道を歩いていると、唾を吐く人を見かけます。なかには喉に絡まった痰とともに「ペッ」と吐く人もいるようです。そのような光景は当然見ていて気持ちの良いものではありません。「ああいう人を法で処罰してほしい」と考える人もいるはず。最近は歩きタバコなどを条例で禁止する自治体はあるようですが、同じような迷惑行為の痰唾吐き捨ては、罪にならないのでしょうか?エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に見解を伺いました。 痰唾の吐き捨ては罪になる?大達弁護士:「まず、道路で唾を吐くことについては、軽犯罪法違反という犯罪に問われる可能性があります。軽犯罪法1条26号は『街路又は公園その他公衆の集合する場所で、たんつばを吐き、又は大小便をし、若しくはこれをさせた者」について、拘留または科料に処すと規定しています。そして、道路で唾を吐くことは、『街路…で、たんつばを吐』いた、あるいは『公衆の集合する場所で、たんつばを吐』いたといえるため、軽犯罪法違反という犯罪になります。一方、道路以外の場所で唾吐きをした場合には、その場所がどのような場所なのかを考える必要があります。具体的には、その場所が「その他公衆の集合する場所」といえるのかが問題となります。例えば、駅のような公共性の強い場所であれば、JRや私鉄各社の私有地であったとしても「公衆の集合する場所」に該当し、軽犯罪法違反になると考えられます。一方で、公共の場所であっても、人がほとんど通らないような場所であれば、「街路又は公園その他公衆の集合する場所」には該当せず、犯罪とはならないと考えられます」 1万円に満たない罰金に「ちなみに、拘留というのは、1日以上30日未満で刑事施設に拘置する刑のことで、科料は1000円以上1万円未満の金銭を徴収する刑のことです。たんつばを吐いたとする軽犯罪法違反で起訴された例は具体的に把握しておりませんが、一般的に軽犯罪法違反で起訴される際には、科料9000円あるいは科料9900円などと、ぎりぎり1万円に満たない額とされることが大半であるように思います。 犯罪になろうとならなかろうと、唾を吐くことは周りの人からしたら不快なこと。唾も愚痴も、その辺に吐かないように注意しましょう」 まとめ軽犯罪法違反になる可能性もある「痰唾の吐き捨て」。街を汚すだけでなく、人を不快にすることは、間違いありません。明確な理由がない限りは、行わないようにしましょう。 *取材対応弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)痰唾の吐き捨て罪になることはある?はシェアしたくなる法律相談所で公開された投稿です。痰唾の吐き捨て罪になることはある?はシェアしたくなる法律相談所で公開された投稿です。
2020年01月16日wooden figures of people on scales and dollars between them. a dispute between two businessmen. trial. debt restructuring. wage arrears. protection of employee rights. court. Labor Law弁護士に相談する際、必要となるのが費用です。かなり高額なイメージもあるだけに、なかなか「気軽に相談」とも行きづらいものがあるかもしれません。しかし訴訟などでは、力を借りず話を前に進めることは極めて難しいでしょう。しかも、完全に相手に非がある場合で無法行為を訴えるならば、「こちらは悪くないのだから、弁護士費用だって相手に出させたい…!」と考えるのは、当然のことではないでしょうか。では、弁護士費用を訴訟相手に請求することは可能なのでしょうか?エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に見解を伺いました。 弁護士費用を相手に請求したい…大達弁護士:「様々なトラブルに巻き込まれて損害が発生した場合、トラブルの相手に損害賠償を請求することを考えると思います。その際、弁護士に依頼される方も多いと思いますが、弁護士も業務である以上、どうしても弁護士費用問題は付きまといます。弁護士としてはそれなりの時間や労力もかけて全力で取り組んではいるのですが、依頼者にとっては安くないお金になるのもまた事実。しかし、そもそも相手がトラブルを起こさなかったら損害賠償請求をする必要がなく、弁護士費用だって支払わずに済んだはずです。それなのに、損害賠償を請求する側が弁護士費用を全部負担しなければならないのは、どこかひっかかるのも理解できます。」 損害として認められる範囲がある大達弁護士:「この点について、まず損害として認められる範囲は、原則としてそのトラブルを引き起こした行為と『相当因果関係』の範囲内にあるものに限られています(民法416条、最判昭和48年6月7日)。この『相当因果関係』の範囲内というのは、簡単に言うと、「加害者の行為のせいで、通常発生すると言えるものや、特別な事情があって生じたものであっても、加害者が予見し得たもの」のことです。そして最高裁は、弁護士費用については、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる範囲内のものに限り、相当因果関係に立つ損害といえると判断しています(最判昭和44年2月27日、最判平成24年2月24日)。 費用について判決が出される場合も大達弁護士:「したがって、様々な事情を考慮した結果、その事案を弁護士に頼んだ場合、実際にかかった費用のうち『この費用は通常かかるといえるため、相手に請求すべきだ』と認められる金額は、損害の範囲に含まれる、といえそうですが、現在の実務では、金額にもよりますが、交通事故などの不法行為に基づく損害賠償事件について認められた損害額の1割程度が弁護士費用として認められるケースにとどまるのが実情です。この1割というのは、依頼した弁護士に対して支払う報酬額とは関係なく、慣例上定められています。 判決で弁護士費用を請求する場合は?大達弁護士:「実際に訴訟を起こす際、損害賠償請求をする側は、請求する損害額の1割程度の弁護士費用を加算して請求することが通常です。その上で、裁判所が請求を認める場合には、弁護士費用についても適切な金額を決めたうえで判決が出されることになります。例えば、相手の過失で自分の車が破損し修理代が100万円、弁護士費用として20万円かかったという場合に、原告としては120万円を相手に請求することになりますが、裁判所が、『修理代については100万円が損害として認められるが、弁護士費用については10万円が相当だ』と判断した場合には、『被告は原告に対し110万円を支払え』といった判決が出されることとなります。 なお、かつては敗訴した側に勝訴した側の弁護士費用も負担させる敗訴者負担制度を作ろうとする動きもありました。しかし、裁判は必ず勝てる保証があるわけではありません。同時に、社会的弱者が行政や大企業などを訴えるような場合、勝てなかったときに負担する莫大な弁護士費用を負担することを考えて、訴訟を起こすことに委縮してしまうこともありえます。そうなれば、裁判の利用が縮小し、本来認められるべき権利が蔑ろにされてしまう危険性があるでしょう。そのため、結果としてこの制度の導入は見送られました。ちなみに、訴訟の判決が出される場合、『訴訟費用は原告(もしくは被告)の負担とする』といった判決文が出されることが多くあります。ここでいう訴訟費用は、訴状に貼る印紙や郵便切手代その他の実費をいうものであり、弁護士費用は含まれていません」 依頼予定弁護士と事前協議を大達弁護士:「補足的な話にはなりますが、弁護士の費用としては一般的に「着手金」と「報酬金」とに分けられることが多いです。着手金というのは、事件を弁護士に依頼する際に払う費用であり、依頼内容の成功・失敗に関係なく支払うものであって、先払いが原則です。他方、報酬金は、依頼された内容の成功度合いに応じて発生することが通常です。その他、M&Aや契約書作成、リーガルチェック、法務監査業務、会社法務など、紛争になじまない類型や、訴額が少額であり、着手金報酬金制になじまない場合には、時間制報酬制度を導入することもあります。自身の依頼する事件の報酬体系がどのようになっているかは、依頼する弁護士とよく協議をし、説明を受けて理解するようにしましょう」 弁護士に相談する前に、費用についてしっかり話を聞き、協議することが重要と言えそうですね。 *執筆・法律監修: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)相手が悪いんだから請求したい!弁護士費用について弁護士が徹底解説はシェアしたくなる法律相談所で公開された投稿です。相手が悪いんだから請求したい!弁護士費用について弁護士が徹底解説はシェアしたくなる法律相談所で公開された投稿です。
2019年06月27日日本はゲーム先進国。なかでも家庭用ゲーム機はファミリーコンピューターやスーパーファミコン、プレイステーションなど国民的な人気を誇りました。そんなゲーム業界ですが、最近はスマホにシフトしているようです。人気作品が次々と移植され、熱中している人も多いのではないでしょうか。ガチャビジネスには不満の声も家庭用ゲーム機はハードやソフトを購入することで販売元は収入を得ていましたが、スマホゲームは「ガチャ」が主流。ゲームアプリ自体は無料で、「有利に進めるためにはアイテムを購入してね」というものです。このガチャは、ルーレットのようなものが回り、止まったものが手に入るという手法になっています。誰もが欲しがるアイテムが「当たる確率」については、「重課金者」ほど当たりにくく設定し、課金を煽るような仕組みになっていると噂されています。仮にこのような噂が事実だった場合、違法にならないのでしょうか?エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に見解を伺いました。 問題はあるのか?大達弁護士:「まず、運営会社が当選確率などを表示しているにもかかわらず、重課金者の課金額を増やすため、重課金者の当選確率がその表示された当選確率よりも低い確率となるよう設定されていたような場合には、運営会社が故意に重課金者に対して虚偽の当選確率を提示し、それを誤信した結果そのゲームに課金しているといえるため、詐欺罪(刑法246条1項)に当たり得ますし、民事上も詐欺に当たるとして、その表示に基づいてなされた課金につき取り消しができると思われます(民法96条1項)。また、ガチャの当選確率などの事項はガチャを引く者にとっては重要なものであるところ、このような重要な事項の表示が事実と異なっており、その事項が事実であると誤認したことによってガチャを引いたものであるとして、消費者契約法に基づき、当該課金を取り消すことが考えられます(消費者契約法4条1項柱書、同項1号)。このように、課金を取り消した場合には、運営会社には不当利得返還請求をして、課金相当額とそれに対する利息を請求することになるでしょう(民法703条、同704条)」 景品表示法違反の可能性大達弁護士:「次に、ガチャの確率等につき、前記のような表示がされているような場合には、「実際のものより著しく優良であると示し」ているものであるといえるため、景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)5条1号にも反するものであるといえます。そして、このような場合には、運営会社が景品表示法に違反する行為をして、重課金者に課金相当額の損害を負わせたものとして、重課金者は運営会社に対し、不法行為に基づく損害賠償請求ができると考えられます(民法709条)。また、消費者庁から措置命令等の行政罰が運営会社に対して課されることも考えられます。もっとも、実際にこのような当選確率の操作をやっているのかどうかを立証するには運営会社側の内部の情報を手に入れる必要があり容易ではないことから、このような請求が認められる確率は、ガチャで一番のレアを引き当てるより低いものであるといえそうです」 違法となる可能性はある立証がかなり困難ではありますが、意図的な重課金者への確率設定は違法となり得るようです。ガチャビジネスは子供による課金などの問題が指摘されています。今後、規制がかかることも十分有り得そうですね。 *執筆・法律監修: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)重課金者は「ガチャ」の確率を低く設定の噂事実の場合違法になるのか?はシェアしたくなる法律相談所で公開された投稿です。重課金者は「ガチャ」の確率を低く設定の噂事実の場合違法になるのか?はシェアしたくなる法律相談所で公開された投稿です。
2019年05月10日9月6日に発生した北海道地震。苫東厚真発電所 の被災により、発電・送電機能がストップしたことをきっかけに、北海道全域で停電が発生。前代未聞の「ブラックアウト」で、数多くの人が不安な夜を過ごすことになるとともに、飲食店や小売店は営業することができず、損失を出すことになりました。 「コープさっぽろ」が損害賠償請求を検討10月上旬、停電を起こした北海道電力に対し、「コープさっぽろ」が「停電によって約9億6,000万円の損失が出た」として、損害賠償を求める方向で検討していると報じられ、大きな話題となりました。結局北海道電力はネット上の批判や組合員からの自制要求を受け、損害賠償請求を断念しましたが、仮に請求していた場合、「訴えが認められるのか」については、今後も災害が起こりうる可能性が高いだけに気になるところです。実際のところどうなのか、エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に見解を伺いました。 不法行為の成否が焦点に大達弁護士:「電力会社が停電を起こした場合、冷凍や冷蔵の食品を扱う会社など、電気が欠かせない業務を行う会社には甚大な損害が生じる場合があります。このような損害が生じた場合には、電力会社に対して電力供給をしなかったことが不法行為に該当するとして、または電力供給契約に違反があったとして、それぞれ損害賠償請求をすることが考えられますが、このような請求は認められるのでしょうか。まず、不法行為を理由とする損害賠償請求が認められるためには、停電が生じたことに対して電力会社の故意または過失があったといえる必要があります。」 今回の地震で「過失があった」といえるのか?大達弁護士:「今回の全道に及ぶ停電は、北海道南部を震源とする最大震度7の地震によって、北海道最大の出力を誇る苫東厚真火力発電所が緊急停止し、需給バランスが崩れたことによって生じたものだといわれていますが、このような原因に基づく停電について、北海道電力に故意または過失があったといえるのでしょうか。まず、地震によりやむなく緊急停止したことについて、少なくとも故意があるとは言いにくいと思われるため、過失の有無について検討します。過失があるといえるためには、地震が起きることの予見可能性があり、かつ地震により緊急停止するという結果を回避することができる必要がありますが、震度7という非常に大きな規模の地震が起きることの予見可能性まで認めることは難しいかもしれません。ただし、熊本地震に続いて震度7が数年内に複数回起きている現状を考えると、今後も同規模の地震等が頻発するといった状況になれば、電力会社も大地震を想定した体制作りが求められ、結論も変わり得るかもしれません。」 契約責任は電力会社の約款で定められている大達弁護士:「続いて、契約責任について考えます。契約は両当事者の合意により成立するものですが、電力会社の場合には約款でその内容が定められているため、北海道電力の電気供給約款を見てみました。同約款の40(1)は『当社は、次の場合には、供給時間中に電気の供給を中止し、またはお客さまに電気の使用を制限し、もしくは中止していただくことがあります。』とし、ロには『当社が維持および運用する供給設備に故障が生じ、または故障が生ずるおそれがある場合』、ニには『非常変災の場合』と規定されています。また、同(2)では、『⑴の場合には、当社は、あらかじめその旨を広告その他によってお客さまにお知らせいたします。ただし、緊急やむをえない場合は、この限りではありません。』 としています。また、同約款42(1)において、『40(供給の中止または使用の制限もしくは中止)⑴によって電気の供給を中止し、または電気の使用を制限し、もしくは中止した場合で、それが当社の責めとならない理由によるものであるときには、当社は、お客さまの受けた損害について賠償の責めを負いません。』と規定されています。これらの規定からすると、最大震度7という非常に強い地震という非常変災を原因とするものであり、それによって震源地に近い火力発電所の緊急停止という緊急やむを得ない事態が生じた場合には、苫東厚真火力発電所の1号機から3号機までの供給設備に故障が生じ、または故障が生じる可能性があるといえそうです。また、そのまま電気の供給が続くと需給バランスが崩れ、ほかの発電所などにも甚大な影響を及ぼしかねず、保安上必要があったといえる今回の場合には、北海道電力の責めとならない理由による停電であるといえ、損害賠償責任はないといえそうです。」 今後震度7が続けば損害賠償が認められる場合も大達弁護士:「もっとも、先に述べたのと同様、仮に、今後も震度7が頻発するようなことがあれば、もはや震度7の地震は『非常変災』ではなく、事前告知なく送電を停止できる場合ではないとして、損害賠償請求が認められる場面も出てくるかもしれません。北海道地震は北海道全土において電力という重要なインフラが停止し、甚大な影響をもたらしました。特にマンション住まいですと、電力が停止することで水をくみ上げるポンプも停止するため、それにより上階の部屋では断水が生じたというケースも多数聞きます。備えあれば憂いなしという言葉がありますが、地震だけじゃなく台風やゲリラ豪雨など、とかく天災に見舞われる近年、改めて日常の備えを見直し、憂いのない毎日を過ごして行きたいですね。」コープさっぽろの主張も理解できないものではありませんが、北海道電力の電気供給約款に『故障や災害の場合電力供給や使用を制限することがある』と謳われていることから、請求が認められることは、ほぼ不可能のようです。災害はいつ人間を襲ってくるかわかりません。普段から防災意識や対策をしておくことが重要ですね。 *執筆・法律監修: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)コープさっぽろが北海道電力に損害賠償を検討し取り下げ訴えたらどうなった?はシェアしたくなる法律相談所で公開された投稿です。コープさっぽろが北海道電力に損害賠償を検討し取り下げ訴えたらどうなった?はシェアしたくなる法律相談所で公開された投稿です。
2018年12月28日いわゆる「ブラックな仕事」の代表格に、「ツアーコンダクター(旅行会社添乗員)」があります。ツアー旅行に同行し、長時間顧客対応に迫られたうえ、自宅ではなくホテルで一日を終える。いわば一日丸々仕事と言っても良いのですが、残業代がでないことが多く、かなり報酬が安いと聞きます。さらにタイムカードも存在しないため、勤務時間が把握しにくく、場合によっては会社にうやむやされてしまうのだとか。このような場合、会社に未払い残業代を請求することはできないのでしょうか?エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に解説していただきました。 ■残業代は請求できる?大達弁護士:「ツアーコンダクターに限らず、どんな仕事であっても、労働基準法上、原則として1日で8時間、1週間で40時間を超えて労働した場合には、原則として残業代を請求することが出来ます(32条1項、同2項、37条)。しかし、ツアーコンダクターなど、事業所外での業務が大半を占める職種においては、いつ、どこで、何時間仕事をしたのかを算定するのが困難であるとして、残業代が支払われないことがあります。すなわち、ツアーコンダクターの仕事が、労働基準法38条の2第1項の「事業場外で業務に従事した場合で、労働時間を算定し難いとき」にあたるとされ、1日の労働時間が8時間であるとみなされてしまい、たとえ何時間働いたとしても残業はなかったことにされてしまうのですこのような場合、会社に対し、残業代を請求することは出来ないのでしょうか。この点について、最高裁は、旅行添乗員の残業代請求に関する事件について、①旅行の日程等はあらかじめ具体的に決められており、業務自体もマニュアルに従ったものを会社から命じられている以上、添乗員には裁量がほとんど認められていない点、②添乗員は何か問題が生じた際には携帯電話等で常時会社に連絡が可能であった上、会社は日報等によって添乗員の勤務の状況が把握可能であった点をあげ、「業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、本件会社と添乗員との間の業務に関する指示及び報告の方法、内容やその実施の態様、状況等」を考慮し、結論として労働基準法38条の2第1項の「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないと判断しました(最高裁平成26年1月24日判決)。つまり、最高裁は、①当該ツアーコンダクターの業務に裁量が認められるかどうか、②会社が業務状況を把握することができたかどうか、という点を考慮して、労働時間の算定はが困難とは言えないものと判断したものと考えられます。これを踏まえると、一般的なツアーコンダクターの仕事の場合も、①あらかじめ定められた日程での業務であり、②携帯電話等による状況把握も、現在においてはより簡便になっているといえるため、ツアーコンダクターの業務は労働基準法38条の2第1項に当たるとまでは言いにくく、結果として残業代請求は認められる可能性は高まるものと考えます。もっとも、①ツアーコンダクターの裁量が大きく、自ら現地において行程等を決めることができ、あるいは②携帯電話や日報等による業務状況の把握が困難な場所(電波が通じない場所など)における業務である場合には、「労働時間を算定し難いとき」に該当するとして、労働基準法38条の2第1項にあたり、残業代の請求が難しくなる可能性があります」ツアーコンダクターの仕事はかなり特殊で、「残業代が出る・出ない」はケースバイケースであるようです。残業代を請求したい場合は、弁護士の力を借りることをお勧めします。 *執筆・法律監修: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)ブラック仕事の代表格「ツアーコンダクター」未払い残業代を請求することはできる?はシェアしたくなる法律相談所で公開された投稿です。ブラック仕事の代表格「ツアーコンダクター」未払い残業代を請求することはできる?はシェアしたくなる法律相談所で公開された投稿です。
2018年08月18日兄弟や姉妹や血の繋がった肉親であり、助け合う存在。ところが、一度仲がこじれてしまうと、友人以上に憎み合うといわれています。そのような場合、残念なことですが、「縁を切りたい」と考える人もいるようです。法的に『兄弟(姉妹)の縁を切る』ことは可能なのでしょうか?エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に解説していただきました。 ■兄弟の縁を切ることはできるのか?大達弁護士:「縁を切ると一口に言っても、親子間の勘当のようなものから、法律上の兄弟・親子関係を失わせるものまで、様々なものが考えられます。そのため、今回は①法律上の縁切り②事実上の縁切りについて説明しようと思います。まず、①については、法律上、兄弟関係や親子関係の縁を切ることは基本的にできません。したがって、法律上の兄弟・親子の関係は続くことになります。ただし、子が6歳になるまでの間に、特別養子縁組(民法817条の2)が成立する場合には、結果的に実親子関係も兄弟関係もともに断ち切ることにはなります。次に、②について、特に親子関係において問題になる相続に関しては、一定の事由があることを要件に、相続人から『廃除』することができます。この要件とは、相続が開始した場合に相続人となる者(推定相続人)が、被相続人に対して虐待をした場合、若しくは、被相続人に重大な侮辱を加えた場合、又は、推定相続人に著しい非行があった場合に、被相続人が家庭裁判所に請求することによって、当該推定相続人は相続人から排除されることになります(民法892条)。」 ■遺言で相続させないとすることも可能大達弁護士:「また、遺言で特定の相続人に対して相続させないという内容とすることも可能ですが、その場合には相続人の最低限の権利である遺留分を侵害しないように気を付けなければいけません。例えば、子が親に対して日常的に暴力を振るっていた場合に、親が家庭裁判所に請求した場合には、その子は相続人から廃除されるので、事実上親子の縁を切ったものと同視することもできるでしょう。ただし、廃除された場合であっても、その者に子がいる場合、すなわち、孫がいる場合などには、その孫に相続権は発生します(民法887条2項)。また、推定相続人から廃除されたとしても扶養義務(民法877条1項)は負い続けますので、やはり法律上は完全な縁切りは難しいでしょう。なお、先に遺留分の話をしましたが、相続人のうち、兄弟に関しては遺留分はありませんので、遺言によって一切の財産を相続させないようにすることができます。その反面として、推定相続人の廃除という方法をとることができません。以上を踏まえると、絶縁状のような覚書を作成し、お互いに一切の連絡を取らないという事実上の約束をする以外には縁を切る方法がないといえますし、この場合でも扶養義務は負うことになるので、完全な縁切りは難しいと思われます。私にも兄弟はいますが、お互いすっかりいい歳になった今も、一緒に銭湯に行くなど、兄弟仲は至極良好です。兄弟はいちばん近い他人だなんていう言葉もありますが、せっかく同じ親のもとで生まれ落ちたわけですから、仲良く過ごしたいものですよね。」 やはり『完全な縁切り』は法律上難しい様子。一度は1つ屋根の下で暮らした存在ということを考えれば、縁切りではなく、『仲直り』の道を模索したいものですね。 *執筆・法律監修: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)*画像はイメージです(pixta)気に入らない兄弟と縁を切りたい!法的に可能なのか弁護士が解説はシェアしたくなる法律相談所で公開された投稿です。気に入らない兄弟と縁を切りたい!法的に可能なのか弁護士が解説はシェアしたくなる法律相談所で公開された投稿です。
2018年06月25日Businessman in suit at soccer field kicking ball. Mixed mediaサッカー日本代表をロシアワールドカップ出場に導いたバヒド・ハリルホジッチ監督が、4月に突如日本サッカー協会から解任通告を受けました。成績不振などが主な理由と言われていますが、ハリルホジッチ氏は納得していないようです。そして一部報道では、違約金と慰謝料の請求、また名誉毀損での訴訟なども検討していると言われています。ハリルホジッチ氏の主張は認められるのでしょうか?エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に解説していただきました。 ■違約金や慰謝料の請求はできる?「サッカーW杯も間近に迫る中での今回の電撃解任に、驚かれた方は少なくないと思います。解任に伴う違約金等の支払の可否は、日本サッカー協会と代表監督との間の契約内容がどうなっているのか次第で大きく変わります。まず、解任そのものの有効性ですが、契約上、中途解任ができないような内容になっていれば、解任の有効性自体否定される可能性はあります。しかし、今回の解任劇を見る限り、そのような条項にはなっていないのではないかと考えます。サッカー代表監督の契約は、民法上の準委任契約に該当するものと考えられますが、民法上の準委任契約も、委任者(≒サッカー協会)がいつでも契約を解除することができることが定められています(民法651条1項)次に違約金ですが、そもそも契約違反がなければ、違約という問題にはならないと考えられます。仮に、契約上の解任事由がないにもかかわらず解任されたということであれば、違約金という問題が生じる余地もありますが、先に述べたとおり、契約上協会側はいつでも解除できるとされている可能性が高く、違約は直接的に問題となる可能性は低いものと考えられます。」(大達弁護士) ■違約金でない金銭的請求は?「違約金ではない金銭的請求についてはどうでしょうか。民法上の準委任契約においては、受任者(≒ハリル氏)にとって不利な時期に契約を解除した場合の損害賠償義務が定められており(同条2項)、これに従えばハリル氏は、契約上の在任期間の報酬に相当する金額を請求できる可能性はあると思います。もっとも、同様に、契約上の解任事由に該当するとされ、しかもその解任事由が生じた場合にはサッカー協会が報酬の支払義務を免れると定められているような場合には、請求することは難しくなるでしょう。慰謝料という点について、慰謝料は精神的損害に対する賠償金を意味しますが、解任という行為自体の有効性が否定されるような場合でもない限り、契約上の解任権限を行使されたことのみをもって、精神的損害が生じたと言うことまでは難しいのではないでしょうか。」(大達弁護士) ■名誉棄損に該当する?「名誉棄損とは、公然と事実を摘示して人の社会的評価を低下させる行為を言いますが、刑法上は名誉棄損罪(刑法230条1項)の成立が問題となり、民法上は不法行為(民法709条)の成立が問題となります。ただし、刑法上においては、公共の利害に関するものであって、もっぱら公益を図る目的があったような場合には、真実性の証明による免責が定められており(刑法230条の2)、必ずしも名誉棄損があったからといって罪が成立するわけではありません。また、民法上も、同様の考え方は採用されています。サッカー日本代表監督という立場が必ずしも公共の利害に関するものと言い切れるかについては議論の余地があるかもしれませんが、今回のように選手との信頼関係が損なわれたことや、成績不振などの事実の摘示があったからといって、ただちに名誉棄損として罪が成立したり、民法上の損害賠償請求が認められたりする可能性は決して高くないと考えられます。」(大達弁護士) ■落ち着きどころは?「契約の定めがどうなっているかわからない以上、確たることは言えませんが、双方ともに代理人を立てる場合には、契約上の文言に照らし、双方の言い分を互いに検証することになるでしょう。その上で、自身の主張にどこまでの分があるのかを見極め、交渉による解決を目指すことになると思います。サッカー協会としては、W杯本番直前の段階において、他国に日本代表の情報が流出するリスクをも負うわけですから、場合によっては金銭的決着を見る代わりに、互いに秘密保持義務を課することによってそのリスクを回避するといった解決策も考えられるでしょう。なお、少し場面が異なりますが、数年前に日本自転車競技連盟が日本代表総監督の解任を巡り、訴訟にまで至ったことがありました。この場合には、契約上解任ができないという条項を含んだ契約であったことから、その解任の是非を問い提訴に至ったものと考えられます。今回の件の落ち着きどころはまだ見えてきませんが、日本代表選手たちが心ゆくまでサッカーに打ち込み、よい結果を出せるように、早い段階での解決を心から願うばかりです。」(大達弁護士) 契約内容の詳細が不明なため確実なことは言えませんが、現状判明していることだけを見ると、慰謝料や名誉毀損が認められる可能性は低く、契約上の在任期間に受け取るべき報酬を請求できる可能性は高いようです。このような事態になった以上、ある程度ハリルホジッチ氏のケアをすることも義務といえるのではないでしょうか。日本サッカー協会には適切な対応をとってもらいたいものです。 *取材対応弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)*画像はイメージです(pixta)解任で慰謝料請求検討のハリルホジッチ前監督…主張は認められる?はシェアしたくなる法律相談所で公開された投稿です。解任で慰謝料請求検討のハリルホジッチ前監督…主張は認められる?はシェアしたくなる法律相談所で公開された投稿です。
2018年04月24日昨今婚活アプリの普及で、男女が出会う機会が増えました。それ自体は歓迎されるべきことでしょうが、付随してトラブルも増加しています。とくに多いのが、既婚者が独身と偽り紛れ込むケース。また、結婚相談所などでは、結婚する気がなく、遊び目的で利用する人もいるようです。真剣に婚活している人にとっては、迷惑でしかありません。『既婚』であることや、『遊び目的』だったことが判明した場合、騙した人間や、アプリ・結婚相談所運営者に損害賠償などを要求できないのでしょうか?エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に見解を伺いました。 ■既婚者や遊び目的の婚活に賠償を迫ることができる?「近年、婚活市場の盛り上がりが激しさを増してきていることもあり、結婚相手紹介所や婚活サイトなどの紹介所等で知り合った相手とのトラブルもまた増えてきています。その中でも特に多いのが、紹介所等を通じて知り合った人が、既婚者や遊び人など『結婚するつもりはないのに、紹介所等に登録していた」というものですが、これは何らかの犯罪となり得るのでしょうか。また、犯罪にはならないとしても、その相手や紹介所等に対して損害賠償の請求などはできるのでしょうか。」(大達弁護士) ■犯罪になる?「まず、犯罪とは、そもそも刑法やその他の法令で刑罰を科することを明記して定められているものに限られますので(罪刑法定主義といいます)、法令で刑罰が科されることが明記されていない限りは、犯罪となりません。そのため『結婚するつもりはないにもかかわらず、紹介所等の登録者と交際した』というにとどまらず、『それによってその相手から金銭や何らかの物をだまし取り、あるいは何らかの物を購入させた』というようないわゆる結婚詐欺に当たる場合には詐欺罪(刑法246条1項)に当たり得ますが、それ以外の場合で犯罪となるケースは少ないように思われます。」(大達弁護士) ■損害賠償請求は可能?「一方、民事的な損害賠償については、可能な場合もあります。その紹介所等が婚活目的による利用に限定され、規約等によって婚活以外の目的による登録が禁止されているような場合には、規約の違反があることになります。同規約は、利用者が相互に守らなければいけないことが前提になっているものと思われるため、その規約に違反した結果として他の利用者に損害が生じ、その利用者が退会をして損害が生じたというような場合には、紹介所等はその損害を生じさせた行為について規約違反をした利用者に債務不履行(民法415条)に基づく損害賠償請求をすることができるでしょう。また、他の利用者自身の損害賠償請求としても、既婚者であるなどと嘘をついた行為に関し、不法行為(民法709条)上の違法性が推認でき、損害賠償請求をできる可能性が出てくるものと思われます」(大達弁護士) ■紹介所やアプリ運営会社の責任は?「また、損害を受けた利用者の紹介所等に対する請求はどうでしょうか。紹介所等は、利用者との間にサービス利用契約を締結しておりますが、契約上求められる義務として、利用者の性格や収入などの繊細な個人情報を多く扱う上、人生の大きな選択である結婚に関するサービスを提供していることを考えると、高度な注意義務を負っていると考えられます。そのため、紹介所等に対しては、その注意義務の一環として、規約違反がないか否かに関する注意義務を怠ったといえる場合には、サービス利用契約上の義務違反があるとして、紹介所等に対する損害賠償請求も認められる余地があるでしょう。いわゆる結婚相談所などの紹介所入会の際には、独身証明書の提出が求められることが通常です。そのことを考えると、少なくとも独身証明書の提出も求めていないような紹介所等に関しては、注意義務の違反があったものと言えそうです。近ごろは伝統的な紹介所等のみならず、マッチングアプリなどでの婚活も流行っているとか。数多くの人がいながらも運命の人に出会えない!と焦る声が自分も含めそこかしこで聞こえますが、果報は寝て待てとも言いますよね。筆者の現在のパートナーはもっぱら瓶ビールと焼き鳥くらいですが、焦ることなく、また現実を見つつ、いつか人間のパートナーを見つけたいものですね」(大達弁護士) 相手が既婚者だった場合や、遊び目的ということがはっきりしている場合は、損害賠償を請求できる余地はあるようです。結婚という人生をかけた活動ですから、遊ばれるのは嫌なもの。仮に自分がそのような目に遭ってしまった場合は、弁護士に相談してみるのも、いいかもしれません。婚活相手が既婚者や遊び目的だった…損害賠償請求は可能?はシェアしたくなる法律相談所で公開された投稿です。婚活相手が既婚者や遊び目的だった…損害賠償請求は可能?はシェアしたくなる法律相談所で公開された投稿です。
2018年04月11日*画像はイメージです:ホテルでは「朝食プラン」と題して、宿泊費に食事代込みの値段が含まれている場合があります。提供される料理は様々で、「1つの楽しみ」と考えている人も多いことでしょう。朝食形式の1つが、バイキング。ビジネスホテルなどで取り入れられている方式で、様々な料理の中から好きなものを選び食べるというスタイルです。 ■朝食時間間際に行くと料理がないことも料理が豊富に用意されているうえ好きなだけ食べることができることから人気の朝食バイキング形式ですが、時間内での提供となるため、遅れると利用することができません。それは自己責任のため仕方ありませんが、朝食時間終了間際に会場に行くと、ほとんど料理が残っていないことがあります。遅く行くほうが悪いのでしょうが、安くない料金を支払っているわけですから、ケチくさいと罵られても人間なら返金してもらいたいもの。そのようなことは、はたして可能なのでしょうか?エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に見解を伺いました。 ■返金は可能?「バイキング、それは魅惑の響き。朝ごはんの重要性は広く知られているところですが、そんな朝ごはんに朝食バイキングが用意されているとなれば、寝覚めも良くなるというものです。なのにホテルで朝食バイキング込みの宿泊料金を支払ったのに、終了時間間際に行ってみたら“料理がほとんどない!返金されないの?”最近のホテルでの朝食は、バイキングやビュッフェといった形式での提供が多くなってきていますが、時間が決まっていることがほとんどです。このような場合、ホテル側は時間内全てにおいて全種類の飲食物を提供する義務があるといえるのでしょうか?」(大達弁護士) ■朝食を提供する義務の時間的範囲が焦点「今回のケースで、ホテルと客との間に締結されている契約は、“バイキング形式の朝食を提供する契約”であると考えられます。これによってホテルは“バイキング形式の朝食を提供する義務”を負い、客は“代金を支払う義務”を負うことになります。終了間際に行った際の飲食物提供義務は、この“バイキング形式の朝食を提供する義務”の時間的範囲がどこまで及ぶかという問題として考えられますが、この範囲は、個々の契約によって、すなわち当事者間においてどのような合意があったのか、またはどのような合意があったと推測されるのかという社会通念によって決まると考えられます。例えば、多数の種類の料理があることを前提とし、またはそのことを謳い文句にして金額が設定されているような場合には、原則として、入店可能時間内に入店したものに対しては、表示されている種類の飲食物を提供する旨の合意があったといえそうです。他方、多数の種類の飲食物を提供することを謳い文句にしていたとしても、注釈で店側の都合により一部飲食物を提供できない場合があることを明示しているような場合には、バイキング形式の朝食を提供する義務の一部は縮小され得ることになるといえるでしょう。また、仮にそのような明示がなくとも、営業時間の終了間際ということにもなれば、店側として閉店準備のために、飲食物の一部の提供がなされないことも社会的通念上はやむを得ないと考えられます。逆に、閉店までまだ随分と時間があり、多数のお客さんが来店しているのにもかかわらず、飲食物が補充されないということになれば、そこには店側の義務違反があるということにもなりそうです。他方、今回のケースはホテルへの宿泊代を支払ったことに伴う問題ですが、ホテルへの宿泊に対する代金の支払いは、あくまでホテル側の主たる義務である宿泊に対する対価として考えられ、特にバイキング形式の朝食を売りにしているような場合でもない限り、“朝食を提供する”ことは付随的なものと見ることもできます。そのような場合には、仮に朝食バイキングの品数の一部に不足があったとしても、そのことだけで宿泊料金そのものの返金を求めたり、減額を求めたりということまでは難しいといえるでしょう」(大達弁護士) ■程々が一番「“バイキング”という言葉はもともと北欧の海賊が語源ですが、日本で使われているような食べ放題は、スウェーデンの“スモーガスボード”に由来し、導入当時はスモーガスボードという言葉が難しかったことから、当時流行りであったバイキングという言葉で命名されたそうです。バイキングというと、豪快な響きがしますよね。ただし元をとろうと豪快に食べ過ぎると、結局健康に害が及んで元をとるどころかマイナスになってしまいます。バイキングも飲み放題もほどほどが一番と、自戒をも込めたメッセージとしたいものです」(大達弁護士) 「全然料理がないじゃないか」と納得いかない気持ちを持ってしまうのは致し方ところですが、返金を迫ることはかなり難しいようです。時間を見計らって朝食会場に行くのがベストかもしれませんね。 *取材対応弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)【画像】イメージです*serkucher / PIXTA(ピクスタ)
2018年03月04日*画像はイメージです:先日ある大食いタレントが、自身のブログで食べ放題の焼肉店から「出入り禁止」を告げられたことを明かし、賛否両論となりました。店としては食べ放題といえども1人に多くの肉を食べられては採算が取れないという判断からそのような行為に出たものと思われるだけに、理解を示す人もいるようです。一方で「食べ放題なんだからいくら食べてもいいじゃないか」「出入り禁止はやり過ぎ」など、批判の声も根強い状況です。このように食べ放題を謳う店舗が「よく食べるから」という理由で特定の客を「出入り禁止」にすることは許されるのでしょうか?エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に見解を伺いました。 ■食べ放題店での「出入り禁止」は合法?「“食べ放題”、“飲み放題”と並ぶこれら魅惑の言葉に、胸の高鳴りを禁じ得ないのは私だけでしょうか。さて早速解説ですが、“食べ放題”に限らず、そもそも飲食店に入店するのは、飲食物供給契約を締結することの申込みに当たると考えられます。お店には契約を締結する事由、言い換えるとどの客を立ち入らせ、どの客の立入を断るかの裁量があるので、特定の客を出入り禁止にすること自体が違法になることは考えられません。ただし、お店の社会的評価を考えると、少なくとも出禁にするためには、出禁にするだけの合理的な理由まで必要になると思われます。では、合理的な理由とはどういったものが考えられるでしょうか。たとえば、一定の属性に基づいて差別的な選択をしているような場合、例えば、特に理由もなく特定の宗教を信仰している人について一律に入店を断る場合や、人種や民族、性別等により入店を断るような場合には、合理的な理由なく入店を拒否するものと考えられ、入店拒絶行為が客に対して精神的損害を与えたとして、不法行為(民法709条)などの責任を生じさせる可能性があります。ここで、“食べすぎること”が合理的な理由にあたるかが問題になるところ、食べ放題は基本的に“フードファイターのようなプロまたはプロに準ずる大食いではない一般人”が来店することを前提に料金設定がされていると思われます。その意味では、今回のプロの大食い選手や、一般人の何倍も食べる相撲の力士などが来店して大量に食事をされると、採算が取れなくなってしまうため、そのような客をあらかじめ一律に断ることには合理的な理由があるといえそうです。そのため、食べ放題の店で一般人をはるかに超える量を食べる大食いの人をあらかじめ出禁にすることは合理的な制限として社会的にも許容されると言えそうです。なお、あらかじめプロのフードファイターなどについては入店をお断りする旨の告知をしていたにもかかわらず、それを秘して来店したような客に対しては、大食いでないことが飲食物提供契約の前提となっているため、錯誤無効(民法95条)や、客の言動次第では詐欺取消し(同96条1項)などを主張して、飲食物提供契約を解消し、その場で退店するよう求めることもできると考えられます。私は学生時代、昼食はカツ丼大盛りとラーメン、食後にアイスを食べてようやく腹八分でしたが、今ではすっかり胃袋も縮んでしまいました。とはいえ、特に金曜日の夜になると、ついつい飲み放題の看板に惹かれてしまったりします。食べると飲むが放題でも、油断をすれば健康だって壊し放題。“~放題”の文字に目がくらむことなく、健康第一で食べ放題ライフを楽しみましょう」(大達弁護士) 客の立ち入りについては店側の裁量に任せるため、特定の客を「出入り禁止」にしたとしても、違法にはなりえないとのこと。ただし、社会的通念上、「合理的な理由」が求められるようです。そして、大食い番組などに出演するフードファイターと呼ばれる人々や、力士など、食べ放題店で大量に飲食することが予想される人物を出入り禁止にすることは、「合理的な理由」に該当する可能性が高いとのこと。当然といえば当然ですが、やはり店側の都合も考えねばならないようですね。 *取材対応弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)【画像】イメージです*hungryworks / PIXTA(ピクスタ)
2018年02月15日*画像はイメージです:意外と多い男女間での隠し事。とくに「人の過去」は、知られたくないことも多く、相手に告げず伏せておくこともあります。好きだからこそ、過去を隠匿しておきたいと考えるのは、自然なことかもしれません。 ■婚歴を隠すケースもそんな「隠したい過去」の1つが、離婚歴。「バツがついている人との結婚は嫌」という人も多く、初婚ということにしてつきあい、婚約するケースもあるのだそう。しかし、最近は情報化社会であるだけに、婚約後すぐに婚歴がバレてしまうことが多々あります。そのような場合、事実を知った側はショックを受けてしまい、最悪婚約破棄を考えることになるでしょう。そのような場合、破棄事由として認められるのか。エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に解説して頂きました。 ■婚約破棄できる?「未婚だと思っていた交際相手に離婚歴があったことが発覚した場合、騙されたと感じる人は少なくないと思います。婚約していた場合には、なおさらそのように感じてしまうのも無理はありません。しかし、婚約は婚姻の予約であり婚姻状態にはないことから、法律上は何らの規定もありません。この場合、婚約の破棄は無制限にできるのでしょうか。この点について、裁判所は、男女間の一般的な交際にとどまらず、いわゆる婚約をしているといえる場合には、婚約当事者に対して一定の法的保護を与えています。いかなる状態が婚約に該当するかについては一義的に決まるわけではないので、別の機会に譲りますが、具体的には、婚約が正当な理由なく破棄された場合には、慰謝料等の損害賠償を相手方に請求できることになります(最高裁昭和38年12月20日判決参照)。これは、裏を返すと、正当な理由がある場合には慰謝料等を支払うことなく婚約の破棄ができる、ということでもあると理解できます」(大達弁護士) ■正当な理由になるのか?「では、未婚だと偽っていた相手に離婚歴があったという事情は、婚約を破棄する上で“正当な理由”といえるでしょうか。この点について、直接判示した裁判例は見当たりませんが、今後婚姻をすることが社会通念上困難な状態であるといえる場合には、「正当な理由」があると考えられます。具体的には、不貞行為、重要な事実について虚偽がある、経済状態の極度な悪化、暴力・暴言、社会常識を相当程度に逸脱した言動などが挙げられます。今回のように、婚約相手に離婚歴があったという事情のみでは、今後婚姻をするのに支障が生じるほどの重要な事実について虚偽があったとは言い難いように思われます。例えば、前妻との間に子どもがおり、多額の養育費等を負担しているなどの事情がない限りは、婚約破棄の正当事由があるとは認められにくいのではないでしょうか。もっとも、交際や婚約の条件として、離婚歴のないことを相手方に明示しており、それに応じて離婚歴がないと宣言していたような場合には、重要な事実に虚偽があるといえ、婚約破棄について正当な理由があるとされる可能性もあるかもしれません」(大達弁護士) ■婚姻後だったら?「なお、婚姻後に離婚歴の存在が発覚した場合には、離婚歴を偽っていたことを捉え、詐欺による婚姻取り消し(民法747条1項)をするということも考えられますが、これは詐欺によって、婚姻に重要な事実の錯誤が生じることまで必要があるため、婚約破棄の場合と同様、離婚歴のないことが当事者にとって重要な事実であるといえる場合に限って、取り消しが認められる可能性があると思われます。仮にそのような場合であっても、離婚歴があることを知ったときから3ヶ月以内に婚姻の取り消しをする必要がありますので、注意が必要です(同条2項)。婚姻は人生の一大事。大切な伴侶には隠し事なくお付き合いをしたいもの。寒風吹きすさんでおでんの美味しい季節ですが、こんにゃくも婚約も愛情たっぷりの出汁の中でじっくりと育て、味のある二人になって欲しいものです」(大達弁護士) 婚歴を隠した人としては、なにか理由があったのでしょうが、伏せておいた事実はいずれ発覚するもの。打ち明けられた側が未婚にこだわりを持っていた場合は、法的に破棄事由として認められる可能性が高まりますので、やはり事前に説明したほうが良いかもしれません。 *取材対応弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*【Tig.】Tokyo image groups / PIXTA(ピクスタ)
2018年02月06日*画像はイメージです:交通違反などが原因で、パトカーから止まるよう指示されることは、多々あります。そんなときほとんどの人は指示に従うことでしょう。しかし、なかには逃げたいと思う人もいるはず。交通違反以外に「やましいこと」がある場合などは、実際に逃走するケースもあるようです。 ■死亡事故を起こすケースも稀に発生するのが、パトカーから逃げようとして事故を起こし、運転者が亡くなってしまうケース。この場合、逃走するほうに非があるのはわかるのですが、追い立てたパトカー側にも責任を問う声があります。このような場合、運転者の遺族としては警察に補償を求めたいところ。また、仮に何の罪もない通行中の一般人を巻き込んだ事故となれば、こちらの家族も治療費や補償を警察に求めていきたいところでしょう。警察に補償を求めることはできるのか。エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に解説して頂きました。 ■警察に補償を求めることはできる?「警察官などの公務員の違法な行為によって損害を受けた場合には、その公務員が所属する国又は公共団体に対して、国家賠償法による損害賠償請求をすることが考えられます(国家賠償法1条1項)。パトカーに追跡されていた車が事故を起こしたようなケースでは、その追跡行為が違法である場合に限り、その警察を設置している公共団体に対して、国家賠償法に基づく損害賠償請求をすることができます。そして、どのような場合に警察官の追跡行為が違法となるかについて、最高裁判所は、「およそ警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断してなんらかの犯罪を犯したと疑うに足りる相当な理由のある者を停止させて質問し、また、現行犯人を現認した場合には速やかにその検挙又は逮捕に当たる職責を負う(警察法2条、同65条、警察官職務執行法2条1項)」として職責を認定しています。そのうえで「職責を遂行するために被疑者を追跡することはもとよりなしうるところ」として、追跡行為自体の正当性を認めています。「警察官がかかる目的のために交通法規等に違反して車両で逃走する者をパトカーで追跡する職務の執行中に、逃走車両の走行により第三者が損害を被った場合」については、その「追跡が当該職務目的を遂行する上で不必要であるか、又は逃走車両の逃走の態様及び道路交通状況等から予測される被害発生の具体的危険性の有無及び内容に照らし、追跡の開始・継続若しくは追跡の方法が不相当であることを要する」として、逃走態様や交通状況等の事情から判断して追跡が不相当と言える場合には違法性を認めるとしました(昭和61年2月27日判決)。これは、パトカーに追跡されていた車に同乗していた者や、事故に巻き込まれた一般人のような第三者が損害賠償請求する場合だけでなく、パトカーに追跡されていた車を運転していた本人が損害賠償請求をする場合にも、警察官の追跡行為が違法となるのはどのような場合かについての判断基準となっています。この判例を受け、実際の裁判例を見てみると、損害賠償請求が認められたものとしては、警察官が、暴走行為をするバイクを停車させるために幅寄せ等の行為をした結果、バイクが標識と衝突し、運転者が死亡、同乗者が重傷を負った事例において、幅寄せ行為等に警察官の過失が認められ、追跡方法が違法であると判断され、損害賠償請求が一部認容されたものがあります。(徳島地裁平成7年4月28日判決)」(大達弁護士) ■損害賠償が認められる可能性は低い?「その他、警察官の呼びかけを無視して逃走をしているような場合で、警察官の追跡行為が違法とされた目立った例は見当たりません。警察官の追跡行為が違法とされる可能性がある例として考えられるのは、下記の条件をすべて満たすような限定的な場面と思われます。・逃走運転者の人物や住所が警察に知れていて、後に逮捕や検挙、任意の取り調べが容易でその場での追跡が不必要である・追跡原因となった違法事由や嫌疑が軽微なものである・追跡行為によって事故等が起こる具体的な危険性が生じている上記の条件をすべて満たしつつ、漫然と追跡し続けた結果として事故が発生したような場合でない限り、国家賠償法に基づく損害賠償請求が認められる可能性は低いと考えられます。なお、事故に巻き込まれた第三者は、事故を起こした運転者やその保険会社に対して、損害賠償請求をすることができ、それによって損害はある程度填補され得ます(自動車損害賠償保障法3条、民法709条)」(大達弁護士) 警察による追跡行為が違法とされる例は限定的のようです。補償を求めることができるケースもありますが、無用なトラブルを避けるためにも、やましいところがないのであれば、パトカーに呼び止められた場合には、素直に応じることが無難なようです。 *取材対応弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*curvabezier / PIXTA(ピクスタ)
2017年11月18日*画像はイメージです:高速道路での煽り運転は、全国で数件発生が報告されているほか、Twitterなどでは「自分もやられたことがある」と被害を訴える声が少なくありません。仮にそのようなことを受けた場合、どのように対処すれば良いのか。また、相手を煽り運転の被害を警察に訴える場合はどうすれば良いのか。弁護士の目線から、どのように対処すれば良いのか、エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に解説して頂きました。 ■煽り運転にも様々な種類がある「“煽り運転”と一言で表現しても、その態様には、進路妨害、幅寄せ、クラクション、パッシング、異常接近、追い回しなど、様々な態様のものがあります。そして、その中でも、刑事罰の対象になるものとならないものがあるので、刑事罰の対象となるものに関して解説しようと思います。まず、道路交通法上、煽り運転そのものを処罰するものとして、道路交通法において、急ブレーキの禁止(24条)車間距離の不保持(26条)無理な進路変更(26条の2第2項)駐停車禁止場所における停車(44条)不必要なクラクション(54条2項)高速道路上における停車(75条の8第1項)が規定されています。以下、各行為の罰則をまとめると、・危険を回避する必要がないにもかかわらず急ブレーキをした場合には、3月以下の懲役又は5万円以下の罰金(119条1項1号の3)・車間距離を保持しなかった場合には、高速道路の場合には3月以下の懲役又は5万円以下の罰金(119条1項1号の4)、それ以外の場合には5万円以下の罰金(120条1項2号)・無理な進路変更をした場合には、5万円以下の罰金(120条1項2号)・高速道路以外の駐停車禁止場所における停車をした場合には、15万円以下の罰金(119条の2第1号)・不必要なクラクションを鳴らした場合には、2万円以下の罰金又は科料(121条1項6号)・高速道路上における停車をした場合には、15万円以下の罰金(119条の2第1項2号)となっています。また、幅寄せ行為については、暴行罪(刑法208条)に当たるとした裁判例もあります。(※1)さらに、「人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」をして、人を負傷させた場合には15年以下の懲役。人を死亡させた場合には、1年以上の有期懲役が科されることになります(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2条4号危険運転致死傷罪)。これら煽り行為をされたことを証明するためには、ドライブレコーダーなどによって動画を残しておくことが一番有力だと思われます。ただし、運転者が運転しながらスマートフォンなどによって録画をするのは、事故を起こす危険があり、運転者の遵守事項(道路交通法71条5号の5)に違反する危険性もありますので、自動車の運転中には、運転者は動画を撮らないようにしましょう」(大達弁護士) ■窓を開けずドアロックをして身を守るでは、煽り運転や煽り行為をされたときには、どのように対処したらいいのでしょうか?「煽り行為をされた場合には、まず自身の身を守るようにしてください。煽り運転者は先に行かせるか、進路妨害をされたら減速して安全な場所に停車した上で、扉を開けられないようにしっかりドアロックをかけ、煽り運転者から求められても窓も決して開けず、速やかに110番をして警察に連絡しましょう。自動車は便利な乗り物ですが、一歩間違えば凶器となりかねません。煽り運転をしないことはもちろん、されたとしても冷静に対応し、充実したカーライフを楽しんでくださいね」(大達弁護士) ドライブレコーダーを用意し録画すること、危険が発生した場合はドアロックで外に出ず、速やかに通報。これが有効ということですね。 ※1:東京高等裁判所昭和50年4月15日判決など*取材対応弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*TTstudio / Shutterstock
2017年11月03日*画像はイメージです:昨今、電車の窓ガラスが割れる事故が頻発しています。9月21日には、午前9時にJR東海道線の川崎~品川間で、そして午後1時半頃には東急東横線菊名~妙蓮寺間で窓ガラスが割れる事故が発生しました。幸いけが人などは出なかったようですが、かなりのスピードを出す乗り物であるうえ、電車がすれ違った場合かなりの風圧が発生することから、乗客が危険な状況にさらされることは間違いありません。仮に電車の窓ガラスが割れ、乗客が負傷した場合、責任は誰が取るのでしょうか。治療費の請求などが可能であるかも気になります。エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に見解をお伺いしました。 ■電車の窓ガラスが割れ負傷した場合誰が責任を取る?「満員電車の窓が割れると一口に言っても様々な原因が考えられると思いますので、次のとおり場合分けしてみましょう。(1)満員電車に詰め込まれた乗客の圧力によって割れた場合(2)線路の敷石が跳ね上げられて割れた場合(3)投石など第三者の行為によって割れた場合今回は(1)(2)(3)のそれぞれについて解説してみたいと思います。まず、旅客運送に関しては、商法は590条1項で、次のように定めています。「旅客ノ運送人ハ自己又ハ其使用人カ運送ニ関シ注意ヲ怠ラサリシコトヲ証明スルニ非サレハ旅客カ運送ノ為メニ受ケタル損害ヲ賠償スル責ヲ免ルルコトヲ得ス」これは、鉄道などの旅客運送において乗客が損害を負った際には、旅客運送上の注意を怠っていなかったことを旅客運送会社自身が証明しない限り、その会社が損害賠償責任を負うとするもので、今回のケースでは、いずれの場合においても、鉄道会社が注意を怠ったかどうかがポイントとなります。以下、この前提を基に(1)、(2)、(3)について考えてみます。 ■(1)満員電車に詰め込まれた乗客の圧力によって割れた場合まず、通常想定しうる乗車数を超えているにも関わらず、駅員や乗務員等が乗車規制などの措置をとらなかったため、電車の窓ガラスが車内からの乗客による圧力に耐えられず割れてしまい乗客が怪我をしたというような場合についてです。また、整備不良等によって窓ガラスに欠陥が生じており、それに満員電車の乗客による圧力が加わったことによって窓ガラスが割れ、乗客が怪我をしたような場合には、鉄道会社が旅客の運送に関し注意を怠っていたといえそうなので、鉄道会社は損害賠償責任を負うことになると思われます。 ■(2)線路の敷石が跳ね上げられて割れた場合次に、敷石が跳ね上げられることにつき、相当の注意をしていたとしても跳ね上げられる危険のある敷石を発見できなかったというような場合についてです。これは、例えば、電車が通る直前にカラス等のいたずらによって線路上に置石がされた場合などのような不可抗力的な場合でない限りは、そのような危険を排除するという旅客運送上の注意を怠るものとして、鉄道会社は損害賠償責任を負う可能性が高そうです。 ■(3)投石など第三者の行為によって割れた場合最後に第三者の故意による違法行為が原因で窓ガラスが割れたような場合についてです。原則として、その行為をした者が民法709条に基づく損害賠償責任を負うこととなり、旅客運送事業者が責任を問われることにはならなさそうです。ただし、その行為が行われることが予見できたのにこれを防止しなかったなどの事情、具体的には線路に侵入防止のフェンスを設置しなかったとか、線路のすぐ脇で投石を伴う騒動が生じている状況を知りながら、何らの措置も取らずに通常運行したことにより投石事故が生じたような場合には、鉄道会社は旅客運送上の注意を怠ったものとして、損害賠償責任を負う可能性もあると思われます。毎日お世話になる人も多いであろう電車。満員電車には様々なトラブルがつきものですが、譲り合いの精神で環境は大幅に変わりますので、乗車時には時間にも心にも余裕をもって利用したいものですね」(大達弁護士) 鉄道会社が旅客運送上の注意を怠ったことにより窓ガラスが割れたと認められた場合は、損害賠償責任を負う場合があるようです。 *取材対応弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*R-DESIGN / PIXTA(ピクスタ)
2017年10月19日*画像はイメージです:月8日、兵庫県の警察官が、県公安委員会に無断で横断歩道やはみ出し禁止線を設置したとして虚偽公文書作成・同行使と道交法違反で書類送検されました。調べによるとこの警察官は平成27年7月から今年4月にかけて県公安委員会の許可を得ていたかのように文書を作成し、上司に提出。兵庫県相生町など9箇所に、横断歩道やはみだし禁止線などを設置していました。この警察官は停職一ヶ月の処分を受け、依願退職したそうです。 ■一般人が標識を落書き・破壊・移動したらどうなる?神戸の事件は他の地域に住む方にとっては無縁ですが、道路標識に落書きをする、壊す、移動するなどの行為は「起こりうること」です。仮にこのようなことをした場合、どのような罪に問われるのでしょうか。エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に見解をお伺いしました。 「道路標識も国や自治体が所有し、管理をする器物であり、いたずら書きや故意に破損させることで、その本来的な効用である交通ルールの表示機能を毀損することになりかねません。そのようないたずら書きや故意の破損は、器物損壊罪(刑法261条)が成立する可能性があります。また、具体的な破損等がなかったとしても、標識を勝手に移設し、それによって標識の効用を妨げたといえるような場合には、同様に器物損壊罪が成立する可能性があるものと考えられます。それに加え、道路標識を破損し、又は移設したことによって交通の危険が生じた場合には、道路交通法115条に違反することになります。器物損壊罪の法定刑は3年以下の懲役又は30万年以下の罰金若しくは科料、道路交通法115条違反の法定刑は5年以下の懲役又は20万円以下の罰金と、決して軽いものではありません。ただし、これらの罪は故意に行われた場合にのみ成立するものですので、不注意などの過失で破損してしまった場合には成立しないとされています」(大達弁護士) ■故意ではなくても警察には報告を同じく大達弁護士にお話を伺うと、「自動車を運転していて標識にぶつけて破損してしまった、というような場合において、これを警察等に報告しなかった場合には、いわゆる“当て逃げ”として、道路における危険を生じさせた場合には1年以下の懲役又は10万円以下の罰金が科せられる可能性があります(道路交通法117条の5第1号、同72条1項前段)。危険を生じさせていなくとも、警察への報告をしていなかった場合には3月以下の懲役又は5万円以下の罰金が科される可能性があるので注意が必要です(道路交通法119条1項10号、同72条1項後段)。なお、道路標識の設置方法に問題があるような場合で、移設を希望する場合には、警察署や役所へ相談すると対応してくれる可能性がありますので、まずは最寄りの役所や警察署に相談をするようにし、勝手に移動して罪に問われるということのないよう注意して下さい。標識は道路利用者への道しるべ。それを勝手にいじることは利用者を誤った方向に導きかねず、そこにはもっと重大な結果が生じてしまうリスクがあり得ます。自分の人生の道しるべをも見失ってしまわないように、標識はそのルールも標識自体もきっちり守りましょう」(大達弁護士) 標識への落書き・破壊・移設は立派な犯罪。行わないようにしましょう。 *取材対応弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです* hwanchul / Shutterstock
2017年09月27日先日、ある企業がタバコを吸わない社員に対し、6日間の休暇を与える方針を打ち出したことが話題になりました。制度の目的は、社員の禁煙促進やいわゆる“タバコ休憩”を取る社員と取らない社員の公平性を保つことなどであると思われますが、喫煙者としては納得がいきません。給与はともかく、労働条件は同じであるべきのようにも思えます。このように非喫煙者だけに特典を与えるような制度は、問題ないのでしょうか?エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に見解をお伺いしました。 Q.非喫煙者に特別休暇を付与…これは違法ではありませんか?*画像はイメージです:違法とはいえないと思われます。「結論からいうと、法律上明確な問題はないと考えられます。労働者の待遇については労働基準法3条が次のように規定しています。 「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」 まずこの中の「喫煙者である」という事情は、「労働者の国籍、信条、社会的身分」に直接的には該当しないため、その差別的取扱いが合理性を伴い、かつ公序良俗(民法90条)に反するなどしない限り、違法とされるリスクは低いと思われます。そこで、本件でも非喫煙者にのみ6日間の有給休暇を与えることが公序良俗に反するかどうかを考えてみましょう。喫煙者は、非喫煙者とは異なり、タバコ休憩として職務を離れている時間が結果的に長く、それらを換算した時間数に相当する日数分の休暇を与えることは、合理性を伴っていると考えられます。従業員間の労働時間の公平性を保つために、年次有給休暇として喫煙者がタバコ休憩をしている時間1年分を下回る程度の日数を与えることは、公序良俗違反とまではいえないでしょう。さらに、喫煙者は喫煙をやめることによって6日間の有給を取得でき、喫煙者自身の意思によって有給の取得を放棄し、喫煙による離席という選択ができることからも、やはり不合理な差別とまではいえないでしょう。そのため、非喫煙者にのみ有給を6日間追加で与えることは公序良俗に反するものではなく、法的には許されることになりそうです」(大達弁護士) このような動きが広がれば、喫煙者が減るかもしれませんね *取材対応弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*Ushico / PIXTA(ピクスタ)
2017年09月16日*画像はイメージです:先日、あるプロ格闘家が交際相手の職場に勤める男性に暴行を働き、逮捕される事件が発生。男性は顔面を蹴られたうえ、手で壁に突き飛ばされてしまい、重篤な状態が続いているそうです。このようなプロの格闘家や空手・柔道の有段者など武術に優れた人間が一般人に対して暴れることは、非常に由々しき事態。当然、罪も重くすべきであると思われます。実際のところ、法律はどうなっているのか。エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に見解をお伺いしました。 ■プロの格闘家が傷害事件を起こした場合罪が重くなるのか?「まず、暴行を加えた場合には暴行罪(刑法208条)が、暴行にとどまらず傷害まで負わせた場合には、傷害罪(刑法204条)が成立し成立する罪は、一般人であろうとプロの格闘家であろうと変わりません。暴行罪は「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」が、傷害罪が成立した場合には「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」が科されるとされています。具体的な刑は、刑事裁判にてその暴行・傷害に至った経緯や態様、傷害の程度など、諸般の事情を考慮した上で決められるので、「プロの格闘家である」という事実は、1つの事情として考慮され、その暴行態様が、一般人が同じことを行った場合よりも危険性が高いとして認定される可能性はあると思います。ただし、そのことは暴行に至った経緯やその格闘家が置かれた客観的状況などから決められ、たとえば多数人に囲まれた状況で急迫した身の危険が迫っていたような場合には、正当防衛が成立する余地も当然あり得ます。罪が成立する場合であっても、他の全ての事情をさて置いて、「プロの格闘家である」という事実のみをもって刑が重くなることはなく、あくまで総合的に判断されることになるでしょう。その意味では、昔より「プロボクサーは拳が凶器とみなされるから、たとえ絡まれたとしても抵抗できない」などと語られることがありますが、誤った解釈といえると思います。なお、かのガッツ石松さんは、世界チャンピオンになる前に喧嘩騒ぎを起こして逮捕されたことがあるそうですが、それは8人もの酔漢に囲まれてのやむを得ない正当防衛だったとして、送検される前に釈放となったそうです。プロ格闘家と比べるべくもありませんが、筆者も憲法の勉強をする前に拳法をかじったことがあります。格闘技はあくまで己の心身を磨くためのものですから、自分より力が弱い相手に対し、ことさらにプロ格闘家としての力を発揮するなんてことは、格闘家の風上にも置けないだろうという思いがありますし、実際の裁判で罪を重くする情状として斟酌されてしまうリスクは低くありません。かのハリウッド映画「スパイダーマン」でも「大いなる力には大いなる責任が伴う」と語られておりますが、与えられた力を世のため人のために活用していてもらいたいものですね」(大達弁護士) 基本的に加害者がプロ格闘家であるということだけで罪が重くなるということはないようですが、危険性が高いと認定される可能性あるようです。格闘家や武道に優れた皆さんは、自分が特殊能力を持っているということを自覚し、正当防衛が許されるような条件でないかぎりは、一般人に暴力を振るわないようにしてください。 *取材対応弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*wavebreakmedia / PIXTA(ピクスタ)
2017年07月17日2017年6月4日、栃木県で行われたトライアスロンの大会に参加していた50代の男性が、水泳の競技中に死亡するという事故が発生しました。トライアスロンに限らずマラソンなど持久力を競う大会や、生命の危険をかけながらプレーするスポーツについては、極稀に競技者が命を落とすことがあります。仮にそうなった場合、誰が責任を負うことになるのでしょうか?エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に見解をお伺いしました。 Q.トライアスロンなどスポーツの大会で選手が死亡……責任は誰が取る?*画像はイメージです:ケース・バイ・スケースですが、基本的には自己責任となります。「基本的にはその選手自身の自己責任ということになります。というのも、スポーツの大会などに出る場合には、参加者はそのスポーツで通常起こりうる危険に関してはそれを引きうけ、承知しており、リスクを負った上でスポーツ大会などに参加しているからです。今回のように、トライアスロンのスイム中に溺れるなどの事故に関しても、参加者はその危険性及び自身の身体能力を認識した上で参加しているのが通常です。そのため、原則として参加者自身の自己責任として、主催者側が責任を問われることは考えにくいものと思われます。ただし、例外的に、そのスポーツにおける通常の危険性を超える事故が起きた場合、たとえば大会におけるコース設定に明らかな問題があったり、天候状況からして中止して然るべきにも関わらず中止判断をしなかったりなどの事情がある場合には、当該事故発生について大会の運営者が予見し得るものであって、その事故発生を防止することができたとして、民事上は不法行為責任(民法709条)を、刑事上は業務上過失致死傷(刑法211条)などの責任を負う可能性があります。また、事故発生原因が本人や運営者以外の者にある場合、たとえば別の大会参加者の故意又は過失によって事故が起きたような場合には、その事故を起こした者が直接の責任を負うことになるでしょう。スポーツとひとくちにいっても色々とありますが、どんなスポーツでも事故の危険は付きもの。特にこれからの季節、スポーツに熱中するのはいいけれど、熱中症には気を付けたいですね。安全に体を動かして、爽やかで健康な体づくりを心がけたいものです」(大達弁護士) ケース・バイ・ケースですが、自己責任となることが多いようです。これからレースに参加される予定のある方はくれぐれも気をつけてください。 *取材対応弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*Pavel1964 / PIXTA(ピクスタ)
2017年06月21日*画像はイメージです:若い頃は容姿が優れていたのに、中年になったらすっかり別人になってしまったということは、多々発生する現象です。男女ともその要因にあがるのが、体型の変化ではないでしょうか。身体や顔に肉がつくことにより、形が変わってしまうことで、「ぜんぜん違う」人間に変貌してしまいます。人は中年になると代謝が落ちるだけに、どうしても体重が増えてしまうもの。それを防ぐには、節制するしかありませんが、なかなか難しいのが実情でしょう。そのようなことを抑止する意味で、結婚時に「太ったら離婚」と約束したうえで一緒になることがあるそうです。守ることができればいいのですが、なかなかそうもいかないのが現状。仮にその合意を反故にし、太ってしまった場合、この約束は有効なものとなるのでしょうか?エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に見解をお伺いしました。 ■「太ったら離婚」は有効?「太ったら離婚する」というのは、いわゆる「結婚契約(婚前契約)」であると解されますが、基本的に契約は合意に基づいている以上、当事者間での合意は原則として有効です。ただし、違法な内容であったり、社会的に妥当性を欠くような内容であったりする場合には、公序良俗(民法90条)に反するものとして無効となります。今回のように「太ったら離婚する」という内容自体が社会的に妥当性を欠くとまでいえるのかはなかなか難しいところですし、「太ったら」の意味が広すぎて、そもそも「太った」「太ってない」と水掛け論が展開されて、結婚契約の条項としての意味を持たない可能性もあります。そのため、仮に結婚前に「太ったら離婚」という合意をするのであるならば、例えば「〇キロ以上太ったら」とか、「ウェストが〇センチ以上になったら」など、客観的な基準を入れておくと、条項としての機能を持つ可能性も出てきます。とはいえ、このような個人の意思が尊重されるべき内容に関しては強制することはできないうえ、法律上の離婚原因である民法770条1項各号にも該当するともいえなさそうです。ということは、結果的にこの条項を理由に離婚をすることは事実上難しく、条項違反があったときにそれを離婚事由とするという意味での有効性は否定されそうです。この条項に限らず、結婚契約をする場合には、口約束だと実際に争いが起きた際には言った言わないの水掛け論となりかねないので、何か約束事をしたときには、書面化しておきましょう。この記事を読んで「太っても離婚しなくてもいいんだ!」と思った方もいるかもしれませんが、いつまでも出会った当時の素敵なパートナーでいてほしいと思うのは配偶者として当然の思い。法では心は縛れませんし、心にも身体にも贅肉がついていては、夫婦関係も冷えてしまうかもしれません。自身の健康のためにも適度な運動を心がけましょうね」(大達弁護士) なるべくなら、結婚時に交わした「約束」は守りたいものですね。 *取材対応弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*Satoshi KOHNO / PIXTA(ピクスタ)
2017年06月11日先日、都立高校の約6割が入学時に生徒の髪の色やパーマが「地毛」であるかどうかを確認するため、「地毛証明書」を提出させていると大手新聞社が報じ、驚きの声があがりました。学校側は規律を守るためなどの狙いから入学時に証明書の提出を求めているようで、一定の理解も得られている模様ですが、「時代錯誤だ」「人権を無視している」など、否定的な意見もあり、賛否両論となっているようです。様々な意見があるようですが、法的にみてどうなのか。エジソン法律事務所の大達一賢弁護士にご意見をお伺いしました。Q.都立高校で行われているという「地毛証明書」の提出。違法ではない?*画像はイメージです:裁判では違法とされない可能性が高い。「“合法性”という意味においては違法とまではいえないのだろうと思われます。その理由として、まずおおもとに、「国公立である、私立であるを問わず、学生の教育と学術の研究を目的とする公共的な施設であり、法律に格別の規定がない場合でも、その設置目的を達成するために必要な事項を学則等により一方的に制定し、これによって在学する学生を規律する包括的権能を有するものと解すべきである」と判断をした判例があります(※1)。これに追従するような形で、小中高校においても学校の学則制定における包括的権能を認めている下級審判決が多く存在します。例えば、ある判決(※2)は、「生徒の服装等について規律する校則が中学校における教育に関連して定められたもの、すなわち、教育を目的として定められたものである場合には、その内容が著しく不合理でない限り、右校則は違法とはならない」としており、男子の髪型について「丸刈」と規定していた校則は憲法に違反せず、また違法性も認められず、校長の裁量権の範囲内と判断しています。そのため、現在の都立高校における頭髪に関する校則も違法であるとはされない可能性は高いといえるでしょう。また、校則が適法だとしても、校則を遵守させるための手段が適法である必要があります。この点について、校則に違反してパーマをかけた生徒に対し、自主退学勧告をした行為について、校則違反の態様、反省の状況、平素の行状、従前の学校の指導及び措置などを勘案して違法性を判断しており、結論として自主退学勧告は違法ではないとしています。(※3)さらに他の判決(※4)は、茶髪に染めてきた公立中学校の女子生徒に対し、学校で生活指導教諭らが学校内で当該生徒の髪を黒に染髪した行為について、生活指導の域を出るものではなく何ら違法性はないと判断しています。これらの事例と比較すると、地毛証明書の提出を要求する行為は、生徒の権利侵害がより少ないということもでき、上記各裁判例を踏まえると、裁判上は適法であると判断される可能性が高そうです。ただ、私見としては、髪型や髪色を変えることによって非行が助長される、ということは考えにくいと思います。そもそも、原則として黒髪であるべきだという発想自体、ボーダレスな現代社会の風潮において違和感を覚えます。「教育」=「管理」ではなく、教育とは個性を伸ばすことに重きを置きつつ、社会の一員としての自覚や責任を身に付けさせることだと思っています。「教育」に頭髪がどうあるべきかということの管理まで含ませる必要性はあまり高くはなく、地毛証明書まで求めることには疑問を覚えます」(大達弁護士) 地毛証明書の提出させる行為は、違法性は認められる可能性が低いものの、法律の専門家からみても違和感を覚える行為のようです。読者の皆さんは、どのように感じているでしょうか。 ※1:最高裁判所 昭和49年7月19日判決※2:熊本地方裁判所 昭和60年11月13日判決※3:最高裁判所 平成8年7月18日判決 ※4:大阪地方裁判所 平成23年3月28日*取材対応弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*Graphs / PIXTA(ピクスタ)
2017年06月10日*画像はイメージです:先日婚約を発表した女性キャスターのお相手に、複数の婚外子がいることが判明。すでに認知をしているそうですが、その振る舞いについては疑問や批判の声があがっています。女性キャスターの婚約者も該当するのですが、芸能人など莫大な経済力を持つ男性には「隠し子」が存在しがち。生前本妻の家族に隠し子の存在を文字通り隠し続け、亡くなったあとにひょっこりと姿を現し、「子どもだから遺産を分けて欲しい」と名乗り出ることがあります。本妻側としては、青天の霹靂で、かなり納得がいかず「一銭もやりたくない」と思うもの。法律的に見て、突然名乗り出てきた隠し子に対し遺産を支払う必要性はあるのでしょうか?エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に見解をお伺いしました。 ■突然遺産相続を名乗り出てきた「隠し子」に支払う義務はある?「どんな方にも避けられないが死というものですが、親が亡くなったことで生じる様々な人間模様は、まさに事実は小説よりも奇なりを地でいくものといえるでしょう。亡くなった親に“隠し子”というのもまさにその一つ。実は自分に腹違いの兄弟が、という場面は弁護士業務では珍しくなかったりもします。さてそんな“隠し子”がいて、遺産相続を名乗り出た場合の遺産の分配ですが、端的にいえばその方も立派な相続人のひとりであり、相続権を持つのが原則です。しかし、相続権を持っているのは法律上の親子関係まで有している必要があります。この点、婚姻関係にある男女の間で生まれた子については、原則として法律上の親子関係があるものと推定されますが(民法772条1項)、婚姻後200日以内に生まれた子や、婚姻解消後300日経過後に生まれた子、さらには婚姻関係にない男女から生まれた子については嫡出推定の恩恵を受けず、別途法律上の親子関係を発生させる認知の手続きをとる必要があります。そのため、仮にたとえば亡父との間に親子関係があることが明確であっても、自分の母親との間の関係上、嫡出推定を受けず、認知も受けていない場合には相続権はないことになります。ただし、その場合、子として、父の死後3年以内に認知の訴えを提起することで、父の死亡後でも認知の効果を得ることができます(民法787条)。なお、かつては法律上の婚姻関係にない男女間に生まれた子を嫡出でない子として、嫡出子に比べて相続分が2分の1とされておりましたが、平成25年9月4日、最高裁により意見である決定が出されたため、それを受けて民法900条4号が改正され、嫡出・非嫡出問わず、相続分は平等として扱われることになりました。そのため、ご質問に対する回答としては、“隠し子”もいち相続人として、平等な相続権を有するため、遺産分割協議等によって相続分を定めることが必要になります。余談にはなりますが、実際上、父の死亡時において認知などによって亡父と隠し子の間に法律上の親子関係が発生していることが戸籍等から明確になっていれば、実際の銀行口座名義の変更等においては亡父の出生時から死亡時までの戸籍謄本の提示が求められることが通常で、それを取得する際に、隠し子の存在が明らかになることが多いです。このような場合、隠し子とされる本人ですら、相続が発生したあとに連絡を受け、自身の実親の存在を知るということも少なくありません。もとの家族からすれば唐突にきょうだいが現れたということで戸惑うこともあるかもしれませんが、きょうだいが増えたことを前向きにとらえられるような日が訪れるといいですね」(大達弁護士) 「隠し子」は、レアケースのようにも思えますが、弁護士業務では比較的珍しくない話なのだそう。仮に遺産相続の際にそのようなことに遭遇した場合は、専門の弁護士に相談すると、明確な答えを出してくれることでしょう。 *取材対応弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*xiangtao / PIXTA(ピクスタ)
2017年05月20日イギリスのパフォーム・グループが運営するスポーツ動画配信サービス『DAZN(ダ・ゾーン)』。全世界の様々なスポーツをネットで閲覧することができるため、高い人気持ちます。同社は、昨年約2,100億円を投資して明治安田生命Jリーグと10年間の放送契約を締結。これまで試合を放映してきた『スカパー!』が同リーグの中継を断念したため、ファンにとっては重要な観戦ツールとなりました。2月26日、ついに明治安田生命Jリーグが開幕。有料契約者たちが、DAZN(ダ・ゾーン)で試合を見ようとアクセス。お金を支払っているわけですから、「視聴できて当然」なのですが、出てきた動画はカクカクで、止まることも多々。有料契約者たちは一様に「酷すぎる」と、怒りの声をあげ、炎上状態になりました。のちにDAZN側は記者会見を開き謝罪するとともに、技術的な問題が発生していたことを公表。今後は「万全の体制を期す」としています。しかし、ファンとしては1度あったことは2度あるのではないかと勘ぐってしまいます。仮に開幕戦のようなことがあれば、損害賠償請求などを検討したいところです。動画配信サイトが料金を徴収したにもかかわらず、内部の問題で配信できなかった。このような場合損害賠償請求をすることはできるのでしょうか?エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に見解をお伺いしました。Q.有料のストリーミング中継がカクカクでまともに見られない!賠償を請求することはできますか?*画像はイメージです:ケース・バイ・ケースですが、配信者側に問題があったことに起因するトラブルなら請求できる可能性があります。「最近は、テレビだけでなくインターネットでも様々な番組を見ることができるようになり、動画配信業者もどんどん増えてきました。この記事を読んでいる方の中にも、インターネットで配信される番組をよく見ている、という人もいるはず。そして、それらの動画配信サイトは、有料会員になると快適に動画を見ることができる、という場合が多いように思われます。しかし、有料会員となり、お金を払ったのにもかかわらず動画をまったく快適に見られない場合、有料会員は動画配信業者に対して損害賠償をすることは可能なのでしょうか。今回のような場合、視聴者である有料会員と配信業者との間には、視聴者は「会員が一定の金銭を支払う義務」を負い、配信業者は「動画を配信する義務」を負うという内容の契約が成立しています。そして、この「動画を配信する義務」の具体的内容として、同契約上、通常想定しうる程度の通信環境が整っている場合には、配信を会員が快適に見ることのできるようにすることも含まれるものと考えられます。配信業者がそもそも配信をしていない場合は当然ながら、仮に配信をしていたとしても、一般の視聴者が準備をするのが困難なほどに高度な環境じゃないと見られないといった場合には、配信業者は債務不履行責任(民法415条)として、損害賠償をする責任を負うことになりますが、そうではなく、原因が会員側にある場合には責任を認めるのは難しいことになると思います。なお、仮に業者側に責任が認められる場合、その損害額は、原則として動画を快適に見られなかった期間に応じて決まることになると思われます。例えば月会費制の場合、月会費を1ヶ月分の日数として30で割り、その数字に見られなかった期間の日数分を乗じた金額、というように決められることが多いでしょう。ただし、その時にその番組を見ることに意味があり、その番組を見るために有料会員登録した、という事情がある場合において、配信業者がそれを知り、又は知ることができたといえるような場合には、例外的に、月会費分に加え、慰謝料を請求することができる可能性もあるかもしれません。また、視聴者が、配信業者に対して改善を求めたにもかかわらず、動画環境が改善されない場合には、損害賠償に加え、契約を解除することもできます(民法541条、545条3項)。ただし、同時にストリーミング中継の配信を受けるには、業者が推奨する環境が指定されているのが通常で、その環境がよほど高度なものではなく、会員側にとって容易に準備できるようなものであれば、それが準備できていない場合などが規約上免責されると定められている場合も少なくありません。 では、そのような規約の有効性が次に問題となりますが、規約自体が全くの不合理であって公序良俗違反(民法第90条)として無効になったり、消費者契約法に違反したりしない限りは、原則として有効といえそうです。インターネット動画配信の市場が年々大きくなっています。ユーチューバーがひとつの仕事として確立したり、テレビ番組のオンデマンド配信が始まったり、大手メディアでは取り上げられないような話題も、ネット動画配信だからこそ世の中に知らせる機会ができるなど、その広がりはまさに無限大。近頃では弁護士もYouTubeを利用して広告を行っている例も珍しくありません。このように、インターネット動画配信の市場が広がっていることもあり、このようなトラブルも今後増えていくことも考えられますが、配信業者と視聴者が良い関係を築き、より進んだ技術の進歩が得られるように、これからの市場の広がりに期待したいところです」(大達弁護士) まだまだ法整備が進んでいない分野といえるだけに、様々な見解があるでしょうが、やはり運営側のトラブルで配信できない場合は、債務不履行責任が発生する可能性が高いようです。頭の片隅に入れておくべきかもしれません。ただし自身の環境不全が原因である場合は、無効です。このあたりが争点となりそうですね。 *取材対応弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*nito / PIXTA(ピクスタ)
2017年03月20日松田龍平さんが妻である太田莉菜さんの不倫を理由に離婚寸前と報じられたり、「幸福の科学」に出家した女優・清水富美加さんが自著で過去の不倫を打ち明けたりと、不倫という行為がかなり身近にありふれたものになっています。今回は相続という場面において不倫はどのように扱われるのか、エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に伺いました。*画像はイメージです:■不倫相続のポイントは「公序良俗」通常、遺産というのは配偶者や家族に相続され、その分配の割合も法律で定められています。しかし遺言により相続相手や分割方法を指定することもできます。もし、亡くなった人が配偶者ではなく不倫相手に全財産をあげるという遺言を残していた場合、これは法的に有効なのでしょうか?「遺言が民法に規定される方法で行われ、内容が“公序良俗”に反しない限りは有効となります。この“公序良俗”とは、公の秩序と善良な風俗のことをいい、これに反する法律行為は無効と民法90条に規定されています。過去の裁判例では、不倫相手への遺贈(遺言による贈与のようなもの)を内容とする遺言について、夫婦関係破綻の有無・原因、不倫関係の期間、遺言の目的などの具体的事情を総合的に勘案し、遺贈が社会通念上相当性を欠くと認められる場合にはその遺言を無効とするという判断をしています」(大達弁護士) ■有効と無効の具体例それではこのような遺言が有効となり、どのような遺言が無効とされるのでしょう?「例えば、7年間半同棲のような形で不倫関係を継続していた不倫相手に全財産の3分の1を遺贈するとした遺言が有効になったことがあります(最高裁判決昭和61年11月20日)。このケースでは、不倫関係が遺言者の家族に公然となっていること、夫婦としての実体はある程度喪失していること、相続人である娘は既に結婚しており生活基盤を脅かす恐れもないことなどが判断の根拠となりました。一方、遺言が無効であると判断されたケースとして、不倫関係が生じて間もない時期に関係継続にためらいを感じていた16歳年下の不倫相手をつなぎとめるためになされた全財産遺贈の遺言があります(東京地判昭和58年7月20日)。不倫関係の維持・継続を目的としたものであり、その結果、遺言者の財産形成に相当程度寄与した妻の生活基盤を脅かすものであって無効であるとされました」(大達弁護士) ■家族は1円ももらえないの?もしも、「全財産を不倫相手に」という遺言が有効になった場合、配偶者や家族は何も相続できないのでしょうか?「相続人に対しては“遺留分”と呼ばれる最低限度の相続財産が保障されています(民法1028条)。被相続人の財産によって生活していた者の生活を保障することを目的として規定されたものです。被相続人の親など尊属のみが相続人である場合には、被相続人の財産の3分の1が、それ以外の場合には、被相続人の財産の2分の1が相続人全体の遺留分となります。そして、その遺留分は、相続人の間で相続割合に応じて各相続人に生じます。例えば、『妻+子3人』の相続人がいる中で不倫相手の全財産相続の遺言が有効になった場合、相続人全体の遺留分である全財産の2分の1を法定相続分に応じて分けることになります。妻の遺留分は、2分の1(遺留分)×2分の1(法定相続分)として相続財産の4分の1。子1人の遺留分は、2分の1(遺留分)×2分の1(法定相続分)×3分の1(子の人数)として相続財産の12分の1となります。もし、この遺留分を侵害された場合は、遺産を受け取った者に対して遺留分減殺請求をすることができます(民法1031条)。この遺留分減殺請求は、まず遺贈を受けた者に対して行い、それでも足りない場合には、相続開始前1年以内に贈与を受けた者に対して行うものとされています(民法1030条、1033条)」(大達先生)「全財産を不倫相手に」という遺言があっても、その通り全財産が不倫相手に渡ることはないようです。相続はデリケートな問題ですが、大切な人が亡くなった後にさらなる悲しいトラブルにあわないよう、せめて制度についての知識は持っておきたいものですね。 *取材協力弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:フリーライター 岡本まーこ(大学卒業後、様々なアルバイトを経てフリーライターに。裁判傍聴にハマり裁判所に通っていた経験がある。「法廷ライターまーこと裁判所へ行こう!」(エンターブレイン)、「法廷ライターまーこは見た!漫画裁判傍聴記」(かもがわ出版)。)【画像】イメージです*Antonio Guillem / Shutterstock
2017年03月18日*画像はイメージです:配偶者が不倫していた場合、配偶者自身や不倫相手に精神的苦痛に対する慰謝料を請求することができます。ただし、もしこれを裁判で争う場合は、不貞行為を立証する必要があります。そんな時に物を言うのは、そう、証拠です。裁判においてどんな証拠が有効となるのか、エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に伺いました。 ■直接的あるいは客観的な証拠が強い!「不貞行為を理由として離婚ないし慰謝料請求を行う場合、裁判では不貞行為の立証責任を請求する側が負います。立証するための証拠には色々なものがありますが、一般的に立証能力が高いとされるのは以下の順番ではないでしょうか」(大達弁護士) 1位・・・不貞を確認できるビデオ、写真、録音2位・・・不貞行為を自白するような手紙やメモ、日記など3位・・・調査会社の報告書4位・・・不貞を推認できるビデオ、写真、録音5位・・・ラブホテルの領収書6位以下は、「ラブホテルへの滞在を示すGPS情報」、「不倫相手とのメールやSNSでの通信記録」、「夫婦間の会話においてなされた不倫を認める自白発言の録音」、「肉体関係を認める不倫相手の証言(録音や謝罪文)」、「友人や関係者の証言」、「不倫相手からもらった物」と続きます。 「証拠はいくつかに分類することができますが、証明しようとする事実を直接立証する証拠(直接証拠)は一般的に価値が高いものと言え、次に、間接的に立証する証拠(間接証拠)が続きます。上記のリストは基本的には直接証拠→間接証拠の順に並べています。もっとも1位の“不貞を確認できるビデオ、写真、録音”とは、いわゆる性行為中の記録をなどを想定しているので、このようなものが出てくることはあまり通常考えにくいです。しかも、不貞相手のみが写っていたとしても、請求をしたい相手である配偶者が写っていなければ意味がありませんよね。“不貞行為を自白するような手紙やメモ、日記など”を2位としましたが、“夫婦間の会話においてなされた不倫を認める自白発言の録音”や“肉体関係を不倫相手の認める証言(録音や謝罪文)”は下にしました。これらは一見すると同じように見えますが、前者が不貞行為をした者が無意識的に作成されたものであるのに対し、後者は夫婦間の喧嘩など何らかの圧力が働いた上で作成されたものであるという点で、信用性が落ちるということができます。そもそも、人の証言や供述というものは記憶が曖昧だったり変遷したりするものです。したがって、裁判上では、それらは一般的に信用力がそこまで高いとは考えられておらず、客観的な証拠の方が、信用力が高いとされています。そのような観点から、間接証拠であっても“ラブホテルの領収書”や“ラブホテルへの滞在を示すGPS情報”を上位にランクさせました。“不倫相手からもらったもの”は最下位にランクさせましたが、仮にこれが大人の玩具のようなものであれば、両者に不貞関係があったことを濃厚に疑わせる可能性はあります。以上、一般論にしたがってあえてランク付けしましたが、最終的には証拠の中身次第、ということがいえると思います」(大達弁護士) ■強い証拠の集め方裁判に備え立証能力が高い証拠を集めるためには、どのような手段をとればよいでしょうか?「残念ながら証拠というものはそう都合よく落ちていません。そのため、不貞の疑いが濃厚で、行動パターンが見えているような場合には、調査会社や興信所を利用するのが、一番効率がいいと思われます。ただ、興信所は料金が高いことが多く、多用は難しいかもしれません。そのため、夫婦間の話し合いを録音しておくというのも有効な手段にはなりえます。話し合いの会話の中に、不貞行為の証拠となる発言が混ざっている可能性があるため、それをきっかけに色々な調査をしていくということも考えられるからです」(大達弁護士) ■弱い証拠で戦う方法立証能力が低い証拠だけしか集められなかった場合でも、なんとか裁判を有利に進めるためにできることはありますか?「塵も積もれば……ではありませんが、証明力が低くても証拠をたくさん積み重ねることによって、裁判官の心証を動かすことは不可能であはありません。そのため、できる限りたくさんの証拠を揃えることが必要になります。また、不倫の前科がある場合には、前回の不倫の行動パターンを踏まえ、不倫が濃厚となった上で調査会社などに依頼するのがよいかもしれません。損害賠償における立証には、損害の立証のみならず、その金額の立証まで必要になります。そのため、“不貞行為の立証はできそうだが、損害額の立証が難しい”といった場合に備え、先の不貞行為の際に『また不倫をした場合には〇〇円を支払う』といった念書をあらかじめ書かせておくことによって、損害額の立証を容易にすると言った方法も考えられます(民法420条1項参照)」(大達弁護士)裁判はゲームではありませんが、裁判官を納得させ自分の望む結果を得るには、ある程度強いカードや戦術が必要になります。冷静に、なるべく多くの証拠を抑えることが大切だと言えます。 *取材協力弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:フリーライター 岡本まーこ(大学卒業後、様々なアルバイトを経てフリーライターに。裁判傍聴にハマり裁判所に通っていた経験がある。「法廷ライターまーこと裁判所へ行こう!」(エンターブレイン)、「法廷ライターまーこは見た!漫画裁判傍聴記」(かもがわ出版)。)【画像】イメージです*Markevich Maria / Shutterstock
2017年03月17日最近は徐々に暖かくなっており、春はもうすぐそこまで来ているようです。窓を閉め切り暖房をつけ走行していた自動車も、温暖な日は窓を開けて外気をいれながら走行することが増えてきました。目的地に到着し、車から降りたとき、つい窓を開けっ放しで出てしまった。盗難の可能性があるため、かなり危険な行為ですから、このようなことはほとんどないと思われます。しかし、人間ですからそのようなこともたまにはあるでしょう。そんな「ウッカリ」が違法になるらしいのです。「窓を開けて駐車するだけで違法」とはにわかに信じられませんが、本当なのでしょうか?エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に見解をお伺いしました。Q.駐車時に窓を開けっぱなしにして車を離れたら違法になる場合があるって本当ですか?*画像はイメージです:本当です。「暑い時期や空気の入れ替えのために窓を開けて自動車を運転したことのある人は多いのではないでしょうか。そんなとき、ちょっとした用事を済ませるために車から離れる場合に、窓を閉め忘れていた、なんて人も少なくないはず。しかし、実は、窓の閉め忘れは道路交通法に違反する可能性があるのです。道路交通法第71条は“運転者の遵守事項”について規定しており、同条第5号の2は、『自動車又は原動機付自転車を離れるときは、その車両の装置に応じ、その車両が他人に無断で運転されることがないようにするため必要な措置を講ずること』としています。つまり、“他人が勝手に運転しないように、車から離れるときには施錠や防犯対策をしっかりしなさい”ということです。今回のように窓を閉め忘れただけの場合には、基本的には他人が運転する危険がそこまで大きいとはいえませんが、キーを社内に残している場合やキーレス自動車で何らかの操作方法によりエンジンが始動できるような場合にはある程度の危険があるといえそうです。なお、この義務に違反したからといって、罰則や行政処分を受けることはありません。しかし、車上荒らしに遭う危険性や車そのものを盗まれる危険性がある上、その車で事故を起こされた場合には、民事上の損害賠償責任を負う可能性もあります。春も近く、心も軽やかでオープンになりがちですが、自宅も自動車も戸締りはしっかりと。思いがけない出費を余儀なくされないためにも、窓の閉め忘れには十分注意しましょう」(大達弁護士) 窓の閉め忘れは犯罪や余計な出費を招きかねませんから、しっかりと閉めるようにしておきたいですね。 *取材対応弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*sabmix / PIXTA(ピクスタ)
2017年03月08日長年人々の足として利用されている原付バイク。男性なら、高校生くらいになるとまず原付の免許をとり、道路でスピード感溢れる走りを体感したのち、本格的な「単車」に乗り換えたという人も多いことでしょう。最近は若者のバイク離れが進んでおり、原付も苦戦。販売台数減少に各社が悩むなか、生き残りをかけて2大メーカーのヤマハ発動機とHONDAが提携を発表するなど、かなり厳しい状況に置かれているようです。全体的にみれば販売台数は減っているようですが、都市部を中心に通勤に使っている人も多く、やはり便利なもの。その特徴は渋滞もスイスイと抜けることができるなど、動きが身軽ということ。しかし、その身軽さゆえ、「それって違反じゃないの?」というような運転をする様子を見ることもあります。よく見かけるのが、エンジンを切って乗ったまま歩道を走るケース。「あれ、いいのかな?」と思ってしまいます。また、同じような事例として車両通行禁止区域でエンジンを切りそのまま坂の傾斜を利用して駆け下りることもあります。この行為は「問題なし」と考えている人もいるようですが、法的にどうなのでしょう?エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に見解をお伺いしました。 Q.車両通行禁止の道路で原付バイクのエンジンを切り坂を下りる行為は道交法違反ですか?*画像はイメージです:違反です「車両通行止め区間、つまり道路標識又は道路標示によって車両通行が禁止されている区間で原付バイクに乗ることは、たとえエンジンを切っていたとしても運転していることになり、道路交通法に違反すると考えられます。ここでいう“車両”とは、“自動車、原動機付自転車、軽車両及びトロリーバス”のことをいいます(道路交通法2条1項8号)。また、“運転”とは、“道路において、車両又は路面電車をその本来の用い方に従って用いること”をいいます(道路交通法2条1項17号)。このとき、エンジンがかかっていない場合には、原付バイクの“本来の用い方”には当たらないようにも思えます。しかし、そもそも、道路交通法では、“歩行者”に関連する別の定義がされています。つまり、エンジンを切った上で、手で押しながら通行する場合には歩行者とするとされているため(道路交通法2条3項2号)、その反対解釈としてはエンジンを切った上で“手で押していない”ような場合には、歩行者とみなされないことになると思われます。そうすると、仮にエンジンを切った場合であっても、手で押していない場合であれば、エンジンをかけずに坂道を下ることも、“運転”に当たる可能性が高いと考えられます。そして、車両通行止め区間では、基本的に歩行者以外の通行ができないため(道路交通法8条1項)、運転をした場合には、道路交通法119条1項1号の2に違反し、3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金が科される可能性がありますので、くれぐれも道路標識等を守って楽しく安全な原付運転生活を送りましょう」(大達弁護士) 意外と間違いやすいエンジンを切った状態での原付バイクの扱い。エンジンを切っていたとしても、乗車した状態で車両通行禁止区域を走行すれば違反にあたるそうです。どうしても通行したい場合は、バイクを降り手で押しながら歩くようにしましょう *取材対応弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*notkoo / PIXTA(ピクスタ)
2017年02月09日1月3日に行われた箱根駅伝で、神奈川大学の走者が東京千代田区の交差点付近を走行していたところ、交通整理にあたっていた警察官が車を止めずに通行させ、あわや事故になる事案が発生。ギリギリで走者がかわしたため大事には至らなかったものの、警察官や暴走車への批判、そして長時間に渡り道路を封鎖する駅伝やマラソンについてもその必要性を問う声があがりました。警察は今後交通整理員の増員を検討しているようですが、不信感を持っている人もいるようです。*画像はイメージです:■事故が発生した場合責任の所在は?最近は健康ブームの影響で、走ることを趣味にしている人が増えています。市民マラソンに参加し、1つでも上の順位を目指し練習にうちこんでいるランナーも多いでしょう。とくに2月には東京マラソンもあり、出場する市民ランナーの皆さんは多少不安を感じているかもしれません。快調に走っているときにいきなり車が突っ込んで事故になった。仮にこのような事態が発生してしまった場合、気になってくるのは、「責任の所在」です。今回の箱根駅伝では交通整理を担当していた警察官の不手際が不祥事発生の原因と言われていますが、警察の責任はどのようなものになるのでしょうか?また、主催者や実際に事故を起こした自動車運転手への処分も気になります。エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に見解をお伺いしました。 ■運転者の責任は免れない「行動を運転しているときには、信号機に従わなければいけないのは当然ですが、マラソン大会の際には、警察官が交通整理をしていることも多いと思います。それにもかかわらず事故が起きてしまう可能性は否定できず、最近で言えば箱根駅伝が記憶に新しいところですね。まずはそのような場合について触れますが、警察官は、信号機と異なる手信号等をすることができ、運転者に対して必要な指示等をすることができ、運転者はこれに従わなければならないとされています(道路交通法6条及び7条)。これに従わなかった場合、一般の交通事故と同様に、自動車の運転者は、道路交通法70条の“安全運転義務”に違反(前方不注意)したとして、違反点数を加算されることになりますし、警察官の交通整理に違反して突っ込んだということであれば、道路交通法違反としての懲役刑ないし罰金のみならず、自動車運転過失致傷罪、民事上の損害賠償責任を負う可能性があります。また、警察官の交通整理がなく、自動車の運転者側の信号が青であったとしても、前方注意義務が免責されるわけではありません。個別具体的な状況に応じて、前方不注意があったと言える場合には、運転者の責任は免れないことになると思います」(大達弁護士) ■警察の責任はどうなる?「警察に関しては、交通整理を職務で行っているため、職務上の義務、具体的には、“マラソン大会で交通事故が生じないように適正な交通整理をする義務”が存在し、それに反した過失があった結果として交通事故が生じたといえる場合には、その警察を所管する地方公共団体は、損害賠償責任を負う可能性があります(国家賠償法1条1項)」(大達弁護士) ■主催者の責任は?最後に主催者の責任はどうでしょうか?「次に、走路、周辺道路の交通量などから、マラソン大会をするには危険であり不適当な場合や、マラソン大会の開催について周知されず、自動車の運転者が、マラソン大会が開催されていることを知るのが困難であった場合など、マラソン大会の選手に危険が及ぶ可能性が高いことを考慮に入れず、大会が開催されていたといえる場合には、マラソン大会の主催者も民事上(不法行為)あるいは刑事上(業務上過失致傷罪)の責任を負う可能性があります。また、マラソン大会の主催者は、安全に大会を運営する義務、“いいかえれば参加者が交通事故に遭うことのないように配慮する義務”を負っているにもかかわらず、その義務を怠ったとして、マラソン大会に参加することの契約に付随する安全配慮義務の違反するものとして、民法上の債務不履行を問われ、損害賠償責任を負う可能性もあります」(大達弁護士) 大規模なマラソン大会には管理する主催者、交通整理を担当する警察に管理監督それぞれ責任があり、道路を走る自動車の運転者にはそれにしたがう義務があるようです。今後東京マラソンなど大規模な大会もありますので、主催者・警察・運転手・参加者それぞれが注意をする必要がありますね。 *取材対応弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*Dachs / PIXTA(ピクスタ)
2017年02月06日ここ数年、各自動車メーカーが運転する必要のない自動運転車の開発競争を続けています。なかでも技術力がもっとも高いと言われていたのがGoogleです。圧倒的な資金力をベースに開発を進め、公道でのテストを重ねており、近年に実用化されるものとみられていました。ところが昨年12月になり、突如完全自動運転車開発の一時凍結を宣言。やはり一筋縄ではいかないようで、もう少々時間がかかるようです。しかし、そう遠くない将来自動運転車が実用化されるとみられており、タクシードライバーやバス運転士は職を失う日が来るかもしれません。人間はどうしてもミスをしてしまう生き物ですから、道を間違えることもあり、イライラすることもあります。また、料金に直結するメーターもたびたびトラブルのもとになります。ドライバーの不注意で押し忘れて走っていたのにも関わらず、メーターと異なる料金を請求されようものなら、納得できないお客さんもいるでしょう。仮にそのようなことが発生してしまった場合、利用客は請求通りの金額を支払うべきなのでしょうか?エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に見解を伺いました。 Q.タクシー運転手がメーター押し忘れた場合利用客はいくら支払うべき?*画像はイメージです:押し忘れていたとしても距離分の金額を支払う必要があるのが原則です。「タクシー運転手がメーターを押し忘れていた場合であっても、客は、メーターに表示される金額以上の料金を支払う義務があるものと考えられます。タクシーに乗る際には、乗客と運転手(タクシー会社)との間で「旅客運送契約」が締結されることになります。これは、運転手は客を目的地まで送迎する義務を負い、客はその送迎に応じた代金を支払う義務を負うという契約を締結するという内容の契約です。この「送迎に応じた代金」とは、「乗った距離や時間に応じて加算されていく料金」のことです。メーターの表示は、その料金を表示しているに過ぎません。乗客と運転手の間の合理的意思としては、あくまで運送してもらった距離に応じて発生した料金を支払うものであって、メーターに表示がなくとも、実際に乗った距離分の料金は発生するということになるのが原則です。なお、この点に関し、国交省が定めている「一般乗用旅客自動車運送事業標準運送約款」の5条1項には、「・・・運賃及び料金は、・・・運賃料金メーター器の表示額によります」と定められています。この約款は法律ではないため、もちろんタクシー会社によっては異なる定めがある可能性がありますが、大多数のタクシー会社はこれを採用しているものと考えられますので、この規定によれば、タクシー料金はメーターの表示に従えば良いということになりそうです。ただし、この約款は、あくまでタクシー発進時にメーターが押されていることを前提としているものと思われますし、明らかに押し忘れている場合にも100%適用があるかと言われれば解釈の余地は残ると思います。実際上争いになったような場合には、同約款の適用範囲が問題になると思いますが、両当事者の合意からすれば、押し忘れの際には適用がないとして、やはり実際に乗った分の代金が認められることになるのではないでしょうか。とはいえ、この場合、タクシー運転手にも過失があるため、過失相殺(民法722条2項)がなされる可能性も出てくるかもしれません」(大達弁護士) どうやらメーターを押し忘れていたとしても原則的には走った分の料金を支払わなければいけないようです。あとは、タクシー会社によっては独自の規約を持っていることがあり、その場合は例外も発生するのですね。 *取材協力弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*icemic / PIXTA(ピクスタ)
2017年01月29日