2020年1月。音楽家の青葉市子さんは、呼ばれるように沖縄を訪れ、長期滞在していた。そこでふいに出会った「アダン」という木の実がアルバム『アダンの風』の制作のトリガーのひとつになったそう。子どもの頃から大事にしているキラリと輝くものを掴む。「太陽みたいな激しい色をしているけれども、どこか手榴弾みたいでもある。そういう植物が、浜でいちばん風を受けるようなところで生きていて、“風の音を聴いている”イメージが浮かびました」そうして、沖縄のいくつかの島を旅する中で、自身の心が躍動するインスピレーションを得て、あるひとつの物語を着想した。「近親交配の集落に種族最後の一人として生まれた霊的な力を持つ少女がいて。種族の血を絶やさぬように親族が混交の期待を込めて、小さな木舟に乗せ、沖の向こうのアダンの島へ向かうところから物語は始まります。やがて、少女はその島に生息している、言葉を持たないクリーチャーたちに出会う。クリーチャーというのは、どんな姿を想像してもらってもいいですけれども、生きていることを嬉しく思う、ワクワクするキラキラとした存在。少女とクリーチャーが出会ったとき、言葉を交わさず、貝を贈り合うんです」自身が紡いだ物語について語りながら、「私たちは言葉という難しいものを扱って生きていて。言葉よりも前の感覚も大切にしたかった」と実感を込めて話す青葉さん。作曲家の梅林太郎を迎え、“架空の映画のためのサウンドトラック”をひとつのテーマに室内楽編成を取り入れた。物語の深部へと導く、心地よい壮大な音の円環。時空を超え、連綿と続く、生命の連鎖の輪の一部になったような原初的な感覚を呼び覚ますサウンドスケープが、心のやわらかい部分にそっと寄り添う。「弾き語りで10年活動してきましたが、頭の中ではここでオーボエが鳴って、ストリングスが来て、と自分なりの楽想があって。今回はそれを具現化できた最初の一枚です。梅林さんは、いろんなことを感覚で共有できる方。今回のアルバム制作に関わり、協力してくださった方はたくさんいますが、核となる人物は梅林さん、エンジニアの葛西敏彦さん、写真家の小林光大さんと私の4人です。小林さんとはジャケットの撮影で知り合いました。これまでの私は被写体になることにどちらかというと苦手意識がありました。写真機自体にもあまり関心がなかったんです。でも、小林さんが切り取る瞬間は、自分が見ているところと一緒で。写真に対する意識がひっくり返った瞬間でした」そこに創作の種のようなものを感じ、共に沖縄や奄美大島を訪れる旅をした。一瞬一瞬の中で生まれた“共鳴”が、創作のイマジネーションを掻き立てたという。「梅林さんも私も、小林さんの写真を見て、そのデモ音源を聴きながら再び島を巡り、景色が何を呼んでいるのだろう?と耳を澄まして皆で確認したりしました。いろいろあった’20年は東京の街も静かで、自分の中にもともとあった声のようなものが浮かび上がってくる一年で。子どもの頃から大事にしているキラッとした部分。楽しくて笑うこと、幸せに思うこと、なぜ泣くのか?とか。自分がこれまでに辿ってきた道を確認しながら全身全霊で制作していました。『アダンの風』を聴いてくださる方にも、自分がいちばん大事にしていることや心のふるさとみたいなところに辿り着いてもらえたらいいな、と思っています」7枚目のアルバム『アダンの風』。全14曲入り。生命の神秘やダイナミズムを感じるジャケット写真は小林光大が撮影。¥3,000(hermine)今作の発売に合わせて、旧作「剃刀乙女」など4作品が待望のLP化。あおば・いちこ音楽家。1990年1月28日生まれ。活動10周年を迎え、自主レーベル「hermine」を設立。クラシックギターでの弾き語り、ナレーションやCM、舞台音楽の制作も行う。※『anan』2020年12月30日-2021年1月6日合併号より。写真・大嶋千尋取材、文・矢島聖佳(by anan編集部)
2021年01月04日新型コロナウイルスの影響により劇場公開が5月22日(金)に延期となった『ホドロフスキーのサイコマジック』が、配給元アップリンクの運営するオンライン映画館「アップリンク・クラウド」にて先行配信決定。おうちで映画を楽しみながら、各地の映画館を支援できる「寄付込みオンライン先行上映」となる。本作は『エンドレス・ポエトリー』や『ホドロフスキーのDUNE』などで知られる、アレハンドロ・ホドロフスキー監督の集大成。これまで彼が創り上げてきた作品の映像表現が、いかに“サイコマジック”という技法によって貫かれているかを解き明かしていく。今回の「寄付込みオンライン先行上映」は本来の公開日4月24日(金)より、アップリンクの運営するオンライン映画館「アップリンク・クラウド」にて本作を期間限定でストリーミング配信、その売上から映画館への支援として、本作の上映を予定している全国の映画館へ均等に分配する、という仕組み。また同日より、本作の公開を記念したオリジナルグッズをオンラインで先行販売。本作のタイトルロゴがあしらわれたTシャツに加え、本作にも登場する『エル・トポ』『ホーリー・マウンテン』のTシャツとトートバッグ、全15種のシークレット缶バッジを取り揃えている。『ホドロフスキーのサイコマジック』は4月24日(金)より「アップリンク・クラウド」にて先行配信。(text:cinemacafe.net)■関連作品:ホドロフスキーのサイコマジック 2020年5月22日よりアップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺、新宿シネマカリテほか全国にて順次公開©SATORI FILMS FRANCE 2019 ©Pascal Montandon-Jodorowsky
2020年04月17日アレハンドロ・ホドロフスキー監督&脚本による映画『エンドレス・ポエトリー』が、2017年11月18日(土)より順次公開される。2014年に23年ぶりの新作となる自伝的作品『リアリティのダンス』と、製作されなかった幻の超大作ホドロフスキー版『DUNE』の顛末を追ったドキュメンタリー『ホドロフスキーのDUNE』が公開、その際の来日イベントではエネルギッシュな姿を見せるなど、90歳近い高齢とは思えない活躍も記憶に新しいホドロフスキー監督。本作は、『リアリティのダンス』の続編となるもので、舞台はホドロフスキーの故郷トコピージャから首都サンティアゴへと移る。様々な悩みや葛藤を抱えた青年時代のホドロフスキーが当時チリで出会った詩人、アーティスト、パフォーマーなど、アヴァンギャルドなカルチャー・シーンの人々との交流が、虚実入り交じった“マジック・リアリズム”の手法で描かれる。前作と同じく、ホドロフスキーの長男であるブロンティス・ホドロフスキーがホドロフスキーの父親役を、また青年となったホドロフスキー役を、末の息子であるアダン・ホドロフスキーが演じる。また撮影監督には、ウォン・カーウァイ監督作『恋する惑星』など、手持ちカメラの独特の映像で知られるクリストファー・ドイルが就任。ウォン・カーウァイのほか、ジム・ジャームッシュ、ガス・ヴァン・サントなど様々な監督の作品に携わってきたドイルが、本作で初めてホドロフスキー監督とタッグ組んだ。2017年2月に88歳の誕生日を迎えたホドロフスキー監督は、本作について次のようにコメントを残している。「『エンドレス・ポエトリー』は、われわれを取り巻く世界に潜むマジック・リアリズムを探求します。観た人が真の自分を発見する手がかりになる、まさに“生きること”への招待ともいうべき作品です」【作品情報】『エンドレス・ポエトリー』原題:Poesía sin fin公開日:2017年11月18日(土) 新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク渋谷ほか監督・脚本:アレハンドロ・ホドロフスキー撮影:クリストファー・ドイル出演:アダン・ホドロフスキー、パメラ・フローレス、ブロンティス・ホドロフスキー、レアンドロ・ターブ、イェレミアス・ハースコヴィッツ編集:マリリン・モンシューダビング:ジャン=ポール・フリエダビング補:ベンヤミン・ビヨー録音:サンディ・ノタチアニ、グアダリュプ・カシユス音楽:アダン・ホドロフスキー衣装:パスカル・モンタンドン=ホドロフスキープロダクションデザイン:アレハンドロ・ホドロフスキー美術:パトリシオ・アギュラー、デニス・リア=ラティノフ美術補:佐々木尚(c) Pascale Montandon-Jodorowsky
2017年05月26日恋愛でも人間関係でも、「本当はこうしたほうがいいんだろうな」と思っているのに、行動には移せないということ、誰にでもあるんじゃないでしょうか。「自分から素直に謝れば、相手も折れるはず」とか「こんな男には早く別れを告げたほうがいい」とか。理屈ではわかっていながら、なぜか体が動かない。それは頭で理解したつもりになっているだけで、心の深い部分では、このままでもいいんじゃないか…と思い込んでいるから、なのだそうです。かつて、ジョン・レノンやアンディ・ウォーホルをはじめ、世界中のアーティストを熱狂させた偉大な映画監督アレクサンドロ・ホドロフスキー。85歳の巨匠が、23年ぶりに発表した映画『リアリティのダンス』(7月12日公開)には、そんな私たちの心のスイッチを切り替えるヒントがたくさん隠されています。世界的に有名なタロット研究家でもあるホドロフスキー監督は、禅や瞑想、サイコセラピーなどの心理療法でも多くのファンを持つ人物。タロットカードの種類の一つ「マルセイユ版」を復刻したことでも知られています。日常的に人の悩みや問題を解決し、立ち直らせるために尽力している彼のスタンスは、映画制作にも最大限に活かされているそうです。7月13日(日)、そんな彼の最新作について、マルセイユ版タロットを扱うタロットリーダーの小川トモコさんが解説するトークイベントが開催されました。【小川トモコさんが語るホドロフスキー流タロットとサイコマジック】・大事なのは、常に“今”「『リアリティのダンス』は、いわば、タロットの過去カードの問題点を解決する映画」そう語る小川さんいわく、マルセイユタロットのリーディングにおいて、“過去・現在・未来”の3枚のカードを引いた際、“過去”や“未来”の問題は、本人の“今”の心にある問題点なのだそう。例えば、“過去”のカードが良くない状況を表しているとしたら、それは以前の苦しみから抜け出せていない証拠。過去のしがらみやこだわりが作用して、今の自分を悪い状況に追い込んでいるということになります。一方、“未来”のカードが悪い場合は、様々な不安や期待、思い込みなどが今の自分に作用して、思い通りに進もうとするのを阻害している、といったことを表します。「タロットリーディングとはカードを読み、相談者の過去のしがらみを変換させたり、未来に対する思い込みを解決することで、“今”を輝かせるためのサポートをすること。常に、一番大事なのは“今”です。輝く今を積み重ねることで、人生全体が輝くんです!」その瞬間・瞬間を全て納得して生きるのはとても難しいことですが、「輝く今を積み重ねていけば、人生が輝く」というのは確かにそうだろうな、とイメージできますよね。小川さんによると、“ホドロフスキー流タロット”や、彼オリジナルの心理療法“サイコマジック”は、その実現を目的とするものなのだそうです。・サイコマジックとは?「ホドロフスキー監督はタロットリーディングをする際、カードの象徴が相手の無意識に働きかけることで、事態が好転するよう導いています。ですが、悩みの根が深く、なかなか解決できない場合はサイコマジックを用いています」サイコマジックとは、相談者の話をよく聞き、相手の無意識と監督の無意識をコネクトし、監督の心に浮かんだことを実践してもらうこと。方法は人それぞれなのですが、例えば「綱渡りを習う」「牛の血を全身に浴び、そのまま出かける」など、実現の難しいことばかり。しかし、忠実にそれにトライすることで、“リアリティのダンス”(偶然の助け)が起き、実現したとき、問題も同時に解決に向かうという手法です。映画『リアリティのダンス』は、少年時代、威圧的な父親に苦しめられたというホドロフスキー監督が、原点に立ち返り、自分自身の過去を転換させるための作品。そこには、数多くのサイコマジックの実例が登場します。例えば、暗闇を恐れ、夜中に泣き出したホドロフスキー少年の全身に、母親が靴墨を塗って真っ黒に染めるシーン。闇に同化することで恐怖心を取り払うというのは、監督流の心理療法だと言います。その他にも、父親が病気になったときに母親がある方法で癒すシーンや、自らの中の“高圧的な父の象徴”を壊すことで問題を解決するシーンなど、いくつものサイコマジックが描かれていました。どれも印象的でショッキングな場面ではあるのですが、小川さんの「私たちは、彼の作った映画を観ることによって、そのサイコマジックを擬似的に体験することができるんです」という言葉を聞き、なるほどと納得させられました。・タロットカードの象徴も作品には、監督がフィリップ・カモワン氏と共に復元したマルセイユ版タロット「ホドロフスキー・カモワン・タロット」の象徴もたびたび登場します。“星の女神”や“皇帝”、“盃の女王”、そして“骸骨”などが現れるので、タロットの知識がある方は、見つけるだけでもワクワクするかもしれません。また、西洋魔術に影響を与えていると言われるユダヤの神秘思想「カバラ」の象徴が出てくる場面も。一度観た後、あのシーンには本当はどんな意味があったのか?と調べたり、詳しい人に話を聞いてみたりしたら、それも面白いんじゃないかと思います。もちろん、タロットやカバラのことがわからなくても十分に楽しめる作品なのでご安心を!何かしら決別したい過去を持っている人なら、誰でも無意識のうちでホドロフスキー少年に共感したり、その苦しみを自分のものとして捉え、彼と一緒に前進したい、過去のしがらみから抜け出したい、と思えるようになるんじゃないかなと。過去の苦しかった自分を癒し、そこから来る悩みを解決したい!と思うみなさん、ぜひこの映画を観て、“今”を輝かせるためのパワーを受け取ってくださいね!(文=編集J)◆小川トモコ京都のカフェオパール()店主/ホドロフスキーが復刻したマルセイユタロットを扱うタロットリーダー【『リアリティのダンス』公開記念イベント】◆元天井桟敷劇団員3人が語る寺山修司とホドロフスキー2014年7月20日(日)19:00上映スタート / 21:20トークスタートゲスト:安藤紘平、森崎偏陸、浅井隆(UPLINK社長)詳細・予約◆ホドロフスキー来日“撮って出し”インタビュー映像大公開!!2014年7月21日(月)19:00上映スタート /21:10“撮って出し”映像上映スタート詳細・予約◆タロットリーダーとしてのホドロフスキー、そしてカモワン・タロットの世界について2014年7月22日(火)19:00上映スタート / 21:10トークスタートゲスト:スキップ・スワンソン(カモワン・タロット認定講師)詳細・予約◆「アレ★アレ★シネマトーク」番外編!ホドロフスキーにまつわるアレ!2014年7月24日(木)19:00上映スタート / 21:20トークスタートゲスト:ロバート・ハリス(DJ・作家)、中島朋人(俳優・鉄割アルバトロスケット)、高橋キンタロー(イラストレイター)、佐々木誠(映像ディレクター/映画監督)詳細・予約『リアリティのダンス』■監督・脚本:アレハンドロ・ホドロフスキー■出演:ブロンティス・ホドロフスキー(『エル・トポ』)、パメラ・フローレス、クリストバル・ホドロフスキー、アダン・ホドロフスキー■音楽:アダン・ホドロフスキー■原作:アレハンドロ・ホドロフスキー『リアリティのダンス』(文遊社)■配給:アップリンク/パルコ(2013 年/チリ・フランス/130 分/スペイン語/カラー/1:1.85/DCP)(c) “LE SOLEIL FILMS" CHILE・“CAMERA ONE" FRANCE 20132014年7月12日(土)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、 渋谷アップリンク、キネカ大森ほか、全国順次公開
2014年07月19日