「この世界的な危機において、不安や不調やストレスを抱えながらふと、もしかしてこれは地球が人類に与えたお仕置きではないかと思うことがあります。そんなとき、’09年に肺がんで亡くなった動物行動学者の日高敏隆さんの本を手に取り、一語一語に接していると、日高さんの声と表情がよみがえり、無知なわが身を嘆かわしく思いつつも、いつしか心が落ち着いてくるのです」(作家・阿川佐和子さん)新型コロナウイルス感染拡大により、外出を控えたり、あふれる情報に戸惑ったりーー。そんな心のざわつきは、1冊の本との出合いによって和らぐことがある。私たちと同じ時代を歩いてきた女性作家が「今こそ読んでほしい」とすすめる本。■角田光代さん(53)/『彼女たちの場合は』江國香織(集英社)1,980円「17歳の逸佳と14歳の礼那が、親に無断でニューヨークの自宅を出て、アメリカを旅する物語。私にはできそうもない旅を、読むことで体験できます。彼女たちと旅している間じゅう、本当に幸福でした」(角田さん)〈もっとアメリカをみなくっちゃ〉と、行き先も決めずに旅に出た日本人の少女2人の冒険。長距離バスや列車を乗り継ぐ旅先の美しい景色や食事、出会う人たち。心弾ませながら一気読みできる。■江國香織さん(56)/『まちの植物のせかい』鈴木純(雷鳥社)1,760円植物を見ているだけで幸せになれる“植物観察家”が〈道ばた〉〈空き地〉の植物約30種を紹介。「美しい写真を眺めているだけで、深呼吸したみたいに気持ちがいいです。文章もまっすぐで読みやすくおもしろく、これは名著だと思います。植物の生気が横溢(おういつ)していて、外出のままならない今読むと、人間の小ささを思い知らされ、それでもおもては初夏なのだ、と心強くなります」(江國さん)■甘糟りり子さん(56)/『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』著:ジョナサン・サフラン・フォア、訳:近藤隆文(NHK出版)2,530円題材はアメリカ同時多発テロ事件(9・11)。「父親を亡くしたことをどうしても受け入れられない少年が、父の残したヒントを解読していく物語。本を閉じたときに自分の中にすがすがしい勢いがうず巻いているはず。ほかにも、察する、我慢するという日本的な価値観のよい面を感じることのできる『あ・うん』(文春文庫)も、手に取ってほしい書です」(甘糟さん)■湊かなえさん(47)/新潮文庫『塩狩峠』三浦綾子(新潮社)825円「世界中を襲う災難のなか、自分のことばかりを心配していませんか?」(湊さん)明治42年、北海道旭川にある険しい塩狩峠で、連結が外れて暴走する最後尾客車。偶然乗り合わせていた鉄道職員の永野信夫が身を投げ出して、大勢の乗客を救うーー。キリスト教徒だった青年の愛と信仰に生きた人生を描き、生きることの意味、職業に責任をもつ意義を問う、三浦綾子の代表長編小説。※価格はすべて税込みです。「女性自身」2020年5月12・19日合併号 掲載
2020年05月03日打ち合わせや会食で、週に一、二度は都内に出かけます。クルマでも電車でも片道一時間半くらいでしょうか。景色を見ながら考えごとをするこの時間は、生活の句読点のようなものです。都内から戻り、自宅がある江ノ電の稲村ケ崎駅で降りると潮の香りに包まれ、ああ帰ってきたなあと実感します。原稿に煮詰まったら、134号線沿いを散歩したりジョギングしたりするのが習慣です。江ノ島の向こうに沈む夕陽を眺めると、心がやわらかくなって、こんがらがっていた頭の中身もほどけていきます。海は私の暮らしの一部です。鎌倉界隈の海沿いには、サーフショップと同じくらいたくさんのカフェやレストランがあります。あるにはあるけれど、気軽で便利な店ばかりで、大人が夜を楽しむための空間は意外と少ないのです(というか、ほとんどありません)。そんな中、鎌倉高校駅近くに一昨年オープンしたバスティーズは、待ち望んでいたレストラン。海に沈む夕陽を見ながらゆっくりとアペリティフを楽しみ、波音を聞きながらおいしいものを食べ、ワインの一本でも空けてから、潮の香りに包まれつつ帰路に着く、そんなことができるのです。駅から歩いて102分、江ノ電の線路と海を見下ろす高台の白い一軒屋。東京から遊びに来た友人を連れていったら、「こんなところに住みたい!」とはしゃいでおりました。店名は、「南仏風の別荘、邸宅」という意味の「バスティード」から作られた造語だそう。店内も白を基調としていて、ブルーの効いたインテリア、隅々に赤いドナセラ。そのままトレンディドラマの撮影に使いたいような空間です。テラスのテーブルにシャンパーニュのグラスが置かれたら、カルロス・トシキ&オメガトライブの『アクアマリンのままでいて』が聞こえてきそう。1988年放送『抱きしめたい!』の主題歌です。若者の憧れるライフスタイルをそのまま取り入れた初めての連続ドラマでした。バブルに突入するまで80年代、何より「心地良さ」が優先されていました。いわゆるバブリーな物事もまだなくて、贅沢というものに対して健全な憧れと敬意が残っていたいい時代だったと思います。バスティーズのテラスで波の音を聞きながら、ついそんなことを考えてしまいました。海が見えるテラスですっかりテンションが上がった件の友人は、食事が始まる前から「ここ、デートで来た0い♡」を連発しておりました。相手がいるからデートをしたいのではなく、こんな店があるからデートをしたい、そう思わせるのは「いい店」の証。料理人の作品を崇めるより、恋愛の原動力になるほうが大切だと思うのは、やっぱり私がバブル世代だからでしょうか。供される南仏料理はこのロケーション、このインテリアによく似合う品々です。軽いけれど個性があって、フォトジェニック(インスタ映えするともいう)。きっちりしたフランス料理ではなく、リゾットやパスタ、ラビオリなどもメニューに組み込まれています。今年の初めに就任した新しいシェフは、アマルフィやピエモンテのリストランテで働いた後、青山の「リストランテ山崎」のセカンドを務めていたそう。潮の香りに包まれながらいただいた魚介はもちろん、「ヘーゼルナッツをまとった仔牛フィレ肉のローストピエモンテ州のツナソース」の香ばしい感触が忘れられません。コースは月替わりなので今はオン・メニューではありませんが、いつかもう一度食べたい一品です。オーナーソムリエの選ぶワインも、海を意識したもので揃えられています。南仏やイタリアのワインが中心ですが、フランスはコニャック地方のウィスキーなども揃えてあります。ここで一つ、「トレンディ」な提案をいたしましょう。シャンパーニュかスプマンテの際は、波の形をしたシャンパーニュグラスをリクエストしてみて下さい。これはスガハラグラスのもので、下の部分が不規則に波打っています。このグラス越しに海を見ながら金色の泡を楽しむのはいかがでしょうか。夕陽がきれいな日なら、ロゼでもいいかもしれません。ただし、このグラスはテーブルに置く際に少々不安定なので、酔っ払い過ぎないこと。散歩やらジョギンやらサーフィンやら、海を見慣れた私でもバスティーズの店内からの景色は新鮮だし、心が踊ります。その度に、晴れた日ははなやかな、曇りの日は色っぽい、雨の日はせつない、海の新しい表情を見つけるのです。バスティーズ住所:神奈川県鎌倉市腰越1-3-11電話:0467-40-4232営業:ランチ/11:30~14:00(L.O)ディナー/10月~3月17:00~20:00(L.O)4月~9月 17:30~20:00(L.O)定休日:水曜日 休日の場合は翌木曜日休要予約著者プロフィール甘糟りり子作家。1964年横浜生まれ。3歳から鎌倉在住。都市に生きる男女と彼らを取り巻くファッションやレストラン、クルマなどの先端文化をリアルに写した小説やコラムに定評がある。近著の『産む、産まない、産めない』『産まなくても、産めなくても』(ともに講談社)など現代の女性が直面する岐路についての本も好評。読書会「ヨモウカフェ」主宰。
2018年06月15日心地よい満足感は”最上級の普通”が運んでくれる少し前のこと、都内某所の話題&人気だというレストランに行きました。メニューはコース一種類のみ、店指定の時間にいっせいスタートです。毎皿毎皿、どこそこ産のなんとかが凝りに凝ったオリジナルの調理法で供されました。なんというか、シェフの実験に参加している気分。何を食べているんだか&おいしいのかそうでないのか、よくわからないまま店を後にしました。百に一つ、いや千に一つかもしれないけれど、こういうものの中から次の時代の定番が生まれると思うので、否定はしません。フォアグラのテリーヌだってピータンだって、きっと最初は「何やら訳のわからないもの」だったはず。でも…。やっぱり…。素材をストレートに味わえて、情報や知識でなく、舌と胃袋で納得してしまう、そういうのが本来の醍醐味ではないかと思います。食べるという行為の。改めてそんなことを考えたのは、先日マンナを訪れたから。由比ヶ浜通りから少し奥まった住宅街にあるイタリア料理の店です。久しぶりだったのですが、注文したものがすべておいしかった。というより、注文したもの以外も含めてフォカッチャも水もみんなおいしく、心地よい時間だったのです。この店のおいしさには一貫性があります。調味料や調理法は食材を引き立てるためにしか存在しないのです。作り手の野心や自己顕示欲なんて一切ありません。ましてや、店や料理がシェフの名前をアピールするための道具では、決してない。言葉にすると当たり前のことなのですが、当たり前ではないケースをよく見かけます。この日注文したのは、トマトとモッツァレラのサラダ、グリル野菜、鴨のロースト。例えば、トマトとモッツァレラという、いたって普通のメニューが普通にとにかくおいしい。矛盾したいい方ですが、最上級の普通、といったらいいでしょうか。私はこうしてレストランや料理店についてあれこれと書いておりますが、本来は「おいしかった。以上」で済むのが粋な距離感なんですよねシェフは原優子さんという女性です。イタリア料理の褒め言葉で「男っぽい」というのをしばし耳にします。ジェンダーに関する物事や表現に意識が高まっている昨今はなおさら、大雑把にそういう形容をするのは気をつけたいですが、あえていえば、彼女の料理は、塩とオリーブオイルを思い切りよく使う男っぽさもあれば、ハーブを巧みに使う女性らしさも感じます。以前は同じく鎌倉で別の名前でレストランをされていましたが、2009年の9月に「マンナ」をオープン。開業1日目に腸閉塞を起こしてしまいます。痛みを堪えて最後のお客にエスプレッソを出した後、着の身着のまま病院に駆け込みました。入院中、原さんを助けようと仲間のシェフたちが食材を引き取りにきて驚いたそうです。こんなに質のいい食材ばかり使っているのか、と。もちろん、マンナでは、どこそこの何々でござい、なんていう風に出てくるわけではありませんけれど。野菜は主に鎌倉の農協連合販売所。毎朝行くそうです。私も時々買い出しに行くので、「農協のトマト、紀ノ国屋より高いことがありますよね」といったところ、原さん曰く「トマトって、お金をかければいくらでもおいしくできちゃうんですよ。それが家庭で必要かどうかはわかりませんけれども」とのこと。おいしいものは大好きです。こだわりにも敬意を払っています。しかし、こだわりが目的になるのは品がないということも忘れたくないと思いました。メニューは白い紙に手書きしたもののコピーです。A4サイズの紙にびっしりと並んだ膨大なメニューを見て、あれこれ目移りするのもこのお店の楽しみ方。欲張りな私は、いつも迷います。開業以来何度も訪れているのに、まだ食べたことのないメニューがある。数えてみたら、この日は全部で82種類でした。マンナは全16席、シェフは原さん一人です。満席だと、出てくるペースがどうしても遅くなりますが、待ち時間も含めてがマンナの味わいなのです。82種類のうち、デザートは21種類。『ゴッドファーザー』にも出てくるシシリアの代表的なデザート・カンノーリから小豆のパウンドケーキまで、多彩です。小豆のパウンドケーキがおいしくて、無理をいってワンホールお土産用に焼いてもらったこともあります。正直なところ甘いものはそんなに得意ではないのですが、マンナのデザートは甘過ぎず、素材を楽しめるので大好き。デザートでもやっぱり素材、食材の大切を実感したのでした。都内から打ち合わせにいらした編集者を連れていってこともありますし、友達や家族で伺うことも多いのですが、一人でオープンキッチンのカウンターに座ったりもします。彼女がこだわったカウンターなのかと思いきや、内装を手がけた建築家の方が、ご自分がカウンターで飲んだり食べたりしたくて作ったカウンターなんだとか。ある時は隣もたまたま一人でいらしていた他店のシェフで、その場で予約をお願いしたこともありました。場合によってはルール違反かもしれませんが、このお店の雰囲気が許してくれていると勝手に思っています。シンプルで明るくて、そこにモードなエッセンスが一滴だけ垂らされた空間も含めて、ありそうでなかなかないお店、それがマンナです。マンナ住所:神奈川県鎌倉市長谷2-4-7電話:0467-23-6336営業:12:00~14:00(LO)、18:00~20:30(LO)定休日:日曜日、第1・3・5月曜日できれば予約を著者プロフィール甘糟りり子作家。1964年横浜生まれ。3歳から鎌倉在住。都市に生きる男女と彼らを取り巻くファッションやレストラン、クルマなどの先端文化をリアルに写した小説やコラムに定評がある。近著の『産む、産まない、産めない』(講談社)は6刷に。そのほか『産まなくても、産めなくても』(講談社)など現代の女性が直面する岐路についての本も好評発売中。読書会「ヨモウカフェ」主宰。
2018年05月18日女子のためのラン祭り「ランガール ナイト」が今年も9月12日(土)に開催された。参加ランナーは1,100名、ボランティアスタッフ100名、さらにランナーを応援する家族や友人といった一般来場者もあわせ、メイン会場である潮風公園・太陽広場への来場推定人数は1,600名にのぼった。過去最大規模での開催となった第6回目「ランガール ナイト」。会場には、ランを中心に、ビューティ、ファッション、グルメ、健康、ショッピング、旅と、さまざまな分野からの協賛・協力会社が集った。協賛会社によって、ランニングをライフスタイルとする女性たちの興味を引くさまざまな商品のPRを展開するブースを配した「ナイトマーケットエリア」にはたくさんの人が詰めかけた。ラン前の準備ができる「Ready to Run ブース」には、さくら治療院によるアロママッサージ、協賛の「クラランス」「オルビス」の日焼け止めや、オーガニックの虫よけスプレーのサービス、さらに貝印×ランガールメンバーのヘアメイク長井かおりによるヘアアレンジのワークショップなども開催され、多くのランナーで賑わった。大会は、15時40分のオープニングセレモニーからスタート。総勢18名の華やかなゲストランナーたちが登壇し、ステージを盛り上げた。今年のゲストランナーには、作家の甘糟りり子、走るアナウンサー浅利そのみ、タレントの高山都、モデル前田典子、タレント三原勇希、モデルのベイカー恵利沙、ランニングアドバイザー市橋有里など話題の女性陣が揃って参加した。日本に初上陸したばかりの音楽を楽しみながら簡単なステップを描く注目のエクササイズ「BOKWA」でウォーミングアップ後、いよいよ16時半からランがスタート。潮風が心地よい海沿いのコースを、美しい夕焼けをバックに女性ランナーが駆け抜けた。ランの終了後、19時からは毎年恒例のラン&フィットネスウェアのファッションショーが開かれる野外のアフターパーティがスタート。ファッションショーには「プーマ(PUMA)」、「リーボック(Reebok)」、「ボクワ(BOKWA)」、「アディダス(adidas)」、「UNDER ARMOUR(アンダーアーマー)」が協賛し、最新ウェアに身を包んだモデルたちがランウェイを闊歩して観客を魅了した。大会の参加賞には、イラストレーターShogo SekineとRunGirlがコラボし、中目黒の無地Tシャツ専門店「tshirt.co.jp」の協力で制作したオリジナルバッグがプレゼントされた。また本大会のエントリーフィーのうち500円と大会当日に販売するチャリティ商品の売り上げの一部を、東北の被災地の女性支援活動をしている「国際協力NGOジョイセフ」と、女性への正しい食生活の情報及び生活習慣の啓発活動をすることで予防医療を普及させることを目的とした「一般社団法人Luvtelli(ラブテリ)」へ寄付された。(text:Miwa Ogata)
2015年09月02日仕事、恋愛、結婚、出産、育児、思いもよらない人生の岐路に立ったとき、女性たちはどんな決断を下しているのか。悩める女性への指南書となりそうな一冊を、各界で活躍中の方々に紹介していただきました。 【ライター・瀧井朝世さん推薦】 ■『点をつなぐ』加藤千恵 滝口みのり、28歳。大学進学と同時に上京、そのまま東京で就職し、コンビニチェーンのスイーツ商品開発に携わる彼女。点と点とをつないできた彼女の今とは。角川春樹事務所1300円 「仕事も、恋も、住む町も。小さな選択の集積によって、今の自分の人生がある、と自覚していく主人公が登場します。このテーマにぴったりの一冊」(瀧井さん) 【書評家・藤田香織さん推薦】 ■『産む、産まない、産めない』甘糟りり子 予想外の妊娠がわかった40歳の女性、再婚して15歳の義理の息子と同居することになった25歳の母…。選ばなくては進めない道もある。女性の戸惑いを描く8編を収録。講談社1500円 「女子の人生における難題のひとつ、妊娠、出産、育児の問題をさまざまな立場から描いた短編集。出世と出産のどちらをとるか、シングルマザーになるか否か等々、いつか決意しなければならない選択の数々をじっくり予習して下さい!」(藤田さん) ◇たきい・あさよライター。『anan』本誌をはじめ、雑誌、新聞、WEBで作家インタビューや書評などを担当。TBS系『王様のブランチ』ブックコーナーのブレーンも務めている。 ◇ふじた・かをり書評家、エッセイスト。著書に、『だらしな日記』シリーズ(幻冬舎文庫)、『ホンのお楽しみ』(講談社文庫)など。共著『東海道でしょう!』も好評。 写真・多田 寛 ※『anan』2015年5月13日号より
2015年05月09日