードウェイでトニー賞最優秀作品賞をはじめ4部門を受賞した舞台『8月の家族たちAugust:Osage County』。その日本初演がまもなく幕を開ける。上演台本・演出を手がけるのは、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)。父の失踪をきっかけに集まった家族たちの不協和音を、ブラック・コメディとして描き出す。稽古は始まったばかりだが、KERAには確信が生まれているようだ。【チケット情報はこちら】物語は、詩人でアルコール中毒の父親(村井國夫)が失踪し、ガン治療薬の過剰摂取もあって錯乱状態にある母(麻実れい)のもとに、3人の娘やその家族と叔母家族が集まるところから始まる。稽古場で演じられているのはちょうど、長女(秋山菜津子)とその夫(生瀬勝久)、娘(小野花梨)が戻ってきた場面だった。久々に会う母と娘、叔母と夫のちょっとした噛み合わなさが早くもおかしい。長女夫婦が喧嘩を始めるシーンでも笑いが起こる。KERAが台詞の発し方や互いの押し引きの加減について少し指示を出すと、その笑いは増幅していく。実家の父と母も、どうやらすでに離婚しているこの夫婦も、抱える事態は深刻であるにもかかわらず、彼らが躍起になるほどその姿は滑稽に見えてくるのだ。KERAは、ピューリッツァー賞を獲り、映画化もされたこのトレイシー・レッツの戯曲と出会ったときから、コメディとして上演すると決めていた。「この脚本を終始シリアスなトーンの芝居に仕上げるのは簡単なことです。でも僕は、コメディにしたほうが伝わる痛みっていうものがあると思ってるんです。僕自身、これまで笑いによって救われてきたし、人生におけるトラブルには常に笑い飛ばすことで切り抜けるという生き方をしてきましたから」。辛辣な台詞の応酬も、「本人たちが笑ってる場合じゃない状況になっている家族をのぞき見ながら、無責任に笑ってくれればいいんじゃないかと思ってます」。キャストにはほかに、次女に常盤貴子、三女に音月桂など、総勢13名が揃う。その指揮をとり、細かく笑いを作っていくのは大変な作業だ。「でも、難しさは楽しさですから。ラクをせず、うまくいったときの達成感をカンパニー全体で分かち合えるといいなと。そして、もしもトレイシー・レッツが観に来たら、『こんな上演になるとは思ってもみなかった』と驚かせられるといいなと思いますね」。おそらく、映画版を目にした人もかなり驚くことになるだろう。が、KERA流の人間と人生の捉え方は、思わぬ力をくれるに違いない。公演は5月7日(土)から29日(日)まで東京・シアターコクーン、6月2日(木)より5日(日)まで大阪・森ノ宮ピロティホールにて上演する。チケットは発売中。取材・文:大内弓子
2016年04月25日ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)と古田新太の人気企画の第3弾『ヒトラー、最後の20000年~ほとんど、何もない~』が、この夏上演される。2007年の『犯さん哉』、2011年の『奥様お尻をどうぞ』に続いて、おそらくまた衝撃作になるであろう作品に、成海璃子、賀来賢人というフレッシュな顔も参加。内容は未定だが、それゆえに思いも広がる4人に、話を聞いた。舞台『ヒトラー、最後の20000年~ほとんど、何もない~』チケット情報『犯さん哉』、『奥様お尻をどうぞ』と、徹底してナンセンスコメディを見せてきたこの企画。今回も「内容を説明してもしょうがないような(笑)、テンションの高いデタラメをやります」と開口一番にKERAは言う。古田も、「そもそもデタラメをやろうと始めたユニット。最近の若い人たちがそういうのをやっていないので、やっていいんだよと見せていきたいというのもあるんです」と企画への思いを語る。さらに、そのデタラメの面白さは「シニカルな視線にある」と古田。KERAも「根っこにあるのは狂暴さ。コメディこそ最も強い力を持っていると信じてるからやっている」と付け加える。「それをひとかどの役者たちが、大っぴらにカロリー高くやるのが、このチームの面白さなんです」(古田)。そこに加わることになった成海と賀来。KERAによると、ドラマ『怪奇恋愛作戦』で久々にKERA作品に出演した成海の思い切りがよくなった芝居、松尾スズキ作・演出の『悪霊─下女の恋─』での賀来の妙味が、今回の抜擢の決め手となった。「ようやくKERAさんと舞台でご一緒できると思ったら、こっちの企画だったのでドキドキしてるんですけど(笑)、何でもやりたいと思ってます」と成海がその期待に応えれば、賀来も、「こういう笑いのものはテクニックが必要だと思うので、しっかり勉強して、この舞台をきっかけに大ブレイクしたい(笑)」と自身への希望も募らせる。タイトルに“ヒトラー”と入っているが、現段階では、ヒトラーが登場するかどうかもわからない。「『チャップリンの独裁者』のような風刺コメディではなく、もっと何もかもを笑うようなものになっていくと思います。個人的に風刺ってずるいなと思ってる(笑)。何もないところから作っていきたい」とKERA。今度は何を笑い飛ばしてくれるのか。その自由で過激な創造を、楽しみに待っていたい。公演は、7月24日(日)から8月21日(日)まで東京・本多劇場、8月27日(土)・28日(日)福岡・北九州芸術劇場 中劇場、9月1日(木)から4日(日)まで大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ、9月10日(土)・11日(日)新潟・新潟市民芸術文化会館 劇場にて上演。なお、チケットぴあでは先行抽選を実施中、東京公演は4月25日(月)11:00まで、大阪公演は4月26日(火)11:00まで受付。取材・文:大内弓子
2016年04月21日KOKAMI@netwaork vol.14『イントレランスの祭』がまもなく幕を開ける。イントレランスとは不寛容の意味。作・演出の鴻上尚史が、不寛容になっている今の時代を、地球人に憧れる宇宙人と、宇宙人を愛した地球人の物語に託した。彼らの愛と戦いの日々から見えるのはどんな風景か。宇宙人を演じる岡本玲とともに、稽古が進む今の思いを聞いた。KOKAMI@netwaork vol.14『イントレランスの祭』チケット情報『イントレランスの祭』は4年前、鴻上率いる「虚構の劇団」の第8回公演作品だ。それを再び「KOKAMI@netwaork」で上演することにしたのには、鴻上のこんな思いがある。「世の中がどんどん不寛容になっているなと感じた4年前より、状況はシビアになっている。だから、今やる意味がすごくあるのではないかというのがひとつ。そして、僕が若いヤツを育てている『虚構の劇団』ではなく、すでに育った役者さんたちを呼んでやることで、また違うものが見えるだろうと思ったんです」。そこで、地球人を演じる風間俊介の相手役となる宇宙人役にと声をかけたのが、岡本玲。風間とは朝ドラ『純と愛』で兄妹役を演じ、鴻上ともかつてラジオ番組で共演経験がある、信頼のおける女優である。岡本のほうも鴻上の舞台への出演は念願だったという。「鴻上さんの作品は、テーマはいろいろあるんですけど、観ると必ず元気になって帰れる。だから、私も、エネルギーを与える側になりたいとずっと思っていたんです」。演じ手が変わったことで、同じ戯曲でもやはり変化はあると鴻上はいう。「これは人間がぶつかっていく話。一人ひとりの人間が鮮明になればなるほど、ぶつかり度合いも大きく深くなっていきますし、演劇って結局人間を見せるものなので、より面白くなっていると思います」。だから岡本も燃えている。「私自身は演じながら、人間社会って煩わしいな、もっと笑って許し合えたらいいのにって思ってるんですけど(笑)、その煩わしさを表現するには、もっともっと繊細に演じていかなければなと思うんです」。しかし、鴻上作品のこと、不寛容な社会を切り取るだけでは終わらない。「世の中にはいろいろ問題があるけど、それでも生きていこうよと、やっぱり絶望じゃなく希望を描きたいんです」(鴻上)。「この作品を観ると、日常でイヤな人とか事柄に出会っても、いろんな人がいていろんなことが起こるから世の中面白いんだって、寛容になれるんじゃないかなと思うんです」(岡本)。日常を変えてくれるような演劇の力を、きっと体感できるだろう。公演は4月9日(土)に東京・全労済ホール/スペース・ゼロにて開幕したのち、4月22日(金)から大阪・シアターBRAVA!、4月29日(金・祝)から東京・よみうり大手町ホールにて上演する。チケットは発売中。取材・文:大内弓子
2016年03月28日三島由紀夫の最後の戯曲『ライ王のテラス』が、演出・宮本亜門、主演・鈴木亮平で、47年ぶりに上演されている。世界遺産「バイヨン寺院」を建設したカンボジア王の物語に三島が託したものは何だったのか。3月4日に開幕したばかりの舞台の模様を報告する。舞台『ライ王のテラス』チケット情報この戯曲が誕生したのは、三島がアンコールトムを訪れたことがきっかけだ。カンボジア最強の王と語り継がれるジャヤ・ヴァルマン七世の美しい彫像を目にした三島はすぐに、その完璧な肉体が病に冒されていく物語を着想したという。ゆえに、王を演じる鈴木に求められたのは、まずは肉体の美しさだった。幕が開くと、その期待は否応なく高まる。宮本が自らカンボジアでオーディションをして選んだダンサーたちが民族的な舞踊を見せながら、王が見事に戦勝した様子が影絵を使って語られるのだ。カンボジアの音楽が流れ、劇場が中世のカンボジアの空気に包まれるなか現れる凛々しい王の影。そしていよいよ、第二王妃(倉科カナ)と第一王妃(中村中)が待つところに、彫像のような肉体に仕上げた鈴木が登場する。説得力は十分である。しかし、真骨頂はそこからである。民のためにと「バイヨン寺院」の建設を始めるとともに病魔に冒される王。第二王妃は献身的に支え続けるも、王の美しさが蝕まれていくことに耐えられないと彼を避ける第一王妃が王の苦悩を深くする。舞台ではもちろん肉体自体を変えることはできない。にもかかわらず、その存在に何とも言えない心もとなさがにじむ。健やかで自信にあふれた大きな王から、瞬時に見せた鈴木のその変化。“演じる”ということが見せてくれるものの力を、改めて感じることができる。王の肉体が崩壊していくに従って、観世音菩薩を模したバイヨンが完成していく様を、三島は、自分の全存在を芸術作品に移譲して滅びてゆく芸術家の人生に重ねたのだそうだ。舞台の上で、なぜ自分は病になったのかと自問自答する王の姿は、人は何のために生きるのかと、観客に問いかけてくるようでもある。王の病を利用して国の転覆を目論む宰相(神保悟志)や、愛する息子が苦しむ姿を見ていられないと毒殺を企てる王太后(鳳蘭)の人間の業にも、揺さぶられる。宮本曰く、「人間の本質を見たくないところまでえぐり出す」という三島文学の魅力を、まさにナマの肉体が体現した舞台であった。公演は3月17日(木)まで、東京・赤坂ACTシアターにて。取材・文:大内弓子
2016年03月08日三島由紀夫の最後の戯曲『ライ王のテラス』が、演出・宮本亜門、主演・鈴木亮平で、47年ぶりに上演されている。世界遺産「バイヨン寺院」を建設したカンボジア王の物語に三島が託したものは何だったのか。3月4日に開幕したばかりの舞台の模様を報告する。舞台『ライ王のテラス』チケット情報この戯曲が誕生したのは、三島がアンコールトムを訪れたことがきっかけだ。カンボジア最強の王と語り継がれるジャヤ・ヴァルマン七世の美しい彫像を目にした三島はすぐに、その完璧な肉体が病に冒されていく物語を着想したという。ゆえに、王を演じる鈴木に求められたのは、まずは肉体の美しさだった。幕が開くと、その期待は否応なく高まる。宮本が自らカンボジアでオーディションをして選んだダンサーたちが民族的な舞踊を見せながら、王が見事に戦勝した様子が影絵を使って語られるのだ。カンボジアの音楽が流れ、劇場が中世のカンボジアの空気に包まれるなか現れる凛々しい王の影。そしていよいよ、第二王妃(倉科カナ)と第一王妃(中村中)が待つところに、彫像のような肉体に仕上げた鈴木が登場する。説得力は十分である。しかし、真骨頂はそこからである。民のためにと「バイヨン寺院」の建設を始めるとともに病魔に冒される王。第二王妃は献身的に支え続けるも、王の美しさが蝕まれていくことに耐えられないと彼を避ける第一王妃が王の苦悩を深くする。舞台ではもちろん肉体自体を変えることはできない。にもかかわらず、その存在に何とも言えない心もとなさがにじむ。健やかで自信にあふれた大きな王から、瞬時に見せた鈴木のその変化。“演じる”ということが見せてくれるものの力を、改めて感じることができる。王の肉体が崩壊していくに従って、観世音菩薩を模したバイヨンが完成していく様を、三島は、自分の全存在を芸術作品に移譲して滅びてゆく芸術家の人生に重ねたのだそうだ。舞台の上で、なぜ自分は病になったのかと自問自答する王の姿は、人は何のために生きるのかと、観客に問いかけてくるようでもある。王の病を利用して国の転覆を目論む宰相(神保悟志)や、愛する息子が苦しむ姿を見ていられないと毒殺を企てる王太后(鳳蘭)の人間の業にも、揺さぶられる。宮本曰く、「人間の本質を見たくないところまでえぐり出す」という三島文学の魅力を、まさにナマの肉体が体現した舞台であった。公演は3月17日(木)まで、東京・赤坂ACTシアターにて。取材・文:大内弓子
2016年03月08日オリジナルミュージカルを作り続けている玉野和紀による新たなショー・ミュージカルが誕生する。若い才能の原石(=GEM)が集うショーハウスを描いた『GEM CLUB』である。10年続いた『CLUB SEVEN』シリーズをも超えようと、稽古場では今、若き俳優たちが切磋琢磨しているようだ。相葉裕樹と矢田悠祐が、現場のその熱い空気を伝えてくれた。『CLUB SEVEN』チケット情報作品の舞台はショーハウス。玉野をはじめとするベテラン勢が店のオーナーや総支配人を演じるなか、9人の若きパフォーマーがショーを作り上げていくこの物語は、相葉によると“青春群像劇”。「“クサい!アツい!”っていう感じなんです(笑)。それがカッコいいって思ってもらえるところまでいけたら、この作品の魅力が出ると思うので。照れずにとことんクサくやりたいなと思っています」。矢田も、「各々が頑張りつつ、みんなで考えを出し合ってショーを作っていくという物語なので、本当に等身大でできるなと。自分たちが今稽古場でやっていることをそのまま反映すれば、すごくいいお芝居になるんじゃないかなと思っています」と意気込む。その稽古場では、それぞれに悪戦苦闘中だという。『CLUB SEVEN』にも出演していた相葉でさえ、「覚えることが多すぎる」と悲鳴を上げているぐらいだから、内容の密度は相当なもの。「毎日新しい振付が入ってきますし、何より、一つひとつのナンバーがハードなので、体力的にヤバい感じなんです。オープニングのM-1でもう息切れがひどいですから、本番で倒れるんじゃないかっていう(笑)」(相葉)。「僕は玉野さんの作品には初参加だし、ダンスもこれまでの舞台で勉強しただけなので、こんなにしんどいのは僕だけだと思ってて。だから、みんなしんどかったんやって安心しました(笑)」(矢田)。今は苦労の日々だが、「その大変さも、お客さんが喜んでくださることで報われる。だから、こんな地獄はもう味わいたくないと思いながら、またやっちゃうんです(笑)」と相葉。「大変そうだなと思われないように頑張りたいですし、全力でやっている姿は、観てて気持ちいいと思います」と矢田も前向きだ。新しい作品ではあるが、『CLUB SEVEN』で大人気だった「ヒットメドレー」も新たに登場する予定だとか。「『CLUB SEVEN』ファンの方も、ショーを観たことがない人も楽しめるはず」との相葉の言葉通り、これぞエンターテインメントという楽しさに満ちた作品になるだろう。公演は3月19日(土)から4月1日(金)まで東京・シアタークリエ 、4月8日(金)から4月10日(日)大阪・サンケイホールブリーゼ、4月11日(月)に愛知県芸術劇場 大ホールにて。取材・文:大内弓子
2016年03月07日オリジナルミュージカルを作り続けている玉野和紀による新たなショー・ミュージカルが誕生する。若い才能の原石(=GEM)が集うショーハウスを描いた『GEM CLUB』である。10年続いた『CLUB SEVEN』シリーズをも超えようと、稽古場では今、若き俳優たちが切磋琢磨しているようだ。相葉裕樹と矢田悠祐が、現場のその熱い空気を伝えてくれた。『CLUB SEVEN』チケット情報作品の舞台はショーハウス。玉野をはじめとするベテラン勢が店のオーナーや総支配人を演じるなか、9人の若きパフォーマーがショーを作り上げていくこの物語は、相葉によると“青春群像劇”。「“クサい!アツい!”っていう感じなんです(笑)。それがカッコいいって思ってもらえるところまでいけたら、この作品の魅力が出ると思うので。照れずにとことんクサくやりたいなと思っています」。矢田も、「各々が頑張りつつ、みんなで考えを出し合ってショーを作っていくという物語なので、本当に等身大でできるなと。自分たちが今稽古場でやっていることをそのまま反映すれば、すごくいいお芝居になるんじゃないかなと思っています」と意気込む。その稽古場では、それぞれに悪戦苦闘中だという。『CLUB SEVEN』にも出演していた相葉でさえ、「覚えることが多すぎる」と悲鳴を上げているぐらいだから、内容の密度は相当なもの。「毎日新しい振付が入ってきますし、何より、一つひとつのナンバーがハードなので、体力的にヤバい感じなんです。オープニングのM-1でもう息切れがひどいですから、本番で倒れるんじゃないかっていう(笑)」(相葉)。「僕は玉野さんの作品には初参加だし、ダンスもこれまでの舞台で勉強しただけなので、こんなにしんどいのは僕だけだと思ってて。だから、みんなしんどかったんやって安心しました(笑)」(矢田)。今は苦労の日々だが、「その大変さも、お客さんが喜んでくださることで報われる。だから、こんな地獄はもう味わいたくないと思いながら、またやっちゃうんです(笑)」と相葉。「大変そうだなと思われないように頑張りたいですし、全力でやっている姿は、観てて気持ちいいと思います」と矢田も前向きだ。新しい作品ではあるが、『CLUB SEVEN』で大人気だった「ヒットメドレー」も新たに登場する予定だとか。「『CLUB SEVEN』ファンの方も、ショーを観たことがない人も楽しめるはず」との相葉の言葉通り、これぞエンターテインメントという楽しさに満ちた作品になるだろう。公演は3月19日(土)から4月1日(金)まで東京・シアタークリエ 、4月8日(金)から4月10日(日)大阪・サンケイホールブリーゼ、4月11日(月)に愛知県芸術劇場 大ホールにて。取材・文:大内弓子
2016年03月07日ダンスエンタテインメントの傑作として世界中を熱狂させている『バーン・ザ・フロア』。その最新作がこの4月、日本にやってくる。すべてが一新された『バーン・ザ・フロアNEW HORIZON』の興奮を、ひと足先に上海公演で目撃したスペシャルサポーター・武井壮が、魅力を語り尽くした。『バーン・ザ・フロア』チケット情報もともとダンスが好きで、ダンス・パフォーマンスに元気づけられてきたという武井。今回のスペシャルサポーターについても、かなり意欲を持ってその任に就いた。「自分も、元気を与えられるような存在でありたいといつも思っていて、そのためのひとつとして今最も身につけたいものがダンスだったので。これを機にダンサーさんたちと仲良くなっちゃおうかなと、私欲を絡めた感じで喜んでお引き受けしたんですけども(笑)。上海で新作を観せていただいたときは、本当に楽しめて、感動して、力が湧いてきて、やらせてもらってよかったなと思いましたね」。上海では、世界トップレベルのダンサーに混じって実際に踊るという貴重な体験もした。「アスリートと同じで、間近で見たダンサーさんたちは、訓練して積み上げてきた人たちだということがひと目でわかりました。しかも、指先や関節まで意識が行き届いた細かい表現をしている。そういう繊細なところはアスリート以上に優れているかもしれないとも思いましたね。僕が参加させてもらったのはハイスクールのナンバーだったんですけど、スクールボーイとスクールガールがちょっとからかい合ったり、恋をしたりと、ダンスでいろんな表現がなされていく。台詞はないけど、ドラマを観ているような感覚になってワクワクできるのも、楽しかった」最新作は、舞台、楽曲、衣装を一新。日本公演に向けてさらに構成を練っているとの情報も。「世界のどこよりも日本公演は盛り上がるそうで、ダンサーたちもいちばん楽しい街だと言ってました。観客の盛り上がりがダンサーたちを燃えさせるので、客席でどんどん踊っちゃってください。そして、“NEW HORIZON”とタイトルにあるように、新しい地平線に向かって走り出したくなるような力をもらえますから。これを観たあとはきっとそれぞれの目標へ向かって一歩踏み出せると思います!」。いつもエネルギッシュな武井をも力づけた公演。そのパワーをぜひ感じたい。公演は4月9日(土)から東京・東急シアターオーブ、4月15日(金)から大阪・フェスティバルホールにて。チケット発売中。取材・文:大内弓子
2016年02月23日月刊「根本宗子」を主宰する根本宗子がミュージシャンとコラボレーションする企画の第2弾として、4人組のロックバンド「おとぎ話」との『ねもしゅーのおとぎ話ファンファーレサーカス』が上演される。「おとぎ話」の楽曲が生演奏されるなか、趣里、蒼波純というふたりの若き女優をダブル主演に迎えて綴られるのは、まさにファンタジックな世界。小劇場でエンターテインメントを見せてくれる根本宗子が、今作で目論むものは?ねもしゅーのおとぎ話ファンファーレサーカス チケット情報第2弾のコラボ演劇を創作にするにあたって、根本がまず考えたのは、「せっかく『おとぎ話』というバンド名のミュージシャンと一緒にやるのだから、ちょっと飛んだ話をやろう」ということだった。そこでオファーしたのがふたりの女優。「おとぎ話」のPVにも出演している趣里と、根本が脚本と一部監督も務めた配信ドラマ『女子の事件は大抵、トイレで起こるのだ。』で主演した蒼波純である。そして、趣里におとぎ話のなかのサーカス団一の踊り子役を、蒼波にそのおとぎ話の本の世界に入っていく役を与えた。「作品も役柄もここ2、3年で振り幅が広がっている趣里ちゃんにおとぎ話の世界を引っ張っていってもらい、14歳にして鋭い観察眼を持っている純ちゃんに、その世界と闘ってもらいたいなと思ったんです。基本的にいつも私が書きたいと思っているのは人が対立する話。正義と正義が闘っている様を、これまでは、家やバイト先を舞台に書いてきたんですけど、今回はそれがおとぎ話の世界でおこるだけで、台詞のやりとりに込めるものは同じなんです(笑)」。趣里は、根本の作品の魅力を「描かれていることは緻密でリアリティがあるのに、舞台としての見せ方の完成度が高い」ところにあると語り、「踊り子として振り切った芝居をしながらも、相手とちゃんと会話したい」と意気込む。これが初舞台となる蒼波も、「ファンタジーなのに、現実にでもあるような会話があるところが好きです。台詞も歌も大変だけど楽しい」と意欲的だ。これまでも、舞台にはエンターテインメント性が必要と、リアルの中にもファンタジーを描いてきた根本。「私の作品はよく“リアル女子を切り取る”っていうふうに書かれるんですけど、これを観ればその評はちょっと違うことがわかってもらえるかなと。小劇場を観たことのない人、苦手な人にこそ、観てもらいたいです」。リアル女子の現場から飛び出し、ファンタジー世界を舞台に描く今作。根本演劇の面白さがあふれるはずだ。公演は2月11日(木・祝)から14日(日)まで東京・新宿FACEにて上演。チケット発売中。取材・文:大内弓子
2016年02月03日注目の若きふたりが、アクション現代劇に挑む。1988~90年にかけて「少年ジャンプ」で連載された『闇狩人』の舞台版がそれだ。悪いヤツらを成敗していく原作は、当時、“現代版・仕事人”として話題になった。主人公の間武士を演じる高杉真宙と、同じく闇狩人のひとり・我竜京介に扮する横浜流星に話を聞いた。【チケット情報はこちら】原作が連載されていた頃には生まれていなかった19歳の高杉と横浜。それでもふたりは、この物語に引き込まれたという。「面白いなと思ったのは、闇狩人の人たちが葛藤を抱えているところ。悪を消すといっても人を殺しているわけですし、これが絶対的な正義だとは思ってないんですね。だから僕も、ひとりの葛藤を持った人間として、演じていけたらなと思っています」(高杉)。「僕はまず、闇のヒーローというのに惹かれました。しかも武器が、僕はけん玉で、真宙は定規というのが衝撃的で(笑)。これをどう舞台で見せていくのか、僕自身も楽しみにしてるんです」(横浜)。高杉が『仮面ライダー鎧武/ガイム』に、横浜が『烈車戦隊トッキュウジャー』にと、同時期にいわゆる特撮モノに出演していたことをきっかけに、交流を深めてきたふたり。しっかりと共演するのはこれが初めてとあって、お互いがどんな芝居を見せるかにも興味津々だ。「よく知ってる間柄だからこそ、照れもあるんですけど(笑)。でも、普段はまっすぐな流星が、ナルシストで自分が世界一だと思っている唯我独尊的な役柄をどう演じるのか楽しみです」(高杉)「真宙は作って出せないような独特なものを持っているので、すごく尊敬してるんです。今回真宙が演じるのは、普段は冴えないけど闇狩人になった途端凄腕になるっていう二面性のある人物なんですけど、その切替えが楽しみですね」(横浜)。アクションについては、共に謙虚だ。しかし、高杉は『里見八犬伝』の初演と再演で殺陣を特訓。横浜は、中学3年生のときに極真空手の世界大会で優勝した経歴を持つ。また、高杉はダブル主演を、横浜も主演を、すでに舞台で経験しているとあって頼もしい。「僕も主演のときは周りの人に支えられたので、真宙には自分の思う道をまっすぐ突き進んでもらって、僕たちが支えたい」(横浜)。「まだまだですけど、みんなを引っ張れる人間になるという心意気で頑張りたいと思います」(高杉)。勧善懲悪の物語の痛快さはもちろんのこと、がむしゃらに頑張るふたりの姿も、きっと心に刻まれることだろう。公演は5月13日(金)~22日(日)の天王洲銀河劇場での東京公演を皮切りに、5月28日(土)に北九州芸術劇場大ホール、6月11日(土)・12日(日)に大阪・森ノ宮ピロティホールにて上演する。チケットぴあでは2月5日(金)より抽選先行プレリザーブの受付を開始する。取材・文:大内弓子
2016年02月01日KAAT神奈川芸術劇場プロデュースのオリジナルミュージカル『A NEW MUSICAL JAM TOWN』が幕を開けた。少年隊の錦織一清が原案と演出を手がけ、2014年のトライアウト公演(試演)から練り上げてきた意欲作だ。ようやく迎えた本公演でそれは、まさにこれまでにない日本生まれのミュージカルとして、花開いた。A NEW MUSICAL『JAM TOWN』チケット情報物語の舞台は、横浜港につながる運河に係留された船を改築したボート・バー。その店のマスターと離婚して会えなくなっていた娘との関係を軸に、店に集まる人々の人間模様が描かれる。が、そんなストーリーを前もって説明するのが無意味に思えるほど、躍動感あふれる演者のパフォーマンスに、どんどん引き込まれていく。まずユニークだったのが幕開けだ。劇場では常となっている開演前の注意のアナウンスを、出演者がパントマイムで表現。そのまま手を叩き、足を踏み鳴らしてダンスへと移り、観るほうの気持ちを高めていく。気づいたら客席はもう、冒頭から熱い手拍子である。本編にも、そのごく自然な流れは活かされた。芝居と歌とダンスが、それぞれに印象的でありながら、違和感なく溶け合っていくのである。たとえば、娘が恋に落ちるシーン。雨の日のコンビニで再会して意識するふたりの気持ちを、ダンサーたちも加わって、傘を使ったキュートな歌と踊りで見せる。まるで一編のショーを観たような楽しさで、ふたりへの共感が生まれてくる。マスターを演じるのは筧利夫。過去に傷持つ男の哀しさも漂わせながら、筧ならではの“演劇熱”を全身から放出させて、ときにアドリブを発しながら、歌い踊る。さらにはローラースケートまでこなすのだから驚きだ。娘のあゆみ役の松浦雅の歌、その恋人となるJJ役の水田航生のダンスも客席を圧倒した。また、マスターの元妻を演じた東風万智子は妻としての苦悩を見せて物語のスパイスに。マスターの幼馴染で探偵の長谷川に扮した藤井隆が、軽妙な芝居で舞台の空気を牽引した。特筆すべきは、振付のYOSHIEを筆頭としたダンサーたち。常連客やコンビニ店員などに扮して芝居をしながら、世界で活躍するYOSHIEの独特なダンスを見せつける。音楽の西寺郷太が演奏しながらたまに芝居に加わるという洒落た演出も含め、長らく『PLAYZONE』などのミュージカルに出演し、近年は演出家として数々の舞台を手がけている錦織のアイデアがそこかしこに光る。ライブでしか味わえない興奮がたくさん詰まった舞台であった。公演は1月30日(土)までKAAT 神奈川芸術劇場 ホールにて。取材・文:大内弓子
2016年01月20日2013年の『ラスト』から3年。WAHAHA本舗の全体公演『ラスト2~NEW HOPE 新たなる希望~』が上演される。これで最後と銘打った作品は、実は3部作のシリーズものだったのである!その第2弾となる今回は、どんなショーが飛び出すのか。作家の喰始と共にWAHAHA本舗を率いてきた佐藤正宏、柴田理恵、久本雅美が意気込みを語った。WAHAHA本舗全体公演 チケット情報「正直にお話すると、全体公演は本当に前回で打ち止めにするつもりだったんです。ところが、『本当にもうやらないんですか』という声があまりに多くて、それで3部作ということにしました(笑)」と、『ラスト2』を上演するに至った理由を喰が語り始めると、「私も『またやってほしい』と言われた」と声を揃える柴田。「こんなに惜しまれるものなんだってうれしかった」と佐藤も言う。「だからこそ、そのお客さんの期待を超えられるように頑張りたいよね」と話すのは久本だ。WAHAHA本舗の公演は、確かに、何度でも観たくなる要素が満載である。たとえば、幕が開く前に盛り上げるナレーション。それによって「いきなりクライマックスから始まる」(佐藤)ような舞台になるのだが、その声だけの出演者が、井上陽水、西田敏行、和田アキ子など実に豪華。「今回も大物に依頼する予定です」と喰が期待を高める。もちろん幕が開いてからのショーも豪華絢爛。しかも今回も、オール新作のネタとなる。柴田・久本コンビが繰り出すのは、「江頭2:50をモジッた“江頭ババア”の漫才。前に小さい舞台でやったのが面白かったから、今度は大きな舞台で観たいと喰さんにリクエストされたので、バージョンアップしたものを考えてます」(久本)。佐藤が見せるのは、劇団の女性陣を黒子に従えた日舞。「手を変え品を変え、日舞にはあり得ないものも使いながら踊ります(笑)」(佐藤)。そして、喰によると、「梅ちゃん(梅垣義明)が大舞台で歌うのはこれが最後になる」というサプライズ企画もある。今回はまた、新加入のメンバーも登場する。「一緒にやるのは今回が初めて。みんなのエネルギーに触発されるだろうし、私たちも、“お前ら、ここまでくだらなくなれるか!?”と(笑)、若手に刺激を与えたい」と柴田。「エネルギーがあふれているのがWAHAHAの面白さ」と喰も改めて感じている。創立33年目に突入してもなおパワフルに、ただただ面白さを追求していくWAHAHA本舗。久本は言う。「演劇でもお笑いでもないWAHAHA本舗にしかない世界に、今回も客席をどんどん巻き込んでいきますからね」。覚悟して臨みたい!公演は2016年5月8日(日)より東京国際フォーラムホールCでの東京公演を皮切りに全国各地をめぐる。東京公演はチケット先行抽選2次プレリザーブを受付中。取材・文:大内弓子
2016年01月13日松尾貴史と演出家のG2が結成した演劇ユニット“AGAPE store”が5年ぶりに活動を再開して1年。復活公演の第2弾が、2016年1月に上演される。多彩な顔ぶれで紡ぎ出すのは、とある会社で繰り広げられる、秘密を抱えた男女7人の物語。その内容を、松尾とともに、キャストの池田純矢、宮崎秋人が稽古場で語ってくれた。題して『七つの秘密』なる舞台は、ちょっと面白いことになりそうだ。AGAPE store『七つの秘密』チケット情報1998年に結成して以来、コメディ、翻訳劇、ホラーもの、時代劇など、あらゆるスタイルで上演を続けてきたAGAPE storeが、今回脚本に迎えたのは、コントユニット「男子はだまってなさいよ!」主宰の細川徹。松尾曰く、「僕もG2も年齢を重ねると知らず知らずのうちに重くなってしまうので、ポップでナンセンスでサブカルの匂いのする作風の方がいいなと」細川に依頼。でき上がったのは、それぞれに抱えている秘密が連鎖して、人間関係に大混乱が生じ、「いい大人がバカな状況に陥って、ただただ大人ってダメだなぁと思う芝居(笑)」(松尾)である。確かに、池田演じる“自分をカッコいいと思っている男”や宮崎の“真面目だが存在感が薄い男”など、キャラクター設定だけでもおかしみが漂う。だが、だから演じるのは難しいと池田と宮崎は声を揃える。「いい意味で何も考えずに表面的に楽しめる作品だからこそ、そこへ到達するまでには迷路がいっぱいあって。でも、お客さんにはその難しさは一切感じさせずにただ笑ってもらいたいので、役者としてはかなり頑張らないといけない」と池田が言えば、宮崎は「笑いというものに向き合うのも、こういう小劇場の芝居をやるのも初めて。これまでは熱くエネルギーを出して伝えるようなお芝居が多かったので、肩の力を抜いてその場にいられるようにならないと」と自らを鼓舞。松尾が「特筆すべきダメさ」と語る役をどう見せるのか楽しみである。AGAPE storeでは、「ゆるく楽しめるものを」と考えている松尾。今回も「社会的なメッセージもなければ、明日から頑張って生きようと思うようこともない(笑)」と強調する。「ただ、くだらないことで笑っていられるというのは、自由で平和な証。どんどん“物言えば唇寒し”になっていくなかで、こんなふうにいろんな価値観がある世の中っていいよねという認識が広がっていくことも、表現の役割のひとつじゃないのかなって、ぼんやりと思ってるんです」。年明けから笑える幸せを、ぜひ噛みしめてほしい。公演は1月15日(金)から24日(日)まで東京・紀伊國屋ホール、1月29日(金)から31日(日)まで大阪・近鉄アート館にて。チケット発売中。取材・文:大内弓子
2015年12月28日寺山修司作『毛皮のマリー』が、美輪明宏の演出・美術・主演で、7年ぶりに上演される。日本一ゴージャスな男娼マリーと、マリーに愛される美少年・欣也の過剰なまでの親子愛、そして、それを取り巻く寺山ならではの見世物的世界は、どう描かれるのか。寺山が認めた美輪にしか生み出せない舞台に、期待が高まる。舞台『毛皮のマリー』チケット情報寺山が美輪に『毛皮のマリー』を書き、初演されたのが、1967年のこと。修辞的な台詞で描かれたその戯曲には、人生哲学が散りばめられていると感じたという。「たとえば、『世界は何でできているか考えたことある?水夫さん。表面は大抵、みんな嘘でできているのよ』という台詞も、とても大事なことを言っているんです。だって、人間はみんな嘘をついているでしょう。まず、服を着て、化粧をして、決して生まれたままありのままでは生きていません。自分の出世や安定のために権力におもねって嘘をつくこともあります。表ではいいことを言っている政治や経済もすべてそうです。と、そんなふうに、台詞についての解釈を寺山に話したら、『あなたは恐ろしい人だ。それでけっこうです』と返ってきました(笑)。私の出すアイデアには、寺山自身が気づいていないものもあったみたいです」。以来、寺山からの絶大なる信頼を得た美輪は、初演を含めこれまでに7度、『毛皮のマリー』を上演。前回の2009年版は、「決定版に近いものができたと思っています」と自負している。それだけに今回は、さらなる決定版をとの思いが募る。「寺山修司の世界はコンテンポラリーで、何でもありの世界です。ですから、寺山の出身地である東北の民謡を使った土着的な匂いから、フランスの古き良き時代のエレガンスな匂い、レトロな匂いと、あらゆるものを混在させて、ごった煮にしたいと思っているんです」。何でもありを象徴するような下男の醜女のマリー役を、ワハハ本舗の梅垣義明が初めて演じることも決まった。「劇中劇のショーで鼻から豆を飛ばしていただく予定です」というから、一層それは、醜悪で美しい世界となっていくことだろう。寺山だけでなく、三島由紀夫や江戸川乱歩など、今は亡き天才たちが描き出したかった芸術の真の姿を体現できる数少ない表現者である。「60年来の友人に『あなたしぶといわね』と言われましたが(笑)、台詞を、その世界観を自分が演じられると思う限りは、簡単に引退なんてしません」。最後にうれしい言葉が聞けた。公演は4月2日(土)から東京・新国立劇場 中劇場、4月27日(水)から東京・PARCO劇場にて。取材・文:大内弓子
2015年12月28日初演から36年が経った伝説の名作『元禄港歌―千年の恋の森―』に、宮沢りえが挑む。『近松心中物語』で知られる秋元松代の戯曲を初演と同じく蜷川幸雄が演出するこの舞台。許されない恋を抱えた瞽女を演じる宮沢は、情感あふれるこの物語にどう命を吹き込むのか。舞台『元禄港歌 -千年の恋の森-』チケット情報物語の舞台となるのは、江戸は元禄の時代の播州の港町。秘密を背負った母子、結ばれない男女など、瞽女の一行と大店の人々をめぐる幾重にも重なった宿命が、哀しく切なく描かれる。「野田秀樹さんや唐十郎さんといった、自分がこれまでやってきた舞台とはまったく異なる世界観の作品。女の情念みたいなものをそのままさらけ出すような、演じたことのない役でもあるので。蜷川さんがまた私にハードルを与えてくださったなと受け止めています」。演じる瞽女の初音は、これまでに太地喜和子や富司純子が演じてきた役。盲目の女芸人として生きる純粋な覚悟や女性としての激しさ、さまざまな情感を体現することを求められる。「目が見えない人間には何が見えるのか。目に映らないものが心にどう映るのか。そういう探求がこれから待っているかと思うとすごく楽しみなんです。深く考えれば考えるほど見えてくるものがあると思うから、その思索を大事にしたいですね」。瞽女一行をまとめる母のような存在を市川猿之助が演じるが、女方の共演はかつて坂東玉三郎と経験している。「女方の表現とどう交われるのかっていうのは、今度も緊張しますけど、だからこそ楽しみです。学ばせていただくこともきっといっぱいあるだろうなと思いますし、私も私なりにお返しできるような表現ができたらいいなと思いますし。ただ、お芝居というのは肉体ではなく魂の問題だと思うから。男性の猿之助さんも女性の私も同じところにいるんじゃないかなと思っています」。まさしくその魂が自由な人なのだろう。「お芝居のなかでは、誰を愛しても殺してもいい(笑)。不思議な仕事だなと思うけど、そういう意味では、お芝居をしているときがいちばん、身も心も自由になれて、深く呼吸ができる気がします」。今の時代にはない人間の関係や感情が描かれるこの舞台でもきっと、自在にあふれるものを見せてくれるはずだ。「今この作品をやる意味、私が参加させてもらう意味というのがあると思うので、それをちゃんと自覚しながら、この時代の人たちの思いを伝えることに試行錯誤したいです」。伝説の舞台は、心震わせるものをもたらしそうだ。公演は2016年1月7日(木)より東京・シアターコクーン、2月6日(土)より大阪・シアターBRAVA!にて上演。現在、ほぼ完売状態の東京公演は、チケットぴあにて立見券を発売中。取材・文:大内弓子
2015年12月11日2011年の初演から3度目の上演となる『ピアフ』で、大竹しのぶが再びエディット・ピアフになる。演じるというより、まさしくピアフが降りてきたとしか言いようのなかったあの舞台に、再び立つ思いを聞いた。舞台『ピアフ』チケット情報舞台『ピアフ』は、シャンソンの女王、エディット・ピアフの人生を、短くも鮮烈なシーンを積み重ねながら表現した作品。そこに、『愛の讃歌』『バラ色の人生』『水に流して』などのピアフの珠玉のナンバーが加わっていく。再演にあたって大竹が改めて感じているのは、そのピアフの歌が持つ力だ。「音楽番組で歌う機会があったんですけど、演劇と離れて歌っても、やはりピアフの歌は別格でした。演出の栗山(民也)さんも『ピアフが歌うときは神々しい』とおっしゃっていましたが、地と天を結ぶような力があって、聴く人にその力を与えられないと歌う意味がない感じがするんです。『あたしが歌う時は、あたしを出すんだ。全部まるごと』という台詞があるように、私も全部を出して歌わないと歌えない」。それだけに、「ピアフをやると疲れる(笑)」のだと苦笑する。「でも、ピアフの台詞に私自身が力をもらえる。そして、“何があっても生きていかなくちゃいけないね”っていうような気持ちを、舞台にいる私たちとお客さんとで、共有し合えたような感覚になるんです」。歌のみならず、ピアフの人生自体も壮絶だ。最愛の人を亡くし、病に身体も心も蝕まれながらも、歌い続ける。「愛を求めた孤独な人だったんだろうなと思います。歌っているときだけは喜びがあって自分になれて。そんなふうに人生の苦しみやつらさを知っている人の歌だからこそ、あの人の歌声は多くの人を惹きつけたんじゃないかなと思うんです」。その人生を本当に生きたように演じた大竹は、初演の年に読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞した。「評価していただいたことがプレッシャーにならないと言ったら嘘になります。でも、どう思われるかということは考えずに、今の自分と共演者のみんなでまた一から作っていって、1回1回やるだけだと思っているんです」。おそらく大竹は、また毎公演、エネルギーをあふれさせて、ただピアフを生きるのだろう。「私たちの身体を通してピアフの愛と力を感じてもらって、頑張って生きていこうと思ってもらえたらうれしい」。ピアフにとって歌うことが喜びであったように、大竹にとっても演じることが喜び。その純粋な思いに心動かされないはずがない。公演は2月7日(日)から29日(月)まで東京・シアタークリエにて。その後、大阪、愛知、広島でも公演。東京公演のチケット一般発売は11月28日(土)午前10時より。取材・文:大内弓子
2015年11月27日宣伝のチラシに「言葉と身体と音楽が入り混じる、観たことのない舞台空間」とあった『死刑執行中脱獄進行中』。『ジョジョの奇妙な冒険』で知られる荒木飛呂彦の短編漫画を舞台化したその作品は、確かにその謳い文句通りの驚きに満ちた世界を見せてくれた。原作の『死刑執行中脱獄進行中』は、死刑宣告を受けた男が監獄に入ると、調度品など施設のすべてが男を処刑しようとうごめき出す物語。そこから脱出しようともがくほどに苦しめられるという、誠に不条理で非現実的な世界が展開していく。舞台ではこれに、同じく短編漫画『ドルチ』で描かれたヨットでの物語が加わって、檻のなかと海の上が行き来する、より不可思議な空間が出来上がった。幕が開いて目に飛び込むのは、吊り下げられた白い布と、白とブルーのダズル迷彩の布をまとったテーブル、チェア、チェスト、ソファ、バスタブ。そこは仕切りのない空間だが、森山未來がマイムで見えない壁を表出させ、森山扮する男がそこに閉じ込められていることをわからせる。果たして、この家具たちがどのようにして男を苦しめるのか。その仕掛けは、まさに演劇的であった。家具のなかから同じダズル迷彩の布をまとったダンサーが現れ、思わぬ動きで男を翻弄していくのである。言葉はほぼない。ときおりダンサーが、原作の一節を朗読するように声にするだけだ。その淡々とした空気と、動きに合わせてバンドが鳴らす音が、恐怖を掻き立てる。やがてヨットが舞台に現れる。その見事さは、緻密に計算され稽古を積み重ねた、ダンサーたちの動きの賜物だ。そこに登場する赤いワンピースを着た初音映莉子の存在感も鮮やかである。男は、この女にも嵐にも翻弄されながら、また一転、監獄に戻っていく。圧巻は、その後、監獄で待ち受けている家具と男の攻防が激しさを増していく場面だ。家具は男の居場所を取り上げ、文字通りに男の身体を振り回し、傷めつける。そこで森山が、初音が、ダンサーたちが表現しているのは、言葉を含んだ動きだ。構成・演出・振付の長谷川寧を筆頭に、全員で試行錯誤を繰り返したことが手に取るようにわかる。森山は言う。「さまざまなプロセスを経てクリエイションしてきました。そのプロセスは本番が始まっても続くと思います」。演劇とダンスが融合したときの創造と想像の強さを、ぜひ体験してほしい。東京・天王洲 銀河劇場にて11月29日(日)まで上演。その後、全国を巡演。地方公演のチケット発売中。取材・文:大内弓子
2015年11月25日『俺物語』など映画の主演作が続く鈴木亮平が、舞台でも主演が決まった。それも、『ライ王のテラス』という三島由紀夫の最後の戯曲を宮本亜門が演出するという大作だ。演じるのはカンボジア最強と語り継がれる偉大な王。病に冒され崩れていく肉体と精神の対比を華麗に描いた三島の世界に、いかに挑むのか。舞台『ライ王のテラス』チケット情報「生半可な気持ちでは立ち向かえない」。鈴木は三島作品をそう語る。「三島さんの作品は、三島さんの哲学を体に入れ、共感できるレベルまでにしておかないと演じられないと思うんです。ただこの戯曲を理解してカンボジアの王様を演じればいいというのではなく。だから、まず外堀から攻めようと、『午後の曳航』という小説や、『アポロの杯』という旅行記を読んでいるところなんですけど。やはり驚きましたね。僕も世界遺産が好きで遺跡などを見ていろいろ夢想するほうですけど、ここまで深く考える人がいるんだと。でも、それに負けちゃいけないと思っています(笑)。宮本亜門さんとともに三島さんの共犯者になって、表現し、伝えなきゃいけないんですから」。ほかにもプレッシャーはある。この戯曲は、発表された1969年に北大路欣也主演で初演されたのに続き74年にも再演された。2度も北大路が演じた役であり、しかも、その役が、美しく強い肉体を持つカンボジア王なのだ。「当時の北大路さんの写真を見ると、本当にたくましくて筋肉量もすごいんです。そこも含め、北大路さんに恥ずかしくない、負けないような芝居をしないと(笑)」。とはいえ、最近の鈴木は、肉体改造を求められる役が続いている。ドラマ『天皇の料理番』で肺結核を患う役を演じて激しく減量したかと思えば、映画『俺物語』のために30kg増量。「確かに、肉体を意識することから受け取ったものは、ほかの人より多い自信はあります。肉体が変わると性格とか精神も変わるという体験もしました。だからこそ、自分が生きた証として残るのは肉体なのか精神なのかという、この作品のテーマにも非常に興味があるので。稽古で突き詰めていきたいですね」。舞台に立つのは3年ぶり。「舞台は、稽古を繰り返すことで新たな引き出しができていって、確実に自分の幅が広がる場所。映像以上に体当たりで、熱く熱く、向かっていくつもりです。主役である以上、誰よりも努力をするのは当たり前だとも思っているので、ぜひその熱量を体感しに来ていただければ」。人気の存在になってもその懸命さは変わらない。公演は2016年3月4日(金)から17日(木)まで東京・赤坂ACTシアターにて。チケットの一般発売は11月21日(土)午前10時より。取材・文:大内弓子
2015年11月12日結成36年目を迎えた劇団スーパー・エキセントリック・シアター(SET)の最新作『虹を渡る男たち』は、タイムトラベルを題材とした作品。ミュージカル・アクション・コメディーを標榜するSETのこと、もちろんそこには、思わず笑ってしまう仕掛けと、エンターテインメントの要素が満載だ。初日を控えてまさに佳境を迎えた稽古場では、座長の三宅裕司を中心に、劇団員たちがより精度の高い芝居と笑いを追求していた。公演チケット情報『虹を渡る男たち』で描くテーマは、ズバリ、“男の友情”である。舞台は日本の芸能界。ライバルとしてお互いに切磋琢磨したヒットメーカーでありながら、今は芸能界から姿を消してしまった長本と熊崎というふたりの男を、三宅と小倉久寛が演じる。稽古は、熊崎が芸能界から去ることになった原因を阻止しようと、過去へタイムトラベルしたシーンから始まった。その原因とは、熊崎がプロデュースしたアイドルグループ“サンデー娘”のメインボーカルがデビューする日に失踪したことだったのだが、失踪の原因を食い止めようというわけだ。そして、ここで早速、SETらしさが噴出する。止めようと必死になるほど失言を連発して、結果、何をやっても原因を止められず、何度もタイムトラベルを繰り返す羽目になるのである。そのスピーディーな展開と、絶妙な台詞の掛け合いに、劇団員からも大きな笑いが起きる。何度稽古を繰り返しても新鮮に笑えるというのは、タイムマシンの発明者の久松を演じる野添義弘を含め、ベテラン3人だからこそ成せる技だろう。今回は、しかし、若手劇団員たちも負けてはいない。若い頃の長本を演じる白倉裕二、同じく若い頃の熊崎を演じる大竹浩一、失踪の原因となる男を演じる長谷川裕なども、三宅たちが投げかけるアドリブにしっかり呼応。こうしてアドリブで突っ込まれることで、SETの柔軟な芝居が生まれていくのだと実感する。また、その台詞がそのシーンがどうすれば引き立つのかと自ら動きを考えたり、“オネエの振付師”などの濃いキャラクターを担ってストーリーを盛り上げたりもしている。創立40周年に向け、SETの集大成にして原点回帰となる作品にしようとする思いが隅々にあふれていた稽古場。笑わせて笑わせて最後にホロリとさせる。そんなSETにしか作れない舞台がまもなく幕を開ける。公演は11月7日(土)から23日(月・祝)まで、東京・サンシャイン劇場にて。取材・文:大内弓子
2015年10月30日自身にとって2度めとなる舞台『とりあえず、お父さん』への出演が決まった本仮屋ユイカ。現代を代表する喜劇作家として、アメリカのニール・サイモンと並ぶイギリスのアラン・エイクボーンのヒット作に、藤原竜也、浅野ゆう子、柄本明という豪華キャストとともに挑む。久々の舞台に燃える女優としての思いを、率直に語った。舞台『とりあえず、お父さん』チケット情報「初舞台のとき、舞台に立っていて毎日幸せだったので、またあの感動を味わえるのかと思うとうれしくて」と、いちばんに再び舞台に立てる喜びを口にした本仮屋。初舞台を振り返って、「自分の肉体と思考と感情と直感をすべてフルに使って表現できて、それに対するお客さんのリアクションをまた自分の力にできるという、あの劇場でしか味わえない循環が最高だったんです」と語る。ましてや今回演じるのは、誰もが間違いなく笑えるエイクボーンの人気作。「どんな反応があるのか楽しみ。やりがいがあるなと思います!」。演じるのは、結婚を前提にグレッグ(藤原竜也)と交際しているジニィ。以前付き合っていた既婚の年上男性フィリップ(柄本明)とその妻シーラ(浅野ゆう子)をグレッグがジニィの両親と勘違いするところから、誤解が誤解を生む大いなる喜劇が始まる。「私だったら『それは誤解ですよ』と勘違いを正しそうなんですけど(笑)、ジニィは何とかごまかそうと、慌てたり、焦ったり、困ったりする。その姿がきっと笑えると思うんですね。だからこそ、既婚男性と付き合う奔放な女性だと思われるかもしれないですけど、『ジニィの気持ちわかる』と共感してもらえるように丁寧に演じたい」と早くも役に思いを寄せる。また、この作品が投げかけるものについても、「自分の見えてる世界だけが正しいと思い込んで勘違いの渦に巻き込まれていくジニィたちを見ると、その思い込みをなくしたら人生もう少し楽しくなるんじゃないかと思ってもらえると思うので。この舞台が明日からの活力になるとうれしい」と明快。「舞台をやると、その戯曲を通して作家さんが何を伝えたいのかっていうことを、全身全霊で探求し、表現し、伝えるのが女優の仕事だと改めて思い知らされます。そしてそこには人生の真理がいっぱい詰まっているんだと思ったら、演じることが尊いものに思えてくるので。しっかり伝えられる女優にならないと」。映像でもその演技力は知られている。が、本仮屋ユイカの底力は舞台でこそ放たれるのかもしれない。公演は12月3日(木)から23日(水・祝)まで東京・天王洲 銀河劇場にて。その後全国を巡演。東京公演のチケット一般発売は10月17日(土)午前10時より。取材・文:大内弓子
2015年10月09日竹中直人と生瀬勝久がタッグを組む「竹生企画」が4年ぶりに第二弾を放つ。前回に続き倉持裕を作・演出に迎えて挑戦するのは、『ブロッケンの妖怪』なるホラーコメディ。これが初舞台の佐々木希をはじめ、大貫勇輔、安藤聖、田口浩正、高橋惠子らとともに、笑いと怪奇の不思議な世界を作り上げる。超個性派のふたり、今度はどんな激突を見せるのか。舞台『ブロッケンの妖怪』チケット情報そもそもは、「竹中さんの芝居が好きで、憧れの人とぶつかりたかった」という生瀬のラブコールから始まった「竹生企画」。受けて立った竹中にとっても、「お互いに馴れ合いにならず、心地いい緊張感を持って静かに戦えた」場となったそうだ。実際、「もう1回、もう1回と繰り返していくうちに感情が動く瞬間がある稽古が好き」という竹中に対し、生瀬は「繰り返すよりも早く舞台に上げる形を見つけたい」と、ふたりは考え方も異なる。しかし、「違うから良かった」と竹中が言えば、生瀬も「すごく仲良くなったわけでもないんですけど(笑)、竹中さんという存在は唯一無二。絶対またやりたかった」と、さらなるタッグを望むようになったと話す。そうして立ち上がった第二弾は、洋館が1軒だけ建つ孤島が舞台。そこで、ブロッケン現象で霧に映ったもうひとつの洋館が日に日に近づいてくるという物語が展開していく。第一弾に続いて作・演出を担うのは、「あの何とも言えない不思議な世界がたまらなく好き」と竹中が依頼した倉持裕。「今回も演劇でしか表現できない不思議なエンターテインメントになると思う」と生瀬も期待を膨らませる。さらに、「生瀬くんと僕でホラーコメディをやるなんて、『ヴあああ~!』っていう恐怖の顔合戦がすごいことになるんじゃないかと思う(笑)」と竹中が楽しそうに言うと、「僕、そういうテンションを上げることを良しとする先輩たちの考え方が、今すごく大事だと思うんです。ギリギリでやるっていうことがやっぱり美しいと思う」と生瀬が力強く応えた。今回の物語がホラーコメディになったのは、実は、ホラー映画マニアの竹中の声が発端。自分たちで立ち上げた企画だからこそ、何ものにもとらわれず、やってみたいことに、やってみたい人を呼んでトライできる。「とにかくすごい芝居になる予感がする」と竹中。そして、「2回目が勝負。面白いことやってるらしいよと噂になって、3回目を期待してくれる人が増えたら」と生瀬。純粋に、自由に、ふたりの俳優が舞台に取り組む。10月30日(金)より東京・THEATRE1010を皮切りに、全国で公演。取材・文:大内弓子
2015年09月09日ドラマ出演が続いて注目を集める高杉真宙が、舞台初主演に挑む。演目は、大阪演劇界の旗手・末満健一の人気作『TRUMP』。不死の力を失った吸血種の少年たちが生を求めて翻弄する姿を描く、ヴァンパイア・エンターテインメントだ。ダブル主演の早乙女友貴とともに、ふたつの役を交互に演じるというユニークな試みもある。この儚く美しき物語に、高杉はどう向き合うのか。舞台『TRUMP』チケット情報物語の舞台は、吸血種「ヴァンプ」の少年たちを教育するギムナジウム。「ヴァンパイアって怖いイメージしかなかったんですけど(笑)、この物語にはそんなイメージはまったくなくて。命のこととか、人との絆に、とても純粋に向かっているような印象があったので、そこを大切に演じたいなとまず思いました」と台本の印象を語る。人間とヴァンプの混血のソフィと、ヴァンプ界の名家に生まれながら忌むべき存在のソフィに惹かれるウルを、早乙女とともに交互に演じることになるが、その仕掛けについても興味津々だ。「深く関わり合う役を両方演じるというのは衝撃的でした。最初はそんなことが自分にできるのかなと思いましたけど、今は楽しみが80%。両方を演じることで役の気持ちをより深く理解できると思いますし。(早乙女)友貴くんの演技を見て、自分なりの演じ方を深めていくこともできるんじゃないかなと思っています」。今年は、昼ドラ『明日もきっと、おいしいご飯~銀のスプーン~』で主演を担うなど、大きく飛躍している高杉。それでも、舞台初主演については、「ドラマで主演を経験したからといって、次の仕事が簡単になるっていうことは絶対にないと思います。どの現場にも毎回壁はあるので、今回も頑張っていろんなことを乗り越えながら、友貴くんと一緒に手を取り合って、座長として突っ走っていけたらなと思います」と気を引き締める。舞台はデビューしてすぐの頃から経験している。映像の仕事が増えたことで、「改めてライブで芝居することの怖さを痛感する」とも言う。「だからこそ、もっともっと舞台をやって怖さをなくしたいと思うんです」。そのためにも今回は、「稽古場で縮こまらないで、自分がやりたいなと思うことは思い切ってやってみるつもりです。そうしてちゃんと爆発したうえで、演出の末満(健一)さんに指導してもらって、舞台の演技というものを学んでいきたいと思うんです」。やわらかな面差しに強い意志を秘めている。高杉が自らの殻を破って築き上げる「ヴァンプ」の世界。存分におぼれてみたい。公演は11月19日(木)から29日(日)まで東京・Zeppブルーシアター六本木、12月5日(土)・6日(日)に大阪・サンケイホールブリーゼにて。チケットの一般発売は8月29日(土)午前10時より。取材・文:大内弓子
2015年08月28日シェイクスピアの時代にならって男性キャストだけで演じる“オールメール”作品。蜷川幸雄演出・監修で上演されてきた彩の国シェイクスピア・シリーズの最新作『ヴェローナの二紳士』が、この秋お目見えする。溝端淳平が初めての女役に挑むなど、魅力的なキャストが揃うなか、溝端演じる娘の恋人役に三浦涼介が抜擢された。同じ蜷川演出の『わたしを離さないで』でも鮮烈な演技を見せた三浦。初めてのシェイクスピアで、さらなる進化を遂げようとしている。舞台『ヴェローナの二紳士』チケット情報三浦が蜷川演出作品に出演するのは、2012年の『ボクの四谷怪談』、2014年の『わたしを離さないで』に続き、3度めとなる。「蜷川さんはとても愛のある人。そのおかげで、前向きになったり、お芝居が楽しいと思ったり、この先も続けていっていいんだなと思えたりしたんです」とその出会いの大きさを語る。ゆえにまずは、「蜷川さんとまたお仕事するということに自分の意味を置きたい」と言う。蜷川によって開いた可能性と力を自らで存分に活かしたいのだ。「しかも、以前、蜷川さんから弱い役のほうが向いてると言われたことがあって、今回演じる役はそれとは真逆なので。蜷川さんが納得するものを見せるという意味で勝負だなと思っているんです」。『ヴェローナの二紳士』で三浦が演じるのはプローティアス。溝端扮するジュリアという恋人がいながら、留学先のミラノで親友の想い人に横恋慕するという、いわば自分の思いのままに生きる男である。「本当に自分の思いにまっすぐな人なんです。相手に対しても隠しごとなくぶつかっていって、失うものがあってもいいから自分を全うしようっていう。そこはちょっと自分に近い部分もあるので(笑)、描かれている時代も環境も違うんですけど、違和感なく台本を読めました」。シェイクスピアの世界に初めて触れて、“美しい”とも感じたそうだ。「台詞はちょっと難しい言葉が並んでいたりするけど、噛み砕いていけば本来の人間の姿が見えてくるような感じがするんです。今は情報がありすぎて、人に何かを伝えるにも遠回りしたりしているから、言葉とか行動がこれぐらいまっすぐでいいんじゃないかなと思ったりします」。また、男性が女役を演じることで“美しさ”がより高まるという期待も。「男ならではの女性の美しさへのこだわりみたいなものってあると思うので(笑)、その美しい娘たちに本気で惚れたいと思います」。オールメールだからこそ広がるイマジネーションがある。その喜びを、演者とともに味わいたい。公演は10月12日(月・祝)から31日(土)まで埼玉・彩の国さいたま芸術劇場 大ホール、11月6日(金)から9日(月)まで大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ、11月14日(土)・15日(日)は愛知・穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール、11月21日(土)から23日(月・祝)まで福岡・キャナルシティ劇場にて。取材・文:大内弓子
2015年08月20日鴻上尚史が旗揚げした「虚構の劇団」の第11回公演がまもなく幕を開ける。『ホーボーズ・ソング~スナフキンの手紙Neo~』という、“さすらう人たちの歌”を意味するタイトルを掲げた新作は、どんな世界になるのか。鴻上の創作の過程に、劇団だからできること、劇団ならではの面白さが、改めて見えてきた。虚構の劇団 チケット情報「虚構の劇団」に新作を書こうとしたとき、鴻上に映ったのは、「わさわさし始めて、どこに行くのかわからない感じの」今の日本の姿だった。「世の中全体がさすらってる感じがしてるぞと、さすらい人という意味のホーボーという言葉が浮かんだんです」。そして書いたのは、“賛成派と反対派に分かれて内戦を続ける日本”の物語だ。「今、安保法制のことで揉めているけれども、じゃあ、本当にふたつに分かれて戦いが始まったらどうなるのかと興味が湧いてきたんです」。といっても、安保法制のことを描くわけでも、警鐘を鳴らすわけでもない。「作品を作ることでそのパラレルワールドを覗いてみようということですね。そういう思考実験は、稽古初日に台本があればいいという(笑)、劇団だからできること。鴻上が今この時点で何を考えているのかということをリアルタイムで観られるのが、虚構の劇団の新作だというわけです」。劇団を立ち上げて8年目。劇団員たちに課すものも高くなってきた。「たとえば、ふたつに分かれて戦う軍隊の片側のリーダーを演じる三上(陽永)。僕の作る芝居なので、内戦といってもただ深刻なだけにはならず、歌も踊りも笑いもあるわけで、そこを目指しながら、ある権威みたいなものを真っ当に表すことが果たしてできるのか。また、戦いの話なので、過去の虚構の劇団作品以上に、けっこうなファイティングもある。だから、ちゃんと見せられるものにするために、稽古中はもうカリカリしてるんですけど(笑)。でも、彼らに書く脚本は、僕の役者に対する挑戦状。鴻上の言葉、鴻上の演出を全身で引き受けて、必死にあがいて何とかしようとする姿は、感動的かなと。みなさんにもそれを目撃していただければなと思っています」。客演に迎えるオレノグラフィティと佃井皆美が劇団員に与える刺激にも期待しながら、「こんなやっかいな時代だけど、明日も生きていこうと思ってもらえるような芝居」を今回も目指す。今年7月にオープンしたばかりの「あかがねミュージアム」での新居浜公演は、「故郷でやる初めての芝居」。ほか2か所の四国公演と、東京、大阪公演で、「しんどい分、面白い」という新作を披露する。各地公演ともにチケットは好評発売中。取材・文:大内弓子
2015年08月19日これまでに何度も上演を重ねてきた樫田正剛作・演出の『あたっくNo.1』。昭和16年、行き先を知らされぬまま極秘の任務に旅立った潜水艦の乗組員たちの物語が、戦後70年という節目の年の夏に蘇る。11人の男たちが集う熱気あふれるこの舞台。白石隼也、加藤慶祐、小澤雄太(劇団EXILE)がキャストを代表して、意気込みを語った。【チケット情報はこちら】『あたっくNo.1』が誕生したのは、樫田の伯父の日記がきっかけだった。広島県呉軍港からイ18号潜水艦に載り、航行中に行き先がハワイの真珠湾であると知らされたことが綴られていたその日記から生まれた物語だと聞いて、白石は「舞台の経験は少ないんですけど、ぜひやらせてもらいたい」と思ったのだという。「演じるのは、真珠湾攻撃で戦死された“九軍神”のひとりをモデルとした古瀬中尉。実在された方を演じるのは初めてです。その責任や、樫田さんのこの作品への思いを感じつつ、この時代のことを勉強して、いかに役に寄り添っていくかということを大事に、演じていきたいと思います」。また、「ハンパない熱量の舞台になる」と話すのは、寺内という愛すべき男を演じる加藤。「正直言って、死を覚悟して任務を遂行するという気持ちは簡単にはわからない。でも、だからこそ、嘘なく本気でぶつかることで見えてくるものがあると思うので。本気で演じて、この時代のことを知らない方にも、少しでも伝えられたらいいなと思います」。そして、劇団EXILE公演として行われた公演から数えて3度目の参加である小澤。「僕が演じる大滝少尉は、狂犬のようだった男が潜水艦で仲間たちと出会って友情に目覚めていくという役柄。大滝ひとりにもそれだけの物語があるように、それぞれ物語があるので、一人ひとりに注目してほしいし、何度でも観てほしい」とアピールする。繰り返し上演を求められるのには理由もある。「戦争とか潜水艦の話と聞くと暗いイメージが浮かぶかもしれないですけど、これは若者たちの青春が詰まってる話なんです」と加藤が言えば、小澤も「死を覚悟した人たちがそれまでの日常をどれだけ楽しく幸せに過ごしたか。僕たちが伝えたいのはそこなんです」と強く語る。ただ史実を描くのではない。若者たちがその時代をいかに生きたかということを熱くリアルに見せてくれるのだ。白石が最後に胸を張った。「『あたっくNo.1』史上最高の舞台にします。ぜひ期待して観に来てください」。取材・文:大内弓子
2015年08月12日“移動コメディ”“漂流コメディ”“迷路コメディ”と、毎回思わぬ題材を舞台に上げてコメディに仕上げているヨーロッパ企画。第34回公演『遊星ブンボーグの接近』では、タイトルにある通り、文房具を俎上に乗せる。そこにはどんな目論見があるのか。作・演出を手がける上田誠と劇団員で俳優の石田剛太の話から、ヨーロッパ企画にしかできない舞台作りが見えてきた。ヨーロッパ企画第34回公演『遊星ブンボーグの接近』チケット情報「“文房具コメディをやります”というのは、数年前からアフタートークでも言い続けてきたことなんです」という上田。自身も、アイデアを書き出すホワイトボードを持ち歩くほどの文房具好きなことから、いつかはとの思いがあった。それがようやく実現にこぎつけたのは、「これまでにいろんな題材を舞台で表現することを試してきて、文房具を舞台で見せる自信もだんだん出てきた(笑)」からだという。一方、こだわりのペンを持っているという石田も、「最初は本当にやるんだと思いましたけど(笑)、文房具をSFと絡めることで、何か面白いことができそうな気がしています」と乗り気。ヨーロッパ企画の舞台は劇団員・スタッフの話し合いやエチュードから作られているが、今回も、それぞれの文房具にまつわる思い出話などから、「文房具というミクロの世界と、大宇宙から遊星が迫ってきくるというマクロの世界をつなぐ物語」(上田)が生まれていくことになる。最近上田は、「今まで描かれていない領域の面白さをどうすれば舞台で語れるか」ということに興味を持っているという。「なかでも文房具は、自分の脳内の内宇宙と外宇宙の中間ぐらいの手元にあるもの。社会は変えられなくても、筆箱のなかは自分の好きなものを揃えられる。そして、このペンはこういうときに使うとか、それぞれ語れるものがあるんですよね。小さい世界ですけど、そこにこそ豊穣な物語があると思っています」。また、劇団員もスタッフもそれを語れるだけの力をつけてきたと上田。石田も「だから、役者同士の掛け合いも面白い。前回公演で久々に群像劇をやったら楽しくて。今回も文房具を囲みながらみんなでしゃべるのが楽しみなんです」と話す。さらに、ユニークな舞台作りをすると同時に、「文房具ファンが客席に来てくれたり、場を混ぜるということもしていきたいんです」という展望を上田はのぞかせる。独自のテーマに自由に挑戦しながら、あらゆる世界とつながっていく。そんな演劇の可能性にもヨーロッパ企画は挑戦しようとしている。公演は9月5日(土)の栗東芸術文化会館でのプレビュー公演の後、京都、名古屋、東京、大阪、高知、広島、福岡、横浜の各地を巡る。チケット発売中。取材・文:大内弓子
2015年08月07日過去2度の上演で、その不可思議な世界観が話題を呼んだ後藤ひろひと作『ダブリンの鐘つきカビ人間』。10年ぶりの再演に、佐藤隆太、上西星来(東京パフォーマンスドール)が挑戦する。これまでの演出も手がけてきたG2とともに、作品の魅力と意気込みを語った。舞台『ダブリンの鐘つきカビ人間』チケット情報作品の舞台はかつて奇病に襲われた村。その病によって醜い容姿となったカビ人間を佐藤が、自分の思いと反対の言葉しか話せなくなった娘・おさえを上西が演じ、やがてふたりに訪れる残酷で美しい奇跡が描かれる。この独特なダークファンタジーの演出を3度手がけることになったG2。「どうせやるなら新しい世界観を作りたかった。おふたりにはこの台本に新しい風を吹かせてもらいたい」と期待を寄せる。それに対して「思い切り笑って最後に切ない気持ちになってと、観てるほうもいろんな表情になれる好きな作品。前作にリスペクトを持ちつつ、どこまで自由に動けるか、挑戦してみたいです」と応える佐藤。本格的な演劇には初挑戦となる上西も、「不安はありますけど、おさえの心のもどかしさをどう表現するか、恥ずかしがらずに、やれるだけのことをやりたいと思います」と力強い。佐藤は舞台を「怖いからこそ大事にしたい場所」という。「始まってしまえば楽しいんですけど、本番1週間ぐらい前はすごく怖い。それぐらい追い込まれるからこそ、そこから逃げたくないと強くなれるような気がします」。片や、東京パフォーマンスドールのライブでナマの舞台も数多く経験している上西は、「台詞や段取りを忘れたときの怖さはありますけど、いつもメンバーで助け合っているので、冷静に対処できるほうだと思います」。そんな上西を見てG2も、「毎日おさえとして気持ちと反対のことを言うのは、実は大変なこと。その精神的なタフさをぜひ発揮していただきたい(笑)」と心強そうだ。カビ人間という特殊な役に抜擢された佐藤についても、「代々のカビ人間とはタイプの違う役者なのに、“あー、いけるいける”と思った。ハマるし今までとひと味違う、というカビ人間になると思いますよ」と太鼓判を押す。そもそもこの異色の物語は、G2によれば、「それまでの作品へのアンチテーゼとして」生まれたものだったそうだ。「だから今回も、“今”に対するアンチテーゼを何かしら見つけていきたい」と。それだけに、同じ台本でありながらどれだけ違う世界になるのかは見もの。エンターテインメントのすべてが詰まっているこの作品がどう蘇るのか、期待したい。公演は10月3日(土)から25日(日)まで東京・PARCO劇場にて。チケットの一般発売は8月1日(土)午前10時より。なお、チケットぴあではインターネット先行抽選を実施中、7月22日(水)午後11時59分まで受付。取材・文:大内弓子
2015年07月22日世界初演から50年、松本幸四郎主演の日本初演から46年を数えるミュージカル『ラ・マンチャの男』が、3年ぶりに上演される。これほど長く演じ続ける力はどこから湧いてくるのか。上演回数1208回からスタートする今年の公演に向けて、幸四郎が情熱を見せた。ミュージカル『ラ・マンチャの男』 チケット情報『ラ・マンチャの男』は、スペインの作家ミゲール・デ・セルバンテスの「英知あふれる郷士ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ」を原作としたミュージカル。投獄された作者セルバンテスが即興劇を始めるという大胆な脚色のもと、とある田舎の老人が、何世紀も前に姿を消した騎士ドン・キホーテとなって、悪を滅ぼすための旅に出るという物語がスタートする。「自分はドン・キホーテであると信じる老人は、どこへ行っても狂人扱いされます。それでもひたすら夢を追い求めていく。その姿がやはり、観る人に希望を与えてきたのだと思います」とこの作品の魅力を語る幸四郎。46年もの間演じ続けてこられたのも、自身が作品から力をもらってきたからだという。「作者のセルバンテスがこんなことを言ってるんです。“いちばん憎むべき狂気とは、あるがままの人生に折り合いをつけて、あるべき姿のために戦わないことだ”と。また、“事実は真実の敵だ”という台詞も劇中に出てくる。僕も本当に、毎日現実という事実と戦い、苦しみのたうち回りながら折り合いをつけて生きていますから。あるべき姿のために戦うドン・キホーテに勇気づけられ助けられて、今日までこられたのだと思います」。1970年にこの作品でブロードウェイの舞台に立つなど、幸四郎は世界への先駆者でもあった。歌舞伎俳優でありながらその枠にとらわれず柔軟でいられるのは、「役者は何でもやる必要はないけれども、求められれば何でもできなくてはいけない」との思いがあるからだ。さらには、『王様と私』で初めてミュージカルに出演したときから、「どうせならブロードウェイまで行ってやろうと、歌舞伎はもちろん、ミュージカルもとことん突き詰めた」という。「46年の間には、両親をはじめ大事な人との別れもありました。でも、その悲しみを感動に変えるのが役者です。苦しみながら悲しみながら歌い踊って、みなさんに明日も頑張ろうと思っていただく。役者はそれしかないと思うんです」。役者としての“あるべき姿”を追求してきた幸四郎が演じるからこそ、ドン・キホーテが伝える人間の真実に、胸打たれずにいられないのだろう。公演は9月2日(水)から21日(月・祝)まで大阪・シアターBRAVA!、10月4日(日)から27日(火)まで東京・帝国劇場にて。チケットは大阪公演は発売中、東京公演は8月1日(土)に一般発売開始。取材・文:大内弓子
2015年07月21日