「テロ」、「男尊女卑」、「戦争」。イスラム教のイメージは?と聞けば、こんな答えが返ってきても不思議ではない。「過激派によるテロ…犠牲者は◯人…」。テレビのニュースで流れてくるのは、悲しいニュースばかり。それに加えて、アメリカの大統領がイスラム教徒が多い一部の国に入国禁止命令を出したり、ヨーロッパでは堂々と反イスラム教を掲げる政党が人気を持ち始めたりと、世界中でイスラムフォビア(イスラム嫌悪)に関するニュースも比例するように増えていく。「イスラム教徒」と聞くとあなたはどんな人を思い浮かべるだろうか?どうしてあなたがそんなイメージを持っているのか、考えたことはあるだろうか?日本人のサトコと、サウジアラビア人のナダ。二人の女の子のごく普通の友情。マスメディアで流れてくるイスラム教徒に関するニュースはネガティブなものばかり。しかし、イスラム過激派やたとえば中東で起きた女性に対する暴力事件などがイスラム教徒を代表しているわけではないということを忘れてはいけない。一般のイスラム教徒について知ろうとする努力をしたことはあるだろうか。日本人の女の子とサウジアラビア人でイスラム教徒の女の子の友情を描いた漫画『サトコとナダ』(『ツイ4』にて日刊連載中)。これを読めばイスラム教徒に対するあなたの印象は変わるかもしれない。作者は、アメリカ在住経験のあるユペチカさん。『サトコとナダ』はあくまでもフィクションだが、アメリカで出会ったイスラム教徒の友人がユペチカさんの考えを変えたという。日本にいるときに私自身がイスラム教って怖いものだと思っていたんです…。日本にいるとイスラム国についてばかり取り上げられるから、イスラム教自体が悪いものだという風に私も少なからず思っていたところがあって。それでアメリカで勉強させていただく機会があった際に自分の無知さを実感したというか。実際にイスラム教徒の方にお会いして、考えを改め、同じように誤解をしている日本人にも伝えなきゃなと思いました。そこで私は絵を描くのが趣味だったので漫画にすることにしました。マスメディアの偏った報道によって形成されるイメージは、「ただの印象」の話には止まらない。イスラムフォビアが増えつづけ、イスラム教徒に対する犯罪が増えているこの世の中を見れば、現実的で深刻な問題だということがわかる。日本では欧米ほどではないものの、愛知県のモスク(イスラム礼拝所)に対して嫌がらせのメールや「殺す」などの脅迫があったことも過去に確認されている。(参照元:宗教法人名古屋イスラミックセンター)こういった悲惨な状態を少しずつ変える力をこの『サトコとナダ』という漫画は持っている。漫画の強みは「良くも悪くも誰でも読めること」とユペチカさんは言う。(漫画は)簡単に翻訳されて、転載される。だから絵の中でも悪意がないことをアピールするよう心がけています。これは気をつけなければいけないことだと思っています。でも本だとちゃんと一文一文を読まないとわからないところが、漫画はパッとみて、世界観が伝えられる。それが漫画の強みだと思いますね。音楽や文より一番早くわかるんじゃないかな。この漫画へのイスラム教徒の方々からの反応はここまで良好。ユペチカさんは日本のモスクでイスラム教徒のファンに出会ったり、実際にサウジアラビアに行ったときに、イスラム教徒の人々に『サトコとナダ』について説明すると喜ばれたりしたという。誰だって自分にまつわることで誤った情報なんて流してほしくない。『サトコとナダ』が等身大のイスラム教徒の姿を日本に発信することには世界的に見ても大切な意味を持つ。この漫画を書かせていただいている手前、何が良くて何が悪いかは私には判断できないのですけれども、イスラム教が生まれた時代はイスラム教が一番女性を守っていたと思いますね。例えば、コーランには娘を育てると幸せになるだとか。諸説ありますが、イスラム教が生まれる前は、娘が生まれても埋めるとか酷い扱いをしていたところに娘を大切に育てると天国へ行けるとか。全く女性に権利がなかったのを、離婚したとき何割もらえると決めたりも。今では五分五分が普通かもしれないけれど、女性には全くなんの権利ももらえなかった時代に、何割かもらえるって決めたのはイスラム教だそうです。女性がひとりで生きられない時代に、男性がたくさん戦争で亡くなられてしまったと、そこで女性が生きていけるように一夫多妻制が生まれたと言われています。その時代で止まってるので今はダメだよと言われますが、当時は進んでいました。これはあくまでも個人の知識です。「イスラム教が男尊女卑的だ」というヘイトの正当化によく使われるこの意見についてどう思うかとユペチカさんに尋ねると、彼女はこんな興味深い話をしてくれた。一貫して、知ろうとすれば、物事には色々な側面があるのだということを教えてくれる。『サトコとナダ』のなかでも文化間の露出への意識の違いを描いた印象的なエピソードがある。ユペチカさんがこのエピソードに込めた思いを教えてくれた。現在、調査によって結果に差はあるものの日本には10〜20万人近くのイスラム教徒がいると言われている。(参照元:一般社団法人ハラル・ジャパン協会)今後その人口は増えて行くという予想もあるし、2020年の東京オリンピックではイスラム教徒の旅行者だって多いだろう。そのときに、知ろうとする姿勢、受け入れるという姿勢を見せることが大事になってくるとユペチカさんは話す。「全部受け入れて!」というわけではなくて、知るところから始めてほしいと思います。もうすぐ東京オリンピック。そのときに例えばトイレの横にお祈りする部屋の用意があったり、食事の材料表示を頑張ると、イスラム教徒の方に喜んで貰えると思います。完全にハラール(イスラム法上で食べることが許されている食材や料理)のご飯を作りなさい!と言うのではなくて。それだけでたくさんの方が安心して日本に来て、楽しんで帰っていただくことができると思います。イスラム教についてはよく知らない方が多いと思うので、まずは知ってほしいな。男の人が握手等でも女の人に気軽に触れない方がいいんだよ(特に中東出身者の方相手では)っていうマナーとか。友達のことを知りたいという気持ちで。お互いをよく知り合うということが大切だと私は思います。知らない文化について、間違えるのは人間だからしょうがない。でもニュースで流れてくる情報だけを理由に勝手なイメージを作り上げたりせず、理解する姿勢を見せ、「知る」ことから私たちは始められる。***『サトコとナダ』ツイ4(@twi_yon)にて日刊連載中
2017年10月12日(Photo by flickr)イスラム教では、女性が肌を露出することを禁止している。 そのため、ムスリマと呼ばれるイスラム教徒の女性たちは、頭からから足まで全身を覆える服を身にまとう必要がある。 しかし、宗教の決まりがあってもファッションを楽しめるようにと、近年ムスリマ向けのおしゃれなアイテムが世に出始めている。 その中で今、季節的にも社会的にも注目を集めているのが、「ブルキニ」だ。 一体「ブルキニ」ってなに?(Photo by flickr)ブルキニとは、ムスリマが着る全身を覆うタイプの服「ブルカ」と「ビキニ」を合わせた造語で、ムスリマ用の水着のこと。 フードつきの長袖・長ズボンのツーピースタイプの水着で全身を隠すことができ、ゆったりとしていてボディーラインが目立たないのが特徴だ。 ブルキニを着ればムスリマでも“掟”を気にせずに海水浴を楽しめる。 真夏のフランスで起きた「ブルキニ騒動」しかしこの夏、フランスでブルキニがある騒動を巻き起こした。 今年7月以降、フランスのカンヌやニース、コルシカ島などの20以上の自治体が、ムスリマがブルキニを着てビーチを訪れることを禁じたのだ。 フランス政府が示した理由は「宗教的に強制された服装は自由ではなく、女性差別の象徴」だから。 さらには「宗教を表現する服装は治安に影響を及ぼす恐れがある」から。 昨年からイスラム過激派の犯行とされるテロがフランス国内で相次いでいることから、イスラム教徒に倒する偏見や差別にも敏感なのかもしれない。 しかしこの「ブルキニ禁止令」にのっとり警官がブルキニを着たムスリマをビーチで取り締まる様子の写真がSNSで拡散されると、世界的に注目を集める大問題となった。(Photo by CNN)世界中の人権保護団体やフェミニストなどから抗議を受けたフランス政府は8月26日、「信教の自由に反する」とし、この禁止措置を凍結。 「宗教とファッション」という複雑な問題があらわになった今回の騒動だが、当事者であるムスリマたちはどう思っているのだろうか。 イスラム女性にとってポジティブな「ムスリムファッションブーム」(Photo by Fashionsnap.com)近ごろ、多くの高級ファッションブランドやファストファッション業界がムスリマに向けたシリーズを展開している。それには2つの理由がある。 ①“あえて”着て楽しむものへ 一昔前まで、ムスリマにとってのブルカやヒジャブは「男性への隷属」「厳しい信仰の掟」という印象が強かった。 しかし最近、ブルカはムスリマたちにとって「楽しめるファッション」に変わりつつある。 多種多様な色や柄のブルカが増え、それを身にまとうことで、自分の個性を発信できる。 さらに、伝統的な服装をおしゃれに着こなすことで、信仰を一つの「自分らしさ」としても主張できるのだ。 ブルカやヒジャブのファッション性が高まったことで、これまで宗教的な服に全く関心のなかったムスリマたちも”あえて”身に付け、ムスリマとしてのアイデンティティをカジュアルに、楽しみながら主張するようになった。 ②イスラム女性の地位向上の象徴 高級ブランドがこぞってムスリムファッションを展開するのは、それを買うことのできるムスリマがいるからである。 近年、イスラム圏でも女性の社会進出が進み、自立して働き自分のお金でファッションを楽しめる女性が増えてきた。 ムスリムファッションを楽しむムスリマがいる裏側には、経済力や社会的地位の高い女性が増えたというポジティブな理由が隠されているのだ。 フランス自治体の主張は的外れ?ファッションの自由は自分たちで決める!(Photo by flickr)このように、現代のムスリマたちは伝統的な服をひとつのファッションとして好んで着る傾向にあるようだ。 さらに、ブルキニのようなファッション性も兼ね備えた宗教服が話題になり、社会で浸透すれば、特定の宗教への差別や偏見の緩和にもつながるかもしれない。 自分の信仰に対する誇りやリスペクトがあれば、宗教服は歴史背景にとらわれず、自由に楽しめるものになりつつあるのではないだろうか。 フランスでの騒動で自治体に足りなかったのは「信者本人たちの宗教服への想いを考えること」だ。 宗教とファッションの自由は、外側の人間ではなく本人たちが定義すべきものなのかもしれない。 via. naverまとめ, Yahoo!ニュース, ASIAN NOMAD LIFE この記事を読んでいる人はこの記事も読んでいます!ユニクロがイスラム教徒を「差別」しない3つの理由 日本が誇るファッションブランド「ユニクロ」が先日2月26日からアメリカの店舗でムスリム(イスラム教徒)の女性のための「モデスト・ファッション(控えめなファッション)」のライ... ーBe inspired!
2016年09月02日イスラム教最大級のお祭り「ハリラヤ・ハジ」。シンガポールやマレーシア、インドネシアなど、イスラム教の文化が根付く東南アジアの国々ではこの日が国民の祝日に定められ、各地で祭典やバザーが開催される。2016年は9月12日。 イスラム教最大級の祝祭©Singapore Tourism Board ラマダン(断食月)を終えた70日後、イスラム暦12月10日に催されるイスラム教最大級のお祭り「Hari Raya Haji(ハリラヤ・ハジ)」。巡礼のため、数千人にも上る敬虔なイスラム教徒たちが世界中からメッカ(聖地)を目指すことから、別名「巡礼祭」とも呼ばれる。この日、シンガポールやマレーシア、インドネシアなどのイスラムコミュニティでも祝祭を開催。男性教徒たちは、それぞれの地域のモスクに集まり、祈りを捧げ、訓戒の朗読とともに内省するのが習わしだ。 ©Singapore Tourism Board 祈りの後に行われるのは、羊や山羊、牛などを生贄として神に捧げる儀式。これは、神の仰せに従いイブラーヒームが自身の息子を神に捧げようとしたという言い伝えに基づく。信仰心に感動した神は、息子の命の代わりに羊や山羊、牛などを犠牲にすることで息子を救う。現在でも、犠牲となった家畜の肉は梱包され、イスラムコミュニティでも特に貧しい家庭へ配られるそう。アラーの神への忠誠を象徴する儀式であると同時に、富を分かち合うというイスラム教の教訓を再認識するための儀式。こうしたハリラヤ・ハジは、イスラム教徒にとって非常に大きな意味を持つ祭典とされている。 お祭りムードに華やぐ街©Singapore Tourism Board イスラム教徒に限らず誰でもその雰囲気を体感することが許される「ハリラヤ・ハジ」。シンガポールやマレーシア、インドネシアではこの日を国民の祝日に制定し、その信仰心を尊重する。街には、きらびやかな装飾や電飾が施され、この時期限定のセールを行う店舗や、イスラム伝統料理を振る舞う屋台も出現。シンガポールでは、Sultan Mosque(サルタン・モスク)やHajjah Fatimah Mosque(ハジャ・ファティマ・モスク)のあるカンポン・グラム地区や、チャイナタウンのJamae Mosque(ジャマエ・モスク)、ゲイラン地区などで賑わいを見せる。この時期だからこそ味わえる異文化体験も、旅の醍醐味の一つだ。
2016年08月24日2015年4月、アメリカの調査機関・ピューリサーチセンターが驚くべきデータを公表しました。2070年に、世界のイスラム教人口が史上初めてキリスト教人口に同率で並び、さらに2100年には、イスラム教人口が35%でキリスト教人口を1ポイント上回り、信徒数最大の宗教になるというのです。現在、世界の宗教人口はキリスト教が31.4%で最大。2位がイスラム教で23.2%、3位が「特定の宗教を信仰しない人」で16.4%、4位がヒンズー教で15.0%、仏教はそれに次ぐ5位で7.1%となっています。しかし、それほどの勢いで拡大しているにもかかわらず、日本ではイスラム教のことはほとんど知られていません。現在、日本人のイスラム教徒人口は1万人前後。日本に住む外国人のイスラム教徒人口を含めても11万人ほどと、身近にイスラム教徒がいないことがその理由でしょう。そこで、宗教学者で作家の島田裕巳氏の新刊『なぞのイスラム教』(宝島社)から、意外と知られていないイスラム教の基礎知識を見てみましょう。■イスラム教は非常にシンプルな宗教著者は、「イスラム教ほどシンプルな宗教はほかにないのではないか」と評します。なぜシンプルといえるのか、象徴的な4つの要素から確認してみましょう。(1)入信方法は「宣言するだけ」イスラム教のシンプルさがよく表れているのが入信方法。キリスト教では教会で神父や牧師を前に「洗礼」という儀式を行いますが、イスラム教の場合はもっと簡単。2人のイスラム教徒の前で、イスラム教を信仰するという趣旨のフレーズをアラビア語で唱えるだけなのだそう。たしかにこれはシンプルですね。(2)意外とフランクな「礼拝と断食」決められた時間にメッカの方角に向かっておこなう日々の「礼拝」からは、厳格な信仰心をイメージしがち。ですが、じつは祈りをささげる場所は自由。祈りの時刻や方角を教えてくれる腕時計などを利用する人が多いなど、現代的な側面も。感覚的には、日本人が自宅の神棚に朝晩手を合わせることとそれほど大きな違いはないのかもしれません。ラマダーン(イスラム暦の第9月)に行う断食も同様。「その月のあいだ、日の出から日没まで食事をとらない」というもので、断食の期間には含まれない日の出前や日没後の時間帯に“食べだめ”する人も少なくないといいます。いずれも、言葉から受ける厳格なイメージとは少々異なる面が見えてきますね。(4)異本がない「明確なルール」著者が「イスラム教はシンプルだ」と語るもっとも大きな理由がこれ。イスラム教には、聖典にあたるものとして「コーラン」と、預言者ムハンマドの言行録「ハーディ」があり、これら以外には存在しません。この2つをもとに、規範を定めたイスラム法「シャリーア」があり、豚肉を食べてはいけない、お酒を飲んではいけない、といった慣習も、このシャリーアに定められています。守るべき規範がひとつに集約されていて、異なるルールはいっさい存在しない。イスラム教はルールが非常に明確なのです。■行動は個々人の判断に任されているとてもシンプルで明快なイスラム教ですが、著者はもうひとつ、大きな特徴を指摘します。イスラム教は教団や宗派といった「組織」を持たないということです。キリスト教徒が特定の教会に所属したり、仏教徒がどこかのお寺の檀家になったりということが、イスラム教徒にはないということ。祈りをささげる「モスク」という施設はありますが、これはあくまで礼拝所。イスラム教徒なら誰でも利用できるものです。組織がないため、イスラム教徒の行動は個々人の判断に任されている、といえます。知れば知るほど、厳格に統率された宗教というイメージとはまったく異なる姿が見えてきます。■じつはアジアに多いイスラムの人口インドネシアの3分の2、パキスタンの97%がイスラム教徒であるなど、イスラム教徒が多いのはじつはアジアです。現在は総数11万人ほどの日本国内にも、今後アジア各国から来日するイスラム教徒がますます増えていくことが予想されます。そうしたときに、イスラム教への十分な理解なくして、先入観を持たずにイスラム教徒の人びとと接することができるでしょうか?日々ニュースで取り上げられるイスラムの名を掲げたテロ組織と、一般のイスラム教徒の人びとがはっきりと異なる存在だと正しく理解できるでしょうか。著者は宗教学者ですが、じつはイスラム教は専門外。自身のきょうだいがイスラム教を信仰するトルコ人と結婚したことでイスラム教に関心を持つようになり、本書を書くに至ったといいます。そのため著者が実際に見聞きした具体例も多く、わかりやすく書かれています。イスラム教を知ることは、より身近な仏教や神道、キリスト教などへの深い理解にもつながります。グローバル化のますます進むいま、読んでおきたい1冊です。(文/よりみちこ) 【参考】※島田裕巳(2016)『なぞのイスラム教』宝島社
2016年05月12日