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子どもを育てるお母さんの悩みは尽きません。さまざまな解決法を編み出してきたお母さんにも「これは困ったぞ…」という事態が必ずあるものですよね。なかでもよく耳にするのが「子どもの食事」に関するもの。「野菜が入っていると、手をつけてくれない」「好きなものしか食べない」「食事の時間が嫌い」などなど、多くのお母さんが子どもの好き嫌い、食わず嫌いに悩んでいます。大人と比べ、子どもは好き嫌いが多い気がしますが、何か理由があるのでしょうか? 小児科医でありお茶の水女子大学名誉教授・榊原先生に、「子どもの味覚」にまつわる悩み、疑問に答えてもらいました。お話をうかがったのは…医師・お茶の水女子大学名誉教授榊原洋一先生お茶の水女子大学人間発達教育研究センター教授。東京大学医学部卒業。専門は小児科学、小児神経学、発達神経学など。小児科医として発達障害児の治療にかかわる。著書は『大人が知らない子どもの体の不思議』(講談社)など多数。■食べ物の好き嫌い、子どもはどうして多い?――先生。今回は子どもの味覚についていろいろ教えてください! 世のママたちは「子どもの好き嫌い」に悩んでいる人が多いと思います。私も子どもは好き嫌いが多い気がするのですが、どうしてなのでしょう?榊原洋一先生(以下、榊原先生):そうですね…。これは子どもの好き嫌いが多いというよりも「大人がたくさんの味を好んでいるだけ」といえるでしょうね。――えっ…。榊原先生:考えてみてほしいのですが、この世界には食べられるものが本当にたくさんありますよね。食べものであふれている、といってもいい。だから大人はいろいろな種類の味を子どもに与えようとします。でもそんなにたくさんの味を与える必要は全然ないんですね。――栄養バランスの整った食事を与えるためには、いろいろな食材を使って、品数も多くしたほうがいいと思っていたんですが…。そうではないんですか?榊原先生:ある研究者が赤ちゃんの食の好みを調べたところ、刺激の少ない、味の薄いものを好むことが分かりました。赤ちゃんは濃い味、苦い味、酸っぱい味などは、ペッとはき出すんです。これは「刺激のあるものは体に害がある」ということを無意識に感じとっているからなんです。――刺激のある味は体に良くないと、無意識に感じている?榊原先生:そうです。だから食べようとしません。そして刺激の少ない薄い味と同様に、甘い味も好むんです。母乳やミルクには甘みがありますよね。これをペッとはき出す赤ちゃんはいないと思います。これは甘いもの=栄養があるものと認識しているからです。生きていくために栄養のあるものを欲しているんですね。刺激のある味をうけつけないこと、栄養のあるものを欲することは「生物的に自然な反応」なんです。■「好き嫌い」は生き物として当たり前!?――自然な反応…ということは好き嫌いするのは「当たり前のこと」なんですか?榊原先生:そうです。当たり前です。「好き嫌いがある」という言葉自体、私はあまり好きじゃない(笑)。大人が「うちの子は好き嫌いが多くて…」というのは、大人自身がいろいろな味が好きなだけなんですよ。――私たち大人がいろいろなものを食べているだけ…。では、なぜ大人になるといろいろな味が好きになるんでしょう?榊原先生:大きくなってくると、刺激がある味でも体に害がないことが経験から分かってきますよね。また食べ慣れることで、平気になってくる。それに味だけじゃなく、においや雰囲気などから「食べてみよう」というチャレンジ精神で食事を楽しめるようになる。文化の中で、味のバラエティを楽しめるようになってくるんです。――確かに私も生姜や大葉、辛いものなど大人になって食べられるようになったもの、好きになったものがたくさんあります…!榊原先生:子どもに好き嫌いが多い、というのではなくて、そもそも食べられるレパートリーが少ないのは生物的に当たり前のこと。生き物として当たり前の反応、といえるでしょうね。■赤ちゃんはいつから味覚を感じている?――素朴な質問ですが、赤ちゃんはいつから味覚を感じているのでしょうか?榊原先生:お母さんのおなかの中にいるときから味覚を感じていますよ。――本当ですか…! おなかの赤ちゃんが味覚を感じていることは、どうやって分かるんでしょうか?榊原先生:たまたま妊娠中のお母さんに、ある薬品を注射する必要がありました。体には無害な薬品です。この物質は血管の中をめぐり、舌の中の血管を流れるときに苦みとして感じられます。だからお母さんは当然、苦みを感じますよね。そしてこの物質は胎盤を通じて、おなかにいる赤ちゃんの舌の中の血管にも流れます。そのとき「苦そうな表情」をした赤ちゃんの様子がエコーで観察できたんです。――興味深いですね…! それで赤ちゃんは味覚を感じていることが分かったんですね…!榊原先生:そうです。先ほどお話ししたように、赤ちゃんの好きな味は最初は刺激のないもの、薄味ですが、甘い味も好むようになります。これはどうして分かるかというと、さまざまな味の液体をほ乳びんに入れ、乳首を吸う時間を比較してみたんです。その結果、甘い味を含む乳首を吸う時間が長かった。反対に苦い味、酸っぱい味は苦手であることも分かりました。――なるほど…。じゃあ、塩味はどうでしょう? 味覚の中には先生のおっしゃったように甘み、酸味、苦みなどがありますが、塩味もありますよね。塩味はどのように感じているのでしょうか。榊原先生:おもしろいことに「好きでも嫌いでもない」ようなんです。――え、好きでも嫌いでもない…?榊原先生:正確にいうと、塩味の薄い、濃いの微妙な違いは区別できず、どんな塩味でもニュートラル。つまり反応がないんです。――塩味を受け入れはする。でも、薄い・濃いなどの塩の割合について「好き・嫌い」とは感じていないということですか?榊原先生:そうです。――味によって、違う感じ方をしている…。子どもの味覚っておもしろいですね!今回は、子どもの好き嫌い、そして味覚にまつわる不思議について、お話をうかがいました。子どもの好き嫌いは、ママの大きなお悩みの一つとしてあげられますが、実は好き嫌いは当たり前のこと、自然なことという先生の言葉に胸をなでおろしたママも多いのではないでしょうか。嫌いなものを減らしてほしい、少しでもいろいろな食材を食べてほしい…。今まではそう思ってがんばっていましたが、お皿に盛りつけた瞬間に子どもから嫌な顔をされて、食事の時間が楽しめないときもありました。子どもにプレッシャーをかけていたことも…。気にする必要はない、自然な反応ならそこまで気を張らなくてもいいんだ、との先生の言葉にホッとしました。次回は「子どもの手足の不思議」についてお話をうかがいます。お楽しみに!参考図書: 『大人が知らない子どもの体の不思議』 (講談社)榊原洋一著子どもと大人はどう違うのか。それは単に大きさだけの違いではありません。どうして夜泣きをするの? どうして寝相が悪いの? どうして落ち着きがないの? 子育て中に親が抱く「答えが見つかりにくい質問」にエビデンスの精神で解答することを試みました。子どもの心と体の不思議を理解する、手助けとなる一冊。
2019年04月05日子育て中は「子どもの体って不思議だなあ」と思うこと、たくさんありますよね。例えば、世のママたちの多くが口をそろえていうのが「子どもの寝相の悪さ」についてです。枕に頭をのせて寝たはずなのに、朝には足が枕の上に…。毎日のことなので、寝相の悪さについては当たり前のことになっているかもしれませんね。それから、赤ちゃんがウトウトして眠りにつく前、急に手足がポカポカしてくるように感じますよね。子どもの手足があたたかくなってきたら、「そろそろ寝るかな…」と予想がつくことも。また、大人と比べて大量にかく寝汗なども、子ども特有の不思議な現象です。子どもはどうして寝相が悪いのか、どうして眠りにつく前に手足があたたかくなるのか、どうして寝汗が多いのか? 小児科医でありお茶の水女子大学名誉教授・榊原洋一先生に「子どもの睡眠」にまつわる不思議をいろいろと教えてもらいました。お話をうかがったのは…医師・お茶の水女子大学名誉教授榊原洋一先生お茶の水女子大学人間発達教育研究センター教授。東京大学医学部卒業。専門は小児科学、小児神経学、発達神経学など。小児科医として発達障害児の治療にかかわる。著書は『大人が知らない子どもの体の不思議』(講談社)など多数。■子どもの寝相はどうして悪い?――どのお母さんも口にすることだと思うのですが、子どもって本当に寝相が悪い! 夜眠ったときと朝起きたときの姿勢がまったく違います。この寝相の悪さ、何か理由があるんでしょうか?榊原洋一先生(以下、榊原先生):子どもの寝相が悪いのは「睡眠の質」が大人と違うからなんですね。――質ですか…?榊原先生:人間には「睡眠パターン」というものがあります。このパターンは年齢とともに変わっていきます。特に睡眠時間と睡眠リズムに大きな変化が起こるんです。まず大人になると、乳児のときと比べ睡眠時間が短くなりますよね。それから睡眠中に見られる「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」の割合も変わります。どう変わるかというと、成長していくにつれてレム睡眠の割合がどんどん少なくなっていくんです。――先生! レム睡眠とノンレム睡眠とは何でしょう?榊原先生:レム睡眠とノンレム睡眠はどちらも睡眠状態のことを指しています。ただし、レム睡眠中の脳波は起きているときとよく似ています。眼球がきょろきょろと左右に速く動くこともあるし、体もよく動きます。睡眠中の様子を脳波とビデオカメラで同時に記録すると、レム睡眠のときに寝がえりや手足を動かす様子が多く見られるんです。――よく動くのはレム睡眠中だからなんですね。榊原先生:そうです。一方、ノンレム睡眠は深い眠りなので、こうした動きがほとんど見られません。子どものころはレム睡眠の割合が多いので、寝ている間にたくさん体が動くんですね。――覚醒状態と似たレム睡眠の割合が多いから、自然と寝相が悪くなるんですね…。ちなみによく動く時間帯などはあるのでしょうか?榊原先生:レム睡眠は明け方、目が覚める前に多く出る睡眠パターンです。だから夜中は寝相が良かったけれど、起きる時間近くになったら急に寝相が悪くなっていた…なんてことがあるかもしれませんね。■寝る前、子どもの手足が急にあたたかくなるのはなぜ?――赤ちゃんを抱っこしていて「あれ、なんだかポカポカしてきたな」と思ったらすやすや眠っていた…ということがよくあったのですが、手足があたたかくなることと眠ることに何か関係はあるのでしょうか?榊原先生:実際に手足の先の皮膚温度をはかってみると、子どもは眠くなると温度が1.5度くらい上昇することが分かっているんですね。でも、脇の下の体温をはかっても変化がない。このことから、子どもの手足があたたかくなることには、体の中の血液の流れが関係していると考えられます。――血液ですか…?榊原先生:普通、熱が発生するのは筋肉や臓器なんです。でも、手足の先には大きな筋肉も臓器もありませんよね。では、なぜ皮膚温度が上がるのか。温度を上昇させる方法としてほかに考えられるのは、血液です。血液は熱を運ぶことができます。子どもの手足の先があたたかくなったのは、体の中心部からたくさんの血液が流れてきたから、と考えることができます。――血液が手足のポカポカを生んでいるんですね…! でも、子どもの血管は細そうなイメージがあります。たくさんの血液を手足の先に運ぶことってできるんでしょうか?榊原先生:血液量が増えるのは、細い血管が広がるからなんです。血管が広がるのは交感神経と、副交感神経といった自律神経が関係しています。――交感神経と副交感神経?榊原先生:交感神経は獲物を追う、敵から逃げるといったときに優位になるもので、皮膚の血管を収縮させます。血管を細くすることで、万が一傷を負うことになっても少ない出血ですむんですね。――生き抜くための反応ですね…!榊原先生:反対に副交感神経は休息しているときに優位になるもので、血管は広がります。そのため、熱を持ったたくさんの血液が手足の先にまで運ばれて、体がポカポカしてくるというわけです。眠る前に子どもの手足があたたかくなるのは「休息モード」に入っているからなのです。お母さんに抱っこされて、安心した状態になることで、より眠りやすくなったからでしょうね。――なるほど。赤ちゃんの手足が急にあたたかくなってくるのはリラックス状態に入った、ということなんですね。■朝起きると寝汗でびっしょり…子どもが汗かきなのはどうして?――寝ている子どもでびっくりするのが、大人と比べて寝汗がすごい…! 子どもはどうしてあんなに汗をかきやすいのでしょうか?榊原先生:1日に必要な水分量で比較すると、子どもは大人の倍量が必要になります。子どもの体は大人と比べ、水分の割合がすごく多いんです。――大人の倍量も必要なんですね…!榊原先生:その理由として、腎臓の機能によることと、失われる水分量が多いことがあげられます。子どもは腎臓の機能がまだ未熟で、尿としてたくさんの水分を排出します。それから新陳代謝も活発なので、汗や呼吸によって、どんどん体の外に水分が出てしまうんですね。失われる水分量は大人の1、5~3倍近くになるといわれています。――そんなに…! 子どもはそもそも水分を失いやすいものなんですね。榊原先生:そうですね。それと、単純に大人は汗をかくとハンカチで拭きますよね。でも、子どもは拭きません。よだれが多いのと同じで、出てくるものに構わない…(笑)。子どもは大人のように汗を拭いたりしないから、いっそう汗が目立って見えていることもあると思います。今回は、子どもの睡眠にまつわる不思議について、お話をうかがいました。子どもの寝相が悪いのは、子どもと大人で睡眠の質が違うからということが分かり、長年の謎がようやく解けました(笑)。また、赤ちゃんの手足があたたかくなるのは、交感神経・副交感神経が状況に応じて優位になることで、体の中でさまざまな反応が起こっているから。「人の体はなんて複雑でおもしろい仕組みなんだろう」と感心するインタビューとなりました。引き続き、榊原先生に「子どもの体の不思議」について、お話をうかがっていきます。参考図書: 『大人が知らない子どもの体の不思議』 (講談社)榊原洋一著子どもと大人はどう違うのか。それは単に大きさだけの違いではありません。どうして夜泣きをするの? どうして寝相が悪いの? どうして落ち着きがないの? 子育て中に親が抱く「答えが見つかりにくい質問」にエビデンスの精神で解答することを試みました。子どもの心と体の不思議を理解する、手助けとなる一冊。
2019年02月06日子育て中は「子どもの体って不思議だなあ」と思うことが、たくさんありますよね。例えば「大人に比べ、体は小さいのに頭が大きい」と思ったことはありませんか? 子どもの頭はその小さな体に不釣り合いなくらい大きいですよね。また、久しぶりに会った友人から「赤ちゃんの顔つきが、生まれてすぐの時とは変わったね!」と言われ、そういえば…気づくこともあるでしょう。子どもの頭はどうして大きいのか? 顔つきが変わるとは一体どういうことなのか? 小児科医でありお茶の水女子大学名誉教授・榊原洋一先生に「子どもの顔・頭」にまつわる不思議をいろいろと教えてもらいました。お話をうかがったのは…医師・お茶の水女子大学名誉教授榊原洋一先生お茶の水女子大学人間発達教育研究センター教授。東京大学医学部卒業。専門は小児科学、小児神経学、発達神経学など。小児科医として発達障害児の治療にかかわる。著書は『大人が知らない子どもの体の不思議』(講談社)など多数。■子どもの頭はなぜ大きい?――前から気になっていたのですが、大人に比べると赤ちゃんの頭ってすごく大きいですよね。体のサイズからすると、もっと小さくても良いような気がするのですが、何か理由があるのでしょうか?榊原洋一先生(以下、榊原先生):子どもの頭が大きいのは、脳の大きさが体に対して大きいということがあげられます。なぜ体に対して、脳が大きいのか。これには、人の体の中で脳がどう働いているのか、そのシステムに関係があるんですね。――システム?榊原先生:そうです。人の体は働きによって大きく8つのシステムに分けることができます。例えば、心臓や肺は「呼吸循環器系」、胃や腸や肝臓は「消化器系」、骨髄や赤血球なんかは「血液系」、リンパ節や胸腺は「免疫系」、骨格筋や骨は「骨格系」などと呼ばれていますね。――「~系」というのが、システムのことなんですね。聞いたことがあるものもあります。榊原先生:こうしたシステムのうち、脳に関係するものが「神経系」です。――頭の大きさと関係してくるのが神経系?榊原先生:はい。システムの中でも神経系は、もっとも負荷のかかる部分といわれています。どのシステムも人が生きるために不可欠なんですが、神経系はほかのシステムにはない仕事をこなす役割があるんです。■赤ちゃんの頭の大きさと「神経系」の関係とは?――ほかにはない仕事…?榊原先生:はい。システムの中には急いで完成させる必要がなく、人間の成長に合わせて、長い時間をかけて形作られていくものもあります。でも、神経系は違うんですね。神経系はお母さんのおなかの中にいるときから、生命のリズムを維持する働きや、手足・胴体を動かす働きをしているんです。――お母さんのおなかにいるときから、神経系は働き始めている?榊原先生:そうです。でも、おなかの中にいる間は、それほど働かせる必要はないんです。それがいったん子宮の外に出ると、環境が激変します。――居心地のいいお母さんのおなかから、急に外に出てくるわけですもんね…。赤ちゃんにしてみれば「なんだ、ここは!」ってびっくりすると思います(笑)。榊原先生:そうです。赤ちゃんは生まれてすぐ、まぶしい光、さまざまな音、体に感じる重力といったものにいきなり対応しなければなりません。それに成長するにつれて、立って歩いたり、指先を細かく動かしたり、言葉の使い方なども知っていかなければなりませんよね。実はこれらは基本的に、すべて神経系の受け持ちなんです。だから神経系は生まれたその瞬間から、いっそう活動を活発化させていくんです。――なるほど。体が小さいうちに神経系の働きがものすごく活発になるから、最初から脳、つまり頭が大きくなっているということでしょうか?榊原先生:そうです。これには脳の発達スピードも関係しています。脳を中心とした中枢神経は、成長や発達にともなって、フル回転で機能を発揮しなければなりません。そのため赤ちゃんの脳の中では、機能を充実させるための「突貫工事」が急ピッチで進められているんです。――短時間で一気に発達しようとするんですね。榊原先生:乳児から幼児期前半は、人生の中で脳の発達がもっとも著しい時期といわれています。神経系の発達はほかのシステムに比べ、とても早い時期に行われるんです。だから、小さな子どもの頭が大きく見えるのは「脳が大きい」から。そして脳が大きくなるのは「神経系を急いで作り上げなければならないから」といえるでしょうね。■「子どもの“顔つき”が変わった」どうして?――子どもの顔を見ていると、小さいころとは顔つきが変わったように感じることがあります。赤ちゃんのころは男女差があまりないように感じるのですが、顔つきの変化はどうして起こるのでしょうか?榊原先生:顔は成長するにつれて変化していきます。要因はいろいろですが、頭蓋骨とその中にある脳は、4歳くらいまでに急激に大きくなるので、顔の形が大きく変わる時期でもあるんです。だからこの年齢で「顔つきが変わった」と感じるお母さんもいるかもしれません。――顔の大きさや形って、印象に影響するものなんですね。榊原先生:影響すると思います。一般的には目や口、鼻の配置などが大きく変わると、顔の印象も大きく影響を受けると思うでしょう。それもありますが、実は皮下脂肪や顔の表情をつくる表情筋の発達なども、印象を大きく変えるんですよ。――顔の皮下脂肪や、表情をつくる筋肉も、顔を印象づける要因になっている…?榊原先生:子どもの顔を見ると、皮下脂肪が多くてふっくらと丸顔であることが多いですよね。これは人に限ったことではなくて、動物全般に当てはまることなんです。ふっくらと丸顔であることで、かわいい印象を周りに与えているんです。――確かに、ふくふくとした真ん丸のほっぺを見ていると「かわいいな~」と思いますし、抱きしめたくなります(笑)。榊原先生:大人になると皮下脂肪が薄くなり、重力の影響もあって、顔はどんどん細長くなっていくんです。丸顔から、細長い顔に変わっていく。だから、印象が変わったように見えるんですね。それから、日常的にどんな表情をしていることが多いか、表情筋をどう使っているかということも、顔つきの印象変化に関わってくると思います。――なるほど。顔のパーツ、大きさ、脂肪、表情筋のつき方…。顔つきを変える要因はひとつじゃないということですね。榊原先生:そうです。いずれにせよ、顔つきは「急に変わる」ということはありません。顔の印象は年齢とともに少しずつ変化していくものなんですね。今回は、体の中のシステムなどちょっと難しいお話もありましたが、赤ちゃんの頭が大きい理由について知ることができました。神経系はお母さんのおなかの中にいるときから少しずつ働き、この世界に誕生してすぐにフルスピードで発達し始めているんですね。先生のお話をうかがったことで、赤ちゃんは生まれた瞬間から「生きることに一生懸命」と感じ、がんばれ! がんばれ! と応援したい気持ちが芽生えました。小さな体の中ではさまざまな変化が起こり、日々新しい何かが生まれているんですね。次回は、「子どもの寝相はどうして悪い?」「寝るときに手足が温かくなるのはなぜ?」など、子どもの睡眠にまつわる疑問についてお話をうかがいます。お楽しみに…!参考図書: 『大人が知らない子どもの体の不思議』 (講談社)榊原洋一著子どもと大人はどう違うのか。それは単に大きさだけの違いではありません。どうして夜泣きをするの? どうして寝相が悪いの? どうして落ち着きがないの? 子育て中に親が抱く「答えが見つかりにくい質問」にエビデンスの精神で解答することを試みました。子どもの心と体の不思議を理解する、手助けとなる一冊。
2019年01月31日子どものお世話をしていると「子どもの体って不思議だなあ」と思うこと、たくさんありますよね。例えば、赤ちゃんの目。顔をのぞきこむと、こちらをジッと見つめているような気がしてきます。そんなときに思うのが「赤ちゃんはモノがどのくらい見えているんだろう?」という疑問ではないでしょうか。赤ちゃんの視力はどのくらいあるのか、また言葉を話せない赤ちゃんの視力をどうやってはかるのか。そうした子どもの体にまつわる疑問に回答してくださるのが、小児科医でありお茶の水女子大学名誉教授・榊原洋一先生です。今回は、榊原先生に「子どもの目」にまつわる不思議を教えてもらいました。お話をうかがったのは…医師・お茶の水女子大学名誉教授榊原洋一先生お茶の水女子大学人間発達教育研究センター教授。東京大学医学部卒業。専門は小児科学、小児神経学、発達神経学など。小児科医として発達障害児の治療にかかわる。著書は『大人が知らない子どもの体の不思議』(講談社)など多数。■赤ちゃんの視力はどのくらい?――榊原先生、本日はどうぞよろしくお願いいたします。早速ですが、生まれたばかりの赤ちゃんの「目」に関する疑問があります。ママなら誰しも思ったことがあると思うのですが、顔を近づけると、ジッと見つめているようなときもあるし、見ているのか、見ていないのか分からないときもあって…。赤ちゃんはどのくらいモノが見えているのでしょうか? 榊原洋一先生(以下、榊原先生):生まれたばかりの赤ちゃんは人の顔やおもちゃが目の前にきても追わない、焦点があっているように見えないので「目が見えない」と信じられていたんですね。でも、近年の行動観察などによって、目の前から大体数10cm程度のものは「ぼんやりと見えている」ことが分かってきました。――自分に近い距離にあるものは、ぼんやり見えているんですね…。榊原先生:そうです。生まれてすぐのころは近視に近い感じなのですが、生後5~6カ月を過ぎると、ぼやっとした輪郭のようなものが見えてくるようです。――生後5~6カ月くらいで輪郭のようなものが見えるようになるんですね。視力であらわすと、大体どのくらいになりますか?榊原先生:出生時の視力は0.02~0.03といわれています。それが1歳ごろになると、0.2~0.4くらいになる。そして3歳ごろには1.0以上になると考えられています。もちろん輪郭だけではなく、赤ちゃんは色も見えていますよ。■赤ちゃんの視力、どうやって調べるの?――3歳くらいで1.0くらいの視力になるんですね…! ちょっと疑問なんですが、赤ちゃんの視力ってどうやってはかっているんでしょう? 私たちが視力をはかるときは、アルファベッドの「C」がいろんな方向を向いた表を使って、Cにすき間が開いている部分を「右」「斜め左」などと伝えて視力を検査しますよね。でも赤ちゃんは言葉が話せません。一体どのような方法で調べられているのでしょうか?榊原先生:視力は「赤ちゃんならではの性質」を利用して測定されています。――赤ちゃんならではの性質…?榊原先生:そうです。赤ちゃんは何も書いていない紙より、縞模様が書いてある紙のほうをよく見つめる、という性質があるんですね。この性質を用いた視力の調べ方を紹介しましょう。まず赤ちゃんに2枚の紙を見せます。片方は灰色の紙、もう片方は縞模様が描かれた紙です(いずれも明度は同程度)。当然、赤ちゃんは縞模様の紙を長く見つめますよね。――…はい。榊原先生:そこで見せる縞模様の幅を段階的に、だんだん狭くしていくんです。各段階で縞模様の紙を見つめている時間も、それぞれ記録します。そして、灰色の紙を見つめる時間と比較してみるのです。――なるほど! その差を見ることで、視力をはかるということですね。榊原先生:そうです。当然最初は縞模様を見つめる時間のほうが長いですよね。でも縞模様の幅を狭くしていくうちに、見つめる時間が短くなってくる。大人も縞模様がどんどん細かくなっていくと、模様がだんだん見えなくなって、ただの灰色の紙のように見えてきますよね。赤ちゃんも同じで、縞模様を模様として判別しなくなってくる。縞模様を見つめる時間と灰色の紙を見つめる時間が同じになったときが、赤ちゃんの「視力の限界」を示すことになるのです。――考えた人、すごいです…!榊原先生:そうして調べたことで「新生児の視力は0.02~0.03くらい」というような具体的な数値が分かるようになったんですね。――「赤ちゃんは無地より縞模様をよく見る」という性質があるなんて、おもしろいですね…! 榊原先生:縞模様もそうですが、赤ちゃんは人の顔を一生懸命見る特性があるのも分かっているんですね。縞模様と顔を見せると、顔のほうをよく見るんです。だからお母さん、お父さんのなかには「こっちをよく見るな~」と感じる人がいるかもしれませんが、顔や目元、口元をよく見るというのは本当。実験結果でもそうした特性があることは分かっていますね。――赤ちゃんは人の顔をよく見るなと思っていましたが、それも赤ちゃんならではの特性だったんですね! ■赤ちゃんの白目「青く見えるのはどうして?」――先生、目に関することでほかにお聞きしたいのが「子どもの白目が青く見える」ことです。何か理由があるのでしょうか?榊原先生:ではまず、目の仕組みについて少し説明しましょう。白目は結膜という透明な膜でおおわれています。そして、結膜の下にはさらに強膜という膜がある。さらにその下には脈絡膜というのがあって、細い血管が網の目状に走っています。――白目の部分って、いろいろな膜が何層も重なっているんですね。榊原先生:そうですね。乳児の白目の強膜には、ある特徴があります。それは「大人と比べて厚さがとても薄い」ということです。だから強膜の下の脈絡膜を流れる血管の色が透けて見えるんです。これは静脈ですね。だから、白目の部分が青く見えるんです。――なるほど! 青く見えているのは、血管の色が透けていたからなんですね。でも大人になっても白目が青い人ってあまりいない気がします。子どもならではの現象なんでしょうか?榊原先生:大人になると、白目はやや黄色くなってきます。これは年齢とともに、肌のシミと同じ物質が沈着していくからです。――シ、シミ…! 目にも沈着するんですね(焦)。榊原先生:はい。それで、加齢と共に白目はやや黄色味がかってくるんですが、子どもの場合はまだ沈着がないので、大人に比べると青っぽく見えるようですね。小児科医である榊原先生のもとには、子育ての悩みや行動に関する相談がたくさん持ち込まれるそうです。それは、子育て経験の豊富な人がまわりにいなかったり、子育てや子どもの病気などを気軽に聞くことができなかったりする環境にある家庭が多くなっているからかもしれません。榊原先生は、そうした現状を踏まえ、子育て中の親が抱くであろう子どもの体と心に関する「答えが見つかりにくい質問」に真摯に向き合っています。今回は、子どもの「目」にまつわる疑問についてうかがいました。赤ちゃんならではの性質を知ることは新鮮であり、ちょっとした疑問も答えが分かることで「そういうことだったのか」と子どものことを理解できたような気がします。次回は、「子どもの頭はなぜ大きい?」「顔つきが変わるってどういうこと?」など、子どもの顔や頭に関する疑問について、榊原先生にお話をうかがいます。お楽しみに…!参考図書: 『大人が知らない子どもの体の不思議』 (講談社)榊原洋一著子どもと大人はどう違うのか。それは単に大きさだけの違いではありません。どうして夜泣きをするの? どうして寝相が悪いの? どうして落ち着きがないの? 子育て中に親が抱く「答えが見つかりにくい質問」にエビデンスの精神で解答することを試みました。子どもの心と体の不思議を理解する、手助けとなる一冊。
2019年01月26日子どもが小さなうちは、自宅で勉強を見てあげる機会が多くなりますよね。わが子が集中して取り組めるよう、気づかっているママも少なくないでしょう。自宅学習に関する、とある調査に「父親の帰宅時間が遅いほうが、子どもの学力が高い」というものがあります。父親の帰宅が遅いと、なぜ子どもの学力が高くなるのでしょう。今回は、子どもの自宅学習について、父親不在のメリット・デメリットをあげながら考えていこうと思います。■父親の在宅時間が短い家庭ほど、子どもの学力は高い?国立大学法人お茶の水女子大学が行った調査によると「父親の帰宅時間が22時以降となる家庭の子どもの学力が最も高い」という結果が明らかになったそうです。これは 「保護者に対する調査の結果と学力等との関係の 専門的な分析に関する調査研究」(国立大学法人お茶の水女子大学) というテーマで行われたもので、調査対象は無作為に抽出された公立学校に通う児童の保護者。小学6年生の児童の場合、父親の帰宅時間が22時以降(早朝帰宅を含む)になる家庭の子どもの学力が、ほかの時間帯に父親が帰ってくる家庭よりも上回っていました。このデータからうかがえるのは「父親が自宅にいる時間が少ないほうが、子どもの学力アップにつながるのではないか」ということです。■「父親の不在時間が長い」そのメリット・デメリット父親の不在時間が長いと、子どもの自宅学習にどんな影響を与えるのでしょうか? メリット・デメリットを考えてみました。まずは、メリット。妻の視点から考えてみると、夫の帰宅が遅いということは、子どもが起きている時間に夫の食事の支度やお世話などに振り回されなくてすむということです。つまり、子どものことに集中できるというわけですね。「よし、やるぞ!」という子どもの“やる気スイッチ”は、常に同じサイクルでやってくるわけではありません。やる気満々なときもあれば「今日はやりたくない」とだらけモードなときもあるでしょう。夫の世話に時間がとられないということは、子どもがやる気モードに入った瞬間に気づくことができ、それが継続している間、邪魔が入ることなく取り組ませてあげることができるのではないでしょうか。また帰宅時間が遅く、日ごろわが子の勉強の様子を目にしていない父親は、子どもの自宅学習に対する発言が少なくなります。見ていないので「ああしろ、こうしろ」と子どもの学習を指図したり、文句をつけたくてもつけづらいですからね。つまり、父親と母親で意見が分かれることが少なく、自宅学習のやり方について意見の相違が起きにくいというメリットがあると思います。では反対に、デメリットについて考えてみましょう。例えば、子どもの勉強が時にはうまくいかないこともあるでしょう。すると母親は「いつも仕事で家にいない、父親のせい」と責任転嫁をしやすくなってしまうことがあげられます。父親の責任ではないのに、帰宅時間が遅いことを子どもの学力が上がらない理由にしてしまう可能性があります。また、母親が何事も思いつめてしまうタイプだった場合、子どもの学力がなかなか上がらないと、不安定になった母親の気持ちを子どもが一身に受け止めることになります。そうなると、子どもの精神的な逃げ場がなくなってしまう恐れがあるかもしれません。■「父親の不在が子どもの頭を良くする」ではない、調査結果だけでは見えない点調査から「父親の不在時間が長い家庭の子どもは学力が高い」という結果はわかりますが、だからといって、父親が家にいなければいないほど子どもの頭が自然と良くなるかというと、私はそういうわけではないと思います。父親が不在は、単に母子の密着度が増し、勉強に関する考え方や対応が一本化されるので、子どもが混乱せずに取り組めるだけではないでしょうか。父親の在宅時間が長かったとしても、夫婦の意見がしっかりすり合わされていれば勉強の妨げにはならないと考えます。例えば、毎日30分は机で勉強をさせる、リビングで一緒に勉強する時間をつくる、学習塾に行かせるなど「学力をあげるためにどんな方法をとるのか」といったことや、どんな校風の学校を目指すのが子どもに合っているかなど「具体的なゴール」を夫婦で話し合い、設定しておくのです。目指すべきところが同じと分かっていれば、父母それぞれで対応が多少違っても子どもが混乱する事態にはならないでしょうし、共通意識があるので相談などもしやすくなるのではないでしょうか。そして、どちらかが「がんばって!」とハッパをかけるなら、どちらかは「のんびりでいいからね」と見守る役に徹すること。役割分担をきっちりと分けて、子どもに逃げ場をつくってあげると煮詰まってしまう心配も少なくなります。夫婦それぞれの役割がバランスよく保たれているとメリハリもつき、子どもが安心して勉強に取り組めるでしょう。上記の2つが夫婦間でしっかり一本化されていれば、夫の在宅時間の長短と子どもの学力に相関性はないように思います。ただし、ふだんから帰宅時間の遅い夫にモヤモヤするなら、この調査結果は「うちの子はこれで学力の高い子になるかも!」と気楽に構えられる要素にはなるかもしれませんね(笑)。働くお母さんは時間に追われますので「親が忙しいからといって子どもの勉強がおろそかになってしまうのはマズい」とあせることもあるでしょう。でも、お母さんが気持ちに余裕をもった状態を維持することも大切。いったん手をとめ、おおらかな気持ちで「もう少し気楽にいこう」と子どもに接していくのが、一番大事なことかもしれません。参考:国立大学法人お茶の水女子大学 「保護者に対する調査の結果と学力等との関係の 専門的な分析に関する調査研究」
2018年12月02日