こうの史代原作コミック『この世界の片隅に』が、片渕須直監督によりアニメ映画化された。主人公・すずは、第二次世界大戦下、突如広島から呉にお嫁に行くことになる。戦火にさらされ大切なものを失いながらも、明るく前を向いて生きる18歳のすずの日々が描かれている。その他の画像声優を務めるのは、女優・のん。監督たっての願いだったそうだ。「のんちゃんにお願いをしたいっていうのは、そこはかとなくずっと思っていて。いつのまにか、絵を描くときに、頭の中でのんちゃんの声が鳴っていたんです。それが僕だけでなくて、他のスタッフたちも同じだったんです」(片渕監督)。声優の経験は多くないのんだったが、「原作を読んで、やりたい! 私がやるんだ! という気持ちがすごく強くありました」とオファー当時を振り返る。「すずさんは、ぼーっとしているのに、すごくパワフル。そんななところが似ている」と、自身も話すほど、性格の印象もそっくりだ。片渕監督は制作にあたり、当時の防空頭巾、おしろい、雑誌、呉の航空写真といった資料集めはもちろんのこと、すずが劇中で作っている海苔の作り方まで習った。「街の風景も、天気も知った上で描いていったら、すずさんがより本当に存在しているように描けるんじゃないかな、って思ったんです」。のんも監督の徹底したリサーチに、「資料の多さに驚きました」と目を輝かせた。「のんちゃんは本当に努力家だと思います。それに、入れ込んでいくと芝居の熱量がどんどん上がっていくんです」。そう片渕監督が語るように、のんは役に対して誠実に向き合った。本作は原作をほぼ忠実に描いているが、一部台詞を変えているところがある。「のんちゃんは、台本と原作とを照らし合わせて、『ここ違っているんですけど、どういう意図なんですか?』って全部聞いてきてくれたんです」。それに対し、「わからない感覚は全て監督に相談をして、腑に落としました。そうしたことで、すずさんの感情が沸き立ったときの感覚もすごく共感ができました」とのんも話す。ひとつひとつを我が事のように捉えていくのんと、片渕監督の真摯さによって、作品に命が吹き込まれていった。最後にのんは、「普段は家族を誘って映画館にいかないかもしれませんが、家族や友人、大切な人と観ると、すごく素敵なものをみつけられると思うので、ぜひ誰か大事な人と観に行ってもらいたいです」と思いを語った。『この世界の片隅に』11月12日(土)より全国公開取材・文・写真:小杉由布子
2016年11月10日女優・のんが10月28日(金)、第29回東京国際映画祭が開催中のTOHOシネマズ六本木ヒルズで行われた特別招待作品『この世界の片隅に』の本編上映後に、メガホンをとった片渕須直監督とともに舞台挨拶に立った。能年玲奈から芸名変更したのんさんが、アニメ声優に挑戦した復帰作。第二次世界大戦中の広島・呉を舞台に、激化していく世の中で大切なものを失いながらも、日々を胸に刻み前を向いていく女性・すず(のんさん)を描いた。原作は第13回(2009年)文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞した、こうの史代の同名漫画。この日は本作がイギリス、フランス、ドイツ、メキシコ、南米諸国をはじめ世界14か国で公開されることが発表され、のんさんは「すべての人に響く作品だと思うので、海外の皆さんに見てもらえるのは、すてきなこと」と感激しきり。片渕監督も「原爆は日本だけでなく、人類史的な悲劇」と海外での反応に期待を寄せていた。「すずさんの力強く生きる姿に、涙があふれる」と語るのんさんは、「当時のことは、自分にとって、漠然と別次元だと思っていたが、原作を読んでそうではないと知った。目の前にある毎日の暮らしを一生懸命に生きる部分を意識した」と初声優をふり返った。そんなのんさんの声優ぶりについて、片渕監督は「広島弁や呉弁など難しかったはずだが、とてもナチュラルに習得してくれ、完成度の高いものになった。彼女のことが誇らしい」と大絶賛!片渕監督は現在56歳。戦時中を生きた人々が減っていくなか「当時を知る人が少なくなることは残念なこと。自分の両親が生きた時代のことを知ることで、私もやっと大人になれたと思う」と語っていた。第29回東京国際映画祭は、11月3日(木)まで開催中。『この世界の片隅に』は11月12日(土)よりテアトル新宿、ユーロスペースほか全国にて公開される。(text:cinemacafe.net)■関連作品:この世界の片隅に 2016年11月12日より全国にて公開(C) こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
2016年10月28日女優・のんがアニメーション映画初主演を務める『この世界の片隅に』。この度、本作のポスタービジュアルが解禁された。すずは、広島市江波で生まれた絵が得意な少女。昭和19年、20km離れた町・呉に嫁ぎ18歳で一家の主婦となったすずは、あらゆるものが欠乏していく中で、日々の食卓を作り出すために工夫を凝らす。だが、戦争は進み日本海軍の根拠地だった呉は、何度もの空襲に襲われる。庭先から毎日眺めていた軍艦たちが炎を上げ、市街が灰燼に帰してゆく。すずが大事に思っていた身近なものが奪われてゆく。それでもなお、毎日を築くすずの営みは終わらない。そして、昭和20年の夏がやってきた――。本作は戦時中の広島・呉を舞台に、大切なものを失いながらも前を向いて生きていく女性・すずの日々を描いた物語。原作は、こうの史代の同名漫画で、それに惚れ込んだ片渕須直監督が、約6年の歳月をかけ徹底的な時代考証・現地考証を重ね、丁寧かつダイナミックに描き出している。主人公・すずを演じるのはアニメ声優初主演ののんさん。そのほか、『アナと雪の女王』の稲葉菜月、女優・尾身美詞。また、細谷佳正、小野大輔、潘めぐみら豪華声優陣らが脇を固める。さらに、ときに優しく、ときに強く映画を包み込む音楽は、シンガーソングライターのコトリンゴが担当した。このほど解禁されたのは、「昭和20年、広島・呉。わたしはここで生きている。」というキャッチコピーが添えられた本ポスター。そこには、たくさんの草花が咲く中で誰かに呼ばれたかのように小首を傾げ、振り向くすずが描かれている。穏やかな日差しの中、スケッチの途中で下駄を脱ぎ花を摘む姿に、すずのゆっくりした時間が垣間見られるようだ。『この世界の片隅に』11月12日(土)よりテアトル新宿、ユーロスペースほか全国にて公開。(cinemacafe.net)
2016年09月22日女優のんがアニメーション映画『この世界の片隅に』(片渕須直監督)で、主人公すず役の声を演じることが発表され、予告映像が公開になった。のんは「すごく本当に、とんでもなく嬉しくて、なんか地面からふわっと浮いちゃいそうなくらい嬉しかったです!」とコメントを寄せた。公開された予告映像本作は、こうの史代の同名漫画が原作。昭和19年から20年の広島を舞台に、呉に嫁ぎ18歳で一家の主婦となったすずが、戦況が悪化し、あらゆるものが欠乏していく中でも前を向き、日々を大切に生きようとする姿を描く。監督は『マイマイ新子と千年の魔法』の片渕須直監督。片渕監督は起用の理由について「6年前『この世界の片隅に』をアニメーションにしようと思ってからずっと、すずさんの声を探していました」といい、「ご縁に恵まれて、のんさんの声をマイクを通して聞いた時、何年も前から自分たちが想像してきた声が、すずさんとなって現れました。その時、のんさん以外のすずさんは考えられないと確信しました」と明かす。のんは原作について「私は戦争や暴力の描写が嫌いで苦手で、目を向けないで拒んでいたところがありました。(戦争は)非日常なもので別次元のものと思っていたのですが、原作を読ませていただいて、日常と隣り合わせに戦争があったのかもしれないなと感じて、今まで拒んできたものに目を向けてみようと思いました」と話し、アフレコは「最初はすごく難しくて、どうしたらいいんだと悩んだんですけど、やっていくうちに絵に息を吹き込むというのが楽しくて。あぁ、声優さんはこういうことをされてたのかと思うと興奮しました」と振り返った。自身が演じる、すずについては「感情が沸きたった時に、がーって絵を描いているところがすごく共感しました。すずさんは、ぼーっとしていると言われながらも、パワフルでポジティブなところが好きです。劇中ですずさんがやっているような着物のリメイクにも挑戦してみたいです」とコメント。観客に向けて「普通に生活しているとか、ただ生きているっていうことが、あぁやっぱり普通っていいな、と思える映画だと思うので、そういうのを感じていただきたいなと思います。そして、是非ご家族を誘って観ていただきたい。大切な感覚を一緒に共有出来ると思うのです」とメッセージを送った。このほど公開になった予告映像では、シンガー・ソング・ライターのコトリンゴが新たにカバーした『悲しくてやりきれない』が使用されており、今週末から一部の劇場で、のんの特別メッセージ付き予告編映像が上映される。『この世界の片隅に』11月12日(土)テアトル新宿、ユーロスペースほか全国ロードショー
2016年08月24日『マイマイ新子と千年の魔法』の片渕須直監督がクラウドファンディングを募り、国内史上最高額を達成した、こうの史代原作のアニメーション映画『この世界の片隅に』。このほど、女優・のんが、本作でアニメーション映画初主演を務めることが決定し、待望の本予告映像が解禁となった。すずは、広島市江波で生まれた絵が得意な少女。昭和19年(1944)、20キロ離れた町・呉に嫁ぎ、18歳で一家の主婦となった。戦況が悪化し、あらゆるものが欠乏していく中で、日々の食卓を作り出すために工夫を凝らす、すず。だが、日本海軍の根拠地だった呉は、何度も空襲に襲われる。庭先から毎日眺めていた軍艦たちが炎を上げ、市街が灰燼に帰し、すずが大事に思っていた身近なものが奪われてゆく。それでもなお、毎日を築くすずの営みは終わらない。そして、昭和20年(1945)の夏がやってきた――。学生時代から宮崎駿作品に脚本家として参加、『魔女の宅急便』(’89)では演出補を務め、前作『マイマイ新子と千年の魔法』(’09)もヒットした片渕監督が手がける本作。監督は6年の歳月をかけ、戦中戦後の広島・呉の綿密なリサーチと時代考証を行い、こうの史代漫画の世界を色鮮やかに描き出した。そんな本作で、監督が「のんさん以外のすずさんは考えられない」とその声に惚れ込み、のんさんの主演が決定。その一報を受けたのんさんは、「すごく本当に、とんでもなく嬉しくて、なんか地面からふわっと浮いちゃいそうなくらい嬉しかった」と、独特の感性でコメント。もともと「私は戦争や暴力の描写が嫌いで、苦手で、目を向けないで拒んでいたところがありました。(戦争は)非日常なもので別次元のものと思っていたのですが、原作を読ませていただいて、日常と隣り合わせに戦争があったのかもしれないなと感じて、いままで拒んできたものに目を向けてみようと思いました」と、こうのさんの原作を読み、心境の変化があったことを語る。自身が演じる、主人公・すずについては、「感情が沸きたったときに、がーって絵を描いているところがすごく共感しました。すずさんは、ぼーっとしていると言われながらも、パワフルでポジティブなところが好きです。劇中ですずさんがやっているような着物のリメイクにも挑戦してみたいです」と、時代が違えど、まっすぐに誠実に生きる姿や日々を工夫を凝らして楽しむ姿などに共感しながら、演技に臨んだ様子だ。アフレコは「別世界だなというのを痛感しました」とその難しさにも触れ、広島弁の持つ独特のイントネーションに苦労を感じながらも、その響きの可愛らしさを楽しみながら挑戦していたという。また、本作が2015年に行われたクラウドファンディングで日本全国からの熱烈な支持を受け、製作が決定したことについて、「観たい映画を一緒に制作していくという、応援してくださってるみなさんがこの映画を一緒に作っているというのが、本当に素晴らしいことだなと思います。私もそこに参加させていただけることがすごく嬉しいです」と、参加できた喜びを語るのんさん。さらに、「普通に生活しているとか、ただ生きているっていうことが、あぁやっぱり普通っていいな、と思える映画だと思うので、そういうのを感じていただきたいなと思います。そして、ぜひご家族を誘って見ていただきたい。大切な感覚を一緒に共有できると思うのです」と、本作のテーマと見どころにも言及した。アフレコを終え、片渕監督は「すずさんに命を吹き込んでくれて感謝の気持ちでいっぱいです」と彼女を絶賛。「6年前、『この世界の片隅に』をアニメーションにしようと思ってからずっと、すずさんの声を探していました」と言うだけに、「この作品は本当に幸運に恵まれたと思います」と安堵の声を寄せている。完成した本予告では、呉にお嫁にきたすずが、軍港・呉に停留する戦艦大和や戦闘機などと隣り合わせに居ながらも、工夫を凝らして日々を楽しんで生活する姿が映し出されていく。音楽を奏でるのは、シンガー・ソング・ライターのコトリンゴ。片渕監督の前作『マイマイ新子と千年の魔法』で主題歌を担当し、本作では本編楽曲も担当。今回解禁された本予告では、新たにカバーした「悲しくてやりきれない」が使用され、作品の世界観を壮大に歌い上げている。コトリンゴさんは、「すずさんの心情にすごく合っているからと予告編に使用してくださっていた『悲しくてやりきれない』のカバーを、さらにリアレンジしてすずさんに寄り添えるように、生楽器をメインに書き直しました」とコメント。なお、この予告編は今週末より一部劇場にて、のんさんの特別メッセージ付きで上映される予定。『この世界の片隅に』は11月12日(土)よりテアトル新宿、ユーロスペースほか全国にて公開。(text:cinemacafe.net)
2016年08月24日『魔女の宅急便』で演出補を、『マイマイ新子と千年の魔法』では監督を務めた片渕須直監督が、漫画家・こうの史代の「この世界の片隅に」をアニメーション映画化するため、3月からクラウドファンディング・プラットフォーム「Makuake」にて資金調達を実施。このほど、国内最高支援者数を樹立し、劇場版アニメ製作が正式に決定。2016年秋公開予定であることが分かった。絵が得意な少女・すずは、ある日突然、海軍勤務の周作の妻になるために、20キロ離れた町・広島県呉に嫁ぐ。ときは昭和19(1944)年。18歳で一家の主婦となったすずは、あらゆるものが欠乏していく中で、日々の食卓を作り出すために工夫を凝らすが、戦争は激化。すずが大事に思っていた身近なものが奪われてゆく中、それでもなお、毎日を築くすずの営みは終わらない――。約4年前から片渕監督によってアニメ化の準備が進められていた本作。本格的にフィルムの制作を始めるにあたり、スタッフの確保やパイロットフィルムの制作に賄う資金を調達する目的で、株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディングが運営するクラウドファンディングサービス「Makuake」にて資金調達を敢行した。3月9日から5月29日までの82日間の募集期間で、合計支援者数は3,374人、総額は3,622万4,000円を達成し、支援者数としては日本国内での最高記録を更新。金額も当初目標としていた2,000万円を大きく上回る181%の達成率であり、映画作品のクラウドファンディング調達額としては、国内史上最高を記録した。この結果を受け、見事『この世界の片隅に』の製作委員会が正式に発足。全国劇場公開を2016年秋に予定し、配給は東京テアトルが担当するという。アニメーション制作は、日本が誇る老舗アニメスタジオ「マッドハウス」の代表を長年務めた丸山正雄が2011年6月に設立したスタジオ「MAPPA」。プロデュースを、TVアニメ「のだめカンタービレ」「ソードアート・オンライン」を手がけた「GENCO」が務める。宮崎駿監督作品に脚本家として参加した経歴を持ち、自身の監督作『マイマイ新子と千年の魔法』では異例のロングラン上映とアンコール上映を達成した片渕監督が、多くの人の思いが集まって実現した今回の劇場アニメ化で、ささやかな「毎日」を生きることの素晴らしさをどのように描くのか、期待が高まる。『この世界の片隅に』は2016年秋、全国にて公開予定。(text:cinemacafe.net)
2015年06月03日徳島県で開催されているアニメイベント「マチ★アソビvol.14」(5月3日~5日)で3日、ufotable CINEMAにて、片渕須直監督による『この世界の片隅に』プレゼンテーションが行われた。『この世界の片隅に』は、こうの史代氏の同名コミックが原作。昭和19年の広島・呉にお嫁にやってきた18歳のすずが、あらゆるものが欠乏していく中で工夫を凝らす生活の日々、それでも激化する戦争の中で奪われていく大切なもの、それでも続いていく日常について描いている。クラウドファンディングサービス「Makuake」で2015年3月9日にスタートした「片渕須直監督による『この世界の片隅に』のアニメ映画化を応援」プロジェクトが、3月18日には当初目標の2,000万円を突破したニュースで大きな注目を集めた。今回のイベントでは、片渕須直監督が制作のために集めた膨大な映像資料をスクリーンに上映しながらトークを行った。冒頭、広角レンズで撮った書斎らしき写真がスクリーンに映し出されたが、そこに映った書籍全てが片渕監督が本作のために自腹で集めた資料というから驚きだ。イベントにはGENCO代表取締役で『この世界の片隅に』プロデューサーの真木太郎氏、司会のまつもとあつし氏も同席したものの、2人は時折驚きを見せたり補足のコメントを入れるだけで、ほぼ片渕監督の独演会に近い形になった。トークでは、まずはこうの氏が『この世界の片隅に』を描いた経緯を説明。前作『夕凪の街 桜の国』では原爆、広島というテーマを編集に勧められて描いたこうの氏が、おばあさんと一緒に住んでいた呉時代に聞いた戦時中の話を漫画にしたという。前作が与えられた課題であったのに対し、『この世界の片隅に』はこうの氏自身の中から生まれたものだった。しかし"二匹目のドジョウ"的な見方をする人も多く、批判的な声も多かったそうだと片渕監督は語る。実はそんな原作者・こうの氏にとっても、クラウドファンディングの2,000万円達成は、それだけの応援、肯定的な支えがあることを実感できる意味で、とても大きかったという。資金調達の手段であるクラウドファンディングが、クリエイターにとって応援やサポートの可視化につながり、制作の支えやある種の救いになるというのはとても興味深い。実制作に話が及ぶと、片渕監督は『この世界の片隅に』原作コミックの1ページ目を提示する。ごく普通の風景に見えるが、片渕監督はその大ゴマが正方形であることから「スクリーンに合わせて映像化するためには、左右の風景を埋めなければならない」と語る。そこからが片渕監督の非凡な所で、現地に行き当時を知る老人にヒアリングし、膨大な当時の現地写真を集め、印象的な松や周囲の特徴を元に現在の場所をつきとめ、それを元に古写真を集め、同じ場所の別画角の写真に防潮堤があることを発見して、一コマ目の画面外にあるのは海だと突き止める。膨大な資料をグーグルアースと照らしあわせて角度まで検証するような、地道な作業と検証を、片渕監督はほぼ全てのコマに対して行っているのだ。漫画のコマに描きこまれたわずかな情報を元に、原爆により失われた風景を再現していく過程はまさに執念。こうした作業を、片渕監督は原作者・こうの氏と対面する前にほとんど済ませていたというから驚きだ。しかし、話題に原作者・こうの氏が登場することで、聞いている側に別の疑問が浮かぶ。戦前戦中を実体験したわけではないこうの氏が作画した漫画と、歴史資料を照らしあわせて再現するという行為が何故成立するのか。それは、原作者のこうの氏もまた、圧倒的な量と調査と研究に基づいた作画を行っているのだ。劇中で、主人公・すずが、ヨーヨーで遊んでいる子供を横目で見る(だけの)コマがある。片渕監督が調べると、すずのこども時代・昭和8年~9年には空前のヨーヨーブームが起こっていたことがわかる。当時の写真や映画の映像からヨーヨーブームの過熱がわかると、そんな憧れのヨーヨーで遊んでいる子供とすずの生活環境の違いや、すずの内心に想いを巡らせる余地が出てくる。だが、漫画ではそんな言葉はもちろん、それらしき表現は一切出てこない! 一事が万事この調子で、すずが「20銭で何を買えるか」を考える場面で、監督は"当時のこのキャラメルは10銭だから、3箱は買えないのでは?"と検証する。すると原作者のこうの氏は、そのキャラメルには箱が正方形の10粒入りのタイプがあり、そちらは5銭だったと返す。原作者に聞けば一瞬で済む疑問点に、作者と同等以上の労力と情熱を傾けるところに片渕監督らしさを感じる。これは監督と原作者の真剣勝負でもあるのだろう。監督は「それを同じ魂で作る」と表現した。そんなこうの氏と監督の執念が感じられるエピソードのうち、もっとも鮮烈だったのが、呉の港に戦艦大和が入港する一コマに関するトークだ。昭和19年に大和は入港しているのか? 片渕監督は同年の呉港の軍艦の出入りを全てチェックしデータ化した結果、劇中のシーンに一致するのは昭和19年4月17日でしかありえないことを突き止め、当日の天候、気温、遠方の視界などを調べあげ、そのコマが実にリアルに描かれていることを確信する。そのことをぶつけられたこうの氏が「一言調べました」と返したというからたまらない。戦中のすずが、雑草を使った料理をしているのを描くのに、こうの氏は実際においしく食べるためのレシピを考案し、片渕監督はそれを実際に作ってみる。そうした漫画の一コマ、映像の一カットに込められた圧倒的なこだわりと情報量が、作品から世界の空気となって立ち上るように感じられた。監督が映像に込めたものをどれだけ感じ取れるか、見る側の我々も勝負を挑まれているのかもしれない。片渕監督は『マイマイ新子と千年の魔法』の時に、十分な宣伝ができなかったかもしれないという反省から、できることはなんでもやろうと今回のイベントも行ったという。クラウドファンディングの支援者には、ラフスケッチや制作中の絵素材が宣伝素材として送られる模様。支援者も一緒に宣伝をして盛り上げてほしいというスタイルは、資金調達だけでなくパブリシティのやり方としても新しい。『この世界の片隅に』のクラウドファンディングは5月末まで継続中。劇場アニメ『この世界の片隅に』は2016年の公開に向けて制作中だ。
2015年05月04日サイバーエージェントが手がけるクラウドファンディング・プラットフォーム「Makuake」にて、漫画家・こうの史代の「この世界の片隅に」をアニメーション映画として映像化するプロジェクトが始動。このほど、3月9日(月)の設立からわずか8日後の3月18日(水)で目標資金調達金額の2,000万円を突破したことが明らかとなった。絵が得意な少女・すずは、ある日突然、海軍勤務の周作の妻になるために、20キロ離れた町・広島県呉に嫁ぐ。ときは昭和19(1944)年。18歳で一家の主婦となったすずは、あらゆるものが欠乏していく中で、日々の食卓を作り出すために工夫を凝らすが、戦争は激化。すずが大事に思っていた身近なものが奪われてゆく中、それでもなお、毎日を築くすずの営みは終わらない――。文化庁メディア芸術祭「マンガ部門大賞」を始め、第9回手塚治虫文化賞「新生賞」を受賞した漫画家・こうの史代が2007年~2009年の間に掲載した同名コミックを原作に、『マイマイ新子と千年の魔法』では監督を、『魔女の宅急便』(’89)では演出補を務めた片渕須直がメガホンを取り映像化する本作。「片渕須直監督による『この世界の片隅に』(原作:こうの史代)のアニメ映画化を応援」プロジェクトは、本作の公開実現に向け、スタッフの確保やパイロットフィルム制作の費用を調達するため3月9日(月)に設立。開始初日に750万円を集め、5日で1,500万円を超え、8日後には目標金額である2,000万円の資金を調達するに至った。この金額は、映画ジャンルでの国内クラウドファンディングでは史上最高額となり、本プロジェクトの注目度の高さを示す結果となった。制作支援メンバーになると、各金額のコースに合わせて、先行情報配信や先行上映など様々なプレゼントが受けられるほか、本編のエンドロールに自身の名前を載せることもできるとのこと。本プロジェクト終了日は2015年5月29日(金)を予定しており、更なる支援の拡大が期待される。(text:cinemacafe.net)
2015年03月18日文化庁メディア芸術祭「マンガ部門大賞」を始め、第9回手塚治虫文化賞「新生賞」を受賞した漫画家・こうの史代の「この世界の片隅に」をアニメーション映画として映像化するプロジェクトが立ち上がった。このプロジェクトは、サイバーエージェントが手がけるクラウドファンディング・プラットフォーム「Makuake」で設立されたが、5日間ですでに資金援助の金額は1,500万円を超え、Makuakeの支援金額歴代5位の記録となっている。こうの氏が第二次世界大戦前後の広島県呉市を舞台に描き、「漫画アクション」(双葉社)にて2007年~2009年の間に掲載された同名コミックを原作とする本作。絵を描くことが好きな少女・すずと、彼女が突然嫁ぐことになった海軍勤務の周作の夫婦のやりとりを通して、戦時中の庶民の日常を丁寧に描き出す。監督には映画『マイマイ新子と千年の魔法』などで知られる片渕須直。監督は、在学中から宮崎作品に脚本家として参加。『魔女の宅急便』(’89)では演出補を務め、その後もTVシリーズ「名犬ラッシー」(’96)、「BLACK LAGOON」(’06)など数々のヒット作を乱してきた。片渕監督は、今回のプロジェクトについて「空を飛ぶものに憧れて、自由に大空を舞う姿を描き出したいと思った頃もありました。けれど、ぽつんと雲の上に浮かぶことが孤高に見えても結局は一人ぼっちなのだと気づいてからは、地の上で暮らす人の姿を画面に描き出したいと思うようになりました。すずさんこそそういう人です。そしてそんなすずさんは、原作漫画を読んだ人みんなから愛されています。すずさんは戦時中の世界で、毎日の暮らしを営み続ける人です」とコメントを寄せる。さらに戦時下の時代を描く本作について「『戦時中の物語』『空襲の登場する映画』というと『小学校の頃、体育館で見せられた教育映画みたいなもの?』と誤解してしまう向きもあるようですが、そうではありません。原作『この世界の片隅に』は、さまざまに新しい漫画表現を凝らして活躍する、こうの史代さんが心血注いだ力作なのです。愛すべきすずさんのいとおしさを、彼女がそこですごす『世界の片隅』のありさまを、そこに流れた大切な時間を、自分にできる限りの理解をした上で、映画の画面の上に描き出してみたい。そう思っています」と語っている。そんな想いを抱えた片渕監督と本作のアニメーションを制作するのは「坂道のアポロン」(’12)、「残響のテロル」(’14)などのTVアニメを手がけてきた「MAPPA(マッパ)」。また、本作の準備にはすでに4年もの歳月が費やされているとのこと。集まった資金は、作品のためのスタッフの確保や、パイロットフィルムの制作に使用されるとのことだ。資金援助は「すでに1,000万円」と前述で紹介したが、プロジェクトの目標金額は「2,000万円」。片渕監督の想い描く世界が映像となってスクリーンいっぱいに広がる日に期待したい。(text:cinemacafe.net)
2015年03月13日