「8月中旬、膝の具合が気になって伊達に電話をしました。すると、『いや実は、膝だけではなく、肩も……』と言い出して。『もうこれ以上は無理です。引退しようと思っています』と告白されました」 こう明かすのは、8月28日にブログでプロテニス選手引退を表明した伊達公子(46)の恩師・小浦猛志さん(74)だ。小浦さんは、伊達がジュニア時代に出会い、後にコーチを就任。長年、彼女をサポートしてきた。 「43歳を過ぎたころから、もう体は限界でした。昨年2月、とうとう左膝にメスを入れざるを得なくなり、2度も手術を受けました。術後のリハビリには鬼気迫るものがあった。“もう一度、ラケットを握りたい”という執念ですよね」(小浦さん) 今年5月に公式戦に復帰した伊達。だが、痛み止めを片時も手放せない状態だったという。 「手術した膝をかばうことで上半身に負担がかかり、右肩の古傷もぶり返したようです。診断によると、このままテニスを続けていたら、『手が上に上がらなくなって、将来日常生活にも支障が出る』と言われたそうです」(小浦さん) “後遺症の恐怖”は小浦さんも、予感していたことだったいう。 「伊達の将来が心配でした。手術したときも、『引退した後の人生も長い。無理して競技に復帰しても、60歳、70歳になったときに車椅子になってしまったら、あかんぞ』と」 小浦さんがそう言ったとき、伊達は笑っていたというが、思うところはあったようだ。 《もう痛みと向き合わなくてもいいんじゃないか……痛みを我慢する必要もないんじゃないか……そんなことを思うようにもなってきました》 伊達は引退を伝えるブログでそう綴った。9月11日開幕のジャパンウィメンズオープンが最後の試合になる。現在、伊達は試合に向けて、都内の大学のコートで練習に励んでいる。9月初旬、昼食に出かける彼女に本誌は声をかけた。引退の心境を聞くと、「ブログに書いたとおりです」とだけ話した。そして、多くのファンが引退を惜しんでいることを伝えると、かすかにほほ笑んだ。 「選手の弱点を見抜けるし、体の動かし方も熟知している。なので、コーチの資質は十分ある。でも、言葉で自分の感覚を的確に伝えるスキルをこれから磨かないといけませんね。本人のやる気があれば、2年後の東京五輪に日本代表のコーチとして参加することも可能だと思います」(小浦さん) 東京五輪の舞台で、後輩を叱咤する伊達の姿が見られるかもしれない。
2017年09月08日「短パンはいて髪はショートカット、すごいスピードで走り回るので、私は男の子だと勘違いしたんです。彼女の高校の監督に『小柄だけど、足がピカイチの男子が入りましたね。将来、有望ですよ』と言ったら、『いや、あれは伊達公子という女の子ですよ』って(笑)」 高校1年生の伊達公子(46)と初めて会ったときのことを懐かしそうに振り返るのは、彼女の恩師・小浦猛志さん(74)だ。8月28日にブログでプロテニス選手引退を表明した伊達。小浦さんは彼女がジュニア時代に出会い、後にコーチを就任。長年、彼女をサポートしてきた。高校2年生で初出場した全日本選手権でのエピソードも、とても印象深いという。 「予選から出たのに、あっというまにベスト4まで勝ち上がりました。でも、いよいよ明日は準決勝というのに、やる気を失っていた。彼女に『もう、お前はベスト4でお腹いっぱいなんやろ?』と言うと、頷きながらぽろっと涙を流したんです。まだ高2でいきなりの全日本ベスト4ですからーー。そのときは負けましたが、4年後にきっちり優勝しました」 高校卒業後、プロデビューを果たした伊達は、またたくまに世界的なテニス選手へと駆け上がっていく。日本女子テニス史上最高の世界ランク4位を記録し、四大大会中の3大会でベスト4という快挙も成し遂げた。しかし、伊達は絶頂期の26歳で突然引退を選ぶ。日本中、いや世界のテニスファンが耳を疑った。小浦さんは言う。 「あのとき、実は肩を怪我していたんです。そんな状況なのに、ルールが変わってノルマの試合数が増えてしまった。怪我を押してまで、たくさんの試合をこなすリスクを背負うのは無理。彼女は限界に来ていると、私も思いました。『やり残したことはないか』と確認すると、伊達も『もうやめても後悔はない』と」 引退した伊達は、子供たちにテニスを教える活動などに忙しい日々を送っていた。だが、`08年に突然の“現役復帰宣言”。11年のブランクを経て、37歳になっていた。 「本人も『やれて1年ぐらいかな』と言っていましたけど、結局、9年半も続いたことになりますね。すごいことです。復帰して数年間が人生でいちばんテニスが楽しかったはずです。最初の現役のときとは別人で、コートで笑顔にあふれ、本当に楽しそうでした」 復帰3年目には世界ランク40位台にまで上昇した。伊達は“アラフォーの星”と称賛され、その世代で活躍する女性の象徴となる。だが年々ケガが増えていき、満身創痍。ついに引退を選んだ。今後はコーチ業などが噂されているが……。 「50歳になったときに伊達が『また復帰します』と言い出しても、私は驚きません。伊達公子は、そういうコなんです。そんなことの連続でしたから(笑)」 常に新しいことに挑戦し、周囲を驚かしてきた伊達。今度はどんな驚きを我々に与えてくれるだろうか。
2017年09月08日