認知症公表から約3年、テレビ出演が激減し蛭子能収さん(75)だが、ただ今開催中の「最後の展覧会」展が連日の盛況を呈している。蛭子さんの再婚は何を隠そう、本誌のお見合い企画から。以来、20年の付き合いがある本誌記者が、今回の展覧会に至るまでの裏側に完全密着。約1年をかけて新作絵画19点を描き上げた蛭子さんと、それを支えた旧友たちの愛と葛藤の物語。認知症700万人時代は、“助け合い”と“笑い合い”で乗り越えるのだ――。「あれ〜、すごいですね。でも絵はちょっと雑なような……」自分の作品が並んだ展覧会場で、タレントで漫画家の蛭子能収さんはこう口にした。’20年7月に認知症を公表した蛭子さんが、今夏に描き下ろした絵画19点を展示する「最後の展覧会」(監修・根本敬)が、9月7日から30日まで、東京・南青山にある「Akio Nagasawa Gallery Aoyama」で開催されている。開展日の前日、同じ会場で蛭子さんを古くから知る漫画家や編集者たちを集めたレセプションパーティが行われた。パーティの少し前に会場に入った蛭子さんが、白壁に並べられた作品をひとつずつ見ていく。かつてのタッチとは趣きが異なる蛭子さんの絵。色鮮やかなキャンバスに、クネクネと曲がりくねった線、無造作に打たれた点、不思議な形の物体、さまざまな色を使い自由闊達に絵筆で描かれた作品は、まるで抽象画のようだ。「これは誰の絵ですか……?」と蛭子さんはぽつり。認知症の症状は、ゆっくりだが確実に進行していく。「蛭子さんが描いたんですよ」と、わたしが伝えると、蛭子さんは少し不安な顔つきをした。昨年秋から今夏にかけて約1年間、展覧会に向けてキャンバスと向き合った記憶はすでに消えているーー。やがて会場に、古くからの知り合いが集まりだした。「蛭子さん、久しぶり。オレが誰だかわかる?」「すいません、まったく覚えていないんですよね……」申し訳なさそうに頭をポリポリ。集まったのは40年以上前からの仲間たち。覚えていないと言われた人は「ま、いいか」と複雑な笑みを浮かべるしかない。認知症の代表的な症状はもの忘れ。記憶がすっぽり抜けること。タレントになる前の漫画家時代を思い出せないのかもしれない……。それでも蛭子さんは、途切れた糸が再びつながるように、体調がいいときは、会話が通じ合い、古い記憶を語ることさえある。展覧会場に、蛭子さんの絵を見た人たちの感想が聞こえてくる。「色づかいのセンスがいいよね」「タイトルの付け方が蛭子さんだ」。なかには「蛭子さんが楽しそうに絵を描いていたと思うとうれしいね」とつぶやく人もいた。蛭子さんを包み込むふんわりとした空間。覚えていてもいなくても、かつての仲間たちに囲まれて、蛭子さんの表情が穏やかになる。絵画展のために用意した作品のなかに、スケッチブックに描いた絵がある。《ギクッ》と銘打たれたその絵の前に立った蛭子さんは、ペンを握り、自筆のサインとともに空白の部分に男性の絵を描き加えた。それによって《ギクッ》というタイトルが際立った。「蛭子さん、すごい!」歓声があがる。気をよくした蛭子さんが持つペンは、紙をはみ出して白壁にまで。展覧会場のスタッフも苦笑するしかない。かつての漫画家仲間や一緒に仕事をした編集者が囲み、語りかけ、一緒に写真におさまる。蛭子さんの周りに笑顔が咲く。蛭子さんもおなかの底からうれしそうに笑う。人のよさそうなあの笑顔が満開に。それだけで、わたしは蛭子さんの最後の展覧会を手伝ったことに満足した。■認知症を公表後、仕事は激減。見かねた旧友たちが“最後の展覧会”を計画わたしは、本誌で連載していた「蛭子能収の人生相談」の担当記者。月1回、蛭子さんに話を聞いては記事にまとめていた。蛭子さんとの最初の出会いは20年前。先妻に先立たれ、孤独に耐えられないと語っていた蛭子さんに「誌上お見合い」の企画を持ち掛けたのがきっかけ。蛭子さんはそのお見合いで今の妻である悠加さん(57)と巡り合った。初デートを演出したわたしは“愛のキューピッド”気取りだったが、その後、連載の打ち合わせで蛭子さんと会ったときには、わたしのことをすっかり忘れていた。連載の人生相談は蛭子さんの“ゆるくて鈍い”回答がさえた。たとえば、心通わせる愛猫を失ったあとのペットロスが怖い、という読者に、蛭子さんは、自ら猫を飼っていたことを明かしながらも、「動物と人は、気持ちが通じ合いません。通じると思っているのは人間の思い込みですよ」と、バッサリ切りつつ、死んだ猫の墓参りには毎年行っていることを付け加えた。蛭子さんは、’14年に認知症の一歩手前である「軽度認知障害」と診断された。取材でも人の名前を忘れたり前日のロケのことを覚えていなかったりと兆候はあった。しかし、興味がないことに無関心な蛭子さんの“味”だと思っていた。’20年7月、蛭子さんは、アルツハイマー病とレビー小体型認知症を併発していることを公にした。「ボケても、仕事したい」公表後にこう話していた蛭子さん。コロナ禍と重なり直接会う機会は減ったが連載は続いた。ところが症状は思いのほか進行した。自分について語ることはできるが、人の悩みに答えるような言葉は出てこなくなった。「今こそ蛭子さんに絵を描いてもらって、展覧会を開催できたらと思っているんです」’21年秋、連載の担当編集者がこう切り出した。サブカルチャー好きの編集者は、タレントよりも漫画家としての蛭子さんのファン。認知症を公表後、テレビの仕事が激減した蛭子さんに、絵の仕事をしてもらおうという提案だった。認知症をなめていると思った。じつは、わたしの母も認知症だ。5年前に80歳直前でアルツハイマー型認知症と診断された。朗らかだった母から、昼夜問わず被害妄想にかられて「財布が盗まれた」「誰かが家にいる」と連絡が入った。読書が趣味だったが集中力がなくなり、本を手にすることもなくなった。母と接するとき、わたしの顔つきは、いつも怒りをあらわにするか無表情だった。蛭子さんに母の姿を重ね、絵を描くことは難しいと考えていた。それでも展覧会の計画は、蛭子さんの友人で特殊漫画家の根本敬さん(65)のサポートもあり実現に向けて動き始めた。根本さんが語る。「認知症を公表したあとに蛭子さんから“絵を描きたい”と電話があったんです。蛭子さんの作品に衝撃を受けて漫画家になった僕は蛭子さんに絵の世界に戻ってきてほしかった。だから『協力するよ』と返したら『持つべきものは友やね』と。それまで蛭子さんは人に僕を紹介するとき“オレのことをおもしろおかしく書いて食っている人”と平気で言う人。蛭子さんから友という言葉が出てビックリ。蛭子さんは絵を描くスピードがものすごく速いから、展覧会はできるなと思っていました」根本さんが知り合いの画廊と話をつけて展覧会場と開催日が確定した。あとは蛭子さんが“やる気”を出すだけだが……、それこそが最大の問題だった。■高校時代は美術クラブの人気者。’80年代サブカルチャーを席巻した鬼才の原点’47年10月21日に熊本県天草市で生まれ、すぐに長崎市に移り住んだ蛭子さん。父親は遠洋漁業船の乗組員で、年の離れた姉と兄はすでに家を出ていたため、末っ子の蛭子さんは、ふだんは母親のマツ子さんと2人暮らしだった。長崎市立商業高校を卒業後、地元の看板店に就職。その4年後の’70年、22歳のときに上京。広告代理店の看板部門で働きながら2歳年下の先妻と結婚。’73年、25歳のときに、白土三平や水木しげる、つげ義春が連載した漫画誌『ガロ』でデビュー。漫画家を目指したが、2人の子供を抱えていたため生活費を稼ぐためにチリ紙交換、ダスキンのサラリーマンを経験した。蛭子さんが芸能活動を始めたのは’86年。蛭子さんは「素人の時代の波に乗って」とかつて語っていたが、タレントや俳優として八面六臂の活躍。怪しくて情けない笑顔、空気を読まない行動、不謹慎な発言が人気を集めた。あとは説明するまでもないだろう。テレビを通して蛭子さんを知る人こそ多いが、ここでは絵の才能について振り返ってみよう。長崎市立商業高校の美術クラブで蛭子さんとともに絵を描いていた土平啞倭子さん(75)が語る。「グラフィックデザイナーの横尾忠則に憧れていた蛭子君は、グループ展ではギラギラ光るような絵をよく描いていました。でもそんなサイケデリックな絵は、県や市が主催するコンテストでは落選してしまうんですよ。そこで蛭子君は『市長賞を絶対とる』と審査員のことを調べ上げて『精密に描けば賞はとれる』と審査員の好みに合わせて木々を細かく描いていました。賞をとるためといえばしたたかだけど、憎めないんです」そんな蛭子さんは美術クラブの人気者だったという。「みんなは蛭子君のことが好きでした。しかめっ面を見たことがありません。毒気のあるひと言を言って笑わすんですが、わたしもよく“おまえは(肌が)黒かね”と言われました。あのヘラヘラした顔で言うから、みんな笑ってしまうんですよね」(土平さん)看板店に勤めながら、友達が作った漫画クラブに参加していた蛭子さん。NHK長崎放送局に「働きながら漫画を描いている青年」として取り上げられたこともある。長崎市出身の漫画家でツージーQこと、辻村信也さん(68)が振り返る。「中学1年生のときにテレビで紹介されたのが蛭子さんの漫画。長崎のシンボルの稲佐山の地下に宇宙船の基地があるというストーリーでしたが、きれいに色が塗られ、コマ割りも斬新。当時の主流だった手塚治虫さんの娯楽という範囲にとどまらない蛭子さんの漫画に驚きました。長崎にこんなすごい人がいるんだ、と衝撃を受けて、蛭子さんの漫画クラブに顔を出して教えてもらったことがあります」漫画誌『ガロ』の編集者で、現在は、雑誌『アックス』を出版する青林工藝舎の手塚能理子さん(67)はこう話す。「蛭子さんが『ガロ』に入選した’73年、私は一読者でしたが、不条理な展開、いらだちと妄想が入り交じる笑いで、それまでの漫画にはないパワーに圧倒されました。ヘタウマ漫画の祖といわれる湯村輝彦さんも、蛭子さんの入選作に影響を受けたと話していたくらい。とくにコマのどこを切り取ってもポスター作品になるほどのデザイン力は天性のものでしょうね」“いつもやる気がない”がトレードマークの蛭子さんには別の顔があったと手塚さんが続ける。「’80年のあるとき、漫画だけでは食べられないから長崎に帰ると、蛭子さんが編集部を訪ねてきたことがありました。当時の社長が蛭子さんの才能を惜しんで『単行本を出してあげるから売れなかったら長崎に帰ればいい』と引き留めたんです。初の単行本『地獄に堕ちた教師ども』が発売されたら話題になって売れに売れました。蛭子さんも中央線沿線の書店を巡って『オレが描いたんです』と一生懸命に営業していました」そう、蛭子さんは、’80年代のマイナー系の漫画の世界において旗手と目されていた。しかし、蛭子さんはその後、喜び勇んでテレビの世界に飛び込んでいった。■描きたくないものは描かない。認知症になっても変わらない“自由を愛する本質”早く死んでくれないかーー。家族が親の死を願うのが認知症という病気だ。少なくとも、わたしはそう考えていた時期がある。そのころ、悠加さんからこんな話を聞いた。「認知症を公表したあと、所属事務所の社長と仕事を整理していく話をしたら、主人は思いのほかショックを受けてしまったんです。その帰り道、気分を落ち着けようと海浜公園に寄りました。望んでもいないのに不本意な状態になってしまったうえ、仕事ができなくなることが主人にはそうとう身にこたえたようです」誰も認知症になりたくてなったわけではない。もっとも苦しみ、悔しい思いをしているのは本人なのだ。悠加さんはこう続けた。「海をボーっとしながら見ている主人の背中を見ていたときに、認知症になっても働きたいと思うなら応援しようと決めたんです。病気を売り物にして、と非難されるかもしれません。おかしな言動を笑われるかもしれません。でも、主人が人を喜ばせることが好きなら、認知症になってもやらせてあげようと」悠加さんの覚悟は決まった。テレビの世界では認知症の人は扱いづらい。漫画のようにストーリーなど考えずに、ただ筆を手にして絵を描く才能は今でもある。絵は蛭子さんにとって最後の“武器”なのかもしれない。今回、絵の制作は、かつて蛭子さんの漫画が載っていた『アックス』を出版する青林工藝舎の一室で、体調がいい昼から夕方に行われた。根本さん、手塚さんらかつての仲間たちに見守られながら蛭子さんは絵を描くが、筆が止まることがたびたび。絵の具の色を選ぶのにも時間がかかる。わたしは何度もじれったくなって手を差しのべたくなる。そのたびに、根本さんから「手伝ったら、蛭子さんの絵じゃなくなる」とたしなめられる。かつて蛭子さんは、締切り間際に編集部を訪れ、8ページの漫画を小一時間ほどで描き上げて雀荘に消えていった逸話がある。絵を描くスピードは速かったが、その面影はない。蛭子さんが、筆を持って自ら描きだすのをただただ待つしかない。ようやく描き始めても、集中力がないためすぐに止まってしまう。大好きなどら焼きとコーヒーを用意して、制作時間よりも長く休憩を入れながら、展覧会の絵はゆっくり描き進められていった。気づいたことがある。認知症になっても、蛭子さんは自分が描きたいものしか描かないこと。「この空白の場所に、なにか描いたらおもしろいと思いますよ」と言ってもまず描かない。蛭子さんは命令されるのが今も嫌いだ。「絵を売ればお金になりますよ」と誘っても筆は1ミリも動かない。あれほど関心があったお金だが、今は揺らぐことはない。なんとなく絵を描き進めるコツが見えてきた。蛭子さんを囲んで、周囲が笑い話に興じていると、スイッチが入ったように、絵筆が滑りだし、絵を描いていく。周りが楽しそうにしていると、蛭子さんの筆もどんどん進むのだ。出展する最後の作品を仕上げた日、蛭子さんを車で送ったわたしは、バックミラーに映る蛭子さんの様子がおかしいことに気づいた。「なんか、みんなに親切にしてもらって、オレ、本当に……」と、顔をくしゃくしゃにして涙を流していた。認知症の人はなにかの拍子に感情の起伏が激しくなることもあるが、わたしは蛭子さんの涙と言葉が心にしみた。■展覧会場には笑顔が満開。“笑い合い”こそ認知症700万人時代にさす希望の光制作を見守った手塚さんは、訪れる蛭子さんに、いつも「初めまして!」と声をかけた。「わたしのことはすっかり忘れているようです。だったら、毎回初対面と考えて、また新しく関係を作り上げればいいだけ。明日、忘れたら、また『初めまして』で関係を築けばいいでしょう」認知症の母にいつもイライラしているわたしは、介護するヒントをもらった気がした。手塚さんは、こう続けた。「漫画家にとっての生命力は、一人でも多くの人におもしろいと思わせたい、という気持ち。漫画家は、それを背負いながら生きます。その気持ちを失ったときに、漫画家として命は終わりです。蛭子さんが『絵を描くのが楽しい、またやりたい』と話していたことがあります。認知症になっても人を喜ばせたいという気持ちがまだまだ残っているんです」かつて蛭子さんは、絵を描くことについてこんな話をしていた。「小学校のときは長屋に住んでいたんですけど、近所の子を集めて画用紙に描いた紙芝居を見せたらすごい人気になったことがあるんですよ。もっと小さい子には船とか動物の絵とか描いたりしていましたね。あとは父親がいつも留守で家では母ちゃんと2人っきりでしたから、絵を描いて母ちゃんを喜ばせていました」20歳で父親を亡くした蛭子さんは、上京するにあたって何よりも気に病んでいたのは、母のマツ子さんを1人で故郷に残すこと。マツ子さんは、こう言って蛭子さんの背中を押した。「好きなごとせんね」長崎の方言で「好きなように生きなさい」という意味の言葉。おまえの好きなように……。蛭子さんの持論は「芸術よりもサービス業」だ。人を喜ばすのが好きなのは、認知症になっても変わらない。だって蛭子さんの展覧会場は笑顔がいっぱいだ。レセプションにいたツージーQこと辻村さんも大分県から駆けつけた。「蛭子さんの頭の中に流れる映像を見ているみたいだよ」と、笑顔を見せた。美術クラブで一緒だった土平さんは、50年前からやりとりしている蛭子さんの年賀状をすべて持ってやってきて、こう笑った。「新しいステージにいる蛭子君の絵を見た気がする。これからが楽しみになった」認知症の人がいるのが当たり前になる社会はやってくる。そのとき笑顔があれば、認知症の人も、介護する家族も肩の力が抜ける気がする。わたしもこれからは笑顔で母と接してみようと思った。8月4日。蛭子さんは埼玉県所沢市にある蛭子家の墓参りに行ってきたという。悠加さんが語る。「最初は、どこに行くのかわからない様子でしたが、お墓参りを済ませたあと、主人が『いつも悠加ばかりに任せて申し訳ない』と言ったんです。そして『また墓参りに来たいな』とも。認知症になる前は絶対に言わなかったこと。仲間たちと一緒に絵を描いたのがよかったのか、最近は表情も明るくなったようです」蛭子さんが絵を制作中にいつもかぶっていたキャップには、「All’s well that ends well」(終わりよければすべてよし)と書かれている。蛭子さん、これからも“好きなごとせんね”。(取材・文:山内太/編集:吉田健一)
2023年09月27日「いや~、すごい絵ですね。えっ?これオレが描いたんですか?」自分の作品が並んだ展覧会場に入るなり、漫画家でタレントの蛭子能収(75)はこう語った。20年7月に認知症を公表した蛭子さんが描き下ろした新作19点を展示する「根本敬 presents 蛭子能収『最後の展覧会』展」が、9月7日、東京・南青山にある「Akio Nagasawa Gallery Aoyama」で始まる(9月30日まで)。開催前日の6日には、旧知の漫画家仲間や編集者を集めたレセプションパーティーが行われた。展覧会には、これまでの漫画家・蛭子能収のタッチとは異なる作品が並ぶ。パーティーには、漫画家・蛭子さんに憧れた漫画家や、その才能に惚れ込んだ編集者が集まり、蛭子さんの周りをとり囲んだ。「僕のこと覚えていますか?」「すみません、オレは、ちょっと忘れちゃって……」「そっか、でも元気でよかった」名前は忘れたかもしれないが、たくさんの友だちに声をかけられ、うれしくなったのだろう。蛭子さんの笑顔がはじける。認知症を公表後、テレビの仕事は減り、蛭子さんと旧知の仲の有吉弘行の番組など、わずかな出演を除いて限りなくゼロに近くなった。そんな中で、40年来の旧友である特殊漫画家の根本敬さん(65)をはじめ、蛭子さんの担当編集者たちが集まり、企画・実現した今回の展覧会。「独特な色遣いが蛭子さんらしい」「大胆に黒を使っているのが印象的」「意味深なタイトルが気になってしまう」など、さまざまな感想が飛び交った、見る人の心を揺さぶる作品群。あなたも蛭子さんの新境地、“芸術家・蛭子能収”の世界に触れてみてはいかがだろうか。(取材:山内太)
2023年09月07日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(75)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える好評コラム。9年に渡って続いた名物連載の最終回はーー。【Q】「実は……、蛭子さんに伝えなければいけない大切なことがあるのに、どうにも言い出しにくくて、なかなか言えませんでした。……でも、言います。この連載、今回が最終回になります!これまで本当にありがとうございました」(吉田健一さん・48歳・東京都・編集者)蛭子:あ〜、そうですか……(と語ったきり、無言のまま時間が過ぎる)マネージャー:蛭子さん、人生相談が終わって寂しいですか?蛭子:えっ、なんでしたっけ?最終回?いや、まったくオレはいいですけどね。それよりも人生相談が続いていたことに驚きました。マネージャー:2014年6月に始まって毎週、9年間も続きました。蛭子:で、これが最後の相談ですか……。オレは、相手がどう思うか、あまり考えないほうがいいと思いますけど。考えすぎるとうまくいかないことが多い気がします。マネージャー:空気をあまり読み過ぎるな、ということですか?蛭子:まあ、そうかもしれない。空気なんか読まないほうが楽でいいですよ。マネージャー:でも認知症になったのに連載を続けてくれたことには、蛭子さんからも御礼を言いましょうよ。蛭子:あ……(頭をポリポリかきながら)そうですね、なんか病気(認知症のこと)になってからもいろいろ目をかけてくれて、ありがとうございました。テレビでは有吉(弘行)さんにお世話になっていますね。それに……この連載はどこの雑誌に載っているんですか?マネージャー:『女性自身』さんです!最後なんだから空気を読んでください……。蛭子 :あ、どうもすみません。吉田(担当編集):『女性自身』が「(前妻を亡くされた)蛭子さんが再婚相手を探している」と聞いて、集団お見合いを企画したのが2003年4月。それから20年のお付き合いです。蛭子:あ、そうやったっけ?すみません、覚えてませんでしたけど、ありがとうございます。吉田:400回以上やった人生相談ですが、なにか印象に残っているお悩みはありますか?蛭子:……いや、まったく……、すみません。マネージャー:僕が印象に残っているのは、働く意欲が湧かないという22歳の男性の相談者に対して蛭子さんが『仕事でやりがいや生きがいを見つけるのが間違い。働くことに意欲を求めるのがおかしいんです。仕事で輝くという人生は変。人は競艇場で輝くために働くんです』と回答した回です。蛭子さんに相談するなんて、という人もいましたが、意外と悩みを打ち明けるとスッキリしたと言われるようになりました。蛭子:そんなこと言っていたんですか……。吉田:編集部で話題になったのは、18歳の猫を飼っている女性から「ペットロス症候群を防ぐ方法はありますか?」という相談に、蛭子さんは「猫や犬などの動物と人は気持ちが通じ合わないもの。オレは動物と一緒にいて癒されたこともありません」と書いて、最後には「だから競馬ものめり込まない。やっぱり競艇ですよ!」と締めた。相談者としては、ペットを失ったときの悲しみことを聞いているのに、なぜか競艇を勧められていた……という、まさに蛭子さんらしい回答がさえていました。蛭子:すみません。吉田:同じ相談に「チャットGPT」を使って回答を求めてみたら、ペットロス症候群は「悲しみを共有する、時間をかけて悲嘆する、支えを求める、新しいルーティンを作る……」など具体的な解決方法が出てきました。でも、蛭子さんに相談すると、不思議と気持ちが軽くなるというか、悩んでいることがバカバカしくなるというか……。蛭子:あまりしっかり答えていなかったかもしれません。今でもオレは、悩みのすべてはお金が解決すると思っています。でも、それを言ってしまうと終わってしまいますから……。マネージャー:認知症になってからも、仕事を続けられたのはありがたいこと。どちらかというと、認知症になってからのほうが『感謝の気持ちを伝えよう』とか『人付き合いを大切にしよう』など毒気がない、蛭子さんらしくない回答が増えた気がします。蛭子:あ、そうですか。でも、連載が終わってしまうということは、お金(ギャラ)が入らなくなるんですよね……。それはちょっと困りますが。吉田:いや、今、蛭子さんに絵を描いてもらって「最後の絵画展を開く」というプロジェクトが進んでいます。蛭子さんが描いた絵は、すごく高く売れますから、頑張りましょう。蛭子:えっ、そうですか。オレの絵が売れるんですか?あ……、この前も有吉さんと絵を描きましたが……。マネージャー先日、テレビ『有吉クイズ』で有吉さんと共作した絵は、150万円の値がつきました。びっくりしました。蛭子うへ〜、それはいいですね。吉田そういえば人生相談でも、蛭子さんはよく有吉さんのことをよく口にしていましたね。蛭子:そうですね、有吉さんには「ありがとう」と言いたいです。吉田:これから「絵画展プロジェクト」を本格的に進めていきますが、人生相談は一応これで一区切り。これからも悩みをもっている人がいるかなと思いますが、蛭子さん、なにか伝えたいことがあれば。蛭子:いや〜、ちょっと……面倒くさいですね。適当にまとめてください。マネージャー:蛭子さん、しっかり答えてください!蛭子:あ……はい、すみません。オレは(死ぬまで)なんとなく楽しく生きればいいと思っています。たぶん、これからもそうだと思います。とにかく死ぬのだけは嫌だし、生きていればなんとかなる。これからもそんなオレをみて楽しんでくれて……、できればお金をくれたら嬉しいですね。【A】9年間続いた蛭子さんの人生相談がついに最終回。長い間、ありがとうございました!
2023年06月05日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(75)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「中学時代からの40年来の友達のA子に、認知症の親を施設に入れようかと悩みを打ち明けたら『親の面倒は娘が見るのが当然でしょ』と。そのひと言以来、ギクシャクしてしまい、友達関係も解消しようと思っています……」(シャニースイスイさん・55歳・山形県・パート)【A】認知症になった蛭子さんの結論「ひとりぼっちは寂しいから嫌」オレは病気(認知症のこと)になってから、いろんな人に助けてもらっています。今、通っているところ(ショートステイ)でもカラオケをしたりお茶を飲んだりしているんですが、友達はいたほうがいいと思いますけどね。(マネージャー「えっ、蛭子さんが前に出した本『ひとりぼっちを笑うな』では“友達なんかいらない”と書いていましたよ」)えっ?友達は大切だし、ひとりぼっちは寂しいから嫌ですね。(マネージャー「蛭子さんは認知症になってから変わりましたね。この人生相談の1回目は姑との関係に悩むお嫁さんからの相談でしたが、蛭子さんは『早く死んでくれ、と祈ればいい』と答えていました」)あ〜そうですか、覚えていませんね。だからA子さんも相談されたことを覚えていないと思いますよ。長い付き合いならいろいろあったはず。いいところだけ見て付き合っていけばいいですよ。(マネージャー「まともに答えるなんて蛭子さんらしくないですよ!」)
2023年05月29日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(75)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「会社のある人が、私のデスクの引出しを開けて私物のボールペンやハサミ、ホチキスを勝手に持ち出します。名前を書いても使いっぱなし。自分で買った高級ティッシュも好き勝手に使われています!どうすればいい?」(エマー49さん・31歳・愛知県・会社員)【A】「『高級ティッシュを使っている』というプライドを捨てよう」(蛭子能収)えーっと、この人が自分で高級って言っていますが、そんなティッシュがあるんですか?(マネージャー「保湿性が高くて肌触りがいいティッシュがあるんですよ。通常の2〜3倍の値段がします」)なんか自分で高級と言っているのがおかしいですね。私は人とは違うのよ、と思っているはずですよ。(マネージャー「今日の蛭子さんは調子がいいと思っていたら……。相談者をイジるのはやめましょう」)オレは鼻をかむんだったら新聞紙でもいいと思っています。高級ティッシュは、なんか自分を上に見せたい人が買っている気がします、たぶんですけど。高級といわれているものは、ぜんぶそんな気がするんですよね。(マネージャー「蛭子さんは腕時計も『時間がわかればいい』と高級なものを持っていませんね。それよりも相談の回答をしてください」)これは「私のものは持っていかないでください」と言えばいいだけですが、高級なものを使っている思い上がりがあって言えないんですよ。うへへ。
2023年05月22日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(75)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「仕事一途に生きてきましたが、ようやく2人目の子供がひとり立ちしたとたん、やる気を失ってしまいました。何をするにも面倒になってしまい途方に暮れています。どうすればいいですか?」(芯ズーム夫さん・56歳・千葉県・会社員)【A】「一生懸命ボーっとすればいい」(蛭子能収)……うーん(と、あたりをキョロキョロ見回し、蛭子さんは相談者からの手紙をいじりはじめる)。はあ、オレは病気(認知症のこと)になってから何もやる気がおきません。でも面倒くさいと思うことは悪いことなんですかね。(マネージャー「もともと蛭子さんは何ごとにも意欲がありませんからね。認知症になってもあまり変わりませんよ」)あ〜そうですか。でも、オレにやる気が出る方法を聞かれてもわかるはずありませんけど、やる気がないから、オレに聞こうと思ってしまったんですかね、うふ!(マネージャー「この人も子育てが終わったことだし、頑張って働かなくてもいいと思いますけどね」)あ〜そうですね。それにやる気が出ない悩みを人に打ち明けても解決しないように思いますけどね。(マネージャー「蛭子さんは、仕事は“頑張ってダラダラやる”と前に話していました」)あ〜そうですね、ボーっとすることを一生懸命やればいつかいいことがありますよ。
2023年05月15日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(75)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「18歳のフリーターの息子がいます。大リーグで活躍している大谷翔平君を『あ〜、息子だったら』と思ってしまいます。さわやかでスポーツ万能でお金を稼げる子が欲しかった……なんて、高望みすぎますかね?」(エンゼルス翔♡17さん・52歳・静岡県・パート)【A】「オレは子供に『こうなってほしい』と思ったことはない」(蛭子能収)この大谷……翔平という人は、野球の人なんですか?オレはどっかの大きい場所(東京ドームのこと)で野球を見たことがありますが、野球の人が小さくて米粒みたいでした。でも大谷という人は知りませんね。(マネージャー「大谷選手は二刀流で大活躍しています。蛭子さんは野球賭博が合法になればもっと興味が出るのに、と以前話していました」)あっ、そうですね、ちょっとのお金を賭けられたら野球の人も見る人も、みんなやる気が出ると思うし、大谷という人ももっと人気が出ると思いますよ。それにしても、さわやかでスポーツ万能で金が稼げるなんて、なんだか怪しい人のような感じがしますね。(マネージャー「国民的なヒーローを悪く言うと、いくら蛭子さんでも炎上しますよ」)それは困りますね……、オレは子供に「こうなってほしい」と思ったことはないし、本人がよければなんでもいいですよ。それより、この息子はお母さんのことをどう思ってるんですかね……。
2023年05月08日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(75)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「小さなことにこだわる夫。過去の細かい失敗をグチグチ言い続けたり、ちょっとした言い間違いをネチネチ指摘してきたり。年をとってからは、そんな些細なことが気になる性格がより極端になっています。この先やっていけるのか心配です」(パフェット魔女さん・63歳・岩手県・主婦)【A】「物事にこだわりがなくなれば仏様になれる。でも、オレは病気になるまで無理だった」(蛭子能収)え〜と、この人は、小さいことにこだわる夫がすごく気になっているんですか?そんなことにこだわらなくてもいいと思いますが、まっいっか。オレはあまりこだわらないほうだと思いますけど……。(マネージャー「蛭子さんと初めて会ったとき、競艇で負けて悔しかったのか、ずっとグチグチ文句を言っていて、なんて執念深い人だと思いました」)そうでしたっけ、すっかり忘れてしまいました。(マネージャー「あと競艇場の食堂で550円のカツ丼をおごってくれたあと、恩着せがましく『ごちそうしたよね』と蛭子さんは言い続けていました」)すみません、まったく記憶にないですけど。今はそういう元気もありませんね。(マネージャー「たしかに蛭子さんは認知症になってから邪悪な心やこだわりが消えて、仏様に近づいているようですよ」)病気(認知症のこと)になればそうなるかもしれませんね。人がすることにこだわらなければ、仏さんになれると思いますけど、難しいんですかね……。
2023年04月24日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(75)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「『蛭子さんの人生相談』の担当をしています。会話するように回答が返ってくる人工知能による『Chat(チャット)GPT』が登場し、人生相談の回答も人工知能が的確に答えてくれる時代。もう蛭子さんに聞くこともないと思いますが……」(山内 太さん・53歳・東京都・ライター)【A】「人生相談は、真面目に答えたら相談者に失礼になる!」(蛭子能収)人生相談ですか?そもそもオレは人の悩みに答えたことなどありませんけど……。(マネージャー「もう10年以上続いている蛭子さんの人生相談は評判で、芸能人にもファンがいるんですよ」)エッ、本当ですか?知りませんでした。でも、この人の悩み(の内容)がサッパリわかりません。(マネージャー「今はコンピューターが人の悩みにも答えてくれます。しかもすごく適切だという噂です」)あーそうですか……コンピューターはとても親切なんですね。オレは人生相談でも真面目に答えたことないと思いますけどね……というか、他人から悩みを打ち明けられて真剣に考える人なんかいないと思いますけどね。(マネージャー「蛭子さんの回答で、少し楽になった人がいると思いますよ。認知症になってからもできる仕事なんですから頑張ってくださいよ」)なんかよくわかりませんが、相談する人もそんなに悩んでないから、真面目に答えたらその人が困ると思いますよ。
2023年04月17日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(75)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「道にゴミやペットボトル、使用済みマスクが捨てられているのを見ると、つい持ち帰り、自宅で分別してゴミに出しています。個人のボランティアですが、誰が見ているか恥ずかしい気持ちもあり……やめたほうがいいのでしょうか?」(まーまーさん・77歳・愛知県)【A】「自分が楽しいなら『恥ずかしい』とか気にせず続ければいい」(蛭子能収)オレなら、人から見られて恥ずかしいとか関係なく、自分のやっていることが楽しかったり気持ちよかったりすればそのまま続けますけどね。(マネージャー「蛭子さんはボランティア活動をしたことがありましたっけ?」)ボランティアというのがよくわかりませんが……。(マネージャー「わかりやすく言うと金もうけを目的としない社会奉仕です」)金を稼げないのはちょっと困りますね。でも、よく行く公園には喫茶店があってコーヒーを飲むんですけど、小さい子供たちがまわりで遊んでいます。母親たちはおしゃべりに夢中で子供なんか見ていません。オレはひそかに子供たちが迷子になったり、転んだりしたときに、すぐになにか手助けできるように待ち構えているんですけど、最近では公園まで一緒に歩く人(事務所のスタッフ)も同じように見ています。あっ仲間を増やすのもいいですよね。2人で「子供が転ばないかな……」と思いながら“ボランティア”していると楽しいですよ。
2023年01月23日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(75)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「話をいつも盛ってしまう中学生の息子。友達を笑わせるのも大好きですが、あることないこと入れて大げさに話してしまうことが多い。このまま平気で噓をつくような大人になったらどうしましょう」(マグカニーさん・43歳・北海道・専業主婦)【A】「人をだまさなければ、いくら話を盛ってもかまわない」(蛭子能収)別に心配することないと思いますけどね。オレも小学生のときから人を笑わせるのが好きでした。まわりが喜んでいると自分もうれしいし……。人をだまさなければ、何歳になっても大げさに話をしてもいいと思いますよ。漫画家や芸術家なんて、だいたい誇張する人たちだと思いますけどね。(マネージャー「芸術家といえば、この前『岡本太郎展』で『太陽の塔』や『森の掟』など岡本太郎さんの作品を見て刺激を受けたのか、ペンと紙を借りて、夢中で絵を描いていましたよ」)えっ、そんなことありましたっけ?岡本太郎さんって、どんな人やっけ?(マネージャー「『芸術はバクハツだ!』と言っていた人ですよ。ほらっ、蛭子さんはシニア割引料金で入れて『500円もうかった』と小躍りしていましたよ」)あ〜、なんとなく思い出しました。「芸術はバクハツだ」って大げさかもしれませんが、たしかに作品はすごかったし500円も安くしてくれました。話を盛る人に悪い人はいないと思いますよ。
2023年01月16日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(75)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】上司は熱血漢で「オレらは家族のようなもの」が口癖。「みんなで会社を盛り上げよう」とサービス残業も休日出勤もさせられます。同僚たちは「いい上司だ」と言いますが、本当でしょうか?(ニシホリさん・28歳・埼玉県・会社員)【A】「職場の人は家族じゃない。距離感のおかしい上司にはきっぱりNOを!」(蛭子能収)熱血漢なんて人は、オレが苦手なタイプです。競艇でも熱い人は負けてばかりのような気がします……が、それでオレは何を答えればいいんですか?(マネージャー「こんな上司がいる会社はブラック企業ですよ。僕はマネージャーをやる前にOA機器の営業をしていましたけど、ガムテープで手と受話器をグルグル巻きにさせられて『100件電話するまでトイレには行くな』と言う上司でした。同期入社のヤツらは、そんな上司を『仕事ができて頼りがいがある』と話していましたが、みんな洗脳されているんです。この人は職場環境がおかしいと書いていますが、それが当たり前で同僚のほうが異常。僕はマネージャーをやって、初めて前の会社がブラック企業だったと気づきました。早く辞めたほうがいいと思いますよ」)なんだかマネージャーが全部話してくれたけど、このギャラはオレに入るんですよね。オレとマネージャーは家族みたいなものですから。(マネージャー「……(無言)」)
2023年01月02日記憶力や言語能力から感情、気力、時間や季節の認識……。認知症は、健康だった人からさまざまなものを奪い去る。漫画家でタレントとして異彩を放っていた蛭子能収さん(75)からも多くの「才」を抜き去った。シュールで暴力的な不条理作品を描き「狂気を内側から描く人」と称された鋭才。空気の読めない言動をするも“どこか憎めないおじさん”としてテレビの世界で活躍した奇才も、認知症という病はかすめとっていったーー。そんな蛭子さんが、22年12月某日、まっさらなキャンバスに向かい合っていた。右手に握るのは絵筆。目の前には色とりどりのアクリル絵の具が並ぶ。彼が絵を描くことに目覚めたのは、生まれ故郷の長崎商業高校で「美術クラブ」に入ったとき。夢中だった。楽しかった。「真っ白なキャンバスに赤い線を1本ひいただけでも絵として認められるのがよかった」とかつてを振り返り語っていたことがある。その美術クラブで、ある部員が投げ出した作品を蛭子さんもふくめ仲間がいろんな絵の具を使って『テキトー』に完成させたことがある。その作品は、コンクールで評価され、ポスターとなって日本全国で使われることに。その体験から蛭子さんはこう思ったと過去に話していた。「絵なんてものは、見る人が“これは面白い”と思う絵がいいんだ」。それが一世を風靡した蛭子流のヘタウマの原点だという。その後「食べるため」に看板屋、チリ紙交換、ダスキンの営業などさまざまな職業を経て、漫画家、タレントに。ところが、それまで蛭子さんが作り上げてきた、金を稼ぐための「才」を認知症は奪い取っていった。蛭子さんは今、中腰の姿勢のまま、赤い絵の具を載せた絵筆を、キャンバスの上で動かしている。次々と色を変え、夢中でキャンバスを塗りつぶしていく。下絵はない。構想もない。金のためでもない。そこにあるのは、誰かに“これは面白い”と思われるためーー。蛭子さん10代の頃に戻ったように、無心に絵と向き合っている。認知症は、人から多くのものを奪い去る。しかし、そんな病でも、持ち去ることができないものがあると信じている。描き上げた作品に、蛭子さんはタイトルをつけて、キャンバスの裏に丁寧に書き留めたーー『ただいま』と。
2022年12月26日“おとぼけキャラ”として重宝がられていた蛭子能収さん(75)が20年7月、テレビ番組で軽度の認知症であることを公表してから2年半ーー。「症状は徐々に進行していますが、調子のいいときは、会話をしていても、おとぼけキャラは健在。冗談も言えば、空気を読まない発言をすることも。認知症以外は健康そのもので相変わらず元気ですが……」20年近くマネージャーをしている森永真志さんが蛭子さんの現状を語る。「でも、やはり今の蛭子さんではテレビでは使われにくいでしょうね。現場のスタッフさんは今でも『やりましょうよ』と声をかけてくれますが、ハードルが高い。テレビ局という組織としては認知症の人を使うことに抵抗があるというか、そもそも前例がないですしね。それでもあきらめずに、テレビ局の方に蛭子の現状を伝えたり、『こういう企画でしたら大丈夫ですよ』と声をかけさせて頂いています」森永さんには、蛭子さんとの約束がある。人から笑われることが大好きな蛭子さんは“ボケても笑われたい”とずっと口にしていた。さらに“いくつになっても稼いでいた”というのも口癖だった。マネージャーとして、それを実現したい、だけだ。だが、“おとぼけキャラ”が“ボケキャラ”になったとたんテレビの仕事を失った。ただひとり、そんなありのままの蛭子さんを重宝している人がいる。それが有吉弘行(48)だ。「有吉さんとは、2008年から2010年にかけて放映したテレビ東京系の深夜番組で、有田哲平さんと堀内健さんが司会をしている『アリケン』(テレビ東京系)で蛭子さんが準レギュラーだったときに共演しています。その1コーナーで、有吉さんが、いつも通りの空気を読まない蛭子さんの発言に、強烈なツッコミを入れているシーンが受けたんですよね。蛭子さんも、若い人たちに『おもしろいオジサン』として知名度が上がっていったんです」(森永さん)有吉は、96年に『進め! 電波少年』(日本テレビ系)で1度ブレークしたあと、しばらく仕事がない不遇の時代を過ごしていた。『アリケン』での毒舌ぶりが際立ち、再び人気者になっていった。「再ブレークした有吉さんは、その後も、いろんな場面で蛭子さんを盛り上げてくれました。そして認知症になった今でもありのままの蛭子さんをわかってくれて、自分の番組に呼んでくれるのです。また、認知症の特性を知った上で、すごく気を配ってくれます。それに、今の状況でも、おもしろいことを見つけて、それをしっかり突っ込んでくれるのです」(森永さん)認知症の人が活躍する──この高齢化社会になったとはいえ、一般社会でさえ難しい。テレビの世界ではなおさらだ。そのなかで、定期的に自分の番組に蛭子さんをゲストに呼ぶ有吉の功績はもっと称えられていい。特に、ゴールデンタイムでのレギュラー放送を開始した『有吉クイズ』(テレビ朝日系)では、初回放送に蛭子さんを招聘。その勇気はもちろん、そこで繰り広げられたコミュニケーションは、認知症の人への接し方としてもお手本のようなやりとりだった。認知症になったといっても蛭子さんは蛭子さんだ。しかも、本人は、今でも「笑われたい」「稼ぎたい」と語っている。認知症という病気の特質を知ったうえで、周りがフォローすれば難しいことではない。それがテレビという世界であっても。そんな、これまで難しいと思われてきた「認知症の人のテレビ出演」という可能性を見せてくれる蛭子さんと有吉の関係性に、これからも期待したい。
2022年12月26日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(75)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「3人の子供の学費やお稽古代などに金がかかり、禁煙しても酒をやめてもカツカツ。ときどき、すべてを放り出したい欲求にかられることも。このまま馬車馬のように働く自分に『迷い』があります。どうすればいいですか?」(マモーさん・51歳・東京都・会社員)【A】「迷ったときは『1256ボックス』。自分の信じる道を行こう」(蛭子能収)あ〜そうですか、としか言いようがない気がしますが……。オレは自分自身が楽しくて幸せになればいいと思っているので、この人も、やりたいことをすればいいですよ。でも、子供とか何かのために、自分のやりたいことを我慢できるものですか?なんか、自分は「偉いでしょ」とアピールしているような感じがしますけど……。(マネージャー「たしかに人生を放り出して子供たちが路頭に迷ったら本人も嫌でしょうね。この人は自分で「迷い」があるけど、本当はどうすればいいかわかっているんですかね」)。よくわかりませんが、オレは競艇で「迷い」があるときは、いつもの……(マネージャー「蛭子さんが40歳のときに編み出した1、2、5、6号艇が1〜3着に入れば高配当が期待できる三連単「1256ボックス」ですね」)。あっそうです。でも、あまり勝てないから後悔ばかりですが、文句を言わずに、自分が信じているほうを選べば、いつかいいことありますよ。
2022年12月19日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(75)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「学生時代から8年間、交際していた彼氏と別れました。彼からは『結婚は別の人としたい』と切り出されました。友達は『またいい人に出会えるよ『と言ってくれますが、つらくて、今は前を向いて生きていけません」(音ハッチさん・29歳・東京都・会社員)【A】「どん底まで落ち込めば次のレース(恋)では勝てる」(蛭子能収)オレは、恋愛したこともないし、どう立ち直ればいいかなんてよくわかりません。(マネージャー「まあまあ友達も励ましているし、蛭子さんも何かアドバイスをしてください」)競艇も負けて落ち込んでいるときに「次のレースは当たるよ」と言ってくる人はまったく信用できません。オレはそのレースに一生懸命だったからつらいんですよね。だから、こんな「いい人に出会えるよ」なんて気軽に言ってくる友達なんかいないほうがいいと思いますよ。(マネージャー「平和島競艇場で最終レースを終えて駅までの“おけら街道”を一緒にトボトボ歩いていたときに、蛭子さんが涙ぐんでいたのは衝撃でした。何も声をかけられませんでしたよ」)手持ちの金を全部スったわけですからつらいですよね。でも、そんな駅までの落ち込む時間があったから次は「やってやろう!」と思えるようになります。なんか時期を決めて、落ち込むところまで落ち込めば、次は競艇で勝てると思いますよ。あっ恋か!?
2022年12月12日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(75)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「85歳になる母は、若いときの洋服や本や雑誌、思い出の品々から、包装紙などまでが部屋に散らばり足の踏み場もないほど。恥ずかしいし、私が片付けようとすると『棄てないで!』と怒りだします……。どうしたらいいですか?」(フミリンさん・55歳・埼玉県・パート)【A】「何歳になっても金稼ぎをしたい。不用品は売ってお金にしよう!」(蛭子能収)本人がよければ、べつに散らかっていてもいいかと思いますけどね。(マネージャー「終活といって不要な物を棄てるそうですが、思い入れがあって廃棄するのが大変みたいです」)あ~そうですか。まあ、オレには思い入れがあるような物はありませんけどね。オレが描いた絵だって、たぶん棄ててしまいましたよ。(マネージャー「いえいえ、蛭子さんの奥さんが倉庫を借りて作品を全部管理しています」)えっ、そうなんですか?オレの絵なんか、どっかに置いておいて、欲しい人に持っていってもらえばいいんですけどね。(マネージャー「蛭子さんの絵だったら売れるかもしれませんからね」)そんなに売れないと思いますけど、少しでもお金が入ったらうれしいですね。この人のお母さんが「棄てないで」と言っているんだから、放っておけばいいと思いますけど、何歳になってもお金を稼ぐのは楽しいですから、話し合って「これを売ってお金にしよう」と話して不用品を整理していったらどうですか。
2022年12月05日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(75)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「89歳の母は腸が悪く、今年に入って入退院を5回繰り返しています。長女は2歳の孫を連れて我が家に戻りきり。2人目の子の流産のおそれがあり、気分がすぐれないようです。こういう家族を抱えてストレスが限界。毎日がつらくて仕方ないです」(うさぎのおうちさん・59歳・山口県・主婦)【A】「負けた思い出ばかりの競艇も、いつか勝てる日が来ると信じている」(蛭子能収)毎日がつらいんですか?それは困りますね、ウヒヒ……(マネージャーがギロッとにらむ)、あっ、すみません。オレは仕事をしてきてつらいと思ったことがありません。たぶん漫画もテレビの仕事もテキトーにやってきたからだと思いますけど……。というか、ストレスってなんですか?(マネージャー「不安や悩みがあって体や心の負担になることです」)この人も、家族のことに一生懸命だからつらくなっちゃうんでしょうね。まずは、頑張っている自分を褒めたほうがいいですよ。オレも、競艇をやっていたころは、すごくストレスがありました。「次のレースで勝たないと小遣いが全部なくなる」とか。(マネージャー「75歳の誕生日に競艇場に行ったばっかりですが、競艇の話はもういいですよ」)えっ、覚えていませんけど、たぶん負けたんですね。ま、いいか!オレも55年間、競艇でつらい思いをしていますが、いつか勝てる日が来ると思ってやっています。そんな自分を褒めたいですね!
2022年11月28日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(75)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】同期よりも仕事ができると思っていますが、会社はまっとうに僕を評価してくれません。163cm、76kgという体形が影響していると思いダイエットをしています。それ以外に好感度をアップさせる方法を教えてください!(コミューン男さん・28歳・愛知県・会社員)【A】「好感度なんか、オレと絡めばすぐに上がる」(蛭子能収)好感度?そんなことオレに聞いても……。そういう、相手のことや都合を考えないで人に相談するあたりが、他人からの評価を下げていると思いますけどね。(マネージャー「空気を読め、ということですね。でも、蛭子さんはドラマで宮沢りえさんの父親役を演じて、アンケート調査で好感度が上がったことがありますよ」)えっ、それはまったく覚えていません。(マネージャー「あと太川陽介さんとの“バス旅”でも再ブレークしました」)あ~、なんだかすごく歩かされて、痩せたことは、なんとなく覚えています。(マネージャー「最近も番組『有吉クイズ』で久しぶりに有吉弘行さんと再会しましたが、認知症の蛭子さんと自然に接する有吉さんの好感度が上がりました」)それはよかった。有吉さんは本当に、いつもテレビに呼んでくれてありがたいですよ。とにかくこの人も、バス旅をすればダイエットできるし、オレみたいな人と絡んでいれば好感度がアップすると思いますよ。
2022年11月14日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(75)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「一浪したけど難関大学の受験に失敗。なんとか滑り止めの大学に入学したけど、大学3年生になってもまったくやる気が出ません。サークルにも入らずに、学生生活も就職活動も無気力なままです。どうすればいいですか?」(ココロボックンさん・22歳・東京都・学生)【A】「『気合があればなんとかなる』なんて思わないほうがいい」(蛭子能収)あ~無気力って、オレも同じですね。とくに最近は、何にも興味が湧きません。でも、何をやってもやる気が出ないのは、そんなに悪いことではないと思いますけどね。(マネージャー「気力が湧くためにはどうすればいいか聞いているので、しっかり相談に答えてください」)とくにこの人生相談に熱意はありません……、あっ、すみません。でも、今までオレは気力があったことなどありません。それでもご飯が食べられて、誰にも迷惑をかけなければ悪くないと思いますよ。(マネージャー「先日の千葉県での講演会では、すごく人が集まって、蛭子さんもやる気満々でしたよ」)よく覚えていませんが、気力がなくても、人前では、やる気があるフリだけはしてもいいかもしれませんね。それでも、気力があればなんとかなるとか思わないほうがいいと思います。だって、競艇はいくら気合を入れても勝つときは勝つし、負けるときは負けます……、というか、オレは負けっぱなしでしたね、テヘッ!
2022年11月07日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(75)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「母(80歳)と2人で暮らしています。昔の母は子どものことなどほったらかしでしたが、今は私にベッタリ。母の面倒をみないとかわいそうだと思いながらも昔の恨みつらみも。こんな屈折した気持ちのままでいいのかと憂鬱に。私はいけない娘?」(ここなっつさん・53歳・岡山県・会社員)【A】「競艇場など静かな環境で考えて出た答えは、間違いない!」(蛭子能収)オレは介護されているからわかりませんが……というか、あれ〜、オレって介護されているんでしたっけ?(マネージャー「奥さんが介護しているからこうやって仕事もできます」)あっ、そうでした、忘れていました。オレの女房が、どんな気持ちで介護しているかわかりませんが、一応はオレも感謝しています。(マネージャー「僕はおやじの介護をしましたが、面倒をみてもみなくても、どちらも何かしらの後悔をしますからね」)とにかく「いけない娘」と思うのはよくないと思いますね。競艇でも前のレースで負けた自分を責めたり、予想を裏切った選手を恨んだりしてもいい結果にはなりません。屈折した気持ちのまま、何かやらないほうがいいと思いますけどね。自分がどうすればいいか、どっか静かなところで考えてみたらどうですかね、競艇場とか……。そこで出た答えは間違いないと思いますよ。なんか人生相談に答えていたら、また競艇がしたくなりました!テヘッ。
2022年10月31日【前編】蛭子さん“最後の絵画展プロジェクト”のため、脳活アートに挑戦!から続く’20年夏に認知症を公表するも“最後の絵画展”を開催するために一念発起!?今回は、絵画展のための作品を描きながら、脳も活性化できる一石二鳥の“脳活アート”に挑戦した蛭子能収さん(75)。はたして作品は完成するのだろうか……。■「おやつタイム」で大復活!順調に展覧会用の作品を描いていた蛭子さんだが、競艇で負けたときの記憶がよみがえり、ペンがいっこうに進まない。これまでなら「蛭子さん、がんばって、ほら、ここに線を描けばいいですよ」と急かしていた。ところが大倉さんは「そうなんですね」と蛭子さんのネガティブ思考を受け入れた。ペンを置いた蛭子さんをそっと見守る。そして「蛭子さんが東京に来て驚いたことはなんですか?」と話しかけた。「富士山ですね、本物を見たときの衝撃は忘れられませんね」「どんな富士山でした?雪はありました?」「え~とですね、こんな富士山でした」蛭子さんがスラスラと雄大な山を描きはじめた。ネガティブ思考ではなく、楽しかった思い出や感情を掘り起こして、それを絵として表現していく。これが臨床美術では重要なようだ。大倉さんは、その手元よりも蛭子さんの表情をよく見ている。蛭子さんの表情が曇りがちになると、奥さんのこと、映画やテレビ出演のことなど、蛭子さんにとって楽しい思い出を掘り起こしていく。■苦手の色つけを始めた!「富士山に色をつけていきませんか?」と大倉さんが、16色セットのオイルパステルを置いた。その誘いに、蛭子さんは、迷うことなくピンク色のパステルに手を伸ばした。「山なら青か緑じゃないですか」と、私が口出ししようとしたとき、それを遮るように大倉さんが「いいですね、赤富士ならぬ桃富士!」と声をかけた。「色を自分で選ぶだけでも脳が活性化するんですよ」と小さな声で付け足した。蛭子さんが52年前に見た日本一の山の記憶は、いま桃色となって心に残っているのかもしれない。そっくりに描かなくてもいい。心のおもむくままに描きたいものを、塗りたい色で仕上げていくことが臨床美術の重要なポイントだ。「色をつけるのは面倒くさい」が口癖だった蛭子さんがいま、夢中になって富士山を桃色に輝かせていく。安心して没頭できる環境作り、心を揺り動かすコミュニケーションによって、蛭子さんはスイッチが入ったように創作に取り組んでいる。大倉さんは、臨床美術士は伴走者だと話していた。「ヒモを引いて誘導するのではなく、その人が持っている感性を引き出すことです」認知症で記憶は失われるかもしれないけれど感情は残る。その人らしさに寄り添い続けることを忘れてはいけないようだ。■絵が完成!蛭子さんが一言「売れますかね?」豪快に滑走するボートに色づけをしていた蛭子さんが、手にしていたオイルパステルを置いた。上気した顔にはいつもの笑みが戻っている。自由奔放な色彩と不思議でエネルギッシュな絵柄。一世を風靡した蛭子さんのヘタウマ画風が戻ってきた。大倉さんは、蛭子さんのやり切った笑顔に満足している。蛭子さんの才能はまったく涸れていない。感性を刺激して自信を持たせればいいのだ。「いい絵ですね。蛭子さんの絵は人を引きつけますね」と褒められた蛭子さんは、頭をポリポリしながら、「いくらで売れますかね?」お金を稼ぐどん欲さは認知症になってもならなくても変わらない。「これからも描いていきましょう」。大倉さんは蛭子さんのやる気スイッチをまたひとつ見つけたようだ。蛭子さんの展覧会は夢物語ではなく、実現に一歩近づいた。〈おわり〉※今回、蛭子さんが体験したのは臨床美術の手法によるコミュニケーションを通した絵画制作であり、実際の臨床美術のプログラムとは異なります。
2022年10月24日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】定年後、嘱託社員で働く62歳の夫。仕事が生きがいだったのですが、最近は働く意欲がないみたい。怒りっぽいし、以前よく参加していた飲み会や合唱団にも行かなくなり男性更年期かもしれません。どうすればいいでしょう?(クレタニャンさん・56歳・福島県・主婦)【A】「体や心がおかしくなったら、オレに相談するより病院へ行こう」(蛭子能収)この人は、合唱団に入っているんですね。オレも、ウィーン少年合唱団をパクった、長崎の戸町少年合唱団にいました。まあ、あんまり関係ないか。そもそも男性更年期って何ですか?(マネージャー「50〜60歳になると、男性ホルモンが減って、怒りっぽくなったり、うつになったりするようですよ」)へえ〜、そうなんですか、オレには更年期はあったんやろか?(マネージャー「蛭子さんがファミレスで『セットのスープが来ていないんだよ!』とぶち切れたことがありますが、男性更年期だったのかもしれませんね」)誰だって年をとれば、体だけでなく心もいろいろ変化が出てくると思いますけどね。この人の夫におかしなところが見えてきたなら「あ〜、変わってきたな」とちょっと優しく見守ってあげたらどうですか?あと、体や心がおかしくなったのなら病院に行けばいいんじゃないでしょうか。医者はその専門家だから、オレよりまともな答えをくれるはずですよ。当たり前ですけど。
2022年07月25日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「あがり症で、会社のプレゼンではいつもあたふたしてしまい、頭の中では整理しているのに、発表するときにはグダグダに。ビジネス書を読んで勉強していますが……。蛭子さんもあがり症だったかと。克服法を教えてください。」(ロジカルアップルさん・26歳・兵庫県・会社員)【A】「あがり症でも、自分の言いたいことだけ伝えられれば、たぶん大丈夫」(蛭子能収)プレゼントって……何ですか?(マネージャー「プレゼンです。自分の企画とか提案を人前で話すことです」)あ〜、えーと競艇場にいる「予想屋さん」みたいなことですか?オレは、自分で負けが込んでいるときは、よく利用していました。たしかに、レース展開を自信満々で堂々と話している予想屋さんのほうが信用できそうですよね。あがり症の予想屋さんだと説得力がない気がします。でも、口下手でもレースを当てることが予想屋さんの信頼につながりますからね。あたふたしても「2号艇が調子いい」とか自分の予想を伝えたら、たぶんそれだけでいいと思いますよ。(マネージャー「蛭子さんはあがり症だということを隠しませんよね」)そうですね、人前で話すのは苦手ですからね。講演会に呼んでもらっても最初に「できればやりたくない」と話すとウケるんですよね。出だしでちょっと笑いが取れると話しやすくなります。だから、人前で話さない講演の仕事を待っています。テヘッ!
2022年07月11日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん〜介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「アパートの上の階の住人が、意味不明な白い粉や液体を下の駐車場に落とします。何年か前は、うちのベランダが白い粉だらけに。最近は目の前に止まっている車の上が白く汚れています。ツラいです。どうすればいいでしょうか?」(白い小麦粉さん・50歳・山口県・無職)【A】「楽しく静かに暮らすために『踏み込まない人』に徹する」(蛭子能収)ちょっと意味がわかりませんが、上の階の人が、白い粉をばらまいているんですか?うひひ……。(マネージャー「笑い事ではないですよ、蛭子さん!」)あっ、すみません、屋根の上で粉をまいている人を想像したら、おかしくなりました。(マネージャー「隣の部屋の騒音ですらトラブルになり殺人が起こることもあって、簡単には注意できないですよ」)そうですね、まずは管理人か警察に相談することだと思いますよ。とにかく自分で直接トラブルがあるところには踏み込まない。自由気ままに生きるためには「踏み込まない人」になることだと思います。オレだったら自分が嫌われているわけでもなく、周囲にツラいことがあるなら、とっとと引っ越ししますね。静かな自分でいるためには「踏み込まない人」になることです。ただし競艇だけは逆。持っている金を交通費だけ残して、ギリギリまで踏み込んで舟券を選びます。それで負けるとしびれるくらいツラいですけどね、うふっ!
2022年07月04日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「北朝鮮はミサイル発射を繰り返し、中国も軍事活動を活発化しています。ロシアのウクライナ侵攻で日本では防衛費を倍増するなどの声も。日本も戦争に巻きこまれるのではないかと危惧しています。どうすればいいですか?」(ケイゴー99さん・25歳・米フロリダ州・学生)【A】「戦争には絶対に反対。ちょっとだけ勉強しながら、幸せに楽しく暮らそう」(蛭子能収)えっ、そうなんですか?いや~、戦争は嫌ですよ。いつからそんな話になっているんですか?オレ、最近、ニュースも見ませんからね……。あっ、これアメリカからの相談ですか?(マネージャー「この連載もWEBで見られるし、留学している人からメールで相談がきたようです」)なにを言っているか、ちょっとわかりませんが、留学したところでオレの人生相談を読むより、ほかにやることがあると思いますけどね。(マネージャー「たしかに。蛭子さんは昔から戦争は絶対に反対ですよね」)そうですね、オレは世界中で戦争を始めても、日本だけは、参戦しないで、ちょっとだけ勉強しながら真面目に金を稼いで、幸せに楽しく暮らしていればいいと考えています。そうしたら、戦争している人たちも、そんな姿を見たら「戦っているのがバカらしい」と思うようになりますよ。だから、この人も、オレなんかに相談しないで、ちょっと勉強して、楽しく過ごしていたほうがいいですよ。
2022年06月27日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「長男(40歳独身)、長女(37歳既婚)と長年連絡をとっていません。電話もメールも通じません。友達が孫と遊んだことを話しているのをみると落ち込むことも。ストレスがたまります。主人は何も気にしていませんが……」(ヒロさん・71歳・神奈川県・主婦)【A】「子どもや孫から連絡がないということは、金をたかられることもないということ」(蛭子能収)よく覚えていませんが、オレも子どもとはまったく連絡をとっていません。たぶんオレもこの人も、自分に問題があると思いますよ。でも、それを気にしてないという旦那とずっと仲よくやっていればいいですよ。オレも子どもや孫に会えなくても、女房とはうまくやっているから、どうってことない気がします。(マネージャー「蛭子さんも認知症になってから、奥さんに『ありがとう』とたくさん言うようになってより円満になりましたね」)そんなに感謝する気持ちは入ってないと思いますが……。(マネージャー「講演とかでそれを言うとお客さんが喜ぶんですよ。おかげで認知症関連の講演が増えました」)ギャラが出るならうれしいですね。(マネージャー「僕も講演で司会みたいなことしているんですから、蛭子さんのギャラからちょっと分けてくださいよ」)それだけは嫌です!こうやって子どもや孫からも金をたかられることがないし、旦那と楽しく生きることだけ考えればいいですよ。
2022年06月20日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「48年前の大学生のとき、よその学科に九州出身でカワイイ子がいました。卒業しても忘れることができず、こちらの顔を知らない彼女に電話をかけたことがあります。そのときの非礼も謝りたいです。九州に行くのがいいのでしょうか?」(匿名希望・68歳・広島県・無職)【A】「九州にはクセのある競艇場がたくさん。旅打ちをしてから考えよう」(蛭子能収)ちょっとコワいですね……。って、これ、オレのことじゃないですよね。なんかそんなことをした記憶があるような気がしますが……。(マネージャー「蛭子さんは大学に行っていないですよね。この人とは違いますよ」)そうでした。オレに相談されても困りますが、九州に行くのは今じゃない気がしますね。相手には家族がいるだろうし、それを壊してしまうかもしれないから、行くのはちょっと待ったほうがいいと思いますよ。もうちょっと年を取ってからでもいいですよ、死ぬ前とかね。(マネージャー「冷静になって想像力を働かせて決めろということですね」)そうですね。競艇でも、競艇場の特徴、エンジンの状態や音、風の強さ、季節や気温などをいろいろ考えて舟券を買いますからね。九州には、若松、芦屋、福岡、からつ、そして競艇発祥の地の大村などの競艇場があって、どこもクセがあって楽しいですよ。どうせ九州に行くなら、競艇場で旅打ちすればいいですよ!
2022年06月13日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「『40歳を過ぎれば女じゃない』と、私とは長年冷たい関係のまま、数多くの女性と関係をもった夫。80歳を前に離婚するのもおかしな話のため我慢していますが、過去の女性関係が許せません。今も気になってしかたがありません」(匿名希望・79歳・鹿児島県・主婦)【A】「胸の奥のつかえは、忘れるか、笑いに変えて楽しもう」(蛭子能収)忘れるのがいちばんですよ。オレは嫌なことがあっても、一晩寝ればたいてい忘れられます。(マネージャー「ずっと心にトゲが残っているようでかわいそうですよ」)あとはオレに相談するくらいなら、近所の人や友達にどんどん夫がしてきたことを「ネタ」として話したほうがいいかもしれません。愚痴っぽく言ってみたら、みんなこの人の味方になってくれますよ。胸の奥のつかえは、忘れるか、笑いに変えたほうが楽しくなると思いますよ。オレの心の傷……はなんやろ。最近、なんでも忘れちゃいます。(マネージャー「え~、じゃあ蛭子さん何歳ですか?」)えっ、オレは50歳ぐらいですか?(マネージャー「74歳です!50歳ぐらいのときは賭け麻雀で逮捕されて、謹慎して、さすがの蛭子さんも精神的に苦しい時期でした」)えっ、ホント?麻雀で逮捕された過去などすっかり忘れています。あ~、麻雀ですか、ひさしぶりにフリー雀荘に行きたくなりました。今も麻雀が気になってしかたがありません!
2022年06月06日2020年7月、認知症であることを公表した蛭子能収さん(74)。その近況や今の思い、妻・悠加さんの“介護相談”も収録した『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』(光文社・定価1320円)も発売中の蛭子が、本誌読者からの相談に応える!【Q】「ロシアがウクライナに侵攻して始まった戦争。このままだと第三次世界大戦になってもおかしくない状況。非常に怖い世の中です。戦争反対と思っているだけではだめ。蛭子さん、この世界を平和にする方法を教えてください」(ラスGOさん・23歳・千葉県・学生)【A】「いじめっ子は、世界のリーダーになってはいけないことにすべき」(蛭子能収)オレもテレビを見ていて、世界中で戦争が始まるような気がして怖くてしかたありません。なんか世の中がおかしな方向に向いていっている感じがします。(マネージャー「蛭子さんは認知症になる前から、戦争をしてはいけないと言い続けていますよね」)オレは死にたくないし、殺したくないからです。どんな人でも「死にたくない」はずですが、そんな人たちに戦場に行く命令をしているんですからね。プーチン(大統領)の顔つきを見るとゾッとします。オレは中学校のときにいじめにあっていて、不良仲間からある女のコをたたくことを命令されたことがあります。オレは抵抗することもできずに女のコを「ぺたん」とたたいてしまいました。そのときの手の感覚は、今でも思い出されてすごく嫌な気分になります。世界中の指導者はみんないじめっ子みたいな顔つきをしていますが、いっそのこと、いじめられた経験がある人しかリーダーになれないと決めればいいと思います。
2022年05月30日